(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-501997(P2017-501997A)
(43)【公表日】2017年1月19日
(54)【発明の名称】mIgA−Bリンパ球の溶解及びIgA生産の減少が可能な抗ヒトmIgA抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/42 20060101AFI20161222BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20161222BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20161222BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20161222BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20161222BHJP
A61P 1/14 20060101ALI20161222BHJP
【FI】
C07K16/42ZNA
C07K16/46
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P37/06
A61P13/12
A61P1/14
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】43
(21)【出願番号】特願2016-536853(P2016-536853)
(86)(22)【出願日】2014年12月5日
(85)【翻訳文提出日】2016年7月29日
(86)【国際出願番号】CN2014001097
(87)【国際公開番号】WO2015081613
(87)【国際公開日】20150611
(31)【優先権主張番号】61/912,395
(32)【優先日】2013年12月5日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】516248738
【氏名又は名称】免疫功坊股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】チャン、チェ−ワン
(72)【発明者】
【氏名】ハン、アルフル フ−シン
(72)【発明者】
【氏名】ル、ドニク チェン−シエン
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA16
4C085BB50
4C085CC08
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
Bリンパ球上のmIgAに結合し、mIgA発現Bリンパ球の溶解を引き起こし、IgA分泌Bリンパ球によるIgA生産を減少させることができる、ヒトα鎖のmigis-αに特異的な抗-migis-α抗体を、本願明細書に開示する。抗migis-α抗体及び医薬的に許容可能なキャリアを含む医薬組成物を、更に開示する。Bリンパ球上のmIgAに結合し、mIgA発現Bリンパ球の溶解を引き起こし、IgA分泌Bリンパ球によるIgA生産を減少させることができる、ヒトmα鎖のmigis-αに特異的な抗体を使用することによって、インビボでヒト対象におけるmIgA発現Bリンパ球を溶解して、IgA生産を減少させる方法を、更に開示する。Bリンパ球上のmIgAに結合することができ、それによって、mIgA発現Bリンパ球を溶解し、対象の免疫系のIgA生産を減少させる、ヒトmα鎖のmigis-αに特異的な抗体を対象に投与するステップを含む、対象の疾患を治療する方法も、本願明細書に開示する。加えて、mIgA発現細胞の除去又は免疫系におけるIgA抗体の減少から利益を得ることができる対象の疾患を治療するための、抗migis-α抗体及びその断片の使用も開示する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bリンパ球上のmIgAに結合することができ、それによって、mIgA発現Bリンパ球の溶解を引き起こす、及び/又は、IgA分泌Bリンパ球によるIgA生産を減少させる、ヒトmα鎖のmigis-αに特異的な抗migis-α抗体又はその断片。
【請求項2】
F(ab)'2、Fab、Fv、又は、抗migis-α抗体の単鎖Fv断片を含むかそのものである、請求項1に記載の抗migis-α抗体又はその断片。
【請求項3】
前記抗体又は断片は、以下の相補性決定領域(CDR)であって、
CDR-H1は、配列番号:17の残基26-33である、
CDR-H2は、配列番号:17の残基51-57である、
CDR-H3は、配列番号:17の残基96-104である、
CDR-L1は、配列番号:18の残基27-32である、
CDR-L2は、配列番号:18の残基50-52である、
CDR-L3は、配列番号:18の残基89-97である、CDRを有する、請求項1又は2に記載の抗migis-α抗体又はその断片。
【請求項4】
前記抗体又は前記断片は、配列番号:17に記載のVH及び配列番号:18に記載のVLを含む、請求項1から3のいずれかに記載の抗migis-α抗体又はその断片。
【請求項5】
前記抗体は、mAb 8G7である、請求項1から4のいずれかに記載の抗migis-α抗体又はその断片。
【請求項6】
前記抗体又は前記断片は、キメラ抗体、ヒト化抗体、若しくはヒト抗体又はその断片である、請求項1から5のいずれかに記載の抗migis-α抗体又はその断片。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の抗migis-α抗体又はその断片及び医薬的に許容可能なキャリアを含む医薬組成物。
【請求項8】
前記医薬組成物は、mIgA発現細胞の除去又は免疫系のIgA抗体の減少から利益を得ることができる対象における疾患を治療するために使われる、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記疾患は、IgAリンパ球(lymphoctyes)、IgA腎症(IgAN)、ヘノッホシェーンライン紫斑病(HSP)及びセリアック病からなる群より選択される、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
Bリンパ球上のmIgAに結合することができ、それによって、mIgA発現Bリンパ球の溶解を引き起こし、IgA分泌Bリンパ球によるIgA生産を減少させる、ヒトmα鎖のmigis-αに特異的な抗体又はその断片を対象に使用するステップを含む、インビトロ又はインビボで対象におけるmIgA発現Bリンパ球を溶解して、IgA生産を減少させる方法。
【請求項11】
Bリンパ球上のmIgAに結合することができ、それによって、mIgA発現Bリンパ球を溶解し、対象の免疫系におけるIgA生産を減少させる、ヒトmα鎖のmigis-αに特異的な抗体又はその断片を対象に投与するステップを含む、対象における疾患を治療する方法。
【請求項12】
前記疾患は、IgAリンパ球(lymphoctyes)、IgA腎症(IgAN)、ヘノッホシェーンライン紫斑病(HSP)及びセリアック病からなる群より選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
mIgA発現細胞の除去及び免疫系におけるIgA抗体の減少から利益を得ることができる対象の疾患を治療するための、請求項1から6のいずれかに記載の抗migis-α抗体及びその断片の使用。
【請求項14】
前記疾患は、IgAリンパ球(lymphoctyes)、IgA腎症(IgAN)、ヘノッホシェーンライン紫斑病(HSP)及びセリアック病からなる群より選択される、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願についての記載
この出願は、2013年12月5日に出願の米国仮出願第61/912,395号の優先権を主張し、それらの全てを引用によって本願明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、抗体、特に、ヒトmIgA発現B細胞に対する結合が可能な抗体に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒトIgAは、それぞれ、2つのサブクラス、IgA1及びIgA2を有し、IgA1サブクラスは、血清において支配的(およそ80%)である。IgA1及びIgA2は、それぞれ、両α1及びα2のほとんどは、分泌(α)及び膜結合(mα)型をとり、これらは、重鎖α1及びα2を含む。膜エクソンを含むmαのmRNAを有する、同じRNA転写物に由来する2つの異なるセットのmRNAから翻訳される。ほとんどの血清IgAは、分泌物中に豊富な二量体又は多量体型よりも単量体型(約90%)である。
【0004】
分泌型IgA(SIgA)は、外分泌物中に多量に存在するイムノグロブリンである。これは、粘膜表面での微生物の侵入に対する液性免疫としての役割を果たし、胃腸管における食事性抗原のバランスを維持する。上皮層下の局所形質細胞によって生産されるSIgAは、J鎖に関連して主に二量体又は多量体型である。上皮細胞の側底膜上の重合Ig受容体(pIgR)との相互作用を通じて、SIgAは、pIgRの先端の切断の後、トランスサイトーシスによって内腔に輸送される。切断されたpIgRは、分泌成分としても知られており、粘膜において多数の細菌性プロテアーゼによるSIgAの消化を保護することができる。約3〜5グラムのSIgAが腸の内腔に毎日分泌されると推定され、これによって、粘膜免疫系の調節におけるその主要な役割を説明することができる。
【0005】
分泌型に加えて、IgAは、RNAスプライシングによるCH3エクソン後の膜エクソンの結合によってエンコードされた膜アンカー型(mIgA)で存在する。膜エクソンは、3つの異なる環境セグメント(それぞれ、26-32のアミノ酸残基からなるmIgアイソタイプ特定(migis-α)セグメントと称される細胞外ペプチド、膜貫通領域、サイトゾル側末端)に対応する膜アンカーペプチドに翻訳される。migis-αセグメントは、5つのIgアイソタイプ中の配列及び長さが異なる一方で、それらの膜貫通ドメインは高度に保存されている。従って、migis-αセグメントは、mIgA及びmIgA発現B細胞を標的とする抗原性サイトとして役立つことができる。従って、得られた抗体によって、mIgA発現細胞の除去又は免疫系のIgA抗体の減少という利益を得ることができ、関連する疾患(例えばIgAリンパ球(lymphoctyes)、IgA腎症(IgAN)、ヘノッホシェーンライン紫斑病(HSP)、セリアック病等)を治療するために用いることができる。
【0006】
IgA2ではなくIgA1において、2つのスプライシングアクセプター部位は、膜エクソンに存在し、mα1mRNAのアイソフォームは、膜エクソンにおけるいずれかのアクセプターに対する、CH3エクソンにおけるドナーの択一的な結合によって発生する。2つの得られたアイソフォームは、長いアイソフォーム(mα1
L)は、短いアイソフォーム(mα1
S)の長さである26アミノ酸残基のmigisペプチドのN末端基に更に6つのアミノ酸残基を有する点で異なる。mα1
Lの発現量は、mIgA1発現B細胞のmα1
Sの約2倍以上である。研究において、2つのmα1アレルは、migis-αの長いアイソフォーム及び短いアイソフォームを生産することができ、3つのmα2アレルは、排他的に短い形態を生産する。
【0007】
migis-αは、mIgAに結合でき且つmIgA発現B細胞の溶解を引き起こすことができる抗体を作成するための抗原性サイトとして1990年初頭(米国特許第5,079,334号)から提唱されてきた一方で、かかる抗体はこれまでに作成されていない。我々の以前の論文[Hung et al., Mol. Immunol. 48(15-16): 1975-1982 (2011)]で、ELISAにおいて、合成migis-αポリペプチド及びmigis-αを含む組換えタンパク質と強く結合する多くのmAbを作成した。しかしながら、それらのmAbの中で29C11と称するものだけは、B細胞株(例えばmα1鎖をトランスフェクションしたIgA1発現DAKIKI細胞又はダウディ細胞)上のmIgAに対する結合を、わずかに検出することができた。29C11がアポトーシス、ADCC又は他の機構によってmIgA発現B細胞の溶解を誘導することができるか否かに関するデータは提供されていない。
【発明の概要】
【0008】
第一態様において、本願明細書に開示される実施形態は、Bリンパ球上のmIgAに結合することができ、それによって、mIgA発現Bリンパ球の溶解を引き起こしてIgA分泌Bリンパ球によるIgA生産を減少させる、ヒトmα鎖のmigis-αに特異的な抗migis-α抗体又はその断片を提供する。
【0009】
ある実施形態において、本願明細書が開示する抗migis-α抗体又はその断片は、以下の相補性決定領域(CDR)を含む:
(a) CDR-H1は、配列番号:17の残基26-33、
(b) CDR-H2は、配列番号:17の残基51-57、
(c) CDR-H3は、配列番号:17の残基96-104、
(d) CDR-L1は、配列番号:18の残基27-32、
(e) CDR-L2は、配列番号:18の残基50-52、
(f) CDR-L3は、配列番号:18の残基89-97。
【0010】
ある実施形態において、抗migis-α抗体又はその断片は、配列番号:17に記載のVH及び配列番号:18に記載のVLを含む。
【0011】
具体的な実施形態において、抗migis-α抗体は、MAb 8G7である。
【0012】
ある種の実施形態では、本願明細書に開示される抗体又はその断片は、上記抗migis-α抗体のF(ab)'
2、Fab、Fv又は単鎖Fv断片を含む又はそのものである。
【0013】
第二態様において、本願明細書に開示される実施形態は、Bリンパ球上のmIgAに結合することができ、それによって、mIgA発現Bリンパ球の溶解を引き起こす又はIgA分泌Bリンパ球によるIgA生産を減少させる、ヒトmα鎖のmigis-αに特異的な抗migis-α抗体又はその断片及び医薬的に許容可能なキャリアを含む医薬組成物を提供する。
【0014】
ある種の実施形態では、本願明細書に開示される医薬組成物は、mIgA発現細胞の除去又は免疫系のIgA抗体の減少から利益を得ることができる対象の疾患を治療するための医薬組成物である。
【0015】
ある種の実施形態では、上記疾患は、IgAリンパ球(lymphoctyes)、IgA腎症(IgAN)、ヘノッホシェーンライン紫斑病(HSP)及びセリアック病からなる群より選択される。
【0016】
第三の態様において、本願明細書に開示される実施形態は、Bリンパ球上のmIgAに結合することができ、それによって、mIgA発現Bリンパ球の溶解を引き起こし、IgA分泌Bリンパ球によるIgA生産を減少させる、ヒトmα鎖のmigis-αに特異的な抗体又はその断片を対象に使用するステップを含む、インビトロ又はインビボで対象におけるmIgA発現Bリンパ球を溶解して、IgA生産を減少させる方法を提供する。
【0017】
第四の態様において、本願明細書に開示される実施形態は、Bリンパ球上のmIgAに結合することができ、それによって、mIgA発現Bリンパ球を溶解して、対象の免疫系におけるIgA生産を減少させる、ヒトmα鎖のmigis-αに特異的な抗体又はその断片を対象に投与するステップを含む、対象における疾患を治療する方法を提供する。
【0018】
第五の態様において、本願明細書に開示される実施形態は、mIgA発現細胞の除去及び免疫系におけるIgA抗体の減少から利益を得ることができる対象の疾患を治療するための、本願明細書に開示される抗migis-α抗体及びその断片の使用を提供する。
【0019】
ある種の実施形態では、疾患は、IgAリンパ球(lymphoctyes)、IgA腎症(IgAN)、ヘノッホシェーンライン紫斑病(HSP)及びセリアック病からなる群より選択される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、マウスαイムノグロブリンのCH2及びCH3ドメイン、ヒト膜結合α鎖の膜アンカーペプチドのmigis-αセグメント並びに膜貫通ペプチドセグメントと取り替えたロイシンジッパーペプチドを構成するマウス/ヒトキメラ組換え体タンパク質を示す。このペプチドは、二量体を形成している。
【
図2】
図2は、様々なヒト膜結合α鎖又は他の構成要素を含む構築物及びヒトIgAと、抗IgA.Fc mAb(3C10)及び2つの抗migis-αmAb(8G7及び29C11)との反応性を示しているELISAを表すグラフである。
【
図3】
図3A-3Cは、ELISAの抗migis-αmAbのエピトープマッピングを示す。A)
図3Aは、migis-α
Lの合成ペプチドセグメントを示す。下線の配列は、IgAのCH3ドメイン由来である。B)
図3Bは、migis-α
Lの種々の部分と抗migis-αmAbとの結合反応性を示す。C)
図3Cは、migis-α
LのN末端部分の短いペプチドと抗migis-αmAbの結合反応性を示す。
【
図4】
図4A-4Bは、ELISAでの、mαへの結合性に関する8G7及び29C11の相対的親和性の測定結果を示す。A)
図4Aは、mα1.Fc
L-456S-LZタンパク質に対する8G7及び29C11の結合の強さを示す。A)
図4Bは、Fc
L-456S-LZタンパク質に対する結合における、200nMビオチン共役29C11と競合させての、8G7及び29C11の相対的能力を示す。
【
図5】
図5は、DAKIKI細胞及びmα1.Fc発現Ramos形質転換細胞上の抗migis-αmAbの染色プロファイルを示す。灰色のプロファイルは、同じIgGアイソタイプのネガティブコントロールmAbである。
【
図6】
図6は、8つの非mIgA発現細胞株との8G7 mAbとの反応性の欠如を示す。
【
図7】
図7は、MβCD処理有り無しのDAKIKI細胞に対する抗migis-αmAbの反応性を示す。
【
図8】
図8は、3C10及び8G7が2つのmα1.Fc発現Ramos形質転換細胞においてのアポトーシスを誘導することができる一方で29C11はそれを誘導しないことを示す結果を示している。
【
図9】
図9は、c29C11でなくc8G7が量依存的にADCCを有意に誘導することができることを示す結果を示している(N=4)。
【
図10】
図10A-10Bは、インビトロでの、22人のドナー由来の抗体処理ヒトPBMCのIgA及びIgMレベルの測定値を示す。A)
図10Aは、c8G7がヒトPBMCによってIgA生産を著しく且つ特異的に減少させることができることを示す。**は、p < 0.05。***は、p < 0.001。B)
図10Bは、c8G7処理グループでのIgAレベルがコントロール群におけるレベルの54%まで減少していることを示す。
【
図11】
図11A-11Bは、インビボでの、抗migis-α抗体で処理したmα1.Fc発現A20形質転換細胞の成長阻害の研究を示す。A)
図11Aは、2つのA20形質転換細胞上のmα1.Fc及びB細胞マーカーの表面発現レベルを示す。B)
図11Bは、腫瘍移植マウスに対する精製抗体の処理スケジュールを示す。
【
図12】
図12は、8G7 mAbの重鎖及び軽鎖の可変領域配列を示す。各鎖における3つの相補性決定領域(CDR)は、太字にて示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施形態の詳細な説明
膜結合IgA(mIgA)は、mIgA発現B細胞上のB細胞受容体(BCR)複合体として、Igα/Igβと関連する。mIgA(mα)のα鎖は、IgA(α)のα鎖と比較してC末端膜-アンカーペプチドを更に含み、細胞外、膜貫通及び細胞内セグメントを含む。mIgアイソタイプ特異的セグメント(migis-α)と称される細胞外セグメント又はmαの細胞外膜近位ドメインは、mαに特異的であり、抗体(米国特許第5,079,334号)によるmIgA発現B細胞のアイソタイプ特異的標的に適した特異的抗原性サイトであることが提案されてきたが、かかる抗体は、今まで作成されなかった。
【0022】
mIgA上のmigis-αに存在するエピトープがアクセス可能でないことを示すようであると報告されている。多くの抗migis-αmAbは、合成migisα含有ペプチド又は組換えタンパク質と非常に強くELISAプレートにおいて結合することができる。しかしながら、それらは、検出可能な程度ではB細胞上のmIgAに結合することができない。同定された29C11が検出可能な程度でB細胞上のmIgAに結合することができても、かかる結合は非常にギリギリである。先行技術からのこれらの結果は、B細胞上のmIgA上のmigis-α上の抗原性サイトがある種の固有立体配座に存在し、又は、ある種の近接する分子によって妨げられ、その結果、抗体がアクセス可能することができないことを示唆している[Hung et al., Mol. Immunol. 48(15-16): 1975-1982 (2011)]。
【0023】
本願において、我々は、合成migis-αペプチドが固有立体配座を示すことができないことから、その固有立体配座におけるmigis-αを認識する抗体を誘導することができないと、合理的に考えた。我々は更に、ヒトmαのmigis-αとCH3を有するタンパク質がmigis-αの固有立体配座を示すことができる一方で、かかるエピトープは免疫化プロセスの間にmIgAの近接CH3ドメインを認識する抗体によってブロックされ、migis-αエピトープに特異的な抗体受容体を有するBリンパ球は、migis-αエピトープに結合する機会が得られないことを合理的に考えた。この仮説に基づいて、我々は、かかる複雑な要因を取り除いた免疫原を設計する。具体的には、かかる免疫原は、マウス起源のCH3及びヒトmigis-αを含む。免疫化されたマウスにおいて、自己抗原であるCH3に結合する抗体は誘導されないことから、その固有立体配座のmigis-αがmigis-αに特異的な抗体受容体を保持しているB細胞によって認識することができる。この戦略を用いて、我々は、非常に優れた結合能力を有する、B細胞上のmIgAを認識することができるmigis-αmAbを生成した。我々は、migis-αmAbがmIgA発現B細胞に結合し、二次架橋抗体の存在下でアポトーシスによってそれらのB細胞の細胞溶解を引き起こすことができる一方で29C11はそのことができないことを示した。我々は、migis-αmAbがヒト末梢血単核細胞(PBMC)に対して細胞障害活性を引き起こし、インビトロでヒトPBMCのIgA生産を減少させることができることを更に示した。
【0024】
第一態様において、本願明細書に開示される実施形態は、Bリンパ球上のmIgAに結合することができ、それによって、mIgA発現Bリンパ球の溶解を引き起こしてIgA分泌Bリンパ球によるIgA生産を減少させる、ヒトmα鎖のmigis-αに特異的な単離された抗migis-α抗体又はその断片を提供する。
【0025】
ある実施形態において、本願明細書が開示する抗migis-α抗体又はその断片は、以下の相補性決定領域(CDR)を含む:
(a) CDR-H1は、配列番号:17の残基26-33、
(b) CDR-H2は、配列番号:17の残基51-57、
(c) CDR-H3は、配列番号:17の残基96-104、
(d) CDR-L1は、配列番号:18の残基27-32、
(e) CDR-L2は、配列番号:18の残基50-52、
(f)CDR-L3は、配列番号:18の残基89-97。
【0026】
ある実施形態において、抗migis-α抗体又はその断片は、配列番号:17に記載のVH及び配列番号:18に記載のVLを含む。
【0027】
「単離」は、その自然環境からのタンパク質の除去を意味する。しかしながら、タンパク質は、希釈液又はアジュバントを用いて調製してもよく、更に、実用的な目的で単離してもよいことを理解すべきである。例えば、疾患を治療するために用る場合、抗体は、一般的に、許容可能なキャリアと混合される。
【0028】
一般的に、イムノグロブリンは、重鎖及び軽鎖を有する。各重鎖及び軽鎖は、定常領域及び可変領域(それぞれ、VH及びVL)(この領域は、「ドメイン」としても知られている)を含む。軽鎖及び重鎖可変領域は、「相補性決定領域」又は「CDR」とも称される3つの超可変領域によって分けられる「フレームワーク」領域を含む。フレームワーク領域及びCDRの範囲は、定義されている。種々の軽鎖又は重鎖のフレームワーク領域の配列は、種の中で比較的保存されている。抗体のフレームワーク領域(即ち、軽鎖及び重鎖成分を組み合わせたフレームワーク領域)は、三次元空間にCDRを配置して整列させるのに役立つ。
【0029】
CDRは、主に抗原のエピトープへの結合の原因となる。各鎖のCDRは、一般的に、CDR1、CDR2及びCDR3と称され、N末端から番号が始まり、また、一般的に、特定のCDRが設置される鎖によって同定される。従って、VH CDR3は、それが見られる抗体の重鎖の可変ドメインに位置するが、VL CDR1は、それが見られる抗体の軽鎖の可変ドメイン由来のCDR1である。
【0030】
一実施形態として、抗migis-α抗体又はその断片は、キメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体である。
【0031】
一般的に、ヒト化抗体は、非ヒトを源とする1又は複数のアミノ酸残基を導入したものである。これらの非ヒトアミノ酸残基は、多くの場合、導入残基と称され、一般的に導入可変ドメインから得られる。ヒト化は、ジョーンズ外(Nature 321:522-525 (1986)); ライヒマン外(Nature 332:323-327 (1988)) ;又はバーホイエン外(Science 239:1534-1536 (1988))に記載の方法に従って、齧歯類CDR又はCDR配列を、対応するヒト抗体配列と置換することによって、基本的には実行することができる。従って、かかるヒト化抗体は、キメラ抗体(米国特許第4,816,567号)であり、実質的に完全ヒト可変ドメイン未満のものが、対応する非ヒト種由来配列によって置換されている。実際には、ヒト化抗体は、一般的に、いくつかのCDR残基及びいくつかのFR残基が齧歯類抗体の類似サイト由来の残基によって置換されたヒト抗体である。
【0032】
ある実施形態において、「ヒト抗体」とは、ヒトフレームワーク及び定常領域に加えてヒト超可変領域を含むイムノグロブリンを指す。かかる抗体は、従来技術において知られている様々な技術を使用して生産することができる。例えば、インビトロ方法は、バクテリオファージ(例えばMcCafferty et al, 1990, Nature 348:552-554; Hoogenboom & Winter, J. Mol. Biol. 227:381 (1991);及びMarks et al, J. Mol. Biol. 222:581 (1991))、酵母細胞(Boder and Wittrup, 1997, Nat Biotechnol 15:553-557)又はリボソーム(Hanes and Pluckthun, 1997, Proc Natl Acad Sci U S A 94:4937-4942)上にディスプレイしたヒト抗体フラグメントの組換えライブラリーの使用を伴う。同様に、ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン座をトランスジェニック動物(例えば、内因性免疫グロブリン遺伝子を部分的又は完全に不活性化されたマウス)に導入することによって作ることができる。抗原投与に応じて、ヒト抗体の産生が観察され、遺伝子再構成、アセンブリ及び抗体レパートリーを含むあらゆる点でヒトに見られるものとかなり類似している。このアプローチは、例えば、米国特許第6,150,584、5,545,807、5,545,806、5,569,825、5,625,126、5,633,425及び5,661,016号並びに以下の科学刊行物(例えば、Jakobavits, Drug Deliv Rev. 31 :33-42 (1998)、Marks et al, Bio/Technology 10:779-783 (1992); Lonberg et al, Nature 368:856-859 (1994); Morrison, Nature 368:812-13 (1994); Fishwild et al, Nature Biotechnology 14:845-51 (1996); Neuberger, Nature Biotechnology 14:826 (1996); Lonberg & Huszar, Intern. Rev. Immunol. 13:65-93 (1995)に記載されている。
【0033】
1つの特定の実施形態において、抗migis-α抗体は、MAb 8G7である。
【0034】
ある種の実施形態では、本願明細書に開示される抗体又はその断片は、上記抗migis-α抗体のF(ab)'
2、Fab、Fv又は単鎖Fv断片を含む又はそのものである。
【0035】
いくつかの実施形態において、「抗体断片」は、完全な抗体の一部、一般的に、完全な抗体の抗原結合又は可変領域を含む分子を意味する。抗体断片の例としては、Fab、Fab'、F(ab')
2及びFv断片、単一ドメイン抗体(例えば、Wesolowski, Med Microbiol Immunol. (2009) 198(3): 157-74; Saerens, et al., Curr Opin Pharmacol. (2008) 8(5):600-8; Harmsen and de Haard, Appl Microbiol Biotechnol. (2007) 77(1 ): 13-22を参照)、ヘリックス安定化抗体(例えば、Arndt et al., J Mol Biol 312:221 -228 (2001)を参照)、二重特異性抗体(以下を参照)、単鎖抗体分子(「scFv」、米国特許第5,888,773号を参照)、ジスルフィド安定化抗体(「dsFv」、米国特許番号5,747,654及び6,558,672を参照)、及びドメイン抗体(「dAb」、Holt et al., Trends Biotech 21(1 1):484-490 (2003), Ghahroudi et al., FEBS Lett. 414: 521 -526 (1997), Lauwereys et al., EMBO J 17:3512-3520 (1998), Reiter et al., J. Mol. Biol. 290:685-698 (1999), Davies and Riechmann, Biotechnology, 13:475-479 (2001)を参照)が挙げられる。
【0036】
第二態様において、本願明細書に開示される実施形態は、Bリンパ球上のmIgAに結合することができ、それによって、mIgA発現Bリンパ球の溶解を引き起こす又はIgA分泌Bリンパ球によるIgA生産を減少させる、ヒトmα鎖のmigis-αに特異的な抗migis-α抗体又はその断片及び医薬的に許容可能なキャリアを含む医薬組成物を提供する。
【0037】
「医薬的に許容可能な」という表現は、医薬及び獣医学技術において用いられる許容可能を意味する、即ち、容認できない毒性がないことを意味し、別の言い方では、不適当でないことを意味する。
【0038】
ある種の実施形態では、本願明細書に開示される医薬組成物は、mIgA発現細胞の除去又は免疫系のIgA抗体の減少から利益を得ることができる対象の疾患を治療するための医薬組成物である。
【0039】
ある種の実施形態では、上記疾患は、IgAリンパ球(lymphoctyes)、IgA腎症(IgAN)、ヘノッホシェーンライン紫斑病(HSP)及びセリアック病からなる群より選択される。
【0040】
本願明細書に開示される実施形態は、Bリンパ球上のmIgAに結合し、mIgA発現Bリンパ球の溶解を引き起こし、IgA分泌Bリンパ球によるIgA生産を減少させることができる、ヒトmα鎖のmigis-αに特異的な抗体又はその断片を対象に使用するステップを含む、インビトロ又はインビボで対象におけるmIgA発現Bリンパ球を溶解して、IgA生産を減少させる方法を提供する。
【0041】
本願明細書に開示される実施形態は、Bリンパ球上のmIgAに結合することができ、それによって、mIgA発現Bリンパ球を溶解し、対象の免疫系におけるIgA生産を減少させる、ヒトmα鎖のmigis-αに特異的な抗体又は断片を対象に投与するステップを含む、対象における疾患を治療する方法を提供する。
【0042】
ある種の実施形態では、上記疾患は、IgAリンパ球(lymphoctyes)、IgA腎症(IgAN)、ヘノッホシェーンライン紫斑病(HSP)及びセリアック病からなる群より選択される。
【0043】
第五の態様において、本願明細書に開示される実施形態は、mIgA発現細胞の除去及び免疫系におけるIgA抗体の減少から利益を得ることができる対象の疾患を治療するための、本願明細書に開示される抗migis-α抗体又はその断片の使用を提供する。
【0044】
ある種の実施形態では、疾患は、IgAリンパ球(lymphoctyes)、IgA腎症(IgAN)、ヘノッホシェーンライン紫斑病(HSP)及びセリアック病からなる群より選択される。
【0045】
ある種の実施形態では、本願明細書に開示される用語「対象」又は「患者」は、互いに置換可能に用いられる。
【0046】
ある種の実施形態において、「対象」又は「患者」という用語は、細胞(例えば、免疫細胞、Bリンパ球又はmIgA発現Bリンパ球)、動物(例えば、トリ、爬虫類及び哺乳動物)、好ましくは非霊長類(例えば、ラクダ、ロバ、シマウマ、ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラット及びマウス)を含む哺乳動物及び霊長類(例えば、サル、チンパンジー及びヒト)を指す。ある種の実施形態では、対象又は患者は、mIgA発現細胞の除去又は免疫系のIgA抗体の減少から利益を得ることができる。
【0047】
本発明を記載する文脈において(特に添付の請求項の文脈において)用語「a」及び「an」及び「the」並びに類似の表現の使用は、別途、本願明細書で明示されるか又は文脈によって明確に否定されない限り、単数及び複数をカバーするものとする。「含む」、「有する」、「備える」及び「具備する」という用語は、特に明記しない限り、制限のない用語(即ち、「含むが、これに限定されるものではない」ことを意味する)として解釈するものとする。本願明細書の値の範囲の記述は、特に本願明細書に明記しない限り、範囲内にある各独立した値を個々に指す短縮方法としての役割を単に目的とするだけであり、各独立した値は、あたかもそれが本願明細書に個々に詳述されるかのように、明細書に組み込まれている。本願明細書に記載されている全ての方法は、特に本願明細書に明記しない限り又は別途文脈によって明確に否定されない限り、任意の適切な順番において実行することができる。本願明細書に提供される例示的な言葉(例えば、「例えば」)又はすべての例の使用は、別途請求項に記載されない限り、本発明をより明確にするためだけのことを目的とし、本発明の範囲を制限するものではない。明細書の言葉は、請求項に記載されていない、本発明の実施にとって必須な任意の構成要素を明示するものとして解釈してはならない。
【0048】
本発明の好ましい実施形態は、本発明を実施する発明者に知られている最良の形態を含む本願明細書に記載されている。それらの好ましい実施形態のバリエーションは、前述の記述を読むと、即座に、当業者には明白になるだろう。本発明者らは、当業者がかかるバリエーションを適切に採用することを期待し、そして、本発明者らは、本願明細書に具体的に記載されているもの以外で実施される発明を意図している。従って、本発明は、適用法によって許容されるように、本願明細書に添付される請求項において詳述される主題の全ての変更形態及び等価形態を含む。さらに、その全ての可能性があるバリエーションにおける上記要素の任意の組み合わせは、特に本願明細書に明記しない限り又は別途、文脈によって明確に否定される限り、本発明に含まれる。
【0049】
以下の実施例は、実施形態を示するものであるが、当然、任意の方法でその範囲を制限するように解釈してはならない。
【実施例】
【0050】
実施例1
組換えmigisα含有タンパク質の構造及び発現
マウスを免疫化するためのマウス/ヒトキメラmigis-α
L含有タンパク質(配列番号: 1)を調製するために、ヒトIgA1.Fc部をマウスIgA.Fcと取り替え、膜貫通領域を親水性GCN4ロイシンジッパーと取り替えた(
図1)。このキメラタンパク質をエンコードしているDNA配列は、遺伝子合成(GeneArt)によって合成した。マウスカッパー鎖リーダーペプチド、ポリHisタグ及びリンカーペプチドをエンコードしている追加DNA配列は、配列の5'末端に組み込んだ。合成した配列は、pcDNA3.1ベクター(Invitrogen)にクローンした。キメラタンパク質は、FreeStyle
TM 293 Expression System(Invitrogen)を用いて発現させた。大規模な細胞トランスフェクションのために、20mlの無血清DMEMに希釈した1.2mgのプラスミドDNAを、20mlの9g/LのNaCl溶液に希釈した3.6mgの線状ポリエチレンイミン(Polysciences)と混合した。混合物を、10分間室温でインキュベートし、160mlの新鮮なFreeStyle
TM 293発現培地を含む培養フラスコに再懸濁した2X10
9のFreeStyle
TM 293F細胞にゆっくりと加えた。細胞を37℃で4時間振盪して、600mlの新鮮なFreeStyle
TM 293発現培地を更なる培養のためにフラスコに加えた。5日間の細胞生育の後、培地を遠心分離して、上清をProtino(登録商標)Ni-NTAアガロース(MACHEREY-NAGEL)を用いてタンパク質精製をした。精製手順は製造業者のマニュアルに従い、精製されたタンパク質はPBSに保存した。酵素結合抗体免疫吸着アッセイ(ELISA)スクリーニング及びハイブリドーマクローンの検査に用いられる組換えタンパク質を調製するために、ヒトmigisα含有タンパク質の様々なアイソフォーム及びアロフォームをエンコードしているDNA配列(それぞれ、mα1.Fc(配列番号:2)及びmα1.Fc
S-LZ(配列番号:3)、mα1.Fc
L-456S-LZ(配列番号:4)及びFc
L-456C-LZ(配列番号:5))は、PCRによって、ヒトPMBC又はIgA発現B細胞株であるDAKIKI細胞(ATCC)のmRNAから調整されたcDNAからクローンした。増幅されたDNA断片は、上述の改良pcDNA3.1ベクターに更に結合させた。これらの構築物のための細胞トランスフェクション、タンパク質発現及びタンパク質精製は、上記の通りに従った。
【0051】
実施例2
mIgA発現B細胞に有意に結合することができる新規の抗migis-αmAbの同定
50マイクログラムのキメラタンパク質を用いて、2週間の間隔を開けて4-5回皮下に各Balb/cマウスを免疫化した。細胞融合の3日前に、10マイクログラムのキメラタンパク質を各マウスに静脈内に注入した。免疫化されたマウスから単離した脾細胞を、ポリエチレングリコール1500(Roche)を用いて、マウスミエローマ細胞FOと融和させた。融合処置の後、細胞を10-12日間HAT選択培地にて生育させ、培養した培地をELISAスクリーニング(詳細は次の章)のために移した。組換えタンパク質mα1.Fc
L-456S-LZ及びmα1.Fcを、それぞれ、陽性抗原及び陰性抗原として扱った。mα1.Fc
L-LZと反応するがmα1.Fcと反応しない抗体を生産するハイブリドーマクローンを、ELISAの西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)-共役ヤギ抗マウスIgG.Fc抗体(Jackson ImmunoResearch)を使用して、候補として同定した。mIgA発現B細胞に対するハイブリドーマ候補の結合を更に試験するために、2×10
5のDAKIKI細胞を、30分間氷上で、100μlの培養した培地と共にインキュベートした。細胞を、染色緩衝液[2%のウシ胎児血清(FBS、インビトロゲン)及び0.05%のアジ化ナトリウムを有するPBS]で洗浄して、30分間氷上で、FITC標識ラビットF(ab)'
2抗マウスIgG抗体(AbD Serotech)を1:400で染色緩衝液にて希釈したものと共にインキュベートした。洗浄後、細胞を200μlの染色緩衝液にて再懸濁して、フローサイトメトリー解析を行った。この例では、DAKIKI細胞に有意に結合することができる新規の抗migis-αハイブリドーマ8G7を同定した。ハイブリドーマサブクローンを、細胞クローニング手順によって更に取得して特徴づけた。
【0052】
実施例3
抗migis-αmAbの結合反応性及び相対的結合親和性の検査
抗migis-αmAb 8G7(Igγ2b、κ)及び29C11(Igγ1、κ)を、プロテインAセファロースCL-4B培地(GE Healthcare)を用いて、ハイブリドーマ培養培地から精製した。精製されたmAbを、1mg/mlの濃度で、PBS中に保存した。マウス抗ヒトIgA1.Fc mAb 3C10(Igγ1、Abcam)及びマウス総IgG(Sigma-Aldrich)を、ポジティブコントロール及びネガティブコントロールとしてそれぞれ使用した。様々なmigisα含有組換えタンパク質及びいくつかの無関係なタンパク質をELISAにおいて試験した。タンパク質を、4℃で一晩、0.05Mの炭酸塩/重炭酸塩緩衝液中で、ELISAプレートに1μg/mlでコートした。プレートを、PBST(0.05%のTween(登録商標)20を有するPBS)で洗浄して、室温で1時間、PBS/BSA(1%のBSAを有するPBS)を用いてブロックした。PBSTでの洗浄の後、PBS/BSA中で1μg/mlのmAbを、プレートに加えて、室温で1時間インキュベートした。プレートをPBSTで洗浄して、HRP共役ヤギ抗マウスIgG.Fc抗体を1:10,000にPBS/BSAで希釈したものをプレートに加えた。室温で1時間のインキュベーション及びPBSTでの洗浄の後、テトラメチルベンジジン基質(Clinical Scientific Products)を、比色測定のためにプレートに加えた。
図2は、8G7がmigis-αセグメントと特異的に反応することを示している。
【0053】
合成migis-α
Lポリペプチドを更に用いて、ELISAによって抗migis-αmAbの結合エピトープを研究した。ポリペプチドmαFL(配列番号:9)、mαFa(配列番号:10)、mαFb(配列番号:11)及びmαFc(配列番号:12)は、migis-α
L配列の完全長、N末端部分、中間部分及びC末端部分を表す断片である(
図3A)。ポリペプチドmαF1-2(配列番号:13)、mαF1-3(配列番号:14)、mαF2(配列番号:15)及びmαF2-1(配列番号:16)は、抗migis-αmAbの結合活性に関するより短い配列を試験するように設計した。10μg/mlのポリペプチドを、反応のためにマイクロウェルプレートにコートして、ELISA法を上述の通り進めた。
図3B-Cは、8G7がmigis-α
L配列のN末端部分と反応するが、N末端ポリペプチドの短い断片とは反応しない結果を示している。対照的に、29C11は、migis-α
L配列のN末端及び中間部分に結合することができ且つN末端ポリペプチドの短い断片にも反応することができる(
図3B-C)。
【0054】
抗migis-αmAbの相対的結合親和性を決定するために、一連のmAb希釈物を用いてmα1.Fc
L-456S-LZタンパク質と反応させて、ELISAによって結果を定量化した。結合曲線は、ソフトウェアPrism(登録商標)(GraphPad)によって分析した。算出に使用した方程式を以下に示す。
Y = B
max * X / (Kd + X)
【0055】
B
maxは、Yと同じユニットの最大結合量である。Kdは、平衡状態で半分の抗原に結合する抗体濃度に相当する平衡結合定数である。半分の最大結合量に達する8G7の濃度は、29C11よりも約6倍低い(
図4A)。
【0056】
競合ELISAも実行して、mα1.Fc
L-456S-LZタンパク質に対するビオチン標識29C11の結合を阻害する8G7及び29C11の能力を決定した。29C11に対するビオチンの標識化は、EZ-リンクスルホ-NHS-ビオチン及びビオチン化キット(Thermo Scientific)を用いて実施し、手順は、マニュアルに従って進めた。ELISAにおいて、mα1.Fc
L-456S-LZタンパク質をプレートに1μg/mlでコートして、その後PBS/BSAによってブロックした。最初の濃度が500nMの8G7及び29C11の連続4倍希釈物を、それぞれ、200nMビオチン化29C11と共に予備混合して、室温で20分間インキュベートした。次に混合物をプレートに移して、室温で2時間インキュベートした。洗浄の後、HRP共役アビジン(Sigma-Aldrich)を1:100,000にPBS/BSAで希釈したものをプレートに加えて、30分間インキュベートした。広範囲な洗浄の後、TMB基質を比色測定のために加えた。ELISAの結果を、ソフトウェアPrism(登録商標)によって分析した。両方のmAbの阻害濃度の値(IC50)を以下に示す方程式によって算出した。
Y=Bottom + (Top-Bottom) / (1+10
(X-LogIC50))
【0057】
Top及びBottomは、Y軸のユニットにおいてプラトーである。IC50は、BottomとTopとの中間の結合になる競争物質の濃度である。8G7は、29C11よりも効率的にmigis-αに対する結合が、ビオチン化29C11と競合できることを
図4Bは示している。この実施例の結果は、8G7の親和性が29C11よりも高いことを証明している。
【0058】
実施例4
mIgA発現B細胞に対する抗migis-αmAbのフローサイトメトリー解析
ハイブリドーマスクリーニングにおいて使用するDAKIKI細胞は、mα1鎖の長い及び短いアイソフォームを発現するものであり、定量的に精製されたmAbによって検討した。個々のmα1アイソフォームに対する結合を更に試験するために、mα1.Fc
L-456C(配列番号:6)又はmα1.Fc
S(配列番号:7)を安定して発現しているヒトB細胞株Ramos(IgM
+ Bリンパ球、ATCC)(それぞれ、Ramos/mα1.Fc
L-456C及びRamos/mα1.Fc
Sと称する)を作成した。手短に言えば、5×10
6のRamos細胞を、15μgの構成DNAを含む300μlの無血清RPMI 1640培地(Invitrogen)に再懸濁して、その後、Gene Pulser Xcell Electroporation Systems(BioRad)によって230V/950μFでショックを与えた。直ちに、細胞を、完全RPMI培地(10%のFBS及びペニシリン/ストレプトマイシンを加えたRPMI)に移した。2日間の生育の後、細胞を、安定した形質導入体を選択するために、1mg/mlのG418(Merck)を加えた完全RPMI培地に移した。mα1.Fc
L-456C及びmα1.Fc
Sを発現している安定細胞クローンを、それぞれ、FITC標識ヤギ抗ヒトIgA抗体を用いたフローサイトメトリー解析によって採集し、0.5mg/mlのG418を加えた完全RPMI培地に維持した。
【0059】
実施例でのフローサイトメトリー解析のために、3C10を、mIgA発現を検出するポジティブコントロールとして使用し、マウス抗ヒトmIgE mAb 4B12(Igγ1、κ)を、ネガティブコントロールとして用いた。細胞染色を実行するために、10
6の細胞を洗浄して、氷上で30分間、100μlの染色緩衝液中でmAbと共にインキュベートした。その後、細胞を、染色緩衝液を用いて洗浄し、氷上で30分間、FITC標識ラビットF(ab)'
2抗マウスIgG抗体(Invitrogen)を1:400に100μlの染色緩衝液で希釈したものと共にインキュベートした。洗浄後、細胞を、400μlの染色緩衝液に再懸濁して、FACSCanto II(BD Biosciences)のフローサイトメトリー解析を行った。
図5は、8G7が量依存的にDAKIKI細胞及びRamos形質転換細胞に結合し、濃縮29C11では細胞に十分結合しない高濃度(10μg/ml)では蛍光強度が著しく増加することを示している。低濃度(1μg/ml)では、これらの3つのmIgA発現B細胞に対する29C11の染色シグナルは、検出不可能である。DAKIKIに対する8G7の平均蛍光強度(MFI)の増加{(MFI [high concentration] - MFI [background]) - (MFI [low concentration] - MFI [background])}は、29C11よりも12.51倍高い。低濃度(1μg/ml)では、バックグラウンドより上の、Ramos/mα1.Fc
L-456S及びRamos/mα1.Fc
Sそれぞれに対する8G7のMFI{(MFI
8G7 - MFI
background) / (MFI
29C11 - MFI
background)}は、2911よりも13.49及び10.37倍高い。
【0060】
いくつかの非mIgA発現細胞株(Ramos、Daudi(IgM
+ Bリンパ球、ATCC)、IM-9(IgG
+ Bリンパ球、ATCC)、U266(IgE
+ Bリンパ球、ATCC)、H929(IgA
+ Bリンパ球、ATCC)、CCRF-CEM(Tリンパ球、ATCC)、KU812(好塩基球、ATCC)及びU-937(単核細胞、ATCC))は、8G7によって反応性を検討した(
図6)。8G7がこれらの細胞株上の表面分子に反応性を示さない結果が示された。
【0061】
B細胞表面上のIgα/Igβヘテロ二量体に関連するmIgAが脂質ラフトと相互作用することができるB細胞受容体複合体を形成するため、migis-αセグメントのいくつかは、複合体内で埋まっている可能性がある。B細胞上のmIgAに反応する抗migis-αmAbの障害を検討するために、コレステロール抽出化学メチル-β-シクロデキストリン(MβCD、Sigma-Aldrich)を用いてmIgA受容体複合体の完全性を破壊した。予熱されたRPMI培地によって二回洗浄されたDAKIKI細胞を、RPMI培地中の10mMのMβCDに再懸濁し(5×10
6細胞/ml)、37℃で30分間、時々振動させながらインキュベートした。その後、細胞を染色緩衝液で二回洗浄して、フローサイトメトリー解析のための細胞染色を行った。10μg/mlのmAbを染色のために使用し、希釈されたFITC標識ラビットF(ab)'
2抗マウスIgG抗体を1:400に希釈したものを検出のために使用した。MβCD処理後、29C11は、DAKIKI細胞への結合のシグナルが増加したことを示す一方で、3C10の蛍光強度は10倍超減少した(
図7)。同じ抗体において、濃縮8G7が3C10及び29C11よりもMβCD処理DAKIKI細胞に結合することができる。この実施例の結果は、8G7がB細胞表面上のそのネイティブ形態のmIgAに結合ができ、脂質ラフトが破壊されると29C11がmIgAに結合することを示している。
【0062】
実施例5
mIgA発現B形質転換細胞の抗migis-αmAb 8G7によるアポトーシスの誘導
mIgA受容体複合体の架橋がアポトーシスシグナルを誘導することができるか否かを試験するために、Ramos形質転換細胞、Ramos/mα1.Fc
L-456C及びRamos/mα1.Fc
Sを、それぞれ、抗体処理のために用いた。96ウエルプレートにおいて、10
5の細胞を、条件ごとに3通り、200μlの完全RPMI1640培地に播種した。一連のmAb希釈物をウェルに加えて、37℃で1時間インキュベートした。架橋のために使用するヤギF(ab')2抗マウスIgG(Jackson ImmunoResearch)を10μg/mlの終濃度でウェルに加え、細胞を37℃で24時間培養した。次に、処理細胞を、5mlのポリスチレンチューブに移して、PBSで二回洗浄した。アポトーシスを検出するために、細胞を、2μgのヨウ化プロピジウム(PI、シグマアルドリッチ)及びの1μlのアネキシンV-FITC(Biovision)を含む100μlの結合緩衝液[10mMのHepes/NaOH(pH 7.4)、140mMのNaCl、2.5mMのCaCl
2]で染色した。室温で20分間のインキュベーションの後、400μlの結合緩衝液をチューブに加えて、その後、細胞をフローサイトメトリー解析した。アポトーシス細胞は、アネキシンV
+/PI
-とアネキシンV
+/PI
+とで規定する。
図8は、それぞれ、最大濃度(1.5μg/ml)の3C10及び8G7がRamos/mα1.Fc
L-456Cにおいて73.67%及び66.68%のアポトーシスを誘導することを示している。同じ濃度において、3C10及び8G7は、それぞれ、Ramos/mα1.Fc
S細胞において89.70%及び49.45%のアポトーシスを誘導することができる(
図8)。この濃度範囲の中で、29C11は、マウスIgGコントロールの結果と比較して、これらの2つのRamos形質転換細胞においていかなる有意なアポトーシス効果も誘導しない。これらの2つの形質転換細胞とのアポトーシス誘導効率を比較して、8G7は、Ramos/ma1.Fc
SによりもRamos/mα1.Fc
L-456Cに強いアポトーシスを誘導する。
【0063】
実施例6
マウス/ヒトキメラ抗migis-αmAb c8G7によるヒトPBMCの抗体依存性細胞障害(ADCC)の誘発
ADCCは、抗体でコートされた標的細胞を破壊する、Fcγ受容体提示エフェクター細胞(例えばナチュラルキラー(NK)細胞及びマクロファージ)を補充する抗体の有効機構の1つである。この例では、2つのヒトmIgA1形質転換細胞(それぞれ、Ramos/mα1.Fc
L-456C及びRamos/mα1.Fc
S)を標的細胞として使用し、血液バンク(台北、台湾)から得た白血球濃縮物から単離したヒトPBMCをエフェクター細胞として用いた。ヒト血液サンプルの操作は、Biomedical Science ResearchのInstitutional Research Board(アカデミアシニカ、台湾)の承認中であった。マウス/ヒトキメラmAbは、遺伝子工学によって、マウスγ及びκ定常領域をそれぞれのヒト相当物(γ1及びκ)に置き換えることによって作成し、をFreeStyle
TM 293Expression Systemにて発現させた。キメラの8G7及び29C11は、それぞれ、c8G7及びc29C11を指す。gp120タンパク質と反応するマウス/ヒトキメラmAb cBAT123を、実験のネガティブコントロールとして使用した。
【0064】
PBMCを調製するために、白血球濃縮物(50ml)を、50mlのハンクス液(HBSS、Invitrogen)と混合して、20mlの希釈濃縮物を、50mlカノニカルチューブ中の15mlのフィコール-Hypaque Plus溶液(GE healthcare)上に慎重にロードした。100mlの総希釈濃縮物に関する4つのチューブを、300xgで40分間、遠心分離して、濃縮物中の残留赤血球からPBMCを分画した。PBMC層を回収し、50mlのHBSSで3回洗浄した。PBMCの数はトリパンブルー除去法によって算出し、必要な細胞数を有するPBMCを後の使用のために5×10
6細胞/mlで完全RPMI培地に再懸濁した。残留PBMCは、液体窒素で、10%のジメチルスルホキシドを有するFBS中に保存した。エフェクター細胞として保存されたPBMCを使用するために、PBMCを解凍して、ADCCアッセイを実行する前に、24時間、完全RPMI培地で培養した。
【0065】
カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE、Invitrogen)を用いて標的細胞に標識するために、1×10
6の形質転換細胞を、暖かい10mlの0.1%BSA/PBSによって1回洗浄し、1μMのCFSEを有する暖かい1mlの0.1%BSA/PBSに再懸濁して、次に、37℃で10分間、インキュベートした。氷冷完全RPMI培地(3ml)を、標識細胞に加えて、氷上で5分間インキュベートした。次に、細胞を遠心沈殿させて培地を除去し、1mlの氷冷完全RPMI培地によって二回洗浄した。次に、標識化細胞を、次のアッセイのために、2×10
5細胞/mlで、暖かい完全RPMI培地に再懸濁した。ADCC活性を試験するために、2x10
4の標識化標的細胞(100μl)を底部が円形の96ウェル培養プレートの各ウェルに移した。種々の濃度を有するキメラ抗体(5μl)をウェルに加え、37℃で30分間インキュベートし、5×10
5のPBMC(100μl)と混合した。次に、細胞混合物を37℃で16-20時間培養した。この例では、4人のドナーのPBMCを個々に試験して、各抗体濃縮物に関する実験を3回行った。細胞にFACSCanto IIのフローサイトメトリー解析を行なう前に、0.25μgの7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD)を各ウェルに加えて、室温で15分間インキュベートした。生標的細胞は、CFSE
+/7-AAD
-として規定した。標的細胞溶解のパーセント(ADCCの%)は、以下の方程式で算出した。
標的細胞溶解の% = {([生標的細胞の%]
mAb無処理 = [生標的細胞の%]
mAb処理)/[生標的細胞の%]
mAb無処理}* 100
【0066】
図9は、リツキサン及びc8G7が量依存的ADCCをこれらの2つの標的細胞に表す結果を示している。10μg/mlの濃度のc8G7は、Ramos/mα1.Fc
L-456C及びRamos/mα1.Fc
Sにそれぞれ、25.23%及び28.30%のADCCを誘導する(
図9)。同じ濃度で、リツキサンは、Ramos/mα1.Fc
L-456C及びRamos/mα1.Fc
Sにそれぞれ、58.16%及び65.40%の細胞溶解を誘導する。この実施例で試験された抗体濃度の範囲内で、有意なADCCは、c29C11グループにおいて観察することができない。
【0067】
実施例7
インビトロでのマウス/ヒトキメラ抗migis-αmAb c8G7で処理したヒトPBMCによるIgA生産の減少
22人の健常なドナー由来のPBMCを、以前の実施例に記載されている手順によって作成した。細胞を、2 x 10
6/mlの濃度で、完全IMDM(Invitrogen)に再懸濁し、200μlの細胞を、96ウェル培養プレートの各ウェルに移した。次に、抗体を、5μg/mlの終濃度でウェルに加えた。培養の5日後に、細胞を400x gで5分間遠心沈殿させ、上清(ウェルごと150μl)を等量の1%BSA/PBSと混合した。IgA及びIgMレベルを、それぞれ、ヒトIgA及びIgM ELISAキット(Bethyl Laboratories, Inc)を用いて数量化して、添付マニュアルに記載されている手順に従った。この例では、ヒト膜結合IgEと特異的に反応したマウス/ヒトキメラ抗体4B12をコントロールmAbとして使用し、各抗体処理グループに関する実験は、3回繰り返した。測定値間のデータ相関は、対応のあるサンプルt検定によって算出した。
【0068】
図10Aは、コントロール群と比較することによって、IgAレベルがc8G7及びリツキサン処理グループにおいて高い統計的有意差で減少するという結果を示している。この処理濃度でのc29C11は、IgA生産を減らすことができない(
図10A)。c29C11及びc8G7処理群におけるIgMレベルは、コントロール群よりもわずかに低いが、それらの各々とコントロール群との間に統計的有意差は観察されない(
図10A)。対照的に、リツキサンは、IgMの生産を効率的に阻害することができる(
図10A)。
図10Bは、コントロール群に対する各グループのIgA及びIgMレベルのパーセントを示す。この処理条件において、c8G7及びリツキサンは、それぞれ、コントロール群のIgAレベルの50%及び20%を減少させる(
図10B)。リツキサンだけは、統計的有意差をもって、コントロール群の40%までIgMレベルを減らすことができる(
図10B)。
【0069】
実施例8
抗migis-αmAb 8G7で処理されたマウスに移植されたmIgA発現B形質転換細胞の成長阻害
mα1.Fc
L-456S(配列番号:8)又はmα1.Fc
S(配列番号:7)(それぞれ、A20/mα1.Fc
L-456S及びA20/mα1.Fc
Sと称する)を安定して発現しているマウスB細胞株A20(IgG
+ Bリンパ球、ATCC)は、以前の実施例でのRamos形質転換細胞を作成するのと同じように、細胞エレクトロポレーション及び薬物選択手順によって作成した。mα1.Fc
L-456S及びmα1.Fc
Sを発現する安定細胞クローンを、それぞれ、FITC標識ヤギ抗ヒトIgA抗体を用いてフローサイトメトリー分析によって採集し(
図11A)、0.5mg/mlのG418を含む完全RPMI培地に維持した。2つの形質転換細胞のマウスB細胞マーカーCD19、CD45R及びCD79bは、それぞれ、FITC標識ラット抗マウスCD19、PE標識ラット抗マウスCD45R及びFITC標識ハムスター抗マウスCD79(BD Biosciences)を用いたフローサイトメトリーアッセイによっても検討した(
図11A)。
【0070】
抗体で処理されたA20形質転換細胞の成長阻害をインビボで試験するために、細胞を、ハンクス液(HBSS、Invitrogen)によって二回洗浄して、1×10
8細胞/mlで、HBSSに再懸濁した。次に、細胞を、比率1:1でGeltrex
TM LDEV-Free Reduced Growth Factor Basement Membrane Matrix(Invitrogen)と混合して、22ゲージニードルを取り付けたシリンジに慎重に移した。細胞混合物(5x 10
6細胞/100μl/サイト)を、(National Laboratory Animal Center、台湾)の6-8週間、C.B-17 scidマウスの腹部フランクに皮下で接種した。移植の後(0日目)、マウスは、日1、4、7、10、14及び21上の尾静脈を介して、静脈内に5mg/kgの用量で、生成した29C11又は8G7を精製した(
図11B)。精製されたマウス血清IgG(Sigma-Aldrich)を、コントロール群のために用いた。5匹の腫瘍接種マウスを、各抗体グループのために試験した。腫瘍サイズをノギスによって毎週測定して、容量を、化学式:1/2 x 縦 x 横
2を用いて算出した。腫瘍が3000mm
3の容量に到達すると、マウスを殺した。
【0071】
配列表
【手続補正書】
【提出日】2016年7月29日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bリンパ球上のmIgAに結合することができ、それによって、mIgA発現Bリンパ球の溶解を引き起こす、及び/又は、IgA分泌Bリンパ球によるIgA生産を減少させる、ヒトmα鎖のmigis-αに特異的な抗migis-α抗体又はその断片であって、
前記抗migis-α抗体又は断片は、以下の相補性決定領域(CDR)であって、
CDR-H1は、配列番号:17の残基26-33である、
CDR-H2は、配列番号:17の残基51-57である、
CDR-H3は、配列番号:17の残基96-104である、
CDR-L1は、配列番号:18の残基27-32である、
CDR-L2は、配列番号:18の残基50-52である、
CDR-L3は、配列番号:18の残基89-97である、CDRを有する、ヒトmα鎖のmigis-αに特異的な抗migis-α抗体又はその断片。
【請求項2】
F(ab)'2、Fab、Fv、又は、抗migis-α抗体の単鎖Fv断片を含むかそのものである、請求項1に記載の抗migis-α抗体又はその断片。
【請求項3】
前記抗migis-α抗体又は前記断片は、配列番号:17に記載のVH及び配列番号:18に記載のVLを含む、請求項1に記載の抗migis-α抗体又はその断片。
【請求項4】
前記抗migis-α抗体は、mAb 8G7である、請求項1に記載の抗migis-α抗体又はその断片。
【請求項5】
前記抗migis-α抗体又は前記断片は、キメラ抗体、ヒト化抗体、若しくはヒト抗体又はその断片である、請求項1に記載の抗migis-α抗体又はその断片。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の抗migis-α抗体又はその断片及び医薬的に許容可能なキャリアを含む医薬組成物。
【請求項7】
前記医薬組成物は、mIgA発現細胞の除去又は免疫系のIgA抗体の減少から利益を得ることができる対象における疾患を治療するために使われる、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記疾患は、IgAリンパ球(lymphoctyes)、IgA腎症(IgAN)、ヘノッホシェーンライン紫斑病(HSP)及びセリアック病からなる群より選択される、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
請求項1から6のいずれかに記載の抗体又はその断片をサンプルに使用し、それによって、mIgA発現Bリンパ球の溶解を引き起こし、IgA分泌Bリンパ球によるIgA生産を減少させるステップを含む、インビトロでサンプルにおけるmIgA発現Bリンパ球を溶解して、IgA生産を減少させる方法。
【請求項10】
mIgA発現細胞の除去及び免疫系におけるIgA抗体の減少から利益を得ることができる対象の疾患を治療する医薬の製造のための、請求項1から6のいずれかに記載の抗migis-α抗体及びその断片の使用。
【請求項11】
前記疾患は、IgAリンパ球(lymphoctyes)、IgA腎症(IgAN)、ヘノッホシェーンライン紫斑病(HSP)及びセリアック病からなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
【国際調査報告】