(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-504808(P2017-504808A)
(43)【公表日】2017年2月9日
(54)【発明の名称】アルツハイマー病の早期診断のためのバイオマーカーおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20170120BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20170120BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N37/00 102
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2016-549268(P2016-549268)
(86)(22)【出願日】2015年1月28日
(85)【翻訳文提出日】2016年9月23日
(86)【国際出願番号】EP2015051677
(87)【国際公開番号】WO2015113995
(87)【国際公開日】20150806
(31)【優先権主張番号】14152770.5
(32)【優先日】2014年1月28日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/932,307
(32)【優先日】2014年1月28日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】516225692
【氏名又は名称】プレデムテック・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106080
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 晶子
(72)【発明者】
【氏名】フォイアーヘルム−ハイデル,アンネグレート
(57)【要約】
本発明は、第1観点において、少なくとも4つの特異的バイオマーカーを測定することにより、対象におけるアルツハイマー病を診断するための、またはそれの発症リスクを判定するための、および重症ADの存在を判定するための方法に関する。さらに、少なくとも4つの特異的バイオマーカーに対する検出手段、特に抗体を含む、キットおよびアレイを提供する。さらに、アルツハイマー病を診断するための、またはそれの発症リスクを判定するための、コンピュータープログラムプロダクトおよびコンピューター実装された方法を提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象においてアルツハイマー病(AD)を診断するための、またはそれの発症リスクを判定するための方法であって、
a)対象からの生体試料におけるADバイオマーカーのレベルまたは量を測定し;そして
b)そのバイオマーカーのレベルまたは量に基づいて、ADの存在または発症リスクを高特異度で判定または診断する
ことを含み、
ADバイオマーカーは脳由来神経栄養因子(BDNF)、インスリン様増殖因子−1(IGF−1)、腫瘍増殖因子ベータ1(TGF−ベータ1)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン18(IL−18)、および単球走化性タンパク質−1(MCP−1)から選択される少なくとも4つのバイオマーカーであり、それによりIL−18および/またはMCP−1の増加、および/またはBDNF、IGF−1、VEGFおよび/またはTGF−ベータ1の減少はADの存在または発症リスクの指標となる方法。
【請求項2】
対象においてアルツハイマー病(AD)の状態を判定するための方法であって、
a)対象からの生体試料におけるADバイオマーカーのレベルまたは量を測定し;そして
b)そのバイオマーカーのレベルまたは量に基づいて、ADの存在または状態を高特異度で判定する
ことを含み、
ADバイオマーカーは脳由来神経栄養因子(BDNF)、インスリン様増殖因子−1(IGF−1)、腫瘍増殖因子ベータ1(TGF−ベータ1)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン18(IL−18)、および単球走化性タンパク質−1(MCP−1)から選択される少なくとも4つのバイオマーカーであり、それによりIL−18および/またはVEGFの増加、および/またはBDNF、IGF−1、MCP−1および/またはTGF−ベータ1の減少は重症ADの存在の指標となる方法。
【請求項3】
さらに、対象から生体試料を得る工程を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1に定める少なくとも5つのADバイオマーカーのレベルまたは量を測定し、好ましくは請求項1に定める全部のバイオマーカーを測定する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
バイオマーカーがタンパク質またはペプチドの形態である、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
バイオマーカーの組合わせ
a) BDNF、IGF−1、VEGFおよびTGF−ベータ1;
b) BDNF、IGF−1、VEGF、IL−18およびMCP−1;
c) BDNF、VEGF、TGF−ベータ1、IL−18およびMCP−1;
d) IGF−1、VEGF、TGF−ベータ1、IL−18、MCP−1
e) BDNF、IGF−1、VEGFおよびMCP−1
f) BDNF、IGF−1、TGF−ベータ1、MCP−1
g) BDNF、IGF−1、VEGF、TGF−ベータ1、MCP−1
を測定する、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ADの診断またはそのリスクの予測および重症ADの存在の判定の特異度が、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の正確度を有する、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
生体試料が組織、または血液を含めた体液から選択され、好ましくは末梢血から、特に血清から選択される、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
測定が、イムノアッセイ、好ましくはELISA、RIA、多重イムノアッセイまたは免疫蛍光アッセイ、ウェスタンブロット法、ラインアッセイ、ドットブロットアッセイを用いて実施される、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
試料におけるADバイオマーカーのレベルまたは量をそのバイオマーカーの基準レベルまたは量と比較し、その基準レベルは
a)ADに罹患していない集団から得られた平均的なレベル;および/または
b)AD患者を含む個体のグループからの平均または中間レベル
であり、
前決定した相対または絶対カットオフレベルまたは量をそれぞれ超えるかまたはそれ未満であれば、そのバイオマーカーのレベルまたは量はADの存在もしくは発症リスクまたは重症ADの存在の指標となる、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
対象においてADを診断し、またはそれの発症リスクを判定し、または重症ADの存在を判定する際に使用するためのキットであって、脳由来神経栄養因子(BDNF)、インスリン様増殖因子−1(IGF−1)、腫瘍増殖因子ベータ1(TGF−ベータ1)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン18(IL−18)、および単球走化性タンパク質−1(MCP−1)から選択される少なくとも4つのバイオマーカーに対する検出手段を含み、場合により、ADの存在または発症リスクを診断するための、および重症ADの存在を判定するための請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法にそのキットを使用する方法についての指示を含むキット。
【請求項12】
ELISA、RIA、多重イムノアッセイまたは免疫蛍光アッセイ、ウェスタンブロット法、ラインアッセイ、ドットブロットアッセイである、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法に使用するための、請求項11または12に記載のキット。
【請求項14】
請求項1に定める少なくとも4つのバイオマーカー、好ましくは少なくとも5つのバイオマーカーを検出するための手段を含む、または請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法に使用するための、アレイ。
【請求項15】
検出手段が、請求項1に定めるADバイオマーカーを特異的に指向する抗体、好ましくはモノクローナル抗体である、請求項11〜14のいずれか1項に記載のキットまたはアレイ。
【請求項16】
個体の生体試料におけるバイオマーカーのレベルまたは量を決定し、そのADバイオマーカーの基準レベルまたは量と比較した少なくとも4つ、たとえば少なくとも5つのADバイオマーカーの増加または減少を決定することによりADの診断、リスク査定または療法コントロールに使用するための、請求項1に定める少なくとも4つ、たとえば5つのADバイオマーカーの組合わせの in vitro 使用;その際、基準レベルは
a)ADに罹患していない集団から得られた平均的なレベル;および/または
b)AD患者を含む個体のグループからの平均または中間レベル
であり、
前決定した相対または絶対カットオフレベルまたは量をそれぞれ超えるかまたはそれ未満であれば、そのバイオマーカーのレベルまたは量はADの存在または発症リスクの指標となる。
【請求項17】
ADを診断し、またはそれの発症リスクを判定する、コンピューター実装された方法であって、
a)対象の生体試料および場合により対照において、請求項1に定めるADバイオマーカーのうち少なくとも4つの測定レベルまたは測定量のデータを取得し;
b)試料におけるADバイオマーカーのレベルまたは量を、データベースから得られるかあるいはカットオフ対照の測定レベルまたは測定量として得られるカットオフ値と比較することにより、工程a)のデータをコンピューター処理し;
c)そのレベルまたは量がカットオフレベルを超えてまたはそれ未満に増加または減少しているADバイオマーカーを分析および同定する
工程を含む方法。
【請求項18】
分析が主成分分析である、請求項17に記載のコンピューター実装された方法。
【請求項19】
さらに、
d)ADマーカーの分析および同定のデータを出力ユニット上に示す、特にADの診断またはリスクの結果を示す
工程を含む、請求項17または18に記載のコンピューター実装された方法。
【請求項20】
請求項1〜10または請求項17〜19のいずれか1項に定める工程を実施するためのコンピューター実行可能な指示を有する、コンピューター可読媒体またはコンピュータープログラムプロダクト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1観点において、少なくとも4つの特異的バイオマーカーの組合わせを測定することにより、対象におけるアルツハイマー病を診断するための、またはそれの発症リスクを判定するための、または重症アルツハイマー病の存在を判定するための方法に関する。さらに、少なくとも4つの特異的バイオマーカーに対する検出手段、特に抗体を含む、キットおよびアレイを提供する。さらに、アルツハイマー病を診断するための、またはそれの発症リスクを判定するための、または重症アルツハイマー病の存在を判定するための、コンピュータープログラムプロダクトおよびコンピューター実装された方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)はヒトの生活に対する多大なコストを伴なう進行性脳疾患である。この疾患の影響は、特にリスクを伴なう高齢の住民の数が増加しつつあるため、発展途上国の政府にとっての関心の高まりでもある。アルツハイマー病は最も一般的な形態の認知症(記憶喪失および他の認知障害についての一般用語)である。一般に、認知症には血管性認知症、およびアルツハイマー病もしくはアルツハイマー型認知症を含む変性性認知症の形態が含まれる。種々のタイプの認知症がアミロイドパシー(amyloidopathy)(アルツハイマー型認知症)、タウオパシー(tauopathy)(レビー小体病、クロイツフェルト−ヤコブ病、ピック病)、およびシヌクレイノパシー(synucleinopathy)(パーキンソン病)として記載されている。
【0003】
認知症に対する最大のリスク因子は年齢である。85歳を超えた者はこの状態になる可能性がより大きいが、ある形態の認知症は50歳未満の者に起きる。ある個体は遺伝的に特定の形態の認知症、たとえばアルツハイマー病およびハンチントン病をより発症しやすい。さらに、幾つかの要因、たとえば脳傷害(脳卒中により起きた損傷を含む)、栄養不良、感染症、医薬に対する反応、被毒、脳の腫瘍または病変が一次的または永続的な認知症を引き起こす可能性がある。
【0004】
アルツハイマー病は慢性進行性神経変性疾患であり、それは最も優勢なタイプの認知症である。神経イメージング法を含めて現在の診断手段は絶えず改善されている。それにもかかわらず、アルツハイマー病診断の感度および特異度を高めるのは依然として困難である。2つの診断領域が特に困難である:第1に、初期のアルツハイマー病を軽度の認知障害および普通の老化から鑑別すること;第2に、特に種々のタイプの認知症に類似の臨床症状が共通する場合に診断特異度を高めること。現在のところ、脳脊髄液(CSF)からのベータ−アミロイド(1−42)、総タウおよびホスホ−タウ−181の分析が、アルツハイマー病を高い信頼性および有効性で診断し、それを他の形態の認知症から鑑別するための最良の生物学的マーカーである。Marksteiner J. et al. (Drugs Today 43(6):423-31, 2007)は、CSFバイオマーカーおよび推定血液関連マーカーの使用を概説している。軽度認知障害のリスクがタウタンパク質遺伝子変異により影響を受けること、および軽度認知障害がアルツハイマー病と共通の遺伝的背景をもつことが示唆されている。これは、認知衰退の遺伝的リスクを解明して有効な臨床試験を設計するのに役立つ可能性がある。Welge V. et al. (J. Neural. Transm. 116(2):203-12, 2009)は、脳脊髄液 (CSF)濃度について、比 Aベータ1−42/Aベータ1−38/p−タウがアルツハイマー病(AD)患者を非アルツハイマー型認知症患者から強力に識別し、適用可能なスクリーニングおよび鑑別診断用のADバイオマーカーについての正確度要求を満たすと報告した。
【0005】
Alzheimer’s associationは、疾患経過に際しての7つの病期を提唱している;すなわち、1:障害なし、2;ごく軽度の衰退(初期)3:軽度の衰退、4:中等度の衰退、5:軽度に重度の衰退、6:重度の衰退、および7:きわめて重度の衰退。
【0006】
神経変性障害の早期検出は、より効果的な患者の処置を可能にするであろう。最近の研究により、アルツハイマー病のような障害は、数年間続くと思われる発症前期(pre-symptomatic phase)を特徴とし、その間に神経変性が起きているが、臨床症状はその後に現われることが立証された。これは、挑戦 −この前臨床期間の個体をいかにして同定するか− と好機の両方を提供する。疾患症状が現われる前の前臨床期間に予防療法を開始することができるであろう。したがって、臨床研究の主な目標は、神経変性の時間経過において診断を逆行させるためのツールを開発することによりこれらの疾患の早期検出を改善することである。さらに、アルツハイマー病の発症リスクをもつ個体の早期同定はきわめて望ましい。神経変性障害を早期検出することおよびADの最終進行を遅延させることによるADの予防および治療は患者においてより効果的であると当技術分野で記載されている。
【0007】
凝集したアミロイド−ベータ(Aベータ)ペプチドがアルツハイマー病の病原であることが示唆されている。in vitro および in vivo で、これらの凝集物は別個の生物活性をもつ球状オリゴマーおよび線状フィブリルを含めた多様な形態でみられる。散発性アルツハイマー病(AD)の診断およびモニタリングは長い間、末期疾患を伴なう個体の臨床検査に依存してきた。しかし、これからの抗AD療法は個体が神経変性のごく軽度の徴候を示した時点で開始するのが最適である。軽度認知障害段階のADについてのコアバイオマーカーとして脳脊髄液アミロイド−ベータ(Aベータ)について進展中のコンセンサスがある。AベータはADの発病に直接関与し、あるいは他の一次病原因子と密接に相関する。それは、アミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein)(APP)から、ベータ部位APP開裂酵素1およびガンマ−セクレターゼ複合体に依存するタンパク質分解プロセシングにより産生され、広範囲のプロテアーゼにより分解される。
【0008】
脳脊髄液(CSF)中の40および42アミノ酸残基形のアミロイド−ベータ(Aベータ(1−40)およびAベータ(1−42))がアルツハイマー病(AD)の有効なバイオマーカーとして提唱された。CSF中のAベータペプチドの定量分析は、ほぼ例外なくイムノソルベントベースのアッセイ、たとえば酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)法の使用に依存してきた。しかし、容易に自己凝集し、または他のタンパク質およびガラス器具に結合するというAベータペプチドの特性のため、そのような分析はきわめて困難である。ペプチドが翻訳後修飾を受ける可能性およびELISAアッセイにおける内因性CSF成分との交差反応の可能性により、分析はさらに複雑である。最近の知見は、Aベータ(1−40)に対比して減少した血漿Aベータ(1−42)はADのリスクを高める可能性があることを示唆している(Hampel H. et al., Alzheimers Dement. 4(1):38-48, 2008)。
【0009】
腫瘍壊死因子アルファ(TNF−アルファ)は腫瘍壊死因子(TNF)スーパーファミリーに属する多機能炎症性サイトカインである。このサイトカインは主にマクロファージにより分泌される。それは、細胞の増殖、分化、アポトーシス、脂質代謝、および凝血を含めた広域の生物学的プロセスの調節に関与する。このサイトカインは、自己免疫疾患、インスリン抵抗性、および癌を含めた多様な疾患における関与が示唆されている。マウスにおけるノックアウト試験は、このサイトカインの神経保護機能も示唆した。
【0010】
アルツハイマー病(AD)における主因としての炎症の概念は、これまで、病変と関連する自己破壊的変化の死後所見を抗炎症性物質の保護効果の疫学的証拠と組み合わせたものに基づいていた。現在、ADのリスクは炎症性物質インターロイキン1アルファ、インターロイキン1ベータ、インターロイキン6、腫瘍壊死因子アルファ、アルファ(2)−マクログロブリン、およびアルファ(1)−アンチキモトリプシンにおける合計10の多型によって実質的に影響されるという証拠がある。それらの多型はすべて共通のものである。
【0011】
WO 2005/052292およびWO 2006/133423には、ADおよび他の神経障害を体液において診断、層別化およびモニタリングするための方法および組成物が記載されている。たとえば上記WO出願に由来するEP 2 211 183 B1は、ADを診断およびモニタリングするための方法を同定し、その際、バイオマーカーとしてインスリン様増殖因子結合タンパク質2(EGFBP−2)を測定している。引用したこの特許出願は、ADを含めた神経障害を診断するのに適切なはずであるとされる多数の可能性のあるバイオマーカーを提示している。しかし、高い正確度でのADの診断および予測を可能にする具体的なバイオマーカーのセットは開示されていない。さらに、Thambisetty, N., et al, biomarkers and medicine, future medicine, London, Volume 4, No. 1, pages 65 to 79には、血液ベースのADバイオマーカー、すなわち困難ではあるが可能性はあるものが開示されている。WO 2009/149185は、二重可変ドメイン免疫グロブリンおよびその使用を同定している。
【0012】
最近の知見は、アルツハイマー病(AD)の発病における脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor)(BDNF)の関与を示唆している。BDNFは、成体の脳においてニューロンの機能、シナプスの柔軟性および構造統合性の維持に関与する内因性タンパク質である。血清および脳脊髄液(CSF)のBDNF濃度が、高感度ELISAにより27人のAD患者において9人の正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus)(NPH)患者および28人の同齢健康対照と比較して査定された。AD患者(18.6ng/ml)およびNPH患者(18.1ng/ml)に、健康な対照(21.3ng/ml;p=0.041/p=0.017)と比較して有意の血清BDNF濃度低下がみられた。BDNFの血清濃度は、AD患者およびNPH患者の両方において、CSFレベル、年齢またはミニメンタルステート検査(mini mental state examination)(MMSE)スコアと相関しなかった。ADおよびNPHにおけるBDNFの血清レベルの低下は、栄養支持の欠如を反映し、よって両疾患における進行性変性に関与しているという可能性がある。
【0013】
慢性炎症はアルツハイマー病(AD)の特徴である。ADのリスクと関連する相互作用が、炎症性サイトカインであるインターロイキン−6(IL−6)および抗炎症性サイトカインであるインターロイキン−10(IL−10)に対する遺伝子の調節領域における多型間に報告されている。一部はこれら2遺伝子における遺伝子変異による、ある高齢者におけるIL−6およびIL−10両方の調節異常が、ADの発症に関与する可能性がある(Cambarros O. et al., J. Neuroinflammation 23(6):22, 2009)。
【0014】
IL−6(インターフェロン ベータ2とも命名されている)はアルツハイマー病(AD)において著しく増加し、糖尿病など他の疾患に対する強い相関性をもつ。IL−6は他の神経変性疾患およびうつ病に対する相関性ももつ。アルツハイマー病(AD)における役割は、インターロイキン類であるIL−10、IL−18、および血管内皮増殖因子(VEGF)についても疑われている。Malaguera L. et al. (Neuropathology 26(4):307-12, 2006)は、ADおよび血管性認知症を伴なう患者において非認知症の同齢対象と比較してIL−18のレベルが有意に増大したと判定した。
【0015】
Mateo et al. (Acta Neurol. Scand. 116(1):56-8, 2007)は、血管内皮増殖因子(VEGF)が重要な神経栄養および神経保護作用を決定すると記載している。低い血清VEGFレベルはアルツハイマー病と関連する。
【0016】
神経保護の統合性は、認知障害およびADの発症に対抗する重要な構成要素である。アルツハイマー病患者グループは、ベースラインにおいてインスリン様増殖因子−1(IGF−1)(3.7±1.2pg/ml)、血管内皮増殖因子(VEGF)(63±18pg/ml)およびTGF−ベータ1(33±10pg/ml)の著しい減少を示した;健康な高齢者と比較(IGF−1,9.5±2.4pg/ml;VEGF,105±31pg/ml;およびTGF−ベータ1,68±18pg/ml)。IGF−1とVEGFの濃度間の有意の正の相関性が、健康な対象(r=0.87,p<0.001)およびAD対象の両方にみられた(Luppi C. et al., Arch. Gerontol. Geriatr. 49(Suppl. 1):173-84, 2009)。
【0017】
血漿ホモシステインの増加は、老化に伴なってみられる一般的問題、たとえば認知障害、認知症、うつ病、骨粗鬆症骨折、および機能衰退と関連する。ホモシステインレベルは血管性認知症患者においてアルツハイマー病(AD)患者または対照より高いことが知られている。高い血漿ホモシステイン濃度と低い血清葉酸濃度は、認知症およびADの発症の独立予測子である。血漿ホモシステインレベルの正常範囲は5〜15μmol/L、AD患者については15μmol/Lを超える。
【0018】
単球走化性タンパク質−1(MCP−1)は、単球リッチ細胞浸潤物を特色とする多様な疾患、たとえばアテローム性硬化症、うっ血性心不全およびリウマチ様関節炎において著しく誘導される。
【0019】
血清におけるC−反応性タンパク質(CRP)のレベル増大の検出は、いずれか特定の疾患に特異的ではない。それは炎症プロセスの有用な指標である。血漿CRPは、集団ベースの設定で非認知症の高齢者に広くみられる軽度認知障害(mild cognitive impqirment)(MCI)および非健忘性MCIと関連する。これらの所見は、MCIの発病における炎症の関与を示唆する。高い血漿CRPレベルは、MCIを伴なう患者において認知衰退の加速、および認知症のリスク増大と関連する。AD患者は血管性認知症患者より高いCRPレベルをもっていた(それぞれ、4.2±0.6 対 1.7±0.2,p<0.001)。ステップワイズ多重ロジスティック回帰分析(stepwise multiple logistic regression analysis)は、認知症(オッズ比=OR=4.965,5%信頼区間=CI=1.402−13.23,p=0.004)、フィブリノーゲン(OR=1.011,CI=1.007−1.015,p<0.001)、および年齢(OR=1.158,CI=1.063−1.261,p<0.001)が独立してCRPのレベルと相関することを示した。この研究は、炎症がADにおいて病原としての役割をもつ可能性があることを示唆する (Mancinella A. et al., Arch. Gerontol. Geriatr. 49(Suppl 1):185-94, 2009)。
【0020】
アルツハイマー病の治癒法は現在は無いが、それの治療のための薬物ベースおよび非薬物ベースの方法がある。一般にそれらの薬物治療は症状の進行を遅延させることを目標とする。幾つかのバイオマーカーが有効であることは大きな患者グループにおいて十分に証明されているが、成功は疾患キャリヤーをそれの初期に同定することと直接相関する。これは、分子手段による適時かつ正確な診断形態の診断が必要であることの正当な理由となる;Ray S. et al., Nat. Med. 13(11):1359-62, 2007。
【0021】
結論として、初期アルツハイマー病の改善された診断スクリーニングは多数の利点をもつ。早期診断により、疾患初期の者が薬物療法についての意思決定に関与できる。既存の薬物療法は、それらが多少とも作動するのであれば、疾患初期に最も良く作動する。早期判定は早期介入を可能にする。薬物療法が進展するのに伴なって、将来は、アルツハイマー病の進行に伴なって起きる脳に対する不可逆的損傷が早期検出によって阻止される可能性は十分にある。よって、ADを初期に高い特異度で診断できる方法および検査システムが現在求められている。さらに、ADを他のタイプの認知症から鑑別できるためには、新規な方法およびアッセイ法が必要である。すなわち、後期ADを同定することは治療計画を決定するのに役立つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】WO 2005/052292
【特許文献2】WO 2006/133423
【特許文献3】EP 2 211 183 B1
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Marksteiner J. et al. (Drugs Today 43(6):423-31, 2007)
【非特許文献2】Welge V. et al. (J. Neural. Transm. 116(2):203-12, 2009)
【非特許文献3】Hampel H. et al., Alzheimers Dement. 4(1):38-48, 2008
【非特許文献4】Thambisetty, N., et al, biomarkers and medicine, future medicine, London, Volume 4, No. 1, pages 65 to 79
【非特許文献5】Cambarros O. et al., J. Neuroinflammation 23(6):22, 2009
【非特許文献6】Malaguera L. et al. (Neuropathology 26(4):307-12, 2006)
【非特許文献7】Mateo et al. (Acta Neurol. Scand. 116(1):56-8, 2007)
【非特許文献8】Luppi C. et al., Arch. Gerontol. Geriatr. 49(Suppl. 1):173-84, 2009
【非特許文献9】Mancinella A. et al., Arch. Gerontol. Geriatr. 49(Suppl 1):185-94, 2009
【非特許文献10】Ray S. et al., Nat. Med. 13(11):1359-62, 2007
【発明の概要】
【0024】
本発明は、第1観点において、対象においてアルツハイマー病(AD)を診断するための、またはそれの発症リスクを判定するための方法であって、
a)対象からの生体試料におけるADバイオマーカーのレベルまたは量を測定し;そして
b)そのバイオマーカーのレベルまたは量に基づいて、ADの存在または発症リスクを判定または診断する
ことを含み、
ADバイオマーカーは脳由来神経栄養因子(BDNF)、インスリン様増殖因子−1(IGF−1)、腫瘍増殖因子ベータ1(TGF−ベータ1)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン18(IL−18)、および単球走化性タンパク質−1(MCP−1)から選択される少なくとも4つのバイオマーカーであり、第1態様において、それによりIL−18および/またはMCP−1の増加、および/またはBDNF、IGF−1、VEGFおよび/またはTGF−ベータ1の減少はADの存在または発症リスクの指標となる方法に関する。さらに、ホモシステインを診断の検証のためのさらなるバイオマーカーとして使用できる。AD患者において、ホモシステインのレベルまたは量は低減する。
【0025】
さらに、対象においてアルツハイマー病(AD)の状態を判定するための方法であって、
a)対象からの生体試料におけるADバイオマーカーのレベルまたは量を測定し;そして
b)そのバイオマーカーのレベルまたは量に基づいて、ADの存在または状態を高特異度で判定する
ことを含み、
ADバイオマーカーは脳由来神経栄養因子(BDNF)、インスリン様増殖因子−1(IGF−1)、腫瘍増殖因子ベータ1(TGF−ベータ1)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン18(IL−18)、および単球走化性タンパク質−1(MCP−1)から選択される少なくとも4つのバイオマーカーであり、それによりIL−18および/またはVEGFの増加、および/またはBDNF、IGF−1、MCP−1および/またはTGF−ベータ1の減少は重症ADの存在の指標となる方法を提供する。
【0026】
すなわち、他の態様において、認知症患者において重症ADから開始する後期ADに罹患していることの検証は、IL−18および/またはVEGFの増加、および/またはBDNF、IGF−1、MCP−1および/またはTGF−ベータ1の減少を特徴とする。
【0027】
前記マーカーのうち少なくとも4つの組合わせは、一方では少なくとも90%の高い特異度でADの早期診断および発症リスクの検出を可能にし、他方では少なくとも90%の高い特異度で重症型を判定する。
【0028】
バイオマーカーBDNF、IGF−1、TGF−ベータ1、VEGF、IL−18およびMCP−1のうち少なくとも4つ、たとえば少なくとも5つ、または全部を測定することが好ましい。
【0029】
前記に定めた少なくとも4つのバイオマーカーを含むバイオマーカー分子シグネチャは、臨床ADの予測において平均して90%、たとえば95%、特に96%の正確度、たとえば感度を達成する。少なくとも、それらのバイオマーカー分子シグネチャはアルツハイマー病のリスクを早期に検出して適切な療法を早期に開始でき、かつ重症ADの存在を判定できる。
【0030】
さらに、第2観点において、本発明は、対象においてアルツハイマー病を診断し、またはそれの発症リスクを予測し、または重症ADの存在を判定する際に使用するためのキットであって、脳由来神経栄養因子(BDNF)、インスリン様増殖因子−1(IGF−1)、腫瘍増殖因子ベータ1(TGF−ベータ1)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン18(IL−18)、および単球走化性タンパク質−1(MCP−1)、ならびに場合によりホモシステイン(ADを診断し、またはそれの発症リスクを判定する際に使用するための)から選択される少なくとも4つのバイオマーカーに対する検出手段を含み、場合により、ADを診断し、またはそれの発症リスクを判定するための、および重症ADの存在を判定するための本発明による方法にそのキットを使用する方法についての指示を含むキットに関する。
【0031】
さらに、本発明は、個体の生体試料におけるバイオマーカーのレベルまたは量を決定し、そのバイオマーカーの基準レベルまたは量と比較した少なくとも4つ、たとえば少なくとも5つのバイオマーカーの増加または減少を決定することにより、ADの診断、査定または療法コントロールに使用するための、本発明において定める少なくとも4つ、たとえば少なくとも5つのバイオマーカーのうち組合わせの in vitro 使用に関する。そのバイオマーカーは、レベルまたは量がその特異的バイオマーカーのカットオフよりそれぞれ高いかまたは低い場合にはADの指標となる。さらに、本発明は、本発明による少なくとも4つのバイオマーカーに対する検出手段を含むアレイ、特に検出手段が抗体であり、それらのバイオマーカーの検出が免疫学的に行なわれる、アレイまたはキットに関する。
【0032】
さらに、本発明は、ADを診断するための、またはそれの発症リスクを判定するための、コンピューター実装された方法であって、
a)対象の生体試料および場合により対照において、本発明によるADバイオマーカーのうち少なくとも4つの測定レベルまたは測定量のデータを取得し;
b)試料におけるバイオマーカーのレベルまたは量を、データベースから得られるかあるいはカットオフ対照の測定レベルまたは測定量として得られるカットオフ値と比較することにより、工程a)のデータをコンピューター処理し;
c)そのレベルまたは量がカットオフレベルを超えてまたはそれ未満に増加または減少しているバイオマーカーを同定する
工程を含む方法に関する。
【0033】
最後に、本発明は、本発明による方法を実施するためのコンピューター実行可能な指示を有する、コンピューター媒体またはコンピュータープログラムプロダクトに関する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1には、各プローブの配置を示すマイクロタイタープレートのスキームを提示する。各試料を二重に測定する。さらに、陽性対照、陰性対照およびカットオフ対照が存在し、プレート上に内部標準が得られる。この場合、5つの患者試料を検査する。
【
図2】
図2には、表5に示すマーカー組合わせの特異度を示す。立証されるように、6つのマーカーのうち少なくとも4つのマーカーの使用により90%を超える特異度が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本明細書中で用いる用語“アルツハイマー病”は、大脳の前頭葉および側頭葉の大脳皮質の神経細胞を死滅させて脳回(大脳皮質上の隆起部)を壊死または減少させる変性性脳疾患、特にNINCDS−ARDA基準(National Institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke, and Alzheimer's Disease and Related Disorders Association)により定義されるものを意味する。
【0036】
本明細書中で用いる用語“診断”は、病的状態の存在または特色を同定することを意味する。本発明の目的に関して、“診断”は、体液の ex vivo 分析に基づいてアルツハイマー病を発症するリスクを判定することを意味する。
【0037】
本明細書中で用いる用語“バイオマーカー”は、疾患状態を指示できる物質を意味する。アルツハイマー病の診断を目的とする本発明に関して、“バイオマーカー”は、脳細胞が正常状態であるか、あるいはアルツハイマー病により攻撃されているかを指示する物質を意味する。“バイオマーカー”には、正常な健康対象と比較してアルツハイマー病に罹患しているかまたはアルツハイマー病により冒される傾向のある患者においてその量が増加または減少するポリペプチドおよび糖タンパク質が含まれる。
【0038】
本明細書中で用いる用語“血液”には、全血、血清および血漿が含まれる。
本明細書中で用いる用語“抗体”は、生体分子の抗原性領域に特異的に結合する免疫グロブリンを意味する。本発明の目的に関して、抗体はバイオマーカーに特異的に結合するものであり、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、および組換え抗体を含む。さらに、本発明の抗体には、2つの全長軽鎖および2つの全長重鎖をもつ完全形態だけでなく、抗体分子の機能性フラグメントが含まれる。抗体分子の機能性フラグメントは、少なくとも抗原結合機能を保持するフラグメントを意味し、Fab、F(ab’)
2、Fvなどのフラグメントを含む。
【0039】
本明細書中で用いる用語“抗原−抗体複合体”は、バイオマーカーを認識する抗体へのそのバイオマーカーの結合生成物を意味する。
本明細書中で用いる用語“含む(compriseまたはcomprising)”および用語“含有する(containまたはcontaining)”には、“からなる(consistおよびconsisting of)”の態様が含まれる。
【0040】
本明細書中で用いる用語“カットオフレベル”は、ADに罹患しているかまたはADの発症リスクをもつ個体を区別できる相対レベルまたは絶対レベルを表わす。カットオフレベルは、相対レベルの場合は相違倍率(fold difference)として得られ、あるいは絶対値の場合は特定の数値、たとえばタンパク質の場合はngもしくはpg/mlとして表わされるレベルとして得られる。本明細書に示すようにカットオフレベルよりそれぞれ低いかまたは高い値は、ADを診断できる、またはADの発症リスクを判定できる、または重症ADの存在、そして結果的にAD患者における療法コントロールを判定できるとみなされる。
【0041】
本明細書中で用いる用語“ADバイオマーカー”は、AD診断バイオマーカーであるバイオマーカーを表わす。
本明細書中で用いる用語“予測する”は、ある個体が生体疾患を発症する有意に高い確率をもつという知見を得ることを表わす。
【0042】
本明細書中で用いる用語“生体試料”は、個体から得られた、診断またはモニタリングアッセイに使用できる多様な試料タイプを包含する。体液(biological fluid)試料は、血液、脳脊髄液(CSF)、尿、および生体由来の他の液体試料を包含する。必要であれば、たとえば濃縮または分離のために試料を予め処理することができる。
【0043】
“個体”は、哺乳動物、より好ましくはヒトであり、個体または対象という用語は互換性をもって用いられる。
本明細書中で用いる“基準値”は、絶対値、相対値、上限もしくは下限をもつ値、ある範囲の値、平均的な値(average value)、中央値(median value)、平均値(mean value)、または特定の対照値もしくはベースライン値と比較した値である可能性がある。基準値は個体の試料値、たとえば検査すべき個体からそれ以前の時点で得た試料から得られた値、または検査される個体以外のAD患者、もしくは正常個体、すなわちADを伴なうと診断されなかった個体からの試料から得られた値に基づくことができる。基準値は多数の試料、たとえばAD患者または正常個体からの試料に基づくことができ、あるいは検査すべき試料を含む試料のプールに基づくことができる。
【0044】
本明細書中で用いる“a”、“an”および“the”は、別に指示しない限り単数または複数を意味することができる。
本明細書中で用いる相違倍率(fold difference)は、ADバイオマーカーについての測定値と基準値の相違規模(magnitude difference)の数値表示を表わす。相違倍率は、測定数値を基準数値で割ることにより数学的に計算される。たとえば、ADバイオマーカーについての測定値が20ナノグラム/ミリリットル(ng/ml)であり、基準値が10ng/mlであれば、相違倍率は2である。あるいは、ADバイオマーカーについての測定値が10ng/mlであり、基準値が20ng/mlであれば、相違倍率は50%である。
【0045】
本発明者らは、脳由来神経栄養因子(BDNF)、インスリン様増殖因子−1(IGF−1)、腫瘍増殖因子ベータ1(TGF−ベータ1)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン18(IL−18)、および単球走化性タンパク質−1(MCP−1)、ならびに場合によりホモシステインから選択される少なくとも4つのバイオマーカーの組合わせのレベルまたは量を測定し、第1態様では、それにより対象の生体試料中のIL−18、MCP−1および/またはホモシステインの増加、および/またはBDNF、IGF−1、VEGFおよび/またはTGF−ベータ1の減少を判定すると、1、2または3つのマーカーのみの組合わせを用いるより高い特異度で、初期ADを診断し、またはアルツハイマー病の発症リスクを判定できることを認めた。特に、アルツハイマー病またはアルツハイマー病の発症リスクは、本明細書に明記する6つのマーカーの発現レベルの変化、すなわち、IL−18、MCP−1および/またはホモシステインの増加、並びにBDNF、IGF−1、VEGFおよび/またはTGF−ベータ1の減少と関連することが同定された。さらに、脳由来神経栄養因子(BDNF)、インスリン様増殖因子−1(IGF−1)、腫瘍増殖因子ベータ1(TGF−ベータ1)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン18(IL−18)、および単球走化性タンパク質−1(MCP−1)のうち少なくとも4つ、好ましくは少なくとも5つ、たとえば6つ全部のバイオマーカーを組み合わせた場合、特異度および感度がADの診断または予後を可能にするのに十分なほど高く、それに対し各バイオマーカー単独はAD以外の種々の疾患および状態で変化する可能性があることが認められた。さらに、結果を確認するためにホモシステインの量またはレベルを使用できる。
【0046】
さらなる観点において、本発明による方法はADを他の形の樹立した認知症から鑑別し、後期、すなわち重症期および極度重症期のADを判定することができる。すなわち、樹立したADは、BDNF、IGF−1、MCP−1および/またはTGF−ベータ1の減少、および/またはVEGFおよび/またはIL−18の増加を特徴とする。表2は、正常健康対照グループおよび重症アルツハイマー病患者グループの血清試料中の前記タンパク質の測定量を示す。これに関して、用語“重症(severe)”と“樹立した(established)”は、本明細書中で互換性をもって用いられることを明記する。
【0048】
特に、本発明において定める6つのバイオマーカーのうち少なくとも4つのバイオマーカーがそれぞれ増加または減少している場合、ADの診断またはADの発症リスクの判定および重症ADの存在の判定の正確度はきわめて高く、療法をモニターすることが可能である。特に、正確度は少なくとも90%、たとえば少なくとも95%、ある例では少なくとも96%である。たとえば、この方法の感度は少なくとも90%、たとえば少なくとも95%、たとえば少なくとも96%の範囲である。さらに、本発明による方法の特異度は少なくとも85%、たとえば少なくとも90%、たとえば少なくとも92%または少なくとも95%である。よって、本発明によるバイオマーカーの特定の組合わせによりADを高い正確度で、特に先行技術と比較して高い正確度で、診断または判定することができる。
【0049】
所望により、本発明によるバイオマーカーを、当技術分野で既知であって適切なADバイオマーカーであると記載されている他のバイオマーカーと組み合わせてもよい。本発明において定めるバイオマーカーと組み合わせることができる適切なバイオマーカーは当業者に周知である。
【0050】
一群のバイオマーカーのレベルまたは量がADに罹患している対象において対照グループと比較して変化すると当技術分野で記載されている。しかし、特に単一バイオマーカーはそれの発現レベルまたは量が他の疾患においても変化する可能性があるという事実からみて、その特異度および感度、すなわち正確度は、ADの診断またはそれの発症リスクの判定のために十分または満足できるものではない。
【0051】
これに対し、本発明によるバイオマーカーのセット、すなわち本発明によるバイオマーカーのうち少なくとも4つであるバイオマーカーは、高い正確度および特異度でADを初期に診断し、かつ重症ADの存在を判定することができる。
【0052】
さらに、測定、判定または診断という用語はADバイオマーカーのレベルまたは量を物理的に測定し、物理的に判定し、または物理的に診断する工程を含むことを明記する。すなわち、本方法は、ADバイオマーカーのレベルまたは量をレベルまたは量の測定に有用な既知の方法で測定し、その測定したレベルまたは量を用いてそれに応じて判定または診断する工程を含む。
【0053】
好ましい態様において、バイオマーカーはそれのペプチドまたはタンパク質の形で測定される。しかし、ADバイオマーカーのレベルまたは量を核酸レベルで、たとえば生体試料中のmRNAのレベルまたは量に基づいて測定することもできる。
【0054】
本発明によれば、本明細書に開示する方法は、それぞれin vitro 法および/または in vivo 法に関する。好ましくは、本方法は個体から得られた in vitro で提供される試料に基づく in vitro 法である。
【0055】
本発明者らは、特定のADバイオマーカー、すなわち脳由来神経栄養因子(BDNF)、インスリン様増殖因子−1(IGF−1)、腫瘍増殖因子ベータ1(TGF−ベータ1)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン18(IL−18)、および単球走化性タンパク質−1(MCP−1)のレベルまたは量の測定および判定により、ADを診断し、またはそれの発症リスクを予測でき、またADを他のタイプの認知症から鑑別し、また後期ADを判定できることを立証するのを目標とした。
【0056】
好ましい態様において、下記に定める組合わせのバイオマーカーを測定する:
a) BDNF、IGF−1、VEGFおよびTGF−ベータ1;
b) BDNF、IGF−1、VEGF、IL−18およびMCP−1;
c) BDNF、VEGF、TGF−ベータ1、IL−18およびMCP−1;
d) IGF−1、VEGF、TGF−ベータ1、IL−18、MCP−1。
【0057】
他の好ましい態様には下記の組合わせが含まれる:
e) BDNF、IGF−1、VEGFおよびMCP−1
f) BDNF、IGF−1、TGF−ベータ1、MCP−1
g) BDNF、IGF−1、VEGF、TGF−ベータ1、MCP−1。
【0058】
本発明のある態様において、本方法は本発明において定める全部のバイオマーカーのレベルまたは量を測定することを含む。さらに、ホモシステインのレベルまたは量も測定する。
【0059】
前記のように、本発明によるバイオマーカーのバイオマーカーシグネチャ、すなわちレベルまたは量は、臨床アルツハイマー病の予測において平均して96%の正確度を可能にする。これを用いて、認知症の明白な徴候をもつ患者がADを反映することを確認でき、さらにそれを用いて不明瞭な症状または軽度の認知障害を伴なう患者を診断してそのような患者が実質的またはよりいっそう高いAD罹患リスクをもつと診断することができる。AD診断の技術水準と比較して、本発明のバイオマーカーは実質的利点をもつ。たとえば、すべてのバイオマーカーが血液中に存在する。それらは血液または血清試料において標準的装置で容易に信頼性をもって測定でき、組織または脳脊髄液を分析する必要がない。
【0060】
本発明のある態様において、生体試料は血液、組織または体液から選択される。好ましい態様において、生体試料は血液、特に血清である。
前記のように、ある態様において、バイオマーカーIL−18,およびMCP−1ならびにホモシステインは、対照対象として用いた非疾患ヒトのグループにおけるそのバイオマーカーのレベルまたは量と比較して、特に疾患初期のAD患者の試料において、たとえばAD患者グループの血液において増加する。樹立した(重症)ADについては、バイオマーカーIL−18およびVEGFが増加する。
【0061】
さらに、BDNF、IGF−1、TGF−ベータ1およびVEGFは、非疾患ヒトのグループの試料における量と比較して特に疾患初期のAD患者グループの試料中にはより低い量で存在する。樹立した(重症)ADについては、バイオマーカーBDNF、IGF−1、TGF−ベータ1およびMCP−1が増加する。
【0062】
すなわち、単一バイオマーカーについては対照グループまたは基準グループと比較した量またはレベルの変化はADグループにおいて最大70%の範囲であるが、本発明において定めるバイオマーカーの組合わせ、すなわち少なくとも4つのバイオマーカーのレベルまたは量の変化または変異の決定は、ADの診断またはそれの発症リスクの判定の正確度を90%以上に高めることができる。
【0063】
たとえば、BDNFはAD患者の血液において対照対象と対比してほぼ70%減少する。このサイトカインは年齢との高い有意の関係を示す。
表1は、バイオマーカータンパク質、ならびに正常な健康対照グループおよび初期アルツハイマー病患者グループの血清試料におけるそのタンパク質の測定量を示す。
【0065】
本発明によるバイオマーカーのレベルまたは量の測定は既知の方法により行なわれる。たとえば、レベルまたは量をタンパク質レベルで決定する場合、イムノアッセイ、たとえばELISA、RIA、ラジオ免疫拡散法、ウェスタンブロット法、オークターロニー免疫拡散法(Ouchterlony immunodiffusion)、ロケット免疫電気泳動(rocket immunoelectrophoresis)、免疫組織染色法(immunohistostaining)、免疫沈降アッセイ、補体固定アッセイ、FACS、およびプロテインチップアッセイ、ならびに免疫蛍光アッセイ、多重イムノアッセイ、ラインアッセイ、またはドットブロットアッセイを実施する。
【0066】
好ましい態様において、ELISAを実施する。バイオマーカーのレベルまたは量を測定するための測定手段の代表例には、タンパク質特異的抗体が含まれる。特異的分子である抗体は当技術分野で既知であり、あるいは当技術分野で記載されている方法に基づいて容易に調製できる。タンパク質レベルの測定は、タンパク質に特異的に結合する測定手段、たとえば抗体を用いて、タンパク質の量を測定することを意味する。その測定法は上記方法のいずれかに定めることができる。一般にその方法には抗原−抗体複合体の形成、および既知方法によるその複合体の測定が含まれる。
【0067】
抗原−抗体複合体の形成量は、バイオマーカータンパク質の検出標識または発現標識の信号サイズを測定することにより決定できる。すなわち、抗体を当技術分野で既知の検出標識で標識することができ、それには酵素、蛍光性マーカー、リガンド、発光体、マイクロ粒子、および酸化還元分子の群が含まれるが、これらに限定されない。検出標識として使用できる酵素の例にはD−グルコシダーゼ、ウレアーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アセチルコリンエステラーゼ、グルコースオキシダーゼ、ヘキソキナーゼ、GDPアーゼ、RNアーゼ、ルシフェラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、およびホスホエノールピルビン酸デカルボキシラーゼが含まれるが、これらに限定されない。蛍光性マーカーの例にはイソチオシアン酸フルオレセイン、ローダミン、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、およびフルオレスカミン(fluorescamin)が含まれるが、これらに限定されない。リガンドの例にはビオチン、アビジン、ならびにビオチンおよびアビジンの誘導体が含まれるが、これらに限定されない。
【0068】
前記のように、前記のタンパク質バイオマーカーからなる群から選択される種類のタンパク質のレベルを測定するために、本発明はそれらのバイオマーカータンパク質に対して特異的な作用剤、たとえば抗体、好ましくはモノクローナル抗体、組換え抗体または抗体フラグメントの形のものを含む組成物を提供する。
【0069】
ある態様において、本発明による方法は、生体試料において測定したADバイオマーカーのレベルまたは量をそのバイオマーカーの基準レベルまたは量と比較する工程を含む。基準レベルは
a)ADに罹患していない集団から得られた平均的なレベル;および/または
b)AD患者を含む個体のグループからの平均または中間レベル
である。特に、バイオマーカーのレベルまたは量がカットオフレベルをそれぞれ超えるかまたはそれ未満であるかを判定する。
【0070】
たとえば、表3および4は血液試料、たとえば血清試料におけるバイオマーカータンパク質のレベルまたは量を測定した際のカットオフレベルを提示する;早期診断の場合(表3)。
【0072】
たとえば、BNDFについて、その量は、たとえば正常な健康対照グループにおける20ng/mlからAD患者グループにおける約10ng/ml以下にまで、少なくとも50%減少する。IGF−1について、変化は、たとえば約70ng/mlから60ng/ml以下にまで約40%を超える減少である。VEGFについて、減少は、たとえば309pg/mlから250pg/ml以下にまで約18%以上である。TGF−ベータ1について、減少は、たとえば370pg/mlから300pg/ml以下にまで少なくとも20%である。MCP−1について、増加は、たとえば160pg/mlから300pg/ml以上にまで40%以上である。IL−18について、増加は、たとえば200pg/ml以上にまで少なくとも15%である。さらに、本発明において定めるバイオマーカーを用いて得られる結果を検証または確認するためにホモシステインのレベルまたは量を測定することができる。
【0073】
さらに、表4は重症ADを伴なう患者の場合のカットオフレベルを示す。
【0075】
さらなる観点において、本発明は、ADを診断し、またはそれの発症リスクを判定し、および重症ADの存在を判定する際に使用するためのキットであって、脳由来神経栄養因子(BDNF)、インスリン様増殖因子−1(IGF−1)、腫瘍増殖因子ベータ1(TGF−ベータ1)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン18(IL−18)、および単球走化性タンパク質−1(MCP−1)から選択される少なくとも4つのバイオマーカーに対する検出手段を含み、場合により、ADの存在または発症リスクを診断するための、また重症ADの存在を判定するための本発明による方法にそのキットを使用する方法についての指示を含むキットに関する。
【0076】
診断バイオマーカーを検出するための本発明のキットは、前記タンパク質に対して特異的な抗体を含み、さらに、標識(たとえば基質との発色反応に有用な酵素)にコンジュゲートした二次抗体;標識との発色反応を誘導するための発色基質溶液;洗浄溶液;および酵素反応停止溶液を含むことができる。それはさらに、適切なマイクロプレート、標準溶液およびプロトコルを含むことができる。標識にコンジュゲートした二次抗体の代わりに、前記および後記バイオマーカーに対して特異的な(一次)抗体自体が標識にコンジュゲートしていてもよい。
【0077】
診断バイオマーカーを検出するための本発明のキットは、抗原−抗体結合反応により抗原を定量または定性分析し、その抗原−抗体結合反応を常法、たとえばELISA(酵素結合イムノソルベントアッセイ)またはサンドイッチアッセイにより測定することにより、アルツハイマー病を診断することができる。たとえば、前記または後記の診断バイオマーカーを検出するためのキットは、被検体および対照でコートされた96ウェルマイクロタイタープレート表面を用いて組換えモノクローナル抗体タンパク質と反応させるためのELISAを実施する様式で提供できる。抗原−抗体結合反応のレセプターとして、ポリビニルもしくはポリスチレン樹脂のウェルプレート、ニトロセルロース膜、またはスライドガラスを使用できる。
【0078】
発色反応を行なう一般的標識、たとえばHRP(西洋わさびペルオキシダーゼ)、アルカリホスファターゼ、コロイド金、蛍光標識、たとえばフルオレセイン、FITC(ポリL−リジン−イソチオシアン酸フルオレセイン)もしくはRITC(イソシアン酸ローダミン−B)、または色素を、好ましくは二次抗体コンジュゲートの標識として、または一次抗体コンジュゲートの標識として使用できる。
【0079】
発色反応を生じる基質は、標識に応じて選択される。特に好ましい基質は、ペルオキシダーゼと共に、たとえば西洋わさびペルオキシダーゼと共に用いるものであり、たとえばTMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)、ABTS(2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチオゾリン−6−スルホン酸))、またはOPD(o−フェニレンジアミン)である。好ましくは、発色基質は緩衝液(たとえば、0.1M酢酸ナトリウム,pH5.5)に溶解した状態で調製される。抗体コンジュゲートとして用いられるHRP(西洋わさびペルオキシダーゼ)は、過酸化水素の存在下で発色基質、たとえばTMBを分解して、発色沈殿を生成する。発色沈殿の沈降度を肉眼で検査することにより、タンパク質バイオマーカーの存在または非存在を検出する。TMBの色は450nm、ABTSの色は420nm、OPDの色は492nmで測定される。好ましくは、硫酸(H
2SO
4)溶液をペルオキシダーゼ酵素停止溶液として使用できる。
【0080】
あるいは、酵素標識としてアルカリホスファターゼを、発色基質としてPNPP(パラ−ニトロフェニルホスフェート)を使用できる。ニトロフェノールの黄色を405nmで測定することができる。この反応は、水酸化ナトリウムの添加により停止される。
【0081】
洗浄溶液は、好ましくはリン酸緩衝液、NaClおよびTween 20を含み、より好ましくは0.02Mのリン酸緩衝液、0.13MのNaCl、および0.05%のTween 20を含む緩衝液である。抗原−抗体結合反応を実施して抗原−抗体複合体を形成した後、その抗原−抗体複合体を二次抗体コンジュゲートと反応させ、次いで適量の洗浄溶液を反応器に添加することにより3〜6回洗浄する。
【0082】
バイオマーカーの量を決定する他の方法、特にRIA(ラジオイムノアッセイ)、ポリアクリルアミドゲル上でのウェスタンブロッティング、イムノブロッティング、および免疫組織染色法も考慮される。当技術分野で周知のように、バイオマーカーの定量決定のために考慮される特定の方法にキットを適合させる。
【0083】
本発明の好ましい態様において、バイオマーカータンパク質の量をELISAにより、西洋わさびペルオキシダーゼ、ならびにTMB、ABTSおよびOPDから選択される発色基質を用いて測定する。
【0084】
前記に定めたように、バイオマーカーのレベルまたは量をタンパク質レベルで決定する場合、検出手段はたとえば抗体である。あるいは、核酸レベルでレベルまたは量を測定する場合、検出手段は核酸分子であってもよい。
【0085】
たとえば、キットは当業者に既知のELISAまたは他の適切なイムノアッセイである。
さらに、本発明は本発明において定めるバイオマーカーのうち少なくとも4つを検出するための、たとえばそれらのバイオマーカーのうち少なくとも5つ、特に本発明において定めるバイオマーカーのうち少なくとも6つを検出するための検出手段を含む、アレイを提供する。
【0086】
本発明によるキットまたはアレイは、本発明による方法を実施するために特に有用である。キットまたはアレイの態様において、検出手段は本発明において定めるバイオマーカーに特異的に結合する抗体、たとえばモノクローナル抗体である。
【0087】
たとえば、本発明によるアレイはマイクロタイタープレートであってもよい。
マイクロタイタープレートは、陽性対照、陰性対照および/またはカットオフ対照のレベルまたは量を決定すると共に、バイオマーカーのレベルまたは量を決定することができる。よって、そのアレイはそのバイオマーカーの増加または減少、特にそのバイオマーカーのカットオフレベル未満またはそれを超える増加または減少を決定し、そのバイオマーカーのレベルまたは量に基づいてADの存在または発症リスクを容易に判定または診断し、また重症ADの存在を判定することができる。
図1に、適切なマイクロタイタープレートを示すスキームを提示する。定めたように、患者試料1〜5を、本発明による7つのバイオマーカーから選択される6つの被検体、すなわち被検体1〜6で試験する。それに加えて、陽性対照および陰性対照が備えられている。さらに、試料中のバイオマーカーのレベルまたは量がADを判定または診断できるのに適切であるかどうかを判定するために、カットオフ対照が備えられている。よって、同一アレイ上のこの対照により、測定したADバイオマーカーのレベルまたは量が診断に適切であるか否かを容易に判定できる。これは、コンピューター実装された方法またはシステムに特に有用である。
【0088】
すなわち、本発明は他の観点において、本発明において定めるバイオマーカーのうち少なくとも4つ、たとえば5つ、たとえば6つ、または全部の in vitro 使用であって、個体の生体試料におけるバイオマーカーのレベルまたは量を決定し、そのバイオマーカーの基準レベルまたは量と比較した、バイオマーカーのうち少なくとも4つ、たとえば5つ、たとえば6つ、または全部の増加または減少を判定することによる、アルツハイマー病の診断、リスク査定または療法コントロールにおける使用に関する;その際、基準レベルはADに罹患していない集団から得られた平均的なレベル;および/またはAD患者を含む個体グループからの中間レベルであり、その際、増加または減少をそれに応じて同定できるようにその個々のバイオマーカーのカットオフレベルを使用する。本発明のある態様において、カットオフレベルは、たとえば本発明によるアレイに記載したように、本発明による方法に対照として存在する適切なカットオフ対照により反映される。
【0089】
さらに、本発明は、ADを診断し、またはそれの発症リスクを判定する、コンピューター実装された方法であって、
a)対象の生体試料および場合により対照において、本発明において定めるADバイオマーカー、すなわち脳由来神経栄養因子(BDNF)、インスリン様増殖因子−1(IGF−1)、腫瘍増殖因子ベータ1(TGF−ベータ1)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン18(IL−18)、および単球走化性タンパク質−1(MCP−1)のうち少なくとも4つの測定レベルまたは測定量のデータを取得し;
b)試料におけるバイオマーカーのレベルまたは量を、データベースから得られるかあるいはカットオフ対照の測定レベルまたは測定量として得られるカットオフ値と比較することにより、工程a)のデータをコンピューター処理し;
c)そのレベルまたは量がカットオフレベルを超えてまたはそれ未満に増加または減少しているバイオマーカーを分析および同定する
工程を含む方法に関する。
【0090】
場合により、本方法はさらに、バイオマーカーそれぞれについての結果を、または単純に陽性もしくは陰性の診断またはリスク査定を、たとえば着色及び強調提示した形で出力ユニット上に提示する工程を含む。
【0091】
たとえば、分析は主成分分析により実施される。分析はエラー分析を伴なうことができる。
最後に、本発明は、本発明による方法の工程を実施するためのコンピューター実行可能な指示を有する、コンピューター媒体またはコンピュータープログラムプロダクトに関する。
【0092】
ある態様において、測定値と基準値の比較には、測定値がカットオフレベルを超えるかまたはそれ未満であるかをそれに応じて同定できるように、測定値と基準値の相違倍率を計算することが含まれる。
【実施例】
【0093】
実施例1:変性性脳疾患を伴なう患者および正常な健康対象から採集した血液の定量タンパク質分析
アルツハイマー病を伴なう患者および健康なヒト対象の対照グループからの血液試料を、患者の同意を得て、適用できる倫理ガイドラインに従って採集する。
【0094】
血清分離チューブを用い、試料を室温で2時間または4℃で一夜凝固させた後、約1000×gで20分間遠心する。調製したばかりの血清を直ちにアッセイするか、あるいは試料をアリコートで−20または−80℃に保存する。反復凍結/融解サイクルは避けるべきである。
【0095】
採集した試料の下記のマーカータンパク質、BDNF、IGF−1、TGF−ベータ1、VEGF、MCP−1およびIL−18の抗原に対して特異的な抗体を用いて、ELISA(試料抗原を検出するためのサンドイッチELISA)を実施する。
【0096】
実施例2:BDNF、IGF−1、TGF−ベータ1、VEGF、IL−18およびMCP−1についてのELISA
それぞれの抗原のPBS,pH7.4中における標準希釈液1.0ml(1μg/ml)を調製する。それを室温に10分間保持し、穏やかに振とうする。
【0097】
それぞれIL−18、TGF−ベータ1、VEGF、BDNF、MCP−1、およびIGF−1に対する抗体でプレコートされたウェルを、B&D Biosciences、Bachem、Novagen、Invitrogen、またはGenScriptその他から購入する。
【0098】
上記1μg/ml標準抗原溶液のそれぞれ1:1、1:2、1:4、1:8、1:16、1:32および1:64希釈液100μlを調製し、それぞれ1つのウェル(7ウェル)に添加する。8番目のウェルはブランク用に残しておく。ウェルをプレートシーラーでシールし、室温で2時間、連続振とう(700rpm)しながらインキュベートする。インキュベーション後、プレートを吸引し、400μlの洗浄溶液で3回洗浄し、再び吸引する。次いで100μlのそれぞれの抗HRP−コンジュゲート抗体をプレートの各ウェルに添加し、室温で2時間、700rpmで振とうしながらインキュベートする。各ウェルの内容物を吸引する。プレートを再び3回洗浄した後、200μlのOPD(o−フェニレンジアミン二塩酸塩)基質溶液を添加する。OPD基質溶液は、備え付けのOPD希釈剤に10mgのOPD錠2個を添加し、続いて50μlの3% H
2O
2を添加することにより調製される。プレートを次いで暗所で20〜25分間インキュベートすると、その間に発色する。100μlの停止溶液(3N硫酸)の添加により発色を停止する。プレートをマイクロプレートリーダーにおいて492nmで読み取る。
【0099】
OPDの代わりに、ABTS(2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチオゾリン−6−スルホン酸))、TMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)、またはDAB(3,3’−ジアミノベンジジン)を発色基質として使用できる。
【0100】
あるいは、酵素としてのアルカリホスファターゼと、PNPP(パラ−ニトロフェニルホスフェート)を使用できる。室温で15分後にニトロフェノールの黄色を405nmにおいて測定することができる。この反応は、等体積の0.75M NaOHの添加により停止する。
【0101】
プレート上の標準品から標準曲線を作成し、これを用いて試料中の表題抗原の濃度を計算する。
実施例3:アルツハイマー病患者および正常な健康対象からの試料の試験
96ウェル高結合型Stripwellイムノアッセイプレート(Corning Life Sciences,NY、またはBD Bioscience)を、濃度10μg/mlのそれぞれIL−18、TGF−ベータ1、VEGF、BDNF、MCP−1、およびIGF−1の抗体(特異的抗体の1:100希釈溶液20μl;抗体はB&D Biosciences、Genscript、Invitrogen、Genzyme、IBL international、Innogenetics、またはCalbiochemから購入)でプレコートし、そしてブロックする。PBSにより1:1、1:2、1:4、1:8、1:16および1:64の比率で希釈した血漿試料100μlを、プレコートした各ウェルに添加する。プレートを室温で2時間、700rpmで回転させながらインキュベートする。プレートをPBS中3%ウシ血清アルブミンにより4℃で一夜ブロックする。PBS/0.1% Tween 20で3回洗浄した後、BDNF、IGF−1、TGF−ベータ1、VEGF、IL−18およびMCP−1の特異的抗体100μlを各ウェルに適用し、4℃で一夜インキュベートする。一次抗体に対して特異的なHRP連結二次抗体50μlを添加し、室温で2時間、700rpmで回転させながらインキュベートする。プレートを0.1M PBS(炭酸水素ナトリウム緩衝液,Sigma,pH9.6)で3回洗浄して、結合していない抗体−酵素コンジュゲートを除去する。100μlのTMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)を添加すると、それはメタノール中3% H
2O
2溶液の存在下で前記の酵素によって黄色に変化する。100μlの3N硫酸の添加により反応を停止する。プレートのウェルの吸光度を450nmで測定して、抗原の存在および量を決定する。吸光度と濃度の相関性は被験試料についての標準(基準)曲線である。
【0102】
表5:本発明において定めるバイオマーカーの組合わせを示す;ナンバリングは下記のとおり:1=BDNF、2=IGF−1、3=VEGF、4=TGF−ベータ1、5=MCP−1、6=IL−18
【0103】
【表5】
【0104】
実施例4:ホモシステインの決定
Araki A. and Sako Y., J. Chromatogr. 422:43-52, 1987の方法に従って、ホモシステインを蛍光検出付き高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定する。
【0105】
結果:
図2に、特異度に対する本発明において定める6つのバイオマーカーのうち少なくとも4つの組合わせの関連性を示す。立証されるように、少なくとも4つのマーカーを組み合わせた場合にのみ少なくとも90%の特異度が得られるが、少なくとも90%の特異度を得るにはこれで十分である。
【国際調査報告】