【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、グラム陰性菌内に同化され、その外膜のLPS中に取り込まれ得る改良された単糖化合物であって、当該カテゴリーの細菌に対する取り込みの特異性、及び/又は、菌体内へのより優れた浸透能、及び/又は、その化学合成がより容易であることに関して有利な性質を示す改良された単糖化合物を見出すことを目的とする。
【0012】
本発明によれば、工程a)において、上記第1の反応性基により修飾された単糖化合物を用いることができ、この単糖化合物は、上記細菌の外膜のグリカンの多糖(LPSや莢膜多糖(CPS)等)の内在性単糖残基とは異なるものであるが、それにもかかわらず、野生型の細菌、すなわち、対応する内在性単糖の生合成経路に欠陥を持たない細菌の外膜に浸透して取り込まれ得ることが分かった。
【0013】
本発明によれば、上記第1の反応性基により修飾される上記単糖化合物は、内在性単糖の生合成経路においてその前駆体を構成する。より具体的には、本発明に係るそのような前駆体の化合物分子において上記第1の反応性基が置換している部分は、外膜のグリカン鎖中に取り込まれている内在性単糖残基とは異なっているが、後述するように、該外膜のグリカン鎖中に取り込まれている内在性単糖残基が修飾された形態で代謝される。上記内在性単糖は上記第1の反応性基により修飾される。
【0014】
より具体的には、本発明は、特許文献1で開示され請求される上記式I’で表される修飾された内在性単糖の前駆体を提供する。実際に、本発明の修飾前駆体は、インキュベーション工程a)において、上記第1の反応性基を有すること以外は上記細菌の外膜のグリカンの内在性単糖残基と同じ分子形態を有する修飾単糖へと代謝及び変換される。
【0015】
より厳密には、本発明は、細菌を含有する試料中に存在する所定の細菌カテゴリーに属する生菌を特異的に標識する方法であって、
a)第1の反応性化学基を有する少なくとも1つの修飾単糖化合物と共に上記試料の上記細菌をインキュベートすることにより、上記第1の反応性基を有する単糖残基を、上記細菌の外膜の多糖、特に上記細菌の外膜のLPS又はCPS中に取り込む工程であって、上記第1の反応性化学基は、第2の反応性基と化学的に反応可能なものである工程と、
b)上記細菌の外膜中に取り込まれた上記修飾単糖残基を、上記第2の反応性基を有する標識分子と接触させることにより、上記生菌の外膜中に取り込まれた上記単糖残基の上記第1の反応性基と、上記標識分子の上記第2の反応性基とを化学反応させて、共有結合を形成させる工程を含み、
上記修飾単糖化合物は、上記細菌の外膜の上記多糖の内在性ウロソン酸残基の修飾された内在性前駆体であり、上記修飾単糖化合物は、下記式(I)で表される化合物又はその塩である方法を提供する。
【0016】
【化2】
【0017】
(式中、
Xは、O、NH又はSであってよく、好ましくはO及びNHであり、より好ましくはOであり、
R1、R2及びR3は、独立にH、OH、NH
2、OH及びNH
2であってよく、その保護基で置換されていてもいなくてもよく、好ましくはアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、ホルミル基又はイミドイル基で置換されており、
R4は、H又は炭素数1〜4のアルキル鎖であって、その各炭素は、OH又はNH
2で置換されていてもいなくてもよく、該OH又はNH
2は、その保護基、好ましくはアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、ホルミル基又はイミドイル基で置換されていてもいなくてもよく、
X、R1、R2、R3及びR4のうち少なくとも1つ、好ましくはR1、R3又はR4は、上記第1の反応性基Raで置換されている。)
【0018】
上記第1及び第2の反応性基の化学反応によって共有結合が形成される。該共有結合は、ごくわずかな例においては、リガンドが配位した金属錯体における共有配位結合であってもよい。
【0019】
上記修飾単糖化合物の単糖は、上記第1の反応性基を有さないこと以外は式(I)と同じ式で表される(未修飾の)内在性前駆体であることを理解しなければならない。本発明の修飾された内在性前駆体は、上記細菌の外膜の多糖の修飾されたウロソン酸型内在性単糖残基よりも化学的に容易に調製できるが、上記修飾された内在性前駆体は、菌体内で代謝され、外膜中で異なる形態、すなわち当該細菌の外膜の多糖の修飾された内在性単糖残基として同化される。
【0020】
本発明に係る前駆体の別の利点は、−COOH等の極性基を有さないため、より迅速に及び/又はより容易に菌体内へ浸透できることである。
【0021】
本発明に係る前駆体の別の利点は、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)と関連させて更に後述するが、同一細菌種の異なる血清群又は亜種にそれぞれ存在するいくつかの異なる修飾された内在性単糖として代謝され得ることである。
【0022】
より具体的には、上記式Iで表される化合物は、上記細菌による同化過程中に、下記式I’で表される修飾されたウロソン酸型内在性単糖へと変換され得ることが分かった。
【0023】
【化3】
【0024】
(式中、
Yは、R2=YHとなるようにO又はNHであり、R2がOHの場合はYはO、R2がNH
2の場合はYはNHであり、
Aは、独立にH、OH、NH
2、好ましくはH又はOHであってよく、その保護基で置換されていてもいなくてもよく、好ましくはアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、ホルミル基又はイミドイル基で置換されており、
Bは、独立にH、OH、NH
2、好ましくはOH又はNH
2であってよく、その保護基で置換されていてもいなくてもよく、好ましくはアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アシル(Ac)基、ホルミル基又はイミドイル基で置換されており、
CはR1であり、
Dは−CHR3−CXHR4である。)
【0025】
したがって、上記式Iの修飾前駆体において、R1、R2、R3及びR4は、上述したように、上記式I’で表される修飾されたウロソン酸型内在性単糖のY、C及びDに含まれるものである。
【0026】
上記式(I)の化合物は、グラム陰性菌のカテゴリーに属する細菌によって同化され、該細菌の外膜のLPSのグリカンの修飾された内在性単糖残基として該細菌の外膜中に取り込まれ得る。上記内在性単糖残基は、ウロソン酸又はウロソン酸塩残基を含んでおり、上記第1の反応性基は、上記修飾単糖化合物が外膜の上記グリカン中に取り込まれた後、上記修飾された内在性単糖残基中の遊離基としての位置に配置される。
【0027】
式(I)の化合物は、充分に高い濃度、特に10
−5M以上、より具体的には10
−5M〜1Mの濃度で使用すれば、対応する天然前駆体とうまく競合し始めることが分かった。
【0028】
より具体的には、細菌濃度が好ましくは10
11cell/ml以下、より具体的には10
9cell/ml以下のものを検出するためには、工程a)でのインキュベーション時間は、1時間〜24時間、好ましくは2時間〜12時間であり、修飾単糖化合物の濃度は10
−5M〜1Mである。
【0029】
より具体的には、OHの保護基は、好ましくはアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基又はホルミル基であってもよい。
【0030】
より具体的には、NH
2の保護基は、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、ホルミル基又はイミドイル基から選択することができる。
【0031】
NH
2は、1つ又は2つの保護基により保護することができ、特に1つのCH
3基と1つのアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、ホルミル基又はイミドイル基とにより保護することができる。より具体的には、上記式Iにおいて、NH
2基は、N−アセチル(NHAc)基の形態であってもよく、N−アセトイミドイル(NHAm)基、N−(N−メチルアセトイミドイル)基、N−(N,N−ジメチルアセトイミドイル)基、N−ホルミル(NHFo)基、NH−ヒドロキシブタノイル(NH−Hb)基の形態であってもよく、また、更にN−メチル化されていてもいなくてもよい。
【0032】
なお、上記式I及びI’の化合物は、以下のように下記式II及びIIIの化合物並びにそれぞれ下記式II’及びIII’の化合物と平衡状態にあってもよい。
【0033】
【化4】
【0034】
W、Y及びZは、R1=WH、R2=YH及びR3=ZHとなるように、O又はNHである。
【0035】
工程a)において、上記第1の反応性基が上記単糖化合物において置換される位置は、上記細菌の外膜の多糖中に取り込まれた上記内在性単糖残基中で遊離基となる位置であることが好ましい。「遊離基(free group)」とは、上記LPS中で共有結合に関与していない位置を意味する。
【0036】
式(I)の化合物は、外膜LPSにおけるウロソン酸又はウロソン酸塩残基の少なくとも1つの位置が遊離型であるグラム陰性病原菌を標識するのに用いることができ、後述の化合物から選択することができるのは、特に以下の細菌属に見られるウロソン酸型又はその塩型の内在性単糖の前駆体である。レジオネラ属(Legionella)、シュードモナス属(Pseudomonas)、クロストリジウム属(Clostridium)、カンピロバクター属(Campylobacter)、アシネトバクター属(Acinetobacter)、ビブリオ属(Vibrio)、リステリア属(Listeria)、大腸菌属(Escherichia)、シュードアルテロモナス属(Pseudoalteromonas)、シノリゾビウム属(Sinorhizobium)、赤痢菌属(Shigella)、エルシニア属(Yersinia)、シュワネラ属(Schewanella)、サルモネラ属(Salmonella)、プロビデンシア属(Providentia)、プロテウス属(Proteus)、テナキバクラム属(Tenacibaculum)、バクテロイデス属(Bacteroides)、バルトネラ属(Bartonella)、ボルデテラ属(Bordetella)、ブラキスピラ属(Brachyspira)、ブルセラ属(Brucella)、バークホルデリア属(Burkholderia)、クラミドフィラ属(Chlamydophila)、コクシエラ属(Coxiella)、フランシセラ属(Francisella)、カルディオバクテリウム属(Cardiobacterium)、エドワードシエラ属(Edwardsiella)、エーリキア属(Ehrlichia)、エイケネラ属(Eikenella)、エリザベトキンギア属(Elizabethkingia)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、フソバクテリウム属(fusobacterium)、ヘモフィルス属(Haemophilus)、ヘリコバクター属(Helicobacter)、クレブシエラ属(Klebsiella)、レプトスピラ属(Leptospira)、モーガネラ属(Morganella)、ナイセリア属(Neisseria)、ネオリケッチア属(Neorickettsia)、パスツレラ属(pasteurella)、プレジオモナス属(Plesiomonas)、ポルフィロモナス属(Porphyromonas)、プレボテラ属(Prevotella)、プロビデンシア属(Providencia)、リケッチア属(Rickettsia)、ストレプトバチルス属(Streptobacillus)及びトレポネーマ属(Treponema)。
【0037】
より具体的には、上記細菌は以下のものから選択される。アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)、バルトネラ・バシリホルミス(Bartonella bacilliformis)、バルトネラ・クインターナ(Bartonella quintana)(ロシャリメア・クインターナ(Rochalimaea quintana))、バルトネラ属(Bartonella spp.)(ロシャリメア属(Rochalimaea spp.))、気管支敗血症菌(Bordetella bronchiseptica)、パラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、ブラキスピラ属(Brachyspira spp.)、ブルセラ・メリテンシス(Brucella melitensis)(狭義)、ブルセラ・メリテンシス次亜種アボルツス(Brucella melitensis biovar Abortus)(ブルセラ・アボルツス(Brucella abortus))、ブルセラ・メリテンシス次亜種カニス(Brucella melitensis biovar Canis)(ブルセラ・カニス(Brucella canis))、ブルセラ・メリテンシス次亜種スイス(Brucella melitensis biovar Suis)(ブルセラ・スイス(Brucella suis))、鼻疽菌(Burkholderia mallei)(シュードモナス・マレイ(Pseudomonas mallei))、類鼻疽菌(Burkholderia pseudomallei)(シュードモナス・シュードマレイ(Pseudomonas pseudomallei))、クラミドフィラ・シタッシ(Chlamydophila psittaci)(クラミジア・シタッシ(Chlamydia psittaci))、コクシエラ・バーネッティイ(Coxiella burnetii)、野兎病菌亜種チュラレンシス(Francisella tularensis subsp. Tularensis)(「野兎病菌亜種ニアークティカ(Francisella tularensis subsp. nearctica)」、野兎病菌次亜種チュランレンシス(Francisella tularensis biovar Tularensis)、野兎病菌タイプA(Francisella tularensis type A))、カンピロバクター・フェタス(Campylobacter fetus)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、カンピロバクター属(Campylobacter spp)、カルジオバクテリウム・ホミニス(Cardiobacterium hominis)、クラミドフィラ・アボルタス(Chlamydophila abortus)、クラミドフィラ・キャビエ(Chlamydophila caviae)、クラミドフィラ・フェリス(Chlamydophila felis)、クラミドフィラ・ニューモニエ(Chlamydophila pneumoniae)(肺炎クラミジア(Chlamydia pneumoniae))、エドワジェラ・タルダ(Edwardsiella tarda)、エーリキア属(Ehrlichia spp.)、エイケネラ・コローデンス(Eikenella corrodens)、エリザベトキンギア・メニンゴセプティカ(Elizabethkingia meningoseptica)(フラボハクテリウム・メニンゴセプチカム(Flavobacterium meningosepticum)、クリセオバクテリウム(Chryseobacterium)、エニンゴセプチカム(eningosepticum))、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)(=クレブシエラ・モビリス(Klebsiella mobilis))、エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)、エンテロバクター属(Enterobacter spp.)、エンテロコッカス属(Enterococcus spp.)、大腸菌(Escherichia coli)、野兎病菌亜種ホルアークティカ(Francisella tularensis subsp. holarctica)(「野兎病菌次変種パレアークティカ(Francisella tularensis var. palaearctica)」)、野兎病菌タイプB(Francisella tularensis type B))、壊死桿菌(Fusobacterium necrophorum)、軟性下疳菌(Haemophilus ducreyi)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、ヘモフィルス属(Haemophilus spp.)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、カンピロバクター・ピロリ(Campylobacter pylori)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、クレブシエラ属(Klebsiella spp.)、レジオネラ・ボゼマナエ(Legionella bozemanae corrig.)(フルオリバクター・ボゼマナエ(Fluoribacter bozemanae))、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、レジオネラ属(Legionella spp.)、レプトスピラ・インテロガンス(Leptospira interrogans)、レプトスピラ・アレキサンデリを含む広義のレプトスピラ・インテロガンス(Leptospira interrogans sensu lato inclut Leptospira alexanderi)、レプトスピラ・ボルグペテルセニイ(Leptospira borgpetersenii)、レプトスピラ・ファイネイ(Leptospira fainei)、レプトスピラ・イナダイ(Leptospira inadai)、レプトスピラ・インテロガンス(Leptospira interrogans)、レプストピラ・カースクネリー(Leptospira kirschneri)、レプストピラ・ノグチ(Leptospira noguchii)、レプストピラ・サンタロサイ(Leptospira santarosai)、レプトスピラ・ウェイリイ(Leptospira weilii)、モーガネラ・モーガニイ(Morganella morganii)(プロテウス・モーガニイ(Proteus morganii))、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、ネオリケッチア・センネツ(Neorickettsia sennetsu)(エーリキア・センネツ(Ehrlichia sennetsu)、リケッチア・センネツ(Rickettsia sennetsu))、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)、パスツレラ属(Pasteurella spp.)、プレジオモナス・シゲロイデス(Plesiomonas shigelloides)、ポルフィロモナス属(Porphyromonas spp.)、プレボテラ属(Prevotella spp.)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、プロテウス・ペンネリ(Proteus penneri)、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)、プロビデンシア・アルカリファシエンス(Providencia alcalifaciens)、プロビデンシア・レットゲリ(Providencia rettgeri)(プロテウス・レットゲリ(Proteus rettgeri))、プロビデンシア・スチュアルティイ(Providencia stuartii)、プロビデンシア属(Providencia spp.)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードアルテロモナス・アトランティカ(Pseudoalteromonas atlantica)、シュードアルテロモナス・ディスティンクタ(Pseudoalteromonas distincta)、リケッチア属(Rickettsia spp.)(オリエンティア(リケッチア)・ツツガムシ(Orientia(Rickettsia) tsutsugamushi)を除く)、リケッチア・アカリ(Rickettsia akari)、リケッチア・カナデンシス(Rickettsia canadensis)、リケッチア・コノリイ(Rickettsia conorii)、リケッチア・モンタネンシス(Rickettsia montanensis)、リケッチア・プロワゼキイ(Rickettsia prowazekii)、リケッチア・リケッチィ(Rickettsia rickettsii)及び発疹熱リケッチア(Rickettsia typhi)、サルモネラ・エンテリカ亜種アリゾネ(Salmonella enterica subsp. Arizonae)(サルモネラ・アリゾネ(Salmonella arizonae)、サルモネラ・コレラエスイス亜種アリゾネ(Salmonella choleraesuis subsp. arizonae))、サルモネラ・エンテリカ亜種エンテリカ血清型エンテリティディス(Salmonella enterica subsp. enterica serovar Enteritidis(サルモネラ・エンテリティディス(Salmonella enteritidis))、サルモネラ・エンテリカ亜種エンテリカ血清型パラチフィA(Salmonella enterica subsp. enterica serovar Paratyphi A)(サルモネラ・パラチフィ(Salmonella paratyphi))、パラチフィB(Paratyphi B)及びパラチフィC(Paratyphi C)、サルモネラ・エンテリカ亜種エンテリカ血清型ティフィムリウム(Salmonella enterica subsp. enterica serovar Typhimurium)(ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium))、シュワネラ・ジャポニカ(Schewanella japonica)、シュワネラ・プトレファシエンス(Shewanella putrefaciens)、ボイド赤痢菌(Shigella boydii)、志賀赤痢菌(Shigella dysenteriae)(タイプ1を除く)、フレクスナー赤痢菌(Shigella flexneri)、ソンネ赤痢菌(Shigella sonnei)、ストレプトバチルス・モニリフォルミス(Streptobacillus moniliformis)、テナキバクラム・マリティマム(Tenacibaculum maritimum)、トレポネーマ・カラテウム(Treponema carateum)、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum))、「トレポネーマ・ペルテヌエ(Treponema pertenue)」(「梅毒トレポネーマ亜種ペルテヌエ(Treponema pallidum subsp. pertenue)」)、トレポネーマ属(Treponema spp.)、ビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)(=ベネッケア・パラヘモリティカ(Beneckea
parahaemolytica))、ビブリオ属(Vibrio spp.)、エルシニア・エンテロコリティカ(Yersinia enterocolitica)、エルシニア・ラッケリ(Yersinia ruckeri)、ペスト菌(Yersinia pestis)及び偽結核菌(Yersinia pseudotuberculosis)。
【0038】
好ましくは、上記修飾単糖化合物は、
XがOであり、
R1が、H、OH、NH
2、OH及びNH
2であって、上記保護基で置換されていてもいなくてもよく、
R3が、NH
2であって、その保護基、好ましくはAcで置換されていてもいなくてもよく、
R2が、OHであって、その保護基で置換されていてもよいが、好ましくは置換されておらず、
R1、R3及びR4のうち少なくとも1つが、上記第1の反応性基Raで置換されている
上記式(I)で表される化合物又はその塩である。
【0039】
より具体的には、R4が−CH
3、−CH
2OH又は−CH
2NH
2であって、該基が上記第1の反応性基Raで置換されている。
【0040】
好ましくは、上記細菌は、外膜のLPS層内に内在性単糖残基を有するグラム陰性菌であり、上記細菌の標識に後述の化合物を用いることができ、上記細菌は好ましくは以下の細菌から選択される。レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、ビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、ビブリオ・サルモニシダ(Vibrio salmonicida)、テナキバクラム・マリティマム(Tenacibaculum maritimum)(以前は滑走細菌症菌(Flexibacter maritimus)、大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、シュワネラ・ジャポニカ(Schewanella japonica)、プロビデンシア・スチュアルティイ(Providencia stuartii)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、エルシニア・ラッケリ(Yersinia ruckeri)、サルモネラ・アリゾネ(Salmonella arizonae)、モーガネラ・モーガニイ(Morganella morganii)、シュワネラ・プトレファシエンス(Shewanella putrefaciens)、ボイド赤痢菌(Shigella boydii)、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)、シュードアルテロモナス・アトランティカ(Pseudoalteromonas atlantica)、シュードアルテロモナス・ディスティンクタ(Pseudoalteromonas distincta)、シノリゾビウム・フレディ(Sinorhizobium fredii)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、シュードアルテロモナス・アトランティカ(Pseudoalteromonas atlantica)、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、カンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)及びエルシニア・エンテロコリティカ(Yersinia enterocolitica)。
【0041】
より具体的には、上記修飾単糖化合物は下記式(Ix−1)〜(Ix−4)のいずれかで表される化合物又はその塩である。
【0042】
【化5】
【0043】
(式中、
R4は、H又は炭素数1〜4のアルキル鎖であって、その各炭素は、OH又はNH
2で置換されていてもいなくてもよく、該OH又はNH
2は、その保護基、好ましくはアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、ホルミル基又はイミドイル基で置換されていてもいなくてもよく、好ましくは、R4はH、CH
3、CH
2OH又はCH
2NH
2であり、
R5及びR6は、独立に、置換されていてもいなくてもよいアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、ホルミル基又はイミドイル基であってよく、R5及びR6は好ましくはアシル(Ac)基であり、
R4、R5及びR6のうち少なくとも1つは、上記第1の反応性基で置換されている。)
【0044】
より具体的には、上記修飾単糖化合物は、
XがOであり、
R1及びR3が、NH
2であって、その保護基で置換されていてもいなくてもよく、
R2が、OHであって、その保護基で置換されていてもよいが、好ましくは置換されておらず、
R4が、上記第1の反応性基であるRaで置換されており、上記第1の反応性基が、好ましくはN
3であり、R4が、好ましくはRaで置換されたCH
3、CH
2OH又はCH
2NH
2である
上記式(I)で表される化合物又はその塩である。
【0045】
より具体的には、上記修飾単糖化合物は、化合物Ia及びIbから選択され、
上記化合物Iaは、R1及びR3が−NHAcであり、R2が−OAc又は好ましくはOHであり、R4がCH
2−Ra、好ましくは−CH
2−N
3である上記式(I)で表される化合物であり、
上記化合物Ibは、R1及びR3が−NHCOCH
2Raであり、Raが好ましくはN
3であり、R2が−OAc又は好ましくはOHであり、R4がCH
2OHである上記式(I)で表される化合物である。
【0046】
より具体的には、上記修飾単糖化合物は、下記立体異性体の式(Ia−1)〜(Ia−4)及び(Ib−1)〜(Ib−4)のいずれかで表される化合物又はその塩である。
【0047】
【化6】
【0048】
式Ia−1及びIb−1は式Ix−1に含まれる。
【0049】
式(Ix−1)〜(Ix−4)で表される化合物の単糖部分は、それぞれ下記式(Ic−1)〜(Ic−5)で表されるノヌロソン酸型の内在性単糖の前駆体である。すなわち、
(Ix−1)は、下記式(Ic−1)及び(Ic−2)で表される内在性単糖化合物の前駆体であり、
(Ix−2)は、下記式(Ic−3)で表される内在性単糖化合物の前駆体であり、
(Ix−3)は、下記式(Ic−4)で表される内在性単糖化合物の前駆体であり、
(Ix−4)は、下記式(Ic−5)で表される内在性単糖化合物の前駆体である。
【0050】
【化7】
【0051】
Leg(5,7−ジアミノ−3,5,7,9−テトラデオキシ−D−グリセロ−D−ガラクト−ノヌ−2−ウロソン酸)(Ib−6)は、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、ビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)及びビブリオ・サルモニシダ(Vibrio salmonicida)に見られる。
【0052】
【化8】
【0053】
4eLeg(5,7−ジアミノ−3,5,7,9−テトラデオキシ−D−グリセロ−D−タロ−ノヌ−2−ウロソン酸)(Ib−1)は、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)のLPS及びシュワネラ・ジャポニカ(Schewanella japonica)に見られる。
【0054】
【化9】
【0055】
8eLeg(5,7−ジアミノ−3,5,7,9−テトラデオキシ−L−グリセロ−D−ガラクト−ノヌ−2−ウロソン酸)(Ib−2)は、大腸菌(E.coli)株、プロビデンシア・スチュアルティイ(Providencia stuartii)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、エルシニア・ラッケリ(Yersinia ruckeri)、サルモネラ・アリゾネ(Salmonella arizonae)、モーガネラ・モーガニイ(Morganella morganii)及びシュワネラ・プトレファシエンス(Shewanella putrefaciens)に見られる。
【0056】
【化10】
【0057】
Pse(5,7−ジアミノ−3,5,7,9−テトラデオキシ−L−グリセロ−L−マンノ−ノヌ−2−ウロソン酸)(Ib−5)は、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、ボイド赤痢菌(Shigella boydii)、大腸菌(Escherichia coli)、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)、シュードアルテロモナス・アトランティカ(Pseudoalteromonas atlantica)、シュードアルテロモナス・ディスティンクタ(Pseudoalteromonas distincta)、シノリゾビウム・フレディ(Sinorhizobium fredii)及びコレラ菌(Vibrio cholerae)のO抗原(LPS)、シュードアルテロモナス・アトランティカ(Pseudoalteromonas atlantica)、並びに、クリベラ属(Kribella spp.)5(グラム陽性)及びアクチノプラネス・ウタヘンシス(Actinoplanes utahensis)(グラム陽性)の細胞壁、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)のLPSコア、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、カンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)及びボツリヌス菌(Clostridium botulinum)の鞭毛の糖タンパク質、並びに、シノリゾビウム属(Sinorhizobium)細菌のCPSに見られる。
【0058】
【化11】
【0059】
5,7,8−トリアミノ−3,5,7,8,9−ペンタデオキシノヌ−2−ウロソン酸(C−8での立体配置は未知)は、テナキバクラム・マリティマム(Tenacibaculum maritimum)(以前は滑走細菌症菌(Flexibacter maritimus))に見られる。
【0060】
したがって、式Ia−1〜Ia−4の化合物の場合、上記細菌は、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、ビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、ビブリオ・サルモニシダ(Vibrio salmonicida)、シュワネラ・ジャポニカ(Schewanella japonica)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)及びテナキバクラム・マリティマム(Tenacibaculum maritimum)から選択されることが好ましい。
【0061】
本発明の修飾単糖化合物は、下記式(Ia−1)、(Ia−1’)及び(Ib−1)のいずれかで表される化合物又はその塩であることがより好ましい。
【0062】
【化12】
【0063】
好ましい一実施形態においては、上記方法により、上記式Ia−1又はIb−1の化合物を用いてレジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)の生菌を標識することができる。
【0064】
実際に、空調設備あるいは機器、特に冷却塔や、水泳プール等の他の含水設備から得られた水等、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)が見られる含水環境媒体から採取した試料は、上記式(Ic−1)又は(Ic−2)の内在性残基を含む他の細菌を含有しない。そのため、標識が検出された場合、上記方法はレジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)を特異的に標識していると考えられる。
【0065】
レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)は、比較的致死率が高く社会に対する影響が重大であることを特徴とする、定期的な集団発生に関与する病原菌である。こうした流行を防ぐためには、環境水試料中にこの細菌が存在しているかどうかを定期的に監視することが不可欠であるが、従来の培養を用いた検出及び同定方法は、最大で10日間を要する。本発明は、他のレジオネラ種や他の属を標識することなく、より迅速且つ特異的にレジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)を同定できる方法を提供する。
【0066】
上記化合物Ia−1(6−アジド−2,4−ジアセトアミド−2,4,6−トリデオキシ−D−マンノピラノース)は、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)のほとんどの血清群に浸透し、Leg−N
3及び/又は4eLeg−N
3へと代謝され、上記細菌の外膜のLPS層の上記内在性単糖残基として外膜中に取り込まれ得る。上記内在性単糖残基は、4eLeg(4−エピレジオナミン酸又は5,7−ジアミノ−3,5,7,9−テトラデオキシ−D−グリセロ−D−タロ−ノヌ−2−ウロソン酸)若しくは4−エピレジオナミン酸塩残基、又は、Leg(レジオナミン酸=(5,7−ジアミノ−3,5,7,9−テトラデオキシ−D−グリセロ−D−ガラクト−ノヌ−2−ウロソン酸)若しくはレジオナミン酸塩残基であってよい。試験されたレジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)の様々な血清群において示されるように、これら2つの内在性単糖4eLeg及びLegは、特にレジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)種の様々な血清群のほとんどに存在する。
【0067】
より具体的には、上記修飾単糖化合物は、下記式(Iy−1)で表される化合物又はその塩である。
【0068】
【化13】
【0069】
(式中、
R4は、H又は炭素数1〜4のアルキル鎖であって、その各炭素は、OH又はNH
2で置換されていてもいなくてもよく、該OH又はNH
2は、その保護基、好ましくはアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、ホルミル基又はイミドイル基で置換されていてもいなくてもよく、好ましくは、R4はCH
2OHであり、
R5は、置換されていてもいなくてもよいアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、ホルミル基又はイミドイル基であってよく、好ましくは、R5はCOCH
3であり、
R4及びR5基の少なくとも1つは、上記第1の反応性基で置換されている。)
【0070】
式(Iy−1)で表される化合物の単糖部分は、下記式Ic−6で表されるノヌロソン酸型の内在性単糖の前駆体である。
【0071】
【化14】
【0072】
Neu(5−アミノ−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−D−ガラクト−ノヌ−2−ウロソン酸)(Ic−6)は、大腸菌(E.coli)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、モラクセラ・ノンリクファシエンス(Moraxella nonliquefaciens)及びマンヘミア(パスツレラ)・ヘモリチカ(Mannheimia(Pasteurella) haemolytica)、ストレプトコッカス・アガラクティアエ(Streptococcus agalactiae)(グラム陽性)、ストレプトコッカス・スイス(Streptococcus suis)(グラム陽性)のCPS、ハフニア・アルベイ(Hafnia alvei)、エシェリヒア・アルベルティ(Escherichia albertii)、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)、大腸菌(E.coli)、シトロバクター(Citrobacter)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、シュワネラ・アルガ(Shewanella algae)等の細菌が有するLPSのO−抗原、並びに、髄膜炎菌(N.meningitidis)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、インフルエンザ菌(H.influenzae)、軟性下疳菌(Haemophilus ducreyi)、ヒストフィルス・ソムニ(Histophilus somni)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)及びヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)等のいくつかの病原体が有するLPSコアに見られる。
【0073】
他の具体的な実施形態では、上記方法により、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の生菌を特異的に標識でき、上記細菌の外膜のLPS層の上記内在性単糖残基は、以下のいずれかである。
・8−エピレジオナミン酸(5,7−ジアミノ−3,5,7,9−テトラデオキシ−L−グリセロ−D−ガラクト−ノヌ−2−ウロソン酸)又は8−エピレジオナミン酸塩残基(この場合、上記修飾単糖化合物は式(Ia−2)の化合物である。)
・プソイダミン酸(5,7−ジアミノ−3,5,7,9−テトラデオキシ−L−グリセロ−L−マンノ−ノヌ−2−ウロソン酸)又はプソイダミン酸塩残基(この場合、上記修飾単糖化合物は式(Ia−3)の化合物である。)
【0074】
生菌には、増殖可能な細菌だけでなく、増殖できないが生存はしている細菌も含まれる。ほとんどの衛生規則が増殖可能な細菌、特に固体増殖培地上で増殖可能な細菌の計数について言及しているため、本発明は、より具体的には、増殖可能な細菌を特異的に標識する方法であって、上記細菌は培養培地でインキュベートされ、その(液体培地)中又は(固体培地)上で増殖可能である方法を提供する点で有利である。
【0075】
グラム陰性菌のなかには重大な病原体が隠れており、生存細胞を迅速に同定することは衛生上重要な課題である。本発明の修飾単糖は、上記細菌によって迅速に同化され、代謝的に活性/生存している野生型グラム陰性菌を速やかに標識及び検出できる(全工程が1日未満で終了)。細菌株にもよるが、通常は2日間から1ヶ月を超える期間が必要な一般的な生菌検出法に比べると、上記方法は非常に迅速である。
【0076】
本発明は、c)上記細菌がその外膜のグリカンに結合した上記標識分子を含むか否かを検出すること、及び/又は、上記標識分子を含む上記生菌を固体基材に固定化することによって、生菌を検出する工程を更に含み、上記標識分子は、検出可能な物質を含む分子、又は、検出可能な物質と反応可能若しくは結合可能な分子であるか、又は、上記標識分子は、上記第2の反応性基を有する第1の分子であり、該第1の分子は、第2の分子及び/又は固体基材と反応可能又は結合可能であり、好ましくは、上記第2の分子は検出可能な物質を含み、及び/又は、上記第2の分子は上記固体基材に結合している若しくは結合可能であることが有利である。
【0077】
したがって、本発明によれば、(a)検出された生菌を計数又は同定できると共に、(b)固体基材、特に上記第2の反応性基を有する磁気ビーズで構成された固体基材上に固定化して生菌を濃縮及び/又は単離できる。
【0078】
より具体的には、上記方法により、細菌を含有する試料中に存在する所定の細菌カテゴリーに属する生菌を特異的に検出でき、上記標識分子は、検出可能な物質を含む検出可能な分子であり、上記方法は、c)上記細菌がその外膜のグリカンに結合した上記検出可能な分子を含むか否かを検出することによって、生菌を検出する工程を含む。
【0079】
上記検出工程c)は、液体媒体中又は固体基材上で実施できる。
【0080】
より具体的には、検出は、蛍光によって検出される検出可能な物質を用いて行うことができる。
【0081】
より具体的には、上記標識分子は、上記第2の反応性基を有する第1のリガンド又は第1の結合タンパク質であり、工程c)において、上記第1のリガンド又は第1の結合タンパク質を、上記第1のリガンド又は第1の結合タンパク質と特異的に反応又は結合する第2のリガンド又は第2の結合タンパク質と接触させることによって、上記第1のリガンド又は第1の結合タンパク質に結合した上記生菌は検出及び/又は固定化される。
【0082】
より具体的には、上記標識分子は、上記第2の反応性基を有する第1のリガンド、好ましくはビオチンであり、工程c)において、上記第1のリガンドに結合した上記生菌は、上記第1のリガンドに特異的な抗体等のタンパク質と上記細菌との反応によって検出され、上記抗体は、検出可能な物質、好ましくは蛍光色素若しくは発光分子又は酵素を含む。
【0083】
より具体的には、上記第1の反応性基は、アジド基そのもの又はアジド基を有する基、及び、アルキン基そのもの又はアルキン基を有する基から選択され、上記第1の反応性基は好ましくはアジド基であり、上記第2の反応性基は、それぞれ、アルキン基そのもの又はアルキン基を有する基、及び、アジド基そのもの又はアジド基を有する基から選択され、上記第2の反応性基は好ましくはアルキン基であり、上記アジド反応性基と上記アルキン反応性基の反応はアジドアルキン付加環化により行われる。
【0084】
本発明はまた、本発明の方法を行うためのキットを提供する。該キットは、
上記第1の反応性基で置換された上記式(I)の単糖化合物の類似体であって、細菌の外膜の多糖、特に上記細菌の外膜のLPS又はCPS中に取り込まれる修飾された内在性ウロソン酸残基に変換され得る修飾前駆体である上記式(I)の化合物と、
上記第1の反応性基と反応可能な上記第2の反応性基を有する上記標識分子と、
必要であれば、上記細菌の外膜の上記多糖中に取り込まれた上記類似体残基の上記第1の反応性基を、上記標識分子の上記第2の反応性基と反応させるための反応体と、
好ましくは、上記所定のカテゴリーに属する細菌を増殖させることができ、好ましくは上記所定のカテゴリーに属する細菌の増殖に特異的である培養培地又はインキュベーション培地を備える。
【0085】
上記第1の反応性基Raは、アジド基(−N
3)そのもの又はアジド基を有する基、及び、アルキン基(−C≡C−)そのもの又はアルキン基を有する基から選択され、上記第2の反応性基Rbは、それぞれ、アルキン基(−C≡C−)そのもの又はアルキン基を有する基、及び、アジド基(−N
3)そのもの又はアジド基を有する基から選択され、上記アジド反応性基と上記アルキン基(−C≡C−)の反応はアジドアルキン付加環化により行われることが好ましい。
【0086】
アジドアルキン付加環化は、銅触媒の存在下又は非存在下で行ういわゆるクリックケミストリー反応として周知のものである。この反応では、アジド基がアルキン基と反応してトリアゾールが生成される。より具体的には、上記反応は、トリス−トリアゾリルリガンド、好ましくはTGTAの存在下、銅触媒条件で実施できる。より具体的には、上記検出可能な分子は、末端アルキン基を有する蛍光色素である。
【0087】
より具体的には、TGTA(トリス((1−(β−D−グリコピラノシル)−1H−[1,2,3]−トリアゾール−4−イル)メチル)アミン)又はTBTA(トリス−[(1−ベンジル−1H−1,2,3−トリアゾール−4−イル)メチル]アミン)等のトリス−トリアゾールリガンドと、末端アルキン基を有するAlexa標識分子と、触媒との存在下で反応を行って、上記蛍光色素と上記式(I)の類似体化合物のアジドアルキン付加環化を行うことができる。
【0088】
よく用いられる他の適したリガンドとしては、トリス(3−ヒドロキシプロピルトリアゾリルメチル)アミン(THPTA)、2−(4−((ビス((1−tert−ブチル−1H−1,2,3−トリアゾール−4−イル)メチル)アミノ)メチル)−1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)エタンスルホン酸(BTTES)、トリス((1−((O−エチル)カルボキシメチル)−(1,2,3−トリアゾール−4−イル))メチル)アミン、バソフェナントロリンジスルホネート又はトリス(2−ベンズイミダゾリルメチル)アミン(53)が挙げられる。
【0089】
あるいは、アザジベンゾシクロオクチン(ADIBO、DIBAC又はDBCO)やテトラメチルジベンゾシクロオクチン(TMDIBO)等の歪みアルキンを用いる場合、アジドアルキン付加環化は銅の非存在下で実施できる。
【0090】
銅フリー反応によく用いられる他の適した歪みアルキンとしては、シクロオクチン(OCT)、アリールレスシクロオクチン(ALO)、モノフルオロシクロオクチン(MOFO)、ジフルオロシクロオクチン(DIFO)、ジベンゾシクロオクチン(DIBO)、ジメトキシアザシクロオクチン(DIMAC)、ビアリールアザシクロオクチノン(BARAC)、ビシクロノニン(BCN)、テトラメチルチエピニウム(TMTI、TMTH)、ジフルオロベンゾシクロオクチン(DIFBO)、オキサ−ジベンゾシクロオクチン(ODIBO)、カルボキシメチルモノベンゾシクロオクチン(COMBO)又はベンゾシクロノニンが挙げられる。
【0091】
以下のような他の反応性基及び他の反応も可能である。Staudingerライゲーション(第1の反応性基=アジド、第2の反応性基=ホスフィン)、銅フリークリックケミストリー(第1の反応性基=アジド、第2の反応性基=拘束された(constrained)アルキン(環内アルキン))、カルボニル縮合(第1の反応性基=アルデヒド又はケトン、第2の反応性基=ヒドラジド又はオキシアミン)、チオール−エンクリックケミストリー(第1の反応性基=チオール、第2の反応性基=アルケン)、ニトリル−オキシド−エンクリックケミストリー(第1の反応性基=ニトリルオキシド若しくはアルデヒド、オキシム又は塩化ヒドロキシモイル若しくはクロロオキシム、第2の反応性基=アルケン又はアルキン)、ニトリルイミン−エンクリックケミストリー(第1の反応性基=ニトリルイミン若しくはアルデヒド、ヒドラゾン又は塩化ヒドラゾノイル若しくはクロロヒドラゾン、第2の反応性基=アルケン又はアルキン)、逆電子要請型ディールス・アルダーライゲーション(第1の反応性基=アルケン、第2の反応性基=テトラジン)、イソニトリル−テトラジンクリックケミストリー(第1の反応性基=イソニトリル、第2の反応性基=テトラジン)、鈴木・宮浦カップリング(第1の反応性基=ハロゲン化アリール、第2の反応性基=ボロン酸アリール)及びHis−tag(第1の反応性基=オリゴ−ヒスチジン、第2の反応性基=ニッケル錯体又はニッケルリガンド)。
【0092】
上掲した反応に関与する基のリストにおいて、第1の反応性基と第2の反応性基を入れ替えてもよい。上掲の化学反応では全て、共有結合が形成される。
【0093】
他に、2つの異なる上記単糖類似体化合物と2つの異なる検出可能な分子とを用いて細菌試料をインキュベートすることによって、より特異性の高い検出を行うことができる。
【0094】
本発明に係る方法の他の具体的な実施形態においては、上記工程a)のインキュベーション及び上記工程b)の反応はメンブランフィルター上で行われ、それにより、もともと同じ細菌から増殖した培養細菌をひとまとめにして顕微鏡を用いて可視化でき、上記検出可能な分子を上記顕微鏡により可視化して検出できる。その結果、培養可能な細菌の数を定量できる。
【0095】
この実施形態によれば、上記修飾単糖を同化する前に、被験試料をポリエステル膜等の上記メンブランフィルター上でろ過することにより、同化期間に起こり得る増殖によって生存細菌を多く見積もりすぎてしまうことがないようにできる。実際に、上記膜の頂部に固定した細胞が増殖し始める場合、該細胞はまとまって存在し、マイクロコロニーを形成するため、同じ単一の細胞に由来するものとして容易に検出できる。その結果、培養可能な細菌をカウントして計数できる。
【0096】
本発明はまた、本発明の方法を行うためのキットであって、上記所定のカテゴリーに属する細菌を増殖させることができ、好ましくは上記所定のカテゴリーに属する細菌の増殖に特異的である培養培地又はインキュベーション培地を更に備えるキットも提供する。
【0097】
上記培養培地又はインキュベーション培地は、上記所定のカテゴリーに属する細菌の増殖速度及び/又はコロニー形成能を増大及び/又は加速させる物質を更に含有することが好ましい。より具体的には、上記インキュベーション培地は、ピルビン酸塩又はカタラーゼ等の酸化防止剤を少なくとも含有する。
【0098】
グラム陰性菌を特異的に標識するために、工程a)及びb)においてグラム陰性菌に特異的な培養培地を用いることにより、グラム陽性菌を培養させないことがより有利である場合がある。
【0099】
より具体的には、一実施形態において、上記キットは、
上記検出可能な分子又は検出可能な物質を含む上記第2の分子、好ましくは蛍光色素若しくは発光分子又は酵素、及び/又は、
上記標識分子と特異的に反応可能又は結合可能な上記第2の分子を含む固体基材を更に備える。
【0100】
より具体的には、一実施形態において、本発明のキットは、
上記第1の反応性基と反応可能な上記第2の反応性基を有する上記検出可能な分子と、
上記単糖化合物の類似体、上記反応体及び上記検出可能な分子と共にインキュベートした後に上記細菌を可視化できる固体培地を更に備える。
【0101】
また、より具体的には、上記キットは、
アジド基又はアルキン基を有する上記第1の反応性基で置換された上記修飾単糖化合物と、
それぞれアルキン基又はアジド基を有する検出可能な分子の上記第2の反応性基と、
場合によっては、銅触媒及びトリストリアゾリルリガンドを含む上記反応体を備える。
【0102】
第1の具体的な実施形態において、上記標識分子は、検出可能な分子、すなわち検出可能な物質そのものからなる分子又は検出可能な物質を含む分子、すなわち蛍光色素若しくは発光物質又はペルオキシダーゼ等の酵素といったような検出が可能な物質であってよい。上記酵素は、より具体的には、共反応体と反応した後に検出される。
【0103】
更に具体的な実施形態において、生菌を単離及び/又は濃縮するのに有益であることから、工程b)を行う際に上記標識分子は固体基材に結合していてもよい。
【0104】
更に具体的な一実施形態において、上記標識分子は、上記第2の反応性基を有する第1のリガンド又は第1の結合タンパク質である分子であり、工程c)において、上記第1のリガンド又は第1の結合タンパク質を、上記第1のリガンド又は第1の結合タンパク質と特異的に反応又は結合する第2のリガンド又は第2の結合タンパク質である第2の分子と接触させることによって、上記第1のリガンド又は第1の結合タンパク質に結合した上記生菌は検出及び/又は固定化される。
【0105】
その場合、上記第1又は第2のリガンド又は結合タンパク質は、蛍光色素若しくは発光物質又はペルオキシダーゼ等の酵素といったような上記検出可能な物質を含む第3の結合タンパク質と反応又は結合できることが有利である。上記第3の結合タンパク質は、上記第1及び/又は第2のリガンド又は結合タンパク質と特異的に結合する。上記第2のリガンド若しくは第2の結合タンパク質又は第3の結合タンパク質を介して上記検出可能な物質を検出することによって、上記検出可能な物質のシグナルを増幅できる。
【0106】
より具体的には、上記第1のリガンド又は第1の結合タンパク質は以下のものであってもよい。
・ビオチン(この場合、上記第2の結合タンパク質はアビジン又はストレプトアビジンであり、上記第3の結合タンパク質はビオチンに対する抗体である。)
・アビジン又はストレプトアビジン(この場合、上記第2のリガンド結合タンパク質はビオチンであり、上記第3の結合タンパク質はアビジン又はストレプトアビジンに対する抗体である。)
・第1の抗体(この場合、上記第2の結合タンパク質は上記第1の抗体に特異的な第2の抗体であり、上記第3の結合タンパク質は上記第1の抗体に特異的な第3の抗体である。)
【0107】
より具体的には、上記標識分子は、上記第2の反応性基を有する第1のリガンド、好ましくはビオチンであり、工程c)において、上記第1のリガンドに結合した上記生菌は、上記第1のリガンドに特異的な抗体と上記細菌との反応によって検出され、上記抗体は、検出可能な物質、好ましくは蛍光色素若しくは発光分子又は酵素を含む。
【0108】
また、より具体的には、上記標識分子は、上記第2の反応性基を有する第1のリガンド、好ましくはビオチンであり、工程c)において、上記第1のリガンドと、上記第2の結合タンパク質、好ましくはアビジン又はストレプトアビジンに結合した固体基材、好ましくは磁気ビーズとの反応によって、上記第1の結合タンパク質に結合した上記生菌は固定化され、その後、細菌DNAの酵素増幅によって、又は、上記第1のリガンド若しくは第2の結合タンパク質と特異的に反応若しくは結合する第3の結合タンパク質と上記細菌との反応によって上記生菌は検出される。上記第3の結合タンパク質は、検出可能な物質、好ましくは蛍光色素若しくは発光分子又は酵素を含み、上記第3の結合タンパク質は、好ましくは上記第1のリガンド又は第1の結合タンパク質に特異的な抗体である。
【0109】
このように上記生菌が上記固体基材上に固定化される実施形態によれば、試料を上記細菌にまで濃縮することができ、さらに、PCR、特にリアルタイムPCRのようなDNAの酵素増幅や、ELISA試験のような標識抗体との免疫学的反応を用いた方法等、公知の方法によって上記生菌を定量化できる。
【0110】
本発明の他の特徴や利点は、以下に示す図を参照して、以下に示す発明の詳細な説明及び例示的且つ非限定的な実施形態の例からより明確になるであろう。
【0111】
図3〜
図7は、ビオチン−アルキン5を用いたCu(I)を触媒とするクリックケミストリーと、さらにAlexa Fluor488−IgG抗ビオチン抗体を用いた可視化によって得られる、各種細菌株による代謝的に取り込まれた化合物Ia−1又はIa−1’の検出を示すものであり、Ia−1又はIa−1’を添加した場合(右側のパネル)と、Ia−1又はIa−1’を添加していない場合(左側のパネル)の位相差像及び蛍光像を示す。スケールバーは1μmとした。