特表2016-525124(P2016-525124A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-525124(P2016-525124A)
(43)【公表日】2016年8月22日
(54)【発明の名称】免疫細胞の能力を増強する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/17 20150101AFI20160725BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20160725BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20160725BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160725BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20160725BHJP
   A61K 31/706 20060101ALI20160725BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20160725BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20160725BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20160725BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20160725BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20160725BHJP
   C12N 5/0784 20100101ALI20160725BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20160725BHJP
【FI】
   A61K35/17 A
   A61K45/00
   A61P37/04
   A61P43/00 121
   A61K37/02
   A61K31/706
   A61K35/15 Z
   A61K39/395 A
   A61K39/395 H
   A61P35/00
   C12N5/078
   C12N5/0783
   C12N5/0784
   C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】53
(21)【出願番号】特願2016-527147(P2016-527147)
(86)(22)【出願日】2014年7月18日
(85)【翻訳文提出日】2016年3月14日
(86)【国際出願番号】US2014047311
(87)【国際公開番号】WO2015010096
(87)【国際公開日】20150122
(31)【優先権主張番号】61/847,957
(32)【優先日】2013年7月18日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】391058060
【氏名又は名称】ベイラー カレッジ オブ メディスン
【氏名又は名称原語表記】BAYLOR COLLEGE OF MEDICINE
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴェラ ヴァルデス、ジュアン フェルナンド
(72)【発明者】
【氏名】ブレナー、マルコム
(72)【発明者】
【氏名】アヌラサパン、ウサナラット
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93Y
4B065AA94X
4B065AC12
4B065AC14
4B065BA02
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4B065BB11
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4B065BB13
4B065BB19
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4C084MA66
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4C086AA02
4C086EA16
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4C087NA05
4C087ZB09
4C087ZB26
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明の実施形態は、1種以上の治療用タンパク質を発現する免疫細胞の能力を増強するための方法および組成物を利用する。特定の場合は、上記方法は、T細胞のような免疫細胞中でのCAR導入遺伝子の発現を調節する。具体的な実施形態は、有糸分裂促進因子、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、および/またはDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤のような治療用タンパク質の発現をアップレギュレートする少なくとも1つの物質の有効量への細胞の暴露、および/またはそのような細胞で処置しようとする個体への暴露を利用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の治療用タンパク質を発現する免疫細胞の能力を増強する方法であって、免疫細胞を、有効量の有糸分裂促進因子、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、および/またはDNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)阻害剤と、前記それぞれの有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤および/または前記DNMT阻害剤と接触させなかった前記免疫細胞と比較して、前記治療用タンパク質の発現を増大させるために十分な時間、接触させる工程を含む、方法。
【請求項2】
前記免疫細胞を前記HDAC阻害剤と接触させる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記HDAC阻害剤が、短鎖脂肪酸、ヒドロキサム酸(hyroxamic acid)、環状ペプチド、ベンズアミド、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される化合物である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記HDAC阻害剤が、トリコスタチンA、フェニル酪酸ナトリウム、ブフェニール(Buphenyl)、アンモナプス(Ammonaps)、バルプロ酸、デパコート(Depakote)、バルプロ酸、ロミデプシン(ISTODAX(登録商標))、ボリノスタット(Vorinostat)、ゾリンザ(Zolinza)、パノビノスタット(panobinostat)、ベリノスタット(belinostat)、エンチノスタット(entinostat)、JNJ−26481585、MGCD−010、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記免疫細胞を前記DNMT阻害剤と接触させる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記DNMT阻害剤が、ヌクレオシドアナログ、キノロン、活性部位阻害剤、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記DNMT阻害剤が、5−アザシチジン、デシタビン、ゼブラリン、SGI−110、SGI−1036、RG108、コーヒー酸プラム(caffeic acid purum)、クロロゲン酸、没食子酸エピガロカテキン、塩酸プロカインアミド、MG98、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記DNMT阻害剤がリボヌクレオシドアナログまたはデオキシリボヌクレオシドアナログである、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記リボヌクレオシドアナログまたはデオキシリボヌクレオチドアナログがデシタビンまたはゼブラリンである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記DNMT阻害剤が5−アザシチジンである、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記5−アザシチジンがVIDAZA(登録商標)である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記免疫細胞がT細胞、NK細胞、樹状細胞、またはこれらの混合物である、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記免疫細胞がT細胞である、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記T細胞がCD4+ T細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記T細胞がCD8+ T細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記T細胞がTreg細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記接触がin vitroで行われる、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記接触が細胞培養物中で行われる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記接触が、前記免疫細胞と前記HDAC阻害剤および/または前記DNMT阻害剤を含有している薬学的組成物中で行われる、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記接触がin vivoで行われ、前記免疫細胞が個体の中の細胞である、請求項1〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記接触がin vivoで行われ、前記免疫細胞が個体の中のT細胞である、請求項1〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記免疫細胞と、前記有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤または前記DNMT阻害剤が前記個体に対して別々に投与される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤および/またはDNMT阻害剤と、前記免疫細胞とが、別の薬学的処方物中で個体に投与される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤および/またはDNMT阻害剤と、前記免疫細胞とが、同じ薬学的処方物中で個体に投与される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤および/または前記DNMT阻害剤と、前記免疫細胞とが、実質的に同時に個体に投与される、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤および/または前記DNMT阻害剤と、前記免疫細胞とが、異なるタイミングで個体に投与される、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤および/または前記DNMT阻害剤と、前記免疫細胞とが、同じ投与スケジュールにしたがって個体に投与される、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
前記有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤および/または前記DNMT阻害剤と、前記免疫細胞とが、異なる投与スケジュールにしたがって個体に投与される、請求項22に記載の方法。
【請求項29】
前記有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤、および/またはDNMT阻害剤が、個体が免疫細胞を受け取る前に個体に提供される、請求項20に記載の方法。
【請求項30】
免疫細胞が、個体に送達される前に、有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤、および/またはDNMT阻害剤と接触させられる、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
免疫細胞は、個体に送達される前には、有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤、および/またはDNMT阻害剤とは接触させられない、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記免疫細胞が少なくとも1種のHDAC阻害剤および少なくとも1種のDNMT阻害剤と接触させられる、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記免疫細胞が、in vitroで前記HDAC阻害剤と接触させられ、続いてin vivoで前記DNMT阻害剤と接触させられる、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記免疫細胞がin vitroで前記DNMT阻害剤と接触させられ、続いてin vivoで前記HDAC阻害剤と接触させられる、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記免疫細胞中での前記治療用タンパク質の発現が、その配列の少なくとも一部がメチル化されているプロモーターにより制御され、ここでは、前記メチル化により、前記治療用タンパク質の発現の部分的または完全なサイレンシングが生じる、請求項1〜34のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
前記免疫細胞中での前記治療用タンパク質の発現が、その配列の少なくとも一部がメチル化されているプロモーター抑制領域により制御され、ここでは、前記メチル化により、前記治療用タンパク質の発現の増強が生じる、請求項1〜35のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
前記治療用タンパク質がキメラ抗原受容体(CAR)である、請求項1〜36のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
CARが少なくとも1つの細胞外抗原結合ドメインと少なくとも1つの細胞内シグナル伝達ドメインを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記治療用タンパク質がサイトカイン、サイトカイン受容体、またはリガンドトラップである、請求項1〜36のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
前記治療用タンパク質が単量体抗体または多量体抗体である、請求項1〜36のいずれかに記載の方法。
【請求項41】
前記治療用タンパク質がαβ T細胞受容体または抗原特異的受容体である、請求項1〜36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記免疫細胞が特定の個体に対して自己由来である、請求項1〜41のいずれかに記載の方法。
【請求項43】
前記免疫細胞が特定の個体に対して同種異系である、請求項1〜41のいずれかに記載の方法。
【請求項44】
免疫細胞が2種以上の異なる治療用タンパク質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項45】
2種の異なる治療用タンパク質がいずれも受容体である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
2種の異なる治療用タンパク質がいずれもCARである、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
2種の異なる治療用タンパク質がいずれも受容体ではない、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
2種の異なる治療用タンパク質の一方がCARであり、2種の異なる治療用タンパク質の一方が抗体である、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
2種の異なる治療用タンパク質の一方がCARであり、2種の異なる治療用タンパク質の一方がαβ T細胞受容体である、請求項44に記載の方法。
【請求項50】
2種の異なる治療用タンパク質の一方がCARであり、2種の異なる治療用タンパク質の一方が抗原特異的受容体である、請求項44に記載の方法。
【請求項51】
免疫細胞が2種以上のHDAC阻害剤と接触させられる、請求項1に記載の方法。
【請求項52】
免疫細胞が2種以上のDNMT阻害剤と接触させられる、請求項1に記載の方法。
【請求項53】
免疫細胞が2種以上の有糸分裂促進因子と接触させられる、請求項1に記載の方法。
【請求項54】
免疫細胞がHDAC阻害剤およびDNMT阻害剤と接触させられる、請求項1に記載の方法。
【請求項55】
免疫細胞がHDAC阻害剤および有糸分裂促進因子と接触させられる、請求項1に記載の方法。
【請求項56】
免疫細胞がDNMT阻害剤および有糸分裂促進因子と接触させられる、請求項1に記載の方法。
【請求項57】
接触工程が、個体の中でin vivoで複数回行われる、請求項20に記載の方法。
【請求項58】
2回目またはそれ以降の接触工程において、免疫細胞が、1回目の接触工程の免疫細胞とは異なる治療用タンパク質を発現する、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
2回目またはそれ以降の接触工程において、有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤および/またはDNMT阻害剤が前記個体に投与される、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
2回目またはそれ以降の接触工程の有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤、および/またはDNMT阻害剤が、1回目の接触工程の有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤、および/またはDNMT阻害剤とは異なる、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
2回目またはそれ以降の接触工程の有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤、および/またはDNMT阻害剤が、1回目の接触工程の有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤、および/またはDNMT阻害剤と同じである、請求項59に記載の方法。
【請求項62】
治療用タンパク質がトランスジェニックタンパク質である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2013年7月18日に提出された米国仮特許出願第61/847,957号の優先権を主張する。この出願はその全体が引用により本明細書中に組み入れられる。
【0002】
本発明は、米国国防総省前立腺癌研究プログラム(Department of Defense Prostate Cancer Research Program)により承認されたW81XWH−11−1−0625、ならびに、NIHにより承認されたCA094237およびP50 CA058183の下での政府の支援によって行われた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
本発明の分野には、少なくとも、細胞生物学、分子生物学、免疫学、および/または医学(癌医学を含む)の分野が含まれる。
【背景技術】
【0004】
腫瘍特異的キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように修飾されたT細胞は、血液系悪性腫瘍および固形腫瘍のいずれの処置においても臨床的有効性を示した。しかしおそらく、CARで修飾されたT細胞の最も有効な使用法には、それらが腫瘍の免疫逃避機構を克服できるようにするためのさらなる操作が必要であろう。これらの逃避ストラテジーのうちの1つは、選択圧下での標的抗原の調節である。この現象は、不均質な腫瘍を処置するための単一抗原特異性を持つ適合移植された(adoptively−transferred)T細胞を使用した前臨床研究および臨床研究のいずれにおいても失敗の原因と報告されている。
【発明の概要】
【0005】
本明細書中で提供される方法および組成物は、標的抗原の調節を巧みに回避するために有効な方法および組成物を提供することにより、標的抗原の調節についての可能性のある問題、例えば、(例えば、化学療法の間の)選択圧下での標的癌抗原の発現の低下に取り組む。本明細書中の方法および組成物は、表的抗原の発現が選択圧により標的抗原の発現が低下している場合にもなお、免疫細胞が治療薬としての効力を維持するように、免疫細胞(例えば、Tリンパ球)中での治療用タンパク質(例えば、キメラ抗原受容体(CAR))の発現をアップレギュレートする1種以上の物質を利用する。特定の実施形態では、治療用タンパク質の発現は、免疫細胞が治療上有効であるか、またはなおも治療上有効であり続けることを可能にするための十分な量の物質によりアップレギュレートされる。特異的な実施形態では、発現は上記物質により、上記物質に暴露されていない細胞中でのレベルよりも高いレベルに、細胞中でアップレギュレートされる。
【0006】
1つの態様では、免疫細胞中での上記少なくとも1種の治療用タンパク質の発現が、上記1種以上の物質に暴露されていないそのような免疫細胞と比較してアップレギュレートされるまたは増大するように、そのような免疫細胞に対して1種以上の物質を暴露することにより少なくとも1種の治療用タンパク質を発現する免疫細胞の能力(例えば、癌細胞を死滅させる活性)を増強する方法が本明細書中で提供される。特定の実施形態では、免疫細胞を、治療用タンパク質の発現を増大させるために十分な時間の間、および十分な量の1種以上の物質と接触させる工程を含む、治療用タンパク質(例えば、CAR)を発現する免疫細胞の集団の癌細胞を死滅させる活性を増大させる方法が本明細書中で提供される。特定の実施形態では、免疫細胞を、治療用タンパク質の発現を増大させ、それにより免疫細胞の集団の癌細胞を死滅させる活性を増大させるために十分な時間の間、および十分な量の1種以上の物質と接触させる工程を含む、治療用タンパク質(例えば、CAR)を発現する免疫細胞の集団の癌細胞を死滅させる活性を増大させる方法が本明細書中で提供される。特異的な実施形態では、発現のアップレギュレーションまたは増大は、例えば、ウェスタンブロッティングまたはノーザンブロッティングのような標準的な手段により検出することができる。
【0007】
特定の実施形態では、細胞がin vitro、ex vivo、および/またはin vivoにある場合に治療用タンパク質の発現をアップレギュレートさせるために、免疫細胞の集団が1種以上の物質と接触させられる。1つの実施形態では、免疫細胞の集団が、1種以上の物質、免疫細胞が投与されているまたは免疫細胞を投与しようとする個体と接触させられる。特異的な実施形態では、免疫細胞は、免疫細胞の個体への投与の前に1種以上の物質と接触させられるか、または免疫細胞は、免疫細胞の個体への投与後に1種以上の物質と接触させられる。特異的な実施形態では、上記方法は、個体から治療用タンパク質が欠失している免疫細胞を単離する工程;免疫細胞を、治療用タンパク質を発現するように操作する工程;操作した免疫細胞を同じ個体に投与する工程;および続いて、免疫細胞中での治療用タンパク質の発現の増大を生じるために十分な量の物質を上記個体に投与する工程を含む。免疫細胞は治療時に、または治療に近いタイミングで個体から得ることができ、また、治療まで適切に保管される場合もある。
【0008】
特定の実施形態では、個体に送達しようとする治療用タンパク質を発現する免疫細胞が、1以上の他の個体から得られる。そのような細胞は、細胞が別の個体に安全に送達され、例えば、レシピエント個体の自身の免疫系により拒絶される可能性がほとんどないように、アッセイされ得るおよび/または操作され得る。細胞は、例えば、貯蔵庫内で保管され得る。
【0009】
本明細書中の任意の実施形態の特異的な実施形態では、上記物質には、エピジェネティック修飾因子(epigenetic modifier)および/または有糸分裂促進因子の1種以上が含まれる。特定の実施形態では、エピジェネティック修飾因子は、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)阻害剤、またはこれらの組み合わせである。発現をアップレギュレートするために2種以上の物質が利用される場合は、任意の組み合わせが利用され得る。組み合わせには、2種以上の同じタイプの物質が含まれる場合があり、また、2種以上の異なるタイプの物質が含まれる場合もある。例えば、細胞は、2つのタイプのエピジェネティック修飾因子に暴露される場合があり、また、1つのタイプのエピジェネティック修飾因子と有糸分裂促進因子とに暴露される場合もある。2種以上のエピジェネティック修飾因子が利用される場合は、例えば、組み合わせに、2種のHDAC阻害剤、または1種のHDACと1種のDNMT阻害剤が含まれ得る。
【0010】
1つの実施形態では、少なくとも1種の治療用タンパク質を発現する免疫細胞の能力を増強する方法が本明細書中で提供される。この方法は、免疫細胞を、有効量の有糸分裂促進因子、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、および/またはデオキシリボ核酸メチルトランスフェラーゼ(DNMT)阻害剤と、上記有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤および/または上記DNMT阻害剤(特異的な実施形態では、HDAC阻害剤、短鎖脂肪酸、ヒドロキサム酸(hyroxamic acid)、環状ペプチド、ベンズアミドまたはこれらの組み合わせ)と接触させなかった上記免疫細胞と比較して、上記治療用タンパク質の発現を増大させるために十分な時間の間、接触させる工程を含む。特定の実施形態では、HDAC阻害剤は、トリコスタチンA、フェニル酪酸ナトリウム、ブフェニール(Buphenyl)、アンモナプス(Ammonaps)、デパコート(Depakote)、バルプロ酸、ロミデプシン(ISTODAX(登録商標))、ボリノスタット(Vorinostat)、ゾリンザ(Zolinza)、パノビノスタット(panobinostat)、ベリノスタット(belinostat)、エンチノスタット(entinostat)、JNJ−26481585、MGCD−010のうちの1種以上、および/またはこれらの組み合わせである。他の特異的な実施形態では、DNMT阻害剤は、ヌクレオシドアナログ、キノロン、活性部位阻害剤、またはこれらの任意の組み合わせである。特異的なDNMT阻害剤は、5−アザシチジン、デシタビン、ゼブラリン、SGI−110、SGI−1036、RG108、コーヒー酸プラム(caffeic acid purum)、クロロゲン酸、没食子酸エピガロカテキン、塩酸プロカインアミド、MG98、およびこれらの組み合わせからなる群より選択することができる。特異的な場合は、DNMT阻害剤はリボヌクレオシドアナログまたはデオキシリボヌクレオシドアナログである。DNMT阻害剤はデシタビンまたはゼブラリンであり得る。DNMT阻害剤は、VIDAZA(登録商標)のような5−アザシチジンであり得る。
【0011】
複数の実施形態では、免疫細胞は、T細胞(CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、またはTreg細胞を含む)、NK細胞、樹状細胞、またはこれらの任意の混合物である。
【0012】
いくつかの場合には、免疫細胞と、有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤、および/またはDNMT阻害剤との接触はin vitroで行われ、接触は細胞培養物中で起こり得る。いくつかの実施形態では、接触は、免疫細胞とHDAC阻害剤および/またはDNMT阻害剤とを含有している薬学的組成物中で行われる。特定の態様では、接触はin vivoで行われ、免疫細胞は個体の中のT細胞である。
【0013】
特定の態様では、免疫細胞と、有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤またはDNMT阻害剤が、例えば、別の薬学的処方物中のように、別々に個体に投与される。特定の場合は、有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤および/またはDNMT阻害剤と免疫細胞が同じ薬学的処方物中で個体に投与される。有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤および/またはDNMT阻害剤と免疫細胞が、実質的に同時に、または異なるタイミングで個体に投与され得る。
【0014】
有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤および/またはDNMT阻害剤と免疫細胞は、同じ投与スケジュールにしたがって、または異なる投与スケジュールにしたがって個体に投与され得る。特定の態様では、有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤、および/またはDNMT阻害剤は、個体が免疫細胞を受け取る前に個体に提供される。いくつかの態様では、免疫細胞は個体に送達される前に、有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤、および/またはDNMT阻害剤と接触させられる。免疫細胞は、個体に送達される前に有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤、および/またはDNMT阻害剤と接触させてはいけない場合がある。
【0015】
いくつかの場合には、免疫細胞は、少なくとも1種のHDAC阻害剤および少なくとも1種のDNMT阻害剤と接触させられる。特定の実施形態では、免疫細胞は、in vitroで上記HDAC阻害剤と接触させられ、続いて、in vivoで上記DNMT阻害剤と接触させられる。免疫細胞は、in vitroでDNMT阻害剤と接触させられ得、続いてin vivoで上記HDAC阻害剤と接触させられ得る。免疫細胞中での治療用タンパク質の発現は、その配列の少なくとも一部がメチル化されているプロモーターにより制御され得、この場合、メチル化により上記治療用タンパク質の発現の部分的または完全なサイレンシングが生じる。免疫細胞中での治療用タンパク質の発現は、その配列の少なくとも一部がメチル化されているプロモーター抑制領域により制御され得、この場合、メチル化により上記治療用タンパク質の発現の増強が生じる。
【0016】
免疫細胞は、2種以上のHDAC阻害剤と、2種以上のDNMT阻害剤と、または2種以上の有糸分裂促進因子と接触させられ得る。いくつかの場合には、免疫細胞は、HDAC阻害剤およびDNMT阻害剤と、またはHDAC阻害剤および有糸分裂促進因子と、またはDNMT阻害剤および有糸分裂促進因子と接触させられる。
【0017】
特定の実施形態では、接触工程は個体の中でin vivoで複数回起こる。特定の態様では、2回目またはそれ以降の接触工程において、免疫細胞が1回目の接触工程の免疫細胞とは異なる治療用タンパク質を発現する。特定の場合は、2回目またはそれ以降の接触工程において、有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤および/またはDNMT阻害剤が個体に投与される。2回目またはそれ以降の接触工程の有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤、および/またはDNMT阻害剤は、1回目の接触工程の有糸分裂促進因子、HDAC阻害剤、および/またはDNMT阻害剤と異なる場合があり、また同じである場合もある。
【0018】
2種以上のエピジェネティック修飾因子および/または有糸分裂促進因子が、1種以上の治療用タンパク質を発現する免疫細胞に対して暴露される実施形態では、複数種の物質が任意の適切な時系列、投与スケジュール、および/または処方物(単数または複数)で細胞に対して暴露され得る。特異的な実施形態では、2種以上の物質が、免疫細胞の送達の前、その間、および/またはその後に個体に提供され、そして同時に提供されるが、いくつかの場合には、これらは異なるタイミングで提供される。複数種の物質が個体に送達される場合は、これらは同じ処方物中に含まれる場合も、異なる処方物中に含まれる場合もあり、これらが同じ処方物中に存在しない場合は、これらは、個体に対して同じ経路で送達される場合も、また異なる経路で送達される場合もある。複数種の物質が免疫細胞および/または個体に提供される場合は、これらの物質は同じあるいは異なる投与スケジュールおよび/または投与量を有し得る。
【0019】
特異的な実施形態では、免疫細胞により発現される治療用タンパク質は受容体である。特異的な場合は、この受容体は癌細胞上の抗原を標的とする。治療用タンパク質は、キメラ抗原受容体(CAR)、サイトカイン、サイトカイン受容体、リガンドトラップ(ligand trap)、抗体(単量体抗体または多量体抗体を含む)、操作されたαβT細胞受容体、または抗原特異的受容体のような任意の種のタンパク質であり得る。免疫細胞が2種以上の治療用タンパク質を発現する場合は、治療用タンパク質は同じタイプのタンパク質である場合も(例えば、いずれもCAR)、異なるタイプのタンパク質である場合もある(CARと操作されたαβT細胞受容体)。免疫細胞が2種以上の治療用タンパク質を発現する場合は、これらはいずれも、1種以上の物質に対して暴露されると発現がアップレギュレートされ得る。
【0020】
治療用タンパク質は任意の種のタンパク質であり得るが、特異的な実施形態では、キメラ抗原受容体(CAR)である。CARは、少なくとも1つの細胞外抗原結合ドメインと、少なくとも1つの細胞内シグナル伝達ドメインを含み得る。特定の態様では、治療用タンパク質は、サイトカイン、サイトカイン受容体、またはリガンドトラップである。治療用タンパク質は、単量体抗体または多量体抗体であり得る。治療用タンパク質は、αβT細胞受容体または抗原特異的受容体であり得る。特異的な実施形態では、免疫細胞は、特定の個体に対して自己由来または同種異系である。治療用タンパク質はトランスジェニックタンパク質であり得る。
【0021】
免疫細胞は2種以上の異なる治療用タンパク質を含有し得る。いくつかの場合には、2種の異なる治療用タンパク質はいずれも受容体である。特定の実施形態では、2種の異なる治療用タンパク質はいずれもCARである。いくつかの場合には、2種の異なる治療用タンパク質の一方がCARであり、そして2種の異なる治療用タンパク質の一方が抗体であるか、あるいは、2種の異なる治療用タンパク質の一方がCARであり、そして2種の異なる治療用タンパク質の一方がαβT細胞受容体であるか、あるいは、2種の異なる治療用タンパク質の一方がCARであり、そして2種の異なる治療用タンパク質の一方が抗原特異的受容体である。
【0022】
特異的な実施形態では、2種以上のCARを含む、および/または少なくとも2種の抗原を標的とする1種以上のCARを含む免疫細胞が存在する。標的抗原は任意の種の癌抗原であり得る。一例として、特異的な実施形態では、CARはMUC1とPSCAを標的とし、MUC1とPSCAはいずれも、ヒトの初代膵臓癌細胞のおよそ60%で発現される。本明細書中で記載されるように、膵臓腫瘍モデルの例示的な実施形態においては、免疫逃避を、腫瘍細胞上に存在する2種類の抗原を標的化するCAR−T細胞を同時投与することにより防ぐことができるかどうかの特性決定が存在する。予想されるとおり、個別に試験される場合は、選択圧により、標的抗原が欠失しているかまたは標的抗原がダウンレギュレートされている腫瘍の部分集団の出現が生じ、これにより腫瘍は、その後のT細胞での再処置に対して非感受性になる。しかし意外なことに、両方のTAAを同時に標的化するCAR−T細胞の同時投与が、優れた抗腫瘍作用と関係しているにもかかわらず、腫瘍の排除を生じるには不十分であることが決定された。
【0023】
免疫細胞が2種以上の治療用タンパク質を発現するように修飾または操作される場合は、治療用タンパク質が、治療用タンパク質を発現できる核酸の形態で免疫細胞に送達され得る。そのような核酸は、治療用タンパク質(単数または複数)の発現を制御する調節配列を含有している発現構築物であり得る。2種以上の治療用タンパク質が免疫細胞により発現されるように発現構築物(単数または複数)が免疫細胞に送達される場合は、治療用タンパク質は同じ発現構築物によってコードされる場合があり、また、同じ発現構築物によってはコードされない場合もある。発現構築物の特異的な実施形態では、治療用タンパク質の発現を調節する2つ以上の調節配列が存在する場合がある。特異的な実施形態では、調節配列はプロモーターであり得る。特定の実施形態では、プロモーターの少なくとも一部はメチル化が可能である。特異的な実施形態では、プロモーターの少なくとも一部がメチル化されている。特定の実施形態では、プロモーターのメチル化により、治療用タンパク質の発現の部分的または完全なサイレンシングが生じる。特異的な実施形態では、プロモーターは1つ以上のCpGアイランドを含む。
【0024】
特定の実施形態では、特定の個体が、少なくとも1種の治療用タンパク質を含有している免疫細胞に対する2回以上の暴露により処置される。すなわち、個体に、1回分の投与量の免疫細胞が治療過程の間に2回以上投与される。治療用タンパク質を含有している免疫細胞に対する2回目またはそれ以降の暴露においては、個体に、同じ治療用タンパク質(単数または複数)を発現する免疫細胞が提供され得る。しかし特定の場合は、個体に、異なる治療用タンパク質を発現する免疫細胞が提供され得る。個体に2回以上の細胞への暴露が提供される場合は、個体および/または細胞は、ここでもまた、治療用タンパク質の発現をアップレギュレートする1種以上の物質と接触させられる。2回目またはそれ以降の回が、1回目の免疫細胞と比較して異なる治療用タンパク質を含む免疫細胞を有する場合は、異なる治療用タンパク質が同じ抗原を標的とする場合があり、また、同じ抗原を標的としない場合もある。2回目またはそれ以降の回の免疫細胞が異なる抗原を標的とする治療用タンパク質を含む場合は、2回目またはそれ以降の回の抗原は、1回目に標的化された抗原もまた発現する癌細胞上に存在し得る。例えば、膵臓癌細胞は多くの場合、腫瘍関連抗原(TAA)ムチン1(mucin1)(MUC1)と前立腺幹細胞抗原(PSCA)を含み、第1のセットの免疫細胞はMUC1を標的化することができ、一方、第2またはそれ以降の免疫細胞のセットはPSCAを標的化することができる(あるいはその逆)。
【0025】
特定の実施形態では、特定の標的(例えば、腫瘍関連抗原または腫瘍特異的抗原)について、腫瘍逃避が起こり、治療用タンパク質を発現する免疫細胞での2回目の処置に、レシピエントの、(例えば、治療用タンパク質の発現の増大を生じる量の)エピジェネティック修飾因子物質または有糸分裂促進因子物質との接触が組み入れられることが推測される。他の実施形態では、治療用タンパク質を発現する免疫細胞での2回目の処置の際に、細胞のレシピエントが、腫瘍逃避の証拠について(例えば、レシピエントから組織をサンプリングし、1つ以上の腫瘍マーカー(例えば、TAAまたはTSA)について分析し、そして腫瘍逃避(例えば、再発)が証明されればエピジェネティック修飾因子物質および/または有糸分裂促進因子物質を投与することにより)モニターされ得る。
【0026】
いくつかの実施形態では、免疫細胞は、誘導性カスパーゼ(例えば、カスパーゼ−9)のような誘導性の自殺遺伝子、例えば、iCaspase9、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、シトシンデアミナーゼ(cytosine daminase)、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ、ジフテリア毒素、およびニトロレダクターゼを含む。
【0027】
特定の実施形態では、個体に、本開示の免疫細胞/物質に加えて、さらなる治療が提供される。例えば、癌を有している個体は本明細書中に含まれる免疫細胞/物質による治療を受け、加えてさらなる治療、例えば、1つ以上の化学療法(chemotherapy chemotherapy)(例えば、有糸分裂促進因子物質でも、またエピジェネティック修飾因子物質でもない物質での化学療法)、放射線治療、ホルモン療法、免疫療法、および外科手術を受ける場合がある。個体には、免疫細胞および物質による治療の投与の前、その間、またはその後に、あるいはその組み合わせで、さらなる治療が投与される場合がある。
【0028】
いくつかの実施形態では、上記方法には、例えば、生検、癌マーカーの分析、組織診などを含む当該分野での標準的な手段を使用して行われるような、個体が癌について診断される診断工程が含まれる。いくつかの実施形態では、個体は、癌であることが疑われるか、または癌が再発しており、本明細書中に記載される治療が提供される。特定の実施形態では、個体には癌のリスクがあるか、または癌の再発のリスクがあり、本明細書中に記載される治療が提供される。
【0029】
1つの実施形態は、個体において癌を処置および/または予防する方法を提供する。この方法は、個体に対して、その個体において癌を処置および/または予防するために有効な量の治療用タンパク質の発現をアップレギュレートする免疫細胞および物質を投与する工程を含む。用語「処置する」および「予防する」ならびにこれらから派生する用語は、本明細書中で使用される場合は、必ずしも100%すなわち完全な処置または予防を暗に意味するわけではない。むしろ、当業者が潜在的有効性または治療効果があると認識する処置または予防の程度は様々である。この態様では、本発明の方法は、哺乳動物において任意の量の任意のレベルの癌の処置または予防を提供することができる。さらに、本発明の方法により提供される処置または予防には、処置または予防する疾患(例えば、癌)の1つ以上の症状または症候の処置あるいは予防が含まれ得る。さらに、本明細書中での目的については、「予防」には、疾患あるいはその症候または症状の発症を遅らせることが含まれ得る。
【0030】
本明細書中で言う個体は任意の個体であり得る。個体は、ヒト、イヌ、ネコ、ウマなどを含む哺乳動物であり得る。
【0031】
本明細書中の任意の実施形態では、癌は、原発癌または転移癌である。癌は、例えば、固形腫瘍または血液癌であり得る。本発明の方法に関して、癌は、急性リンパ性癌(acute lymphocytic cancer)、急性骨髄性白血病、胞巣状横紋筋肉腫、膀胱癌、骨肉腫、脳腫瘍、乳癌、肛門、肛門管、または肛門直腸の癌、眼の癌、肝内胆管の癌、関節の癌、頸部、胆嚢、または胸膜の癌、鼻、鼻腔、または中耳の癌、口腔の癌、外陰の癌、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性癌(chronic myeloid cancer)、結腸癌、食道癌、子宮頸癌、線維肉腫、消化管カルチノイド腫瘍、ホジキンリンパ腫、下咽頭癌、腎臓癌、喉頭癌、白血病、液性腫瘍、肝臓癌、肺癌、リンパ腫、悪性中皮腫、肥満細胞腫、黒色腫、多発性骨髄腫、鼻咽腔癌、非ホジキンリンパ腫、卵巣癌、膵臓癌、腹膜、網、および腸管膜の癌、咽頭癌、前立腺癌、直腸癌、腎臓癌、皮膚癌、小腸癌、軟部組織癌、固形腫瘍、胃癌、精巣癌、甲状腺癌、尿管癌、および膀胱癌のうちの任意のものを含む任意の癌であり得る。
【0032】
本発明の実施形態をより完全に理解するために、添付の図面と併せて以下の説明が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、PSCAを発現する膵臓癌細胞を認識し、死滅させるようにT細胞を操作できることを示している。(a)第1世代の、ヒト化された、コドン最適化された、PSCAに特異的なCARのレトロウイルスベクターのマップ。(b)左のパネル、対照(NT)およびCAR−PSCAトランスジェニック(CH2CH3陽性)細胞を示している、それぞれのドナーに由来するドットプロット;右のパネル、平均±標準偏差(SD)として表した10のドナーについての形質導入効率データのまとめを示す。(c)NT T細胞およびCAR−PSCA T細胞の表現型(n=10)。(d)標的としてPSCA+(CAPAN1)およびPSCA−(293T細胞)を使用した、CAR−PSCAおよびNT T細胞の6時間のクロム放出アッセイ。データは、10:1のE:Tでの平均±SD標的特異的溶解を表す(n=5)。
【0034】
図2図2は、単一特異性CAR−T細胞での不均質な腫瘍の標的化が腫瘍の免疫逃避につながることを示している。CAR−PSCAがin vivoでCAPAN1腫瘍の増殖を制御できるかどうかを評価するために、SCIDマウスに腫瘍細胞を移植した。(a、左のパネル)は、処置前、または処置後28日、42日、もしくは56日の代表的な未処置のマウス(上)またはCAR−PSCA T細胞で処置した動物の生物発光画像を示す。一方、右のパネルは、4匹のマウスについてのデータのまとめを示す。データを、0日と比較した発光強度の倍加としてプロットする(平均±SD)。CAR−PSCA T細胞がCAPAN1(GFP+)細胞を排除できるかどうかをin vitroで評価するために、72時間の同時培養実験を、NT T細胞を対照として用いて、5:1のE:T比で行った。bは、フローサイトメトリーとGFP+細胞上でのゲーティング(gating)とを使用して定量化した残存腫瘍細胞の百分率を示し、結果を平均±SDとして報告する(n=4)。(c)最初のCAR−PSCA T細胞での処置に対して耐性があったCAPAN1細胞をその後の再処置により死滅させることができたかどうかを評価するために、その後の同時培養を、NT T細胞で最初に処置したCAPAN1細胞(左のパネル)または標的(5:1のE:T)としてのCAR−PSCA T細胞で処置したCAPAN1細胞(右のパネル)のいずれかを使用して行った。72時間後、残存腫瘍細胞を再びフローサイトメトリー(flow)により定量化した。データを平均±SDとして報告する(n=4)。(d)T細胞での処置に対する腫瘍の耐性の機構を決定するために、CAPAN1細胞のIHC分析だけを行ったか、あるいはCAPAN1細胞のIHC分析を単独で、あるいは、NT T細胞またはCAR−PSCA T細胞での処置の後に行った。対照NT T細胞への暴露後に、腫瘍細胞はMUC1およびPSCAの両方を発現するが、CAR−PSCA T細胞で処置した腫瘍細胞の大部分は、MUC1の発現は保ったまま、PSCA抗原の発現を失っていたか、またはごくわずかなレベルでしかPSCA抗原を発現していなかった。
【0035】
図3図3は、MUC1を認識するように修飾されたCAR−T細胞がMUC1+腫瘍細胞を死滅させることを示している。(a)は、CD19の短縮型(ΔCD19)を同時発現する第1世代のMUC1特異的CARのレトロウイルスベクターのマップを示す。b(左のパネル)は、それぞれのドナーにおけるトランスジェニック(CH2CH3およびΔCD19二重陽性細胞)の百分率を示しているドットプロットを示す。一方、右のパネルは、7のドナーについてのデータのまとめを示す(平均±SD)。cは、NT T細胞およびCAR−MUC1 T細胞のT細胞表現型を示す(n=7)。dは、6時間の細胞毒性試験において、CAR−MUC1 T細胞がMUC1+標的(CAPAN1)を特異的に死滅させることができ、対照(293T)標的は認識しないことを示している。NT T細胞をさらなる対照として使用し、示したデータは、5のドナーについての10:1のE:Tでの%特異的溶解(平均±SD)を示している。
【0036】
図4図4は、MUC1特異的CAR−T細胞での不均質な腫瘍の標的化もまた腫瘍の免疫逃避につながることを提供する。(a、左のパネル)は、CAPAN−eGFP−FFlucを腹腔内に移植し、NT−T細胞(上)またはCAR−T細胞(下)のいずれかを投与した代表的なマウスの生物発光画像を示す。画像撮影は、T細胞の注入の前、および処置前、または処置後28日、42日、もしくは56日で行った。(A、右のパネル)は4匹のマウスについてのデータのまとめを示しており、0日と比較した発光強度の倍加をプロットした(平均±SD)。bは、in vitroでの72時間の同時培養試験においては、必ずしも全てのCAPAN1/GFPを発現する細胞が死滅するわけではないことをしている(n=3)。残存腫瘍細胞をフローサイトメトリーおよびGFPについてのゲーティングにより定量化し、結果を平均残存腫瘍細胞±SDとして報告する;(c)は、NT T細胞で最初に処置した腫瘍細胞はCAR−MUC1 T細胞での再処置に対して感受性があるが、CAR−MUC1 T細胞に対してもともと耐性であった腫瘍細胞は、再処置の際にもこの耐性を保持していたことを示している。結果は、5:1のE:T比を使用した1つのドナーによるデータを示す。(d)CAR−MUC1 T細胞で処置したCAPAN1細胞のIHCは、弱い/不連続なMUC1染色を、PSCA陽性集団に対しては影響がないこととともに示している。
【0037】
図5図5は、二重のCARアプローチを使用した腫瘍の標的化が優れた抗腫瘍活性を生じることを示している。CAR−MUC1 T細胞およびCAR−PSCA T細胞での併用療法が優れた抗腫瘍効果を生じるかどうかを決定するために、(a)NT、CAR−MUC1、CAR−PSCAの、または標的としてのCAPAN1細胞との組み合わせの6時間の細胞毒性試験を行った。結果を10:1のE:Tでの%特異的溶解±SDとして表す(n=5)。ここでは、*は、P値がスチューデントt検定を使用して0.05未満であったことを示す。(b)もまた、エフェクターおよび標的の同じパネルを用いて72時間の同時培養の研究を行った(5:1のE:T、n=5)。残存腫瘍細胞をGFP+細胞についてのゲーティングにより定量化し、結果を%残存腫瘍細胞±SDとして表す。次に、CAR−MUC1 T細胞とCAR−PSCA T細胞の組み合わせがSCIDマウスにおいてin vivoでCAPAN1腫瘍の増殖を制御できるかどうかを評価した。(c)は、CAPAN−eGFP−FFlucを移植し、NT、CAR−MUC1、CAR−PSCA、または組み合わせで処置した代表的なマウスの生物発光画像を示し、一方、(d)は、処置前、または処置後28日、42日、56日、もしくは63日でのNTおよび二重標的化グループ(n=4)についての結果のまとめを示す。データを0日と比較した発光強度の倍加としてプロットする(平均±SD)。
【0038】
図6図6は、人工の腫瘍モデルを使用した腫瘍の免疫逃避の表現型の特性決定を明らかにしている。aは、2つのレトロウイルスベクターのマップを示しており、第1のものは、タンデムに繰り返す可変数のプロリンリッチセグメント(可変数のタンデムリピート;VNTR)37を有するTAA MUC1をコードしており、mOrangeを同時発現する。第2のものは、6個の膜貫通部分を含むTAA PSCAをコードし、GFPを同時発現する。bは、形質導入された293T細胞中でのMUC1/mOrangeおよびPSCA/GFPについての免疫蛍光染色を示している。cは、72時間の同時培養実験を示しており、ここでは、MUC1/mOrangeを発現する293TとPSACA/GFPを発現する293Tの混合物(1:1の比)を、10:1のE:TでNT T細胞またはCAR−PSCA T細胞のいずれかとともにインキュベートした(n=6)。残存腫瘍細胞をGFP+集団およびmOrange+についてのゲーティングにより定量化し、結果を%残存腫瘍細胞±SDとして表す。(d)検出可能な腫瘍細胞の頻度を、同時培養の開始時(0)、次に、CAR−PSCA T細胞での処置後12時間、24時間、36時間、48時間、および60時間で定量化し(n=6)、GFPまたはmOrangeのいずれかの発現に基づいて区別した。結果を%残存腫瘍細胞として表す。(e)抗原の発現の強度が処置したT細胞に対する感受性と相関関係があるかどうかを決定するために、GFPの蛍光強度を、同時培養の開始時(0)、次に、CAR−PSCA T細胞での処置後12時間、24時間、36時間、48時間、および60時間で測定した(n=6)。結果を最大蛍光強度±SDとして表す。fは、MUC1/mOrangeを発現する293TとPSACA/GFPを発現する293Tの混合物(1:1の比)を、NT T細胞またはCAR−MUC1 T細胞のいずれかとともに、10:1のE:Tでインキュベートした72時間の同時培養実験を示す(n=5)。残存腫瘍細胞をGFP+集団およびmOrange+集団についてのゲーティングにより定量化し、結果を%残存腫瘍細胞±SDとして表す。(g)腫瘍細胞をGFPまたはmOrangeのいずれかの発現に基づいて経時的に定量化する(n=5)。結果を%残存腫瘍細胞として表す。(h)抗原の発現の強度が処置したT細胞に対する感受性と相関関係があるかどうかを決定するために、mOrangeの蛍光強度を、同時培養の開始時(0)、次に、CAR−MUC1 T細胞での処置後12時間、24時間、36時間、48時間、および60時間で測定した(n=5)。結果を最大蛍光強度±SDとして表す。(i)は、MUC1/mOrangeを発現する293T細胞およびPSACA/GFPを発現する293Tの混合物(1:1の比)を、NT T細胞、またはCAR−MUC1 T細胞とCAR−PSCA T細胞の組み合わせのいずれかとともに10:1のE:Tでインキュベートした72時間の同時培養実験を示す(n=5)。残存腫瘍細胞をGFP+集団およびmOrange+集団についてのゲーティングにより定量化し、結果を%残存腫瘍細胞±SDとして表す。(j)腫瘍細胞の二重CAR治療に対する感受性を、開始時(0)、次に、処置後12時間、24時間、36時間、48時間、および60時間で評価する。結果を%残存腫瘍細胞として表す(n=5)。(k)抗原の発現の強度が処置したT細胞に対する感受性と相関関係があるかどうかを決定するために、mOrangeの蛍光強度を、開始時(0)、次に、処置後12時間、24時間、36時間、48時間、および60時間で、CAR−MUC1 T細胞とCAR−PSCA T細胞の組み合わせを用いて測定した(n=5)。結果を最大蛍光強度±SDとして表す。
【0039】
図7図7は、腫瘍の免疫逃避が、T細胞が第1、第2、または第3世代のCAR構築物で修飾されているかどうかとは無関係に起こることを示している。(a)第1、第2、および第3世代のCAR−PSCA構築物のレトロウイルスベクターのマップ、および(b)フローサイトメトリーにより測定した、CARの3世代が全てT細胞上で発現され得ることを裏付けている代表的なデータ、(c)PSCAを発現するK562細胞との2:1のT細胞:K562細胞比での同時培養後の、代表的なドナーの中での第1、第2、および第3世代のCAR−PSCAで修飾したT細胞の倍加、(d)第1、第2、および第3世代のCARで修飾したT細胞は、293T細胞およびCAPAN1細胞を標的として使用した6時間の細胞毒性試験により評価した場合は、同等のPSCA+標的の認識を示す(データは、1つの代表的なドナーについて、および5:1のE:Tで行った72時間の同時培養実験についての10:1のE:Tでの%特異的溶解として表す(n=1))、(e)ここでは、残存腫瘍細胞を、フローサイトメトリー(flow)、GFP+細胞についてのゲーティングにより、定量化した。
【0040】
図8図8は、mOrangeの蛍光強度が、MUC1−mOrangeを発現する操作した293T細胞上でのMUC1抗原の発現と相関関係にあることを明らかにしている。aは、対照293T細胞のドットプロット、ならびにMUC1抗原とmOrangeを同時発現する操作した293T−MUC1−mOrange細胞(MUC1 AgおよびmOrange二重陽性細胞)のドットプロットを示す。
【0041】
図9図9は、デシタビンでの処置がCAR耐性T細胞のMUC1の発現をアップレギュレートさせ、CAR耐性T細胞をT細胞での処置に対して再度感作させることを示している。最初のCAR−MUC1 T細胞での処置に耐性があったCAPAN1細胞をその後の再処置の際に死滅させることができるかどうかを評価するために、本発明者らは、NT T細胞を対照として用いて、5:1のE:T比で72時間の同時培養実験を行った。a(右のパネル)は、フローサイトメトリーおよびGFP+細胞についてのゲーティングを使用して定量化した、残存腫瘍細胞の百分率を示し、結果を平均±SDとして報告する(n=4)。次に、標的としてのnCAR−MUC1 T細胞で最初に処置したCAPAN1細胞(5:1のE:T)を使用してその後の同時培養(左のパネル)を行い、72時間後、残存腫瘍細胞を再びフローサイトメトリー(flow)により定量化した。データを平均±SDとして報告する(n=4)。(b)デシタビンへの暴露によりこの耐性集団中でのMUC1の発現がアップレギュレートされるかどうかを決定するために、本発明者らは、CAR耐性細胞(灰色の柱状図)およびデシタビン中で培養したCAR耐性細胞(黒色の柱状図)についてフローサイトメトリー(flow)により抗原の発現を評価した。次に、デシタビンでの処置がCAPAN1細胞をCAR−MUC1 T細胞に対して再度感作させるかどうかを評価するために、本発明者らは、CAR−MUC1 T細胞で最初に処置したCAPAN1細胞を使用して72時間の同時培養実験を行った。(c)次に、未処置のままとしたか、または標的としてのデシタビンとともに培養した(5:1のE:T)かのいずれかとした。72時間後にCAR−MUC1 T細胞で再処置し、再び、残存腫瘍細胞をフローサイトメトリー(flow)により定量化した。データを平均±SDとして報告する(n=2)。
【0042】
図10図10は、T細胞上でのCAR−MUC1の例示的な発現を示す。
【0043】
図11図11は、修飾したT細胞上でのCARの発現が高ければ高いほど、死滅速度論が速いことを示している(293T−MUC1−mOr dim(低いMUC1の発現))。
【0044】
図12図12は、修飾したT細胞上でのCARの発現が高ければ高いほど、死滅速度論が速いことを示している(293T−MUC1−mOr bright(高いMUC1の発現))。
【0045】
図13図13は、デシタビンが修飾したT細胞上でのCAR発現を増強することを示している。
【0046】
図14図14は、デシタビンがCAR−MUC1 T細胞の抗腫瘍作用を増強することを示している。
【発明を実施するための形態】
【0047】
上記は、以下の本明細書中で提供される方法の詳細な記載がさらに理解され得るように、本発明の主題の特徴および技術的利点をかなり広くまとめている。本明細書中で提供される方法のさらなる特徴および利点は、特許請求の範囲の主題を構成する本明細書中以後に記載される。開示される概念および特異的な実施形態を、同じ目的を実行するための他の構成へと改良または他の構成を設計するための基準として容易に利用できることは当業者に容易に理解されるものとする。そのような等価な構成が、添付の特許請求の範囲に示されるような主題の精神および範囲から逸脱しないこともまた、当業者に理解されるものとする。本明細書中で提供される方法に特徴的であると考えられる新規の特徴(その構成として、および操作方法としてのいずれも)は、さらなる目的および利点とともに、添付の図面と併せて検討されると、以下の記載から良好に理解されるであろう。しかし、各図面が例示および説明の目的のためだけに提供され、本明細書中で提供される方法の限定の定義としては意図されないことがはっきりと理解される。
【0048】
本明細書中で使用される場合は、「a」または「an」は1つ以上を意味する場合がある。請求項(単数または複数)において本明細書中で使用される場合は、語句「含む(comprising)」と組み合わせて使用される場合は、語句「a」または「an」は1を意味する場合も、また2以上を意味する場合もある。本明細書中で使用される場合は、「別の(another)」は、少なくとも第2のもの、またはそれ以上のものを意味し得る。特異的な実施形態では、主題の複数の態様は、例えば、主題の1つ以上の要素または工程「から本質的になる(consist essentially of)」場合があり、また主題の1つ以上の要素または工程「からなる(consist of)」場合もある。主題のいくつかの実施形態は、主題の1つ以上の要素、方法の工程、および/または複数の方法からなる場合も、また本質的にそれからなる場合もある。本明細書中で記載される任意の方法または組成物が、本明細書中で記載される任意の他の方法または組成に関して実行され得ることが意図される。
【0049】
本明細書中で使用される場合は、用語「免疫細胞の能力の増強」は、所定の細胞の生物学的特性(天然起源または組換え起源)の増大または改善と定義される。これらの生物学的特性としては、(i)抗原特異性、(ii)増殖、(iii)移動、(iv)持続性、および/または(v)死滅させる能力を挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。さらに、免疫細胞は、(i)免疫抑制性の腫瘍微小環境に対する耐性、(ii)薬剤に対する耐性、および/または(iii)自殺遺伝子のような組換えによる修飾を用いて増強することができる。
【0050】
I.抗腫瘍活性のための免疫療法の方法
様々な実施形態において、抗腫瘍活性のために免疫細胞を利用する免疫療法の方法が提供される。少なくとも1種の治療用タンパク質を発現する免疫細胞を利用して腫瘍細胞を死滅させる方法が本明細書中で意図される。複数の方法に、免疫細胞中で治療用タンパク質の発現をアップレギュレートする物質とin vitroまたはin vivoで接触させられた1種以上の免疫細胞を個体に投与する工程が含まれる。特定の実施形態では、上記物質は、HDAC阻害剤、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、有糸分裂促進因子、またはこれらの組み合わせである。特異的な実施形態では、腫瘍細胞上の1種以上の標的タンパク質もまた、治療用タンパク質(単数または複数)の発現がアップレギュレートしている免疫細胞に対して腫瘍細胞を暴露すると、発現が増大する。
【0051】
特定の実施形態では、癌の処置が必要な個体に対して本発明の組成物を提供するための特定の投与レジメンが提供される。そのようなレジメンには、細胞自体に加えて、免疫細胞中の治療用タンパク質の発現のアップレギュレーションのための組成物が含まれる。例えば、免疫細胞中の治療用タンパク質の発現のアップレギュレーションを促す物質が、個体への細胞の送達前に免疫細胞に対して提供され得る、および/または免疫細胞中の治療用タンパク質の発現のアップレギュレーションを促す物質が、個体への細胞の送達に続いて細胞に対して提供され得る。免疫細胞(単数または複数)と物質は、個体に対して別々に提供される場合も、また、一緒に提供される場合もあり、そしてこれらは同じ処方物中に存在する場合も、また同じ処方物中には存在しない場合もあり、そしてこれらは個体に対して同時に提供される場合も、また同時に提供されない場合もある。特定の実施形態では、2種以上のHDAC阻害剤、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、および/または有糸分裂促進因子が、免疫細胞に対してin vitroおよび/またはin vivoで暴露され、そしてこれらが免疫細胞に対して暴露される順序は、細胞により発現される少なくとも1種の治療用タンパク質の発現が増大する限りは、任意の適切な種であり得る。
【0052】
特定の実施形態では、個体は、1種以上の治療用タンパク質を発現する免疫細胞と1種以上のエピジェネティック調節因子および/または有糸分裂促進因子物質の組み合わせの有効量を個体に提供することにより、癌について処置される。処置には、免疫細胞が治療用タンパク質を発現し、続いて細胞が1種以上のエピジェネティック修飾因子および/または有糸分裂促進因子物質に対して、個体への送達の前および/または個体への送達に続いて暴露されるように、個体由来の免疫細胞(例えば、T細胞)の調節、例えば、ex vivoでの調節が利用され得る。
【0053】
いくつかの実施形態では、本明細書中で記載される免疫細胞は、一旦個体に導入されると、i)プロ炎症性サイトカインを生産すること、ii)NK細胞およびAPCのようなさらなる免疫細胞を腫瘍部位に動員すること、ならびにiii)エピトープ拡大を誘導することにより、内因性の免疫系に対してポジティブなバイスタンダー効果を有する。したがって、特異的な実施形態では、免疫細胞の養子移入が、抗腫瘍活性を増幅するin vivoの事象のカスケードを誘発するために有用である。特定の実施形態では、エピジェネティック修飾因子(単数または複数)および/または有糸分裂促進因子物質を使用しない場合もなお、免疫細胞(例えば、二重標的化CAR−T細胞)が、腫瘍の排除を生じるであろう強力な内因性の腫瘍標的化免疫応答を再活性化するために十分である。
【0054】
II.免疫細胞
免疫細胞が、治療が必要な個体の所望される位置に治療用タンパク質を送達する手段として、本明細書中で利用される。免疫細胞は、それらが少なくとも1種の治療用タンパク質を発現し、そして特異的な実施形態では、治療用タンパク質が治療用タンパク質を認識する標的に対して免疫細胞を標的化できるように、修飾される。特異的な実施形態では、治療用タンパク質は免疫細胞上の受容体または抗体であり、標的は抗原である。特異的な実施形態では、抗原は癌抗原であり、固形腫瘍細胞上にある場合は、抗原は腫瘍抗原と呼ばれる場合がある。
【0055】
特定の実施形態では、免疫療法が修飾された免疫細胞を含む免疫療法のための方法および組成物が提供される。免疫細胞は1種以上の治療用タンパク質を発現するように修飾され、1種以上の治療用タンパク質の発現は、細胞を免疫療法に有効であるようにするために十分なレベルで維持される必要がある。免疫細胞は任意の種の細胞であり得るが、特異的な実施形態では、これらはT細胞である。免疫細胞は、治療用タンパク質(単数または複数)の発現をアップレギュレートする物質に、例えば直接、暴露される。免疫細胞は、免疫細胞が必要な個体への送達の前に物質と接触させられる場合がある、および/または免疫細胞は、免疫細胞が必要な個体への送達に続いて物質と接触させられる場合もある。細胞は、in vitroまたはex vivoで物質(単数または複数)と直接接触させられる場合がある、および/または細胞は、個体への細胞の送達の前、その間、および/またはその後の個体への物質の全身的送達および/または局所送達の際に物質とin vivoで接触させられる場合がある。
【0056】
特異的な実施形態では、免疫細胞はT細胞(例えば、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、CD4+CD8+ T細胞、および/またはTreg細胞)であるか、あるいは、NK細胞または樹状細胞である。本明細書中で使用される場合は、用語「免疫細胞」には、初代の対象細胞とその子孫が含まれる。子孫が同質であること、しかし、子孫は意図的なまたは故意ではない突然変異が原因で必ずしも全てが同一ではない場合があることが理解される。異種核酸配列を発現する状況では、免疫細胞は、ベクターを複製すること、およびベクターによりコードされる異種遺伝子を発現することができる細胞である。特定の実施形態では、免疫細胞は、外因性の核酸を含有しているウイルスベクターを細胞に形質導入することにより、治療用タンパク質をコードする外因性核酸を発現するように操作される。特定の実施形態では、ウイルスベクターはレトロウイルスベクター(rretoviral vector)である。1つの実施形態では、レトロウイルスベクターはレンチウイルスベクターである。免疫細胞は、外因性の核酸、例えば、ベクター(例えば、発現ベクター)中に含まれる核酸を発現するように操作され得る。本明細書中で使用される場合は、「操作された」細胞または「組換え」細胞は、例えば、ベクターのような外因性の核酸配列がその中に導入されている細胞をいう。したがって、組換え細胞は、組み換えによって導入された核酸を含まない自然界に存在している細胞と区別することができる。
【0057】
いくつかのベクターは、それが原核生物細胞および真核生物細胞の両方で複製および/または発現されることを可能にする制御配列を利用し得る。当業者は、その下で上記宿主細胞が少なくとも1つのベクターを維持し、少なくとも1つのベクターを複製することができる条件をさらに理解するであろう。ベクターの大規模な生産、ならびにベクターによりコードされる核酸およびそれらに関連するポリペプチド、タンパク質、またはペプチドの生産を可能にするであろう技術ならびに条件もまた理解され、これらは公知である。
【0058】
免疫細胞は、自己由来の細胞、同系細胞、同種異系細胞であり得、そしてなおさらに、いくつかの場合には、異種細胞であり得る。
【0059】
いくつかの実施形態では、細胞は、2種以上の治療用タンパク質を保有し、少なくとも特定の態様では、細胞のエピジェネティック修飾因子または有糸分裂促進因子物質への暴露(あるいは細胞を受容する個体への暴露)により、2種以上の治療用タンパク質の発現のアップレギュレーションが生じる。
【0060】
特定の実施形態では、免疫細胞が、治療用タンパク質(例えば、CAR)、操作されたαβ TCR、および/または抗原特異的受容体を発現するように遺伝子操作される。
【0061】
III.CAR(単数または複数)を含有している免疫細胞
特定の態様では、免疫細胞はキメラ抗原受容体(CAR)を発現するT細胞である。血液悪性腫瘍および固形腫瘍の両方についての治療としてのCARで修飾されたT細胞の使用がさらに広がりつつある。しかし、単一の腫瘍関連抗原(TAA)または腫瘍特異性抗原(TAA)を標的化するT細胞産物の注入により、この選択圧下で標的抗原の調節がもたらされ得るか、あるいは、TAAまたはTSAを低いレベルで発現しており、これに続いて腫瘍の免疫逃避が起こる腫瘍細胞を選択することができる。同じ機構による腫瘍逃避は、2種のTAAまたはTSAが標的化される場合にもなお起こり得る。驚くべきことに、腫瘍の崩壊の大きさが標的抗原の存在だけではなく、発現強度にもまた依存することが明らかにされている。特定の実施形態では、そのようなTAAまたはTSAの発現を、標的の発現をアップレギュレートし、CAR−T細胞の能力を増強するエピジェネティック調節因子を投与することにより増大させることができる。
【0062】
キメラ抗原受容体(CAR)は、典型的には、細胞外抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内シグナル伝達ドメインを含有している人工的に構築されたハイブリッドタンパク質またはポリペプチドである。CARの特徴としては、モノクローナル抗体の抗原結合特性を活用する、T細胞特異性および選択された標的に対する反応性の向きを、MHCによっては限定されない様式で変えるそれらの能力が挙げられる。MHCによっては限定されない抗原認識により、抗原のプロセシングとは無関係に抗原を認識し、これにより腫瘍逃避の主要な機構をバイパスする能力が、CARを発現するT細胞にもたらされる。さらに、T細胞中で発現される場合は、CARは、内因性のT細胞受容体(TCR)αおよびβ鎖とは二量体を形成しないことが有利である。
【0063】
表現「抗原特異性を有する」および「抗原特異的応答を誘発する」は、本明細書中で使用される場合は、CARが抗原に特異的に結合し、抗原を免疫学的に認識することができ、その結果、抗原に対するCARの結合が免疫応答を誘発することを意味する。
【0064】
細胞外抗原結合ドメインは、標的タンパク質に結合する任意のタンパク質またはその一部(例えば、その受容体またはリガンド結合部分);受容体のリガンド(例えば、サイトカイン);あるいは抗体または抗体の抗原結合部分(例えば、単鎖抗体(scFv)のFcドメイン)であり得る。
【0065】
特定の実施形態では、CARは、CD4膜貫通ドメイン、CD8膜貫通ドメイン、およびCD28膜貫通ドメインからなる群より選択される膜貫通ドメインを含む。
【0066】
細胞内シグナル伝達ドメインは、特定の実施形態では、第1のシグナル伝達ドメイン、例えば、T細胞受容体ζ鎖またはそれに由来する第1のシグナル伝達ドメインを含む。特定の実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインはさらに、1つ以上の共刺激ドメインを含む。本明細書中で意図されるCAR中での使用に適している共刺激ドメインの説明のための例としては、例えば、CD27、CD28、CD137(4−1BB)、OX−40、または上記の2つ、3つ、もしくは全ての組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0067】
特異的な実施形態では、CARは、腫瘍抗原に対する抗体、細胞質シグナル伝達ドメインの一部もしくは全体、および/または1種以上の共刺激分子の一部もしくは全体(例えば、共刺激分子のエンドドメイン(endodomain)を含む。特異的な実施形態では、抗体は単鎖可変断片(scFv)である。例えば、特定の態様では、抗体は癌細胞の細胞表面上の標的抗原に向けられている。特定の実施形態では、T細胞受容体ζ鎖由来の細胞質シグナル伝達ドメインのような細胞質シグナル伝達ドメインが、標的抗原とのキメラ受容体の会合後のTリンパ球の増殖およびエフェクター機能のための刺激シグナルを生じさせるために、キメラ受容体の少なくとも一部として利用される。説明のための例として、CD27、CD28、4−1BB、ICOS(CD278)およびOX40のような共刺激分子に由来するエンドドメイン、または上記の2つ、3つ、4つ、もしくは全ての組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。特定の実施形態では、共刺激分子は、抗原の会合後にCARにより生産されるT細胞の活性化、増殖、および細胞傷害性を増強するために利用される。特異的な実施形態では、共刺激分子は、CD28、OX40、および4−1BBである。
【0068】
1つの実施形態では、CARは、細胞外ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、および随意に、CD8配列を含有している細胞内ヒンジドメインと、CD28、4−1BB、およびCD3ζを含有している細胞内T細胞受容体シグナル伝達ドメインを含む。CD28は、T細胞の共刺激において重要なT細胞マーカーである。CD8もまたT細胞マーカーである。4−1BBは強力な共刺激シグナルをT細胞に伝達し、Tリンパ球の分化を促進し、長期にわたるTリンパ球の生存を促す。CD3ζはTCRと会合してシグナルを生じ、免疫受容活性化チロシンモチーフ(ITAM)を含む。1つの実施形態では、CARは、細胞外ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、および随意に細胞内ヒンジドメインを含む。
【0069】
CARは、第1世代、第2世代、または第3世代(シグナル伝達が、例えば、CD28および腫瘍壊死因子受容体(TNFr)(例えば、4−1BBまたはOX40)により提供される共刺激とともにCD3ζにより提供されるCAR)であり得る。CARは、PSCA、HER2、CD19、CD20、CD22、κ鎖または軽鎖、λ、CD30、CD33、CD123、CD38、ROR1、ErbB2、ErbB3/4、EGFR、EGFRvIII、EphA2、FAP、癌胎児性抗原、EGP2、EGP40、メソテリン、TAG72、PSMA、NKG2Dリガンド、B7−H6、IL−13受容体α2、IL−11受容体α、MUC1、MUC16、CA9、CE7、CEA、GD2、GD3、HMW−MAA、CD171、Lewis Y、G250/CAIX、HLA−AI MAGE A1、HLA−A2 NY−ESO−1、PSC1、葉酸受容体−α、CD44v7/8、8H9、NCAM、VEGF受容体、5T4、Fetal AchR、NKG2Dリガンド、CD44v6、TEM1、TEM8、spl7、腫瘍により発現されるウイルス関連抗原、あるいは遺伝的分析および/または腫瘍のディファレンシャルな発現の研究により同定された他の腫瘍関連抗原に特異的であり得る。
【0070】
特定の実施形態では、CARは発現ベクターによりコードされる。特定の実施形態では、ベクターは2シストロン性であり得る。いくつかの実施形態では、2種以上のCARが免疫細胞により発現される。2種以上のCARを免疫細胞により発現させようとする特定の実施形態では、2種以上のCAR発現構築物を同じベクター上に存在させることができ、また、同じベクター上に存在させなくてもよい。同じベクター上に存在する場合は、第1のCARコード配列は、第2のCARコード配列に対して5’または3’に配置され得る。第1のCARおよび第2またはそれ以上のCAR受容体の発現は、同じまたは異なる調節配列の指示下に存在し得る。
【0071】
特定の場合は、免疫細胞は、治療用タンパク質を膜結合タンパク質として含有する。特定の実施形態では、上記タンパク質は免疫細胞から分泌可能である。特定の実施形態では、治療用タンパク質は癌抗原の受容体であり、癌抗原(固形腫瘍上に存在しても、またそうでなくてもよい)は、癌細胞の表面上に存在し得る。特異的な実施形態では、受容体はキメラ抗原受容体(CAR)である。特定の場合は、免疫細胞は、1つ、2つ、3つ、またはそれ以上のCARを含有しているT細胞である。
【0072】
免疫細胞が少なくとも1つのCARを含有しているいくつかの実施形態では、CARは、任意のタイプの癌抗原に向けられ得る。特定の実施形態では、免疫細胞は、1つの癌抗原に向けられた1つのCARと、別の癌抗原に向けられた別のCARを同じ細胞中に含有する。
【0073】
特定の実施形態では、個体に、1種以上の治療用タンパク質を発現する治療有効量の複数の免疫細胞が提供される。いくつかの実施形態では、個体には続いて、個体に最初に提供された免疫細胞(単数または複数)とは異なる、1種以上の他の治療用タンパク質を発現する治療有効量の複数の免疫細胞が提供される。
【0074】
例えば、いくつかの状況では、修飾された免疫細胞を死滅させることができることが望まれる場合がある。特定の実施形態では、制御された条件(例えば、誘導性の自殺遺伝子)下での特定の遺伝子産物の発現により、免疫細胞を死滅させる。誘導性の自殺遺伝子の説明のための例としては、カスパーゼ−9、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、シトシンデアミナーゼ、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ、およびニトロレダクターゼが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0075】
IV.治療用タンパク質の発現をアップレギュレートする物質
様々な実施形態において、免疫細胞中での治療用タンパク質の発現をアップレギュレートする物質が提供される。特定の実施形態では、アップレギュレーションは検出可能であり、その物質に暴露されない場合の細胞中でのその発現より大きい。特異的な実施形態では、物質(単数または複数)は、治療用タンパク質の発現を少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、20倍、25倍、30倍、35倍、40倍、45倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1000倍、またはそれ以上にアップレギュレートする。
【0076】
1つの実施形態では、発現をアップレギュレートする物質は任意の種の物質であり得る。特異的な実施形態では、物質は、HDAC阻害剤および/またはDNMT阻害剤を含むがこれらに限定されないエピジェネティック修飾因子、ならびに有糸分裂促進因子の一方あるいは両方である。
【0077】
A.エピジェネティック修飾因子
いくつかの実施形態では、1種以上のエピジェネティック修飾因子が、免疫細胞中での1種以上の治療用タンパク質の発現をアップレギュレートするための方法および組成物において利用される。エピジェネティック修飾因子は、それらが免疫細胞中の少なくとも1種の治療用タンパク質の発現をアップレギュレートできる限りは、任意の種であり得る。1以上のタイプのエピジェネティック修飾因子が同じ方法または組成物中で使用される場合がある。2種以上のエピジェネティック修飾因子が利用される場合は、これらは、細胞に対して、あるいは個体に対して、同時に、異なるタイミングで、同じ処方物中で、または異なる処方物中で送達され得る。いくつかの場合には、エピジェネティック修飾因子はヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤である。いくつかの場合には、エピジェネティック修飾因子はDNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)阻害剤である。特定の場合は、HDAC阻害剤とDNMT阻害剤の組み合わせが利用される。エピジェネティック修飾因子は、例えば、DZnepまたは3−デアザンプラノシンAのようなEZH2アンタゴニストであり得る。
【0078】
いくつかの実施形態では、エピジェネティック修飾因子(単数または複数)は、1種以上のヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む。HDAC阻害剤としては、短鎖脂肪酸、ヒドロキサム酸(hyroxamic acid)、環状ペプチド、またはベンズアミドが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。HDAC阻害剤のさらなる説明のための例として、トリコスタチンA、フェニル酪酸ナトリウム、ブフェニール(Buphenyl)、アンモナプス(Ammonaps)、バルプロ酸、デパコート(Depakote)、ロミデプシン(ISTODAX(登録商標))、ボリノスタット(Vorinostat)、ゾリンザ(Zolinza)、パノビノスタット(panobinostat)、ベリノスタット(belinostat)、エンチノスタット(entinostat)、JNJ−26481585(Johnson & Johnson社;ペンシルベニア州、ラングホーン所在)、および/またはMGCD−0103(MethylGene社;カナダ、モントリオール所在)が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0079】
いくつかの実施形態では、エピジェネティック修飾因子(単数または複数)は1種以上のDNMT阻害剤を含む。DNMT阻害剤としては、ヌクレオシドアナログ、キノロン、または活性部位阻害剤が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。DNMT阻害剤のさらなる説明のための例としては、5−アザシチジン(例えば、VIDAZA(登録商標))、デシタビン(例えば、DACOGEN(登録商標))、ゼブラリン、SGI−110またはSGI−1036(SuperGen社;カリフォルニア州、ダブリン所在)、RG108、コーヒー酸プラム、クロロゲン酸、没食子酸エピガロカテキン、塩酸プロカインアミド、プロカインアミド誘導体、5−アザデオキシシチジン、5’−アザ−2’−デオキシシチジン、あるいはMG98が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0080】
B.有糸分裂促進因子
いくつかの実施形態では、1種以上の有糸分裂促進因子が方法または組成物中で使用される。有糸分裂促進因子(単数または複数)を、それが必要な個体に提供することができ、また、有糸分裂促進因子(単数または複数)を、それが必要な個体に送達される免疫細胞に提供することもできる。有糸分裂促進因子は、物質の唯一のタイプとして使用される場合があり、また、有糸分裂促進因子が、例えば、HDAC阻害剤および/またはDNMT阻害剤を含む別の物質と組み合わせて使用される場合もある。有糸分裂促進因子の説明のための例としては、コンカナバリンA、フィトヘマグルチニン、リポ多糖、およびヤマゴボウ有糸分裂促進因子が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0081】
V.細胞および/または個体への物質(単数または複数)の送達
特定の実施形態では、in vivoまたはin vitroまたはex vivoでの方法が提供され、いくつかの実施形態では、例えば、上記方法の一部がin vitroまたはex vivoでの方法であり得、これに続いてin vivoでの工程が行われ得る。
【0082】
特定のin vitroでの実施形態においては、複数の免疫細胞を得ることができる。細胞は個体から得られ、操作され、最終的に同じ個体に送達して戻され得る。細胞が個体から得られ、操作され、最終的に、別の個体に送達される場合もある。いくつかの場合には、免疫細胞は例えば、貯蔵庫から得られるか、または市販により得られる。
【0083】
細胞の物質への暴露の前に、免疫細胞が1つ以上の様々な方法で操作され得る。特異的な実施形態では、核酸が、例えば、標準的な手段により細胞に導入される。核酸は、例えば、少なくとも1つの治療用タンパク質をコードする少なくとも1つの発現構築物を持つ少なくとも1つのベクターであり得る。特定の実施形態では、治療用タンパク質は、受容体、サイトカイン、リガンドトラップ、または抗体(単量体抗体または多量体抗体を含む)である。特異的な実施形態では、治療用タンパク質はキメラ抗原受容体(CAR)またはサイトカイン受容体である。
【0084】
いくつかの実施形態では、細胞は、それらが2種以上の治療用タンパク質を含み、細胞(単数または複数)内での2種以上の治療用タンパク質の保持を監視するための機構(例えば、標識および/または選択マーカー)が存在し得るように操作される。
【0085】
特定の実施形態では、in vitroまたはex vivoでの方法の細胞は、例えば、当該分野で日常的に行われている方法によって増殖させられる。
【0086】
細胞のエピジェネティック修飾因子物質または有糸分裂促進因子物質への暴露は、細胞が、治療用タンパク質の発現をアップレギュレートさせるために十分な量の物質を十分な時間にわたって受容する限りは、任意の適切なレジュメにより行われ得る。いくつかの実施形態では、物質は、個体への細胞の送達の前に2回以上、免疫細胞に対して送達される。特定の実施形態では、2種以上の物質が免疫細胞に対して、個体への細胞の送達の前に同時にまたは異なるタイミングで提供され、そしてこれらの物質は同じタイプの物質であっても、また、例えば1種のHDAC阻害剤と1種のDNMT阻害剤のような、異なるタイプの物質であってもよい。個体への細胞の送達の前に、個体がエピジェネティック修飾因子物質または有糸分裂促進因子物質で前処置される場合は、その物質またはそれらの複数の物質は、個体への送達の前に細胞に提供されたものと同じ物質または同じ複数の物質であってよく、またそうでなくてもよい。いくつかの場合には、細胞は、個体への細胞の送達の前にはエピジェネティック修飾因子物質または有糸分裂促進因子物質に暴露されない。
【0087】
特定の実施形態では、免疫細胞/物質での処置が必要な個体が、細胞の受領の前に物質に暴露されるが、特異的な実施形態では、個体が、細胞の受領の前の物質への暴露に加えて、または物質への暴露の代わりとして物質に暴露され得、その後、細胞を受領し得る。特定の実施形態では、個体に、複数回の投与での物質の前処置が提供される。物質は任意の適切な手段により個体に送達され得るが、特異的な実施形態では、送達は、経口、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、舌下などである。2種以上の物質が個体に送達される場合は、複数種の物質が別々の送達手段により送達される場合があるが、特定の実施形態では、複数種の物質が同じ経路により送達され、そして同じ処方物中に存在する場合も、また同じ処方物中には存在しない場合もある。
【0088】
いくつかの実施形態では、個体は免疫細胞を複数回受領し、別々の送達は、数分、数日、数週間、数か月、または数年の間隔で隔てられ得る。これらの場合は、細胞の送達の別々の経過に、同じまたは異なる治療用タンパク質を有している免疫細胞が含まれ得る。個体は、次の回で、最初の回で個体が処置された物質と同じ物質での処置に暴露される場合があり、また、異なる物質での処置に暴露される場合もある。個体への細胞の任意の回の暴露に、物質での前処置および/または後処置が含まれ得る。
【0089】
VI.薬学的組成物
物質および/または細胞を含有している薬学的組成物に関して、薬学的に許容され得る担体は、任意の慣習的に使用されるものであってよく、溶解度および活性物質(単数または複数)との反応性がないことのような化学的−物理的検討によって、ならびに投与経路によってのみ限定される。本明細書中に記載される薬学的に許容され得る担体(例えば、媒体、アジュバント、賦形剤、および希釈剤)は当業者に周知であり、一般に容易に入手できる。薬学的に許容され得る担体は、活性物質(単数または複数)に対して化学的に不活性な担体、および使用条件下で有害な副作用も毒性もない担体であることが好ましい。
【0090】
担体の選択は、特定の材料により、ならびに本発明の材料を投与するために使用される特定の方法により、一部決定されるであろう。したがって、本発明の薬学的組成物の様々な適切な処方物が存在する。防腐剤が使用され得る。適切な防腐剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸ナトリウム、および塩化ベンザルコニウムを挙げることができる。2種以上の防腐剤の混合物が随意に使用され得る。防腐剤またはそれらの混合物は、典型的には、組成物全体の約0.0001重量%〜約2重量%の量で存在する。
【0091】
適切な緩衝剤としては、例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リン酸、リン酸カリウム、ならびに様々な他の酸および塩を挙げることができる。2種以上の緩衝剤の混合物が、随意に使用され得る。緩衝剤またはそれらの混合物は、典型的には、組成物全体の約0.001重量%〜約4重量%の量で存在する。
【0092】
投与可能な(例えば、非経口投与可能な)組成物を調製するための方法は、当業者に公知であるかまたは明らかであり、Physicians Desk Reference,第62版、Oradell,NJ:Medical Economics Co.,2008年;Goodman & Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,第11版、McGraw−Hill,2005年;Remington:The Science and Practice of Pharmacy,第21版、Baltimore,MD:Lippincott Williams & Wilkins,2005年;およびThe Merck Index,第14版、Whitehouse Station,NJ:Merck Research Laboratories,2006年(これらのそれぞれが関連する部分の参照により本明細書中に組み入れられる)の中でさらに詳細に記載されている。
【0093】
経口、エアロゾル、非経口(例えば、皮下、静脈内、動脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、および髄腔内)投与、ならびに局所投与のための以下の処方物は単なる例示であり、決して限定ではない。本発明のCAR材料を投与するために2以上の経路を使用することができ、特定の場合には、特定の経路が、別の経路よりもさらに迅速かつさらに有効な応答を提供することができる。
【0094】
経口投与に適している処方物としては以下が挙げられる:希釈剤(例えば、水、生理食塩水、またはオレンジジュース)を随意に含む液体溶液;(b)カプセル剤、サシェ剤(sachet)、錠剤、ロゼンジ、およびトローチ(それぞれが、固体または顆粒として所定量の有効成分を含む);(c)粉末;(d)適切な液体中の懸濁剤;ならびに(e)適切な乳剤。液体処方物は、薬学的に許容され得る表面活性物質が添加されているか、または添加されていない、水およびアルコール(例えば、エタノール、ベンジルアルコール、およびポリエチレンアルコール)のような希釈剤を含み得る。カプセル形態は、例えば、表面活性物質、滑沢剤および不活性充填剤(例えば、ラクトース、スクロース、リン酸カルシウム、およびコーンスターチ)を含有している通常のハードシェルまたはソフトシェルゼラチン型のカプセルであり得る。錠剤形態は以下の1種以上を含有し得る:ラクトース、スクロース、マンニトール、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸、微結晶セルロース、アラビアゴム、ゼラチン、グアーガム、コロイド状二酸化ケイ素、クロスカルメロースナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸、ならびに他の賦形剤、着色剤、希釈剤、緩衝剤、崩壊剤、湿潤剤、防腐剤、香味剤および他の薬理学的に適合性の賦形剤。ロゼンジ形態は、当該分野で公知であるようなそのような賦形剤を含有していることに加えて、不活性基剤(例えば、ゼラチンおよびグリセリン、またはスクロースおよびアカシア)、乳剤、ゲルなどの中に、香味剤化合物(通常、スクロースおよびアラビアゴムまたはトラガカント)ならびにトローチ錠を含有し得る。
【0095】
非経口投与に適している処方物としては、水性および非水性の等張性の滅菌された注射溶液(抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、および処方物を意図されるレシピエントの血液と等張性にする溶質を含有し得る)、ならびに水性および非水性の滅菌された懸濁剤(懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤、および防腐剤を含有し得る)が挙げられる。本発明のCAR材料は、薬学的に許容され得る表面活性物質(例えば、石鹸または界面活性剤)、懸濁化剤(例えば、ペクチン、カルボマー、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはカルボキシメチルセルロース)、または乳化剤および他の薬学的アジュバントが添加されているか、あるいは添加されていない、薬学的担体(例えば、滅菌された液体または液体の混合物(例えば、薬学的に許容され得る細胞培養培地、水、生理食塩水、水性デキストロース、および関連する糖溶液、アルコール(例えば、エタノールまたはヘキサデシルアルコール)、グリコール(例えば、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコール)、ジメチルスルホキシド、グリセロール、ケタール(例えば、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール)、エーテル、ポリ(エチレングリコール)400、油、脂肪酸、脂肪酸エステル、またはグリセリド、あるいはアセチル化脂肪酸グリセリドを含有している))中の生理学的に許容され得る希釈剤中で投与され得る。
【0096】
非経口処方物中で使用され得る油としては、石油、動物油、植物油、または合成油が挙げられる。油の具体的な例としては、落花生油、大豆油、ゴマ油、綿実油、コーン油、オリーブ油、ワセリン、および鉱油が挙げられる。非経口処方物中での使用に適している脂肪酸としては、オレイン酸、ステアリン酸、およびイソステアリン酸が挙げられる。オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピルが、適している脂肪酸エステルの例である。
【0097】
非経口処方物中での使用に適している石鹸としては、脂肪酸のアルカリ金属、アンモニウム、およびトリエタノールアミン塩が挙げられ、適している界面活性剤としては以下が挙げられる:(a)カチオン性界面活性剤(例えば、ジメチルジアルキルアンモニウムハライドおよびアルキルピリジニウムハライド)、(b)アニオン性界面活性剤(例えば、アルキル、アリール、およびオレフィンスルホン酸塩、アルキル、オレフィン、エーテル、およびモノグリセリド硫酸塩、およびスルホコハク酸塩)、(c)非イオン性界面活性剤(例えば、脂肪アミンオキシド、脂肪酸アルカノールアミド、およびポリオキシエチレンポリプロピレンコポリマー)、(d)両性界面活性剤(例えば、アルキル−β−アミノプロピオン酸塩および2−アルキル−イミダゾリン第4級アンモニウム塩)、ならびに(e)それらの混合物。
【0098】
非経口処方物には典型的には、例えば、溶液中に約0.5重量%〜約25重量%の活性物質または細胞が含まれるであろう。防腐剤および緩衝液が使用され得る。注射部位での刺激を最小にするまたは排除するために、そのような組成物には、例えば、約12〜約17の親水性−親油性バランス(HLB)を有している1種以上の非イオン性表面活性物質が含まれ得る。そのような処方物中の表面活性物質の量は、典型的には、例えば、約5重量%〜約15重量%の範囲であろう。適している表面活性物質としては、ポリエチレングリコールソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ソルビタンモノオレエート)、およびプロピレンオキシドのプロピレングリコールとの縮合によって形成される、エチレンオキサイドの疎水性塩基との高分子量付加物が挙げられる。非経口処方物は、単一用量または複数用量の密封された容器(例えば、アンプルおよびバイアル)中に提示され得、使用の直前の滅菌された液体賦形剤(例えば、注射用水)の添加のみを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保管され得る。即時注射溶液および懸濁剤は、上記種類の滅菌された粉末、顆粒、および錠剤から調製することができる。
【0099】
注射可能な処方物は、本発明の1つの実施形態に従う。注射可能な組成物のための有効な薬学的担体についての必要条件は、当業者に周知である(例えば、Pharmaceutics and Pharmacy Practice,J.B.Lippincott Company,Philadelphia,PA,BankerおよびChalmers編,238−250頁(1982)、およびASHP Handbook on Injectable Drugs,Toissel,第4版,622−630頁(1986)を参照のこと)。
【0100】
局所用処方物(経皮薬物放出に有用なものを含む)は当業者に周知であり、皮膚への塗布のための本発明の実施形態の状況に適している。本明細書中で意図される組成物は、吸入により投与されるエアロゾル処方物にされ得る。これらのエアロゾル処方物は、加圧された許容可能な噴霧剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素など)中に入れられ得る。これらはまた、ネブライザーまたはアトマイザーのような非加圧型調製物用の医薬として処方される場合もある。このようなスプレー処方物は、粘膜にスプレーするためにも使用され得る。
【0101】
「有効量」または「処置に有効な量」は、個体において癌を予防または治療するために適切な用量をいう。治療的使用または予防的使用に有効な量は、例えば、処置される疾患または障害の病期および重篤度、患者の年齢、体重および全般的健康状態、ならびに処方する医師の判断に依存するであろう。用量のサイズはまた、選択される活性物質、投与方法、投与のタイミングおよび頻度、特定の活性物質の投与に付随し得る任意の有害な副作用の存在、性質および程度、ならびに所望される生理学的効果によっても決定されるであろう。様々な疾患または障害に、複数回の投与を含む長期にわたる処置が必要であり得、おそらく、各投与回または様々な投与回において本明細書中で意図される物質および/または細胞が使用されることが、当業者に理解されるであろう。本発明の限定を意図しない例として、組成物の用量は、約0.001〜約1000mg/治療される被験体のkg体重/日、約0.01〜約10mg/kg体重/日、約0.01mg〜約1mg/kg体重/日であり得る。
【0102】
本明細書中に記載されるT細胞を含有している薬学的組成物が、10〜1010細胞/kg体重、好ましくは、10〜10細胞/kg体重(これらの範囲内にある全ての整数値を含む)の投与量で投与され得ることが一般的に記載され得る。細胞数は、組成物について意図される最終的な用途、ならびにその中に含まれる細胞のタイプに依存するであろう。本明細書中で提供される用途については、細胞は一般的には、1L以下の容積中に存在し、500mL以下、なおさらには250mLまたは100mL以下であり得る。よって、所望される細胞密度は、典型的には10細胞/mlより大きく、一般的には10細胞/mlより大きく、一般的には10細胞/ml以上である。臨床的に関連する数の免疫細胞を、複数回の注入に分配することができ、これは累積すると10、10、10、10、10、1010、1011、または1012細胞に等しいか、あるいはこれらを上回る。本発明のいくつかの態様では、特に、注入された細胞の全てが特定の標的抗原に対して再度向けられるであろうとの理由から、10/kg(患者あたり10〜1011)の範囲のより少数の細胞が投与され得る。CARを発現する細胞組成物は、これらの範囲の投与量で複数回投与され得る。
【0103】
本発明の目的のためには、投与される本明細書中で意図される組成物の量または用量は、合理的な時間枠の間を通じて被験体または動物において治療的応答または予防的応答をもたらすために十分でなければならない。例えば、組成物の用量は、投与時点から約2時間以上の期間(例えば、約12時間〜約24時間またはそれ以上)において、抗原に結合するため、または疾患を検出、処置、もしくは予防するために、十分でなければならない。特定の実施形態では、この期間はさらに長くてもよい。用量は、特定の組成物の効力および動物(例えば、ヒト)の状態、ならびに処置しようとする動物(例えば、ヒト)の体重によって決定されるであろう。
【0104】
本明細書中で意図される実施形態の状況において有用な送達系としては、本発明の組成物の送達が、処置しようとする部位の感作の前に、および感作を生じるために十分な時間で起こるような、時限放出(time−released)、遅延放出(delayed release)および徐放(sustained release)送達系を挙げることができる。本発明の組成物は、他の治療薬または治療法と組み合わせて使用され得る。そのような系は、組成物の反復投与を回避し、それにより、被験体および医師の利便性を向上させることができ、本発明の特定の組成物の実施形態に特に適したものであり得る。
【0105】
多くのタイプの放出送達系を利用することができ、当業者に公知である。これらには、ポリ(ラクチド−グリコリド)、コポリオキサレート(copolyoxalate)、ポリカプロラクトン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシ酪酸、およびポリ無水物のようなポリマーをベースとする系が含まれる。薬物を含有している上記ポリマーのマイクロカプセルは、例えば、米国特許第5,075,109号に記載されている。送達系としてはまた、ステロール(例えば、コレステロール、コレステロールエステル)および脂肪酸または中性脂肪(例えば、モノグリセリド、ジグリセリドおよびトリグリセリド)を含む脂質;ヒドロゲル放出系;シラスティック(sylastic)系;ペプチドをベースとする系;ワックスコーティング;従来の結合剤および賦形剤を使用する圧縮錠剤;部分的に融合させられた移植物(partially fused implant)などである非ポリマー系も挙げられる。具体的な例としては以下が挙げられるがこれらに限定されるわけではない:(a)米国特許第4,452,775号、同第4,667,014号、同第4,748,034号および同第5,239,660号に記載されているような、活性組成物がマトリックス内にある形態で含まれる、侵食性の系、および(b)米国特許第3,832,253号および同第3,854,480号に記載されているような、活性成分が制御された速度でポリマーから浸透する拡散性の系。加えて、ポンプによるハードウェア送達系も使用され得、そのうちいくつかは、移植に適合している。
【0106】
VII.併用療法
特定の実施形態では、それ自体が治療用物質を含有している免疫細胞および/またはエピジェネティック修飾因子物質あるいは有糸分裂促進因子物質に加えて、1種以上の医療が個体に提供され得る。1種以上の他の医療は、任意の種の医学的症状に適している医療であり得るが、特定の実施形態では医学的症状は癌である。
【0107】
特異的な実施形態では、併用療法は1種以上の抗癌剤を含む。「抗癌」剤は、例えば、癌細胞を死滅させる、癌細胞中でアポトーシスを誘導する、癌細胞の増殖速度を低下させる、転移の発生もしくは数を減少させる、腫瘍のサイズを小さくする、腫瘍の増殖を阻害する、腫瘍もしくは癌細胞への血液の供給を減少させる、癌細胞もしくは腫瘍に対する免疫応答を促す、癌の進行を妨げるもしくは阻害する、または癌の被験体の寿命を延ばすことにより、被験体において癌にネガティブな影響を及ぼすことができる。より一般的には、これらの他の組成物は、細胞を死滅させるかまたは細胞の増殖を阻害するために有効な合計量(combined amount)で提供されるであろう。このプロセスには、細胞をナノ粒子および物質(単数または複数)と、または複数種の因子(単数または複数)と同時に接触させる工程が含まれ得る。これは、細胞を両方の物質を含有している単一の組成物もしくは薬学的処方物と接触させることにより、または細胞を2種類の異なる組成物もしくは処方物と同時に接触させることにより(この場合、1つの組成物にはナノ粒子が含まれ、他方の組成物には第2の物質(単数または複数)が含まれる)達成され得る。
【0108】
本発明の状況では、本発明の治療法を、例えば、化学療法、放射線治療、または免疫療法による介入と組み合わせて同様に使用することができることが意図される。代わりに、本発明の治療法は、数分から数週間までの範囲の間隔で他の処置に先行して、または他の処置に続いて行われ得る。他の治療法と本発明の治療法が細胞または個体に対して別々に行われるいくつかの実施形態では、一般的には、物質および本発明の治療法が、なおも細胞に対して有利な併用効果を発揮できるであろうように、各送達の時間の間が途切れない有意な期間が確保されるであろう。そのような場合は、互いに約12〜24時間以内、およびより好ましくは互いに約6〜12時間以内に、細胞が両方の治療法と接触させられ得ると考えられる。しかし、それぞれの投与の間に数日間(2、3、4、5、6、または7日)から数週間(1、2、3、4、5、6、7、または8週)の期間があるいくつかの状況では、処置期間を有意に伸ばすことが望まれる場合がある。
【0109】
様々な組み合わせが利用され得、ここでは例えば、ナノ粒子による治療が「A」であり、第2の物質(例えば、放射線治療または化学療法)が「B」である:
【0110】
A/B/A B/A/B B/B/A A/A/B A/B/B B/A/A A/B/B/B B/A/B/B
【0111】
B/B/B/A B/B/A/B A/A/B/B A/B/A/B A/B/B/A B/B/A/A
【0112】
B/A/B/A B/A/A/B A/A/A/B B/A/A/A A/B/A/A A/A/B/A
【0113】
本発明の治療用ナノ粒子の患者への投与には、いくつかの場合は、化学療法の投与のための一般的なプロトコールが続いて行われるであろう。処置のサイクルが必要に応じて繰り返し行われるであろうと予想される。様々な標準的な治療法、ならびに外科手術による介入が本発明の過剰増殖による治療(hyperproliferative therapy)と組み合わせて行われ得ることもまた意図される。
【0114】
A.化学療法
癌治療には、化学的処置と放射線による処置の両方を用いる様々な併用療法もまた含まれる。併用される化学療法剤としては、例えば、シスプラチン(CDDP)、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、カンプトテシン、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ブスルファン、ニトロソウレア、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン、マイトマイシン、エトポシド(VP16)、タモキシフェン、ラロキシフェン、エストロゲン受容体結合薬、タキソール、ゲムシタビン(gemcitabien)、ナベルビン、ファルネシルプロテイントランスフェラーゼ阻害剤、トランスプラチナ(transplatinum)、5−フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチンおよびメトトレキサート、または上記の任意のアナログもしくは誘導変異体が挙げられる。
【0115】
B.放射線治療
DNA損傷を引き起こす、幅広く使用されている他の因子としては、γ線、X線、および/または腫瘍細胞への放射性同位体の方向性を持った送達として一般的に知られているものが挙げられる。マイクロ波およびUV照射のような、他の形態のDNAを損傷する因子も意図される。これらの因子が全て、DNAに対して、DNAの前駆体に対して、DNAの複製および修復に対して、ならびに染色体の組み立ておよび維持に対して、広範囲の損傷を引き起こす可能性が最も高い。X線についての線量域は、長期間(3〜4週間)についての50〜200レントゲンの1日線量から、2000〜6000レントゲンの単回線量までの範囲である。放射性同位体についての線量域は非常に幅広く、同位体の半減期、放射される放射線の強度および種類、ならびに新生物細胞による取り込みに依存する。
【0116】
用語「接触させられる」および「曝露される」は、細胞に対して適用される場合は、治療用構築物(therapeutic construct)、および化学療法剤もしくは放射線療法剤が標的細胞に送達されるか、または標的細胞に直接近接して配置されるというプロセスを記載するために本明細書で使用される。細胞の死滅または静止を達成するためには、両方の物質が細胞を死滅させるため、またはその分裂を防ぐために有効な合計量で細胞に送達される。
【0117】
C.免疫療法
特定の実施形態では、加えて、本開示の免疫療法以外の免疫療法が利用され得る。免疫治療薬は一般に、癌細胞を標的とし、破壊するための、免疫エフェクター細胞および分子の使用に依存しており、本発明の実施形態に加えて、本発明以外の免疫治療薬が利用され得る。代わりの治療薬が本明細書中で意図される免疫細胞上に含まれる場合があり、また含まれない場合もある。
【0118】
免疫エフェクターは、例えば、腫瘍細胞の表面上にあるいくつかのマーカーに特異的な抗体であり得る。抗体は単独で、治療薬のエフェクターとしての役割を果たす場合があり、または抗体が、実際に細胞死滅を生じるように他の細胞を誘導する場合もある。抗体はまた、薬物または毒素(化学療法剤、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素など)に結合して、単に標的化剤としての役割を果たす場合もある。あるいは、エフェクターは、腫瘍細胞標的と直接的または間接的のいずれかで相互作用する表面分子を持つリンパ球であってもよい。様々なエフェクター細胞として、細胞傷害性T細胞およびNK細胞が挙げられる。
【0119】
従って、免疫療法は、併用療法の2方向からのアプローチとして使用することができる。併用療法についての一般的なアプローチが以下で議論される。一般的には、腫瘍細胞は、標的化しやすい、すなわち、大部分の他の細胞上には存在しないいくつかのマーカーを持っていなければならない。多くの腫瘍マーカーが存在し、これらのうちの任意のものが本発明の状況での標的化に適し得る。一般的な腫瘍マーカーとしては、癌胎児性抗原、前立腺特異的抗原、泌尿器腫瘍関連抗原、胎児性抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG−72、HMFG、シアリルルイス抗原(Sialyl Lewis Antigen)、MucA、MucB、PLAP、エストロゲン受容体、ラミニン受容体、erb B、およびp155が挙げられる。
【0120】
D.遺伝子治療
さらに別の実施形態では、二次的な処置は、治療用ポリヌクレオチドが本発明の治療剤の前、後、またはそれと同時に投与される遺伝子治療であり得る。治療用ポリヌクレオチドが治療用ポリペプチド全体もしくはその一部をコードする場合があり、またはポリヌクレオチド自体が治療剤(例えば、miRNA、siRNA、shRNA)である場合もある。本開示の治療剤と組み合わせた、全長もしくは短縮型の治療用ポリペプチドまたは治療用ポリヌクレオチドのいずれかをコードするベクターの送達は、標的組織に対して組み合わせによる過剰増殖を抑える効果(anti−hyperproliferative effect)を有するであろう。
【0121】
E.外科手術
癌を有している人のおよそ60%は、予防的、診断的、または病期診断的、治癒的および症状緩和的な外科手術を含む、いくつかのタイプの外科手術を受けるであろう。治癒的外科手術は、本発明の処置、化学療法、放射線治療、ホルモン療法、遺伝子治療、免疫療法および/または代替治療のような他の治療法と組み合わせて使用され得る癌の処置である。
【0122】
治癒的外科手術としては、癌性組織全体または一部を物理的に切除、摘出および/または破壊する切除術が挙げられる。腫瘍切除術は、腫瘍の少なくとも一部の物理的切除をいう。腫瘍切除術に加えて、外科手術による処置としては、レーザー手術、冷凍外科手術、電気外科手術、および顕微鏡下手術(モース顕微鏡手術(Mohs’ surgery))が挙げられる。本発明が表在性の癌、前癌状態、または偶発的量の正常組織の切除と組み合わせて使用され得ることがさらに意図される。
【0123】
癌様細胞、組織、または腫瘍の一部または全てを切除すると、体内に腔が形成される可能性がある。処置は、さらなる癌に対する治療によるその領域の潅流、直接注入または局所塗布によって行われる場合がある。そのような処置は、例えば、1、2、3、4、5、6、もしくは7日毎に繰り返し行われる場合があり、または1、2、3、4、および5週間毎に繰り返し行われる場合もあり、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、もしくは12ヶ月毎に繰り返し行われる場合もある。これらの処置は、さらに、様々な用量での処置であり得る。
【0124】
F.他の物質
処置の治療的有効性を改善するために、本発明と組み合わせて他の物質を使用することができることが意図される。これらのさらなる物質としては、免疫調節剤、細胞表面受容体のアップレギュレーションおよびGAP接合部に影響を及ぼす物質、細胞増殖抑制剤および分化剤、細胞接着阻害剤、またはアポトーシス誘導物質に対する過剰増殖細胞の感受性を高める物質が挙げられる。免疫調節剤としては、腫瘍壊死因子;インターフェロンα、β、およびγ;IL−2および他のサイトカイン;F42Kおよび他のサイトカインアナログ;またはMIP−1、MIP−1β、MCP−1、RANTES、および他のケモカインが挙げられる。Fas/Fasリガンド、DR4またはDR5/TRAILのような細胞表面受容体またはそれらのリガンドのアップレギュレーションが、過剰増殖細胞に対する自己分泌作用またはパラクリン作用の確立により本発明のアポトーシス誘導能力を増強するであろうことがさらに意図される。GAP接合部の数を増加させることによる細胞内シグナル伝達の増大は、隣接する過剰増殖細胞集団に対する過剰増殖を抑える効果を高めるであろう。他の実施形態では、細胞増殖抑制剤または分化剤を、処置の過剰増殖を抑える有効性を改善するために本発明と組み合わせて使用することができる。細胞接着阻害剤は、本発明の有効性を改善すると考えられる。細胞接着阻害剤の例は、局所接着キナーゼ(FAK)阻害剤およびロバスタチンである。抗体c225のようなアポトーシスに対する過剰増殖細胞の感受性を高める他の物質を、処置の有効性を改善するために本発明と組み合わせて使用できることがさらに意図される。
【0125】
ホルモン療法もまた、本発明と組み合わせて、または上記の任意の他の癌治療と組み合わせて使用され得る。ホルモンの使用は、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、または子宮頚癌のような特定の癌の処置において、またはテストステロンもしくはエストロゲンのような特定のホルモンのレベルを下げる、もしくは特定のホルモンの作用を遮断するために利用され得る。この処置はしばしば、処置の選択肢として、または転移のリスクを下げるために、少なくとも1つの他の癌治療と組み合わせて使用される。
【0126】
VIII.キット
本明細書中に記載する任意の組成物をキットに含めることができる。非限定的な例では、エピジェネティック修飾因子および/または有糸分裂促進因子物質および/または免疫細胞および/または個体と比較して自己由来もしくは同種異系である免疫系の細胞(immune’s cell)を抽出するための装置が存在し得る。薬物(単数または複数)(例えば、抗癌剤)を含む別のタイプの治療剤のような1種以上の治療剤または他の物質が、1つのキットに含まれる場合がある。いくつかの実施形態では、免疫細胞の増殖のための試薬が含まれ得る。他の組成物として、標準的な緩衝液、塩などを挙げることができる。キットはその成分を適切な容器手段の中に含むであろう。そのような成分は適切に等分され得る。キットの成分は、水性媒体中に、または凍結乾燥した形態のいずれかでパッケージされ得る。キットの容器手段は、一般的には、その中に成分を入れる、好ましくは、成分を適切に等分することができる少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、瓶、注射器、または他の容器手段を含む。2以上の成分がキットの中に存在する場合は、キットはまた、一般的に、その中にさらに別の成分が別々に入れられ得る第2、第3、または他のさらなる容器も含む。しかし、成分の様々な組み合わせがバイアルの中に含まれ得る。また、本発明のキットは、典型的には、販売のための厳重な密封の中に成分の容器を含めるための手段も含む。そのような容器として、その中に所望されるバイアルが保持される、射出成形されたまたは吹き込み成形されたプラスチック製の容器を挙げることができる。
【0127】
キットの成分が、1種および/またはそれ以上の液体溶液中で提供される場合には、この液体溶液は水性溶液であり得、滅菌された水性溶液が特に好ましい。組成物はまた、注射可能な組成物に処方される場合もある。その場合は、容器手段自体が、注射器、ピペット、および/または他のそのような同様の装置であり得、そこから処方物を身体の感染部位に塗布する、動物に注射する、および/または、さらにはキットの他の成分に加えるおよび/または他の成分と混合することができる。
【0128】
しかし、キットの成分は乾燥した粉末(単数または複数)として提供される場合がある。試薬および/または成分が乾燥粉末として提供される場合は、適切な溶媒の添加により粉末を再構成することができる。溶媒もまた別の容器手段の中で提供され得ることが想定される。
【0129】
容器の数および/またはタイプとは無関係に、本発明のキットはまた、最終的な組成物の動物の体内への注射/投与、および/または配置を補助するための器具を含む場合がある、および/またはそのような器具とともに同梱される場合もある。そのような器具は、注射器、ピペット、鉗子、および/または任意のそのような医学的に承認されている送達媒体であり得る。
【実施例】
【0130】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を明らかにするために含まれる。当業者は、以下の実施例で開示される技術が、本発明者によって、本発明を実施する際に十分に機能することが発見され、それゆえ、その実施に好ましい態様を構成すると考えることができる技術を代表するものであることを理解するものとする。しかし、当業者は、本開示を踏まえて、開示される具体的な実施形態に多くの変更を加えることができ、なおも、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、同様または類似する結果を得ることができることを理解するものとする。
【0131】
実施例1
方法および材料
例示的な材料および方法を本明細書中に提供する。
【0132】
ドナーおよび細胞株
【0133】
膵臓癌細胞株CAPAN1(これは自然界においてPSCAおよびMUC1を発現している)およびヒト胚腎臓細胞株293Tをアメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)(ATCC;Rockville,MD)から入手した。細胞を、完全IMDM培地(IMDM;Gibco by Life Technologies Corporation社、ニューヨーク州、グランド・アイランド所在)、10%のFBS(Hyclone Laboratories,Inc.社、ユタ州、ローガン所在)および2mMのL−glutaMAX(Gibco by Life Technologies Corporation社、ニューヨーク州、グランド・アイランド所在)中、ならびに5%の二酸化炭素(CO)を含有している37℃の加湿空気中で維持した。健常者由来の末梢血単核細胞(PBMC)を、ベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)の機関内評価委員会(Institutional Review Board)により承認されたプロトコールについてインフォームドコンセントを行って入手した。
【0134】
OKT3/CD28芽細胞の作製
【0135】
健常ドナーから得たPBMCを、OKT3(1mg/ml)(Ortho Biotech,Inc.社、ニュージャージー州、ブリッジウォーター所在)およびCD28抗体(1mg/ml)(Becton Dickinson & Co.社、カリフォルニア州、マウンテンビュー所在)で活性化させ、45%のClicks培地(Irvine Scientific,Inc.社、カリフォルニア州、サンタアナ所在)、10%のFBS(Hyclone Laboratories,Inc.社、ユタ州、ローガン所在)および2mMのL−glutaMAX(Gibco by Life Technologies Corporation社、ニューヨーク州、グランド・アイランド所在)を含有している完全培地(RPMI 1640;Hyclone Laboratories,Inc.社、ユタ州、ローガン所在)中の非組織培養処理した24ウェルプレート中に1×10PBMC/2mlでプレートし、続いて分割し、新鮮な培地+IL2(50U/ml)を加えた。
【0136】
レトロウイルス構築物の作製およびレトロウイルス形質導入
【0137】
MUC1のコドン最適化単鎖可変断片(scFV)およびPSCAのヒト化コドン最適化scFVを、公開されている配列に基づいて合成した(DNA 2.0、カリフォルニア州、メロンパーク所在)。scFV断片を、ヒトIgG1−CH2CH3ドメインと、およびSFGレトロウイルス骨格中のTCR/CD3複合体上のζ鎖とインフレームでクローニングして、第1世代のCAR−PSCAおよびCAR−MUC1レトロウイルス構築物を作製した。CARで修飾したT細胞を区別するために、ΔCD19(同定を容易にするために、β細胞マーカーを発現するように修飾したT細胞)を、IRESエレメントを使用してCAR−MUC1レトロウイルスベクター中に取り込ませた。第2および第3世代のCAR−PSCA構築物を作製するために、CD28エンドドメインまたはCD28および41BB共刺激エンドドメインを、第1世代のCARに対して、IgGl−CH2CH3ドメインとTCR/CD3ζエンドドメインとの間に加えた。公開されている配列に基づいて、TAAs MUC1およびPSCAもまた合成した(DNA 2.0、カリフォルニア州、メロンパーク所在)。蛍光マーカーであるmOrangeおよび緑色蛍光タンパク質(GFP)を、再びIRESエレメントを使用して、MUC1抗原およびPSCA抗原ベクターにそれぞれ組み込んだ。レトロウイルス上清を上記に記載したように生成し、濾過し(0.45mmのフィルターを使用して)、そして−80℃で保管した。
【0138】
T細胞の形質導入
【0139】
T細胞の形質導入のために、CAR−MUC1またはCAR−PSCAのレトロウイルス上清を、組換えフィブロネクチン断片(FN CH−296;レトロネクチン(Retronectin);宝酒造株式会社、日本、大津市所在)を予めコーティングした非組織培養処理した24ウェルプレート(1ml/ウェル)中にプレートした。OKT3/CD28で活性化したT細胞(IL2 100U/mlを含む完全培地中に0.2×10/ml)をプレートに添加し(1ml/ウェル)、その後、37℃、5%のCOインキュベーターに移した。CAR−T細胞の増殖を、IL2(50U/ml)を補充した1Lの完全培地を含むG−Rex 100M(Wilson Wolf Manufacturing社;ミネソタ州、ニューブライトン所在)中で行った。
【0140】
293Tの形質導入
【0141】
形質導入のために、MUC1−mOrangeまたはPSCA−GFPのウイルス上清を、レトロネクチンを予めコーティングした24ウェルプレートにプレートした(1ml/ウェル)。0.2×10/mlの293T細胞をこれらの上清に添加し(1ml/ウェル)、その後、細胞を1000gで30分間、室温(RT)で回転させ、37℃、5%のCOインキュベーターに移した。MUC1−mOrangeまたはPSCA−GFPの発現を、フローサイトメトリーにより、蛍光顕微鏡を使用して形質導入後に72時間測定して、蛍光マーカーであるmOrangeおよびGFPを検出した。細胞を3〜4日毎に完全IMDM培地中で維持または増殖させた。
【0142】
細胞の選別
【0143】
293T細胞を、MoFloフローサイトメーター(Cytomation社、コロラド州、フォート・コリンズ所在)を使用して、mOrangeおよびGFPの発現に基づいて選別した。選別した細胞を、ペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)およびゲンタマイシンン(25μg/ml)を補充した完全IMDM培地(Gibco by Life Technologies Corporation社、ニューヨーク州、グランド・アイランド所在)中で、6ウェルプレート中で1週間培養し、その後、3〜4日毎に継ぎ足した完全IMDM培地を使用してT175フラスコ中でさらに増殖させた。
【0144】
免疫組織化学(IHC)
【0145】
CAPAN1細胞を、上記に記載したように、それぞれ、PBS/1%のウシ血清アルブミン(BSA)中に1:200および1:80に希釈したマウス抗ヒトMUC1抗体またはウサギ抗ヒトPSCA抗体(AbCam Inc.社、マサチューセッツ州、ケンブリッジ所在)のいずれかで、室温で1時間染色し、抗マウス西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)または抗ウサギHRP(AbCam Inc.社、マサチューセッツ州、ケンブリッジ所在)で同時染色した。
【0146】
細胞傷害性
【0147】
クロム放出アッセイ
【0148】
エフェクターT細胞集団の細胞傷害性の特異性を、標準的な6時間の51Cr放出アッセイにおいて、40:1〜5:1までの範囲のE:T比を使用し、標的としてCAPAN1および293T細胞を使用して測定した。
【0149】
同時培養実験
【0150】
CAPAN1、293T、293T−MUC1−mOrangeまたは293T−PSCA−GFPを標的として使用した。簡単に説明すると、GFP/CAPAN1細胞を、OKT3/CD28芽細胞またはCARで修飾したT細胞のいずれかと、完全培地中のIL2(50U/ml)の存在下で1:5の比で混合した。本発明者らが操作した腫瘍モデルについては、293T−MUC1−mOrangeおよび293T−PSCA−GFP(または対照293T細胞のみ)を1:1の比で混合し、その後、OKT3/CD28芽細胞またはCARで修飾したT細胞をこの混合物に対して、完全培地中のIL2(50U/ml)の存在下で10:1(T細胞:腫瘍細胞)で添加した。72時間後、残存細胞を全て回収し、計数し、染色し、その後、フローサイトメトリー(Gallios;Beckman Coulter Inc.社、カリフォルニア州、ブレア所在)により分析した。
【0151】
フローサイトメトリー
【0152】
免疫表現型検査
【0153】
T細胞を、CD3、CD4、CD8、CD19、CD56、CD27、CD28、CD45RO、およびCD62L(Becton Dickinson BD社、ニュージャージー州、フランクリン・レイクス所在)に対するモノクローナル抗体での表面染色による培養物の作製後3〜4週間で分析した。細胞を2%のFBSを補充したPBSで1回洗浄し、ペレット化し、抗体を飽和量(10μl)で添加した。CARが形質導入された細胞を検出するために、T細胞を、モノクローナル抗体であるFc特異的シアニン−Cy5結合抗体(Jackson Immuno Research Laboratories,Inc.社、ペンシルベニア州、ウェスト・グローブ所在)(これは、受容体のIgG1−CH2CH3成分を認識する)で染色した。細胞を、Galliosフローサイトメーターを使用して分析し、データをKaluzaソフトウェア(Beckman Coulter Inc.社、カリフォルニア州、ブレア所在)を使用して分析した。
【0154】
MUC1抗原の染色
【0155】
100万個のCAPAN1細胞を80%のメタノールで固定し、0.1%のtween−PBSで洗浄した。1μgの抗MUC1抗体(Abcam Inc.社、マサチューセッツ州、ケンブリッジ所在)を添加し、室温で30分間インキュベートした。次に、培養物を洗浄し、0.4μgのヤギ抗マウスIgG APC抗体(BD Pharmingen社、カリフォルニア州、サンノゼ所在)とともに、4℃で20分間、暗所でインキュベートした。その後、細胞を2回洗浄し、分析した。
【0156】
In vivoでの研究
【0157】
eGFP−ホタルルシフェラーゼ(eGFP−FFLuc)を発現するように操作した100万個のCAPAN1細胞をSCIDマウスに腹腔内(IP)に接種した。生物発光画像をLumina IVIS画像撮影システム(Caliper Life Sciences Inc.社、マサチューセッツ州、ホプキントン所在)を使用して1週間に1回記録し、Living Imageソフトウェアにより分析した。生着(少なくとも2回の連続する生物発光の測定における腫瘍シグナルの増大と定義した)後、マウスをCARで修飾したT細胞(30×10細胞/動物)でIP処置した。全ての処置群にIL−2(4000U/動物)をIPで、1週間に3回投与し、生物発光画像撮影を1週間に1回行った。
【0158】
デシタビンでの処置
【0159】
CAPAN1細胞は、1μΜの5−アザ−2’−デオキシシチジン−デシタビン−(Sigma−aldrich Inc.社、ミズーリ州、セントルイス所在)を含む完全IMDM培地を使用して、新鮮な培地+デシタビンを毎日継ぎ足しながら、4日間、T175フラスコ中で培養した。続いて、デシタビンで処置したCAPAN1細胞を完全IMDM中で2日間休眠させ、その後、CAR−MUC1 T細胞とともに同時培養した。
【0160】
実施例2
PSCAを標的化するCARを発現するように操作されたT細胞は抗原を発現する標的を死滅させることができる
TAA PSCAを発現している腫瘍を標的化するために、PSCAに対して向けられたヒト化されたコドン最適化されたCARをコードするレトロウイルスベクターを作製した。図1aはレトロウイルスベクターのマップを示しており、図1b(左のパネル)は、代表的なドナー由来のT細胞上でのCARの発現を、研究した10のドナーの全てについてまとめて示している(図1b、右のパネル)。平均して89.9%(±9%のSD)のT細胞がCAR−PSCAを発現しており、表現型はCARの形質導入によっては影響を受けなかった(図1c)。つまり、形質導入されていない(NT)T細胞およびCAR−PSCAトランスジェニックT細胞のいずれもが、大部分がCD3+(95.2±5.7%および95.2±3.5%)であり、CD4+(19.2±12.0%および12.8±6.3%)集団とCD8+(76.1±15.5%および82.2±10.5%)集団の混合物を含んでいた。CD56+CD3− NK細胞は、1.7±3.0%および2.7±2.2%のNT集団と、CAR−PSCAが形質導入された集団を含んでいた。NT集団および形質導入された集団のいずれにおいても同じ割合のCD3+ T細胞がセントラルメモリー(central memory)マーカーであるCD62L、CD27、およびCD45ROを発現していた。図1dは、CARで修飾したT細胞はPSCA+膵臓癌細胞CAPAN1を死滅させることができた(10:1のE:T比で48±6%の特異的溶解)が、PSCA陰性293T標的を死滅させることはできず、NT T細胞はバックグラウンドレベルの溶解を生じたに過ぎなかったことを示している(CAPAN1および293T細胞について、それぞれ、7±4%および4±1%の特異的溶解)。
【0161】
実施例3
単一特異性CAR−T細胞産物を使用する不均質な腫瘍の標的化により免疫逃避変異体を選択する
CAR−PSCA T細胞での処置によりin vivoで腫瘍の排除を生じることができるかどうかを決定するために、SCIDマウスに、自然界においてPSCAを発現し、そしてeGFP−ホタルルシフェラーゼをコードするγ−レトロウイルスベクター(CAPAN1−eGFP−FFLuc)で修飾してin vivoで生物発光を検出できるようにした1×10のCAPAN1細胞(ヒト膵臓癌細胞株)を移植した。2回の連続する時の生物発光シグナルの増大により確認するとした腫瘍が確立されていれば、マウスに、NT T細胞またはCAR−PSCA T細胞(30×10細胞)のいずれかの1回の注入を投与した。図2aに示すように、CAR−PSCA T細胞での処置により最初の抗腫瘍応答が生じ(処置後28日)、この後に迅速な腫瘍の進行が続き、腫瘍の進行は、処置の42日後および56日後には、2つのグループの間で同様であった(図2a、右のパネル)。
【0162】
この免疫逃避の理由をさらに調べるために、この表現型を、NT T細胞またはCAR−PSCA T細胞をCAPAN1−eGFP−FFLuc細胞とともに5:1の比で同時培養することにより、in vitroでモデル化した。72時間後、生存している残存腫瘍細胞をフローサイトメトリー、GFP+細胞上についてのゲーティングにより定量化し、一方、T細胞は、CD3特異的抗体での同時染色により排除した。in vivoでの所見と同様に、NT T細胞のCAPAN1細胞との同時培養は腫瘍細胞の増殖に影響はなかったが、CAR−PSCA T細胞での処置により、最初の抗腫瘍応答が生じ、これは腫瘍細胞数の82±9%の減少により反映された(図2b)。しかし、図2cに示すように、最初のCAR−T細胞への暴露を生き抜いた腫瘍集団は、CAR−PSCA T細胞での処置に対するそれらの感受性を保っていたNT T細胞で最初に処置した腫瘍細胞とは異なり、再度の処置に対して耐性があった。
【0163】
耐性の機構を決定するために、IHC分析を、NT T細胞またはCAR−PSCA T細胞のいずれかで1回処置した腫瘍細胞について行った。図2dに示すように、CAR−PSCA T細胞はPSCA抗原を高レベルで発現しているCAPAN1細胞を排除したが、残りのPSCA低発現/陰性部分集団は残り、これらは引き続き増殖した。しかし、これらの残存腫瘍細胞は、第2の標的化されていないTAA、MUC1を発現し続けた(図2d)。
【0164】
実施例4
第2または第3世代のCARを発現するように修飾したT細胞を使用してもなお腫瘍の免疫逃避が起こる。
最近の報告では、共刺激性エンドドメインを含有しているCAR(第2および第3世代のCAR)を発現するように修飾したT細胞が、増殖の増大、サイトカイン生産の増加、および延長されたin vivoでの持続性を有していることが示されている。低レベルで標的抗原を発現している細胞のより迅速なまたは完全な死滅により腫瘍逃避型の変異体の出現を防ぐことができるという仮説を試験するため、および、腫瘍の免疫逃避もまた後期世代のCAR構築物を使用して防ぐことができるかどうかを見出すために、CD28共刺激性エンドドメインを組み込んだ、PSCAを標的化するCAR(第2世代)またはCD28+41BB共刺激性エンドドメインを組み込んだ、PSCAを標的化するCAR(第3世代)を作製した。図7aは、第1、第2、および第3世代のCAR−PSCAレトロウイルスベクターのマップを示しており、図7bは、形質導入した初代T細胞中でのそれぞれの発現を示している。第2および第3世代のCAR構築物の両方を発現するT細胞は、PSCA抗原を発現するように修飾したK562細胞とともに培養した場合は、第1世代の構築物よりも増殖した(図7c)が、短時間(6時間)の51Cr放出アッセイ(図7d)および長時間(72時間)の同時培養試験(図7e)のいずれにおいても、CAPAN1細胞に対して全て同等の細胞溶解活性を有しており、耐性がある同じ残存腫瘍の部分集団が残った。
【0165】
実施例5
MUC1を標的化するCARで修飾したT細胞は抗原を発現している標的を特異的に死滅させるが、腫瘍の不均一性が腫瘍の免疫逃避につながる
標的抗原の発現の不均一性が腫瘍の免疫耐性および免疫逃避の明らかな原因であるので、次に、付随して起こる第2のTAAであるMUC1の標的化によりこの問題が克服されるかどうかを決定した。マーカーとして短縮型CD19分子(ΔCD19)を持つ、MUC1に特異的なCARをコードするレトロウイルスベクターを作製した17図3aは、レトロウイルスベクターのマップを示している。MUC1−CARの活性を試験するために、7のドナー由来のT細胞を形質導入した。図3b(左のパネル)は、1の代表的なドナーによる詳細な結果、および7のドナー全てについてまとめたデータを示している。CAR−MUC1発現の平均は83.1%(±11.5%)であり(図3b、右のパネル)、T細胞の表現型はCARの形質導入によっては影響を受けなかった(図3c)。ここでもまた、培養物は主にCD3+(95.2±5.7%および97.2±2.0%)T細胞から構成されており、CD4+(19.2±12.0%および12.3±8.1%)部分集団とCD8+(76.1±15.5%および85.1±8.3%)部分集団(それぞれ、NT T細胞およびCAR−MUC1 T細胞(これらはセントラルメモリーマーカーであるCD62L、CD27、およびCD45ROを同様のレベルで発現していた))を含んでいた。CD56+CD3− NK細胞は、平均で1.7%(±3.0%)がNTであり、2.2%(±2.3%)がCAR−MUC1 T細胞であった。トランスジェニックCAR−MUC1 T細胞は、自然界においてMUC1抗原を発現しているCAPAN1細胞を特異的に死滅させることができ(10:1のE:T比で35±5%の特異的溶解)、MUC1陰性標的である293T細胞に対する活性は有していなかった(図3d)。
【0166】
CAR−MUC1 T細胞による単剤療法もまた腫瘍の免疫逃避につながるかどうかを決定するために、SCIDマウスに再び、膵臓癌細胞株CAPAN1−eGFP−FFLuc細胞を移植し、腫瘍が確立されればNT T細胞またはCAR−MUC1 T細胞のいずれかで処置した。CAR−T細胞での処置により、処置後28日で腫瘍シグナルの低下により測定することができる最初の抗腫瘍応答が生じたにもかかわらず、この後に、迅速な腫瘍の退行が続いた(図4a)。この逃避の原因が腫瘍抗原の調節であることを確認するために、NT T細胞またはCAR−MUC1 T細胞を、CAPAN1−eGFP−FFLuc細胞とともに72時間同時培養し、CAR−MUC1 T細胞での処置により腫瘍細胞の最初の減少が生じたにもかかわらず(66±21%)(図4b)、再処置に対する非感受性が証明されたものが残存し(図4c)、この原因はおそらく、IHCにより確認されたような抗原発現の低下であった(図4d)。しかし、これらの残存腫瘍細胞はTAA PSCAを発現し続けた。
【0167】
実施例6
2種のTAAを標的化するCAR T細胞の組み合わせが優れた抗腫瘍活性を生じる
二重標的化CAR療法により優れた抗腫瘍効果が生じるかどうかを決定するために、自然界においてPSCAおよびMUC1の両方を発現する膵臓癌細胞株CAPAN1をCAR−PSCA T細胞およびCAR−MUC1 T細胞の両方と同時に培養した。短時間(6時間)の細胞毒性試験では、併用療法により、単一抗原特異的T細胞(CAR−MUC1およびCAR−PSCAについて、それぞれ、10:1のE:Tで35±5%および48±6%の特異的溶解)と比較して、優れた腫瘍細胞の死滅が生じた(10:1のE:Tで75±8%の特異的溶解)(図5a)。同様の結果が、3日の同時培養後に得られた。ここでは、CAR−MUC1 T細胞単独での処置により腫瘍細胞が65±13%減少し、CAR−PSCA T細胞単独での処置により82.1±9%の腫瘍細胞が排除され、一方、二重標的化療法は優れており、96.6±1%の減少が生じた(図5b)。
【0168】
二重CAR標的化療法により腫瘍の排除を生じることができるかどうかに取り組むために、SCIDマウスにCAPAN1−eGFP−FFluc細胞を移植した。図5cおよび5dに示すように、CAR−MUC1 T細胞およびCAR−PSCA T細胞の組み合わせでの処置により、個別に試験したいずれと比較しても、優れた抗腫瘍効果が生じた。しかし、この効果は持続せず、63日までに全ての動物において腫瘍が再発した。したがって、二重標的化療法もまた、全ての癌細胞を排除するには不十分であった。
【0169】
実施例7
腫瘍の免疫逃避をモデル化するための人工的なシステムの作製
この治療法の失敗の根底にある機構をさらに理解するために、操作した腫瘍モデルを、MUC1またはPSCAのいずれかのTAAを293T細胞中でトランスジェニックで発現させることにより開発した。したがって、2種類のレトロウイルスベクターを作製した。第1のレトロウイルスベクターはMUC1抗原をコードしており、蛍光タグであるmOrangeを同時発現する。第2のレトロウイルスベクターはPSCA抗原をコードしており、GFPを同時発現する。MUC1について図8に示すように、蛍光タグの強度は抗原の発現の強度と相関関係にあり、これにより、本発明者らが、本発明者らのCAR−T細胞の抗腫瘍活性をリアルタイムでモニターすることが可能となる。図6aはレトロウイルスベクターのマップを示しており、図6bは、293T細胞中でのMUC1/mOrangeおよびPSCA/GFPの発現を示している。各腫瘍細胞が標的抗原を確実に発現するように、続いて、これらの細胞を、100%がMUC1を発現している(mOrange+)か、またはPSCAを発現している(GFP+)かのいずれかである純粋な集団が得られるように選別した。
【0170】
不均質な腫瘍の集団を模倣するために、選別した細胞を1:1の比で混合し、NT T細胞またはCAR−PSCA T細胞のいずれかで72時間、最初に処置した。NT T細胞での処置は残存腫瘍細胞の数には影響を及ぼさなかったが、CAR−PSCA T細胞単独での処置によっては操作した腫瘍細胞の数は50.9±1%減少し(図6c)、これは、GFP+(PSCAを発現している)集団の選択的な減少(98.1±1%)を反映している。CAR−T細胞の死滅の反応速度論を試験するために、腫瘍細胞数をフローサイトメトリーにより経時的に(0、12、24、36、48、および60時間)定量化した。図6dに示すように、GFP+腫瘍細胞数は徐々に減少し、これは処置後の最初の24時間以内に最も顕著であり(0〜12時間の間に45.4±11%の減少、および12〜24時間の間に29.7±4%の減少)、その後はそれほど顕著ではなかった(24〜36時間までに10.7±4%、36〜48時間までに10.2±1%、および48〜60時間までに1±0.9%)。それにもかかわらず、残存しているPSCAを発現する部分集団(1.9%)が残った。次に、CARに媒介される死滅に対する感度が腫瘍細胞上での標的抗原の発現強度と連関しているかどうかを調べるために、GFPの蛍光強度もまた同じ時点で測定した。図6eに示されるように、最も高いレベルで抗原を発現している腫瘍細胞が最初に死滅させられ、一方、最も低い発現を有している腫瘍細胞は生存した。
【0171】
これらの研究を、エフェクター集団としてCAR−MUC1 T細胞を用いて代用して、繰り返した。CAR−MUC1 T細胞での処置の72時間後、腫瘍細胞の総数は49.9%(±5%)減少し(図6f)、これは、MUC1を「低く発現している(low)」腫瘍細胞だけが残るまで(図6h)の、経時的なMUC1/mOrange+腫瘍細胞の選択的かつ段階的な減少を示しており(図6g)、一方、PSCA+集団は影響を受けなかった。
【0172】
次に、二重標的化CAR療法により優れた抗腫瘍効果が生じるかどうかを決定するために、不均質な腫瘍細胞の集団(MUC1/mOrange+およびPSCA/GFP+293T細胞の1:1混合物)を、CAR−MUC1 T細胞およびCAR−PSCA T細胞の両方とともに同時培養した。しかし、このストラテジーもなお、全ての腫瘍細胞を排除することはできず、72時間後、6.0±3%の細胞が残った(3.9±2%の残存MUC1/mOrange+細胞および1.9±1%の残存PSCA/GFP+細胞(図6i))。ここでもまた、これらの残存部分集団は、mOrangeおよびGFPの蛍光により判断した標的抗原の最も低い発現強度を有している細胞を反映していた(図6jおよび6k)。したがって、CAR−T細胞での処置に対する感受性は、標的化された抗原を発現している細胞の集団、ならびに抗原が発現される強度の両方と関係がある。
【0173】
最後に、CAR−T細胞の能力を、従来のエピジェネティック調節因子(DNAを脱メチル化することによりTAAの発現を増大させることができる)との組み合わせにより改善できるかどうかを決定するために、CAR−MUC1 T細胞で予め処置し、結果として標的抗原を低いレベルでしか発現しないCAPAN1細胞を、1μMの低メチル化剤(hypomethylating agent)であるデシタビンとともに培養した。デシタビンへの暴露により、処置の4日後に、3.5〜26.0までのMUC1の発現強度の増大(相対平均蛍光強度)が生じ(図9aおよび9b)、これまでは耐性であった腫瘍細胞がCAR−MUC1 T細胞の死滅に対して再感作された(図9c)。
【0174】
実施例8
CAR T細胞のエピジェネティック修飾因子との併用
図10は、高い発現を有している細胞または低い発現を有している細胞を選択した、細胞上でのCAR−MUC1の発現を示している。
【0175】
図11および12は、CARを標的化させる抗原を高いレベルまたは低いレベルで発現する腫瘍細胞と比較した、高いCAR発現または低いCAR発現を有しているエフェクター細胞の有効性の比較を提供する。
【0176】
図11では、低いCAR−MUC1発現または高いCAR−MUC1発現のいずれかを有している細胞を、標的抗原を低いレベルで発現する残存腫瘍細胞の百分率をアッセイすることにより抗腫瘍特性について試験する。腫瘍細胞に対するCAR−MUC1 T細胞の暴露の24時間後、高いCAR発現を有しているそのようなCAR−MUC1 T細胞は、低いMUC1抗原発現を有している腫瘍細胞を排除することにおいて、低いCAR発現を有しているそれらのCAR−MUC1 T細胞よりも有効である。
【0177】
図12では、低いCAR−MUC1発現または高いCAR−MUC1発現のいずれかを有している細胞を、標的抗原を高いレベルで発現する腫瘍細胞について残存腫瘍細胞の百分率をアッセイすることにより抗腫瘍特性について試験する同様のアッセイが存在する。腫瘍細胞に対するCAR−MUC1 T細胞の暴露の24時間後、高いCAR発現を有しているそのようなCAR−MUC1 T細胞は、高いMUC1抗原の発現を有している腫瘍細胞を排除することにおいて、低いCARの発現を有しているそのようなCAR−MUC1 T細胞よりも有効である。
【0178】
しかし、図11図12と比較すると、標的抗原の高い発現を有している標的細胞中での低発現CAR−MUC1 T細胞と高発現CAR−MUC1 T細胞の効率の間にそれほど有意な差異は存在しない。これは、エフェクター細胞上でのCARの発現の増大が、特に標的抗原の低い発現を有している腫瘍細胞に対して効果を有することを示している。
【0179】
図13は、デシタビンが、修飾したT細胞上でのCARの発現を増強することを示している。エフェクター細胞をデシタビンとともに培養すると、エフェクター細胞上でのCAR−MUC1の発現強度を調節できることが本明細書中で説明される。1日後、および数日後には確実に、細胞上でのCAR−MUC1の発現が増大する。
【0180】
図14は、デシタビンがCAR−MUC1 T細胞の抗腫瘍効果を増強することを示している。説明したように、対照と比較して、CAR−MUC1 T細胞単独と比較した場合は抗腫瘍効果が存在し、これは約80%腫瘍の崩壊を生じる。しかし、CAR−MUC1 T細胞をデシタビンと組み合わせる場合は、CAR−MUC1 T細胞を単独で用いた場合に見られる能力よりも1/2をさらに上回る能力の増大が存在する。したがって、デシタビンとCAR−MUC1 T細胞の組み合わせにより抗腫瘍効果が増大した。
【0181】
本発明およびその利点が詳細に記載されてきたが、様々な変更、置き換え、および代用を、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の精神および範囲から逸脱することなく本明細書中で行うことができることが理解されるものとする。さらに、本出願の範囲は、本明細書中に記載されるプロセス、機械、製品、物質の組成、手段、方法、および工程の特定の実施形態に限定されるようには意図されない。本発明の開示から当業者に容易に明らかであるように、本明細書中に記載される対応する実施形態と同じ機能を実質的に果たすか、または実質的に同じ結果を達成する、既存のまたはこれから開発されるプロセス、機械、製品、物質の組成、手段、方法、または工程が、本発明にしたがって利用され得る。したがって、添付の特許請求の範囲は、そのようなプロセス、機械、製品、物質の組成、手段、方法、または工程をその範囲に含むように意図される。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2B-C】
図3A
図3B
図3C
図3D
図4B-C】
図5A
図5B
図5D
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図6H
図6I
図7A
図7C
図7D
図7E
図8A
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13
図14
図2A
図2D
図4A
図4D
図5C
図6A-B】
図7B
【国際調査報告】