特表2016-525475(P2016-525475A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-525475(P2016-525475A)
(43)【公表日】2016年8月25日
(54)【発明の名称】航空機を地上移動させるデバイス
(51)【国際特許分類】
   B64F 1/04 20060101AFI20160729BHJP
   B64F 1/22 20060101ALI20160729BHJP
【FI】
   B64F1/04
   B64F1/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-518981(P2016-518981)
(86)(22)【出願日】2014年6月11日
(85)【翻訳文提出日】2016年2月10日
(86)【国際出願番号】EP2014062072
(87)【国際公開番号】WO2014198746
(87)【国際公開日】20141218
(31)【優先権主張番号】1355597
(32)【優先日】2013年6月14日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】515345414
【氏名又は名称】エアバス・グループ・エスアーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ジュベール,エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】ネスプル,シャルル
(72)【発明者】
【氏名】ルシャン,ブリュノ
(72)【発明者】
【氏名】スマウィ,イシュム
(57)【要約】
航空機を地上で移動させるためのデバイス(100)は、少なくとも1つの滑走路(10、18a、18b、18c)及び少なくとも1つの航空機を備える。航空機は、主に第2種超電導体で形成された磁性物質(31)を備える牽引要素(30)に固定され、また滑走路(10、18a、18b、18c)は、滑走路の軸(11)に平行な少なくとも1つのコイル列の形で滑走路に配置された固定子コイル(12)を備える。命令/制御システム(13)は、予め相2超電導状態に磁化されている牽引要素(30)を滑走路上に空中浮揚させるための磁場を生成するように、固定子コイルに電力を供給する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの滑走路(10、18a、18b、18c)及び前記少なくとも1つの滑走路に沿って移動できる少なくとも1つの航空機を備える、デバイス(100)であって、
前記少なくとも1つの航空機は、主に第2種超電導体で形成された磁性物質(31)を備える牽引要素(30)に固定されること;
前記少なくとも1つの滑走路(10、18a、18b、18c)は、前記少なくとも1つの滑走路に組み込まれ、前記少なくとも1つの滑走路の軸(11)に平行な少なくとも1つのコイル列の形で配置される、固定子コイル(12)を備え、前記デバイスは、予め相2超電導状態に磁化されている前記少なくとも1つの牽引要素(30)を前記少なくとも1つの滑走路上に空中浮揚させるための磁場を生成するように前記固定子コイルに電力を供給する、命令/制御システム(13)を備えること
を特徴とする、デバイス(100)。
【請求項2】
前記固定子コイル命令/制御システム(13)は、前記固定子コイルに電力を提供して変動磁場を生成し、前記少なくとも1つの牽引要素を前記少なくとも1つのコイル列に沿って移動させる力を生成する、少なくとも1つのモードを備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記牽引要素(30)は、前記磁性物質(31)を、前記第2種超電導体の相2臨界遷移温度Tc2より低い温度と前記第2種超電導体の相1臨界遷移温度Tc1より高い温度との間の温度で維持するシステムを備える、請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記牽引要素(30)は、前記磁性物質(31)に初期磁場を生成するように設計された少なくとも1つの始動コイル(37)を備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記第2種超電導体は、イットリウム、バリウム、銅、酸素を含むYBaCuO合金である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記少なくとも1つの牽引要素(30)は、着陸装置(21)の車輪で走行する前記航空機を牽引するために前記航空機に固定される、請求項1〜5のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記航空機の少なくとも1つの前記着陸装置は、前記航空機を空中浮揚させて前記航空機を牽引するために、前記少なくとも1つの着陸装置に固定される少なくとも1つの前記牽引要素(30)を備える、請求項1〜5のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記少なくとも1つの滑走路(10、18a、18b、18c)は、前記少なくとも1つの滑走路の前記軸(11)に略平行な複数のコイル列を備える、請求項1〜7のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項9】
複数の前記滑走路(10、18a、18b、18c)を備え、各前記滑走路は、各前記滑走路の軸に略平行な少なくとも1つのコイル列を備えることにより、前記コイル列が空港プラットフォームの連続ネットワークを形成する、請求項1〜8のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項10】
コイル列によって前記少なくとも1つの滑走路の前記コイル列に接続された、少なくとも1つの牽引要素磁化操作部を備える、請求項1〜9のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項11】
固定子コイル(12)が組み込まれた滑走路(10、18a、18b、18c)に沿って、主に第2種超電導体で形成された磁性物質(31)を備える牽引要素(30)に固定された飛行機を移動させる方法であって、
前記コイルは、前記滑走路の軸(11)に平行な少なくとも1つのコイル列の形で配設され、
前記方法は:
−前記磁性物質が臨界温度Tcより高い温度である場合に、前記磁性物質に初期磁場を印加し、その後、前記初期磁場を維持しながら前記磁性物質の温度を前記臨界温度Tc未満の温度まで冷却し、その後、前記磁性物質の温度を前記臨界温度Tc未満の温度で維持しながら前記初期磁場を打ち消すことによって、前記磁性物質(31)を磁化する予備ステップ;
−前記牽引要素を空中浮揚させる力を前記牽引要素(30)に誘起するために、前記固定子コイル(12)を使用して磁場を生成するステップ;
−前記少なくとも1つのコイル列に沿った向きを有する、略水平面内の牽引力を、前記牽引要素(30)に誘起するために、前記固定子コイルによって生成された前記磁場を変更するステップ
を含む、方法。
【請求項12】
前記牽引力を誘起するために前記固定子コイルによって生成された前記磁場は、固定子コイル電力命令/制御システム(13)によって、前記命令/制御システムに送信される航空機速度又は加速指示を含む命令に基づいて変更される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
航空機推進エンジンは、前記航空機が移動する際に前記航空機にかかる推力を生成するのに使用される、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記牽引要素(30)に誘起され、少なくとも1つのコイル列に沿った向きを有する前記牽引力は、前記航空機の前部又は前記航空機の後部のいずれかの方向に向けることができる、請求項11〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
主に第2種超電導体で形成された磁性物質(31)を備える、牽引要素(30)であって、
前記牽引要素(30)は、前記磁性物質を超電導臨界温度Tc未満の極低温度で維持する手段を備え、また前記牽引要素を航空機に固定するための少なくとも1つのフック(36)を備える、牽引要素(30)。
【請求項16】
前記温度維持手段は、前記臨界温度Tc未満の温度の液体を含む容積を決定するクライオスタットの断熱チャンバを備える、請求項15に記載の牽引要素。
【請求項17】
前記第2種超電導体は、イットリウム、バリウム、銅、酸素を含むYBaCuO合金である、請求項16に記載の牽引要素。
【請求項18】
前記磁性物質(31)に初期磁場を生成するように設計された少なくとも1つの始動コイル(37)を備える、請求項15〜17のいずれか1項に記載の牽引要素。
【請求項19】
請求項15〜18のいずれか1項に記載の少なくとも1つの牽引要素を備える飛行機(20)であって、
前記牽引要素は、前記飛行機が地上にある時に前記少なくとも1つの牽引要素が地上近くに位置するように、前記飛行機に固定される、飛行機(20)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機推進の分野に属する。
【0002】
より具体的には、本発明は、飛行機が誘導路(即ち、航空機が地上移動する時に走行する誘導路)上での低速段階、又は離陸時若しくは着陸時に滑走路上で加速/減速する際の高速段階で地上移動する時に飛行機を推進させるデバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
特に、航空機及び飛行機の分野では、地上移動は、航空機エンジン又は牽引車両が作動している状態で、車輪を備える着陸装置で走行することにより達成されるのが一般的である。
【0004】
飛行機がエンジンを使用せずに後方に移動する又は様々な場所へ移動する必要がある時に駐機場から出るために行われる牽引と;離陸前に離陸滑走路のスタート地点まで移動するために又は着陸後に駐機場まで戻るために、低速であるが航空機エンジンの推進力を使用して行われる、誘導路上の走行と;高速で走行し、エンジンによって推進される飛行機がゼロ速度から車輪が地上から離れる速度まで加速する離陸と;そして最後に、飛行機の揚力に対応した速度で飛行機が地上に戻って着陸し、滑走路に沿って誘導路に入ることができる十分に遅い速度まで減速する着陸とは、通常区別される。
【0005】
この車輪付き着陸装置を使用する方法では:飛行機が数百km/時より速い速度で巡航飛行している時には格納され、ミッション中の非常に短時間だけ使用される、重くて複雑な着陸装置を、飛行機が備える必要があるという点;更に、例えばジェットエンジンである推進エンジンを、これらの推進エンジンが完全に最適化されていない低速での走行のために使用するという点で不利であることが分かっている。しかし、これ以上に満足のいく解決法がないため、現代の略全ての飛行機はこの原理に基づいて設計されている。
【0006】
性能を向上させるためには、補助デバイスの使用が検討されている。
【0007】
従って、着陸装置の特定の車輪にモータを装備して、低速走行できるようにすることにより、誘導路に沿って移動する際に推進エンジンの使用を避けることが想定されている。しかしながらこの解決法は、着陸装置を従来の着陸装置よりも更に複雑で重くなるという欠陥があり、航空機の操作における使用においてはまだ実質的に具現化されていない。
【0008】
更に、飛行機の離陸を支援するためにカタパルトシステムが開発されている。カタパルトは、飛行機を適切な力で牽引することによって、離陸の際の加速中に飛行機に更なるエネルギを供給するというものである。
【0009】
このシステムは離陸滑走路に組み込まれおり、このシステムにより離陸時の走行距離を短くすることができ、このことが、このシステムが航空母艦上で広範に使用される正当な理由である。しかし、カタパルトは、操作性の観点から限定的であり、非常に短時間に所望の量のエネルギを作り出すためには大量の電力が必要となるデバイスである。カタパルトは、1つの機能方向のみを有し、これは航空機の離陸のために常に風に向かって進む航空母艦での使用を妨げるものではないが、実際には、「固定」滑走路の場合、滑走路の各方向にカタパルトを設置するということになる。このシステムの様々な制約を考えると、カタパルトを使用して離陸支援を受けることができる飛行機は、現在では、最大で数十メートルトンに限定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、現在のシステムの制約を回避できる空港プラットフォーム上での航空機の走行及び/又は離陸/着陸のためのデバイスに関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の場合、航空機を地上移動させるため、並びに航空機を運動の軸に沿って案内し、特定の実施形態では、誘導路に沿って走行する段階中、離陸中及び着陸中に、飛行機を地上移動させながら滑走路から空中浮揚させるのに必要な牽引力を生成するために、第2種超電導体の磁気特性を利用する。
【0012】
そのためには、デバイスは:少なくとも1つの滑走路、例えば離陸又は着陸滑走路;誘導路又は駐機場;及び滑走路上を移動できる少なくとも1機の航空機、例えば飛行機ヘリコプタ又はドローンを備える。
【0013】
航空機は、主に第2種超電導体で形成された磁性物質を備える牽引要素に固定される。第2種超電導体は、物質を相2状態にする磁場条件下で温度を超電導臨界温度より低くすると、第2種超電導体が曝露されている磁場環境の磁気復元力を維持するという特徴を有する。
【0014】
滑走路は、滑走路に組み込まれ、滑走路の軸に平行な少なくとも1つのコイル列の形で配置される固定子コイルを備える。
【0015】
デバイスは、予め相2超電導状態に磁化されている少なくとも1つの牽引要素を滑走路上に空中浮揚させるための磁場を生成するように固定子コイルに電力を供給する命令/制御システムを備える。
【0016】
このようにして、航空機エンジンを作動させずに航空機を地上移動させることができるデバイスが得られ、その結果、滑走路領域における汚染及び騒音が低減され、航空機の燃料消費量が削減される。
【0017】
固定子コイル命令/制御システムは、固定子コイルに電力を提供して変動磁場を生成し、牽引要素をコイル列に沿って移動させる力を生成することによって、航空機が固定されている牽引要素に加わる制御された力を航空機自体が受けるようにする、少なくとも1つのモードを備える。
【0018】
牽引要素は、磁性物質を、第2種超電導体の相2臨界遷移温度Tc2より低い温度と第2種超電導体の相1臨界遷移温度Tc1より高い温度との間の温度で維持するシステムを備える。従って、超電導体の温度を維持するのに必要なエネルギ以外のエネルギを供給せずに、超電導体の磁性状態を永久に維持できる。
【0019】
牽引要素を始動させるために、牽引要素は、磁性物質に初期磁場を生成するように設計された少なくとも1つの始動コイルを備える。この構造では、磁場を生成する外部手段を使用せずに磁性物質の磁性状態を初期状態にすることができるため、牽引要素及び牽引要素に固定される飛行機に自立性を与えることができる。
【0020】
一実施形態では、牽引要素の第2種超電導体は、イットリウム、バリウム、銅、酸素を含むYBaCuO合金である。
【0021】
このようにして、物質が相2にある場合の電気特性及び磁気特性が、液体窒素の温度に相当する比較的極低温の温度に対して得られる物質が得られる。液体窒素は、航空機ミッションの期間相応の比較的長期間にわたって保管可能である、又は牽引要素に結合されたクライオジェネレータによって局所的に生成可能である。
【0022】
一実施形態では、牽引要素は、航空機の着陸装置の車輪で走行する航空機を牽引するために航空機に固定される。この実施形態では、牽引要素は飛行機を地上で並進移動させる機能に限定されず、またこの実施形態は既存の飛行機に容易に適応させることができる。
【0023】
別の実施形態では、航空機の少なくとも1つの着陸装置、有利には複数の着陸装置は、航空機を空中浮揚させて航空機を牽引するために、少なくとも1つの着陸装置に固定される少なくとも1つの牽引要素を備える。この実施形態では、牽引要素により、着陸装置は車輪を備える必要がなくなり、又は少なくとも車輪の数を減らすことができ、飛行機は、地上移動する際に、摩擦、又はローリング及び制動に関係した制約をもたらす滑走路との接触がなくなる。
【0024】
空間的に横方向に離間して飛行機に配置される牽引要素を飛行機が備える場合に特に適した一実施形態では、滑走路は、滑走路の軸に略平行な複数のコイル列を備える。
【0025】
一実施形態では、デバイスは複数の滑走路を備え、各滑走路は、各滑走路の軸に略平行な少なくとも1つのコイル列を備えることにより、コイル列が空港プラットフォームの連続ネットワークを形成する。従って、航空機が巡回することになる地上の全てのエリアにおいて、固定子コイルを使用して航空機を移動させることができる。
【0026】
一実施形態では、デバイスは、コイル列によって滑走路のコイル列に接続された少なくとも1つの牽引要素磁化操作部を備える。
【0027】
本発明はまた、固定子コイルが組み込まれた滑走路に沿って、主に第2種超電導体で形成された磁性物質を備える牽引要素に固定された飛行機を移動させる方法にも関し、上記コイルは、上記滑走路の軸に平行な少なくとも1つのコイル列の形で配設され、上記方法は:
−磁性物質が臨界温度Tcより高い温度である場合に、上記磁性物質に初期磁場を印加し、その後、初期磁場を維持しながら上記磁性物質の温度を臨界温度Tc未満の温度まで冷却し、その後、磁性物質の温度を臨界温度Tc未満の温度で維持しながら初期磁場を打ち消すことによって、磁性物質を磁化する予備ステップ;
−牽引要素を空中浮揚させる力を牽引要素に誘起するために、固定子コイルを使用して磁場を生成するステップ;
−上記少なくとも1つのコイル列に沿った向きを有する、略水平面内の牽引力を、牽引要素に誘起するために、固定子コイルによって生成された磁場を変更するステップ
を含む。
【0028】
上記方法は、特に、本発明のデバイスの実装に適している。
【0029】
本発明の方法の一実装形態では、牽引力を誘起するために固定子コイルによって生成された磁場は、固定子コイル電力命令/制御システムによって、上記命令/制御システムに送信される航空機速度又は加速指示を含む命令に基づいて変更される。
【0030】
本発明の方法の一実装形態では、航空機推進エンジンは、航空機が移動する際に航空機にかかる推力を生成するのに使用される。
【0031】
その後、牽引要素により供給される牽引力が、推進エンジンの推力に加えて、及び/又は推進エンジンの推力の部分的代替として供給され、これは離陸時に特に有益なものであることがわかる。
【0032】
必要に応じて、牽引要素に誘起され、少なくとも1つのコイル列に沿った向きを有する牽引力は、航空機の前部又は航空機の後部のいずれかの方向に向けることができる。従って、航空機を前方又は後方に移動させることができるだけでなく、航空機が移動している時に航空機の速度を落とすために、又は飛行機が推進エンジンをかけた状態で定点にある場合に、風又はエンジンの推力のような他の力を受ける時に航空機を所定位置で停止させるためにブレーキをかけることも可能である。
【0033】
本発明は更に、主に第2種超電導体で形成された磁性物質を備え、また磁性物質を超電導臨界温度Tc未満の極低温度で維持する手段と、牽引要素を航空機に固定するための少なくとも1つのフックとを備える、牽引要素にも関する。
【0034】
温度維持手段は例えば、臨界温度Tc未満の温度の液体を含む容積を決定するクライオスタットの断熱チャンバを備え、この断熱チャンバは、熱損失と、チャンバ、更に場合によっては任意の液体充填システムに含まれる液体量とによってのみ決まる一定の時間の間、エネルギを追加せずに所望の温度を維持できる。
【0035】
第2種超電導体は、液体窒素の温度で相2の超電導状態になる、イットリウム、バリウム、銅、酸素を含むYBaCuO合金である。
【0036】
一実施形態では、牽引要素は、磁性物質に初期磁場を生成するように設計された少なくとも1つの始動コイルを備える。
【0037】
本発明はまた、本発明の少なくとも1つの牽引要素を備える飛行機にも関し、上記牽引要素は、飛行機が地上にある時に牽引要素が地上近くに位置するように飛行機に固定され、上記牽引要素を使用することにより、飛行機は本発明のデバイスの利益を享受できる。
【0038】
図面を参照しながら、本発明の非限定的な実施形態について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1図1は、デバイス及びデバイスの主なサブアセンブリの概略図である。
図2a図2aは、車輪付き着陸装置を備え、固定子コイル(離陸/着陸滑走路が透明であるように示されているため視認できる)を組み込んだ離陸/着陸滑走路上で牽引デバイスに固定された飛行機の平面図である。
図2b図2bは、車輪付き着陸装置を備え、固定子コイル(離陸/着陸滑走路が透明であるように示されているため視認できる)を組み込んだ離陸/着陸滑走路上で牽引デバイスに固定された飛行機の側面図である。
図2c図2cは、車輪付き着陸装置を備え、固定子コイル(離陸/着陸滑走路が透明であるように示されているため視認できる)を組み込んだ離陸/着陸滑走路上で牽引デバイスに固定された飛行機の正面図である。
図3図3は、牽引要素の概略断面図である。
図4図4は、超電導臨界温度より高い温度(a)及び超電導臨界温度より低い温度(b)における磁場内の第1種超電導体要素を示した図である。
図5図5は、第1種超電導体(a)の相図と第2種超電導体(b)の相図とを比較した図である。
図6図6は、第2種超電導体の第2種超電導状態における磁束渦及び磁束ピン止め現象を示した図である。
図7図7は、複数の離陸/着陸滑走路、誘導路、進入退出路、駐機場を備える空港プラットフォームの滑走路例の平面図である。
図8a図8aは、複数の牽引要素によって滑走路上に空中浮揚される飛行機の概略側面図である。
図8b図8bは、複数の牽引要素によって滑走路上に空中浮揚される飛行機概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の種々の実施形態を示す種々の図において、同じ要素には同じ参照番号を付与するものとする。
【0041】
例示を目的としているため、同一の図面内又は種々図面内の種々の要素は、必ずしも同じ縮尺比で示されているとは限らない。
【0042】
図1は、本発明の一例の走行及び/又は離陸及び/又は着陸を支援するためのデバイス全体の部分概略図であり、このデバイスは、離陸及び/又は着陸滑走路10と、飛行機20(例えば上記滑走路から離陸するプロセスにある飛行機)とを備える。
【0043】
飛行機の離陸段階は、飛行機が速度0又は離陸速度よりも遅い速度(数m/秒)から、離陸できる速度Vloまで加速する段階である。
【0044】
図2a、2b、2cに示されているデバイス例の実施形態では、飛行機20は、車輪付き着陸装置21を備え、その寸法及び強度により、飛行機の重量を地上で支えることができ、また上記車輪で走行することにより飛行機を移動させることができる。
【0045】
周知の方法では、滑走路10は主に、飛行機のニーズに見合うと考えられるその長さ及び幅寸法、並びにその舗装面の抵抗の種々の特性によって、また滑走路からの離陸段階及び滑走路への着陸段階中に飛行機が地上に沿って辿る経路に対応する、滑走路の方向を決定する軸11によって、定義される。
【0046】
更に本発明では、飛行機20は、磁性物質を備える牽引要素30に固定され、この場合、牽引要素30は着陸装置21に、飛行機の垂直軸方向面23に位置する前部着陸装置22において固定される。牽引要素30はまた、地上より上かつ地上近くに位置し、飛行機が地上にある時に、地上から数センチメートル又は数十センチメートルだけ離間した位置にある。
【0047】
以下で詳細に説明するように、磁性物質は主に第2種超電導体、例えば70K未満の温度で超電導状態になるYBaCuO合金で形成され、つまり、高温超電導体ファミリーに属するこの物質は、標準海面気圧において液体窒素の温度で超電導状態になる。
【0048】
更に本発明では、滑走路10は、それぞれが磁場を形成できる一連の固定子コイル12を軸11に沿って備えて、磁場を生成するように設計され、上記磁場の磁力線は、各固定子コイルにおいてローカル地球基準座標系で略垂直に配向される磁力線、例えば、面が地上面に略平行であるフラットコイルによって生成される磁力線を有する磁場を生成するように設計される。
【0049】
固定子コイル12は、滑走路の全長にわたって、飛行機が、特に牽引要素30が、離陸又は着陸時に通る可能性がある地上のいずれの地点においても磁場が形成されるように、滑走路の軸11に沿って配置される。
【0050】
固定子コイル12は例えば超電導コイルであるが、必ずしも超電導コイルである必要はない。
【0051】
一実施形態では、固定子コイル12は滑走路10の厚さの中に組み込まれ、滑走路の舗装面の物質は磁力線を大幅に妨げないように選択され、滑走路の舗装面として周知のコンクリート又は従来のコーティングがこの要件を満たす。
【0052】
固定子コイル12を取り付けるあらゆる方法において、各固定子コイルは、デバイスの動作によって生じる力を受けた時に停止し、またその一方で、コイル巻線の完全性が確保されるように、地面にしっかりと固定される。
【0053】
固定子コイル12は更に、電気エネルギをコイルに伝達して、各コイルがアクティブになると各コイルは所望の極性で電力が供給され、コイルがパッシブになると電力供給が遮断されるために必要な切り替えを行うコイル電力供給システム13に電気接続される。
【0054】
図3を参照すると、磁性物質31は、既に上述したように、主に第2種超電導体で形成される。
【0055】
図4にわかりやすく示されているように、電気抵抗が0である超電導状態では、これらの物質のうちの1つで作製された、超電導状態の本体は、磁場に曝露した場合に磁力線によって迂回されるが、これらの磁力線は、本体が超電導状態でない時には上記本体を通過する、という超電導体の磁気特性が周知である。
【0056】
この特性は、マイスナー効果の名で周知であるが、第1種超電導体の場合、図5(a)に示されているように、超電導体が物質の臨界温度Tc未満の温度で配置され、外部磁場の強度が、物質が超電導特性を失う臨界強度未満であれば、この特性が現れる。
【0057】
第2種超電導体の場合、超電導体で形成された本体が受ける磁力線が、物質の超電導特性を失わずに、この超電導体を通過するという物質状態が周知である。
【0058】
このタイプの物質では、この物質で形成された本体は、図5(b)に示されている相図に従って、相1臨界磁場Hc1より強く、相2臨界磁場Hc2より弱い強度の初期磁場に配置され、その後、超電導臨界温度Tc未満になるまで冷却されると、図6に概略的に示されているように、一般に渦と呼ばれる安定構造が物質内に形成され、これらの渦は磁力線の復元力を生成し、物質の温度が超電導臨界温度Tc未満で維持されている限り、外部磁場が除去された場合でも持続する。
【0059】
物質がこの状態にある時、磁場に更された本体は、磁力線が臨界温度Tc未満の温度まで冷却された時に存在する磁力線と一致する形で、空間内で姿勢を維持する。
【0060】
この空間内での姿勢維持は、磁場に垂直な方向だけでなく、磁場の方向に沿った方向にも関係している。従って本体は、初期状態に応じて、支持体と直接接触せずに空中浮揚するか又は浮遊する。
【0061】
本発明では、予め磁化された(即ち、磁力線が垂直に配向され、磁場強度が臨界磁場Hc2より弱く臨界磁場Hc1より強い初期磁場の存在下で、臨界温度Tc未満の温度まで冷却された)牽引要素30の磁性物質31を、滑走路10の固定子コイル12によって生成された磁場の中に配置する。
【0062】
コイルは、従来のリニア電気モータの動作と同様の方法で、合成磁場をコイルの配列に対応する経路に沿って移動させるように切り替えられ、コイルは、牽引要素の磁性物質31の制御運動、ひいてはリニアモータの回転子に相当する牽引要素30の制御運動、ひいては牽引素子が固定される飛行機20の制御運動を生み出す固定子を構成する。
【0063】
牽引要素の磁性物質31の第2種超電導体の特性により、牽引要素は滑走路10上に空中浮揚できるため、滑走路との機械的摩擦が生じない。更に、牽引要素は、固定子コイルの磁場によって、生成された磁場の運動によって決まる進行方向に沿って移動され、磁性物質31は磁力線が通過するように位置決めされることから、また固定子コイル12によって定められる軸から離れた位置に磁場がないことから、牽引要素は横方向に保持される。
【0064】
牽引要素30は更に、磁性物質を冷却して、磁性物質を所望の極低温度で維持する手段を備える。
【0065】
有利には、磁性物質30は、外部との熱交換を制限するチャンバ32内に配置される。
【0066】
周知の方法では、このチャンバは、例えば、磁性物質31を含む容積34を決定するクライオスタットの内部チャンバ33で形成され、内側チャンバ33自体は、断熱ジャケット35内に位置決めされる。
【0067】
内部チャンバ33は、有利には、例えば、充填回路(図示せず)によって、冷却液(例えば、Tc未満の所望温度の液体窒素)で満たされる。
【0068】
例示的な一実施形態では、クライオスタット内の冷却液の量は、クライオスタットが再充填される前の所望の使用期間にわたって確実に磁性物質31がTc未満の所望の温度で維持されるように定められる。この場合、冷却液の量は、クライオスタットの断熱不良に関係する熱損失、及び磁性物質の温度が臨界温度Tc未満で維持される時間に従って決定される。
【0069】
図示されていない別の例示的な実施形態では、牽引要素30は、牽引要素が動作時に、クライオスタットに冷却液を導入する、及び/又はクライオスタット内の冷却液の所望のレベルを維持できるように、クライオスタットに接続される冷却液貯留槽を備える。
【0070】
図示されていない別の例示的な実施形態では、冷却液は、極低温冷却器(低温クーラ)、例えば、ペルティエ効果機械又はスターリングサイクルで動作する機械によって牽引要素において生成される。
【0071】
牽引要素30の磁場によって生成された負荷を飛行機20に伝達するために、磁性物質31又は磁性物質31を含むチャンバの1つと飛行機への取り付け手段との間に適切な強度の機械的接続手段が配置される。
【0072】
飛行機が移動する時に、及び飛行機を離陸速度Vloに近い速度まで加速する特定の加速モードで、力を伝達するのに必要なこれらの機械的接続手段は、例えば、図3に概略的に示されているように、1つ又は複数のフック36を備える。フックは、クライオスタットの内部と外部との間の熱損失を抑えるために、できる限り、熱を伝導しない物質で作られる。ニッケル含有量の多い合金であるInvar(登録商標)のような物質は、物質の特性によって生じる熱をあまり伝導せずに大きな力を伝達できるフック又リンクロッドを作成できる物質の1つである。
【0073】
例示的な一実施形態では、牽引要素は、初期磁場を生成するように設計された1つ又は複数の始動コイル37を備える。これらの始動コイルは、所望の初期磁場を生成するように一時的に電力が供給され、初期磁場は磁性物質31の温度が臨界温度Tc未満まで冷却するステップで維持される。
【0074】
別の例示的な実施形態では、1つ又は複数の始動コイルは、初期磁場を生成するように滑走路に組み込まれる。始動コイル(単数又は複数)は、例えば、滑走路上の選択された位置に配置される専用コイルである、或いは、初期磁場を生成するように電力が供給される滑走路の固定子コイルである。これらの場合、牽引要素は、始動コイルの位置又は始動コイルとして電力供給される固定子コイルの1つの位置に配置される必要がある。
【0075】
図1、2a、2b、2cに示されている例では、離陸/着陸滑走路は1つのみ示されており、この場合、固定子コイルが滑走路の軸に沿って配置された形で示されており、飛行機は離陸又は着陸経路にある時に滑走路上で維持される。
【0076】
しかし、本発明のデバイスの場合、飛行機を1つ又は複数の所望の経路で移動させるのが望ましい地上の任意の表面が滑走路となる。
【0077】
図7は、例えば、広い空港プラットフォーム19の場合に、飛行機が巡回する誘導路エリアの平面図である。限定的ではないが、滑走路は、離陸/着陸滑走路10、又は飛行機が離陸前に離陸滑走路のスタート地点まで進む、又は着陸後に着陸滑走路から離れるために飛行機が使用する誘導路18a及び進入退出路18b、更に誘導及び駐機エリア18cに対応してよい。
【0078】
飛行機の地上での移動に関係するこれらの表面全てが「滑走路」と呼ばれる。
【0079】
各滑走路10、18a、18b、18cは、飛行領域内に、通常は滑走路の舗装面に描かれたラインでパイロットに見えるように具現化された軸11を備え、滑走路は、本発明の場合、少なくとも一部では、上記軸に沿って磁場を生成するために上記軸に沿って一列に配置された固定子コイル12を備える。
【0080】
デバイスは有利には、飛行機20、固定子コイル・始動コイル命令/制御システム、及び一般にデバイスの動作に寄与するシステム全てと通信して、どのシステムが正常動作しており、正確に動作しているかを監視して、滑走路上での飛行機及びオペレータの安全性確保に必要な調整を行う監視システム14を備える。
【0081】
これが、地上のインフラに組み込まれた機器と少なくとも1つの牽引要素30に固定された飛行機20とが協働することによって飛行機の地上でのあらゆる移動又は一部の移動時に飛行機を移動させることができるデバイスを生み出す。
【0082】
上述の実施形態のデバイスの一実装形態によれば、飛行機20は、例えば、駐機地点(例えば、駐機ベイ又は乗客搭乗位置)で静止した状態である。駐機地点は、固定子コイルが配置されるライン上に位置する。
【0083】
第1のステップでは、牽引要素30は、飛行機の近くに引き寄せられ、その後、例えば、牽引要素30を前部着陸装置22に取り付けるデバイスを使用して、上記飛行機に固定される。
【0084】
牽引要素30は、飛行機に固定される前に、専用ゾーン(例えば、磁化操作部)で磁化されてもよいし、磁化されなくてもよい。
【0085】
いずれの場合も、牽引要素30は、一般的な移送手段(例えば、適切な輸送トラック)によって位置決めされるが、牽引要素30が既に磁化されている場合には、牽引要素30は、同様にして、固定子コイル列に沿って磁化ゾーンから飛行機に位置決めされてよい。
【0086】
牽引要素が既に磁化されている場合には、牽引要素は空中浮揚するため、移動経路に沿って略一定の特性を有する磁場を生成するように経路上の全てのコイルが励起されていれば、最小限の力で、例えば、オペレータが引いたり押したりすることで牽引要素を移動させることができる。コイルを励起させるこのモードで生成された磁場では、牽引要素30は、固定子コイル12の配列方向の推進力を全く受けないが、上記固定子コイルによって形成されたラインから逸れずに横方向に保持される。
【0087】
代替形態では、牽引要素30が飛行機20に到達するために辿る必要がある経路と一致する配列の固定子コイル12は、直接機械的な介入なしに牽引要素30が飛行機に向かって移動できるように、リニアモータモードの動作と同じように連続して励起される。このような電動運動は、牽引要素管理案内システムによって自動的に行われてよい、又は部分的に、例えば固定子コイル命令/制御システムに作用する遠隔制御を行うオペレータの制御下で行われてよい。
【0088】
牽引要素30が飛行機に固定される前に予め磁化されていない場合、磁化ステップが行われる。この磁化ステップでは、牽引要素は、空中浮揚高さで地上より上に配置され、その後、空中浮揚高さで移動される。所望高さでの位置決めは、図示されていないが、地上又は飛行機上に配置される適切なシム(後で取り外される)によって、又は一時的昇降システムによって行われてよい。次に、牽引要素30の始動コイル37によって、又は滑走路に組み込まれた始動コイル若しくは固定子コイルによって、磁性物質を磁化するのに必要な初期磁場が生成され、その後、例えば、磁性物質を含むクライオスタットチャンバに液体窒素を充填することによって、磁性物質31の温度が臨界温度Tc未満まで冷却される。磁性物質が所望の温度に達して、その温度が安定すると、初期磁場は打ち消される。
【0089】
この段階で、飛行機20は、この例では、着陸装置21の車輪で走行することにより、牽引要素30によって移動できる状態になる。
【0090】
第2のステップでは、飛行機20の下の滑走路に組み込まれた固定子コイル12(地上に沿った所望の経路に沿って延在する固定子コイルがリニアモータの固定子を形成する場合、牽引要素が回転子である)の適切な励起は、監視システム14からの情報に基づいて、コイル命令/制御システム13によって行われ、その結果、飛行機は、所望の走行速度で地上のさまざまな位置間、例えば、乗客搭乗エリアのような別の駐機地点まで移動できる。
【0091】
固定子コイルを備える2つ以上の滑走路に到達する複数の経路を辿る可能性もあり、どの固定子コイルが励起されるかを選択することにより、辿る経路が決まることに留意されたい。従って、「不可視」ルートが形成され、これらのルートはコイル命令/制御システムによって管理される。
【0092】
牽引要素を飛行機に結合するデバイスが適切であれば、飛行機は飛行機の前方又は飛行機の後方のいずれの方向にも同じくらい容易に移動でき、飛行機の後方に向かって移動する状況は、乗客が通路を使用して搭乗するエリアから飛行機が出発しようとしている時に特に有益である。
【0093】
この第2のステップでは、飛行機20は更に、必要に応じて、駐機場所から離陸滑走路10の出発点まで移動される。
【0094】
一実施形態では、監視システム14は、飛行機20から送信された要求であり、他の飛行機の地上移動の可能性を考慮に入れた要求に基づいて、飛行機20の移動の指示を送信する。
【0095】
別の実施形態では、牽引要素30によって牽引される飛行機20の移動は、オペレータ(例えば、飛行機のパイロット)によって絶えず指揮される。飛行機を移動させるために、複数の滑走路の中から選択する可能性がある場合の方向に関する操縦命令及び速度に関する操縦命令がオペレータからコイル命令/制御システム13に送信される。この実施形態では、現在実施されている方法で飛行機がエンジンを使用して又は牽引車両によって移動される場合と同様であるが、必要に応じて、監視システム14が介入してオペレータの指示を変更する(例えば、安全性確保のために飛行機を停止させる)ことができる形で、飛行機は飛行機のパイロット一人の指示又は地上のオペレータの指示の下で移動される。
【0096】
飛行機20と監視システム14との間のデータ及び命令の通信及び送信は、任意のデータ送信手段によって行われる。例えば、データ送信は、無線リンク15(既存のデータリンク型のリンクとしてよい)によって行われる。また、データ送信は、例えば、コイル電力制御ネットワークを使用して、デバイスに割り当てられた手段によって行われてよい。
【0097】
飛行機20が牽引要素30によって離陸滑走路の出発点まで移動される第3のステップで、飛行機は離陸段階を開始する。
【0098】
一実施形態では、離陸は、飛行機が飛行中に使用する推進手段のみを使用して、従来の方法で行われる。
【0099】
このモードで、飛行機20のパイロット又は監視システム14は、コイル命令/制御システムを介して、牽引要素30を切り離して、牽引要素30を待機位置又は牽引される別の飛行機まで移動させる命令を出す。
【0100】
その後、パイロットは、エンジンを始動させた後に(適切であれば、離陸滑走路10に到着する前の牽引ステップで行われている)、通常の離陸を行う準備ができた状態になる。
【0101】
別の実施形態では、固定子コイル12を備える離陸滑走路10では、牽引要素30が滑走路10の軸に沿って飛行機20を加速させる方法で上記固定子コイルに電力が供給され、そのことによりカタパルト効果が生成される。
【0102】
牽引要素30の作用が飛行機の推進エンジンの作用と結合されることにより、推進エンジンが飛行機に期待離陸推力を供給するのに必要な離陸瞬間の離陸速度Vloになるまで飛行機20を加速させることができる。
【0103】
ここで、離陸推力を生成するために、エンジン(ジェットエンジン又はプロペラエンジン)が必要になる前のエンジンがアイドリング状態の時に牽引要素30によって離陸滑走路に沿って飛行機を加速させる初期段階は、滑走路10上にある異物を吸い込む危険性を制限でき、ひいては、ジェットエンジン又はプロペラの信頼性又は耐久性を向上させることができることに留意されたい。
【0104】
示されている実施形態では、離陸速度に達して、飛行機20が離陸すると、牽引要素30は飛行機から外され、その後、コイル命令/制御システム13が監視システム14から受信した指示に従って牽引要素30を減速させ、次に使用するために戻るように案内する。
【0105】
有利には、飛行機のパイロット又はシステムは、必要に応じて、離陸中止決定速度V1に達する前に緊急停止命令を送信するために、コイル命令/制御システムと通信する。
【0106】
緊急停止命令が出された場合、それ以上牽引要素に牽引力を生じさせず、それと同時に、牽引要素を損傷しないように牽引要素を持ち上げた状態で維持するように、固定子コイルに電力が供給され、必要であれば、牽引要素30上に生成される力の向きを逆にして、飛行機20の緊急制動に寄与するように、滑走路10の固定子コイル12に電力が供給される。
【0107】
飛行機の飛行後、飛行機が着陸して着陸滑走路から離れると、監視システム14は、牽引要素30を飛行機20に向けて移動させ、牽引要素は、予定されている駐機エリアまで飛行機を牽引するために飛行機に固定される。
【0108】
飛行機が誘導路エリアの場合のように低速で移動されているのか、又は関係する力及びエネルギが実質的により大きくなる離陸時に飛行機が加速されて高速で移動されているのかに応じて、異なる牽引要素及び/又は異なるタイプの固定子コイルを使用できることが分かるであろう。
【0109】
説明されている実施形態及びその実施において、牽引要素30はデバイス100の地上のサブアセンブリに属する。
【0110】
別の例示的な実施形態では、牽引要素30は飛行機20に固定され、牽引要素30は、デバイスを操作するために飛行機から取り外す必要のない部分を形成する。
【0111】
この例では、少なくとも牽引要素30が飛行機の無い状態で移動されている時に、牽引要素30が監視システム14によって監視されない場合、また牽引要素と飛行機との接続/分離手段を有する必要がない場合には、デバイス100の操作は簡単になる。
【0112】
この場合、牽引要素30は永久的に飛行機20(例えば着陸装置21)に固定される。
【0113】
この実施形態では、デバイス100は更に、牽引要素30の磁性物質31が常に牽引要素の動作に必要な温度及び磁性状態であれば、飛行機が着陸時の走行中に飛行機にブレーキをかけて飛行機を案内できる。
【0114】
一実施形態では、図8の飛行機に概略的に示されているように、牽引要素30は車輪のない着陸装置システムによって飛行機20に固定される。この場合、車輪は、固定子コイル12を組み込んだ地上から空中浮揚できる牽引要素による支持機能で代替され、また空中浮揚状態では牽引要素30の摩擦が全くないため、移動に必要な力を制限する機能で代替される。
【0115】
着陸装置システムは、有利には、牽引要素の磁性物質31に関して温度及び磁性状態が維持されていないために、又は滑走路10、18a、18b、18c内の固定子コイル12に電力が印加されていないために、牽引要素30が空中浮揚状態でない場合に、飛行機の重量がかかる地上支持要素を備える。これらの支持要素は、飛行機の重量を分散するのに十分な表面積を有し、それと同時に、牽引要素を地面との摩擦がなく確実に空中浮揚させることができるように牽引要素の磁性物質を磁化するために、上記磁性物質を所望の位置に配置するために上記磁性物質に対して上げ下げ可能である。
【0116】
デバイス100のこの実施形態では、滑走路は、飛行機の各牽引要素30に対して少なくとも1つの固定子コイル列を備え、固定子コイル列は、同じ列に沿って並ぶとは限らない、つまり、固定子コイル列は、飛行機が地上移動する方向にそろわない。この状況は、通常、飛行機が従来の飛行機の各翼着陸装置の場所の牽引要素と、前部着陸装置の場所の牽引要素とを備える場合に見られる。つまり、この場合、辿る1つの同じ経路に対して3つの固定子コイル列が決まる。
【0117】
しかし、牽引要素と車輪を含む方法を組み合わせることによって特定の飛行機構造を想定できる。
【0118】
例えば着陸装置は、辿る経路が2つの固定子コイル列のみを使用するように、牽引要素と車輪付き補助前部着陸装置とを有する翼取り付け着陸装置で形成されてよい。
【0119】
例えば、飛行機の長手方向軸に沿って並んだ複数の牽引要素を有する着陸装置が形成されてよく、これは、固定子コイル列が1つのみ必要な単一トラック着陸装置と呼ばれ、飛行機の横安定性は、例えばロッカービーム式の補助着陸装置によって得られる。
【0120】
デバイスのこの実施形態では、特に、飛行機が地上移動しながら完全に空中浮揚状態にある時には、滑走路は着陸装置のタイヤによって地面に加えられる圧力に関係した走行力による応力を受けなくなることに留意されたい。
【0121】
本発明のデバイス100により、少なくとも1つの滑走路と少なくとも1機の航空機とを備えるアセンブリであって、航空機を巡回滑走路では低速で、離陸/着陸滑走路では高速で地上移動させるために、高性能で音の静かな手段を使用することによって、航空機が地上移動している時にエンジンの使用を避ける又は制限するアセンブリが得られる。
【0122】
デバイス100は、低速走行段階で使用するのに航空機推進エンジンと代替可能であり、離陸時の推進エンジンを支援する際に、燃料消費量、化学汚染及び騒音公害に関する利益が得られる。
【0123】
航空機は、図示されている例のように飛行機とすることができる、又は、少なくとも特定の条件下で、離陸時にローリング段階を有する別のタイプの航空機(例えばヘリコプタ)とすることができる。
図1
図2a
図2b
図2c
図3
図4
図5
図6
図7
図8a
図8b
【国際調査報告】