特表2016-533735(P2016-533735A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2016-533735アルブミンの偽エステラーゼ加水分解反応に基づく特異的蛍光プローブおよび応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-533735(P2016-533735A)
(43)【公表日】2016年11月4日
(54)【発明の名称】アルブミンの偽エステラーゼ加水分解反応に基づく特異的蛍光プローブおよび応用
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/44 20060101AFI20161007BHJP
   C07D 221/14 20060101ALI20161007BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20161007BHJP
【FI】
   C12Q1/44
   C07D221/14
   G01N21/78 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-526408(P2016-526408)
(86)(22)【出願日】2014年3月27日
(85)【翻訳文提出日】2015年12月14日
(86)【国際出願番号】CN2014000334
(87)【国際公開番号】WO2015018177
(87)【国際公開日】20150212
(31)【優先権主張番号】201310338267.7
(32)【優先日】2013年8月6日
(33)【優先権主張国】CN
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】503190796
【氏名又は名称】中国科学院大▲連▼化学物理研究所
【氏名又は名称原語表記】DALIAN INSTITUTE OF CHEMICAL PHYSICS,CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】楊凌
(72)【発明者】
【氏名】崔京南
(72)【発明者】
【氏名】葛廣波
(72)【発明者】
【氏名】劉兆明
(72)【発明者】
【氏名】馮磊
【テーマコード(参考)】
2G054
4B063
4C034
【Fターム(参考)】
2G054AA07
2G054AB02
2G054AB05
2G054BB01
2G054BB02
2G054CA23
2G054CE02
2G054EA03
2G054GA03
2G054GA04
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ20
4B063QQ32
4B063QR41
4B063QR58
4B063QR72
4B063QS36
4B063QX02
4C034CG03
(57)【要約】
アルブミンの偽エステラーゼ加水分解反応に基づく特異的蛍光プローブ分子および応用は、ヒト血清アルブミン(human serum albumin、HSA)特有の偽エステラーゼ活性に基づく。すなわち、生理的pH値の条件下で、HSAはエステル結合構造を有する蛍光プローブ分子(λex=342nm、λem=416nm)の加水分解様反応を触媒することができ、それ自体のアミノ酸がプローブの分子構造中のカルボキシ基と共有結合し、さらに遊離フェノール性水酸基を含有する加水分解生成物を放出する。該生成物は、蛍光放射スペクトルが基質分子の蛍光性の骨格分子(λex=452nm、λem=564nm)と顕著に異なり、測定した蛍光性の骨格分子の濃度に基づいて、系中の対応するHSA含量を測定することができる。該プローブ分子は、生物サンプル中のアルブミンの絶対量の測定に用いることができる。該プローブ分子の利点として、正確性が高く、測定が高感度で、環境干渉の影響が小さく、各種内在性物質、外来性薬物および界面活性剤などと共存可能なことである。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルブミンの偽エステラーゼ加水分解反応に基づく特異的蛍光プローブであって、該特異的蛍光プローブのエステル結合が、ヒト血清アルブミンにより特異的に分解されて、分子蛍光放射スペクトルが顕著に異なる蛍光生成物を生成することができ、系中の生成物の含量により、アルブミンの含量および機能を確定し、
該特異的蛍光プローブは、N−n−ブチル−4−ヒドロキシ−1,8−ナフタルイミド骨格のC−4位のヒドロキシ基が置換されたジベンゾイルエステル類誘導体であり、その構造式は式(1)に示す通りであり、式中、Rは−H、−CH、−OCH、−OCのうちいずれか1種であり、RはC2〜C8アルキル基、ハロゲン化アルキル基またはその誘導体のうちいずれか1種であることを特徴とする、特異的蛍光プローブ。
【化1】
式(1)
【請求項2】
上記式(1)の化合物をアルブミン特異的加水分解の代謝基質として使用し、加水分解反応を行い、単位時間内の基質の除去量および加水分解生成物の生成量を定量、測定することにより、様々なサンプル中のアルブミン含量を測定することを特徴とする、請求項1に記載の様々なサンプル中のヒト血清アルブミン含量の定量、測定における特異的蛍光プローブの応用。
【請求項3】
前記サンプルが組換発現したアルブミン単一酵素、ヒト組織調製液または各種組織細胞であることを特徴とする、請求項2に記載の様々なサンプル中のヒト血清アルブミン含量の定量、測定における特異的蛍光プローブの応用。
【請求項4】
前記加水分解反応の条件として、系がリン酸緩衝液であり、プローブ基質の濃度が1/10〜10Kの間であり、培養系のpH値が5.5〜10.5の間であり、反応温度が20〜60℃の間であることを特徴とする、請求項2に記載の様々なサンプル中のヒト血清アルブミン含量の定量、測定における特異的蛍光プローブの応用。
【請求項5】
プローブ基質およびその加水分解生成物がいずれも蛍光特性を有し、蛍光検出器で基質および生成物の迅速、高感度な測定を実現し、蛍光測定の条件は、励起波長300〜500nm、放射波長410〜600nmであることを特徴とする、請求項2に記載の様々なサンプル中のヒト血清アルブミン含量の定量、測定における特異的蛍光プローブの応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬技術分野に属し、具体的にアルブミンの偽エステラーゼ加水分解反応に基づく特異的蛍光プローブおよび応用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト血清アルブミン(human serum albumin、HSA)は、血漿中で含量が最も豊富なタンパク質であり、血漿中のタンパク総量の約50〜60%を占める(非特許文献1)。体液中のヒト血清アルブミンは脂肪酸、ビリルビン、アミノ酸、ステロイドホルモン、金属イオンおよび多くの治療分子などを輸送することができ、さらに血液の正常な浸透圧を維持することができる。ヒト血清中のアルブミンの正常値範囲は34〜54g/Lである(非特許文献2)。しかし多くの疾病、例えば肝臓病(特に肝硬変)、ネフローゼ症候群、腫瘍、タンパク喪失性腸症、熱傷および栄養失調などは、血清アルブミンレベルが低下し、高タンパク食および慢性脱水はアルブミンレベルが上昇する。したがって、ヒト血中アルブミン含量の定量、測定は、すでに疾病に関する診断で臨床的に使用されており、人体のアルブミン含量が正常範囲値よりかなり低い場合、患者にヒト血清アルブミンを注射する必要がある。多くの臨床的実践により、血清アルブミンレベルの測定は、肝臓病または腎臓病患者の早期診断および予後に対して、非常に重要な診断の基準値となることがすでに実証されている。さらに重要なこととして、尿中への微量のアルブミンの検出は、一般的に腎臓疾病(例えば糖尿病、高血圧、連鎖球菌感染後の糸球体腎炎)、血管内皮機能障害、心臓疾患および静脈血栓塞栓症のマーカおよび診断の指標とすることができる。下表1に、人体の微量蛋白尿に対する診断値の正常範囲を示す。
【0003】
(表1)表1 微量蛋白尿の診断値
【0004】
現在、アルブミンの測定および定量方法は、電気泳動法、免疫法および色素結合法などの方法を含む。このうち、電気泳動法は時間および労力がかかり、特異性が比較的劣り、アルブミン濃度が過大評価されやすい(非特許文献3)。免疫法は、その特異性は比較的良好であるが、コストが比較的高いため、現在、臨床的応用は比較的少ない。色素結合呈色法は、相対的にやや幅広く応用されているが、該方法は色素の小分子およびアルブミンの部分的領域の結合作用、または個別のアミノ酸の修飾作用に基づいており、有機体の部分的組織タンパクも色素の小分子と類似の作用を生じることができるため、その特異性は保障することができない。ブロモクレゾールグリーンおよびブロモクレゾールパープルは簡単、便利で特異性が相対的に良好な2種の色素分子とされ、臨床的にアルブミンの定量に比較的多く用いられている。しかし、その感度は比較的低く(非特許文献3)、定量の正確性を保証することができないため、過大評価(非特許文献4)または過小評価(非特許文献5)となり、さらに生物サンプル中の非特異的干渉を避けることができない(非特許文献6)。したがって、簡単で操作しやすく、特異性が高く、正確で信頼できるアルブミン定量方法の開発が必要である。
【0005】
近年、国内外の学者はアルブミンが触媒機能も有することを見出しており、エステル結合構造を有する化合物の加水分解様反応を触媒することができ(非特許文献7)及び(非特許文献8)、反応後、それ自体の一部の遊離アミノ酸がエステル類分子構造中のカルボキシ基と共有結合し、さらに、遊離フェノール性水酸基を含有する1分子の加水分解生成物を放出する。葛広波らは、一部の小分子がアルブミンに特異的に触媒され、エステラーゼ加水分解様反応を生じることができることも見出しており、例えばGLP−1受容体アゴニストBoc5は、人体内でアルブミンにのみ触媒されることができ、人体のその他のエステラーゼは該化合物の加水分解に関与しない(非特許文献9)。以上国内外の最近の研究は、我々がアルブミンのエステラーゼ様活性に対し、その特異的な蛍光プローブの基質分子を設計、開発して、アルブミンの活性評価および定量分析に用いることができることを示している。
【0006】
本発明は、N−n−ブチル−4−ヒドロキシ−1,8−ナフタルイミド骨格のC−4位のヒドロキシ基を置換したジベンゾイルエステル類誘導体を、ヒト血清アルブミン蛍光プローブの基質とする応用を提供している。これは、アルブミンの偽エステラーゼ活性により加水分解されると、原型の加水分解生成物と異なる蛍光放射スペクトルを生成することができる。該加水分解反応は選択性が高く、代謝生成物を測定しやすいなどの特徴を有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Biochem Pharmacol.2005 Nov 25;70(11):1673〜84
【非特許文献2】Nlm.nih.gov.Retrieved 2010−05−12
【非特許文献3】Clinical Chemistry:Theory,Analysis,Correlation,Mosby,5thedition,2009
【非特許文献4】J Clin Pathol.2003,56,780.
【非特許文献5】Clin Chim Acta.1986,155,83.
【非特許文献6】Clin Chem.,2009,55,583.
【非特許文献7】Biochem Pharmacol 2010;79(5):784〜91
【非特許文献8】J Biol Chem 2008;283(33):22582〜90
【非特許文献9】Eur.J.Pharm.Sci.2013;48:360〜9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、アルブミンの偽エステラーゼ加水分解反応に基づく特異的蛍光プローブ分子および応用を提供することである。該プローブ分子を利用して、ヒトの血清、血漿または尿中のアルブミン含量を測定し、サンプル中の蛍光強度値を測定することにより、このうちのアルブミン濃度を計算する。その原型および加水分解生成物の蛍光放射波長は明らかな差を有し、生成物はより測定しやすい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アルブミンの偽エステラーゼ加水分解反応に基づく特異的蛍光プローブを提供している。該特異的蛍光プローブのエステル結合は、ヒト血清アルブミンにより特異的に加水分解されて、分子蛍光放射スペクトルが顕著に異なる蛍光生成物を生成することができ、系中の生成物の含量により、アルブミンの含量および機能を確定する。該特異的蛍光プローブは、N−n−ブチル−4−ヒドロキシ−1,8−ナフタルイミド骨格のC−4位のヒドロキシ基が置換されたジベンゾイルエステル類誘導体であり、その構造式は式(1)に示す通りである。式中、Rは−H、−CH、−OCH、−OCのうちいずれか1種であり、RはC2〜C8アルキル基、ハロゲン化アルキル基またはその誘導体のうちいずれか1種である。
【0010】
【化1】
式(1)
【0011】
本発明は、様々なサンプル中のヒト血清アルブミン含量の定量、測定における前記特異的蛍光プローブの応用も提供している。上記式(1)の化合物をアルブミン特異的加水分解の代謝基質として使用し、加水分解反応を行い、単位時間内の基質の除去量および加水分解生成物の生成量を定量、測定することにより、様々なサンプル(組換発現したアルブミン単一酵素、ヒト組織調製液、各種組織細胞など生物系を含む)中のアルブミン含量を測定する。具体的測定方法は以下の通りである。
――系中でN−n−ブチル−4−ヒドロキシ−1,8−ナフタルイミド骨格のC−4位のヒドロキシ基を置換したジベンゾイルエステル類誘導体を特異的プローブの基質とする。基質濃度は1/10〜10Kを選択し、一点測定時の基質濃度は好ましくはKである(Kはミカエリス定数である)。
――リン酸緩衝液など常用される緩衝液中で、反応温度20〜60℃の間(好ましい反応温度は37℃である)、培養系のpH値5.5〜10.5の間(好ましいpH値は7.4)である。
――反応時間は5〜120分間であり、上の基質に相応する加水分解生成物が定量限界に達することを確保する。
――単位時間内の基質の減少量または加水分解生成物の生成量を測定し、アルブミン活性の評価指標とする。
【0012】
本発明で提供する様々なサンプル中のヒト血清アルブミン含量の定量、測定における特異的蛍光プローブの応用において、プローブ基質およびその加水分解生成物はいずれも蛍光特性を有し、蛍光検出器で基質および生成物の迅速、高感度な測定を実現する。蛍光の測定条件は、励起波長300〜500nm、放射波長410〜600nmである。
【0013】
本発明で提供する前記特異的プローブ基質の応用において、該特異的プローブ基質はヒトの血清、血漿または尿中のアルブミンの定量、測定に用いられる。
【0014】
組換発現したヒト血清アルブミンの培養系で考察を行い、特異的阻害実験、組換単一酵素の代謝反応、および酵素反応動力学のいくつかの面の証拠により、N−n−ブチル−4−ヒドロキシ−1,8−ナフタルイミド骨格のC−4位のヒドロキシ基を置換したジベンゾイルエステル類誘導体から、特異的なアルブミン加水分解代謝により(図4に示す)、C−4位のエステル結合が切断された加水分解生成物を生成することができることを証明する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の前記アルブミンの特異的プローブを用いたアルブミンの測定は、以下の突出した優位性を有する。
(1)高特異性:N−n−ブチル−4−ヒドロキシ−1,8−ナフタルイミド骨格のC−4位のヒドロキシ基を置換したジベンゾイルエステル類誘導体は、アルブミンにより高特異的に1つの代謝生成物、すなわちC−4位のエステル結合が切断された加水分解生成物に代謝されることができる。
(2)廉価で入手しやすい:N−n−ブチル−4−ヒドロキシ−1,8−ナフタルイミド骨格のC−4位のヒドロキシ基を置換したジベンゾイルエステル類誘導体およびその加水分解生成物は、いずれも化学合成により得ることができ、合成工程は簡単で実行しやすい。
(3)高感度:N−n−ブチル−4−ヒドロキシ−1,8−ナフタルイミド骨格構造を有する化合物は、いずれも良好な蛍光放射スペクトル特性(410〜600nm)を有し、該基質およびその加水分解代謝生成物は、異なる蛍光放射スペクトル特性を有し、より良好に識別、測定を行うことができる。さらに比率法により、検量線を作成して定量、測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、N−n−ブチル−4−ヒドロキシ−1,8−ナフタルイミドのC−4のヒドロキシ基が置換されたジベンゾイルエステル類誘導体の構造式である。このうち、Aは蛍光プローブ分子A、Bは蛍光プローブ分子B、Cは蛍光プローブ分子C、Dは蛍光プローブ分子Dである。
図2図2は、N−n−ブチル−4−ヒドロキシ−1,8−ナフタルイミド骨格のC−4位のヒドロキシ基を置換したジベンゾイルエステルのH−NMRスペクトルである。
図3図3は、N−n−ブチル−4−ヒドロキシ−1,8−ナフタルイミド骨格のC−4位のヒドロキシ基を置換したジベンゾイルエステルの13C−NMRスペクトルである。
図4図4は、N−n−ブチル−4−ヒドロキシ−1,8−ナフタルイミド骨格のC−4位のヒドロキシ基を置換したジベンゾイルエステル類誘導体のヒト組換単一酵素のスクリーニング試験の結果である。
図5図5は、N−n−ブチル−4−ヒドロキシ−1,8−ナフタルイミド骨格のC−4位のヒドロキシ基を置換したジベンゾイルエステル類誘導体およびその脱ジベンゾイル代謝生成物の蛍光放射スペクトル(それぞれ342nmまたは452nmで励起する)である。
図6図6は、脱ジベンゾイル加水分解代謝生成物の生成量がアルブミン濃度に伴って変化する線形フィットである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の実施例は、本発明についてさらに説明したものであるが、これにより本発明を制限することはない。
【実施例1】
【0018】
N−n−ブチル−4−ヒドロキシ−1,8−ナフタルイミド骨格のC−4位のヒドロキシ基を置換したジベンゾイルエステル(蛍光プローブ分子A)の化学合成
(1)0.5mmolのN−n−ブチル−4−ヒドロキシ−1,8−ナフタルイミドおよび0.625mmolのトリエチルアミンを含有する10mLのテトラヒドロフラン溶液に、0.6mMの4−ビフェニルカルボニルクロリド(ジクロロメタン10mLに溶解)をゆっくりと滴加し、温度を0℃に制御する。
(2)氷浴で1時間撹拌した後、反応系を室温に置いて一晩反応させる。
(3)反応液の溶媒を減圧除去し、残った固体をシリカゲルクロマトグラフィで精製する。酢酸エチル−n−ヘキサン(1:3、v/v)を溶離液とし、113mgの白色固体Aを得る。
(4)得られた白色固体A化合物に対して構造同定を行う。そのプロトン核磁気共鳴スペクトルおよびカーボン13核磁気共鳴スペクトルは、図2および図3を参照のこと。
【実施例2】
【0019】
N−n−ブチル−4−ヒドロキシ−1,8−ナフタルイミド骨格のC−4位のヒドロキシ基を置換した4−パラメチルジベンゾイルエステル(蛍光プローブ分子B)の化学合成
(1)0.5mmolのN−n−ブチル−4−ヒドロキシ−1,8−ナフタルイミドおよび0.625mmolのトリエチルアミンを含有する10mLのテトラヒドロフラン溶液に、0.6mMの4−パラメチルビフェニルカルボニルクロリド(ジクロロメタン10mLに溶解)をゆっくりと滴加し、温度を0℃に制御する。
(2)氷浴で1時間撹拌した後、反応系を室温に置いて一晩反応させる。
(3)反応液の溶媒を減圧除去し、残った固体をシリカゲルクロマトグラフィで精製する。酢酸エチル−n−ヘキサン(1:3、v/v)を溶離液とし、241mgの白色固体Bを得る。
【実施例3】
【0020】
N−n−酪酸−4−ヒドロキシ−1,8−ナフタルイミド骨格のC−4位のヒドロキシ基を置換した4−パラメチルジベンゾイルエステル(蛍光プローブ分子C)の化学合成
(1)0.5mmolのN−n−酪酸−4−ヒドロキシ−1,8−ナフタルイミドおよび0.625mmolのトリエチルアミンを含有する10mLのテトラヒドロフラン溶液に、0.6mMの4−パラメチルビフェニルカルボニルクロリド(ジクロロメタン10mLに溶解)をゆっくりと滴加し、温度を0℃に制御する。
(2)氷浴で1時間撹拌した後、反応系を室温に置いて一晩反応させる。
(3)反応液の溶媒を減圧除去し、残った固体をシリカゲルクロマトグラフィで精製する。酢酸エチル−n−ヘキサン(1:3、v/v)を溶離液とし、95mgの白色固体Cを得る。
【実施例4】
【0021】
N−n−ブチル−4−ヒドロキシ−1,8−ナフタルイミド骨格のC−4位のヒドロキシ基を置換した4−メトキシジベンゾイルエステル(蛍光プローブ分子D)の化学合成
(1)0.5mmolのN−n−ブチル−4−ヒドロキシ−1,8−ナフタルイミドおよび0.625mmolのトリエチルアミンを含有する10mLのテトラヒドロフラン溶液に、0.6mMの4−メトキシビフェニルカルボニルクロリド(ジクロロメタン10mLに溶解)をゆっくりと滴加し、温度を0℃に制御する。
(2)氷浴で1時間撹拌した後、反応系を室温に置いて一晩反応させる。
(3)反応液の溶媒を減圧除去し、残った固体をシリカゲルクロマトグラフィで精製する。酢酸エチル−n−ヘキサン(1:3、v/v)を溶離液とし、143mgの白色固体Dを得る。
【実施例5】
【0022】
蛍光プローブ分子Aの加水分解代謝の選択性
(1)CES1b、CES1c、CES2(5μg/mL)、アセチルコリンエステラーゼ(0.1U/L)、ブチリルコリンエステラーゼ(20U/L)、血漿(1%)、ヒト血清アルブミン(0.5mg/mL)、子牛血清アルブミン(0.5mg/mL)を含有するpH=6.0のリン酸緩衝液(10mM)196μLを、37℃の条件下で振盪して10分間プレインキュベートする。
(2)濃度が0.5mMの蛍光プローブ分子Aを4μL加えて反応を開始する。試験サンプル中の蛍光プローブ分子の終濃度を10μMにし、37℃で振盪培養する。
(3)30分後、200μLの冷アセトニトリルを添加して、激しく振盪した後、反応を止める。
(4)プローブ分子A(λex=342nm、λem=416nm)および加水分解生成物A1(λex=452nm、λem=564nm)の収集波長部分の蛍光強度値をそれぞれ測定し、A1およびAの蛍光強度比を計算する(図4および図5を参照)。
【実施例6】
【0023】
アルブミン定量の検量線の作成
(1)5mg/mLのヒト血清アルブミン(HSA)の標準溶液を使用し、リン酸緩衝液で様々な濃度の検量線標準液(0、10、20、50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000mg/mL)に希釈し(表2を参照のこと)、37℃で10分間プレインキュベートする。
(2)それぞれの前記溶液サンプル(980μL)に濃度が0.5mMの蛍光プローブ分子Bを20μL添加し、その終濃度を10μMにする。37℃で30分間振盪培養し、1mLの冷アセトニトリルを添加して15秒間激しく振盪し、反応を止める。
【0024】
(表2)表2 系列濃度のHSA標準液の調製
【0025】
(3)プローブ分子B(λex=342nm、λem=416nm)および加水分解生成物B1(λex=452nm、λem=564nm)の収集波長部分の蛍光強度値をそれぞれ測定し、B1およびBの蛍光強度比をHSA濃度に対応させ、線形フィットを行って、アルブミン定量の検量線を作成する。曲線の方程式はY=0.005578×X+0.04533であり、相関係数の2乗は0.9992である(図6を参照のこと)。
【実施例7】
【0026】
ヒト血漿サンプル中のアルブミンの定量分析
(1)ヒト血漿サンプルを1μL(約1滴)取り、pH=7.4のリン酸緩衝液(10mM)で200倍に希釈し、45℃の条件下で振盪して10分間プレインキュベートする。
(2)濃度が0.5mMの蛍光プローブBを4μL添加して反応を開始する。試験サンプル中の蛍光プローブ分子の終濃度を10μMにし、45℃で振盪培養する。
(3)30分後、200μLの冷アセトニトリルを添加し、激しく振盪した後、反応を止める。
(4)プローブ分子B(λex=342nm、λem=416nm)および加水分解生成物B1(λex=452nm、λem=564nm)の収集波長部分の蛍光強度値をそれぞれ測定し、B1およびBの蛍光強度比を計算する。蛍光比を実施例2の検量線に当てはめ、血漿中のアルブミン濃度46.2mg/mLが得られる。
【実施例8】
【0027】
ヒト尿サンプル中のアルブミンの定量分析
(1)ヒト尿サンプルを490μL取り、pH=7.4のリン酸緩衝液490μLで希釈し、37℃下で10分間プレインキュベートする。
(2)20μLの蛍光プローブ分子C(0.5mM)を添加し、試験サンプル中の蛍光プローブ分子の終濃度を10μMにする。37℃で30分間振盪培養し、1mLの冷アセトニトリルを添加して15秒間激しく振盪し、反応を止める。
(3)プローブ分子C(λex=342nm、λem=416nm)および加水分解生成物C1(λex=452nm、λem=564nm)の収集波長部分の蛍光強度値をそれぞれ測定し、C1およびCの蛍光強度比を計算する。
(4)検量線で対応するアルブミン濃度値を求め、試料サンプル中のアルブミン濃度48mg/Lが算出される。
【実施例9】
【0028】
組換発現系中のヒトアルブミンの定量分析
(1)組換発現したヒトアルブミンサンプルを10mg秤取し、pH=7.4のリン酸緩衝液でこれを溶解し、37℃下で1mg/mLのアルブミン溶液を調製する。
(2)20μLの蛍光プローブ分子D(0.5mM)を添加し、試料サンプル中の蛍光プローブ分子の終濃度を10μMにする。37℃で30分間振盪培養した後、1mLの冷アセトニトリルを添加して15秒間激しく振盪し、反応を止める。
(3)プローブ分子D(λex=342nm、λem=416nm)および加水分解生成物D1(λex=452nm、λem=564nm)の収集波長部分の蛍光強度値をそれぞれ測定し、D1およびDの蛍光強度比を計算する。
(4)アルブミンの検量線に基づいて該サンプル(1mg/mL組換発現アルブミン溶液)中のアルブミン含量14.9μMが算出される。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】