【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題は、
a)少なくとも1つの金属塩と、該金属塩の金属に対する親和性を示す少なくとも1つの官能基を有する少なくとも1つのオルガノシルセスキオキサンと、少なくとも1つの還元剤と、少なくとも1つの溶媒とを混合する工程と、
b)前記金属塩の前記金属の還元を誘導する熱処理及び/又は光化学処理工程と、
c)前記少なくとも1つのオルガノシルセスキオキサンで表面改質された金属コロイドの形成工程と、
を含む、表面改質金属コロイドを製造する方法によって解決される。
【0011】
オルガノシルセスキオキサンは、通常、一般式(RSiO
1.5)
n(式中、nは4以上の偶数である)を有するケイ素−酸素をベースとしたフレームワークである。このため、これらの化合物は特定の構造を有し、例えば、式(RSiO
1.5)
8を有する化合物は八面体ケージ構造を有する。
【0012】
オルガノシルセスキオキサン(SSQ)は、欧州特許第1957563号に記載されているように、調節可能な官能性を伴って特定の様式で調製することができる。オルガノシルセスキオキサンは、1タイプのみのアルコキシシラン前駆体を発端として、同一種類の官能基である8つの官能基(functionalities)を有するケージ型の化学種を導くことにより構築され得るか、又は、2若しくは3タイプの異なる前駆体から合成を開始した場合には、二官能性種若しくは三官能性種として設計され得る。このため、例えば、反応性基を含有する官能性オルガノアルコキシシランと、アルキル官能性オルガノアルコキシシランとの間の化学量論比を変えることで、作られるケージは、ケージ1つ当たり1種類の官能基を1つだけ有するか又は1種類の官能基を複数有することが可能となる。この特徴により、ケージ型SSQは、シランカップリング剤特性から、ハイブリッドコーティング剤又はバルク材料の構築を可能とするマトリックス形成特性におよぶ材料の設計にかかる強力な道具となる。
【0013】
オルガノシルセスキオキサンは、上記金属塩の金属に対する親和性を示す(affine to)少なくとも1つの官能基を含む。これは、N、S、O、Cl、Br、I及び/又は芳香族基を含む群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含む基であることが好ましい。
【0014】
より好ましくは、この官能基は、オルガノシルセスキオキサンのSi原子の1つと接続する非加水分解性基の一部である。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態では、少なくとも1つの官能基は、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、メチル又はエチルエーテル基、カルボニル基、チオール基、ジスルフィド基、メチル又はエチルチオエーテル基、カルボン酸、アミド基、無水物基、芳香族基、複素芳香族基、スルホニル基、1,2又は1,3カルボニル基を含む群から選択される。これらの基が金属コロイドの合成条件に耐性がない場合、これらの基の前駆体又は保護された基を使用してもよい(エポキシ基はヒドロキシル基のための前駆体として作用し得るか、又はイソシアネート基はアミノ基のための前駆体となる)。
【0016】
かかる基は、炭素数1〜20の線形又は分枝状のアルキレン基又は炭素数3〜20の環状アルキレン基によって、オルガノシルセスキオキサンの1つのSi原子と結合することができ、なお、2つ以上の水素原子がD、F、Cl、Br、Iで置換されていてもよく、互いに及びSi原子と直接接続していない1つ若しくは複数のCH
2基がO、Sで置換されていてもよく、又は、1つ若しくは複数のCH
2基が、6個〜12個の芳香族環原子を含む置換若しくは非置換の芳香族環系、若しくは5個〜12個の芳香族環原子を含む置換若しくは非置換の芳香族複素環系で置換されていてもよい。
【0017】
このような非加水分解性基の例は、
*−CH
2−NH
2、
*−(CH
2)
2−NH
2、
*−(CH
2)
3−NH
2、
*−(CH
2)
4−NH
2、
*−(CH
2)
5−NH
2、
*−(CH
2)
6−NH
2、
*−(CH
2)
7−NH
2、
*−(CH
2)
8−NH
2、
*−CH
2−SH、
*−(CH
2)
2−SH、
*−(CH
2)
3−SH、
*−(CH
2)
4−SH、
*−(CH
2)
5−SH、
*−(CH
2)
6−SH、
*−(CH
2)
7−SH、
*−(CH
2)
8−SH、
*−C
6H
6−SH、
*−CH
2−NCO、
*−(CH
2)
2−NCO、
*−(CH
2)
3−NCO、
*−(CH
2)
4−NCO、
*−(CH
2)
5−NCO、
*−(CH
2)
6−NCO、
*−(CH
2)
7−NCO、
*−(CH
2)
8−NCO(ここで、
*はオルガノシルセスキオキサンのSi原子との結合である)である。
【0018】
上述のように、オルガノシルセスキオキサンは、2タイプ以上の基を含んでいてもよい。オルガノシルセスキオキサンは更なる不活性基を含むことも可能であり、これにより、例えば、オルガノシルセスキオキサンの疎水性が増大する。これらの基は、炭素数1〜20の線形若しくは分枝状のアルキル鎖、又は炭素数3〜20の環状アルキル鎖であってもよく、なお、2つ以上の水素原子がD、F、Cl、Br、Iで置換されていてもよく、互いに及びSi原子と直接接続していない1つ若しくは複数のCH
2基がO、Sで置換されていてもよく、又は、1つ若しくは複数のCH
2基が、6個〜12個の芳香族環原子を含む置換若しくは非置換の芳香族環系、若しくは5個〜12個の芳香族環原子を含む置換若しくは非置換の芳香族複素環系で置換されていてもよい。
【0019】
かかる不活性基の例は、炭素数1〜12の線形又は分枝状のアルキル鎖、又は炭素数3〜12の環状アルキル鎖、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、n−ヘキシル、i−ヘキシル、オクチル、シクロヘキシル、又は6個〜12個の芳香族環原子を有するアリール基、例えばフェニル若しくはナフチルである。
【0020】
本発明の別の実施の形態では、オルガノシルセスキオキサンが、架橋を可能にする更なる基を含んでいてもよい。これは、これらの基が、縮合、重縮合又は重合反応の一部をなすことができることを意味する。これは、表面改質金属コロイドを周囲マトリックス、例えばポリマーマトリックスと化学結合させるか、又は金属コロイドを架橋させる可能性を切り開くものである。これらの官能基は、マトリックス中に存在する特定の基と特に反応することができ、例えば、変性ポリマーのヒドロキシル基は、オルガノシルセスキオキサン上に存在するエポキシド基と反応し得る。また、官能基は、周囲マトリックスの重縮合又は重合反応に加わることもある。これは、組成物の硬化前に改質金属コロイドを対応するモノマーと混合させた場合である。
【0021】
架橋を可能にする官能基の具体例は、例えばエポキシド基、オキセタン基、ヒドロキシル基、エーテル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、任意に置換されたアニリノ基、アミド基、カルボキシル基、無水カルボキシル基、ビニル基、アリル基、アルキニル基、アクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイル基、メタクリロイルオキシ基、メルカプト基、シアノ基、アルコキシ基、イソシアナト基、保護された又はブロック化されたイソシアナト基、アルデヒド基、アルキルカルボニル基、酸無水物基、及びリン酸基である。これらの官能基は、アルキレン、アルケニレン又はアリーレンブリッジ基(bridge groups)を介してケイ素原子に接続し、それは、酸素又は−NH−基を介在するものであってもよい。ビニル基又はアルキニル基を含有する非加水分解性基の例は、例えば、ビニル、1−プロペニル、2−プロペニル及びブテニル等のC
2〜6アルケニル、並びに、アセチレニル及びプロパルギル等のC
2〜6アルキニルである。上記ブリッジ基、及びアルキルアミノ基の場合、存在する任意の置換基は、例えば、上述のアルキル、アルケニル又はアリールラジカルから誘導される。当然のことながら、非加水分解性基も2つ以上の官能基を含有していてもよい。
【0022】
架橋を可能にする官能基を含有する非加水分解性基の具体例は、グリシジル−又はグリシジルオキシ−(C
1〜20)−アルキレン基、例えばβ−グリシジルオキシエチル、γ−グリシジルオキシプロピル、δ−グリシジルオキシブチル、ε−グリシジルオキシペンチル、ω−グリシジルオキシヘキシル、及び2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル、(メタ)アクリロイルオキシ−(C
1〜6)−アルキレン基(ここで(C
1〜6)−アルキレンは例えば、メチレン、エチレン、プロピレン又はブチレンである)、イソシアナト−(C
1〜6)アルキレン基、例えば3−イソシアナトプロピル基、ビニル終端C
1〜6−アルキレン基である。
【0023】
いくつかの実施の形態では、上記金属塩の金属に対する親和性を示す基も、架橋することができる基とされる。
【0024】
本発明の一実施の形態では、オルガノシルセスキオキサンが、上記金属塩の金属に対する親和性を示す基のみを含む。
【0025】
本発明の一実施の形態では、オルガノシルセスキオキサンが、上記金属塩の金属に対する親和性を示す少なくとも1つの基と、不活性基であってもよい少なくとも1つの更なる基とを含む。
【0026】
本発明の別の実施の形態では、オルガノシルセスキオキサンが、上記金属塩の金属に対する親和性を示す少なくとも1つの基と、架橋を可能にする少なくとも1つの基とを含む。好ましい実施の形態では、この基は、上記金属塩の金属に対する親和性を示す基と異なる。
【0027】
本発明の好ましい実施の形態では、オルガノシルセスキオキサンが、シルセスキオキサンの異なるSi原子と結合する少なくとも2つの異なる非加水分解性基を含む。
【0028】
本発明の好ましい実施の形態では、オルガノシルセスキオキサンが、シルセスキオキサンの異なるSi原子と結合する少なくとも3つの異なる非加水分解性基を含む。
【0029】
本発明の別の実施の形態では、オルガノシルセスキオキサンが、上記金属塩の金属に対する親和性を示す少なくとも1つの基と、架橋を可能にする少なくとも1つの基と、不活性基であってもよい少なくとも1つの更なる基とを含む。
【0030】
好ましい本発明のオルガノシルセスキオキサンは、官能基として、メルカプト基のみ、アミノ基のみ、エポキシ基のみ、メルカプト基及びアルキル基、メルカプト基及びビニル基、メルカプト基及びブロック化されたイソシアナト基、メルカプト基及びアミノ基、エポキシ基及びアルキル基、メルカプト基及びアルキル基及びビニル基、メルカプト基及びアルキル基及びアミノ基、メルカプト基及びアルキル基及びブロック化されたイソシアナト基を含む。
【0031】
イソシアネートのブロック化は、イソシアネートの反応性を可逆的に低下させる、当業者に既知の方法である。イソシアネートをブロック化するために、あらゆる一般的なブロッキング剤、例えば、アセトンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、メチルエチルケトキシム、アセトフェノンオキシム、ベンゾフェノンオキシム、3,5−ジメチルピラゾール、1,2,4−トリアゾール、マロン酸エチル、アセト酢酸エチル、ε−カプロラクタム、フェノール、エタノールが有用であり、本発明によれば1,2,4−トリアゾールが好まれる。
【0032】
オルガノシルセスキオキサンの製造に使用される出発原料に応じて、異なる構造体が形成され得る。本発明に好ましいオルガノシルセスキオキサンは、閉じたタイプのケージ形状オルガノシルセスキオキサン:
(R
1−SiO
1.5)
n (I)
又は、部分的に開いたタイプのケージ形状オルガノシルセスキオキサン:
(R
1−SiO
1.5)
n(O
0.5R
2)
1+m (II)
(式中、nは6〜18の整数を表し、mは0〜3を表す)である。
【0033】
式(I)で表される閉じたタイプのケージ形状構造では、nが、6〜18、好ましくは6〜14の偶数、より好ましくは8、10又は12となる。
【0034】
少なくとも1つのR
1は、先に述べたような、上記金属塩の金属に対する親和性を示す基である。存在する場合、他のR
1は、架橋を可能にする基又は不活性基である。R
2は、H及び/又は線形若しくは分枝状のC
1〜6アルキレン基である。
【0035】
反応混合物中には、オルガノシルセスキオキサンの混合物、例えば、nが8、10及び12である混合物が存在していてもよい。
【0036】
本発明の好ましい実施の形態では、本発明のオルガノシルセスキオキサンが、7000g/mol未満、5000g/mol未満、好ましくは3000g/mol未満、2000g/mol未満の平均分子量(GPC−SEC(ゲル浸透クロマトグラフィ−サイズ排除クロマトグラフィ)にて求める)を有する。
【0037】
本件では、SSQ分子が、還元反応が開始すると直ぐに金属と結合し得る1種類の少なくとも1つの官能基を有することが意図される。個々のSSQケージを構築するのに使用される前駆体同士間の調節された化学量論的な内部平衡(internal stoichiometric balance)の可能性と、金属と官能性SSQ分子との間の化学量論的な平衡の可能性との組合せから、上述のプレ反応によって、極めて確定的な官能性を有する金属コロイドを構築することができる。金属コロイドは、金属コロイドハイブリッド要素1つ当たり、唯一つ、正確には2つ若しくは3つ、又は実に複数のSSQ官能化分子を有するように設計され得る。加えて、メルカプト基及びアミン基、いわゆるH酸基が、錯化能力及び還元能力を同時に示す候補となる。さらに、かかるH酸基は、バインダマトリックスを増量させるか(built up)又はそれと結合することができる、例えばブロック化イソシアネート等の重縮合可能な基、又は例えばビニル基若しくはアクリレート基等の重合性基と組み合わせることも可能である。
【0038】
組成物は、少なくとも1つの金属塩を更に含む。好ましい実施の形態では、金属塩が、第8族〜第16族の金属、更に好ましくは、Cu、Ag、Au、Ni、Pd、Pt、Co、Rh、Ir、Ru、Os、Se、Te、Cd、Bi、In、Ga、As、Ti、V、W、Mo、Sn及びZn、更に好ましくは、Cu、Ag、Au、Ni、Pd、Pt、Co、Rh、Ir、Ru、Os、Se、Te、Sn及びZnを含む群から選択される少なくとも1つの金属から選択される少なくとも1つの金属イオンを含む。
【0039】
塩は、硝酸塩;硫酸塩;炭酸塩;ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物);有機酸による塩、例えば、酢酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩;H(AuCl
4)等の金属酸を含む群から選択することができる。
【0040】
好適な塩の例は、CuCl、CuCl
2、CuSO
4、Cu(NO
3)
2、AgNO
3、H(AuCl
4)、PdCl
2、ZnCl
2、ZnSO
4、SnCl
2、SnCl
4、Cu(CH
3COO)
2、CuCO
3、Cu(ClO
4)
2であり、これらの塩の水和物も使用することができる。
【0041】
好ましい実施の形態では、金属塩はCuイオンを含む。金属塩は、CuCl、CuCl
2、CuSO
4、Cu(NO
3)
2、Cu(CH
3COO)
2、CuCO
3、及び/又はCu(ClO
4)
2であるのが更に好ましい。
【0042】
好ましい実施の形態では、金属イオンとオルガノシルセスキオキサンとの比率が、500:1〜1:50となる。好ましい実施の形態では、該比率は500:1〜1:2である。別の好ましい実施の形態では、該比率が少なくとも1:1であり、最大500:1となる。金属イオンを過剰に使用することによって、金属コロイド1つ当たりのオルガノシルセスキオキサンの数を制御することができる。
【0043】
組成物は、少なくとも1つの還元剤を更に含む。還元剤は、金属塩の金属を、金属へと還元し得るのに必要である。還元剤の例は、ヒドラジン又はヒドラジン誘導体、水素化ホウ素ナトリウム等のホウ化水素、アスコルビン酸、リンゴ酸、シュウ酸、ギ酸、クエン酸、それらの塩、Na
2SO
3、Na
2S
2O
3、メルカプタン、アミン、次亜リン酸ナトリウム(NaH
2PO
2)等の次亜リン酸塩、糖である。好ましい実施の形態では、還元剤は、アスコルビン酸、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、及び次亜リン酸ナトリウムを含む群から選択される。
【0044】
金属イオンと還元剤とのモル比は50:1〜1:50とすることができる。
【0045】
組成物はまた、少なくとも1つの溶媒を含む。少なくとも1つの溶媒は、組成物のあらゆる構成成分を溶解することができる溶媒である。構成成分の性質に応じて、極性溶媒若しくは非極性溶媒、又はそれらの混合物を使用してもよい。極性溶媒の例は、水;メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール又はジエチレングリコール等のアルコール;ジエチルエーテル又はテトラヒドロフラン等のエーテル;DMFである。非極性溶媒の例は、ペンタン、ヘキサン又はシクロヘキサン等のアルカン;ベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン又はトルエン等の芳香族溶媒;クロロホルムである。少なくとも2つの溶媒の混合物を使用してもよい。
【0046】
本発明の好ましい実施の形態では、第1の工程において、少なくとも1つの溶媒中の金属塩の溶液又は分散液を調製する。この工程では、通常、エチレングリコール、水、エーテル、アルコール、又はそれらの混合物のような極性溶媒を使用する。
【0047】
本発明の一実施の形態では、金属塩の濃度が0.005mol/l〜2mol/lとなる。
【0048】
これにオルガノシルセスキオキサンを添加する。好ましくは、オルガノシルセスキオキサンを溶媒溶液として添加する。この溶媒は、金属塩に使用するものと同じ溶媒であっても異なる溶媒であってもよい。必要であれば、溶液中のあらゆる構成成分を得られる混合物中に維持するために、オルガノシルセスキオキサンを、加熱させた溶液に添加してもよい。
【0049】
本発明の一実施の形態では、オルガノシルセスキオキサンの溶液の濃度が0.0001mol/l〜2mol/lとなる。
【0050】
この混合物に最終工程で還元剤を添加する。この添加は好ましくは、1分〜2時間の期間にわたって行われる。この時間中、混合物は通常、撹拌される。
【0051】
好ましい実施の形態では、還元剤を、好ましくは濃度が0.05mol/l〜2mol/lの溶液として添加する。
【0052】
還元剤の添加中、又は還元剤の添加後、熱処理及び/又は光化学処理を実施して金属塩の金属の還元を誘起させる。
【0053】
このような処理は、周囲温度における混合物の撹拌を含んでいてもよい。該処理はまた、混合物の加熱又は0℃未満の冷却を含んでいてもよい。加熱は、混合物を30℃〜120℃へと加熱することを含むものであってもよい。
【0054】
混合物を更にこの温度で或る特定の期間、好ましくは5分〜48時間、処理してもよい。金属コロイドを形成する全反応に2時間〜48時間かけることが好ましい。
【0055】
金属及び還元剤に応じて、混合物は、室温で撹拌しても、又は冷やす若しくは加熱してもよい。
【0056】
反応中に温度を変えてもよい。
【0057】
好ましい実施の形態では、溶液が、分散剤、安定化剤又はキャッピング剤のようないずれの更なる成分も含有しない。
【0058】
本発明の別の実施の形態では、溶液が、分散剤、キャッピング剤又は安定化剤のような更なる添加剤を含有していてもよい。これは、粒子の凝集を防止するのに有益となり得る。
【0059】
或る特定の期間の後に反応をクエンチすることが必要である場合がある。クエンチ後、反応物を一定期間、先に述べたような範囲の1又は一連の異なる温度で更に撹拌することが必要である場合がある。
【0060】
好ましい実施の形態では、このプロセスが一段階法であるため、反応中にエマルション又は別の液相が何も存在しない。また、該プロセスは、別の還元剤の添加等のいずれの更なる工程も含まないことが好ましい。
【0061】
結果として、少なくとも1つのオルガノシルセスキオキサンで改質された金属コロイドが形成される。
【0062】
本方法は、反応混合物を清浄し(cleaning)、必要であれば、改質金属コロイドを単離する更なる工程を含んでいてもよい。
【0063】
好ましい実施の形態では、これらの工程は、遠心分離、デカンテーション、クロスフロー濾過又は濾過を含む。また、得られる粉末を真空乾燥させてもよい。
【0064】
金属コロイドは好ましくは、40nm未満、30nm未満、20nm未満、好ましくは1nm〜40nm、2nm〜30nm、特に好ましくは4nm〜20nmの平均粒径(TEMで測定)を有する。
【0065】
本発明の別の態様は、少なくとも1つの金属コロイドを少なくとも1つの溶媒中に分散させる工程を含む表面改質金属コロイドを製造する方法である。先の方法について述べたように、少なくとも1つのオルガノシルセスキオキサンを添加する。
【0066】
少なくとも1つの溶媒は、極性溶媒又は非極性溶媒とすることができ、又はそれらの混合物を使用してもよい。極性溶媒の例は、水;メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール又はジエチレングリコール等のアルコール;ジエチルエーテル又はテトラヒドロフラン等のエーテル;DMFである。非極性溶媒の例は、ペンタン、ヘキサン又はシクロヘキサン等のアルカン;ベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン又はトルエン等の芳香族溶媒;クロロホルムである。少なくとも2つの溶媒の混合物を使用してもよい。水、アルコール又はTHF等の極性溶媒が好ましい。
【0067】
混合物を或る特定の期間、例えば1時間〜48時間、好ましくは3時間〜18時間、更に撹拌することが必要である場合がある。表面改質は、溶媒及び反応条件(還流、密閉容器、開放容器)に応じて、0℃〜140℃の温度で、好ましくは20℃〜130℃の温度で行うことができる。
【0068】
得られる改質金属コロイドは、そのまま、又は、例えば遠心分離、濾過若しくはクロスフロー濾過によって更に単離若しくは清浄して使用することができる。
【0069】
Cu:シルセスキオキサンのモル比は、300:1〜1:20、好ましくは5:1〜10:1、より好ましくは2:1〜10:1とすることができる。官能基が金属コロイドの表面に結合しなければならいことから、大量のシルセスキオキサンが必要とされると思われる。
【0070】
好ましい実施の形態では、改質に使用される金属コロイドが、1000g/mol未満、800g/mol未満、500g/mol未満の分子量を有する化合物で表面改質される。このような表面改質により、オルガノシルセスキオキサンが金属コロイドの表面に容易に結合し得る。このような化合物の例は、デヒドロアスコルビン酸である。PVP等の安定化ポリマーが何も存在しないことが好ましい。
【0071】
本発明の好ましい実施の形態では、表面改質金属コロイドが、3wt%〜30wt%の炭素含有率を有する。
【0072】
本発明の好ましい実施の形態では、硫黄を含有するオルガノシルセスキオキサンを使用した場合、表面改質金属コロイドは、0.1wt%〜20wt%又は0.1wt%〜9wt%の硫黄含有率を有する。
【0073】
本発明の好ましい実施の形態では、窒素を含有するオルガノシルセスキオキサンを使用した場合、表面改質金属コロイドは、0.1wt%〜5wt%の窒素含有率を有する。
【0074】
本発明の方法により得られる表面改質金属コロイドは、様々な用途で使用することができる。使用されるオルガノシルセスキオキサンは、多くの種々の官能基を伴って得られ得るため、オルガノシルセスキオキサンは、金属コロイドをいずれの環境にも適合させることができる。
【0075】
オルガノシルセスキオキサンの、金属に親和性の少なくとも1つの基(The at least one metal affine group)は、金属コロイドの表面に化学結合、好ましくは共有結合又は配位結合を形成する。
【0076】
金属コロイドは、コーティング剤、塗料、パウダーコーティング剤、マスターバッチ、インク、織物、ポリマー、電子アプリケーション(electronic applications)、導電性コーティング剤、医療デバイス又はインプラントに使用することができる。特に、銅及び銀のような抗菌金属の金属コロイドを使用する場合、本発明の金属コロイドは、既述の用途において抗菌特性を付加することができる。
【0077】
金属コロイドを、ポリマー、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、例えばポリメチルメタクリレート及びポリメチルアクリレート、ポリビニルブチラール、ポリカーボネート、ポリウレタン、ABSコポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリエーテル、エポキシド樹脂、又はこのようなポリマーのモノマー若しくは前駆体、例えばエポキシド、イソシアネート、メタクリレート、アクリレートと混合することができる。金属コロイドは、かかるポリマーの重合前後に添加することができ、重合前に金属コロイドを添加することが好ましい。
【0078】
このような組成物は、当該技術分野において、意図した目的及び所望の特性に応じて一般に添加される更なる添加剤を含み得る。添加剤の具体例は、架橋剤、溶剤、有機及び無機着色顔料、染料、UV吸収剤、潤滑剤、レベリング剤、湿潤剤、接着促進剤、並びに開始剤である。開始剤は、熱又は光化学的に誘導される架橋に役立ち得る。
【0079】
組成物は、液体、ペースト又は粉末であってもよく、これは、例えばポリウレタンをベースとする、顆粒又はパウダーコーティング剤へと更に加工することもできる。
【0080】
組成物は、任意の従来通りの様式でコーティング用組成物として表面に塗布することができる。任意の一般的なコーティング方法を使用することができる。コーティング方法の例は遠心コーティング、(電着)浸漬コーティング、ナイフコーティング、噴霧、吹付け(squirting)、スピニング、引抜き(drawing)、スピンコーティング、ポーリング(pouring:流し込み)、ローリング、ブラッシング、フローコーティング、流延成形(film casting)、ブレードキャスティング、スロットコーティング、メニスカスコーティング、カーテンコーティング、ローラー塗布、又は従来の印刷法、例えばスクリーン印刷若しくはフレキソ印刷である。塗布されるコーティング用組成物の量は、所望の被膜の厚みがもたらされるように選ばれる。
【0081】
表面へのコーティング用組成物の塗布に続いて、適切な場合には、例えば周囲温度(40℃未満)における乾燥を行う。
【0082】
任意に事前乾燥させたコーティング剤に、熱及び/又は放射線による処理を施す。
【0083】
また、成形体を製造するのに該組成物を使用することもできる。
【0084】
本発明の好ましい実施の形態では、改質金属コロイドが、このような組成物中に、少なくとも0.15wt%、少なくとも0.3wt%、少なくとも0.4wt%、少なくとも0.5wt%で存在し、これとは無関係に、多くとも5wt%、多くとも3wt%で存在する。特に改質銅コロイドは、コーティング剤又は成形体に殺菌特性を付与することができる。
【0085】
金属コロイドはまた官能基を含む(comprise with)ことが可能で、これにより、組成物のモノマー又はポリマーと架橋し得る。
【0086】
そのため本発明の目的は、少なくとも1つの本発明による改質金属コロイドを含む成形体又はコーティング剤、好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、例えばポリメチルメタクリレート及びポリメチルアクリレート、ポリビニルブチラール、ポリカーボネート、ポリウレタン、ABSコポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリエーテル、エポキシド樹脂を含む群から選択されるポリマーを少なくとも1つ含む成形体又はコーティング剤を提供することである。
【0087】
また、本発明の目的は、このようなコーティング剤でコーティングされる基体を提供することである。基体は、プラスチック、金属、ガラス又はセラミックから作られるものとすることができる。
【0088】
本発明の別の態様は、金属コロイドの表面改質のための上記のオルガノシルセスキオキサンの使用である。
【0089】
本発明のオルガノシルセスキオキサンは好ましくは、欧州特許第1957563号に従って製造される。
【0090】
第1の工程において、式RSiX
3(式中、Rは、加水分解するのに安定な有機基であり、後に、オルガノシルセスキオキサンのSiと結合する有機基を形成し、各Xは、他の各X基と同じか又は異なり、各Si−X結合が加水分解性となってSi−OH結合を形成するように、化学反応性基から選択される)を有する少なくとも50モル%の加水分解性モノマー前駆体を含む、加水分解性モノマー前駆体を、鉱酸触媒の存在下で部分的に加水分解させる。完全な縮合前に、過剰な水で液体組成物をクエンチさせる。
【0091】
その後、オルガノシルセスキオキサンを、通常、分離相として単離させる。蒸発によって残存するあらゆる溶媒を除去してもよい。
【0092】
好ましい実施の形態では、加水分解性モノマー前駆体を溶液中で部分的に加水分解させる。溶媒は極性溶媒とするが、これは水でなく、好ましくはアルコール、より好ましくは100℃未満の沸点を有するアルコールとする。
【0093】
部分加水分解の水の量は、加水分解性モノマー前駆体中に存在する1つ又は多くとも2つの加水分解性結合の加水分解を実現させるものとする。好ましい実施の形態では、水の量は、1つの加水分解性結合の加水分解に関する水の量とする。
【0094】
好ましい実施の形態では、X基は、同じであっても異なっていてもよく、水素、ヒドロキシル又はハロゲン(F、Cl、Br又はI)、好ましくは炭素数1〜12、特に炭素数1〜6の、アルコキシ(好ましくはC
1〜6アルコキシ、例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ及びブトキシ)、アリールオキシ(好ましくはC
6〜10アリールオキシ、例えばフェノキシ)、アシルオキシ(好ましくはC
1〜6アシルオキシ、例えばアセトキシ又はプロピオニルオキシ)、アルキルカルボニル(好ましくはC
2〜7アルキルカルボニル、例えばアセチル)、アミノ、モノアルキルアミノ又はジアルキルアミノを含む群から選択される。好ましい加水分解性基は、ハロゲン、アルコキシ基及びアシルオキシ基である。特に好ましい加水分解性基は、C
1〜4アルコキシ基、特にメトキシ及びエトキシである。
【0095】
好ましい実施の形態では、加水分解性モノマー前駆体の70モル%、80モル%又は100モル%が式RSiX
3を有する。
【0096】
必要であれば、後にオルガノシルセスキオキサンのSi原子と結合する、加水分解性前駆体の官能基を、シルセスキオキサンの合成前に保護しておいてもよく、例えば、イソシアネートをブロック化しておいてもよい。
【0097】
加水分解性モノマー前駆体として有用なシランの例は、γ−グリシジルオキシアルキルトリアルコキシシラン、エポキシアルキルトリ(メ)エトキシシラン又は2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)アルキルトリ(メ)エトキシ−シラン((メ)エトキシはメトキシ又はエトキシである)(ここで、アルキル基は炭素数2〜6であり得る)、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(GPTS)、γ−グリシジルオキシプロピル−トリエトキシシラン(GPTES)、3,4−エポキシブチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ヒドロキシメチルトリエトキシシラン、ビス(ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン及びN−ヒドロキシエチル−N−メチルアミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシシリルプロピルジエチレントリアミン、N−(6−アミノヘキシル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)−フェニルエチルトリメトキシシラン及びアミノフェニルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、1,2−ジメルカプトエチルトリメトキシシラン及びp−メルカプトフェニルトリメトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリ(メ)エトキシシラン及び3−イソシアナトプロピルジメチルクロロシランである。
【0098】
本発明の好ましい実施の形態では、1種類の加水分解性モノマー前駆体を使用する。
【0099】
本発明の好ましい実施の形態では、少なくとも2つの異なる加水分解性モノマー前駆体を使用し、それらが、異なる非加水分解性基を含んでいることが好ましい。
【0100】
本発明の他の目的及び利点は、添付の図面と併せて、本明細書及び添付の特許請求の範囲を読むことにより確認することができる。
【0101】
本発明のより完全な理解のために、添付の図面に関連してなされる以下の説明について述べる。