特表2016-537636(P2016-537636A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-537636(P2016-537636A)
(43)【公表日】2016年12月1日
(54)【発明の名称】自然脱進機
(51)【国際特許分類】
   G04B 15/00 20060101AFI20161104BHJP
   G04C 5/00 20060101ALI20161104BHJP
【FI】
   G04B15/00
   G04C5/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2016-533632(P2016-533632)
(86)(22)【出願日】2014年12月9日
(85)【翻訳文提出日】2016年5月23日
(86)【国際出願番号】EP2014077039
(87)【国際公開番号】WO2015096979
(87)【国際公開日】20150702
(31)【優先権主張番号】02140/13
(32)【優先日】2013年12月23日
(33)【優先権主張国】CH
(31)【優先権主張番号】13199427.9
(32)【優先日】2013年12月23日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】01057/14
(32)【優先日】2014年7月11日
(33)【優先権主張国】CH
(31)【優先権主張番号】14176816.8
(32)【優先日】2014年7月11日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】01416/14
(32)【優先日】2014年9月19日
(33)【優先権主張国】CH
(31)【優先権主張番号】14185638.5
(32)【優先日】2014年9月19日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】01444/14
(32)【優先日】2014年9月24日
(33)【優先権主張国】CH
(31)【優先権主張番号】14186261.5
(32)【優先日】2014年9月24日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】14186297.9
(32)【優先日】2014年9月25日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ディ ドメニコ,ジャンニ
(72)【発明者】
【氏名】ファーヴル,ジェローム
(57)【要約】
共振器(20)と2つのガンギ車セット(40A;40B)との間に停止部材(30)を備える、脱進機機構(10)。上記2つのガンギ車セット(40A;40B)はそれぞれあるトルクを受け、またそれぞれ、区間(PD)に亘る帯磁又は強磁性トラック(50)を備える。この停止部材(30)は、少なくとも1つの帯磁又は強磁性ポールシュー(3)を備え、このポールシュー(3)は、トラック(50)の表面(4)の移動に対して横断方向に可動である。ポールシュー(3)又はトラック(50)は、ポールシュー(3)と表面(4)との間に磁場を生成する。ポールシュー(3)は、共振器(20)の周期的作用によって作動される停止部材(30)の各横断方向運動の直前に、トラック(50)上の磁場又は静電場バリア(46)と向かい合う。ガンギ車セット(40A;40B)はそれぞれ、停止部材(30)と交互に協働するよう配設され、直接的な動力学的接続によって互いに接続される。
【選択図】図29
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振器(20)と、それぞれあるトルクを受ける第1のガンギ車セット(40A)及び第2のガンギ車セット(40B)との間に停止部材(30)を含む、時計用の脱進機機構(10)であって、
前記脱進機機構は:
各前記ガンギ車セット(40A;40B)が、少なくとも1つの帯磁若しくは強磁性、又は帯電又は静電気伝導性のトラック(50)を含み、前記トラック(50)は、前記トラック(50)の磁気特性又は静電特性が反復する移動区間(PD)を有し、前記停止部材(30)が、少なくとも1つの帯磁若しくは強磁性、又は帯電又は静電気伝導性のポールシュー(3)を含み、前記ポールシュー(3)は、前記トラック(50)の表面(4)の少なくとも1つの要素の移動方向(DD)に対して横断方向(DT)に可動であり、少なくとも1つの前記ポールシュー(3)又は前記トラック(50)が、前記少なくとも1つのポールシュー(3)と前記少なくとも1つの表面(4)との間の空隙(5)に磁場又は静電場を生成することを特徴とし、
更に、前記ポールシュー(3)が、前記共振器(20)の周期的作用によって作動される前記停止部材(30)の各横断方向運動の直前に、前記トラック(50)上の磁場又は静電場バリア(46)と向かい合うことを特徴とし、
第1のトルクを受ける第1の前記ガンギ車セット(40A)及び第2のトルクを受ける第2の前記ガンギ車セット(40B)がそれぞれ、前記停止部材(30)と交互に協働できるよう配設されること、並びに前記第1のガンギ車セット(40A)及び前記第2のガンギ車セット(40B)が別個の軸(D1;D2)の周りで枢動し、直接的な動力学的接続によって互いに接続されることを特徴とする、脱進機機構(10)。
【請求項2】
前記脱進機機構(10)は、動作時の遊びを最小化するために、前記直接的な動力学的接続に遊び補償手段を備えることを特徴とする、請求項1に記載の脱進機機構(10)。
【請求項3】
前記第1のトルクは、前記第2のトルクに等しいことを特徴とする、請求項1に記載の脱進機機構(10)。
【請求項4】
前記第1のガンギ車セット(40A)及び前記第2のガンギ車セット(40B)は、前記軸(D1;D2)の周りで、対向する枢動方向に、同期した運動で枢動することを特徴とする、請求項1に記載の脱進機機構(10)。
【請求項5】
前記第1のガンギ車セット(40A)及び前記第2のガンギ車セット(40B)は互いから離間していること;並びに
前記停止部材(30)は、互いから離間した2つの前記ポールシュー(3)を含み、第1のポールシュー(3A)は前記第1のガンギ車セット(40A)と協働するよう配設され、第2のポールシュー(3B)は前記第2のガンギ車セット(40B)と協働するよう配設されること
を特徴とする、請求項1に記載の脱進機機構(10)。
【請求項6】
全ての瞬間において、前記停止部材(30)の少なくとも1つの前記ポールシュー(3)は、前記ガンギ車セット(40A;40B)のうちの一方の少なくとも1つの前記表面(4)と相互作用することを特徴とする、請求項1に記載の脱進機機構(10)。
【請求項7】
前記第1のガンギ車セット(40A)及び前記第2のガンギ車セット(40B)が備える前記バリア(46)は、前記第1のガンギ車セット(40A)及び前記第2のガンギ車セット(40B)内に等間隔に均一に分布しており、前記第1のガンギ車セット(40A)と前記第2のガンギ車セット(40B)との間で1/2ステップだけ変移していることを特徴とする、請求項1に記載の脱進機機構(10)。
【請求項8】
前記ガンギ車セット(40A、40B)のうちの少なくとも一方又は両方において、各前記トラック(50)は、各前記バリア(46)の前に、磁場又は静電場を有する前記ポールシュー(3)と、ランプ底部(451)から前記バリア(46)の近傍に位置するランプ頂部(452)に向かって増大しながら相互作用する、曲線状ランプ方向(DR)に延在するランプ(45)を含み、前記磁場又は静電場の強度は、増大するポテンシャルエネルギを生成するように変化し、前記ランプ(45)は、前記ガンギ車セット(40A、40B)からエネルギを得ることを特徴とする、請求項1に記載の脱進機機構(10)。
【請求項9】
前記ガンギ車セット(40A、40B)それぞれ又は両方において、各前記トラック(50)は、各前記バリア(46)の前に、磁場又は静電場を有する前記ポールシュー(3)と、ランプ底部(451)から前記バリア(46)の近傍に位置するランプ頂部(452)に向かって増大しながら相互作用する、曲線状ランプ方向(DR)に延在するランプ(45)を含み、前記磁場又は静電場の強度は、増大するポテンシャルエネルギを生成するように変化し、前記ランプ(45)は、前記ガンギ車セット(40A、40B)からエネルギを得ることを特徴とする、請求項8に記載の脱進機機構(10)。
【請求項10】
前記ガンギ車セット(40A、40B)は、2つの連続する前記ランプ(45)の間に、前記共振器(20)の周期的作用下で前記停止部材(30)が傾斜する前に前記ガンギ車セット(40A;40B)の一時停止をトリガするための、前記磁場又は静電場ポテンシャルバリア(46)を含むことを特徴とする、請求項8に記載の脱進機機構(10)。
【請求項11】
前記少なくとも1つのガンギ車セット(40A;40B)は、各前記ランプ(45)の終端かつ各前記バリア(46)の直前に、前記表面(4)が帯磁若しくは帯電している場合は磁場若しくは静電場の分布の径方向変動、又は前記表面(4)が強磁性若しくは静電気伝導性である場合は外形の変動を含み、これにより、前記ポールシュー(3)に対する牽引を引き起こし、前記牽引は、傾斜がトリガされる前に前記停止部材(30)を前記停止部材(30)の安定位置のうちの1つに維持する効果を有することを特徴とする、請求項10に記載の脱進機機構(10)。
【請求項12】
前記共振器(20)は、ピンを備え、
前記ピンは、前記停止部材(30)が備えるフォーク又はアクチュエータと協働して、ロックの解除と、それに続いて、前記第1のガンギ車セット(40A)の前記軸(D1)及び前記第2のガンギ車セット(40B)の前記軸(D2)によって画定される平面に対して接線方向の、前記停止部材(30)の前記ポールシュー(3)の傾斜とを引き起こすよう配設される
ことを特徴とする、請求項11に記載の脱進機機構(10)。
【請求項13】
前記傾斜中、前記停止部材(30)の前記ポールシュー(3)は、第1の前記ランプ(45)の高いランプ高さ(452)から、前記第1のランプ(45)に隣接する第2の前記ランプ(45)の低いランプ高さ(451)へと移動され、これによって前記ポールシュー(3)は、磁気又は静電気由来の推力を受けることを特徴とする、請求項12に記載の脱進機機構(10)。
【請求項14】
前記停止部材(30)の前記ポールシュー(3)は、前記第1のガンギ車セット(40A)及び前記第2のガンギ車セット(40B)において、互いに同一の磁気又は静電気的特徴を有する2つの対称な表面間で、前記2つの対称な表面から等距離において可動であることを特徴とする、請求項1に記載の脱進機機構(10)。
【請求項15】
同一の前記トラック(50)の、又は前記移動方向(DD)において隣接する2つの前記トラック(50)の2つの連続する前記ランプ(45)の間において、前記少なくとも1つのガンギ車セット(40A;40B)は、前記共振器(20)の周期的作用下で前記停止部材(30)が傾斜する前に、前記ガンギ車セット(40A;40B)の一時停止をトリガするための、前記磁場又は静電場ポテンシャルバリア(46)を含むことを特徴とする、請求項8に記載の脱進機機構(10)。
【請求項16】
各前記ポテンシャルバリア(46)のポテンシャル勾配は、各前記ランプ(45)のポテンシャル勾配よりも急峻であることを特徴とする、請求項15に記載の脱進機機構(10)。
【請求項17】
前記脱進機(10)は、前記区間(PD)の各半区間中に少なくとも1つの前記ホイールセット(40)から受承したポテンシャルエネルギを蓄積し、前記エネルギを、前記共振器(20)の周期的作用によって作動される前記停止部材(30)の前記横断方向運動中の、前記半区間と前記半区間との間に、前記共振器(20)に戻し、
ここで前記ポールシュー(3)は、前記ガンギ車セット(40A;40B)に対して相対的に横断方向の第1の半移動(PDC)から、前記ガンギ車セット(40A;40B)に対して相対的に横断方向の第2の半移動(DDC)へ、又はその逆へと変化する
ことを特徴とする、請求項1に記載の時計用脱進機機構(10)。
【請求項18】
前記ポールシュー(3)と、前記ポールシュー(3)及び前記トラック(50)の相対移動の少なくとも一部に亘って前記ポールシューに対面する前記表面(4)を備える前記トラック(50)とによって形成される、2つの対向する構成部品はそれぞれ、アクティブな磁気又は静電気手段を含み、
前記アクティブな磁気又は静電気手段は、前記ポールシュー(3)と前記ポールシュー(3)に対向する前記表面(4)との間の前記空隙(5)内の、前記ポールシュー(3)と前記表面(4)との境界において、前記軸方向(DA)に対して略平行な方向の磁場又は静電場を生成するよう配設される
ことを特徴とする、請求項17に記載の脱進機機構(10)。
【請求項19】
前記停止部材(30)は実在の又は仮想的なホゾ(35)の周りで枢動し、また、前記少なくとも1つのガンギ車セット(40A;40B)の異なる直径上に位置する複数の前記表面(4)が備える複数の一次領域(44)と協働するよう配設された、単一の前記ポールシュー(3)を含み、前記ポールシュー(3)は前記少なくとも1つのガンギ車セット(40A;40B)と、前記少なくとも1つのガンギ車セット(40A;40B)の回転中に可変様式で相互作用し、
前記一次領域(44)は、前記少なくとも1つのガンギ車セット(40A;40B)の周縁部上に交互に配設され、これにより、前記シュー(3)の横断方向(TT)に対して略平行な横断方向(DT)と、前記トラック(50)の移動方向(DF)との両方に対して垂直な軸方向(DA)に対する径方向運動に、前記ポールシュー(3)を制限する
ことを特徴とする、請求項1に記載の脱進機機構(10)。
【請求項20】
前記停止部材(30)は実在の又は仮想的なホゾ(35)の周りで枢動し、また、前記少なくとも1つのガンギ車セット(40A;40B)の1つの領域上に位置する複数の前記表面(4)のうちの少なくとも1つが備える複数の一次領域(44)と協働するよう配設された、複数の前記ポールシュー(3)を含み、各前記ポールシュー(3)は前記少なくとも1つのガンギ車セット(40A;40B)と、前記少なくとも1つのガンギ車セット(40A;40B)の回転中に可変様式で相互作用し、
前記一次領域(44)は、前記少なくとも1つのガンギ車セット(40A;40B)の周縁部上に交互に配設され、これにより、前記ポールシュー(3)の横断方向(TT)に対して略平行な横断方向(DT)と、前記トラック(50)の移動方向(DF)との両方に対して垂直な軸方向(DA)に対する径方向運動に、前記ポールシュー(3)を制限する
ことを特徴とする、請求項1に記載の脱進機機構(10)。
【請求項21】
少なくとも1つの前記ガンギ車セット(40A;40B)は、ガンギ車(400)であることを特徴とする、請求項1に記載の機構(10)。
【請求項22】
前記停止部材(30)はアンクルフォークであることを特徴とする、請求項1に記載の脱進機機構(10)。
【請求項23】
請求項1に記載の少なくとも1つの脱進機機構(10)を含む、時計ムーブメント(100)。
【請求項24】
請求項23に記載の少なくとも1つのムーブメント(100)及び/又は請求項1に記載の少なくとも1つの脱進機機構(10)を含む、時計(200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振器と、それぞれあるトルクを受ける2つのガンギ車セットとの間に停止部材を含む、時計用脱進機機構に関する。
【0002】
本発明はまた、少なくとも1つの上述のような脱進機機構を含む時計用ムーブメントにも関する。
【0003】
本発明はまた、少なくとも1つの上述のようなムーブメントを含み、及び/又は少なくとも1つの上述のような脱進機機構を含む、時計にも関する。
【0004】
本発明は、運動の伝達のための時計機構の分野、より具体的には脱進機機構の分野に関する。
【背景技術】
【0005】
スイスレバー式脱進機は、機械式時計の調速部材の一部を形成する、極めて広く使用されているデバイスである。この機構により、ゼンマイ‐テンプ式共振器の運動を同時に維持でき、また駆動列の回転を共振器と同期させることができる。
【0006】
これらの機能を満たすために、ガンギ車は、機械的接触力によってアンクルフォークと相互作用し、スイスレバー脱進機はガンギ車とスイスレバーとの間のこの機械的接触を用いて、ガンギ車からゼンマイ‐テンプにエネルギを伝達する第1の機能を満たし、またガンギ車を律動させて解放及びロックすることにより、テンプが振動する度にガンギ車を1段階前進させることからなる第2の機能を満たす。
【0007】
これら第1及び第2の機能を達成するために必要な上記機械的接触は、腕時計の効率、等時性、パワーリザーブ、作動寿命を損なう。
【0008】
「クリフォード」タイプの脱進機のように、非接触力を用いて駆動ホイールの回転を機械式共振器と動機させることが、様々な研究によって提案されている。これらのシステムは全て、磁気由来の相互作用力を使用し、これにより、共振器の自然周波数によって付与される速度で、駆動ホイールから共振器にエネルギを伝送できる。しかしながらこれらのシステムは、ガンギ車を律動させて解放及びロックする第2の機能を確実に満たすことができないという同一の欠点に悩まされる。より具体的には、衝撃を受けた後、ホイールは機械式共振器との同期を失う場合があり、その結果として調速機能が保証されなくなる。
【0009】
KAWAKAMI TSUNETAによる特許文献1は、共振器によってホイールを駆動させるための電磁式機構を記載している。この特許は、磁気式駆動機構を脱進機として使用することは、周波数に対して望ましくない影響を有すると述べている。この機構は、振動ストリップを含むものの停止部材を含まず、また多安定停止部材を確実に含まない。ホイールの回転中に共振器が固定位置にある場合、ホイールと共振器との間の力は、ある角度区間に亘って最小(負)値から最大(正)値まで漸進的に変動する。
【0010】
JUNGHANSによる特許文献2は、磁気式デテントを有する駆動機構を記載している。この機構もまた、振動ストリップを含むものの停止部材を含まず、また多安定停止部材を確実に含まない。この機構は、ホイールと共振器との組み合わさった同時運動を利用するランプ(ramp)及びバリア(barrier)を含む。
【0011】
HAYDON ARTHURによる特許文献3は、磁気式ガンギ車を含む全体として磁気式の脱進機を記載しており、上記脱進機では、ホイールが最初の半区間中に回転する際に、エネルギは最小値から最大値へと連続的かつ漸進的に変動し、続く半区間に亘って最小値に戻る。換言すると、ホイール上の磁力は、ある角度区間に亘って最小(負)値と最大(正)値との間で漸進的に変動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第3518464号
【特許文献2】ドイツ実用新案第1935486U号
【特許文献3】米国特許出願第3183426A号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、ガンギ車を律動させて解放及びロックする第2の機能を確実かつ安全に果たす配置を用いて、アンクルとガンギ車との間の機械的接触力を、磁気又は静電気由来の非接触力に置換することを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的のために、本発明は、共振器と、それぞれあるトルクを受ける2つのガンギ車セットとの間に停止部材を含む、時計用脱進機機構に関する。この脱進機機構は:各上記ガンギ車セットが、少なくとも1つの帯磁若しくは強磁性、又は帯電又は静電気伝導性のトラックを含み、上記トラックは、その磁気特性又は静電特性が反復する移動区間を有し;上記停止部材が、少なくとも1つの帯磁若しくは強磁性、又は帯電又は静電気伝導性のポールシューを含み、上記ポールシューは、上記トラックの表面の少なくとも1つの要素の移動方向に対して横断方向に可動であり;少なくとも1つの上記ポールシュー又は上記トラックが、上記少なくとも1つのポールシューと上記少なくとも1つの表面との間の空隙に磁場又は静電場を生成することを特徴とし、更に、上記ポールシューが、上記共振器の周期的作用によって作動される上記停止部材の各横断方向運動の直前に、上記トラック上の磁場又は静電場バリアと向かい合うことを特徴とし、また、第1のトルクを受ける第1の上記ガンギ車セット及び第2のトルクを受ける第2の上記ガンギ車セットがそれぞれ、上記停止部材と交互に協働できるよう配設されること、並びに上記第1のガンギ車セット及び上記第2のガンギ車セットが別個の軸の周りで枢動し、直接的な動力学的接続によって互いに接続されることを特徴とする。
【0015】
本発明はまた、少なくとも1つの上述のような脱進機機構を含む時計用ムーブメントにも関する。
【0016】
本発明はまた、少なくとも1つの上述のようなムーブメントを含み、及び/又は少なくとも1つの上述のような脱進機機構を含む、時計にも関する。
【0017】
本発明の他の特徴及び利点は、添付の図面を参照して以下の詳細な説明を読むことにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明による脱進機機構の第1の実施形態の概略図である。この脱進機機構は、アンクルレバー上に単一の磁性ポールシューを有するアンクルフォーク‐レバーの形態の停止部材を含み、上記停止部材は、複数の二次同心トラックによって磁化されたガンギ車と協働する。これらのトラックはそれぞれ、異なる強度の一連の帯磁領域を含み、またアンクルフォーク‐レバーが上記帯磁領域の直近にある場合に上記アンクルフォーク‐レバーのポールシューと相互作用する異なる反発力を発する。2つの隣接する同心トラックのすぐ隣にある上記領域もまた、異なるレベルで帯磁している。この図1は、内側及び外側の2つのトラックを有する、簡略化されたバージョンを示している。
図2図2は、ガンギ車に対するポールシューの位置に応じた、図1のアンクルフォーク‐レバーのポールシューが受けるポテンシャル磁気相互作用エネルギの分布の概略上面図であり、途切れ途切れになった銃眼状の線は、図1の内側トラック及び外側トラックに交互に対面する、動作中のアンクルフォークのポールシューの軌跡を示す。
図3図3は、ここでもまた図1、2の第1の実施形態について、図1の2つのトラックそれぞれに関する、中心角(横軸)に応じた、帯磁トラックに沿ったポテンシャルエネルギの変動(縦軸)を示す図である。内側トラックは実線、外側トラックは点線で示す。この図は、それぞれ半区間に対応するセクションP1‐P2及びP3‐P4において、ガンギ車から得られるポテンシャルエネルギの蓄積と、ポールシューP2‐P3及びP4‐P5がトラックを変更する際の、アンクルによるテンプへのポテンシャルエネルギの解放とを示す。
図4図4は、本発明による脱進機機構の第2の実施形態の概略斜視図を示し、上記脱進機機構は、複数の磁性ポールシューを備えるアンクルフォークを含み、上記アンクルフォークはここでは、それぞれガンギ車の平面の各側に2つのポールシューを有する2つのフォーク要素の形態であり、2つのフォーク要素は、従来のスイスレバーの爪石と同様に、アンクルフォークの枢動点の各側に配設される。ガンギ車は、強度が可変であり増大する複数の磁石のシーケンスでそれぞれが形成された一連のランプを備え、各ランプは磁石のバリアで限局され、これら複数の異なる磁石は、アンクルフォークの2つのフォーク要素と連続的に相互作用するよう配設される。
図5図5は、図4のアンクルフォークのフォーク要素の断面図であり、アンクルフォーク及びガンギ車の、様々な帯磁セクタの場の方向を示す。
図6図6は、本発明によるガンギ車セット及び停止部材が協働する横断平面における、空隙領域に磁場を集中させるよう協働する磁石の配置の様々な変形例の断面図である。
図7図7〜10は、ガンギ車セットの軸を通り、かつ協働位置にある停止部材の対向するポールシューを通る平面における、異なる実施形態におけるガンギ車及び停止部材のそれぞれの構成の断面図である。図7は、アンクルフォークと一体の磁気回路が生成する磁場と相互作用する、ガンギ車上に配設された可変厚さ又は強度の帯磁構造物を示し、上記相互作用は反発又は牽引である。
図8図8は、アンクルフォークと一体の磁気回路が生成する磁場と相互作用する可変空隙を生成する、ガンギ車トラック上の可変厚さの強磁性構造体を示す。
図9図9は、アンクルフォークと一体の磁石が生成する磁場と相互作用する、ガンギ車の2つの表面上に配設された、可変厚さ又は強度の帯磁構造体で形成された2つのディスクを有するガンギ車を示す。
図10図10は、ガンギ車の2つの対向する表面上に、アンクルフォークと一体の磁石が生成する磁場と相互作用する可変空隙を生成する可変厚さの強磁性構造体を有する、図9と機械的に同様の構造体を示す。
図11図11は、図2、3に示す点P1(これは、P1から全区間オフセットした点5と同等である)に相関する、2つの二次内側及び外側トラック上の磁場分布の、図1の機構のガンギ車の枢軸を通過する横断平面における概略図である。
図12図12は、図2、3に示す点P2に相関する、2つの二次内側及び外側トラック上の磁場分布の、図1の機構のガンギ車の枢軸を通過する横断平面における概略図である。
図13図13は、図2、3に示す点P3に相関する、2つの二次内側及び外側トラック上の磁場分布の、図1の機構のガンギ車の枢軸を通過する横断平面における概略図である。
図14図14は、図2、3に示す点P4に相関する、2つの二次内側及び外側トラック上の磁場分布の、図1の機構のガンギ車の枢軸を通過する横断平面における概略図である。
図15図15は、本発明による脱進機機構を組み込んだムーブメントを含む時計のブロック図である。
図16図16は、ガンギ車セットが円筒形であり、停止部材が上記円筒形の直線母線に近接する可動式ポールシューを含む、変形例を示す。
図17図17は、ガンギ車セットが連続したストリップである、別の変形例を示す。
図18図18は、左側のガンギ車セットのトラックの表面に対面するポールシューの移動を示す。
図19図19は、2つの平行な二次トラックを含むトラックに沿ったポールシューの運動の周期性を示す。
図20図20は、ランプ及びバリアのプロファイル、及びこれらのプロファイルそれぞれに関して伝達されるエネルギを示す。
図21図21は、ランプ及びバリアのプロファイル、及びこれらのプロファイルそれぞれに関して伝達されるエネルギを示す。
図22図22は、ランプ及びバリアのプロファイル、及びこれらのプロファイルそれぞれに関して伝達されるエネルギを示す。
図23図23は、ランプ及びバリアのプロファイル、及びこれらのプロファイルそれぞれに関して伝達されるエネルギを示す。
図24図24は、ランプ及びバリアのプロファイル、及びこれらのプロファイルそれぞれに関して伝達されるエネルギを示す。
図25図25は、ランプ及びバリアのプロファイル、及びこれらのプロファイルそれぞれに関して伝達されるエネルギを示す。
図26図26は、磁性が増大する複数の磁石の2つの同心円状の列を含む以外は図4と同様の実施形態の部分図であり、内側トラック上の磁石は上向きの極性を有し、外側トラック上の磁石は下向きの極性を有する。
図27図27は、図26の実施形態に対応する横断方向断面における、力線の配向の概略図である。
図28図28は、同一の実施例におけるポテンシャルの分布を示し、トラックへの集中(centring)を破線、牽引(draw)を実線で示す。
図28A図28Aは、上側の図にエネルギレベル、下側の図に制動トルクの、移動区間全体に亘る変動を示し、下側の図は、上側の図の横軸に対して位置合わせされている。
図29図29〜34は、本発明による自然脱進機機構を示す。図29は、ここでは従来のゼンマイ‐テンプ組立体で形成された共振器を備える、機構の概略斜視図を示し、上記ゼンマイ‐テンプ組立体は径方向停止部材と協働し、上記径方向停止部材は、2つのガンギ車セットの一方又は他方と交互に協働し、これらガンギ車セットは、歯車装置によって接続され、また停止部材のポールシュートと協働するために、ランプ及びバリアを形成する複数の磁性経路を含む。
図30図30は、図29の機構を、これらのホイールセットに含まれる歯付きホイールを除いた状態で示す。
図31図31は、上記2つのガンギ車の間の停止部材の交互動作の運動学の平面図である。
図32図32は、上記2つのガンギ車の間の停止部材の交互動作の運動学の平面図である。
図33図33は、上記2つのガンギ車の間の停止部材の交互動作の運動学の平面図である。
図34図34は、上記2つのガンギ車の間の停止部材の交互動作の運動学の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、停止部材とガンギ車との間の通常の機械的接触力を、磁気又は静電気由来の非接触力に置換することを提案する。
【0020】
本発明は、共振器20とガンギ車セット40との間に停止部材30を含む、時計用脱進機機構10に関する。
【0021】
本発明によると、このガンギ車セット40は、少なくとも1つの帯磁若しくは強磁性、又は帯電又は静電気伝導性のトラック50を含み、トラック50は、その磁気特性又は静電特性が反復する移動区間PDを有する。
【0022】
本明細書では、ある角度移動及びある角度移動区間PDを有する枢動運動の好ましいケースにおいて、本発明を説明する。
【0023】
トラック50は、移動区間PDに亘って、特に構成(材料)、外形、可能なコーティング、可能な帯磁及び帯電に関して同一の幾何学的及び物理的特性を有する。
【0024】
上記停止部材30は、少なくとも1つの帯磁若しくは強磁性、又は帯電又は静電気伝導性のポールシュー3を含む。
【0025】
ポールシュー3は、トラック50の表面4の少なくとも1つの構成部品の移動方向DDに対して横断方向DTに可動である。この横断方向の可動性は、関連するトラックからの完全な離脱を伴わず、この構成は実施形態に応じて変化し、実施形態のうちのいくつかにおいては、ポールシューは移動の一部の間にトラックから離脱する。
【0026】
少なくとも1つのポールシュー3又はトラック50は、上記少なくとも1つのポールシュー3と上記少なくとも1つの表面4との間の空隙5に、磁場又は静電場を生成する。
【0027】
ポールシュー3は、停止部材30の各横断方向運動の直前に、トラック50の磁場又は静電場バリア46と向かい合い、この横断方向運動は、共振器20の周期的作用によって作動される。
【0028】
停止部材は多安定型であり、少なくとも2つの安定位置を取るよう配設される。
【0029】
好ましくは、この少なくとも1つのポールシュー3によって又はトラック50によって、少なくとも1つのポールシュー3とこの少なくとも1つの表面4との間の空隙5に生成された磁場又は静電場は、上記少なくとも1つのポールシュー3及び上記少なくとも1つの表面4に印加されるトルク又は力を生成する。このトルク又は力は、角度移動区間PDに応じた周期的制動トルク又は力であり、上記角度移動区間PDは、図28Aにおいて確認できるように、ゼロ値のトルク又は力から開始して、制動トルク又は力が第1の値V1付近で略一定となるポテンシャルランプを含む第1の半区間と、上記制動トルク又は力が上昇して、第1の値V1の少なくとも3倍大きくかつ第1の値V1と同一の符号を有する第2の値V2である最大値に到達するポテンシャルバリアを含む、区間の第2の部分とを有する。
【0030】
より具体的には、各トラック50は各バリア46の前に、磁場又は静電場を有するポールシュー3と増大しながら相互作用するランプ45を備え、上記磁場又は静電場の強度は増大するポテンシャルエネルギを生成するように変化し、このランプ45は、ガンギ車セット40からエネルギを得、各ポテンシャルバリアは各ポテンシャルランプよりも急峻である。
【0031】
より具体的には、ガンギ車セット40は、同一のトラック50又は2つの移動方向DDに隣接するトラック50の2つの連続するランプ45の間に、共振器20の周期的作用下で停止部材30が傾斜する前にガンギ車セット40の一時停止をトリガするための静電場ポテンシャルバリアを含む。
【0032】
より具体的には、図28Aにおいて確認できるように、上記トルク又は力は、角度移動区間PDに応じた周囲的制動トルク又は力である。更に、区間PDの開始点においてゼロトルク又は力値から開始して、上記制動トルク又は力は、第1の角度T1に亘って平坦域に達するまで値が増大し、第2の角度T2に亘って第1の略一定の値V1を有する、正の強度を有し、第1の角度T1及び第2の角度T2は併せて、閾値Sに達するまでポテンシャルランプを形成し、その後強度は、第3の角度T3に亘って、第1の値V1より高い第2の最大値V2まで上昇する。上記第3の角度T3の終端は、第2の値V2におけるトルク又は力の最大値におけるピークMCに対応し、その後トルク又は力の強度は、第4の角度T4に亘ってゼロ値に達するまで減少し、上記第4の角度T4は、最大エネルギレベルMEに対応する。第3の角度T3及び第4の角度T4の組み合わせは、制動トルク又は力が正となるポテンシャルバリアを構成する。この点を超えると、制動トルク又は力は第5の角度T5に亘って、トラフMCにおける最小の負の強度まで減少し続け、その後第6の角度T6に亘って、正の値に再び到達するまで上昇して、後続の区間が開始する。ここでTD=T1+T2+T3+T4+T5+T6であり、T1+T2≧TD/2である。
【0033】
より具体的には、バリア46は、第3の角度T3に対応する移動におけるトルク又は力の急激な上昇又は減少により、不連続閾値を定義し、この第3の角度T3は、第2の角度T2の1/3未満である。
【0034】
より具体的には、第2の最大値V2は第1の値V1の6倍超である。
【0035】
有利には、機構10は、第2の半区間の第5の角度T5又は第6の角度T6に亘って停止部材30が負のトルクへと変化するのを防止するための、機械的停止手段も含む。
【0036】
ある具体的実施形態では、この脱進機機構10は、区間PDの各半区間中にガンギ車セット40から受承したエネルギを蓄積し、その一部をポテンシャルエネルギとして貯蔵し、これを周期的に共振器20に戻す。例えて言えば、この蓄積機能は、機構中でゼンマイを徐々に巻き上げることと同等である。このエネルギの返還は、共振器20の周期的作用によって作動される停止部材30の横断方向運動中の、これら半区間の間に行われる。そしてポールシュー3は、ガンギ車セット40に対する第1の横断方向半移動PDCから、ガンギ車セット40に対する第2の横断方向半移動DDCへ、又はその逆へと変化する。ポールシュー3は、停止部材30の各横断方向運動の直前に、トラック50の磁場又は静電場バリア46と向かい合い、この横断方向運動は、共振器20が一方の半移動から他方の半移動へと傾斜することによって作動される。
【0037】
ある具体的実施形態では、ポールシュー3及び/又はトラック50が生成する磁場又は静電場は、上記移動区間PDの第1の半区間中、第2の半移動DDCにおいてよりも第1の半移動PDCにおいて強度が大きく、また移動区間PDの第2の半区間中、第1の半移動PDCにおいてよりも第2の半移動DDCにおいて強度が大きい。
【0038】
より具体的には、共振器20は周期的に運動する少なくとも1つの発振子2を含む。ガンギ車セット40は、香箱又は類似の要素等のエネルギ源から動力供給される。停止部材30は、ガンギ車セット40から共振器20へエネルギを伝達する第1の機能と、ガンギ車セット40を律動させて解放及びロックすることにより、発振子2の振動毎に、共振器20によって作動される停止部材30の運動中にガンギ車セット40を1段階前進させる第2の機能とを保証する。この少なくとも1つのトラック50は、移動軌跡TD上を走行するよう駆動される。
【0039】
好ましくは、各ポールシュー3は、固定中点PMの両側の第1の半移動PDD及び第2の半移動DDCにおいて、好ましくはトラック50の移動軌跡TDに対して略垂直な横断方向軌跡TT上を、トラック50に対して横断方向DTに可動である。
【0040】
トラック50及び/又はポールシュー3が磁場又は静電場を生成するのは、ポールシュー3と、ポールシュー3に対面するトラック50の表面4との間であり、これにより、停止部材30及びガンギ車セット40上に、従来技術の機械的力の代わりに、磁力又は静電力の系を生成できる。
【0041】
本発明による脱進機機構10は、移動区間PDの第1の半区間又は第2の半区間それぞれの間にエネルギ源からガンギ車セット40を介して伝達されたポテンシャルエネルギを蓄積する。各半区間の終点において、ポールシュー3は、トラック50の、ポールシュー3がそれに対向して移動する部分上の、磁場又は静電場バリア46に対向し、その直後に共振器20によって停止部材30の横断方向運動が作動される。続いて脱進機機構10は、移動区間PDの第1の半区間と第2の半区間との間に共振器20によって周期的に作動される停止部材30の横断方向運動中に、対応するエネルギを発振子2に戻す。この横断方向の間、ポールシュー3は、第1の半移動PDCから第2の半移動DDCへ、又はその逆へと変化する。
【0042】
ガンギ車セット40は、図1、4、29に示すガンギ車400の標準的な形態、又は図9、10に示す二重ホイール、又は図16に示す円筒形形態、又は図17に示す連続したストリップの形態、又はその他の形態といった、様々な様式で形成できる。本説明は、ホイールセット(必ずしも枢動しない)という一般的なケースに関するものであるが、関心対象の構成部品、特に単一の又は複数のホイールに対してこれを適用する方法は、腕時計製作者には分かるだろう。
【0043】
好ましくは、磁場又は静電場の特性は、第1の半移動PDCと第2の半移動DDCとの間で、トラック50とポールシュー3との間の半移動区間PDの相変移によって交替する。しかしながら、デバイスは、異なるセクタ間の場の異なる分布速度を尊重しながら、例えば異なる場の強度で動作するようにすることもできる。これは例えば、異なる半径で限局された角度セクタが全く同一の特性を必ずしも有していない図1の実施形態の場合に当てはまり得る。
【0044】
ここで横断方向DTは、ポールシュー3の横断方向軌跡TTに対して略平行な方向、又は図18に示すように中央位置PMにおいてポールシュー3に対して接線となる方向を表す。
【0045】
ここで軸方向DAは、ポールシューの横断方向軌跡TTに対して略平行な横断方向DTに対して、及び中央位置PMにおいて移動軌跡TDに対して接線となる、トラック50の移動方向DFに対して、垂直な方向を表す。
【0046】
ここでトラック平面PPは、中央位置PM、横断方向DT及び移動方向DFによって画定される平面を表す。
【0047】
好ましくは、ポールシュー3と、ポールシュー3及びトラック50の相対移動の少なくとも一部において、空隙5においてポールシューに対面する表面4を備えるトラック50とによって形成される、2つの対向する構成部品の少なくとも1つ(「対向する(opposing)」はここでは、2つの構成部品が互いに対面しており、これらの間にいずれの反発力、衝突又はその他の相互作用が存在しないことを意味するために使用される)は、この磁場又は静電場を生成するよう配設された、アクティブな磁気又は静電気手段を含む。
【0048】
ここでは、用語「アクティブな(active)」は場を生成する手段を表し、「パッシブな(passive)」は場に曝露される手段を表す。ここでは用語「アクティブな」は、電流がその構成部品を通過することを含意しない。
【0049】
ある具体的変形例では、ポールシュー3と対向する表面4との間の空隙5における軸方向DAとトラック平面PPとの境界において、この場の軸方向DAの成分は、トラック平面PPにおける成分よりも高い。
【0050】
ある具体的変形例では、この磁場又は静電場の方向は、ガンギ車セット40の軸方向DAに対して略平行である、表現「略平行(substantially parallel)」は、軸方向DAの成分が平面PPにおける成分の少なくとも4倍大きい場を表す。
【0051】
従って、空隙5における他方の対向する構成部品は、上述のように生成された場と協働するためのパッシブな磁気若しくは静電気手段、又は空隙5において磁場若しくは静電場を生成するよう配設される磁気若しくは静電気手段を含み、上記場は、場合によって、第1の構成部品が放出した場と同一方向又は反対方向であってよく、これによって空隙5において反発力又は逆に牽引力を生成する。
【0052】
図1の第1の実施形態及び図4の第2の実施形態において示したある具体的実施形態では、停止部材30を、枢軸Aを有するゼンマイ‐テンプ2を有する共振器20と、枢軸D(これはゼンマイ‐テンプの枢軸Aと共に、角度基準方向DREFを画定する)の周りで枢動する少なくとも1つのガンギ車400との間に配設する。この停止部材30は、ガンギ車セット40を律動させて解放及びロックすることにより、ゼンマイ‐テンプ2が振動する度にガンギ車セット40を1段階前進させる第2の機能を保証する。
【0053】
ポールシュー3は、横断方向移動の少なくとも一部に亘って、ガンギ車セット40の表面4の少なくとも1つの要素に対面して移動するよう配設される。図1の第1の実施形態では、ポールシューは常に表面4に対面しており、図4の第2の実施形態では、停止部材30は2つのポールシュー3A、3Bを含み、これらはそれぞれ一方の半区間に関しては表面4に対向しており、もう一方の半区間に関しては表面4から離れ、これらの間のいずれの磁気又は静電気相互作用が無視できるような位置となる。
【0054】
ある変形例では、ポールシュー3と、ポールシュー3及びトラック50の相対移動の少なくとも一部に亘ってポールシューに対面する表面4を備えるトラック50とによって形成される、空隙5の各側の2つの対向する構成部品はそれぞれ、アクティブな磁気又は静電気手段を含み、これらは、空隙5内でのこれらの境界において、軸方向DAに対して略平行な方向の磁場又は静電場を生成するよう配設される。
【0055】
ある有利な実施形態では、ポールシュー3及び/又は空隙5においてポールシューに対面する表面4を備えるトラック50は、アクティブな磁気又は静電気手段を含み、これらは、空隙5内において、ポールシュー3の中央位置PMによって並びに横断方向DT及び軸方向DAによって画定される少なくとも1つの横断方向平面PT内に、ポールシュー3と表面4との上記横断方向における相対移動の横断方向範囲に亘って、横断方向DTにおけるポールシュー3の横断方向位置に応じて、及び時間経過と共に周期的に可変でありかつ非ゼロである強度の磁場又は静電場を生成するよう配設される。
【0056】
ある具体的実施形態では、上記各ポールシュー3、及びポールシューに対面する表面4を備える上記各トラック50は、上記磁気又は静電気手段を含み、これらは、少なくとも上記横断方向平面PT内において、少なくとも1つの上記ポールシュー3と少なくとも1つの表面4との間に、磁場又は静電場を生成するよう配設される。これらの対向する構成部品が生成するこの磁場又は静電場は、横断方向DTにおけるポールシュー3の横断方向位置に応じて、及び時間経過と共に周期的に、可変でありかつ非ゼロである強度を有する。
【0057】
停止部材30とガンギ車セット40との間のいずれの直接の機械的接触なしに、これら2つの構成部品間での駆動又は反対に制動を可能とするために、停止部材30とガンギ車セット40との間に、磁気又は静電気由来の力を生成できるようにするための条件を生成しなければならないことが理解される。
【0058】
上記構成部品のうちの1つによる磁場又は静電場の生成と、それ自体も磁場又は静電場を放出できる、対向する構成部品によるこの場の受承とのための条件により、2つの対向する構成部品間の反発又は牽引による様々なタイプの動作を想定できるようになる。特に、以下で説明するように、多層式アーキテクチャによって、トルク又は力をガンギ車セット40の枢動方向(特に、ホイールセット40が単一の軸の周りで枢動する場合の枢軸の方向)において平衡させることができ、また停止ピン30とガンギ車セット40との間の相対位置を、軸方向DAにおいて維持できる。
【0059】
ある具体的実施形態では、方向DAにおける磁場又は静電場の成分は、ポールシュー3とこれに対向する表面4との相対移動の範囲全体に亘って、同一方向である。
【0060】
場の性質によって、並びに停止部材30及び/又はガンギ車セット40が、停止部材30とガンギ車セット40との間の少なくとも1つの空隙における磁場又は静電場の生成においてアクティブな役割を果たすかパッシブな役割を果たすかによって、異なる構成が可能である。実際には、停止部材30の異なるポールシュー3とガンギ車セット40の異なるトラックとの間に複数の空隙5が存在し得る。限定するものではないが、様々な有利な変形例を以下に説明する。
【0061】
ある変形例では、停止部材30が備える各ポールシュー3は、常に帯磁又は帯電しており、一定磁場又は一定静電場を生成し、各ポールシュー3と協働する各表面4は、関連するポールシュー3と共に空隙5を画定し、この空隙5内では、ガンギ車セット40がその軌跡上を漸進するに従って、また関連するポールシュー3の、ガンギ車セット40に対する相対横断方向位置に従って、磁場又は静電場が可変であり、また上記磁場又は静電場は、停止部材30がアンクルフォークである場合のように停止部材30が枢動する場合は、停止部材30の角度移動に、又は停止部材30が共振器20によって異なる様式で駆動される場合は停止部材30の横断方向移動にリンクしている。
【0062】
別の変形例では、停止部材30が備える各ポールシュー3は、常に強磁性又は静電気伝導性であり、各ポールシュー3と協働する各表面4は、関連するポールシュー3と共に空隙5を画定し、この空隙5内では、ガンギ車セット40がその軌跡上を漸進するに従って、また関連するポールシュー3の、ガンギ車セット40に対する相対横断方向位置に従って、磁場又は静電場が可変であり、また上記磁場又は静電場は、停止部材30がアンクルフォークである場合のように停止部材30が枢動する場合は、停止部材30の角度移動に、又は停止部材30が共振器20によって異なる様式で駆動される場合は停止部材30の横断方向移動にリンクしている。
【0063】
別の変形例では、対向する表面4を備える各トラック50は、一定の様式で常に帯磁又は帯電しており、関連するポールシュー3に対面する表面において一定磁場又は一定静電場を生成し、空隙5において可変空隙高さを生成するよう配設されたレリーフ部分を含み、上記空隙5の空隙高さは、ガンギ車セット40がその軌跡上を漸進するに従って変化し、また関連するポールシュー3の、ガンギ車セット40に対する相対角度位置に従って変化する。
【0064】
別の変形例では、上述のような表面4を備える各トラック50は、常に強磁性又は静電気伝導性であり、空隙5において可変空隙高さを生成するよう配設された外形を含み、上記空隙5の空隙高さは、ガンギ車セット40がその軌跡上を漸進するに従って可変であり、また関連するポールシュー3の、ガンギ車セット40に対する相対横断方向位置に従って可変である。
【0065】
別の変形例では、上述のような表面4を備える各トラック50は、トラック上での局所的位置に従って可変である様式で常に帯磁又は帯電しており、関連するポールシュー3に対面する表面上に、ガンギ車セット40がその軌跡上を漸進するに従って可変であり、また関連するポールシュー3の、ガンギ車セット40に対する相対横断方向位置に従って可変である、磁場又は静電場を生成する。
【0066】
別の変形例では、上述のような表面4を備える各トラック50は、トラック上での局所的位置に従って可変である様式で常に強磁性又は静電気伝導性であり、これにより、停止部材30とガンギ車セット40との間に印加される磁力又は静電気力が、停止部材30とガンギ車セット40との相対運動の結果として変動する。上記力は、関連するポールシュー3に対面する表面上において、ガンギ車セット40がその軌跡上を漸進するに従って可変であり、また関連するポールシュー3の、ガンギ車セット40に対する相対横断方向位置に従って可変である。
【0067】
別の変形例では、各ポールシュー3は、ガンギ車セット40の2つの表面4の間を移動し、磁場又は静電場はポールシュー3の各側に、ポールシュー3の各側において対称となるように軸方向DAに印加され、これによってポールシュー3上に、等しい大きさの対向するトルク又は力が軸方向DAに印加される。これにより、いずれのホゾ上で軸方向平衡と最小トルク又は力が得られ、これによって摩擦による損失が最小化される。
【0068】
別の変形例では、ガンギ車セット40の各表面4は、各ポールシュー3の2つの表面31、32の間を移動し、磁場又は静電場は表面4の各側に、表面4の各側において対称となるように軸方向DAに印加され、これによって表面4を備えるトラック50上に、等しい大きさの対向するトルク又は力が軸方向DAに印加される。
【0069】
別の変形例では、ガンギ車セット40のトラック50は、その2つの側部表面41、42のうちの一方に、互いに近接した複数の二次トラック43を含む。
【0070】
ガンギ車セット40がガンギ車400である具体的用途では、これらのトラックは、2つの上述のような二次トラック、即ち内側トラック43INT及び外側トラック43EXTを示す図1、2に示すように、ガンギ車400の枢軸Dに関して互いに同心であり、各二次トラック43は、角度的に一続きになった複数の基本一次領域44を含み、各一次領域44は、当該一次領域44が属する二次トラック43上の隣接する一次領域44のものとは異なる、また当該一次領域44自体の二次トラックに隣接する別の二次トラック43上に位置する、隣接する全ての他の一次領域44とは異なる、磁気又は静電気挙動を示す。
【0071】
例えば図16、17の例の、トラック50がディスクに相当しない他の変形実施形態では、二次トラック43は同心ではないが、互いに近接し、好ましくは互いに対して略平行である。しかしながら、2つの直近の一次領域44間の磁気又は静電気挙動が異なる点は同様である。図18、19は、半区間だけ相変移した2つの隣接する平行な二次トラック43A、43Bを含む変形例における、ポールシュー3の移動を示す。
【0072】
より具体的には、各二次トラック43上の複数の一次領域44の所定の連続は、ガンギ車セット40の1回転の整数分の1を形成する、場合によって角度的又は直線的である空間的区間Tに従って周期的である。この空間的区間Tは、トラック50の移動区間PDに対応する。
【0073】
有利な実施形態では、各二次トラック43は、各空間的区間T上に、ある磁場又は静電場を有するポールシュー3と増大しながら相互作用する一連の、特に単調な一連の一次領域44を含むランプ45を含み、上記磁場又は静電場の強度は、最小の相互作用領域4MINから最大の相互作用領域4MAXに向かって上昇するポテンシャルエネルギを生成するために変動し、ランプ45はガンギ車セット40からエネルギを得る。
【0074】
本発明によると具体的には、同一方向の2つの連続するランプ45の間に、ガンギ車セット40は、共振器20、特にゼンマイ‐テンプ2の作用下で停止部材30が傾斜する前にガンギ車セット40の一時停止をトリガするための磁場又は静電場バリア46を含む。
【0075】
好ましくは、各上記ポテンシャルバリア46は、ポテンシャル勾配に関して各上記ランプ45よりも急峻である。
【0076】
従ってエネルギバリアが生成される。図示されている実施形態では、これらのバリアは、場のバリアによって形成される。従って図示されている変形例は、磁場又は静電場ランプ及び磁場又は静電場バリアである。
【0077】
より具体的には、ガンギ車セット40は、ポテンシャル勾配が駆動トルクと等しくなる位置において不動化される。
【0078】
この不動化は瞬間的なものではなく、リバウンド現象が存在し、これは、機構内の自然の摩擦、特に枢動摩擦によって、又はこの目的のために生成された、(例えばガンギ車セット40と一体の銅又は同様の表面上の)渦電流摩擦、空気力学的摩擦等の粘性摩擦である摩擦によって、又は更にはジャンパバネ等の乾燥摩擦によって、減衰する。典型的には、ガンギ車セット40は、一定のトルク又は一定の力を有する上流の機構、典型的には回転香箱によって緊張させられる。従ってガンギ車セット40は、所定の位置に停止する前、ポールシュー3の横断方向傾斜の前に発振し、動力学的に適合する期間内に振動を停止するために損失が必要となる。
【0079】
ランプとバリアとの間の遷移は、駆動トルクに応じて共振器へと伝達されるエネルギとの間に特定の依存関係が得られるように考案及び調整できる。
【0080】
本発明は、連続した勾配を有するランプを用いて動作できるが、ある特定の勾配を有するランプ45と、異なる勾配を有するバリアとを組み合わせると更に有利であり、ランプ45とバリア46との間の遷移領域の形状は動作に有意な影響を有する。
【0081】
本発明によると、この系は、ランプを登るにつれてエネルギを蓄積し、ポールシューの横断方向運動中にエネルギを共振器へと戻す。停止点は、このように戻されたエネルギの量を画定し、このエネルギの量は、ランプとバリアとの間の遷移領域の形状に左右される。
【0082】
図20、22、24は、ランプ及びバリアの外形の非限定的な例を示し、横軸は移動、ここでは枢動角度θ、縦軸はmJで表されるエネルギUiである。図21、23、25は、各ランプ及びバリアの外形と相関する、伝達されたエネルギを示し、横軸は同一であり、縦軸はmNで表されるトルクCMである。
【0083】
図20、21は、ランプとバリアとの間のある半径を有する緩やかな遷移を示し、この系に関する停止点は印加されるトルクに左右され、共振器に伝達されるエネルギもまた、印加されるトルクに左右される。
【0084】
図22、23は、ランプとバリアとの間の傾斜の中断を伴う緩やかな遷移を示し、従って系が停止する点は印加されるトルクに左右されず、共振器に伝達されるエネルギは一定である。
【0085】
図24、25は、共振器に伝達されるエネルギが印加されるトルクとおおよそ比例するよう、及び特にある具体的変形例では駆動トルクと略等しくなるよう、選択された、ランプとバリアとの間の急激な形状の遷移を示す。この例はスイスレバー脱進機に極めて近く、従って本発明を最小の改造で既存のムーブメントに組み込むことができるため、有利である。
【0086】
本発明のある有利な変形例では、ガンギ車セット40はここでもまた、各上記ランプ45の終端かつ各バリア46の直前に、表面4が帯磁若しくは帯電している場合は磁場若しくは静電場の分布の横断方向変動、又は表面4が強磁性若しくは静電気伝導性である場合は外形の変動を含み、ポールシュー3上で牽引を引き起こす。
【0087】
有利には、各上記磁場又は静電場ポテンシャルバリア46の後に、機械的衝撃吸収停止部材を含む。
【0088】
ある変形例では、ガンギ車セット40が複数の二次トラック43を含む場合、少なくとも2つの上記隣接する二次トラック43は、互いに対して、空間的区間Tの半区間の角度的相変移を有する、交互になった最小の相互作用領域4MIN及び最大の相互作用領域4MAXを含む。
【0089】
本発明のある変形例では、停止部材30は複数の上記ポールシュー3を含み、これらは、特に図4の第2の実施形態に示すように、それぞれガンギ車400の各側に2つの磁石31、32を含む別個のポールシュー3A、3Bによって、別個の二次トラック43と同時に協働するよう配設される。
【0090】
特に、ある具体的実施形態(図示せず)では、停止部材30は、ガンギ車セット40の表面4に対して平行に延在する、隣接して配置された複数のポールシュー3を含む櫛状部を含んでよい。
【0091】
本発明のある変形例では、停止部材30は実在の又は仮想的なホゾ35の周りで枢動し、また、ガンギ車セット40の異なる領域(又はガンギ車400の異なる直径)上に位置する複数の表面4が備える複数の一次領域44と協働するよう配設された、単一のポールシュー3を含み、ポールシュー3は上記ガンギ車セット40と、ガンギ車セット40の前進(又は回転)中に可変様式で相互作用する。これらの一次領域44は、ガンギ車セット40の天輪(又は周縁部)上に交互に配設され、これにより、ポールシュー3に関して均衡位置が求められる場合に、ガンギ車セット40に対する横断方向運動にポールシュー3を制限する。
【0092】
本発明の別の変形例では、停止部材30は実在の又は仮想的なホゾ35の周りで枢動し、また、ガンギ車セット40の少なくとも1つの領域(又は1つの直径)上に位置する複数の表面4が備える複数の一次領域44と協働するようそれぞれ配設された、複数のポールシュー3を含み、各上記ポールシュー3は上記ガンギ車セット40と、ガンギ車セット40の前進(又は回転)中に可変様式で相互作用する。これらの一次領域44は、ガンギ車セット40の天輪又は周縁部上に交互に配置され、これにより、ポールシュー3に関して均衡位置が求められる場合に、ガンギ車セット40に対する横断方向運動にポールシュー3を制限する。
【0093】
ある具体的実施形態では、全ての瞬間において、停止部材30の少なくとも1つのポールシュー3は、ガンギ車セット40の少なくとも1つの表面4と相互作用する。
【0094】
ある具体的実施形態では、停止部材30はその各側において、第1のガンギ車セット及び第2のガンギ車セットと協働する。
【0095】
ある具体的実施形態では、これら第1及び第2のガンギ車セットは一体として枢動する。
【0096】
ある具体的実施形態では、これら第1及び第2のガンギ車セットは互いに独立して枢動する。
【0097】
ある具体的実施形態では、これら第1及び第2のガンギ車セットは同軸である。
【0098】
ある具体的実施形態では、停止部材30はその各側において、第1のガンギ車401及び第2のガンギ車402と協働し、これらはそれぞれガンギ車セット40を形成する。
【0099】
ある具体的実施形態では、第1のガンギ車401及び第2のガンギ車402は一体として枢動する。
【0100】
ある具体的実施形態では、第1のガンギ車401及び第2のガンギ車402は互いに独立して枢動する。
【0101】
ある具体的実施形態では、第1のガンギ車401及び第2のガンギ車402は同軸である。
【0102】
図16に示す変形例では、ガンギ車セット40は、横断方向DTに対して平行な枢軸Dの周りの少なくとも1つの円筒形表面4を含み、上記円筒形表面4は、磁気又は静電気トラックを備え、また停止部材30の少なくとも1つのポールシュー3は、枢軸Dに対して平行に可動である。
【0103】
図17は、構成を一般化して示しており、ここではガンギ車セット40は、方向Dに延在する機構であり、ここでは横断方向Tに対して平行な軸を有する2つのローラに跨って運動する無端ストリップで表され、上記ストリップは少なくとも1つの表面4を備える。
【0104】
当然のことながら、1つ又は複数のトラック50、例えばチェーン、リング、螺旋等の上の表面4の空間的周期性を保証するために、他の構成も考えられる。
【0105】
本発明によると、限定するものではないが、表面4は、可変厚さの帯磁層若しくは可変厚さの帯電層、又は厚さが一定であるものの帯磁が可変である帯磁層若しくは厚さが一定であるものの電荷が可変である帯電層、又は表面密度が可変である微小磁石若しくは表面密度が可変であるエレクトレット、又は可変厚さの強磁性層若しくは可変厚さの静電気伝導性層、又は可変形状の強磁性層若しくは可変形状の静電気伝導性層、又は孔表面密度が可変である強磁性層若しくは孔表面密度が可変である静電気伝導性層を含んでよい。
【0106】
ある具体的実施形態では、停止部材30はアンクルフォークである。
【0107】
本発明はまた、このタイプの少なくとも1つの脱進機機構10を含む時計ムーブメント100にも関する。
【0108】
本発明はまた、少なくとも1つの上述のようなムーブメント100を含む、及び/又は少なくとも1つの上述のような脱進機機構10を含む、時計200、特に腕時計にも関する。
【0109】
本発明は様々な規模の時計、特に腕時計に適用できる。本発明は、置き時計、ラウンジ時計、モルビエ時計等の静置型時計に関して有利である。本発明による機構の劇的かつ革新的な特性は、機構をディスプレイすることに関して追加の新規の便益を提供し、ユーザ又は見物人にとって魅力的である。
【0110】
図面は具体的かつ非限定的な実施形態を示し、ここで停止部材30はアンクルフォークであり、またこれら図面は、本発明によって、アンクルフォークとガンギ車との間の通常の機械的接触力を、磁気又は静電気由来の非接触力で置換できる方法を示している。
【0111】
2つの非限定的な実施形態を提案する。第1の実施形態は単一のポールシューを有し、第2の実施形態は複数のポールシューを有する。
【0112】
第1の実施形態の、磁気によるバージョンのみを、図1〜3に示す。
【0113】
図1は、磁性停止部材30を有する脱進機機構10の概略図を示し、この停止部材30はアンクルフォークである。調速デバイスは、ゼンマイ‐テンプ2を有する共振器20、アンクルフォーク30、帯磁ガンギ車400で形成されたガンギ車セット40を含む。アンクルフォークの磁石3は、ガンギ車セット40の同心の帯磁した二次トラック43INT、43EXTと反発して相互作用する。
【0114】
二次トラック43上の記号‐‐/‐/+/++は磁気の強度を表し、‐‐から++へと増大する。アンクルフォーク30の磁石3は、領域‐‐によって弱く反発され、領域++によって強く反発される。
【0115】
図1のブロック図では、停止部材30とガンギ車セット40との間の相互作用力は、アンクルフォーク30上に配置されたポールシュー3、特に磁石と、ガンギ車セット40上に配置された帯磁構造との間の相互作用から得られる。この帯磁構造は、2つの二次トラック43(内側トラック43INT、外側トラック43EXT)からなり、これら2つの二次トラック43の磁性の強度は角度位置によって変動し、これによって図2に示す磁気相互作用ポテンシャルが生成される。図3に示すように、各二次トラック43に沿って、一連のランプ45及びポテンシャルバリア46が確認できる。ランプ45の効果は、ガンギ車セット40からエネルギを得ることであり、バリア46の効果は、ホイールセット40の漸進を阻止することである。ランプ45が得たエネルギはその後、アンクルフォーク30が一方の位置から他方の位置へと傾斜した場合に、ゼンマイ‐テンプ共振器20に戻される。
【0116】
図2は、ガンギ車セット40上における位置に応じてアンクルフォーク30の磁石3が経験する磁気相互作用からのポテンシャルエネルギの概略図を示す。点線は、動作中のアンクルフォーク30の磁石3上の基準点Mの軌跡を示す。
【0117】
図3は、ホイールセット40の帯磁二次トラック43に沿ったポテンシャルエネルギの変動の概略図を示す。アンクルフォークのポールシュー3が、内側二次トラック43INT上の点P1から点P2へと通過すると、この系はガンギ車セット40からエネルギを得て、このエネルギをポテンシャルエネルギの形態で貯蔵する。続いてこの系は、ポテンシャルバリア46とホイールセット40の摩擦との複合効果によってP2で停止する。最後に、アンクルフォーク30の反対側の端部に対するゼンマイ‐テンプ2の作用下で、アンクルフォーク30が傾斜すると、先ほど貯蔵されたエネルギがゼンマイ‐テンプ2共振器20に戻され、一方で系はP2からP3へと通過し、これはトラックの変更に対応しており、ポールシュー3はP3において外側二次トラック43EXT上へと移動する。続いて、他方の二次トラック43EXT上において、P3からP4へ、及びP4からP5へと通過して、内側トラック43INT上のP5へと戻る同一のサイクルが再び開始される。
【0118】
第1の実施形態の、上述の磁気による変形例では、ポテンシャル磁気相互作用の形態は好ましくは:
‐ゼンマイ‐テンプ共振器20に供給されるエネルギが、ゼンマイ‐テンプ共振器20の運動を維持するのに十分なものとなるように、ポテンシャルランプ45が考案され;
‐ポテンシャルバリア46の高さが、系をブロックするのに十分なものとなる
ようなものである。
【0119】
ホイールセット40の摩擦により、系をポテンシャルバリア46の最下部で不動化できる。
【0120】
衝撃発生時にアンクルフォークの安全性を維持するために、各ポテンシャルバリア46のすぐ後ろに機械的停止部材を配設すると有利である(図が煩雑になるのを回避するために、これら機械的停止部材は図1には図示されていない)。通常動作時、磁性アンクルフォーク30はこの機械的停止部材には決して接触しない。しかしながら、系にポテンシャルバリア46を横切らせてしまうのに十分な大きさの衝撃が発生した場合、これらの機械的停止部材は、ステップを飛ばしてしまうのを回避するために系をブロックできる。
【0121】
この変形例では、ポテンシャルバリア46がエネルギランプ45よりも大幅に急峻であれば、ゼンマイ‐テンプ共振器20に伝達されるエネルギの量は常に実質的に同一である。この条件は実際には簡単に達成できる。
【0122】
アンクルフォーク30の傾斜は、ガンギ車セット40の運動からは切り離される。より具体的には、アンクルフォーク30が移動すると、ガンギ車セット40が不動化されたままであっても、ポテンシャルエネルギをゼンマイ‐テンプ2共振器20に戻すことができる。従って、インパルスの迅速性はガンギ車セット40の慣性によって制限されない。
【0123】
図1に提案されているポテンシャルを生成するために、複数の解決法が考えられる。ガンギ車上に配置される帯磁構造は、限定するものではないが、以下:
‐可変厚さの帯磁層;
‐厚さが一定であるものの帯磁が可変である帯磁層;
‐表面密度が可変である微小磁石;
‐可変厚さの強磁性層(この場合、力は常に牽引力である);
‐外形及び/又は形状が可変である強磁性層(打抜き加工、切断);
‐孔表面密度が可変である強磁性層
によって作製でき、これらの構成を組み合わせることも可能である。
【0124】
第2の実施形態を図4〜10に示す。この第2の実施形態は、第1の実施形態と同一の様式で動作する。主な違いは以下の通りである:
‐ガンギ車セット40上に、一連の磁石49を含む単一の帯磁トラック50が存在する一方で、アンクルフォーク30は2つの帯磁構造3A、3Bを備え、これにより、第1の実施形態の図2、3において提示されたものと同一の相互作用ポテンシャルを、交互になったランプ及びバリアを用いて生成できる;
‐ガンギ車400の磁石49は、アンクルフォーク30の磁石31、32の間に挟まれ、これにより、軸方向反発力が互いを補償する。従って、脱進機の動作に有用な力の成分のみがガンギ車セット40の平面に残る。
【0125】
有利には、ポールシュー3は、トラック50(又は場合によっては43)の真上にはなく、関連するトラックの軸に関して横断方向DTに僅かにオフセットされており、これにより、ホイールセット40とポールシュー3との間の相互作用が、小さな横断方向力成分を恒常的に生成し、これは停止部材30を所定の位置に保持する。そして、オフセットの値を調整することによって、生成される力がポールシュー3を、第1の半移動及び第2の半移動におけるその極限位置それぞれに、安定して維持できる。
【0126】
そして図4は、ゼンマイ‐テンプ2共振器20、磁性アンクルフォーク30、帯磁ガンギ車セット40で形成される調速デバイスを示す。ガンギ車セット40は、アンクルフォーク30の2つの磁石31、32と相互作用する、可変強度の複数の磁石49のトラックを備える。図4は、例えば複数の磁石P20で形成されるバリア46上で停止する前にランプ45(P11〜P18)を形成するための、磁性が増大する(特に寸法が増大する)磁石49の位置決めを示す。
【0127】
ポールシュー3が相互作用するトラック50に対する上記ポールシュー3の横断方向位置の微調整によって、牽引の大半が生成される。より具体的には、停止部材30が第1の半移動(PDC)の終端又は第2の半移動(DDC)の終端に位置決めされる際、ポールシュー3が、ポールシュー3をその終端位置に安定して保持するのに十分な横断方向力、又は牽引を受けるように、トラック50と相互作用するポールシュー3の横断方向位置を(僅かな横断方向変移によって)調整する。共振器20が停止部材30の傾斜をトリガする瞬間、磁力又は静電気力が上記傾斜後に停止部材30を駆動するために発生する前に、停止部材30は上記牽引に打ち勝つ必要があり、従って蓄積されたエネルギを共振器20に伝達する必要がある。図26、27の具体的実施形態に関して、2mmの横断方向変移によって得られる牽引効果を図28に示す。
【0128】
本発明の脱進機機構において、共振器20、特にテンプ2が、停止部材30に初期インパルスを与えることが理解される。しかしながら、牽引が克服されるとすぐに、磁気又は静電気由来の力が発生して、横断方向においてポールシュー3をその新規の位置に移動させる役割を果たす。
【0129】
有利には、所定の半径に沿ってランプ45の中心に対して離間して配置された(ここではより大きな位置決め半径上に配置された)少なくとも1つの磁石48は、バリア46の直前において牽引効果を増強する。ランプ45及びバリア46の効果は第1の実施形態のものと同様であり、相対分布は図2と同様である。
【0130】
図5は、ガンギ車セット40の磁石49に対する、アンクルフォーク上の磁石31、32の構成の詳細図を示す。
【0131】
図26は、磁性が増大する複数の磁石の2つの同心円状の列を含む以外は図4と同様の実施形態を示し、内側トラック43INT上の磁石は上向きの極性を有し、外側トラック43EXT上の磁石は下向きの極性を有する。ポールシュー3は対向する構成を有する。即ち、上側の内側ポールシュー3SINTは下向きの極性を有し、上側の外側ポールシュー3SEXTは上向きの極性を有し、下側の内側ポールシュー3IINTは下向きの極性を有し、下側の外側ポールシュー3IEXTは上向きの極性を有する。図27は、この実施形態に対応する横断方向断面における力線の配向の概略図を示し、ここで上記力線は、磁石内においてホイール40の平面PPに対して略垂直であり、また各空隙5内においてこの平面に対して略平行である。図28に見られる、結果として得られるポテンシャルは、交互になったランプ及びバリアである。
【0132】
この第2の実施形態では、アンクルフォーク30は傾斜する。好ましくは、ある所定の瞬間において、最も多くて1つのポールシュー3A又は3Bが、ガンギ車セット40の磁石49の表面4に対面する。
【0133】
図6は、磁気による実施例において、空隙5内の場の集中を増強する方法を示し:
‐Aでは、対向する極性の磁石が空隙5の各側に互い違いに配置され、空隙5は互いに対向する極性にのみ曝露される;
‐Bでは、少なくとも1つの磁石、ここでは上側磁石の効率が、その場に対して横断方向DTに配置された少なくとも1つの磁石によって増強される;
‐Cでは、(図5にも示したような)ある磁石の両側の2つの空隙が、上述の例Bによる磁石の2つの組立体によってその境界を定められる;
‐Dでは、強磁性の又は帯磁した連結用バーを通して場が移動し、上記連結用バーは横断方向磁石を、帯磁タイプの変形例では上記磁石の磁性方向に沿って連接する。
【0134】
この純粋に磁気による実施例では、停止部材30(特にアンクルフォーク)とガンギ車セット40(特にガンギ車)との間の磁気相互作用を生成するために、複数の様式が考えられる。図7〜10に、4つの可能な非限定的な構成を提示している。図9、10の構成は、磁力線をより良好に閉じ込めることができるという利点を有し、これは外部磁場に対する系の感受性を低減するにあたって重要である。
【0135】
図7によると、ガンギ車上に配設された可変厚さ又は強度の帯磁構造は、アンクルフォークと一体の磁気回路が生成する磁場と相互作用する。この相互作用は反発であっても牽引であってもよい。
【0136】
図8では、可変厚さの(又は空隙が可変である)強磁性構造は、アンクルフォークと一体の磁気回路が生成する磁場と相互作用する。
【0137】
図9は、ガンギ車の2つの側部上に配設された、可変厚さ又は強度の2つの帯磁構造を示し、上記帯磁構造は、アンクルフォークと一体の磁石、又はアンクルフォークと一体の磁場源を有しない磁気回路が生成する磁場と相互作用する。この相互作用は反発であっても牽引であってもよい。
【0138】
図10は、ガンギ車の2つの側部上の可変厚さの(又は空隙が可変である)2つの強磁性構造を示し、これらは、磁石、又はアンクルフォークと一体の磁場源を有する磁気回路が生成する磁場と相互作用する。
【0139】
ポールシュー3の、又は停止部材が複数のポールシュー3を含む場合は複数のポールシュー3の反対側では、停止部材30、特にアンクルフォークは、共振器20(特にゼンマイ‐テンプ2)と協働する手段を含み、これは共振器と相互作用して、ポールシュー3の横断方向運動をトリガする。これらの協働手段は、テンプの振り石と協働するアンクルフォーク等の機械的接触を、公知の様式で使用してよい。本発明が提案する停止部材‐ガンギ車セットの協働を、共振器と停止部材との間の協働に当てはめることも考えられ、これにより、摩擦を更に最小化する目的で、磁気又は静電気由来の力をこのような協働に使用できるようになる。振り石の省略の更なる利点は、例えば螺線形のトラックとの、360°超の角度範囲に亘る協働が可能となることである。
【0140】
本発明のある具体的変形例では、ポールシュー3は横断方向に対称である。
【0141】
図4の第2の実施形態に基づくある実施例では、以下の値によって満足な結果が得られる:
‐ガンギ車の慣性:2*10-5kg*m2
‐駆動トルク:1*10-2Nm
‐テンプの慣性:2*10-4kg*m2
‐ヒゲゼンマイの弾性定数:7*10-4Nm
‐共振器の周波数:0.3Hz
‐共振器の品質係数:20
‐エネルギランプの高さ:2*10-3ジュール
‐エネルギバリアの高さ:8*10-3ジュール
‐磁石:
‐アンクルフォーク上のポールシューは、5mm×5mm×2.5mmの寸法を有する4つの矩形NdFeB(ネオジム‐鉄‐ホウ素)磁石で形成され;
‐トラックは、ランプ及びバリアによって以下のように形成される:場のランプは、直径1.5mm、高さ0〜4mmの円筒形NdFeB磁石によって生成され、各バリアは、直径2mm、高さ4mmの4つの円筒形NdFeB磁石で形成される。
【0142】
図29〜34は、本発明による自然脱進機機構を示す。
【0143】
以下に示すように、この時計用脱進機機構10は、共振器20と、第1のガンギ車セット40A及び第2のガンギ車セット40Bとの間に、停止部材30を備え、第1のガンギ車セット40A及び第2のガンギ車セット40Bはそれぞれあるトルクを受ける。より具体的には、これらのガンギ車セット40A、40Bはそれぞれ独自の歯車列を有する。
【0144】
本明細書では本発明を、略同一平面上の2つのガンギ車セット40のみを有する、サイズに関して有利な特定のケースにおいて説明する。しかしながら本発明は、特に複数の平行な高さに亘って分布し、かつ共振器と協働する単一の停止部材の同数の高さと協働する、より多数のガンギ車セットにも適用できる。停止部材30とガンギ車セットとの間の相互作用は必ずしも平面上でなくてよいため、本発明は3次元アーキテクチャも可能とする。
【0145】
本発明によると好ましくは、各ガンギ車セット40A、40Bは、少なくとも1つの帯磁若しくは強磁性又は帯電若しくは静電気伝導性トラック50を含み、上記トラック50は、その磁気特性又は静電気特性が反復する移動区間PDを有する。
【0146】
停止部材30は、少なくとも1つの帯磁若しくは強磁性又は帯電若しくは静電気伝導性ポールシュー3を含み、上記ポールシュー3は、停止部材30が対面するトラック50の表面4の少なくとも1つの要素の移動方向DDに対して横断方向DTに可動である。少なくとも1つのポールシュー3若しくはトラック50又はこれら両方は、上記少なくとも1つのポールシュー3と上記少なくとも1つの表面との間の空隙5内に磁場又は静電場を生成する。
【0147】
ポールシュー3は、停止部材30の各横断方向運動の直前に、トラック50の磁場又は静電場バリア46と向かい合い、この横断方向運動は、共振器20の周期的作用によって作動される。
【0148】
第1のガンギ車セット40Aは第1のトルクを受け、第2のガンギ車セット40Bは第2のトルクを受け、これらはそれぞれ、停止部材30と交互に協働できるよう配設される。第1のホイールセット40A及び第2のホイールセットセット40Bは、直接的な動力学的接続によって互いに接続される。好ましくは、第1のガンギ車セット40A及び第2のガンギ車セット40Bは、互いに対して平行な別個の軸D1、D2の周りで枢動する。
【0149】
全ての図に示される上述の具体的構成は、この自然脱進機機構に適用可能である。図面を読みやすくするために、上記自然脱進機機構の一般的なアーキテクチャのみを図示する。
【0150】
ある有利な変形例では、脱進機機構10は、第1のガンギ車セット40Aと第2のガンギ車セット40Bとの間の直接的な動力学的接続の遊びを補償するための手段を含み、これによって動作時の遊びを最小化する。
【0151】
ある特定の実施形態では、脱進機機構10はムーブメント100に組み込まれ、ムーブメント100は、第1のトルクを第1のホイールセット40Aに印加するための手段及び第2のトルクを第2のホイールセット40Bに印加するための手段を含む。特に、第1のトルクは第2のトルクと等しい。
【0152】
好ましくは、図29、30に示すように、第1のガンギ車セット40A及び第2のガンギ車セット40Bは、それぞれの上記軸D1、D2の周りで、対向する枢動方向に、同期した運動で枢動する。
【0153】
組み立てを容易にした有利な実施形態では、第1のガンギ車セット40A及び第2のガンギ車セット40Bは互いから離間し、停止部材30は、互いから離間した2つのポールシュー3を含み、第1のポールシュー3Aは第1のガンギ車セット40Aと協働するよう配設され、第2のポールシュー3Bは第2のガンギ車セット40Bと協働するよう配設される。
【0154】
好ましくは、脱進機機構10は、全ての瞬間において、停止部材30の少なくとも1つのポールシュー3が、ガンギ車セット40A、40Bのうちの一方の少なくとも1つの表面4と相互作用するよう配設される。
【0155】
好ましくは、第1のガンギ車セット40A及び第2のガンギ車セット40Bが備えるバリア46は、第1のガンギ車セット40A及び第2のガンギ車セット40B内に等間隔に均一に分布しており、第1のガンギ車セット40Aと第2のガンギ車セット40Bとの間で1/2ステップだけ変移している。
【0156】
上述のように、好ましくは、ガンギ車セット40A、40Bのうちの少なくとも一方又は両方において、各トラック50は、各バリア46の前に、磁場又は静電場を有するポールシュー3と、ランプ底部451からバリア46の近傍に位置するランプ頂部452に向かって増大しながら相互作用する、曲線状ランプ方向DRに延在するランプ45を含み、上記磁場又は静電場の強度は増大するポテンシャルエネルギを生成するように変化し、このランプ45は、関連するガンギ車セット40A、40Bからエネルギを得る。
【0157】
好ましくは、ガンギ車セット40A、40Bは、2つの連続するランプ45の間に、共振器20の周期的作用下で停止部材30が傾斜する前にガンギ車セット40A、40Bの一時停止をトリガするための、磁場又は静電場ポテンシャルバリア46を含む。
【0158】
ある特定の変形例では、少なくとも1つのガンギ車セット40A、40B(又はより詳細にはこれら両方)は、各ランプ45の終端かつ各バリア46の直前に、表面4が帯磁若しくは帯電している場合は磁場若しくは静電場の分布の径方向変動、又は表面4が強磁性若しくは静電気伝導性である場合は外形の変動を含み、これにより、ポールシュー3に対する牽引を引き起こし、これは、傾斜がトリガされる前に停止部材30をその安定位置のうちの1つに維持する効果を有する。
【0159】
特に、共振器20は、振り石等のピンを備え、これは停止部材30が備えるフォーク又はアクチュエータと協働して、ロックの解除(上記牽引のキャンセル)と、それに続いて、第1のガンギ車セット40Aの軸D1及び第2のガンギ車セット40Bの軸D2が同一平面上である場合にこれらの軸D1、D2によって画定される平面に対して接線方向の、停止部材30のポールシュー3の傾斜とを引き起こすよう配設される。
【0160】
特に、上述のような傾斜中、停止部材30のポールシュー3は、第1のランプ45の高いランプ高さ452から、上記第1のランプに隣接する第2のランプ45の低いランプ高さ451へと移動され、これによってポールシュー3は、磁気又は静電気由来の推力を受ける。
【0161】
特に、停止部材30のポールシュー3は、第1のガンギ車セット40A及び第2のガンギ車セット40Bにおいて、互いに同一の磁気又は静電気的特徴を有する2つの対称な表面間で、上記2つの対称な表面から等距離において可動である。
【0162】
特に、少なくとも1つのガンギ車セット40A、40B又はこれら両方は、同一のトラック50の、又は移動方向DDにおいて隣接する2つのトラック50の2つの連続するランプ45の間に、共振器20の周期的作用下で停止部材30が傾斜する前に、関連するガンギ車セット40A、40Bの一時停止をトリガするための、磁場又は静電場ポテンシャルバリア46を含む。
【0163】
好ましくは、各ポテンシャルバリア46のポテンシャル勾配は、各ランプ45よりも急峻である。
【0164】
特に、脱進機機構10は、区間PDの各半区間中に上記少なくとも1つのガンギ車セット40A、40Bから受承したポテンシャルエネルギを蓄積し、このエネルギを、共振器20の周期的作用によって作動される停止部材30の横断方向運動中の、上記半区間と半区間との間に、共振器20に戻し、ここでポールシュー3は、ガンギ車セット40A、40Bに関して相対的に横断方向の第1の半移動PDCから、ガンギ車セット40A、40Bに関して相対的に横断方向の第2の半移動DDCへ、又はその逆へと変化する。
【0165】
特に、ポールシュー3と、ポールシュー3及びトラック50の相対移動の少なくとも一部に亘ってポールシューに対面する表面4を備えるトラック50とによって形成される、2つの対向する構成部品はそれぞれ、アクティブな磁気又は静電気手段を含み、これらは、ポールシュー3とポールシュー3に対向する表面4との間の空隙5内のこれらの境界において、軸方向DAに対して略平行な方向の磁場又は静電場を生成するよう配設される。
【0166】
特に、停止部材30は実在の又は仮想的なホゾ35の周りで枢動し、また、ガンギ車セット40A、40Bの異なる直径上に位置する複数の上記表面4が備える複数の一次領域44と協働するよう配設された、単一のポールシュー3を含み、ポールシュー3は上記ガンギ車セット40A、40Bと、ガンギ車セット40A、40Bの回転中に可変様式で相互作用する。これらの一次領域44は、ガンギ車セット40A、40Bの周縁部上に交互に配設され、これにより、ポールシュー3の横断方向TTに対して略平行な横断方向DTと、トラック50の移動方向DFとの両方に対して垂直な軸方向DAに対する径方向運動に、ポールシュー3を制限する。
【0167】
ある変形例では、停止部材30は実在の又は仮想的なホゾ35の周りで枢動し、また、ガンギ車セット40A、40Bのある領域上に位置する表面4のうちの少なくとも1つが備える複数の一次領域44とそれぞれ協働するよう配設された、複数のポールシュー3を含み、各ポールシュー3は上記ガンギ車セット40A、40Bと、ガンギ車セット40A、40Bの回転中に可変様式で相互作用する。これらの一次領域44は、ガンギ車セット40A、40Bの周縁部上に交互に配設され、これにより、ポールシュー3の横断方向TTに対して略平行な横断方向DTと、トラック50の移動方向DFとの両方に対して垂直な軸方向DAに対する径方向運動に、ポールシュー3を制限する。
【0168】
特定の変形例では、2つのガンギ車セット40A、40Bは異なる性質を有し、これらと停止部材30との相互作用は性質が異なる。また、ガンギ車セットのうちの一方と磁気又は静電気的に相互作用し、他方とは従来のように機械的に相互作用する、ハイブリッドタイプの脱進機機構を製造することも想定できる。
【0169】
特に、少なくとも1つのガンギ車セット40A、40Bは、ガンギ車400である。
【0170】
特に、停止部材30はアンクルフォークである。
【0171】
図31〜34は、磁気による変形例における動力学を概略的に示す:
図31では、左側のガンギ車セット40Bはポテンシャルバリアに当接するまで回転し、アンクルフォークが形成する停止部材30のポールシュー3は、ポテンシャルランプの頂部にある;
図32では、停止部材30は傾斜し、ここではゼンマイ‐テンプである共振器20によってロックの解除が引き起こされるが、その後、磁気エネルギによってアンクルフォークが押される;
図33では、右側のガンギ車セット40Aはポテンシャルバリアに当接するまで回転し、アンクルフォークのポールシュー3は、ポテンシャルランプの頂部にある;
図34では、停止部材30は反対方向に傾斜し、共振器20によってロックの解除が引き起こされるが、その後、磁気エネルギによってアンクルフォークが押される。
【0172】
本発明はまた、このタイプの少なくとも1つの脱進機機構10を含む時計ムーブメント100にも関する。
【0173】
本発明はまた、少なくとも1つの上述のようなムーブメント100を含む、及び/又は少なくとも1つの上述のような脱進機機構10を含む、時計200にも関する。
【0174】
要約すると、交互になったランプ及びバリアからなる磁気又は静電気的相互作用ポテンシャルは、従来のスイスレバー脱進機に可能な限り近い挙動を提供する。ポテンシャル勾配を最適化することにより、脱進機の効率を上昇させることができる。
【0175】
従って、機械的接触力を、本発明による磁気又は静電気由来の非接触力に置換することにより:
‐摩擦を排除することによって摩耗を低減し、従って動作寿命を増大させること;
‐ガンギ車の効率を上昇させることによって、パワーリザーブを増大させること;
‐駆動トルクと、共振器に伝達されるエネルギとの間に、望ましい特定の依存関係が得られるように、ポテンシャルランプとバリアとの間の遷移を設計すること。特に、有利な様式では、各振動において発振子に伝達されるエネルギの量を、殆ど一定とすることができ、また駆動トルクとは独立させることができること;
‐インパルスの迅速性がガンギ車セットの慣性によって制限されないように、停止部材の傾斜をガンギ車セットの運動から切り離すこと
が可能となるため、複数の利点が得られる。
図1
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図6B
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【国際調査報告】