(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-504616(P2017-504616A)
(43)【公表日】2017年2月9日
(54)【発明の名称】β−ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法
(51)【国際特許分類】
C07H 1/06 20060101AFI20170120BHJP
C07H 19/048 20060101ALI20170120BHJP
C12P 19/30 20060101ALN20170120BHJP
【FI】
C07H1/06
C07H19/048
C12P19/30
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-542666(P2016-542666)
(86)(22)【出願日】2015年12月2日
(85)【翻訳文提出日】2016年6月21日
(86)【国際出願番号】CN2015096215
(87)【国際公開番号】WO2016086860
(87)【国際公開日】20160609
(31)【優先権主張番号】201510113667.7
(32)【優先日】2015年3月16日
(33)【優先権主張国】CN
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】516184986
【氏名又は名称】邦泰生物工程(深▲セン▼)有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100142804
【弁理士】
【氏名又は名称】大上 寛
(72)【発明者】
【氏名】傅栄昭
(72)【発明者】
【氏名】戴柱
(72)【発明者】
【氏名】張▲チー▼
【テーマコード(参考)】
4B064
4C057
【Fターム(参考)】
4B064AF23
4B064CA01
4B064CE06
4B064CE10
4B064CE20
4B064DA01
4B064DA16
4C057AA04
4C057BB02
4C057DD03
4C057LL05
(57)【要約】
本発明は、前処理されたβ-ニコチンアミドモノヌクレオチド溶液に膜濃縮装置で精密濾過及びナノ濾過を順次行い、濃縮された粗溶液を収集するステップaと、得られた粗溶液のpH値を3〜7に調整し、サンプルを逆相高速液体クロマトグラフ分取カラムに注入し、固定相がオクタデシルシラン結合シリカゲルであり、移動相Aが塩酸溶液で調製されたpH3〜7の溶液であり、移動相Bがエタノールである条件で、勾配溶離による精製を行い、精製されたサンプル溶液を得るステップbと、精製されたサンプル溶液を膜濃縮装置でナノ濾過した後、真空凍結乾燥機で凍結乾燥し、精製されたβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドを得るステップcと、を含むβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法を開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前処理されたβ-ニコチンアミドモノヌクレオチド溶液に膜濃縮装置で精密濾過及びナノ濾過を順次行い、濃縮された粗溶液を収集するステップaと、
得られた粗溶液のpH値を3〜7に調整し、サンプルを逆相高速液体クロマトグラフ分取カラムに注入し、固定相がオクタデシルシラン結合シリカゲルであり、移動相Aが塩酸溶液で調製されたpH3〜7の溶液であり、移動相Bがエタノールである条件で、勾配溶離による精製を行い、精製されたサンプル溶液を得るステップbと、
精製されたサンプル溶液を膜濃縮装置でナノ濾過した後、真空凍結乾燥機で凍結乾燥し、精製されたβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドを得るステップcと、を含むことを特徴とするβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法。
【請求項2】
前記ステップaにおいて精密濾過に用いる精密濾過膜の孔径が0.2〜1μmであることを特徴とする請求項1に記載のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法。
【請求項3】
前記ステップaにおいてナノ濾過に用いるナノ濾過膜は、分画分子量が200であることを特徴とする請求項1に記載のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法。
【請求項4】
前記ステップaにおいてナノ濾過に用いるナノ濾過膜は中空糸膜であることを特徴とする請求項1に記載のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法。
【請求項5】
前記ステップaにおいて濃縮された粗溶液の濃度が20〜30g/Lであることを特徴とする請求項1に記載のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法。
【請求項6】
前記ステップcにおいて膜濃縮装置でナノ濾過された後の、精製されたサンプル溶液の濃度が100〜150g/Lであることを特徴とする請求項1に記載のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法。
【請求項7】
前記ステップbにおいて、体積比で移動相A:移動相Bが2:98〜1:1にあることを特徴とする請求項1に記載のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法。
【請求項8】
前記ステップcにおいて、ナノ濾過に用いるナノ濾過膜は分画分子量が200である中空糸膜であることを特徴とする請求項1に記載のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法。
【請求項9】
前記ステップbにおいて、勾配溶離時の溶離時間が40minであることを特徴とする請求項1に記載のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヌクレオチド類補酵素に係る方法に関し、特にβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β-ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)は補酵素Iの合成基質であり、ニコチンアミドヌクレオチドアデノシントランスフェラーゼでアデニル化された後に補酵素I(NAD)に変換される。生体内では、NMNのレベルとニコチンアミドヌクレオチドアデノシントランスフェラーゼ(NAMPT)の活性はNADの濃度に直接影響を及ぼし、また、NMNは体内のアデノシン転移に直接関与し、体内の重要な合成基質及び機能調節物質である。治療用途において、NMNは老化防止、慢性疾患の治療等に応用されることができ、また、研究により、NMNは更にインスリンの分泌を調整する役割を果たし、mRNAの発現レベルにも影響を及ぼすことが判明している。このため、NMNは医薬治療分野で幅広い応用の将来性を有し、また、反応基質としても化学工業分野で幅広い市場における将来性を持っている。
【0003】
NMNは一般的にイオン交換樹脂で精製され、持っている電荷及び極性がNADのような多種の類似物と非常に似ており、分離及び精製がかなり難しく、そのうちの類似物である不純物を完全に除去することができないので、イオン交換法で得られた製品は、純度がただ約60%であり、収率がただ40%であり、生産効率が低くて、大規模な生産に適合しない。
【0004】
よって、従来技術の改良及び発展が期待されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術の欠点に鑑み、本発明は、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製過程において他の電荷及び極性が似ている類似物を完全に除去し難く、且つ製品の純度が低くて、収率が低いという問題を解決するためのβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の技術的手段を採用する。
【0007】
前処理されたβ-ニコチンアミドモノヌクレオチド溶液に膜濃縮装置で精密濾過及びナノ濾過を順次行い、濃縮された粗溶液を収集するステップaと、
【0008】
得られた粗溶液のpH値を3〜7に調整し、サンプルを逆相高速液体クロマトグラフ分取カラムに注入し、固定相がオクタデシルシラン結合シリカゲルであり、移動相Aが塩酸溶液で調製されたpH3〜7の溶液であり、移動相Bがエタノールである条件で、勾配溶離による精製を行い、精製されたサンプル溶液を得るステップbと、
【0009】
精製されたサンプル溶液を膜濃縮装置でナノ濾過した後、真空凍結乾燥機で凍結乾燥し、精製されたβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドを得るステップcと、
【0010】
を含むβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法である。
【0011】
前記のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法において、前記ステップaにおいて精密濾過に用いる精密濾過膜の孔径が0.2〜1μmである。
【0012】
前記のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法において、前記ステップaにおいてナノ濾過に用いるナノ濾過膜は、分画分子量が200である。
【0013】
前記のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法において、前記ステップaにおいてナノ濾過に用いるナノ濾過膜は中空糸膜である。
【0014】
前記のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法において、前記ステップaにおいて濃縮された粗溶液の濃度が20〜30g/Lである。
【0015】
前記のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法において、前記ステップcにおいて膜濃縮装置でナノ濾過された後の、精製されたサンプル溶液の濃度が100〜150g/Lである。
【0016】
前記のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法において、前記ステップbにおいて、体積比で移動相A:移動相Bが2:98〜1:1にある。
【0017】
前記のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法において、前記ステップcにおいてナノ濾過に用いるナノ濾過膜は分画分子量が200である中空糸膜である。
【0018】
前記のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法において、前記ステップbにおいて、勾配溶離時の溶離時間が40minである。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、オクタデシルシラン結合シリカゲルを利用して高速液体分取を行うことで、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドを精製し、それにより、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドの純度が98%に達することができ、収率が80%以上に達することができ、生産効率も他のプロセスに比べて2倍以上向上させる。β-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製過程において他の電荷及び極性が似ている類似物を完全に除去し難いという問題を効果的に解決した。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法の好ましい実施例は、
【0021】
前処理されたβ-ニコチンアミドモノヌクレオチド溶液に膜濃縮装置で精密濾過及びナノ濾過を順次行い、濃縮された粗溶液を収集するステップS100と、
【0022】
得られた粗溶液のpH値を3〜7に調整し、サンプルを逆相高速液体クロマトグラフ分取カラムに注入し、固定相がオクタデシルシラン結合シリカゲルであり、移動相Aが塩酸溶液で調製されたpH3〜7の溶液であり、移動相Bがエタノールである条件で、勾配溶離による精製を行い、精製されたサンプル溶液を得るステップS200と、
【0023】
精製されたサンプル溶液を膜濃縮装置でナノ濾過した後、真空凍結乾燥機で凍結乾燥し、精製されたβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドを得るステップS300と、を含む。
【0024】
本発明では、逆相高速液体クロマトグラフィーを採用して補酵素Iの合成基質であるβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドを精製し、固定相がオクタデシルシラン結合シリカゲルであり、移動相が塩酸で調製された溶液及びエタノールであるクロマトグラフカラムで精製し、更に濃縮及び凍結乾燥を行うことで、精製されたβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドを得る。本発明に記載のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製方法は、操作が簡単で、且つ他の持っている電荷及び極性が非常に似ている類似物を効果的に除去することができ、それにより、調製されたβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドは、純度が高く、収率が大きく、収量が大きく、大規模な工業的生産に適用できる。
【0025】
好ましくは、前記ステップS100において精密濾過に用いる精密濾過膜の孔径が0.2〜1μmである。具体的には、本発明のステップS100において精密濾過に用いる精密濾過膜の孔径が0.5μmである。
【0026】
精密濾過の基本原理はスクリーニング過程であり、静圧差の作用で10μmよりも大きい微粒子を濾過し除去し、操作圧力が0.7〜7barであり、原料液は圧力差の作用で、そのうちの溶剤が膜における微孔を透過して膜の低圧側に流れ、膜孔よりも大きい微粒子が分画され、それにより、原料液における微粒子と溶剤との分離を実現する。精密濾過過程の微粒子に対する分画のメカニズムはスクリーニング作用であり、膜の分離効果は膜の物理的構造、孔の形状及び大きさにより決定される。
【0027】
本発明の実施例において、精密濾過時に採用される精密濾過膜は、孔径が0.5μmであり、β-ニコチンアミドモノヌクレオチド粗溶液における比較的大きい微生物及び大粒径分子を初歩的に除去することができ、精密濾過膜は大分子及び溶解固形分(無機塩)等の通過を許可するが、浮遊物、細菌及び大分子量コロイド等の物質を分画し、β-ニコチンアミドモノヌクレオチド粗溶液を初歩的に精製する。精密濾過膜の孔径が大きすぎると、比較的大きい微生物及び大粒径分子は精密濾過膜を透過することができ、初歩的な濾過の効果に影響する。孔径が小さすぎると、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドも精密濾過膜を透過することができず、製品の損失を引き起こす。
【0028】
また、本発明に記載のステップS100においてナノ濾過に用いるナノ濾過膜は、分画分子量が200である。更に、本発明の好ましい実施例において採用されるナノ濾過膜は、孔径が1.5nmであり、分子量が200である物質を分画することができる。
【0029】
より好ましくは、前記ステップS100においてナノ濾過に用いるナノ濾過膜は中空糸膜である。
【0030】
ナノ濾過は溶剤分子又は一部の低分子量溶質又は低原子価イオンの透過を許可する濾過方法であり、かなり低い圧力で高い脱塩性能を有するとともに、分子量が数百である物質を分画できることを特徴とする。本発明では、孔径が1.5nmである濾過膜を採用し、その分画分子量が200であり、分子量が200よりも大きい物質を濾過することができ、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドにおける不純物を初歩的に濾過することができる。且つ、中空糸膜をナノ濾過膜として、中空糸膜は、外表面が繊維状であり、自己支持の役割を果たし、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドの調製プロセスで生成した残留リン酸イオン及び他の小分子不純物を効果的に除去することができ、それにより、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドを更に精製する。
【0031】
精密濾過及びナノ濾過の後、濃縮された粗溶液を収集し、その濃度が20〜30g/Lである。
【0032】
本発明の好ましい実施例において、前記ステップS200におけるリン酸溶液又は塩酸溶液の質量濃度が2%〜5%であり、エタノール溶液の質量濃度が5%〜30%である。
【0033】
より好ましくは、前記ステップS200におけるリン酸溶液又は塩酸溶液の体積使用量は、サンプル溶液1ミリリットル当たりに5〜20ミリリットルのリン酸溶液又は塩酸溶液を加え、エタノール溶液の体積使用量は、移動相1リットル当たりに100〜400ミリリットルのエタノール溶液を添加する。
【0034】
具体的には、リン酸溶液又は塩酸溶液の質量濃度が高すぎると、勾配溶離時に溶出されることがあり、質量濃度が低すぎると、物質の分離精製効果に影響することがあり、本発明において、質量濃度が2%〜5%であるリン酸溶液又は塩酸溶液を採用し、勾配溶離時に溶出されることなくβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドを高度に精製する効果を達成することを確保することができる。
【0035】
また、酸の使用量を変えると、ピーク形状に影響を与え、それにより、検出効果に影響を与える。本発明の実施例において、体積使用量がサンプル溶液1ミリリットル当たり5〜20ミリリットルであるリン酸溶液又は塩酸溶液、体積使用量が移動相1リットル当たり100〜400ミリリットルであるエタノール溶液を採用し、これにより、ピーク形状を対称的にし、テーリング現象を減少することができる。
【0036】
本発明の好ましい実施例において、前記ステップS200において、リン酸溶液又は塩酸溶液を用いて前のステップで初歩的に精製されたβ-ニコチンアミドモノヌクレオチド粗溶液のpH値を3〜7に調整し、サンプルを逆相高速液体クロマトグラフ分取カラムに注入し、その移動相Aが塩酸溶液で調製されたpH3〜7の溶液であり、移動相Bがエタノールである。
【0037】
具体的には、逆相高速液体クロマトグラフィーにおいて、一般的に非極性固定相(例えばC18、C8)が採用され、その移動相は一般的に水又は緩衝液であり、常にメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン等の水に溶解可能な有機溶剤を添加することで保持時間を調整し、それは非極性及び極性の弱い化合物の分離に適用でき、且つpHはサンプルの存在状態に影響を与えるので、サンプルの保持時間に影響する。本発明の実施例において、塩酸で調製されたpH3〜7の溶液及びエタノールを移動相として採用することにより、サンプルの保持時間を効果的に調整することができ、サンプルがクロマトグラフカラムに注入されてからクロマトグラフカラムから流出するまでに要した時間を最適化し、サンプルの分離効果を良くすることができる。サンプルの保持時間が長すぎると、検出の感度を低下させ、サンプルの保持時間が短すぎると、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドと不純物との分離効果を低下させ、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製に影響する。
【0038】
移動相のpH値を2〜8に制御すべきであり、pH値が8よりも大きい場合、担体であるシリカゲル、即ち固定相が溶解するようになり、pHが2よりも小さい場合、シリカゲルの化学結合相が加水分解により脱落し易い。本発明の実施例において、pH値が3〜7であり、この時、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドが安定して存在することができ、その内部構造が破壊されることがなく、この条件では、サンプルの分離効果を最適化することができる。より好ましくは、本発明における移動相のpH値が5であり、この時、サンプルの精製効果が最適になる。
【0039】
本発明に記載のステップS200においてリン酸溶液又は塩酸溶液を採用して得られた粗溶液のpH値を3〜7に調整することは、β-ニコチンアミドモノヌクレオチド粗溶液にも残留リン酸イオンが含有され、且つ塩酸で調製された溶液を移動相Aとして採用するからであり、本発明では、リン酸溶液又は塩酸溶液を採用して粗溶液のpH値を調整し、新たな不純物を導入せず、且つ精製過程においてリン酸イオン等の物質を除去することができる。
【0040】
好ましくは、本発明の実施例におけるステップS200において、その移動相Aと移動相Bとの体積比が2:98〜1:1にある。
【0041】
移動相の割合はサンプルの検出効果及び精製効果に影響を与えることがある。塩酸溶液の使用量を向上させ、エタノールの使用量を低下させると、サンプルの保持時間が長くなり、良い分離を実現することができるが、測定されたサンプルのピークの幅が広くなり、ピーク高さが低くなり、検出の感度に影響を与える。塩酸溶液の使用量を低下させ、エタノールの使用量を向上させると、サンプルの検出感度が高いが、サンプルの分離効果が悪い。本発明のサンプル性質と精製条件に応じて、体積比で2:98〜1:1にある塩酸で調製されたpH3〜7の溶液とエタノールを選択することにより、サンプルの分離精製効果を良好にするとともにサンプルの検出感度を向上させることができる。
【0042】
また、本発明の好ましい実施例において、勾配溶離時の溶離時間が40minである。具体的には、2%B〜12%Bの勾配溶離による精製を行うことができる。
【0043】
勾配溶離法を採用する場合は、定組成溶離法を採用する場合と比べて、ピーク効果をより対称的にし、テーリングをなくし、且つカラム効率を向上させ、検出の感度を改良することができる。また、溶離時間を40minに制御することにより、サンプルの保持時間を適当にし、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドの分離精製効果を最適化する。
【0044】
本発明では、初めて逆相高速液体クロマトグラフィーを採用して補酵素Iの合成基質であるβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドを精製し、従来のイオン交換樹脂法の、精製効率が低く、極性等の性質がβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドに似ている類似物を分離することができず、且つ収率が低いという問題を克服した。
【実施例】
【0045】
以下、具体的な実施例により本発明を更に説明する。
【0046】
本発明では、5cm*30cm、15cm*30cm、30cm*30cmの規格のクロマトグラフカラム(カラム直径*長さ)を含む。
【0047】
カラム温度が室温である。
【0048】
実施例一
【0049】
1.粗製品の濃縮:
【0050】
前処理されたβ-ニコチンアミドモノヌクレオチド溶液に膜濃縮装置で精密濾過及びナノ濾過を順次行い、精密濾過で微生物を除去し、ナノ濾過において、分画分子量が200である中空糸膜を採用して粗製品を20〜30g/Lに濃縮する。
【0051】
2.精製:
【0052】
精製条件:
【0053】
クロマトグラフカラム:カラム直径と長さが5cm*30cmである。
【0054】
固定相:オクタデシルシラン結合シリカゲル
【0055】
移動相:A相:pH3の塩酸溶液、B相:エタノール
【0056】
流速:50〜80ml/min
【0057】
検出波長:260nm
【0058】
勾配:B%:2%〜12%(40min)
【0059】
サンプル注入量が8〜10gである。
【0060】
精製過程:リン酸溶液又は塩酸溶液で濃縮後の粗溶液のpHを3〜7に調整し、クロマトグラフカラムを30%以上のエタノールできれいに洗浄した後、均一にサンプルを注入し、サンプル注入量が8〜10gであり、直線勾配溶離を40min行い、目的ピークを収集する。
【0061】
3.濃縮及び凍結乾燥:
【0062】
精製後のサンプル溶液を膜濃縮装置(分画分子量が200である中空糸膜)でナノ濾過して100〜150g/Lまで濃縮し、続いて、真空凍結乾燥機で凍結乾燥し、純度が98%よりも大きいβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドが得られ、総収率が81.3%に達することができる。
【0063】
実施例二
【0064】
1.粗製品の濃縮:
【0065】
前処理されたβ-ニコチンアミドモノヌクレオチド溶液に膜濃縮装置で精密濾過及びナノ濾過を行い、精密濾過で微生物を除去し、ナノ濾過において、分画分子量が200である中空糸膜を採用して粗製品を20〜30g/Lに濃縮する。
【0066】
2.精製:
【0067】
精製条件:
【0068】
クロマトグラフカラム:カラム直径と長さが15cm*30cmである。
【0069】
固定相:オクタデシルシラン結合シリカゲル
【0070】
移動相:A相:pH5の塩酸溶液、B相:エタノール
【0071】
流速:400〜500ml/min
【0072】
検出波長:260nm
【0073】
勾配:B%:2%〜12%(40min)
【0074】
サンプル注入量が60〜80gである。
【0075】
精製過程:リン酸溶液又は塩酸溶液で濃縮後の粗溶液のpHを3〜7に調整し、クロマトグラフカラムを30%以上のエタノールできれいに洗浄した後、均一にサンプルを注入し、サンプル注入量が60〜80gであり、直線勾配溶離を40min行い、目的ピークを収集する。
【0076】
3.濃縮及び凍結乾燥:
【0077】
精製後のサンプル溶液を膜濃縮装置(分画分子量が200である中空糸膜)でナノ濾過して100〜150g/Lまで濃縮し、続いて、真空凍結乾燥機で凍結乾燥し、純度が98%よりも大きいβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドが得られ、総収率が82.3%に達することができる。
【0078】
実施例三
【0079】
1.粗製品の濃縮:
【0080】
前処理されたβ-ニコチンアミドモノヌクレオチド溶液に膜濃縮装置で精密濾過及びナノ濾過を行い、精密濾過で微生物を除去し、ナノ濾過において、分画分子量が200である中空糸膜を採用して粗製品を20〜30g/Lに濃縮する。
【0081】
2.精製:
【0082】
精製条件:
【0083】
クロマトグラフカラム:カラム直径と長さが30cm*30cmである。
【0084】
固定相:オクタデシルシラン結合シリカゲル
【0085】
移動相:A相:pH7の塩酸溶液、B相:エタノール
【0086】
流速:2500〜3000ml/min
【0087】
検出波長:260nm
【0088】
勾配:B%:2%〜12%(40min)
【0089】
サンプル注入量が350〜400gである。
【0090】
精製過程:リン酸溶液又は塩酸溶液で濃縮後の粗溶液のpHを3〜7に調整し、クロマトグラフカラムを30%以上のエタノールできれいに洗浄した後、均一にサンプルを注入し、サンプル注入量が350〜400gである。直線勾配溶離を40min行い、目的ピークを収集する。
【0091】
3.濃縮及び凍結乾燥:
【0092】
精製後のサンプル溶液を膜濃縮装置(分画分子量が200である中空糸膜)でナノ濾過して100〜150g/Lまで濃縮し、続いて、真空凍結乾燥機で凍結乾燥し、純度が98%よりも大きいβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドが得られ、総収率が80.9%に達することができる。
【0093】
本発明において、サンプルの目的ピークを収集することにより、標準に達する場合、それを膜濃縮装置でナノ濾過し、更に真空凍結乾燥機で凍結乾燥し、精製されたβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドを得る。本発明に記載の方法で調製された凍結乾燥製品であるβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドは、純度が98%に達することができ、総収率が80%以上に達することができ、また、本発明は、操作が簡単であるので、生産効率も他のプロセスよりも2倍以上向上させ、従来技術の、残留リン酸イオンが除去され難く、調製された製品の純度が低く、収率が低いという問題を効果的に解決した。本発明は良好な市場における将来性を有し、精製されたβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの工業的生産に適用できる。
【0094】
本発明の応用は上記の例示に限定されず、当業者にとって、上記説明に基づいて改良又は変更することができ、これらの改良及び変更はいずれも本発明の特許請求の範囲の保護範囲に属すべきであることを理解されたい。
【国際調査報告】