特表2017-505510(P2017-505510A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-505510(P2017-505510A)
(43)【公表日】2017年2月16日
(54)【発明の名称】銀ナノ粒子ベースの分散物
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20170127BHJP
   C09D 11/037 20140101ALI20170127BHJP
   B01F 17/16 20060101ALI20170127BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20170127BHJP
【FI】
   H01B1/22 A
   C09D11/037
   B01F17/16
   H01B13/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-533531(P2016-533531)
(86)(22)【出願日】2014年11月24日
(85)【翻訳文提出日】2016年7月25日
(86)【国際出願番号】EP2014075416
(87)【国際公開番号】WO2015078819
(87)【国際公開日】20150604
(31)【優先権主張番号】1302744
(32)【優先日】2013年11月27日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】515357185
【氏名又は名称】ジーンズインク エスア
(74)【代理人】
【識別番号】100116872
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 和子
(72)【発明者】
【氏名】カウフマン ルイ ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】デルポン ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】エル カセミ ヴィルジニー
(72)【発明者】
【氏名】ステレン グレゴワール
【テーマコード(参考)】
4D077
4J039
5G301
【Fターム(参考)】
4D077AA08
4D077AB05
4D077AC05
4D077CA11
4D077DC43Y
4D077DC44Y
4D077DC45Y
4J039AB02
4J039BA06
4J039BC02
4J039BC20
4J039BC34
4J039BE12
4J039BE22
4J039CA07
4J039GA03
4J039GA09
4J039GA10
4J039GA24
5G301DA03
5G301DA42
5G301DD02
5G301DE01
(57)【要約】
本発明は、銀ナノ粒子の分散物と、前記分散物をベースとするインクの配合物と、に関する。詳しくは、本発明は、安定であり、かつ高濃度の銀ナノ粒子を有する分散物に関する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀ナノ粒子ベースの分散物であって、前記分散物の組成物が、少なくとも
a.銀ナノ粒子からなる化合物「a」と、
b.シクロオクタン溶媒および/または脂肪酸メチルエステル型の溶媒および/またはテルペン溶媒であって、炭化水素および前記炭化水素のアルデヒド、ケトンおよび/またはテルペン酸誘導体から選ばれるテルペン溶媒、および/または前記溶媒のうち2種以上の混合物からなる化合物「b」と、
c.分散剤からなる化合物「c」と、
d.用いられる化合物[c]とは異なる分散剤からなる化合物「d」と
を含む銀ナノ粒子ベースの分散物。
【請求項2】
有機分散剤「c」および「d」が、アミン、好ましくは、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、メチルプロピルアミン、エチルプロピルアミン、プロピルブチルアミン、エチルブチルアミン、エチルペンチルアミン、プロピルペンチルアミン、ブチルペンチルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、またはこれらの化合物のうち2種以上の混合物からなる群から選ばれるアミンであることを特徴とする、請求項1に記載の分散物。
【請求項3】
・30重量%より大きな、好ましくは35重量%より大きな、たとえば40重量%より大きな含有率の化合物「a」と、
・20から65重量%の間の、好ましくは40から60重量%の間の含有率の化合物「b」と、
・3から15重量%の間の、好ましくは3から10重量%の間の含有率の化合物「c」と、
・0.1から15重量%の間の、好ましくは0.4から5重量%の間の含有率の化合物「d」と、
を含むことを特徴とする、請求項1または2のいずれか1項に記載の分散物。
【請求項4】
前記銀ナノ粒子は、合成溶媒を存在させての銀前駆体の還元による化学経路によって合成されることと、用いられる前記合成溶媒は、用いられる前記化合物「b」とは異なることと、を特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の分散物。
【請求項5】
化合物「a」、「b」、「c」および「d」が、最終分散物の少なくとも55重量%、好ましくは少なくとも75重量%、たとえば少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも99重量%を構成し、あるいは最終分散物の100重量%さえ構成することを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の分散物。
【請求項6】
2重量%未満の、好ましくは1重量%未満の、たとえば0.5重量%未満の、あるいは0.2重量%さえ下回る含水率を備えることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の分散物。
【請求項7】
銀ナノ粒子ベースのインクであって、前記インクの組成物が、少なくとも
a.請求項1から6のいずれか1項に記載の分散物と、
b.用いられる前記化合物「b」とは異なる溶媒からなる化合物「e」と、
c.レオロジー改質剤からなる任意選択の化合物「f」と、
を含む銀ナノ粒子ベースのインク。
【請求項8】
2から20mPa・sの間の粘度を特徴とする、請求項7に記載のインク。
【請求項9】
化合物「e」が、アルコール、好ましくは、一価アルコール(たとえば、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、...)および/またはグリコール(たとえば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール...)、および/またはグリコールエーテル(たとえば、例としてエチレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、グライム、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジブチレングリコールジエチルエーテル、ジグライム、エチルジグライム、ブチルジグライムが挙げられるグリコールモノまたはジエーテル)、および/またはグリコールエーテルアセテート(たとえば2−ブトキシエチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート)および/または前記溶媒のうち2種以上の混合物からなる群から選ばれるアルコールであることを特徴とする、請求項7または8のいずれか1項に記載のインク。
【請求項10】
化合物「f」(レオロジー改質剤)が存在し、アルキルセルロース、好ましくはエチルセルロース、ニトロセルロース、アルキッド樹脂、アクリル樹脂および変性尿素、好ましくはポリ尿素、および/またはそれらの混合物から選ばれることを特徴とする、請求項7から9のいずれか1項に記載のインク。
【請求項11】
好ましくは化合物「b」と同一である追加の溶媒の化合物「X」を含むことを特徴とする、請求項7から10のいずれか1項に記載のインク。
【請求項12】
・60重量%以下、かつ好ましくは5重量%より大きな、好ましくは10重量%より大きな、たとえば20重量%より大きな含有率の請求項1から6のいずれか1項に記載の分散物と、
・1から40重量%の間の、好ましくは15から30重量%の間の含有率の化合物「e」と、
・20重量%未満の、好ましくは0.1から2重量%の間の含有率の任意選択の化合物「f」と、
・60重量%未満、好ましくは40重量%未満、かつ好ましくは5重量%より大きな、たとえば15重量%より大きな含有率の任意選択の化合物「X」と、
を含むことを特徴とする、請求項7から11のいずれか1項に記載のインク。
【請求項13】
化合物「a」、「b」、「c」、「d」、「e」、「f」および「X」が、最終インクの少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%、たとえば少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも99重量%、あるいは最終インクの100重量%さえ構成することを特徴とする、請求項7から12のいずれか1項に記載のインク。
【請求項14】
2重量%未満、好ましくは1重量%未満、たとえば0.5重量%未満、あるいは0.2重量%さえ下回る含水率を備えることを特徴とする、請求項7から13のいずれか1項に記載のインク。
【請求項15】
a.分散剤(化合物「c」)を存在させて少なくとも1種の還元剤を用いる銀前駆体の還元によって銀ナノ粒子を合成するステップと;
b.ステップ「a」で得られたナノ粒子を洗浄/精製するステップと、
c.化合物「b」および化合物「d」を添加するステップと、
を特徴とし、かつこれらの調製ステップにおいて液相が常に存在することを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載のナノ粒子の分散物を調製するための方法。
【請求項16】
分散物は、請求項15によって調製されたことを特徴とする、請求項7から14のいずれか1項に記載のインクを調製するための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀ナノ粒子ベースの分散物の配合物と、前記分散物をベースとするインクの配合物と、に関する。詳しくは、本発明は、安定であり、高濃度の銀ナノ粒子を有する分散物に関する。
【0002】
より詳しくは、本発明は、多くの印刷方法に適した導電性ナノ粒子をベースとするインクの分野に関する。非限定的な例として、以下の印刷方法すなわちインクジェット、スプレー、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、ドクターブレード、スピンコーティングおよびスロットダイコーティングが挙げられる。
【0003】
本発明による導電性ナノ粒子をベースとするインクは、いずれの型の支持体にも印刷することができる。例として、以下の支持体すなわちポリマーおよびポリマーの誘導体、複合材料、有機材料、無機材料が挙げられる。
【0004】
本発明による導電性ナノ粒子をベースとするインクは、多数の利点を有する。その中で非限定的な例として、
− 現行のインクより優れている経時安定性と;
− インクの利用分野が多岐にわたることと;
− 溶媒およびナノ粒子の非毒性と;
− ナノ粒子の固有の特性の維持と;特に
− 電子特性の維持と、
− 一般に200℃未満のアニール温度、より具体的には150℃以下のアニール温度の場合の導電性の向上と、
が挙げられる。一般に、導電性のこの向上は、材料のスクエアあたり抵抗の測定によって示される。
【0005】
本発明は、前記分散物と、前記インクと、を調製するための改良された方法にも関する。最後に、本発明は、プリンテッドエレクトロニクス(たとえばRFID(無線識別(radio frequency identification))支持体)、光電池、OLED(有機発光ダイオード(organic light emitting diode))、センサー(たとえばガスセンサー)、タッチスクリーン、バイオセンサーおよび非接触型技術の分野における前記インクの使用にも関する。
【背景技術】
【0006】
近年の文献を見ると、導電性コロイドナノ結晶がその新しい光電子特性、光起電力特性および触媒特性のために非常に注目されている。このため、導電性コロイドナノ結晶は、ナノエレクトロニクス、太陽電池、センサーの分野、および生物医学分野における将来の利用に向けて特に有利である。
【0007】
導電性ナノ粒子の開発は、新しい実装技法を用いることおよび複数の新しい用途を展望することを可能にする。ナノ粒子は、非常に高い表面積/体積比を有し、表面を界面活性剤で置き換えれば特定の特性、特に光特性の変化と、ナノ粒子を分散させる可能性とが得られる。
【0008】
場合によってはナノ粒子の小さな寸法から量子閉じ込め効果を得ることができる。ナノ粒子は、少なくとも1つの寸法が100nm未満である化合物である。ナノ粒子は、予め形が定義されないとき、さまざまな形状すなわちビーズ(1から100nm)、ロッド(L<200から300nm)、線(数100ナノメートルであるが数ミクロンのことさえある)、ディスク、星形、四角錐、四脚体、立方体または結晶を有することができる。
【0009】
導電性ナノ粒子を合成するためにいくつかの方法が工夫されている。その中ですべてを網羅するわけではないが、
− 物理的プロセス:
・化学蒸着(CVD:chemical vapor deposition) 基板が揮発した化学前駆体に曝露され、その表面において化学前駆体が反応または分解するとき。このプロセスは、一般にナノ粒子の形成につながり、ナノ粒子の形態は用いた条件に依存する;
・熱蒸着;
・分子線エピタキシー ナノ粒子を構成することになる原子が、気体流の形で高速で基板に衝突するとき(原子は基板に結合することになる);
− 化学的プロセスまたは物理化学的プロセス:
・マイクロエマルション;
・溶液内レーザーパルス 前駆体を含有する溶液がレーザー光線を照射されるとき。溶液中で光線に沿ってナノ粒子が形成される;
・マイクロ波の照射による合成;
・界面活性剤支援指向合成;
・超音波下合成;
・電気化学合成;
・有機金属合成;
・アルコールベースの媒質中の合成;
・ゾル−ゲル化学;
・レドックス合成
を挙げることができる。
【0010】
物理的合成は、より多くの原料を消費し、損失が著しい。一般に、物理的合成は、多くの時間および高い温度を必要とし、そのため工業規模の製造への切り替えの魅力的な候補ではない。このため物理的合成は、ある種の基板たとえばフレキシブル基板に不向きである。さらに、物理的合成は、小さめの寸法を有する構造体内で基板に直接行われる。これらの製造方法は、比較的厳密であることが分っており、大きな寸法を有する基板では製造ができない。
【0011】
化学的合成はどうかと言えば、多数の利点を有する。第1は、作業が溶液中で行われることである。こうして得られる導電性ナノ粒子はすでに溶媒中に分散しているので、ナノ粒子の貯蔵および使用が容易である。ほとんどの場合、ナノ粒子は基板と結合していないので、ナノ粒子の使用における自由が大きくなる。これらの方法は、利用される原材料のより良好な管理も可能にし、損失が限られる。合成パラメータを上手に調節すると、導電性ナノ粒子の合成および成長速度が良好に調節される。これによって、バッチ間の良好な再現性ならびにナノ粒子の最終的な形態の良好な調節を保証することが可能になる。難しい部分は、コロイドとして経時的に安定でありナノ粒子の凝集も沈殿も起こらない溶液を得ることである。安定化する実体、たとえば配位子を選ぶことによってナノ粒子の表面をこのためにカスタム化すれば、この現象を効果的に克服することが可能になる。これらの配位子は、凝集および沈降のリスクを防ぐ。配位子は、これらの導電性ナノ粒子をベースとして配合されるインクの特性にも影響を及ぼすことによって、第2の利点を提供する。したがって、企図される用途に応じて配位子の性質を調節することが可能である。生物医学利用の状況においては、したがって生物媒質中のナノ粒子の生体適合性を増加させるペプチドなどの配位子を用いることが好ましい。プリンテッドエレクトロニクス分野の場合、これによって非常に異なるサイズおよび異なる型の基板の使用への道が開かれる。最後に、これらの合成方法は、ナノ粒子の安定な溶液を比較的短時間のうちに大量に製造することを可能にする。これらの点のすべてが、ナノ粒子の工業的な規模の生産を考える上でこれらの化学合成経路の強みおよび柔軟性を浮き彫りにする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、安定かつ高濃度の銀ナノ粒子の分散物ならびに前記分散物を含むインクを提供することによって、先行技術の1つ以上の弱点を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施形態によると、この目的は、組成物が少なくとも
a.銀ナノ粒子からなる化合物「a」と、
b.シクロオクタン溶媒および/または脂肪酸メチルエステル型の溶媒および/またはテルペン型炭化水素およびテルペン型炭化水素のアルデヒド、ケトンおよび/またはテルペン酸誘導体から選ばれるテルペン溶媒、および/または前記溶媒のうち2種以上の混合物からなる化合物「b」と、
c.分散剤からなる化合物「c」と、
d.用いられる化合物「c」とは異なる別の分散剤からなる化合物「d」と、
を含む分散物によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明によるナノ粒子の合成時に得られるDLS(動的光散乱(dynamic light scattering))スペクトルの合成溶媒を用いた場合の一般的な例の代表である。これらのスペクトルは、銀ナノ粒子のサイズの数値(nm)に対する粒度分布のスペクトルを示す。
図2】本発明によるナノ粒子の合成時に得られるDLS(動的光散乱(dynamic light scattering))スペクトルの合成溶媒を用いなかった場合の一般的な例の代表である。これらのスペクトルは、銀ナノ粒子のサイズの数値(nm)に対する粒度分布のスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本出願人は、意外にも本発明による分散物の成分の特定の組み合わせによって、向上した安定性を有する高濃度の銀ナノ粒子の分散物を得ることが可能になることを発見した。
【0016】
本発明は、したがって、組成物が少なくとも
1.本発明による分散物(化合物「a」、「b」、「c」および「d」を有する)と、
2.用いられる化合物「b」とは異なる溶媒からなる化合物「e」と、
3.レオロジー改質剤からなる任意選択の化合物「f」と、
を含むインクに関する。
【0017】
本発明によるインクの粘度は、好ましくは1から10,000mPa・sの間、より好ましくは1から1000mPa・sの間、たとえば2から20mPa・sの間である。
【0018】
本出願人は、本発明による分散物と化合物「e」および任意選択の化合物「f」との組み合わせによって向上した特性、特により良好な安定性を有するインクを得ることが可能になることを発見した。
【0019】
これにより、このインクは、プリンテッドエレクトロニクス(たとえばRFID(無線識別)支持体)、光電池、OLED(有機発光ダイオード)、センサー(たとえばガスセンサー)、タッチスクリーン、バイオセンサーおよび非接触型技術の分野における使用にむけて特に魅力あるものとなる。
【0020】
本発明による化合物「a」は、したがって銀ナノ粒子からなる。
【0021】
本発明の実施形態の変化形によると、本発明の目的は、化合物「a」が、寸法が1から50nmの間、好ましくは2から20nmの間である銀ナノ粒子からなるとき、特に十分に実現される。ナノ粒子のサイズは、安定剤を除いてたとえば透過型電子顕微鏡法により決定された銀を含有する粒子の平均直径として定義される。
【0022】
本発明の実施形態の変化形によると、銀ナノ粒子は、回転楕円形および/または球形である。本発明および添付の請求項について、用語「回転楕円形」は、形が球の形に似ているが完全には丸くない(「準球」)、たとえば楕円体形であることを意味する。ナノ粒子の形状は、一般に顕微鏡で撮影した写真によって特定される。したがって、本発明の実施形態のこの変化形によると、ナノ粒子は、1から50nmの間、好ましくは2から20nmの間の直径を有する。
【0023】
本発明の特定の実施形態によると、銀ナノ粒子は、化学合成によって前もって合成される。いずれの化学合成も本発明の状況において優先的に用いることができる。本発明による好ましい実施形態において、銀ナノ粒子は、銀前駆体として有機または無機の銀塩を用いる化学合成によって得られる。非限定的な例として以下、すなわち単独または混合物の酢酸銀、硝酸銀、炭酸銀、リン酸銀、銀トリフラート(silver trifluorate)、塩化銀、過塩素酸銀が挙げられる。本発明の好ましい変化形によると、前駆体は、酢酸銀である。
【0024】
本発明の好ましい実施形態によると、銀ナノ粒子は、したがって化学合成によって、以下本発明の化合物「c」と呼ばれる分散剤を存在させて還元剤を用いる銀前駆体の還元によって合成される。この還元は、溶媒(以下「合成溶媒」と呼ばれる)を存在させて行うことも存在させないで行うこともできる。合成が溶媒を存在させないで行われるとき、一般に分散剤は分散剤と銀前駆体の溶媒との両方として作用する。例として、溶媒を用いない媒質中でナノ粒子を合成し、本発明による分散物を調製する、特定の例を下記に記載する。
【0025】
溶媒「b」中のナノ粒子の分散物の調製:酢酸銀を含む反応器の中に過剰量の合成分散剤(化合物「c」、たとえばドデシルアミン)を加え、混合物を65℃において30分未満撹拌する。次にこの混合物にヒドラジン還元剤を迅速に加え、混合物全体を大体60分間撹拌する。この混合物をメタノール(またはいずれか適切な他の溶媒、たとえば2から3の炭素原子を有する別の一価アルコール、たとえばエタノール)の添加によって処理し、数回続けて洗浄する間に上清を取り除く(このようにして形成される銀ナノ粒子は、したがって分散物の状態であって液体と接触したままである)。溶媒シクロオクタン(化合物「b」)を加え、残っているメタノールを蒸発させる。次に化合物「d」(用いられる化合物「b」とは異なる分散剤;たとえばオクチルアミン)を加え、この混合物を周囲温度で15分間撹拌する。こうして得た銀ナノ粒子の分散物を、そのまま導電性インクの配合のために用いる。
【0026】
一般に、溶媒を存在させて合成が行われるとき、銀前駆体は、前記合成溶媒に溶解される。この合成溶媒は、好ましくは化合物「b」(以下「分散溶媒」と呼ばれる)とは異なる。合成溶媒は、好ましくは以下の炭化水素の一覧すなわち、
− 例として以下すなわちペンタン(C5H12)、ヘキサン(C6H14)、ヘプタン(C7H16)、オクタン(C8H18)、ノナン(C9H20)、デカン(C10H22)、ウンデカン(C11H24)、ドデカン(C12H26)、トリデカン(C13H28)、テトラデカン(C14H30)、ペンタデカン(C15H32)、セタン(C16H34)、ヘプタデカン(C17H36)、オクタデカン(C18H38)、ノナデカン(C19H40)、エイコサン(C20H42)、シクロペンタン(C5H10)、シクロヘキサン(C6H12)、メチルシクロヘキサン(C7H14)、シクロヘプタン(C7H14)、シクロオクタン(C8H16)(好ましくはそれが化合物「b」として用いられていないとき)、シクロノナン(C9H18)、シクロデカン(C10H20)が挙げられる5から20の炭素原子を有するアルカンと、
− 例として以下すなわちトルエン、キシレン、エチルベンゼン、エチルトルエンが挙げられる7から18の炭素原子を有する芳香族炭化水素と、
− それらの混合物と、
から選ばれる有機溶媒である。
【0027】
本発明の基本的な実施形態によると、銀前駆体に加えて、および合成溶媒に加えて(合成溶媒が用いられるとき)、少なくとも1種の分散剤(化合物「c」)も存在する。
【0028】
合成分散剤と呼ぶことにするこの分散剤は、上記の化合物「c」と対応し、好ましくは本明細書において下記に記載される分散剤の一覧から選ばれる。
【0029】
本発明の好ましい実施形態によると、銀ナノ粒子は、したがって化学合成によって、合成分散剤(化合物「c」)を存在させて還元剤を用いる銀前駆体の還元によって合成され、好ましくはこのすべてが合成溶媒中で行われる。好ましくは、この合成は、本明細書において下記に定義される非限定的な圧力および温度条件で行われる。
【0030】
還元剤は、銀前駆体の還元を可能にする広い範囲の化合物から選ぶことができる。例として、以下の化合物すなわち水素と;例としてNaBH4、LiBH4、KBH4およびテトラブチルアンモニウムボロヒドリドが挙げられる水素化物と;例としてヒドラジン(H2N−NH2)、置換ヒドラジン(メチルヒドラジン、フェニルヒドラジン、ジメチルヒドラジン、ジフェニルヒドラジン等)、ヒドラジン塩(置換)等が挙げられるヒドラジンと;例としてトリメチルアミン、トリエチルアミン等が挙げられるアミンと;それらの混合物と、が挙げられる。
【0031】
一般に、還元ステップ後に、次にナノ粒子は、化学的にも物理的にもナノ粒子に結合していないものをすべて取り除くことができる洗浄/精製ステップに付される。
【0032】
本発明の特定の実施形態によると、銀前駆体の還元のステップの間も、化合物「b」の添加より前のすべてのステップ(たとえば上記の洗浄および精製ステップ)の間も、常に液相が存在する。言い換えると、本発明による好ましい特性は、銀ナノ粒子が単離され、乾燥されることが決してないことである。したがって銀ナノ粒子は、好ましくは銀ナノ粒子が分散している液相(たとえば溶媒)と常に接触したままである。本明細書において先に示したように、この特性は、銀ナノ粒子の特定の特性(単分散、均一さ、安定性および低温でのアニーリング)を著しく向上させることを可能にする。この手法は、ナノ粒子の単離のステップを省略することを可能にし、そのことが製造コストに、ならびに人への衛生および安全性の点で前向きな影響を及ぼす。
【0033】
したがって、本発明による化合物「b」は、シクロオクタン溶媒および/または脂肪酸メチルエステル型の溶媒および/またはテルペン型炭化水素およびテルペン型炭化水素のアルデヒド、ケトンおよび/またはテルペン酸誘導体から選ばれるテルペン溶媒および/または前記溶媒のうち2種以上の混合物からなる。
【0034】
脂肪酸メチルエステル型の溶媒は、好ましくは短い炭化水素鎖;たとえば4から8の間の炭素原子を含む鎖を有するものである。例として以下、すなわちブタン酸メチル、ヘキサン酸メチルおよび/またはオクタン酸メチルが挙げられる。
【0035】
テルペン溶媒は、好ましくはモノテルペン型である。炭化水素ならびに炭化水素のテルペン誘導体(アルデヒド、ケトンおよび酸)、好ましくはテルペン炭化水素が例として挙げられる。例として以下、すなわちリモネン、メントン、カンファー、ミルセンおよび/またはβ−ピネン(betapinene)が挙げられる。
【0036】
したがって、本発明による化合物「c」(合成分散剤)および「d」(分散剤)は、分散剤「d」が用いられる剤「c」とは異なることを特徴とする分散剤からなる。この差異は、異なる化学的性質として表れる。例として、異なる炭素鎖長(たとえば鎖の炭素原子数の少なくとも2の差異)、および/または一方の化合物が直鎖炭素鎖を有し他方は有しない、および/または一方の化合物が環状炭素鎖を有し他方が有しない、および/または一方の化合物が芳香族炭素鎖を有し他方が有しない、が挙げられる。本発明の好ましい実施形態によると、化合物「c」は、化合物「d」のものより少なくとも20%大きな、たとえば少なくとも40%大きな分子量および/または炭素鎖長を有する。
【0037】
これらの分散剤は、少なくとも1つの炭素原子を含む有機分散剤の系統から有利に選ぶことができる。これらの有機分散剤は、1以上の非金属ヘテロ原子、たとえばハロゲン化化合物、窒素、酸素、硫黄、ケイ素も含むことができる。
【0038】
例として以下、すなわちチオールおよびチオールの誘導体、アミンおよびアミンの誘導体(たとえばアミノアルコールおよびアミノアルコールエーテル)、カルボン酸およびカルボン酸のカルボキシラート誘導体、ポリエチレングリコール、および/またはそれらの混合物が挙げられる。
【0039】
本発明の好ましい実施形態において、有機分散剤「c」および「d」は、たとえばプロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、メチルプロピルアミン、エチルプロピルアミン、プロピルブチルアミン、エチルブチルアミン、エチルペンチルアミン、プロピルペンチルアミン、ブチルペンチルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミンまたはそれらの混合物などのアミンからなる群から選ばれる。
【0040】
本発明の好ましい実施形態によると、化合物「b」および「d」は、すでに合成されている銀ナノ粒子に化合物「c」の存在で加えられる。
【0041】
この添加は、本明細書に記載されているように、一般にナノ粒子の洗浄/精製のステップの後に行われる。
【0042】
例として、本発明によるナノ粒子の合成および分散物の調製の特定の例が下記に記載される。
【0043】
溶媒「b」中のナノ粒子の分散物の調製:
【0044】
トルエン中の酢酸銀を入れた反応器の中に合成分散剤(化合物「c」;たとえばドデシルアミン)を加え、この混合物を65℃で少なくとも30分間撹拌する。次にこの混合物にヒドラジン還元剤を迅速に加え、混合物全体を撹拌しながらおよそ60分間放置する。メタノール(または任意の他の適切な溶媒、たとえば2から3の炭素原子を有する別の一価アルコール、たとえばエタノール)の添加によって混合物を処理し、3回続けて洗浄する間に上清を取り除く(このようにして形成された銀ナノ粒子は、したがって分散物の状態であって液体と接触、この場合はメタノールと接触したままである)。シクロオクタン溶媒(化合物「b」)を加え、残留メタノールを蒸発させる。次に、化合物「d」(用いられている化合物「b」とは異なる分散剤−たとえばオクチルアミン)を加え、この混合物を周囲温度で15分間撹拌する。このようにして得られた銀ナノ粒子の分散物をそのまま導電性インクの配合物のために用いる。
【0045】
本発明の好ましい実施形態の変化形によると、用いられるナノ粒子は、好ましくは2から12nmの間であるD50の値(たとえば下記の方法によって測定することができる)を特徴とする。
【0046】
溶媒を存在させて合成したナノ粒子の場合、好ましいD50の範囲は、2から8nmの間となる。溶媒を存在させないで合成したナノ粒子の場合、好ましいD50の範囲は、5から12nmの間となる。
【0047】
このようにして得られる分散物は、そのまま用いてもよく、またはたとえば所望の特性を得るためにインクに組み込む前に希釈してもよい。しかしながら、これは本発明による分散物の著しい利点を表し、前記分散物は、実施例において示されるように優れた安定性(希釈前)を特徴とする。
【0048】
本発明の実施形態によると、銀ナノ粒子の分散物は、
・30重量%より大きな、好ましくは35重量%より大きな、たとえば40重量%より大きな含有率の化合物「a」と、
・20から65重量%の間の、好ましくは40から60重量%の間の含有率の化合物「b」と、
・3から15重量%の間の、好ましくは3から10重量%の間の含有率の化合物「c」と、
・0.1から15重量%の間の、好ましくは0.4から5重量%の間の含有率の化合物「d」と、
を含む。
【0049】
本発明の実施形態によると、銀ナノ粒子の分散物は、その組成物中に追加の化合物も組み込むことができる。さらなる化合物の中で例として溶媒(たとえばエーテル、アルコール、エステル)および/または添加剤(たとえばポリマー)が挙げられ、追加の化合物の目的は、たとえばナノ粒子の分散の改善であってよい。しかし、化合物「a」、「b」、「c」および「d」(上記の割合の範囲内)は、好ましくは最終分散物の少なくとも55重量%、好ましくは少なくとも75重量%、たとえば少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも99重量%を構成し、または最終分散物の100重量%さえ構成する。
【0050】
本発明の実施形態によると、銀ナノ粒子の分散物は、その組成物中に水を組み込まない。しかし、分散物の成分は、成分の純度に応じて痕跡量の水を受け入れることができるので、これら対応する水痕跡量の合計が、本発明による銀ナノ粒子の分散物中で許容されることは当然である。したがって、一般に最終分散物中の含水率は、基本的に分散物の調製のために用いられる溶媒の含水率に依存する。この点で、分散物の最終的な含水率に対して一価アルコール(上記の本発明者らの実施形態の例においては分散物を洗浄するためのメタノール)が−分散物の調製において用いられる他の溶媒と比べて−もっとも大きな影響を及ぼすことになる。本発明の特定の実施形態によると、銀ナノ粒子の分散物は、2重量%未満、好ましくは1重量%未満、たとえば0.5重量%未満、または0.2重量%さえ下回る濃度の水を含む。
【0051】
本発明の好ましい実施形態によると、分散物の配合/調製化合物中に存在することがある痕跡量の水を除いて、銀ナノ粒子の分散物の配合時に水は加えられない。
【0052】
したがって、本発明によるインク中に存在する化合物「e」は、用いられる化合物「b」とは異なる溶媒(シクロオクタンおよび/または脂肪酸メチルエステルおよび/またはテルペン溶媒)からなる。
【0053】
この溶媒化合物「e」は、好ましくは用いられる分散溶媒より高い極性および/または260℃未満の沸点を特徴とする。溶媒化合物「e」は、好ましくはアルコールおよび/またはアルコール誘導体(たとえばグリコールエーテル)の範疇に属する。例として以下、すなわち一価アルコール(たとえばイソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、...)および/またはグリコール(たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール...)、および/またはグリコールエーテル(たとえばグリコールモノまたはジエーテル、その中から例としてエチレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、グライム、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジブチレングリコールジエチルエーテル、ジグライム、エチルジグライム、ブチルジグライムが挙げられる)、および/または酢酸グリコールエーテル(たとえば酢酸2−ブトキシエチル、酢酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールブチルエーテル、酢酸プロピレングリコールメチルエーテル)および/または前記溶媒のうち2種以上の混合物が挙げられる。
【0054】
したがって、本発明による任意選択の化合物「f」は、レオロジー改質剤からなる。以下、すなわちアルキルセルロース、好ましくはエチルセルロース、ニトロセルロース、アルキッド樹脂およびアクリル樹脂、ならびに変性尿素、好ましくはポリ尿素、および/またはそれらの混合物が例として挙げられる。
【0055】
本発明の特定の実施形態によると、インク組成物は、追加の溶媒も含むことができる。この溶媒を溶媒「X」と呼ぶことにし、ナノ粒子合成溶媒の1種以上および/または上記分散溶媒「b」および/または前記溶媒のうち2種以上の混合物から有利に選ぶことができる。この(これらの)追加の溶媒の使用は、化合物「f」が本発明によるインクの組成物中に用いられるとき化合物「f」の使用のために特に有利である。本発明による特定の実施形態によると、溶媒「X」は、用いられる溶媒「b」と同一である。
【0056】
例として、本発明によるインクの調製の特定の例を下記に記載する。溶媒「e」と「X」(ブタノールおよびシクロオクタン)との混合物を有する反応器の中に撹拌しながら周囲温度でポリ尿素型のレオロジー改質剤(化合物「f」)を加える。分散物中の銀ナノ粒子の溶液(化合物「a」、「b」、「c」および「d」の混合物)を加え、全体を周囲温度で15分間撹拌する。
【0057】
本発明の特定の実施形態によると、本発明によって配合されるインクは、60重量%未満、好ましくは5から45%の間、より詳しくは10から40重量%の間のナノ粒子(化合物「a」)の含有率を有する。
【0058】
本発明の実施形態によると、銀インクは、
・60重量%以下であって、好ましくは5重量%より多い、好ましくは10重量%より多い、たとえば20重量%より多い、40重量%さえ上回る含有率の本発明による分散物(化合物「a」、「b」、「c」および「d」を有する)と、
・1から40重量%の間、好ましくは15から30重量%の間の含有率の化合物「e」と、
・20重量%未満、好ましくは0.1から2重量%の間の含有率の化合物「f」と、
・60重量%未満、好ましくは40重量%未満であって、好ましくは5重量%より多い、たとえば15重量%より多い含有率の任意選択の化合物「X」と、
を含む。
【0059】
本発明の実施形態によると、インクは、その組成物中に他の化合物も組み込むことができ、その中で例として添加剤(たとえばシラン系統の添加剤)を挙げることができ、添加剤の目的は、たとえばさまざまな型の機械的な応力に対する抵抗力、たとえば多数の基板への接着を向上させることである。例として以下、すなわちポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(polyethertetphthalate)(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN:polyethylene naphthalate)、ポリアリールエーテルケトン、ポリエステル、熱安定化ポリエステル、ガラス、ITOガラス、AZOガラス、SiNガラスの基板を挙げることができる。
【0060】
しかし、化合物「a」、「b」、「c」、「d」、「e」、「f」および「X」(上記の割合の範囲内の)は、好ましくは最終的なインクの少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%、たとえば少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも99重量%を構成し、または最終的なインクの100重量%さえ構成する。
【0061】
本発明の実施形態によると、インクは、その組成物中に水を組み込まない。しかし、インクの成分は、成分の純度に応じて痕跡量の水を受け入れることができるので、これら対応する痕跡量の水の合計が、本発明によるインク中で当然許容される。したがって、一般に最終的なインク中の含水率は、基本的にインクの調製のために用いられる溶媒の含水率に依存する。この点で、インクの最終的な含水率に対して一価アルコール(上記の本発明者らの実施形態の例においては分散物を洗浄するためのメタノール)が−インクの調製において用いられる他の溶媒と比べて−もっとも大きな影響を及ぼすことになる。本発明の特定の実施形態によると、インクは、2重量%未満、好ましくは1重量%未満、たとえば0.5重量%未満、または0.2重量%さえ下回る濃度の水を含む。
【0062】
本発明の好ましい実施形態によると、インクの配合/調製のための化合物中におそらく存在する痕跡量の水を除いて、インクの配合時に水は加えられない。
【0063】
本発明の実施形態の変化形によると、本発明によるナノ粒子の分散物の調製は、以下すなわち
a.分散剤(化合物「c」)を存在させての還元剤による銀前駆体の還元によって銀ナノ粒子を合成するステップと;
b.ステップ「a」で得られるナノ粒子を洗浄/精製するステップと、
c.化合物「b」および化合物「d」を添加するステップと、
を特徴とする。
【0064】
本発明の好ましい実施形態の変化形によると、これらの調製ステップのすべてにおいて常に液相が存在する。言い換えると、したがって本発明による好ましい特性は、銀ナノ粒子が単離され、乾燥されることが決してない点にある。したがって、銀ナノ粒子は、好ましくは銀ナノ粒子が分散している液相(たとえば溶媒)と常に接触したままである。
【0065】
本発明の好ましい実施形態の変化形によると、ステップ「a」の間、還元剤の添加は、たとえば反応媒質の中に直接挿入されたプランジャーを用いて、液面より下で添加が起こる特性を有するいずれか適切な容器(たとえば反応器)の中で行われる。
【0066】
本発明による分散物の追加の利点は、制約のない圧力および/または温度条件において、たとえば標準条件または周囲条件に近い圧力および/または温度条件において分散物の調製を行うことができるという事実にある。圧力の標準条件または周囲条件から少なくとも40%未満の範囲内にとどまることが好ましく、温度はと言えば、温度は一般に80℃未満、好ましくは70℃未満である。たとえば、本出願人は、分散物の調製時に圧力条件を標準または周囲圧力条件の周りで多くとも30%、好ましくは15%変動する値、好ましくは大気圧に近く維持すると好ましいことに気が付いた。これらの条件を満たすように、分散物を調製するための装置にこれらの圧力および/または温度条件のモニタリングを有利に備えることができる。
【0067】
制約のない条件における分散物の調製と関連のあるこの利点は、前記分散物の使用の促進にもかなり明白に反映される。
【0068】
本発明の実施形態の変化形によると、本発明によるナノ粒子ベースのインクの調製は、以下の逐次的なステップを特徴とする。
a.容器の中に化合物「e」を導入するステップ、および
b.前記容器に本発明による分散物を加えるステップ。
【0069】
このようにして得られるインクは、そのまま用いることもでき、または所望の特性を得るために希釈することもできる。
【0070】
本発明の特定の実施形態によると、インクの組成物中にレオロジー改質剤(化合物「f」)が用いられるとき、前記インク配合物は、好ましくは追加の溶媒(溶媒「X」)を含む。この特定の実施形態において、本発明によるナノ粒子ベースのインクの調製は、以下の逐次的なステップを特徴とする。
a.化合物「e」と化合物「X」との混合物中で化合物「f」を使用するステップ、および
b.本発明による分散物を加えるステップ。
【0071】
本発明によるインクの追加の利点は、制約のない圧力および/または温度条件において、たとえば標準条件または周囲条件に近いかまたは同じ圧力および/または温度条件においてインクの調製を行うことができるという事実からなる。標準または周囲の圧力条件および/または温度条件から40%未満の範囲内にとどまることが好ましい。たとえば、本出願人は、インクの調製時に圧力および/または温度条件を標準または周囲条件の周りで多くとも30%、好ましくは15%変動する値に維持すると好ましいことに気が付いた。したがって、これらの条件を満たすように、インクを調製するための装置にこれらの圧力および/または温度条件のモニタリングを有利に備えることができる。制約のない条件におけるインクの調製と関連のあるこの利点は、前記インクの使用の促進にもかなり明白に反映される。
【0072】
本発明の実施形態によると、このインクは、いずれの印刷方法においても、特にインクジェット、スプレー、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、ドクターブレード、スピンコーティング、およびスロットダイコーティングにおいて有利に用いることができる。
【0073】
したがって、本発明が、多数の他の特定の形の実施形態を可能にし、そのことによって請求されている発明の適用分野から逸脱しないことは、当業者に明らかである。よって、本実施形態は、例であるが、添付の請求項の範囲によって定義される分野の範囲内で改変することができる例であるとみなさなければならない。
【0074】
ここで、下表に一覧を示した配合物によって本発明と本発明の利点とを例示する。本明細書における上記の好ましい実施形態にしたがって分散物を配合し(合成溶媒−トルエンを存在させて)、インク配合物を調製した。用いた化合物を表の2列目に示す。
【0075】
本発明に挙げられるインクのスクエアあたり抵抗は、いずれの適切な方法によっても測定することができる。表に一覧を示した測定値に対応する例として、以下の方法によって有利に測定することができる。
【0076】
スピンコーターによって基板に塗布した(600rpm/3分−たとえばガラス)インクを、熱板または炉を用いるアニール処理に付す。以下の条件においてスクエアあたり抵抗の分析を行う。
参照装置:S302比抵抗スタンド
参照4端子ヘッド:SP4−40045TFY
参照電源:アジレント(Agilent)U8001A
参照マルチメーター:アジレント(Agilent)U3400
測定温度:周囲温度
電圧/抵抗変換係数:4.5324
【0077】
・実施例1(下表の配合物1):ポリイミドまたはポリエステルで1.3μmの厚さの場合に50mΩ/□−150℃/30分。
【0078】
本発明の実施形態の変化形によると、本出願人は、本発明によって得られるインクのスクエアあたり抵抗の値(上記記載のように測定される)が、1μm以上の厚さの場合、好ましくは100mΩ/□未満である(150℃のアニール温度)ことを発見した。この特定のスクエアあたり抵抗特性が、200℃未満という低めのアニール温度の場合に、より詳しくは150℃以下のアニール温度の場合に、向上した伝導率(実施例および測定値において示される)を本発明のインクに付与する。
【0079】
本発明に挙げられる銀ナノ粒子の含有率は、いずれの適切な測定を用いても測定することができる。表に示した測定値に対応する例として、以下の方法によって有利に測定することができる。
熱重量分析
装置:TAインスツルメント(TA Instrument)のTGA Q50
るつぼ:アルミナ
方法:定速昇温
測定範囲:周囲温度から600℃まで
温度上昇:10℃/分
【0080】
本発明に挙げられる銀ナノ粒子のサイズの分布(D50分散値で)は、いずれの適切な方法によっても測定することができる。例として、サイズ分布は、以下の方法、すなわち次の特性を有するマルバーン(Malvern)のナノサイザー(Nanosizer)S装置の使用によって有利に測定することができる。
DLS(動的光散乱(dynamic light scattering))測定法:
− タンクの型:光学ガラス
− 材料:Ag
− ナノ粒子の屈折率:0.54
− 吸収率:0.001
− 分散媒:シクロオクタン
− 温度:20℃
− 粘度:2.133
− 分散媒屈折率:1.458
− 汎用オプション:マーク−ハウウィンク(Mark−Houwink)パラメータ
− 解析モデル:汎用
− 平衡化:120秒
− 測定数:4
【0081】
図1および2は、本発明によるナノ粒子の合成時に得られるDLS(動的光散乱(dynamic light scattering))スペクトルの合成溶媒を用いた場合(図1)と合成溶媒を用いなかった場合(図2)とのそれぞれ一般的な例の代表である。これらのスペクトルは、銀ナノ粒子のサイズの数値(nm)に対する粒度分布のスペクトルを示す。
図1−D50:5.6nm
図2−D50:8.0nm
【0082】
D50は、数で銀ナノ粒子の50%がそれより小さい直径である。この値は、粒子の平均サイズを表すとみなされる。
【0083】
本発明に挙げられるインクの粘度は、いずれの適切な方法によっても測定することができる。例として、インクの粘度は、以下の方法によって有利に測定することができる。
装置:TAインスツルメント(TA Instrument)のレオメータ(Rheometer)AR−G2
コンディショニング時間:配合物1、2および3は1分、配合物4は30分
試験型式:連続増加
増加変数:ずり速度(1/s)
範囲:0.001から40(1/s)まで
時間:5分
モード:線形
測定:10秒ごと
温度:20℃
曲線再処理方法:ニュートン性
再処理区域:曲線全体
【0084】
【表1】

図1
図2
【国際調査報告】