特表2016-540129(P2016-540129A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-540129(P2016-540129A)
(43)【公表日】2016年12月22日
(54)【発明の名称】アーク炉の運転方法及びアーク炉
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/52 20060101AFI20161125BHJP
   F27B 3/20 20060101ALI20161125BHJP
【FI】
   C21C5/52
   F27B3/20
【審査請求】有
【予備審査請求】有
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-550983(P2016-550983)
(86)(22)【出願日】2014年10月23日
(85)【翻訳文提出日】2016年6月16日
(86)【国際出願番号】EP2014072751
(87)【国際公開番号】WO2015062968
(87)【国際公開日】20150507
(31)【優先権主張番号】102013222158.4
(32)【優先日】2013年10月31日
(33)【優先権主張国】DE
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】516128728
【氏名又は名称】プライメタルズ・テクノロジーズ・ジャーマニー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マンフレッド・バルダウフ
(72)【発明者】
【氏名】マルティン・ヘルクト
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・マチュラット
【テーマコード(参考)】
4K014
4K045
【Fターム(参考)】
4K014CB01
4K014CD12
4K045AA03
4K045BA02
4K045RB02
(57)【要約】
本発明は、貫通孔(32)を有する少なくとも1つの電極(18)を含むアーク炉(10)を運転するための方法であって、アーク(20)が、少なくとも1つの前記電極(18)と溶融材料(16)との間に形成され、第1の添加剤が、前記電極(18)の前記貫通孔(32)に導入され、前記第1の添加剤を前記貫通孔(32)に導入することによって、吸熱化学反応が生じ、前記第1の添加剤の導入は、化学反応が、少なくとも1つの前記電極(18)の、前記溶融材料(16)に対向する所定の領域(34)において生じるように制御される方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔(32)を有する少なくとも1つの電極(18)を含むアーク炉(10)を運転するための方法であって、アーク(20)が、少なくとも1つの前記電極(18)と溶融材料(16)との間に形成され、第1の添加剤が、前記電極(18)の前記貫通孔(32)に導入され、前記第1の添加剤の前記貫通孔(32)への導入によって、吸熱化学反応が生じる方法において、
前記第1の添加剤の導入は、前記吸熱化学反応が、少なくとも1つの前記電極(18)の、前記溶融材料(16)に対向する所定の領域(34)において生じるように制御されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1の添加剤の導入が、前記吸熱化学反応が、少なくとも1つの前記電極(18)の前記貫通孔(32)内で少なくとも部分的に生じるように制御されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の添加剤を導入する際、前記貫通孔(32)に導入される前記第1の添加剤の量が、時間に依存して制御されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の添加剤を導入する際、前記第1の添加剤の前記貫通孔(32)内における流速が制御されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の添加剤の流速が、前記吸熱化学反応の際に生じる生成物に依存して制御されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の添加剤を導入する際、前記第1の添加剤が前記貫通孔(32)に導入される位置が変更されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの前記電極(18)がグラファイトから形成されており、前記吸熱化学反応は、反応相手である前記第1の添加剤及びグラファイトによって引き起こされることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の添加剤として、第1のガスと、前記第1のガスとは異なる第2のガスとが、前記貫通孔(32)に導入されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記貫通孔(32)に導入される前記第1のガス及び/又は前記第2のガスの量が、時間に依存して制御されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記アーク(20)の電界強度を低下させるため、及び/又は、高めるために、第2の添加剤が前記貫通孔(32)に付加的に導入されることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つの前記電極(18)の外面が、水で冷却されることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
貫通孔(32)を有する少なくとも1つの電極(18)と、少なくとも1つの前記電極(18)と溶融材料(16)との間にアーク(20)を形成するための電気エネルギー源と、第1の添加剤が配置された貯蔵装置とを有する、前記溶融材料(16)を溶融するためのアーク炉(10)であって、前記第1の添加剤が前記電極(18)の前記貫通孔(32)に導入可能であり、前記第1の添加剤を前記貫通孔(32)に導入することによって吸熱化学反応を生じさせることが可能であるアーク炉(10)において、
前記アーク炉(10)は、前記第1の添加剤の導入を、前記吸熱化学反応が、少なくとも1つの前記電極(18)の、前記溶融材料(16)に対向する所定の領域(32)で生じ得るように制御することができる制御装置を備えていることを特徴とするアーク炉(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク炉の運転方法に関する。さらに、本発明は、溶融材料を溶融するためのアーク炉に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク炉、特に電気アーク炉では、電気アークが、グラファイト電極を通じて、固体のスクラップと、後続の段階では溶融物とに、電気エネルギーをアークの形で供給する。第1の段階では、固体のスクラップは、アークによって直接、及び/又は、アークの放射によって間接に、熱せられ、溶融される。後続の段階において、当該溶融物は、アークのエネルギーによって、所望の目標温度に到達する。その際、溶融時間を短かく保ち、高い生産能力を保証し、プロセスのエネルギー効率を高めるためには、スクラップ又は溶融物に高いエネルギーが投入されることが重要である。
【0003】
一般的に、炉変圧器によって、中電圧が低電圧に変圧され、電極に印加される。スクラップ又は溶融物に対する電極の距離を変更することが可能であり、それによって、距離が小さい場合には、アークが形成され、運転中には、当該距離を拡大することによって、電圧及び/又は電流の強さ等の電気的運転パラメータが影響を受ける。
【0004】
アーク炉の運転中、グラファイト電極は、高い温度勾配にさらされる。上端では、電極温度は、雰囲気温度又は室内温度の範囲内であるが、溶融物よりもわずかに上側の下端では、約3000Kの温度になる。この高い温度は、アークと結びついて、周囲空気における電極の消耗を増大させる。グラファイト電極の消耗は、側面酸化の約50%に関連する。その他の点では、当該消耗は、電流の強さの二乗に比例する。すなわち、従来のアーク炉を運転する場合、グラファイトの消耗を少なく保つために、小さいアークを同時に伴う、可能な限り大きな電流の強さを回避することが試みられる。
【0005】
電極に沿った温度勾配はさらに、機械的応力をもたらし、当該機械的応力は、破片の剥離に、又は、極端な場合には電極の破損につながり得る。グラファイト電極又はその破片が溶融物中に落下する場合、電極の破損は、電極の消耗の増大だけではなく、生産の中断及び鋼の炭化につながるであろう。今日では、溶融物又はスクラップへのエネルギーの投入は、専ら電気的パラメータ、及び、電極と金属との間の物理的間隔によって制御される。
【0006】
特許文献1からは、アーク炉を運転するための方法が知られており、当該方法では、アークは、添加剤の添加の影響を受けるので、アーク炉の各運転段階では、特定のパラメータが有利に調整され得る。添加される添加剤の種類に応じて、アーク内の伝導性及び放熱力は上昇又は低下し得る。
【0007】
アーク又はプラズマ内の伝導性を増大させることは、電極の間隔の増大と、従って電流の変動の減少と、いわゆるフリッカーとにつながる。同時に、放熱力が増大し、大量になるので、大量のエネルギー放射は、スクラップの高速加熱プロセスにつながる。従って、この段階では、エネルギー需要は削減可能である。アーク内での伝導性を高めるために、金属又は金属塩がプラズマに導入され得る。
【0008】
他方では、プラズマの伝導性の減少は、電極の間隔の減少と、放熱力の減少と、従って炉壁での放熱損失の減少とにつながる。それによって、液相運転では、電気エネルギーは、溶融物に非常に効率的に投入される。アークの伝導性を減少させるために、アルゴン、窒素、メタン、二酸化炭素等のガスがプラズマに導入され得る。
【0009】
ガスをアークに導入するために、グラファイトから成る中空電極が用いられ得る。当該中空電極は、その上側領域に、ガス供給系を接続するための対応するニップルを有している。ガスは、ニップルを通じて中空電極内に導入され、当該中空電極から、中空電極の下端を始点とするアーク内へ導入され得る。
【0010】
従来のアーク炉の場合、今日までに、このような方法は、スクラップの溶融にはまだ用いられていない。それに対して、いくつかの取鍋炉では、中空電極を通じたガス導入の原理が知られている。その際、溶融物への炭素の取り込みを回避するために、アルゴンが優先的に吹き込まれる。
【0011】
一般的に、電極の冷却は、外面において、水の噴霧又は滴下を通じて行われる。当該手段は、約30年前に導入された後、グラファイトの消耗に多大な影響を与えてきた。しかしながら、滴下する水は蒸発するので、電極の下側部分は冷却されない。さらに、電極の内部は、全く冷却作用を受けない。この関連において、特許文献1にはさらに、アークに添加剤を供給することが可能であり、当該添加剤は、エネルギー消費によって電極の冷却をもたらす反応を生じさせるということが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2013/064413号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、冒頭に挙げた種類のアーク炉を、より効率的に運転することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本課題は、請求項1の特徴を備えた方法と、請求項12の特徴を備えたアーク炉とによって解決される。本発明の有利なさらなる構成は、従属請求項の対象である。
【0015】
貫通孔を有する電極を少なくとも1つ有するアーク炉を運転するための本発明に係る方法では、アークが、少なくとも1つの電極と溶融材料との間に形成され、第1の添加剤が、電極の貫通孔に導入され、第1の添加剤を貫通孔に導入することによって、吸熱化学反応がもたらされ、第1の添加剤の導入は、少なくとも1つの電極の、溶融材料に対向する所定の領域において、吸熱化学反応が生じるように制御される。
【0016】
アーク炉は、特に電気アーク炉として構成され得る。当該アーク炉は、少なくとも1つの電極を含んでおり、当該電極は、好ましくはグラファイトから形成されている。電極には、炉変圧器を用いて、電圧が供給され、その結果、電極と溶融材料との間にはアークが形成される。溶融材料として、特に鉄スクラップを用いることが可能である。少なくとも1つの電極は、中空電極として構成されている。当該電極の内部には、すなわち、当該電極の貫通孔には、第1の添加剤を導入することができる。第1の添加剤として、固体、エアロゾル及び/又は流体を導入することができる。特に、第1の添加剤として、ガスが電極の孔に導入される。
【0017】
ここでは、第1の添加剤は、吸熱化学反応が生じるように選択される。化学反応が特定の温度になってからようやく進行するように、第1の添加剤を選択することも可能である。化学反応の際は、エネルギーが必要となる。当該エネルギーは、熱せられた電極から取り出され得る。その結果、電極は熱エネルギーを放出し、冷却される。ここでは、第1の添加剤の導入は、溶融物に対向する電極の領域において、吸熱化学反応が行われるように制御される。従って、アーク炉の動作中に熱せられる電極の領域は、冷却され得る。それによって、電極内の機械的応力及び電極の消耗は減少し得る。
【0018】
好ましくは、第1の添加剤の導入は、吸熱化学反応が、少なくとも1つの電極の貫通孔内で少なくとも部分的に生じるように制御される。従って、電極は、貫通孔を起点として、特に効果的に冷却され得る。
【0019】
一実施態様において、第1の添加剤を導入する際、貫通孔に導入される第1の添加剤の量は、時間に依存して制御される。第1の添加剤の量の影響を通じて、吸熱化学反応の結果としての電極の冷却を制御することが可能である。
【0020】
さらなる実施態様では、第1の添加剤を導入する際に、第1の添加剤の貫通孔内における流速が制御される。貫通孔に沿った第1の添加剤の流速の制御によって、貫通孔内のどの位置において化学反応が生じるかを調整することが可能である。
【0021】
好ましくは、第1の添加剤の流速は、吸熱化学反応の際に生じる生成物に依存して制御される。化学反応の際、当該生成物は、反応物よりも多くの気体分子を含み得る。その結果、体積の膨張が生じる。化学反応の反応物及び生成物が知られている場合、流速を体積の膨張に適応させることができる。
【0022】
さらなる実施態様では、第1の添加剤を導入する際、第1の添加剤が貫通孔に導入される位置が変更される。そのために、電極は複数の孔を有していて良く、当該孔を通って、第1の添加剤は貫通孔に導入され得る。それによって、吸熱化学反応が生じる領域に影響を与えることができる。
【0023】
一実施態様では、少なくとも1つの電極はグラファイトから形成されており、化学反応は、反応相手である第1の添加剤及びグラファイトによって引き起こされる。例えば、第1の添加剤として、二酸化炭素又は水蒸気が、電極の貫通孔に導入され得る。その際、電極の材料、すなわちグラファイト又は炭素が、反応相手として、吸熱化学反応の際に用いられ得る。
【0024】
さらなる実施態様では、第1の添加剤として、第1のガスと、第1のガスとは異なる第2のガスとが、貫通孔に導入される。例えば、第1のガスとしてメタンが、第2のガスとして水蒸気が、孔に導入され得る。代替的に、メタンを第1のガスとして、二酸化炭素を第2のガスとして、孔に導入しても良い。さらに、第1の添加剤が、第1のガスとして二酸化炭素を、第2のガスとして水素を含むことも考えられる。これらの第1の添加剤は、電極が反応相手として用いられず、電極を冷却するための吸熱反応が、電極を保護しながら行われ得るという利点を有する。
【0025】
好ましくは、貫通孔に導入される第1のガス及び/又は第2のガスの量は、時間に依存して制御される。両方のガスの割合を制御することによって、一方では化学反応が生じる温度を、他方では化学反応に必要なエネルギーを制御することができる。
【0026】
さらに、アークの電界強度を低下させるため、及び/又は、高めるために、第2の添加剤を貫通孔に付加的に導入すると有利である。アーク又はプラズマの電界強度を低下させるために、アーク内のイオン化エネルギーを低下させる第2の添加剤が貫通孔に導入され得る。このために、第2の添加剤として、例えば金属又は金属塩を用いても良い。電界強度を高めるためには、アーク内のイオン化エネルギーを増大させる第2の添加剤が導入され得る。このために、第2の添加剤として、例えばアルゴン、窒素、メタン、二酸化炭素等のガスがプラズマに導入され得る。従って、少なくとも1つの電極を冷却するために、アークは付加的に、アーク炉の様々な運転段階で制御され得る。
【0027】
さらなる実施態様では、少なくとも1つの電極の外面が水で冷却される。例えば、水は、外側から電極に噴霧され得る。好ましくは、電極は、溶融材料に対向する下側領域においてのみ、水で冷却され得る。従って、電極の内部で化学冷却を行うのに加えて、電極は外側から冷却され得る。
【0028】
さらに、本発明では、溶融材料を溶融するためのアーク炉が提供されており、当該アーク炉は、貫通孔を有する少なくとも1つの電極と、少なくとも1つの電極と溶融材料との間にアークを形成するための電気エネルギー源と、第1の添加剤が配置された貯蔵装置であって、第1の添加剤が電極の貫通孔に導入可能であり、第1の添加剤を貫通孔に導入することによって吸熱化学反応が生じ得る、貯蔵装置と、第1の添加剤の貫通孔への導入を、吸熱化学反応が少なくとも1つの電極の、溶融材料に対向する所定の領域で生じ得るように制御することができる制御装置と、を備えている。
【0029】
これまでに本発明に係る方法に関連して記載された利点及びさらなる構成は、対応して、本発明に係るアーク炉に適用することができる。
【0030】
本発明を、添付の図面を用いて詳細に説明する。示されているのは以下の図である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】第1の運転段階における、先行技術に係るアーク炉の図である。
図2】第2の運転段階における、図1に係るアーク炉の図である。
図3】アーク炉の電極の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下において詳細に説明される実施例は、本発明の好ましい実施態様である。
【0033】
図1は、先行技術に係るアーク炉10を側断面図において示している。アーク炉10は、電気アーク炉として構成されている。アーク炉10は、ハウジングの上側部分12と、ハウジングの下側部分14とを含んでおり、当該上側部分と当該下側部分とを互いに対して動かすことが可能である。アーク炉10は、溶融材料16、特に鉄スクラップの溶融に用いられる。溶融材料16は、ハウジングの下側部分14内に存在している。
【0034】
さらに、アーク炉10は、少なくとも1つの電極18を含んでいる。本実施例では、アーク炉10は3つの電極18を含んでいる。電極18は、ここでは図示されていない炉変圧器に接続されており、当該炉変圧器を用いて、電圧が電極18に供給され得る。電極18では、電圧及び/又は電流の強さが、電極18と溶融材料16との間にそれぞれアーク20が形成されるように選択される。電極18の溶融材料16に対する距離を調整することが可能であり、それによって、距離が小さい場合にはアーク20が形成され、運転中に距離を拡大することによって、電気的運転パラメータが制御される。
【0035】
図1には、第1の運転段階におけるアーク炉10が示されている。ここでは、溶融材料16は固体22として存在する。固体22又はスクラップには、アーク20を通じてエネルギーが供給される。それによって、固体22は溶融し、溶融材料16は溶融物24として存在する。
【0036】
図2は、第2の運転段階における、図1に係るアーク炉10を示している。ここでは、溶融材料16は、すでに完全に溶融物24として存在している。アーク20を用いて溶融物24に導入されるエネルギーを通じて、溶融物24の所定の目標温度を調整することが可能である。
【0037】
図3は、アーク炉10の電極18を、側断面図において概略的に示している。アーク炉10の運転中には、電極18に沿って温度勾配が形成される。当該温度勾配は、電極18が、下側の、溶融材料16に対向する領域26において、アーク20と溶融物24とによって、3000Kまでの温度に熱せられることによって生じる。電極18の下側領域26には、アーク20が形成されている。電極18の下側領域26の対向側の上側領域28は、ほぼ雰囲気温度、例えば室内の雰囲気温度を有している。ここでは、温度勾配は、矢印30によって示されている。温度勾配を通じて、電極18内に機械的応力が生じ、当該機械的応力は、電極18の破損につながり得る。さらに、電極18の下側領域26における高温は、電極18の消耗をもたらし得る。
【0038】
ここでは、電極18は、中空電極として構成されている。電極18は、概ね中空円柱状の形状を有している。電極18は、貫通孔32を有しており、当該貫通孔は、電極18の上側領域28から下側領域26まで、電極18の長手軸方向に沿って延在している。貫通孔32には、第1の添加剤が導入され得る。これは、ここでは矢印36によって示されている。このために、電極18には対応する接続要素が配置され得る。当該接続要素は、第1の添加剤が配置された貯蔵装置又はタンクに接続されている。特に、添加剤として、第1のガスが貫通孔32に導入される。第1の添加剤を貫通孔32に導入することによって、吸熱化学反応が生じる。第1の添加剤としては、例えば二酸化炭素又は水蒸気が導入され得る。以下は、そのような反応の例である:
CO+C→2CO;ΔH=+172.6kJ/mol(1)
C+HO→CO+H;ΔH=+131.4kJ/mol(2)
C+2HO→CO+2H;ΔH=+90.2kJ/mol(3)
【0039】
式(1)から(3)に記載された反応では、電極材料であるグラファイト又は炭素が、反応相手として用いられる。ここで、式(1)は、いわゆるブードア平衡を表している。ΔHは、吸熱化学反応を進行させるために必要なエネルギー量を示している。当該エネルギー量ΔHは、雰囲気から取り出される。特に、エネルギーは、熱エネルギーの形で、電極18から取り出される。
【0040】
添加剤として、第1のガスと第2のガスとが、電極18の孔32に導入され得る。その際、電極18は、化学反応の反応相手としては用いられない。例えば、メタン及び水蒸気、メタン及び二酸化炭素、又は、二酸化炭素及び水素が、貫通孔32に導入され得る。以下は、そのような反応の例である:
CH+HO→CO+3H;ΔH=+206.2kJ/mol(4)
CH+CO→2CO+2H;ΔH=+250.0kJ/mol(5)
CO+H→CO+HO;ΔH=+41.2kJ/mol(6)
【0041】
ここで、式(1)から(6)までに記載された反応は、特に300Kを超える温度でのみ進行する平衡反応であることに注意すべきである。しかしながら、当該平衡は、様々な温度レベルにおける熱力学に基づいて、生成物の側に移動する。
【0042】
反応相手の選択によって、反応に必要なエネルギー量ΔHだけではなく、反応が行われる温度も調整され得る。電極18に沿って温度勾配が存在するので、化学反応の選択によって、電極軸に沿った、化学的冷却作用が生じる領域34も管理かつ変更され得る。しかしながら、その際、上述の平衡は、500℃未満の温度では、触媒が存在しない場合、動力学的に停止する可能性があり、それによって、有限速度で進行するので、熱力学的平衡の調整は遅れて行われることに注意すべきである。
【0043】
このような遅れは、必要に応じて、電極18の貫通孔32内における第1の添加剤の流速を調整することによって補償され得る。さらに、上述の反応は、式(6)の反応を除いて全て、進行と共に体積が増大することに注意すべきである。すなわち、反応物の側では、反応式につき、関与する気体分子が生成物側よりも少ない。例えば、式(4)の反応では、2つの気体分子から4つの気体分子が生成される。このような体積の増加は流速を増大させ、それによって、電極18の高温領域において付加的な冷却効果が得られる。
【0044】
吸熱化学反応の進行が早過ぎること、すなわち、電極18の上側領域28において進行することを防止するために、複数の(ここには図示されていない)領域を、第1の添加剤を貫通孔32に供給するために設けること、及び、それによって空間の自由度を利用することが可能である。
【0045】
第1の添加剤に加えて、アーク20の特性に影響を与え得る第2の添加剤を、電極18の貫通孔32に導入することが可能である。例えば、アーク20の電界強度は、第2の添加剤の影響を受け得る。それによって、アークの影響と電極18の化学冷却との組み合わせが、共通の装置構成で提供され得る。第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の導入を制御するために、電圧及び/又はアークの電流の強さが監視され得る。
【0046】
アルゴン、窒素、酸素及び/又は圧縮空気の他に、アークプラズマに影響を与えるために用いられ得る一酸化炭素、二酸化炭素、水素、水蒸気及び/又はメタン等のガスを導入することによって、電極18の付加的な冷却が得られる。さらに、アーク炉10の各運転段階において、ガスの量、ガスが貫通孔32に導入される位置、及び/又は、ガスの流速を制御することが可能である。
【0047】
これによって、制御構想及び自動化構想を発展させる可能性が提供される。当該構想では、多次元パラメータ空間において、アーク20を通じた溶融材料16へのエネルギー投入だけではなく、電極18の冷却及び電極18の消耗もまた、有利に、ガスの組み合わせ、その混合比、ガスを貫通孔32に供給する場所、ガスの流速及び/又は体積流量の選択によって制御され得る。
【符号の説明】
【0048】
10 アーク炉
12 ハウジングの上側部分
14 ハウジングの下側部分
16 溶融材料
18 電極
20 アーク
22 固体
24 溶融物
26 下側領域
28 上側領域
30 矢印
32 貫通孔
34 領域
36 矢印
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2015年3月3日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク炉の運転方法に関する。さらに、本発明は、溶融材料を溶融するためのアーク炉に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク炉、特に電気アーク炉では、電気アークが、グラファイト電極を通じて、固体のスクラップと、後続の段階では溶融物とに、電気エネルギーをアークの形で供給する。第1の段階では、固体のスクラップは、アークによって直接、及び/又は、アークの放射によって間接に、熱せられ、溶融される。後続の段階において、当該溶融物は、アークのエネルギーによって、所望の目標温度に到達する。その際、溶融時間を短かく保ち、高い生産能力を保証し、プロセスのエネルギー効率を高めるためには、スクラップ又は溶融物に高いエネルギーが投入されることが重要である。
【0003】
一般的に、炉変圧器によって、中電圧が低電圧に変圧され、電極に印加される。スクラップ又は溶融物に対する電極の距離を変更することが可能であり、それによって、距離が小さい場合には、アークが形成され、運転中には、当該距離を拡大することによって、電圧及び/又は電流の強さ等の電気的運転パラメータが影響を受ける。
【0004】
アーク炉の運転中、グラファイト電極は、高い温度勾配にさらされる。上端では、電極温度は、雰囲気温度又は室内温度の範囲内であるが、溶融物よりもわずかに上側の下端では、約3000Kの温度になる。この高い温度は、アークと結びついて、周囲空気における電極の消耗を増大させる。グラファイト電極の消耗は、側面酸化の約50%に関連する。その他の点では、当該消耗は、電流の強さの二乗に比例する。すなわち、従来のアーク炉を運転する場合、グラファイトの消耗を少なく保つために、小さいアークを同時に伴う、可能な限り大きな電流の強さを回避することが試みられる。
【0005】
電極に沿った温度勾配はさらに、機械的応力をもたらし、当該機械的応力は、破片の剥離に、又は、極端な場合には電極の破損につながり得る。グラファイト電極又はその破片が溶融物中に落下する場合、電極の破損は、電極の消耗の増大だけではなく、生産の中断及び鋼の炭化につながるであろう。今日では、溶融物又はスクラップへのエネルギーの投入は、専ら電気的パラメータ、及び、電極と金属との間の物理的間隔によって制御される。
【0006】
特許文献1からは、アーク炉を運転するための方法が知られており、当該方法では、アークは、添加剤の添加の影響を受けるので、アーク炉の各運転段階では、特定のパラメータが有利に調整され得る。添加される添加剤の種類に応じて、アーク内の伝導性及び放熱力は上昇又は低下し得る。
【0007】
アーク又はプラズマ内の伝導性を増大させることは、電極の間隔の増大と、従って電流の変動の減少と、いわゆるフリッカーとにつながる。同時に、放熱力が増大し、大量になるので、大量のエネルギー放射は、スクラップの高速加熱プロセスにつながる。従って、この段階では、エネルギー需要は削減可能である。アーク内での伝導性を高めるために、金属又は金属塩がプラズマに導入され得る。
【0008】
他方では、プラズマの伝導性の減少は、電極の間隔の減少と、放熱力の減少と、従って炉壁での放熱損失の減少とにつながる。それによって、液相運転では、電気エネルギーは、溶融物に非常に効率的に投入される。アークの伝導性を減少させるために、アルゴン、窒素、メタン、二酸化炭素等のガスがプラズマに導入され得る。
【0009】
ガスをアークに導入するために、グラファイトから成る中空電極が用いられ得る。当該中空電極は、その上側領域に、ガス供給系を接続するための対応するニップルを有している。ガスは、ニップルを通じて中空電極内に導入され、当該中空電極から、中空電極の下端を始点とするアーク内へ導入され得る。
【0010】
従来のアーク炉の場合、今日までに、このような方法は、スクラップの溶融にはまだ用いられていない。それに対して、いくつかの取鍋炉では、中空電極を通じたガス導入の原理が知られている。その際、溶融物への炭素の取り込みを回避するために、アルゴンが優先的に吹き込まれる。
【0011】
一般的に、電極の冷却は、外面において、水の噴霧又は滴下を通じて行われる。当該手段は、約30年前に導入された後、グラファイトの消耗に多大な影響を与えてきた。しかしながら、滴下する水は蒸発するので、電極の下側部分は冷却されない。さらに、電極の内部は、全く冷却作用を受けない。この関連において、特許文献1にはさらに、アークに添加剤を供給することが可能であり、当該添加剤は、エネルギー消費によって電極の冷却をもたらす反応を生じさせるということが記載されている。
【0012】
さらに、特許文献2には、金属浴の方向に流体を放出するための装置を有する、電気アーク炉のための電極が記載されている。当該流体は、熱不安定性で、炭素に富み、可燃性の成分を少なくとも1つ含んでいる。当該成分は、特に、メタン、エタン、プロパン、ブタン、及び、それらの混合物の群から選択される気体状の炭化水素であり得る。それによって、電極の先端を覆う雲が形成され、電極のグラファイト表面が、固体層で覆われ得る。
【0013】
さらに、特許文献3には、電気アーク炉において、金属溶融物、特にスクラップから溶鋼を形成するための方法が記載されている。その際、有機物が、グラファイト電極の中央の長手軸方向の凹部を通じて導入される。有機物として、炭化水素が、固体、液体、及び/又は、気体の形状で、アークに導入され得る。当該炭化水素はアークにおいて、電極の先端を冷却しながら分解され、その後、分解生成物は燃焼し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2013/064413号
【特許文献2】国際公開第03/037038号
【特許文献3】欧州特許出願公開第0548042号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、冒頭に挙げた種類のアーク炉を、より効率的に運転することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本課題は、請求項1の特徴を備えた方法と、請求項11の特徴を備えたアーク炉とによって解決される。本発明の有利なさらなる構成は、従属請求項の対象である。
【0017】
貫通孔を有する電極を少なくとも1つ有するアーク炉を運転するための本発明に係る方法では、アークが、少なくとも1つの電極と溶融材料との間に形成され、第1の添加剤が、電極の貫通孔に導入され、第1の添加剤を貫通孔に導入することによって、吸熱化学反応がもたらされ、第1の添加剤の導入は、少なくとも1つの電極の、溶融材料に対向する所定の領域において、吸熱化学反応が生じるように制御され、第1の添加剤を導入する際には、第1の添加剤が貫通孔に導入される位置が変更される
【0018】
アーク炉は、特に電気アーク炉として構成され得る。当該アーク炉は、少なくとも1つの電極を含んでおり、当該電極は、好ましくはグラファイトから形成されている。電極には、炉変圧器を用いて、電圧が供給され、その結果、電極と溶融材料との間にはアークが形成される。溶融材料として、特に鉄スクラップを用いることが可能である。少なくとも1つの電極は、中空電極として構成されている。当該電極の内部には、すなわち、当該電極の貫通孔には、第1の添加剤を導入することができる。第1の添加剤として、固体、エアロゾル及び/又は流体を導入することができる。特に、第1の添加剤として、ガスが電極の孔に導入される。
【0019】
ここでは、第1の添加剤は、吸熱化学反応が生じるように選択される。化学反応が特定の温度になってからようやく進行するように、第1の添加剤を選択することも可能である。化学反応の際は、エネルギーが必要となる。当該エネルギーは、熱せられた電極から取り出され得る。その結果、電極は熱エネルギーを放出し、冷却される。ここでは、第1の添加剤の導入は、溶融物に対向する電極の領域において、吸熱化学反応が行われるように制御される。従って、アーク炉の動作中に熱せられる電極の領域は、冷却され得る。それによって、電極内の機械的応力及び電極の消耗は減少し得る。
【0020】
さらに、第1の添加剤を導入する際、第1の添加剤が貫通孔に導入される位置が変更される。そのために、電極は複数の孔を有していて良く、当該孔を通って、第1の添加剤は貫通孔に導入され得る。それによって、吸熱化学反応が生じる領域に影響を与えることができる。
【0021】
好ましくは、第1の添加剤の導入は、吸熱化学反応が、少なくとも1つの電極の貫通孔内で少なくとも部分的に生じるように制御される。従って、電極は、貫通孔を起点として、特に効果的に冷却され得る。
【0022】
一実施態様において、第1の添加剤を導入する際、貫通孔に導入される第1の添加剤の量は、時間に依存して制御される。第1の添加剤の量の影響を通じて、吸熱化学反応の結果としての電極の冷却を制御することが可能である。
【0023】
さらなる実施態様では、第1の添加剤を導入する際に、第1の添加剤の貫通孔内における流速が制御される。貫通孔に沿った第1の添加剤の流速の制御によって、貫通孔内のどの位置において化学反応が生じるかを調整することが可能である。
【0024】
好ましくは、第1の添加剤の流速は、吸熱化学反応の際に生じる生成物に依存して制御される。化学反応の際、当該生成物は、反応物よりも多くの気体分子を含み得る。その結果、体積の膨張が生じる。化学反応の反応物及び生成物が知られている場合、流速を体積の膨張に適応させることができる。
【0025】
一実施態様では、少なくとも1つの電極はグラファイトから形成されており、化学反応は、反応相手である第1の添加剤及びグラファイトによって引き起こされる。例えば、第1の添加剤として、二酸化炭素又は水蒸気が、電極の貫通孔に導入され得る。その際、電極の材料、すなわちグラファイト又は炭素が、反応相手として、吸熱化学反応の際に用いられ得る。
【0026】
さらなる実施態様では、第1の添加剤として、第1のガスと、第1のガスとは異なる第2のガスとが、貫通孔に導入される。例えば、第1のガスとしてメタンが、第2のガスとして水蒸気が、孔に導入され得る。代替的に、メタンを第1のガスとして、二酸化炭素を第2のガスとして、孔に導入しても良い。さらに、第1の添加剤が、第1のガスとして二酸化炭素を、第2のガスとして水素を含むことも考えられる。これらの第1の添加剤は、電極が反応相手として用いられず、電極を冷却するための吸熱反応が、電極を保護しながら行われ得るという利点を有する。
【0027】
好ましくは、貫通孔に導入される第1のガス及び/又は第2のガスの量は、時間に依存して制御される。両方のガスの割合を制御することによって、一方では化学反応が生じる温度に、他方では化学反応に必要なエネルギーに、影響を与えることができる。
【0028】
さらに、アークの電界強度を低下させるため、及び/又は、高めるために、第2の添加剤を貫通孔に付加的に導入すると有利である。アーク又はプラズマの電界強度を低下させるために、アーク内のイオン化エネルギーを低下させる第2の添加剤が貫通孔に導入され得る。このために、第2の添加剤として、例えば金属又は金属塩を用いても良い。電界強度を高めるためには、アーク内のイオン化エネルギーを増大させる第2の添加剤が導入され得る。このために、第2の添加剤として、例えばアルゴン、窒素、メタン、二酸化炭素等のガスがプラズマに導入され得る。従って、少なくとも1つの電極を冷却するために、アークは付加的に、アーク炉の様々な運転段階で制御され得る。
【0029】
さらなる実施態様では、少なくとも1つの電極の外面が水で冷却される。例えば、水は、外側から電極に噴霧され得る。好ましくは、電極は、溶融材料に対向する下側領域においてのみ、水で冷却され得る。従って、電極の内部で化学冷却を行うのに加えて、電極は外側から冷却され得る。
【0030】
さらに、本発明では、溶融材料を溶融するためのアーク炉が提供されており、当該アーク炉は、貫通孔を有する少なくとも1つの電極と、少なくとも1つの電極と溶融材料との間にアークを形成するための電気エネルギー源と、第1の添加剤が配置された貯蔵装置であって、第1の添加剤が電極の貫通孔に導入可能であり、第1の添加剤を貫通孔に導入することによって吸熱化学反応が生じ得る、貯蔵装置と、第1の添加剤の貫通孔への導入を、吸熱化学反応が少なくとも1つの電極の、溶融材料に対向する所定の領域で生じ得るように制御することができる制御装置であって、第1の添加剤を導入する際に、第1の添加剤が貫通孔に導入される位置が変更可能である、制御装置と、を備えている。
【0031】
これまでに本発明に係る方法に関連して記載された利点及びさらなる構成は、対応して、本発明に係るアーク炉に適用することができる。
【0032】
本発明を、添付の図面を用いて詳細に説明する。示されているのは以下の図である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】第1の運転段階における、先行技術に係るアーク炉の図である。
図2】第2の運転段階における、図1に係るアーク炉の図である。
図3】アーク炉の電極の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下において詳細に説明される実施例は、本発明の好ましい実施態様である。
【0035】
図1は、先行技術に係るアーク炉10を側断面図において示している。アーク炉10は、電気アーク炉として構成されている。アーク炉10は、ハウジングの上側部分12と、ハウジングの下側部分14とを含んでおり、当該上側部分と当該下側部分とを互いに対して動かすことが可能である。アーク炉10は、溶融材料16、特に鉄スクラップの溶融に用いられる。溶融材料16は、ハウジングの下側部分14内に存在している。
【0036】
さらに、アーク炉10は、少なくとも1つの電極18を含んでいる。本実施例では、アーク炉10は3つの電極18を含んでいる。電極18は、ここでは図示されていない炉変圧器に接続されており、当該炉変圧器を用いて、電圧が電極18に供給され得る。電極18では、電圧及び/又は電流の強さが、電極18と溶融材料16との間にそれぞれアーク20が形成されるように選択される。電極18の溶融材料16に対する距離を調整することが可能であり、それによって、距離が小さい場合にはアーク20が形成され、運転中に距離を拡大することによって、電気的運転パラメータが制御される。
【0037】
図1には、第1の運転段階におけるアーク炉10が示されている。ここでは、溶融材料16は固体22として存在する。固体22又はスクラップには、アーク20を通じてエネルギーが供給される。それによって、固体22は溶融し、溶融材料16は溶融物24として存在する。
【0038】
図2は、第2の運転段階における、図1に係るアーク炉10を示している。ここでは、溶融材料16は、すでに完全に溶融物24として存在している。アーク20を用いて溶融物24に導入されるエネルギーを通じて、溶融物24の所定の目標温度を調整することが可能である。
【0039】
図3は、アーク炉10の電極18を、側断面図において概略的に示している。アーク炉10の運転中には、電極18に沿って温度勾配が形成される。当該温度勾配は、電極18が、下側の、溶融材料16に対向する領域26において、アーク20と溶融物24とによって、3000Kまでの温度に熱せられることによって生じる。電極18の下側領域26には、アーク20が形成されている。電極18の下側領域26の対向側の上側領域28は、ほぼ雰囲気温度、例えば室内の雰囲気温度を有している。ここでは、温度勾配は、矢印30によって示されている。温度勾配を通じて、電極18内に機械的応力が生じ、当該機械的応力は、電極18の破損につながり得る。さらに、電極18の下側領域26における高温は、電極18の消耗をもたらし得る。
【0040】
ここでは、電極18は、中空電極として構成されている。電極18は、概ね中空円柱状の形状を有している。電極18は、貫通孔32を有しており、当該貫通孔は、電極18の上側領域28から下側領域26まで、電極18の長手軸方向に沿って延在している。貫通孔32には、第1の添加剤が導入され得る。これは、ここでは矢印36によって示されている。このために、電極18には対応する接続要素が配置され得る。当該接続要素は、第1の添加剤が配置された貯蔵装置又はタンクに接続されている。特に、添加剤として、第1のガスが貫通孔32に導入される。第1の添加剤を貫通孔32に導入することによって、吸熱化学反応が生じる。第1の添加剤としては、例えば二酸化炭素又は水蒸気が導入され得る。以下は、そのような反応の例である:
CO+C→2CO;ΔH=+172.6kJ/mol(1)
C+HO→CO+H;ΔH=+131.4kJ/mol(2)
C+2HO→CO+2H;ΔH=+90.2kJ/mol(3)
【0041】
式(1)から(3)に記載された反応では、電極材料であるグラファイト又は炭素が、反応相手として用いられる。ここで、式(1)は、いわゆるブードア平衡を表している。ΔHは、吸熱化学反応を進行させるために必要なエネルギー量を示している。当該エネルギー量ΔHは、雰囲気から取り出される。特に、エネルギーは、熱エネルギーの形で、電極18から取り出される。
【0042】
添加剤として、第1のガスと第2のガスとが、電極18の孔32に導入され得る。その際、電極18は、化学反応の反応相手としては用いられない。例えば、メタン及び水蒸気、メタン及び二酸化炭素、又は、二酸化炭素及び水素が、貫通孔32に導入され得る。以下は、そのような反応の例である:
CH+HO→CO+3H;ΔH=+206.2kJ/mol(4)
CH+CO→2CO+2H;ΔH=+250.0kJ/mol(5)
CO+H→CO+HO;ΔH=+41.2kJ/mol(6)
【0043】
ここで、式(1)から(6)までに記載された反応は、特に300Kを超える温度でのみ進行する平衡反応であることに注意すべきである。しかしながら、当該平衡は、様々な温度レベルにおける熱力学に基づいて、生成物の側に移動する。
【0044】
反応相手の選択によって、反応に必要なエネルギー量ΔHだけではなく、反応が行われる温度も調整され得る。電極18に沿って温度勾配が存在するので、化学反応の選択によって、電極軸に沿った、化学的冷却作用が生じる領域34も管理かつ変更され得る。しかしながら、その際、上述の平衡は、500℃未満の温度では、触媒が存在しない場合、動力学的に停止する可能性があり、それによって、有限速度で進行するので、熱力学的平衡の調整は遅れて行われることに注意すべきである。
【0045】
このような遅れは、必要に応じて、電極18の貫通孔32内における第1の添加剤の流速を調整することによって補償され得る。さらに、上述の反応は、式(6)の反応を除いて全て、進行と共に体積が増大することに注意すべきである。すなわち、反応物の側では、反応式につき、関与する気体分子が生成物側よりも少ない。例えば、式(4)の反応では、2つの気体分子から4つの気体分子が生成される。このような体積の増加は流速を増大させ、それによって、電極18の高温領域において付加的な冷却効果が得られる。
【0046】
吸熱化学反応の進行が早過ぎること、すなわち、電極18の上側領域28において進行することを防止するために、複数の(ここには図示されていない)領域を、第1の添加剤を貫通孔32に供給するために設けること、及び、それによって空間の自由度を利用することが可能である。
【0047】
第1の添加剤に加えて、アーク20の特性に影響を与え得る第2の添加剤を、電極18の貫通孔32に導入することが可能である。例えば、アーク20の電界強度は、第2の添加剤の影響を受け得る。それによって、アークの影響と電極18の化学冷却との組み合わせが、共通の装置構成で提供され得る。第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の導入を制御するために、電圧及び/又はアークの電流の強さが監視され得る。
【0048】
アルゴン、窒素、酸素及び/又は圧縮空気の他に、アークプラズマに影響を与えるために用いられ得る一酸化炭素、二酸化炭素、水素、水蒸気及び/又はメタン等のガスを導入することによって、電極18の付加的な冷却が得られる。さらに、アーク炉10の各運転段階において、ガスの量、ガスが貫通孔32に導入される位置、及び/又は、ガスの流速を制御することが可能である。
【0049】
これによって、制御構想及び自動化構想を発展させる可能性が提供される。当該構想では、多次元パラメータ空間において、アーク20を通じた溶融材料16へのエネルギー投入だけではなく、電極18の冷却及び電極18の消耗もまた、有利に、ガスの組み合わせ、その混合比、ガスを貫通孔32に供給する場所、ガスの流速及び/又は体積流量の選択によって制御され得る。
【符号の説明】
【0050】
10 アーク炉
12 ハウジングの上側部分
14 ハウジングの下側部分
16 溶融材料
18 電極
20 アーク
22 固体
24 溶融物
26 下側領域
28 上側領域
30 矢印
32 貫通孔
34 領域
36 矢印
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔(32)を有する少なくとも1つの電極(18)を含むアーク炉(10)を運転するための方法であって、アーク(20)が、少なくとも1つの前記電極(18)と溶融材料(16)との間に形成され、第1の添加剤が、前記電極(18)の前記貫通孔(32)に導入され、前記第1の添加剤の前記貫通孔(32)への導入によって、吸熱化学反応がもたらされ、前記第1の添加剤の導入は、前記吸熱化学反応が、少なくとも1つの前記電極(18)の、前記溶融材料(16)に対向する所定の領域(34)において生じるように制御される方法において、
前記第1の添加剤を導入する際、前記第1の添加剤が前記貫通孔(32)に導入される位置が変更されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1の添加剤の導入が、前記吸熱化学反応が、少なくとも1つの前記電極(18)の前記貫通孔(32)内で少なくとも部分的に生じるように制御されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の添加剤を導入する際、前記貫通孔(32)に導入される前記第1の添加剤の量が、時間に依存して制御されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の添加剤を導入する際、前記第1の添加剤の前記貫通孔(32)内における流速が制御されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の添加剤の流速が、前記吸熱化学反応の際に生じる生成物に依存して制御されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの前記電極(18)がグラファイトから形成されており、前記吸熱化学反応は、反応相手である前記第1の添加剤及びグラファイトによって引き起こされることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の添加剤として、第1のガスと、前記第1のガスとは異なる第2のガスとが、前記貫通孔(32)に導入されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記貫通孔(32)に導入される前記第1のガス及び/又は前記第2のガスの量が、時間に依存して制御されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記アーク(20)の電界強度を低下させるため、及び/又は、高めるために、第2の添加剤が前記貫通孔(32)に付加的に導入されることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの前記電極(18)の外面が、水で冷却されることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
貫通孔(32)を有する少なくとも1つの電極(18)と、少なくとも1つの前記電極(18)と溶融材料(16)との間にアーク(20)を形成するための電気エネルギー源と、第1の添加剤が配置された貯蔵装置とを有する、前記溶融材料(16)を溶融するためのアーク炉(10)であって、前記第1の添加剤が前記電極(18)の前記貫通孔(32)に導入可能であり、前記第1の添加剤を前記貫通孔(32)に導入することによって吸熱化学反応を生じさせることが可能であ、前記アーク炉(10)は、前記第1の添加剤の導入を、前記吸熱化学反応が、少なくとも1つの前記電極(18)の、前記溶融材料(16)に対向する所定の領域(32)で生じ得るように制御することができる制御装置を備えているアーク炉(10)において、
前記第1の添加剤を導入する際、前記第1の添加剤が前記貫通孔(32)に導入される位置が変更可能であることを特徴とするアーク炉(10)。
【国際調査報告】