特表2016-535427(P2016-535427A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2016-535427燃料電池寿命を延ばすための方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-535427(P2016-535427A)
(43)【公表日】2016年11月10日
(54)【発明の名称】燃料電池寿命を延ばすための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20161014BHJP
   H01M 8/04228 20160101ALI20161014BHJP
   H01M 8/04303 20160101ALI20161014BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20161014BHJP
【FI】
   H01M8/04 Z
   H01M8/04 Y
   H01M8/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-550911(P2016-550911)
(86)(22)【出願日】2014年1月24日
(85)【翻訳文提出日】2016年6月22日
(86)【国際出願番号】CN2014000091
(87)【国際公開番号】WO2015062154
(87)【国際公開日】20150507
(31)【優先権主張番号】201310523533.3
(32)【優先日】2013年10月30日
(33)【優先権主張国】CN
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】516127352
【氏名又は名称】チャン,ヨン
(71)【出願人】
【識別番号】516127363
【氏名又は名称】マ,ウェイ
(71)【出願人】
【識別番号】516127374
【氏名又は名称】キ,ジガン
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ヨン
(72)【発明者】
【氏名】マ,ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】キ,ジガン
【テーマコード(参考)】
5H026
5H127
【Fターム(参考)】
5H026AA06
5H127AA06
5H127AB09
5H127AB10
5H127AC05
5H127BA02
5H127BB02
5H127BB45
5H127CC01
5H127DC47
5H127DC48
5H127DC57
5H127DC58
(57)【要約】
本発明は、特に燃料電池システムが外部負荷への電力供給を停止したときから次の起動までの期間に、スタックのために前記H脆化に強い材料で作製された気密筐体内に封じ込まれたHからなるH環境を作り出すことにより燃料電池寿命を延ばすための方法を開示する。本発明は、その中にスタックが配置される気密筐体からなり、前記筐体上に筐体−H−入口および筐体−H−出口があり、前記筐体−H−入口の前に電磁弁があり、かつ前記筐体−H−出口の後に電磁弁があり、前記筐体上に、燃料、酸化剤および冷却剤をそれぞれ輸送するための前記スタックに接続されたパイプラインが通ることができる適切にサイズ決めされた開口部があり、前記開口部と前記パイプラインとの間の間隙は封止されていることを特徴とする、燃料電池寿命を延ばすための装置を開示する。本発明は、本燃料電池システムがアイドリングまたは停止状態にある場合に空気がスタック内に進入するのを防止し、従って、それにより、燃料電池非運転期間全体を通して開放電圧によって引き起こされる電極損傷および本燃料電池システムの起動または停止プロセスのいずれかの間に空気/水素境界の形成によって引き起こされる電極損傷に関連する問題を効率的に解決する。本発明は、開放電圧のMEAまたはスタックのいずれかへのそれらの保管期間中の損傷を排除するための方法および装置も開示する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタックのために気密筐体内に封じ込まれたHからなるH環境を作り出すことを特徴とする、燃料電池寿命を延ばすための方法。
【請求項2】
前記スタックのための前記H環境を燃料電池運転状態および非運転状態の両方の間に維持する、請求項1に記載の燃料電池寿命を延ばすための方法。
【請求項3】
前記スタックのための前記H環境を前記燃料電池非運転期間中に維持する、請求項1に記載の燃料電池寿命を延ばすための方法。
【請求項4】
前記H環境は1気圧よりも大きい絶対圧力を有する、請求項1に記載の燃料電池寿命を延ばすための方法。
【請求項5】
前記燃料電池システムが前記非運転状態にある場合、スタック−空気−入口、スタック−空気−出口およびスタック−H−出口は閉鎖状態にあるが、スタック−H−入口は開放状態にある、請求項1に記載の燃料電池寿命を延ばすための方法。
【請求項6】
前記燃料電池システムが前記非運転状態にある場合、前記スタック−空気−入口、前記スタック−空気−出口および前記スタック−H−出口は閉鎖状態にあるが、前記スタック−H−入口はそれが閉鎖される前の10〜20分間は開放状態にある、請求項1に記載の燃料電池寿命を延ばすための方法。
【請求項7】
前記燃料電池システムが外部負荷への電力供給を停止した後に、カソード室内に残っているOをHを用いて素早くパージして除去する、請求項1〜6のいずれかに記載の燃料電池寿命を延ばすための方法。
【請求項8】
前記燃料電池システムが前記外部負荷への電力供給を停止した後に疑似負荷または補助負荷を前記スタックに接続してカソード室内に残っているOを素早く消費させる、請求項1〜6のいずれかに記載の燃料電池寿命を延ばすための方法。
【請求項9】
前記燃料電池システムが前記外部負荷への電力供給を停止した後に外部電源を使用してカソード室内に残っているOを素早く消費させる、請求項1〜6のいずれかに記載の燃料電池寿命を延ばすための方法。
【請求項10】
その中にスタックが配置される気密筐体からなり、前記筐体上に筐体−H−入口および筐体−H−出口があり、前記筐体上に、燃料、酸化剤および冷却剤をそれぞれ輸送するための前記スタックに接続されたパイプラインが通ることができる適切にサイズ決めされた開口部があり、前記開口部と前記パイプラインとの間の間隙は封止されていることを特徴とする、燃料電池寿命を延ばすための装置。
【請求項11】
前記筐体−H−入口の前に圧力調整器がある、請求項10に記載の燃料電池寿命を延ばすための装置。
【請求項12】
前記筐体−H−入口の前に電磁弁があり、かつ前記筐体−H−出口の後に電磁弁がある、請求項10に記載の燃料電池寿命を延ばすための装置。
【請求項13】
前記筐体内にH濃度センサがある、請求項10に記載の燃料電池寿命を延ばすための装置。
【請求項14】
前記筐体内にガス圧力センサがある、請求項10に記載の燃料電池寿命を延ばすための装置。
【請求項15】
前記筐体は、ステンレス鋼、アルミニウムもしくはその合金または高密度ポリエチレンで作られている、請求項10に記載の燃料電池寿命を延ばすための装置。
【請求項16】
前記筐体の外面または内面のいずれかの周りに絶縁材が巻き付けられている、請求項10に記載の燃料電池寿命を延ばすための装置。
【請求項17】
前記筐体の内部に乾燥剤が配置されている、請求項10に記載の燃料電池寿命を延ばすための装置。
【請求項18】
各カバーのより幅広い側は前記スタックの空気チャネルを覆い、かつ各カバーのより狭い側はスタック−空気−入口パイプラインまたはスタック−空気−出口パイプラインのいずれかに接続されている状態で開放カソード型スタックのためにカバーが装着されている、請求項10に記載の燃料電池寿命を延ばすための装置。
【請求項19】
前記筐体上に少なくとも1つの操作可能かつ密閉可能な扉がある、請求項10に記載の燃料電池寿命を延ばすための装置。
【請求項20】
MEAおよびスタックのそれらの保管中の寿命を延ばすための方法であって、前記MEAおよびスタックのためにH環境を作り出し、かつ前記H環境は気密筐体内に封じ込まれたHからなることを特徴とする方法。
【請求項21】
MEAおよびスタックの寿命を延ばすための装置であって、その中に前記MEAおよび前記スタックが配置される気密筐体からなり、前記筐体上に筐体−H−入口および筐体−H−出口があり、前記筐体−H−入口の前に圧力調整器があり、前記筐体−H−入口の前に電磁弁があり、前記筐体−H−出口の後に電磁弁があり、前記筐体内にH濃度センサがあることを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池に関し、特に、燃料電池非運転期間における開放電圧(OCV)および燃料電池の起動/停止プロセス中の酸化剤/燃料境界の形成によって引き起こされる燃料電池に対する損傷を排除し、このようにして燃料電池寿命を延ばすための方法および装置、ならびにそれらの保管期間中のOCVによる膜電極アセンブリおよびスタックに対する損傷を排除するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
全種類の燃料電池の開発において耐久性は最も難しい課題である。商業化のためには、燃料電池は従来技術のものに匹敵する寿命を達成するものでなければならない。米国エネルギー省は、異なる用途に対して1,500〜60,000時間の範囲の燃料電池寿命目標を定めている。
【0003】
燃料電池の耐久性は、材料そのもの、運転条件、制御戦略およびシステム設計などの多くの要因によって影響を受ける。運転条件としては、温度、相対湿度、圧力、混入物、反応物の化学量論比、温度サイクル、相対湿度(RH)サイクル、電圧サイクル、開放電圧(OCV)、および電極における酸化剤/燃料境界(例えばO/H境界)の形成が挙げられる。慎重な設計や工学技術および適切な制御アルゴリズムを用いれば、温度、相対湿度、圧力、混入物、反応物の化学量論比、RHサイクルおよび温度サイクルの影響を回避または制御することができる。しかし、OCVおよび酸化剤/燃料境界の有害な影響はこれまで満足が行く程に解決されていない。
【0004】
燃料電池がアイドリングまたは停止状態のいずれかになった後、すなわち燃料電池システムが外部負荷に電力を供給しない非運転状態になった後に、スタック内の各単位セルは約1VのOCVを有する。カソード室内に残っている空気(例えば酸化剤)およびアノード室内に残っているH(例えば燃料)はPEMFC内のプロトン交換膜(PEM)などの電解質を通って他の室に徐々に拡散し、そこでは反応(1)に従って空気からのOはHと化学反応して水を生成し、それに応じて両室内の圧力は低下する。
+0.5O=HO (1)
【0005】
より高い温度およびより高い反応物圧力下でより薄い(すなわち不完全に製造された)PEMを通した場合、拡散率はより高くなる。PEMを通るHおよびOの流束は、フィックの拡散の第一法則すなわちJ=−Ddc/dx(式中、Dおよびdc/dxは拡散種の拡散係数および濃度勾配である)を用いて容易に推測することができる。アノード室およびカソード室内の絶対圧力は、10分で周囲圧力よりも非常に低い圧力まで低下する可能性がある。例えば、これらの室の圧力は15分で0.5バール程の低い圧力まで低下することがある。上記室内圧力が低下することで、環境からの空気のスタック内への拡散が促進される。最終的に、アノード室およびカソード室の両方が空気で満たされ、その最終圧力は周囲圧力に到達する。図1に示すように、各単位セルのカソードおよびアノード間のOCVは0Vであるが、アノード/PEM界面およびカソード/PEM界面における電位はどちらも反応(2)によって決まる約1Vである。
0.5O+2Η+2e=HO E°=1.2V (2)
【0006】
従って、燃料電池システムが非運転状態に入って数分後のアノード/PEM界面およびカソード/PEM界面はどちらも約1Vであり、それによりPt触媒粒子および炭素担体などの電極構成要素の経年劣化が加速され、このようにして電極の寿命が短くなる。燃料電池は輸送用途、バックアップ用途および携帯用途のための電源として使用される場合、大部分の時間は非運転状態にあるため、非運転状態中のOCVの累積的影響は深刻であり、燃料電池システムの寿命を劇的に短くする恐れがある。スタックが運転状態よりも運転状態でない場合に速く劣化することは非常に憂慮すべき事実であり、これまで解決されていない。
【0007】
同様に、OCVは、その保管期間中に膜電極アセンブリ(MEA)の性能および寿命にも影響を与える。MEAを準備した後であるがスタックに組み立てていない場合、MEAは空気で満たされた周囲環境に通常露出されている。アノード/PEM界面およびカソード/PEM界面における電位はどちらも約1Vであり、それによりPt触媒粒子および炭素担体などの電極構成要素の経年劣化が加速される。
【0008】
OCVはその保管期間中のスタックの性能および寿命にも影響を与える。スタックが製造された後であるが燃料電池システム内に設置されていない場合、スタックは周囲環境に通常露出されているため、アノード室およびカソード室はどちらも空気で満たされる。各単位セルのアノード/PEM界面およびカソード/PEM界面の電位はどちらも約1Vであり、それによりPt触媒粒子および炭素担体などの電極構成要素の経年劣化が加速される。
【0009】
さらに悪いことに、電極表面にO/H境界などの酸化剤/燃料境界が形成される。そのような境界の形成は、各MEAの性能および耐久性をひどく低下させ、このようにして燃料電池寿命を短くする恐れがある。燃料電池を停止した後に環境からの空気が未反応のHをなお含むアノード室内にゆっくりと拡散した後、および燃料電池の起動中に、非運転期間中に既に空気で満たされているアノード室にHが進入した場合に、そのような境界がアノードにおいて容易に形成される。図2に示すように、燃料電池システムを停止した後にOが残りの未反応のHを含むアノード内に拡散した場合、あるいは起動中に既に空気で満たされているアノード内にHが進入した場合に、アノードでO/H境界が形成される。図2では、点線の垂直線はO/H境界を仮定として表し、この線は単位セルをI、II、IIIおよびIV部分に分離している。これらの4つの部分は図2において電子およびプロトンの流れについて矢印で示されている内部回路を形成している。部分Iにおける半反応は、反応(3)に従った一般的な水素酸化反応(HOR)であり、電極/PEM界面電位は約0Vである。
=2H+2e E°=0.0V (3)
【0010】
部分IIおよびIIIにおける半反応は、反応(2)に従った一般的な酸素還元反応(ORR)であり、電極/PEM界面電位は約1Vである。カソードとアノードとの総電位差は約1Vであるため、部分IVと部分IIIとの電位差はこの電位差に近くなるはずであり、部分IIIは約1Vの電極/PEM界面電位を有するため、部分IVにおける電極/PEM界面電位は約2Vである。各種試験において、部分IVと部分IIIとの電位差は約1.6Vである。そのような高電位下では、反応(4)、(5)および(6)にそれぞれ従って、炭素腐食、Pt酸化/溶解および水電解が部分IVにおいて生じる。水電解は、通常はカソードに対して損傷を引き起こさないが、炭素腐食およびPt溶解は、部分IVにおいてカソード触媒層を素早くかつ顕著に損傷させる。
C+2HO=CO+4H+4e E°=0.2V (4)
Pt=Pt2++2e E°=1.2V (5)
O=0.5O+2H+2e E°=1.2V (6)
【0011】
第2のガス(例えば空気)が第1のガス(例えばH)で満たされている室に進入すると、O/H境界はアノードの表面に沿って移動する。第2のガスが環境からアノード室内に拡散した場合、その境界の移動は非常に遅く、そのため部分IVが約1.6Vの電圧を受ける時間が長くなり、より多くの損傷が引き起こされる。第2のガスを第1のガスで満たされているアノード内にパージした場合、その境界がアノード全体を移動する時間はより短くなるため、部分IVに対して生じる損傷はさらに小さくなる。速いバージは、燃料電池の停止および起動プロセス中にO/H境界のカソードに対する損傷を減らすために各種燃料電池の開発者によって使用されている一般的な方法である。
【0012】
OCVの影響を制限するために、人々は燃料電池の停止後に、Nを使用してアノードをパージすることを考えることが多い。実際に、そのようなパージ目的であらゆる不活性ガスを使用することができる。しかし、燃料電池非運転期間中に環境からの空気はアノード内に徐々に拡散するため、OCVによって引き起こされる劣化は防止されず、空気/燃料境界の形成を防止するために起動中にNパージが常に必要である。また、Nボンベを輸送および携帯用途のために持ち運んで定置用途のために現場で設置しなければならないため、Nを用いたパージは便利ではない。Nが入手可能でなければ、アノードを空気またはカソード排気でパージすることも有用であり、それによりアノードにおける空気/H境界の存在時間を劇的に短くすることができる。
【0013】
不活性ガスを用いてアノードをパージする代わりに、燃料電池が非運転状態になる前に、燃料タンクまたはアノード排気のいずれかからのHを使用してカソードをパージすることもできる。図3に示すように、アノードにHが存在すれば、カソードにおけるO/H境界の形成によって約1Vを超える界面電位が生じることはない。短い非運転期間(例えば10分未満)の間にアノードおよびカソードの両方においてHを維持することができれば、燃料電池システムの再起動によって約1Vよりも高い電位が生じることは恐らくないであろう。従って、OCVおよびO/H境界によって引き起こされる損傷はどちらも回避される。Hでのパージ前に、疑似負荷または補助負荷を使用してカソードにおけるO濃度を減少させることができる。しかし、より長い非運転期間(例えば30分超)では、環境からの空気がスタック内に拡散してしまうことでアノード室およびカソード室の両方が空気で満たされるため、非運転期間中のOCVに関連する問題および次の起動中のO/H境界の形成を完全に回避することができない。
【発明の概要】
【0014】
、空気またはHを用いたパージによりOCVおよびO/H境界の影響を減少させる全ての最近の進歩にも関わらず、より長い非運転期間では環境からの空気がアノード室およびカソード室の両方に拡散し、空気/H境界の形成による損傷が潜在的に生じ、両室が空気で満たされるとOCV損傷が開始し、またその後の起動中にO/H境界が再び形成されてさらなる損傷を引き起こしてしまうため、OCVおよびO/H境界の影響は完全に解決されていない。
【0015】
本発明の目的は、OCVおよび酸化剤/燃料境界によって引き起こされる損傷を完全に回避し、このようにして燃料電池の耐久性および寿命を顕著に高めるための方法および装置を提供することにある。
【0016】
本発明の別の目的は、燃料電池非運転期間中のH損失を防止することにある。
【0017】
本発明のさらなる目的は、MEAおよびスタックに対してそれらの保管期間中にOCVによって引き起こされる損傷を完全に回避するための方法および装置を提供することにある。
【0018】
その後の説明と共に考察される添付の図面を参照することで本発明の完全な理解を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】アノード室およびカソード室の両方が空気で満たされる燃料電池非運転期間中の典型的なOCVならびにアノード/電解質およびカソード/電解質の界面電位を示す。
図2】Hが空気で満たされているアノード室に進入する燃料電池の起動中または環境からの空気がHを含むアノード室に進入する燃料電池の停止中にO/H境界がアノードにおいて形成された場合の電圧状況を示す。
図3】アノード室およびカソード室の両方がHで満たされる燃料電池の起動中にO/H境界がカソードにおいて形成された場合の電圧状況を示す。
図4】燃料電池が非運転状態になった後の電解質を通したHおよび空気の拡散を示す。
図5】アノード室およびカソード室の両方がHで満たされた場合のOCVならびにアノード/電解質およびカソード/電解質の界面電位を示す。
図6】燃料電池寿命を延ばすための本発明の装置を示す。
図7】空気を輸送するためにその上に装着されたカバーを有する開放カソード型スタックを示す。
図8】操作可能かつ密閉可能な扉を有する気密筐体を示す。
図9】本発明の開放カソード型スタックを操作するために図8に示す筐体の扉を開放した後の構造を示す。
図10】本発明の燃料電池システムの停止手順を示す。
図11】本発明の別の燃料電池システムの停止手順を示す。
図12】本発明の別の燃料電池システムの停止手順を示す。
図13】本発明の別の燃料電池システムの停止手順を示す。
図14】本発明の別の燃料電池システムの停止手順を示す。
図15】本発明の別の燃料電池システムの停止手順を示す。
図16】本発明の別の燃料電池システムの停止手順を示す。
図17】本発明の別の燃料電池システムの停止手順を示す。
図18】MEAおよびスタックを保管するための本発明の手順を示す。
図19】外部電源を使用することによるカソード内に残っているOの素早い消費を示す。
【0020】
これらの図および例示では、主要な構成要素に以下のように符号が付されている。
1:アノード
2:カソード
3:電解質
4:最初の段階
5:中間の段階
6:最終の段階
7:水素源
8:外部電源
801:気密筐体
802:スタック
803:筐体−H−入口−電磁弁
804:筐体−H−出口−電磁弁
805:スタックのための支持体
806:圧力調整器
807:H濃度センサ
808:スタック−H−入口
809:スタック−H−出口
810:スタック−冷却剤−入口
811:スタック−冷却剤−出口
812:スタック−空気−入口
813:スタック−空気−出口
814:筐体−H−入口
815:筐体−H−出口
816:開放カソード型スタックのためのカバー
817:ダクト
818:扉
【0021】
燃料電池システムは開発者の設計および制御戦略に応じて、上記構成要素をすべて含んでいなくてもよく、それ以上の構成要素を含んでいてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の本質は、スタックのためにH環境を作り出し、かつ燃料電池システムが外部負荷に電力を供給する必要がなくなった後にそのアノード室およびカソード室の両方をHで満たすことである。
【0023】
酸化剤として空気、燃料としてHを用いて、本発明を以下に概括的に説明する。
【0024】
燃料電池寿命を延ばすための方法は基本的に以下のとおりである。本燃料電池システムが外部負荷に電力を供給する必要がなくなった後、すなわち本燃料電池システムがアイドリングまたは停止状態(本発明では「非運転状態」と呼び、本燃料電池システムが外部負荷に電力を供給する場合は本発明では「運転状態」と呼ぶ)のいずれかに入った後に、スタックのためにH環境を作り出し、前記H環境を密閉筐体内に封じ込まれたHで作り、前記密閉筐体をH脆化に強い気密材料で作る。スタックはH環境内にあるため、燃料電池非運転期間全体を通して、環境からの空気はスタック内に拡散することができず、従って本燃料電池が非運転状態に入った後にO/H境界の形成は生じない。
【0025】
本燃料電池が非運転状態に入った後に、カソード内に残っているOは電解質を通ってアノードに拡散し、そこでHと化学反応して水を生成する。同様に、アノード内に残っているHは電解質を通ってカソードに拡散し、そこでOと化学反応して水を生成する。最終的に、アノード室およびカソード室はどちらもHおよびNの混合物で満たされる。そのプロセス全体が図4に示されており、そこでは、点線の矩形内のHおよびO/Nは対向室から来るガスを表す。アノード室およびカソード室はどちらもH(および不活性ガスN)で満たされているため、図5に示すように、アノード/電解質およびカソード/電解質の界面電位はどちらも反応(3)によって決まる0Vである。従って、アノードまたはカソードのどちらにもOCV損傷が生じることはなく、これは、アノード/電解質およびカソード/電解質の界面電位がどちらも約1Vである図1に示す状況とは明らかに対照的である。次の起動中に空気をカソードに送ると、図3に示すように、Oはカソードに以前から存在するHに出会ってO/H境界を形成する。しかし、アノード室およびカソード室はどちらも最初にHで満たされているため、前記O/H境界の形成は、部分IVにおける電極/電解質の界面電位を正常なOCVである約1Vまで上昇させるだけであり、図2に示す部分IVにおける約2Vの電極/電解質界面電位まで上昇させることはなく、このようにして、図2に示す高い電極/電解質界面電位の影響が回避される。
【0026】
上記燃料電池寿命を延ばすための方法では、スタック−空気−入口、スタック−空気−出口、スタック−H−入口およびスタック−H−出口は全て、本燃料電池システムが非運転状態に入った後に閉鎖状態に切り換えることができる。
【0027】
上記燃料電池寿命を延ばすための方法では、スタック−空気−入口、スタック−空気−出口およびスタック−H−出口は全て、本燃料電池システムが非運転状態に入った後に閉鎖状態に切り換えることができるが、スタック−H−入口は、Hが必要に応じてH源から自動的にスタックに進入することができるように、常に開放したままにすることができる。
【0028】
上記燃料電池寿命を延ばすための方法では、スタック−空気−入口、スタック−空気−出口およびスタック−H−出口は全て、本燃料電池システムが非運転状態に入った後に閉鎖状態に切り換えることができるが、スタック−H−入口は、Hが必要に応じてH源から自動的にスタックに進入することができるように10〜20分間開放したままにした後に、スタック−H−入口を閉鎖する。
【0029】
上記燃料電池寿命を延ばすための方法では、気密筐体内のH圧力を1気圧超に設定する。
【0030】
上記燃料電池寿命を延ばすための方法では、本燃料電池システムが外部負荷に電力を供給する必要がなくなった後に、カソード室内に残っているOをHで素早くパージして除去することができる。
【0031】
上記燃料電池寿命を延ばすための方法では、本燃料電池システムが外部負荷に電力を供給する必要がなくなった後に、スタックを疑似負荷または補助負荷に接続することによりカソード室内に残っているOを素早く消費させることができる。
【0032】
上記燃料電池寿命を延ばすための方法では、本燃料電池システムが外部負荷に電力を供給する必要がなくなった後に、スタック内の各MEAのアノードに約50mVを印加し、かつカソードに0mVを印加する小さい外部電源を使用してHをアノードからカソードにポンプで送り出すことにより、カソード室内に残っているOを素早く消費させることができる。
【0033】
上記方法を行うための本発明の装置が図6に示されている。本装置は、その中にスタック802が配置されるHで満たされた気密筐体801からなる。筐体801上には、筐体801の内部と筐体801の外部とを繋ぐための筐体−H−入口814および筐体−H−出口815がある。筐体801上にはスタックに接続されたパイプラインが通ることができる開口部(図6には図示せず)があり、パイプラインとしては、スタック−H−入口パイプライン、スタック−H−出口パイプライン、スタック−空気−入口パイプライン、スタック−空気−出口パイプライン、スタック−冷却剤−入口パイプラインおよびスタック−冷却剤−出口パイプラインが挙げられる。
【0034】
上記燃料電池寿命を延ばすための装置には、H源7を筐体−H−入口814を介して筐体801に接続するパイプラインがあり、筐体801を筐体−H−出口815を介して外部環境に接続するパイプラインがある。
【0035】
上記燃料電池寿命を延ばすための装置には、H源7を筐体801に接続するパイプライン上に筐体−H−入口−電磁弁803があり、筐体801を外部環境に接続するパイプライン上に筐体−H−出口−電磁弁804がある。
【0036】
パイプライン上の筐体−H−入口−電磁弁803を使用してH源7と筐体801との接続を開閉する。パイプライン上の圧力調整器806を使用して気密筐体801に進入してそこを満たすHの圧力を制御し、筐体801内のHの圧力を圧力調整器806によって事前設定されたものに等しくする。筐体801が許容されない量の空気を含む場合、筐体−H−入口−電磁弁803および筐体−H−出口−電磁弁804をどちらも開いて空気をHでパージし、次いで筐体−H−出口−電磁弁804を閉じる。
【0037】
上記燃料電池寿命を延ばすための装置には、筐体801内にH濃度センサ807を配置して筐体801内のH濃度を監視することができる。
【0038】
上記燃料電池寿命を延ばすための装置には、筐体801内にガス圧力センサ(図6には図示せず)を配置して筐体801内の総ガス圧力を監視することができる。筐体801内のH圧力が1気圧を超える限り(例えば1.05バール)、適正である。筐体801内部のHと環境内の空気との圧力差が非常に小さいため、筐体壁の厚さを非常に薄くすることができる。
【0039】
上記燃料電池寿命を延ばすための装置では、筐体801の壁厚は約1〜3mmであってもよい。
【0040】
上記燃料電池寿命を延ばすための装置では、筐体801は、Hを透過させず、かつH脆化に対して良好な性質を有するアルミニウムもしくはその合金、ステンレス鋼または高密度ポリエチレンなどの材料で作られている。これらはH貯蔵ボンベを作製するために使用される一般的な材料である。
【0041】
上記燃料電池寿命を延ばすための装置では、絶縁材(図6には図示せず)を使用して筐体801の外面または内面の周りに巻き付けて、スタックを環境から熱的に絶縁することができる。これは、特に冬季時で環境温度が低い場合にスタック802の冷間始動を支援する。
【0042】
上記燃料電池寿命を延ばすための装置では、筐体801内に乾燥剤(図6には図示せず)を配置して水およびその水分を吸収させることができる。
【0043】
上記燃料電池寿命を延ばすための装置では、スタック802を支持体805上に配置して、スタック802のあらゆる突出部が筐体801を損傷するのを防止する。
【0044】
上記燃料電池寿命を延ばすための装置では、パイプラインが水素、空気および冷却剤をそれらを通して輸送することができるようにするための筐体上の開口部(図6には図示せず)とそれらのパイプラインとの間の間隙は完全に封止されている。
【0045】
上記燃料電池寿命を延ばすための装置では、筐体801は、スタック802を内部に配置することができる程に十分に大きい。
【0046】
上記燃料電池寿命を延ばすための装置では、筐体801は、筐体801内に構成要素を配置したりそこから取り外したりするための操作可能かつ密閉可能な扉を有することができる。
【0047】
図6に示すスタック802は閉鎖カソード型スタックすなわちそのカソードチャネルが環境に露出していないスタックである。上記燃料電池寿命を延ばすための装置は開放カソード型スタックすなわちそのカソードチャネルが環境に開放されているスタックにも適している。1つの選択肢は、図7に示すように、スタック−空気−入口側およびスタック−空気−出口側を、より狭いダクト817を有するカバー816で完全に覆うことである。スタックの両側に2つのカバーが装着されており、開放カソードチャネルに面している。一方のカバーは環境からの空気を回収してそれをスタック内に送り、他方のカバーはカソード排気を環境に送り出すので、空気は全ての開放カソードチャネルを均等に通過することができる。ダクト817は、スタック−空気−入口およびスタック−空気−出口パイプラインに接続することができるように適切にサイズ決めされている。開放カソード型スタックを取り扱うための別の選択肢は、図8および図9に示すように、筐体801上に2つの操作可能かつ密閉可能な扉818をスタック気流チャネルに面するように作製することであり、これらの2つの扉は、燃料電池スタックの運転中に開放され(図9)、非運転期間中に閉鎖される(図8)。
【0048】
上記方法は、MEAおよびスタックのためにそれらの保管期間中に使用することもできる。MEAおよびスタックを作製した後であるが燃料電池システムに組み込む前に、それらを一般的な空気環境の代わりに人工のH環境に保管し、前記H環境を気密筐体内に封じ込める。
【0049】
MEAおよびスタックを保管するための装置はHで満たされた気密筐体からなり、H源を筐体に接続するパイプラインがあり、筐体を外部環境に接続するパイプラインがあり、H源を筐体に接続するパイプライン上に電磁弁があり、筐体を外部環境に接続するパイプライン上に電磁弁があり、H源を筐体に接続するパイプライン上に筐体に進入してそこを満たすHの圧力を制御する圧力調整器があり、筐体内のH濃度を監視するためのH濃度センサが筐体内に配置されており、筐体内のガス圧力を監視するためのガス圧力センサがあり、構成要素を筐体内に配置したりそこから取り出したりするために操作可能かつ密閉可能な扉が筐体上にある。
【0050】
筐体801は完全に気密であるため、筐体801をHで満たすとHはそこに保持される。従って、筐体から環境へのHの損失はほとんどない。
【0051】
本発明の方法および装置の利点としては以下の点が挙げられる。スタックのために人工のH環境を作り出すため、環境からの空気はスタックに進入することができず、アノード室およびカソード室はどちらもHで満たされるため、OCVの影響およびO/Hの形成は完全に排除される。MEAおよびスタックはH環境に保管されるため、それらの保管期間中のOCVの影響は完全に排除される。
【0052】
本燃料電池システムが非運転状態に入った後にスタックのアノード室およびカソード室の両方をHで満たすためのいくつかの方法がある。図4に示すように、最も簡単な方法は、Hおよび空気がPEM燃料電池内のプロトン交換膜(PEM)などの電解質を通って対向室に自然に拡散することに依存している。最初の段階では、アノード室およびカソード室は残留するHおよび空気をそれぞれ有する。中間の段階では、一部のHはカソードに拡散し、一部の空気はアノードに拡散し、点線の矩形内のHおよびO/Nはそれらが対向室から来ることを意味している。HおよびOは、それらが出会うと反応(1)に従って両室内で化学反応する。最終的に、カソード室内に元々存在していた全てのOが消費されるため、両室はHおよびNの混合物で満たされる。アノード室およびカソード室の両室内の絶対ガス圧力が大気圧未満まで低下する期間が存在することがあり、筐体801内の一部のHはその室内に拡散する。最終的に、両室の絶対圧力は筐体内のH圧力に等しくなる。別の方法は、本燃料電池システムが外部負荷への電力供給を停止した後にカソード室内の空気をHでパージして除去することである。第3の方法はカソード室内のOを素早く消費させるために疑似負荷または補助負荷を使用することである。第4の方法は、小さい外部電源を使用してHをアノードからカソードにポンプで送り出すことである。
【0053】
自然なガス拡散に依存する上記方法では、電解質を通したHの拡散およびひいてはカソード室内のOの消費を促進するために、スタック−H−入口を開放したままにすることができる。
【0054】
スタックはHで満たされた筐体内にあるため、その期間がどんなに長くとも燃料電池非運転期間全体を通してアノード室およびカソード室の両室はHで満たされた状態を維持する。
【0055】
図5に示すように、スタックのアノード室およびカソード室の両方がHで満たされている場合、セルのOCVおよびスタック内の各単位セルのアノード/電解質およびカソード/電解質の界面電位は全て0Vである。従って、その期間がどんなに長くとも非運転期間全体を通して、OCVによって引き起こされる損傷を完全に回避する。
【0056】
そのような条件下では、燃料電池のその後の起動プロセス中に空気がカソード室に進入した場合にO/H境界がカソードにおいて形成されるが、アノードは既にHで満たされているため、OCVおよびスタック内の各単位セルのアノード/電解質およびカソード/電解質の界面電位は1V程の高さにしかなり得ない。その電圧状況は図3に示すものと同じである。従って、そのようなO/H境界の形成は、アノードまたはカソードのいずれに対してもどんな損傷も引き起こさない。
【0057】
開放カソード型スタックを用いる燃料電池システムでは、図7に示すようにスタック上にカバーを作製することができる。
【0058】
図8および図9に示すように、気密筐体の2つの対向端に開閉可能な扉を作製して、空気を開放カソード型スタックに通すように管理することもできる。燃料電池運転状態では、空気を各開放カソードチャネルに均等に通すことができるように、これらの操作可能かつ密閉可能な扉は図9に示すように開放されている。扉を開ける1つの機構は、扉をその縁部に向かってスライドさせてスタックの開放カソードチャネルを環境に完全に露出させることができるようにすることである。燃料電池非運転状態では、これらの操作可能かつ密閉可能な扉は閉鎖および密閉されており、筐体は、スタックを環境から隔離するための図8に示すような気密性を達成する。次いで、筐体内の空気をHで置き換える。その後の起動プロセスでは、操作可能かつ密閉可能な扉を開放して最初にHを外に出し、次いで開放カソードチャネルを通して空気をスタック内に送る。
【0059】
前の非運転期間中にスタックがH環境に露出されていた燃料電池システムを再起動させた場合、閉鎖カソード型スタックのためにH環境をそのままにすることができる。言い換えると、運転期間および非運転期間の両方において閉鎖カソード型スタックをH環境内に置くことができるため、本燃料電池システムの全寿命の間に、筐体は非常に僅かなHの再充填しか必要としない。開放カソード型スタックでは、本燃料電池システムを再起動させる前に筐体内のHを空気で置き換え、本燃料電池システムが非運転状態に入った後、好ましくはスタックの電圧がほぼ0Vまで低下した後に、筐体内の空気をHで置き換える。
【0060】
図および実施例を用いて本発明についてさらに詳細に説明する。
【0061】
燃料電池寿命を延ばすための方法
スタックのためにH環境を作り出し、前記H環境を密閉筐体内に封じ込まれたHで作り、前記密閉筐体を気密にし、かつH脆化に強い材料で作製する。スタックはH環境内にあるため、燃料電池非運転期間全体を通して環境からの空気はスタック内に拡散することができず、その結果、アノード室およびカソード室を確実にHで満たし、よって、燃料電池非運転状態全体を通してアノード/電解質およびカソード/電解質の界面電位が約1Vになるのを回避し、かつ燃料電池の停止および起動プロセス中のO/H境界形成による損傷を回避する。
【0062】
本手順は以下のとおりである。本燃料電池が非運転状態に入った後に、スタック−空気−入口812、スタック−空気−出口813およびスタック−H−出口809を閉鎖するが、筐体−H−入口を開放状態にしてスタックをH環境内に置く。スタックのためのこのH環境は、閉鎖カソード型スタックのために本燃料電池システムの寿命全体を通して本燃料電池システムが運転および維持される第1の時間の間に作り出すことができる。アノード室内に残っているHおよびカソード室内に残っているOは電解質3を通って対向室に拡散し、そこでそれらは化学反応してHOを生成し、従って、両室は最終的にHおよびNの混合物で満たされる。スタック−H−入口808は、本燃料電池システムが非運転状態に入ってすぐに閉鎖することができ、本燃料電池システムが非運転状態に入った後に10〜20分間開放したままにしてから閉鎖することができ、また、常に開放したままにすることもできる。スタック−H−入口が開放状態にある場合、Hはスタック−H−入口808からスタック802に進入することができ、これは電解質3を通したHの拡散を促進する。このプロセスでは、気密筐体801内のH圧力は1.1気圧などの1気圧よりも高い気圧に維持される。
【0063】
本燃料電池システムが非運転状態に入った後に少ししてから、カソード室内のOは電解質3を通した拡散によりアノード室から来るHによって完全に消費され、このようにしてカソード室は最終的にHおよびNの混合物で満たされるが、Nが主要成分である。同様に、空気はカソードから電解質3を通ってアノードに拡散し、Oはアノード室内でHと化学反応するが、Nはその反応に関与せず、従って、アノード室もHおよびNの混合物で満たされるが、Hが主要成分である。プロセス全体が図4に示されており、そこでは点線の矩形内のHまたはO/Nは対向室から来るガスを表す。図5に示すように、アノード室およびカソード室はどちらもH(および不活性ガスN)で満たされているため、アノード/電解質およびカソード/電解質の界面電位はどちらも反応(3)によって決まる0Vである。従って、アノードまたはカソードのどちらに対してもOCV損傷は生じることはなく、これはアノード/電解質およびカソード/電解質の界面電位がどちらも約1Vである図1に示す状況とは明らかに対照的である。次の起動中に空気をカソードに送ると、図3に示すように、Oはカソード内に以前から存在するHに出会ってO/H境界を形成する。しかし、図3に示すように、アノード室およびカソード室はどちらも最初にHで満たされているため、前記O/H境界の形成は、部分IVにおける電極/電解質の界面電位を正常なOCVである約1Vまで上昇させるだけであり、図2に示す部分IVにおける約2Vの電極/電解質界面電位まで上昇させることなく、このようにして、図2に示す高い電極/電解質界面電位の影響が回避される。
【0064】
上記方法では、本燃料電池システムが非運転状態に入った後にカソード室内に残っているOをHで素早くパージして除去することができる。
【0065】
上記方法では、スタック−H−入口808が開放状態にある場合、本燃料電池システムが非運転状態に入った後にスタック802を疑似負荷または補助負荷に接続することにより、スタック802のカソード室内に残っているOを素早く消費させることができる。前記疑似負荷または補助負荷とは、本燃料電池システムが電力を供給する負荷ではない適当に小さい負荷を指し、疑似負荷または補助負荷は、抵抗器または本燃料電池システムの制御盤もしくは小型ファンなどの寄生電力消費装置であってもよい。
【0066】
上記方法では、スタック−H−入口808が開放状態にある場合、スタック802の各アノード1に約50mVの電圧を印加し、かつスタック802内の各MEAの各カソード2に約0mVの電圧を印加する小さい外部電源8を使用してHをアノードからカソードにポンプで送り出すことにより、スタック802のカソード室内に残っているOを素早く消費させることができる(図19)。
【0067】
上記手順では、筐体−H−入口814は常に開放状態にあることが好ましい。本燃料電池システムが外部負荷への電力供給を停止した後に筐体−H−入口814が開放状態にない場合は、それを開放することができる。本燃料電池が外部負荷への電力供給を停止した直後に、あるいは、電解質を通したHおよびOの自然な拡散もしくはカソード室のHでのパージ、疑似負荷または補助負荷の使用、または外部電源を印加してカソード室内のOを消費させることによりスタックOCVがほぼ0Vまで低下した後に、筐体−H−入口−電磁弁803の開放を行うことができる。
【0068】
燃料電池寿命を延ばすための装置
本発明の方法を実施するための装置が図6に示されている。本装置は、その中にスタック802が配置されるHで満たされた気密筐体801からなる。筐体801上には、筐体801内のH環境のH濃度を調整するための筐体−H−入口814および筐体−H−出口815がある。筐体801の内外に出入りするHを制御するための筐体−H−入口−電磁弁803および筐体−H−出口−電磁弁804がそれぞれある。筐体801上には、スタック802に接続されたパイプラインが通ることができるように適切にサイズ決めされたいくつかの開口部(図6には図示せず)があり、パイプラインと開口部との間の間隙はHの漏出を防止するために封止されており、前記パイプラインとしては、スタック−H−入口808およびスタック−H−出口809を介してスタック802に接続されたHパイプライン、スタック−空気−入口812およびスタック−空気−出口813を介してスタック802に接続された空気パイプライン、およびスタック−冷却剤−入口810およびスタック−冷却剤−出口811を介してスタック802に接続された冷却剤パイプラインが挙げられる。上記構成では、燃料電池非運転期間中にスタック802のアノード室およびカソード室をどちらも確実にHで満たすために、スタック802はその内部がHで満たされている気密筐体801内に配置されている。筐体−H−入口814の前に圧力調整器806が配置されており、筐体801内のH圧力が圧力調整器806によって設定されるものと等しくなると、Hは筐体801への進入を停止し、筐体801内のガス圧力が低下すると、Hは自動的に筐体801内に進入する。筐体内には、スタック802を物理的に支持してスタック802のあらゆる突出部が筐体801への損傷を引き起こすのを防止するための支持体805がある。筐体801内にはH濃度を監視するためのH濃度センサ807がある。筐体801内の総ガス圧力を監視するためのガス圧力センサ(図6には図示せず)がある。筐体801の外面または内面のいずれかに巻き付けて特に冬季時におけるスタックの冷間始動を支援するための絶縁材(図6には図示せず)がある。筐体801は、Hを透過させず、かつH脆化に対して良好な性質を有するアルミニウムもしくはその合金、ステンレス鋼または高密度ポリエチレンなどの材料で作られている。筐体の壁厚は約1〜3mmである。筐体801内には、スタック802を乾燥環境に維持して水がスタック802上で濃縮するのを防止するための水およびその水分を吸収する乾燥剤(図6には図示せず)がある。開放カソード型スタックのために、図7に示すように、それらのより幅広い側がスタック802の空気チャネルを覆い、かつそれらのより狭いダクト817がスタック−空気−入口パイプラインおよびスタック−空気−出口パイプラインと接続している状態でスタック802上にカバー816が装着されている。開放カソード型スタックとは、それらの空気チャネルが環境に開放されているスタックを指す。カバー816およびダクト817を使用して、上に考察されている閉鎖カソード型スタックと同様に開放カソード型スタックを保護する。
【0069】
図8および図9に示すように、筐体801上には、必要に応じて開閉することができる操作可能かつ密閉可能な扉818があってもよい。開放カソード型スタックを使用する場合、スタック空気チャネルの2つの端部に面する位置に2つの扉818が配置される。扉818が閉鎖状態にある場合、筐体801全体が気密である。扉818には2つの主要な機能があり、一方の機能は、スタックなどの構成要素を筐体801内に配置したりそこから取り外したりするためのものであり、他方の機能は、本燃料電池システムの運転中に開放カソード型スタックが環境から空気を受け取るためのものである。扉818を開放するための数多くの方法がある。1つの方法は、図9に示すように扉を縁部に向かってスライドさせることができるようにするためのものである。本燃料電池システムが非運転状態に入ると、図8に示すように、扉818を閉鎖してスタック802を環境から隔離し、筐体801をHで満たされた気密な状態にする。
【実施例】
【0070】
燃料電池寿命を延ばすための手順
以下は、本発明をさらに例示するための実施例としてのいつくかの手順である。本発明はそれらの実施例に限定されないことは明らかである。
【0071】
実施例1
図10は、気密筐体が既にHで満たされ、かつ筐体−H−入口−電磁弁が開状態にある場合の停止手順を示す。本燃料電池システムが外部負荷への電力供給を必要としない場合、接触器または他の接続装置をオフにして本燃料電池システムと前記負荷との電気的接続を切断し、スタック−空気−入口電磁弁およびスタック−空気−出口電磁弁を閉じ、スタック−H−出口電磁弁およびスタック−H−入口電磁弁を閉じ、かつ他の従来の工程を行って本燃料電池システムをアイドリングまたは停止状態のいずれかの状態にする。
【0072】
本実施例では、本燃料電池システムが運転状態または非運転状態のいずれかにある間、筐体−H−入口−電磁弁はその期間全体を通して開状態を維持する。筐体801は気密であるため、筐体内のH濃度は本プロセス全体においてほとんど変化しない。設計上の欠陥により筐体801が完全な気密性を達成していない場合には、Hは筐体内に徐々に進入し続け、筐体内のH圧力を圧力調整器806によって事前設定されたものに等しく維持する。
【0073】
電解質3を通してHおよび空気が拡散し、かつスタック802のアノード室内に残っているHの量がスタック802のカソード室内に残っているOの量を超えているために、図4に示すように、アノード室およびカソード室の両方が最終的にHおよびNの混合物で満たされる。本プロセスの特定の段階では、アノード室またはカソード室のいずれかの室内の総ガス圧力は筐体801内のH圧力未満に低下するため、筐体801内の一部のHはアノード室およびカソード室の両室内に拡散し、いずれかの室内の最終的なガス圧は筐体801内のH圧力に等しくなる。その後、筐体は気密であるため、筐体801内に進入するHはなくなり、その結果、Hの損失は生じない。筐体−H−入口−電磁弁803が常に開状態に維持されることで、筐体801は常にHで満たされ、その圧力は圧力調整器806によって設定されたものに等しい。設計上の欠陥により筐体801が完全な気密性を達成していない場合であっても、環境からの空気が筐体801内に拡散するのを完全に防止するためには、圧力調整器806によって設定される圧力を1.05気圧などの大気圧よりも僅かにのみ高い圧力にすればよい。
【0074】
実施例2
図11は、気密筐体が既にHで満たされ、かつ筐体−H−入口−電磁弁が開状態にある場合の別の停止手順を示す。本燃料電池システムが外部負荷への電力供給を必要としない場合、接触器または他の接続装置をオフにして本燃料電池システムと前記負荷との電気的接続を切断し、スタック−空気−入口電磁弁およびスタック−空気−出口電磁弁を閉じ、スタック−H−出口電磁弁を閉じ、かつ他の従来の工程を行って本燃料電池システムを非運転状態にする。
【0075】
本手順の第3の工程では、スタック−H−出口電磁弁のみを閉じる。言い換えると、スタック−H−入口電磁弁は閉じない。そのような構成により、スタック802のアノード室が常にHで満たされることを保証することができ、Hのアノードからカソードへの拡散を促進し、このようにして、Hの電解質3を通した拡散によりカソード内の酸素をより速く消費させることができる。
【0076】
実施例3
図12は、本燃料電池システムの運転中に気密筐体が空気で満たされる場合の停止手順を示す。本燃料電池システムが外部負荷への電力供給を必要としない場合、接触器または他の接続装置をオフにして本燃料電池システムと前記負荷との電気的接続を切断し、スタック−空気−入口電磁弁およびスタック−空気−出口電磁弁を閉じ、スタック−H−出口電磁弁を閉じ、スタック電圧がほぼ0Vまで低下した後に筐体−H−入口電磁弁803および筐体−H−出口電磁弁804を開き、2分後に筐体−H−出口−電磁弁804を閉じ、かつ他の従来の工程を行って本燃料電池システムを非運転状態にする。
【0077】
本実施例では、スタック電圧がほぼ0Vまで低下した後に筐体−H−入口−電磁弁803および筐体−H−出口−電磁弁804を開き、2分後に筐体がHで満たされた後に筐体−H−出口−電磁弁を閉じるが、その後筐体−H−入口−電磁弁を開状態に維持する。
【0078】
実施例4
図13は、本燃料電池システムの運転中に筐体がHで満たされ、かつ筐体−H−電磁弁が閉状態にある場合の停止手順を示す。本燃料電池システムが外部負荷への電力供給を必要としない場合、接触器または他の接続装置をオフにして本燃料電池システムと前記負荷との電気的接続を切断し、スタック−空気−入口電磁弁およびスタック−空気−出口電磁弁を閉じ、スタック−H−出口電磁弁を閉じ、筐体−H−入口−電磁弁803を開き、15分後に筐体−H−入口−電磁弁803を閉じ、かつ他の従来の工程を行って本燃料電池システムを非運転状態にする。
【0079】
本燃料電池が非運転状態に入った後に、カソード室内に最初に残っているOを、電解質を通した拡散によりアノード室から来るHと約10〜20分間(この時間は電解質の厚さによって決まり、何回かの測定により50μm未満の厚さを有するPEMでは約15分であることが分かった)化学反応させることにより完全に消費させることができる。従って、筐体が完全に気密であれば、約15分後に筐体−H−入口−電磁弁を開状態に維持する必要はない。本手順では、筐体−H−出口−電磁弁を閉状態に維持する。
【0080】
実施例5
図14は、筐体が最初に空気で満たされている場合の手順を示す。例えば、燃料電池システムを初めて起動させた場合、筐体は空気で満たされている可能性が高く、本燃料電池システムが外部負荷への電力供給を停止した後、筐体はなお空気で満たされているであろう。本燃料電池システムが外部負荷への電力供給を必要としない場合、接触器または他の接続装置をオフにして本燃料電池システムと前記負荷との電気的接続を切断し、スタック−空気−入口電磁弁およびスタック−空気−出口電磁弁を閉じ、スタック−H−出口電磁弁を閉じ、スタック電圧がほぼ0Vまで低下した後に、筐体−H−入口−電磁弁803および筐体−H−出口−電磁弁804を開き、筐体内のH濃度が77%よりも高くなったら筐体−H−出口−電磁弁804を閉じ、かつ他の従来の工程を行って本燃料電池システムを非運転状態にする。
【0081】
空気中でのHの燃焼限界は4〜77体積%であるため、H濃度が77%よりも高い場合にはHおよび空気の混合物は燃焼することができない。筐体−H−入口−電磁弁およびスタック−H−入口電磁弁をどちらも開状態に維持して、非運転期間全体を通して確実に筐体801内のH体積濃度を常に77%よりも高くする。
【0082】
実施例6
図15は、筐体が最初に空気で満たされている場合の別の手順を示す。本燃料電池システムが外部負荷への電力供給を必要としない場合、接触器または他の接続装置をオフにして本燃料電池システムと前記負荷との電気的接続を切断し、スタック−空気−入口電磁弁およびスタック−空気−出口電磁弁を閉じ、スタック−H−出口−電磁弁およびスタック−H−入口−電磁弁を閉じ、筐体−H−入口−電磁弁803および筐体−H−出口−電磁弁804を開き、筐体内のH濃度が約100%に到達したら筐体−H−出口−電磁弁804を閉じ、かつ他の従来の工程を行って本燃料電池システムを非運転状態にする。
【0083】
筐体内のHが100体積%である場合、確実にOがスタック内に拡散しないようにし、このようにしてスタック内の空気/燃料境界の形成を回避し、非運転期間全体を通したOCVの影響および空気/H境界の形成を効率的に排除する。
【0084】
実施例7
図16は、筐体が最初に空気で満たされている場合のさらなる手順を示す。本燃料電池システムが外部負荷への電力供給を必要としない場合、接触器または他の接続装置をオフにして本燃料電池システムと前記負荷との電気的接続を切断し、スタック−空気−入口電磁弁およびスタック−空気−出口電磁弁を閉じ、スタック−H−出口電磁弁およびスタック−H−入口電磁弁を閉じ、スタック電圧がほぼ0Vまで低下した後に、筐体−H−入口−電磁弁803および筐体−H−出口−電磁弁804を開き、筐体内のH濃度が約100%に到達したら、筐体−H−出口−電磁弁804および筐体−H−入口−電磁弁803を閉じ、他の従来の工程を行って本燃料電池システムをアイドリング状態にし、筐体801内のH圧力が事前設定された値まで低下したら、筐体−H−入口−電磁弁を開いて前記圧力を圧力調整器806によって事前設定された圧力に到達させ、筐体−H−入口−電磁弁803を閉じ、前記最後の2つの工程を繰り返す。
【0085】
本手順では、事前設定された圧力は、1.01気圧のなどの1気圧よりも僅かに高い圧力であればよい。最後の2つの工程を繰り返すことにより、筐体内のH圧力を確保し、よって、環境からのOが筐体801に進入することができず、それによりOがスタックに進入するのを防止し、OCVの影響および空気/H境界の形成を効率的に排除する。最後の2つの工程を自動的に行うことができるようにするために、本燃料電池システムは停止状態ではなくアイドリング状態にある。
【0086】
実施例8
図17に示す手順は、開放カソード型スタックを使用する場合に筐体801が操作可能かつ密閉可能な扉818を有する状況に適用可能である(図8および図9を参照)。本燃料電池システムが外部負荷への電力供給を必要としない場合、接触器または他の接続装置をオフにして本燃料電池システムと前記負荷との電気的接続を切断し、筐体801上の扉818を閉鎖し、スタック−H−出口電磁弁およびスタック−H−入口電磁弁を閉じ、スタック電圧がほぼ0Vまで低下した後に、筐体−H−入口−電磁弁803および筐体−H−出口−電磁弁804を開き、筐体内のH濃度が約100%に到達したら筐体−H−出口−電磁弁804を閉じ、かつ他の従来の工程を行って本燃料電池システムを非運転状態にする。
【0087】
実施例9
図18に示す手順は、燃料電池システムへの組み込み前にMEAおよびスタックを保管するために適用可能である。MEAまたはスタックを気密筐体内に配置し、筐体−H−入口−電磁弁および筐体−H−出口−電磁弁を開き、筐体内のH濃度が約100%に到達したら筐体−H−出口−電磁弁を閉じる。
【0088】
上記実施例2、実施例3および実施例4では、スタック−H−入口電磁弁は開状態に維持されるため、疑似負荷または補助負荷を用いてカソード室内に残っているOを素早く消費させることができ、本プロセス全体が必要とする時間は、疑似負荷または補助負荷の電力消費率およびカソード室の体積に応じて、たった約1分である。スタック電圧がほぼ0Vまで低下したら疑似負荷または補助負荷をスタックから切断する。スタックのアノード室は十分なHを含んでいるため、本プロセスはスタックに対するどんな損傷も引き起こさない。
【0089】
上記実施例2、実施例3および実施例4では、スタック−H−入口電磁弁は開状態に維持されるため、外部電源を用いてカソード室内に残っているOを素早く消費させることができる。外部電源は、各アノードに対して約50mVの電圧を印加し、スタック内の各カソードに対して0mVを印加する。アノードにおけるHは、反応(3)に示すように酸化されて電子およびプロトンになり、それらはカソードに移動して反応(2)に示すようにOと反応して水を生成する。本プロセス全体は図19に示されている。本プロセス全体で必要な時間はたった約1分である。
【0090】
本発明を実施するための全ての手順を列挙することは不可能である。上記実施例は全て、単に例示のためのものであり、それらを本発明に対する限定として使用すべきではない。本発明における説明および実施例に基づき、当業者であれば多くの変形形態を思い付くことができ、そのような変形形態は全て本発明の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
【国際調査報告】