【実施例】
【0047】
実験セクション
実施例1
実施例1は、本開示のバイオマーカーに関する予備的研究およびデータを記述する。
材料(臨床検体):
排泄尿サンプルおよび関連する臨床情報は、治験審査委員会の承認とインフォームドコンセントを受けて(IRB # 205-001, 2012-527-B)、この研究を実施する際に収集した。約20mLの排泄尿を健常者と膀胱がん患者から尿採取・保存用チューブ(Norgen Biotek社, カタログ# 18118, 米国)中に採取した。排泄尿サンプルは3つの別々のグループで採取した。第1グループ(コホート1)は、尿路上皮細胞癌、肉眼的血尿、活動性尿路感染症または尿路結石症の病歴がこれまでにない30人から成っていた。これらの検体を対照として用いた。第2グループ(コホート2)は、初期の尿路上皮癌(TaまたはT1)を有する36人から構成され、第3グループ(コホート3)は、後期の尿路上皮癌(T2またはT3)を有する22人から構成されていた。検査室での処理の前に各尿アリコートに独自の識別番号を割り当てた。尿タンパク質を、3kDa遠心フィルターを用いてメーカー(Millipore社, Carrigtwohill, アイルランド)の指示に従って濃縮した。簡単に述べると、14mLの尿サンプルを8000g、4℃で30分間遠心分離した。血液が肉眼で見える検体は除外した。さらなる処理までサンプルを-80℃で保存した。
【0048】
(表1)健常者/非がんおよびがん研究コホートの人口統計学的および臨床病理学的特性
【0049】
方法
質量分析
高分解能質量分析(MS)ベースの定量的プロテオミクスアプローチは、2つ以上の異なる条件下でのプロテオームの定量的比較に用いられて成功を収めている。タンパク質レベルを比較し、正確に定量するための最も一般的に使用される方法は、差次的同位体標識の使用に頼っている。SILACなどの代謝標識法は、細胞培養ベースの研究にのみ適用される。タンパク質またはペプチドレベル(採取後の段階)での化学的標識は、生体液を含めて、どのような種類のタンパク質サンプルにも適している。これらのアプローチの中で、安定同位体還元ジメチル(R-diMe)標識は、非常に簡単で、高速かつ安価なマルチプレックス定量的プロテオミクス法であり、この方法はLTQ-Orbitrapのような高分解能MS機器を使用して1回の実験で何千ものタンパク質を定量化することができる。オープンソースの十分に確立されたMaxQuantプログラムは、R-diMeデータを解析するために直接使用することができる。MaxQuantは、タンパク質の同定、相対比率、混合エラーを修復するための比率の正規化、および比率の有意性などの他の関連する統計情報を実行する。
【0050】
濃縮した尿サンプルを、8M尿素、100mM重炭酸アンモニウム(ABC, Sigma- Aldrich社)中に懸濁させた。このタンパク質サンプルを、最終濃度5mM DTTまで1M DTTを添加することにより室温で30分間還元し、続いて10mMヨードアセトアミド(IAA)を用いて暗所で30分間アルキル化した。還元したサンプルを6M尿素に調整し、Lys-C (Promega社)(1:100)と共に37℃で一晩インキュベートした。その混合物を1M尿素に希釈した後、サンプルをトリプシン(ブタ、修飾化シークエンスグレード;Promega社)(1:50)で37℃にて4時間消化した。ジメチル標識は、いくつかの変更を加えてHsuら(Anal. Chem. 2003. 75, 6843-6852)に記載されるように行った。消化物(ペプチド混合物)を1%トリフルオロ酢酸(TFA)100μlで酸性化してから、C18-SD固相抽出(SPE)カートリッジ(3M Empore(商標))でのジメチル標識へと進めた。このカラムは、最初にメタノールで、続いて0.1%TFA/70%ACNおよび0.1%TFAで平衡化した。ペプチドを3つの異なるカラムにロードし、その後「軽い」(45mMリン酸ナトリウム緩衝液pH7.5、ホルムアルデヒド(CH
20)(37%v/v))、「中間」(45mMリン酸ナトリウム緩衝液pH7.5、ホルムアルデヒド(CH
20)(20%, 98%D, Isotec社)、0.3Mシアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
3CN)(Fluka社))、および「重い」(45mMリン酸ナトリウム緩衝液pH7.5、ホルムアルデヒド(CH
20)(20%, 99%13C, 98%D, Isotec社)、0.3Mシアノ重水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
3CN)(96%D, Sigma-Aldrich社))試薬をカラムに通した。フォワード標識実験では、「軽い」、「中間」および「重い」試薬を、それぞれ健常(対照)、Ta/T1およびT2/T3サンプル含有カラムに通した。リバース実験では、「軽い」、「中間」および「重い」試薬を、それぞれT2/T3、健常(対照)およびTa/T1サンプル含有カラムに通した。0.1%TFAで洗浄した後、標識されたペプチドを0.1%TFA/70%ACNで溶出して混合し、その後高速真空濃縮器を用いて濃縮した。少量の個別の標識ペプチドを質量分析で標識取り込みについてチェックした。それに応じて残部を混合した。IEFはAgilent 3100 OFFGELフラクショネータ(Agilent社, G3100AA)で行った。簡単に述べると、トレーに取り付けた12ウェルフレームを用いて13cm ImmobilineDryStrip pH3〜10 (Scimed社)を再水和した後、ペプチド混合物を12ウェル間に均等にロードした。12ウェルフレームをカバーシールで覆い、湿った電極パッド上のトレーに電極を固定し、その後トレーを該フラクショネータに取り付けた。左右の電極にグリセロールをカバー液として加えてから、勾配を用いて合計50kVhを流した。集めた画分を、以下のようにC18ステージチップを用いて脱塩した。3枚の固相抽出ディスク、C18膜ディスク(3M Empore)を200μLピペットチップに充填した。ステージチップは、最初にメタノール、続いて80%ACN/0.1%ギ酸(FA)および0.1%FAで遠心分離によりコンディショニングした。コンディショニングの間に、ステージチップの流速を決定した。次にサンプルをステージチップ上にロードし、所定の流速で遠心分離した。次にステージチップを0.1%FAで洗浄し、その後ペプチドを80%ACN/0.1%FAで溶出した。溶出されたペプチドを高速真空濃縮器で15分間濃縮し、0.1%FAを全量20μlになるまで満たしてから質量分析計に導入した。真空乾燥させたペプチドサンプルを0.1%ギ酸中に再調製し、LTQ Orbitrap XL (Thermo FisherScientific社)に連結したnanoHPLC (Proxeon, Thermo Scientific社)を用いて分析した。ペプチドをC18プレカラム上に捕捉し、溶媒Aとして2%アセトニトリル/0.1%ギ酸および溶媒Bとして80%アセトニトリル/0.1%ギ酸を用いて、分析カラムで分離した。5%から50%溶媒Bまでの120分勾配、続いて50%から100%溶媒Bまでの5分勾配を250nL/分の流速で用いた。サーベイフルスキャン(Survey full scan)MSスペクトル(m/z 300〜1400)は、m/z 400での分解能r=60,000、AGCターゲット1e6、および最大射出時間500msで取得した。各サーベイスキャンにおいてイオン強度>2000カウントおよび荷電状態≧2を有する10個の最強ペプチドイオンをターゲット値1e4に順次単離して、35%の正規化衝突エネルギーを用いた衝突誘起解離によって線形イオントラップ内でフラグメント化した。動的排除(dynamic exclusion)は、リピートカウント1、リピート、および排除期間30秒と共に最大排除リスト500を用いて適用した。データは、uniprot DROME fasta(18787配列)によりMaxQuantバージョン1.2.0.18を用いて検索した。データベース検索は、未切断部位数(missed cleavage)最大2および標識アミノ酸2個を可能にするトリプシン切断部位特異性、ならびに前駆体イオンでは7ppmおよびフラグメントイオンでは0.5Daの初期質量許容差(initial mass tolerance)を用いて行った。システインのカルバミドメチル化を不変的な修飾として検索し、また、N-アセチル化および酸化メチオニンを可変的な修飾として検索した。ジメチルLys4、ジメチルNter4、ジメチルLys8、ジメチルNter8は、それぞれ軽いおよび重い標識として選択した。最大偽発見率は、タンパク質とペプチドの両方について0.01に設定した。タンパク質は、6アミノ酸の最小長さを有する少なくとも1つの固有のペプチドにより裏付けられた場合に、同定されたと見なした。
【0051】
RNAの単離および特性解析
全RNAは、ZR尿RNA単離キット(カタログ番号ZYR.R1039, CA, 米国)を用いて尿の脱落細胞から単離した。排泄尿30mlをシリンジからZRC GF(商標)フィルター[該キットに付属]に押し込んで、該フィルター中に脱落細胞を単離した。次いで、メーカーの説明書に従ってRNAを精製した。RNA濃度およびA260/A280比をNanoDrop(登録商標)ND-1000分光光度計で測定した。RNAの純度をさらに定量化し、80で保存するか、またはリアルタイムPCRに使用した。
【0052】
リアルタイムPCR解析
全RNA(500ng)は、SuperScript(登録商標)IIIファーストストランド合成システム(Invitrogen社, カタログ番号18080-051, CA, 米国)を用いて逆転写した。RT-PCR前増幅反応は、Premixed ROXを含むEXPRESS SYBR(登録商標)GreenER(商標)qPCRスーパーミックス(Invitrogen社, カタログ番号11794-01K, CA, 米国)を用いて実施した。各反応/ウェルにつき、qPCRスーパーミックス10μLを各希釈cDNAサンプル8μLおよびプライマー2μLと混合して最終容量20μLを得た。プライマー配列は実施例2で表6に示したものと同じであり、次のとおりである:
熱サイクル条件は次のとおりであった:高速リアルタイムPCR反応は、95℃初期テンプレート変性、および40サイクルの95℃変性と60℃アニーリング/伸長から成っていた。この反応は、7900HT高速リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社)で行った。この反応は、7900 HT高速リアルタイムPCRシステム(Applied Bio systems社)で行った。
【0053】
ウェスタンブロット分析
タンパク質アッセイキット(Pierce(商標)BCAタンパク質アッセイキット, カタログ番号23225, Rockford, IL, 米国)を用いて尿タンパク質を推定した。個々のサンプルからの尿タンパク質(100μg)をSDSゲル上で分離し、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)膜(Bio-Rad Laboratories, カタログ番号162-0177, CA, 米国)に電気泳動的に転写した。この膜をTBST(0.1%Tween-20を含むTris緩衝生理食塩水)中の5%BSA(ウシ血清アルブミン)により室温で1時間ブロックした。表2Aに示した以下の一次抗体をウェスタンブロット分析用に使用した。膜を、最初に一次抗体と、次に西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体とインキュベートすることによってプローブし、増強化学発光検出法(Immobilonウェスタン化学発光HRP基質, EMD Millipore社, 米国)を用いて発色させた。
【0054】
(表2A)ウェスタンブロットおよびドットブロット分析で使用された抗体
【0055】
ドットブロットアッセイ
このアッセイではニトロセルロース膜(BioTrace, Pall Gleman Laboratory, 米国)を使用した。ブロットされる領域を示すために鉛筆でグリッド(格子)を描いた。個々の患者からの処理された排泄尿タンパク質(200μg)をニトロセルロース膜上のグリッドの中心にスポットした。サンプルを膜上にゆっくり加えることで吸着溶液の領域を最小化した。次に膜を1時間放置して乾燥させた。膜上の非特異的部位は、TBS-T中の5%BSAに膜を室温で1時間浸漬することによってブロックした。その後、それをTBS-T中の5%BSAに溶解した一次抗体(希釈範囲1:100〜1:10000)と室温で1時間インキュベートし、続いてTBS-Tを用いて10分間隔で3回洗浄した。HRP結合二次抗体とのインキュベーションを室温で1時間行った後、TBS-Tを用いて10分間隔で3回洗浄した。その膜をECL(Immobilonウェスタン化学発光HRP基質, EMD Millipore社, 米国)とインキュベートし、化学発光イメージングGboxのために露光した。
【0056】
ELISAによる定量
(Pierce 96ウェルプレート-コーナーノッチ, カタログ番号15041, 米国)(TBS中のSuperBlockブロッキングバッファー, カタログ番号37535, Thermo Fisher Scientific社, 米国)(1-Step(商標)Ultra TMB-ELISA, カタログ番号34028, Thermo Fisher Scientific社, 米国)。各バイオマーカーおよび補体因子Hの尿中タンパク質濃度は、それぞれのELISAキット(USCN Lifescience社, Wuhan, Hubei)を用いて、メーカーの説明書に従って(三つ組で)測定した。これらのキットは表8に示される。尿中のバイオマーカー量は、ELISAプレートの各ウェルに等しい濃度の総タンパク質をロードすることによって標準化した。
【0057】
組織病理学および免疫染色
各膀胱生検サンプルの一部を10%NBF中で48時間固定し、70%エタノールに移し、次いでパラフィン中に包埋した。サンプルを5μm間隔で10の連続層の薄片に切り分け、組織病理学的検査のためにヘマトキシリンとエオシンで染色した。
【0058】
免疫組織化学的分析は、ホルマリン固定パラフィン切片を用いて行った。熱誘導性エピトープ回復(retrieval)は、Bond(商標)Epitope Retrieval Solution 2(pH9用)を用いて100℃で40分間実施した。免疫組織化学的染色は、Leica Bond(商標)自動染色装置を用いて行ったが、この装置は染色プロトコルにおいて専用のBond(商標)Detection Refine Kit (Leica社, カタログ番号:DS9800)を使用する。全ての免疫蛍光反応は、表2Bに記載した抗体希釈率により実施した。二次抗体は、該検出キットの一部であるが、トリス緩衝生理食塩水/0.9%ProClin(商標)950中の抗ウサギポリHRP-IgG含有10%(v/v)動物血清からなる。この溶液は希釈せずに使用される。
【0059】
(表2B)IHCで使用された抗体
【0060】
尿タンパク質の質量分析:安定同位体還元ジメチル標識
高分解能質量分析(MS)ベースの定量的プロテオミクスアプローチは、2つ以上の異なる条件下でのプロテオームの定量的比較に用いられて成功を収めている。タンパク質レベルを比較し、正確に定量するための最も一般的に使用される方法は、代謝的または化学的のいずれかによる、差次的同位体標識の使用に依存している。SILACなどの代謝的標識方法は、細胞培養ベースの研究にのみ直接適用され得る。タンパク質またはペプチドレベルでの化学的標識は、生体液を含めて、どのような種類のタンパク質サンプルにも適している。これらのアプローチの中で、安定同位体還元ジメチル(R-diMe)標識は、非常に簡単で、高速かつ安価なマルチプレックス定量的プロテオミクス法であり、LTQ-Orbitrapのような高分解能MS機器を使用して1回の実験で何千ものタンパク質を定量化することができる。オープンソースの十分に確立されたMaxQuantプログラムは、R-diMeデータを解析するために直接使用することができる。3重標識R-diMe分析を、健常者(対照)、Ta/T1およびT2/T3患者からの濃縮尿サンプルについて実施した。サンプルを、標準的な手順を用いてLys-Cで、続いてトリプシンで消化した。サンプルの複雑さを低減するために、(差次的に標識した尿サンプルから)得られたペプチド混合物を、Agilent 3100 OFFGELフラクショネータでの等電点電気泳動を用いて分画化した。各画分をnanoHPLC (Proxeon, Thermo Scientific社)-LTQ Orbitrap質量分析に供した。生データは、uniprot DROME fasta(18787配列)によりMaxQuantバージョン1.2.0.18を用いて処理した。ジメチルLys4、ジメチルNter4、ジメチルLys8、ジメチルNter8をそれぞれ軽い、中間、重い標識として選択した。最大偽発見率は、タンパク質とペプチドの両方について0.01に設定した。タンパク質は、6アミノ酸の最小長さを有する少なくとも1つの固有のペプチドにより裏付けられた場合に、同定されたと見なした。
【0061】
同定されたタンパク質のリストを、種々の免疫化学的技術を用いてさらに分析した。発見段階から17の候補を選んで、早期および後期ステージの膀胱がん患者からの個々の尿サンプル中のそれらの存在量を調べた。各バイオマーカーの相対的能力と豊富さをウェスタンブロット、RT-PCRおよびドットブロットで評価した。本研究から、5つの候補バイオマーカーが、個別にまたは組み合わせて、膀胱癌検出のために選択された。さらに、個々のバイオマーカーのレベルを、市販の酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を用いて、尿サンプルでモニターした。評価される各タンパク質の精製標準品を使用して較正曲線を作成した。BCa検出のための5つのバイオマーカーの診断価値を判定した。応答変数として膀胱癌状態を、予測変数としてバイオマーカーを用いて、ロジスティック回帰手法を適用した。ひとたび予測モデルが作成されたら、偽陽性率に対する感度値のプロットを提供するGraphpad Prism(登録商標)を用いて、受信者動作特性(ROC)曲線を作成した。我々が選択したバイオマーカーの異なる組み合わせの相対的能力は、Graphpad Prism(登録商標)を用いてROC曲線下面積(AUC)を計算することにより推定した。AUCが高いほど、より強い予測因子を示している。各バイオマーカーの閾値は、最高ヨーデン指標(Youden's Index)に基づいて選択した。その後、感度、特異度、陽性予測値(PPV)、陰性予測値(NPV)、および全体的な精度を、診断のために選択された閾値を用いて算出した。
【0062】
結果
膀胱がんバイオマーカーの発見における尿プロテオームの比較分析の評価
最初に、qMS分析は、「方法」に記載したように、4人のボランティアからの等量の尿サンプルをプールすることによって用意された尿サンプルで実施した。実験誤差を最小にするために、生物学的反復(異なるプール)と技術的反復(同じサンプルに対して異なる標識ならびに異なるMSラン)を加えた。最後に、全てのデータセットを組み合わせて、尿サンプル中に存在するタンパク質の平均倍率変化を得た。正常な尿サンプルと比較して2倍以上の変化を有するタンパク質はどれも、過剰分泌タンパク質と見なした(表3)。
【0063】
(表3)各患者グループで検出された尿中のマーカーの数
【0064】
このタンパク質のリストから、17の潜在的な候補が、それらの機能、細胞内局在および疾患関連性に基づいて、初期検証のために選択された。これらの選択されたマーカーを検証するために、異なる生化学的技法を適用した:RT-PCRは、同定されたヒットのmRNA発現を定量するために使用し、ウェスタンブロッティングは、選択されたバイオマーカーの発現レベルを調べるために使用した。mRNA発現解析の結果に基づいて、5つの候補バイオマーカーは、非筋肉浸潤性と筋肉浸潤性の両方のBC患者では、健常者と比較して、それらのmRNA発現レベルが上昇していることが示された。コロニン-1A、アポリポタンパク質A4、セメノゲリン-2、γシヌクレイン、およびDJ-1のRNA発現の倍率変化は、広範な発現を示した。最も重要なことは、全てのマーカーが健常者と比較して高レベルの倍率変化を示したことである。これらのデータを、FDA承認のBTA-TRAKアッセイ因子である補体Hとさらに比較した(
図1)。遺伝子レベルのデータを我々のMSデータと比較した。上記の潜在的なマーカーの代表的なMSスペクトルもまた、それらが患者サンプル中により高いレベルで存在することを明確に示した(
図11)。
【0065】
その後、コロニン-1A、アポリポタンパク質A4、セメノゲリン-2、γシヌクレイン、およびDJ-1のレベルを、プールした尿サンプル(
図2A)、ならびに個々の非筋肉浸潤性BC患者からの24の尿サンプル(
図2B、
図3)および筋肉浸潤性BC患者サンプルの24の尿サンプル(
図2C)においてウェスタンブロッティングにより分析した。正規化した後、5つの候補タンパク質の相対的タンパク質レベルは、上昇した発現レベルを示し、表4に示される。ウェスタンブロット分析およびRT-PCRにより得られたデータは一致した。
【0066】
(表4)ウェスタンブロット分析
【0067】
また、膀胱がん患者の尿サンプル中の5つの発見されたマーカーを検出するために、単純で、非侵襲的で、迅速なドットブロットアッセイを開発した。この技術は、該マーカーが検出されてリングを形成する(すなわち陽性試験)場合、生じた着色ドットの半定量的な読み取りを可能にする。
図3に示すように、マーカーが検出されなかった(すなわち陰性試験)場合には、無色のドットが形成されるか、またはリングの形成が生じなかった。全てのアッセイにおいて、本開示のバイオマーカーにより得られた全てのデータは、FDA承認のBTA-TRAKアッセイ因子である補体Hと比較される。
【0068】
本開示のバイオマーカーの診断性能をさらに評価するために、これらの発現を高グレード膀胱がん患者から入手した生検サンプルで調べた。免疫組織学を5つ全てのバイオマーカーに対して実施した。その結果から、
図4に示すように、組織切片での5つのバイオマーカー全ての陽性染色が明らかに確認された。
【0069】
先進的なMSベースの同位体ジメチル標識アプローチは、新規バイオマーカーのパネルを同定するために設計された。この方法は、生体液のプロテオームの定量的な比較を可能にする効率的な化学的標識に基づいた、非常に簡単で、高速かつ安価なマルチプレックス定量的プロテオミクスアプローチである。本研究では、膀胱がん患者と健常者との間の差を分析するために、LTQ-Orbitrapなどの高分解能MS機器を使用するマルチプレックス定量的プロテオミクス法と組み合わせて尿サンプルが使用された。本開示で実施した質量分析法の研究から、早期Ta/T1、後期T2/T3、およびTa/T1とT2/T3の両方の膀胱がんにおいて上昇したタンパク質のリストが得られた(図示せず)。
【0070】
重要性と関連性に基づいたフィルタリング手法に従って、17のマーカーが選択され、mRNA発現とウェスタンブロット研究の後で5つの潜在的マーカーにさらに絞り込まれた。これら5つのバイオマーカーをドットブロットおよびELISA技術によってさらに検証し、それらが非侵襲性のマーカーとして使用できることを確認した。本研究から収集されたデータは、該バイオマーカーの特異度および感度を得るために統計的に分析された。本開示のバイオマーカーのパネル(コロニン-1A、アポリポタンパク質A4、セミノゲリン-2、γシヌクレイン、およびDJ-1/PARK 7)では、BC検出用の最も正確なマルチアナライトベースのアッセイが88人の対象者コホートにおいて実施された。追加のバイオマーカーを組み入れることは、特異度と感度に影響を与える可能性がある。全ての可能な組み合わせを試験して、5つのバイオマーカーのパネルのうち3つ(コロニン-1A、ApoA4およびγシヌクレイン)の組み合わせは、100%の全体的な精度をもたらし、かつ高い感度(100%)と特異度(100%)の両方を保持することが見出された(
図5)。したがって、実施例1は、3つのバイオマーカーの組み合わせが非筋肉浸潤性および筋肉浸潤性の膀胱癌の信頼できる診断を提供し得ることを示唆している(表5)。この発見を検証するために、より大きなサンプルサイズを用いたさらなる研究を以下の実施例2で行った。
【0071】
(表5)個々および3つの異なる組み合わせの性能値
【0072】
実施例2
実施例2は、実施例1の継続的な最新の研究であり、本開示のバイオマーカーの信頼性を検証するために、基本的に同じ実験が(より大きなサンプルサイズで)行われた。
【0073】
材料および方法
尿サンプル
排泄尿サンプルおよび関連する臨床情報(表6)は、治験審査委員会の承認とインフォームドコンセントを受けて収集した。初期スクリーニングのために、排泄尿20mlを健常者と膀胱癌患者から保存チューブ内に集めて、-80℃で保存した(Norgen Biotek社, カナダ)。3つの別々のグループが構成された:尿路上皮細胞癌、肉眼的血尿、活動性の尿路感染症または尿路結石症の病歴がこれまでにない健常者に相当する、対照グループ;非筋肉浸潤性の膀胱癌があることを特徴とする、TaおよびT1膀胱癌患者により構成された、第2グループ;および筋肉浸潤性膀胱癌があることを特徴とする、T2およびT3膀胱癌患者を含む、第3グループ。検査室での処理の前に、各尿アリコートに独自の識別番号を割り当てた。目視検査により判定して、またはディップスティック尿検査(Combur9, Roche Diagnostics社, Basel, スイス)に基づいて、かなりの血液汚染がある尿サンプルは除外した。さらに処理するまでサンプルを-80℃で保存した。
【0074】
(表6)患者詳細(n=365)
略語:n/a, 適用せず;BCa, 膀胱癌
【0075】
検証スクリーニングのために、追加の排泄尿5mlを慢性疾患、膀胱癌および他の種類のがんに罹患した患者から集めた。
【0076】
尿サンプルの定量的質量分析
尿タンパク質は、3kDa遠心フィルターを用いてメーカー(Millipore社, Carrigtwohill, アイルランド)の指示に従って濃縮した。各コホート、すなわち健常、Ta/T1およびT2/T3膀胱癌ステージ、からの4つのサンプルをプールし、8000×g、4℃で30〜60分間遠心分離した。アセトン沈殿したサンプルを100mM重炭酸アンモニウム中の8M尿素120μlの中に再調製した。1Mジチオスレイトールを各サンプル中5mMの最終濃度にまで添加することによりサンプルを還元し、次いで室温で30分間インキュベートした。0.5Mヨードアセトアミドを10mMの最終濃度にまで添加することによりアルキル化を実施し、サンプルを暗所で30分間インキュベートした。次に、全てのサンプルを、100mM重炭酸アンモニウムを用いて初期8M尿素から6M尿素に希釈し、その後Lys-C(酵素対タンパク質比1:100)と共に37℃で一晩インキュベートした。消化混合物を50mM重炭酸アンモニウムの添加により1M尿素の最終濃度に調整し、続いてトリプシン(酵素対タンパク質比1:50)と共に37℃で4時間インキュベートした。
【0077】
トリプシン消化ペプチド混合物を、Swa, H. L., A. A. Shaik, et al. (2014). "Mass spectrometry-based quantitative proteomics and integrative network analysis accentuates modulating roles of Annexin-1 in mammary tumorigenesis." Proteomics. Using a triple-labelling approachに記載されるように、オンカラムでの安定同位体ジメチル標識に供した。差次的に標識した尿サンプルを混合し、Agilent 3100 OFFGELフラクショネータ(12分画)での等電点電気泳動を用いて分画化した。そのサンプルを、セルフ充填型C18ステージチップを用いてクリーンアップし、前述(Swa, Shaik et al. 2014)のように、質量分析に供した。生データは、2013-07_uniprotヒトfastaデータベース(88354エントリ)を用いてMaxQuantバージョン1.3.0.5で処理した。最大偽発見率は、タンパク質とペプチドの両方について0.01に設定した。タンパク質は、7アミノ酸の最小長さを有する少なくとも1つの固有のペプチドにより裏付けられた場合に、同定されたと見なした。
【0078】
定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応
全RNAは、ZR尿RNA単離キット(Zymo Research社, Irvine, CA)を用いて尿サンプル5ml中の脱落細胞から単離した。全RNA(500ng)を、SuperScript(登録商標)IIIファーストストランド合成システム(Invitrogen社, Carlsbad, CA)を用いて逆転写した。RT-PCR前増幅反応は、Premixed ROXを含むEXPRESS SYBR(登録商標)GreenER(商標)qPCRスーパーミックス(Invitrogen社)を用いて実施した。プライマー配列は表7に示される。
【0079】
(表7)定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)のためのプライマー配列
【0080】
ウェスタンブロット分析
ウェスタンブロットは、尿サンプルを遠心分離して細胞を除去したもので実施した。タンパク質の濃度は、BCAタンパク質アッセイキット(Pierce社, Rockford, IL)を用いて推定した。個々のサンプルからのタンパク質(100μg)をドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル上で分離し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA)に電気泳動的に転写した。この膜を、0.1%Tween-20を含むTris緩衝生理食塩水(TBST)中の5%ウシ血清アルブミン(BSA)により室温で1時間ブロックし、続いて表8に示した一次抗体を用いてプローブした。
【0081】
(表8)ウェスタンブロット、免疫染色およびELISAアッセイに使用した抗体およびELISAキット
【0082】
ELISAによるタンパク質定量
各バイオマーカー(コロニン-1A、アポリポタンパク質A4、セメノゲリン-2、γシヌクレイン、およびDJ-1)の尿中タンパク質濃度ならびにFDA承認の補体因子Hのそれは、それぞれのELISAキット(表8)(USCN Lifescience社, Wuhan, Hubei)を用いて測定した。アッセイはメーカーの指示に従って行った、全ての試験を三つ組で行った。尿中のバイオマーカー量は、ELISAプレートの各ウェルに総タンパク質の等濃度をロードすることによって標準化した。測定は、自動マイクロプレートリーダーInfinite(登録商標)M1000 PRO (Tecan社, Mannedorf, スイス)を用いて450nmで行った。
【0083】
組織病理学
膀胱癌生検サンプルを10%中性緩衝ホルマリン(NBF)中で48時間固定し、70%エタノールに移し、次いでパラフィン中に包埋した。4μmの組織切片を組織病理学的検査のためにヘマトキシリンとエオシンで染色した。熱誘導性エピトープ回復は、Bond(商標)Epitope Retrieval Solution 2(pH9.0用)を用いて100℃で40分間実施した。免疫組織化学的染色は、Leica Bond(商標)自動染色装置を用いて行ったが、この装置は専用のBond(商標)Detection Refine Kit (Leica社, Solms, ドイツ)を使用する。全ての免疫蛍光標識は、表8に示した抗体の希釈率を用いて実施した。
【0084】
統計分析
全てのデータは、GraphPad Prism(登録商標)5.0ソフトウェアを用いて分析した。RT-PCRデータでは、健常者、Ta/T1およびT2/T3患者間のバイオマーカー発現の有意差または倍率変化を、両側マン・ホイットニーU検定を用いて評価した。ウェスタンブロットデータの強度は、画像処理プログラムImageJ (National Institute of Health, Bethesda, MD)を用いて定量化した。バイオマーカーと血漿との何らかの関連性については、ピアソンの相関試験を行った。5つのバイオマーカーを組み合わせる診断モデルは、Matlab(登録商標)R2012a統計ツールボックスバージョン8.0(Math Works社, Natick, MA)からLasso回帰モデルを用いて開発した。較正曲線は、ELISAキットにより提供された精製タンパク質を用いて作成した。受信者動作特性(ROC)曲線およびAUCは、Graphpad Prism(登録商標)(GraphPad Software社, La Jolla, CA)を用いて作成した。より高いAUC(>0.5)は偶然よりも強い予測因子を示した。各バイオマーカーの閾値は、ヨーデン指標J=感度+特異度−1に基づいて選択した。感度、特異度、陽性予測値(PPV)、陰性予測値(NPV)、および全体的な精度は、診断のために選択された閾値を用いて計算した。p<0.05(両側)のp値を有意と見なした。
【0085】
結果
定量的MSを用いた膀胱癌検出のための候補バイオマーカーの同定
非筋肉浸潤性(Ta/T1)および筋肉浸潤性(T2/T3)の膀胱癌を診断するための潜在的なバイオマーカーを同定するために、MS分析を、等量の4人のボランティアからのプールされた尿サンプルを用いて実施した。実験誤差を最小にするために、生物学的反復(異なるプール)と技術的反復(同じサンプルに対して異なる標識ならびに異なるMSラン)を含めた。最後に、全体のデータセットを組み合わせて、健康な尿サンプルと比較して、膀胱癌の尿サンプル中に存在するタンパク質の平均倍率変化を得た。健常者からのサンプルと比較して、(少なくとも1つのステージで)少なくとも2回の比率カウントにより2倍以上の変化を有するタンパク質を過剰分泌タンパク質と見なした。過剰分泌タンパク質は、広範囲にわたるオンラインデータベース文献検索を通じて精査され、その新規性、以前に発表された癌との関連性、および細胞内局在に基づいて選抜された。
【0086】
排泄尿の脱落細胞におけるバイオマーカーmRNAの倍率変化
一次選考を経て残った潜在的なバイオマーカーは、3つのグループ:対照グループ(健常者)、Ta/T1膀胱癌(非筋肉浸潤性)グループ;およびT2/T3膀胱癌(筋肉浸潤性)グループの各々につき10個のサンプルを用いたRT-PCRによる初期検証のために検討された。mRNA発現解析の結果に基づいて、5つの候補バイオマーカー、すなわちコロニン-1A、アポリポタンパク質A4、セメノゲリン-2、γシヌクレイン、およびDJ-1は、健常者と比較して、非筋肉浸潤性(Ta/T1)および筋肉浸潤性(T2/T3)膀胱癌患者において有意に高い発現の倍率変化を有していた。補体因子Hもまた、膀胱癌患者の尿において、より高いmRNA発現を示した(
図8)。
【0087】
健常、非浸潤性および浸潤性BCaステージの尿サンプルのウェスタンブロット分析
30人の健常者、72人の非筋肉浸潤性膀胱癌(Ta/T1)患者および55人の筋肉浸潤性膀胱癌(T2/T3)患者からの尿サンプルを分析した。非筋肉浸潤性膀胱癌と筋肉浸潤性膀胱癌の全ての尿サンプルは、5つのうち少なくとも3つのバイオマーカーの上昇したレベルを示した(
図9)。バンド強度値を用いて確立されたROC曲線は、5つのバイオマーカーの組み合わせを用いて、健常vs非筋肉浸潤性膀胱癌(Ta/T1)および健常vs筋肉浸潤性膀胱癌(T2/T3)について、それぞれ0.98および1.0のAUCを示した(
図7b、表9Aおよび9B)。
【0088】
(表9A)Ta/T1(非筋肉浸潤性)膀胱がんを診断するときの組み合わせモデルの精度
略語:AUC, 曲線下面積;PPV, 陽性予測値;NPV, 陰性予測値
【0089】
(表9B)T2/T3(筋肉浸潤性)膀胱がんを診断するときの組み合わせモデルの精度
略語:AUC, 曲線下面積;PPV, 陽性予測値;NPV, 陰性予測値
【0090】
ウェスタンブロット分析からのデータ(
図9)は、RT-PCRデータ(
図8)との完全な一致を示し、5つのバイオマーカーが、健常者の尿サンプルと比較して、膀胱がん患者の該サンプル中では有意に富化されたことを示した。5つの潜在的マーカーの代表的なMSスペクトルもまた、RT-PCRおよびウェスタンブロットのデータとよく一致している(
図11)。
【0091】
尿中のバイオマーカーおよび血尿
血尿は尿路疾患を有する多くの患者において発生し、そのため、血尿は本開示の所定のバイオマーカーを用いた膀胱癌の診断に影響を与える可能性がある。というのは、これらのタンパク質は、低レベルではあるが、血液中にも見られるからである。表10は、データベース検索に基づいて、血漿中のバイオマーカー類のうち4種の保有率を提供する。
【0092】
(表10)データベースから得られた血漿中のバイオマーカー濃度
全てのデータは、http://www.plasmaproteomedatabase.org/から取得される。
【0093】
文献検索はまた、該バイオマーカーの濃度のかなり大きな変動を示した。したがって、本研究では、ウェスタンブロット分析を用いて、4つの血液サンプルからの血漿および白血球におけるこれら5つのバイオマーカーの発現を調べた。該バイオマーカーの全てが血漿において発現されたが、白血球抽出物においてはコロニン-1Aの発現のみが可視的であった。これらのバイオマーカーと血漿との相関を算定するために、血液および尿サンプル中のバイオマーカーのウェスタンブロット強度を定量化し、各サンプル中のヒト血清アルブミン(HSA)の値に対して正規化した。箱ひげ図(Box and Whiskers plot)を使用して分析した場合、データは、5つのバイオマーカーの全てが、健常者の尿サンプルまたは血漿と比較して、Ta/T1およびT2/T3の尿サンプルでは有意に高い相対的発現レベルを有することを説明した(
図6)。さらに、コロニン-1Aのみは、ピアソン相関試験を用いて、ヒト血清アルブミンレベルとの周辺相関(marginal correlation)を示す(表11)。したがって、本開示の尿バイオマーカーはサンプル中の血尿の結果として発現されたものではない、と結論される。
【0094】
(表11)血漿および白血球とバイオマーカーとのピアソンの相関分析:健常者、Ta/T1膀胱癌(非筋肉浸潤性, NMI)患者、およびT2/T3膀胱癌(筋肉浸潤性, MI)患者からの尿および血漿サンプル中のバイオマーカーについてのピアソンの相関係数(r)
【0095】
次に、本開示は、ヒト血清アルブミンが腎臓のろ過機能不全に由来するのではなく、血液のみに由来すると仮定して、コロニン-1Aの発現を白血球数と相関させようとした。本研究では、尿中のコロニン-1Aの実際のバンド強度は、理論的に白血球に由来した可能性があるものと比較して、少なくとも289倍増加することが見出された(下記参照)。したがって、この分析により、コロニン-1A含量への白血球のどのような大きな寄与も排除することができる。
【0096】
血尿中の白血球(WBC)とコロニン-1Aバイオマーカー発現の相関分析
血中のアルブミンの濃度(文献で報告)=40μg/μl;
BCa患者の尿サンプル中のアルブミンの(我々の実験分析から推定された)濃度範囲=0.012〜2.56μg/μl(さらなる計算は該範囲の上限を用いて行った);
BCa患者の尿サンプル中の平均アルブミン濃度=1.18μg/μl;
それ故に、尿中の血液のおおよその量=(1/40)*1.18=0.0295μl[前提:アルブミン源はもっぱら血液である];
WBC数/血液μl(文献で報告)=約5000個;
それ故に、尿中の0.0295μlの血液は、(5000*0.0295)=147.5個のWBCを含む;
単一細胞の重量(文献で報告)=3.5*10
-3μg;
タンパク質量/細胞(文献で報告)=0.0007μg[タンパク質の重量は細胞の重量の20%である]
バフィーコートから得られた溶解WBCの約40μgは、(1/0.0007)*40=57142.86個のWBC[約57,000個のWBC]に由来するであろう;
57,000個のWBCの溶解物のコロニン-1Aブロット強度=34403である[本研究が行われている研究室で実施されたWB実験から得られた];
それ故に、147.5個のWBCは、尿中に溶解された場合、(34,403/57000)*147.5=89.025の強度をもたらすであろう;
BCa尿サンプルのブロットから得られた実際のコロニン-1A強度=25,788.58(平均値);
理論的に由来したものと比較された実際のブロット強度の倍率変化=(25,788.58/89.025)=289.68。
【0097】
したがって、本研究から、血清アルブミンとコロニン-1A発現との間に相関関係はなく、今回、統計的に算出されたこのバイオマーカーの発現と実験的に得られたものとの差は、BCa患者の尿中のコロニン-1Aの主な寄与因子が溶解した白血球ではなく膀胱腫瘍であることを証明することが確認された。
【0098】
非膀胱がん患者および種々の慢性疾患にかかっている患者からの尿サンプル中のバイオマーカーの保有率
膀胱がんにおける本開示のバイオマーカーの特異性をさらに評価するために、非膀胱がん患者からの84の尿サンプルおよび多様な慢性疾患を抱える患者からの120の尿サンプルについてウェスタンブロット分析を実施した(表6)。サンプルの大多数は、これら5つのバイオマーカーについて完全に陰性であった;にもかかわらず、いくつかの例では、1つのバイオマーカーの散発的な発現が観察された(
図12a、
図12bおよび
図13)。
【0099】
5つのバイオマーカーの組み合わせを分析するための診断モデル
本研究は、5つ全ての尿バイオマーカーの異なる組み合わせの臨床的有用性を評価するために、Lasso回帰を用いて診断モデルを開発した(表12Aおよび12B)。
【0100】
(表12A)ELISAとウェスタンブロットの両方の尿サンプルデータ解析を用いたTa/T1診断におけるバイオマーカーの精度および閾値
略語:AUC, 曲線下面積;PPV, 陽性予測値;NPV, 陰性予測値
【0101】
(表12B)ELISAとウェスタンブロットの両方の尿サンプルデータ解析を用いたT2/T3診断におけるバイオマーカーの精度および閾値
略語:AUC, 曲線下面積;PPV, 陽性予測値;NPV, 陰性予測値
【0102】
5つのバイオマーカーの各々の診断性能は、ELISAおよびウェスタンブロットデータを用いて、別々にまたはいろいろな組み合わせで算出された。感度および特異度を、各バイオマーカーのカットオフ値と共に、表12Aおよび12Bに示す。実施例1の結果とは対照的に、ELISAからの発現データを使用して、この最新の研究(実施例2)は、5つ全てのバイオマーカーを組み合わせた診断モデルが最も正確であり、Ta/T1膀胱がん患者を健常者から区別するのに表9Aで0.92のAUCおよび85.3%の全体的な精度(感度79.2%;特異度100%)を達成したことが判明した。同様に、最新の研究(実施例2)においてT2/T3膀胱がん患者を診断するために、この診断モデルは、0.94のAUCおよび90.6%の全体的な精度(感度86.4%;特異度100%;表9B)を達成した。比較して、補体因子Hは、Ta/T1膀胱がんの診断では0.72のAUCおよび73.3%の全体的な精度(感度80%;特異度60%)、ならびにT2/T3膀胱がんの診断では0.51のAUCおよび64.3%の全体的な精度(感度77.8%;特異度40%)を示した(表9Aおよび9B)。
【0103】
同様に、ウェスタンブロットデータを使用して、この最新の研究(実施例2)は、5つ全てのバイオマーカーを組み合わせた診断モデルが最も正確であり、Ta/T1膀胱がんの診断では0.98のAUCおよび94.8%の全体的な精度(感度93.9%;特異度96.7%)を達成したことが判明した。このように、5つ全てのバイオマーカーを組み合わせた診断モデルは、感度と特異度が非常に高く、FDA承認の補体因子Hを27〜30%上回り、また、Ta/T1膀胱がんの診断のためにこれまでに報告された従来の細胞診または既存のバイオマーカーよりも優れていた。
【0104】
先進的なMSベースの同位体ジメチル標識技術は、本開示の発明者らが膀胱がん診断のための高精度の新規バイオマーカーのパネルを同定することを可能にした。本研究では、この最先端のアプローチを用いて尿サンプルを分析し、膀胱癌患者の尿プロテオームを健常者のそれに対して相対的に定量化した。広範なフィルタリングおよび文献検索後にMSデータから5つのバイオマーカーを選択した。その後、5つの推定上のバイオマーカーをRT-PCR、ウェスタンブロット、およびELISAアッセイによって検証した。これら5つのバイオマーカーの尿中濃度は、健常者のそれと比較して、膀胱癌を有する患者において上昇した。
【0105】
ELISAおよびウェスタンブロットからのデータを用いて、膀胱癌検出のためのこれら5つの推定上のバイオマーカーの診断性能を精力的に検証したところ、一例では、正確な診断のために5つ全てのバイオマーカーを組み合わせることが必要であると判明した。健常者は一人も、これら5つのバイオマーカーの検出可能な濃度を有していなかった。本研究では、本開示の5つのバイオマーカーはまた、FDA承認のバイオマーカーである補体因子Hをはじめとする最近のバイオマーカーとも比較された。補体因子Hは、良性腎疾患および尿路感染症、ならびに前立腺がんまたは腎臓がんなどの他の種類のがんに対して60%の特異度を示した。補体因子Hとは異なり、本開示の尿バイオマーカーは、血尿を伴うことがある炎症性膀胱、良性前立腺過形成または腎結石などの良性疾患を有する患者から膀胱癌患者を区別することができた。本明細書に記載した実験的研究は、本研究で試験された慢性疾患またはいくつかの種類のがんにかかった患者の尿中に、本開示のマーカーの一部をまれにしか検出しなかった。
【0106】
FDA承認のバイオマーカーであるNMP22は、血尿によって影響を受けることが分かっている。そこで、本研究では、血液汚染によるこれらのバイオマーカーの起こり得る寄与をも検討した。尿中のヒト血清アルブミンのレベルはかなりばらつきがあり、健常者においても検出されることがある。特に、糖尿病などの慢性疾患を有する患者からの尿は、本開示で観察された膀胱癌患者の多くからの尿よりも非常に高いレベルのヒト血清アルブミンを含有する。したがって、ヒト血清アルブミンは、血液汚染を必ずしも反映するとは限らない。さらに、血漿または白血球汚染からのこれらのバイオマーカーの寄与は、尿の低速遠心分離後に検出されたこれらのバイオマーカーのレベルを説明することができない。
【0107】
実施例2では、5つ全てのバイオマーカーは、免疫組織化学的に染色された膀胱癌組織において同様に豊富な発現を示し(
図14)、統計分析からは、膀胱癌検出のための5つ全てのバイオマーカーを用いた診断モデルの重要性が実証された。