特表2016-538854(P2016-538854A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-538854(P2016-538854A)
(43)【公表日】2016年12月15日
(54)【発明の名称】細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0783 20100101AFI20161118BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20161118BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20161118BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20161118BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20161118BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20161118BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20161118BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20161118BHJP
【FI】
   C12N5/0783ZNA
   C12N15/00 A
   C12N5/10
   A61K35/17 Z
   A61P35/00
   A61P37/02
   C07K19/00
   C07K14/705
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】81
(21)【出願番号】特願2016-532581(P2016-532581)
(86)(22)【出願日】2014年11月21日
(85)【翻訳文提出日】2016年6月27日
(86)【国際出願番号】GB2014053453
(87)【国際公開番号】WO2015075470
(87)【国際公開日】20150528
(31)【優先権主張番号】1320573.7
(32)【優先日】2013年11月21日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】1410934.2
(32)【優先日】2014年6月19日
(33)【優先権主張国】GB
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】507299817
【氏名又は名称】ユーシーエル ビジネス ピーエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】プーレ, マーティン
(72)【発明者】
【氏名】コン, カイ
(72)【発明者】
【氏名】コルドバ, ショーン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BA01
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB43
4C087BB65
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZB07
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045EA22
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、第1のキメラ抗原受容体(CAR)および第2のCARを細胞表面で共発現する細胞であって、各CARが、(i)抗原結合ドメイン(ii)スペーサー(iii)膜貫通ドメイン、および(iv)エンドドメインを含み、第1のCARおよび第2のCARの抗原結合ドメインが異なる抗原に結合し、第1のCARまたは第2のCARの一方が活性化エンドドメインを含む活性化CARであり、他方のCARがライゲーション・オフ阻害性エンドドメインを含む阻害性CARである細胞を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞であって、第1のキメラ抗原受容体(CAR)および第2のCARを該細胞表面で共発現し、各CARが、
(i)抗原結合ドメイン
(ii)スペーサー
(iii)膜貫通ドメイン、および
(iv)エンドドメイン
を含み、該第1のCARおよび該第2のCARの該抗原結合ドメインが異なる抗原に結合し、該第1のCARまたは該第2のCARの一方が活性化エンドドメインを含む活性化CARであり、他方のCARがライゲーション・オン阻害性エンドドメインを含む阻害性CARのいずれかである、T細胞。
【請求項2】
請求項1に記載のT細胞であって、前記第1のCARおよび前記第2のCARの前記スペーサーが、交差対合を防止するために十分に異なるが、該T細胞膜で該CARを共局在させるほどに十分に類似したものである、T細胞。
【請求項3】
前記第1のCARおよび前記第2のCARの前記スペーサーがオーソロガスである、請求項2に記載のT細胞。
【請求項4】
第1の前記スペーサーおよび第2の前記スペーサーが、前記第1のCARおよび前記第2のCARの交差対合を防止するために十分に異なるが、ライゲーション後に該第1のCARおよび該第2のCARの共局在をもたらすほどに十分類似している、請求項1に記載のT細胞。
【請求項5】
前記第1のCARまたは前記第2のCARの一方が、活性化エンドドメインを含む活性化CARであり、他方のCARが、ライゲーション・オン阻害性エンドドメインを含む阻害性CARであり、その阻害性CARが、阻害性CARライゲーションの非存在下では該活性化CARによるT細胞活性化を有意に阻害しないが、該阻害性CARがライゲーションされたときには、該活性化CARによるT細胞活性化を阻害する、請求項4に記載のT細胞。
【請求項6】
前記ライゲーション・オン阻害性エンドドメインが、ホスファターゼの少なくとも一部を含む、請求項5に記載のT細胞。
【請求項7】
前記ライゲーション・オン阻害性エンドドメインが、PTPN6の全部または一部を含む、請求項6に記載のT細胞。
【請求項8】
前記ライゲーション・オン阻害性エンドドメインが、少なくとも1つのITIMドメインを含む、請求項5に記載のT細胞。
【請求項9】
前記ライゲーション・オン阻害性エンドドメインの活性が、PTPN6−CD45融合タンパク質またはPTPN6−CD148融合タンパク質の共発現により高められる、請求項8に記載のT細胞。
【請求項10】
前記活性化エンドドメインを含む前記活性化CARが、CD33と結合する抗原結合ドメインを含み、前記ライゲーション・オン阻害性エンドドメインを含む前記CARが、CD34と結合する抗原結合ドメインを含む、請求項5〜9のいずれかに記載のT細胞。
【請求項11】
2つより多くの抗原の区別可能なパターンを担持する、T細胞などの細胞により特異的に刺激されるような、先行する請求項に記載のCARを2つより多く含むT細胞。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の前記第1のキメラ抗原受容体(CAR)および前記第2のキメラ抗原受容体(CAR)の両方をコードする核酸配列。
【請求項13】
次の構造:
AgB1−スペーサー1−TM1−エンド1−coexpr−AbB2−スペーサー2−TM2−エンド2
(ここで、
AgB1は、前記第1のCARの前記抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
スペーサー1は、該第1のCARの前記スペーサーをコードする核酸配列であり;
TM1は、該第1のCARの前記膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
エンド1は、該第1のCARの前記エンドドメインをコードする核酸配列であり;
coexprは、両CARの共発現を可能にする核酸配列であり;
AgB2は、前記第2のCARの前記抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
スペーサー2は、該第2のCARの前記スペーサーをコードする核酸配列であり;
TM2は、該第2のCARの前記膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
エンド2は、該第2のCARの前記エンドドメインをコードする核酸配列である)
を有し、T細胞で発現されるときに、該第1のCARおよび該第2のCARが該T細胞表面で共発現されるような、切断部位で切断されるポリペプチドをコードする、請求項12に記載の核酸配列。
【請求項14】
coexprが、自己切断性ペプチドを含む配列をコードする、請求項13に記載の核酸配列。
【請求項15】
相同組換えを回避するため、代替的コドンが、同じかまたは類似したアミノ酸配列をコードする配列の領域で使用される、請求項13または14に記載の核酸配列。
【請求項16】
(i)請求項1〜11のいずれかに記載の前記第1のキメラ抗原受容体(CAR)をコードする第1の核酸配列であって、以下の構造:
AgB1−スペーサー1−TM1−エンド1
(ここで、
AgB1は、該第1のCARの前記抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
スペーサー1は、該第1のCARの前記スペーサーをコードする核酸配列であり;
TM1は、該第1のCARの前記膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
エンド1は、該第1のCARの前記エンドドメインをコードする核酸配列である)
を有する核酸配列;および
(ii)請求項1〜11のいずれかに記載の前記第2のキメラ抗原受容体(CAR)をコードする第2の核酸配列であって、以下の構造:
AgB2−スペーサー2−TM2−エンド2
(AgB2は、該第2のCARの前記抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
スペーサー2は、該第2のCARの前記スペーサーをコードする核酸配列であり;
TM2は、該第2のCARの前記膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
エンド2は、該第2のCARの前記エンドドメインをコードする核酸配列である)
を有する核酸配列
を含む、キット。
【請求項17】
請求項16に記載の前記第1の核酸配列を含む第1のベクターおよび請求項16に記載の該第1の核酸配列を含む第2のベクターを含む、キット。
【請求項18】
前記ベクターが組込み型ウイルスベクターまたはトランスポゾンである、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
請求項12〜15のいずれかに記載の核酸配列を含むベクター。
【請求項20】
請求項19によるレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターまたはトランスポゾン。
【請求項21】
請求項12〜15のいずれかに記載の核酸配列;請求項16に記載の第1の核酸配列および第2の核酸配列;および/または請求項17に記載の第1のベクターおよび第2のベクターまたは請求項19または20に記載のベクターを、T細胞に導入する工程を含む、請求項1〜11のいずれかに記載のT細胞を製造する方法。
【請求項22】
前記T細胞が被験体から単離された試料に由来する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項1〜11のいずれかに記載の複数のT細胞を含む医薬組成物。
【請求項24】
請求項23に記載の医薬組成物を被験体に投与する工程を含む、疾患を処置および/または予防する方法。
【請求項25】
次の工程:
(i)被験体からのT細胞含有試料の単離;
(ii)請求項12〜15のいずれかに記載の核酸配列;請求項16に記載の第1の核酸配列および第2の核酸配列;請求項17または18に記載の第1のベクターおよび第2のベクターまたは請求項19または20に記載のベクターでの該T細胞の形質導入またはトランスフェクション;ならびに
(iii)該被験体に(ii)からの該T細胞を投与すること
を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記疾患ががんである、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
疾患の処置および/または予防で使用するための請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項28】
疾患を処置および/または予防するための医薬の製造における請求項1〜11のいずれかに記載のT細胞の使用。
【請求項29】
第1のキメラ抗原受容体(CAR)および第2のCARを細胞表面で共発現するナチュラルキラー(NK)細胞であって、各CARが、
(i)抗原結合ドメイン;
(ii)スペーサー;
(iii)膜貫通ドメイン;および
(iv)エンドドメイン
を含み、該第1のCARおよび該第2のCARの該抗原結合ドメインが異なる抗原に結合し、該第1のCARまたは該第2のCARの一方が、活性化エンドドメインを含む活性化CARであり、他方のCARが、ライゲーション・オン阻害性エンドドメインを含む阻害性CARである、ナチュラルキラー細胞。
【請求項30】
前記第1のCARおよび前記第2のCARをコードする核酸により血液試料を生体外で形質導入することにより作製される、請求項1に記載のCAR発現T細胞および/または請求項29に記載のCAR発現NK細胞を含む細胞組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、複数のキメラ抗原受容体(CAR)を含む細胞に関するものである。該細胞は、標的細胞による2またはそれより多くの抗原の発現(または非発現)パターンに差異がある故に、該標的細胞を特異的に認識することができるものであり得る。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
若干の免疫治療剤が、治療用モノクローナル抗体(mAb)、免疫コンジュゲートmAb、放射性コンジュゲートmAbおよび二重特異性T細胞エンゲージャーを含め、がん処置での使用について記載されている。
【0003】
典型的には、これらの免疫治療剤は、単一の抗原を標的とし、例えば、リツキシマブであればCD20を標的とし、ミエロタルグであればCD33を標的とし、そしてアレムツズマブであればCD52を標的とする。
【0004】
しかしながら、がんに関し有効な形での単一の抗原の存在(または非存在)について記載されるのは比較的まれであることから、特異性が欠如することになり得る。正常細胞での抗原発現の標的化は、標的に対するが、腫瘍外の(on−target,off−tumour)毒性をまねくことになる。
【0005】
ほとんどのがんは、単一抗原に基づいた正常組織からは分化され得ない。このため、相当な「標的に対するが、腫瘍外の(on−target off−tumour)」毒性が生じることにより、正常組織は該治療により損傷をうける。例えば、リツキシマブでCD20を標的としてB細胞リンパ腫を処置していると、正常なB細胞区画全体が枯渇し、CD52を標的として慢性リンパ性白血病を処置していると、リンパ系区画全体が枯渇し、CD33を標的として急性骨髄性白血病を処置していると、骨髄系区画全体が損傷をうけるなどである。
【0006】
予想された「on−target off−tumour」毒性の問題は、臨床試験により確証されている。例えば、ERBB2を標的とする手法は、肺および肝臓への転移がある結腸がんの患者に死をもたらした。ERBB2は、一部の患者では結腸がんで過剰発現されているが、心臓および正常な脈管構造を含むいくつかの正常組織でも発現されている。
【0007】
がんの中には、1つの抗原(典型的には組織特異的抗原)の存在および正常細胞上に存在する別の抗原の欠如により腫瘍が明確に特定されるものもある。例えば、急性骨髄性白血病(AML)細胞は、CD33を発現する。正常幹細胞は、CD33を発現するが、CD34も発現し、AML細胞は典型的にはCD34陰性である。AMLを処置するためのCD33のみの標的化は、それが正常な幹細胞を枯渇させるため著しい毒性との関連を示す。しかしながら、CD33陽性であるがCD34陽性ではない細胞を特異的に標的化すれば、この注目すべき標的外毒性は回避されることになる。
【0008】
したがって、標的指向性を高めて多くのがんと関連するマーカー発現の複雑なパターンを反映させることができる免疫治療剤が要望されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
キメラ抗原受容体(CAR)
キメラ抗原受容体は、モノクローナル抗体(mAb)の特異性をT細胞のエフェクター機能に結び付けるタンパク質である。キメラ抗原受容体の通常形態は、抗原認識性アミノ末端、スペーサー、T細胞生存および活性化シグナルを伝達する複合エンドドメインにすべて連結された膜貫通ドメインを有するI型膜貫通ドメインタンパク質の形態である(図1A参照)。
【0010】
これらの分子の最も一般的な形態は、シグナル伝達エンドドメインにスペーサーおよび膜貫通ドメインを介して融合された、標的抗原を認識するモノクローナル抗体から誘導された1本鎖可変フラグメント(scFv)の融合体である。上記分子は、その標的のscFvによる認識に応答してT細胞の活性化をもたらす。T細胞がかかるCARを発現すると、T細胞はその標的抗原を発現する標的細胞を認識し、殺す。いくつかのCARが腫瘍関連抗原に対して開発されており、かかるCAR発現T細胞を用いる養子移入手法は、現在様々ながんの処置についての臨床試験にかけられている。
【0011】
しかしながら、CAR発現T細胞の使用はまた、on−target,off−tumour毒性と関連している。例えば、炭酸脱水酵素(carboxy anyhydrase)IX(CAIX)を標的として腎細胞癌を処置するCARに基づく手法は、胆管上皮細胞に対する特異チャレンジにより引き起こされると考えられる肝臓毒性をもたらした(Lamersら(2013)Mol.Ther.21:904−912)。
【0012】
したがって、選択性がさらに高く、on−target,off−tumour毒性が低減された代替的なCARに基づくT細胞手法が要望されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1(a)は、CARの一般化構造である:結合ドメインは抗原を認識し;スペーサーは細胞表面から結合ドメインを持ち上げ;膜貫通ドメインはタンパク質を膜につなぎ留め、エンドドメインはシグナルを伝達する。図1(b)〜(d)は、CARエンドドメインの異なる世代および並べ替えを示す:(b)最初の設計はFcεR1−γまたはCD3ζエンドドメインのみを通じてITAMシグナルを伝達し、後の設計は、シス配列で(c)さらに1つまたは(d)さらに2つの共刺激シグナルを伝達した。
図2図2は、本発明を説明する概略図である。 本発明は、標的細胞抗原発現の論理的規則に応じるようにT細胞を操作することに関する。これについては、仮想的FACS散布図で十分説明されている。標的細胞集団は、抗原「A」および「B」の両方または片方を発現するかまたはどちらも発現しない。種々の標的集団(赤色で印を付している)は、異なるゲートにより連結された一対のCARで形質導入されたT細胞により殺される。ORゲート受容体では、シングル陽性細胞およびダブル陽性細胞の両方が殺される。ANDゲート受容体では、ダブル陽性標的細胞のみが殺される。AND NOTゲーティングでは、ダブル陽性標的は保存され、シングル陽性標的は
図3図3は、標的細胞集団の作製を示す。 SupT1細胞を標的細胞として使用した。これらの細胞に対しCD19、CD33のどちらかまたはCD19およびCD33の両方を発現するように形質導入を行った。標的細胞を適切な抗体で染色し、フローサイトメトリーにより解析した。
図4図4は、ORゲートについてのカセット設計である。 単一のオープンリーディングフレームにより、枠内FMD−2A配列をもつ両CARが提供され、2つのタンパク質をもたらす。シグナル1は、IgG1に由来するシグナルペプチドである(ただし、任意の有効なシグナルペプチドであり得る)。scFv1は、CD19を認識する1本鎖可変セグメントである(ただし、scFvまたはペプチドループまたはリガンドまたは事実上、所望のいかなる随意の標的でも認識する任意のドメインであってもよい)。STKは、CD8ストークであるが、任意の適切な細胞外ドメインであり得る。CD28tmは、CD28膜貫通ドメインであるが、任意の安定したI型タンパク質膜貫通ドメインであり得(can by)、CD3ZはCD3ゼータエンドドメインであるが、ITAMを含む任意のエンドドメインであり得る。シグナル2は、CD8に由来するシグナルペプチドであるが、シグナル1とはDNA配列が異なる任意の有効なシグナルペプチドであり得る。scFVはCD33を認識するが、scFv1については定まっていない。HC2CH3は、ヒトIgG1のヒンジ−CH2−CH3であるが、第1のCARで使用されるスペーサーと交差対合することのない任意の細胞外ドメインであり得る。CD28tm’およびCD3Z’は、CD28tmおよびCD3Zと同じタンパク質配列をコードするが、相同組換えを防止するためコドンのゆらぎを呈する。
図5図5は、ORゲートについてのキメラ抗原受容体(CAR)の概略図である。N末端A)抗CD19scFvドメイン、続いてヒトCD8の細胞外ヒンジ領域またはB)抗CD33scFvドメイン、続いてヒトIgG1の細胞外ヒンジ、CH2およびCH3(FcR結合を低減するためpvaa変異を含む)領域のどちらかで構成される刺激性CARが構築された。両受容体ともヒトCD28膜貫通ドメインおよびヒトCD3ゼータ(CD247)細胞内ドメインを含む。「S」はジスルフィド結合の存在を示す。
図6図6は、1つのT細胞の表面における両CARの共発現を示す発現データである。
図7図7は、ORゲートの機能分析である。 ORゲート構築物を発現するエフェクター細胞(5×10細胞)を、様々な数の標的細胞と共インキュベーションし、IL−2を16時間後ELISAにより分析した。グラフは、3複製物から得た、エフェクター細胞単独の化学的刺激(PMAおよびイオノマイシン)からの平均最大IL−2分泌および刺激を一切伴わないエフェクター細胞からの平均バックグラウンドIL−2を示す。
図8図8は、両ANDゲートを発現するのに使用されるカセットの両バージョンを示すカートゥーンである。 FMD−2A配列を用いて活性化CARおよび阻害性CARを再度共発現させた。シグナル1は、IgG1に由来するシグナルペプチドである(ただし、任意の有効なシグナルペプチドであり得る)。scFv1は、CD19を認識する1本鎖可変セグメントである(ただし、scFvまたはペプチドループまたはリガンドまたは事実上、所望のいかなる随意の標的でも認識する任意のドメインであり得る)。STKは、CD8ストークであるが、任意の嵩高くない細胞外ドメインであってもよい。CD28tmは、CD28膜貫通ドメインであるが、任意の安定したI型タンパク質膜貫通ドメインであり得、CD3ZはCD3ゼータエンドドメインであるが、ITAMを含む任意のエンドドメインであり得る。シグナル2は、CD8に由来するシグナルペプチドであるが、シグナル1とはDNA配列が異なる任意の有効なシグナルペプチドであり得る。scFVはCD33を認識するが、scFv1については定まっていない。HC2CH3は、ヒトIgG1のヒンジ−CH2−CH3であるが、任意の嵩高い細胞外ドメインであり得る。CD45およびCD148は、それぞれCD45およびCD148の膜貫通およびエンドドメインであるが、この種のタンパク質のいずれかに由来するものであってもよい。
図9図9は、ANDゲートについてのキメラ抗原受容体(CAR)のタンパク質構造の概略図である。 刺激性CARはN−末端抗CD19scFvドメイン、次いでヒトCD8の細胞外ストーク領域、ヒトCD28膜貫通ドメインおよびヒトCD3ゼータ(CD247)細胞内ドメインから成る。2つの阻害性CARを試験した。これらは、N−末端抗CD33scFvドメイン、次いでヒトIgG1の細胞外ヒンジ、CH2およびCH3(FcR結合を低減するためpvaa変異を含む)領域、次いでヒトCD148またはCD45のどちらかの膜貫通および細胞内ドメインから成る。「S」は、ジスルフィド結合の存在を示す。
図10図10は、活性化CARおよび阻害性CARの共発現を示す。 BW5147細胞をエフェクター細胞として使用し、形質導入することにより、活性化抗CD19CARおよび阻害性抗CD33CARの1つを共に発現させた。エフェクター細胞をCD19マウスFcおよびCD33ウサギFcおよび適切な二次抗体で染色し、フローサイトメトリーにより分析した。
図11図11は、ANDゲートの機能分析である。 活性化抗CD19CARおよびA)CD148またはB)CXD45細胞内ドメインをもつ阻害性抗CD33 CARを発現するエフェクター細胞(5×10細胞)を、様々な数の標的細胞と共インキュベーションし、IL−2を16時間後ELISAにより分析した。グラフは、3複製物から得た、エフェクター細胞単独の化学的刺激(PMAおよびイオノマイシン)からの最大IL−2分泌および刺激を一切伴わないエフェクター細胞からのバックグラウンドIL−2を示す。
図12図12は、AND NOTゲートを生成させるのに使用されるカセットの3つのバージョンを示すカートゥーンである。 FMD−2A配列を用いて活性化CARおよび阻害性CARを再度共発現させた。シグナル1は、IgG1に由来するシグナルペプチドである(ただし、任意の有効なシグナルペプチドであり得る)。scFv1は、CD19を認識する1本鎖可変セグメントである(ただし、scFvまたはペプチドループまたはリガンドまたは事実上、所望のいかなる随意の標的でも認識する任意のドメインであり得る)。STKは、ヒトCD8ストークであるが、任意の嵩高くない細胞外ドメインであってもよい。CD28tmは、CD28膜貫通ドメインであるが、任意の安定したI型タンパク質膜貫通ドメインであり得、CD3ZはCD3ゼータエンドドメインであるが、ITAMを含む任意のエンドドメインであり得る。シグナル2は、CD8に由来するシグナルペプチドであるが、シグナル1とはDNA配列が異なる任意の有効なシグナルペプチドであり得る。scFVはCD33を認識するが、scFv1については定まっていない。muSTKはマウスCD8ストークであるが、ただし、共局在するが、活性化CARのスペーサーと交差対合することのない任意のスペーサーであり得る。dPTPN6は、PTPN6のホスファターゼドメインである。LAIR1は、LAIR1の膜貫通およびエンドドメインである。2Awは、FMD−2A配列のゆらぎコドンバージョンである。SH2−CD148は、CD148のホスファターゼドメインと融合したPTPN6のSH2ドメインである。
図13図13は、NOT ANDゲートについてのキメラ抗原受容体(CAR)の概略図である。 A)N末端抗CD19 scFvドメイン、次いでヒトCD8のストーク領域、ヒトCD28膜貫通ドメインおよびヒトCD247細胞内ドメインから成る刺激性CAR。B)N末端抗CD33 scFvドメイン、次いでマウスCD8のストーク領域、マウスCD8の膜貫通領域およびPTPN6のホスファターゼドメインから成る阻害性CAR。C)N末端抗CD33 scFvドメイン、次いでマウスCD8のストーク領域およびLAIR1の膜貫通および細胞内セグメントから成る阻害性CAR。D)PTPN6 SH2ドメインおよびCD148ホスファターゼドメインの融合タンパク質と共発現されること以外は先行のCARと同一である阻害性CAR。
図14図14は、NOT ANDゲートの機能分析である。 A)完全長SHP−1またはB)SHP−1の先端切除形態を発現するエフェクター細胞(5×10細胞)を、様々な数の標的細胞と共インキュベーションし、IL−2を16時間後ELISAにより分析した。グラフは、3複製物から得た、エフェクター細胞単独の化学的刺激(PMAおよびイオノマイシン)からの平均最大IL−2分泌および刺激を一切伴わないエフェクター細胞からの平均バックグラウンドIL−2を示す。
図15図15は、ORゲートのアミノ酸配列である。
図16図16は、CD148およびCD145に基づくANDゲートのアミノ酸配列である。
図17図17は、2つのAND NOTゲートのアミノ酸配列である。
図18図18は、ANDゲート機能を詳細に吟味したものである。 A.プロトタイプのANDゲートが右側に図示されており、CD19シングル、CD33シングルおよびCD19、CD33ダブルの陽性標的に応じたその機能が左側に示されている。B.scFVを交換すると、活性化エンドドメインはCD33により発動され、阻害性エンドドメインはCD19により活性化される。このANDゲートは、scFv交換にもかかわらず機能的なままである。C.阻害性CARのスペーサーにおけるCD8マウスストーク置換Fc。この修飾により、ゲートは、CD19シングル陽性標的にもCD19、CD33ダブル陽性標的にも応答できなくなる。
図19図19は、人工標的細胞上における標的抗原の発現を示す。 Aは、SupT1細胞から誘導された人工標的細胞のオリジナルセットのフローサイトメトリー散布図CD19対CD33を示す。左から右へ:ダブル陰性SupT1細胞、CD19に陽性、CD33に陽性、ならびにCD19およびCD33の両方に陽性のSupT1細胞。Bは、CD19 AND GD2ゲートを試験するために生成された人工標的細胞のフローサイトメトリー散布図CD19対GD2を示す。左から右へ:陰性SupT1細胞、CD19を発現するSupT1細胞、GD2陽性となるGD2およびGM3シンターゼベクターで形質導入されたSupT1細胞および、GD2およびCD19の両方に陽性であるCD19ならびにGD2およびGM3シンターゼで形質導入されたSupT1細胞。Cは、CD19 AND EGFRvIIIゲートを試験するために生成された人工標的のCD19対EGFRvIIIのフローサイトメトリー散布図を示す。左から右へ:陰性SupT1細胞、CD19を発現するSupT1細胞、EGFRvIIIで形質導入されたSupT1細胞ならびにCD19およびEGFRvIIIの両方で形質導入されたSupT1細胞。Dは、CD19 AND CD5ゲートを試験するために生成された人工標的のCD19対CD5のフローサイトメトリー散布図を示す。左から右へ:陰性293T細胞、CD19で形質導入された293T細胞、CD5で形質導入された293T細胞、CD5およびCD19ベクターの両方で形質導入された293T細胞。
図20図20は、ANDゲートの一般化可能性である。 A.改変されたANDゲートのカートゥーンであり、第2のCARの特異性はCD33の元の特異性から変更されており、3つの新たなCAR:CD19 AND GD2、CD19 AND EGFRvIII、CD19 AND CD5が生成される。B.CD19 AND GD2 ANDゲート:左:ANDゲートの発現について、CD19 CARについての組換えCD19−Fc染色(x軸)対GD2 CARについての抗ヒトFc染色(y軸)が示されている。右:シングル陽性およびダブル陽性標的への応答における機能。C.CD19 AND EGFRvIII ANDゲート:左:ANDゲートの発現について、CD19 CARについての組換えCD19−Fc染色(x軸)対EGFRvIII CARについての抗ヒトFc染色(y軸)が示されている。右:シングル陽性およびダブル陽性標的への応答における機能。D.CD19 AND CD5 ANDゲート:左:ANDゲートの発現について、CD19 CARについての組換えCD19−Fc染色(x軸)対CD5 CARについての抗ヒトFc染色(y軸)が示されている。右:シングル陽性およびダブル陽性標的への応答における機能。
図21図21は、AND NOTゲートの機能である。 3回実施のAND NOTゲートの機能を示す。試験したゲートのカートゥーンが右側に示され、シングル陽性およびダブル陽性標的への応答における機能が左側に示されている。A.PTPN6に基づいたAND NOTゲートであり、第1のCARは、CD19を認識し、ヒトCD8ストークスペーサーおよびITAM含有活性化エンドドメインを有し;CD33を認識し、マウスCD8ストークスペーサーを有し、PTPN6ホスファターゼドメインを含むエンドドメインを有する第2のCARと共発現される。B.エンドドメインがLAIR1からのエンドドメインにより置換されたこと以外、ITIMに基づくAND NOTゲートはPTPN6ゲートと同一である。C.PTPN6 SH2およびCD148のエンドドメイン間のさらなる融合が発現されること以外、CD148ブーストAND NOTゲートはITIMに基づくゲートと同一である。3つのゲートはすべて、CD19およびCD33両方への応答ではなくCD19への応答での活性化により予想された通りに機能する。
図22図22は、PTPN6に基づくAND NOTゲート機能の詳細な吟味である。 元のPTPN6に基づくAND NOTゲートを、モデルを示すべく幾つかの対照と比較する。試験したゲートのカートゥーンを右側に示し、シングル陽性およびダブル陽性標的への応答における機能を左側に示す。A.元のAND NOTゲートであり、第1のCARは、CD19を認識し、ヒトCD8ストークスペーサーおよびITAM含有活性化エンドドメインを有し;CD33を認識し、マウスCD8ストークスペーサーを有し、PTPN6ホスファターゼドメインを含むエンドドメインを有する第2のCARと共発現される。B.改変されたAND NOTゲートであり、マウスCD8ストークスペーサーがFcスペーサーにより置き換えられている。C.PTPN6ホスファターゼドメインがCD148からのエンドドメインで置き換えられるように改変されたAND NOTゲート。元のAND NOTゲート(A.)は、CD19およびCD33の両方への応答ではなく、CD19への応答での発動により予想された通りに機能する。B.でのゲートは、CD19単独またはCD19およびCD33の両方に応答して発動する。C.でのゲートが、一方または両方の標的に応答して発動することはない。
図23図23は、LAIR1に基づくAND NOTゲートの詳細な吟味である。 CD19陽性標的、CD33陽性標的およびCD19、CD33ダブル陽性標的に対する機能的活性を示す。A.元のITIMに基づくAND NOTゲートの構造および活性。このゲートは、2つのCARにより構成される:第1のCARは、CD19を認識し、ヒトCD8ストークスペーサーおよびITAM含有エンドドメインを有し、第2のCARはCD33を認識し、マウスCD8ストークスペーサーおよびITIM含有エンドドメインを有する。B.マウスCD8ストークスペーサーがFcドメインにより置き換えられている対照ITIMに基づくゲートの構造および活性。このゲートは、2つのCARにより構成される:第1のCARは、CD19を認識し、ヒトCD8ストークスペーサーおよびITAM含有エンドドメインを有し、第2のCARはCD33を認識し、FcスペーサーおよびITIM含有エンドドメインを有する。両ゲートとも、CD19シングル陽性標的に応答し、元のゲートのみがCD19およびCD33ダブル陽性標的への応答において不活性である。
図24A図24は、CAR論理ゲートの動力学的分離モデルである。 ANDゲート、NOT ANDゲートおよび対照の動力学的分離および行動のモデル。CARはCD19またはCD33のいずれかを認識する。免疫学的シナプスは、標的細胞膜を表す青線とT細胞膜を表す赤線の間にあると想像され得る。「45」は、T細胞上に存在する天然CD45タンパク質である。「H8」は、スペーサーとしてヒトCD8ストークを伴うCARエクトドメインである。「Fc」は、スペーサーとしてヒトHCH2CH3を伴うCARエクトドメインである。「M8」は、スペーサーとしてネズミCD8ストークを伴うCARエクトドメインである。「19」は、標的細胞表面上のCD19を表す。「33」は、標的細胞表面上のCD33を表す。記号
【数1】
は、ITAMを含有する活性化エンドドメインを表す。記号
【数2】
は、緩慢な動態を有するホスファターゼ−PTPN6またはITIMの触媒ドメインを含むものなどの「ライゲーション・オン」エンドドメインを表す。記号
【数3】
は、速い動態を有するホスファターゼ−CD45またはCD148のエンドドメインなどの「ライゲーション・オフ」エンドドメインを表す。この記号を図面で拡大することにより、その強力な活性を強調する。
(a)は、一組のCARを含む機能的ANDゲートの仮定される行動を示すもので、第1のCARは、CD19を認識し、ヒトCD8ストークスペーサーおよび活性化エンドドメインを有し、第2のCARは、CD33を認識し、FcスペーサーおよびCD148エンドドメインを有する;
(b)は、対照ANDゲートの仮定される行動を示す。ここで、第1のCARは、CD19を認識し、ヒトCD8ストークスペーサーおよび活性化エンドドメインを有し、第2のCARは、CD33を認識するが、マウスCD8ストークスペーサーおよびCD148エンドドメインを有する;
(c)は、一組のCARを含む機能的AND NOTゲートの行動を示すもので、第1のCARは、CD19を認識し、ヒトCD8ストークスペーサーおよび活性化エンドドメインを有し、第2のCARは、CD33を認識し、マウスCD8ストークスペーサーおよびPTPN6エンドドメインを有する;
(d)は、一組のCARを含む対照AND NOTゲートの仮定される行動を示すもので、第1のCARは、CD19を認識し、ヒトCD8ストークスペーサーおよび活性化エンドドメインを有し、第2のCARは、CD33を認識するが、FcスペーサーおよびPTPN6エンドドメインを有する;
1列目では、標的細胞は、CD19およびCD33の両方に陰性である。2列目では、標的は、CD19陰性およびCD33陽性である。3列目では、標的細胞は、CD19陽性およびCD33陰性である。4列目では、標的細胞はCD19およびCD33の両方に陽性である。
図24B】同上
図25図25は、APRILに基づくCARの設計である。 scFVが、BCMA、TACIおよびプロテオグリカンと相互作用して(interacts with interacts with)、抗原結合ドメインとして作用する、A増殖誘導性リガンド(APRIL)の改変形態で置き換えられるようにCAR設計を改変した。プロテオグリカン結合性アミノ末端が存在しないように、APRILの先端を切除した。次いで、シグナルペプチドを先端切除APRILアミノ末端に結合して、タンパク質を細胞表面に指向させた。このAPRILに基づく結合ドメインをもつ3つのCARを生成した:A.第1のCARでは、ヒトCD8ストークドメインをスペーサードメインとして使用した。B.第2のCARでは、IgG1からのヒンジをスペーサードメインとして使用した。C.第3のCARでは、Fc受容体結合を低減するためにHombachら(2010 Gene Ther.17:1206−1213)により記載されたpva/a変異で改変されたヒトIgG1のヒンジ、CH2およびCH3ドメインを、スペーサーとして使用した(以後、Fc−pvaaと称す)。全CARにおいて、これらのスペーサーをCD28膜貫通ドメイン、次いでCD28、OX40およびCD3−ゼータエンドドメインの融合体を含む3連エンドドメイン(tripartite endodomain)に連結した(Puleら、Molecular therapy,2005:12巻;5号;933−41頁)。
図26図26は、上記3つのAPRIL−CARの注釈付きアミノ酸配列である。 Aは、CD8ストークAPRIL CARの注釈付きアミノ酸配列を示し;Bは、APRIL IgG1ヒンジに基づくCARの注釈付きアミノ酸配列を示し;Cは、APRIL Fc−pvaaに基づくCARの注釈付きアミノ酸配列を示す。
図27図27は、異なるAPRILに基づくCARの発現およびリガンド結合を示す。 A.受容体を、レトロウイルス遺伝子ベクターにおけるマーカー遺伝子先端切除CD34と共発現させた。形質導入された細胞におけるマーカー遺伝子の発現により、形質導入の確認が可能となる。B.T細胞に対し、CD8ストークスペーサー、IgG1ヒンジまたはFcスペーサーのどちらかを伴うAPRILに基づくCARで形質導入した。これらの受容体を細胞表面で安定して発現させることができるかどうかを試験するため、次にT細胞を抗APRIL−ビオチン/ストレプトアビジンAPCおよび抗CD34で染色した。フローサイトメトリー分析を行った。APRILが3つのCARにおける細胞表面で等しく検出されたことから、それらが等しく安定して発現されていることが示唆された。C.次に、CARがTACIおよびBCMAを認識する能力を決定した。形質導入されたT細胞を、抗マウス二次抗体(anti−mouse secondary)および抗CD34と一緒にマウスIgG2a Fc融合体に融合された組換えBCMAまたはTACIのどちらかで染色した。3つの受容体フォーマットは全て、BCMAおよびTACIの両方への結合性を示した。驚くべき発見は、BCMAへの結合性がTACIへの結合性より大きくみえることであった。さらなる驚くべき発見は、3つのCARは全て等しく発現されるが、CD8ストークおよびIgG1ヒンジCARは、BCMAおよびTACIを認識する点でFcスペーサーを伴うものより優れているようであることであった。
図28図28は、異なるCAR構築物の機能を示す。 機能アッセイを、3つの異なるAPRILに基づくCARにより実施した。非形質導入(NT)であるか、または異なるCARを発現するように形質導入された正常ドナーの末梢血T細胞。等しい力価の上清を用いて、形質導入を実施した。次いで、これらのT細胞を、CD56を除去して非特異的NK活性を枯渇させ、エフェクターとして使用した。非形質導入(NT)SupT1細胞またはBCMAまたはTACIを発現するように形質導入されたSupT1細胞を、標的として用いた。示されたデータは、5回の独立実験からの平均値および標準偏差である。A.BCMAおよびTACI発現T細胞の特異的致死を、クロム放出を用いて決定した。B.また、インターフェロン−μ放出を決定した。標的およびエフェクターを1:1の割合で共培養した。24時間後、上清中のインターフェロンμを、ELISAによりアッセイした。C.また、CAR T細胞の増殖/生存を、さらに6日間インキュベーションした同じ共培養におけるCAR T細胞の数を数えることにより決定した。3つのCARは全て、BCMAおよびTACI発現標的に対する応答を指令する。BCMAへの応答は、TACIの場合より大きかった。
図29図29は、初代細胞におけるANDゲートの機能である。 PBMCを血液から単離し、PHAおよびIL−2を用いて刺激した。2日後、細胞を、レトロネクチン被覆プレート上でCD19:CD33 ANDゲート構築物を含むレトロウイルスにより形質導入した。5日目、ANDゲート構築物により翻訳された2つのCARの発現レベルをフローサイトメトリーにより評価し、細胞からCD56+細胞(主にNK細胞)を枯渇させた。6日目、PBMCを1:2のエフェクター対標的細胞比で標的細胞との共培養中に置いた。8日目、上清を集め、ELISAによりIFN−ガンマ分泌について分析した。
図30図30は、ANDNOTゲートにおけるIgMおよびIgGを示す。 ANDNOTゲートが延長されたスペーサー長に関して機能することができるかどうかを試験するため、活性化CAR(抗CD19)スペーサーと阻害性CAR(抗CD33)スペーサーの両方をより長いスペーサーに置き換えた。ヒトIgMおよびIgGのFc領域を用いて、スペーサー長を伸ばした。IgMのFcは、IgGと比較すると追加のIgドメインを含んでおり、この理由のため、IgMスペーサーを、膜近位結合性エピトープを有することが知られている抗CD19 CAR上に配置させた。対照的に、抗CD33結合性エピトープは、分子の遠位末端に位置しているため、比較的短いIgGスペーサーをこのCAR上で用いた。伸長スペーサーANDNOTゲート構築物を、マウスT細胞系へ形質導入した。次いで、一定数の形質導入T細胞を、様々な数の標的細胞と16〜24時間共培養し、その後、上清中の分泌されたIL−2の量をELISAにより分析した。
図31A図31は、抗CD19/抗GD2 ANDNOTゲートを示す。 ANDNOTゲートプラットフォームの堅牢性を試験するため、阻害性CAR(抗CD33)からの結合ドメインを、2つの他の非関連バインダー(抗GD2および抗EGFRvIII)で置き換えた。抗GD2または抗EGFRvIIIについてのscFvフラグメントを、先端切除したSHP−1またはLAIR細胞質ゾルドメインを伴うANDNOTゲートプラットフォームにおいて阻害性CARの抗CD33と置き換えた。これらの構築物を、マウスT細胞系へ形質導入させ、一定数のT細胞を様々な数の標的細胞と共培養した。16〜24時間の共培養後、上清中の分泌されたIL−2の量をELISAにより分析した。A)抗CD19/抗GD2 ANDNOTゲート B)抗CD19/抗EGFRvIII ANDNOTゲート。
図31B】同上
図32図32は、論理ゲートCAR T細胞を構築するための設計規則である。 上部に標的細胞、下部にT細胞、中間にシナプスとしたカートゥーンフォーマットでOR、AND NOTおよびANDゲートCARを示す。標的細胞は、任意の標的抗原AおよびBを発現する。 T細胞は、抗A認識ドメインおよび抗B認識ドメイン、スペーサーおよびエンドドメインを含む2つのCARを発現する。ORゲートは、(1)単に抗原認識およびCAR活性化を可能にするスペーサー、ならびに(2)活性化エンドドメインを有するための両CARを必要とする;AND NOTゲートは、(1)両抗原の認識の際に両CARの共分離をもたらすスペーサーならびに(2)活性化エンドドメインを伴う一方のCAR、およびエンドドメインが弱いホスファターゼを含むかまたはリクルートする他方のCARを必要とする;ANDゲートは、(1)両抗原の認識の際に免疫学的シナプスの異なる部分への両CARの分離をもたらすスペーサーならびに(2)活性化エンドドメインを伴う一方のCAR、およびエンドドメインが強力なホスファターゼを含む他方のCARを必要とする。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(発明の態様の概要)
本発明者らは、T細胞などの細胞により発現されたとき、少なくとも2つの標的抗原の特定の発現パターンを検出することができる「論理ゲート」キメラ抗原受容体対のパネルを開発した。少なくとも2つの標的抗原が抗原Aおよび抗原Bとして任意に示されるならば、3つの可能な選択肢は以下のようになる:
「ORゲート」−抗原Aまたは抗原Bのどちらかが標的細胞上に存在するときT細胞が発動する。
「ANDゲート」−抗原Aおよび抗原Bの両方が標的細胞上に存在するときのみT細胞が発動する。
「AND NOTゲート」−抗原Aが標的細胞上に単独で存在するならば、T細胞は発動するが、抗原Aおよび抗原Bの両方が標的細胞上に存在するときには発動しない。
【0015】
これらのCARの組み合わせを発現する操作されたT細胞は、それらの2またはそれより多くのマーカーの特定の発現(または発現の欠如)に基づき、がん細胞に極めて特異的になるように調整され得る。
【0016】
したがって、第1の態様では、本発明は、第1のキメラ抗原受容体(CAR)および第2のCARを細胞表面で共発現する細胞であって、各CARが、
(i)抗原結合ドメイン;
(ii)スペーサー;
(iii)膜貫通ドメイン;および
(iv)細胞内T細胞シグナル伝達ドメイン(エンドドメイン)
を含み、
第1のCARおよび第2のCARの抗原結合ドメインが異なる抗原に結合し、に第1のCARまたは第2のCARの一方が活性化細胞内T細胞シグナル伝達ドメインを含む活性化CARであり、他方のCARが「ライゲーション・オン」(本明細書で定義されるとおりの)阻害性細胞内T細胞シグナル伝達ドメインを含む阻害性CARである、細胞を提供する。
【0017】
該細胞は、T細胞またはナチュラルキラー(NK)細胞などの免疫エフェクター細胞であり得る。T細胞に関して本明細書で挙げた特徴は、NK細胞などの他の免疫エフェクター細胞にも等しく当てはまる。
【0018】
第1のCARのスペーサーは、第2のCARのスペーサーと異なるものであり得る。
【0019】
第1のCARおよび第2のCARのスペーサーは、交差対合を防止するために十分に異なるが、T細胞膜で両CARを共局在させるために十分に類似したものであり得る。
【0020】
第1のCARおよび第2のCARのスペーサーは、マウスおよびヒトCD8ストークなど、オーソロガスであり得る。
【0021】
「AND NOT」ゲートに関する本発明では、第1のCARまたは第2のCARのうちの一方のCARが活性化エンドドメインを含む活性化CARであり、他方のCARが「ライゲーション・オン」阻害性エンドドメインを含む阻害性CARである。阻害性CARは、阻害性CARライゲーションの非存在下において活性化CARによるT細胞活性化を有意に阻害しないが、阻害性CARがライゲーションされたときには、活性化CARによるT細胞活性化を阻害する。これらの実施形態では、第1のスペーサーおよび第2のスペーサーは、第1のCARおよび第2のCARの交差対合を防止するため十分に異なるが、ライゲーション後に第1のCARおよび第2のCARの共局在をもたらすほどに十分に類似している。
【0022】
阻害性エンドドメインは、プロテインチロシンホスファターゼの少なくとも一部を含み得る。
【0023】
阻害性エンドドメインは、PTPN6の全部または一部を含み得る。
【0024】
阻害性エンドドメインは、ITIMドメインを含み得る。
【0025】
阻害性エンドドメインは、プロテインチロシンホスファターゼの少なくとも一部と受容体様チロシンホスファターゼの少なくとも一部の間の融合体の共発現と共にITIMドメインを含み得る。この融合体は、プロテインチロシンホスファターゼからの1つまたはそれより多くのSH2ドメインを含み得る。例えば、この融合体は、PTPN6 SH2ドメインとCD45エンドドメイン間またはPTPN6 SH2ドメインとCD148エンドドメイン間であり得る。
【0026】
緒論で説明したところによると、急性骨髄性白血病(AML)細胞は、CD33を発現する。正常な幹細胞は、CD33を発現するが、CD34も発現し、AML細胞は典型的にはCD34陰性である。AMLを処置するためのCD33のみの標的化は、それが正常な幹細胞を枯渇させるため著しい毒性との関連を示す。しかしながら、CD33陽性であるがCD34陽性ではない細胞を特異的に標的化すれば、この注目すべき標的外毒性は回避される。したがって、本発明では、活性化エンドドメインを含むCARは、CD33と結合する抗原結合ドメインを含み得、ライゲーション・オン阻害性エンドドメインを含むCARは、CD34と結合する抗原結合ドメインを含み得る。
【0027】
第2の態様において、本発明は、本発明の第1の態様で定義したとおりの第1のキメラ抗原受容体(CAR)および第2のCARの両方をコードする核酸配列を提供する。
【0028】
したがって(according)、この核酸配列は、次の構造:
AgB1−スペーサー1−TM1−エンド1−coexpr−AgB2−スペーサー2−TM2−エンド2
を有し得、
ここで、
AgB1は、第1のCARの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
スペーサー1は、第1のCARのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TM1は、第1のCARの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
エンド1は、第1のCARのエンドドメインをコードする核酸配列であり;
coexprは、2つのCARの共発現を可能にする核酸配列(例えば、切断部位)であり;
AgB2は、第2のCARの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
スペーサー2は、第2のCARのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TM2は、第2のCARの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
エンド2は、第2のCARのエンドドメインをコードする核酸配列であり;
該核酸配列は、T細胞で発現されるときに、第1のCARおよび第2のCARがT細胞表面で共発現されるような、切断部位で切断されるポリペプチドをコードする。
【0029】
2つのCARの共発現を可能にする核酸配列は、自己切断性ペプチドまたは2つのCARを共発現する代替的手段を可能にする配列、例えば内部リボソーム進入配列または第2プロモーターまたは当業者が同じベクターから2種のタンパク質を発現させることができるような他の手段を可能にする配列をコードし得る。
【0030】
代替コドンは、相同組換えを回避するために、同一または類似アミノ酸配列をコードする配列の領域で使用されてもよい。
【0031】
第3の態様において、本発明は、
(i)本発明の第1の態様で定義した第1のキメラ抗原受容体(CAR)をコードする第1の核酸配列であって、以下の構造:
AgB1−スペーサー1−TM1−エンド1
(ここで、
AgB1は、第1のCARの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
スペーサー1は、第1のCARのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TM1は、第1のCARの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
エンド1は、第1のCARのエンドドメインをコードする核酸配列である)
を有する核酸配列;および
(ii)本発明の第1の態様で定義した第2のキメラ抗原受容体(CAR)をコードする第2の核酸配列であって、以下の構造:
AgB2−スペーサー2−TM2−エンド2
(AgB2は、第2のCARの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
スペーサー2は、第2のCARのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TM2は、第2のCARの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
エンド2は、第2のCARのエンドドメインをコードする核酸配列である)
を有する核酸配列
を含むキットを提供する。
【0032】
第4の態様において、本発明は、上記で定義した第1の核酸配列を含む第1のベクターおよび上記で定義した第1の核酸配列を含む第2のベクターを含むキットを提供する。
【0033】
これらのベクターは、プラスミドベクター、レトロウイルスベクターまたはトランスポゾンベクターであり得る。これらのベクターはレンチウイルスベクターであり得る。
【0034】
第5の態様において、本発明は、本発明の第2の態様による核酸配列を含むベクターを提供する。このベクターはレンチウイルスベクターであり得る。
【0035】
該ベクターは、プラスミドベクター、レトロウイルスベクターまたはトランスポゾンベクターであり得る。
【0036】
第6の態様において、本発明は、2つより多い抗原の複合パターン(complex pattern)が標的細胞上で認識されることができるやり方で2つより多いCARを共発現させることを含む。
【0037】
第7の態様において、本発明は、本発明の第1の態様によるT細胞を作製する方法であって、第1のCARおよび第2のCARをコードする1つもしくはそれより多くの核酸配列(複数も可)または上記で定義した1つもしくはそれより多くのベクター(複数も可)をT細胞に導入する工程を含む方法を提供する。
【0038】
T細胞は、患者、関連もしくは非関連造血系移植ドナー、完全に無関係のドナーから単離された試料に由来するか、臍帯血に由来するか、胚性細胞株から分化されるか、誘導性前駆細胞株から分化されるか、または形質転換T細胞株から誘導され得る。
【0039】
第8の態様において、本発明は、本発明の第1の態様による複数のT細胞を含む医薬組成物を提供する。
【0040】
第9の態様において、本発明は、疾患を処置および/または予防する方法であって、被験体に本発明の第8の態様による医薬組成物を投与する工程を含む方法を提供する。
【0041】
該方法は、以下の工程:
(i)上記で列挙したT細胞の単離;
(ii)第1のCARおよび第2のCARをコードする1つもしくはそれより多くの核酸配列(複数も可)または上記核酸配列(複数も可)を含む1つもしくはそれより多くのベクター(複数も可)でのT細胞の形質導入またはトランスフェクション;および
(iii)被験体に(ii)からのT細胞を投与すること
を含み得る。
【0042】
該疾患はがんであり得る。
【0043】
第10の態様において、本発明は、疾患の処置および/または予防で使用するための本発明の第8の態様による医薬組成物を提供する。
【0044】
該疾患はがんであり得る。
【0045】
第11の態様において、本発明は、疾患を処置および/または予防するための医薬の製造における本発明の第1の態様によるT細胞の使用を提供する。
【0046】
該疾患はがんであり得る。
本発明はまた、
a)第1のキメラ抗原受容体(CAR)をコードする第1のヌクレオチド配列;
b)第2のCARをコードする第2のヌクレオチド配列;
c)2つのCARが別々の実体として発現されるように、第1のヌクレオチド配列と第2のヌクレオチド配列との間に配置された自己切断性ペプチドをコードする配列;
を含む核酸配列を提供する。
【0047】
代替コドンは、同一または類似アミノ酸配列(複数も可)をコードする領域における第1のヌクレオチド配列および第2のヌクレオチド配列の1つまたはそれより多くの部分(複数も可)で使用されてもよい。
【0048】
本発明はまた、上記の核酸を含むベクターおよび細胞を提供する。
【0049】
本発明の「AND NOTゲート」は、単一の腫瘍関連抗原の標的化を含む現在までに記載されたCAR手法を凌ぐ顕著な利益をもたらす。ここで、腫瘍細胞が、1つ(またはそれより多く)の抗原(複数も可)の存在および別の抗原の欠如を特徴とする場合、これは、本発明のCARに基づくAND NOTゲート手法を用いて特異的に標的化され得る。両抗原を発現した正常細胞は標的とされないため、選択性はより高くなり、on−target,off−tumour毒性は低減される。単一抗原に指向したCAR手法は、この状況では腫瘍細胞と正常細胞の両方を標的とすることになる。
【0050】
(本発明のさらなる態様)
本発明はまた、以下の番号を付した項に列挙した態様に関するものである:
1.第1のキメラ抗原受容体(CAR)および第2のCARを細胞表面で共発現するT細胞であって、各CARが、
(i)抗原結合ドメイン
(ii)スペーサー
(iii)膜貫通ドメイン、および
(iv)エンドドメイン
を含み、第1のCARおよび第2のCARの抗原結合ドメインが異なる抗原に結合し、第1のCARのスペーサーが第2のCARのスペーサーとは異なり、第1のCARまたは第2のCARの一方が活性化エンドドメインを含む活性化CARであり、他方のCARが、活性化エンドドメインを含む活性化CARまたはライゲーション・オンもしくはライゲーション・オフ阻害性エンドドメインを含む阻害性CARのどちらかである、T細胞。
【0051】
2.第1のCARのスペーサーが、第2のCARのスペーサーとは異なる長さおよび/または電荷および/またはサイズおよび/または立体配置および/またはグリコシル化を有するため、第1のCARおよび第2のCARがそれらのそれぞれの標的抗原を結合したとき、第1のCARおよび第2のCARがT細胞膜上で空間的に離されることになる、項1に記載のT細胞。
【0052】
3.第1のスペーサーおよび第2のスペーサーのどちらか一方がCD8ストークを含み、他方のスペーサーがIgG1のヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含む、項2に記載のT細胞。
【0053】
4.第1のCARおよび第2のCARの両方が活性化CARである、項1に記載のT細胞。
【0054】
5.一方のCARがCD19と結合し、他方のCARがCD20と結合する、項4に記載のT細胞。
【0055】
6.第1のCARまたは第2のCARの一方が、活性化エンドドメインを含む活性化CARであり、他方のCARが、ライゲーション・オフ阻害性エンドドメインを含む阻害性CARであり、この阻害性CARは阻害性CARライゲーションの非存在下での活性化CARによるT細胞活性化を阻害するが、阻害性CARがライゲーションしたときには活性化CARによるT細胞活性化を有意に阻害しない、項2または3に記載のT細胞。
【0056】
7.阻害性エンドドメインが、CD148またはCD45からのエンドドメインの全部または一部を含む、項6に記載のT細胞。
【0057】
8.第1のCARの抗原結合ドメインがCD5と結合し、第2のCARの抗原結合ドメインがCD19と結合する、項6または7に記載のT細胞。
【0058】
9.第1のスペーサーと第2のスペーサーが、第1のCARおよび第2のCARの交差対合を防止するほど十分に異なるが、ライゲーション後に第1のCARおよび第2のCARの共局在化をもたらすほど十分に類似している、項1に記載のT細胞。
【0059】
10.第1のCARまたは第2のCARの一方が、活性化エンドドメインを含む活性化CARであり(in an activating CAR)、他方のCARが、ライゲーション・オン阻害性エンドドメインを含む阻害性CARであり、この阻害性CARは、阻害性CARライゲーションの非存在下での活性化CARによるT細胞活性化を有意に阻害しないが、阻害性CARがライゲーションしたときには活性化CARによるT細胞活性化を阻害する、項9に記載のT細胞。
【0060】
11.ライゲーション・オン阻害性エンドドメインが、ホスファターゼの少なくとも一部を含む、項10に記載のT細胞。
【0061】
12.ライゲーション・オン阻害性エンドドメインが、PTPN6の全部または一部を含む、項11に記載のT細胞。
【0062】
13.ライゲーション・オン阻害性エンドドメインが、少なくとも1つのITIMドメインを含む、項10に記載のT細胞。
【0063】
14.ライゲーション・オン阻害性エンドドメインの活性が、PTPN6−CD45融合タンパク質またはPTPN6−CD148融合タンパク質の共発現により増強される、項13に記載のT細胞。
【0064】
15.活性化エンドドメインを含むCARが、CD33と結合する抗原結合ドメインを含み、ライゲーション・オン阻害性エンドドメインを含むCARが、CD34と結合する抗原結合ドメインを含む、項10〜14のいずれかに記載のT細胞。
【0065】
16.2つより多くの抗原の区別可能なパターンを担持する、T細胞などの細胞により特異的に刺激されるような、先行する項に記載のCARを2つより多く含むT細胞。
【0066】
17.項1〜16のいずれかに記載の第1のキメラ抗原受容体(CAR)および第2のキメラ抗原受容体(CAR)の両方をコードする核酸配列。
【0067】
18.以下の構造:
AgB1−スペーサー1−TM1−エンド1−coexpr−AbB2−スペーサー2−TM2−エンド2
(ここで、
AgB1は、第1のCARの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
スペーサー1は、第1のCARのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TM1は、第1のCARの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
エンド1は、第1のCARのエンドドメインをコードする核酸配列であり;
coexprは、両CARの共発現を可能にする核酸配列であり;
AgB2は、第2のCARの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
スペーサー2は、第2のCARのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TM2は、第2のCARの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
エンド2は、第2のCARのエンドドメインをコードする核酸配列である)
を有し、T細胞で発現されるときに、第1のCARおよび第2のCARがT細胞表面で共発現されるような、切断部位で切断されるポリペプチドをコードする、項17に記載の核酸配列。
【0068】
19.coexprが、自己切断性ペプチドを含む配列をコードする、項18に記載の核酸配列。
【0069】
20.代替コドンが、相同組換えを回避するために、同一または類似アミノ酸配列をコードする配列の領域で使用される、項18または19に記載の核酸配列。
【0070】
21.
(i)項1〜16のいずれかで記載した第1のキメラ抗原受容体(CAR)をコードする第1の核酸配列であって、以下の構造:
AgB1−スペーサー1−TM1−エンド1
(ここで、
AgB1は、第1のCARの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
スペーサー1は、第1のCARのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TM1は、第1のCARの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
エンド1は、第1のCARのエンドドメインをコードする核酸配列である)
を有する核酸配列;および
(ii)項1〜16のいずれかで記載した第2のキメラ抗原受容体(CAR)をコードする第2の核酸配列であって、以下の構造:
AgB2−スペーサー2−TM2−エンド2
(AgB2は、第2のCARの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
スペーサー2は、第2のCARのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TM2は、第2のCARの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
エンド2は、第2のCARのエンドドメインをコードする核酸配列である)
を有する核酸配列
を含むキット。
【0071】
22.項21に記載の第1の核酸配列を含む第1のベクター、および項21に記載の第1の核酸配列を含む第2のベクターを含むキット。
【0072】
23.ベクターが、組込み型ウイルスベクターまたはトランスポゾンである、項22に記載のキット。
【0073】
24.項17〜20のいずれかに記載の核酸配列を含むベクター。
【0074】
25.項24に記載のレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターまたはトランスポゾン。
【0075】
26.項17〜20のいずれかに記載の核酸配列;項21に記載の第1の核酸配列および第2の核酸配列;および/または項22に記載の第1のベクターおよび第2のベクターまたは項24もしくは25に記載のベクターをT細胞へ導入する工程を含む、項1〜16のいずれかに記載のT細胞を作製する方法。
【0076】
27.T細胞が被験体から単離された試料に由来する、項24に記載の方法。
【0077】
28.項1〜16のいずれかに記載の複数のT細胞を含む医薬組成物。
【0078】
29.被験体に項28に記載の医薬組成物を投与する工程を含む、疾患を処置および/または予防する方法。
【0079】
30.以下の工程:
(i)被験体からのT細胞含有試料の単離;
(ii)項17〜20のいずれかに記載の核酸配列;項21に記載の第1の核酸配列および第2の核酸配列;項22もしくは23に記載の第1のベクターおよび第2のベクターまたは項24もしくは25に記載のベクターでのT細胞の形質導入またはトランスフェクション;ならびに
(iii)被験体に(ii)からのT細胞を投与すること
を含む、項29に記載の方法。
【0080】
31.疾患ががんである、項29または30に記載の方法。
【0081】
32.疾患の処置および/または予防で使用するための項28に記載の医薬組成物。
【0082】
33.疾患を処置および/または予防するための医薬の製造における項1〜16のいずれかに記載のT細胞の使用。
【0083】
(詳細な説明)
キメラ抗原受容体(CAR)
図1で概略的に示されているCARは、細胞外抗原認識ドメイン(バインダー)を細胞内シグナル伝達ドメイン(エンドドメイン)に結び付けるキメラI型膜貫通タンパク質である。バインダーは、典型的にはモノクローナル抗体(mAb)から誘導された1本鎖可変フラグメント(scFV)であるが、抗体様抗原結合部位を含む他のフォーマットに基づくことも可能である。スペーサードメインは、通常膜からバインダーを単離し、好適な配向をもたせるのに必要である。使用される一般的なスペーサードメインは、IgG1のFcである。より小型のスペーサー、例えば、抗原によっては、CD8αからのストーク、さらにはIgG1ヒンジ単独でも十分であり得る。膜貫通ドメインは、細胞膜にタンパク質をつなぎ止め、スペーサーをエンドドメインに結び付ける。
【0084】
初期のCAR設計は、FcεR1またはCD3ζのγ鎖のどちらかの細胞内部分から誘導されたエンドドメインを有していた。したがって、これらの第一世代受容体は、免疫学的シグナル1を伝達するもので、同種標的細胞のT細胞による致死を誘発するのに十分ではあったが、T細胞を十分に活性化して増殖および生存をもたらすことはなかった。この限界を克服するため、複合エンドドメインが構築された:T細胞共刺激分子の細胞内部分とCD3ζの細胞内部分の融合により、抗原認識後活性化シグナルおよび共刺激シグナルを同時に伝達することができる第二世代受容体がもたらされる。最も一般的に使用される共刺激ドメインは、CD28の共刺激ドメインである。これは、T細胞増殖を誘発する最も強力な共刺激シグナル、すなわち免疫学的シグナル2を供給する。また、生存シグナルを伝達する密接に関連したOX40および41BBなど、TNF受容体ファミリーのエンドドメインを含む一部の受容体も記載されている。活性化シグナル、増殖シグナルおよび生存シグナルを伝達することができるエンドドメインを有するさらにいっそう強力な第三世代CARが現在記載されている。
【0085】
CARエンコード核酸は、例えば、レトロウイルスベクターを用いてT細胞に移入され得る。レンチウイルスベクターも使用され得る。こうして、多数のがん特異的T細胞が、養子細胞移入のために生成され得る。CARが標的抗原と結合したとき、これにより、活性化シグナルの、それが発現されるT細胞への伝達がもたらされる。すなわち、CARは、標的抗原を発現する腫瘍細胞に向けたT細胞の特異性および細胞傷害性を誘導する。
【0086】
本発明の第1の態様は、真理値表:表1、2および3で詳述した論理ゲートの方式でT細胞が標的細胞上の所望の発現パターンを認識できるように第1のCARおよび第2のCARを共発現するT細胞に関するものである。
【0087】
第1および第2の両CAR(および所望により後続のCAR)は、
(i)抗原結合ドメイン;
(ii)スペーサー;
(iii)膜貫通ドメイン;および
(iii)細胞内ドメイン
を含む。
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
本発明のT細胞の第1および第2のCARは、切断部位と一緒に両CARを含むポリペプチドとして産生され得る。
【0091】
配列番号1〜5は、かかるポリペプチドの例を示しており、その各々は2つのCARを含む。したがって、CARは、単一CARに対応する、以下のアミノ酸配列の1つまたは他の部分を含み得る。
配列番号1は、CD19 OR CD33を認識するCAR ORゲートである。
配列番号2は、CD148ホスファターゼを用いるCD19 AND CD33を認識するCAR ANDゲートである。
配列番号3は、CD45ホスファターゼを用いるCD19 AND CD33を認識するCAR ANDゲートの代替的実現形態である。
配列番号4は、PTPN6ホスファターゼに基づいたCD19 AND NOT CD33を認識するCAR AND NOTゲートである。
配列番号5は、CD19 AND NOT CD33を認識し、LAIR1からのITIM含有エンドドメインに基づくCAR AND NOTゲートの代替的実現形態である。
配列番号6は、CD19 AND NOT CD33を認識し、ITIM含有エンドドメインへPTPN6−CD148融合タンパク質をリクルートするCAR AND NOTゲートのさらなる代替的実現形態である。
【化1】
【化2】
【化3-1】
【化3-2】
【化4-1】
【化4-2】
【化5】
【化6-1】
【化6-2】
【0092】
CARは、少なくとも80、85、90、95、98または99%の配列同一性を有する配列番号1、2、3、4、5または6として示された配列のCARエンコード部分の変異型を含み得るが、ただし、変異型の配列は要求される特性を有するCARであるものとする。
【0093】
配列アラインメントの方法は、当技術分野では周知であり、好適なアラインメントプログラムを用いて遂行される。配列同一性%は、2つの配列を最適な形で並列させたときにその2つの配列において同一であるアミノ酸残基またはヌクレオチド残基のパーセンテージをいう。ヌクレオチドおよびタンパク質の配列相同性または同一性は、http://blast.ncbi.nlm.nih.govで公的に入手可能である、デフォルトパラメータを用いるBLASTプログラム(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biotechnology Information)などの標準アルゴリズムを用いて決定され得る。配列同一性または相同性を決定するための他のアルゴリズムには次のものがある:LALIGN(http://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/lalign/およびhttp://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/lalign/nucleotide.html)、AMAS(Analysis of Multiply Aligned Sequences、http://www.compbio.dundee.ac.uk/Software/Amas/amas.html)、FASTA(http://www.ebi.ac.uk/Tools/sss/fasta/)、Clustal Omega(http://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalo/)、SIM(http://web.expasy.org/sim/)、およびEMBOSS Needle(http://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needle/nucleotide.html)。
【0094】
CAR論理ORゲート
この実施形態では、本発明の第1のCARおよび第2のCARの抗原結合ドメインは、異なる抗原に結合し、両CARとも、活性化エンドドメインを含む。両CARとも、2種の異なる受容体の交差対合を防止するために異なるスペーサードメインを有する。このため、T細胞に対し、抗原の一方または両方の認識の際に活性化するように操作することができる。このことは、Goldie−Coldmanによる仮説により示されているように腫瘍学の分野で有用である:単一抗原を標的化するだけでは、ほとんどのがんに固有の高い変異率故に前記抗原のモジュレーションにより腫瘍エスケープが起こり得る。2つの抗原を同時に標的化することにより、かかるエスケープの確率(probably)は指数関数的に低減される。
【0095】
様々な腫瘍関連抗原が下記表4に示されているとおり公知である。所与の疾患について、第1のCARおよび第2のCARは、その疾患に関連する2つの異なるTAAに結合し得る。この方法では、第2の抗原も標的とされるため、単一抗原をモジュレートすることによる腫瘍エスケープは防止される。例えば、B細胞悪性腫瘍を標的とするとき、CD19およびCD20を両方とも同時に標的化することができる。この実施形態では、2つのCARがヘテロダイマーを形成しないことが重要である。
【表4】
【0096】
動力学的分離モデル
ANDゲートおよびAND NOTゲートを生成するためのCARの後続的対合は、T細胞活性化の動力学的分離モデル(KS)に基づく。これは、いかにしてT細胞受容体による抗原認識が下流の活性化シグナルに変換されるかを説明する、実験データに裏付けられた機能モデルである。簡単に述べると、基底状態では、T細胞膜上のシグナル伝達成分は、動的ホメオスタシスにあり、脱リン酸化ITAMは、リン酸化ITAMより好適である。これは、膜貫通CD45/CD148ホスファターゼの活性が、lckなどの膜連結キナーゼよりも大きいためである。T細胞が、同種抗原のT細胞受容体(またはCAR)認識を通して標的細胞と結び付いたとき、堅固な免疫学的シナプスが形成される。T細胞および標的膜のこの近接した並置により、CD45/CD148は、シナプスへ適合できないそれらの大きなエクトドメイン故に排除される。ホスファターゼの非存在下での、シナプスにおける高濃度のT細胞受容体関連ITAMおよびキナーゼの分離は、リン酸化ITAMの方が有利にはたらく状態をもたらす。ZAP70は、閾値のリン酸化ITAMを認識し、T細胞活性化シグナルを伝搬する。本発明では、T細胞活性化に対するこの進歩した理解を活用する。特に、本発明は、いかにして異なる長さおよび/またはかさおよび/または電荷および/または立体配置および/またはグリコシル化を有するエクトドメインがシナプス形成の際に特異的な分離(differential segregation)をもたらすかについての理解に基づいている。
【0097】
CAR論理ANDゲート
この実施形態では、1つのCARが活性化エンドドメインを含み、1つのCARが阻害性エンドドメインを含むことにより、阻害性CARは構成的に第1の活性化CARを阻害するが、その同種抗原の認識の際にその活性化CAR阻害を解除する。このように、標的細胞が両同種抗原を発現する場合のみ発動するようにT細胞は操作され得る。この行動は、ITAMドメイン含有活性化エンドドメイン、例えばCD3−ゼータのエンドドメインを含む活性化CAR、およびITAMを脱リン酸化できるホスファターゼ(例えば、CD45またはCD148)からのエンドドメインを含む阻害性CARにより達成される。重大なことに、両CARのスペーサードメインは、サイズおよび/または形状および/または電荷などが有意に異なる。活性化CARのみがライゲーションされたとき、阻害性CARはT細胞表面上で溶解状態にあり、活性化CARを阻害するシナプスの内外で拡散することができる。両CARがライゲーションされたとき、スペーサー特性が異なる故に、活性化CARおよび阻害性CARは特異的に分離され、活性化CARに、阻害性CARにより妨害されないT細胞活性化を誘発させ得る。
【0098】
これは、がん治療分野でかなりの有用性を示す。目下、免疫療法は、典型的には単一抗原を標的とする。ほとんどのがんは、単一抗原に基づく正常組織からは分化され得ない。このため、かなりの「on−target off−tumour」毒性が生じることにより、正常組織はその治療により損傷を被る。例えば、リツキシマブでB細胞リンパ腫を処置するためCD20を標的としている間に、全正常B細胞区画は枯渇に至る。例えば、慢性リンパ性白血病を処置するためCD52を標的としている間に、全リンパ区画は枯渇に至る。例えば、急性骨髄性白血病を処置するためCD33を標的としている間に、全骨髄区画が損傷を被るなど。活性を一組の抗原に制限することにより、より精巧を極めた標的化、したがってより毒性の低い治療を開発することができる。実践例は、CD5およびCD19の両方を発現するCLLの標的化である。両抗原を発現する正常B細胞の比率はわずかな比率に過ぎないため、論理ANDゲートでの両抗原の標的化のオフターゲット毒性は、各抗原を個々に標的化する場合より実質的に低い。
【0099】
本発明の設計は、Wilkieら((2012).J.Clin.Immunol.32、1059−1070)により記載され、次いでインビボで試験された(Klossら(2013)Nat.Biotechnol.31,71−75)ように、先行実現形態にかなりの改良を加えたものである。この実現形態では、第1のCARは活性化エンドドメインを含み、第2のCARは共刺激性ドメインを含む。かくして、T細胞のみが、両抗原が存在するときに活性化および共刺激シグナルを受信する。しかしながら、T細胞はなお、単なる第1の抗原の存在下で活性化し、オフターゲット毒性についての可能性をもたらす。さらに、本発明の実現形態は多重複合リンク型ゲート(multiple compound linked gate)を可能にするもので、細胞は抗原の複合パターンを解釈することができる。
【表5】
【0100】
CAR論理AND NOTゲート
この実現形態では、1つのCARが活性化エンドドメインを含み、1つのCARが阻害性エンドドメインを含み、その結果この阻害性CARがその同種抗原を認識したときのみ活性である。このため、このように操作されたT細胞は、第1の抗原の存在のみに応答して活性化されるが、両抗原が存在するときには活性化されない。本発明は、第1のCARと共局在するスペーサーを伴う阻害性CARにより実現されるが、阻害性CARのホスファターゼ活性は、当然阻害性CARが溶解状態で阻害するほど強力ではないか、または阻害性CARがその同種標的を認識したときのみ阻害性エンドドメインは実際にホスファターゼをリクルートするかのいずれかである。かかるエンドドメインは、本明細書では「ライゲーション・オン」または半阻害性と呼ぶ。
【0101】
本発明は、腫瘍を腫瘍関連抗原の存在および正常組織で発現された抗原の喪失により正常組織と識別することができるとき、標的化を精巧なものにするのに有用である。AND NOTゲートは、正常細胞であって、ただし活性化エンドドメインを含むCARにより認識される抗原も発現する正常細胞により発現される抗原の標的化を可能にするため、腫瘍学分野でかなりの有用性がある。かかる抗原の一例は、正常幹細胞および急性骨髄性白血病(AML)細胞により発現されるCD33である。CD34は、幹細胞で発現されるが、典型的にはAML細胞からは発現されない。CD33 AND NOT CD34を認識するT細胞は、白血病細胞の破壊をもたらすが、正常幹細胞を残存させる。
【0102】
AND NOTゲートで使用するための潜在的抗原対を表6に示す。
【表6】
【0103】
複合ゲート
上記成分を伴う動力学的分離モデルにより、複合ゲート、例えば2つより多くの標的抗原のパターンに応答して発動するT細胞が作製され得る。例えば、3つの抗原が存在するときのみ(A AND B AND C)発動するT細胞を作製することが可能である。ここで、細胞は3つのCARを発現し、それぞれ抗原A、BおよびCを認識する。1つのCARは興奮性であり、2つのCARは阻害性であり、各CARは、特異的分離をもたらすスペーサードメインを有する。3つ全てがライゲーションされたときのみ、T細胞は活性化する。さらなる例(A OR B)AND C:ここで、抗原AおよびBを認識するCARは、活性型であり、共局在するスペーサーを有し、抗原Cを認識するCARは阻害性であり、異なる共分離をもたらすスペーサーを有する。さらなる例(A AND NOT B)AND C:ここで、抗原Aに対するCARは、活性化エンドドメインを有し、条件的阻害性エンドドメインを有する抗原Bに対するCARと共局在する。抗原Cに対するCARは、AまたはBとは異なる形で分離するスペーサーを有し、阻害性である。事実、より複合的なブール論理でも、任意の数のCARおよびスペーサーを伴う本発明のこれらの単純な成分でプログラム化することができる。
【0104】
シグナルペプチド
本発明のT細胞のCARはシグナルペプチドを含み得、その結果、CARがT細胞などの細胞の内側で発現されるとき、新生タンパク質を小胞体、それに続いて細胞表面へと指向させ、そこで発現される。
【0105】
シグナルペプチドのコアは、単一アルファ−へリックスを形成する傾向を有する疎水性アミノ酸の長いストレッチを含み得る。シグナルペプチドは、アミノ酸の短い正に荷電したストレッチから始まり得、これが転位中におけるポリペプチドの適切なトポロジーを強化する助けとなる。シグナルペプチドの末端に、典型的にはシグナルペプチダーゼにより認識され、切断されるアミノ酸のストレッチが存在する。シグナルペプチダーゼは、転位中または転位完了後に切断して、遊離シグナルペプチドおよび成熟タンパク質を生成させ得る。次いで、遊離シグナルペプチドは、特異的プロテアーゼにより消化される。
【0106】
シグナルペプチドは、分子のアミノ末端に位置し得る。
【0107】
シグナルペプチドは、配列番号7、8もしくは9または5、4、3、2もしくは1のアミノ酸変異(挿入、置換または付加)を有するその変異型を含み得るが、ただし、シグナルペプチドは、依然としてCARの細胞表面発現を誘発するべく機能するものとする。
【0108】
配列番号7:MGTSLLCWMALCLLGADHADG
配列番号7のシグナルペプチドは、小型であり高効率である。末端グリシンの後約95%切断を与えることから、シグナルペプチダーゼによる効率的な除去をもたらすと予測される。
【0109】
配列番号8:MSLPVTALLLPLALLLHAARP
配列番号8のシグナルペプチドは、IgG1から誘導される。
【0110】
配列番号9:MAVPTQVLGLLLLWLTDARC
配列番号9のシグナルペプチドは、CD8から誘導される。
【0111】
第1のCARについてのシグナルペプチドは、第2のCARのシグナルペプチド(ならびに第3のCARおよび第4のCARなど)とは異なる配列を有し得る。
【0112】
抗原結合ドメイン
抗原結合ドメインは、抗原を認識するCARの部分である。抗体、抗体模倣物、およびT細胞受容体の抗原結合部位に基づくものを含め、多数の抗原結合ドメインが当技術分野では知られている。例えば、抗原結合ドメインは、モノクローナル抗体から誘導された1本鎖可変フラグメント(scFv);標的抗原の天然リガンド;標的に対する十分な親和力をもつペプチド;単一ドメイン抗体;Darpin(設計されたアンキリン反復タンパク質)などの人工単一バインダー;またはT細胞受容体から誘導された単鎖を含み得る。
【0113】
抗原結合ドメインは、抗体の抗原結合部位に基づかないドメインを含み得る。例えば、抗原結合ドメインは、腫瘍細胞表面受容体についての可溶性リガンド(例えば、サイトカインまたはケモカインなどの可溶性ペプチド)であるタンパク質/ペプチドに基づくドメイン;または膜結合リガンドもしくは結合対のカウンターパートを腫瘍細胞で発現させるための受容体の細胞外ドメインを含み得る。
【0114】
実施例11〜13は、BCMAと結合するCARに関するものであり、抗原結合ドメイン(doaimn)は、BCMAについてのリガンドであるAPRILを含む。
【0115】
抗原結合ドメインは、抗原の天然リガンドに基づき得る。
【0116】
抗原結合ドメインは、コンビナトリアルライブラリーからの親和性ペプチドまたは新たに設計された親和性タンパク質/ペプチドを含み得る。
【0117】
スペーサードメイン
CARは、抗原結合ドメインを膜貫通ドメインと連結し、空間的に抗原結合ドメインをエンドドメインから分離させるためのスペーサー配列を含み得る。可撓性スペーサーは、抗原結合ドメインを異なる方向で配向させることにより、結合を促進し得る。
【0118】
本発明のT細胞では、第1のCARおよび第2のCARは、異なるスペーサー分子を含む。例えば、スペーサー配列は、例えば、IgG1 Fc領域、IgG1ヒンジまたはヒトCD8ストークまたはマウスCD8ストークを含み得る。あるいは、スペーサーは、IgG1 Fc領域、IgG1ヒンジまたはCD8ストークと類似した長さおよび/またはドメインスペーシング特性を有する代替的リンカー配列を含み得る。ヒトIgG1スペーサーは、Fc結合性モチーフを除去するために改変され得る。
これらのスペーサーについてのアミノ酸配列の例を以下に示す:
【化7】
【0119】
CARは典型的にはホモダイマーであるため(図1a参照)、交差対合がヘテロダイマー性キメラ抗原受容体を生じさせ得る。これは、例えば以下の様々な理由により望ましくない:(1)エピトープは、標的細胞上で同じ「レベル」にはないことがあり得、その結果、交差対合したCARは1つの抗原に結合できるのみであり得る;(2)2つの異なるscFvからのVHおよびVLは、取り換え可能であるが、標的を認識できないか、またはなお悪いことには予想外で予測外の抗原を認識することがあり得る。「OR」ゲートおよび「AND NOT」ゲートの場合、第1のCARのスペーサーは、交差対合を回避するため第2のCARのスペーサーとは十分に異なり得る。第1のスペーサーのアミノ酸配列は、第2のスペーサーとはアミノ酸レベルで50%、40%、30%または20%より低い同一性を共有し得る。
【0120】
本発明の他の実施態様(例えばANDゲートについて)では、動力学的分離モデルにより予測されるところによると、第1のCARおよび第2のCARの両方がそれらの標的抗原と結合したとき、スペーサーの電荷または寸法の差異により、2タイプのCARが膜の異なる部分へと空間的に分離されて活性化をもたらすように、第1のCARのスペーサーは、異なる長さおよび/または電荷および/または形状および/または立体配置および/またはグリコシル化を有することが重要である。これらの実施態様では、スペーサーの異なる長さ、形状および/または立体配置は、同種標的を認識する際に特異的分離が可能となるように標的抗原上でのサイズおよび標的抗原上の結合エピトープを考慮に入れて注意深く選択される。例えば、IgG1ヒンジ、CD8ストーク、IgG1 Fc、CD34のエクトドメイン、CD45のエクトドメインが、特異的に分離すると予想される。
【0121】
特異的に分離することから、ANDゲートでの使用に好適であるスペーサー対の例を、下表に示す:
【表7】
【0122】
本発明の他の実施態様(例えばAND NOTゲート)では、スペーサーは、交差対合を防止することに関して十分異なるが、共局在することに関して十分類似していることが重要である。オーソロガススペーサー配列の対が使用され得る。例は、ネズミおよびヒトCD8ストーク、または、あるいはモノマー性であるスペーサードメイン、例えばCD2のエクトドメインである。
【0123】
共局在することから、AND NOTゲートでの使用に好適であるスペーサー対の例を下表に示す:
【表8】
【0124】
上記で挙げたスペーサードメインはすべてホモダイマーを形成する。しかしながら、この機構は、ホモダイマー受容体を使用する場合に限定されるわけではなく、スペーサーが十分に堅固である限りモノマー受容体でも当然機能する。かかるスペーサーの一例は、CD2または先端切除CD22である。
【0125】
膜貫通ドメイン
膜貫通ドメインは、膜にわたるCARの配列である。
【0126】
膜貫通ドメインは、膜において熱力学的に安定しているいかなるタンパク質構造であってよい。これは、典型的には幾つかの疎水性残基で構成されるアルファ・へリックスである。いかなる膜貫通タンパク質の膜貫通ドメインでも、本発明の膜貫通部分を供給するのに使用され得る。タンパク質の膜貫通ドメインの存在および範囲は、TMHMMアルゴリズム(http://www.cbs.dtu.dk/services/TMHMM−2.0/)を用いて当業者により決定され得る。さらに、タンパク質の膜貫通ドメインが比較的単純な構造、すなわち膜にわたるのに十分な長さを有する疎水性アルファへリックスを形成すると予測されるポリペプチド配列であるとすれば、人工的に設計されたTMドメインもまた使用され得る(米国特許第7052906B1号は、合成膜貫通成分について記載している)。
【0127】
膜貫通ドメインは、CD28から誘導され得、良好な受容体安定性を与える。
【0128】
活性化エンドドメイン
エンドドメインは、CARのシグナル伝達部分である。抗原認識後、受容体がクラスター形成し、天然CD45およびCD148は、シナプスから排除され、シグナルは細胞へ伝達される。最も一般的に使用されるエンドドメイン成分は、3つのITAMを含むCD3−ゼータのエンドドメイン成分である。これは、抗原が結合された後、活性化シグナルをT細胞に伝達する。CD3−ゼータは、十分に適格な活性化シグナルを提供しない可能性があるので、追加の共刺激シグナル伝達が必要とされ得る。例えば、キメラCD28およびOX40は、CD3−ゼータと併用されて、増殖/生存シグナルを伝達し得るか、または3つ全部が一緒に使用され得る。
【0129】
本発明のT細胞が活性化エンドドメインを伴うCARを含む場合、該細胞は、CD3−ゼータエンドドメイン単独、CD28またはOX40どちらかのエンドドメインと共にCD3−ゼータエンドドメインまたはCD28エンドドメインならびにOX40およびCD3−ゼータエンドドメインを含み得る。
【0130】
ITAMモチーフを含むエンドドメインであれば、いずれも本発明における活性化エンドドメインとして作用し得る。幾つかのタンパク質が、1つまたはそれより多くのITAMモチーフを伴うエンドドメインを含むことが知られている。かかるタンパク質として少し例を挙げれば、CD3イプシロン鎖、CD3ガンマ鎖およびCD3デルタ鎖が挙げられる。ITAMモチーフは、サインYxxL/Iを与える、任意の2つの他のアミノ酸によりロイシンまたはイソロイシンから分離されたチロシンとして容易に認識され得る。常というわけではないが、典型的には、これらのモチーフの2つが、分子(YxxL/Ix(6−8)YxxL/I)のテイルにおける6〜8個の間のアミノ酸により分離される。このため、当業者であれば、活性化シグナルを伝達するための1つまたはそれより多くのITAMを含む既存のタンパク質を容易に見出すことができる。さらに、モチーフが単純であり、複合2次構造が要求されないと仮定すると、当業者であれば、活性化シグナルを伝達するための人工ITAMを含むポリペプチドを設計できる(合成シグナル伝達分子に関する、国際公開第2000063372号参照)。
【0131】
活性化エンドドメインを伴うCARの膜貫通および細胞内T細胞シグナル伝達ドメイン(エンドドメイン)は、配列番号15、16または17に示された配列または少なくとも80%の配列同一性を有するその変異型を含み得る。
【0132】
【化8】
【0133】
変異型配列が、有効な膜貫通ドメインおよび有効な細胞内T細胞シグナル伝達ドメインを提供するものと仮定すれば、該配列は、配列番号15、16または17と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%または99%の配列同一性を有し得る。
【0134】
「ライゲーション・オフ」阻害性エンドドメイン
ANDゲートとして上記で示した実施形態では、阻害性CARが、阻害性CARライゲーションの非存在下では活性化CARによるT細胞活性化を阻害するが、阻害性CARがライゲーションされたとき活性化CARによるT細胞活性化を有意に阻害することのないように、CARの1つは阻害性エンドドメインを含む。これは、「ライゲーション・オフ」阻害性エンドドメインと呼ばれる。
【0135】
この場合、両受容体がライゲーションされたとき、スペーサー寸法の差異が、免疫学的シナプスの異なる膜区画において活性化CARと阻害性CARの単離をもたらし、その結果、活性化エンドドメインが阻害性エンドドメインによる阻害から解放されるように、阻害性CARのスペーサーは、活性化CARのスペーサーとは異なる長さ、電荷、形状および/または立体配置および/またはグリコシル化のスペーサーである。
【0136】
したがって、ライゲーション・オフ阻害性CARで使用するための阻害性エンドドメインは、同じ膜区画にあるとき(すなわち、阻害性CARについての抗原の非存在下で)活性化CARによるT細胞シグナル伝達を阻害するが、膜の別々の部分で阻害性CARから単離されたときにはT細胞シグナル伝達を有意に阻害しない任意の配列を含み得る。
【0137】
ライゲーション・オフ阻害性エンドドメインは、受容体様チロシンホスファターゼなどのチロシンホスファターゼであり得るかまたはこれを含み得る。阻害性エンドドメインは、刺激性受容体のみがライゲーションされたときTCRシグナル伝達を阻害することができる任意のチロシンホスファターゼであり得るかまたはこれを含み得る。阻害性エンドドメインは、刺激性受容体のみがライゲーションされたときTCRシグナル伝達を阻害することができるリン酸化ITAMについての十分に速い触媒速度を有する任意のチロシンホスファターゼであり得るかまたはこれを含み得る。
【0138】
例えば、ANDゲートの阻害性エンドドメインは、CD148またはCD45のエンドドメインを含み得る。CD148およびCD45は、TCRシグナル伝達の上流でのリン酸化チロシンに対して自然に作用することが示されている。
【0139】
CD148は、PLCγ1およびLATのリン酸化および機能を妨げることによりTCRシグナル伝達を負に調節する受容体様プロテインチロシンホスファターゼである。
【0140】
全造血細胞に存在するCD45は、同じくPLCγ1をリン酸化することにより、シグナル伝達および機能的応答を調節することができるプロテインチロシンホスファターゼである。
【0141】
阻害性エンドドメインは、受容体様チロシンホスファターゼの全部または一部(all of part)を含み得る。ホスファターゼは、PLCγ1および/またはLATなどのT細胞シグナル伝達に関与するエレメントのリン酸化および/または機能を妨げ得る。
【0142】
CD45およびCD148の膜貫通およびエンドドメインを、それぞれ配列番号18および19に示す。
【化9】
【0143】
阻害性CARは、配列番号18または19の全部または一部を含み得る(例えば、それは、エンドドメインのホスファターゼ機能を含み得る)。変異型が活性化CARによるT細胞シグナル伝達を基本的に阻害する能力を保持している限り、阻害性CARは少なくとも80%の配列同一性を有する配列またはその一部の変異型を含み得る。
【0144】
他のスペーサーおよびエンドドメインは、例えば本明細書で具体的に示したモデル系を用いて試験され得る。SupT1細胞系などの好適な細胞系に単独に、または二重に形質導入を行って、両抗原について陰性である細胞(野生型)、いずれか一方に陽性および両方に陽性である細胞(例えば、CD19−CD33−、CD19+CD33−、CD19−CD33+およびCD19+CD33+)を確立することにより標的細胞集団を作製することができる。活性化の際にIL−2を放出するマウスT細胞系BW5147などのT細胞に、CARの対で形質導入を行い、それらが論理ゲートで機能する能力を、IL−2放出の測定により(例えばELISAにより)測定してもよい。例えば、CD148およびCD45エンドドメインは両方とも、CD3−ゼータエンドドメインを含む活性化CARとの組み合わせで阻害性CARとして機能することができることが実施例4に示されている。これらのCARは、ANDゲーティングを達成するため、一方のCAR上の短い/嵩高くないCD8ストークスペーサーおよび他方のCAR上の嵩高いFcスペーサーに依拠する。両受容体がライゲーションされたとき、スペーサー寸法の差異により、異なる膜区画における異なる受容体が単離され、CD3−ゼータ受容体はCD148またはCD45エンドドメインによる阻害から解放される。かくして、一旦両受容体が活性化されると、活性化のみが起こる。このモジュール系が、代替的スペーサー対および阻害性エンドドメインを試験するのに使用され得ることは容易に見出すことができる。スペーサーが両受容体のライゲーション後に単離を達成しないならば、阻害は解除されず、したがって活性化も起こらない。試験されている阻害性エンドドメインが非有効性であるならば、活性化は、阻害性CARのライゲーション状態とは関係なく活性化CARのライゲーションの存在下で予測される。
【0145】
「ライゲーション・オン」エンドドメイン
AND NOTゲートとして上記で示された実施形態では、CARの一方は、阻害性CARが、阻害性CARライゲーションの非存在下で活性化CARによるT細胞活性化を有意に阻害することはないが、阻害性CARがライゲーションされたときには、活性化CARによるT細胞活性化を阻害するように「ライゲーション・オン」阻害性エンドドメインを含む。
【0146】
「ライゲーション・オン」阻害性エンドドメインは、刺激性受容体のみがライゲーションされたとき、TCRシグナル伝達を阻害することができないチロシンホスファターゼであり得るかまたはこれを含み得る。
【0147】
「ライゲーション・オン」阻害性エンドドメインは、刺激性受容体のみがライゲーションされたときTCRシグナル伝達を阻害することはできないが、シナプスで濃縮されたときにはTCRシグナル伝達応答を阻害することができるリン酸化ITAMにとって触媒速度が十分に遅いチロシンホスファターゼであり得るかまたはこれを含み得る。シナプスでの濃縮は、阻害性受容体ライゲーションを通して達成される。
【0148】
チロシンホスファターゼが、「ライゲーション・オン」阻害性エンドドメインにとって速すぎる触媒速度を有するならば、点変異などの修飾および短いリンカー(立体障害を誘発する)によりホスファターゼの触媒速度を落として調整することにより「ライゲーション・オン」阻害性エンドドメインに対して好適なものとすることが可能である。
【0149】
この第1の実施形態では、エンドドメインは、活性化エンドドメインおよび阻害性エンドドメインが共局在するときにITAMのみの有意な脱リン酸化が起こるように、CD45またはCD148よりもかなり活性が低いホスファターゼであり得るかまたはこれを含み得る。多くの好適な配列が当技術分野では知られている。例えば、NOT ANDゲートの阻害性エンドドメインは、PTPN6などのプロテインチロシンホスファターゼの全部または一部を含み得る。
【0150】
プロテインチロシンホスファターゼ(PTP)は、細胞の成長、分化、有糸分裂周期および発がん性形質転換を含む様々な細胞プロセスを調節するシグナル伝達分子である。このPTPのN末端部分は、2つのタンデムSrcホモログ(SH2)ドメインを含み、これらはタンパク質ホスホ−チロシン結合ドメインとして作用し、このPTPとその基質との相互作用を媒介する。このPTPは、主として造血細胞で発現され、造血細胞における多重シグナル伝達経路の重要な調節因子として機能する。
【0151】
阻害剤ドメインは、PTPN6(配列番号20)の全部またはホスファターゼドメイン(配列番号21)のみを含み得る。
【化10】
【0152】
ライゲーション・オン阻害性エンドドメインの第2の実施形態は、CD22、LAIR−1、キラー阻害性受容体ファミリー(KIR)、LILRB1、CTLA4、PD−1、BTLAなどに由来するものなどのITIM(免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ)含有エンドドメインである。リン酸化されたとき、ITIMはそのSH2ドメインを通して内因性PTPN6をリクルートする。ITAM含有エンドドメインと共局在するならば、脱リン酸化が起こり、活性化CARは阻害される。
【0153】
ITIMは、免疫系の多くの阻害性受容体の細胞質テイルから見出されるアミノ酸の保存配列(S/I/V/LxYxxI/V/L)である。当業者であれば、ITIMを含有するタンパク質ドメインを容易に見出すことができる。ヒト候補ITIM含有タンパク質のリストは、プロテオームワイド走査法(proteome−wide scan)(Staubら(2004)Cell.Signal.16、435−456)により作製された。さらに、コンセンサス配列は周知であり、2次構造が要求されることはほとんどないようであるため、当業者であれば、人工的ITIMを生成することができる。
PDCD1、BTLA4、LILRB1、LAIR1、CTLA4、KIR2DL1、KIR2DL4、KIR2DL5、KIR3DL1およびKIR3DL3からのITIMエンドドメインを、それぞれ配列番号22〜31に示す。
【化11】
【化12】
【0154】
ライゲーション・オン阻害性エンドドメインの第3の実施形態は、融合タンパク質と共発現されるITIM含有エンドドメインである。融合タンパク質は、プロテインチロシンホスファターゼの少なくとも一部および受容体様チロシンホスファターゼの少なくとも一部を含み得る。この融合体は、プロテインチロシンホスファターゼからの1つまたはそれより多くのSH2ドメインを含み得る。例えば、この融合体は、PTPN6 SH2ドメインとCD45エンドドメインとの間またはPTPN6 SH2ドメインとCD148エンドドメインとの間にあり得る。リン酸化されたとき、ITIMドメインは、融合タンパク質をリクルートして、非常に強力なCD45またはCD148ホスファターゼを活性化エンドドメインへの近位に導き、活性化を遮断する。
融合タンパク質の配列を32および33に列挙する。
【化13-1】
【化13-2】
【化14】
【0155】
ライゲーション・オン阻害性CARは、配列番号20または21の全部または一部を含み得る。それは、配列番号22〜31の全部または一部を含み得る。それは、配列番号32または33のどちらかと共発現される配列番号22〜31の全部または一部を含み得る。それは、変異型が阻害性CARのライゲーションの際に活性化CARによるT細胞シグナル伝達を阻害する能力を保持している限り、少なくとも80%の配列同一性を有する配列またはその一部の変異型を含み得る。
【0156】
上記のとおり、代替的スペーサーおよびエンドドメインは、例えば本明細書で例証したモデル系を用いて試験され得る。実施例5には、PTPN6エンドドメインが、CD3−ゼータエンドドメインを含む活性化CARと組み合わせた形で半阻害性CARとして機能することができることが示されている。これらのCARは、一方のCAR上のヒトCD8ストークスペーサーおよび他方のCAR上のマウスCD8ストークスペーサーに依拠する。オーソロガス配列は、交差対合を防止する。しかしながら、両受容体がライゲーションされたとき、スペーサー間の類似性により、同じ膜区画における異なる受容体の共単離がもたらされる。これにより、PTPN6エンドドメインによるCD3−ゼータ受容体の阻害が生じる。活性化CARのみがライゲーションされたとき、PTPN6エンドドメインは、T細胞活性化を防止するほど十分に活性でない。かくして、活性化CARがライゲーションされ、阻害性CARがライゲーションされないならば(AND NOTゲーティング)、活性化のみが起こる。このモジュール系を用いて、代替的スペーサー対および阻害性ドメインを試験することができることは、容易に確かめることができる。スペーサーが両受容体のライゲーション後に共分離を達成しないならば、阻害は有効ではなく、したがって活性化が起こる。試験されている半阻害性エンドドメインが非有効性であるならば、半阻害性CARのライゲーション状態とは関係無く活性化CARのライゲーションの存在下で活性化が予想される。
【0157】
共発現部位
本発明の第2の実施態様は、第1のCARおよび第2のCARをコードする核酸に関する。
【0158】
核酸は、切断部位により連結された2つのCAR分子を含むポリペプチドを生成し得る。切断部位は、ポリペプチドが産生されるとき、外部の切断活性を一切必要とせずに第1のCARおよび第2のCARへと直ちに切断されるように、自己切断性であり得る。
配列番号34として示された配列を有する、口蹄疫ウイルス(FMDV)2a自己切断性ペプチドを含む、様々な自己切断性部位が知られている:
配列番号34
RAEGRGSLLTCGDVEENPGP。
【0159】
共発現配列は、内部リボソーム進入部位(IRES)であり得る。共発現配列は、内部プロモーターであり得る。
【0160】
細胞
本発明の第1の実施態様は、細胞表面で第1のCARおよび第2のCARを共発現する細胞に関する。
【0161】
該細胞は、免疫学的細胞など、細胞表面でCARを発現することができる任意の真核生物細胞であってよい。
特に、細胞は、T細胞またはナチュラルキラー(NK)細胞などの免疫エフェクター細胞であり得る。
【0162】
T細胞またはTリンパ球は、細胞媒介性免疫において中心的役割を演じるリンパ球のタイプである。それらは、細胞表面におけるT細胞受容体(TCR)の存在により、B細胞およびナチュラルキラー細胞(NK細胞)など、他のリンパ球とは区別することができる。下記で概説する通り、様々なタイプのT細胞がある。
【0163】
ヘルパーTヘルパー細胞(TH細胞)は、形質細胞および記憶B細胞へのB細胞の成熟、ならびに細胞傷害性T細胞およびマクロファージの活性化を含む、免疫学的プロセスで他の白血球を補助する。TH細胞は、それらの表面でCD4を発現する。TH細胞は、抗原提示細胞(APC)の表面でMHCクラスII分子によりペプチド抗原と共に提示されたときに活性化される。これらの細胞は、種々のサイトカインを分泌することにより、種々のタイプの免疫応答を促進する、TH1、TH2、TH3、TH17、Th9、またはTFHを含む、幾つかのサブタイプのうちの1つに分化し得る。
【0164】
細胞傷害性T細胞(TC細胞またはCTL)は、ウイルス感染細胞および腫瘍細胞を破壊し、また移植拒絶でも関与する。CTLは、それらの表面でCD8を発現する。これらの細胞は、全有核細胞の表面に存在する、MHCクラスIに随伴する抗原に結合することにより標的を認識する。調節性T細胞により分泌されるIL−10、アデノシンおよび他の分子を通じて、CD8+細胞はアネルギー状態に不活化され得、実験的自己免疫脳脊髄炎などの自己免疫疾患を防止する。
【0165】
記憶T細胞は、感染の消散後長期にわたって持続する抗原特異的T細胞のサブセットである。それらは、それらの同種抗原に再曝露されると、迅速に多数のエフェクターT細胞に拡大し、過去の感染に対する「記憶」をもつ免疫系を提供する。記憶T細胞は、3つのサブタイプ:セントラル記憶T細胞(TCM細胞)および2タイプのエフェクター記憶T細胞(TEM細胞およびTEMRA細胞)を含む。記憶細胞は、CD4+またはCD8+のいずれかであり得る。記憶T細胞は、典型的には細胞表面タンパク質CD45ROを発現する。
【0166】
以前にはサプレッサーT細胞として知られていた、調節性T細胞(Treg細胞)は、免疫寛容の維持に非常に重要である。それらの主たる役割は、免疫反応の終末に向けてT細胞媒介性免疫を制止し、胸腺での負の選択のプロセスを逃れた自己反応性T細胞を抑制することである。
【0167】
CD4+Treg細胞の2つの主なクラス−天然に存在するTreg細胞および適応Treg細胞については記載されている。
【0168】
天然に存在するTreg細胞(CD4+CD25+FoxP3+Treg細胞としても知られている)は、胸腺で生じ、TSLPで活性化された骨髄性(CD11c+)樹状細胞および形質細胞様(CD123+)樹状細胞の両方と発達中のT細胞との間の相互作用に関連付けられている。天然に存在するTreg細胞は、FoxP3と呼ばれる細胞内分子の存在により他のT細胞からは区別され得る。FOXP3遺伝子の変異は、調節性T細胞の発達を防止し得るため、致命的な自己免疫疾患IPEXが引き起こされ得る。
【0169】
適応Treg細胞(Tr1細胞またはTh3細胞としても知られている)は、正常な免疫応答中に生じ得る。
【0170】
本発明のT細胞は、上記で挙げたT細胞タイプのいずれでもよいが、特にCTLであり得る。
ナチュラルキラー(NK)細胞は、先天性免疫系の一部を形成する細胞溶解性細胞の1タイプである。NK細胞は、MHC非依存的にウイルス感染細胞からの内生シグナルに対して、迅速な応答を提供する。
【0171】
NK細胞(自然リンパ球の群に属する)は、大顆粒リンパ球(LGL)として定義され、Bリンパ球およびTリンパ球を生じる共通のリンパ性前駆細胞から分化した第3の種類の細胞を構成する。NK細胞は、骨髄、リンパ節、脾臓、扁桃および胸腺で分化および成熟し、次いでそこから循環系に入ることが知られている。
【0172】
本発明のCAR細胞は、上記で挙げた細胞タイプのいずれでもよい。
【0173】
CAR発現TまたはNK細胞などのCAR発現細胞は、患者自身の末梢血から(第1団)、またはドナー末梢血からの造血幹細胞移植の状況において(第2団)、または非関連ドナーからの末梢血(第3団)から生体外で作製され得る。
【0174】
本発明はまた、本発明によるCAR発現T細胞および/またはCAR発現NK細胞を含む細胞組成物を提供する。該細胞組成物は、本発明による核酸での血液試料の生体外形質導入またはトランスフェクションにより作製され得る。
【0175】
あるいは、CAR発現細胞は、T細胞などの関連する細胞タイプへの誘導性前駆細胞または胚性前駆細胞の生体外分化から誘導され得る。あるいは、溶解機能を保持し、治療薬として作用することができるT細胞系などの不死化細胞系も使用され得る。
【0176】
これらのすべての実施形態において、CAR細胞は、ウイルスベクターでの形質導入、DNAまたはRNAでのトランスフェクションを含む多くの手段のうちの1つによりCARをコードするDNAまたはRNAを導入することにより生成される。
【0177】
本発明のCAR T細胞は、被験体由来の生体外T細胞であり得る。T細胞を、末梢血単核細胞(PBMC)試料から得てもよい。T細胞は、CARエンコード核酸で形質導入される前に、例えば抗CD3モノクローナル抗体での処理により活性化および/または拡大され得る。
【0178】
本発明のCAR T細胞は、
(i)被験体または上記で挙げた他の供給源からのT細胞含有試料の単離;および
(ii)第1のCARおよび第2のCARをコードする1つまたはそれより多くの核酸配列(複数も可)によるT細胞の形質導入またはトランスフェクション
により作製され得る。
【0179】
次いで、T細胞は精製され得、例えば、第1のCARおよび第2のCARの共発現に基づいて選択され得る。
【0180】
核酸配列
本発明の第2の実施態様は、本発明の第1の実施態様で記載した第1のCARおよび第2のCARをコードする1つまたはそれより多くの核酸配列(複数も可)に関する。
核酸配列は、以下の配列のうちの1つ、またはその変異型を含み得る:
配列番号35 ORゲート
CD45を用いる配列番号36 ANDゲート
CD148を用いる配列番号37 ANDゲート
エンドドメインとしてPTPN6を用いる配列番号38 AND NOTゲート
LAIR1エンドドメインを用いる配列番号39 AND NOTゲート
CD148ホスファターゼとのLAIR1およびPTPN6 SH2融合体を用いる配列
番号40 AND NOTゲート。
【化15-1】
【化15-2】
【化16-1】
【化16-2】
【化16-3】
【化16-4】
【化17-1】
【化17-2】
【化17-3】
【化18-1】
【化18-2】
【化19-1】
【化19-2】
【化19-3】
【化20-1】
【化20-2】
【化20-3】
【0181】
該核酸配列は、配列番号35、36、37、38、39または40によりコードされるものと同じアミノ酸配列をコードし得るが、遺伝コードの縮重故に、異なる核酸配列を有し得る。該核酸配列は、それが本発明の第1の実施態様に定義した第1のCARおよび第2のCARをコードするかぎり、配列番号35、36、37、38、39または40に示された配列と少なくとも80、85、90、95、98または99%の同一性を有し得る。
【0182】
ベクター
本発明はまた、1つまたはそれより多くのCARエンコード核酸配列(複数も可)を含むベクターまたはベクターのキットを提供する。かかるベクターは、宿主細胞へ核酸配列(複数も可)を導入するのに使用され得、それにより、その宿主細胞が第1のCARおよび第2のCARを発現する。
【0183】
ベクターは、例えば、プラスミドまたはウイルスベクター、例えばレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクター、またはトランスポゾンに基づくベクターまたは合成mRNAであり得る。
【0184】
本ベクターは、T細胞に対しトランスフェクションまたは形質導入を行うことができるものであればよい。
【0185】
医薬組成物
本発明はまた、本発明の第1の実施態様によるT細胞またはNK細胞などの複数のCAR発現細胞を含む医薬組成物に関する。医薬組成物は、さらに薬学的に許容し得る担体、希釈剤または賦形剤を含んでいてもよい。医薬組成物は、所望により1種またはそれより多くのさらなる医薬活性ポリペプチドおよび/または化合物を含んでいてもよい。かかる製剤は、例えば、静脈内注入に好適な形態であり得る。
【0186】
処置方法
本発明のT細胞は、がん細胞などの標的細胞を殺すことができるものであればよい。標的細胞は、抗原発現の特定パターン、例えば抗原A AND 抗原Bの発現;抗原A OR 抗原Bの発現;または抗原A AND NOT 抗原Bの発現またはこれらのゲートの複合的反復により認識可能であり得る。
【0187】
本発明のT細胞は、ウイルス感染症などの感染症の処置に使用され得る。
【0188】
本発明のT細胞はまた、例えば自己免疫疾患、アレルギーおよび移植片対宿主拒絶における、病的免疫応答の制御に使用され得る。
【0189】
本発明のT細胞は、膀胱がん、乳がん、結腸がん、子宮体がん、腎臓がん(腎細胞)、白血病、肺がん、メラノーマ、非ホジキンリンパ腫、膵臓がん、前立腺がんおよび甲状腺がんなどのがん性疾患の処置に使用され得る。
【0190】
それは、良好な選択的単一標的の利用可能性が限定される固形腫瘍の処置に特に適している。
【0191】
本発明のT細胞は、舌、口および咽頭のがんを含む口腔および咽頭のがん;食道がん、胃がんおよび結腸直腸がんを含む消化器系のがん;肝細胞癌および胆管癌を含む肝臓および胆道系のがん;気管支原性がんおよび喉頭のがんを含む呼吸器系のがん;骨肉腫を含む骨および関節のがん;メラノーマを含む皮膚のがん;乳がん;女性における子宮がん、卵巣がんおよび子宮頸がん、男性における前立腺がんおよび精巣がんを含む生殖器のがん;腎細胞癌および尿管(utterer)もしくは膀胱の移行上皮癌を含む腎臓系(renal tract)のがん;神経膠腫、多形神経膠芽腫および髄芽腫(medullobastoma)を含む脳がん;甲状腺がん、副腎癌および多発性内分泌腫瘍症候群に随伴するがんを含む内分泌系のがん;ホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫を含むリンパ腫;多発性骨髄腫および形質細胞腫;急性および慢性の両方の、骨髄性またはリンパ性の白血病;ならびに神経芽細胞腫を含む他の部位および非特定部位のがんを処置するのに使用され得る。
【0192】
本発明のT細胞による処置は、標準的手法で起こることが多い腫瘍細胞のエスケープまたは放出を防止するのを助け得る。
【0193】
以下、実施例により本発明をさらに記載するが、これは、本発明を実施する上で当業者を助ける役割を果たすことを意味するもので、本発明の範囲をいかなる意味にせよ限定する意図はない。
【実施例】
【0194】
実施例1−標的細胞集団の作製
本発明の原理を証明する目的で、抗CD19および抗CD33に基づく受容体を任意選択した。レトロウイルスベクターを用いて、CD19およびCD33をクローン化した。これらのタンパク質の先端を切除した結果、それらはシグナルを発さず、長期間にわたって安定して発現させることができた。次に、これらのベクターを用いて、SupT1細胞系に対し単独に、または二重に形質導入を行い、両抗原に陰性の細胞(野生型)、どちらか一方に陽性の細胞および両方に陽性の細胞を確立した。発現データを図3に示す。
【0195】
実施例2−ORゲートの設計および機能
ORゲートを構築するため、CD19およびCD33を認識する1対の受容体を共発現させた。異なるスペーサーを用いることにより、交差対合を防止した。両受容体とも、表面安定性を改善するためのCD28由来の膜貫通ドメインおよび単純な活性化シグナルを提供するためのCD3−ゼータのものから誘導されたエンドドメインを有していた。かくして、1対の独立した第一世代CARを共発現させた。配列を共発現させるのに使用されたレトロウイルスベクターカセットは、口蹄疫2A(foot−and−mouth 2A)自己切断性ペプチドを利用することにより、両受容体の1:1共発現を可能にした。カセット設計を図4に、タンパク質構造を図5に示す。相同性領域のヌクレオチド配列をコドンゆらぎ状態としてレトロウイルスベクター逆転写の間の組換えを防止した。
【0196】
実施例3−ORゲートの試験
両CARの発現を、Fcに融合させた同種抗原で染色することによりT細胞表面上で試験した。異なる種(CD19にはマウスおよびCD33にはウサギ)のFcドメインを用いることにより、両CARの共発現を、異なるフルオロフォアでコンジュゲートした異なる2次抗体で染色することにより細胞表面上で決定した。これを図6に示す。
【0197】
次いで、マウスT細胞系BW5147を用いて機能試験を実施した。この細胞系は、活性化の際にIL−2を放出するため、単純な定量的読出しが可能となる。これらのT細胞を、漸増量の上記人工標的細胞と共培養した。T細胞は、ELISAにより測定されたIL−2放出により示されるとおり、いずれかの抗原を発現する標的細胞に応答した。両CARとも、細胞表面上で発現されることが示され、T細胞は一方または両方の抗原に応答することが示された。これらのデータを図7に示す。
【0198】
実施例4−ANDゲートの設計および機能
ANDゲートでは、単純な活性化受容体を、基本的には活性を阻害するが、一旦受容体がライゲーションされると、その阻害が止められてしまう受容体と組み合わせる。これは、短い/嵩高くないCD8ストークスペーサーおよびCD3−ゼータエンドドメインをもつ標準的第一世代CARを、そのエンドドメインがCD148エンドドメインまたはCD45エンドドメインのいずれかを含む嵩高いFcスペーサーをもつ第2の受容体と組み合わせることにより達成された。両受容体がライゲーションされたとき、スペーサー寸法の差異により、異なる膜区画において異なる受容体が単離され、CD3−ゼータ受容体をCD148またはCD45エンドドメインによる阻害から解放させる。かくして、一旦両受容体が活性化されると、活性化のみが起こる。CD148およびCD45は、本来この様式で機能するため、それらをこのために選択した:例えば、非常に嵩高いCD45エクトドメインは、免疫学的シナプスから受容体全体を排除する。発現カセットを図8に、後続のタンパク質を図9に示す。
【0199】
異なる特異性についての表面染色は、両受容体対が、図10に示されたように細胞表面で有効に発現され得ることを示した。BW5147における機能は、両抗原の存在下ではT細胞が活性化されるだけであることを示す(図11)。
【0200】
実施例5:ANDゲートの一般化可能性の実証
観察結果がCD19/CD33および使用されていたそれらのバインダーのいくらかの特異的な特徴の発現ではなかったことを確証するため、ここでは、活性化(ITAM)シグナルがCD19ではなくCD33の認識の際に伝達され、また阻害性(CD148)シグナルがCD33ではなくCD19の認識の際に伝達されるように、2つの標的化scFvを交換した。CD45エンドドメインおよびCD148エンドドメインは、機能的に類似していると考えられるため、CD148エンドドメインを伴うANDゲートに実験を制限した。これにより、当然機能的ANDゲートが依然としてもたらされる。新しい論理ゲートを発現するT細胞を、CD19またはCD33のいずれか一方または両方を担持する標的でチャレンジした。T細胞は、CD19およびCD33の両方を発現する標的に応答したが、これらの抗原の一方のみを発現するかまたはどちらも発現しない標的には応答しなかった。これは、ANDゲートが依然としてこのフォーマットで機能性であることを示す(図18B)。
【0201】
同じ系において、本発明者らのANDゲートがいかに一般化可能であるかを確立しようと努めた:ANDゲートは、種々の標的全体にわたって一般化可能であるべきである。相対的抗原密度、同種scFv結合速度論およびscFv結合エピトープの正確な距離が与えられたゲートの忠実度は多かれ少なかれあり得るが、広範なセットの標的およびバインダーをもついくらかのANDゲート発現を見出すことが予想される。これを試験するため、3つの追加的ANDゲートを生成した。今回もまた、ANDゲートのCD148バージョンに実験を制限した。元のCD148 ANDゲートからの第2のscFvを、抗GD2 scFv huK666(配列番号41および配列番号42)、または抗CD5 scFv(配列番号43および配列番号44)、または抗EGFRvIII scFv MR1.1(配列番号45および配列番号46)で置き換えて、以下のCAR ANDゲート:CD19 AND GD2;CD19 AND CD5;CD19 AND EGFRvIIIを生成した。また、以下の人工抗原発現細胞系が生成された:SupT1、および本発明者らのSupT1.CD19をGM3およびGD2シンターゼで形質導入することにより、SupT1.GD2およびSupT1.CD19.GD2が生成された。SupT1およびSupT1.CD19を、EGFRvIIIをコードするレトロウイルスベクターで形質導入することにより、SupT1.EGFRvIIIおよびSupT1.CD19.EGFRvIIIが生成された。CD5はSupT1細胞で発現されるため、異なる細胞系を用いて標的細胞を生成させた:CD19単独、CD5単独およびCD5およびCD19の両方を合わせて発現する293T細胞を生成させた。発現をフローサイトメトリーにより確認した(図19)。3つの新たなCAR ANDゲートを発現するT細胞を、SupT1.CD19およびそれぞれ同種のダブル陽性およびシングル陽性標的細胞でチャレンジした。3つのANDゲートは全て、シングル陽性標的との比較におけるダブル陽性細胞系による活性化の低減を証明した(図20)。これは、任意標的および同種バインダーに対するANDゲート設計の一般化可能性を実証する。
【0202】
実施例6:CAR ANDゲートの動力学的分離モデルの実験的証明
この目的は、異なるスペーサーにより誘発される特異的分離が、これらの論理CARゲートを生成する能力の背後の中心機構であることを証明することであった。このモデルは、活性化CARのみがライゲーションされれば、強力な阻害性「ライゲーション・オフ」型CARが膜において溶解状態であり、活性化CARを阻害することができるということである。一旦両CARがライゲーションされると、両CARスペーサーが十分に異なれば、それらはシナプス内で分離し、共局在することはない。このため、重要な必要条件は、スペーサーが十分に異なることである。このモデルが正しければ、両スペーサーが、両受容体がライゲーションされたとき、共局在するほど十分に類似していれば、ゲートは、機能し得ない。これを試験するため、元のCARにおける「嵩高い」Fcスペーサーを、本発明者らはネズミCD8スペーサーで置き換えた。これがヒトCD8と類似した長さ、かさおよび電荷を有するが、当然それと交差対合するものではないことが予測された。このため、新しいゲートは、CD19を認識し、ヒトCD8ストークスペーサーおよび活性化エンドドメインを有する第1のCAR;同時に、CD33を認識し、マウスCD8ストークスペーサーおよびCD148エンドドメインを有する第2のCARを有した(図18C)。T細胞に対し、この新しいCARゲートを発現するように形質導入した。次いで、これらのT細胞を、CD19単独、CD33単独またはCD19およびCD33の両方を発現するSupT1細胞でチャレンジした。T細胞は、元のANDゲートのとおりにいずれかの抗原のみを発現するSupT1細胞には応答しなかった。しかしながら、CAR T細胞は、両抗原を発現するSupT1細胞には応答し得なかったことから、このモデルが確認された(図18C)。機能的ANDゲートは、両CARが免疫学的シナプス内で共局在することがないようにそれらが十分に異なるスペーサーを有することを要求する(図23AおよびB)。
【0203】
実施例7−AND NOTゲートの設計および機能
CD45およびCD148などのホスファターゼは、非常に強力であるため、免疫学的シナプスに少量入っただけでも、ITAM活性化を阻害することができる。これは、論理ANDゲートの阻害の基礎である。他のクラスのホスファターゼ、例えばPTPN6および関連ホスファターゼは、それほど強力ではない。少量のPTPN6が拡散によりシナプスに入っても活性化を阻害することはないと予測された。加えて、阻害性CARが活性化CARと十分に類似したスペーサーを有するならば、両CARがライゲーションされると、シナプス内で共局在することができると予測された。この場合、大量の阻害性エンドドメインであれば、両抗原が存在するときITAMが活性化するのを止めるのに十分である。かくして、AND NOTゲートを作製することができた。
【0204】
NOT ANDゲートの場合、第2のシグナルは、活性化を「拒否する(veto)」必要がある。これは、阻害性シグナルを免疫学的シナプスにもたらすことにより、例えばPTPN6などの酵素ホスファターゼをもたらすことにより行われる。このため、本発明者らは、最初のAND NOTゲートを以下の通り生成した:2つのCARを共発現させ、それにより、第1のCARはヒトCD8ストークスペーサーおよび活性化エンドドメインを有してCD19を認識し;マウスCD8ストークスペーサーおよびPTPN6の触媒ドメインを含むエンドドメインを伴う抗CD33 CARと共発現させる(配列番号38、図13AとB)。好適なカセットを図12に示し、予備的機能データを図14に示す。
【0205】
加えて、AND NOTゲートを生成するための代替的戦略を開発した。免疫チロシナーゼ阻害性モチーフ(ITIM)は、ホスファターゼが集合および排除されるとITIMがlckによりリン酸化されるという点で、ITAMと類似した様式で活性化される。ZAP70と結合することにより活性化を誘発する代わりに、リン酸化ITIMは、それらの同種SH2ドメインを通してPTPN6などのホスファターゼをリクルートする。ITIMは、活性化CARおよび阻害性CAR上のスペーサーが共局在し得る限り、阻害性エンドドメインとして機能することができる。この構築物を生成するため、AND NOTゲートを以下の通り生成した:2つのCARを共発現させた−第1のCARは、ヒトCD8ストークスペーサーおよび活性化エンドドメインを有してCD19を認識し;マウスCD8ストークスペーサーおよびLAIR1のものに由来するITIM含有エンドドメインを有する抗CD33 CARと共発現させる(配列番号39、図13AおよびC)。
【0206】
また、さらなるより複合的なAND NOTゲートを開発し、それによると、ITIMは、追加的キメラタンパク質:PTPN6のSH2ドメインおよびCD148のエンドドメインの細胞内融合体の存在により高められる。この設計では、3つのタンパク質が発現される−第1のタンパク質は、ヒトCD8ストークスペーサーおよび活性化エンドドメインを有してCD19を認識し;マウスCD8ストークスペーサーおよびLAIR1のものに由来するITIM含有エンドドメインを有する抗CD33 CARと共発現させる。さらなる2Aペプチドは、PTPN6−CD148融合体の共発現を可能にする(配列番号40、図13AおよびD)。これらのAND NOTゲートは、異なる範囲の阻害:PTPN6−CD148>PTPN6>>ITIMを有すると予測された。
【0207】
これらのゲートでT細胞の形質導入を行い、CD19またはCD33のいずれか一方、またはCD19およびCD33の両方を一緒に発現する標的でチャレンジした。3つのゲートは全て、CD19のみを発現する標的に応答したが、CD19およびCD33の両方を一緒に発現する標的には応答しなかった(図21)ことから、3つのAND NOTゲートは全て機能的であることが確認された。
【0208】
実施例8:PTPN6に基づくAND NOTゲートの動力学的分離モデルの実験的証明
AND NOTゲートのモデルは、両CARで使用されるスペーサーの性質が、ゲートの正確な機能にとって重要であるという事実を軸として展開する。PTPN6を伴う機能的AND NOTゲートでは、両CARスペーサーは十分に類似しており、両CARがライゲーションされたとき、両方がシナプス内で共局在し、高濃度であるため弱いPTPN6でさえ活性化を阻害するのに十分である。スペーサーが異なったならば、シナプスにおける分離は、活性化を可能にするITAMからPTPN6を離すことになり、AND NOTゲートを破壊する。これを試験するため、ネズミCD8ストークスペーサーをFcのそれで置き換えて対照を生成した。この場合、試験ゲートは2つのCARで構成された。第1のCARは、ヒトCD8ストークスペーサーおよびITAMエンドドメインを有してCD19を認識し;一方、第2のCARは、FcスペーサーおよびPTPN6からのホスファターゼを含むエンドドメインを有してCD33を認識する。このゲートは、CD19に応答して活性化するが、同じくCD19およびCD33の両方に応答して活性化する(図22B、この図では、このゲートの機能を、元のAND NOTゲートおよび実施例6に記載の対照ANDゲート変異型の機能と比較する)。この実験データは、PTPN6を伴う機能的AND NOTゲートの場合、共局在するスペーサーが必要とされるモデルを証明している。
【0209】
実施例9:ITIMに基づくAND NOTゲートの動力学的分離モデルの実験的証明
PTPN6に基づくAND NOTゲートと同様に、ITIMに基づくゲートもまた、AND NOTゲートとして機能するために免疫学的シナプスにおける共局在を要求する。この仮説を証明するため、対照ITIMに基づくゲートを以下の通り生成した:2つのCARを共発現させた−第1のCARは、ヒトCD8ストークスペーサーおよび活性化エンドドメインを有してCD19を認識し;FcスペーサーおよびLAIR1のものに由来するITIM含有エンドドメインを有する抗CD33 CARと共発現させる。このゲートの活性を、元のITIMに基づくAND NOTゲートの活性と比較した。この場合、改変されたゲートは、CD19を発現する標的に応答して活性化したが、同じくCD19およびCD33の両方を発現する細胞に応答して活性化した。これらのデータは、ITIMに基づくAND NOTゲートが動力学的分離に基づくモデルに従うこと、および機能ゲートを作製するためには正確なスペーサーが選択されなければならないことを示す(図23B)。
【0210】
実施例10:動力学的分離により生成されたCAR論理ゲートのモデルの概要
現時点での動力学的分離モデルについての理解および本明細書記載の実験データに基づき、2−CARゲートについてのモデルの概要を図24に提示する。この図は、それぞれ異なる抗原を認識する、2つのCARを発現する細胞を示す。一方または両方のCARが細胞上の標的抗原を認識すると、シナプスが形成され、もともとあったCD45およびCD148は、それらのエクトドメインがかさ高い故にシナプスから排除される。これがT細胞活性化のためのステージを設定する。標的細胞が唯一の同種抗原をもつ場合、同種CARがライゲーションされ、同種CARはシナプスへと分離する。ライゲーションされていないCARはT細胞膜上で溶解状態のままであるため、シナプスの内外へと拡散することができ、その結果、低濃度のライゲーションされていないCARを伴う高局所濃度のライゲーションされたCARの領域が形成する。この場合、ライゲーションされたCARがITAMを有し、ライゲーションされていないCARが、「ライゲーション・オフ」型阻害性エンドドメイン、例えばCD148のそれを有するならば、ライゲーションされていないCARの量は、活性化を阻害するのに十分であり、ゲートはオフである。対照的に、この場合、ライゲーションされたCARがITAMを有し、ライゲーションされていないCARが、PTPN6などの「ライゲーション・オン」型阻害性エンドドメインを有するならば、ライゲーションされていないCARの量は、阻害するには不十分であり、ゲートはオンである。両同種抗原をもつ標的細胞によりチャレンジされると、両同種CARがライゲーションされ、免疫学的シナプスの一部を形成する。重要なことに、CARスペーサーが十分に類似しているならば、両CARはシナプスに共局在するが、CARスペーサーが十分に異なるならば、両CARはシナプス内で分離する。この後者の場合、一方のCARは高濃度で存在するが、他方のCARは存在しない膜の領域が形成される。この場合、分離は完全であるため、阻害性エンドドメインが「ライゲーション・オフ」型であるとしても、ゲートはオンである。前者の場合、両CARが高濃度で共に混ざった膜の領域が形成される。この場合、両エンドドメインが濃縮されるため、阻害性エンドドメインが「ライゲーション・オン」型であるとしても、ゲートはオフである。スペーサーおよびエンドドメインの正しい組み合わせを選択することにより、論理をCAR T細胞にプログラム化することができる。
【0211】
上記の本発明者らの作業に基づき、本発明者らは、論理ゲートCARの生成を可能にする一連の設計規則を確立した(図32で概説)。「抗原A OR 抗原B」ゲートCAR T細胞を生成するため、(1)各CARが、CARが機能するように単に抗原接近およびシナプス形成を可能にするスペーサーを有し、そして(2)各CARが活性化エンドドメインを有するように、抗Aおよび抗BのCARを生成しなければならない。「抗原A AND NOT B」ゲートCAR T細胞を生成するため、(1)両CARが、交差対合することはないが、標的細胞上で両同種抗原を認識したとき、CARを共分離させるようにするスペーサーを有し、そして(2)一方のCARが活性化エンドドメインを有し、同時に、他方のCARが弱いホスファターゼ(例えば、PTPN6)を含むかまたはリクルートするエンドドメインを有するように、抗Aおよび抗BのCARを生成しなければならない。(3)「抗原A AND 抗原B」ゲートCAR T細胞を生成するため、(1)両CARが標的細胞上で両同種抗原を認識したとき、両CARが共分離することのないように、一方のCARが他方のCARとは十分に異なるスペーサーを有し、(2)一方のCARが活性化エンドドメインを有し、他方のCARが、強力なホスファターゼ(例えば、CD45またはCD148のもの)を含むエンドドメインを有するように、抗Aおよび抗BのCARを生成しなければならない。所望の効果を達成するための正確なスペーサーは、既知サイズ/形状などをもつスペーサーのセットから、ならびに標的抗原のサイズ/形状などおよび標的抗原上の同種エピトープの場所を考慮に入れて選択され得る。
【化21-1】
【化21-2】
【化22-1】
【化22-2】
【化23】
【化24-1】
【化24-2】
【化24-3】
【化25】
【化26-1】
【化26-2】
【0212】
実施例11:APRILに基づくCARの設計および構築
APRILの天然形態は、分泌II型タンパク質である。CARのためのBCMA結合ドメインとしてのAPRILの使用は、このII型分泌タンパク質のI型膜結合タンパク質への変換を必要とし、このタンパク質が安定しており、この形態でBCMAへの結合性を保持するためにも必要である。候補分子を生成するため、APRILのアミノ末端先端部を欠失させて、プロテオグリカンへの結合性を除去した。次に、シグナルペプチドを付加することにより、新生タンパク質を小胞体、およびそれゆえ細胞表面へと向かわせた。また、使用されるスペーサーの性質は、CARの機能を変更することができるため、3つの異なるスペーサードメインを試験した:(i)Fc結合モチーフを除去するように改変されたヒトIgG1スペーサー;(ii)CD8ストーク;および(iii)IgG1ヒンジ単独を含む、APRILに基づくCARが生成された(図25におけるカートゥーンおよび図26におけるアミノ酸配列)。これらのCARは、マーカータンパク質−先端切除CD34が好都合なマーカー遺伝子として共発現され得るようにバイシストロニックレトロウイルスベクターで発現された(図27A)。
【0213】
実施例12:APRILに基づくCARの発現および機能
この研究の目的は、構築されたAPRILに基づくCARが細胞表面で発現されるかどうか、およびAPRILが折り畳まれて天然タンパク質を形成するかどうかを試験することであった。T細胞を、これらの異なるCAR構築物で形質導入し、マーカー遺伝子についての染色と一緒に、市販されている抗APRIL mAbを用いて染色し、フローサイトメトリーにより分析した。この実験の結果を、APRIL結合性がマーカー遺伝子の蛍光に対してプロットしている図27Bに示す。これらのデータは、このフォーマットで、APRILに基づくCARが細胞表面で発現され、APRILが抗APRIL mAbにより認識されるほど十分に折り畳まれていることを示す。
【0214】
次に、このフォーマットのAPRILがBCMAおよびTACIを認識できるかどうかを決定した。組換えBCMAおよびTACIを、マウスIgG2a−Fcとの融合体として生成した。これらの組換えタンパク質を、形質導入したT細胞とインキュベーションした。この後、細胞を洗浄し、抗マウスフルオロフォアコンジュゲート抗体および異なるフルオロフォアにコンジュゲートしたマーカー遺伝子を検出するための抗体で染色した。細胞をフローサイトメトリーにより分析し、結果を図27Cに提示する。種々のCARは、BCMAおよびTACIの両方と結合することができた。驚くべきことに、CARは、TACIよりもBCMAと良好に結合することができた。また、驚くべきことに、CD8ストークまたはIgG1ヒンジスペーサーをもつCARは、FcスペーサーをもつCARよりBCMAおよびTACIと良好に結合することができた。
【0215】
実施例13:APRILに基づくキメラ抗原受容体は、BCMA発現細胞に対して活性である
正常ドナーからのT細胞を、種々のAPRIL CARで形質導入し、野生型、またはBCMAおよびTACIを発現するように操作されたSupT1細胞のどちらかに対して試験した。幾つかの異なるアッセイを使用して、機能を決定した。古典的クロム放出アッセイを実施した。ここでは、標的細胞(SupT1細胞)を、51Crで標識し、異なる比率でエフェクター(形質導入T細胞)と混合した。共培養上清中の51Crを数えることにより、標的細胞の溶解を決定した(図28Aは、累積データを示す)。
【0216】
加えて、SupT1細胞と1:1で培養したT細胞からの上清を、インターフェロン−ガンマについてELISAによりアッセイした(図28Bは累積データを示す)。また、1週間のSupT1細胞との共培養後のT細胞拡大の測定を実施した(図28C)。T細胞を、カウントビーズで較正したフローサイトメトリーにより計数した。これらの実験データは、APRILに基づくCARが、BCMA発現標的を殺すことができることを示す。さらに、これらのデータは、CD8ストークまたはIgG1ヒンジに基づくCARが、Fc−pvaaに基づくCARよりも良好に動作したことを示す。
【0217】
実施例14;初代細胞におけるANDゲートの機能分析
PBMCを血液から単離し、PHAおよびIL−2を用いて刺激した。2日後、細胞を、レトロネクチン被覆プレート上でCD19:CD33 ANDゲート構築物を含むレトロウイルスにより形質導入した。5日目、ANDゲート構築物により翻訳された2つのCARの発現レベルを、フローサイトメトリーにより評価し、細胞からCD56+細胞(主としてNK細胞)を枯渇させた。6日目、PBMCを、1:2のエフェクター対標的細胞比で標的細胞との共培養物に入れた。8日目、上清を集め、IFN−ガンマ分泌についてELISAにより分析した(図29)。
【0218】
これらのデータは、ANDゲートが初代細胞において機能することを実証する。
【0219】
実施例15:スペーサーが延長されたAND NOTゲートの試験
ANDNOTゲートが延長されたスペーサー長に関して機能することができるかどうかを試験するため、活性化CAR(抗CD19)スペーサーと阻害性CAR(抗CD33)スペーサーの両方をより長いスペーサーに置き換えた。ヒトIgMおよびIgGのFc領域を用いて、スペーサー長を伸ばした。IgMのFcは、IgGと比較すると追加のIgドメインを含んでおり、この理由のため、IgMスペーサーを、膜近位結合性エピトープを有することが知られている抗CD19 CAR上に配置させた。対照的に、抗CD33結合性エピトープは、分子の遠位末端に位置しているため、比較的短いIgGスペーサーをこのCARで用いた(図30参照)。伸長スペーサーANDNOTゲート構築物を、マウスT細胞系へ形質導入した。次いで、一定数の形質導入T細胞を、様々な数の標的細胞と16〜24時間共培養し、その後、上清中の分泌されたIL−2の量をELISAにより分析した。
【0220】
結果を図30に示す。AND NOTゲートは、IgG/IgMスペーサー対により十分に機能した。
【0221】
実施例16:ANDNOTゲートプラットフォームの堅牢性の試験
ANDNOTゲートプラットフォームの堅牢性を試験するため、阻害性CAR(抗CD33)からの結合ドメインを、2つの他の非関連バインダー(抗GD2および抗EGFRvIII)で置き換えた。抗GD2または抗EGFRvIIIについてのscFvフラグメントを、先端切除したSHP−1またはLAIR細胞質ゾルドメインを伴うANDNOTゲートプラットフォームにおいて阻害性CARの抗CD33と置き換えた。これらの構築物を、マウスT細胞系へ形質導入させ、一定数のT細胞を様々な数の標的細胞と共培養した。16〜24時間の共培養後、上清中の分泌されたIL−2の量をELISAにより分析した。
【0222】
結果を図31に示す。AND NOTゲートは、先端切除したSHP−1またはLAIR細胞質ゾルドメインのどちらかを伴う抗CD19/抗GD2バインダーおよび抗CD19/抗EGFRvIIIバインダーでも十分に機能した。
【0223】
上記の明細書で挙げた出版物は全て、参照により本明細書に援用する。本発明の記載された方法および系の様々な修飾および変形は、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく当業者には明らかである。本発明を特定の好ましい実施形態と共に記載したが、請求されている本発明は、かかる特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことを理解するべきである。事実、分子生物学、細胞生物学または関連分野における専門家にとって明白な、本発明を実施するために記載された方法の様々な修飾も以下の特許請求の範囲の範囲内に含まれるものとする。
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【配列表】
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【国際調査報告】