【実施例】
【0150】
[実施例1] トリパノソーマ・ブルセイ(T. brucei)に対するPRM-S、PRM-A、PRM-FS及びFA1-単糖(mono sugar)のin vitro活性
表1に示したように、in vitroにおいて、非ペプチド性CBAs, PRM-A 及び-PRM-S(
図1)は、トリパノソーマ・ブルセイ・ブルセイ(Trypanosoma brucei brucei)に対して、低マイクロモルの範囲で活性を示した。
【0151】
【表1】
【0152】
[実施例2]トリパノソーマ・ブルセイ(T. brucei)に対するPRM-Sのin vivo 活性
PRM-Sのトリパノソーマに対する作用を立証するため、T. b. brucei 427又はT. b. rhodesiense EATR03株を、C57BL/6J又はBALB/cマウスに感染させた。そして、PRM-Sを一日当たり一回投与で4日間治療する前に、3日間この感染を継続させた。
【0153】
T. b. bruceiに感染させたC57BL/6Jマウスの場合、未処理マウスは感染後6日〜7日の間に死亡した。その際、血中の寄生虫は約1×10
9cell/mLに達しており、平均生存期間(MSD)は、6.25±0.5日であった(
図2A)。対照的に、感染後3日目にPRM-S投与を開始したところ、血中の寄生虫は約1×10
7cell/mLに達し、50mg/kgの最初の投与後、又は25mg/kgの3回目の投与後に、寄生虫濃度は高かったものの、劇的に血中の寄生虫が減少した。しかし、25mg/kgで処理したマウスでは寄生虫血症が再発し、平均再発期間(MRD)は10.7±0.6日であった。25mg/kg又は50mg/kg用量のMSDは、それぞれ18.0±7日又は>90日であった(表2及び
図2A)。
【0154】
一方、T. b. rhodesienseに感染させた未処理のBALB/cマウスは、感染後6〜10日間で死亡し、MSDは7.5±1.7であったが、25mg/kg又は50mg/kgのPRM-Sで処理した動物のMSDは、それぞれ44.4±41.7日及び>90日であった(表2及び
図2B)。いずれの用量でも、PRM-Sの最初の投与後に寄生虫は劇的に減少し、25mg/kgの場合、試験した5匹中3匹のマウスにおいてその後観察した結果、MRDは10.7±0.8を示した(表2)。
【0155】
【表2】
【0156】
[実施例3] リューシュマニア・ドノバニ(L. donovani)及びトリパノソーマ・クルジ(T. cruzi)に対するPRM-S及びPRM-Aのin vivo活性
表3及び4から分かるように、in vitroで培養した異なるステージにあるトリパノソーマ・クルジ(T. cruzi)及びリューシュマニア・ドノバニ(L. donovani)に対して、非ペプチド性炭水化物結合剤である、PRM-S及びPRM-Aは活性を示した。プラディミシンS及びプラディミシンAは、ヒト宿主中に存在し細胞内段階にある寄生生物のリューシュマニア・ドノバニの無鞭毛型に対し、低マイクロモル濃度で有効であり、また、リューシュマニア・ドノバニの前鞭毛型に対しても有効であった。マクロファージに毒性を示さないことが観察された(EC
50>100μM)。加えて、両方の誘導体は、宿主の哺乳動物の細胞に侵入する感染段階にある、トリパノソーマ・クルジの錐鞭毛型に対して、低マイクロモル濃度で溶菌を誘導した(表4)。
【0157】
【表3】
【0158】
【表4】
【0159】
【表5】
【0160】
[実施例4]材料と方法
[寄生虫の培養]
T7 RNAポリメラーゼとテトラサイクリンリプレッサーを有するTrypanosoma brucei bruceiの単一マーカー血流型株(BSF)427(抗原型1.2、MlTat 1.2、クローン221a)(Wirtz et al 1999)及びTrypanosoma brucei rhodesiense EATR03 ETat1.2 TREU164 (Turner et ai., 2004)を研究に使用した。血流型は、10%(v/v)又は20%(v/v)のウシ胎児血清を添加したHMI-9培地中で、37℃にて5%CO
2下で培養した。非ペプチド性CBAsである、プラディミシンA(アクチノマデュラ・ヒビスカ(Actinomadura hibisca)由来のPRM-A)(Oki er al., 1988)及びプラディミシンS(アクチノマデュラ・スピノサ(Adinomadura spinose)A A08 51株由来のPRM-S)(Saitoh et a/., 1993)を寄生虫の増殖抑阻害試験に使用した。
【0161】
[In vivoの検討]
メスのC57BL/6又は BALB/cマウス(Jackson Laboratories社, Bar Harbor, ME)を3匹から6匹(6〜8週齢)のグループに分け、5×10
3(T. b. brucei 427株)又は1×10
4(T.b rhodesiense EATR03)のトリパノソーマ株を、それぞれ腹腔内投与して感染させた。0.5%(w/v)のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、0.4%(v/v)のTween80、及び0.5%(v/v)のベンジルアルコールを剤形処方として使用し、異なる用量(25mg/kg及び50mg/kg)のPRM-Sを、感染後3日目から4日間、一日一回腹腔内に200μL投与した。いずれの場合でも、1つのグループは、対照群としてベシクルで処理した。感染3日目から毎日、尾から血液を採取し、顕微鏡下で、血球計算盤を用いて寄生虫をモニターした。
【0162】
[リューシュマニア・ドノバニに対するin vivo活性]
プラディミシンA(PRM-A)及びプラディミシンS(PRM-S)の、前鞭毛型及び無鞭毛型のL donovani MHOM/ET/67/HU3に対する活性を調べた。
前鞭毛型の場合には、20%FBS、2mMのL-グルタミン、100U/mLのペニシリン及び100μg/mLのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地中で、0.391μg/mLから50μg/mLの間の異なる薬剤の濃度で、2.5×10
4の寄生虫を24ウェルプレート(1ml)中で48時間培養した。Z1コールターカウンターを用いて細胞数をカウントし、その増殖を測定した。EC
50値は、非線形回帰分析により算出した。
【0163】
無鞭毛型に対する活性を定量するために、10%HIFBS、2mM のL-グルタミン、100U/mLのペニシリン及び100μg/mLのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地を用いて、24ウェルの組織培養チャンバースライドに、1×10
5のマウス腹腔内マクロファージを播種した。各化合物を加え、マクロファージと寄生虫との比率が1:10になるように後期段階の前鞭毛型に細胞を感染させた。
【0164】
35℃、5%CO
2で感染させた8時間後に、無血清培地を用いて、細胞外の寄生虫を洗浄して除去し、感染したマクロファージ培養物を、異なる濃度のCBAと共に10%のHIFBSを含むRPMI1640培地中で、35℃、5%CO
2で72時間培養した。その後、2.5%のp-ホルムアルデヒドを含むPBSを用いてマクロファージを4℃で30分間固定し、0.1% Triton-100を含むPBSを用いて30分間透過処理した。細胞内寄生虫を検出するために、DAPIを加えたGold 褪色防止封入剤とともにインキュベートした。薬剤の活性は、未処理培養物に対する薬剤処理培養物中の、感染細胞の%と細胞当たりの無鞭毛型の数値から求めた。
【0165】
[リューシュマニア・ドノバニに対するin vitro活性]
プラディミシンA(PRM-A)とプラディミシンS(PRM-S)の、トリパノソーマ・クルジに対する活性を、上鞭毛型及び錘鞭毛型のT. cruzi Tulahuen C4株で評価した。
上鞭毛型の場合、2×10
5の寄生虫を、96ウェルプレートに播種し(100μL)、10%のウシ胎児血清を含むリバーインフージョントリプソーム(LIT)培地中、0.0625μg/mLから100μg/mLの間の異なる薬剤濃度で、28℃で3日間インキュベートした。
【0166】
錘鞭毛型の場合、1×10
5の寄生虫を、96ウェルプレートに播種し(100μL)、10%のFBS、2mMのL-グルタミン、100U/mLのペニシリン及び100μg/mLのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地中、0.006μg/mLから12.5μg/mLの間の異なる薬剤濃度で、37℃、5%CO
2で48時間インキュベートした。10μLのレザズリン(0.11mg/mL、PBS中)を添加する工程と、培養2時間後に、Spectramax Gemini EM microplate fluorometer (Molecular Devices Cooperation, Sunnyvale, CA, USA)を用いて、570/590nmの励起/蛍光波長を測定することで、上鞭毛型の細胞生存率と、錘鞭毛型の溶解%を計測した。EC
50又は50%溶解値は、細胞増殖率の最大半量を阻害するのに必要な薬剤濃度、又は最大半量を溶解するのに必要な薬剤濃度として定義し、非線形回帰分析によって算出した。
【0167】
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