(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-532257(P2016-532257A)
(43)【公表日】2016年10月13日
(54)【発明の名称】誘電性流体組成物又は熱伝達流体組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
H01B 3/20 20060101AFI20160916BHJP
C09K 5/10 20060101ALI20160916BHJP
【FI】
H01B3/20 J
H01B3/20 M
C09K5/10 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-526684(P2016-526684)
(86)(22)【出願日】2014年7月18日
(85)【翻訳文提出日】2016年3月7日
(86)【国際出願番号】FR2014051858
(87)【国際公開番号】WO2015008004
(87)【国際公開日】20150122
(31)【優先権主張番号】1357154
(32)【優先日】2013年7月19日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ウォーカー, ジェレミー
【テーマコード(参考)】
5G305
【Fターム(参考)】
5G305AA02
5G305AA03
5G305AA05
5G305AB01
5G305AB19
5G305BA03
5G305CA02
(57)【要約】
本発明は、(a)30から70重量%のベンジルトルエンとジベンジルトルエンの混合物、及び(b)結合によりもしくは−CH
2−以外のスペーサー基により相互に縮合されるか又は結合された2つのベンゼン環を含有するC
14−C
18芳香族化合物、それらのオリゴマー及びこれらの混合物から選択される、70から30重量%の少なくとも1種の化合物を含む、フェニルキシリルエタン以外の組成物に関する。本発明は、特に、−40℃未満、又は実質的に−60℃未満の温度のような極低温の使用条件下における誘電性流体及び/又は熱伝達流体として、場合に応じてフェニルキシリルエタン含む又は含まないこの組成物の使用にも関する。本発明は、これらの組成物と鉱油及び/又は天然もしくは合成エステルとの混合物にも関する。最後に、本発明は、この組成物を組み込んだ機器、特に、電気機器に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)30から70重量%のベンジルトルエンとジベンジルトルエンとの混合物、及び(b)結合によりもしくは−CH2−以外のスペーサー基により相互に縮合されるか又は連結された2つのベンゼン環を含有するC14−C18芳香族化合物、それらのオリゴマー及びこれらの混合物から選択される、70から30重量%の少なくとも1種の化合物を含む組成物の、−40℃未満、好ましくは−60℃未満の使用温度での誘電性流体及び/又は熱伝達流体としての使用。
【請求項2】
変圧器、特に電力用もしくは計器用変圧器又は高電圧変圧器、高電圧ケーブル、コンデンサー、特に、高電圧コンデンサー、ブッシング又はオンロードタップ切換器、整流器及び高調波フィルターのための、−40℃未満、好ましくは−60℃未満の使用温度での誘電性流体及び/又は熱伝達流体としての、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
化合物(b)が、フェニルキシリルエタンを含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
組成物が、組成物の総重量に対して、20から60重量%のベンジルトルエン及び5から20重量%、好ましくは5から15重量%のジベンジルトルエンを含有することを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
成分(b)がモノマー及びオリゴマーの混合物を含むこと、及びモノマーが、この混合物の少なくとも50重量%、あるいは少なくとも60重量%であることを特徴とする、請求項3又は4に記載の組成物。
【請求項6】
ベンゼン環が、メチル又はイソプロピル基、好ましくはメチル基のような1から3個の、好ましくは1から2個のC1−C3アルキル基で置換されることを特徴とする、請求項3から5の何れか一項に記載の組成物。
【請求項7】
ベンゼン環が、隣接炭素原子により支持されて相互に連結することにより環、好ましくはC6環を形成する、少なくとも2個の置換基により置換されることを特徴とする、請求項3から6の何れか一項に記載の組成物。
【請求項8】
ベンゼン環の1個の置換基と隣接スペーサー基が、相互に連結して環を形成することを特徴とする、請求項3から7の何れか一項に記載の組成物。
【請求項9】
スペーサー基が、−CH(CH3)−、−CH2−CH2−及び−O−基から選択されることを特徴とする、請求項3から8の何れか一項に記載の組成物。
【請求項10】
成分(b)が、ジフェニルエタン、ジトリルエーテル、ジイソプロピルナフタレン、1,2,3,4−テトラヒドロ(1−フェニルエチル)ナフタレン、及びこれらの混合物から選択され、好ましくはジフェニルエタン、この異性体もしくはオリゴマー又はこれらの混合物であり、極めて好ましくは1,1−ジフェニルエタンであることを特徴とする、請求項3から9の何れか一項に記載の組成物。
【請求項11】
次の特徴:
− 20℃の動粘度が6cSt未満、有利には5cSt未満、及び一般的には4cStより大きいこと、
− 流動点が−65℃未満、あるいは−70℃未満であること、
− −34℃で3ヶ月間貯蔵後にも結晶化しないこと、
のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、あるいは全てを有することを特徴とする、請求項3から10の何れか一項に記載の組成物。
【請求項12】
更に−60℃で20日間の貯蔵後も結晶化しないことを特徴とする、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
特に変圧器、特に電力用もしくは計器用変圧器又は高電圧変圧器、高電圧ケーブル、コンデンサー、特に、高電圧コンデンサー、ブッシング又はオンロードタップ切換器、整流器及び高調波フィルターのための、誘電性流体及び/又は熱伝達流体としての、請求項3から12の何れか一項に記載の組成物の使用。
【請求項14】
請求項3から12の何れか一項に記載の組成物を含むことを特徴とする、電力用もしくは計器用変圧器又は高電圧変圧器、高電圧ケーブル、コンデンサー、特に、高電圧コンデンサー、ブッシング又はオンロードタップ切換器、整流器及び高調波フィルターのような機器。
【請求項15】
混合物であって、
(i)前記混合物の、少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも85重量%、より好ましくは少なくとも90から92重量%の鉱油及び/又は天然もしくは合成エステル、並びに
(ii)請求項1に記載の組成物
からなる混合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(a)30から70重量%のベンジルトルエンとジベンジルトルエンの混合物、及び(b)結合によりもしくは−CH
2−以外のスペーサー基により相互に縮合されるか又は連結された2つのベンゼン環を含むC
14−C
18芳香族化合物、それらのオリゴマー及びこれらの混合物から選択される、70から30重量%の少なくとも1種の化合物を含む、フェニルキシリルエタン以外の組成物に関する。
【0002】
本発明の別の主題は、特に、−40℃未満、又は−60℃未満の温度などの極低温の使用条件下での誘電性流体及び/又は熱伝達流体としてのこの組成物の使用であり、場合に応じてこの組成物にフェニルキシリルエタンを加えるか又は加えない。また、本発明はこれらの組成物と鉱油及び/又は天然もしくは合成エステルとの混合物にも関する。
【0003】
最後に、本発明は、この組成物を組み込んだ機器、特に電気機器に関する。
【背景技術】
【0004】
誘電性流体は、高電圧ケーブル及び変圧器などの特定の電気設備に従来から使われている絶縁材料であり、それらの設備中では、絶縁材料は絶縁体として機能する固体材料、例えば、ポリプロピレンフィルムに含浸され、また、紙の層と任意に組み合わされてもよく、これは「混合フィルム−紙(mixed film−paper)」材料と呼ばれる。変圧器中では、これらの流体は熱伝達流体としても機能する。誘電性流体はコンデンサーにも使用され、導電性電機子を分離することにより相互に接触するのを防いでショートの発生を防止する。これにより、高容量で小さいサイズのコンデンサーを製造することができる。
【0005】
種々の誘電性流体がピラレン(PCB)を交換する目的で販売されており、PCBは、塩素化有機化合物で、人の健康及び環境に有害な影響を与える残留性の有機汚染物質と考えられている。それらは、石油由来の鉱油の精製により得られる炭化水素の基本的に複雑な混合物である。
【0006】
このような状況下で、米国特許第4523044号は、主成分であるベンジルトルエンオリゴマーと、わずかな比率のジトリルフェニルメタンを含む混合物からなる誘電性流体を開示している。モノベンジルトルエンとジベンジルトルエンの混合物もARKEMAからJarylec(登録商標)C101の商標名で入手可能である。
【0007】
米国特許第4744000号は、誘電性流体のコンデンサーでの使用について記載している。この誘電性流体は、フェニルキシリルエタンをフェニルトリルメタン、特にモノベンジルトルエンとジベンジルトルエンの混合物と組み合わせて含み、これは特に放電開始電圧の性能を改善することが目的である。
【0008】
最後に、米国特許第5017733号は、二環性芳香族化合物を含む種々の混合油の低温電気絶縁容量について記載している。しかし、この特許で使用される油類は、ジベンジルトルエンを含まない。
【0009】
先行技術の流体は高電圧に対する耐性を有するが、高部分放電開始の閾値及びこれらの放電の高速消滅が特徴であり、それらの低温挙動は必ずしも満足できるものとは限らない。これは、特に寒冷気候における使用を妨げる。このように、これらの流体は、通常、低温での粘度が高過ぎて、これらの流体を含む機器の特定の領域中の電界の濃度により生成されるガス(特に水素)の拡散速度に悪影響を与える。この結果、流体中の飽和レベルのガスが増加し、部分放電に繋がる泡を生成する。これにより、電気機器の破壊を生ずるか又は少なくとも耐用期間を減らす可能性がある。加えて、これらの誘電性流体は、低温で結晶化する傾向があり、これもまた、それらの流体を含む電気機器の効率的運転にとっては有害である。
【0010】
したがって、−40℃未満、特に−60℃未満の温度で誘電性流体として使用することができるように、低温で充分に低い粘度、及び充分に低い流動点を有する組成物を得ることができるのが望ましいであろう。
【0011】
加えて、低粘度のこれらの流体は、特に変圧器中での、熱伝達流体として使用することも可能となるであろう。
【0012】
出願者は、ベンジルトルエンとジベンジルトルエンの混合物に加えて、少なくとも1種の特定の化合物を含有する組成物により、これらの要求が満たされる可能性があることを発見した。
【発明の概要】
【0013】
このように、本発明の第1の主題は、(a)30から70重量%のベンジルトルエン及びジベンジルトルエンの混合物、及び(b)結合によりもしくは−CH
2−以外のスペーサー基により相互に縮合されるか又は連結された2つのベンゼン環を含有するC
14−C
18芳香族化合物、それらのオリゴマー及びこれらの混合物から選択される、70から30重量%の少なくとも1種の化合物を含み、フェニルキシリルエタンを除く組成物である。
【0014】
本発明の別の主題は、特に変圧器、特に電力用もしくは計器用変圧器、又は高電圧変圧器、高電圧ケーブル、コンデンサー、特に、高電圧コンデンサー、ブッシング又はオンロードタップ切換器、整流器及び高調波フィルターのための、この組成物の誘電性流体及び/又は熱伝達流体としての使用である。
【0015】
また、本発明の別の主題は、(a)30から70重量%のベンジルトルエン及びジベンジルトルエンの混合物、及び(b)結合によりもしくは−CH
2−以外のスペーサー基により相互に縮合されるか又は連結された2つのベンゼン環を含有するC
14−C
18芳香族化合物、それらのオリゴマー及びこれらの混合物から選択される、70から30重量%の少なくとも1種の化合物を含む組成物の、特に変圧器、特に電力用もしくは計器用変圧器、又は高電圧変圧器、高電圧ケーブル、コンデンサー、特に、高電圧コンデンサー、ブッシング又はオンロードタップ切換器、整流器及び高調波フィルターのための、−40℃未満、好ましくは−60℃未満の使用温度での誘電性流体及び/又は熱伝達流体としての使用である。
【0016】
また、本発明の別の主題は、本発明による組成物を含む上述のタイプの機器、特に電気機器である。
【0017】
また、最後の本発明の主題は、(1)鉱油及び/又は天然又は合成エステルと、(2)特定量のフェニルキシリルエタンを任意に含んでもよい本発明の組成物との混合物由来の主要部分として得られる組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】粘度計チューブ及び温度計を備えた粘度測定用のガラスアセンブリを示す。
【
図2】栓及びスターラーを備えた試験チューブを示す。
【
図3】−25℃から−60℃の範囲のサイクル試験パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明による組成物は、第1の成分として、ベンジルトルエン(BT)及びジベンジルトルエン(DBT)を含む。この混合物は、個別に入手された市販の化合物、あるいはフリーデル・クラフツ触媒の存在下で塩化ベンジルとトルエンを縮合し、その後蒸留するプロセスにより得られた市販の化合物から製造することができる。その混合物は、欧州特許第0435737号に記載のようなプロセスにより調製されるのが好ましい。反応は、50から150℃の温度で実施することができる。得られる反応混合物は、通常、一方においては、過剰トルエンを取り出すために、他方では、形成された有機塩素化生成物を取り出すために蒸留により処理される(例えば、高温、撹拌下で、アルコラートと接触させて)。
【0020】
ベンジルトルエンは、任意の異性体、特にオルト-(CAS 713−36−0)、パラ-(CAS 620−83−7)又はメタ-ベンジルトルエン及びこれらの混合物(CAS 27776−01−8)、から選択される任意の異性体の形態であってもよい。
【0021】
ジベンジルトルエンの任意の異性体及びこれらの混合物(CAS 26898−17−9)を使用することができる。
【0022】
本発明による組成物(BT/DBT混合物+成分(b))は、全体組成物に対するパーセンテージで表して、20から60重量%のベンジルトルエン及び5から20重量%、好ましくは5から15重量%のジベンジルトルエンを含むのが好ましい。また、成分(a)として、15重量%のジベンジルトルエンと85重量%のベンジルトルエン、又は25重量%のジベンジルトルエンと75重量%のベンジルトルエンの混合物を使用するのが好ましい。ベンジルトルエンとジベンジルトルエンの混合物は、具体的には、ARKEMAからJarylec(登録商標)C101の商標名で市販されている。
【0023】
この組成物の第2の成分は、縮合されるか又は結合によりもしくは−CH
2−以外のスペーサー基により相互に連結された2つのベンゼン環を含むC
14−C
18芳香族化合物、それらのオリゴマー及びこれらの混合物から選択される少なくとも1種の化合物から構成され、この化合物はフェニルキシリルエタンを含まないことがわかる。
【0024】
このような芳香族化合物の任意の異性体を使用することができるが、以降で開示の特定の実施態様では、特定の異性体が好ましい。
【0025】
「縮合」ベンゼン環は、それらの2個の炭素原子を介して結合されるベンゼン環(ナフタレン型構造)を意味すると理解される。本発明の好ましい一実施態様によれば、これらのベンゼン環は縮合されない。
【0026】
本発明による組成物は、一又は複数種の異性体の形で存在することができるこれらの化合物の内の一又は複数種を含んでもよい。成分(b)がモノマー及びオリゴマーの混合物を含む場合には、モノマーは、この混合物の少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも、70重量%、あるいは少なくとも、80重量%である。
【0027】
ベンゼン環は、相互に独立に、非置換であるか、又は1から3個の、好ましくは1から2個のC
1−C
3アルキル基、例えば、メチル又はイソプロピル基、好ましくはメチル基で置換されてもよい。
【0028】
ベンゼン環の隣接炭素原子により支持される2個の置換基は、相互に連結して環、好ましくはC
6環を形成することができる。変形例として、ベンゼン環の1個の置換基及び隣接スペーサー基は、相互に連結して環を形成することができる。
【0029】
スペーサー基の例は、−CH(CH
3)−、−CH
2−CH
2−及び−O−基から選択することができる。
【0030】
成分(b)の例は、以下の通り。
− ジフェニルエタン(DPE)又はその異性体、特に、1,1−DPE(CAS 612−00−0)、1,2−DPE(CAS 103−29−7)、及びこれらの混合物(特にCAS 38888−98−1)。DPEは、エチルベンゼンの製造中に得られた蒸留残留物の蒸留により調製することができる(欧州特許第0098677号)。これは市販もされている。
− ジトリルエーテル(DT)又はその異性体、特に、CAS番号CAS 4731−34−4に相当するもの、及びCAS 28299−41−4及びこれらの混合物。DTは、具体的には、LANXESSからDiphylDTの商標名で販売されている。
− フェニルキシリルエタン(PXE)又はその異性体、特に、CAS番号CAS 6196−95−8及びCAS 76090−67−0に相当するもの、並びにこれらの混合物。PXEは、具体的には、CHANGZHOU WINSCHEMからPXEオイルの商標名で販売されている。
− 1,2,3,4−テトラヒドロ(1-フェニルエチル)ナフタレン(CAS 63674−30−6)、この生成物は、具体的には、Dowから参照名Dowtherm RPとして市販されている。
− ジイソプロピルナフタレン(CAS 38640−62−9)、具体的には、INDUS CHEMIE LIMITEDからKMC113の商標名で販売されている。
− 及びこれらの混合物
【0031】
ジフェニルエタン、及び異性体及びそれらのオリゴマーも、本発明による組成物の第2の成分として好ましい。1,1−ジフェニルエタン(CAS 612−00−0)が主要な化合物であるのは有利である。特定の一実施態様では、成分(b)は、1,1−ジフェニルエタン(CAS 612−00−0)である。
【0032】
上述の成分に加えて、この組成物は、上述の成分(a)の重量に対して、最大で10重量%の、モノマー、オリゴマー又はこの2種の混合物の形の芳香族化合物、例えば、ジトリルフェニルメタンを含んでもよい。このような化合物は、特に、ARKEMAから販売されている製品のJarytherm BT06及びJarytherm DBT中では、本発明による成分(a)との混合物として存在する。これらの製品は、米国特許第4523044号記載のように調製することができる。
【0033】
また、本発明による組成物が、少なくとも1つの、少なくとも2つの、あるいは全ての次の特徴を有するのは好都合である。
− 6cSt未満、好都合なのは5cSt未満、及び一般的には4cStより大きい20℃の動粘度
− −65℃未満、あるいは−70℃未満の流動点
− −34℃で3ヶ月間貯蔵後にも結晶化しない
【0034】
前述の特徴と部分的に又は完全に組み合わせた別の有利な特徴によると、本発明による組成物は、−60℃で20日間の貯蔵後も結晶化しない。
【0035】
加えて、この組成物は、一般的に、140℃以上の引火点を有する。
【0036】
前に示したように、この組成物は誘電性流体及び/又は熱伝達流体として使用することができる。また、この組成物は、少なくとも1種の鉱油、好ましくは水素化鉱油との、あるいは天然又は合成エステル又はこれらの混合物との混合物として使用することができる。この場合、このようにして得られた混合物は、通常、組成物の、最大で20重量%、好ましくは最大で15重量%、より好ましい範囲でも8から10重量%を含む。鉱油は、CEI 60296−4Ed規格の推奨条件に準拠すると、禁止されているものもあれば、禁止されていないものもある。さらに、選択される鉱油は、CEI 60628−A規格の推奨条件により測定して、正の「ガス吸収性」を有するのが好ましい。より具体的には、ガス吸収性は、液体絶縁体(油)が非常に高い電気的応力を受ける場合に、この絶縁体のガス(特に水素)を吸収する又は逆に放出する傾向を評価するための既知の特性である。ガスが放出される場合はガス吸収性値が正であり、ガスが吸収される場合は負である。一般的には、負のガス吸収性を有する組成物を使用することが求められ、理由は、これがその組成物を含むシステムの使用特性に対し好ましい影響がある(特に、イオン化に関連する問題を制限する)ためである。しかし、最初に正の「ガス吸収性」(CEI 60628−Aに準拠して測定して)を有する油に本発明の組成物の添加により、得られる混合物に負のガス吸収特性を与えることができることが明らかになった。これは、本発明の組成物の想定される使用において、別の特に興味深い利点になる。
【0037】
本発明による組成物は、電力用もしくは計器用変圧器又は高電圧変圧器、高電圧ケーブル、コンデンサー、特に、高電圧コンデンサー、ブッシング又はオンロードタップ切換器、整流器、高調波フィルターなどの機器に絶縁材料として使用することができる。
【0038】
本発明では、(a)30から70重量%のベンジルトルエンとジベンジルトルエンの混合物、及び(b)結合によりもしくは−CH
2−以外のスペーサー基により相互に縮合されるか又は連結された2つのベンゼン環を含有するC
14−C
18芳香族化合物、それらのオリゴマー及びこれらの混合物から選択される、70から30重量%の少なくとも1種の化合物を含む組成物を、−40℃未満、好ましくは−60℃未満の使用温度で誘電性流体及び/又は熱伝達流体として使用することも可能である。
【0039】
さらに本発明では、(a)30から70重量%のベンジルトルエン及びジベンジルトルエンの混合物、及び(b)結合によりもしくは−CH
2−以外のスペーサー基により相互に縮合されるか又は連結された2つのベンゼン環を含有するC
14−C
18芳香族化合物、それらのオリゴマー及びこれらの混合物から選択される、70から30重量%の少なくとも1種の化合物を含む組成物を、変圧器、特に電力用もしくは計器用変圧器、又は高電圧変圧器、高電圧ケーブル、コンデンサー、特に、高電圧コンデンサー、ブッシング又はオンロードタップ切換器、整流器及び高調波フィルターのための、−40℃未満、好ましくは−60℃未満の使用温度での誘電性流体及び/又は熱伝達流体として使用することも可能である。
【0040】
したがって、上記最後の2つの特定の使用という脈絡の中で、使われる組成物がフェニルキシリルエタンを成分(b)として含んでもよいことに留意すべきであろう。この目的のために、フェニルキシリルエタン(PXE)及びその異性体、特に、CAS番号CAS 6196−95−8及びCAS 76090−67−0に相当するもの、並びにこれらの混合物を使用することができる。PXEは、具体的には、CHANGZHOU WINSCHEMからPXEオイルの商標名で販売されている。
【0041】
もちろん、フェニルキシリルエタンを含む組成物が使用される場合には、この組成物は上記のフェニルキシリルエタンを含まない本発明による組成物に対する定義の一部又は全ての特徴を有利にも有することであろう。
【0042】
本発明は、次の実施例を考慮するとさらに良く理解されるであろう。これらの実施例は、単に実例として提示されており、その目的は請求項により定められる本発明の範囲を制限することではない。
【実施例】
【0043】
次の実施例では、粘度、流動点及び結晶化の試験が下記のようにして実施される。
【0044】
A.粘度の測定
粘度計チューブを使用して20℃で組成物の粘度を測定する。原理は、所定の時間窓における較正チューブ中の流体の流量を測定することにある。
【0045】
サーモスタット制御浴、ストップウォッチ及びガラスアセンブリを使用する。このガラスアセンブリは、制御用ジャケットで覆われ、粘度計チューブ及び試料を配置する丸底フラスコを備えている。このアセンブリを
図1に示す。
図1で、(1)は粘度計チューブ、(2)は温度計、(3)は、測定温度を安定化させるための円筒形状のガラスアセンブリ、(4)は、測定温度で流体のシリコーンオイル(T°>100℃)又は水である。
【0046】
サーモスタット制御浴を20℃に設定する。約50mlの試料をこの目的のために用意した丸底フラスコ中に入れる。この丸底フラスコをガラスアセンブリ中に導入する。粘度計チューブを測定する粘度に合わせて選択する。直径0.77の粘度計チューブを使用した。このチューブをチャンバー中に置き、測定する生成物の量がチューブの底の中間点(マーカー)の高さになるように配置する。温度計を導入する。試料が20℃になると、ピペットフィラーを使って上部ポイントの上方に達するまで粘度計管チューブに試料を吸引する。その後、ピペットフィラーを外すことにより、生成物を流れさせる。生成物が上部ポイントに達するとき、生成物が第2のポイントに達するまでストップウォッチを作動させる。
【0047】
生成物が上部ポイントから第2のポイントまで流れるのに要した時間を記録する。
【0048】
各サンプルについて3回の測定を行い、3回の測定の平均値を計算する。
【0049】
流体の粘度を計算する式は、次の通り。
η=K×t
式中、
η:粘度(センチストークス cSt)、
K:重力較正定数、
t:重力の影響下で2つのマーカー間の試料の流下時間(秒)。
この特定の場合において、0.77チューブの定数は、0.02388である。
【0050】
B.流動点の測定
もはや全く流体ではない混合物の所定の粘度に対応するその混合物の温度を測定する。
【0051】
液体窒素により冷却される冷却チャンバーを備えた測定ジオメトリー25プレート/プレート型のAnton Paar Physica MCR301レオメーター(参照名CTD450L)を使用する。
測定パラメータ:
スピンドルの回転速度:1rpm
試験当たりのポイント数:180
温度プログラム:2℃/分の勾配で−30℃から−80℃まで冷却
流動温度を次のように設定した:50,000Pa・sの粘度に対応する温度
【0052】
C.チューブ中の結晶化試験
結晶化を生じさせるために、撹拌及び/又はシード添加のある場合とない場合について、試料を熱サイクルに供する。
下記の条件により試験を実施する。
Zanussiフリーザー:−34.0℃まで下げる。
CLIMATS 気候チャンバー:−60℃まで下げる。
貫通されていない栓でふさいだ試験チューブ(
図2の略図と同じもの)。
栓とスターラーを備えた試験チューブ(
図2の略図の通り)。
【0053】
この
図2中で、(1)は下径14.5mm及び上径17mmのシリコーン栓、(2)は直径1.5mmの撹拌棒、(3)は内径15mm及び外径17mmで高さ180mmの試験チューブ、(4)は試験される液体である。
【0054】
5mmのコルクボーラーを使ってシリコーン栓に穴をあけた。
【0055】
かき混ぜ棒の末端に、棒に応じて直径11から13mmで、5mmの距離をあけた2つのコイルを配置する。
【0056】
試料を含む試験チューブをフリーザー中か、又は気候チャンバー中に置く。
【0057】
棒を垂直に3から4回動かし、チューブの壁をこすることにより撹拌を行う。
【0058】
試料を温度サイクルに供することができる。−25℃から−60℃の範囲の正確な温度サイクルを
図3に示す。この試験は次のように行う。
−25℃の試料を1時間かけて−30℃に達するまで冷却する。−30℃で11時間保持後、試料を1時間かけて−35℃に到達するまで冷却する。−35℃で11時間保持後、試料を1時間かけて−30℃に再加熱し、−30℃で11時間保持した後、再び1時間かけて−35℃に冷却する。試料を−35℃に冷却し、その後、この方式で−30℃に再加熱するのを全体で6回行う。
【0059】
6サイクル後、試料を、−35℃に1時間かけて冷却し、−35℃でそのまま11時間保持した後、再び1時間かけて−40℃に冷却する。−40℃で11時間保持後、試料を1時間かけて−35℃に再加熱し、−35℃で11時間そのまま保持した後、再び1時間かけて−40℃に冷却する。試料を−40℃に冷却し、その後、この方式で−35℃に再加熱するのを合計6回行う。
【0060】
このプロセスを、試料を−40℃から−45℃に、その後、−45℃から−50℃に、及び最終的に、−50℃から−60℃に冷却するために再度行い、試料を−60℃で150時間保持することにより完了する。
【0061】
これらの試料に、場合に応じて、モノベンジルトルエン結晶のシードを添加することができる。このために、5mm幅のフラットスパチュラを使って、モノベンジルトルエン結晶を試料中に導入する。
【0062】
その後、チューブを定期的に観察し、全ての視覚による変化を記録する。
【0063】
実施例1
Mix113からMix117として本明細書の以降で表記される、本発明による成分(a)(Jarylec(登録商標)C101)のみ、又はこれと30重量%未満の成分(b)との混合物(Mix111とMix112)を含む、本発明による種々の誘電性流体、及び比較例の誘電性流体を調製した。
【0064】
これを行うため、ARKEMAの製品Jarytherm BT06を蒸留して実質上純粋なベンジルトルエンを得て、その後、これを、ARKEMAから供給されたジベンジルトルエンと混合し、ベンジルトルエンとジベンジルトルエンの重量比を85:15の割合とした。このようにして、本発明の成分(a)を得た。これを少なくとも1種の本発明の成分(b)と混合した。第1のシリーズでは、この成分を、JX NIPPON TEXAS CHEMICALから供給された1,1-DPEとした。
【0065】
その後、これらの流体の各々について以下について評価した。
− 流動点:このために、プレート−プレートジオメトリーの、窒素冷却システムを備えたAnton PaarのモデルMCR301動的剪断レオメーターを使って流体試料の粘度測定を行った。周囲温度で試料をレオメーターの2つのプレートの間に配置し、2℃/分の速度で徐々に−80℃に冷却した。1.3s
−1の剪断速度が試料にかけられた。その流動点は、冷却中に粘度値の最初の不連続性の出現(換言すれば、試料が粘稠過ぎてその粘度が測定できなくなる前)で、記録された、
− 20℃での動粘度:このために、較正粘度計チューブを使って流体の流量を測定した、
− 結晶化の非存在:このために、流体を−34℃の温度で90日間冷凍チャンバーに入れ、この間、4日目、11日目、19日目、54日目、及び89日目に流体にBT結晶を接種した。
【0066】
試験した流体の組成物、及び上述の試験の結果を下表にまとめている。
【0067】
【0068】
本発明の組成物のみが、20℃で6cSt未満の動粘度、−65℃未満の流動点及び−34℃での結晶化の非存在、の同時達成を可能とすることが観察された。
【0069】
実施例2
種々の誘電性流体組成物の調製と評価中は、実施例1の手順に準じたが、これらの組成物は、それらの成分の性質及び/又は成分の相対的重量比率により相互に異なる。下表で使用した略語は以下の意味である。
BT:ベンジルトルエン
DBT:ジベンジルトルエン
1,1-DPE:1,1-ジフェニルエタン
KMC113:ジイソプロピルナフタレン
DiphylDT:ジトリルエーテル
【0070】
組成物に望まれる特徴は以下の通り。
動粘度<6cSt(20℃)。
流動点<−65℃、あるいは<−70℃。
−34℃で3ヶ月間結晶化なし。
−60℃で20日間結晶化なし。
【0071】
これらの試験の結果を下表III(−34℃及び−60℃の等温保持)、及び下表IV(−25℃から−60℃の温度サイクル)に示す。この2つの表で、−60℃の等温保持(事前サイクルのある場合とない場合の)を20日間維持した。
【0072】
【0073】
実施例3
この実施例の主題は、本発明の組成物が既知の絶縁鉱油のガス吸収特性に与える影響を例証することである。ガス吸収性の測定をCEI 60628−A規格に準じて行った。
【0074】
使用した鉱油は、市販参照名「Nytro Gemini X」でNYNASから販売されており、次の組成の混合物(重量%)の形態である。
水素化処理された軽質ナフテン系留出油(石油):50−100%(CAS 64742−53−6)
水素化処理された軽質パラフィン系留出油(石油):0−50%(CAS 64742−55−8)
C20−50の水素化処理された中性油系潤滑油:0−50%(CAS 72623−87−1)
水素化処理された処理重質パラフィン系留出油(石油):0−50%(CAS 64742−54−7)
2,6−ジ-tert−ブチル−p−クレゾール:<0.4%(CAS 128−37−0)
【0075】
この鉱油は、単独では+10μl/分の正のガッシングを示し、設備内部の部分放電などの電気事故から生じた水素を吸収することができないことを意味する。
【0076】
この参照油に、実施例2からの8重量%の組成物TM9、すなわち、本発明の組成物である50/42.5/7.5の重量比率の1,1-DPE/BT/DBT組成物を加える。
【0077】
得られた混合物は、−17μl/分の負のガッシングを示し、すなわち、少量(8%)の本発明の組成物の添加により、参照油のガッシングの傾向が逆転する。
【国際調査報告】