(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-526376(P2016-526376A)
(43)【公表日】2016年9月5日
(54)【発明の名称】孤発性細胞(Sporadic cells)を体液から分離するための方法、および前記方法を実行するための装置
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/24 20060101AFI20160808BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20160808BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20160808BHJP
C12N 5/073 20100101ALI20160808BHJP
C12M 1/26 20060101ALI20160808BHJP
C12N 5/095 20100101ALI20160808BHJP
【FI】
C12Q1/24
G01N33/48 P
G01N33/48 M
C12N5/071
C12N5/073
C12M1/26
C12N5/095
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-518839(P2016-518839)
(86)(22)【出願日】2014年5月6日
(85)【翻訳文提出日】2016年1月21日
(86)【国際出願番号】CZ2014000052
(87)【国際公開番号】WO2014198242
(87)【国際公開日】20141218
(31)【優先権主張番号】2013-456
(32)【優先日】2013年6月14日
(33)【優先権主張国】CZ
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】515327487
【氏名又は名称】メタセル, エス.アール.オー.
【氏名又は名称原語表記】METACELL, S.R.O.
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】ボベック,ウラジーミル
(72)【発明者】
【氏名】コロストヴァ,カタリーナ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
2G045AA01
2G045AA24
2G045AA26
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(57)【要約】
吸収材料と密接に接触している濾過膜に基づいて、悪性滲出からの血液、気管支肺胞洗浄液、腹腔洗浄液および羊水などの体液から生存孤発性細胞を穏やかに分離する方法。本方法を使用すると、例として、循環および播種性の腫瘍細胞、子宮内膜細胞および循環栄養膜細胞を単離することが可能であり、その後の検出、定量、特徴付け、および特に前記細胞の培養が可能となる。前記方法を実行するための装置がさらに開示される。
【選択図】
【
図1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の体液中に存在する孤発性細胞を、前記細胞の直径よりも小さい開口部を有する濾過膜でそれらを捕獲することによって分離する方法であって、前記濾過膜の第1の面に存在する前記体液中に存在する前記孤発性細胞から、孤発性細胞を含まない前記体液が、毛管力によって前記濾過膜を通して前記濾過膜の第2の面と密接に接触して配置される吸収材料へと引き込まれることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記体液中に存在する孤発性細胞が、血中循環腫瘍細胞、播種性腫瘍細胞、子宮内膜細胞および循環胎児栄養膜細胞であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記体液が、末梢もしくは中枢血、骨髄、腹水、胸腔滲出、腹腔洗浄液、気管支肺胞洗浄液および羊水から選択されることを特徴とする、請求項1〜2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記体液が、黒色腫、乳癌、胃癌・結腸癌・膵癌および肝癌などの胃腸管の癌、泌尿生殖器腫瘍、および軟組織腫瘍、例えば頭頚部腫瘍など、ならびにその他の固形腫瘍の患者の体液であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記末梢血が、抗凝固処置された末梢血として収集されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
分離の前に、体液を含有する沈殿物が、前記沈殿物を溶解するために、緩衝液、特にPBSで希釈されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記分離に続いて、培養容器において前記濾過膜で分離された前記細胞、または前記濾過膜から洗い落とした前記細胞の検出および/または定量および/または培養を実行することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
分離の前に、前記体液をRPMIなどの培養液で希釈して、その後の培養の成果を高めることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
先行する請求項のいずれか一項に記載の方法を実行するための装置であって、前記装置が、吸収材料(2)と密接に接触して配置される濾過膜(1)を備えることを特徴とする、装置。
【請求項10】
前記濾過膜(1)の孔径が8μmであることを特徴とする、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記濾過膜(1)がポリカーボネート製であることを特徴とする、請求項9〜10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記吸収材料(2)が、セルロース、上質紙、織物繊維、またはそれらの組合せからなることを特徴とする、請求項9〜11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記装置が、前記体液中に存在する孤発性細胞の混合物を受け取るための上部と下部の開いた中空の容器(3)を含み、前記容器(3)の下側の周囲が前記膜(1)の上側の第1の面の少なくとも一部と密接に接触し、前記膜(1)の下側の第2の面の少なくとも一部が前記吸収材料(2)と密接に接触し、前記膜(1)が前記容器(3)の内部空間を前記吸収材料(2)から分離することを特徴とする、請求項9〜12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記吸収材料(2)が、上蓋(5)を備えた収集ベース容器(4)の中に配置され、その蓋に外周膜ホルダー(6)が上部から解除可能に係合し、前記ホルダー(6)は、圧力環(7)によって、その円周に沿って前記膜(1)を解除可能に密接に保持し、上からのリザーバ(3)に対し、前記ホルダー(6)は、前記ホルダー(6)の前記円周に沿って密接に取り付け可能であることを特徴とする、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記検出および/または定量化および/または培養を実行するために、前記分離された細胞が、請求項14に記載のホルダー(6)に固定された前記濾過膜(1)に移されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪性滲出(腹水、胸腔滲出)からの血液、気管支肺胞洗浄液、腹腔洗浄液および羊水などの体液から生存孤発性細胞(希少細胞)を穏やかに分離する方法を提供する。本方法を使用すると、例として、循環(CTC、血中循環腫瘍細胞)および播種性の腫瘍細胞(DTC、播種性腫瘍細胞)、子宮内膜細胞および循環栄養膜細胞(CFTC、循環胎児栄養膜細胞)を単離することが可能であり、それはその後の検出、定量、特徴付け、および特に培養を可能にする。
【背景技術】
【0002】
転移巣は、癌腫の患者において最も一般的な死因である(Birchmeier,1996)。転移の間に、腫瘍細胞は原発腫瘍から脱離して直接にまたはリンパ系を通じて血流に入り、二次器官に移動し、転移性沈着物を発達させる。転移性癌腫の患者におけるCTCの検出は、より悪い予後に関係している(Zharo 2011,Zhang 2012,Wang 2011)。
【0003】
その大きな臨床的重要性にもかかわらず、CTCの分子特性解析はまだ実施されていない。このことは、血液細胞の数と比較してCTCの出現頻度が極めて低いことに起因し得る。CTCは、上皮間葉転換(EMT)のプロセスによって作成され、これは上皮マーカーの発現の低下および間葉マーカーの発現の増加を特徴とする。これらの変化は、運動性の増加、浸潤および治療への抵抗性を促進する(Thiery 2002 Shook 2003 Christofori 2006 Jechlinger 2003)。CTC/DTCは、ミクロおよびマクロ転移性病巣作成の可能性を有する遠位器官に広がった腫瘍細胞の集団を表す。原発腫瘍由来の腫瘍細胞の一部ならびに/またはCTCおよびDTCは幹細胞の性質を有する(CSC、癌幹細胞)。癌幹細胞の集団は、自己再生の能力を有し、処置に対して抵抗性であり、悪い予後を意味する。
【0004】
CTC/CSCは、診断、予後の決定、疾患治療効果およびリスクをモニタリングすることのできる大きな可能性を有する(Mani 2008)。
【0005】
腫瘍のリンパ節および血液への早期伝播は、血中循環腫瘍細胞(CTC)、および播種性癌細胞(DTC)によって実現される。CTCは、単純に原発腫瘍を取り扱うことによる原発腫瘍の切除が原因で患者に起こるとも記載されている。
【0006】
CTCの検出は確かに癌の予後因子である。CTC検出は潜在的に、診断するために、または、腫瘍の転移拡散の早期検出のための、そして個々の患者において治療の有効性を設定およびモニタリングするための侵襲性生検の代わりとして使用することができる。CTCの量および特徴は、生存の予後因子または治療応答の予測因子であり得る。CTCの長期特徴付けは、動的生理反応をより良く評価するための機会を提供することができる。また、イメージングによって見出した既にモニターした変化と比較したCTCの数の変化は、CTC分析がイメージング法よりも生存の評価に重要であり得ることを示唆する。
【0007】
一般に、転移性結腸直腸癌、前立腺癌、卵巣癌、乳癌において検出されたCTCが有害な予後値であるという確かな証拠がある。また、静脈血栓塞栓症の形成におけるCTCの重要性に関する研究もある。転移性乳癌で末梢血中にCTC(n≧1)が検出された患者では、CTCのない患者と比較した場合に、最大で4倍高い血栓症の発生率が観察された(Mego 2009)。CTCは、組織因子の発現および放出を通じて凝固の活性化に関与している可能性がある(Davila 2008)。CTCは、100億個の血液細胞に対して約1個の細胞という非常に少ない量で血液中に存在する(Pantel 2001、Ziegelschmidt 2005)。
【0008】
現在利用可能な技術は、CTCの検出に異なる方法:密度勾配分離、免疫磁気分離法、勾配免疫磁気分離法を使用する。これらの方法は、細胞に特異的であり、圧力濾過方法よりも穏やかであるが、抗体と結合すると細胞膜上の受容体および抗原と相互作用し、従って信頼できる生存可能なCTC/DTCを選択することは困難である。
【0009】
孤発性細胞の存在は、RT−PCRによって間接的に検出することもできるが、このアプローチは多くの場合、腫瘍特異的マーカーの低い発現量ならびにCTCおよびDTCに典型的な抗原の非特異性によって制限される(Andreopoulou 2012)。その上、原発腫瘍とCTC/DTCとの間で表面抗原の発現に高度の不一致が判明しており、CTC/DTC分離のためのこれらのマーカーの使用には信頼性の大きな欠如が示唆される。
【0010】
大部分の上皮腫瘍の分離した孤発性CTC細胞のサイズが血液細胞のサイズよりもはるかに大きいとすると、CTC分離の効率的な方法の1つは、濾過膜を通過する濾過プロセスに基づく。この際、分離した細胞は膜の上に残り、その他の細胞は膜を通過する(Paterlini−Brechot et al.2007,Vona 2000)。CTC/DTCのサイズに基づく分離方法を用いることにより、癌疾患の間はその発現が変動する表面抗原および受容体に依存することのない、CTC/DTCの検出および分離が可能になる。
【0011】
最近使用される濾過方法には、圧力かまたは真空によって促進される濾過プロセス(Mikulova、2011)が含まれる;従って濾過勾配は圧力を変化させることによって作り出される。濾過方法の一般的な不利点は、沈殿物の蓄積、および濾過膜での沈殿があることであり、それはフィルタの詰まりを引き起こし、そのことにより沈殿物中の血液細胞を捕捉することになる。その結果、沈殿物および血液細胞は、顕微鏡でのフィルタ上の孤発性細胞の存在の評価可能性を相当に悪化させる。捕捉した血液細胞は、洗浄によって部分的に除去することができるが、沈殿物はフィルタ上に残る。この理由のために、さらなる抗凝固剤が濾過装置に添加される(採血中の管だけではない)。基本的な不利点は、大部分のその他の方法と同様に、細胞の生存力を傷つけることであるので、細胞は通常さらに分裂しないし、それらのその後の培養は不可能である。
【0012】
現在用いられている全ての方法は、その他の不利点も有する。例えば、大量の血液分析を必要とすること、研究所での作業がかなりの割合であること、評価に時間がかかること(試料処理に数時間を要する)、または、使用する装置および試薬が高価であること、および/または、それらの方法が、日常のCTCおよびDTC検出方法に必要な信頼性、感受性、効率、特異性および標準化を欠いていることである。
【0013】
そのため、細胞、特に孤発性細胞を体液から分離するための方法が望ましい。前記方法は再現性があり、顕微鏡によってフィルタ上に存在する孤発性細胞の良好な評価を示し、それは処理時間、装置および操作する人員に対する要求が少なく、試験される試料の数が少ない場合でさえ安価であり、有効期限の限られた高価な試薬を必要としない。分離のプロセスでは、受容体および抗原に対してどんな相互作用も起こるべきではない。生存細胞および信頼できるCTC/DTCの選択を可能にし、おそらくはその後のインビトロおよびインビボ実験で前記細胞を使用するために、プロセスは細胞に対して穏やかでなければならない。
【0014】
さらに、大部分の研究室に入手可能であり、潜在的に病理学的材料の無菌の取扱いに適している、この単離プロセスを再現可能に実行するための、容易に製造される装置が望ましい。前記装置は、その後の検出および/または定量化および/または濾過膜上の分離した細胞を培養することに可能性を提供するはずであり、使い捨て可能なまたは再使用可能な変形形態として利用可能であり得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Birchmeier,1996
【非特許文献2】Zharo,2011
【非特許文献3】Zhang,2012
【非特許文献4】Wang,2011
【非特許文献5】Thiery,2002
【非特許文献6】Shook,2003
【非特許文献7】Christofori,2006
【非特許文献8】Jechlinger,2003
【非特許文献9】Mani,2008
【非特許文献10】Mego,2009
【非特許文献11】Davila,2008
【非特許文献12】Pantel,2001
【非特許文献13】Ziegelschmidt,2005
【非特許文献14】Andreopoulou,2012
【非特許文献15】Paterlini−Brechot et al.2007
【非特許文献16】Vona,2000
【非特許文献17】Mikulova,2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
先行する方法の欠点は取り除かれ、設定条件は、吸収材料と密接に接触して配置された濾過膜を用いる、本発明によるヒトおよび動物生物の体液から孤発性細胞を分離する方法によって満たされた。
【課題を解決するための手段】
【0017】
圧力/真空濾過とは対照的に、毛管力(毛管現象)を利用する濾過の間に、血液または血漿などの体液由来のタンパク質の凝固は最小限で生じ、そのため通常の採血用の採血管に添加される抗凝固剤(EDTA)に、さらなる抗凝固剤を添加する必要はないことが見出された。血塊が体液中に既に存在する場合、凝固を防ぐためには少量のPBSなどの緩衝液による希釈で十分である。その結果、濾過膜は詰まっておらず(圧力/真空濾過において通常起こるように、特に濾過の初めに)、分離はより滑らかで、より速く、完全である。
【0018】
少量の沈殿物は、前記沈殿物中に保持された赤血球などの少量の血液細胞をもたらし、この際、基本的に沈殿物それ自体と血液細胞は、フィルタ上の孤発性細胞の存在の検出を破壊する。明らかに、孤発性細胞の存在の正確な評価は重要である;濾過時間は、用いた濾過面積、すなわち濾過膜の面積と吸収材料の面積によって極めて容易に調節することができる。
【0019】
さらに、膜の上で捕捉された孤発性細胞は、機械的かつ化学的に未変化のままであり、そのため生存可能であることが見出された、このことは、現在の結果の展望から、その他の方法によっては実行できない、これらの細胞のその後の効果的な培養を可能にする。
【0020】
さらに、体液の希釈のために、またはフィルタ上の孤発性細胞をすすぐために、それぞれ、分離の成功率を(および、目的が孤発性細胞をさらに培養することである場合、培養の成功率も)増やすために、RPMIなどの培地が直接使用され得、同時に濾過膜上の分離速度ならびに細胞生存力が保持されることが見出された。
【0021】
孤発性細胞を含まない濾過された体液は、濾過膜の孔を通過し、この際、濾過膜の孔よりも大きい要素は捕捉される(血液細胞の典型的なサイズは6μm未満であり、孤発性細胞のそれは10μmより大きい)。分離した孤発性細胞はそのサイズのために濾過膜上に留まり、その膜はその後、膜をまだホルダーに固定した状態で吸収材料から分離することができる。もう一つの実施形態では、膜はその後ホルダーから完全に取り外され得る。
【0022】
孤発性細胞を含まない体液が膜を通過する流れは、液体を吸収材料に吸い込む毛管力のおかげで連続的に促進される。濾過中に濾過された体液に加えられる、過圧力はフィルタの前になく、過小圧力(真空)はフィルタの後ろにない。流体は、どんな調節も必要とせずに、適当な速度でフィルタを通って吸収材料へと、毛管力によって吸われるだけである。(この文脈では、体液カラムの高さによってフィルタにかかる静水圧は無視される)。毛管力の量は、例えば、フィルタの後に真空を用いるかまたはフィルタの前に過圧力を用いる方法において頻繁に観察されるように、濾過膜の前または濾過膜上での凝固がなく、流体の連続的な濾過を引き起こす。
【0023】
本発明による溶液の利点は、低濃度の孤発性細胞でさえも捕捉し、分離プロセスを促進する高い効率であり、従ってまた、検出速度および培養効率の増加でもある。本発明による方法を用いる場合、孤発性細胞と受容体および抗原との相互作用は観察されない。そのために信頼でき、生存可能なCTC/DTCを選択することが可能であり、それはその後にインビトロおよびインビボ実験で使用することができる。本方法は、濾過した細胞を、さらなる分析のために非常に良好な生命条件で保持させる。特別な研究室の装置は必要でない。本方法は、比較的大量の血液またはその他の体液(例えば50ml)の処理を可能にする。
【0024】
したがって、本発明は、孤発性細胞の直径よりも小さい開口部を有する濾過膜でそれらを捕捉することによる、患者の体液中に存在する孤発性細胞の分離のための方法を提供し、この際、濾過膜の第1の面に存在する前記体液中の孤発性細胞から、孤発性細胞を含まない体液は毛管力によって濾過膜を通過して、前記濾過膜の第2の面と密接に接触して配置される吸収材料へと吸い込まれる。
【0025】
体液中に存在する孤発性細胞は、例えば血中循環腫瘍細胞、播種性腫瘍細胞、子宮内膜細胞および循環胎児栄養膜細胞である。
【0026】
体液は、ヒトまたは動物身体から直接に(採取により)または間接的に(任意の種類のその後の処置によって)得られる任意の流体である。それは好ましくは、中枢もしくは末梢血、骨髄、腹水、胸腔滲出、腹腔洗浄液および羊水からなる群から選択される。
【0027】
試験対象は、好ましくは原発性癌または転移性疾患の患者であり得る。
【0028】
試験試料は、実験的転移モデルとして認可された動物から首尾よく採取することもできる。
【0029】
もう一つの実施形態では、末梢血は抗凝固処置された末梢血、例えば、EDTAなどの抗凝固剤を含む通常の採血管に採取された血液である。
【0030】
体液が分離の前に沈殿物を含む場合、沈殿物を溶解し、濾過/分離を容易にするために、濾過した体液は好ましくは適当な緩衝液、例えばPBS(リン酸緩衝液を含む生理的塩類溶液)および/またはTrypLE(商標)で希釈されることが好ましい。
【0031】
しかし、本発明は、採血中の血塊形成を防ぐための任意の公知の方法の使用を排除するものではない。一例は、段階的な添加と、所望により酵素溶解(例えば、インビトロジェン社TrypLE(商標)を用いる)であるが、好ましくは溶解は使用されない。
【0032】
血液沈殿物が存在する場合に濾過を改善するために、末梢血をPBS溶液で、または培養液でさらに希釈してもよい。血液沈殿物およびその他の粗い不純物を除去するために、血液またはその他の体液を、例えば、0.1mmの孔径をもつ篩で濾過し、次にそれをPBSで数回洗浄してもよい。その後、残りの血液量を添加する。最後に、採血管をPBSですすぎ、その量をその篩で濾過する。
【0033】
次に、分離した孤発性細胞を、顕微鏡でより良く評価するために、フィルタ上を、例えば、PBSなどの緩衝液によるかRPMIなどの培地によってすすいでよい。真空濾過と比較して、本発明による方法は、全ての面で実質的な利益を提供する。
【0034】
次に、分離した細胞は、例えば、顕微鏡によって、好ましくは免疫組織化学染色またはその他の染色の後に、さらに分析され、定量化され(例えば、顕微鏡によって、手作業でまたは自動的に)あるいは培養されるかまたは別の場合には処理されることができる。その他の実施形態では、分離した細胞の検出および/または定量化および/または培養は、分離の後に、直接濾過膜上でまたは培養容器中で実行される。
【0035】
孤発性細胞を含むフィルタは、後で分析するために用いられる従来法によって凍結、乾燥または固定されて長期間保存されてよい。
【0036】
既に述べたように、特に孤発性細胞のその後の培養が計画される場合には、分離の前に、分離した細胞のその後の培養で用いる培養液、例えばRPMI培地などによって体液を直接希釈してよく、それにより濾過およびその後の培養の成功率をさらに高めることができる。
【0037】
孤発性細胞のその後の培養は、従来法で、細胞をフィルタから洗い落とし、37℃および5%CO2のインキュベータ中の従来の培養皿またはプラスチックもしくはガラス瓶中で実施されることができる。この目的のため、例えば、フィルタを2×1mlのRPMI培地ですすぎ、細胞を含む培地を24ウェルプレートに移し、細胞はプラスチックプレートの表面上で、または挿入した顕微鏡カバーガラスの上で直接培養することができる。細胞の免疫組織化学および免疫蛍光分析が必要な場合はカバーガラス培養が好ましい。
【0038】
培養は、好ましくは、捕捉した細胞を含有するフィルタを培養皿の中の培養液に挿入することによるか、または培養皿の中に挿入した、捕捉した細胞を含むフィルタに培養液を注入することによって実行される。
【0039】
もう一つの好ましい実施形態では、培養は、分離の直後に、下に記載されるホルダーに取り付けられた濾過膜を、例えば、増殖培地を各ウェルに加えた6ウェル培養プレートに移すことによって実行される。その後、細胞は基準組織培養として培養することができる。
【0040】
本発明の一実施形態では、体液は、黒色腫、乳癌、胃腸管の癌、例えば胃癌、結腸癌、膵癌および肝癌など;泌尿生殖器腫瘍、および軟組織腫瘍、例えば頭頚部腫瘍など、ならびにその他の固形腫瘍の患者の体液である。
【0041】
本発明の方法および装置は、例えば、末梢もしくは中枢血、胃腸管(食道、胃、大腸および小腸、肝臓、膵臓、胆嚢および胆道系)の腫瘍細胞、泌尿生殖系(卵巣、子宮内膜、前立腺、膀胱、精巣)の腫瘍、呼吸器系(肺、縦隔、上気道)の腫瘍、神経内分泌系の腫瘍、骨腫瘍、頭頚部腫瘍、乳腺腫瘍、主な局在のない転移性腫瘍、およびその他のあまり頻繁でない固形腫瘍からの、血中循環腫瘍細胞(CTC)の分離のために使用されてよい。
【0042】
本発明による方法および装置は、腹水からの、胸腔滲出からの、痰からの、洗浄(気管支肺胞洗浄、腹膜および胸腔の洗浄、後腹膜の洗浄など)からの選択された造血器疾患、神経内分泌腫瘍、播種性腫瘍細胞、(血液および洗浄からの)循環および播種性子宮内膜細胞にも使用することができる。
【0043】
重要な利用は、血液からまたは羊水(amniocentic fluid)からの循環胎児栄養膜細胞(CFTC)の分離にも当てはまる、なぜならCFTCは妊娠第5週から末梢の母体血中に存在し、妊娠の終わりの後の血液循環中に残らないためである(Bianchi et al.,1996)。そのためCFTCは、非侵襲性の出生前診断(PND−NI)による試験のためのDNA/RNAの非常に魅力的な供給源である。CFTCおよび絨毛穿刺(choriocentesis)に基づく試験を比較することにより、両方の100%の診断感受性および特異性がCFTCに基づく試験について確認された。CFTC細胞が血液細胞とは異なる基本特性は、そのサイズである(CFTC細胞の標準的なサイズは10μm以上に達する)。現在の報告は、妊婦は99%の確率で各細胞が15μmよりも大きく、その細胞は胚由来であり、従ってCFTCであることを示す(Mouawia,2012)。この新しい方法論のために、損傷を受けていないCFTCを再現性良く分離するし、それらをさらなる分析に使うことが現在可能である。
【0044】
CTCおよびDTCの検出は、動物腫瘍モデルで実行することができ、CTC/DTCは1種類を超える腫瘍をもつ個体で検出することができる。
【0045】
分離後、細胞は、免疫組織化学方法と遺伝子発現のための単一細胞法の両方によって処理されてよい。
【0046】
本発明はさらに、上記の方法によって患者の体液中に存在する孤発性細胞の混合物の分離を実施するための装置を提供し、その装置は吸収材料と密接に接触して配置されている濾過膜を含む。
【0047】
膜の幾何学は、通常、膜細孔のサイズ、形状および密度を含む。膜フィルタの有効性は、従って膜細孔のサイズ、形状および密度を調節することによって最適化することができる。血液細胞よりも腫瘍および孤発性細胞を捕捉することを好むような膜の構成が選択される。濾過膜は、好ましくは寸法が10μmを超える孤発性細胞を捕捉し、6μmまでの血液要素を送るような膜である、すなわち、膜は、7〜10μm、例えば、8μmまたは同様の値、例えば、製造業者によって申告された±1μmの範囲内の孔径を有する。濾過膜は、柔軟性および生体適合性という利点を提供するポリカーボネートなどの生体適合性材料で作成されていることが好ましい。
【0048】
凝固作用を最小化し、濾過速度を増加させることは、利用可能な濾過面が最大の、より大きなフィルタを用いることによってさらに達成することができる。例えば、孔径が8μm、膜直径が25mmのポリカーボネート膜を用いることができる。
【0049】
用語「密接な接触」とは、膜を通して吸収材料への毛管現象が影響されないような濾過膜と吸収材料の密接な接触をさし、つまり膜と吸収材料との間の界面(膜の細孔を通じてのみ濾過された液体と直接接触している)への空気のアクセスは、作業の間、妨げられている。このことは、例えば、膜の端部、または適した装置の中に固定された膜の端部を吸収材料の表面に押すことにより、あるいは、吸収材料の柔軟な表面にわずかな圧力下で適したホルダーに取り付けられた膜の端部を押すことにより、達成することができる。
【0050】
吸収材料は十分な吸収能を有し、変動する粘度の体液中に存在する全ての血液要素およびその他の要素を滑らかに吸収することができ、吸収剤は、主にパルプ、上質紙、織物繊維、または特にそれらの組合せで構成される。
【0051】
濾過された体液の容積は、吸収材料の吸い込み能力およびその容積によって制限される。装置のサイズおよび/または容積ならびに吸収材料の特徴は、そのため使用目的に適合させることができる。有利には、一つの装置を用いて50ml以上の容積を濾過することができる。この方法および装置は、最小量の血液、例えば1ml未満などでさえも働くが、濾過された体液の容積を増加させると孤発性細胞を捕捉する可能性が増加する。
【0052】
本発明による装置は、好ましくは体液中に存在する孤発性細胞の混合物を受け取るための上部と下部の開いた中空の容器をさらに含み、この際、容器の下側の周囲は膜の上側の第1の面の少なくとも一部と密接に接触しており、膜の下側の第2の面の少なくとも一部は吸収材料と密接に接触しているので、膜が容器の内部空間を前記吸収材料から分離している。容器の上縁は、好ましくは広げられて漏斗を得てもよく、かつ/または前記縁は血液中に既に存在する血塊などを除去するために篩を備えることもできる。
【0053】
上記の理由から、最大濾過面積を実現するために、膜の第1の面の少なくとも一部および膜の第2の面の少なくとも一部は、吸収材料と、膜によって分離された体液中に存在する孤発性細胞との間の接触面積を最大化する最大の面積で互いに向かい合って置かれる。
【0054】
もう一つの実施形態では、吸収材料は、上蓋を備えた収集ベース容器の中に配置され、その蓋に上部から外周膜ホルダーが解除可能に係合し、前記ホルダーは、圧力環によって、その円周に沿って膜を解除可能に密接に保持し、上からのリザーバに対してホルダーは前記ホルダーの円周に沿って密接に取り付け可能である。装置は、好ましくは使い捨て用に設計されており、膜および吸収材料を除く全ての要素を再使用するための装置の実施形態も除外される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】濾過装置の一実施形態を2つの図で説明する図である。
【
図2】濾過装置の一実施形態を拡大図で示す図である(吸収材料は図示せず)。
【
図3】ホルダーに膜を固定する一実施形態を示す図である。
【
図4】前立腺癌の患者の末梢血から分離したCTCのインビトロ細胞培養を示す図である。CTCは濾過膜で増殖させた。
【
図5】CTCの濾過膜でのインビトロ培養を示す図である。May−Grunwald染色法を血液学的分析に使用した。
【
図6】免疫組織化学による分離した細胞の処理(CTCをパン−サイトケラチンに対する抗体で染色した転移性前立腺癌の患者の血液から単離)を説明する図である。
【
図7】一対の分離したCTCを示す図である。CTCは、培養の過程で培養ウェルの底でフィルタを透過した(May−Grunwald染色法を分析に使用した)。
【発明を実施するための形態】
【0057】
略語:
CTC 血中循環腫瘍細胞
DTC 播種性腫瘍細胞
CFTC 循環胎児栄養膜細胞
NI−PND 非侵襲性出生前診断
PBS 0.15M NaClを含むリン酸緩衝溶液、本質的に緩衝生理食塩水
FBS ウシ胎児血清
EDTA Chelaton2、エチレンジアミン四酢酸
【実施例1】
【0058】
原発腫瘍の外科的除去を受ける患者の末梢血由来の前立腺癌における血中循環腫瘍細胞の定量
【0059】
5〜10mlの末梢血を、手術中に、EDTAを含む採血管(例えば、Vacuette K3E(REF 456 036)、S−monovette K3E(REF 02,1066,001)の中に採取する。血液は直ちに処理されるか、または4℃で最大24時間貯蔵される。
【0060】
濾過を実施するための装置の容器3に末梢血をピペットで徐々に適用する。膜1の第1の面に存在する血液を、8μmの孔径を有するポリカーボネート膜(PCTE)からなる直径25mmの濾過膜1(GE、ポリカーボネート、8.0μm、25mm)に通して濾過し、この際、該濾過膜1は、吸収材料2、パルプ(Pur−Zellin Hartmann)と密接に接触している。濾過プロセスは、濾過された血液の容積および血液粘度に応じて約5分かかる。
【0061】
さらに、いくつかの方法で進行することが可能である:
1.濾過後、ホルダー6に固定され、単離されたCTCを含む濾過膜1を、6−ウェル培養プレートの1つのウェルに移し、その中にRPMI増殖培地(4ml)、FBS(F2442、シグマ)で濃縮したRPMI(シグマ R8758)、および抗生物質(ペニシリン−ストレプトマイシン(P4458、シグマ)、アンホテリシン(A2942、シグマ)を添加する。次に、捕捉した細胞を少なくとも14日間、37℃、5%CO
2で3日毎に培地交換をして通常の組織培養として培養する。
成長した細胞培養を、May−Grunwald免疫組織化学染色の標準プロトコールに従って染色した。倒立光学顕微鏡から得た写真を
図4に示す。
図5は、DAPIを含むProlong Gold(商標)でカバーした、前立腺癌のCTC(パン−サイトケラチン−FITC、シグマ)の免疫蛍光染色の変形形態の同様の配置を示す。
2.濾過後、単離されたCTCを含む濾過膜1を、1mlの培地ですすぎ、フィルタから洗い落とした細胞を含む前記培地を次に24−ウェルプレートに移し、そこでウェル底に敷いたスライドガラス(Assistent、N.1001、直径12mm)の上に培地を載せる。その後、少なくとも14日間37℃で、5%CO
2雰囲気中で、3日毎に培地交換をして、細胞はスライドガラスの上で直接成長し、それは免疫組織化学染色およびその後の免疫組織化学分析の間の取り扱いをさらに容易にする。
3.濾過後、単離されたCTCを含む濾過膜1を、1mlの培地ですすぎ、膜からの細胞を含む培地を、次に共焦点顕微鏡(リアルタイム・ビデオ・キャプチャ・タイムラプス・イメージング用のシステム、ライカ)用の培養容器(Nunc(登録商標)Lab−Tek(登録商標)ChamberSlide(商標)(4チャンバ)の中にピペットで移し、その後少なくとも14日間、37℃、5%CO
2雰囲気中で3日毎に培地交換をして通常の組織培養として培養する。
【0062】
上述の実施例の全てにおいて、膜上の孤発性細胞と膜からすすぎ落した孤発性細胞の両方の培養は、何の問題もなく行われた。同様に、本発明の方法によって単離したその他の種類の腫瘍由来細胞の培養も、何の問題もなく行われた。対照的に、当分野で公知の方法によって患者の体液から分離した孤発性細胞の培養の成功は、膜上でも膜なしでも、まだ証明されていない。
4.2mlのRPMIによってフィルタで捕捉された孤発性細胞の濾過およびすすぎの後、単離されたCTCを含有するホルダーに取り付けられた濾過膜1を、標準的なMay−Grunwald染色プロトコールによって直接染色し、孤発性細胞の存在を顕微鏡で評価する。
【実施例2】
【0063】
胸腔滲出の転移性卵巣癌における播種性腫瘍細胞の定量
【0064】
転移性卵巣癌の患者から取り出した胸腔滲出から播種性腫瘍細胞を次のように分離した:滲出をピペットで濾過装置の容器3の中に適用した。膜1の第1の面上の滲出を、実施例1のように8μmの孔径を有するポリカーボネート膜(PCTE)からなる直径25mmの濾過膜1に通して濾過し、該吸収材料2、パルプ(Pur−Zellin Hartmann)は、濾過膜1に直接隣接している。細胞をフィルタに固定し、標準的なMay−Grunwald染色プロトコールによって染色された、血液学的血液染色として分析し、顕微鏡で評価した。
【実施例3】
【0065】
濾過を実施するための装置
【0066】
図1〜3に示される濾過を実施するための装置の一実施形態は、孔径8μmのポリカーボネート濾過膜1を含み、それは、パルプからなる吸収材料2と前記膜の底面から密接に接触している。装置は、体液中に存在する孤発性細胞の混合物を受け取るための、上部と下部の開いた中空の容器3をさらに含む。液体の注入を容易にするために、容器3の上縁は、漏斗を形成するように広げられている。容器3の下側の周囲は、膜1の上側の第1の面と密接に接触しており、膜1の下側の第2の面は、吸収材料2と密接に接触している、そのため、膜1は容器3の内部空間を前記吸収材料2から分離している。
【0067】
吸収材料2は、上蓋5を備えた収集ベース容器4の中に配置され、その蓋の中に外周膜ホルダー6が上部から解除可能に係合している。ホルダー6は、蓋5に関して、そのために吸収材料2に関しても垂直に動かすことができ、そのことにより濾過膜1と吸収材料2は密接に接触することができるか、または膜1と吸収材料2のそれぞれの完全な接触のために圧力環7に圧力をかけて吸収材料2の中に押し込むことができる。ホルダー6は、解除可能に密接に糸を用いて圧力環7でその円周に沿って膜1を保持しているので、ホルダー6、濾過膜1、および圧力環7のセットは装置から全体として取り外すことができ、捕捉した細胞を染色するかまたは膜1上で直接培養することができる。容器3は、ホルダー6に、その円周に沿ってバヨネット接続によって解除可能に取り付けられている。
【実施例4】
【0068】
沈殿物の存在に関する2種類の濾過技術の比較
【0069】
この実験の目的は、濾過膜上の沈殿物および残留血液細胞要素の存在に主に依存する、濾過膜上で収集された孤発性細胞の存在の評価に関して、真空によって促進される、孤発性細胞を含有する血液細胞の濾過と、本発明による毛管力を用いる濾過とを比較することであった。
【0070】
両方のプロセスは、実施例1の場合のように、7〜8μmの公表された孔径をもつ膜と吸収材料を使用する。ほぼ等しい濾過時間を達成するために、異なるサイズのフィルタを使用した−直径7mmのフィルタを真空濾過に使用し、直径25mmのフィルタを毛管力を用いる濾過に使用した。
【0071】
実施例1の場合のように前立腺癌の患者から得た同じ容積の2mlの血液を、室温で2つの膜系で濾過した。濾過時間は、真空系を用いる濾過が87秒、本発明による毛管力を用いる濾過が97秒であった。
【0072】
フィルタ上で血液沈殿物が頻繁に出現することが真空濾過の場合に観察された、このことは、顕微鏡検査中にフィルタ上の孤発性細胞の存在を評価することを不可能にする。本発明による毛管力による濾過方法を用いる場合にはフィルタに沈殿物は存在しなかった。
【実施例5】
【0073】
すすぎの観点からの2種類の濾過技術の比較
【0074】
血液試料を乳癌の患者から採取したことを除いて実施例4の場合と同じ構成を使用した。本発明者らはこの種類の試料の真空濾過中に、主に沈殿物に捕捉された赤血球のために評価を困難にする血塊形成に頻繁に遭遇していたので、フィルタを血液の濾過後にさらに2mlの増殖培地(RPMI)で洗浄した。
【0075】
予測したように、沈殿物は真空濾過後にフィルタに残ったが、すすぐことが赤血球の残りを除去することに役立った。従ってRPMIですすいだ後のフィルタ上の孤発性細胞の存在の全体的な評価は、すすがない場合よりも良好である。RPMI培地を含むフィルタの全濾過およびすすぎ時間は、4分37秒であった。
【0076】
孤発性細胞毛管力を用いた後に、フィルタは、たとえすすぎがなくても、真空の使用後のフィルタよりも良好な評価を示した。RPMIですすいだ後のフィルタ上の孤発性細胞の存在の評価はさらに向上し、真空を用いるすすいだフィルタの評価よりも良好であった。RPMI培地を含むフィルタの全濾過およびすすぎ時間は、この場合でたったの39秒であった。
【0077】
したがって、血塊の発生と、また孤発性細胞の存在の評価の両方を考えて、孤発性細胞のフィルタ分離に毛管力を用いることの利点を確認した。さらに、RPMI培地ですすぐ工程での濾過時間の縮小も観察された。
【手続補正書】
【提出日】2015年7月2日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の体液中に存在する孤発性細胞を、前記細胞の直径よりも小さい開口部を有する濾過膜でそれらを捕獲することによって分離する方法の使用であって、前記孤発性細胞をその後の培養を可能にするため生きたまま、すなわち機械的かつ化学的に未変化のまま得るために、前記濾過膜の第1の面に存在する前記体液中に存在する前記孤発性細胞から、孤発性細胞を含まない前記体液が、毛管力によって前記濾過膜を通して前記濾過膜の第2の面と密接に接触して配置される吸収材料へと引き込まれる方法の、使用。
【請求項2】
前記体液中に存在する孤発性細胞が、血中循環腫瘍細胞、播種性腫瘍細胞、子宮内膜細胞および循環胎児栄養膜細胞であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記体液が、末梢もしくは中枢血、骨髄、腹水、胸腔滲出、腹腔洗浄液、気管支肺胞洗浄液および羊水から選択されることを特徴とする、請求項1〜2のいずれか一項に記載の使用。
【請求項4】
前記体液が、黒色腫、乳癌、胃癌・結腸癌・膵癌および肝癌などの胃腸管の癌、泌尿生殖器腫瘍、および軟組織腫瘍、例えば頭頚部腫瘍など、ならびにその他の固形腫瘍の患者の体液であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記末梢血が、抗凝固処置された末梢血として収集されることを特徴とする、請求項3に記載の使用。
【請求項6】
分離の前に、体液を含有する沈殿物が、前記沈殿物を溶解するために、緩衝液、特にPBSで希釈されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記分離に続いて、培養容器において前記濾過膜で分離された前記細胞、または前記濾過膜から洗い落とした前記細胞の検出および/または定量および/または培養を実行することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
分離の前に、前記体液をRPMIなどの培養液で希釈して、その後の培養の成果を高めることを特徴とする、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
患者の体液中に存在する孤発性細胞を、前記細胞の直径よりも小さい開口部を有する濾過膜でそれらを捕獲することによって分離するための装置であって、前記孤発性細胞をその後の培養を可能にするため生きたまま、すなわち機械的かつ化学的に未変化のまま得るために、前記濾過膜の第1の面に存在する前記体液中に存在する前記孤発性細胞から、孤発性細胞を含まない前記体液が、毛管力によって前記濾過膜を通して前記濾過膜の第2の面と密接に接触して配置される吸収材料へと引き込まれ、前記装置が、前記体液中に存在する孤発性細胞の混合物を受け取るための上部と下部の開いた中空の容器(3)を含み、前記容器(3)の下側の周囲が前記膜(1)の上側の第1の面の少なくとも一部と密接に接触し、前記膜(1)の下側の第2の面の少なくとも一部が前記吸収材料(2)と密接に接触し、前記膜(1)が前記容器(3)の内部空間を前記吸収材料(2)から分離することを特徴とする、装置。
【請求項10】
前記吸収材料(2)が、上蓋(5)を備えた収集ベース容器(4)の中に配置され、その蓋に外周膜ホルダー(6)が上部から解除可能に係合し、前記ホルダー(6)は、圧力環(7)によって、その円周に沿って前記膜(1)を解除可能に密接に保持し、上からのリザーバ(3)に対し、前記ホルダー(6)は、前記ホルダー(6)の前記円周に沿って密接に取り付け可能であることを特徴とする、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記濾過膜(1)の孔径が8μmであることを特徴とする、請求項9または10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記濾過膜(1)がポリカーボネート製であることを特徴とする、請求項9〜11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記吸収材料(2)が、セルロース、上質紙、織物繊維、またはそれらの組合せからなることを特徴とする、請求項9〜12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記検出および/または定量化および/または培養を実行するために、前記分離された細胞が、請求項10に記載のホルダー(6)に固定された前記濾過膜(1)に移されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【国際調査報告】