(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-540105(P2016-540105A)
(43)【公表日】2016年12月22日
(54)【発明の名称】水性潤滑剤組成物、その製造方法、及びその使用
(51)【国際特許分類】
C10M 173/02 20060101AFI20161125BHJP
C10M 105/14 20060101ALI20161125BHJP
C10M 145/40 20060101ALI20161125BHJP
C10M 129/10 20060101ALI20161125BHJP
C10M 151/02 20060101ALI20161125BHJP
C10M 129/14 20060101ALI20161125BHJP
C10M 133/04 20060101ALI20161125BHJP
C10M 125/10 20060101ALI20161125BHJP
C10M 125/20 20060101ALI20161125BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20161125BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20161125BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20161125BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20161125BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20161125BHJP
C10N 40/20 20060101ALN20161125BHJP
C10N 40/32 20060101ALN20161125BHJP
【FI】
C10M173/02
C10M105/14
C10M145/40
C10M129/10
C10M151/02
C10M129/14
C10M133/04
C10M125/10
C10M125/20
C10N10:02
C10N10:04
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N40:08
C10N40:20
C10N40:32
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-557193(P2016-557193)
(86)(22)【出願日】2014年12月8日
(85)【翻訳文提出日】2016年7月20日
(86)【国際出願番号】EP2014076862
(87)【国際公開番号】WO2015086516
(87)【国際公開日】20150618
(31)【優先権主張番号】1351464-1
(32)【優先日】2013年12月9日
(33)【優先権主張国】SE
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】516168908
【氏名又は名称】サステイナルーベ アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100169971
【弁理士】
【氏名又は名称】菊田 尚子
(74)【代理人】
【識別番号】100187481
【弁理士】
【氏名又は名称】小原 淳史
(72)【発明者】
【氏名】グラン,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】シ,イジュン
(72)【発明者】
【氏名】ラーション,ローランド
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104AA13C
4H104AA17C
4H104BB04A
4H104BB05C
4H104BB06C
4H104CB19C
4H104CE11C
4H104DA01C
4H104FA01
4H104FA02
4H104LA03
4H104LA20
4H104PA05
4H104PA21
4H104PA37
4H104QA01
(57)【要約】
本発明は、50重量%の水、0.01〜20重量%の増粘剤、0.5〜10重量%の酸化防止剤、0.5〜5重量%のpH調整剤、及びグリセロールを含むことを特徴とする水性潤滑剤組成物に関する。また、水性潤滑剤組成物の製造方法、及び前記水性潤滑剤組成物の使用が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5〜50重量%の水、
0.01〜20重量%の増粘剤、
0.5〜10重量%の酸化防止剤、
0.5〜5重量%のpH調整剤、及び
グリセロール
を含むことを特徴とする水性潤滑剤組成物。
【請求項2】
グリセロールの量が、15〜93.99重量%であることを特徴とする請求項1に記載の水性潤滑剤組成物。
【請求項3】
5〜50重量%の水、
0.01〜20重量%の増粘剤、
0.5〜10重量%の酸化防止剤、
0.5〜5重量%のpH調整剤、及び
残部のグリセロール
から本質的になることを特徴とする請求項1又は2に記載の生分解性の水性潤滑剤組成物。
【請求項4】
5〜50重量%の水、
0.01〜20重量%の増粘剤、
0.5〜10重量%の酸化防止剤、
0.5〜5重量%のpH調整剤、及び
残部のグリセロール
からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の生分解性の水性潤滑剤組成物。
【請求項5】
生分解性であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の水性潤滑剤組成物。
【請求項6】
水の量が、5〜40重量%、5〜30重量%、10〜30重量%、又は20重量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の水性潤滑剤組成物。
【請求項7】
増粘剤の量が、0.01〜10重量%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の水性潤滑剤組成物。
【請求項8】
酸化防止剤の量が、3〜10重量%であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の水性潤滑剤組成物。
【請求項9】
pH調整剤の量が、0.5〜3重量%であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の水性潤滑剤組成物。
【請求項10】
増粘剤が、キチン、キトサン、デキストリン、セルロース、デンプン、植物性ガム、ヒアルロン酸、あるいはそれらの誘導体及び/又は混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の水性潤滑剤組成物。
【請求項11】
酸化防止剤が、フェノール又はポリフェノールの酸化防止剤、あるいはそれらの誘導体及び/又は混合物であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の水性潤滑剤組成物。
【請求項12】
フェノール又はポリフェノールの酸化防止剤が、クルクミン、セサモール、茶ポリフェノール、リグニン、あるいはそれらの誘導体及び/又は混合物であることを特徴とする請求項11に記載の水性潤滑剤組成物。
【請求項13】
酸化防止剤が、クルクミン、セサモール、茶ポリフェノール、フラボン、ロスマリン酸、及びイノシトールヘキサホスフェートからなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の水性潤滑剤組成物。
【請求項14】
pH調整剤が、水酸化物又はアミンからなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の水性潤滑剤組成物。
【請求項15】
水酸化物が、アルカリ金属水酸化物、又はアルカリ土類金属水酸化物であることを特徴とする請求項14に記載の水性潤滑剤組成物。
【請求項16】
アミンが、アンモニア、第二級アミン、及び第三級アミンから選択されることを特徴とする請求項14に記載の水性潤滑剤組成物。
【請求項17】
pH調整剤が、アンモニア、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、水酸化ナトリウム、及び水酸化カルシウムからなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜16のいずれか一項に記載の水性潤滑剤組成物。
【請求項18】
前記水性潤滑剤組成物が、8〜12、又は9〜12のpHを有することを特徴とする請求項1〜17のいずれか一項に記載の水性潤滑剤組成物。
【請求項19】
装置の潤滑のための請求項1〜18のいずれか一項に記載の水性潤滑剤組成物の使用。
【請求項20】
装置が、ハイドロリック・パワー式機械、チェーンソー、又は鉄道線路の少なくとも一部、金属加工用流体、製材機、コンベヤーベルト、成形用流体である請求項19に記載の使用。
【請求項21】
請求項1〜18のいずれか一項に記載の水性潤滑剤組成物の製造方法であって、以下のステップ:
a) 水中で、増粘剤、酸化防止剤、及びpH調整剤を混合するステップ、
b) ステップa)において得られた混合物を撹拌するステップ、
c) ステップb)において得られた混合物にグリセロールを添加するステップ、及び
d) ステップc)からの混合物を撹拌するステップ
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑剤組成物に関する。より具体的には、本発明は水性潤滑剤組成物、このような組成物の製造方法、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
界面物質による固体表面の暴露が、「摩耗」、すなわち表面からの物質の損失につながることが知られている。摩耗の主な種類としては、摩滅、侵食及び腐食が挙げられる。二つの運動体間の接触では、通常、ある程度の摩擦が生じる。過度の摩擦は、接触による動力の損失及び加熱につながることもあり、これは望まれないことが多い。摩擦及び摩耗による毎年の世界的な経済的損失及び技術的問題は、重大である。潤滑は、摩擦及び摩耗に関する問題を、最小化及び/又は解消する一般的な方法である。様々な目的に対する多くの潤滑剤組成物が市場に存在する。
【0003】
潤滑剤は、基流体(base fluid)、伝統的な鉱油、及び添加剤パッケージから構成されることが多い。添加剤パッケージは、潤滑剤の性能を向上するように設計された1種又は複数種の化学化合物を含有し得る。添加剤の様々な種類の例として、粘度調整剤、洗浄剤、分散剤、耐摩耗剤、極圧添加剤、摩擦調整剤、腐食防止剤、及び酸化防止剤が挙げられる。
【0004】
伝統的に、ハイドロリック及び潤滑を目的とする潤滑剤は、鉱物基油をベースとする。鉱物基油(植物源ではないC15〜C40の範囲のアルカンの混合物を含む)、例えば石油蒸留物、ポリアルファオレフィン(PAO)等は、良好な潤滑特性を有し、摩擦及び摩耗の低減に寄与する。しかしながら、これらの鉱物基油由来の潤滑剤は、生分解性ではなく、したがって、それらが環境中に放出されると、長期間生態系に残存する。加えて、これらの鉱物基油は有毒であることが多い。例えば、鉱油による環境汚染によって、土壌は使用できない状態になり、水は灌漑に適さないものとなり、下水処理場は稼働不可能になり得る。たとえ少量の鉱油であっても、環境に多大な有害効果をもたらし得る。例えば、環境中に放出された1リットルの油は、サッカーのフィールドの大きさの領域を覆うことができ、100万リットルもの水を汚染する。鉱油系潤滑剤の漏出による損害を修復するための洗浄及び手段に、毎年巨額の資金が社会及び会社によって費やされている。
【0005】
潤滑剤に使用される多くの添加剤もまた、例えば、生分解性が低かったり、又は環境中に放出されることが望ましくない硫黄又は重金属等の元素を含有したりすることによって、環境に有害効果をもたらす。
【0006】
したがって、経済的及び環境的な懸念が、生分解性であると同時に、毒性が少ないか、又は毒性のない潤滑剤の開発を促している。これらの、いわゆるグリーン潤滑剤は、環境にやさしく、合成エステル系潤滑剤であるか、又は植物油系潤滑剤であることが多い。例えば、環境にやさしい潤滑剤は、ナテネ油又はヒマワリ油をベースとすることができる。環境にやさしい潤滑剤は、グリーン潤滑剤、又は環境配慮型潤滑剤(environmentally considerate lubricant:ECL)と称されることが多い。従来の鉱油系潤滑剤と比較して、これらの潤滑剤は、毒性がないか、又は非常に毒性が低く、且つ比較的速く自然界において無毒の残留物に分解するため、有害性がずっと少ない。
【0007】
しかしながら、植物油系の環境にやさしい潤滑剤の性能及び費用は、鉱物系潤滑剤の等価物と同等に有益とはならないことが多い。植物基油潤滑剤は、鉱物基油潤滑剤の2倍の費用が掛かり得る。植物油に関する他の問題は、熱安定性及び酸化安定性が低く、低温において、粘度範囲が狭く、流動性が悪いことである。さらに、潤滑剤の面で重要であるパラメータ、例えば摩擦及び摩耗損失が、十分に良好ではない場合がある。
【0008】
特許文献1は、基油、増ちょう剤、酸化防止剤、及び補酵素Qを含む潤滑剤について記載する。基油はグリセリドをベースとし得る。
【0009】
特許文献2は、トリグリセリド、酸化防止剤、及び増ちょう剤を含む潤滑グリース組成物について記載する。酸化防止剤は、ビタミンA、又はその誘導体である。
【0010】
特許文献3は、基油、増粘剤としてのデンプン、及び酸化防止剤を含む潤滑剤組成物について記載する。
【0011】
特許文献4は、水、デンプン、及びグリセリンを含む潤滑剤組成物について記載する。
【0012】
非特許文献1は、グリーン潤滑剤としてのグリセロール水性溶液の研究について記載し、比較はナタネ油と行う。グリセロールの粘度は水の添加により目標値まで低減される。30%以下の水分量を有するグリセロール水性溶液の摩擦係数は、ナタネ油のものよりも小さくなることが分かる。しかしながら、グリセロール水性溶液の、摩耗体積損失、すなわち、摩擦中の表面(1箇所又は複数箇所)の接触面積中で起こる物質の体積損失は、ナタネ油のものよりも大きい。グリセロール水性溶液はグリーン潤滑剤として大いなる可能性を有しており、それらの潤滑特性は、とりわけ水分量が20重量%未満である場合に、ナタネ油のものよりもずっと良好であることが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開第2011−140631号公報
【特許文献2】特開第2011−219690号公報
【特許文献3】特開第2011−162606号公報
【特許文献4】独国特許第288169号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Tribology International、69(2014)、39-45
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
好都合なことには、グリセロール(グリセリン(glycerin、glycerine)、及びプロパン-1,2,3-トリオールとしても知られる)は、市場において、低費用で、大量に、容易に入手可能である。これは、グリセロールが副生成物として形成される、バイオディーゼルの急速に増加する生産量によるところが大きく、これより、グリセロールの新規用途が探索されている。
【0016】
水性グリセロールの粘度及び氷点は、グリセロールと混合する水の量により制御することができる。したがって、水をグリセロールに添加することによって、粘度を目標値まで低減することができ、一方で、同時に、氷点を純粋なグリセロールのものよりも低い値まで低減する。
【0017】
したがって、グリーン潤滑剤の特性及び性能を改善する必要性が未だに存在する。
【0018】
本発明の課題は、グリーン潤滑剤等の潤滑剤に関連するいくつかの問題を、解消又は少なくとも軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明によれば、水性潤滑剤組成物が提供される。水性潤滑剤組成物は、
5〜50重量%の水、
0.01〜20重量%の増粘剤、
0.5〜10重量%の酸化防止剤、
0.5〜5重量%のpH調整剤、及び
グリセロール
を含むことを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0020】
グリセロール含量は、約15〜約93.99重量%の範囲であり得る。例えば、グリセロール含量は、約40、50、60、70、80、又は85重量%であり得る。あるいは、グリセロール含量は、実施例に記載される通りであり得る。
【0021】
水性潤滑剤組成物は、水、グリセロール、増粘剤、酸化防止剤、及びpH調整剤のみからなり得る。したがって、
5〜50重量%の水、
0.01〜20重量%の増粘剤、
0.5〜10重量%の酸化防止剤、
0.5〜5重量%のpH調整剤、及び
残部のグリセロール
からなることを特徴とする水性潤滑剤組成物が提供される。
【0022】
グリセロール含量は、約15〜約93.99重量%の範囲であり得る。例えば、グリセロール含量は、約40、50、60、70、80、又は85重量%であり得る。あるいは、グリセロール含量は、実施例に記載される通りであり得る。これに関連して、全ての成分を混合した後に、組成物の最終重量は100%になることが理解される。水、増粘剤、酸化防止剤、及びpH調整剤に加えて、グリセロールを、組成物の最終重量に達するまでの量で添加する。したがって、「残部のグリセロール」という表現は、組成物の最終重量に達するまで添加されるグリセロールの量であることが理解される。例としては、潤滑剤組成物は、20重量%の水、0.01重量%の増粘剤、3重量%の酸化防止剤、0.05重量%のpH調整剤、及び76.94重量%のグリセロールからなり得る。
【0023】
本明細書に記載する水性潤滑剤組成物は、不純物及び/又は他の成分を含有し得る。不純物は、水性潤滑剤組成物の成分中に存在するか、又はその成分由来であり得る。水性潤滑剤組成物中の不純物及び/又は他の成分の存在は、摩耗体積損失、摩擦係数及び/又は粘度等の組成物の特性に本質的に影響しないと認識されるであろう。したがって、
5〜50重量%の水、
0.01〜20重量%の増粘剤、
0.5〜10重量%の酸化防止剤、
0.5〜5重量%のpH調整剤、及び
残部のグリセロール
から本質的になることを特徴とする水性潤滑剤組成物が提供される。
【0024】
グリセロール含量は、約15〜約93.99重量%の範囲であり得る。
【0025】
本明細書では、水性潤滑剤組成物の成分量は、組成物の総重量に対する重量%で表わされる。
【0026】
本明細書に記載する水性潤滑剤組成物は、生分解性であり得る。本明細書では、「生分解性」という用語は、潤滑剤組成物が、微生物によって、自然界に存在する化合物、又は自然界において無害もしくは実質的に無害な化合物へと消費及び/又は分解され得ることを意味する。一般に、生分解性の物質は、植物質及び動物質等の有機物質、及び生物由来の他の物質、又は微生物により利用されるべき植物質及び動物質に十分類似する人工物質である。
【0027】
増粘剤、酸化防止剤及びpH調整剤と、水及びグリセロールとを、本明細書に示す量で混合することにより、水性潤滑剤組成物は満足な粘度、摩擦係数及び/又は摩耗体積損失を有し得る。水及びグリセロールのみからなる対応する組成物と比較して、生分解性水性組成物の摩擦係数はほぼ同等か、又は対応する組成物のものよりも小さく、一方で、様々な用途で使用する場合の摩耗体積損失を著しく低減させ得る。
【0028】
本明細書に記載する水性潤滑剤組成物の小さな摩耗体積損失は、大きな利益であり、これは、潤滑剤組成物が適用される装置は摩耗をほとんど受けず、さらに、少ない運転の中断及び/又は最低限のメンテナンスで長期間使用することができるからである。意外なことに、増粘剤、酸化防止剤、及びpH調整剤の組み合わせが、摩耗体積損失を著しく低減した。実施例において示されるように、水性グリセロール溶液に対して、増粘剤のみの添加であっても、酸化防止剤のみの添加であっても、摩耗体積損失を、ナタネ油等のグリーン潤滑剤と同程度の値まで低減することはできない。また、pH調整剤の存在が、pHを調整することに加えて、さらに水性潤滑剤組成物の摩耗体積損失を低減することによって、潤滑剤特性に大きな影響を与えることも判明している。
【0029】
さらに、高含量の水及びグリセロールにより、本明細書に記載する水性グリセロール潤滑剤組成物は、環境に対する悪影響を最小限にし得るので、環境感受性領域、例えば屋外での用途に有利に使用することができる。さらに、本明細書に記載する組成物は、温度が低くなり得る場所での使用を可能にする低い氷点、例えば-50℃の氷点を有すると予測される。これは、特にチェーンソー、ハイドロリック・パワー式機械、及び/又は鉄道線路を包含する用途によくあることである。
【0030】
本明細書に記載する組成物に使用されるグリセロールは、純粋なグリセロール、すなわちプロパン-1,2,3-トリオールである。したがって、従前に報告された様々な潤滑剤組成物と対照的に、本明細書に記載する水性潤滑剤組成物のグリセロールは、非変性形態で使用され、すなわち、プロパン-1,2,3-トリオールとして使用され、これは、本明細書に記載する潤滑剤組成物の調製の際に便利であり、費用効果がある。
【0031】
本明細書において使用されるように、水性グリセロールは、水とグリセロールの混合物を意味するものである。水性グリセロール溶液、グリセロール水性溶液、及び水性グリセロール組成物という用語は、同じ意味で使用できる。
【0032】
本明細書に記載する水性潤滑剤組成物の水の量は、約5〜約50重量%で異なり得る。本明細書において使用されるように、重量%は重量パーセントを表す。例としては、生分解性の水性潤滑剤組成物の水の量は、約20重量%であり得る。水性潤滑剤組成物の好ましい水分量のさらなる例は、約10〜約30重量%、約15〜約30重量%、約15〜約25重量%、約20〜約30重量%、約5〜約50重量%、約5〜約40重量%、約5〜約30重量%、約10〜約30重量%、約20〜約50重量%、約30〜約50重量%、又は約40〜約50重量%の水の量である。
【0033】
増粘剤(増ちょう剤とも称され得る)は、本明細書に記載する水性潤滑剤組成物の粘度を増大する。特に、増粘剤は、25℃で、水とグリセロールの対応する混合物と比較して粘度を増大する。
【0034】
増粘剤は、約0.01〜約20重量%、例えば約0.01〜約10重量%の量で存在し得る。例えば、増粘剤の量は、約0.01、約0.02、約0.04、約1、又は約10重量%であり得る。
【0035】
増粘剤は、キチン、キトサン、デキストリン、セルロース、デンプン、植物性ガム、ヒアルロン酸、あるいはそれらの誘導体及び/又は混合物からなる群から選択され得る。セルロース系増粘剤の例は、以下に限定されないが、カルボキシメチルセルロースナトリウム及びヒドロキシエチルセルロースである。キトサン系増粘剤は、ヒドロキシエチルキトサンであり得る。
【0036】
本明細書では、植物性ガムは、寒天を示す。寒天は、藻類又は海藻から得ることができるゼラチン状の物質である。「植物性ガム」及び「寒天」という用語は、同じ意味で使用できる。
【0037】
例えば、本明細書に記載する水性組成物に使用される増粘剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルキトサン、デンプン、植物性ガム、デキストリン、及びヒアルロン酸からなる群から選択することができる。カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルキトサン、及びヒアルロン酸の量は、約0.01〜約0.05重量%、例えば約0.01〜約0.04重量%の範囲であり得る。例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルキトサン、及びヒアルロン酸の量は、約0.01、0.02、0.03、又は0.04重量%であり得る。デンプン又はデキストリンの量は、約10重量%であり得る。
【0038】
例としては、水性潤滑剤組成物は、
20重量%の水、
0.01〜10重量%の増粘剤、
0.5〜10重量%、又は3〜10重量%のpH調整剤、及び
残部のグリセロール
からなり得る。
【0039】
組成物の酸化防止剤は、組成物の酸化防止特性を改善し得る。特に、酸化防止剤は、水性潤滑剤組成物の変質、例えば組成物の成分の分解及び/又は酸化による変質を防ぐ。酸化防止剤は、約0.5〜約10重量%の量で存在し得る。例えば、酸化防止剤は、約0.5重量%、約3重量%、約5重量%、約10重量%、又は約3〜約10重量%の量で存在し得る。
【0040】
酸化防止剤は、フェノール、ポリフェノール、又はそれらの誘導体及び/又は混合物であり得る。好ましいフェノール類又はポリフェノール類の例としては、クルクミン、セサモール、茶ポリフェノール、リグニン、あるいはそれらの誘導体及び/又は混合物が挙げられる。酸化防止剤はまた、ケルセチン、フラボン、ロスマリン酸、イノシトールヘキサホスフェート、あるいはそれらの誘導体及び/又は混合物からなる群から選択され得る。
【0041】
本明細書では、茶ポリフェノールは、茶に存在する、フェノール類及びポリフェノール類、天然植物化合物を示す。茶ポリフェノールの例としては、カテキン、テアフラビン、タンニン、及びフラボノイドが挙げられる。
【0042】
例えば、本明細書に記載する水性組成物に使用される酸化防止剤は、クルクミン、セサモール、茶ポリフェノール、フラボン、ロスマリン酸、及びイノシトールヘキサホスフェートからなる群から選択され得る。クルクミンの量は、約0.5重量%であり得る。セサモール又はフラボンの量は、約10重量%であり得る。ロスマリン酸又はイノシトールヘキサホスフェートの量は、約3重量%であり得る。茶ポリフェノールの量は、約5重量%であり得る。
【0043】
本組成物のpH調整剤は、pHを目標値に調整するのに役立ち得る。生分解性の水性潤滑剤組成物の好ましいpH値は、約8〜約12、例えば約9〜約12、又は約10〜約12の範囲であり、このpH値は、組成物に腐食防止特性を付与することを可能にし得る。例えば、潤滑剤組成物は、約9、10、11、又は12のpHを有し得る。
【0044】
様々なpH調整剤としては、水酸化物及びアミンを挙げることができる。水酸化物は、アルカリ土類金属水酸化物、例えば水酸化ナトリウムであり得る。あるいは、pH調整剤は、アミン、例えば第一級、第二級、又は第三級のアミンであり得る。好ましい第三級アミンの例は、トリエチルアミンである。pH調整剤は、異なるpH調整剤の混合物であってもよい。pH調整剤の量は、約0.5〜約5重量%、約0.5〜約4重量%、約0.5〜約3重量%、約0.5〜約2重量%、約0.5〜約1重量%、約1〜約5重量%、約1〜約5重量%、約1〜約3重量%、又は約1〜約2重量%の範囲であり得る。本明細書に記載する水性潤滑剤組成物に使用され得るアミンの例としては、アンモニア、トリエタノールアミン、及びトリエチルアミンが挙げられる。本明細書に記載する水性潤滑剤組成物に使用され得る水酸化物の例としては、水酸化ナトリウム、及び水酸化カルシウムが挙げられる。
【0045】
例えば、本明細書に記載する水性潤滑剤組成物に使用されるpH調整剤は、アンモニア、トリエタノールアミン及びトリエチルアミン、水酸化ナトリウム及び水酸化カルシウムからなる群から選択され得る。アンモニアの量は、約1重量%であり得る。水酸化カルシウム又は水酸化ナトリウムの量は、約0.5重量%であり得る。トリエタノールアミンの量は、約5重量%であり得る。トリエチルアミンの量は、約0.05重量%、又は約1重量%であり得る。
【0046】
例としては、水性潤滑剤組成物であって、5重量%の水、0.02重量%のヒドロキシエチルキトサン、5重量%の茶ポリフェノール、5重量%のトリエタノールアミン、及び84.98重量%のグリセロールからなる、又はそれらから本質的になる、前記潤滑剤組成物が提供される。
【0047】
さらなる別の例では、水性潤滑剤組成物であって、10重量%の水、0.04重量%のヒアルロン酸、3重量%のイノシトールヘキサホスフェート、1重量%のトリエチルアミン、及び86.46重量%のグリセロールからなる、又はそれらから本質的になる、前記潤滑剤組成物が提供される。
【0048】
さらなる別の例では、水性潤滑剤組成物であって、30重量%の水、10重量%のデンプン、10重量%のフラボン、0.5重量%のトリエチルアミン、及び49.5重量%のグリセロールからなる、又はそれらから本質的になる、前記潤滑剤組成物が提供される。
【0049】
さらなる別の例では、水性潤滑剤組成物であって、40重量%の水、1重量%の植物性ガム、0.5重量%のクルクミン、0.5重量%の水酸化ナトリウム、及び58.0重量%のグリセロールからなる、又はそれらから本質的になる、前記潤滑剤組成物が提供される。
【0050】
さらなる別の例では、水性潤滑剤組成物であって、20重量%の水、0.01重量%のヒドロキシエチルセルロース、3重量%のロスマリン酸、0.5重量%の水酸化カルシウム、及び76.49重量%のグリセロールからなる、又はそれらから本質的になる、前記潤滑剤組成物が提供される。
【0051】
さらなる別の例では、水性潤滑剤組成物であって、20重量%の水、0.02重量%のヒドロキシエチルキトサン、5重量%の茶ポリフェノール、5重量%のトリエタノールアミン、及び69.98重量%のグリセロールからなる、又はそれらから本質的になる、前記潤滑剤組成物が提供される。
【0052】
さらなる別の例では、水性潤滑剤組成物であって、20重量%の水、10重量%のデキストリン、10重量%のセサモール、1重量%のアンモニア、及び59重量%のグリセロールからなる、又はそれらから本質的になる、前記潤滑剤組成物が提供される。
【0053】
本明細書に記載する水性潤滑剤組成物は、水中で、増粘剤、酸化防止剤、及びpH調整剤を撹拌しながら混合して、それにより水性混合物を得ることにより製造することができる。混合は、20〜90℃の温度で実施することができる。例えば、温度は、20、22、又は25℃であってもよい。撹拌時間は、約2時間であり得る。続いて、水性混合物にグリセロールを添加することができ、撹拌を一定時間、例えば1時間継続することができる。
【0054】
したがって、本明細書に記載する水性潤滑剤組成物の製造方法であって、以下のステップ:
a) 水中で、増粘剤、酸化防止剤、及びpH調整剤を混合するステップ、
b) ステップa)において得られた混合物を撹拌するステップ、
c) ステップb)において得られた混合物にグリセロールを添加するステップ、及び
d) ステップc)からの混合物を撹拌するステップ
を含む、前記方法が提供される。
【0055】
本方法は、周囲圧力で、20〜90℃の温度で実施することができる。例えば、温度は、20、22、又は25℃であってもよい。ステップb)における撹拌時間は、約2時間であり得る。ステップd)における撹拌時間は、約1時間であり得る。増粘剤、酸化防止剤、pH調整剤、及びグリセロールは、本明細書に記載される通りであり得る。さらに、増粘剤、酸化防止剤、pH調整剤、水、及びグリセロールの量は、本明細書に記載される通りであり得る。
【0056】
本明細書に記載する水性潤滑剤組成物は、多くの異なる用途に使用することができる。その環境にやさしい特性により、潤滑剤の用途は、最後には環境中に及び得る用途、例えば屋外での用途がとりわけ好ましい。好ましい用途の例としては、ハイドロリック・パワー式機械、チェーンソー、及び鉄道線路の潤滑が挙げられる。したがって、装置、例えばハイドロリック・パワー式機械、チェーンソー、及び鉄道線路、金属加工用流体(metal working fluid)、製材機、コンベヤーベルト、成形用流体(molding fluids)等の潤滑用の、本明細書に記載する水性潤滑剤組成物の使用が提供される。また、本明細書に記載する水性潤滑剤組成物は、耐火性潤滑剤として、又はハイドロリック流体として使用することもできる。さらに、本明細書に記載する水性潤滑剤組成物は、単独で使用してもよいし、又は、他の潤滑剤、例えばグリーン潤滑剤と組み合わせて使用してもよい。
【0057】
本発明は、さらなる非限定的実施例によりさらに説明される。
【実施例】
【0058】
生分解性の水性グリセロール組成物。一般的な調製方法。
本明細書に記載する水性潤滑剤組成物を、室温において、水中で、増粘剤、酸化防止剤、及びpH調整剤を撹拌しながら混合して、それにより水性混合物を得ることにより製造した。撹拌時間は、約2時間であった。続いて、水性混合物にグリセロールを添加し、撹拌を一定時間、例えば1時間継続した。
【0059】
茶ポリフェノールは、Shaanxi Sciphar Hi-tech Industry Co., Ltdから購入した。
【0060】
様々な組成物の摩擦係数、摩耗体積損失、及び粘度の測定
摩擦及び摩耗試験の説明:
ASTM D 6425プロトコルにしたがい、Optimol SRV-III振動摩擦及び摩耗試験機を使用して、境界潤滑の条件下における、潤滑剤の摩擦低減特性及び耐摩耗特性を評価した。試験中、上部の鋼球(100Cr6鋼、直径10 mm、表面粗さ(Ra)20 nm)が、固定された鋼のディスク(100CR6 ESU 硬化型、φ24 mm×7.9 mm、表面粗さ(Ra)120 nm)に対して、往復運動により滑る。球とディスクの両方は、Optimol Instruments Prueftechnik GmbH、ドイツから調達した。それぞれの試験の前に、装置及び試料をアセトン及びエタノールで洗浄した。室温(約25℃)、50 Hzの滑り振動数、及び1 mmの振幅で、33N(2GPa 最大ヘルツ圧力)の負荷の下で、全ての試験を実施した。SRV-III試験機に接続したデータ収集システムにより、摩擦係数曲線を自動的に記録した。慣らし運転の後の安定した摩擦係数の平均値を記録した。摩擦試験の後に、下部のディスクの摩耗体積を、光学プロファイリングシステム(Wyko NT1100、Veeco)を使用して測定した。
【0061】
粘度試験の説明:
異なるせん断速度における、グリセロール及びその水性溶液の粘度を、Bohlin CVO 100レオメーターを使用して試験した。直径25 mmの内筒と直径27 mmの外筒を有する、同心状の円柱形状を使用した。実験中、測定全体を通して、潤滑剤の温度を25℃に維持した。せん断速度は、20s
-1であった。
【0062】
pH値試験の説明:
本試験では、標準のpH紙を使用してpH値を試験した。
【0063】
以下の22種類の水性潤滑剤組成物を上記の通り調製した(純粋なグリセロール及び純粋なナタネ油をそれぞれ使用した実施例1及び実施例2を除く)。
【0064】
実施例1
純粋なグリセロール
【0065】
実施例2
純粋なナタネ油
【0066】
実施例3
グリセロール中、5%の水
【0067】
実施例4
グリセロール中、20%の水
【0068】
実施例5
グリセロール中、50%の水
【0069】
実施例6
20重量%の水
増粘剤:0.02重量%のカルボキシメチルセルロースナトリウム
79.98重量%のグリセロール
【0070】
実施例7
20%の水
20重量%のデキストリン
60重量%のグリセロール
【0071】
実施例8
20重量%の水、
酸化防止剤: 1重量%のイノシトールヘキサホスフェート
79重量%のグリセロール
【0072】
実施例9
20重量%の水
酸化防止剤: 10重量%の茶ポリフェノール
70重量%のグリセロール
【0073】
実施例10
20重量%の水
増粘剤: 0.01重量%のヒドロキシエチルセルロース
酸化防止剤: 3重量%のロスマリン酸
pH調整剤: 0.5重量%の水酸化カルシウム
76.49重量%のグリセロール
【0074】
実施例11
20%の水
増粘剤: 0.02重量%のヒドロキシエチルキトサン
酸化防止剤: 5重量%の茶ポリフェノール
pH調整剤: 5重量%のトリエタノールアミン
69.98重量%のグリセロール
【0075】
実施例12
20重量%の水
増粘剤: 10重量%のデキストリン
酸化防止剤: 10重量%のセサモール
pH調整剤: 1重量%のアンモニア
59重量%のグリセロール
【0076】
実施例13
20%の水
増粘剤: 0.02重量%のヒドロキシエチルキトサン
酸化防止剤: 5重量%の茶ポリフェノール
74.98重量%のグリセロール
【0077】
実施例14
20%の水
pH調整剤: 5重量%のトリエタノールアミン
75重量%のグリセロール
【0078】
実施例15
5%の水
増粘剤: 0.02重量%のヒドロキシエチルキトサン
酸化防止剤: 5重量%の茶ポリフェノール
pH調整剤: 5重量%のトリエタノールアミン
84.98重量%のグリセロール
【0079】
実施例16
50%の水、
増粘剤: 0.02重量%のヒドロキシエチルキトサン
酸化防止剤: 5重量%の茶ポリフェノール
pH調整剤: 5重量%のトリエタノールアミン
39.98重量%のグリセロール
【0080】
実施例17
10%の水
90.00重量%のグリセロール
【0081】
実施例18
10%の水
増粘剤: 0.04重量%のヒアルロン酸
酸化防止剤: 3重量%のイノシトールヘキサホスフェート
pH調整剤: 1重量%のトリエチルアミン
85.96重量%のグリセロール
【0082】
実施例19
30%の水
70.00重量%のグリセロール
【0083】
実施例20
30%の水
増粘剤: 10重量%のデンプン
酸化防止剤: 10重量%のフラボン
pH調整剤: 0.5重量%のトリエチルアミン
49.5重量%のグリセロール
【0084】
実施例21
40%の水
60.00重量%のグリセロール
【0085】
実施例22
40%の水
増粘剤: 1重量%の植物性ガム
酸化防止剤: 0.5重量%のクルクミン
pH調整剤: 0.5重量%の水酸化ナトリウム
58.00重量%のグリセロール
【0086】
実施例1〜22の水性潤滑剤組成物の特性を以下の表1に示す。pHは、実施例10〜16、実施例18、実施例20及び実施例22で測定した。本明細書では、mm
3は、立方ミリメートルを示し、Pa・sは、パスカル-秒を示す。ナタネ油は、摩擦及び摩耗体積損失に関して満足とみなされることの多い特性を有する、一般に使用される植物源の潤滑剤であるので、ナタネ油を参照として使用した。したがって、ナタネ油と同程度の、あるいはナタネ油よりも小さい摩擦係数及び/又は摩耗体積損失を有する水性潤滑剤組成物は、十分に機能し、且つ環境にやさしい潤滑剤の要求を満たすと考えることができる。
【0087】
【表1】
【0088】
表1からわかるように、水分量が20重量%である実施例4の水性潤滑剤組成物は、満足できる粘度、小さい摩擦係数を有するが、摩耗体積損失が純粋なナタネ油(実施例2)のものよりも明らかに大きい。鉄道線路及びチェーンソー等の設備、道具及び機械は、長い寿命を有するべきであり、最小限のメンテナンスを必要とするべきであり、したがって、摩耗は小さいまま維持されることが望まれる。したがって、小さい摩耗体積損失は、水性潤滑剤組成物が潤滑剤組成物として好ましいことを示す。表2には、実施例1〜22を新たにグループ分けすることによる、水分量の異なる水性グリセロール組成物についての摩耗体積損失を示す。
【0089】
【表2】
【0090】
実施例6及び7のそれぞれにおいて示されるように、水性潤滑剤組成物中の増粘剤の存在は、水及びグリセロールのみからなる対応する組成物(すなわち、実施例4)と比較して、小さい摩耗体積損失を供する組成物をもたらした。実施例6では、摩耗体積損失のわずかな低減を観測することができる。実施例7では、摩耗体積損失の著しい低減を観測することができ、これは、多量の増粘剤が添加されたことによるものであろう。
【0091】
同様に、実施例8及び9のそれぞれにおいて示されるように、水性潤滑剤組成物中の酸化防止剤の存在は、水及びグリセロールのみからなる対応する組成物(すなわち、実施例4)と比較して、小さい摩耗体積損失を供する組成物をもたらした。
【0092】
したがって、水性潤滑剤組成物中の、増粘剤のみ、又は酸化防止剤のみの存在が摩耗体積損失を低減すると結論づけることができる。しかしながら、低減した摩耗体積損失は、例えばナタネ油(実施例2)の摩耗体積損失値よりも、未だ明らかに大きい。
【0093】
実施例13は、水性潤滑剤組成物中の増粘剤及び酸化防止剤の存在が、増粘剤及び酸化防止剤の添加量が少量であるにもかかわらず、摩耗体積損失を著しく低減することを示す。したがって、増粘剤及び酸化防止剤の存在において、相乗効果が観測される。
【0094】
実施例14は、水性潤滑剤組成物へのpH調整剤の添加が、水及びグリセロールのみからなる対応する組成物(すなわち、実施例4)と比較して、摩耗体積損失を約10%低減することを示す。
【0095】
実施例11、12、及び13は、摩耗体積損失値が、例えば純粋なナタネ油(実施例2)よりも小さくなるか、又はそれと同程度になるほどに、水性潤滑剤組成物中の増粘剤、酸化防止剤、及びpH調整剤の存在が、摩耗体積損失を低減することを示す。したがって、水性潤滑剤組成物への増粘剤、酸化防止剤、及びpH調整剤の添加により、相乗効果が観測される。また、pH調整剤の存在は、組成物のpHを調整することに加えて、水性潤滑剤組成物の、特に摩耗に関する潤滑特性において、有益な効果を与えると結論づけることもできる。
【0096】
表1及び表2はまた、水性潤滑剤組成物の水の量にかかわらず、水性グリセロール組成物中の増粘剤、酸化防止剤、及びpH調整剤の存在が、摩耗体積損失値を著しく低減することを示す。
【0097】
水の量が5、10、20、又は30重量%である水性潤滑剤組成物では、摩耗体積損失値は、純粋なナタネ油のものよりも小さいか、又はそれと同程度であることがわかる(実施例2に対する実施例15、18、10、11、12、及び20)。水の量が40又は50重量%である水性グリセロール組成物では、摩耗体積損失値は、純粋なナタネ油のものよりも大きい(実施例2に対する実施例22及び16)。しかしながら、これらの水性潤滑剤組成物では、増粘剤、酸化防止剤、及びpH調整剤の添加が、水及びグリセロールのみからなる対応する組成物と比較して、摩耗体積損失をなお著しく低減する(実施例21に対する実施例22、及び実施例5に対する実施例16)。
【0098】
上記から、用途及びそれに関する潤滑要求に応じて、例えば摩耗に関して所望の特性を有する水性潤滑剤組成物を選択することができると結論づけることができる。
【国際調査報告】