(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-539282(P2016-539282A)
(43)【公表日】2016年12月15日
(54)【発明の名称】風力タービンの歯車装置の非常時潤滑システム
(51)【国際特許分類】
F03D 80/70 20160101AFI20161118BHJP
F16N 7/28 20060101ALI20161118BHJP
F16N 7/36 20060101ALI20161118BHJP
【FI】
F03D80/70
F16N7/28
F16N7/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-554807(P2016-554807)
(86)(22)【出願日】2014年10月24日
(85)【翻訳文提出日】2016年5月24日
(86)【国際出願番号】EP2014072805
(87)【国際公開番号】WO2015074825
(87)【国際公開日】20150528
(31)【優先権主張番号】102013224017.1
(32)【優先日】2013年11月25日
(33)【優先権主張国】DE
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ
(71)【出願人】
【識別番号】500045121
【氏名又は名称】ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AG
(71)【出願人】
【識別番号】514011413
【氏名又は名称】ツェットエフ ウィンド パワー アントワープ エヌ ヴイ
【氏名又は名称原語表記】ZF WIND POWER ANTWERPEN N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100186716
【弁理士】
【氏名又は名称】真能 清志
(72)【発明者】
【氏名】ロジャー ボガエール
(72)【発明者】
【氏名】ミキエル ヴァン デン ドンケー
【テーマコード(参考)】
3H178
【Fターム(参考)】
3H178AA20
3H178AA40
3H178AA43
3H178BB54
3H178DD03X
3H178DD08X
(57)【要約】
本発明は非常時潤滑システムに関し、潤滑剤ポンプ(113)と、特に風力発電設備の歯車装置(101)における少なくとも1つの第1潤滑位置(107)に、潤滑剤を塗布する出口開口(125)と、を備える。システムは第1キャビティ(203)を備え、潤滑剤ポンプ(113)は、潤滑剤の少なくとも一部分を第1キャビティ(203)へ促進するよう構成される。第1キャビティ(203)は、潤滑剤を中間貯蔵し、および中間貯蔵された潤滑剤を位置エネルギーで附勢するよう構成される。さらに、第1キャビティ(203)と出口開口(125)の間に、潤滑剤をガイド可能な接続部が存在する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤ポンプ(113)と、
歯車装置(101)における少なくとも1つの第1潤滑位置(107)に、潤滑剤を塗布する出口開口(125)と、を備える非常時潤滑システムであって、
第1キャビティ(203)を備え、前記潤滑剤ポンプ(113)は、潤滑剤の少なくとも一部分を前記第1キャビティ(203)へ促進するよう構成され、
該第1キャビティ(203)は、潤滑剤を中間貯蔵し、および中間貯蔵された潤滑剤を位置エネルギーにより附勢するよう構成され、および
前記第1キャビティ(203)と前記出口開口(125)の間に、潤滑剤をガイド可能な接続部を備えることを特徴とするシステム。
【請求項2】
少なくとも1つの附勢手段(201、209)を備え、中間貯蔵された潤滑剤を、圧力により附勢することを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシステムであって、前記第1キャビティ(203)を構成する容器(117)を備え、該容器(117)内部には、移動可能なピストン(201)が配置され、および少なくとも1つの附勢手段(209)を備え、前記ピストン(201)が、前記第1キャビティ(203)に中間貯蔵された潤滑剤を圧力により附勢するよう、前記ピストン(201)を力により附勢することを特徴とするシステム。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載のシステムであって、
第2キャビティ(205)と、
該第2キャビティ(205)と潤滑剤貯槽(111)の間の潤滑剤をガイド可能な接続部(207)と、を備え、
前記潤滑剤貯槽(111)は、前記歯車装置(101)における少なくとも1つの第2潤滑位置(103、105)に対して油浴潤滑を行い、
前記潤滑剤ポンプ(113)は、潤滑剤の少なくとも一部分を、前記潤滑剤貯槽(111)から前記第1キャビティ(203)へ促進するよう構成され、および
潤滑剤は、前記第1潤滑位置(107)から還流し、前記潤滑剤貯槽(111)に流入可能であり、および
少なくとも1つの連結手段(201)を備え、前記第1キャビティ(203)から潤滑剤が流出すると、流出したのと同一の分量の潤滑剤が、前記潤滑剤貯槽(111)から前記第2キャビティ(205)に流入するよう、前記第1キャビティ(203)および前記第2キャビティ(205)を連結することを特徴とするシステム。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載のシステムであって、前記手段(201)は、前記第1キャビティ(203)の容積が狭まると、前記第2キャビティ(203)の容積が拡がるよう、前記第1キャビティ(203)および前記第2キャビティ(205)を連結し、前記第1キャビティ(203)および前記第2キャビティ(205)の総容積が一定に保たれることを特徴とするシステム。
【請求項6】
請求項3〜5の何れか一項に記載のシステムであって、前記容器(117)は前記第2キャビティ(205)を構成し、前記ピストン(201)は、前記第1キャビティ(203)を前記第2キャビティ(205)から分離することを特徴とするシステム。
【請求項7】
前記容器(117)は、少なくとも部分的に、前記潤滑剤貯槽(111)内部に配置されることを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記潤滑剤ポンプ(113)により促進される潤滑剤の全てが、前記第1キャビティ(203)へ導かれることを特徴とする、請求項1〜7の何れか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車装置における部品に対する非常時潤滑システムに関し、特に潤滑剤ポンプが動作不能状態に陥った際に、風力発電設備の歯車装置を一時的に循環潤滑する、請求項1の前提部に記載の非常時潤滑システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術から、例えば国際公開特許第2008/151583 A2号パンフレットは、電動ポンプを機械式ポンプと組み合わせた非常時潤滑システムを開示する。通常作動においては、電動ポンプが潤滑剤を供給する役割を果たす。例えば停電等で電動ポンプが作動不能に陥った場合、潤滑剤の供給は、機械式ポンプにより維持される。この場合機械式ポンプは、旋回する歯車装置部分により駆動される。しかしながら、通常作動において、機械式ポンプが共に稼働することを防止するために、複雑な機構が必要となる。こうした機構により、非常作動、つまり電動ポンプの作動不能時に、機械式ポンプにスイッチが入る。さらに、歯車装置が停止され、歯車装置の回転運動が減速すると、機械式ポンプはパワーを失う。従って、風力発電設備の停止時には、潤滑剤の不足を、確実には防止できない。
【0003】
欧州特許第2 351 950 B1号明細書およびドイツ特許出願公開第37 02 008 A1号明細書は、機械式ポンプ無しの非常時潤滑システムを開示する。これらのシステムにおいては、機械式ポンプの替わりに容器が装備され、この容器に潤滑剤が中間貯蔵される。容器は、より高い位置に配置される。従って潤滑剤は、更なるエネルギーを供給せずとも、中間貯蔵容器から歯車装置に流入可能である。通常作動において、潤滑剤はドライサンプ方式として、歯車装置に供給される。非常作動への移行時には、弁が開放し、容器に中間貯蔵された潤滑剤が、歯車装置に流入可能である。この結果、歯車装置の潤滑剤レベルが上昇し、ドライサンプ方式による潤滑から、油浴潤滑へと移行する。
【0004】
しかしながら、油浴潤滑では不十分である歯車装置が存在する。特に、すべり軸受に対して潤滑剤を供給する際には、油浴潤滑では十分な解決策とならない場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開特許第2008/151583 A2号パンフレット
【特許文献2】欧州特許第2 351 950 B1号明細書
【特許文献3】ドイツ特許出願公開第37 02 008 A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、従来技術から既知のシステムに内在する欠点を克服し、歯車装置に対して、非常作動において確実に潤滑剤を供給することである。特に、潤滑剤を不足させずに、制御下でシステムを停止可能とするために、非常作動においては、循環潤滑を油圧により維持すべきである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、請求項1に記載のシステムにより解決される。好適な発展形態は、従属請求項に記載する。
【0008】
本発明による非常時潤滑システムは、潤滑剤ポンプと、歯車装置における少なくとも1つの第1被潤滑部品に、潤滑剤を塗布する出口開口と、を備える。歯車装置は、特に風力発電設備の歯車装置であり、被潤滑部品はすべり軸受である。
【0009】
出口開口は、出口開口から流出する潤滑剤が、被潤滑部品の潤滑位置に達するよう配置される。例えば、すべり軸受に孔を施し、その孔を通して、潤滑剤を軸受の間隙に導くことが可能である。軸受の間隙に通じる孔の開口は、上述した出口開口である。出口開口は、歯車装置に適切に取り付けたノズルとすることも可能である。
【0010】
本発明に従い、システムは第1キャビティを備える。この場合潤滑剤ポンプは、潤滑剤の少なくとも一部分を第1キャビティへ促進するよう構成される。そのために、特に潤滑剤ポンプと第1キャビティの間に、潤滑剤をガイド可能な接続部が存在する。
【0011】
第1キャビティは、潤滑剤を中間貯蔵し、および中間貯蔵された潤滑剤、つまり潤滑剤ポンプに促進されて第1キャビティへ導き入れられた潤滑剤を、位置エネルギーにより附勢するよう構成される。
【0012】
位置エネルギーは、ポテンシャルエネルギーと同義である。以下において、参照物体は通常、保存力場内部の異なる2つの場所の間に、エネルギー差を有すると理解される。つまりポテンシャルエネルギーとは、力場内部の参照物体の現在位置により決定される、参照物体のエネルギーである。力場とは、地球の重力場である。
【0013】
ばねも、保存力場を発生する。ばねの張力エネルギーは、つまりはポテンシャルエネルギーである。
【0014】
さらに、流体が圧力により附勢されているラインは、保存力場を画定する。
【0015】
上述の参照物体とは、特に第1キャビティに中間貯蔵された潤滑剤である。
【0016】
さらに本発明に従い、第1キャビティと出口開口の間に、潤滑剤をガイド可能な接続部が存在する。潤滑剤が位置エネルギーにより附勢された結果、第1キャビティに中間保存された潤滑剤と出口開口の潤滑剤の間に、エネルギー差が生じる。従って、第1キャビティに中間保存された潤滑剤は、位置エネルギーにより、出口開口の潤滑剤に対して附勢される。第1キャビティに中間保存された潤滑剤と、出口開口の潤滑剤の間には、エネルギー差が存在する。
【0017】
第1キャビティに中間保存された潤滑剤を附勢する位置エネルギーは、潤滑剤が、出口開口において圧力により附勢されるよう作用する。従って第1キャビティは、出口開口において、圧力が潤滑剤に作用するよう構成される。この圧力は、潤滑剤を第1潤滑位置へ促進する役割を果たす。この圧力により、動圧すべり軸受のみならず、特に静圧すべり軸受をも潤滑可能である。
【0018】
潤滑剤ポンプが、潤滑剤の少なくとも一部分を第1キャビティへ促進するよう構成されるため、潤滑剤ポンプは、第1キャビティに中間貯蔵された潤滑剤を附勢する位置エネルギーをもたらすのに適している。従って通常作動において、潤滑剤ポンプは特に、第1キャビティに中間貯蔵された潤滑剤に位置エネルギーを発生させる役割を果たす。
【0019】
非常作動、つまり潤滑剤ポンプが動作不能に陥った場合、またはポンプの性能が失われた場合、第1キャビティに中間貯蔵された潤滑剤の位置エネルギーは、潤滑剤が、第1キャビティと出口開口の間の潤滑剤をガイド可能な接続部を通って流れ、出口開口から流出し、および第1潤滑位置に達するよう作用する。この場合、第1キャビティに中間貯蔵された潤滑剤の位置エネルギーが減少する。
【0020】
潤滑剤が、非常作動において、潤滑剤ポンプと第1キャビティの間の潤滑剤をガイド可能な接続部を通って潤滑剤ポンプに還流することを防ぐために、この接続部に逆止弁を備えることが好適である。
【0021】
第1キャビティは、出口開口と比較して、より高い位置に取り付け可能である。この場合、第1キャビティに中間貯蔵された潤滑剤の位置エネルギーとは、少なくとも部分的に、第1キャビティと出口開口の間の高低差に起因して、ならびに潤滑剤に作用する重力に起因して、成立するエネルギーである。
【0022】
しかしながら好適には、第1キャビティに中間貯蔵された潤滑剤の位置エネルギーを圧力エネルギーとする。対応して、本発明の好適な実施形態は、少なくとも1つの附勢手段を備え、第1キャビティに中間貯蔵された潤滑剤を、圧力により附勢する。この圧力は、第1キャビティと出口開口の間の潤滑剤をガイド可能な接続部を通って伝播し、および潤滑剤が出口開口から流出し、第1潤滑位置に達するよう導く。
【0023】
この実施形態を、第1キャビティをより高い位置に取り付ける形態と比較した場合の利点は、よりコンパクトな構成にある。特に第1キャビティを、歯車装置内部で、ほぼ随意に配置可能である。
【0024】
本発明の更なる好適な実施形態において、システムは、第1キャビティを構成する容器を備える。容器内部には、移動可能なピストンが配置される。さらに、ピストンを力により附勢する、附勢手段を備える。この力は、ピストンの移動を導くよう調整される。さらに、ピストンは第1キャビティの境界面を構成する。従って、ピストンが移動すると、それに伴って第1キャビティの容積が変化する。これにより、第1キャビティに中間貯蔵された潤滑剤を、ピストンを用いて、圧力により附勢可能である。従って特に、ピストンに作用する力により、第1キャビティに中間貯蔵された潤滑剤が、圧力により附勢されるよう導かれる。ピストンを力により附勢する附勢手段は、ばねであり、好適には、渦巻ばね若しくはコイルばね、または特にガス圧ばねである空気圧ばねである。
【0025】
本発明の特に好適な実施形態により、油浴潤滑および循環潤滑を組み合わせ可能である。上述の潤滑剤ポンプは、出口開口と、第1キャビティと、第1キャビティと出口開口の間の潤滑剤をガイド可能な接続部と、を備え、循環潤滑を行なう。歯車装置は潤滑剤貯槽を備え、歯車装置における少なくとも1つの第2潤滑位置に対して油浴潤滑を行なう。この場合、槽が潤滑剤で満たされていることが重要である。槽は、特に歯車装置のハウジングとして構成可能である。
【0026】
第2潤滑位置は、少なくとも部分的に、潤滑剤貯槽内に位置するため、第2潤滑位置の少なくとも一部分が、潤滑剤貯槽内に存在する潤滑剤と接触する。第1潤滑位置に対する非常時潤滑を確実に行なうためには、第1キャビティを潤滑剤で満たす必要がある。これによっては、潤滑剤貯槽内の潤滑剤のレベルが低下するであろう。非常作動においては、第1キャビティに存在する潤滑剤が還流し、潤滑剤貯槽へ達するであろう。その結果、潤滑剤貯槽内の潤滑剤のレベルが上昇する。しかし、第2潤滑位置に対して、不断に潤滑剤を確実に供給するためには、潤滑剤貯槽内の潤滑剤のレベルが常に一定の状態に保たれる必要がある。
【0027】
第2キャビティから潤滑剤貯槽へと、潤滑剤をガイド可能な接続部が導かれることにより、潤滑剤貯槽内の潤滑剤のレベルが一定に保たれる、中立的な非常時潤滑が達成される。潤滑剤貯槽に通じる、潤滑剤をガイド可能な接続部の開口は、好適には、潤滑剤貯槽内の潤滑剤のレベルの下に位置する。このようにして潤滑剤は、潤滑剤貯槽から第2キャビティ内へならびに第2キャビティから還流して潤滑剤貯槽内へ、双方向に流れることができる。第2キャビティと潤滑剤貯槽の間の潤滑剤をガイド可能な接続部は、好適には、吸入および圧力ラインである。つまりこのラインは、正負圧により流体を促進するよう構成される。
【0028】
潤滑剤ポンプ、潤滑剤ポンプと第1キャビティの間の潤滑剤をガイド可能な接続部、第1キャビティ、第1キャビティと出口開口の間の潤滑剤をガイド可能な接続部、出口開口、第1潤滑位置および潤滑剤貯槽は、循環潤滑を行なうための部品であり、従って、循環潤滑を構成する潤滑剤サイクル内部に位置する。対応して潤滑剤ポンプは、潤滑剤の少なくとも一部分を、潤滑剤貯槽から第1キャビティへ促進するよう構成される。さらに潤滑剤は、第1潤滑位置から還流し、潤滑剤貯槽に流入可能である。
【0029】
非常作動において循環潤滑を中立的に行なうために、第1キャビティおよび第2キャビティを連結する、連結手段を備える。第1キャビティ及び第2キャビティは、第1キャビティから潤滑剤が流出すると、流出したのと同一の分量の潤滑剤が、潤滑剤貯槽から第2キャビティに流入するよう連結される。従って、非常作動において第1キャビティから潤滑剤貯槽に達する潤滑剤の分量が、潤滑剤貯槽から第2キャビティに導かれる。このようにして、潤滑剤貯槽内の潤滑剤のレベルが一定に保たれる。
【0030】
中立的な非常時潤滑の好適な発展形態において、第1キャビティおよび第2キャビティの容積は、第1キャビティおよび第2キャビティの総容積または容積の合計が、一定に保たれるよう相関する。第1キャビティおよび第2キャビティの連結手段は、第1キャビティの容積が狭まると、対応して第2キャビティの容積が拡がるよう作用する。両キャビティの容積により、各キャビティに含まれる潤滑剤の分量が決定される。その結果、第1キャビティから潤滑剤が流出すると、流出したのと同一の分量の潤滑剤が、潤滑剤貯槽から第2キャビティに流入する。
【0031】
上述の、第1キャビティおよび第2キャビティの連結は、ピストンが容器内で移動可能であることで実現される。従って、更なる好適な実施形態において、容器は第1キャビティのみならず、第2キャビティを構成する。ピストンは、第1キャビティおよび第2キャビティの間に位置するため、第1キャビティを第2キャビティから分離する。ピストンの第1面は第1キャビティの境界面を構成し、ピストンの第2面は第2キャビティの境界面を構成する。ピストンの移動により、両キャビティのうちの一方のキャビティが狭まり、その間、他方のキャビティは同一の程度で拡がる。
【0032】
好適には、容器は中空シリンダの形状を備える。中空シリンダ内部に、ピストンが移動可能な状態で配置される。この場合ピストンは、周方向に密閉された接触面に沿って、中空シリンダの内側面に接する。好適には、接触面はシリンダの側面形状を有する。ピストンは、第1キャビティを液密の状態で第2キャビティから分離する。
【0033】
第1キャビティと出口開口の間、潤滑剤ポンプと第1キャビティの間、および第2キャビティと潤滑剤貯槽の間における、潤滑剤をガイド可能な接続部としては、特に吸入および圧力ラインである、パイプまたはホースが適している。このようにして、歯車装置における随意の位置、特にフリーの構造スペースが存在する位置に、容器を収容可能である。
【0034】
容器の収容には、潤滑剤貯槽が適する場合が多い。従って、好適な実施形態において、容器は少なくとも部分的に、潤滑剤貯槽内部に配置される。このようにして、第2キャビティと潤滑剤貯槽の間に、潤滑剤をガイド可能な接続部を、容易に構成可能である。その場合、容器に開けた孔により、潤滑剤をガイド可能な状態で、第2キャビティを潤滑剤貯槽と接続可能である。好適には、孔が潤滑剤貯槽内の潤滑剤のレベルの下に位置する。
【0035】
基本的に、第1キャビティは並列接続または直列接続が可能である。並列接続の場合、潤滑剤を第1キャビティへ導くバイパスを備える。バイパスは、潤滑剤ポンプと出口開口の間の潤滑剤をガイド可能な接続部とする。通常作動において、潤滑剤は、バイパスを経て潤滑位置へと供給される。
【0036】
その間、第1キャビティが空になるのを防ぐため、第1キャビティと出口開口の間の潤滑剤をガイド可能な接続部に対して、無電流開放弁を装備可能である。通常作動において、つまり電流が存在する場合、この弁は閉じている。停電の際にはこの弁が開放するため、第1キャビティに中間貯蔵された潤滑剤が、第1潤滑位置に到達可能である。
【0037】
ただしこのような非常時潤滑は、潤滑剤ポンプの動作不能状態の原因に左右されることなく機能する。非常時循環は、潤滑剤ポンプが停電により停止した場合にのみ実行される。これに対して、潤滑剤ポンプが故障した場合には、無電流開放弁は閉じられたままであり、その結果、第1潤滑位置に対して潤滑剤は供給されない。
【0038】
従って、本発明の好適な実施形態においては、第1キャビティを直列接続する。これは、潤滑剤ポンプにより促進される潤滑剤の全てが、第1キャビティへ導かれることを意味する。そこから潤滑剤は、第1キャビティと出口開口の間の潤滑剤ガイド接続部を通り、第1潤滑位置に達する。これは、特に通常作動に対して言えることである。つまり潤滑剤は、潤滑剤ポンプから、潤滑剤ポンプと第1キャビティの間の潤滑剤をガイド可能な接続部を通って第1キャビティへ流れ、そこから、第1キャビティと出口開口の間の潤滑剤をガイド可能な接続部を通って出口開口へ流れ、出口開口において第1潤滑位置へ達する。潤滑剤が、第1キャビティを経由せずに出口開口に流れることはない。
【0039】
本発明の実施形態が図示され、以下に詳述される。この場合、一致する参照数字は、同一または機能的に同一の特徴を示す。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】非常時潤滑の一体化型容器を備える歯車装置の図である。
【0041】
図1に示す歯車装置101は、歯車を有する3本の軸103、105および107を備える。第1軸103および第2軸105は、両軸103および105上に位置する歯車が、部分的に、歯車装置101内の潤滑剤貯槽111のレベル109の下に位置するよう配置される。これら歯車に対する潤滑は、油浴潤滑により実行される。
【0042】
これに対して、第3軸107に取り付けられた歯車は、レベル109の上に位置する。従って、潤滑が循環潤滑により実行される必要がある。こうした用途のために、潤滑剤ポンプ113が装備される。潤滑剤ポンプ113は、インテークマニホールド115を通して、潤滑剤が潤滑剤貯槽111から出るよう促進する。潤滑剤は、ポンプ113から、ポンプ113と容器117の間を走るライン119を経て、容器117に達する。容器117から、潤滑剤は、容器117と潤滑剤塗布器121の間を走るライン123を経て、潤滑剤塗布器121に達する。潤滑剤塗布器121は複数の出口開口125を備え、この出口開口125から流出する潤滑剤が、第3軸107の歯車に到る。
【0043】
図2は、容器117の構造を示す。容器117は、中空シリンダの形状であるため、シリンダ形状のキャビティを備える。ピストン201は、キャビティを第1キャビティ203および第2キャビティ205に分割する。第1キャビティは、潤滑剤をガイド可能な接続部119により、潤滑剤をガイド可能な状態で、ポンプ113と接続される。さらに第1キャビティ203は、潤滑剤をガイド可能な接続部123を経て、潤滑剤をガイド可能な状態で、潤滑剤塗布器121または出口開口125と接続される。
【0044】
ピストン201は、容器117に対して、水平または軸方向に移動可能である。
図2において、ピストン201は、左から右および右から左へ移動可能である。
【0045】
潤滑剤ポンプ113が、潤滑剤を第1キャビティ203へ促進すると、
図2においてピストン201は、左に移動する。これにより、第1キャビティ203が拡がり、第2キャビティ205は同一の程度で狭まる。
【0046】
容器117の孔207は、第2キャビティと潤滑剤貯槽111の間に、潤滑剤をガイド可能な接続部を形成する。特に孔207は、レベル109の下に位置する。ピストン201が左に移動する場合、または第2キャビティ205が狭まる場合、潤滑剤は、第2キャビティ205から、孔207を通って潤滑剤貯槽111に流入する。
【0047】
渦巻ばね209はピストン201に力を及ぼす。この力により、ピストン201は、
図2において右に移動する。ポンプ113が作動不能に陥ると、第1キャビティ203が狭まる。これにより、容器117とポンプ113の間の潤滑剤をガイド可能な接続部119に逆止弁211が装備されている場合、第1キャビティ203から漏れた潤滑剤は、潤滑剤をガイド可能な接続部119を通ってポンプ113に還流せずに、潤滑剤をガイド可能な接続部123を通って潤滑剤塗布器121に達する。
【0048】
第2キャビティ205は、第1キャビティ203が狭まるのと同一の程度で拡がる。この場合、潤滑剤は孔207を通って、潤滑剤貯槽111から第2キャビティ205に流入する。このようにして、レベル109が一定に保たれる。
【符号の説明】
【0049】
101 歯車装置
103 歯車
105 軸
107 軸
109 レベル
111 潤滑剤貯槽
113 潤滑剤ポンプ
115 インテークマニホールド
117 容器
119 ライン
121 潤滑剤塗布器
123 ライン
125 出口開口
201 ピストン
203 キャビティ
205 キャビティ
207 孔
209 渦巻ばね
211 逆止弁
【国際調査報告】