(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-538263(P2016-538263A)
(43)【公表日】2016年12月8日
(54)【発明の名称】フェノール性アルコールを調製するためのアルカンスルホン酸の使用
(51)【国際特許分類】
C07C 27/00 20060101AFI20161111BHJP
C07C 37/08 20060101ALI20161111BHJP
C07C 39/04 20060101ALI20161111BHJP
C07C 49/08 20060101ALI20161111BHJP
C07C 45/53 20060101ALI20161111BHJP
【FI】
C07C27/00 310
C07C37/08
C07C39/04
C07C49/08 A
C07C45/53
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-525582(P2016-525582)
(86)(22)【出願日】2014年10月21日
(85)【翻訳文提出日】2016年6月8日
(86)【国際出願番号】FR2014052674
(87)【国際公開番号】WO2015059401
(87)【国際公開日】20150430
(31)【優先権主張番号】1360268
(32)【優先日】2013年10月22日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラフィット,ジャン−アレックス
(72)【発明者】
【氏名】モンギヨン,ベルナール
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC42
4H006FC52
4H006FE10
(57)【要約】
フェノール性アルコールの調製のためのアルカンスルホン酸の使用。本発明はアリールヒドロペルオキシドを分解させることによるフェノール性アルコールの調製のための、少なくとも1つのアルカンスルホン酸の使用、および以下の連続する工程:−少なくとも1つのアルカンスルホン酸の存在下でアリールヒドロペルオキシドを反応させる工程、−反応媒体を中和させる工程、ケトンまたはアルデヒドを分離する工程、蒸留によりフェノール性アルコールを分離する工程、を含むフェノール性アルコールの調製方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アリールヒドロペルオキシドの分解によるフェノール性アルコールおよびケトンまたはアルデヒドの調製のための、少なくとも1つのアルカンスルホン酸の使用。
【請求項2】
アリールヒドロペルオキシドが、以下の構造(I)
【化1】
[式中、
基R
1および基R
2は、互いに独立して、水素原子、C
1からC
18、好ましくはC
1からC
10、より好ましくはC
1からC
6の、直鎖もしくは分岐のアルキル基、またはC
6からC
14、好ましくはC
6からC
10のアリール基、典型的にはフェニルおよびナフチルを表し、
基R
3から基R
7は、互いに独立して、水素原子、C
1からC
18、好ましくはC
1からC
10、より好ましくはC
1からC
6の、直鎖もしくは分岐のアルキル基、ハロゲン原子、特にフッ素、塩素、臭素およびヨウ素、−NO
2基、−CN基、1つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキル基、C
6からC
12のアリール基を表し、
2つの隣接する基R
3から基R
7は一緒になって1つ以上の脂肪族環または芳香族環を形成してもよい。]
を有することを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
基R1および基R2が、水素原子を表さないことを特徴とする請求項2に記載の使用。
【請求項4】
アリールヒドロペルオキシドが、クミルヒドロペルオキシドであることを特徴とする請求項2または3に記載の使用。
【請求項5】
アルカンスルホン酸が、以下の一般式(II)
(II) R−SO3H、
[式中、基Rは、1から6個、好ましくは1から4個の炭素原子を含む、飽和または不飽和の、直鎖または分岐の炭化水素系の鎖を表す。]
に対応することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
アルカンスルホン酸が、メタンスルホン酸(CH3SO3H)であることを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項7】
アルカンスルホン酸が、無水形態であるか、または5重量%から90重量%、特には10重量%から80重量%、より具体的には15重量%から75重量%のスルホン酸を含み、100%までの残部は水から構成される水溶液形態であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
以下の連続する工程:
− 少なくとも1つのアルカンスルホン酸の存在下で、アリールヒドロペルオキシドを反応させる工程、
− 反応媒体を中和する工程、
− ケトンまたはアルデヒドを蒸留により分離する工程、
− フェノール性アルコールを蒸留により分離する工程
を含むフェノール性アルコールの調製方法。
【請求項9】
アリールヒドロペルオキシドが、クミルヒドロペルオキシドである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
アルカンスルホン酸が、メタンスルホン酸である請求項8または9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール性アルコールを調製するためのアルカンスルホン酸の使用に関する。また、本発明は、アリールヒドロペルオキシドの分解によるフェノール性アルコールの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノールおよびアセトンへのクメンヒドロペルオキシドの分解反応が長年にわたって知られている。この反応は次のスキームに対応する。
【0003】
【化1】
【0004】
1956年の日付のUS2757209号およびUS2737527号がこの合成方法を開示する。一般には、クメンヒドロペルオキシド、またはクメンのヒドロペルオキシド化反応の粗生成物は、40から100℃の間の温度で酸性触媒と反応する。次いで、反応媒体は冷却され、その後塩基で中和される。次いで、媒体は蒸留され、第一の蒸留塔でまずアセトンを分離し、次いで第2の蒸留塔でより重いフェノールを分離し、これらは所望の生成物である。使用される酸は一般に強酸であり、一般に濃縮水溶液の形態である。通常使用される強酸は、硫酸、塩酸またはリン酸であり、これらは、水性塩基で反応媒体を中和した後、それぞれ硫酸塩、塩化物またはリン酸塩を生じる。
【0005】
これらの酸の各々は、腐食、あるいは環境に有害な廃液の発生の面で言及すべき欠点を有しており、これらの欠点のいくつかを有している。
【0006】
さらに、これらの塩(硫酸塩、塩化物およびリン酸塩)の存在は、実際に、フェノールの精製の間、最も具体的にはその後の蒸留の間、いくつかの理由で非常に面倒なものであることが判明する。具体的には、硫酸塩、塩化物およびリン酸塩は、アセトン/フェノール/水またはフェノール/水の混合物に難溶性であることが観察された。この観察された低い溶解度は許容可能な収率および純度条件の下での蒸留の実行および精製されたフェノールの回収に対し有害であり得る。
【0007】
工業的な蒸留設備の流れの中の不溶性化合物の存在は、これらの不溶性化合物が、特に蒸留塔自体内に流れの混乱を引き起こし得、このため圧力損失または目詰まり、堆積等の危険性さえもたらし得るという点で非常に有害である。さらに、あらゆる圧力損失はより多くのエネルギーの消費を必要とし、特に高温での作業を必要とし、その結果は生成物の劣化および分解であり、そのため精製されたフェノールの品質の損失および全体的な蒸留収率の損失をもたらす。
【0008】
この方法の改良が従来技術で提案された。
【0009】
トリクロロメタンスルホン酸を使用することにより、使用される酸の量が低減し、反応温度が低下し、および高収率に繋がることがGB803480号に記載されている。
【0010】
より最近では、反応媒体を中和する有機塩基の使用がUS6201157号に記載されている。
【0011】
US2003/0088129号は、二つの異なる温度段階を含む二段階法を記載する。
【0012】
また、モンモリロナイト、陽イオン交換樹脂、アルミナ−シリカ系触媒のような固体酸性触媒を使用することは、特開2007−099746号においても想定された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第2757209号明細書
【特許文献2】米国特許第2737527号明細書
【特許文献3】英国特許出願公開第803480号明細書
【特許文献4】米国特許第6201157号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2003/0088129号明細書
【特許文献6】特開2007−099746号公報
【発明の概要】
【発明の効果】
【0014】
本発明者らは、1つ以上のアルカンスルホン酸の使用により、フェノールの調製方法における著しい改善がもたらされることを見出した。
【0015】
まず、硫酸と比較して、アルカンスルホン酸は脱水性ではない。具体的には、フェノールの合成の場合には、例えば、メシチルオキシドのような、特にアセトンの副生成物の含有量が少ないことが観察された。その結果、選択率および収率の増加が観察された。
【0016】
さらに、反応媒体の中和により、蒸留の実行前に、一般に濾過によって除去される必要がある硫酸ナトリウムまたは硫酸カリウムのような不溶性塩の形成がもたらされる。アルカンスルホン酸の使用は、反応媒体により可溶性である有機塩の形成をもたらすという利点を有する。その結果、濾過工程が不要となる。さらに、塩の存在による目詰まりの危険性が回避される。結果的に、工業面で、アルカンスルホン酸の使用は、方法を簡略化することにより、生産性の増加を可能にする。
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
このように、本発明の第1の目的は、アリールヒドロペルオキシドの分解によってフェノール性アルコールを調製するために少なくとも1つのアルカンスルホン酸を使用することであり、好ましくは、アリールヒドロペルオキシドの分解によってフェノール性アルコールおよびケトンまたはアルデヒドを調製するために少なくとも1つのアルカンスルホン酸を使用することである。
【0018】
別の目的は、少なくとも一つのアルカンスルホン酸の存在下でアリールヒドロペルオキシドの分解工程を含む、フェノール性アルコールを調製するための改良された方法を提供することである。
【0019】
他の目的は、以下の本発明の説明により明らかにされる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
また、「aからbの間」なる表現によって示される値のあらゆる範囲はaを超え、b未満に広がる値の範囲を表し(即ち、限界値aおよびbを除外し)、「aからb」なる表現によって示される値のあらゆる範囲はaからbに広がる値の範囲を意味する(即ち、限界値aおよびbを含む)。
【0021】
使用
本発明は、アリールヒドロペルオキシドの分解によってフェノール性アルコールを調製するための少なくとも1つのアルカンスルホン酸の使用に関する。
【0022】
アリールヒドロペルオキシド
本発明の目的に対し、用語「アリールヒドロペルオキシド」は、芳香族基を有する化合物であって、芳香族環に対しα位に位置する炭素原子がそのヒドロペルオキシド官能基を有する化合物を意味する。
【0023】
用語「芳香族」は6から14個の炭素原子、好ましくは6から10個の炭素原子(限界値を含む)を含む芳香族環、典型的にはフェニルおよびナフチルを指す。
【0024】
本発明に係るアリールヒドロペルオキシドは、好ましくは、以下の一般式(または構造)(I)を有する。
【0025】
【化2】
式中、
基R
1および基R
2は、互いに独立して、水素原子、C
1からC
18、好ましくはC
1からC
10、より好ましくはC
1からC
6の、直鎖もしくは分岐のアルキル基、またはC
6からC
14、好ましくはC
6からC
10のアリール基、典型的にはフェニル、ナフチルを表し、
基R
3から基R
7は、互いに独立して、水素原子、C
1からC
18、好ましくはC
1からC
10、より好ましくはC
1からC
6の、直鎖もしくは分岐のアルキル基、ハロゲン原子、特にフッ素、塩素、臭素およびヨウ素、−NO
2基、−CN基、1つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキル基、C
6からC
12のアリール基を表し、
2つの隣接する基R
3から基R
7は一緒になって1つ以上の脂肪族環または芳香族環を形成してもよい。
【0026】
例えば、R
3およびR
4は、一緒になって、次にナフタレンヒドロペルオキシドに至る6個の炭素原子を有する芳香族環を形成してもよい。R
3およびR
4は、一緒になって、アントラセンヒドロペルオキシドに至る12個の炭素原子を含む芳香族2環を形成してもよい。
【0027】
好ましくは、基R
1および基R
2は、水素原子、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチルおよびtert−ブチルから選択される。
【0028】
好ましくは、基R
3から基R
7は、水素原子、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、塩素原子、フッ素原子、臭素原子およびフェニル基から選択される。
【0029】
好ましい実施形態によれば、式(I)の化合物中の基R
1は水素原子を表さない。
【0030】
別の好ましい実施形態によれば、式(I)の化合物中の基R
2は水素を表さない。
【0031】
さらに別の好ましい実施形態によれば、式(I)の化合物中の基R
1および基R
2は水素を表さない。
【0032】
好ましくは、アリールヒドロペルオキシドは、クミルヒドロペルオキシド、ブチルベンゼンヒドロペルオキシド、エチルイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、(プロピル)ナフタレンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、sec−ブチルベンゼンヒドロペルオキシド、パラ−エチル−イソプロピルベンゼンヒドロペルオキシドおよびα−イソプロピルナフタレンヒドロペルオキシドから選択され、好ましくはクミルヒドロペルオキシドである。
【0033】
その結果、酸性媒体中での式(I)のこのアリールヒドロペルオキシドの分解により、基R
1および基R
2の性質に依存して、次の反応スキームに従ってフェノール性アルコールおよびケトンまたはアルデヒドの形成をもたらすことが可能になる。
【0034】
【化3】
基R
1から基R
7は上記のものと同一である。
【0035】
従って、本発明の目的に対し、用語「フェノール性アルコール」はフェノールおよび置換基R
3から置換基R
7を有するフェノール類を意味する。
【0036】
構造R
2C(=O)R
1の化合物は、以下の文章では副産物と呼ばれる。それは、R
1および/またはR
2が水素原子を表すか否かによってケトンまたはアルデヒドであることができる。
【0037】
好ましくは、クミルヒドロペルオキシドが使用される。酸性媒体中でのその分解によりフェノールおよびアセトンの形成をもたらすことが可能になる。
【0038】
アルカンスルホン酸
アリールヒドロペルオキシドのフェノール性アルコールへの分解は、通常酸性媒体中で行われ、または少なくとも、酸(複数可)の存在下で、優先的には少なくとも1つのアルカンスルホン酸の水溶液の存在下で行われる。
【0039】
本発明では、用語「アルカンスルホン酸」は、以下の一般式(II)の酸を意味する。
(II) R−SO
3H、
式中、基Rは、1から6個、好ましくは1から4個の炭素原子を含む、飽和または不飽和の直鎖または分岐の炭化水素系の鎖を表す。
【0040】
Rが、1から6個、好ましくは1から4個の炭素原子を含む、飽和の直鎖または分岐の炭化水素系の鎖を表す式(II)の化合物が好ましい。
【0041】
本発明の文脈において使用され得るアルカンスルホン酸は、最も特に好ましくは、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、n−プロパンスルホン酸、イソプロパンスルホン酸、n−ブタンスルホン酸、イソブタンスルホン酸、sec−ブタンスルホン酸、tert−ブタンスルホン酸および全ての割合のその2種以上の混合物から選択される。アルカンスルホン酸のpKa値は全てゼロよりも小さい。
【0042】
最も特に好ましい実施形態によれば、本発明の文脈において使用されるアルカンスルホン酸は、メタンスルホン酸またはエタンスルホン酸であり、最も好ましくは、用いられる酸は式CH
3SO
3Hのメタンスルホン酸である。
【0043】
少なくとも1つのアルカンスルホン酸を含む任意の種類の配合物が使用に適し得る。無水形態で、または水溶液形態で少なくとも1つのアルカンスルホン酸を使用することができる。一般に、配合物は、1重量%から100重量%、優先的には1重量%から99重量%、より優先的には1重量%から95重量%、一般には5重量%から95重量%、より一般的には5重量%から90重量%、特には10重量%から80重量%、より具体的には15重量%から75重量%のアルカンスルホン酸(複数可)を含み、100重量%までの残部は一般に水から構成される。配合物が100重量%のアルカンスルホン酸を含む場合には、これは純粋なアルカンスルホン酸(複数可)が使用され、より正確には他の配合物成分を添加することなく、単独で使用されることを意味することは言うまでもない。
【0044】
配合物は、当業者に周知であり、非限定的な例として、溶媒、ヒドロトロープもしくは可溶化剤、殺生物剤、殺菌剤、レオロジー剤、防腐剤、界面活性剤、有機酸もしくは鉱酸(例えば、硫酸、リン酸、硝酸、スルファミン酸、酢酸、クエン酸、ギ酸、アクチック(actique)酸、グリコール酸、シュウ酸等)、発泡剤、消泡剤、凍結防止剤(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等)、着色剤、香料、腐食防止剤、UV安定剤、または当業者に既知の他の添加剤から単独または任意の割合のそれらの2種以上の混合物として選択される1つ以上の添加剤の存在を場合により含む。
【0045】
配合物は、例えば、最終ユーザーによって希釈される濃縮された混合物の形態で調製され得る水性配合物である。変形例として、配合物は即時使用配合物とすることができ、即ち、それを希釈する必要はない。例えば、アルケマ社から販売されている水溶液としてのメタンスルホン酸、例えば、メタンスルホン酸の70重量%水溶液、またはAMSAと略されている無水メタンスルホン酸が使用できる。
【0046】
好ましい実施形態によれば、本発明は、例えば、AMSA(無水MSA)から水中で5重量%のMSAのオーダーの濃度の範囲の全ての考えられる濃度のメタンスルホン酸(MSA)、特にアルケマ社によって販売される水中で70重量%のMSAの水溶液の存在下で、クミルヒドロペルオキシドの分解によるフェノールの製造のための使用にも関する。
【0047】
言うまでもなく、全ての割合において1種以上の酸(有機および/または無機)と組み合わされる、上で定義したばかりの、式(II)の少なくとも1つのアルカンスルホン酸の混合物を使用することができる。
【0048】
しかし、アルカンスルホン酸またはアルカンスルホン酸(複数)のみの混合物を使用することが好ましい。
【0049】
方法
本発明は、また、アルカンスルホン酸の存在下でアリールヒドロペルオキシドの分解工程を含む、フェノール性アルコールの調製方法に関する。
【0050】
より具体的には、本発明による方法は以下の工程を含む。
− 少なくとも1つのアルカンスルホン酸の存在下でアリールヒドロペルオキシドを反応させる工程、
− 反応媒体を中和する工程、
− 副産物、即ち、ケトンまたはアルデヒドを蒸留により分離する工程、および
− フェノール性アルコールを蒸留により分離する工程。
【0051】
本発明の方法の試薬は、前出のアリールヒドロペルオキシド、より具体的にはクミルヒドロペルオキシドである。
【0052】
試薬は、純粋なものを使用することができる。また、試薬は、粗製過酸化反応生成物中に存在することもできる。
【0053】
例えば、クミルヒドロペルオキシドの場合には、ヒドロペルオキシド化工程からの粗製反応生成物は、クメン、ジメチルフェニルカルビノール、ジクミル、ジクミルペルオキシドまたはアセトフェノン等のベンゼン誘導体を含むことができる。
【0054】
酸性触媒は、上述の少なくとも1つのアルカンスルホン酸、有利にはメタンスルホン酸を含む。それは純粋なものを使用してもよいし、水溶液として使用することもできる。
【0055】
好ましくは、アルカンスルホン酸(複数可)の含有率は、導入されるアリールペルオキシド(複数可)に対し100ppmから50000ppmの間、より具体的には200から8000ppmの間である。
【0056】
従って、粗製反応混合物に導入されるアルカンスルホン酸(複数可)の量は、存在する試薬、即ち、純粋なアリールヒドロペルオキシドまたは粗製ヒドロペルオキシド化反応生成物に応じて変化し得る。当業者は、酸(複数可)の濃度にも応じて粗製反応混合物に添加するアルカンスルホン酸(複数可)の量を調整する方法を知っている。一実施形態によれば、酸は、アリールヒドロペルオキシドの流れまたは溶媒の流れのいずれかに導入され、この溶媒は一般に希釈剤として添加される。何故ならば反応が非常に発熱性であるからである。この反応は、一般に、通常、液相中で行われる。
【0057】
反応溶媒は、当業者に知られており、この種の反応に適合された任意の有機溶媒または有機溶媒の混合物、特に、1つ以上の極性、プロトン性または非プロトン性、好ましくは極性および非プロトン性の有機溶媒であり、場合により水を含んでもよい(水性有機溶媒)。ケトン、特にアセトン(ジメチルケトン)は、本発明による方法を実施するために最も特に適している。
【0058】
反応温度は、一般に、50℃から150℃の間である。当業者は存在する試薬、触媒の量および媒体中の反応試薬の濃度に応じて反応温度を調整する方法を知っている。
【0059】
同様に、反応時間は上述のパラメータに依存し得る。
【0060】
上述したように、一実施形態によれば、純粋なまたは粗製反応生成物中のアリールヒドロペルオキシドを、場合により、しかし好ましくは溶媒媒体中で、少なくとも1つのアルカンスルホン酸と反応させる。
【0061】
方法は、次に、反応媒体を中和する工程を含む。
【0062】
酸性相の中和は、蒸留されることが意図される媒体の性質に影響がないわけではない。具体的には、この中和工程の間、酸性種は塩の形態で中和される。
【0063】
本発明者らは、驚くべきことに、少なくとも1つのアルカンスルホン酸、特にメタンスルホン酸を使用して予め酸性化された媒体に中和を実施する場合、このように中和され、蒸留が意図されるこの相に存在する様々なアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩はフェノール/ケトン/水またはフェノール/水の混合物に、より可溶性であるのに対し、同じ塩が、他の酸、特にこの分野で通常使用される強い鉱酸、例えば、硫酸、塩酸またはリン酸により酸性化が実施される場合、それほど可溶性でないことを発見した。
【0064】
また、アルカンスルホン酸塩、好ましくはメタンスルホン酸塩の形の上記の塩は、フェノール/ケトン(またはアルデヒド)/水またはフェノール/水の混合物中において(ケトンまたはアルデヒドを蒸留した時点で)硫酸塩、塩化物および他のリン酸塩よりも可溶性であることが判明した。
【0065】
蒸留操作は、蒸留設備、特に蒸留ボイラー(または原料容器)中だけでなく、蒸留塔中に存在する固体不純物に非常に敏感であるので、これは一層特筆すべきである。今や、フェノール/ケトン/水(またはフェノール/水)の濃度勾配および温度が蒸留塔に沿って変化する。
【0066】
少なくとも一つのアルカンスルホン酸による、好ましくはメタンスルホン酸による酸性化により、フェノール/ケトン/水(またはフェノール/水)の混合物中に存在する塩、特に、ナトリウム塩および/またはカリウム塩が、より良好な溶解性を示すという利点がある。
【0067】
このように、通常使用される他の強酸に対するアルカンスルホン酸のこの利点により、特に蒸留塔自体に流れの混乱を引き起こし、結果的に圧力損失、または目詰まり、堆積等の危険性すらもたらす可能性がある固体の堆積物の形成を回避することが可能になる。
【0068】
また、塔底部のフェノールを含む相における、特にボイラーにおけるアルカンスルホン酸塩のより高い溶解度により、より高度な程度まで蒸留操作を継続することが可能になり、このため一層蒸留収率を向上させることができる。フェノール中でのアルカンスルホン酸塩のより良好な溶解度に関連する別の利点は、塔底部での目詰まりの危険性の低減であり、底部ではフェノール/水の混合物のフェノールは最も濃い。従って、蒸留の全体的な収率が大幅に改善される。
【0069】
蒸留される媒体中のアルカンスルホン酸塩のより高い溶解度により、塔の理論段数の大幅な減少、結果として塔の物理的な高さの大幅な減少を構想することが可能であり、同様にフェノール性アルコールの全蒸留に使用されるエネルギーの量を大幅に削減することが可能になる。
【0070】
さらに、フェノール性アルコールを含む粗製反応生成物の少なくとも1つのアルカンスルホン酸による酸性化に関連する別の利点は、固体堆積物が減り、その結果として蒸留設備を洗浄するための停止期間が経時にわたりより間隔をあけられるという事実にある。
【0071】
さらに別の利点は、アルカンスルホン酸塩、より具体的にはメタンスルホン酸塩は水性媒体に非常に可溶性であり、生分解性であることである。従って、設備は、清掃がより容易であり、結果としてずっと少ない容量の水を必要とし、洗浄廃液は環境によりやさしい。
【0072】
この中和は塩基性物質を使用する。好ましくは、使用される塩基は、反応媒体中に存在する種に対して不活性の鉱物種である。より具体的には、塩基は、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物、およびアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の炭酸塩から選択される。これらの塩基は通常、有利には水溶液中で使用される。好ましくは、水酸化ナトリウムが使用される。
【0073】
これは本発明の方法の好ましい変形例を表さないが、不溶性の塩が存在する場合には、濾過工程を考えることができる。これらの不溶性物質は、特に粗製ヒドロペルオキシド化反応生成物に由来することがある。
【0074】
好ましくは、中和溶液から生ずる水相および精製されるべき種を含有する有機相を分離するためにデカンテーション工程が実施される。
【0075】
中和された反応媒体中に存在するフェノール性アルコールは、次いで、残留水および副産物から分離される。この分離は、当業者に公知の任意の方法に従って、好ましくは蒸留により、行うことができる。この蒸留操作の間、副産物がまず留去され、次いで水、最後にフェノール性アルコールが留去される。
【0076】
フェノール性アルコールの蒸留は、170℃のボイラーおよび約150℃でのフェノールの蒸留を用いて、一般には減圧下で、一般には真空下(例えば、280mmHg、即ち、37.33kPa)で行われる。
【0077】
この方法は、それが少なくとも1つのアルカンスルホン酸、より好ましくはメタンスルホン酸を使用することを特徴とする。上で説明したように、この酸の使用により、より腐食性が少なく、生分解性であり、環境にやさしいという利点を有し、また反応媒体中に存在する塩を溶解し、より経済的な条件下でフェノール性アルコールの最終的な蒸留を行うことを可能にするという利点も有する。
【0078】
好ましくは、本発明による方法は以下の工程を含む。
− 少なくとも1つのアルカンスルホン酸,好ましくはメタンスルホン酸の存在下でクミルヒドロペルオキシドを反応させる工程、
− 反応媒体を中和する工程、
− アセトンを蒸留により分離する工程、および
− フェノールを蒸留により分離する工程。
【0079】
以下の実施例は、以下の特許請求の範囲によって定義されるその範囲を限定することなく、本発明を例示する。
【実施例】
【0080】
溶解度の比較
25gの試験溶媒を、コンデンサー、温度計およびマグネチックスターラーを備えた50mL3つ口フラスコに入れる。溶媒を所望の温度にし、次いで媒体の飽和を示す曇りが現れるまでアルカンスルホン酸塩を1回分ずつに分けて添加した。
【0081】
溶解度は次のように計算される:
塩の溶解度(%)=m/(m+M)×100
ここで、m=溶解された塩の質量、M=溶媒の質量
【0082】
結果を以下の表に示す。
【0083】
1.フェノール/アセトン/水(50/50/5)の重量混合物中の塩の溶解度:
最初の測定を大気圧で20℃で実施し、2度目の測定を60℃で実施する。60℃の時点により、アセトンの蒸留の間のボイラー内の種の溶解度を評価することが可能になる。
【0084】
1.1 カリウム塩
【0085】
【表1】
【0086】
この混合物では、20℃および60℃で、メタンスルホン酸カリウムは、硫酸カリウムよりも6.7倍を超えてより可溶性である。
【0087】
1.2 ナトリウム塩
【0088】
【表2】
【0089】
この混合物では、60℃で、メタンスルホン酸ナトリウムは、硫酸ナトリウムよりも2.4倍を超えてより可溶性である。
【0090】
2.フェノール/水(95/5)の重量混合物中の塩の溶解度:
最初の測定を大気圧で55℃で実施し、2度目の測定を100℃で実施する。100℃の時点により、水の蒸留の間のボイラー内の種の溶解度を評価することが可能になる。
【0091】
2.1 カリウム塩
【0092】
【表3】
【0093】
この混合物では、20℃および60℃で、メタンスルホン酸カリウムは、硫酸カリウムよりも、それぞれ15倍および8倍可溶性である。
【0094】
2.2 ナトリウム塩
【0095】
【表4】
【0096】
この混合物では、20℃および60℃で、メタンスルホン酸ナトリウムは、硫酸ナトリウムよりも2倍を超えてより可溶性である。
【手続補正書】
【提出日】2016年6月8日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アリールヒドロペルオキシドの分解によるフェノール性アルコールおよびケトンまたはアルデヒドの調製のための、少なくとも1つのアルカンスルホン酸の使用。
【請求項2】
アリールヒドロペルオキシドが、以下の構造(I)
【化1】
[式中、
基R
1および基R
2は、互いに独立して、水素原子、C
1からC
18の、直鎖もしくは分岐のアルキル基、またはC
6からC
14のアリール
基を表し、
基R
3から基R
7は、互いに独立して、水素原子、C
1からC
18の、直鎖もしくは分岐のアルキル基、ハロゲン原子
、−NO
2基、−CN基、1つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキル基、C
6からC
12のアリール基を表し、
2つの隣接する基R
3から基R
7は一緒になって1つ以上の脂肪族環または芳香族環を形成してもよい。]
を有することを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
基R1および基R2が、水素原子を表さないことを特徴とする請求項2に記載の使用。
【請求項4】
アリールヒドロペルオキシドが、クミルヒドロペルオキシドであることを特徴とする請求項2または3に記載の使用。
【請求項5】
アルカンスルホン酸が、以下の一般式(II)
(II) R−SO3H、
[式中、基Rは、1から6個の炭素原子を含む、飽和または不飽和の、直鎖または分岐の炭化水素系の鎖を表す。]
に対応することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
アルカンスルホン酸が、メタンスルホン酸(CH3SO3H)であることを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項7】
アルカンスルホン酸が、無水形態であるか、または5重量%から90重量%のスルホン酸を含み、100%までの残部は水から構成される水溶液形態であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
以下の連続する工程:
− 少なくとも1つのアルカンスルホン酸の存在下で、アリールヒドロペルオキシドを反応させる工程、
− 反応媒体を中和する工程、
− ケトンまたはアルデヒドを蒸留により分離する工程、
− フェノール性アルコールを蒸留により分離する工程
を含むフェノール性アルコールの調製方法。
【請求項9】
アリールヒドロペルオキシドが、クミルヒドロペルオキシドである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
アルカンスルホン酸が、メタンスルホン酸である請求項8または9に記載の方法。
【国際調査報告】