(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-524811(P2016-524811A)
(43)【公表日】2016年8月18日
(54)【発明の名称】銅ボンディングワイヤおよびその作製方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20160722BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20160722BHJP
C22F 1/08 20060101ALI20160722BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20160722BHJP
【FI】
H01L21/60 301F
C22C9/00
C22F1/08 C
C22F1/00 625
C22F1/00 613
C22F1/00 604
C22F1/00 661A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 627
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 650F
C22F1/00 661Z
C22F1/00 685Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2016-511710(P2016-511710)
(86)(22)【出願日】2014年4月4日
(85)【翻訳文提出日】2015年12月25日
(86)【国際出願番号】SG2014000151
(87)【国際公開番号】WO2014178792
(87)【国際公開日】20141106
(31)【優先権主張番号】13002359.1
(32)【優先日】2013年5月3日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】13002674.3
(32)【優先日】2013年7月15日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】515298442
【氏名又は名称】ヘレウス マテリアルズ シンガポール ピーティーイー. リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】サランガパニ ムラリ
(72)【発明者】
【氏名】ユン ピン ハ
(72)【発明者】
【氏名】ミルケ オイゲン
【テーマコード(参考)】
5F044
【Fターム(参考)】
5F044FF02
5F044FF06
5F044FF10
(57)【要約】
本発明は、表面を有するコアを含むボンディングワイヤに関し、コアは主成分として銅を含み、コア内の結晶粒の平均粒度は2.5μmから30μmであり、ボンディングワイヤの降伏強度は120MPa未満である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボンディングワイヤであって、
表面を有するコア(2)を含み、
前記コア(2)は主成分として銅を含み、
前記コア内の結晶粒の平均粒度は2.5μmから30μmであり、
前記ボンディングワイヤの降伏強度は120MPa未満である、ワイヤ。
【請求項2】
前記ワイヤのヤング率は100GPa未満である、請求項1に記載のワイヤ。
【請求項3】
前記ワイヤコア(2)の直径と前記平均粒度との比率は2.5から6である、請求項1〜2のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項4】
前記ワイヤコア(2)の銅の総量は少なくとも97%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項5】
前記ワイヤコアは0.5%から3%の量のパラジウムを含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項6】
前記ワイヤコアは45ppmから900ppmの量の銀を含有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項7】
前記ワイヤ(1)は8μmから80μmの範囲の直径を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項8】
前記ワイヤコアは、ボンディングステップの前に、少なくとも580℃の温度にて少なくとも0.1sの時間アニーリングされている、請求項1〜7のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項9】
アニーリング後の前記ワイヤ(1)の伸び値は、最大伸び値の92%以下である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項10】
前記ワイヤ(1)は、アニーリングによって前記最大伸び値が達成される温度よりも少なくとも10℃高い温度にてアニーリングされる、請求項9に記載のワイヤ。
【請求項11】
前記コア(2)の前記表面上にコーティング層(3)が重ね合わされることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項12】
前記コーティング層の質量は、前記ワイヤコア(2)の質量の3%以下である、請求項11に記載のワイヤ。
【請求項13】
前記コーティング層(3)は、Pd、Au、PtおよびAgの群のうちの少なくとも1つを主成分として含むことを特徴とする、請求項11または12に記載のワイヤ。
【請求項14】
ボンディング前の前記ワイヤコア(2)の硬度は95.0HV(0.010N/5s)以下である、請求項1〜13のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項15】
前記ワイヤコア中のホウ素の含有量は100ppm未満である、請求項1〜14のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項16】
前記ワイヤコアの直径が15μmから28μmであり、前記平均粒度が2.5μmから6μmであるか、または
前記ワイヤコアの直径が28μmから38μmであり、前記平均粒度が3μmから10μmであるか、または
前記ワイヤコアの直径が38μmから50μmであり、前記平均粒度が7μmから15μmであるか、または
前記ワイヤコアの直径が50μmから80μmであり、前記平均粒度が10μmから30μmである、
請求項1〜15のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項17】
第1のボンドパッド(11)と、第2のボンドパッド(1)と、請求項1〜16のいずれか一項に記載のワイヤ(1)とを含むモジュールであって、前記ワイヤ(1)は、ボールボンディングによって前記ボンドパッド(11)の一方に接続される、モジュール。
【請求項18】
前記ボールボンディングに対するプロセスウィンドウ面積は、アルミニウムボンドパッドに直径20μmのワイヤをボンディングする場合には、少なくとも120g*mAの値を有する、請求項17に記載のモジュール。
【請求項19】
請求項1〜16のいずれか一項に記載のボンディングワイヤを製造するための方法であって、
a.要求される組成を有する銅コア前駆物質を提供するステップと、
b.前記ワイヤコアの最終直径に到達するまで前記前駆物質を延伸するステップと、
c.前記延伸されたワイヤ(1)を規定の温度にて最低アニーリング時間だけアニーリングするステップと
を含む、方法。
【請求項20】
前記アニーリングはストランドアニーリングによって行われる、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面を有するコアを含むボンディングワイヤに関し、コアは主成分として銅を含み、コア内の結晶粒の平均粒度は2.5μmから30μmであり、ボンディングワイヤの降伏強度は120MPa未満である。
【0002】
本発明はさらに、第1のボンドパッドと、第2のボンドパッドと、本発明に従うワイヤとを含むモジュールに関し、本発明のワイヤは、ボールボンディングによってボンドパッドの少なくとも一方に接続される。
【0003】
本発明はさらに、本発明に従うワイヤを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0004】
ボンディングワイヤは、半導体デバイス製作の際に集積回路とプリント回路基板とを電気的に相互接続するために、半導体デバイスの製造において用いられる。さらに、ボンディングワイヤはパワーエレクトロニクス適用において、トランジスタおよびダイオードなどをハウジングのパッドまたはピンと電気的に接続するために用いられる。最初ボンディングワイヤは金から作られたが、現在はたとえば銅などのより安価な材料が用いられる。銅ワイヤは非常に良好な電気伝導性および熱伝導性を提供するが、銅ワイヤのボールボンディングおよびウェッジボンディングは課題を有する。さらに、銅ワイヤは酸化されやすい。
【0005】
ワイヤジオメトリに関して、最も一般的なのは、円形断面のボンディングワイヤおよびほぼ矩形の断面を有するボンディングリボンである。どちらのタイプのワイヤジオメトリも、特定の適用に対して有用となる利点を有する。よって、両タイプのジオメトリが市場での占有率を有する。たとえば、ボンディングリボンは所与の断面積に対してより大きな接触面積を有する。しかし、リボンの屈曲は限られており、リボンと、それがボンディングされるエレメントとの許容できる電気的接触に到達するためには、ボンディングのときにリボンの向きを観察する必要がある。次にボンディングワイヤに関しては、これらは屈曲に対してより柔軟である。しかし、ボンディングはボンディングプロセスにおけるワイヤの溶接およびより大きな変形を伴い、それによって、ボンドパッドおよびその下にあるボンディングされるエレメントの電気的構造に損害または破壊すらもたらすおそれがある。
【0006】
本発明に対するボンディングワイヤという用語は、すべての形状の断面およびすべての通常のワイヤ直径を含むが、円形断面および細い直径を有するボンディングワイヤが好ましい。
【0007】
近年のいくつかの開発は、銅コアを有するボンディングワイヤに向けられたものであった。銅は電気伝導性が高いために、コア材料として選択される。ボンディング特性を最適化するために、銅材料に対する異なるドーパントが探索された。たとえば特許文献1は、多数の異なるドーパントおよび濃度を伴ういくつかの異なる銅ベースのテストワイヤを記載している。しかし、ボンディングワイヤ自体およびボンディングプロセスに関して、ボンディングワイヤ技術をさらに改善することが継続的に要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7,952,028号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明の目的は、改善されたボンディングワイヤを提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、良好な処理特性を有し、かつ相互接続するときに特定の要求を有さないためにコストの節約になるボンディングワイヤを提供することである。
【0011】
加えて本発明の目的は、優れた電気伝導性および熱伝導性を有するボンディングワイヤを提供することである。
【0012】
本発明のさらなる目的は、改善された信頼性を示すボンディングワイヤを提供することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、優れたボンディング性を示すボンディングワイヤを提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、ボールボンディングに関して改善されたボンディング性を示すボンディングワイヤを提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、ボールボンディングである第1のボンディングに関して改善されたボンディング性を示し、一方でウェッジボンディングである第2のボンディングに対するボンディング性能が少なくとも十分であるようなボンディングワイヤを提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、ボンディング前のワイヤコアの軟らかさの増加を示すボンディングワイヤを提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、腐食および/または酸化に対する抵抗性の改善を有するボンディングワイヤを提供することである。
【0018】
別の目的は、標準的なチップおよびボンディング技術によって用いられる、電子デバイスまたはモジュールをボンディングするためのシステムを提供することであり、このシステムまたはモジュールは、少なくとも第1のボンディングに関する故障率の低減を示す。
【0019】
別の目的は、本発明のボンディングワイヤを製造するための方法を提供することであり、この方法は基本的に、公知の方法に比べて製造コストの増加を示さない。
【0020】
驚くべきことに、本発明のワイヤは、上述の目的の少なくとも1つを解決することが見出された。さらに、ワイヤ製造の課題の少なくとも1つを克服する、これらのワイヤを製造するためのプロセスが見出された。さらに、本発明のワイヤを含むシステムおよびモジュールは、本発明に従うワイヤと、たとえばプリント回路基板、パッド/ピンなどのその他の電気的エレメントとの間の界面において、より信頼性が高いことが見出された。
【0021】
上記の目的の少なくとも1つの解決策に対する寄与は、カテゴリ形成請求項の主題によって提供され、カテゴリ形成独立請求項の従属下位請求項は、本発明の好ましい局面を表すものであり、従属下位請求項の主題も同様に、上述の目的の少なくとも1つの解決に寄与する。
【0022】
本発明の第1の局面は、ボンディングワイヤであって、
表面を有するコアを含み、
コアは主成分として銅を含み、
コア内の結晶粒の平均粒度は2.5μmから30μmであり、
ボンディングワイヤの降伏強度は120MPa未満である、ボンディングワイヤである。
【0023】
本発明に従うこうしたワイヤは、機械的特性およびボンディング特性に関して最適化された結晶構造を有する。
【0024】
もし他に特定の定義が提供されなければ、現在すべての成分の含有量または占有率は重量による占有率として与えられている。特に、パーセントで与えられる占有率は重量%であると理解され、ppm(百万分率(parts per million))で与えられる占有率は重量ppmであると理解される。
【0025】
ワイヤのコアは、表面下のバルク材料の均質な領域として定義される。基本的に、任意のバルク材料はある程度異なる特性を有する表面領域を有するため、ワイヤのコアの特性とは、このバルク材料領域の特性であると理解される。バルク材料領域の表面は、形態、組成(例、酸素含有量)またはその他の特徴の点で異なっていてもよい。好ましい実施形態において、表面とは本発明のワイヤの外表面であってもよい。さらなる実施形態において、ワイヤコアの表面は、ワイヤコアと、ワイヤコアに重ね合わせたコーティング層との間の界面領域として提供されてもよい。
【0026】
結晶粒の平均粒度に関して、粒度は標準的な金属組織学的技術を用いて定められる。ワイヤコアのサンプルを切断し、次いでエッチングする。本発明の場合には、2gのFeCl
3および6mlの濃HClを200mlのDI水に加えた溶液をエッチングに用いた。線切片の原理によって、粒度を測定して算出する。本明細書において用いられる一般的な定義は、粒度を、粒を通過する直線のすべての部分のうちの最長のものとして定義するというものである。
【0027】
一般的に好ましくは、ワイヤコアの直径と平均粒度との比率は2.5から5である。さらにより好ましくは、その比率は2.5から4である。この比率によって、ワイヤの異なる直径の範囲全体にわたるワイヤ特性の最適化が可能になる。特に、好ましい比率は細いワイヤの特性に対して有益であり得る。
【0028】
それぞれのワイヤ直径を考慮して、特定的に最適化された有利な平均粒度の選択は、次のとおりに達成される。
ワイヤコアの直径が15μmから28μmであり、平均粒度が2.5μmから6μmであるか、または
ワイヤコアの直径が28μmから38μmであり、平均粒度が3μmから10μmであるか、または
ワイヤコアの直径が38μmから50μmであり、平均粒度が7μmから15μmであるか、または
ワイヤコアの直径が50μmから80μmであり、平均粒度が10μmから30μmである。
【0029】
ワイヤは、特にマイクロエレクトロニクスにおけるボンディングのためのボンディングワイヤである。ワイヤは、好ましくは一体的な物体である。
【0030】
ある成分の占有率が参照材料のさらなる成分のすべてを超えているとき、この成分は「主成分」である。好ましくは、主成分は材料の総重量の少なくとも50%を含む。
【0031】
降伏強度の定義のために、一般知識を参照する。工学および材料科学において、材料の「降伏強度」は、材料が塑性変形を開始する応力として定義される。塑性変形を開始する前は、材料は弾性変形し、加えられた応力が取り除かれると元の形に戻る。
【0032】
一般的に好ましくは、本発明のボンディングワイヤの降伏強度は110MPa未満であり、より好ましくは90MPa未満である。最も好ましくは、降伏強度は80MPa以下である。原則として、降伏強度が低減されることが本発明のワイヤのボンディング特性にとって有利である。
【0033】
本発明のワイヤの降伏強度の下限は、好ましくは50MPaより大きく、最も好ましくは65MPaより大きい。この下限によって、特に本発明のボンディングワイヤの降伏強度に対する好ましくかつ有利な範囲がもたらされる。本発明に従うボンディングワイヤは、好ましくは50〜120MPa、50〜110MPa、65〜110MPa、65〜90MPa、または65〜80MPaの範囲のうち1つまたはそれ以上の降伏強度を有する。
【0034】
本発明の好ましい実施形態において、ワイヤのヤング率は100GPa未満である。より好ましくは、ヤング率は95GPa未満である。ワイヤのヤング率に関するワイヤの最適化は、ワイヤの機械的特性に有益であり、さらにボンディングプロセスにおけるワイヤの挙動にも有益である。
【0035】
不利な影響を防ぐために、ヤング率の下限が説明され得る。最適化されたワイヤのヤング率は75GPa以上、好ましくは80GPa以上であるべきであることが明らかになった。本発明に従うボンディングワイヤは、好ましくは75〜100GPa、75〜95GPa、または80〜95GPaの範囲のうち1つまたはそれ以上のヤング率を有する。
【0036】
ヤング率の定義のために、一般知識を参照する。ヤング率は、引っ張り係数または弾性率としても公知であり、弾性材料の剛性の尺度であって、材料を特徴付けるために用いられる量である。ヤング率は、フックの法則を保持する応力の範囲における、軸に沿った歪みに対するその軸に沿った応力の比率として定義される。
【0037】
本発明のワイヤの良好なボンディング特性を維持するために、ワイヤコアの銅の総量は少なくとも97%であることが一般的に好ましい。より好ましくは、銅の量は少なくとも98%である。
【0038】
本発明の好ましい実施形態の1つにおいて、ワイヤコアは純銅からなる。好ましくは、純度は少なくとも3Nグレードの銅(>=99.9%Cu)であり、最も好ましくは4Nグレードの銅(>=99.99%Cu)である。純銅ワイヤは一般的に、良好な伝導性および良好なボンディング特性を示す。
【0039】
好ましい実施形態において、ワイヤコア中のホウ素の含有量は100ppm未満である。ホウ素は銅ベースのワイヤの結晶構造に影響することが知られているため、ホウ素の量を特定の閾値未満に保つことが有利である。これは特に、純銅からなるワイヤコアに当てはまる。別の好ましい実施形態の場合には、ホウ素は10ppmから100ppmの量で、制御された態様で提供される。
【0040】
さらに別の好ましい実施形態において、ワイヤコア中のリンの含有量は200ppm未満である。リンは可能な限り避けられる(微量レベル)ことが規定されてもよいが、いくつかの実施形態においては少量のリンが提供され得る。こうした場合において、好ましいリンの量は10ppmから200ppmである。
【0041】
別の好ましい実施形態において、ワイヤコアは、0.5%から3%、より好ましくは1.0%から2.5%の量のパラジウムを含有する。さらにより好ましい、最適化された実施形態において、パラジウム含有量は1.2%から2.5%であり、最も好ましくは1.2%から2.0%である。特に好ましい実施形態において、パラジウム占有率は1.2%から1.3%である。パラジウムの小さい占有率は本発明の有益な効果を低減させないことが実験によって示されており、一方でこうしたパラジウム含有量は一般的に腐食に対するワイヤの安定性を助け、かつさらに有益な効果を有する。
【0042】
さらに好ましくは、本発明のこうしたPd含有ワイヤは、85〜95HV(0.010N/5s)の範囲のワイヤコアの微小硬度を示す。さらにより最適化された実施形態において、ワイヤコアの硬度とパラジウム含有量との比率は、60〜120HV(0.010N/5s)/wt.−%の範囲である。ワイヤコアの硬度は、たとえばアニーリング手順などによって、特定の範囲内で選択されたパラジウム含有量とは独立に調整され得ることが理解される。
【0043】
さらに好ましい実施形態において、ワイヤコアは、45ppmから900ppmの量の銀を含有する。好ましい実施形態において、銀含有量は100ppmから900ppmであり、さらにより好ましくは100ppmから700ppmである。非常に好ましい実施形態においては、顕著に有利なワイヤ特性が得られるため、銀含有量は100ppmから400ppmの範囲である。さらに最適化された実施形態において、コアの銀含有量は100ppmから300ppmであり、最も好ましくは200ppmから250ppmである。一般的に、ワイヤコア中に小さい占有率の銀を有するこうした実施形態は、良好なFAB(フリーエアボール(Free Air Ball))形成およびボールボンディングに対する大きなボンディングウィンドウを示す。
【0044】
銀含有ワイヤに対して一般的に好ましくは、ワイヤコアのCuおよびAg以外の成分の総量が1000ppm未満であり、さらにより好ましくは100ppm未満である。この総量は、ワイヤ特性の良好な再現性を提供する。
【0045】
本発明のワイヤのさらに好ましい実施形態においては、45ppmから900ppmの量の占有率でAuが提供される。より好ましくは、Auの量は100ppmから700ppmであり、最も好ましくは100ppmから300ppmである。
【0046】
なお、上述のPd、Au、Ag、PおよびBの占有率の2つまたはそれ以上が、本発明のワイヤに同時に提供されてもよい。最も好ましくは、上述の量の1つにおけるPdの占有率と、それぞれ上述された量のAu、Ag、PまたはBの群より選択される1つの占有率とが組み合わされる。
【0047】
一般的に好ましくは、本発明のワイヤのワイヤコアにおける特定の元素の望ましくない混入レベルに対する有益な上側閾値は、以下のとおりである。
Ag:<35ppm;
Ni:<15ppm;
Pd,Au,Pt,Cr,Ca,Ce,Mg,La,Al,B,Zr,Ti:各場合において<2ppm;
P:<6ppm;
Fe:<10ppm;
S,Mn:<15ppm。
【0048】
元素Pd、Ag、Au、BおよびPに対する上記の一般的閾値は、これらの元素が他に定義される量で明示的に含有されていない本発明の実施形態に対してのみ有効であることが指摘される。
【0049】
上記の特定の混入物限度の各々は、本発明の別個の特徴であることを意味する。
【0050】
本発明は特に、細いボンディングワイヤに関する。特に粒度の制御に関して、観察される効果は細いワイヤに対して特に有益である。本発明の場合の「細いワイヤ」という用語は、8μmから80μmの範囲の直径を有するワイヤとして定義される。特に好ましくは、本発明に従う細いワイヤは12μmから55μmの範囲の直径を有する。こうした細いワイヤにおいて、本発明の組成物およびアニーリングは特に、有益な特性を達成することを助ける。
【0051】
本発明のワイヤの好ましい実施形態において、ボンディングステップの前に、ワイヤコアは少なくとも580℃の温度にて少なくとも0.1sの時間アニーリングされている。これによって、特に細いワイヤの場合に、十分なアニーリングおよび要求される粒度の達成が確実になる。さらにより好ましくは、アニーリング時間は少なくとも0.2sであり、最も好ましくは0.25sである。本発明のワイヤのアニーリング温度が特に高いことによって、一般的に大きな平均粒度の調整が可能になる。最も好ましい場合には、600℃を超えるアニーリング温度が選択される。
【0052】
特に、ワイヤ直径を考慮してワイヤのアニーリングを最適化できる。こうした最適化された実施形態において、最低アニーリング温度は以下のとおりに選択される。
直径[μm] 最低アニーリング温度[℃]
15−28 600
28−38 610
38−50 625
50−80 635
【0053】
本発明の一般的に好ましい局面において、アニーリング後のワイヤの伸び値は、最大伸び値の92%以下である。より好ましくは、伸び値は最大伸び値の85%以下であり、最も好ましくは80%以下である。さらに好ましい場合において、ワイヤは、アニーリングによって最大伸び値が達成される温度よりも少なくとも10℃高い温度でアニーリングされる。より好ましくは、その温度は最大伸び温度よりも少なくとも50℃高く、最も好ましくは、その温度は最大伸び温度よりも少なくとも80℃高い。
【0054】
最大伸び値は、次のとおりに定義される。銅ベースのボンディングワイヤの一般的な場合において、ワイヤの伸びは最終アニーリングステップによって調整され得る。これに関する「最終」とは、その後にワイヤの形態に大きな影響を有する製造ステップが確立されないことを意味する。アニーリングパラメータを選択するとき、通常はパラメータの組が選択される。ワイヤをアニーリングする簡単な場合においては、所与の長さのオーブン内で一定の温度が調整され、ワイヤは一定の速度でそのオーブンを通過する。これによって、ワイヤのすべての箇所が所与の時間だけその温度に露出され、この温度およびこのアニーリング時間がアニーリング手順の2つの関連パラメータとなる。他の場合には、オーブンの特定の温度プロファイルが用いられて、システムにさらなるパラメータを追加してもよい。
【0055】
いずれの場合にも、パラメータの1つが変数として選択され得る。次いで、この変数に依存するワイヤの伸び値を受取ることによって、一般的に極大値を有するグラフが得られる。この極大値が本発明の意味でのワイヤの最大伸び値として定義される。変数がアニーリング温度である場合には、こうしたグラフは通常「アニーリング曲線」と呼ばれる。
【0056】
先行技術においては、極大が存在することによって特に安定な製造条件が提供されるために、変数パラメータに関するこうした最大伸び値に対して任意のワイヤをアニーリングすることが普通であった。
【0057】
本発明に関しては、驚くべきことに、最大伸び値未満の異なる値に対するアニーリングによって、ワイヤ形態が正の態様で影響され得るために、有益なワイヤ特性がもたらされ得ることが明らかになった。変数パラメータとしてアニーリング温度が選択され、かつアニーリング時間を定数として設定するとき、最大伸びのアニーリング温度よりも高い値のアニーリング温度を選択するときが特に有益である。特にこの製造原理は、ワイヤの平均粒度をたとえばもっと大きな粒度に調整するために用いられ得る。この調整によって、たとえばワイヤの軟らかさ、ボールボンディング挙動などのその他の特性が、正の態様で影響され得る。
【0058】
本発明に可能なさらなる発展において、コアの表面上にコーティング層が重ね合わされる。こうしたコーティング層は、本発明のワイヤにおいて可能であるが必須ではない特徴であることが理解される。ボンディングプロセスに対するこうしたコーティング層の材料の影響を最小化するために、コーティング層の質量は、好ましくはワイヤコアの質量の3%以下である。最も好ましくは、コーティング層の質量はワイヤコアの質量の1.0%以下である。有利には、コーティング層は、Pd、Au、PtおよびAgの群のうちの少なくとも1つを主成分として含む。
【0059】
本発明の状況における「重ね合わされる(superimposed)」という用語は、たとえばコーティング層などの第2の品目に関する、たとえば銅コアなどの第1の品目の相対位置を説明するために用いられる。場合によっては、第1および第2の品目の間に、たとえば中間層などのさらなる品目が配置されてもよい。好ましくは、第2の品目は第1の品目の上に、たとえば第1の品目の合計表面に関して少なくとも30%、50%、70%、または少なくとも90%など、少なくとも部分的に重ね合わされる。最も好ましくは、第2の品目は第1の品目の上に完全に重ね合わされる。本発明の状況における「中間層」という用語は、銅コアとコーティング層との間のワイヤの領域のことである。この領域においては、コアと同様の材料およびコーティング層と同様の材料が組み合わされて存在する。
【0060】
本発明の好ましい実施形態の場合、ボンディング前のワイヤコアの硬度は95.00HV(0.010N/5s)以下である。より好ましくは、硬度は93HV(0.010N/5s)以下である。こうしたワイヤコアの軟らかさは、敏感な基板がボンディングの過程で損傷することを防ぐ助けになる。加えて、本発明に従うこうした軟らかいワイヤは、非常に良好なフリーエアボール(FAB)特性を示すことが実験によって示されている。機械的に敏感な構造がボンドパッドの下に整列されるとき、こうしたワイヤ硬度の限定は特に役に立つ。ボンドパッドがアルミニウムまたは金などの軟らかい材料からなるときは、これが特に当てはまる。敏感な構造はたとえば、特に2.5未満の誘電率を有する多孔質の二酸化ケイ素の1つまたはいくつかの層などを含んでもよい。こうした多孔質の、よって弱い材料は、デバイス性能を高める助けになり得るために一般的になってきている。したがって、弱い層の亀裂またはその他の損傷を避けるために、本発明のボンディングワイヤの機械的特性が最適化される。
【0061】
ビッカース圧子を有するフィッシャースコープH100Cテスタを用いて、硬度を測定した。異なる値が与えられないとき、5sの滞留時間に対して10mNの力(force:F)の力を加え、136°の正方形ダイヤモンド圧子を用いて押込んだ。硬度テスト手順は、サンプル断面の平坦面におけるビッカース押込みの基本的な十分に確立された手順に基づく製造者の推奨に従った。走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いて、ワイヤの切断面における押込み対角線(diagonals:d)を測定し、式
【数1】
を用いて算出し、ここでFはkgf単位であり、dはmm単位である。
【0062】
本発明のさらなる局面は、第1のボンドパッドと、第2のボンドパッドと、本発明に従うワイヤとを含むモジュールであり、ワイヤは、ボールボンディングによってボンドパッドの一方に接続される。
【0063】
こうしたモジュールは、ボンディングワイヤによって電気的に接続されるあらゆる特定の電子デバイスを含み得る。特に、そのデバイスは集積回路、発光ダイオード(light emitting diode:LED)、またはディスプレイデバイスなどであってもよい。
【0064】
本発明のモジュールの好ましい実施形態において、ボールボンディングに対するプロセスウィンドウ面積は、アルミニウムボンドパッドに直径20μmのワイヤをボンディングする場合には、少なくとも120g
*mAの値を有する。より好ましくは、その値は少なくとも130g
*mAであり、最も好ましくは、その値は少なくとも140g
*mAである。
【0065】
これらのボールボンディングウィンドウ面積の値は、標準的な手順によって測定される。KNS−iConnボンダツールを用いて、テストワイヤをボンディングした。ボンディングワイヤに対するプロセスウィンドウ面積の定義は当該技術分野において公知であり、異なるワイヤを比較するために広く用いられる。原則として、プロセスウィンドウ面積は、ボンディングに用いられる超音波エネルギと、ボンディングに用いられる力との積であり、結果として得られるボンドは、たとえば3グラムの引っ張り力、パッドへの非粘着(non−stick on pad)がないことなどの、特定のプルテスト仕様を満たす必要がある。所与のワイヤのプロセスウィンドウ面積の実際の値は、ワイヤ直径およびボンドパッド材料にさらに依存する。本発明のワイヤの特性の特定的な定義を与えるために、請求されるプロセスウィンドウ値は20μm=0.8ミルのワイヤ直径に基づいており、ここでボンドパッドはアルミニウム(Al、Al−0.5Cu、Al−1Si−0.5Cuなど)からなる。本発明のシステムの範囲は、この直径のワイヤおよびアルミニウムで作られたボンドパッドに限定されるものではなく、このデータは定義の目的のためだけに示すものである。
【0066】
本発明のさらなる局面は、本発明に従うボンディングワイヤを製造するための方法であり、この方法は、
a.要求される組成を有する銅コア前駆物質を提供するステップと、
b.ワイヤコアの最終直径に到達するまで前駆物質を延伸するステップと、
c.延伸されたワイヤを規定の温度にて最低アニーリング時間だけアニーリングするステップとを含む。
【0067】
特に好ましい実施形態において、アニーリングはストランドアニーリングによって行われることにより、高い再現性を伴うワイヤの高速製造を可能にする。ストランドアニーリングとは、ワイヤがアニーリングオーブンを通過して、オーブンから出た後にリールに巻かれている間に、アニーリングが動的に行われることを意味する。
【0068】
本発明の主題を図面に例示している。しかし、図面は決して本発明または請求項の範囲を限定することが意図されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【
図2】ワイヤ1の断面図である。この断面図において、銅コア2は断面図の中央にある。銅コア2はコーティング層3に取り囲まれている。銅ワイヤ2の限界に、銅コアの表面15が位置する。ワイヤ1の中心23を通る線Lの上に、線Lと表面15との交点の間の端から端までの距離として、銅コア2の直径が示される。ワイヤ1の直径は、中心23を通る線Lとワイヤ1の外側限界との交点の間の端から端までの距離である。加えて、コーティング層3の厚さが示される。
図2においては、コーティング層3の厚さが誇張されている。コーティング層3が設けられるとき、コーティング層3の典型的な厚さはコア直径に比べて非常に小さく、たとえばコア直径の1%未満などである。 本発明の場合には、ワイヤ1のコーティング層3は任意であることが理解される。最も好ましい実施形態においては、ワイヤコア上にコーティング層は設けられない。
【
図3】本発明に従うワイヤを製造するためのプロセスを示す図である。
【
図4】2つのエレメント11およびワイヤ1を含む、電気デバイス10の形のモジュールを示す図である。ワイヤ1は、2つのエレメント11を電気的に接続する。点線は、エレメント11と、エレメント11を囲むパッケージングデバイスの外部配線とを接続するさらなる接続または回路を意味する。エレメント11は、ボンドパッド、リードフィンガ、集積回路、またはLEDなどを含んでもよい。
【
図5】ワイヤプルテストのスケッチを示す図である。基板20にワイヤ1を、ボンド21において45°の角度19にてボンディングする。プルフック17がワイヤ1を引っ張る。プルフック17がワイヤ1を引っ張るときに形成される角度22は90°である。
【
図6】本発明の第1の実施例の、異なる直径のワイヤに対するアニーリング曲線の組を示す図である。この実施例は、コーティングを有さない4N銅コアからなるワイヤを含む。
【
図7】第1の実施例の25μmワイヤのスティッチプル測定を、従来の純銅ワイヤと比較して示す図である。
【
図8】第1の実施例の20μmおよび25μmワイヤの硬度測定を、それぞれ従来の純銅ワイヤと比較して示す図である。
【
図9】従来の25μm純銅ワイヤのボンディングウィンドウと比較したときの、第1の実施例の25μmワイヤのウェッジボンディングの第2のボンド処理ウィンドウの比較を示す図である。
【
図10】本発明の第2の実施例に従う20μmワイヤのアニーリング曲線を示す図である。この実施例において、ワイヤコアの銅は少量の銀を含有する。
【
図11】第2の実施例のワイヤと比較ワイヤとのスティッチプル比較を示す図である。
【
図12】第2の実施例のワイヤと比較ワイヤとの硬度比較を示す図である。
【
図13a】第1の実施例のワイヤの熱エージング挙動を示す図である。
【
図13b】第2の実施例のワイヤの熱エージング挙動を示す図である。
【
図14】本発明の第1および第2の実施例の異なる直径20μmワイヤに対する平均粒度の比較を示す図である。
【
図15】ストランドアニーリングデバイスの概略図である。
【
図16】本発明の第3の実施例に従う20μmワイヤのアニーリング曲線を示す図である。この第3の実施例において、ワイヤコアの銅は少量のパラジウムを含有する。
【
図17】第3の実施例の20μmワイヤの平均粒度を示す図である。左側のデータ点はワイヤにおいて測定され、右側のデータ点はワイヤのフリーエアボールにおいて測定される。
【
図18】0μmに位置するフリーエアボールからの異なる距離において測定された、ワイヤコアの微小硬度を示す図である。フリーエアボールと影響のないワイヤ領域との間のネック領域、および影響のないワイヤ領域における最大約200μmまで。このワイヤは85〜95HV(0.010N/5s)の範囲内の微小硬度を有することが明らかである。
【
図19】本発明の20μmワイヤに対するボールボンド処理ウィンドウを示す図である。一方の処理ウィンドウは本発明の第1の実施例のワイヤ(「4NソフトCu」と名付けられる)に関するものであり、他方の処理ウィンドウは本発明の第3の実施例のワイヤ(「Pd合金1N Cu」と名付けられる)に関するものである。
【
図20】本発明の20μmワイヤに対する第2のボンド(「スティッチボンド」)処理ウィンドウを示す図である。一方の処理ウィンドウは本発明の第1の実施例のワイヤ(「4NソフトCu」と名付けられる)に関するものであり、他方の処理ウィンドウは本発明の第3の実施例のワイヤ(「Pd合金1N Cu」と名付けられる)に関するものである。
【
図21】本発明の第3の実施例の20μmワイヤの熱エージング挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0070】
テスト方法
すべてのテストおよび測定は、T=20℃および相対湿度50%にて行った。
【0071】
結晶粒の平均粒度を測定するときは、標準的な金属組織学的技術を用いることによって粒度を定める。ワイヤコアのサンプルを切断し、次いでエッチングする。本発明の場合には、2gのFeCl
3および6mlの濃HClを200mlのDI水に加えた溶液をエッチングに用いた。線切片の原理によって、粒度を測定して算出する。ワイヤ軸の方向である長手方向に沿って粒度を測定した。
【0072】
ボールボンディングプロセスウィンドウ面積の測定を、標準的な手順によって行う。KNS−iConnボンダツールを用いて、テストワイヤをボンディングした。ボンディングワイヤに対するプロセスウィンドウ面積の定義は当該技術分野において公知であり、異なるワイヤを比較するために広く用いられる。原則として、プロセスウィンドウ面積は、ボンディングに用いられる超音波エネルギ(ultrasonic energy:USG)と力との積であり、結果として得られるボンドは、たとえば3グラムの引っ張り力、パッドへの非粘着がないことなどの、特定のプルテスト仕様を満たす必要がある。所与のワイヤのプロセスウィンドウ面積の実際の値は、ワイヤ直径およびボンドパッド材料にさらに依存する。本発明のワイヤの特性の特定的な定義を与えるために、現在プロセスウィンドウ値は20μm=0.8ミルのワイヤ直径に基づいており、ここでボンドパッドはアルミニウム(Al、Al−0.5Cu、Al−1Si−0.5Cuなど)からなる。プロセスウィンドウの四隅は、次の2つの主要な障害モードを克服することによって導出される。
(1)低すぎる力およびUSGの供給によって、FABのボンドパッドへの非粘着(non−stick on bond pad:NSOP)がもたらされ、
(2)高すぎる力およびUSGの供給によって、ボンドパッドクレーターがもたらされる。
【実施例】
【0073】
実施例によって、本発明をさらに例示する。これらの実施例は本発明の例示的説明の役割をするものであって、決して本発明または請求項の範囲を限定することが意図されるものではない。
【0074】
実施例1
少なくとも99.99%の純度の銅材料(「4N銅」)のある量を、るつぼ内で溶融する。溶融物にさらなる物質は加えない。次いで、その溶融物からワイヤコア前駆物質を鋳造する。
【0075】
誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)器具(パーキン・エルマー(Perkin Elmer)ICP−OES 7100DV)を用いて、Cuワイヤの化学組成を制御した。Cuワイヤを濃硝酸に溶解して、その溶液をICP分析に用いた。高純度Cuワイヤをテストするための方法論は、バルクCuに対して採用される周知の技術に従って、機器製造者によって確立されたものである。
【0076】
次いで、指定された直径のワイヤコア2を形成するために、いくつかの延伸ステップにおいてワイヤコア前駆物質を延伸する。異なる直径に対する本発明の有益な効果を確認するために、異なる直径を有するワイヤの選択物を製造した。下の表1は、異なるワイヤ直径のリストを示すものである。
【0077】
【表1】
【0078】
表1はさらに、ワイヤコアの伸び値および平均粒度の範囲を示す。これらの範囲は、それぞれの直径のワイヤに対して好ましいものであり、本発明に従うこれらの値の調整をさらに下に説明する。さらに、右端の2列にはワイヤコアの伸びと平均粒度との比率に対する算出値、および伸びと標準的な条件下で生成されたフリーエアボール(FAB)の平均粒度との比率に対する算出値を加えた。
【0079】
ワイヤコア2の断面は、本質的に円形である。断面の形状などの変動のため、ワイヤ直径は高度に厳密な値とは考えられない。この意味において、もしワイヤがたとえば20μmの直径を有すると定められれば、その直径は19.5μmから20.5μmの範囲内であると理解される。
【0080】
次いで、伸び、硬度、および結晶構造などのパラメータをさらに調整するために、最終アニーリングステップにおいてワイヤをアニーリングする。このアニーリングはストランドアニーリングとして、ワイヤ1を規定の速度で、規定の長さおよび温度のアニーリングオーブン24に通すことによって動的に行う(
図15を参照)。ワイヤを第1のリール25から引き出し、プーリー26で案内する。オーブン24から出た後、ワイヤを実装のために第2のリールに巻く。
【0081】
本実施例において、移動するワイヤの所与の小片が加熱オーブン24内にとどまる露出時間であるアニーリング時間は、すべてのワイヤ直径に対して約0.3sである。直径20μmのワイヤの場合には、600℃のアニーリング温度を選択する。オーブン区域内は一定の温度に調整する。
【0082】
原則として、アニーリング時間はアニーリング温度および/またはワイヤ直径に従って変動し得る。いずれにせよ、アニーリング法としてストランドアニーリングを選択するときは、妥当なスループットを得るためにワイヤの特定の最低速度が必要である。したがって、アニーリング時間は好ましくは、十分な長さのオーブンを容易に提供することを可能にする0.1秒から1秒の領域内で選択する。このアニーリング時間は、他方で十分に高いアニーリング温度を要求する。下の表2は、異なるワイヤ直径の範囲に対する、好ましい最低アニーリング温度を示すものである。
【0083】
【表2】
【0084】
選択したワイヤサンプルの平均粒度を測定した。その結果を下の表3に示す。
【0085】
【表3】
【0086】
図6は、本発明の実施例1に従う4N銅ワイヤのいくつかの例示的なアニーリング曲線を示す。ワイヤはその直径のみが異なっており、ここでは直径20μm、33μmおよび50μmのワイヤを示している。アニーリング時間は、移動するワイヤの速度を調整することによって、一定の値に選択している。アニーリング温度はx軸の変数パラメータである。このグラフは、ワイヤの破壊荷重(break load:BL)および伸び(elongation:EL)に対する測定値を、温度の関数として示している。伸びは、各場合において典型的な極大を示す。
【0087】
3つの例示的なワイヤ直径に対して、伸びの最大値は、アニーリング曲線から次のとおりに推定できる。
【0088】
【表4】
【0089】
本発明に従うワイヤは、それぞれの最大伸びの温度にてアニーリングするのではなく、もっと高い温度でアニーリングする。
【0090】
20μmワイヤに対して選択されるアニーリング温度は600℃であり、これは表4に従う最大伸びの温度よりも80℃高い。結果的に得られる伸び値は約11.8%(下の表5を参照)であり、これは最大伸び値15.8%よりも25%低い。
【0091】
33μmワイヤに対して選択されるアニーリング温度は615℃であり、これは表3に従う最大伸びの温度よりも95℃高い。結果的に得られる伸び値は約13.3%であり、これは最大伸び値18.0%よりも26%低い。
【0092】
50μmワイヤに対して選択されるアニーリング温度は630℃であり、これは表3に従う最大伸びの温度よりも105℃高い。結果的に得られる伸び値は約18.5%であり、これは最大伸び値24.1%よりも23%低い。
【0093】
アニーリング曲線の最大値の高温側におけるこうしたアニーリングは、プロセスパラメータの点で材料のかなり感受性の高い範囲で作業することを意味する。結果の良好な再現性を得るために、パラメータの組全体を注意深くモニタする必要がある。
【0094】
下の表5は、表3からの本発明のワイヤのさらなる機械的および電気的特性の測定結果を示すものである。
【0095】
【表5】
【0096】
表5の結果は、本発明のワイヤが、4N銅ワイヤについて典型的に公知である値と同様に低い電気抵抗率の値を有することを示すものである。
【0097】
予想どおり、降伏強度はワイヤ直径に関係しない。本発明のワイヤの値は各々の場合に120MPaよりも十分に低く、さらに80MPaよりも十分に低い。
【0098】
最大伸び値の近くでアニーリングした典型的な先行技術の4N銅ワイヤは、160MPaよりも高い降伏強度を有する。
【0099】
ヤング率もワイヤ直径とは独立しており、100GPaよりも十分に低い値を有する。典型的な先行技術の4N銅ワイヤは、約125GPaのヤング率を有する。
【0100】
同様に予想どおりワイヤ直径とは独立している引っ張り強度は、約225MPaである。なお、典型的な先行技術の4N銅ワイヤは、約245MPaの引っ張り強度を有することが測定されている。本発明に従うワイヤの引っ張り強度は典型的に、標準的なワイヤの値よりも数パーセント低い。これは、本発明のワイヤが軟らかいことによるものと予想される。いずれにせよ、引っ張り強度のこうしたわずかな減少は、標準的なボンディング手順および/または標準的なボンディング機器による使用に対して負の影響をもたらさないだろう。
【0101】
Instron(登録商標)−5300器具を用いて、ワイヤの引っ張り特性をテストした。10インチのゲージ長に対して、1インチ/分の速度にてワイヤをテストした。ASTM規格F219−96に従って、破壊荷重および伸びを得た。製造者によって確立された方法によって、細いワイヤのヤング率および降伏荷重(降伏強度)を得た。すなわち、引っ張りプロットの弾性領域に沿って接線を引く。ワイヤのヤング率を表す、その線の勾配を測定する。塑性領域の始めに測定される荷重が降伏強度を定める。製造者の開発した「Bluehill(登録商標)ソフトウェア」は、引っ張りプロットから直接降伏荷重およびヤング率を得ることができた。降伏強度(エンジニアリング強度)は、降伏強度=降伏荷重/ワイヤ断面積の式を用いて算出した。ASTM規格F205に従う秤量法によって、直径を測定した。
【0102】
第1の実施例のワイヤのさらなる結果および比較を
図7、
図8および
図9に示す。
【0103】
図7において、25μmワイヤのスティッチプル比較は、本発明に従うワイヤが先行技術のワイヤに比べてさらに大きなスティッチプル値を有することを示す。実施例1に従う本発明のワイヤの結果を右側に示し、「ソフトCu」とタグ付けしている。
【0104】
図8は、20μmワイヤおよび25μmワイヤの硬度比較を示す。各場合において、先行技術のワイヤ(「従来」)および実施例1の本発明のワイヤ(「ソフトCu」)の測定ビッカース硬度10mN/5sを示している。本発明のワイヤは、これらの直径に対して90HV10mN/5s未満の範囲の、有意に低いビッカース硬度を有することが明らかである。
【0105】
図9は、先行技術のワイヤ(「従来」)および実施例1に従う本発明のワイヤ(「ソフトCu」)に対する、ボールボンディングのボンディングプロセスウィンドウを示す。ワイヤ直径は20μmを選択し、アルミニウムボンドパッドにおいてテストボンディングを行った。本発明のワイヤに対するプロセスウィンドウは、従来のワイヤのウィンドウよりも有意に大きいことが明らかである。
【0106】
図13aは、25μmの4N Cuワイヤサンプルの熱エージング実験を示す。ボールボンディングしたサンプルのボールプル値を測定したものであり、ここではサンプルを175℃の熱露出下で最高1000時間にわたりエージングした。その結果は、ワイヤの非常に良好なエージング挙動を示している。加えてこの結果は、本発明に従うワイヤが高温および/または高エネルギの適用に対して好適であることを実証するものである。
【0107】
上記の実施例は純銅(4N純度)から作られたワイヤに関するものであるが、本発明はこうした純度のワイヤに限定されない。より大きな粒の成長制御と、より低い伸び値への調整とを伴う高温アニーリングという基本的発明概念は、銅に基づくあらゆる好適なワイヤシステムに移行できる。本発明の範囲を限定するものではないが、特に好ましいのは、下の表6のシステムである。
【0108】
【表6】
【0109】
リストされた元素のすべての占有率は、ワイヤコア中に存在するものと理解される。表6のシステムは、各場合に付加的に設けられ得るワイヤコアの任意のコーティングには関係しない。
【0110】
元素の占有率が与えられていないとき(「−」)、その元素は許容できる微量レベルを超えて存在してはならない。表6に与えられたもの以外の、元素のさらなる組み合わせも可能であることが理解される。特に、表6の元素占有率のさらなる組み合わせとしては、たとえば銀の占有率と金の占有率との組み合わせなどが考えられる。加えて、表6に挙げられるもの以外のさらなる元素を加えることも有利であり得る。
【0111】
一般的に好ましくは、ワイヤコア中の銅の総量は、本発明の良好な適用可能性を提供する97%を大きく下回らないものである。
【0112】
以下に、本発明のワイヤのさらなる実施例を詳細に説明する。これらの実施例はコアに少量の銀を含んでおり、よって表6において提案されるシステムNo.3に関連するが、表6においてこのシステムに対して与えられた元素占有率の特定の組に限定されるものではない。
【0113】
実施例2
少なくとも99.99%の純度の銅材料(「4N銅」)のある量を、るつぼ内で溶融する。溶融物に少量の銀(Ag)を加え、銅溶融物中の添加成分の均一な分散を提供する。次いで、その溶融物からワイヤコア前駆物質を鋳造する。
【0114】
次いで、ここでは20μmである指定された直径のワイヤコア2を形成するために、いくつかの延伸ステップにおいてワイヤコア前駆物質を延伸する。ワイヤコア2の断面は、本質的に円形である。断面の形状などの変動のため、ワイヤ直径は高度に厳密な値とは考えられないことが理解されるべきである。この意味において、もしワイヤがたとえば20μmの直径を有すると定められれば、その直径は19.5μmから20.5μmの範囲内であると理解される。
【0115】
この手順によって、本発明のワイヤのいくつかの異なるサンプルおよび比較ワイヤを製造した。
【0116】
【表7】
【0117】
上の表7は、直径20μmの本発明のワイヤの、1〜5と番号を付けられた異なるサンプルの組成を示す。ワイヤの銀含有量は、それぞれ45ppm、110ppm、225ppm、350ppm、および900ppmである。4N純度の銅からなる比較ワイヤを加えている。
【0118】
次いで、伸び、硬度、および結晶構造などのパラメータをさらに調整するために、最終アニーリングステップにおいてワイヤをアニーリングする。このアニーリングはストランドアニーリングとして、ワイヤ1を規定の速度で、規定の長さおよび温度のアニーリングオーブン24に通すことによって動的に行う(
図15を参照)。ワイヤを第1のリール25から引き出し、プーリー26で案内する。オーブン24から出た後、ワイヤを実装のために第2のリールに巻く。
【0119】
本実施例において、移動するワイヤの所与の小片が加熱オーブン24内にとどまる露出時間であるアニーリング時間は約0.3sである。直径20μmのワイヤの場合には、640℃のアニーリング温度を選択する。オーブン区域内は一定の温度に調整する。
【0120】
図10は、銀ドープ20μm銅ワイヤの例示的なアニーリング曲線を示す。アニーリング時間は、移動するワイヤの速度を調整することによって、一定の値に選択している。アニーリング温度はx軸の変数パラメータである。このグラフは、ワイヤの破壊荷重(BL)および伸び(EL)に対する測定値を示している。
【0121】
示される実施例において、伸びは約14.5%の典型的な極大値を示しており、この極大値は約460℃のアニーリング温度において達成されている。
【0122】
ここでサンプル1〜5に従う本発明のワイヤは、この最大伸びの温度にてアニーリングするのではなく、
図10に従う最大伸びの温度よりも180℃高い640℃にてアニーリングする。結果的に得られる伸び値は約10%であり、これは最大伸び値よりも30%以上低い。
【0123】
実施例1と同様に、アニーリング曲線の高温側におけるこうしたアニーリングは、プロセスパラメータの点で材料のかなり感受性の高い範囲で作業することを意味する。結果の良好な再現性を得るために、パラメータの組全体を注意深くモニタする必要がある。
【0124】
ワイヤサンプルNo.1〜5の平均粒度を測定した。その結果は各場合において3μmから6μmの範囲である。サンプルNo.3に対する平均粒度は5μmである。
【0125】
ワイヤコアの平均粒度はアニーリングステップによって大きく影響され、銀含有量によってさらに影響される。
【0126】
さらなる実験は、15〜28μmの範囲の直径を有するワイヤに対しては3〜6μmの範囲の平均粒度を達成でき、これは銀含有量の範囲全体、すなわち45ppmから900ppmに対して好ましいことを示した。
【0127】
下の表8は、ボールボンディング性能に対する評価の結果を示す。上で定義した本発明のワイヤサンプル1〜5および純銅ワイヤの比較例のボールボンディングを、上記「テスト方法」に記載したとおりにテストした。
【0128】
【表8】
【0129】
プロセスウィンドウ面積は、超音波エネルギおよび印加された力の、それぞれの上下の境界の差の積として定義する。
【0130】
本発明のワイヤはすべて、工業的適用によく適したプロセスウィンドウをもたらす。特に、本発明のワイヤサンプル2、3および4は120mA
*gを超える値を示し、これは4N Cuワイヤに比べて特に改善している。よって、少なくとも100〜350ppmの範囲のAg含有量において、ボールボンディングプロセスウィンドウの改善が存在する。
【0131】
本発明に従うワイヤの有益な特性は、ボールボンディングプロセスウィンドウという唯一のパラメータに限定されないことが理解される。その他の特性は、たとえばFAB形状および再現性、FAB硬度、ボンディング前のワイヤの軟らかさ、ボンディング後のボンディング範囲(ボールおよびネック)におけるワイヤの軟らかさ、ワイヤの電気伝導性、スティッチプル強度、およびエージング挙動などである。
【0132】
図11は、ワイヤサンプルNo.3(225ppmの銀含有量)と、比較4N銅サンプルとのスティッチプル値の比較を示す。本発明のワイヤは、改善されたスティッチプル値を示す。この測定は
図5に従って行った。
【0133】
図12は、ワイヤサンプルNo.3と、本発明の実施例1の4N銅サンプル(「ソフト4N Cu」とタグ付けしている)との硬度値(HV15mN/10s)の比較を示す。測定のエラーバーが幾分重複しているが、第2の実施例の本発明のワイヤは、第1の実施例のワイヤよりもさらに低い硬度を有する。
【0134】
図13bは、ワイヤサンプルNo.3の熱エージング実験を示す。ボールボンディングしたサンプルのボールプル値を測定したものであり、ここではサンプルを熱露出下で最高1000時間にわたりエージングした。その結果は、ワイヤの非常に良好なエージング挙動を示している。
【0135】
図14は、本発明の実施例2のサンプルNo.3のAgドープワイヤと、20μmの4N Cuワイヤとの測定平均粒度の比較を示す。4N Cuワイヤは、「実施例1」において上述したとおりに本発明に従ってアニーリングした。4N Cuワイヤは「ソフト4NCu」とタグ付けしている。測定のエラーバーがかなり重複しているが、Agドープワイヤの場合に粒度が大きくなる傾向が推定できる。
【0136】
直径20μmワイヤに対して上述した実施例2の結果を参照すると、好ましい最適化されたバージョンの本発明のワイヤは、45〜900ppmの範囲の銀含有量を有する。この銀含有量は、さらに調査したボンディングワイヤの直径範囲すべてに当てはまると考えられる。
【0137】
この銀含有量の範囲に基づいて、平均粒度、ワイヤコアの軟らかさおよびボールボンディング挙動に関して、他の直径のワイヤを最適化した。
【0138】
直径33μmのワイヤに対して、最適なアニーリング温度は650℃であることを見出した。他のパラメータおよびワイヤの製造方法は、実施例1のワイヤと変わらずそのままにした。
【0139】
さらなる実験は、28〜38μmの範囲の直径を有するワイヤに対しては4〜10μmの範囲の平均粒度を達成でき、これは銀含有量の変動範囲全体、すなわち45ppmから900ppmに対して好ましいことを示した。
【0140】
33μmの直径および225ppmの銀含有量を有するワイヤに対しては、650℃にてアニーリングすることによって6μmの平均粒度を達成した。
【0141】
直径50μmのワイヤに対して、最適なアニーリング温度は670℃であることを見出した。他のパラメータおよびワイヤの製造方法は、実施例1のワイヤと変わらずそのままにした。
【0142】
さらなる実験は、38〜50μmの範囲の直径を有するワイヤに対しては8〜15μmの範囲の平均粒度を達成でき、これは銀含有量の変動範囲全体、すなわち45ppmから900ppmに対して好ましいことを示した。
【0143】
直径50μmおよび銀含有量225ppmのワイヤに対しては、670℃にてアニーリングすることによって15μmの平均粒度を達成した。
【0144】
実施例3
少なくとも99.99%の純度の銅材料(「4N銅」)のある量を、るつぼ内で溶融する。溶融物に少量のパラジウム(Pd)を加え、銅溶融物中の添加成分の均一な分散を提供する。次いで、その溶融物を連続的にゆっくりと鋳造して直径2mmから25mmのロッドにすることによって、ワイヤコア前駆物質を製造する。
【0145】
次いで、ここでは20μmである指定された直径のワイヤコア2を形成するために、いくつかの延伸ステップにおいてワイヤコア前駆物質を延伸する。延伸は冷間延伸として室温にて行う。
【0146】
ワイヤコア2の断面形状に関しては、上記実施例に対する注釈を参照する。
【0147】
この手順によって、本発明のワイヤのいくつかの異なるサンプルを製造した。第1の変形においては、銅中のパラジウムの量を0.89%に調整した。第2の最も好ましい変形においては、パラジウムの量を1.25%に調整した。
【0148】
さらなる元素の不純物の閾値に関しては、上記の本発明の第2の実施例を参照し、表7を参照されたい。なお、第3の実施例の場合の銀含有量は、好ましくは25ppm未満である。にもかかわらず、本発明に従うパラジウム含有銅ワイヤの場合には、さらに多い量の銀が許容できるか、または有益な効果を有することすらあることが明らかになった。特に、上記の第1の実施例の表6を参照すると、Pd含有ワイヤのいくつかの実施例が言及されている。こうした組み合わせは、本発明の第3の実施例に従うワイヤの好ましいさらなる変形として理解される。
【0149】
次いで、伸び、硬度、および結晶構造などのパラメータをさらに調整するために、最終アニーリングステップにおいてワイヤをアニーリングする。このアニーリングはストランドアニーリングとして、ワイヤ1を規定の速度で、規定の長さおよび温度のアニーリングオーブン24に通すことによって動的に行う(
図15を参照)。ワイヤを第1のリール25から引き出し、プーリー26で案内する。オーブン24から出た後、ワイヤを実装のために第2のリールに巻く。
【0150】
本実施例において、移動するワイヤの所与の小片が加熱オーブン24内にとどまる露出時間であるアニーリング時間は約0.3sである。直径20μmのPd含有ワイヤの場合には、800℃のアニーリング温度を選択する。オーブン区域内は一定の温度に調整する。
【0151】
図16は、20μm銅ワイヤの第1の変形(1.25%パラジウム合金)の例示的なアニーリング曲線を示す。アニーリング時間は、移動するワイヤの速度を調整することによって、一定の値に選択している。アニーリング温度はx軸の変数パラメータである。このグラフは、ワイヤの破壊荷重(BL)および伸び(EL)に対する測定値を示している。示される
図10の実施例において、伸びは約17.9%の典型的な極大値を示しており、この極大値は約570℃のアニーリング温度において達成されている。
【0152】
ここで第3の実施例の本発明のワイヤは、この最大伸びの温度にてアニーリングするのではなく、
図16に従う最大伸びの温度よりも180℃高い約750℃にてアニーリングする。結果的に得られる伸び値は約14%であり、これは最大伸び値17.9%よりも22%以上低い。
【0153】
下の表9は、本発明の第3の実施例の20μmワイヤに対するいくつかの測定値を示すものである。
【0154】
【表9】
【0155】
なお、上の表5にすでにリストしている本発明の第1の実施例の比較ワイヤ(「4NCu」)を加えている。
【0156】
表9の値は、Pd合金ワイヤが予想どおり純銅ワイヤよりもわずかに高い抵抗率を有することを示す。他方で、Pd合金化によって、腐食抵抗性の改善などの有益な効果が得られる。この表はさらに、もし本発明に従うアニーリング手順を行えば、Pd含有ワイヤが純銅ワイヤ(4NCu)に非常に近い機械的特性を達成できることを示す。表9において、硬度測定は、ワイヤコア(左の値)および標準的なボール形成手順後のフリーエアボール(FAB)に対して行い、平均化した。1.25%Pd合金20μmワイヤのさらなる詳細な硬度測定値を、
図18にみることができる。この図は、フリーエアボールからの距離の増加を伴うワイヤ表面に対する多数の測定値を示すものである。FAB領域の近くにおいて、硬度の少しの減少がみられる。
【0157】
第3の実施例のワイヤのさらなる変形を、下の表10にリストしている。
【0158】
【表10】
【0159】
ワイヤの伸び値はワイヤ直径とともに増加することが明らかである。しかし、それぞれの最大値よりも低い伸び値に対するアニーリングという本発明の原理は、すべての異なる実施例およびワイヤ直径を通じて保持されている。
【0160】
図16から
図21のデータは、それぞれ直径20μmのワイヤのサンプルに対して測定されたものである。
【0161】
図17より、Pd合金のアニーリングされたワイヤの平均粒度は、純銅ワイヤの粒度に近いことを導出できる。
【0162】
図19は、Pd合金ワイヤが本発明の純銅ワイヤよりもわずかに大きいボールボンディングプロセスウィンドウを有することを示しており、これらのウィンドウはかなり類似している。
【0163】
図20は、第2のボンドプロセスウィンドウの場合においては、本発明のPd合金サンプルが超音波エネルギおよび力の値の両方に関して有意に大きなウィンドウを示すことを示している。
【0164】
図21は、最高2000時間までの175℃の温度における熱エージング挙動を示す。この時間尺度においては、ワイヤの高温保存における顕著な熱エージングはみられない。
【0165】
一般的に、それぞれの要求に従って、それぞれの実施形態の特定の特徴を互いに組み合わせてもよい。好適であれば、たとえばワイヤコアのコーティングなどのさらなる特徴を、特定の実施形態のいずれかに加えてもよい。
【国際調査報告】