特表2016-538559(P2016-538559A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2016-538559リポタンパク質の特性評価のための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-538559(P2016-538559A)
(43)【公表日】2016年12月8日
(54)【発明の名称】リポタンパク質の特性評価のための方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/32 20060101AFI20161111BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20161111BHJP
【FI】
   G01N24/02 530M
   G01N24/02 530K
   G01N33/483 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2016-535160(P2016-535160)
(86)(22)【出願日】2014年11月27日
(85)【翻訳文提出日】2016年7月26日
(86)【国際出願番号】EP2014075873
(87)【国際公開番号】WO2015079000
(87)【国際公開日】20150604
(31)【優先権主張番号】13382478.9
(32)【優先日】2013年11月27日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】516156178
【氏名又は名称】インスティトゥト、ディンベスティガシオ、サニタリア、ペレ、ビルヒリ
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT D’INVESTIGACIO SANITARIA PERE VIRGILI
(71)【出願人】
【識別番号】509329615
【氏名又は名称】ウニベルシタト、ロビラ、イ、ビルギリ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITAT ROVIRA I VIRGILI
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100143971
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 宏行
(72)【発明者】
【氏名】ロジャー、マロル、パレラ
(72)【発明者】
【氏名】ヌリア、アミーゴ、グラウ
(72)【発明者】
【氏名】ハビエル、コレイヒ、ブランシャール
(72)【発明者】
【氏名】ルイス、マサナ、マリン
(72)【発明者】
【氏名】ミゲル、アンヘル、ロドリゲス、マルティネス
(72)【発明者】
【氏名】メルセデス、エラス、イバニェス
(72)【発明者】
【氏名】ヌリア、プラナ、ヒル
(72)【発明者】
【氏名】ホセップ、リバルタ、ビベス
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045DA62
2G045FA36
2G045GC23
(57)【要約】
サンプル中のリポタンパク質の特性評価のためのin vitro法であって、サンプルの、拡散に基づく二次元H NMRスペクトルを得る工程と、複数のモデル関数を使用して、メチルシグナルに相当するそのスペクトルの一部の表面フィッティングを行う工程であって、各モデル関数は、リポタンパク質画分およびサブクラスに関連する所定の粒子サイズに対応しかつそのフィッティング中に推定される少なくとも一つのモデルパラメーターを含み、その推定されたモデルパラメーターは、NMRシグナルと、前記モデル関数の一次結合として構築されたモデルシグナルとの間の差が最小化されているモデルパラメーターの集合である、工程とを含み、各モデル関数はローレンツ型関数のトリプレットである、in vitro法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中のリポタンパク質の特性評価のためのin vitro法であって、下記の工程:
・サンプルの、拡散に基づく二次元H NMRスペクトルを得る工程と、
・複数のモデル関数を使用して、メチルシグナルに相当するそのスペクトルの一部の表面フィッティングを行う工程であって、各モデル関数は、リポタンパク質画分およびサブクラスに関連する所定の粒子サイズに対応し、かつそのフィッティング中に推定される少なくとも一つのモデルパラメーターを含み、その推定されたモデルパラメーターは、NMRシグナルと、前記モデル関数の一次結合として構築されたモデルシグナルとの間の差が最小化されているモデルパラメーターの集合である、工程と
を含み、
各モデル関数は、次の形式:
トリプレット=ローレンツ型(h,f−f,w,D)+ローレンツ型(h,f,w,D)+ローレンツ型(h,f+f,w,D)
[式中、h(au)、f(ppm)、w(ppm)およびD(cm−1)は、それぞれ、リポタンパク質粒子サイズに関連する強度、化学シフト、幅、および拡散係数である]
を有するローレンツ型関数のトリプレットであり、かつ
各リポタンパク質粒子サイズについて決定される前記モデルパラメーターは、f、f、h、h、h、wおよびDからの一つまたは複数である、in vitro法。
【請求項2】
サンプル中に存在するリポタンパク質を、フィッティングから得られる理論モデルシグナルに寄与するモデル関数に関連するものであると同定する工程を含む、請求項1に記載のin vitro法。
【請求項3】
各モデル関数について:
【数1】
の場合、h=α・h、かつ
【数2】
の場合、h=β・h
である、請求項1または2に記載のin vitro法。
【請求項4】
ローレンツ型関数のトリプレットが、下記形式を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のin vitro法:
トリプレット=ローレンツ型(h,f−f,w,D)+ローレンツ型(h,f,w,D)+ローレンツ型(h,f+f,w,D)。
【請求項5】
【数3】
および/または
=0.01ppm
である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のin vitro法。
【請求項6】
リポタンパク質粒子サイズが、NMR、HPLC、勾配ゲル電気泳動または原子間力顕微鏡実験に基づいて定義される、請求項1〜5のいずれか一項に記載のin vitro法。
【請求項7】
表面フィッティングが、少なくとも一つのモデルパラメーターを固定し、少なくとも一つの他のモデルパラメーターを、該表面フィッティングで決定される自由パラメーターとして使用して行われる、請求項1〜6のいずれか一項に記載のin vitro法。
【請求項8】
化学シフト、幅および拡散係数の少なくとも一つが固定され、中央のローレンツ型(h)の少なくともシグナル強度が自由パラメーターとして使用される、請求項7に記載のin vitro法。
【請求項9】
固定されるモデルパラメーターが、リポタンパク質粒子サイズと、回帰モデルとに基づいて決定され、各回帰モデルは、モデルパラメーターと該リポタンパク質粒子サイズとを関係付ける、請求項7または8に記載のin vitro法。
【請求項10】
使用される回帰モデルは、複数のモデルローレンツ型関数を使用して複数のNMRスペクトルのメチルシグナルのデコンヴォルーションから得られ、ここで、強度、化学シフト、幅および拡散係数は、NMRメチルシグナルと、モデル関数の一次結合として構築されたモデルシグナルとの間の差を最小化するように推定された自由モデルパラメーターであり、回帰モデルはそれぞれ、少なくとも(i)化学シフトとリポタンパク質粒子サイズ、および/または(ii)幅とリポタンパク質粒子サイズを関係付ける、請求項9に記載のin vitro法。
【請求項11】
モデルパラメーター対を関係付ける回帰モデルが、次の工程:
・複数のサンプルについて、拡散に基づく二次元H NMRスペクトルを得る工程と、
・各サンプルについて、複数のモデル関数を使用して、メチルシグナルに相当するそのスペクトルの一部の表面フィッティングを行う工程であって、各モデル関数は、固定されるモデルパラメーターに依存し、ここで、固定される総てのモデルパラメーターは、NMRシグナルと、前記モデル関数の一次結合として構築されたモデルシグナルとの間の差が最小化されているモデルパラメーターの集合であるとその表面フィッティング中に推定される、工程と、
・モデルパラメーター対を関係付ける回帰モデルを構築するために、前工程で推定されたモデルパラメーターを使用する工程と
によって構築され、
使用されるモデル関数が、好ましくは、次の形式:
トリプレット=ローレンツ型(h1j,f−f0j,w,D)+ローレンツ型(h2j,f,w,D)+ローレンツ型(h3j,f+f0j,w,D
のローレンツ型関数トリプレットである、請求項9に記載のin vitro法。
【請求項12】
回帰モデルを構築するために使用される複数のサンプルは、少なくとも100サンプルを含んでなり、それらのサンプルの少なくとも9%の割合は、真性糖尿病のプロフィールを有する個体に相当し、これらの患者の少なくとも25%はアテローム形成性脂質異常症のプロフィールを有する、請求項9〜11のいずれか一項に記載のin vitro法。
【請求項13】
モデル関数の拡散係数が、アインシュタイン・ストークスの式:
【数4】
[式中、k(J K−1)はボルツマン定数であり、T(K)は温度であり、η(Pa s)は粘度であり、R(Å)はリポタンパク質粒子サイズである]
を用いて、リポタンパク質粒子サイズから推定される、請求項1〜12のいずれか一項に記載のin vitro法。
【請求項14】
サンプルのいくつかの希釈物について得られるNMR面積と拡散係数との間の関係に基づいて、希釈効果を考慮に入れるために推定された拡散係数を補正する工程をさらに含み、ここで、該サンプルの総コレステロールおよびトリグリセリドの濃度の合計が300mg/dLより高い、請求項1〜13のいずれか一項に記載のin vitro法。
【請求項15】
リポタンパク質粒子画分の平均サイズ、リポタンパク質粒子サブクラスの平均サイズ、画分および/またはサブクラスのリポタンパク質粒子濃度、少なくとも一つのリポタンパク質粒子画分の脂質濃度および/または少なくとも一つのリポタンパク質粒子サブクラスの脂質濃度の一つ以上を決定する工程をさらに含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載のin vitro法。
【請求項16】
リポタンパク質粒子画分の平均粒子サイズは、
【数5】
として決定され、nはリポタンパク質粒子画分に含まれるリポタンパク質粒子サブクラスの数であり、R(Å)はリポタンパク質粒子サイズであり、PNは該リポタンパク質粒子サイズの粒子数であり、ここで、リポタンパク質jの粒子数(PN)は、
【数6】
[式中、A(au)は各モデル関数に関連する面積である]
として決定される、請求項15に記載のin vitro法。
【請求項17】
リポタンパク質粒子コア中に含まれる脂質の寄与のみを検討するために、リポタンパク質モデル関数に関連する面積が補正される、請求項1〜16のいずれか一項に記載のin vitro法。
【請求項18】
補正された面積(A’)が下記式を用いて決定される、請求項17に記載のin vitro法:
【数7】
[式中、A(au)およびR(Å)はそれぞれ、各モデル関数に関連する面積およびリポタンパク質粒子サイズであり、s(Å)はリポタンパク質粒子シェル厚であり、およびpはその粒子シェルの総質量に対する粒子シェルのタンパク質質量の比率である]。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の目的
本発明は、リポタンパク質の特性評価のための方法に関し、生物学的医学の分野に適用可能である。
【0002】
従来技術
脂質は、リポタンパク質の形態で血液中に主に存在し、コレステロール、トリグリセリドおよび他の脂質を、血流を通って末梢組織へ輸送する、肝臓および腸で合成された粒子である。血中脂質の異常なレベルは心血管疾患の指標となり得る。心血管系リスクを評価するために、血漿トリグリセリド、総コレステロール、LDLコレステロールおよびHDLコレステロールの濃度を含む標準的な脂質パネルが一般的に使用される。これら総てのパラメーターは、LDLコレステロールを除いて実験的に測定され、LDLコレステロールはフリードワルド(Friedewald)式を用いて推定される。この式の重要な制限は一定の条件の下で不正確であることである。また、リポタンパク質粒子のサイズおよび粒子数も脂質関連疾患の正確な診断に関連している可能性があるため、HDLおよびLDLリポタンパク質画分中のコレステロールの量の測定は、あらゆる場合の心血管系リスクを予測するのに十分なものではない。このように、リポタンパク質粒子は心血管疾患および代謝性疾患において主要な役割を果たしている。
【0003】
リポタンパク質は、それらのサイズおよび密度に応じて5つの主要な画分に分けられる:カイロミクロン(Q;半径400〜2500Å)、超低密度リポタンパク質(VLDL;半径150〜400Å)、中間密度リポタンパク質(IDL;半径125〜175Å)、低密度リポタンパク質(LDL;半径90〜140Å)および高密度リポタンパク質(HDL;半径25〜60Å)。さらに、これらの主要画分は、より詳細なリポタンパク質プロフィールを得るために異なるサブクラスに分けることができる。
【0004】
リポタンパク質粒子の構造は、実質的に球状であり、内側のコアと外側のシェルを備え、ここで、非極性脂質(トリアシルグリセロールおよびコレステリルエステル)はコア内に見られ、一方、極性脂質(リン脂質および遊離コレステロール)は表面単分子層(シェル)全体に分布していることが一般に認められている。リポタンパク質のタンパク質成分(アポリポタンパク質またはアポタンパク質と呼ばれる)は、極性脂質と一緒にシェル上に配置されている。
【0005】
高度リポタンパク質検査(Advanced lipoprotein testing)(ALT)は、リポタンパク質粒子に関する最も詳細な情報を提供することを目的とする。現在使用されている高度リポタンパク質検査のための分析技術の中では以下を挙げることができる:
・異なるリポタンパク質サブクラスについての相対コレステロール分布の測定を可能にする、密度勾配超遠心分離(K.R. Kulkarni et al., Quantification of cholesterol in all lipoprotein classes by the VAP-II method, Journal of Lipid Research 35 (1994) 159-168)。しかしながら、その技術によりトリグリセリドの濃度も、リポタンパク質粒子の数およびサイズも提供されない。
・サイズにより血漿から直接LDLおよびHDLサブクラスを分画することができる、勾配ゲル電気泳動(G.R. Warnick et al., Polyacrylamide gradient gel electrophoresis of lipoprotein subclasses, Clinics in Laboratory Medicine 26 (2006) 803)。この方法は、ゲル品質と実験室条件の小さな変化が精度に影響を与える可能性があるため、特別注文のゲルと、実験室品質管理への厳格な注意が必要である。
・高速液体クロマトグラフィーは、コレステロールおよびトリグリセリドの含有量だけでなく、主要なリポタンパク質およびそれらのサブクラスのサイズも測定する(M. Okazaki et al., Component analysis of HPLC profiles of unique lipoprotein subclass cholesterols for detection of coronary artery disease, Clinical Chemistry 52 (2006) 2049-2053)。
・イオン移動度分析は気相リポタンパク質粒子の電気泳動移動度の違いに依存し、いくつかのリポタンパク質サブクラスのサイズおよび濃度の測定を可能にする(M.P. Caulfield et al., Direct determination of lipoprotein particle sizes and concentrations by ion mobility analysis, Clinical Chemistry 54 (2008) 1307-1316)。
・高度な線形フィッティング技術に基づいてリポタンパク質サブクラスを定量するためのH−NMR分光法(M. Ala-Korpela et al., 1H NMR-based absolute quantification of human lipoproteins and their lipid contents directly from plasma, Journal of Lipid Research (1994) 2292-2304)。しかしながら、前記技術は、予め特徴付けられたスペクトルのライブラリーの使用が必要であり、血漿のスペクトルの分析では広範囲にわたってリポタンパク質シグナルが重複するという欠点がある。
・単離リポタンパク質のメチルピークを使用して、リポタンパク質の拡散係数を計算し、この値からそれらのサイズを推定する、リポタンパク質画分の拡散に基づくNMR分光法(Diffusion-Ordered NMR Spectroscopy)(R. Mallol et al., Particle size measurement of lipoprotein fractions using diffusion ordered NMR spectroscopy, Analytical and Bioanalytical Chemistry 402 (2012) 2407-2415)。しかしながら、この方法は、異なるリポタンパク質画分を得るために、サンプルを超遠心分離する前工程を必要とし、血清または血漿サンプルに直接使用することはできない。
【0006】
異なるリポタンパク質画分およびサブクラスを物理的に分離する分析方法、例えば、超遠心分離などは面倒で時間がかかる。さらに、サンプルは、高度な操作を受け、何日も4℃で保たれる可能性がある。
【0007】
また、ALT法はまだ日常的な臨床使用が可能な状態ではなく、それらの制限の一部は、標準化されておらずアプローチが多様であることである。従って、単一の分析を用い、サンプルの処理または破壊のない、血清または血漿サンプルから直接異なるリポタンパク質画分およびサブクラスの信頼性の高い特性評価を可能にする方法が必要である。これは、食事療法および薬物療法を開発およびモニタリングし、心血管疾患の病態生理学を理解するために有用であろう。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、請求項1に記載の方法を提供することによって上記の問題を克服する。従属請求項は本発明の好ましい実施態様を定義する。
【0009】
現在、LDLおよびHDLコレステロールは、個体の心血管系リスクを評価するために常用される2つの心血管系リスク因子である。しかしながら、心血管イベントを経験する個体は高い割合でLDLコレステロールの正常レベルを有する。糖尿病などの代謝性疾患を有する患者は、より小さく、コレステロール含量がより乏しく、アテローム形成性がより高いLDLリポタンパク質を有する傾向がある。このより小さいサイズは多数の粒子と関係があり、そのため、より大きなアテローム形成性がより低い粒子の濃度がより低いパターンの場合と同様のコレステロール濃度をもたらす。それが、患者の心血管系リスクを評価するために、LDLリポタンパク質粒子の脂質負荷以上に、それらのサイズおよび数を決定することへ関心が寄せられている理由である。さらに、HDL粒子のサイズおよび数がHDLコレステロールよりも優れた心血管系リスクの予測指標であることを示す研究がある。本発明は、サンプル中の異なるリポタンパク質画分およびサブクラスの物理的分離を行わずに、迅速かつ信頼性の高い方法で主要なリポタンパク質画分およびサブクラスの粒子のサイズおよび数を提供して、リポタンパク質粒子の網羅的特性評価を可能にする。
【0010】
本発明による方法は、次の工程:
・サンプルの、拡散に基づく二次元H NMR(2D diffusion-ordered 1H NMR)スペクトルを得る工程と、
・複数のモデル関数を使用して、メチルシグナルに相当するそのスペクトルの一部の表面フィッティングを行う工程であって、各モデル関数は、リポタンパク質画分およびサブクラスに関連する所定の粒子サイズに対応し、かつそのフィッティング中に推定される少なくとも一つのモデルパラメーターを含み、その推定されたモデルパラメーターは、NMRシグナルと、前記モデル関数の一次結合(linear combination)として構築されたモデルシグナルとの間の差が最小化されているモデルパラメーターの集合である、工程と
を含み、
各モデル関数は、次の形式:
トリプレット=ローレンツ型(h1j,f−f0j,w,D)+ローレンツ型(h2j,f,w,D)+ローレンツ型(h3j,f+f0j,w,D
[式中、hij(au)、f(ppm)、w(ppm)およびD(cm−1)は、それぞれ、リポタンパク質粒子サイズjに関連する強度、化学シフト、幅および拡散係数である]
を有するローレンツ型関数のトリプレットである。
【0011】
側方のローレンツ型関数は、化学シフト軸において、中央のローレンツ型関数に対して均等に間隔を置いて配置される、すなわち、f量にある。
【0012】
リポタンパク質粒子サイズについて決定されるモデルパラメーターは、f、f、h、h、h、wおよびDからの一つまたは複数である。
【0013】
有利には、各リポタンパク質粒子サイズに関連するモデル関数としてのローレンツ型のトリプレットの使用により、他の方法と比較した場合、NMRシグナルのより正確なフィッティングがもたらされる。
【0014】
サンプルは、好ましくは、血漿サンプルまたは血清サンプルであるが、脳脊髄液(cerebrospinal fluid)、脳脊髄液(encephalorachidian fluid)または羊水などの他の生体液のサンプルもまた使用し得る。
【0015】
従って、NMRメチルシグナルは複数のモデル関数として分解され、各モデル関数はリポタンパク質粒子サイズに対応する。よって、各モデル関数は、そのリポタンパク質粒子サイズに応じて所定のリポタンパク質画分およびサブクラスと関連している。前記フィッティングに含まれる総てのリポタンパク質粒子サイズが必ずしもサンプル中に存在するとは限らないため、前記フィッティングに含まれる総てのモデル関数が必ずしも構築されたモデルシグナルに寄与しているとは限らない。
【0016】
本発明の方法によれば、サンプル中に存在するリポタンパク質は、関連するリポタンパク質シグナルの強度、化学シフト、幅および拡散係数を決定することにより同定され、特徴付けられる。サンプル中に存在するリポタンパク質のさらなる特性評価のために、モデル関数と、推定されたモデルパラメーターとに基づいて、後続の工程で追加のリポタンパク質パラメーターを決定し得る。
【0017】
好ましくは、各リポタンパク質粒子サイズjに関連するトリプレットのローレンツ型関数は、次の形式
【数1】
[式中、kはボルツマン定数であり、Gは適用される勾配強度(ガウスcm−1
である]
を有する。ローレンツ型の最初の商(quotient)部分は一次元ローレンツ型に相当し、一方、指数部は拡散勾配による減衰影響を含む。ローレンツ型関数のこの好ましい形式は本発明の各実施態様に適用可能である。
【0018】
好ましい実施態様では、本方法は、サンプル中に存在するリポタンパク質を、前記フィッティングから得られる理論モデルシグナルにゼロでない寄与をする前記モデル関数に関連するものであると同定する工程と、リポタンパク質粒子クラスの平均サイズ、リポタンパク質粒子サブクラスの平均サイズ、クラスおよび/またはサブクラスのリポタンパク質粒子濃度、少なくとも一つのリポタンパク質粒子クラスの脂質濃度および/または少なくとも一つのリポタンパク質粒子サブクラスの脂質濃度の少なくとも一つ、好ましくは、総てを決定する工程とを含む。
【0019】
好ましい実施態様では、各リポタンパク質粒子サイズjに関連するモデル関数について、側方のローレンツ型関数の強度は中央のローレンツ型関数の強度に比例されている:
【数2】
の場合、h1j=α・h2j、かつ
【数3】
の場合、h3j=β・h2j
【0020】
ある実施態様では、比例定数αは、総てのリポタンパク質粒子サイズに対して同じにされ、および/または比例定数βは総てのリポタンパク質粒子サイズに対して同じにされる。
【0021】
好ましい実施態様では、側方のローレンツ型関数の強度は等しい、すなわち、h1j=h3jであるとみなされる。
【0022】
好ましい実施態様では、
【数4】
、すなわち、側方のローレンツ型関数の強度は、中央のローレンツ型関数の強度のほぼ半分であり、および/または
=0.01ppm、すなわち、側方のローレンツ型関数は、化学シフト軸において、中央のローレンツ型関数に対して約0.01ppmの間隔を置いて配置される
【0023】
好ましい実施態様では、使用されるモデル関数の数は9以上であり、各モデル関数は、リポタンパク質粒子サイズに対応する。
【0024】
好ましい実施態様では、前記フィッティングに使用されるリポタンパク質粒子サイズは、例えば、NMR、HPLC、勾配ゲル泳動(Gradient Gel Eletrophoresis)または原子間力顕微鏡により得られる実験結果に基づいて定義される。本方法に使用されるリポタンパク質粒子サイズは、任意の他の技術に基づいて選択され得る。
【0025】
好ましくは、いくつかのリポタンパク質画分および/またはサブクラスに対応するリポタンパク質粒子サイズが本方法に使用される。
【0026】
表面フィッティングは、総てのモデルパラメーターを、そのフィッティング中に決定される自由パラメーターとみなして行われ得る。しかしながら、好ましい実施態様では、表面フィッティングは、複数のモデルパラメーターを固定し、少なくとも一つの他のモデルパラメーターを、決定される自由パラメーターとして使用して、行われる。より好ましくは、中央のローレンツ型(h)の少なくともシグナル強度が自由パラメーターとして使用され、化学シフト、幅および拡散係数の少なくとも一つが固定される。
【0027】
表面フィッティングで推定されるモデルパラメーターの数が多い場合、そのフィッティングについて複数の解が表示される。それらの多くはいかなる生物学的意味も持たない。有利には、モデルパラメーター対の間の関係を確立することによってパラメーターを固定することにより、問題の次元を下げることが可能になり、生物学的関連性のない解の表示が回避される。
【0028】
中央のローレンツ型関数に対する側方のローレンツ型関数のシフトは、表面フィッティング中に推定され得るか、または所定の値とみなし得る。同様に、側方のローレンツ型関数の強度は、表面フィッティング中に推定され得るしまたは中央の関数の強度と関連している、好ましくは、中央のローレンツ型関数の強度の半分であるとみなし得る。
【0029】
好ましい実施態様では、表面フィッティングに使用される固定モデルパラメーターは、リポタンパク質粒子サイズと、回帰モデルとに基づいて決定され、回帰モデルは、固定されるモデルパラメーター対および/または一モデルパラメーターとリポタンパク質粒子サイズを関係付けている。
【0030】
好ましい実施態様では、固定パラメーターに使用される回帰モデルは、複数のモデルローレンツ型関数を使用して複数のNMRスペクトルのメチルシグナルのデコンヴォルーション(deconvolution)から得られ、この場合、強度、化学シフト、幅および拡散係数は、NMRメチルシグナルと、前記モデル関数の一次結合として構築されたモデルシグナルとの間の差を最小化するように推定された自由モデルパラメーターであり、回帰モデルはそれぞれ、少なくとも(i)化学シフトとリポタンパク質粒子サイズ、および/または(ii)幅とリポタンパク質粒子サイズを関係付けている。
【0031】
好ましい実施態様では、モデルパラメーター対を関係付ける回帰モデルは、次の工程:
・複数のサンプルについて、拡散に基づく二次元H NMRスペクトルを得る工程と、
・各サンプルについて、複数のモデル関数を使用して、メチルシグナルに相当するそのスペクトルの一部の表面フィッティングを行う工程であって、各モデル関数は、固定されるモデルパラメーターに依存し、ここで、固定される総てのモデルパラメーターは、NMRシグナルと、前記モデル関数の一次結合として構築されたモデルシグナルとの間の差が最小化されているモデルパラメーターの集合であるとその表面フィッティング中に推定される、工程と、
・モデルパラメーター対を関係付ける回帰モデルを構築するために、前工程で推定されたモデルパラメーターを使用する工程と
によって構築される。
【0032】
好ましくは、回帰モデルはそれぞれ、少なくとも(i)化学シフトとリポタンパク質粒子サイズ、および/または(ii)幅とリポタンパク質粒子サイズを関係付けている。
【0033】
回帰モデルを構築するために使用される複数のサンプルは、異なる脂質プロフィールを含み、検討されるサンプルの数が十分に多くなれば統計的に意味のあるものとなる。好ましくは、サンプルの数は、100以上であり、健常者から採取されたサンプルと、アテローム形成性脂質異常症の異なるプロフィールに相当するサンプルを含む。より好ましくは、サンプルの数は、100以上であり、健常者から採取されたサンプルを含み、サンプルの少なくとも9%の割合は、真性糖尿病のプロフィールを有する個体に相当し、これらの患者の少なくとも25%はアテローム形成性脂質異常症のプロフィールを有する。
【0034】
好ましくは、回帰モデルを構築するために使用されるモデル関数は、次の形式:
トリプレット=ローレンツ型(h1j,f−f0j,w,D)+ローレンツ型(h2j,f,w,D)+ローレンツ型(h3j,f+f0j,w,D
のローレンツ型関数トリプレットである。
【0035】
好ましい実施態様では、h=h=h/2。
【0036】
好ましい実施態様では、回帰モデルを構築するために使用されるローレンツ型関数のトリプレットは、次の形式:
【数5】
を有する。
【0037】
あるいは、中央のローレンツ型関数に対する側方のローレンツ型関数のシフト(f)は、回帰モデルを構築するために行われるフィッティング中に決定され得る。シフト(f)の単一の値が総てのリポタンパク質サイズに使用され得る。同様に、側方のローレンツ型関数の強度は、回帰モデルを構築するために行われるフィッティング中に推定され得る。
【0038】
好ましい実施態様では、モデル関数の拡散係数は、アインシュタイン・ストークスの式(the Einstein Stokes equation)
【数6】
[式中、k(J K−1)はボルツマン定数であり、T(K)は温度であり、η(Pa s)は粘度であり、R(Å)はリポタンパク質粒子サイズである]
を用いてリポタンパク質粒子サイズから推定される。
【0039】
好ましい実施態様では、本発明の方法は、サンプルのいくつかの希釈物について得られるNMR面積と拡散係数との間の関係を用いて、希釈効果を考慮に入れるために推定された拡散係数を補正する工程をさらに含み、ここで、前記サンプルの総コレステロールおよびトリグリセリドの濃度の合計は300mg/dLより高い。有利には、希釈効果を考慮に入れるための補正された拡散係数の使用により、より正確なフィッティングがもたらされる。
【0040】
好ましい実施態様では、リポタンパク質関数に関連するNMR面積は、リポタンパク質粒子コア中に含まれる脂質の寄与だけを検討するために補正される。
【0041】
好ましい実施態様では、補正されたNMR面積(A’)は次式:
【数7】
[式中、A(au)およびR(Å)はそれぞれ、各モデル関数に関連する面積およびリポタンパク質粒子サイズであり、s(Å)はリポタンパク質粒子シェル厚であり、pはその粒子シェル(タンパク質、遊離コレステロールおよびリン脂質)の単位体積当たりの総質量(mg/ml)に対する粒子シェルの単位体積当たりのアポタンパク質質量(mg/ml)の比率である]
を用いて決定される。リポタンパク質粒子のシェル中のタンパク質はアポリポタンパク質と呼ばれる。比率pはリポタンパク質画分に依存する。HDLでは、pは約0.5である。他のリポタンパク質画分では、pは小さくなる。一般的に、リポタンパク質粒子コアの厚さはs=20±2Åとして推定される。
【0042】
本明細書において使用されるように、「アポリポタンパク質」または「アポタンパク質」という用語、すなわち、リポタンパク質粒子のシェル中のタンパク質は、リポタンパク質を形成するために脂質に結合し、循環系を介して脂質を輸送するタンパク質を意味する。アポリポタンパク質は、脂質を取り囲み、それ自体が水溶性であるリポタンパク質粒子を生成することができる両親媒性分子であり、そのため、水系循環(すなわち、血液)を介して運搬され得る。アポリポタンパク質については6つのクラス(A〜H)といくつかのサブクラスがある;具体的には、Apo A−I(またはApo A1)はHDL粒子の主要なタンパク質成分であり、HDL粒子にはApo A−II(またはApo A2)も低濃度で存在する。アポリポタンパク質濃度決定のための例示的、非限定的な方法としては、限定されるものではないが、比色法、ウエスタンブロットまたはELISAが挙げられる。アポリポタンパク質濃度をリポタンパク質の単離画分で決定する場合には、タンパク質濃度を決定するための当技術分野で周知の任意の方法、例えば、酵素法、比色法(ビウレット法、ローリー法、ブラッドフォード法など)または免疫化学的技術(ウエスタンブロット、ELISAなど)などを使用し得る。アポリポタンパク質濃度を血漿または血清サンプルで決定する場合には、免疫化学的技術を使用して、アポリポタンパク質の特異的検出を得る。アポリポタンパク質検出のための例示的、非限定的な免疫化学的技術としては、免疫比濁技術、免疫比濁技術(immunonefelometric techniques)、放射状免疫拡散法、ELISA、電気免疫測定法および放射免疫測定法が挙げられる。
【0043】
面積の補正は、リポタンパク質粒子サイズが減少するほど重要になる、つまり、HDL粒子のサイズの方が小さいため、LDLまたはVLDL粒子の場合よりもHDL粒子の場合に補正は大きくなる。
【0044】
好ましい実施態様では、本方法は、加えて、リポタンパク質画分の平均粒子サイズ、リポタンパク質サブクラスの平均粒子サイズ、画分リポタンパク質粒子濃度、サブクラスリポタンパク質粒子濃度および少なくとも一つのリポタンパク質粒子サブクラスの脂質濃度および/または少なくとも一つのリポタンパク質粒子画分の脂質濃度から選択される少なくとも一つのリポタンパク質パラメーターを決定する工程を含む。
【0045】
好ましい実施態様では、リポタンパク質粒子画分の平均サイズは、以下のように決定される:
【数8】
[式中、nはリポタンパク質粒子画分に含まれるリポタンパク質粒子サブクラスの数であり、R(Å)はリポタンパク質粒子サイズであり、PNは前記リポタンパク質粒子サイズの粒子数である]。
【0046】
好ましい実施態様では、リポタンパク質の粒子数(PN)は以下のように決定される:
【数9】
[式中、A(au)およびR(Å)はそれぞれ、モデル関数jに関連する面積およびリポタンパク質粒子サイズである]。本明細書を通じて、リポタンパク質粒子のサイズはオングストロームでのリポタンパク質粒子径として理解される。特定サイズのリポタンパク質粒子の数は、前記リポタンパク質に関連する体積の間での、前記リポタンパク質に対応するモデル関数に関連する面積の比率に比例し、比例定数は、使用される機器の較正パラメーターである。好ましくは、粒子数の決定において、リポタンパク質関数に関連する面積は、本発明の実施態様によれば、リポタンパク質粒子コア中に含まれる脂質の寄与だけを検討するために補正された面積A’である。
【0047】
本明細書において使用されるように、リポタンパク質粒子画分の平均サイズとは、特定のリポタンパク質粒子画分の一部を形成するリポタンパク質の半径の平均サイズを意味する。
【0048】
好ましい実施態様では、リポタンパク質粒子画分のリポタンパク質粒子濃度は、脂質体積をリポタンパク質粒子体積で割ることによって計算される。脂質体積は、濃度単位を体積単位に変換する共通の変換係数を用いることによって決定される。各主要リポタンパク質粒子画分の総リポタンパク質粒子濃度は、対応するリポタンパク質粒子サブクラスの濃度を合計することによって得られる。
【0049】
好ましい実施態様では、本方法は、少なくとも一つのリポタンパク質粒子画分および/または少なくとも一つのリポタンパク質粒子サブクラスの脂質濃度を決定する工程を含む。より好ましくは、脂質濃度の決定は、回帰モデルを使用して行われる。好ましい実施態様では、回帰モデルは、超遠心分離により得られたリポタンパク質画分で測定された脂質濃度を用いて次の領域:5.4〜5.15ppm、3.28〜3.14ppm、2.15〜1.85ppm、1.45〜1ppm、および1〜0.7ppmに較正される。較正のために、ELISA、クロマトグラフィー、NMRまたは酵素法などの他の方法を使用し得る。
【0050】
リポタンパク質粒子画分またはサブクラスの脂質濃度の決定は、トリアシルグリセロール、コレステリルエステル、遊離コレステロールおよびリン脂質から選択される脂質の少なくとも一つを決定することを含む。
【0051】
本発明明細書(特許請求の範囲、明細書および図面を含む)に記載された総ての特徴および/または記載された方法の総ての工程は、相互に排他的な特徴および/または工程の組合せを除き、任意の組合せで組み合わせることができる。
【0052】
本発明、その目的および利点をよりよく理解するために、以下の図面を本発明明細書に添付し、以下に示す。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1図1は、本発明の方法によるメチルシグナルのデコンヴォルーションを示し、この場合に、フィッティングに使用されるモデル関数を図1Aに示し、それらのリポタンパク質画分に応じてグループ化されたモデル関数を図1Bに示している。
図2図2は、(a)サイズと化学シフトおよび(b)幅と化学シフトそれぞれを関係付けている2つの回帰モデルを示す。
図3図3は、メチルシグナルのNMR面積と拡散係数の間の関係を示す。
図4図4は、脂質決定のための回帰モデルを較正するために本発明の方法の実施態様で使用されるスペクトルの領域を示す。
図5図5は、3つのサンプルのメチルシグナルのデコンヴォルーションを示す。
【発明の具体的説明】
【0054】
発明の詳細な説明
本発明による、リポタンパク質粒子の特性評価のためのin vitro法では、サンプルは、拡散に基づく二次元H NMR分光法により分析される。
【0055】
一度、拡散に基づく二次元H NMRスペクトルが得られたら、メチルシグナルに相当するそのスペクトルの一部の表面フィッティングが行われる。複数のモデル関数が使用され、各モデル関数は、特定のリポタンパク質粒子サイズを有するリポタンパク質に対応しかつフィッティング中に推定される複数のモデルパラメーターを含む。各特定リポタンパク質粒子サイズに関連するモデル関数は、次の形式:
トリプレット=ローレンツ型(h,f−f,w,D)+ローレンツ型(h,f,w,D)+ローレンツ型(h,f+f,w,D)
[式中、h(au)、f(ppm)、w(ppm)およびD(cm−1)は、決定されるモデルパラメーターであり、それぞれ、リポタンパク質シグナルに関連する強度、化学シフト、幅および拡散係数である]
を有するローレンツ型関数のトリプレットである。
【0056】
モデルパラメーターは、実験によるNMRシグナルと、モデル関数の一次結合として構築されたモデルシグナルとの間の差が最小化されているモデルパラメーターの集合であるとフィッティング中に推定される。
【0057】
図1は、拡散に基づく二次元H NMR実験の単一勾配についての、血清サンプルのメチルシグナルに相当するスペクトルの一部と、そのフィッティングを示している。この場合、複数の拡散勾配について表面フィッティングが行われる場合でも、より明確にするために単一勾配のフィッティングを示した。図1Aは、太いトレースで示される実験によるNMRスペクトルをフィッティングするために使用された複数のモデル関数を細いトレースで示している。モデル関数を用いたフィッティングから構築された理論モデルシグナルは点線で示している。各モデル関数は、リポタンパク質粒子サイズに応じた所定のリポタンパク質粒子画分に関連付けることができる。図1Bでは、細線は、各対応リポタンパク質画分(この例ではVLDL、LDL、HDL)に関連するモデルシグナルの合計に相当する。
【0058】
この例では、表面フィッティングは、ローレンツ型関数の各トリプレットについての総てのパラメーターを推定する代わりにシグナル強度以外の総てのパラメーター(化学シフト、幅および拡散係数)を固定して行われる。トリプレットローレンツ型関数には次の形式:
【数10】
が使用され、中央のシグナルを中心とした2つのシグナルは、中央のシグナルに対して0.01ppmシフトされる。
【0059】
各モデル関数に関連する化学シフトおよび幅を固定するために、それらの総てのパラメーターが自由である3つのトリプレットローレンツ型関数を使用して300のスペクトルを予めデコンヴォルーション処理した。一度、300の実験スペクトルに最もよくフィットするパラメーターの集合が得られたら、それらを使用して、固定されるパラメーターの予測指標として使用される2つの回帰モデル、化学シフトとサイズを関係付ける第1の回帰モデル(図2a)と、幅と化学シフトを関係付ける第2の回帰モデル(図2b)をフィッティングした。図2aおよび図2bはそれぞれ、推定されたパラメーターについての、サイズの関数としてプロットされた化学シフトと、化学シフトの関数としてプロットされた幅を示し、これらの推定されたパラメーターから両方のパラメーター対を関係付ける対応関係を決定することができる。従って、固定されたリポタンパク質粒子サイズでは、そのNMR化学シフトおよび幅は、構築された回帰モデルを使用して推定することができる。
【0060】
第3の回帰モデルは、拡散係数を別のパラメーターと関係付けるために構築され得る。また、拡散係数は、アインシュタイン・ストークスの式:
【数11】
を用いてリポタンパク質粒子サイズから得られ得る。
【0061】
好ましくは、リポタンパク質粒子サイズは、実験に基づき、かつ複数の異なるリポタンパク質粒子サブクラスに対応して選択され、これにより、より完全かつ信頼性の高いリポタンパク質プロフィールを達成することが可能になる。
【0062】
好ましくは、決定された拡散係数は、起こり得る希釈効果を考慮に入れるために補正される。必要とされる補正の程度を研究するために、本発明の好ましい実施態様では、高トリグリセリドレベル(16mmol/L)を有する血清サンプルおよび同じサンプルの様々な希釈物(1:2、1:4、1:8および1:16)を分析する(図3)。次いで、NMR面積と拡散係数の間の関係を用いて、各NMRシグナルに必要な補正を予測する:
【数12】
[式中、Dは、希釈条件下での平均拡散係数であり、DおよびA(au)はそれぞれ、メチルピークの平均拡散係数および総面積であり、kS1、kS2は回帰係数である]。
【0063】
平均拡散係数を決定するために、各サンプルについて複数のスペクトルが得られ、各スペクトルは異なる勾配強度下で得られる。勾配の関数としてプロットされたメチル曲線下面積は、勾配の増加にともなって指数関数的に減衰する。従って、平均拡散係数は、シグナルの減衰A/Aの対数が勾配の二乗に対してプロットされたときに得られる直線の傾きに比例する:
log(A/A)=−kDG
[式中、Aはメチルシグナルの面積であり、Aはゼロ勾配のときのメチルシグナルの面積であり、kは定数パラメーターであり、Gは勾配強度である]。
【0064】
選択されたリポタンパク質粒子サイズと、各リポタンパク質粒子サイズについて決定された化学シフト、幅および拡散係数を用いて、実験によるNMRシグナルと、検討された複数のモデルシグナルから構築されたモデルシグナルとの間の差を最小化するように、シグナル強度が各モデル関数について決定される。
【0065】
フィッティングは、次式:
【数13】
[式中、SexpおよびSestはそれぞれ、実験および推定による表面であり、nは検討されるデータポイントの数であり、mは使用される勾配の数である。]
を用いた正規化平均二乗誤差(the normalized root mean squared errors)(NRMSE)の最小化により行われ得る。
【0066】
一度、モデルパラメーターが決定されたら、粒子加重リポタンパク質サイズは、各モデル関数に関連するNMR面積を、それらの関連する体積で割ることにより得ることができる:
【数14】
[式中、A、RおよびPNは、所定のリポタンパク質粒子jの面積(au)、体積(Å)および粒子数(au/Å)である]。面積と体積との間の比率と粒子数を関係付ける比例定数は、NMR面積と脂質濃度を直接関連付ける既知の較正標準により容易に得ることができる。
【0067】
次いで、NMRリポタンパク質粒子サイズに、所定の画分の総粒子濃度に対するそれらの画分粒子濃度の比率をかけることにより、各リポタンパク質粒子画分の平均粒子サイズを得ることができる:
【数15】
[式中、Zは、所定のリポタンパク質粒子画分の平均リポタンパク質粒子サイズに相当する]。
【0068】
PLS回帰モデルは、主要なリポタンパク質粒子画分(VLDL、LDLおよびHDL)のコレステロールおよびトリグリセリドの濃度を予測するために較正した。5.4〜5.15ppm、3.28〜3.14ppm、2.15〜1.85ppm、1.45〜1ppmおよび1〜0.7ppmの領域(図4に示している)を、Xブロックとして使用し、コレステロールおよびトリグリセリドの濃度をYブロックとして使用した。両ブロックは平均値を中心とした。潜在変数(LV)の最適数およびPLSモデルの検証性能は、データを10分割するベネチアンブラインドクロスバリデーション(venetian blinds cross-validation)を用いて評価した。予測濃度と基準濃度間での決定係数は、較正工程において0.79〜0.98の範囲であった。検証工程の決定係数は0.81〜0.98の範囲であった。
【0069】
リポタンパク質粒子画分またはサブクラスの脂質濃度の決定には、トリアシルグリセロール、コレステリルエステル、遊離コレステロールおよびリン脂質から選択される脂質の少なくとも一つを決定することが含まれる。
【0070】
トリグリセリド(またはトリアシルグリセロール)は、リポタンパク質粒子中で見つけることができるグリセロールと3つの脂肪酸から誘導されるエステルである。リポタンパク質トリグリセリド粒子中で見つけることができる例示的、非限定的な脂肪酸は、パルミチン酸、エステアリック酸(estearic acid)、オレイン酸、リノール酸およびアラキドン酸(araquidonic acid)である。トリグリセリドは、肝臓からの脂肪(adipose fat)および血中グルコースの双方向性移動を可能にする手助けをする血中脂質である。例示的、非限定的なトリグリセリド濃度決定方法としては、酵素的測定法が挙げられる。トリグリセリドの酵素的測定法は、特異的かつ高感度であることからもあり得る。反応の原理は次のとおりである:トリグリセリドは、リパーゼによりグリセロールと遊離脂肪酸に加水分解される。グリセロールキナーゼの存在下で、グリセロールはグリセロール−3−リン酸へとリン酸化され、その後、これはグリセロールリン酸オキシダーゼにより酸化され、同時に過酸化水素が生成する。ペルオキシダーゼの存在下で、4−クロロフェノールおよび4−アミノアンチピリンは過酸化水素とともに赤色生成物であるキノンイミンを生じる。染色強度はサンプルのトリグリセリド濃度に正比例する。
【0071】
コレステロールは両親媒性脂質である。コレステリルエステルは、脂肪酸のカルボキシル基とコレステロールのヒドロキシル基との間にエステル結合が形成されているコレステロールのエステルである。リポタンパク質粒子中に存在するコレステリルエステルの例示的、非限定的な例は、コレステリルパルミタート、コレステリルステアラート、コレステリルオレアート、コレステリルリノレアートおよびアラキドン酸コレステリル(cholesteryl araquidonate)である(Skipski, V.P. 「Blood Lipids and Lipoproteins」のQuantitation, Composition and Metabolism、pp.471-483 (G.J. Nelson編、Wiley-Interscience、ニューヨーク) (1972))。コレステリルエステルは、水への溶解度がコレステロールより低く、より疎水性が高い。コレステロール濃度の決定のために多くの方法が利用可能であり、とりわけ、例えば、重量測定法、ネフェロメトリー、混濁度測定法または光度測定法である。コレステロールおよびコレステリルエステルの比色/蛍光比色定量のための市販のキットを使用し得る。通常、総コレステロールおよび遊離コレステロール(エステル化コレステロールは、例えば、ジギトニンにより事前に沈殿させる)の濃度が決定され、コレステリルエステル(エステル化コレステロール)の濃度は、これら2つの濃度間の差から計算される。コレステロール濃度の酵素的測定法は特異的かつ高感度である。反応の原理は次のとおりである:コレステロールエステラーゼは、コレステリルエステルの遊離コレステロールと遊離脂肪酸への加水分解を触媒する。コレステロールオキシダーゼの存在下で、コレステロールはδ−4−コレスタントリオールへと酸化され、過酸化水素を生成する。ペルオキシダーゼの存在下で、フェノールおよび4−アミノアンチピリンは過酸化水素とともに赤色生成物であるキノンイミンを生じる。染色強度はサンプルの総コレステロール濃度に正比例する。
【0072】
リン脂質は、リポタンパク質粒子のシェル中に存在する脂質のクラスであり、リン脂質は脂質二重層を形成することができることから総ての細胞膜の主要な成分である脂質のクラスである。大部分のリン脂質は、ジグリセリド、リン酸基、およびコリンなどの単純な有機分子を含有する。リン脂質分子の構造は、一般的に、疎水性尾部と親水性頭部からなる。リポタンパク質粒子中に存在するリン脂質の例示的、非限定的な例は、ホスファチジルコリン、スフィンゴリン脂質、例えば、スフィンゴミエリンなど、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンである。例示的、非限定的なリン脂質濃度決定方法としては、リン脂質の比色/蛍光比色定量のための市販のアッセイキットが挙げられる。反応の原理は次のとおりである:リン脂質(レシチン、リゾレシチンおよびスフィンゴミエリンなど)は、コリンへと酵素加水分解され、これがコリンオキシダーゼとH特異的色素を用いて決定される。570nmでのピンク色生成物の光学濃度または蛍光強度(530/585nm)はサンプル中のリン脂質濃度に正比例する。
【実施例】
【0073】
拡散に基づく二次元H NMR分光法(2D diffusion-ordered 1H NMR spectroscopy)(DOSY):
血清サンプルを、BrukerAvance III分光計によって310Kで1H NMRスペクトルを記録し、NMR分光法により分析した。二重刺激エコー(The double stimulated echo)(DSTE)パルスプログラムは、双極磁場勾配パルスおよび縦渦電流遅延(a longitudinal eddy current delay)(LED)を用いて使用した。緩和遅延は2秒であり、自由誘導減衰は64K複合データポイントとして収集し、各サンプルについて32回のスキャンを取得した。勾配パルス強度は、32段階で最大強度53.5ガウスcm−1の5%から95%へと増大させ、この場合、勾配パルス強度の二乗は線形に分布した。
【0074】
表面フィッティング:
本実施例では、リポタンパク質NMRシグナルをローレンツ型関数のトリプレットとしてモデリングし、中央のシグナルを中心とした2つのシグナルは0.01ppmシフトされる:
【数16】
[式中、h(au)、f(ppm)、w(ppm)およびD(cm−1)は所定のリポタンパク質シグナルの強度、化学シフト、幅および拡散係数であり、各リポタンパク質シグナルはリポタンパク質粒子サイズに対応する]。HPLCにより得られるリポタンパク質粒子サイズに基づき、9つのリポタンパク質粒子サイズおよびその結果としてさらに9つのモデル関数も使用した。
【0075】
9つのモデル関数は、NMRサイズに応じて所定のリポタンパク質粒子画分(VLDL、LDLまたはHDL)と関連していた。従って、関数F1〜F3はVLDLに関連し、関数F4〜F6はLDLに関連し、関数F7〜F9はHDLに関連していた(表1)。主要なリポタンパク質粒子画分をVLDL(193〜409Å)、LDL(74〜133Å)およびHDL(30〜55Å)と定義した。
【0076】
メチルシグナルの表面フィッティングは、シグナル強度(h)を除いて固定された総てのパラメーター(化学シフト、幅および拡散係数)で9つのモデル関数を使用して行った。各サンプルのフィッティングは平均で29.47±4.42秒経過した。それに従って、固定されたNMRサイズに関する9つのリポタンパク質の寄与を得るために、メチルシグナルを個々のリポタンパク質シグナルに分解した。図5A〜Cは、3人の被験体についての表面フィッティングの結果を示し、また、それらの結果は表1に要約している。スペクトルをフィッティングするために9つのモデル関数を使用しても、それらの最終的な解を見つけるためにそれらの総てが使用されるとは限らないことに留意しなければならない。図5D〜Fは、関連するリポタンパク質粒子主要画分に応じたモデル関数のグループ化を示している。被験体1は、顕著なHDL面積(図5Dでは濃い灰色で示している)を示し、被験体2は、LDL面積が増加しており(図5Eでは薄い灰色で示している)、被験体3は非常に高いVLDL面積(図5Fでは中間の灰色で示している)を特徴とする。
【0077】
解の一意性は、ランダムに選択されたシグナル強度初期値との各サンプルのフィッティングを10回行うことによって調べた。シグナル強度のダイナミックレンジは非常に高くなる可能性があるため、次式を用いて、10回の異なるフィッティング全体の各モデル関数およびサンプルについての変動係数(CV)を評価した:
【数17】
[式中、hは、所定のモデル関数のシグナル強度を表す。各サンプルでの10回のフィッティングから評価された最大(Max)、最小(Min)および標準偏差(SD)の値。]結果として、10回の実行後、総てのサンプルについて一意の解を得た。
【0078】
この場合、他のモデルパラメーターはそのフィッティング中は固定されているため、変動係数(CV)は、中央のローレンツ型関数のシグナル強度について決定される。変動係数算出のための上式は、フィッティングに2つ以上の自由モデルパラメーターが使用される場合に向けて一般化し得る。
【0079】
前記フィッティングの正規化平均二乗誤差(NRMSE)は、次式
【数18】
[式中、SexpおよびSestはそれぞれ、実験および推定による表面であり、nは間隔の長さ(0.7〜1ppm)で検討されるデータポイントの数であり、mは使用される勾配の数である。]
を用いて計算した。この実施例では、nおよびmは各サンプルについて同じ値を有していた。得られた平均NRMSEは1.5%未満であった。
【0080】
粒子加重リポタンパク質サイズを取得するために、まず、各NMR面積をそれらの関連する体積で割った:
【数19】
[式中、A、RおよびPNは所定のリポタンパク質粒子jの面積(au)、体積(Å)および粒子数(au/Å)である]。
【0081】
次いで、各リポタンパク質粒子画分の平均粒子サイズを、リポタンパク質粒子サイズに、所定の粒子画分の総粒子濃度に対するそれらの画分粒子濃度の比率をかけることにより得た:
【数20】
【0082】
各リポタンパク質粒子サブクラスの粒子濃度は、脂質体積を粒子体積で割ることによって計算した。脂質体積は、濃度単位を体積単位に変換する共通の変換係数を用いることによって決定した。各主要粒子画分の総粒子濃度は、対応する粒子サブクラスの濃度を合計することによって得た。
【0083】
脂質濃度は、図4に示した領域、すなわち、5.4〜5.15ppm、3.28〜3.14ppm、2.15〜1.85ppm、1.45〜1ppm、および1〜0.7ppmに較正されたPLSモデルを使用して決定した。参照脂質は、連続超遠心分離により得られ、3つのリポタンパク質粒子画分(VLDL、LDLおよびHDL)のコレステロールおよびトリグリセリドに対応する。
【0084】
本発明の方法は、表1に示すように、高度なリポタンパク質プロフィールを得ることを可能にする。グループ全体からの3名の代表的な被験体についてのALT報告書を、例示目的のために表1に要約している。被験体1は正常リポタンパク質であり、被験体2は高LDLコレステロールレベル(過コレステリン血性)を示し、被験体3は高トリグリセリド・低HDLコレステロールレベル(アテローム形成性異脂肪血症)を示した。本発明の方法は、主要なリポタンパク質画分およびそれらのサブクラスの総コレステロール(C)、トリグリセリド(TG)および粒子濃度(P)を提供する。加えて、本発明の方法は、主要なリポタンパク質画分のサイズを提供する。被験体1は正常な脂質レベル(VLDL−TG<150mg/dL、LDL−C<160mg/dL、およびHDL−C>40mg/dLと規定される)を示し、被験体2はLDL−Cレベル上昇と正常なVLDL−TGおよびHDL−Cレベルを示し、被験体3はVLDL−TGレベル上昇、HDL−Cレベル低下および正常LDL−Cレベルを示した。また、被験体3は正常LDL−CレベルにもかかわらずLDL−Pが増加していたこと、およびその小型LDL−P濃度が被験体2の場合よりも高いことも指摘すべきである。従って、トリグリセリド濃度の増加はより小さなLDL粒子のより高い濃度の形成をもたらすため、トリグリセリドレベルの上昇を有する被験体はLDL−P値の上昇と関連している。
【0085】
高度なリポタンパク質検査は、これらのリポタンパク質パラメーターと心血管疾患のリスクとの間で統計的関連性を示している(Sniderman, A., and P. O. Kwiterovich. 2013. Update on the detection and treatment of atherogenic low-density lipoproteins. Current opinion in endocrinology, diabetes, and obesity 20: 140-147)。例えば、ある研究では、高密度リポタンパク質コレステロール(HDL−C)濃度ではなく、HDL粒子(HDL−P)の数が、共変量調整後、独立に、頸動脈内膜中膜厚と関連していた(Mackey, R. H., P. Greenland, D. C. Goff, Jr., D. Lloyd-Jones, C. T. Sibley, and S. Mora. 2012. High-density lipoprotein cholesterol and particle concentrations, carotid atherosclerosis, and coronary events: MESA (multi-ethnic study of atherosclerosis). J Am CollCardiol 60: 508-516)。最後に、リポタンパク質粒子サブクラスの使用により、フラミンガムリスクスコア(Framingham risk score)のリスク因子に関する予測モデルでの従来の脂質測定と比べて、無症状アテローム性動脈硬化症についてのNMRによるリスク層別化は改善した(Wurtz, P., J. R. Raiko, C. G. Magnussen, P. Soininen, A. J. Kangas, T. Tynkkynen, R. Thomson, R. Laatikainen, M. J. Savolainen, J. Laurikka, P. Kuukasjarvi, M. Tarkka, P. J. Karhunen, A. Jula, J. S. Viikari, M. Kahonen, T. Lehtimaki, M. Juonala, M. Ala-Korpela, and O. T. Raitakari. 2012. High-throughput quantification of circulating metabolites improves prediction of subclinical atherosclerosis. European Heart Journal 33: 2307-2316)。
【0086】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2016年8月4日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中のリポタンパク質の特性評価のためのin vitro法であって、下記の工程:
・サンプルの、拡散に基づく二次元H NMRスペクトルを得る工程と、
・複数のモデル関数を使用して、メチルシグナルに相当するそのスペクトルの一部の表面フィッティングを行う工程であって、各モデル関数は、リポタンパク質画分およびサブクラスに関連する所定の粒子サイズに対応し、かつそのフィッティング中に推定される少なくとも一つのモデルパラメーターを含み、その推定されたモデルパラメーターは、NMRシグナルと、前記モデル関数の一次結合として構築されたモデルシグナルとの間の差が最小化されているモデルパラメーターの集合である、工程と
・サンプル中に存在するリポタンパク質を、前記フィッティングから得られる理論モデルシグナルに寄与する前記モデル関数に関連するものであると同定する工程と
を含み、
各モデル関数は、次の形式:
トリプレット=ローレンツ型(h,f−f,w,D)+ローレンツ型(h,f,w,D)+ローレンツ型(h,f+f,w,D)
[式中、h(au)、f(ppm)、w(ppm)およびD(cm−1)は、それぞれ、リポタンパク質粒子サイズに関連する強度、化学シフト、幅および拡散係数である]
を有するローレンツ型関数のトリプレットであり、
各リポタンパク質粒子サイズについて決定される前記モデルパラメーターは、f、f、h、h、h、wおよびDからの一つまたは複数であり、かつ
各モデル関数について:
【数1】
の場合、h=α・h、かつ
【数2】
の場合、h=β・h
である、in vitro法。
【請求項2】
ローレンツ型関数のトリプレットが、下記の形式を有する、請求項1に記載のin vitro法:
トリプレット=ローレンツ型(h,f−f,w,D)+ローレンツ型(h,f,w,D)+ローレンツ型(h,f+f,w,D)。
【請求項3】
【数3】
および/または
=0.01ppm
である、請求項1または2に記載のin vitro法。
【請求項4】
リポタンパク質粒子サイズが、NMR、HPLC、勾配ゲル電気泳動または原子間力顕微鏡実験に基づいて定義される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のin vitro法。
【請求項5】
表面フィッティングが、少なくとも一つのモデルパラメーターを固定し、少なくとも一つの他のモデルパラメーターを、該表面フィッティングで決定される自由パラメーターとして使用して行われる、請求項1〜4のいずれか一項に記載のin vitro法。
【請求項6】
化学シフト、幅および拡散係数の少なくとも一つが固定され、中央のローレンツ型(h)の少なくともシグナル強度が自由パラメーターとして使用される、請求項5に記載のin vitro法。
【請求項7】
固定されるモデルパラメーターが、リポタンパク質粒子サイズと、回帰モデルとに基づいて決定され、各回帰モデルは、モデルパラメーターと該リポタンパク質粒子サイズとを関係付ける、請求項5または6に記載のin vitro法。
【請求項8】
使用される回帰モデルは、複数のモデルローレンツ型関数を使用して複数のNMRスペクトルのメチルシグナルのデコンヴォルーションから得られ、ここで、強度、化学シフト、幅および拡散係数は、NMRメチルシグナルと、モデル関数の一次結合として構築されたモデルシグナルとの間の差を最小化するように推定された自由モデルパラメーターであり、回帰モデルはそれぞれ、少なくとも(i)化学シフトとリポタンパク質粒子サイズ、および/または(ii)幅とリポタンパク質粒子サイズを関係付ける、請求項7に記載のin vitro法。
【請求項9】
モデルパラメーター対を関係付ける回帰モデルが、次の工程:
・複数のサンプルについて、拡散に基づく二次元H NMRスペクトルを得る工程と、
・各サンプルについて、複数のモデル関数を使用して、メチルシグナルに相当するそのスペクトルの一部の表面フィッティングを行う工程であって、各モデル関数は、固定されるモデルパラメーターに依存し、ここで、固定される総てのモデルパラメーターは、NMRシグナルと、前記モデル関数の一次結合として構築されたモデルシグナルとの間の差が最小化されているモデルパラメーターの集合であると、その表面フィッティング中に推定される、工程と、
・モデルパラメーター対を関係付ける回帰モデルを構築するために、前工程で推定されたモデルパラメーターを使用する工程と
によって構築され、
使用されるモデル関数が、好ましくは、次の形式:
トリプレット=ローレンツ型(h1j,f−f0j,w,D)+ローレンツ型(h2j,f,w,D)+ローレンツ型(h3j,f+f0j,w,D
のローレンツ型関数トリプレットである、請求項7に記載のin vitro法。
【請求項10】
回帰モデルを構築するために使用される複数のサンプルは、少なくとも100サンプルを含んでなり、それらのサンプルの少なくとも9%の割合は、真性糖尿病のプロフィールを有する個体に相当し、これらの患者の少なくとも25%はアテローム形成性脂質異常症のプロフィールを有する、請求項7〜9のいずれか一項に記載のin vitro法。
【請求項11】
モデル関数の拡散係数が、アインシュタイン・ストークスの式:
【数4】
[式中、k(J K−1)はボルツマン定数であり、T(K)は温度であり、η(Pa s)は粘度であり、R(Å)はリポタンパク質粒子サイズである]
を用いて、リポタンパク質粒子サイズから推定される、請求項1〜10のいずれか一項に記載のin vitro法。
【請求項12】
サンプルのいくつかの希釈物について得られるNMR面積と拡散係数との間の関係に基づいて、希釈効果を考慮に入れるために推定された拡散係数を補正する工程をさらに含み、ここで、該サンプルの総コレステロールおよびトリグリセリドの濃度の合計が300mg/dLより高い、請求項1〜11のいずれか一項に記載のin vitro法。
【請求項13】
リポタンパク質粒子画分の平均サイズ、リポタンパク質粒子サブクラスの平均サイズ、画分および/またはサブクラスのリポタンパク質粒子濃度、少なくとも一つのリポタンパク質粒子画分の脂質濃度および/または少なくとも一つのリポタンパク質粒子サブクラスの脂質濃度の一つ以上を決定する工程をさらに含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載のin vitro法。
【請求項14】
リポタンパク質粒子画分の平均粒子サイズは、
【数5】
として決定され、nはリポタンパク質粒子画分に含まれるリポタンパク質粒子サブクラスの数であり、R(Å)はリポタンパク質粒子サイズであり、PNは該リポタンパク質粒子サイズの粒子数であり、ここで、リポタンパク質jの粒子数(PN)は、
【数6】
[式中、A(au)は各モデル関数に関連する面積である]
として決定される、請求項13に記載のin vitro法。
【請求項15】
リポタンパク質粒子コア中に含まれる脂質の寄与のみを検討するために、リポタンパク質モデル関数に関連する面積が補正される、請求項1〜14のいずれか一項に記載のin vitro法。
【請求項16】
補正された面積(A’)が下記式を用いて決定される、請求項15に記載のin vitro法:
【数7】
[式中、A(au)およびR(Å)はそれぞれ、各モデル関数に関連する面積およびリポタンパク質粒子サイズであり、s(Å)はリポタンパク質粒子シェル厚であり、pはその粒子シェルの総質量に対する粒子シェルのタンパク質質量の比率である]。
【国際調査報告】