特表2016-526674(P2016-526674A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2016-526674動力装置の炭化水素排出物の決定デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-526674(P2016-526674A)
(43)【公表日】2016年9月5日
(54)【発明の名称】動力装置の炭化水素排出物の決定デバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20160808BHJP
   H01J 49/40 20060101ALI20160808BHJP
【FI】
   G01N27/62 V
   G01N27/62 G
   G01N27/62 F
   H01J49/40
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-522397(P2016-522397)
(86)(22)【出願日】2014年6月18日
(85)【翻訳文提出日】2016年2月26日
(86)【国際出願番号】EP2014062864
(87)【国際公開番号】WO2015000704
(87)【国際公開日】20150108
(31)【優先権主張番号】202013005959.1
(32)【優先日】2013年7月3日
(33)【優先権主張国】DE
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】516003573
【氏名又は名称】フェアヴァルトゥングスゲゼルシャフト・フューア・エミスィオーンズアナリューゼ・ウンターネーマーゲゼルシャフト(ハフツングスベシュレンクト)
【氏名又は名称原語表記】Verwaltungsgesellschaft fur Emissionsanalyse UG(haftungsbeschrankt)
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100068526
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭生
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】マンフレート・ゴール
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041AA09
2G041CA01
2G041DA02
2G041DA09
2G041DA13
2G041EA03
2G041EA07
2G041FA07
2G041GA07
2G041GA12
2G041LA06
2G041LA08
(57)【要約】
本発明は、熱機関の、特に動力装置の炭化水素排出物の決定デバイスであって、液体からサンプル量を取り出すように設計される検査プローブ(21)と、サンプル量をイオン源装置(3)を通して測定装置(8)へ導く測定チャネル(22)とを有するデバイスに関し、ここで、測定装置(8)は測定されるべきスペクトルを1つの工程で測定するように設計される広帯域測定装置であり、イオン源装置(3)はソフトイオン化用に設計され、測定装置(8)は強度シグナルシーケンスを質量スペクトル全体に亘って形成する、同時測定「飛行時間」検出器または「マッタウホ−ヘルツォーク配置二重集束型セクターフィールド質量分析計」として設計される。短鎖分子から長鎖分子までのスペクトルの範囲全体に亘る迅速な測定が、ソフトイオン源と特許請求の範囲に記載の検出器との組み合わせにより、本発明によって達成される。これにより、強度シグナルシーケンスが得られ、これは生じた分子をスペクトル全体に亘って再現し、さらに、高い動的応答を有する。本発明では、前記検出器のタイプを用いることにより、別個の強度シグナルが、個別の分子質量ごとに提供され、これにより、単純な足し算によって物質総量を確実かつ迅速に定量することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱機関の、特にエンジンの、炭化水素排出物の決定デバイスであって、流体からサンプル量を採取するように設計されるサンプリングプローブ(21)と、サンプル量をイオン源ユニット(3)を通じて、測定されるべきスペクトルを1つの工程で決定するように設計される広帯域測定ユニットである測定ユニット(8)に導く測定チャネル(22)とを有し、イオン源ユニット(3)は、ソフトイオン化用に設計され、測定ユニット(8)は、強度シグナルシーケンスを質量スペクトルに亘って形成する同時測定「飛行時間」検出器または「マッタウホ−ヘルツォーク配置二重集束型セクターフィールド質量分析計」として実現されることを特徴とする、デバイス。
【請求項2】
イオン化ユニット(3)が50eV未満かつ好ましくは5eV以上でのイオン化用に設計されることを特徴とする、請求項1に記載の決定デバイス。
【請求項3】
イオン源ユニットが化学イオン化(CI)、光イオン化(PI)、または低温電子衝撃イオン化(cold EI)として実現されることを特徴とする、請求項1または2に記載の決定デバイス。
【請求項4】
検出器(8)が、好ましくはリフレクトロンとして実現される、イオンミラー(82)を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の決定デバイス。
【請求項5】
検出器(8)が直交飛行管(81)を備えることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の決定デバイス。
【請求項6】
検出器(8)が、好ましくは選択可能である基準に亘って、さらに好ましくは時間または磁場に基づいて、スペクトルを決定するように設計される分析ユニット(9)と共に機能することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の決定デバイス。
【請求項7】
分析ユニット(9)が強度ベクトルと質量スペクトルとが適用される量コンピュータ(91)を含み、量コンピュータ(91)が、好ましくは設定可能な分析フィールドを通じてそれらをリンクすることを特徴とする、請求項6に記載の決定デバイス。
【請求項8】
分析ユニット(9)の量コンピュータ(91)がサブフィールド化可能であることを特徴とする、請求項7に記載の決定デバイス。
【請求項9】
分析ユニット(9)が、オイルのタイプ、燃料のタイプ、または具体的な添加剤成分を決定するための分類モジュール(93)を有することを特徴とする、請求項6〜8のいずれか1項に記載の決定デバイス。
【請求項10】
分析ユニットが、所定の材料のタイプの補助検出器(94)、特にエステル、エタノールおよびPAOの検出器を有することを特徴とする、請求項6〜9のいずれか1項に記載の決定デバイス。
【請求項11】
分析ユニット(9)が、さまざまなフィールドおよび/またはサブフィールドの重み付けのために設計される分類モジュール(93)を有することを特徴とする、請求項6〜10のいずれか1項に記載の決定デバイス。
【請求項12】
分析ユニット(9)が、予め選択可能な排出物スペクトルが生じた場合にシグナルを出力する閾値スイッチ(95)と共に機能することを特徴とする、請求項11に記載の決定デバイス。
【請求項13】
排ガスプローブ運転と流体プローブ運転との間を切り換えるモード切り替えスイッチ(29)を備えることを特徴とする、請求項6〜12のいずれか1項に記載の決定デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素排出物、特にエンジンから生じるような炭化水素排出物の決定(または測定、定量、同定もしくは判別)デバイスに関する。この決定デバイスは、あるサンプル量を採取するためのプローブと、測定チャネルと、測定ユニットとを含む。この場合、この測定ユニットは、質量スペクトルの全域にわたって炭化水素の決定を行うための広帯域測定ユニットである。
【0002】
エンジンまたは他の熱機関からの有害な排出物の低減は、次第に高まる環境保護運動の実行において重要な役割を果たす。このことは、一方では、燃焼プロセスから直接生じる排出物に関し、また他方では、エンジンの中または表面での二次的な過程(procedure)から生じる排出物に関する。この場合において、このことは、他方では、外部において作動(active)する排出物に関するが、エンジンの内部での過程、例えば、潤滑油への燃料の導入または燃焼チャンバ内へのブローバイガスの再循環などもこの場合に含まれ得る。排出物の低減を可能にするためには、まず第一に、実際に生じている排出物を検出および評価することが必要である。この場合において、特に潤滑油の排出物および未燃焼炭化水素は非常に重要である。これらは迅速かつ高い精度で測定され得るべきであり、また、エンジン内部の過程を十分な動的応答でもって示し得るべきである。
【背景技術】
【0003】
(先行技術)
先行技術において様々な測定システムが既知である。排ガスの中の未燃焼炭化水素は、水素炎イオン化検出器により、高い時間分解能で測定される。この方法は比較的単純であるという利点を主張できる。しかしながらこの方法は、その性質上、具体的でない。すなわち、検出された分子の質量スペクトルの定量解析をすることができない。そのため、この方法は非常に粗く、燃料および油留分による炭化水素の正確な帰属に関する近年の要求を満たさない。
【0004】
質量分析計(またはマススペクトロメーター)は、正確な炭化水素の特性評価のために使用される。これらはイオン源、質量分析器(またはマスアナライザー)および検出器から構成される。
【0005】
システムの時間分解能は質量分析器によっても実質的に決まる。
【0006】
既知の態様において、この質量分析器は、周期的に振動する電界を生じさせるように電源が接続された電気四重極型(米国特許第2939952号明細書)としても実現される。この電界により、測定された比質量電荷比を有するイオンのみが安定した経路(path)を走行するため、他の全ては不安定であり、排除される。質量スペクトルを生成するために、時間の掛かる、個々の質量の連続測定(走査またはスキャニング)が必要である。50〜550原子質量単位のスペクトルを生成するための実際的な測定時間は500ミリ秒である。
【0007】
飛行時間質量分析計(TOF−MS)(独国特許出願公開第102012203150号明細書)において、サンプルの異なるイオン種は電界で加速される。次に、このイオンは飛行ルートを通過する。いくつものイオン種の異なる速度は、さまざまな質量電荷比を有するイオンを運動方向に対して分けるという結果を生じる。イオンは質量分析器の端部で、連続するイオンの頻度を同時に測定するイオン検出器に到達する。50〜550原子質量単位の範囲で連続な飛行時間は、20マイクロ秒未満で記録され得る。より良い質量精度および検出限界を達成するために,質量スペクトルは複数の飛行時間スペクトルから1マイクロ秒で計算される。
【0008】
マッタウホ−ヘルツォーク配置(Mattauch−Herzog geometry)の二重集束型セクターフィールド(sector field)質量分析計が使用される場合(独国特許出願公開第102010056152号明細書)には、以下のような磁場における質量分離の高い分離度を達成するために、イオンビームのエネルギーバンドの幅は静電分析器において低減される。その配置に起因して、あらゆるイオン質量を1つの焦点面で同時に示すことができる。平面的な検出器は、完全な質量スペクトルの同時検出を可能にする。時間の掛かる連続測定は必要ない。
【0009】
質量分析法における分子のイオン化のための典型的な技術は、70eVでの電子衝撃イオン化(EI)である。このハードイオン化方法における高いイオン化エネルギーに依存して、混合物中の物質に明確に帰属することができない、より小さなフラクションへの、分子のフラグメンテーションが生じる。
【0010】
この技術の不十分な点が、原則的に分子イオンが発生する、ソフトイオン化方法の開発に結びついた。化学イオン化(CI)、フィールド(または電界もしくは電場)イオン化(FI)、および光イオン化(PI)に基づくさまざまな技術が開発されてきた。マトリックス支援レーザーイオン化(MALDI)およびエレクトロスプレーイオン化(ESI)の使用は極性分子に及ぶ。
【0011】
光イオン化の場合において、光エネルギーの標的として選択されることで分子イオンが発生し得る。紫外光放射の使用は、芳香族炭化水素の場合に高い選択性を生じ、および紫外光放射は例えばパルスレーザー(REMPI;共鳴増強多光子イオン化に基づくレーザー)によって発生される。有機材料の検出は、真空紫外光放射を用いる一光子イオン化(SPI)によって行うことができる。
【0012】
さらなるソフトイオン化方法は、超音速(または超音波)(SMB、超音速分子線)を使用したサンプルの採取と、それに続く、米国特許第6617771号明細書に記載される電子衝撃イオン化を用いるエネルギー的に低温の分子イオン化(cold EI)とに基づく。
【0013】
既知のシステムの検出限界と、識別能と、選択性と、測定速度との要求される組み合わせは、現在、機関の動的過程における炭化水素排出物の計測に係る要求に合致しない。
【0014】
排ガス中の潤滑油分を決定するための改善された方法が国際公開第2005/066605号により既知である。これによれば、サンプルとして採取される排ガス混合物はイオン源へ送られ、イオン化された後で、多重極として設計された質量分析フィルタユニットと、検出ユニットとを含む組み合わせ部に送られる。
【0015】
フィルタユニットは、伝送される質量−電荷数の具体的な伝送範囲を定めるように実現される。測定されるべき潤滑油のフラクションは、このようにして明らかになる。このフラクションに亘る測定が、質量分析計を用いて、強度(または頻度)の大域的な測定として、伝達範囲全体に亘って1つの工程で同時に行われる。この測定システムは1msの測定時間で、設定可能な測定範囲に亘る著しく速い測定を可能にする。この測定システムの動的応答は良好であるが、スペクトルの分解能は完全に十分であるとはいえない。
【発明の概要】
【0016】
(本目的の申述)
本発明は、改良された動的応答と同時に改良された分解能が達成されるようにすることで、最後に述べた測定システムの改良を達成するという目的に基づく。
【0017】
本発明による解決策は独立請求項の特徴部分にある。従属請求項の主題は、有利な改良である。
【0018】
熱機関の、特にエンジンの炭化水素排出物の決定デバイスであって、流体からサンプル量を採取するように設計されるサンプリングプローブと、サンプル量をイオン源ユニットを通じて、測定ユニットへ導く測定チャネルと、限定可能な範囲に亘る質量スペクトルを決定するための、広帯域測定ユニットとして実現される測定ユニットとを有するデバイスにおいて、イオン源ユニットが、ソフトイオン化を行うように設計されることと、質量スペクトルに亘る強度シグナルシーケンスを形成する測定ユニットが、例えば「飛行時間」タイプによる同時測定検出器として、または「マッタウホ−ヘルツォーク配置二重集束型セクターフィールド質量分析計」として実現されることとは、本発明によって提供される。
【0019】
最後に、使用されるいくつかの用語が以下で説明される。
【0020】
流体とは、液状物質およびガス状物質の両方として理解される。ガス状物質は特には排ガスであってよく、またはブローバイガスであってもよい。液状物質は特にはオイルパンの容量のように大量であってよく、または壁膜のように小量(thin−layer volume)であってもよい。
【0021】
質量スペクトルとは、質量電荷比(mass/charge ratio)に関する下限値と上限値とによって定義される比質量の領域であるとして理解される。
【0022】
同時測定とは、決められた質量領域に亘る高速測定であるとして理解され、これは、時間の掛かる一つ一つの質量の連続測定(スキャニング)なしで実行することができる。
【0023】
強度シーケンスとは、強度シグナルのシーケンスであるとして理解される。ここで、強度シグナルとは、質量スペクトルの範囲内で、特定の質量電荷比が生じる頻度(intensity)を示すシグナルのようなものである。
【0024】
例えば、170〜550m/zのスペクトルが測定された場合、この強度シーケンスは381個の強度シグナルを、具体的には、170m/zから550m/zの範囲内の各値に1つずつ含む。
【0025】
本発明は2つの測定の組み合わせに基づく。1つめの測定は、「ソフト」イオン源を備えるものである。
【0026】
本発明によって提供されるソフトイオン源を用いることで、一般的な測定システムで使用されるイオン化ユニットとは対照的に、サンプル量の中の、特に長鎖の分子のフラグメンテーションが回避される。本出願の範囲における「ソフト」の定義は、具体的には、研究されている炭化水素(これらは概して長鎖である)のフラグメンテーションが生じないように、イオン化エネルギーが十分に小さいことである。これにより、サンプル量中のこのような分子の総数が維持される。このことは、下流の(downstream)広帯域測定ユニットの測定の正確さを改良し、一方では、分子を維持することによって、さもなければ他方で長鎖分子の分断の結果として生じてしまうフラグメントの形成を防ぐ。これらフラグメントは短鎖分子の範囲の測定のあいだ、アーチファクト(artifact)をもたらす。言い換えれば、もともとサンプル量中に全く含まれない短鎖分子の存在を装う(またはシミュレートする)。このようなアーチファクトによる測定結果の悪化を避けるために、先行技術においてより短鎖の分子の範囲を隠す(hide)フィルタユニットが必要とされている。本発明はこのようなフィルタの使用を避ける。そのため、より短鎖の分子の範囲が正確に示されるだけでなく、むしろ測定されるべき長鎖分子が完全に維持されもする。ソフトイオン源はこのため、長鎖分子の範囲においてより良い測定シグナルを提供するだけでなく、むしろ、フラグメントに起因する、より短鎖の分子の範囲におけるアーチファクトが生じることを避けることによって、測定範囲を拡張しさえする。
【0027】
短鎖分子から長鎖分子までのスペクトルの範囲全体に亘る迅速測定は、「飛行時間」タイプによる検出器または「マッタウホ−ヘルツォーク配置二重集束型セクターフィールド質量分析計」による検出器を使用することによって、広帯域測定ユニットを使用することで達成される。これらの検出器は、その構造のためにスペクトルの全体を1ミリ秒未満で「瞬時に(または一度に)」記録することができ、および同時に、記録したスペクトルの範囲内で一つ一つの分子のサイズごとに強度シグナルを生じさせることができる。このようにして、生じている分子をスペクトル全体に亘って高い精度の動的応答で示す強度シグナルシーケンスが生じる。この検出器のタイプのおかげで、一つ一つの分子量にそれぞれ別個の強度シグナルが提供されることに関して、単純な足し算によって確実かつ迅速に物質総量を確かめることができる。一般的な先行技術に示されたような、従来使用される測定ユニットを使用することによっては、別個の強度を各分子量にそれぞれ関連付けることはできない。そのため、物質総量は不正確にしか決定され得ない。スペクトルに亘る強度の精度の高いこのような割り当ては、本発明によって提供されるタイプの検出器を用いることで実行され得るようになった。
【0028】
しかしながら、従来のイオン化において、より長鎖の分子がフラグメント化することによって壊れ、測定結果を著しく悪化させる、より短鎖のフラグメントが形成されるために、アーチファクトが自動的に発生するため、この精度の高い割り当てはそれ自体だけでは価値がない。本発明において、この検出器を使用することで達成される精度の高い分解能が、検出器が本発明によるソフトイオン源と組み合わせられた時にのみ十分に利用されることは認識されている。このことは先行技術に例を見ない。
【0029】
イオン源ユニットは、50eV未満の、ただし好ましくは少なくとも5eVのエネルギーでのイオン化のために有利に設計される。そのため一方では、分析されるべきサンプル量の分子の確実なイオン化が達成され、他方では、フラグメンテーションが、特にはより長鎖の分子のフラグメンテーションが確実に防がれる。
【0030】
化学イオン化(CI)、光イオン化(PI)または低温電子衝撃イオン化(cold EI)の原理によるイオン源ユニットの態様が特に有利である。
【0031】
「飛行時間」タイプの検出器は、有利にはリフレクトロンとして実現されるイオンミラーを有することが好ましい。イオンビームのリフレクトロンはそのため、検出器が全長に亘って帯電していない状態で、イオンビームの走行距離を約2倍にするように達成される。従って、感度と分解能の両方を高めることができる。
【0032】
直交飛行管を有する検出器の態様はこの場合において特に好ましい。この態様には、分解能の細かさと分解能の動的応答とに関して特別な利点がある。
【0033】
示された態様において「飛行時間」タイプの検出器は、好ましくは予め選択することができる範囲に亘って、スペクトルを測定するように設計された分析ユニットと共に機能する。そのため、高い動的応答と分解能とを有する検出器により生じる強度シグナルシーケンスの自動解析を実行することができる。この強度シグナルシーケンスはこの場合において時間に基づいて作られ得るが、「マッタウホ−ヘルツォーク配置二重集束型セクターフィールド質量分析計」を用いて磁場に基づいて作られることもまたあり得る。
【0034】
分析ユニットは、量コンピュータ(quantity computer)を含むことが好ましい。この量コンピュータには強度ベクトルと質量スペクトルとが適用され、および、好ましくは設定可能な分析フィールド(analysis field)を通じてこれらをリンクする。そのため、自動化された方法で、強度シグナルシーケンスから、質量スペクトルに亘って総量を決定することができる。上に述べたようなスペクトル全体に亘る決定が一般的に関心の的になるが、分析ユニットの量コンピュータをサブフィールド化可能なように提供することもできる。そのため、特定の範囲を別々に、例えば、適度な長さの分子を有する高揮発性潤滑油排出物と、より長い分子を有する低揮発性の画分とに分けて分析することができる。さらに、分類器が分析ユニットに提供されることが好ましい。これは例えば、ガソリンエンジンにおける潤滑油排出物のために、より長鎖の分子(170m/zを越える)の範囲を分析し、および燃料排出物由来の未燃焼炭化水素のために、上記の値を下回る範囲を分析する。
【0035】
この分析ユニットは特に有利には、燃料または潤滑油のタイプを判定するための分類モジュールを有する。そのため、選択可能な範囲は、さまざまな燃料、潤滑油または添加成分の分析のために使用することができる、それらの物質群の特定の基本構成要素であって、例えば、潤滑油の含有物のエステルもしくはPAO(ポリアルファオレフィン)、もしくは例えばバイオ燃料の含有物の脂肪酸メチルエステル(FAME)、菜種油メチルエステル(RME)およびエタノールなどのそれぞれに関し得る。
【0036】
所定の材料のタイプに対応する補助検出器が、特に例えばエステル、PAOおよびエタノールなどの成分に関して、有利に提供され得る。
【0037】
サンプル量を採取するために、サンプリングプローブは排ガスプローブおよび/または流体プローブとして設計されることが好ましい。排ガスプローブは、燃焼チャンバ内または排ガスプラント(train)に直接つながる(adjoin)領域に配置することができる。流体プローブを燃焼チャンバに配置することもできるが、潤滑油の廃棄容器(またはコンテナであり、例えばオイルパン)の部位に有利に提供することもできる。モード切り替えスイッチが提供されることが好ましく、これは、サンプリングプローブとして排ガスプローブを使用する運転と、サンプリングプローブとして流体プローブを用いる運転との間で分析ユニットを切り替える。そのため、同じ分析ユニットを使用する異なる運転モードの間を切り替えることができる。
【0038】
排ガスを経由する排出物についてに限らず、むしろ例えば潤滑油の中の排出物成分についての、特にはエンジンの潤滑油の中に導入された燃料についての申述もなされる。
【0039】
本発明はさらに、サンプリングプローブによってサンプル量を流体から採取する工程と、サンプル量を測定ユニットへ移送する工程と、イオン源によってサンプル量をイオン化する工程とを有し、イオン化をソフトイオン化として実行することと、個々のイオン質量に関する飛行時間を測定すること、またはイオン質量の振れ(deflection)を磁場において測定することにより、質量スペクトルに亘って強度シグナルシーケンスを測定することとを特徴とする方法であって、上述した測定デバイスが有利に使用される方法にまで及ぶ。
【0040】
本発明は、有利な例示的態様が示されている添付の図面を参照しながら、以下により詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1図1は、本発明の1つの例示的態様によるデバイスの概要図を示す。
図2図2は、上記デバイスのブロック図を示す。
図3図3は、図1によるデバイスのための検出器の図を示す。
図4図4a)およびb)は、イオン化源の効果を示すための質量スペクトログラムを示す。
図5図5は、総量の決定を説明するための質量スペクトログラムを示す。
図6図6は、さまざまなタイプのオイルの決定のための質量スペクトログラムを示す。
図7図7は、オイルに導入される燃料の決定のための質量スペクトログラムを示す。
【0042】
図1および図2は、本発明による決定デバイスの例示的態様を示す。決定デバイスは、内燃機関から生じるオイル排出物および未燃焼炭化水素(HC)の排出物を決定(または測定、定量、同定、もしくは判別)するために使用される。図示する例示的態様は、往復動するピストンの原理による内燃機関に関するが、本発明の例示的態様はこれに制限されない。
【0043】
その全体が引用符号1として特定される内燃機関は、その場で上下に動くことができるように取り付けられたピストン11を有するシリンダ10を有する。燃焼チャンバ13がピストンの上に形成される。新鮮なガスがバルブ12を通じて燃焼チャンバ13へ供給され、燃焼チャンバ13から排ガスが排ガスマニホールド14の中へ排出される。ピストン11を有するシリンダ10の下側に、ピストン11用のクランクシャフト駆動部15と、ブローバイガスを排出するためのクランクケースベンチレーション16bとを含むクランクケース16が配置される。潤滑油用のオイルパン17は、クランクケース16の底部に位置する。
【0044】
内燃機関は本質的には従来と同様に実現(または具現化)され、よって、このことに関して詳細な説明を省略することができる。基本的に以下のような内燃機関の排出物が生じることと、それが質量スペクトル(図5も参照)において以下のように示されることとに留意されたい。
1)高揮発性の排ガス成分、例えば、窒素、窒素酸化物、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素、水およびアルゴンなど。これらの成分は比較的軽く、50m/z未満の範囲にある比質量(specific mass)(質量を価数で割ったもの:m/z)を有する。
2)燃料由来の未燃焼炭化水素であって、ガソリンエンジン燃料の場合には、代表的には最大10個の炭素原子から構成されるもの。これらから形成されるイオンは170m/z未満の比質量を有する。
3)潤滑油由来の炭化水素であって、170m/zを超える比質量を有するイオンを生じるもの。これの1つの例は、22個の炭素原子と、45個の水素原子と、310の比質量とを有するドコサンである。
【0045】
排ガスマニホールド14にプローブヘッド21を有する排ガスプローブ2は、エンジン1に接続される。サンプル量はプローブヘッド21から、移送キャピラリー22を通って、真空ポンプを有する移送ユニット25へ移動する。このサンプル量は、次に、キャピラリー22の中を通って流れるサンプル量の排ガス流がイオン化されるように設計されるイオン源ユニット3に供給される。イオン源ユニット3は、化学イオン化(CI)、光イオン化(PI)または低温電子衝撃イオン化(cold EI)の原理によるイオン化装置として実現され、高くても50eVのイオン化エネルギーのソフトイオン化が行われるように設計される。
【0046】
プレフィルタ4は流れ方向に沿って(adjoin)直線的に配置される。プレフィルタ4はさらに、イオンを質量フィルタ5を有する下流の高真空領域に移送するために使用される。そのため、第1質量フィルタ5と、その後ろの衝突セル6とは、プレフィルタ4から直線的につながっている。質量フィルタ5は望ましくない成分を有するイオンを除去するために使用される。この目的のために質量フィルタ5は四重極フィルタとして設計される。一般の四重極フィルタの構造は先行技術において既知であるので、ここでより詳細に説明される必要はない。
【0047】
衝突セル6の後の流れ方向において、検出器8が測定ユニットとして配置される。これは「飛行時間」タイプとして、または「マッタウホ−ヘルツォーク配置二重集束型セクターフィールド質量分析計」として実現される。アライメント値ユニット9は、検出器8と共に機能する。
【0048】
「飛行時間」検出器8は直交飛行管を有する構造で実現される。これは飛行管81内で放物線軌道上でイオンを加速させる加速器ユニット80を含む。この飛行管81は高真空ポンプ84を用いて空にされる。このイオンははじめに、イオンミラー82としてリフレクトロンが配置される反対側の端部に向かって移動する。このため、このイオンは反射され、そして電子増倍管86に入射するまで再び飛行管81の中を戻る。この増倍管は、それぞれのイオンがそのイオン経路を通過するのに掛かる時間を示すシグナルパルスを出力する。大きい比質量(m/z)を有する重いイオンは軌道83の上を移動し、小さい比質量を有するより軽いイオンが同様に移動する場合と比べてより長い時間を必要とする。このことは、非常に多様な質量を有する複数のイオンを同時に「飛行時間」検出器8の中に導入することができ、および、それぞれのイオンの発生の頻度に依存して、強度シグナルが出力されること、より正確には、はじめ小さい比質量を有するイオンの強度シグナルが、続いて、逐次的により大きい比質量を有するイオンの強度シグナルが出力されるという強度シグナルシーケンスを有して出力されることを意味する。
【0049】
結果として、高い分解能を有する「一度での(または瞬時の)」広帯域測定が可能になる。このようにして得られた測定シグナルは強度シーケンスシグナルであり、分析ユニット9に伝送される。検出器8は、分子イオンの完全なスペクトルを、同時での高い、すなわち20マイクロ秒未満の動的応答で検出することができるように作られる。そのため、分析のために毎秒5000を越えるスペクトルが得られる。
【0050】
分析ユニットは、強度シーケンスシグナルと質量スペクトルのためのシグナルとが適用される量コンピュータ91を含む。分析ユニットは、確認された質量スペクトル中の潤滑油のフラクションまたは燃料もしくは添加剤成分に由来する未燃焼炭化水素のフラクションを決定するように設計される分類器92をさらに含む。さらに、分析ユニットは、燃料およびオイルのタイプを決定するための分類モジュール93を含む。分類モジュール93は、この場合において、特定の成分をそれらの発生の頻度について評価した後、関連付けを行うように設計される。この成分は特に、エタノールおよびPAO(ポリアルファオレフィン)または特定のエステルであってよい。この目的のため、分類モジュール93は好ましくはエステル検出器94を備える。さらに、予め選択可能な結果が生じた場合、例えば、特定のタイプのオイル排出物が生じた場合にシグナルを出力する閾値スイッチ95が有利に備えられ得る。
【0051】
イオン源ユニット3の効果を図4に視覚化した。先行技術においては、例として示される310の比質量を有するドコサンC22H45などの長鎖分子をスプリットする(または分ける)ように、比較的高いエネルギーを用いてイオン化が行われる。高いエネルギーで電子衝撃イオン化する場合の先行技術に起因して、フラグメント化が生じることがわかり、ここでは、多くのフラグメントが潤滑油用の測定範囲の外側にあり、すなわち、170m/zの比質量を下回っている。非常に少量の分子イオンのみが、潤滑油用の実際の測定範囲(170m/zを上回る範囲)に残る。そのため、フラグメントが潤滑油用の実際の測定範囲から外れることにより、フラグメンテーションに起因して、シグナルの実質的喪失が生じる。図4aの図示例において、このシグナルの喪失は80%に近い。このことは、本発明によるソフトイオン源3を用いることによって避けられる。図4bからよくわかるように、長鎖分子はフラグメント化されておらず、測定範囲の分子イオンが完全に維持されている。そのため実質的により強力なシグナルが生じ、いかなるフラグメントも形成されない。
【0052】
潤滑油の排出物に関する物質総量を決定(または定量)するために、測定範囲に亘って総和が求められる。潤滑油に関して、170を上回る比質量を有する範囲(潤滑油の範囲)に関心がある。定量のために、測定された比質量の強度に、各比質量を掛けることにより積が求められる。範囲全体に亘って総和を得ることによって、潤滑油の範囲の物質総量がここに得られる。この潤滑油の範囲は網掛け矢印によって図5に示される。潤滑油の総量nは図示された式により算出される。このことは、燃料に由来する未燃焼炭化水素(HC)に対しても適切にあてはまる。これらは、170である比質量を下回る範囲(燃料の範囲)によって決まる。これは網掛けされていない矢印によって図5に示される。定量のために、それぞれの比質量の強度シグナルに、各分子量を掛けた積から同様にして総和が求められる。これにより、燃料由来の未燃焼炭化水素の物質総量nが定量される。2つの物質総量n(オイル)およびn(燃料由来の未燃焼炭化水素)の和を得ることによって、排ガス混合物中の炭化水素の物質総量を定量することができる。この量は、環境基準への適合に関する認可のために特に重要である。
【0053】
フラグメンテーションを避けながら、スペクトルの分解能の精度が高いおかげで、異なる潤滑油を有する別々のオイル回路を用いた場合に、どのエンジンアセンブリが潤滑油の排出を生じさせているのかが判別できる。この場合において、図6を参照する。図中、「A」および「B」と特定された、重なり合っていない2つの領域が示されている。これらはこの場合における2つの異なる潤滑油であり、これらは、その特徴的な物質群において異なっており、特には、ポリアルファオレフィン(PAO)とエステルに関して異なっている。
【0054】
潤滑油Bがエンジンのターボチャージャー(図示せず)のオイルのようなものであるならば、潤滑油Aはエンジン1自体のためのオイルのようなものである。分類モジュール93を利用することで、スペクトルにおいてどの強度がどの潤滑油により生じたかを判別することができ、およびそのため、潤滑油の排出物と、それぞれのアセンブリとが関連付けられるようになる。もしもこれがターボチャージャーのような特にクリティカルな構成要素である場合には、対応するシグナルは、このため、視覚および/または聴覚出力ユニット96を通じて出力され得る。
【0055】
図7に示される改変例においては、潤滑油中の燃料フラクションのサイズを決定することもできる。この場合において、上記のように、より低い質量を有する、すなわち170m/zを下回る比質量を有する分子イオンは燃料由来の未燃焼炭化水素と定義され、170m/zを上回る比質量を有するより重いものは潤滑油の成分として定義される。潤滑油に導入された燃料の決定のために、オイルパン17に取り付けられたプローブヘッド21’によるサンプリングが行われる。モード切り替えスイッチ29は、サンプル量が排ガスプローブ21からではなく、排ガスプローブ21’から、イオン源3へ供給されるように切り換わる。上記されたものと同様の方法で、潤滑油に導入された燃料を迅速かつ高い精度の正確さで分析することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】