(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-538830(P2016-538830A)
(43)【公表日】2016年12月15日
(54)【発明の名称】キメラ抗原受容体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20161118BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20161118BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20161118BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20161118BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20161118BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20161118BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20161118BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20161118BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20161118BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20161118BHJP
【FI】
C12N15/00 AZNA
C12N5/10
C07K14/725
A61K48/00
A61P7/00
A61P35/00
A61P35/02
A61P37/02
A61K35/76
A61K35/17 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2016-521314(P2016-521314)
(86)(22)【出願日】2014年10月10日
(85)【翻訳文提出日】2016年5月20日
(86)【国際出願番号】GB2014053058
(87)【国際公開番号】WO2015052538
(87)【国際公開日】20150416
(31)【優先権主張番号】1317929.6
(32)【優先日】2013年10月10日
(33)【優先権主張国】GB
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】507299817
【氏名又は名称】ユーシーエル ビジネス ピーエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】プーレ, マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ヨン, クエ
(72)【発明者】
【氏名】リー, リディア
(72)【発明者】
【氏名】ドレイパー, ベン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
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4B065BA01
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4C087ZB26
4C087ZB27
4H045AA10
4H045AA20
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4H045BA10
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、以下を含むキメラ抗原受容体(CAR)を提供する:(i)増殖誘導リガンド(APRIL)の少なくとも一部を含む、B細胞成熟抗原(BCMA)結合ドメイン;(ii)スペーサードメイン(iii)膜貫通ドメイン;および(iv)細胞内T細胞シグナリングドメイン。本発明は、多発性骨髄腫などの形質細胞媒介性疾患の処置においてそのようなCARを発現する、そのようなT細胞の使用も提供する。多発性骨髄腫(骨髄腫)は、形質細胞の骨髄悪性腫瘍である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含むキメラ抗原受容体(CAR):
(i) 増殖誘導リガンド(APRIL)の少なくとも一部を含む、B細胞成熟抗原(BCMA)結合ドメイン;
(ii) スペーサードメイン;および
(ii) 膜貫通ドメイン;および
(iii) 細胞内T細胞シグナリングドメイン。
【請求項2】
前記BCMA結合ドメインは、短縮型APRILを含み、該短縮型APRILは、BCMA結合部位を含むが、プロテオグリカン結合に寄与するAPRILのアミノ末端部を欠失する、請求項1に記載のCAR。
【請求項3】
配列番号14に示す配列、またはBCMAに結合し、少なくとも80%の配列同一性を有するそのバリアントを含む、請求項2に記載のCAR。
【請求項4】
前記膜貫通および細胞内T細胞シグナリングドメインは、配列番号7に示す配列、または少なくとも80%の配列同一性を有するそのバリアントを含む、前述のいずれかの請求項に記載のCAR。
【請求項5】
前記スペーサーは、以下の1つを含む、前述のいずれかの請求項に記載のCAR:ヒトIgG1スペーサー;IgG1ヒンジ;またはCD8の柄。
【請求項6】
前記スペーサーは、CD8の柄を含む、請求項5に記載のCAR。
【請求項7】
配列番号1、2、3、4、5、もしくは6に示される配列、または少なくとも80%の配列同一性を有するが、i)BCMAへの結合能、およびii)T細胞シグナリングを誘導する能力を保持する、それらのバリアントを含む、前述のいずれかの請求項に記載のCAR。
【請求項8】
前述のいずれかの請求項に記載のCARをコードする核酸配列。
【請求項9】
配列番号15、16、17、18、19、もしくは20に示される配列、または少なくとも80%の配列同一性を有するそれらのバリアントを含む、請求項8に記載の核酸配列。
【請求項10】
請求項8または9に記載の核酸配列を含むベクター。
【請求項11】
請求項1から7のいずれかに記載のCARを発現するT細胞またはNK細胞。
【請求項12】
T細胞またはNK細胞に、請求項8または9に記載の核酸配列を導入する工程を含む、請求項11に記載のT細胞またはNK細胞を作製する方法。
【請求項13】
請求項10に記載のベクター、または請求項11に記載のT細胞/NK細胞を、薬学的に許容できるキャリア、希釈剤、もしくは添加剤と一緒に含む薬学的組成物。
【請求項14】
請求項10に記載のベクター、または請求項11に記載のT細胞/NK細胞を、被験体に投与する工程を含む、形質細胞障害を処置する方法。
【請求項15】
前記形質細胞障害は、形質細胞腫、形質細胞性白血病、多発性骨髄腫、マクログロブリン血症、アミロイドーシス、ワルデンストレーム型マクログロブリン血症、孤立性骨形質細胞腫、髄外性形質細胞腫、骨硬化性ミエローマ、H鎖病、意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症、および無症候性骨髄腫より選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記形質細胞障害は、多発性骨髄腫である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
形質細胞障害の処置における使用のための、請求項10に記載のベクター、または請求項11に記載のT細胞/NK細胞。
【請求項18】
形質細胞障害を処置するための医薬の製造における、請求項10に記載のベクター、または請求項11に記載のT細胞/NK細胞の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B細胞成熟抗原(BCMA)に結合するキメラ抗原受容体(CAR)に関係する。そのようなCARを発現するT細胞は、多発性骨髄腫などの形質細胞疾患の治療に有用である。
【背景技術】
【0002】
多発性骨髄腫
多発性骨髄腫(骨髄腫)は、形質細胞の骨髄悪性腫瘍である。異常な形質細胞の集団が骨髄に凝集し、そこでそれらは正常な血液細胞の産生を妨げる。骨髄腫は、米国において2番目に一般的な血液悪性腫瘍であり(非ホジキンリンパ腫の次)、血液悪性腫瘍の13%を、および全てのがんの1%に相当する。この疾患は、死の前に病的骨折、感染への感受性、腎臓そして骨髄の機能不全を引き起こすことから、苦痛と医療出費の点で負担となる。
【0003】
多くのリンパ腫と異なり、骨髄腫は現在不治である。リンパ腫に用いられる標準的な化学療法薬は、大部分が骨髄腫には効果的でない。加えて、形質細胞ではCD20の発現が消失しているため、この疾患に対してリツキシマブを使用することはできない。ボルテゾミブやレナリドミドなどの新しい薬剤は部分的に効果的だが、長期にわたる寛解を導くことはできない。
【0004】
そのため、上昇した効果および改善した長期間の効果を有する、骨髄腫の治療のための代替の薬剤への必要性が存在する。
【0005】
キメラ抗原受容体(CAR)
キメラ抗原受容体は、通常の形式において、モノクローナル抗体(mAb)の特異性を、T細胞のエフェクター効果へ移植したタンパク質である。その通常の形式は、抗原認識アミノ末端、スペーサー、膜貫通ドメインが全て、T細胞生存および活性化シグナルを伝達する混成エンドドメインに連結した、I型膜貫通ドメインタンパク質の形式である(
図3を参照)。
【0006】
これら分子の最も一般的な形式は、標的抗原を認識するために、モノクローナル抗体に由来する一本鎖可変フラグメント(scFv)を使用する。scFvは、スペーサーおよび膜貫通ドメインを介してシグナリングエンドドメインに融合される。そのような分子は、scFvによるそれらの標的の認識に応答してT細胞の活性化をもたらす。T細胞がそのようなCARを発現するとき、それらは標的抗原を発現する標的細胞を認識し、かつ殺傷する。腫瘍関連抗原に対する数種のCARが開発されており、そのようなCARを発現するT細胞を使用する養子移植アプローチは、現在広範ながんの処置のための臨床試験にある。Carpenterら(2013,Clin Cancer Res 19(8) 2048−60)は、B細胞成熟抗原(BCMA)に対するscFvを組み込むCARを記述している。
【0007】
BCMAは、成熟リンパ球、すなわち記憶B細胞、形質芽細胞、および骨髄形質細胞において優先的に発現している膜貫通タンパク質である。BCMAは多発性骨髄腫細胞でもまた発現している。
【0008】
Carpenterらは、抗BCMA CARを発現するように形質導入されたT細胞は、骨髄腫患者の形質細胞腫由来骨髄腫細胞を特異的に殺傷する能力を有することを実証している。
【0009】
抗BCMA抗体を使用するCARアプローチは見込みを示すが、この抗原を標的とするときの特有の検討事項は、例えばリンパ腫細胞上のCD19と比較すると、骨髄腫細胞上のBCMAの特に低い密度である。そのため、抗BCMA CAR T細胞の標的細胞認識の感受性を上昇させる必要性が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Carpenter et al (2013,Clin Cancer Res 19(8) 2048−60)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
B細胞膜抗原(BCMA)は、ほとんど全ての多発性骨髄腫(MM)で発現する表面タンパク質である。BCMAは形質細胞でない限り発現していないため、この抗原を標的とすることは、骨髄腫の効果的な処置となり得る。しかしながらBCMAの低レベルな発現(
図2を参照)は、この抗原を標的とするときの検討事項である。
【0012】
本発明者らは、CAR型分子において、BCMA結合抗体よりもむしろ増殖誘導リガンド(APRIL)に基づく結合ドメインを使用する場合に、そのようなCARを発現するT細胞が、低レベルな発現の標的細胞であっても、BCMAを発現する標的細胞の非常に効果的な殺傷を引き起こすことを、驚いたことに発見した。
【0013】
理論に拘束されることを望むわけではないが、本発明者らは、これはBCMAとAPRILとの結合に固有の3回対称性のためであると予想している。これは、CARとBCMAとの間のそれぞれの相互作用は3つのCARを巻き込むことを意味し、これはT細胞表面で3つのエンドドメインを近接させる。T細胞活性化は、免疫シナプスにおけるシグナリングエンドドメインの密接な近接によって引き起こされるため、本発明のCARデザインは高度に感度がよく、かつ特異的である。BCMAは、初代骨髄腫細胞において非常に低密度で発現するため(
図2および7を参照)、この受容体デザインはこの標的に対して特に適している。
【0014】
そのため、本発明の第一の態様において、以下を含むキメラ抗原受容体(CAR)を提供する:
(i)増殖誘導リガンド(APRIL)の少なくとも一部を含むB細胞成熟抗原(BCMA)結合ドメイン;
(ii)スペーサードメイン
(iii)膜貫通ドメイン;および
(iv)細胞内T細胞シグナリングドメイン。
【0015】
BCMA結合ドメインは、BCMA結合部位を含むが、プロテオグリカン結合に寄与するAPRILのアミノ末端部分を欠失した、短縮型APRILを含み得る。そのような分子は配列番号14に示される配列を含み得る。代替的にその分子は、BCMAと結合する、少なくとも80%の配列同一性を有する、その配列のバリアントを含み得る。
【0016】
膜貫通および細胞内T細胞シグナリングドメインは、配列番号7に示される配列、または少なくとも80%の配列同一性を有する、そのバリアントを含み得る。
【0017】
BCMA結合ドメインおよび膜貫通ドメインは、スペーサーによって連結され得る。スペーサーは、以下の1つを含み得る:ヒトIgG1スペーサー;IgG1ヒンジ;またはCD8の柄(stalk)。
【0018】
本発明の第一の態様のCARは、配列番号1,2,3,4,5、もしくは6に示される配列、または少なくとも80%の配列同一性を有するが、i)BCMAへの結合能、およびii)T細胞シグナリングを誘導する能力を保持する、それらのバリアントを含み得る。
【0019】
本発明の第一の態様のCARは、三量体としてBCMAに結合し得る。
【0020】
第二の態様において、本発明は前述のいずれかの請求項に記載のCARをコードする核酸配列を提供する。
【0021】
核酸配列は、配列番号15、16、17、18、19、もしくは20、または少なくとも80%の配列同一性を有するそれらのバリアントを含み得る。
【0022】
第三の態様において、本発明は、本発明の第二の態様に記載の核酸配列を含むベクターを提供する。
【0023】
第四の態様において、本発明は、本発明の第一の態様に記載のCARを発現するT細胞またはNK細胞を提供する。
【0024】
第五の態様において、本発明は、T細胞またはNK細胞に本発明の第二の態様に記載の核酸配列を導入する工程を含む、本発明の第四の態様に記載のT細胞またはNK細胞を作製する方法を提供する。
【0025】
第六の態様において、本発明は、本発明の第三の態様に記載のベクター、または本発明の第四の態様に記載のT細胞/NK細胞と、薬学的に許容できるキャリア、希釈剤、または添加物とを一緒に含む薬学的組成物を提供する。
【0026】
第七の態様において、本発明は、本発明の第三の態様に記載のベクター、または本発明の第四の態様に記載のT細胞/NK細胞を被験体へ投与する工程を含む、形質細胞障害を処置する方法を提供する。
【0027】
形質細胞障害は、形質細胞腫、形質細胞性白血病、多発性骨髄腫、マクログロブリン血症、アミロイドーシス、ワルデンストレーム型マクログロブリン血症、孤立性骨形質細胞腫、髄外性形質細胞腫、骨硬化性ミエローマ、H鎖病、意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症および無症候性骨髄腫から選択され得る。
【0028】
形質細胞障害は、多発性骨髄腫であり得る。
【0029】
第八の態様において、本発明は、形質細胞障害の処置における使用のための、本発明の第三の態様に記載のベクター、または本発明の第四の態様に記載のT細胞/NK細胞を提供する。
【0030】
第九の態様において、本発明は、形質細胞障害を処置するための医薬品の製造における、本発明の第三の態様に記載のベクター、または本発明の第四の態様に記載のT細胞/NK細胞の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】APRILおよびBAFFのリガンド特異性と機能割り当て B細胞活性化因子(BAFF、TNFSF13B)は、BAFF−R(BAFF−R、TNFRSF13C)、B細胞膜抗原(BCMA、TNFRSF17)、ならびに膜貫通型活性化因子およびカルシウム調節因子およびシクロフィリンリガンド相互作用因子(TACI、TNFRSF13B)と相互作用する一方、増殖誘導リガンド(APRIL、TNFSF13)は、BCMA、TACI、およびプロテオグリカンと相互作用する。BAFF−R活性化は、末梢B細胞生存に影響を及ぼす一方、BCMAは形質細胞生存に影響を及ぼし得る。APRILのプロテオグリカンとの相互作用は、APRILのアミノ末端を含む酸性硫酸化グルコサミノグリカン側鎖に関係する。
【
図2】骨髄腫でのBCMAの発現データ 39人の多発性骨髄腫患者由来の骨髄サンプルから骨髄腫細胞を、CD138+磁気ビーズ選択により単離した。これら細胞を、PEと結合化された抗BCMAモノクローナル抗体J6MO(GSK)により染色した。抗原のコピー数は、PE Quantibrite beads(Becton Dickenson)を使用し、製造者の指示通りに定量した。抗原コピー数の箱ひげ図が、プロットされた範囲、四分位数、および中央値と共に提示する。我々は、その範囲が、細胞あたり348.7〜4268.4のBCMAコピーであり、平均値が1181、中央値が1084.9であることを見出した。
【
図3】キメラ抗原受容体の標準的なデザイン キメラ抗原受容体の典型的な形式を示す。これらはI型膜貫通タンパク質である。エクトドメインは抗原を認識する。これは、スペーサードメインに接続された一本鎖可変フラグメント(scFv)に由来する抗体からなる。これは今度は、膜において分子を固定するように働く、膜貫通ドメインに連結される。最後に、これは細胞に細胞内シグナルを伝達するように働くエンドドメインに連結される。これは1つまたは複数のシグナリングドメインからなる。
【
図4】生成された異なるAPRILに基づくCARのデザイン。
図3に示されるCARデザインは、scFvが、抗原結合ドメインとしてはたらけるように、APRILの修飾形式に置換されるように修飾された:APRILは、プロテオグリカン結合アミノ末端が欠失されるように短縮化された。次いでシグナルペプチドが、タンパク質を細胞表面へ指向させるように、短縮型APRILアミノ末端に接続された。3つのCARが、このAPRILに基づく結合ドメインを用いて生成された:A.第一のCARにおいて、ヒトCD8柄ドメインがスペーサードメインとして使用された。B.第二のCARにおいて、IgG1由来のヒンジがスペーサードメインとして使用された。C.第三のCARにおいて、Fc受容体結合を減少するために、Hombachら(2010 Gene Ther. 17:1206−1213)によって記載されたpva/a変異を用いて修飾された、ヒトIgG1由来のヒンジ、CH2およびCH3ドメインがスペーサーとして使用された(以後Fc−pvaaとして参照される)。全てのCARにおいて、これらのスペーサーはCD28の膜貫通ドメイン、そして次いでCD28、OX40およびCD3ゼータエンドドメインの融合物を含む三者のエンドドメインに連結される(Puleら、Molecular therapy、2005年:12巻;5号;933−41頁)。
【
図5】上記3つのAPRIL−CARのアノテーションされたアミノ酸配列 A:は、CD8の柄APRIL CARのアノテーションされたアミノ酸配列を示す; B:は、APRIL IgG1ヒンジに基づくCARのアノテーションされたアミノ酸配列を示す; C:は、APRIL Fc−pvaaに基づくCARのアノテーションされたアミノ酸を示す。
【
図6A】異なるAPRILに基づくCARの発現およびリガンド結合 A.受容体を、レトロウイルス遺伝子ベクターにおいて、マーカー遺伝子短縮型CD34と共発現した。形質導入細胞でのマーカー遺伝子の発現は、形質導入の確認を可能にする。 B.T細胞に、CD8柄のスペーサー、IgG1ヒンジ、またはFcスペーサーのいずれかを有するAPRILに基づくCARを形質導入した。これらの受容体を細胞表面において安定に発現させることができたか否かを試験するために、次いでT細胞を抗APRIL−ビオチン/ストレプトアビジンAPCおよび抗CD34によって染色した。フローサイトメトリー解析を行った。APRILは、3つのCARにおいて細胞表面で同等に検出され、これはそれらが同等に安定して発現されることを示唆する。 C.次に、CARのTACIおよびBCMA認識能を決定した。形質導入されたT細胞を、マウスIgG2a Fcに融合させたリコンビナントBCMAまたはTACI融合物のいずれかと一緒に、抗マウス二次および抗CD34によって染色した。3つの受容体の形式は全て、BCMAおよびTACIの両方への結合を示した。驚くべき発見は、BCMAへの結合が、TACIへの結合よりも大きいように見えることであった。更に驚くべき発見は、3つのCARが全て同等に発現したが、BCMAおよびTACIを認識するという点で、Fcスペーサーを有するCARよりもCD8柄およびIgG1ヒンジCARが良好であることであった。
【
図7】異なるCARコンストラクトの機能 3つの異なるAPRILに基づくCARの機能分析を行った。何も形質導入していない(NT)、または異なるCARを発現するように形質導入した、いずれかの正常ドナー末梢血T細胞。形質導入は、同等のタイター上清を使用して行った。次いで、非特異的なNK活性を除去するために、これらのT細胞よりCD56を枯渇させ、そしてエフェクターとして使用した。何も形質導入していない(NT)、またはBCMAもしくはTACIを発現するように形質導入した、いずれかのSupT1細胞を標的として使用した。示されるデータは、5回の独立した実験からの平均値および標準偏差である。 A.BCMAおよびTACIを発現するT細胞の特異的な殺傷を、クロム放出を使用して決定した。 B.インターフェロンγ放出も決定した。標的およびエフェクターを1:1の比率で共培養した。24時間後、上清中のインターフェロンγをELISAによって分析した。 C.CAR T細胞の増殖/生存も、更に6日間インキュベートした同じ共培養中のCAR T細胞の数を計数することによって決定した。3つのCARは全て、BCMAおよびTACIを発現する標的に対する応答を指向した。BCMAへの応答は、TACIよりも大きかった。
【
図8】APRIL CAR T細胞による初代骨髄腫細胞の殺傷 ほとんどの初代骨髄腫細胞は、それらの表面に少数のBCMA分子を発現するため、低密度発現にも拘らず初代骨髄腫細胞の殺傷が生じるか否かを検証した。
図2において記載されたBCMA発現の範囲に相当する3症例を選択した:第一は不明瞭な発現を有する(平均より低い);第二の症例は中間的な発現を有する(ほぼ平均の発現)そして第三は明瞭な発現を有した(平均の発現より上)。3症例全てについてのアイソタイプ対照に対するBCMA染色のヒストグラムは、左に示される。この分析においては、CD8の柄およびヒンジのAPRIL CARのみを試験した。左に、開始数と比較した骨髄腫細胞の生存が、骨髄腫細胞とCAR T細胞との1:1共培養後3日目および6日目で示される。6日目までに、不明瞭なBCMA発現を有する骨髄腫細胞を含む、95%超の骨髄腫細胞が排除された。
【
図9】APRILに基づくCARと短縮型CD34を共発現するベクター スクリーニングのために使用したベクターを発現する細胞株を、BCMA−FcまたはTACI−Fcのいずれかとインキュベートし、そして抗CD34および抗ヒトFc PEの両方、ならびにFITCを付与したmAbによって染色した。次いで細胞をフローサイトメトリーによって研究した。これは、マーカー遺伝子CD34に関するBCMAおよびTACIの結合の典型的なパターンを示す。
【
図10A】古典的なCARを説明する模式図 B:生成された異なるAPRILに基づくCARのデザイン。 シグナルペプチドを短縮型APRILアミノ末端に接続した。これを異なるスペーサー:Fc受容体結合を減少させるために、Hombachら(2010 Gene Ther. 17:1206−1213)によって記載されたpvaa変異を用いて修飾されたヒトIgG1のヒンジ、CH2およびCH3ドメイン;ヒトCD8αの柄;ならびにIgG1のヒンジのいずれかに融合した。これらスペーサーを、CD28膜貫通ドメイン、OX40エンドドメイン、およびCD3ゼータエンドドメインを含有する三者のエンドドメインに連結した。
【
図11】異なるCARの発現 受容体を、IRES配列を使用して高感度青色蛍光タンパク質2(eBFP2)と共発現させた。初代ヒトT細胞に形質導入し、抗APRIL−ビオチン/ストレプトアビジンAPCによって染色した。フローサイトメトリー解析を行った。eBFP2シグナルは、APRIL検出に対して示される。3つのCARは全て安定に発現した(3つの異なる正常ドナーT細胞を使用して行われた3回の独立実験の代表的な実験)。
【
図12】クロム放出分析 エフェクターとして、何も形質導入していない(NT)か、または異なるスペーサーのCARを発現するように形質導入したかの、いずれかの正常ドナー末梢血T細胞、および標的として、何も形質導入していない(NT)か、またはBCMAもしくはTACIを発現するように形質導入したかのいずれかのSupT1細胞を使用。T細胞は、NK活性を減少させるためにCD56を枯渇させた。これは3回の独立した実験の代表であり、そして一例として示される。累積の殺傷データは、
図7Aに示される。BCMAおよびTACIを発現するT細胞の特異的な殺傷が、陰性標的細胞に対する無活性と一緒に観察される。
【
図13】インターフェロンガンマ放出 エフェクターと標的の1:1共培養由来を、ELISAによって計測した。CD8柄のコンストラクトは、最高の特異性を有するようである一方で、ヒンジコンストラクトは、最多のインターフェロン放出をもたらし、これらはいくらかの非特異的活性を実証する。これは、3回の独立した実験の代表であり、一例として示される。累積のインターフェロンガンマ放出データは、
図7Bに示される。
【
図14】初代骨髄腫上のBCMA発現の例 ラット抗ヒトBCMA mAb Vicky1によって染色した、骨髄腫サンプルの4例を示す。第一のパネルは、形質細胞性白血病(骨髄腫の異常であり、進行した、かつ侵襲性の形態)の患者における、明瞭なBCMA染色を示す。他3症例は、医学的かつ形態的に典型的な骨髄腫である。それらは典型的に見られる、中間的または不明瞭な染色を示す。アイソタイプ対照(灰色)での染色を重ねた。これらは、
図2に示される累積のBCMA発現データの例である。
【
図15】V5エピトープタグを有するAPRIL−CARのアミノ酸配列。 A:dAPRIL−HCH2CH3pvaa−CD28OXZ B:dAPRIL−CD8STK−CD28OXZ C:dAPRIL−HNG−CD28OXZ この図における配列は、異なるシグナルペプチドを有し、かつV5タグを有さない点で、
図5における配列とは異なる。
【
図16A】APRIL CAR T細胞のインビボ機能の実証 尾静脈注射を介して1×10
7 MM1.s.FLuc細胞を受容した、6匹の3ヶ月齢メスNSGマウス。マウスは、8日目および13日目に生物発光によってイメージングした。13日目でのイメージングの後に、4匹のマウスは尾静脈注射を介して5×10
6 APRIL CAR T細胞を受容した。マウスは13日目および18日目にイメージングした。CAR T細胞を受容したマウスは、(
*)により示される。骨髄腫の寛解は、処置したマウスの全てにおいて18日目までに観察されたが、一方で無処置マウスにおける疾患は進行した。
【発明を実施するための形態】
【0032】
詳細な説明
キメラ抗原受容体(CAR)
キメラ抗原受容体(CAR)(キメラT細胞受容体、人工T細胞受容体、およびキメラ免疫受容体としても公知)は、免疫エフェクター細胞上に任意の特異性を移植する、改変された受容体である。古典的なCAR(
図3)において、モノクローナル抗体の特異性は、T細胞またはNK細胞上に移植される。CARをコードする核酸配列は、例えばレトロウイルスベクターを使用して、T細胞またはNK細胞中に導入され得る。このようにして、多数のがん特異的T細胞またはNK細胞は、養子細胞移入のために生成させることができる。このアプローチの早期医学的研究は、最初にB細胞悪性腫瘍を処置するために全B細胞抗原CD19を標的としたときに、いくつかのがんにおける有効性を示した。
【0033】
CARの標的抗原結合ドメインは、一般的にスペーサーおよび膜貫通ドメインを介してシグナリングエンドドメインに融合される。CARが標的抗原に結合するとき、これは標的抗原が発現されるT細胞へ活性化シグナルの伝達をもたらす。
【0034】
本発明のCARは、以下を含む:
(i)以下でより詳細に議論される、増殖誘導リガンド(APRIL)の少なくとも一部を含むB細胞成熟抗原(BCMA)結合ドメイン;
(ii)スペーサー
(iii)膜貫通ドメイン;および
(iv)細胞内T細胞シグナリングドメイン
【0035】
本発明のCARは、以下のアミノ酸配列の1つを含み得る:
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6-1】
【化6-2】
【0036】
本発明の分子は、配列番号1、2、3、4、5、または6に示される配列のバリアントを含み得、バリアントは、バリアント配列が本発明の第一の態様で規定される分子、すなわち:
(i) BCMA結合ドメイン;
(ii) スペーサードメイン
(iii) 膜貫通ドメイン;および
(iv) 細胞内T細胞シグナリングドメイン
を含むCARである限り、少なくとも80、85、90、95、98、もしくは99%の配列同一性を有する。
【0037】
2つのポリペプチド配列間の同一性パーセンテージは、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov.において自由に入手できるBLASTなどのプログラムによって容易に決定され得る。
【0038】
膜貫通ドメイン
膜貫通ドメインは、膜に跨がる(span)CARの配列である。それは、疎水性アルファヘリックスを含み得る。膜貫通ドメインは、良好な受容体安定性をもたらす、CD28に由来し得る。膜貫通ドメインは、任意のI型膜貫通タンパク質に由来し得る。膜貫通ドメインは、疎水性ヘリックスを形成することが予測される合成配列であり得る。
【0039】
細胞内T細胞シグナリングドメイン(エンドドメイン)
エンドドメインは、CARのシグナル伝達部である。抗原認識の後に、受容体は集合し、そしてシグナルは細胞へ伝達される。最も一般的に使用されるエンドドメイン構成要素は、3つのITAMを含むCD3ゼータのエンドドメイン構成要素である。これは、抗原が結合した後に、T細胞に活性化シグナルを伝達する。CD3ゼータは、完全に反応力を有する活性化シグナルを提供しないことがあり、そして追加の共刺激性シグナリングが必要となり得る。例えば、キメラのCD28およびOX40は、増殖/生存シグナルを伝達するために、CD3ゼータと使用することができ、または3つ全てを一緒に使用することができる(Puleら、Molecular therapy、2005年:12巻;5号;933−41頁)。CARエンドドメインは、効果的なCAR療法のためにCARが適切なシグナルを伝達するように、天然に見出されたシグナリングタンパク質、または当業者によってコンストラクトされた人工的なシグナルタンパク質に由来する、個別または組み合わせのいずれかで、他のシグナリングドメインにも由来し得る。
【0040】
本発明のCARのエンドドメインは、CD28エンドドメインおよびOX40およびCD3ゼータエンドドメインを含み得る。
【0041】
本発明のCARの膜貫通および細胞内T細胞シグナリングドメイン(エンドドメイン)は、配列番号7に示される配列、または少なくとも80%の配列同一性を有するそのバリアントを含み得る。
【化7】
【0042】
バリアント配列は、その配列が効果的な膜貫通ドメインおよび効果的な細胞内T細胞シグナリングドメインを提供する限り、配列番号7に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有し得る。
【0043】
シグナルペプチド
本発明のCARは、CARがT細胞などの細胞の中で発現されたときに、新生タンパク質が小胞体へと、そしてそれに続きそれが発現される細胞表面へと指向されるように、シグナルペプチドを含み得る。
【0044】
シグナルペプチドのコアは、単一のアルファヘリックスを形成する傾向を有する、疎水性アミノ酸の長いストレッチを含み得る。シグナルペプチドは、移行の間にポリペプチドの適切なトポロジーに強制することを補助する、アミノ酸の短い正に荷電されたストレッチより開始し得る。シグナルペプチドの端部には、典型的にシグナルペプチダーゼによって認識され、かつ切断されるアミノ酸のストレッチがある。シグナルペプチダーゼは、移行間または完了の後のいずれかに切断し、遊離シグナルペプチドおよび成熟タンパク質を生成し得る。次いで遊離シグナルペプチドは、特異的なプロテアーゼによって消化される。
【0045】
シグナルペプチドは、分子のアミノ末端にあり得る。
【0046】
本発明のCARは、以下の一般式を有し得る:
シグナルペプチド−BCMA結合ドメイン−スペーサードメイン−膜貫通ドメイン−細胞内T細胞シグナリングドメイン。
【0047】
シグナルペプチドは、配列番号8もしくは9、またはシグナルペプチドが、依然としてCARの細胞表面発現を引き起こすよう機能する限り、5、4、3、2、もしくは1つのアミノ酸変異(挿入、置換、または付加)を有するそれらのバリアントを含み得る。
【化8】
【化9】
【0048】
配列番号8および配列番号9のシグナルペプチドは、コンパクトであり、かつ高度に効果的である。それは、末端グリシン後に約95%の切断を生じさせると予測され、これがシグナルペプチダーゼによる効果的な除去を生じさせる。
【0049】
スペーサー
本発明のCARは、BCMA結合ドメインと膜貫通ドメインとを連結させ、かつBCMA結合ドメインをエンドドメインから空間的に離すための、スペーサー配列を有し得る。柔軟なスペーサーは、BCMA結合を可能にするために、BCMA結合ドメインを異なる角度に配向させる。
【0050】
スペーサー配列は、例えば、IgG1 Fc領域、IgG1ヒンジまたはCD8の柄を含み得る。リンカーは、代替的にIgG1 Fc領域、IgG1ヒンジまたはCD8の柄と同様の長さおよび/またはドメイン配置特性を有する代替的なリンカー配列を含み得る。
【0051】
スペーサーは、短いスペーサー(例えば100未満、80未満、60未満、または45未満のアミノ酸を含むスペーサー)であり得る。スペーサーは、IgG1ヒンジもしくはCD8の柄、またはそれらの修飾された形態であるか、またはそれらを含み得る。
【0052】
ヒトIgG1スペーサーは、Fc結合モチーフを除去するように改変され得る。
【0053】
これらスペーサーのためのアミノ酸配列の例が以下に挙げられる:
【化10】
【化11】
【化12】
【0054】
B細胞膜抗原(BCMA)
本発明の第一の態様のCARは、BCMAに結合するドメインを含み得る。
【0055】
BCMA(TNFRSF17としても公知)、専らB系列造血細胞または樹状細胞において発現する、形質細胞特異的表面抗原である。これはTNF受容体ファミリーの一員である。BCMAはナイーブB細胞では発現されないが、形質細胞芽へのB細胞分化の間にはアップレギュレートされ、記憶B細胞、形質細胞芽、および骨髄形質細胞では明瞭に発現される。BCMAは、初代骨髄腫細胞の大部分においても発現される。CD19などの他のCAR標的とは異なり、BCMAは低密度で発現される(
図2)。
【0056】
BCMAは、
図1で模式的に示される相互接続したリガンドと受容体とのネットワーク内で機能する。2つの他のTNF受容体は、活性化T細胞および全てのB細胞で見出されるBCMA−TACI(TNFRSF13B)、ならびにBリンパ球で優先的に発現するBAFF−R(TNFRSF13C)と、リガンドAPRILおよびBCMAを共有する。多発性骨髄腫細胞は、いくつかの症例においてはTACIを、そしてほとんどの症例においてはBCMAを発現するが、BAFF−Rは全く発現しない。
【0057】
APRIL
本発明のCARのBCMA結合ドメインは、増殖誘導リガンド(APRIL)の少なくとも一部を含む。APRILはTNFSF13としても公知である。
【0058】
APRILの野生型配列は、UNIPROT/O75888で入手でき、以下に示される(配列番号13)。これはシグナルペプチドを有さないという点で古典的な分泌タンパク質ではない。これはフーリン切断部位”KQKKQK”(配列番号13において下線を引かれている)を有する。アミノ末端はプロテオグリカン結合に関係する。
【0059】
BCMA結合ドメインは、APRILのBCMA結合部位を含み得る。BCMA結合ドメインは、BCMA結合部位を含むAPRILの断片を含み得る。
【0060】
BCMA結合ドメインは、分子のアミノ末端を欠失した、短縮型APRILを含み得る。短縮型APRILは、BCMAおよびTACI結合を保持するが、プロテオグリカン結合は失い得る。短縮型APRILは、フーリン切断部位、またはその直後で切断され得る。短縮型APRILは、配列番号13に示される野生型APRIL分子からアミノ末端116アミノ酸を欠失し得る。短縮型APRILは、配列番号14に示される配列(太字で示される配列番号13の一部に対応する)、またはそのバリアントを含み得る。これは、BCMAおよびTACI結合に必要とされる分子の一部に対応する。
【化13】
【化14】
【0061】
本発明のCARは、少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ同等または改良されたBCMA結合能を有する、配列番号14に示される短縮型APRILのバリアントを含み得る。そのバリアント配列は、配列番号14に対して、少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有し得る。
【0062】
核酸配列
本発明の第二の態様は、本発明の第一の態様のCARをコードする核酸配列に関する。
【0063】
核酸配列は、以下の配列の1つであるか、またはそれを含み得る:
【化15-1】
【化15-2】
【化16】
【化17-1】
【化17-2】
【化18-1】
【化18-2】
【化19】
【化20-1】
【化20-2】
【0064】
核酸配列は、配列番号15、16、17、18、19、または20によってコードされるアミノ酸配列と同じアミノ酸配列をコードし得るが、遺伝暗号の縮重に起因して、異なる核酸配列を有し得る。核酸配列は、本発明の第一の態様で定義されるCARをコードする限り、配列番号15、16、17、18、19、または20に示される配列と、少なくとも80、85、90、95、98、または99%の同一性を有し得る。
【0065】
ベクター
本発明は、本発明に記載の核酸配列を含むベクターも提供する。そのようなベクターは、本発明の第一の態様に記載の分子を発現し、かつ産生するよう、宿主細胞に核酸配列を導入するために使用され得る。
【0066】
ベクターは、例えばプラスミドもしくは合成mRNA、またはレトロウイルスベクターもしくはレンチウイルスベクターなどのウイルスベクターであり得る。
【0067】
ベクターは、エフェクター細胞にトランスフェクションまたは形質導入する能力を有し得る。
【0068】
宿主細胞
本発明は、本発明に記載の核酸を含む宿主細胞も提供する。宿主細胞は、本発明の第一の態様に記載のCARを発現する能力を有し得る。
【0069】
宿主細胞は、ヒトT細胞またはヒトNK細胞であり得る。
【0070】
本発明に記載のCARを発現する能力を有するT細胞は、T細胞にCARをコードする核酸を形質導入またはトランスフェクションすることにより作製され得る。
【0071】
T細胞は、エキソビボT細胞であり得る。T細胞は、末梢血単核細胞(PMBC)サンプル由来であり得る。T細胞は、例えば抗CD3モノクローナル抗体を用いた処理によって、CARをコードする核酸を形質導入される前に活性化、および/または増加され得る。
【0072】
薬学的組成物
本発明は、本発明のベクターまたはCAR発現T細胞を、薬学的に許容されるキャリア、希釈液、もしくは添加物、および任意に1つまたは複数の更に薬学的に有効なポリペプチド、および/もしくは化合物を一緒に含む薬学的組成物にも関する。そのような製剤は、例えば、静脈注入に適した形式であり得る。
【0073】
処置の方法
本発明のCAR分子を発現するT細胞は、多発性骨髄腫細胞などのがん細胞を殺傷する能力を有する。CARを発現するT細胞は、患者自身の末梢血由来(第一当事者)、またはドナー末梢血からの造血幹細胞移植の状態において(第二当事者)、またはつながりのないドナーからの末梢血(第三当事者)のいずれかの由来から、エキソビボで創出され得る。代替的に、CAR T細胞は、誘導性前駆細胞または胚性前駆細胞のT細胞へのエキソビボ分化に由来し得る。これらの例として、CAR T細胞は、ウイルスベクターを用いた形質導入、DNAもしくはRNAを用いたトランスフェクションを含む多くの方法の1つにより、CARをコードするDNAまたはRNAを導入することによって生成される。
【0074】
本発明のCAR分子を発現するT細胞は、がん性の疾患、特に亢進したBCMA発現に関連する形質細胞障害またはB細胞障害の治療のために使用され得る。
【0075】
形質細胞障害は、形質細胞腫、形質細胞性白血病、多発性骨髄腫、マクログロブリン血症、アミロイドーシス、ワルデンストレーム型マクログロブリン血症、孤立性骨形質細胞腫、髄外性形質細胞腫、骨硬化性ミエローマ(POEMS症候群)、およびH鎖病と意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症/無症候性骨髄腫を含む。
【0076】
その疾患は、多発性骨髄腫であり得る。
【0077】
上昇したBCMA発現レベルに相関するB細胞障害の例は、CLL(慢性リンパ性白血病)および非ホジキンリンパ腫(NHL)である。本発明の二重特異性結合薬剤は、全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性硬化症(MS)、および関節リウマチ(RA)のような自己免疫疾患の治療においても使用され得る。
【0078】
本発明の方法は、がん性の疾患、特に亢進したBCMA発現に相関する形質細胞障害またはB細胞障害の治療のためであり得る。
【0079】
疾患の処置のための方法は、本発明のベクターまたはT細胞の治療上の使用に関係する。この点で、ベクターまたはT細胞は疾患に付随する少なくとも1つの症状を小さくする、減少する、もしくは改善する、および/または疾患の進行を遅延する、減少する、もしくは阻止するために、既存の疾患または状態を有する被験体に投与され得る。本発明の方法は、形質細胞などのBCMA発現細胞のT細胞媒介性の殺傷を引き起こすか、または促進し得る。
【0080】
ここで本発明がさらに実施例によって記載されるが、これは本発明の実施において当業者を支援することに役立つことを意図しており、本発明の範囲を制限することを何ら意図しない。
【実施例】
【0081】
実施例1 骨髄腫への標的としてのBCMAの特性評価
初代骨髄腫細胞を、明らかに疾患を有することが知られている多発性骨髄腫患者由来の、新鮮な骨髄サンプルでのCD138免疫磁気的選択を行うことによって単離した。これら細胞は、PEと結合体化されたBCMA特異的J6MO mAb (GSK)により染色した。同時に、既知の数の結合部位を有するビーズの標準が、PE Quantibrite bead kit (Becton Dickenson)を使用して、製造者の指示通りに生成した。骨髄腫細胞でのBCMAコピー数は、骨髄腫細胞からの平均蛍光強度と、ビーズより得られた標準曲線とを相関させることによって得ることができた。骨髄腫細胞表面でのBCMAコピー数の範囲は低く:細胞あたり348.7〜4268.4 BCMAコピーであり、平均値が1181、中間値が1084.9(
図2)であることが見出された。これは、CARへの古典的な標的である、例えばCD19およびGD2などより相当低い。初代骨髄腫細胞でのBCMA発現の存在は、Vicky−1抗体(Abcam Ab17323)によっても確認され、この例は
図14に示される。
【0082】
実施例2 APRILに基づくCARのデザインおよび構築
天然形態におけるAPRILは、分泌型II型タンパク質である。CARのためのBCMA結合ドメインとしてのAPRILの使用、およびこのタンパク質を安定に、かつこの形態でのBCMAへの結合を保持するためには、このII型分泌タンパク質のI型膜結合タンパク質への転換を必要とする。候補分子を生成するために、APRILの先端のアミノ末端を欠失させて、プロテオグリカンへの結合を除去した。次に、新生タンパク質を小胞体へ、そしてそこから細胞表面へと指向させるために、シグナルペプチドを付加した。また、使用したスペーサーの性質が、CARの機能を変化させ得るため、3つの異なるスペーサードメインを試験した:(i)Fc結合モチーフを除去するために変化させたヒトIgG1スペーサー;(ii)CD8の柄;および(iii)IgG1ヒンジ単独、を含むAPRILに基づくCARが生成された(
図4に漫画および
図5にアミノ酸配列、ならびに
図19にも異なるシグナルペプチドおよびV5エピトープタグを有する点で、
図5に示される配列とは異なるアミノ酸配列)。これらCARは、マーカータンパク質(短縮型CD34)が、便利なマーカー遺伝子として共発現できるように、バイシストロニックなレトロウイルスベクター(
図6A)に発現させた。
【0083】
実施例3 APRILに基づくCARの発現および機能
本研究の目的は、構築されたAPRILに基づくCARが、細胞表面に発現するか否か、およびAPRILが本来のタンパク質を形成するようにフォールディングされるか否かを試験することであった。T細胞にこれらの異なるCARコンストラクトを形質導入し、そして市販の抗APRIL mAbを使用した染色と同時にマーカー遺伝子についての染色を行い、そしてフローサイトメトリーによって解析した。この実験の結果は、
図6Bに示され、ここでAPRIL結合は、マーカー遺伝子の蛍光に対してプロットしている。これらデータは、この形式においてAPRILに基づくCARは細胞表面に発現しており、かつAPRILは、抗APRIL mAbにより認識されるのに十分にフォールディングされることを示す。
【0084】
次に、この形式のAPRILは、BCMAおよびTACIを認識できるか否かを決定した。リコンビナントBCMAおよびTACIを、マウスIgG2a−Fcとの融合物として生成した。これらリコンビナントタンパク質を、形質導入されたT細胞とインキュベートした。この後に、細胞を洗浄し、そして抗マウスの蛍光物質と結合体化された抗体、および異なる蛍光物質と結合体化された、マーカー遺伝子を検出するための抗体によって染色した。細胞をフローサイトメトリーにより解析し、その結果は
図6Cに提示される。異なるCARは、BCMAおよびTACIの両方に結合することができた。驚くべきことに、CARはTACIよりも良好にBCMAに結合することができた。また驚くべきことに、CD8の柄またはIgG1ヒンジスペーサーを有するCARは、Fcスペーサーを有するCARよりも良好に、BCMAおよびTACIに結合することができた。
【0085】
実施例4 APRILに基づくキメラ抗原受容体は、BCMA発現細胞に対して活性的である
正常ドナー由来T細胞に、異なるAPRIL CARを形質導入し、そして野生型、またはBCMAおよびTACIを発現するように改変した、いずれかのSupT1細胞に対して試験した。機能を決定するために、数種の異なる分析を使用した。古典的なクロム放出分析を行った。ここで、標的細胞(SupT1細胞)を、
51Crを用いて標識し、そしてエフェクター(形質導入されたT細胞)と、異なる比率で混合した。標的細胞の溶解は、共培養上清中の
51Crを計数することにより、決定した(
図6Aは累積のデータを示し、異なるエフェクター:標的比での単独の分析からのデータ例は、
図12に示される)。
【0086】
加えて、SupT1細胞と1:1で培養したT細胞由来上清を、インターフェロンガンマについてELISAによって分析した(
図6Bは累積のデータを示し、単独の分析からのデータ例は
図13に示される)。SupT1細胞との共培養の1週間後でのT細胞増加量の計測も行った(
図6C)。T細胞は、計数ビーズを用いて調整したフローサイトメトリーによって計数した。これら実験データは、APRILに基づくCARが、BCMAを発現する標的を殺傷することができることを示す。更にこれらデータは、CD8の柄またはIgG1ヒンジに基づくCARが、Fc−pvaaに基づくCARよりも良好に挙動したことを示す。
【0087】
実施例5 APRILに基づくCARは、初代骨髄腫細胞を殺傷することができる
上記データは、原理的にはAPRILに基づくCARを作製することができることを実証しているため、励まされる。しかしながら、ほとんどの初代骨髄腫細胞は、その表面において少数のBCMA分子を発現するため、そのようなAPRILに基づくCARが、特に低密度発現の症例において、初代骨髄腫細胞の殺傷を引き起こすか否かについて調べた。
図2において記載されたBCMA発現の範囲に相当する3症例を選択した:第一は不明瞭な発現を有する(平均より低い);第二の症例は中間的な発現を有する(ほぼ平均の発現)、そして第三は明瞭な発現を有した(平均の発現よりも上)。
図8は、BCMA発現を説明するために、左に3症例全てについてのアイソタイプ対照に対するBCMA染色のヒストグラムを示す。異なるスペーサーを有するAPRILに基づくCARを比較したときに、CD8の柄スペーサーおよびIgG1ヒンジスペーサーを有するCARが、Fc−pvaaで間隔を開けられたCARよりも良好に挙動することが決定されたため、この分析においてはCD8の柄およびヒンジのAPRIL CARのみを試験した。左に、骨髄腫細胞とCAR T細胞の1:1共培養後3日および6日での、開始数と比較した骨髄腫細胞の生存を示す。6日までに、不明瞭なBCMA発現を有する骨髄腫細胞を含む、95%超の骨髄腫細胞が排除された。不明瞭にBCMAを発現する骨髄腫細胞は、高度に発現するものよりも殺傷の速度は遅いが、APRIL CARによって標的とされ得る。
【0088】
実施例6 Fcスペーサーに融合された分泌型および短縮型のAPRILは、BCMAおよびTACIを認識する
CAR形式(すなわち、膜貫通ドメインに融合し、そして細胞膜に固定した)における短縮型APRILが、BCMAおよびTACIに結合できるか否か調べるために、基本的なCARを、自己切断する口蹄疫2Aペプチドを用いて、便利なマーカー遺伝子としての短縮型CD34と共に、インフレームで改変した。このコンストラクトを発現する安定なSUPT1細胞株を樹立した。ヒト(および他種、示されない)Ig Fcドメインに融合した分泌型の短縮型BCMAおよびTACIもまた生成し、そしてリコンビナントタンパク質を産生した。BCMA−FcとTACI−Fcとの両方が、改変されたSUPT1細胞株に結合することが示された。CD34マーカー遺伝子を発現する細胞のみが、BCMA−FcおよびTACI−Fcに結合することが見出された(
図9)。
【0089】
実施例7 APRILに基づくキメラ抗原受容体は、T細胞の表面で安定に発現される
CARスペーサードメインは、感度および特異性を変化させ得る。3つのスペーサードメインを有する、3つの型のAPRILに基づくCARが生成された:(i)Fc結合モチーフを除去するために改変したヒトIgG1スペーサー;(ii)CD8の柄;および(iii)IgG1ヒンジ単独(
図10B)。初代ヒトT細胞にこれらの異なるCARを形質導入し、そして市販の抗APRIL mAbを使用して染色した(
図11)。
【0090】
実施例8 APRILに基づくキメラ抗原受容体は、同種の標的を発現する細胞に対して活性的である
通常ドナー由来T細胞に、異なるAPRIL CARを形質導入し、そして野生型、またはBCMAおよびTACIを発現するように改変したSupT1細胞に対して試験した。機能を決定するために、数種の異なる分析を使用した。古典的なクロム放出分析を行った。ここで、標的細胞(SupT1細胞)は
51Crを用いて標識し、そして異なる比率でエフェクター(形質導入されたT細胞)と混合した。標的細胞の溶解は、共培養上清中の
51Crを計数することによって決定した(
図12)。
【0091】
加えて、SupT1細胞と1:1で培養したT細胞由来上清を、インターフェロンガンマについてELISAによって分析した(
図13)。
【0092】
SupT1細胞との共培養の1週間後のT細胞増加量の計測もまた行った。T細胞は、計数ビーズにより調整されたフローサイトメトリーによって計数した。最初のデータ(示されない)は、CD8の柄に基づくコンストラクトが、他のコンストラクトよりも多いT細胞増殖を引き起こすことを示すようである。
【0093】
実施例9 APRIL CAR T細胞のインビボ機能の実証
インビボでのAPRIL CAR T細胞機能を実証するために、ヒト/マウスキメラモデルにおいてAPRIL CAR T細胞を試験した。MM1.s(ATCC CRL−2974)は、中間的なレベルのBCMAを発現するヒト骨髄腫細胞株である。本発明者らは、細胞株MM1.s.FLucを得るために、この細胞株をホタルルシフェラーゼを発現するように改変した。
【0094】
NOD scid gamma(NSG: NOD.Cg−Prkdc
scid Il2rgtm1
Wjl/SzJ)マウスは、いくつかのヒト細胞株およびヒト末梢血リンパ球を移植することのできる、重度免疫不全マウスである。3ヶ月齢メスNSGマウスに、いずれの予備治療もなしに、尾静脈注射を介して1×10
7のMM1.s.FLuc細胞を与えた。移植は、一連の生物発光イメージングによって決定した(
図16)。全てのマウスにおいて、強固であり、かつ増加する髄内移植が観察された。13日目に、5×10
6のAPRIL−HNG−CD28OXZ CAR T細胞を、尾静脈注射により投与した。一連の生物発光を行い、これは全ての処置されたマウスにおいて、MM1.s負荷量における急速な減少から完全な寛解を示した。このCAR治療への応答は、フローサイトメトリーおよび免疫組織化学によって確認した。
【0095】
上記の明細書の中で言及されている全ての刊行物は、本明細書中に参照により援用される。記載された方法の種々の改変および変化、ならびに本発明のシステムは、本発明の範囲および主旨から逸脱することなく、当事者に明白であろう。本発明は具体的な好ましい実施形態に関連して記載したが、特許請求の範囲に記載の発明は、そのような具体的な実施形態に過度に限定されるべきでないことが理解されるべきである。実際に、記載された手法についての発明を遂行するための、分子生物学、細胞免疫学、または関連する分野の当事者にとって明らかな、本発明を実施するための記載された態様の種々の改変は、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
【国際調査報告】