(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-505789(P2017-505789A)
(43)【公表日】2017年2月23日
(54)【発明の名称】リンパ脈管筋腫症の治療のためのラパマイシン
(51)【国際特許分類】
A61K 31/436 20060101AFI20170203BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20170203BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20170203BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20170203BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20170203BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20170203BHJP
A61K 47/50 20170101ALI20170203BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20170203BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20170203BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20170203BHJP
A61K 9/50 20060101ALI20170203BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20170203BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20170203BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20170203BHJP
A61K 31/4196 20060101ALI20170203BHJP
A61K 31/138 20060101ALI20170203BHJP
A61K 31/366 20060101ALI20170203BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20170203BHJP
A61K 31/517 20060101ALI20170203BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20170203BHJP
【FI】
A61K31/436
A61K9/12
A61K9/14
A61K47/26
A61K47/36
A61K47/10
A61K47/48
A61K47/24
A61K47/34
A61P43/00 111
A61K9/50
A61K45/00
A61P11/00
A61P35/00
A61K31/4196
A61K31/138
A61K31/366
A61K31/506
A61P43/00 121
A61K31/517
A61K47/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】64
(21)【出願番号】特願2016-551215(P2016-551215)
(86)(22)【出願日】2015年2月10日
(85)【翻訳文提出日】2016年10月7日
(86)【国際出願番号】US2015015266
(87)【国際公開番号】WO2015123219
(87)【国際公開日】20150820
(31)【優先権主張番号】61/938,282
(32)【優先日】2014年2月11日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/060,970
(32)【優先日】2014年10月7日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】516104157
【氏名又は名称】ラム・セラピューティクス,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100128750
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 しのぶ
(72)【発明者】
【氏名】アーマー,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】メルヴィン,ローレンス・エス
(72)【発明者】
【氏名】ロスバーグ,ジョナサン・エム
(72)【発明者】
【氏名】リチェンステイン,ヘンリ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA24
4C076AA30
4C076AA61
4C076BB27
4C076CC15
4C076CC27
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(57)【要約】
本発明は、リンパ脈管筋腫症の治療を必要とするヒト対象におけるリンパ脈管筋腫症を治療するための方法および組成物に関する。この方法は、対象に吸入を介してラパマイシンまたはそのプロドラッグもしくは誘導体(類似物を含む)を含むエアロゾル組成物を投与する工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺送達のための乾燥粉末の形態の医薬エアロゾル配合物であって、一定量のラパマイシン組成物のマイクロ粒子、担体の粒子、および1種または複数の任意選択の賦形剤を含み、ここで当該配合物は治療量のラパマイシン組成物を肺に送達するのに有効である、前記医薬エアロゾル配合物。
【請求項2】
治療量が送達後少なくとも12または24時間持続する、請求項1に記載のエアロゾル配合物。
【請求項3】
送達の12または24時間後のラパマイシン組成物の肺対血中濃度比が、少なくとも100、少なくとも250、または少なくとも500である、請求項2に記載のエアロゾル配合物。
【請求項4】
配合物中のラパマイシン組成物の量が、5から500マイクログラム、10から250マイクログラム、15から150マイクログラム、または20から100マイクログラムである、請求項1から3のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物。
【請求項5】
エアロゾル配合物中のラパマイシン組成物の量が、組成物の総重量に対して約0.1%から20%(w/w)または約0.25%から2%(w/w)である、請求項1から3のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物。
【請求項6】
エアロゾル配合物中のラパマイシン組成物の量が、1ng/gから1マイクログラム(μg)/gの肺組織中薬物濃度をもたらすのに有効な量である、請求項1から5のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物。
【請求項7】
肺組織中薬物濃度が、約5ng/g、約10ng/g、約15ng/g、約20ng/g、約25ng/g、約50ng/g、約100ng/g、または約200ng/gである、請求項6に記載のエアロゾル配合物。
【請求項8】
エアロゾル配合物中のラパマイシン組成物の量が、対象において、5ng/ml未満、2ng/ml未満、1ng/ml未満、0.5ng/ml未満、または0.25ng/ml未満の血中トラフレベルをもたらす量である、請求項1から7のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物。
【請求項9】
マイクロ粒子が、0.1から10ミクロンの直径および1から5ミクロンの平均直径を有する粒子からなる、請求項1から8のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物。
【請求項10】
粒子が、1.5から4ミクロン、1.5から3.5ミクロン、または2から3ミクロンの平均直径を有する、請求項9に記載のエアロゾル配合物。
【請求項11】
担体が、アラビノース、グルコース、フルクトース、リボース、マンノース、スクロース、トレハロース、ラクトース、マルトース、デンプン、デキストラン、マンニトール、リジン、ロイシン、イソロイシン、ジパルミトイル(dipalmityl)ホスファチジルコリン、レシチン、ポリ乳酸、ポリ(乳酸−co−グルタミン酸)、およびキシリトール、または前述のいずれかの混合物からなる群から選択される、請求項1から10のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物。
【請求項12】
担体の粒子が、1から200ミクロン、30から100ミクロン、または10ミクロン未満の範囲の直径を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物。
【請求項13】
担体が、2種の異なる担体、第1の担体および第2の担体のブレンドを含むか、またはそれからなる、請求項1から12のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物。
【請求項14】
担体が、2種の異なるラクトース担体のブレンドからなる、請求項13に記載のエアロゾル配合物。
【請求項15】
第1の担体が、約30〜100ミクロンの範囲の直径を有する粒子からなり、第2の担体が、10ミクロン未満の直径を有する粒子からなる、請求項13または14に記載のエアロゾル配合物。
【請求項16】
2種の異なる担体の比が、95〜98から2〜5の範囲である、請求項15に記載のエアロゾル配合物。
【請求項17】
粉末中の薬物対担体比が、0.5%から2%(w/w)である、請求項1から16のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物。
【請求項18】
粉末中の薬物対担体比が1%(w/w)である、請求項17に記載のエアロゾル配合物。
【請求項19】
1種または複数の任意選択の賦形剤が存在し、リン脂質および脂肪酸の金属塩から選択される、請求項1から18のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物。
【請求項20】
リン脂質が、ジパルミトイル(dipalmityl)ホスファチジルコリンおよびレシチンから選択される、請求項19に記載のエアロゾル配合物。
【請求項21】
脂肪酸の金属塩が、ステアリン酸マグネシウムである、請求項20に記載のエアロゾル配合物。
【請求項22】
任意選択の1種または複数の賦形剤が、0.01%から0.5%の範囲の賦形剤対大きな担体粒子の重量比で担体粒子上にコーティングされる、請求項19から21のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物。
【請求項23】
薬物の量が、mTORC1の生物学的活性を阻害するのに有効な量である、請求項1から22のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物。
【請求項24】
薬物の量が、S6タンパク質のリン酸化を阻害するのに有効な量である、請求項1から22のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物。
【請求項25】
薬物の量が、対象におけるリンパ脈管筋腫症(LAM)を治療するのに有効な量である、請求項1から22のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物。
【請求項26】
薬物の量が、肺に送達される5から500マイクログラムの呼吸用量を達成するのに有効な量である、請求項1から25のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物。
【請求項27】
呼吸用量が、約5、約20、約50、約100または約250マイクログラムである、請求項26に記載のエアロゾル配合物。
【請求項28】
組成物が、20%を超える微粒子画分(FPF)を有し、対応する微粒子用量(FPD)が、1から12ヶ月または1から36ヶ月保存後に5マイクログラムから2ミリグラムの範囲、好ましくは0.5ミリグラム未満である、請求項1から27のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物。
【請求項29】
ラパマイシン組成物がシロリムスである、請求項1から28のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物。
【請求項30】
1種または複数の追加の治療剤をさらに含む、請求項1から29のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物。
【請求項31】
1種または複数の追加の治療剤が、エストロゲンアンタゴニスト、スタチン、src阻害剤、およびVEGF−R阻害剤から選択される、請求項30に記載のエアロゾル配合物。
【請求項32】
1種または複数の追加の治療剤が、レトロゾール、タモキシフェン、シンバスタチン、サラカチニブ、パゾパニブ、イマチニブ、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項31に記載のエアロゾル配合物。
【請求項33】
組成物が、努力肺活量(FVC)および努力呼気肺活量(FEV1)により測定される対象の肺機能を改善するのに有効な薬物の量を送達する、請求項1から32のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物。
【請求項34】
組成物が、放射線検査により検出可能な胸水のサイズまたは量を低減するのに有効な薬物の量を送達する、請求項1から33のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物。
【請求項35】
組成物が1日1回の投与の適する、請求項1から34のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物。
【請求項36】
薬物の水性懸濁液を調製する工程と、薬物懸濁液をマイクロ流動化にかける工程と、得られた粒子を噴霧乾燥して乾燥粉末を形成する工程とを含む、湿式研磨プロセスにより製造される、請求項1から35のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物。
【請求項37】
請求項1から36のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物を含むリンパ脈管筋腫症を治療するための単位剤形であって、ラパマイシン組成物の量が、約5から2500マイクログラム、20から500マイクログラム、または50から150マイクログラムである、前記単位剤形。
【請求項38】
薬物の量が約20から100マイクログラムである、請求項37に記載の単位剤形。
【請求項39】
乾燥粉末吸入器デバイスにおける使用に好適なカプセル剤である、請求項37または38に記載の単位剤形。
【請求項40】
カプセル剤が1mgから100mgの粉末を含有する、請求項37から39のいずれか一項に記載の単位剤形。
【請求項41】
カプセル剤が10mgから40mgの粉末を含有する、請求項40に記載の単位剤形。
【請求項42】
カプセル剤が、ゼラチン、プラスチック、ポリマーもしくはセルロースカプセル剤であるか、またはホイル/ホイルもしくはホイル/プラスチックブリスター剤の形態である、請求項37から41のいずれか一項に記載の単位剤形。
【請求項43】
請求項1から36のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物または請求項37から42のいずれか一項に記載の単位剤形と、使用説明書とを含む医薬パッケージまたはキット。
【請求項44】
請求項1から36のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物または請求項37から42のいずれか一項に記載の単位剤形を含有するリザーバーを含む乾燥粉末送達デバイス。
【請求項45】
リザーバーが、デバイス内の一体型チャンバー、カプセル剤、またはブリスター剤である、請求項44に記載の乾燥粉末送達デバイス。
【請求項46】
Plastiape(登録商標) RS01 Model 7、Plastiape(登録商標) RS00 Model 8、XCaps(登録商標)、Handihaler(登録商標)、Flowcaps(登録商標) TwinCaps(登録商標)、およびAerolizer(登録商標)から選択される、請求項44または45に記載の乾燥粉末送達デバイス。
【請求項47】
リンパ脈管筋腫症の治療を必要とするヒト対象においてリンパ脈管筋腫症を治療するための方法であって、対象に吸入を介して請求項1から36のいずれか一項に記載のエアロゾル配合物または請求項37から42のいずれか一項に記載の単位剤形を投与する工程を含む、方法。
【請求項48】
治療レジメンまたは併用療法において単位剤形のエアロゾル配合物とともに少なくとも1種の追加の薬剤を投与する工程をさらに含む、請求項47に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[01]本発明は、リンパ脈管筋腫症の予防および治療のための、好ましくは吸入による肺送達のためのラパマイシンを含む方法および医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
[02]リンパ脈管筋腫症(LAM)は、結節性硬化症(TSC)に罹患した女性の30〜40%が発症する多臓器疾患であり、肺に異常増殖する異常平滑筋様細胞の広範な増殖を特徴とする致死性の高い疾患である。これらの細胞(LAM細胞と呼ばれる)の増殖は、肺における嚢胞および体軸リンパ管(axial lymphatics)における液で満たされた嚢胞構造(リンパ脈管筋腫症と呼ばれる)の形成をもたらす。結果は、肺実質の進行性嚢胞性破壊、リンパ管、気道の閉塞、および進行性呼吸不全である。加えて、LAM細胞は腫瘍を形成しうる。これらは一般に、血管筋脂肪腫と呼ばれる緩慢に成長する過誤腫である。腎血管筋脂肪腫は、LAM患者において腎不全をもたらしうる。LAM細胞の異常増殖は、結節性硬化症腫瘍抑制遺伝子、TSC1またはTSC2のうちの1つにおける不活性化変異により、少なくとも部分的に引き起こされる。TSC遺伝子は、ラパマイシンの哺乳類標的(mTOR)の負の調節因子である。mTOR経路は、細胞増殖、代謝、および細胞生存にとって重要な制御点である。TSC遺伝子の不活性化の結果として、LAM細胞は、mTORおよびmTOR経路における多くの他のキナーゼ、たとえばAkt、およびS6Kの構成的活性化を示す。
【0003】
[03]LAMは一般に、出産年齢の女性に発症するが、男性にも発症する。それは、TSCを有する女性において最もよく見られる一方で、TSCの臨床症状を有しない人にも、TSC1またはTSC2腫瘍抑制遺伝子における生殖細胞系列変異を有しない人と並んで発症する。これらの症例は、散発性LAMと呼ばれる。したがって、LAMは、散発性、非遺伝性の形態として、結節性硬化症と関連するものと並んで発症しうる。
【0004】
[04]LAMは緩徐に進行しうるとはいえ、それは最終的には、呼吸不全および死をもたらす。症状の発症10年後に、患者の55%が息切れをし、20%が酸素吸入し、10%が死亡している。たとえば、Johnson ら 2004 Thorax. Survival and disease progression in UK patients with lymphangioleiomyomatosisを参照のこと。現在認可されているLAMの治療または予防のための薬物は存在しない。主要な治療の選択肢には、経口ラパマイシン(シロリムス、臓器拒絶反応の予防および腎移植用にFDAに認可されている、下を参照のこと)の適応外使用、または経口エベロリムスの適応外使用が含まれる。
【0005】
[05]ラパマイシンは、ストレプトマイセス・ハイグロスコピクス(Streptomyces hygroscopicus)により生成される大環状トリエン抗生物質である。たとえば、米国特許第3,929,992号を参照のこと。ラパマイシンは、mTORの阻害剤である。ラパマイシンの免疫抑制および抗炎症特性は、最初は、移植分野および自己免疫疾患の治療におけるその使用が示唆された。たとえば、それは、アルブミンアレルギー誘発に反応する液性(IgE様)抗体の形成を防止し、マウスT細胞活性化を阻害し、組織不適合性げっ歯類動物における臓器移植片の生存期間を延長することが示された。自己免疫疾患のげっ歯類動物モデルにおいて、それは、全身性エリテマトーデス、コラーゲン誘導関節炎、自己免疫性I型糖尿病、自己免疫性心筋炎、実験的アレルギー性脳脊髄炎、移植片対宿主病、および自己免疫性網膜ぶどう膜炎に伴う免疫媒介性事象を抑制する。
【0006】
[06]ラパマイシンはまた、そのジェネリック医薬品名で、シロリムスとも呼ばれる(たとえば、ANDA #201578、Dr. Reddys Labs Ltd.による、2013年5月28日認可を参照のこと)。シロリムスは、臓器拒絶反応の予防および腎移植用にFDAに認可され、Wyeth(Pfizer)によりRAPAMUNEの商品名で米国で市販されている。それは、経口液剤(1mg/ml)または錠剤(複数の強度)の形態である。Wyeth(Pfizer)はまた、TORISEL(テムシロリムス)の商品名で、進行性腎細胞癌の治療用の誘導体を市販し、これは静脈内投与される。テムシロリムスは、シロリムスの水溶性プロドラッグである。Johnson&Johnsonの一部門であるCordisは、シロリムス溶出冠動脈ステントをCYPHERの商品名で市販する。この文脈において、シロリムスの抗増殖性効果は、バルーン血管形成後の冠動脈における再狭窄を防止する。Berg ら(Novartis)のUS 2010/0305150は、神経皮膚疾患、たとえば結節性硬化症を含むTSCにより媒介されるもの、ならびに神経線維腫症1型(NF−1)により媒介されるものを治療および予防するためのラパマイシン誘導体を記載する。ラパマイシンおよびその誘導体は、Nishimura,T. ら (2001) Am. J. Respir. Crit. Care Med. 163:498−502ならびに米国特許第6,384,046号および第6,258,823号にさらに記載されている。
【0007】
[07]臨床的に認可された文脈におけるラパマイシンの使用は、複数の既知の副作用、たとえば肺毒性(RAPAMUNEのラベルは、それが肺移植患者に適応されないと警告する)、癌リスクの増加、および糖尿病様症状を有する。ラパマイシンは、通常は間質肺炎の形態の肺毒性の発症と関連するが、肺胞タンパク症もまた記述されてきた。たとえば、Nocera ら、Sirolimus Therapy in Liver Transplant Patients: An Initial Experience at a Single Center,Transplantation Proceedings (2008),40(6),1950−1952;Perez ら、Interstitial Pneumonitis Associated With Sirolimus in Liver Transplantation: A Case Report,Transplantation Proceedings (2007),39(10),3498−3499;Hashemi−Sadraei ら、Sirolimus−associated diffuse alveolar hemorrhage in a renal transplant recipient on long−term anticoagulation,Clinical Nephrology (2007),68(4),238−244;Pedroso ら、Pulmonary alveolar proteinosis − a rare pulmonary toxicity of sirolimus,Transplant International (2007),20(3),291−296.を参照のこと。ラパマイシン誘導性肺毒性の原因は知られていない。
【0008】
[08]重症の呼吸有害事象もまた、シロリムスの使用と関連づけられてきた。なぜなら、長期投与下の抗癌療法は、1ナノグラム/mLを超える範囲の循環血中濃度をもたらすからである。たとえば、シロリムスプロドラッグの肺毒性が、2009年の報告において記述され、これは、「間質性肺疾患は、腎臓癌患者におけるテムシロリムス治療のまれな副作用である」と述べている。Aparicio ら、Clinical & Translational Oncology (2009),11(8),499−510;Vahid ら、Pulmonary complications of novel antineoplastic agents for solid tumors,Chest (2008) 133:528−538。加えて、2012年のメタアナリシスは、テムシロリムスまたはエベロリムスを投与された癌患者の10%が、生活の質の悪化、いくつかの場合には治療の中断を伴う、軽度の毒性を経験しうると結論づけた。Iacovelli ら、Incidence and risk of pulmonary toxicity in patients treated with mTOR inhibitors for malignancy. A meta−analysis of published trials,Acta oncologica (2012),51(7),873−879を参照のこと。さらに、テムシロリムスを投与されたラットにおいて実施された安全性薬理学研究は、呼吸数の減少を、肺胞マクロファージ浸潤および肺における炎症とともに示した(US FDAウェブサイトから入手可能なテムシロリムスについてのPharmacology Review NDA 22088を参照のこと)。これらの副作用は、全身投与の結果として循環血液量中の薬物濃度が相対的に高い条件下で観察された。
【0009】
[09]その肺に対する潜在的な毒性にもかかわらず、経口投与されるラパマイシンは、潜在的LAM治療法として予備的な有望さを示してきた。New Eng. J. Medicine 364:1595−1606 (2011) and review by Hammes and Krymskaya, Horm. Cancer 4(2):70−7 (2013)を参照のこと;Ando ら Respir Investig. 51(3):175−8 (2013) “The efficacy and safety of low−dose sirolimus for treatment of lymphangioleiomyomatosis”もまた参照のこと。だが、臨床的証拠はまた、この文脈におけるラパマイシンの限界ならびにLAMの治療のための改善された治療法および治療レジメンの必要性を示す。ラパマイシンの主な限界は、薬物の長期使用を必要とすることであり、最も重要なのは、ラパマイシンが(潜在的肺毒性に加えて)他の有害事象と関連づけられることである。たとえば、20人の患者において完了した24ヶ月の非ランダム化非盲検治験において、経口投与されたシロリムスを、TSCまたは散発性LAMに罹患した患者に腎不全をもたらしうる緩やかに成長する過誤腫である、血管筋脂肪腫を低減するその能力について試験した。Bissler ら (2008) Sirolimus for angiomyolipoma in tuberous sclerosis complex or lymphangioleiomyomatosis. N Engl J Med 358(2):140−151。その研究において、血管筋脂肪腫は、治療期間中に「やや」退縮したが、治療停止後に増加する傾向にあった。シロリムスと関連づけられる重症の有害事象には、下痢、肺炎、腎盂腎炎、蜂巣炎(動物咬傷による)、口内炎、および腎血管筋脂肪腫の出血が含まれる。投薬は、腎移植患者における拒絶反応を予防すると考えられる血清標的レベルに基づいており、1から15ng/mlの範囲だった(血中シロリムスレベル)。別の同様の研究(フェーズ2、非ランダム化非盲検治験)において、TSCまたは散発性LAMに罹患した16人の患者を、経口シロリムスで2年までの間治療した。Davies ら (2011) Sirolimus therapy for angiomyolipoma in tuberous sclerosis and sporadic lymphangioleiomyomatosis: a phase 2 trial. Clin Cancer Res 17(12):4071−4081。その研究において、シロリムスの定常状態血中レベルは3〜10ng/mlであり、患者の半数超が3〜6ng/mlの維持レベルに維持された。シロリムス治療は、腎血管筋脂肪腫の持続的な退縮を示した。しかしながら、腫瘍反応は治療の継続とともに維持された一方で、治療の第2年中にさらなる縮小はほとんど生じなかった。シロリムスと関連づけられる有害事象には、口腔粘膜炎、呼吸器感染、およびタンパク尿が含まれた。進行が記録された10人のLAM患者の別の研究において、重症再発性下気道感染またはシロリムス誘導性肺炎のため、シロリムスは3人の患者において中止された。Neurohr ら、Is sirolimus a therapeutic option for patients with progressive pulmonary lymphangioleiomyomatosis? Respiratory Research (2011),12:66。その研究は、「シロリムスは、急速に衰弱するLAM患者における治療の選択肢と考えられるかもしれない」と結論づけたが、その「投与は、何人かの患者において治療中止を必要とする重症呼吸器有害事象と関連づけられるかもしれない」のであり、「シロリムスの中止は肺移植の前には必須である」と指摘した。最後に、12ヶ月のランダム化された、二重盲検の89人の患者の臨床治験が実施され、46人の患者がLAMに罹患しており、その後12ヶ月の観察期間が置かれた。McCormack ら (2011) Efficacy and safety of sirolimus in lymphangioleiomyomatosis. N Engl J Med 364:1595−1606。患者を5〜15ng/mlのシロリムス血中レベルに維持した。この研究において、シロリムス治療は肺機能を安定化し、血清中VEGF−Dレベルを減少させ、症状の減少および生活の質の改善と関連づけられた。だが、肺機能の安定化は、継続的な治療を必要とした。重要なことに、これら臨床研究のすべてが、シロリムスの経口配合物を利用した。これはなぜなら、肺への直接送達のためのラパマイシンのエアロゾル配合物は、上で引用した論文により例示されるとおり、ラパマイシンのよく知られている肺毒性を鑑みると、成功する見込みがかなり低いと考えられるからである。
【0010】
[10]2013年に公開されたLehrerによる米国特許出願は、「ラパマイシン(シロリムス)は、そのよく記述されている肺毒性、間質肺炎ゆえに、安全に吸入できない」という見解を反映する。Chhajed ら (2006) 73:367−374を引用するUS 20130004436を参照のこと。Lehrerの特許出願は、肺癌およびリンパ脈管筋腫症を治療および予防するための組成物および方法に関する。いくつかの以前の刊行物、たとえば米国特許第5,080,899号(1991年2月出願)および米国特許第5,635,161号(1995年6月出願)は、吸入による送達のために配合されたラパマイシンについての何らかの包括的記載を含むとはいえ、かかる包括的記載は、いかなる証拠によってもサポートされておらず、上で論じた報告により明らかなとおり、移植の文脈における免疫抑制剤および抗癌の文脈における細胞増殖の阻害剤としてのラパマイシンのより広範な採用後に現れた、多くのラパマイシン誘導性肺毒性の発生報告前になされた。
【0011】
[11]WO 2011/163600は、ラパマイシンと同様にマクロライドラクトンであるタクロリムスのエアロゾル配合物を記載する。だが、タクロリムスは、シロリムスとは区別される化学物質であり、タクロリムスの分子標的は、mTORではなくカルシニューリンであり、ラパマイシンとは異なり、タクロリムスは肺毒性を示さなかったのであり、実際に、肺移植後の拒絶反応の予防に適応される。
【0012】
[12]ラパマイシン誘導性肺毒性の潜在的可能性が広範に認識されていたことを鑑みると、LAMの治療における肺送達のためのラパマイシンを含む医薬組成物は、ヒトにおいて実行可能な治療の選択肢であるとは考えられなかった。
【0013】
[13]吸入による薬物の肺への送達は、嚢胞性線維症、肺炎、気管支喘息および慢性閉塞性肺疾患のような一般的な局所性病態、ホルモン置換、疼痛管理、免疫不全、赤血球生成、糖尿病、肺癌等を含むいくつかの全身性病態を含む、様々な病態の治療の重要な手段である。Yi ら J. Aerosol Med. Pulm. Drug Deliv. 23:181−7 (2010)による概説を参照のこと。吸入による肺癌の治療に適応される薬剤には、シスプラチン、カルボプラチン、タキサン、およびアントラサイクリンが含まれる。たとえば、米国特許第6,419,900号;第6,419,901号;第6,451,784号;第6,793,912号;ならびに米国特許出願公開番号US 2003/0059375およびUS 2004/0039047を参照のこと。加えて、吸入により投与されるドキソルビシンおよびテモゾロマイドが、肺転移の治療のために提案されてきた。たとえば、米国特許第7,288,243号および米国特許出願公開第2008/0008662号を参照のこと。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
[22]本発明は、部分的に、動物研究において肺に直接送達されたときの、ラパマイシンの驚くべき薬物動態の発見に基づく。以下に論じる結果は、吸入によるラパマイシンの肺への送達が、顕著に高い肺組織中薬物濃度を、先行研究から予測可能なよりも予想外に高い量で、代替投与経路、たとえば経口または静脈内投与により達成されうるよりも有意に高い肺対血液比とともに生じさせたことを示す。ここに記載される結果は、吸入を介した肺へのラパマイシンの投与が、薬物に対するきわめて低い全身曝露と組み合わされた、肺における治療有効量の薬物を達成するのに必要とされる低用量のラパマイシンを提供し、ラパマイシンについて顕著に改善した治療指数をもたらすことを実証する。
【0015】
[23]一態様において、本発明は、肺の疾患および障害の有効な局所治療および予防を提供するために、好ましくは吸入により、肺に直接送達されるラパマイシンの医薬配合物、そのプロドラッグ、誘導体および類似体の必要性に対処する。一態様において、疾患または障害は、mTORシグナル伝達経路の不適切な活性により増強されたものである。かかる局所治療は、毒性および有害事象、たとえば薬物の全身送達により生じる血中ラパマイシン濃度の上昇と関連づけられるものを減少または除去する。
【0016】
[24]本発明は、肺への直接送達のためのラパマイシン組成物を提供する。本明細書において使用される「ラパマイシン組成物」という用語は、好ましくはシロリムスと記述されるアモルファス形態の、ラパマイシン自体、またはそのプロドラッグ、もしくは誘導体を指してもよい。一実施形態において、本発明のラパマイシン組成物は、肺組織に対して低毒性でまたは毒性なしに、同時に約1ng/ml未満であるラパマイシンの血中レベルを伴う、肺におけるmTORシグナル伝達を阻害するのに有効な量のラパマイシンを提供する。一実施形態において、本発明のラパマイシン組成物は、高い治療指数により明らかなとおり、とりわけその長期または持続的使用に関して、ラパマイシンの他の剤形、たとえば経口または静脈内投与剤形と比較して、改善した安全性プロファイルを提供する。
【0017】
[25]一実施形態において、本発明は、それを必要とする対象に、ラパマイシン組成物を含む医薬エアロゾル配合物を、治療血中レベル未満の組成物と組み合わされた、肺における治療レベルの組成物を達成するのに有効な量で投与することによる、LAMの治療および予防のための組成物および方法を提供する。一実施形態において、対象は、LAMの治療を必要とするヒト対象である。本発明の組成物は、単独で、またはLAMの治療のための1つもしくは複数の追加の治療法または治療レジメンと組み合わせて使用できる。加えて、本明細書において提供される組成物は、ラパマイシン、またはそのプロドラッグもしくは誘導体を、組成物中の唯一の治療剤として含んでいてもよく、または、ラパマイシンは、単一の剤形において1種または複数の追加の治療剤とともに配合できる。
【0018】
[26]一実施形態において、本発明は、ラパマイシン組成物を含む医薬エアロゾル配合物を、治療血中レベル未満の組成物と組み合わされた、肺における治療レベルの組成物を達成するのに有効な量で提供する。この文脈において、「エアロゾル配合物」という用語は、以下により詳細に記載のとおり、水性組成物、乾燥粉末組成物、または噴霧剤ベース組成物を指してもよい。エアロゾル配合物は、様々な仕方で、たとえば経鼻的または経口的に、たとえば吸入により、対象に送達できる。一実施形態において、治療レベルは、送達の12または24時間後、好ましくは送達の24時間後に決定される。一実施形態において、肺における治療レベルは、少なくとも送達後24時間持続する。一実施形態において、送達の24時間後の組成物の肺対血中濃度比は、少なくとも100、少なくとも250、または少なくとも500である。一実施形態において、送達の24時間後の組成物の肺対血中濃度比は、約100から250、250から500、500から750、または750から1000である。一実施形態において、送達の24時間後の組成物の肺対血中濃度比は、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、または少なくとも100である。
【0019】
[27]一実施形態において、エアロゾル配合物中のラパマイシン組成物の量は、5から500マイクログラム、10から250マイクログラム、15から150マイクログラム、または20から100マイクログラムである。一実施形態において、エアロゾル配合物中のラパマイシン組成物の量は、20マイクログラムである。一実施形態において、エアロゾル配合物中のラパマイシン組成物の量は、40マイクログラムである。一実施形態において、エアロゾル配合物中のラパマイシン組成物の量は、50マイクログラムである。一実施形態において、エアロゾル配合物中のラパマイシン組成物の量は、100マイクログラムである。一実施形態において、エアロゾル配合物中のラパマイシン組成物の量は、125マイクログラムである。一実施形態において、エアロゾル配合物中のラパマイシン組成物の量は、250マイクログラムである。
【0020】
[28]一実施形態において、ラパマイシン組成物は、シロリムスである。一実施形態において、ラパマイシン組成物は、エベロリムス、テムシロリムス、リダフォロリムス、ウミロリムス、およびゾタロリムスからなる群から選択される。
【0021】
[29]一実施形態において、エアロゾル配合物は、吸入による送達に好適な乾燥粉末組成物である。一実施形態において、乾燥粉末は、マイクロ粒子、担体の粒子、および1種または複数の任意選択の賦形剤の形態で、ラパマイシン組成物を含む。一実施形態において、マイクロ粒子は、約0.1から10ミクロンまたは約1から5ミクロンの平均直径を有する薬物の粒子からなる。一実施形態において、粒子は、約1.5から4ミクロン、約1.5から3.5ミクロン、または約2から3ミクロンの平均直径を有する。担体は、アラビノース、グルコース、フルクトース、リボース、マンノース、スクロース、トレハロース、ラクトース、マルトース、デンプン、デキストラン、マンニトール、リジン、ロイシン、イソロイシン、ジパルミトイル(dipalmityl)ホスファチジルコリン、レシチン、ポリ乳酸、ポリ(乳酸−co−グルタミン酸)、およびキシリトール、ならびに前述のいずれかの混合物からなる群から選択されてもよい。一実施形態において、担体は、2種の異なる担体のブレンドを含むか、またはそれからなる。担体の粒子は、200ミクロンまで、30から100ミクロン、または10ミクロン未満の範囲の直径を有してもよい。担体が2種の異なる担体のブレンドからなる場合、各担体は、平均粒径として測定される異なるサイズ範囲の粒子からなる。一実施形態において、担体は、2種の異なる担体、第1の担体および第2の担体のブレンドからなる。第1の担体は、約30〜100ミクロンの範囲の直径を有する粒子からなり、第2の担体は、10ミクロン未満の直径を有する粒子からなる。2種の異なる担体の比は、3:97から97:3の範囲である。一実施形態において、2種の異なる担体の比は、97:3または95〜98:2〜5の範囲である。一実施形態において、担体は、2種の異なるラクトース担体のブレンドからなる。粉末中の薬物対担体比は、0.5%から2%(w/w)であってもよい。一実施形態において、粉末中の薬物対担体比は1%(w/w)である。
【0022】
[30]エアロゾル配合物中のラパマイシン組成物の量は、組成物の総重量に対して約0.1%から20%(w/w)である。一実施形態において、量は、約0.25%から2%(w/w)である。
【0023】
[31]一実施形態において、1種または複数の任意選択の賦形剤が組成物中に存在し、それは、リン脂質および脂肪酸の金属塩、ならびに前述のものの混合物から選択される。一実施形態において、リン脂質は、ジパルミトイルホスファチジルコリンおよびレシチンから選択される。一実施形態において、脂肪酸の金属塩は、ステアリン酸マグネシウムである。一実施形態において、1種または複数の賦形剤は、0.01%から0.5%の範囲の賦形剤対大きな担体粒子の重量比で担体粒子上にコーティングされる。
【0024】
[32]一実施形態において、エアロゾル配合物中のラパマイシン組成物の量は、mTORC1の生物学的活性を阻害するのに有効な量である。一実施形態において、量は、S6Kタンパク質のリン酸化を阻害するのに有効な量である。
【0025】
[33]一実施形態において、エアロゾル配合物中のラパマイシン組成物の量は、肺に送達される5から500マイクログラムの呼吸用量を達成するのに有効な量である。一実施形態において、呼吸用量は、約5、約20、約50、約100または約250マイクログラムである。一実施形態において、呼吸用量は、約20マイクログラム、約50マイクログラム、または約100マイクログラムである。一実施形態において、量は、1ng/gから1マイクログラム(μg)/gの肺組織中ラパマイシン組成物濃度をもたらすのに有効な量である。一実施形態において、ラパマイシン組成物の肺組織中濃度は、約5から30ng/gである。一実施形態において、肺組織中濃度は、約5ng/g、約10ng/g、約15ng/g、約20ng/g、約25ng/g、約30ng/g、約50ng/g、約60ng/g、約100ng/g、または約200ng/gである。前述の実施形態によれば、同時に、ラパマイシン組成物の血中トラフレベルは、5ng/ml未満、2ng/ml未満、1ng/ml未満、0.5ng/ml未満、または0.25ng/ml未満である。一実施形態において、血中トラフレベルは、1ng/ml未満、0.5ng/ml未満、または0.25ng/ml未満である。
【0026】
[34]一実施形態において、ラパマイシン組成物は、約1ng/g、約5ng/g、約10ng/g、約15ng/g、約20ng/g、約25ng/g、約50ng/g、または約100ng/gの治療レベルで、投与後一定期間、好ましくはヒト対象に対して、肺において持続し、一定期間は、約6から10時間、約6から14時間、約6から24時間、および約6から72時間から選択される。一実施形態において、一定期間は、約12時間、約14時間、約24時間、および約72時間から選択される。
【0027】
[35]一実施形態において、ラパマイシン組成物は、約5から100ng/gまたは約5から30ng/gの治療レベルで、約12または24時間である一定期間、肺において持続する。一実施形態において、ラパマイシン組成物は、約5ng/g、約10ng/g、約20ng/g、約30ng/g、約50ng/g、約60ng/g、約70ng/g、約80ng/g、または約90ng/gの治療レベルで、肺において持続する。一実施形態において、ラパマイシン組成物は、少なくとも5ng/g、少なくとも20ng/g、または少なくとも30ng/gの治療レベルで、肺において持続する。一実施形態において、ラパマイシン組成物は、約20ng/gから約30ng/gまたは約50ng/gから約80ng/gの治療レベルで、肺において持続する。
【0028】
[36]一実施形態において、配合物は、20%を超える微粒子画分(FPF)を有し、対応する微粒子用量(FPD)は、1から12ヶ月または1から36ヶ月保存後に5マイクログラムから2ミリグラムの範囲、好ましくは0.5ミリグラム未満である。一実施形態において、送達用量(DD)または放出用量(ED)とも呼ばれる、肺に送達される用量である呼吸用量は、10マイクログラムから2.5ミリグラムの範囲、好ましくは0.5ミリグラム未満である。一実施形態において、送達用量は、約20から100マイクログラム、約10から25マイクログラムまたは約30から60マイクログラムである。一実施形態において、送達用量は、20または50マイクログラムである。一実施形態において、送達用量は、100マイクログラムである。
【0029】
[37]一実施形態において、ラパマイシン組成物の呼吸用量は、約20マイクログラムであり、肺組織中薬物濃度は、約5から25ng/gであり、血中Cmaxは、1.0ng/ml未満、または約0.50ng/mlから1.0ng/ml、または約0.50ng/mlから0.90ng/mlであり、投薬24時間後の薬物の血中トラフ濃度は、約0.20ng/ml未満であり、投薬14日後の血中の薬物の安定状態濃度は、約0.90ng/ml未満、または約0.80ng/ml未満である。
【0030】
[38]一実施形態において、ラパマイシン組成物の呼吸用量は、約50マイクログラムであり、肺組織中薬物濃度は、約2から15ng/gであり、血中Cmaxは、2.0ng/ml未満、または約0.25ng/mlから0.1ng/ml、または約0.10ng/mlから0.5ng/mlであり、単回投薬24時間後の薬物の血中トラフ濃度は、約0.10ng/ml未満であり、1日1回の反復投薬5日後の血中の薬物のトラフ濃度は、約1.0ng/ml未満、または約0.50ng/ml未満である。
【0031】
[39]一実施形態において、配合物は、1種または複数の追加の治療剤をさらに含む。1種または複数の追加の治療剤は、エストロゲンアンタゴニスト(たとえば、レトロゾール、タモキシフェン)、スタチン(たとえば、シンバスタチン)、src阻害剤(たとえば、サラカチニブ)、およびVEGF受容体阻害剤(たとえば、パゾパニブ)から選択されてもよい。一実施形態において、1種または複数の追加の治療剤は、レトロゾール、タモキシフェン、シンバスタチン、サラカチニブ、パゾパニブ、およびイマチニブから選択される。
【0032】
[40]一実施形態において、本明細書に記載のラパマイシン組成物を含む医薬エアロゾル配合物は、治療レジメンまたは併用療法の一部として、少なくとも1種の追加の治療剤とともに投与される。少なくとも1種の追加の治療剤は、エアロゾル配合物と同じまたは異なる投与経路により投与できる。一実施形態において、少なくとも1種の追加の治療剤は、経口的に、たとえば経口投与剤形、たとえば錠剤またはカプセル剤の形態で投与される。1種または複数の追加の治療剤は、エストロゲンアンタゴニスト(たとえば、レトロゾール、タモキシフェン)、スタチン(たとえば、シンバスタチン)、src阻害剤(たとえば、サラカチニブ)、およびVEGF受容体阻害剤(たとえば、パゾパニブ)から選択されてもよい。一実施形態において、1種または複数の追加の治療剤は、レトロゾール、タモキシフェン、シンバスタチン、サラカチニブ、パゾパニブ、およびイマチニブから選択される。
【0033】
[41]一実施形態において、配合物は、努力肺活量(FVC)および努力呼気肺活量(FEV1)により測定される対象の肺機能を改善するのに有効な量のラパマイシン組成物を送達する。一実施形態において、配合物は、放射線検査により検出可能な胸水のサイズまたは量を低減するのに有効な量のラパマイシン組成物を送達する。
【0034】
[42]一実施形態において、配合物は、1日1回の投与に適する。
[43]一実施形態において、配合物は、薬物の水性懸濁液を調製する工程と、薬物懸濁液をマイクロ流動化(microfluidization)にかける工程と、得られた粒子を噴霧乾燥して乾燥粉末を形成する工程とを含む湿式研磨プロセスにより製造される。
【0035】
[44]一実施形態において、ラパマイシン組成物はシロリムスであり、担体は、2種の異なるラクトース担体のブレンドからなり、第1の担体は、約30〜100ミクロンの範囲の平均直径を有する粒子からなり、第2の担体は、10ミクロン未満の平均直径を有する粒子からなり、2種の異なる担体の比は、約97:3から3:97であり、ラパマイシンの量は、25から1400マイクログラムである。
【0036】
[45]本発明はまた、本明細書に記載のラパマイシン組成物を含むエアロゾル配合物を含む、LAMを治療するための単位剤形であって、ラパマイシン組成物の量が、約5から2500マイクログラム、20から500マイクログラム、または50から250マイクログラムである、単位剤形を提供する。一実施形態において、ラパマイシン組成物の量は、約50から125マイクログラムである。一実施形態において、ラパマイシン組成物の量は、約40、約50、約100、約125、または約250マイクログラムである。一実施形態において、ラパマイシン組成物の量は、約250マイクログラムである。
【0037】
[46]一実施形態において、単位剤形は、乾燥粉末吸入器デバイスにおける使用に好適なカプセル剤である。一実施形態において、カプセル剤は、1mgから100mgの粉末(総量、ラパマイシン組成物、担体、および任意選択の賦形剤を含む)または10mgまたは40mgの粉末を含有する。カプセル剤は、DPIデバイスにおける使用に好適なゼラチン、プラスチック、もしくはセルロースカプセル剤、またはホイル/ホイルもしくはホイル/プラスチックブリスター剤の形態であってもよい。
【0038】
[47]本発明はまた、本明細書に記載の組成物もしくは単位剤形と、使用説明書とを含む医薬パッケージまたはキットを提供する。
[48]本発明はまた、本明細書に記載の組成物または単位剤形を含有するリザーバーを含む乾燥粉末送達デバイスを提供する。リザーバーは、デバイス内の一体型チャンバー、カプセル剤、またはブリスター剤であってよい。一実施形態において、デバイスは、Plastiape(登録商標) RS01 Model 7、Plastiape(登録商標) RS00 Model 8、XCaps(登録商標)、Handihaler(登録商標)、Flowcaps(登録商標) TwinCaps(登録商標)、およびAerolizer(登録商標)から選択される。一実施形態において、デバイスは、Plastiape(登録商標) RS01 Model 7またはPlastiape(登録商標) RS00 Model 8から選択される。一実施形態において、デバイスは、Plastiape(登録商標) RS00 Model 8である。
【0039】
[49]本発明はまた、LAMの治療を必要とするヒト対象においてLAMを治療するための方法であって、対象に吸入を介して本明細書に記載の組成物または単位剤形を投与する工程を含む、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】[14]マウス血中の10.6ng/mLのラパマイシン(上)および内部標準(下)のLC−MS/MSクロマトグラムの図である。
【
図2】[15]マウス肺ホモジネートにおける10.6ng/mLのラパマイシン(上)および内部標準(下)の代表クロマトグラムの図である。
【
図3】[16]マウス血中のラパマイシンについての較正曲線の図である。
【
図4】[17]マウス肺ホモジネートにおけるラパマイシンについての較正曲線の図である。
【
図5】[18]OPAによりラパマイシンを投与されたマウス2−07からの血液中のラパマイシン(上)および内部標準(下)の代表クロマトグラムの図である。
【
図6】[19]OPAによりラパマイシンを投与されたマウス2−07からの肺ホモジネートにおけるラパマイシン(上)および内部標準(下)の代表クロマトグラムの図である。
【
図7】[20]ラパマイシンのOPAおよび経口投与後のマウス肺におけるS6リン酸化の図である。
【
図8】[21]1日1度で反復された肺内投与について予測されたラパマイシン血中濃度の図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
[50]本発明は、LAMの治療を必要とするヒト対象におけるLAMの治療および予防のための方法および組成物を提供する。LAMの治療を必要とするヒト対象は、LAMと診断されたヒト対象である。一実施形態において、ヒト対象は、女性である。一実施形態において、ヒト対象は、男性である。一実施形態において、ヒト対象は、結節性硬化症と診断されている。一実施形態において、ヒト対象は、散発性LAMと診断されている。一実施形態において、この方法は、対象に吸入を介して好適な担体中のラパマイシン、および任意選択で1種または複数の添加剤を含む組成物を投与する工程を含む。「ラパマイシン」という用語は、本開示を通じて、シロリムスとも呼ばれるラパマイシン自体、ならびにそのプロドラッグ(たとえばテムシロリムス)および誘導体を指すために、包括的に使用される。ラパマイシンの誘導体には、ラパマイシンと構造的に類似する化合物、同じ化学的分類の化合物、ラパマイシン類似体である化合物、またはラパマイシンの薬学的に許容される塩もしくはその誘導体である化合物が含まれる。ラパマイシン、そのプロドラッグ、および誘導体のさらなる説明および例は、以下の節に提供される。
【0042】
[51]本明細書に記載の組成物は、「エアロゾル配合物」と呼ばれ、ラパマイシン組成物を含有する呼吸用の粒子または液滴をもたらすのに好適なエアロゾル化可能な組成物を記述することが意図されており、このラパマイシン組成物は上述のとおり、好ましくはシロリムスと記述されるアモルファス形態の、ラパマイシン自体、またはそのプロドラッグ、もしくは誘導体を指す。一実施形態において、ラパマイシン組成物は、シロリムス、エベロリムス、およびテムシロリムスから選択される。一実施形態において、ラパマイシン組成物は、シロリムスである。本明細書に記載のエアロゾル配合物は、ラパマイシン組成物、担体、および任意選択で1種または複数の添加剤を含んでもよい。エアロゾル配合物は、「吸入のための組成物」と題された下の節に詳細に記載するとおり、水性溶液、乾燥粉末、または1種または複数の薬学的に許容される噴射剤と担体との混合物の形態であってもよい。
【0043】
[52]本発明はまた、LAMの治療を必要とするヒト対象におけるLAMの治療および予防のための方法であって、本発明のエアロゾル配合物を対象に肺内投与する工程を含む、方法を提供する。一実施形態において、ラパマイシン組成物の投与用量は、肺組織におけるラパマイシンの治療レベルを達成するのに十分である一方で、対象における低い血中レベル、または血中トラフレベルを維持する。たとえば、ラパマイシン組成物の治療レベルは、約1ng/g、約5ng/g、約10ng/g、約15ng/g、約20ng/g、約25ng/g、約50ng/gであってもよく、血中トラフレベルは、0.01から0.15ng/ml、0.075から0.350ng/ml、0.150から0.750ng/ml、0.750から1.5ng/ml、または1.5から5ng/mlである。一実施形態において、投与用量は、約5ng/gから50ng/g、または約5ng/gから20ng/gの肺における薬物の治療レベル、ならびに、5ng/ml未満、2ng/ml未満、1ng/ml未満、または0.5ng/ml未満の薬物の血中トラフレベルを達成するのに十分である。一実施形態において、送達の24時間後のラパマイシン組成物の肺対血中濃度比は、少なくとも100、少なくとも250、または少なくとも500である。一実施形態において、送達の24時間後のラパマイシン組成物の肺対血中濃度比は、約100から250、250から500、500から750、または750から1000である。
【0044】
[53]好ましくは、前述の治療レベルは、本明細書に記載のエアロゾル配合物を1日1回投与することにより達成される。一実施形態において、ラパマイシン組成物の1日総用量は、5から100マイクログラム、20から250マイクログラム、50から500マイクログラム(0.05から0.5ミリグラム)、250から1000マイクログラム(0.25から1ミリグラム)または500から2000マイクログラム(0.5から2ミリグラム)の範囲である。一実施形態において、1日総用量は、500マイクログラム未満、100マイクログラム未満、50マイクログラム未満、20マイクログラム未満、または10マイクログラム未満である。一実施形態において、1日総用量は、500マイクログラム未満、250マイクログラム未満、100マイクログラム未満、50マイクログラム未満、または10マイクログラム未満である。一実施形態において、対象に投与される1日総用量は、1日当たり0.5mg未満または0.25mg未満である。併用療法を含む、肺送達および用量決定のさらなる態様は、「肺内投与および用量決定」と題された下の節に記載される。
【0045】
[54]本発明の方法および組成物は、LAMの治療を必要とする対象、好ましくはヒト対象において、LAMを治療するのに有効である。LAMを治療するのに有効な薬物の量(「有効量」または「治療有効量」)は、LAMもしくはLAMの1つもしくは複数の症状の進行、重症度、および/もしくは持続期間を低減もしくは改善するか、LAMの進行を防止するか、LAMの退縮を引き起こすか、または、LAMと関連する1つもしくは複数の症状の発達もしくは発症を防止するか、または、LAMの1つもしくは複数の症状の重症度もしくは発症に関して、もしくは、LAMの発達もしくは進行に関して、他の治療法(たとえば、予防剤または治療剤)の予防的もしくは治療的効果を増強もしくは改善するのに、十分な薬物(たとえば、ラパマイシン)の量を指す。特定の実施形態において、LAMの治療に関して、治療有効量は、LAM細胞の増殖を阻害もしくは低減するか、LAM細胞の拡散(転移)を阻害もしくは低減するか、または、腫瘍のサイズを低減するか、または、FVCもしくはFEV1を改善するか、または、放射線検査により検出可能な胸水の量を低減する治療法(たとえば、治療剤)の量を指す。好ましい一実施形態において、治療有効量の治療法(たとえば、治療剤)は、LAM細胞の増殖または腫瘍サイズを、対照(たとえば、リン酸緩衝生理食塩水(「PBS」))に対して少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%低減する。したがって、本発明の方法の文脈において、「治療する」、「治療」、および「治療すること」という用語は、LAMまたはLAMと関連する1つもしくは複数の症状の重症度、持続期間、または進行の低減を指す。特定の実施形態において、これらの用語は、LAM細胞の増殖における増殖の阻害もしくは低減、LAM細胞の拡散(転移)もしくはLAM関連癌の発達もしくは進行における阻害もしくは低減、またはLAM関連腫瘍のサイズの低減、またはリンパ管の低減もしくは関与を指してもよい。
【0046】
[55]本発明の方法の一実施形態において、ラパマイシンは、努力肺活量(FVC)および努力呼気肺活量(FEV1)により測定される対象の肺機能を改善するのに有効な用量で投与される。別の一実施形態において、ラパマイシンは、放射線検査により検出可能な、対象における胸水のサイズまたは量を低減するのに有効な用量で投与される。一実施形態において、ラパマイシンは、以下のうちの1つまたは複数を改善するのに有効な用量で投与される。すなわち、機能的残気量、血清VEGF−D、生活および機能的遂行の質、6分間歩行距離、ならびに一酸化炭素について肺の拡散能力。一実施形態において、肺経路を介して送達されるラパマイシンは、肺および肺から離れた部位におけるLAM関連腫瘍の成長を制限するのに有効なラパマイシン血中レベルを達成する。一実施形態において、ラパマイシンの投与用量の効力は、前述のもののうちの任意の1つまたは複数により測定される。
【0047】
[56]いくつかの実施形態において、本発明の方法は、LAMを有する対象におけるLAMを管理するのに有効である。この文脈において、「管理する」、「管理すること」、および「管理」という用語は、治癒をもたらさない、治療法から対象が引き出す有益な効果を指す。一実施形態において、LAMは、本発明の方法によるラパマイシンでの治療中にその進行が遅延または停止される場合、対象において管理されている。別の一実施形態において、LAMは、LAMと関連する1つまたは複数の症状が改善または安定化される(すなわち、症状が治療のコース中に悪化しない)場合、対象において管理されている。
【0048】
[57]一実施形態において、本発明の方法は、LAMのための現在利用可能な治療法に「非反応性」または「不応性」である対象に関する。この文脈において、「非反応性」および「不応性」という用語は、LAMと関連する1つまたは複数の症状を軽減するのに臨床的に適切でない、治療法に対する対象の反応を指す。「対象」および「患者」という用語は、本発明の開示において互換的に使用される。これらの用語は、動物、好ましくは哺乳動物、たとえば非霊長類(たとえば、ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラット、およびマウス)および霊長類(たとえば、チンパンジー、サル、たとえばカニクイザルおよびヒト)、より好ましくはヒトを指す。好ましい一実施形態において、対象はヒトである。
【0049】
[58]「防止する」、「防止すること」および「防止」という用語は、本発明の方法により同定される1種もしくは複数の化合物の投与、または、かかる化合物および疾患または障害のための既知の治療法の組合せの投与からもたらされるLAMの1つまたは複数の症状の再発、発達、進行または発症の防止を指す。
【0050】
[59]本発明の医薬組成物の文脈において、「担体」は、たとえば、ラパマイシンが送達のために一緒に配合される液体または固体物質、たとえば溶剤、希釈剤、安定剤、アジュバント、賦形剤、助剤、噴霧剤、またはビヒクルを指す。本発明の組成物における使用のための薬学的に許容される担体の例には、乾燥粉末担体、たとえばラクトース、マンノース、アミノ酸、シクロデキストリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、炭化水素およびフルオロカーボン噴射剤、圧縮気体、無菌液体、水、緩衝生理食塩水、エタノール、ポリオール(たとえば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール等)、油、洗剤、懸濁化剤、炭水化物(たとえば、グルコース、ラクトース、スクロースまたはデキストラン)、抗酸化剤(たとえば、アスコルビン酸またはグルタチオン)、キレート剤、低分子量タンパク質、または好適なそれらの混合物が含まれるが、これに限定されない。好ましくは、ラパマイシンの乾燥粉末エアロゾル配合物の文脈において、担体は、存在する場合、サッカライドおよび糖アルコールからなる群から選択される。一実施形態において、担体は、存在する場合、ラクトースである。
【0051】
[60]「薬学的に許容される」という用語は、動物、より具体的にはヒトにおける使用のための、連邦もしくは州政府の規制機関による認可、または、米国薬局方もしくは他の一般的に認められている薬局方、たとえば欧州薬局方への記載を指す。水溶性または非水溶性の薬物を可溶化するための一方法は、薬物の塩を形成すること、または、それ自体より可溶性であるか、もしくはプロドラッグの水溶性の塩を形成するために使用できるプロドラッグを調製することである。塩および薬学的に許容される塩形態を形成するための方法は、当技術分野において知られており、目的の薬物またはプロドラッグに存在しうる酸性基または塩基性基の塩を含むが、これに限定されない。自然界において塩基性である化合物は、様々な無機酸および有機酸で多様な塩を形成可能である。かかる塩基性化合物の薬理学的に許容される酸付加塩を調製するために使用できる酸は、無毒性酸付加塩、すなわち薬学的に許容されるアニオンを含有する塩を形成するものであり、これら塩は、硫酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、イソニコチン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、クエン酸塩、酸性クエン酸塩、酒石酸塩、オレイン酸塩、タンニン酸塩、パントテン酸塩、重酒石酸塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ゲンチシン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルカロン酸塩(glucaronate)、糖酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩およびパモ酸塩(すなわち、1,1’−メチレン−ビス−(2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸塩))を含むが、これに限定されない。自然界において酸性である化合物は、様々な薬理学的に許容されるカチオンで塩基性塩を形成可能である。かかる塩の例には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、特にカルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩、亜鉛塩、カリウム塩、および鉄塩が含まれる。
【0052】
[61]一実施形態において、本発明の方法および組成物は、ラパマイシンの水溶性プロドラッグまたは誘導体、好ましくはテムシロリムスまたは関連化合物を利用する。一実施形態において、本発明の方法および組成物は、ラパマイシン(シロリムス)を利用する。
【0053】
ラパマイシン
[62]ラパマイシンは、ストレプトマイセス・ハイグロスコピクスにより生成される大環状ラクトンであり、その化学(IUPAC)名は、(3S,6R,7E,9R,10R,12R,14S,15E,17E,19E,21S,23S,26R,27R,34aS)−9,10,12,13,−14,21,22,23,24,25,26,27,32,33,34,34a−ヘキサデカヒドロ−9,27−ジヒドロキシ−3−[(1R)−2−[(1S,3R,4R)−4−ヒドロキシ−3−メトキシシクロヘキシル]−1−メチルエチル]−10,21−ジメトキシ(dimethox−y)−6,8,12,14,20,26−ヘキサメチル−23,27−エポキシ−3H−ピリド[2,1−c][1,4]オキサアザシクロヘントリアコンチン(triacontine)−1,5,11,28,29(4H,6H,31H)−ペントンである。
【0054】
[63]その分子式はC
51H
79NO
13であり、その分子量は914.172g/molである。その構造を下に示す。
【0056】
[64]ラパマイシンは、白色から灰白色の粉末であり、水に不溶性であると考えられており、2.6μg/mlに過ぎない非常に低い溶解性を有する。それは、ベンジルアルコール、クロロホルム、アセトン、およびアセトニトリル中に溶解しやすい。ラパマイシンの非水溶性は、その配合について特殊な技術的な問題を提示する。経口投与剤形としてのその配合の文脈において、それは、固体分散体の形態の経口液剤(WO 97/03654)およびナノサイズ(400nm未満)粒子を含有する錠剤(米国特許第5,989,591号)として調製されてきた。だが、これらの手順は、活性物質の溶解、したがってその生物学的利用能における実質的変動という弱点を有する。別の配合方法は、結晶性粉末を利用する。技術分野において認められている方法によれば、低溶解性薬物の結晶形態のそのアモルファス形態への変換は、その溶解性を有意に増加させうる。これはまたラパマイシンにも当てはまる一方で、アモルファス形態はきわめて化学的に不安定である。アモルファスラパマイシン(シロリムス)を含む医薬剤形は、WO 06/039237およびWO 06/094507(シロリムスおよびモノステアリン酸グリセリンを49.25%の濃度で含む放出調節配合物)に記載されている。ラパマイシンの改良安定経口投与剤形は、米国特許第8,053,444号に記載されている。この剤形は、シロリムスの安定性をその放出速度に悪影響を与えることなく増加させるため、組成物中に脂肪酸エステルおよびポリマー(たとえば、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC))を用いる。米国特許第8,053,444号によれば、10% w/wを超える脂肪酸エステル濃度は、配合物からのシロリムスの放出速度を抑制するので、回避されるべきである。なぜなら、それは、胃腸管からの不十分な吸収をもたらしうるからである。好ましい脂肪酸エステル(グリセロールエステル)の濃度は、1%から5%または5%から9%である。一実施形態において、本発明のエアロゾルラパマイシン組成物は、ポリマーと組み合わせた脂肪酸エステルを含有しない。一実施形態において、本発明のエアロゾルラパマイシン組成物は、組成物の10%重量または12重量%を超える濃度で脂肪酸エステルを含有する。
【0057】
[65]本発明の方法および組成物における使用に好適なラパマイシンならびにその誘導体(類似体を含む)およびプロドラッグには、mTOR細胞シグナル伝達経路の阻害剤、好ましくはmTOR自体の阻害剤である、ラパマイシン(シロリムス)およびそのプロドラッグまたは誘導体が含まれる。一実施形態において、ラパマイシン誘導体またはプロドラッグは、エベロリムス(Affinitor、RAD001)、テムシロリムス(CCI−779)、リダフォロリムス(以前はデフォロリムスとして知られていた、AP23573)、ウミロリムス(Biolimus A9)、ゾタロリムス(ABT−578)、ノボリムス、マイオリムス、AP23841、KU−0063794、INK−128、EX2044、EX3855、EX7518、AZD08055およびOSI027からなる群から選択されるmTOR阻害剤である。さらなる誘導体が当業者に知られており、たとえば、シロリムスのシクロへキシル環上のヒドロキシル基が−OR
1(式中、R
1は、任意選択で置換アルキル、アシルアミノアルキル、またはアミノアルキルである)により置き換えられたO−置換誘導体が含まれる。
【0058】
[66]一実施形態において、本発明のエアロゾル配合物および方法における使用のための化合物は、エベロリムス、テムシロリムス、リダフォロリムス、ウミロリムス、およびゾタロリムスからなる群から選択されるラパマイシン誘導体である。エベロリムス、テムシロリムス、リダフォロリムス、ウミロリムスおよびゾタロリムスの化学構造を下に示す。
【0060】
[67]一実施形態において、本発明のエアロゾル配合物および方法における使用のための化合物は、KU−0063794、AZD8055、INK128、およびOSI−027からなる群から選択されるmTOR阻害剤である。mTOR阻害剤KU−0063794、AZD8055、INK128、およびOSI−027の化学構造を下に示す。
【0062】
[68]本発明の方法および組成物における使用のために特に好ましいのは、シロリムス、テムシロリムス、およびエベロリムスである。一実施形態において、本発明のエアロゾル配合物および方法における使用のための化合物は、シロリムス、テムシロリムス、およびエベロリムスからなる群から選択される。一実施形態において、化合物は、シロリムスまたはエベロリムスである。
【0063】
吸入のための組成物
[69]本発明は、ラパマイシン、またはそのプロドラッグもしくは誘導体を含む、水性溶液、乾燥粉末、または1種または複数の薬学的に許容される噴射剤と担体との混合物の形態の、吸入による投与に適する医薬組成物を提供する。一実施形態において、ラパマイシンは、薬学的に許容される化合物、材料、またはマトリクス中に被包される。一実施形態において、ラパマイシンは、リポソーム配合物または非リポソーム配合物に被包される。
【0064】
[70]本発明の組成物は、ヒト対象における吸入による肺薬物送達に好適な、ラパマイシンのエアロゾル化可能な配合物である。「エアロゾル」という用語は、この文脈において、分散相が固体または液体粒子から構成され、分散媒が気体であるコロイド系を意味するよう使用される。一実施形態において、気体は空気であり、配合物は、ネブライザーを介した投与に好適な溶液配合物または乾燥粉末吸入器デバイスを介した投与に好適な乾燥粉末配合物である。一般に、呼吸用粒子または液滴は、0.10から10ミクロンの範囲の平均直径を有すると考えられる。粒子または液滴のサイズは、肺自体(すなわち、肺が標的組織である場合)または全身(肺が全身投与のための代替経路として利用される場合)のいずれかに対する標的化送達を最大化するよう選択される。サイズは、好ましくは、肺自体が治療標的である場合に約0.5から5ミクロンの範囲、または肺を介した全身送達について3ミクロン未満であると考えられる。サイズは、当技術分野において知られている方法により測定され、たとえば米国薬局方第905章および601章に記載されている。たとえば、それは、空気動力学的中央粒子径(MMAD:Mass Median Aerodynamic Diameter)として測定される。一実施形態において、本明細書に記載の組成物を含む粒子の平均(average or mean)直径は、MMADとして測定される。
【0065】
[71]一実施形態において、エアロゾルの分散相は、液体粒子または液滴から構成される。この文脈において、「液体粒子」および「液滴」という用語は互換的に使用される。この実施形態において、本発明の配合物は、溶液配合物である。一実施形態において、エアロゾルの分散相は、固体粒子から構成される。この実施形態において、本発明の配合物は、乾燥粉末配合物である。このサイズの微粉化粒子は、当技術分野において知られている方法、たとえば機械的粉砕(ミル粉砕)、亜臨界もしくは超臨界溶液からの沈殿、噴霧乾燥、フリーズドライ、または凍結乾燥により製造できる。
【0066】
[72]一般に、吸入粒子は、2つの機構:より大きい粒子について通常支配的である固着(impaction)、およびより小さい粒子について優勢である沈降(sedimentation)のうちの1つにより沈着されやすい。すなわち、である。固着は、吸入粒子の運動量が十分に大きく、粒子が気流に従わないで生理学的表面に遭遇するときに生じる。対照的に沈降は、吸入気流とともに移動してきた非常に小さい粒子が、気流内のランダムな拡散の結果として生理学的表面に遭遇するときに、肺の深部において主に生じる。本発明のエアロゾル配合物は、好ましくは、所望の治療有効性を達成するために、固着(上気道内)または沈降(肺胞内)によるそれらの沈着を最大化するよう適合されている。
【0067】
[73]送達デバイス、たとえばネブライザー、pMDIまたはDPIデバイスから患者に送達される薬物の量を、送達用量と呼ぶ。それは、シミュレートされた吸入操作において送達デバイスから放出される薬物の量を決定することにより、インビトロで推定できる。これは放出用量(ED)と呼ばれ、当技術分野において知られている方法、たとえば、米国および欧州薬局方、たとえばUSPの第601章および第905章に記載のものにより測定される。したがって、「放出用量」は、送達用量と等しいものと考えられる。
【0068】
[74]送達デバイスから患者の肺に送達される薬物の量は、呼吸用量と呼ばれる。それは、当技術分野において知られている方法、たとえば米国および欧州薬局方、たとえばUSPの第601章および第905章に記載のものにより、カスケードインパクター、たとえばNext Generation Impactor(NGI)を使用して測定される微粒子用量(FPD)を決定することによりインビトロで推定できる。
【0069】
[75]送達デバイスから微細で吸入可能な粒子で放出される薬物の量は、配合物の微粒子画分(FPF)と呼ばれる。FPFは、潜在的に呼吸可能な送達用量における薬物の画分である。したがって、FPFは、FPDのED(放出、または送達用量)に対する比である。配合物のこれらの特性は、当技術分野において知られている方法、たとえば、米国および欧州薬局方、たとえばUSPの第601章およびPharm Europaのモノグラフ2.9.18に記載のものにより測定される。
【0070】
[76]一実施形態において、本発明のエアロゾル化可能なラパマイシン配合物は、長期保存後であっても、たとえば、1から12ヶ月保存後または1から36ヶ月保存後であっても、10マイクログラムから2ミリグラムの範囲、好ましくは0.5ミリグラム未満の対応するFPDを有する、20%を超えるFPFを有する。一実施形態において、患者に送達される用量、送達用量(DD)または放出用量(ED)は、25マイクログラムから2.5ミリグラムの範囲、好ましくは0.5ミリグラム未満である。
【0071】
[77]いくつかの実施形態において、ラパマイシンは、薬学的に許容される化合物、材料、またはマトリクス中に被包される。一実施形態において、ラパマイシンは、リポソーム配合物または非リポソーム配合物に被包される。
【0072】
水性溶液組成物
[78]一実施形態において、エアロゾル化可能な本発明の組成物は、ネブライザー、たとえばジェット、振動メッシュ、静的メッシュまたはオリフィスネブライザーを介した肺送達に適するラパマイシンの水性溶液配合物である。したがって、溶液配合物は、上述のとおり、約0.1から10ミクロンの直径の呼吸用の範囲のエアロゾル液滴形成を可能にするよう適合される。一実施形態において、組成物は、水、エタノール、および低分子量ポリオール中に溶解された、ラパマイシン(シロリムス)またはそのプロドラッグもしくは誘導体からなる噴霧吸入可能な水性溶液配合物であり、任意選択で界面活性剤を含む。一実施形態において、水性溶液配合物は、20mPa・s未満、10mPa・s未満、または5mPa・s未満の粘度、ならびに少なくとも45dyne/cm、好ましくは60dyne/cm超の表面張力を有する。好ましくは、配合物は、5mPa・s未満の粘度、および45dyne/cm超の表面張力を有する。一実施形態において、組成物は、20mPa・s未満の粘度、10mPa・s未満の粘度、または5mPa・s未満の粘度ならびに少なくとも45dyne/cm、好ましくは60dyne/cm超の表面張力を有する。
【0073】
[79]一実施形態において、水性溶液配合物は、ラパマイシン、水、エタノール、ならびにグリセロールおよびプロピレングリコールから選択される低分子量ポリオールからなる。一実施形態において、水性溶液配合物は、ラパマイシン、水、ならびにグリセロールおよびプロピレングリコールから選択される低分子量ポリオールからなり、エタノールは任意選択である。配合物はまた、任意選択で、非イオン性界面活性剤、好ましくはPEG 100、またはポリソルベート、好ましくはPolysorbate 80(「PS80」)、リン脂質、好ましくは天然リン脂質、たとえばレシチン、好ましくは水添ソーヤレシチン、および抗酸化剤または安定剤、好ましくはEDTA二ナトリウムを含有しうる。一実施形態において、非イオン性界面活性剤は、ポリエチレングリコール(PEG)PEG 100、PEG 1000、およびPolysorbate 80(Tween(商標)80、モノオレイン酸ソルビタン、またはオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンとも呼ばれる)、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0074】
[80]水性溶液中のラパマイシンの量は、溶液の総重量に対して約0.001重量%から0.01重量%(%wtまたは%w/w)である。一実施形態において、ラパマイシンは溶液中に、約0.01mg/mlから約0.1mg/mlの濃度で存在する。一実施形態において、ラパマイシンの量は、溶液の総重量に対して0.001%から0.01%w/wである。
【0075】
[81]一実施形態において、溶液中のラパマイシンの濃度は、約0.01から.1mg/mlであり、低分子量ポリオールの量は、5から35%w/wであり、エタノールの量は、5〜20%w/wの量で存在し、非イオン性界面活性剤の量は、1から200百万分率(ppm)w/wである。好ましくは、非イオン性界面活性剤の量は、100ppm(w/w)未満である。任意選択の抗酸化剤/安定剤の量は、ゼロから0.01%w/w未満である。
【0076】
[82]一実施形態において、本発明の水性溶液配合物は、ポリエチレングリコール、レシチン、EDTA、ブロックコポリマー、およびシクロデキストリンからなる群から選択される1種または複数の添加剤または賦形剤を含有しない。
【0077】
[83]水性溶液配合物は、ラパマイシンが完全に溶解している単相水性溶液である。配合物中の主たる共溶剤は、エタノール、ならびにグリセロールおよびプロピレングリコールから選択される低分子量ポリオールである。ラパマイシンは、懸濁液またはエマルション中になく、溶液をコロイド溶液または分散液として記述することもできない。本発明の水性溶液配合物は、コロイド構造、たとえばミセルまたはリポソームを欠く。リン脂質の量は、存在する場合、リポソームを形成したりラパマイシンが沈殿したりするには少量過ぎる。また、リン脂質および非イオン性界面活性剤の総量は、表面張力を改変するには少量過ぎる。結果として、リン脂質も非イオン性界面活性剤も、従来の意味での界面活性剤として作用するのに十分な量では存在しない。この文脈において、界面活性剤という用語は、溶液の表面張力または溶液中の液体と任意の固体薬物粒子との間の界面張力を低下させるよう作用する薬剤を指し、結果として界面活性剤は、洗剤、湿潤剤、乳化剤または分散剤として作用する。代わりに、本発明の溶液配合物中の非イオン性界面活性剤は、最終産物がパッケージされるポリエチレン容器への薬物の吸着を遮断するよう役立ち、そのことにより、容器への吸着を介した薬効の損失を防止する。
【0078】
[84]したがって、一実施形態において、水性溶液配合物は、ラパマイシンが完全に溶解している単相水性溶液であり、溶液は、ミセルまたはリポソームを欠き、溶液は、エマルション、分散液、または懸濁液ではない。
【0079】
[85]一実施形態において、溶液配合物は無菌である。一実施形態において、溶液配合物は、0.2ミクロンフィルターで濾過され無菌である。一実施形態において、溶液配合物は加熱、たとえば高圧蒸気殺菌、または放射線により滅菌されていない。
【0080】
[86]一実施形態において、本発明は、無菌水性溶液配合物で満たされた1つまたは複数の容器またはバイアル(これらの用語は、互換的に使用される)を含有するパッケージを提供する。好ましくは、容器は、単位用量容器である。一実施形態において、容器は、ポリマーバイアル、好ましくはポリエチレンバイアルである。一実施形態において、本発明の無菌水性溶液配合物で充填された容器またはバイアルは、ブロー成形によりバイアルを形成し、その直後にバイアルを無菌条件下で本発明の無菌濾過配合物で充填し、続いてバイアルが充填された直後にヒートシールする工程を含む方法により製造される。
【0081】
[87]一実施形態において、本発明の水性エアロゾル配合物は、
約0.001%から0.01%w/wのラパマイシン(またはそのプロドラッグもしくは誘導体)、
約5%から35%w/wのプロピレングリコール、
約5%から20%w/wのエタノール、
約1から200ppm w/wのPolysorbate 80、
約1から100ppm w/wのレシチン、および
水、
を含むか、またはこれらからなり、
水の量は、0.01から0.1ミリグラム/ミリリットルの間のラパマイシンの濃度を達成するのに十分である。任意選択で、安定性強化剤、たとえばEDTA二ナトリウムを0.01%wt/wt未満のレベルで添加できる。
【0082】
[88]水性および他の非加圧液体系について、様々なネブライザー(少量ネブライザーを含む)を、配合物をエアロゾル化するために利用可能である。コンプレッサー駆動ネブライザーは、ジェット技術を組み込み、液体エアロゾルを生成するために圧縮空気を使用する。かかるデバイスは、たとえば、Healthdyne Technologies,Inc.、Invacare,Inc.、Mountain Medical Equipment,Inc.、Pari Respiratory,Inc.、Mada Medical,Inc.、Puritan−Bennet、Schuco,Inc.、DeVilbiss Health Care,Inc.、およびHospitak,Inc.から市販されている。超音波ネブライザーは、呼吸用液滴を生成するために圧電結晶の振動の形態の力学的エネルギーに依存し、たとえば、Omron Healthcare,Inc.およびDeVilbiss Health Care,Inc.から市販されている。
【0083】
[89]一実施形態において、本発明の水性エアロゾル配合物は、Aerogen、Pari、Philips、またはOmronから入手可能な振動ネブライザーを介して送達される。一実施形態において、本発明の水性エアロゾル配合物は、振動メッシュネブライザー、たとえば、Aeroneb(登録商標)Go(Aerogen、Philips Respironicsにより販売)、I−Neb(登録商標)(Philips)またはE−Flow(登録商標)(Pari)、または類似のネブライザーとの使用に好適な容器内にパッケージされている。一実施形態において、本発明の水性エアロゾル配合物は、オリフィスネブライザー、たとえばBoeringher−Ingelheim製Respimat(登録商標)を介して送達される。
【0084】
[90]したがって、一実施形態において、本発明は、吸入によるヒト対象への投与に好適な、噴霧吸入可能な水性溶液の形態の医薬組成物を提供し、水性溶液は、好ましくはシロリムス、エベロリムス、およびテムシロリムスから選択されるラパマイシン、またはそのプロドラッグもしくは誘導体、水、エタノール、ならびに低分子量ポリオールからなる。一実施形態において、低分子量ポリオールは、グリセロールまたはプロピレングリコール、またはそれらの混合物である。一実施形態において、組成物は、PEG 100、PEG 1000、およびポリソルベート80、およびこれらの混合物からなる群から選択される非イオン性界面活性剤をさらに含む。一実施形態において、配合物中の非イオン性界面活性剤の量は、配合物の重量に対して1から200ppm w/w、好ましくは100ppm w/w未満である。一実施形態において、組成物は、リン脂質、抗酸化剤または化学安定剤をさらに含む。一実施形態において、配合物中の抗酸化剤または化学安定剤の量は、配合物の重量に対して0.01% w/w未満である。一実施形態において、抗酸化剤または化学安定剤はEDTAである。一実施形態において、配合物中のラパマイシンの量は、配合物の重量に対して0.001から0.01%w/wである。
【0085】
[91]一実施形態において、組成物は、ポリエチレングリコール、レシチン、EDTA、ブロックコポリマー、およびシクロデキストリンからなる群から選択される1種または複数の添加剤または賦形剤を含有しない。
【0086】
[92]一実施形態において、組成物は、ミセルおよびリポソームから選択されるコロイド構造を欠く。
[93]一実施形態において、組成物は、ジェットネブライザー、振動メッシュネブライザー、静的メッシュネブライザー、およびオリフィスネブライザーのうちの任意の1つを介した投与に好適である。
【0087】
[94]一実施形態において、組成物は、20mPa・s未満、好ましくは10mPa・s未満、最も好ましくは5mPa・s未満の粘度、および少なくとも45dyne/cm、好ましくは少なくとも50dyne/cmの表面張力を有する。
【0088】
[95]本発明はまた、噴霧吸入可能な水性溶液の形態の本発明の医薬組成物の製造方法であって、0.2ミクロン以下の細孔サイズを有するフィルターを通して溶液を無菌濾過する工程と、無菌濾物を無菌条件下の回収容器中に回収する工程とを含む、方法を提供する。一実施形態において、製造方法は、無菌濾物を無菌条件下の密閉容器へと移す工程をさらに含む。一実施形態において、密閉容器は、単位用量ポリエチレンバイアルである。一実施形態において、バイアルは、無菌濾物がバイアルに移される直前にブロー成形により製造される。一実施形態において、この方法は、無菌濾物がバイアルに移される直後にバイアルをヒートシールする工程をさらに含む。
【0089】
乾燥粉末組成物
[96]一実施形態において、本発明のエアロゾル化可能な組成物は、ラパマイシン、またはそのプロドラッグもしくは誘導体の微粉化粒子を、治療剤(「薬物」とも呼ばれる)として含む乾燥粉末であり、粒子は、0.1から10ミクロンの直径および約0.5から4.5ミクロン、約1から4ミクロン、約1から3.5ミクロン、約1.5から3.5ミクロン、または約2から3ミクロンの間の平均直径を有する。乾燥粉末配合物は、乾燥粉末吸入器デバイス(DPI)または加圧計量用量吸入器(pMDI)における使用に好適である。乾燥粉末中のラパマイシンの量は、粉末の総重量に対して約0.5から20%(w/w)である。一実施形態において、ラパマイシンの量は、約1%または2%(w/w)である。
【0090】
[97]一実施形態において、微粉化ラパマイシンは、下に記載の湿式研磨またはジェットミル粉砕により製造され、約0.5から4.5ミクロン、約1から4ミクロン、または約2から3ミクロンの範囲の直径を生成し、ラパマイシン粒子は、ラクトース担体粒子上に0.5〜2%w/wの薬物/担体比でブレンドされ、好ましい比は1%である。
【0091】
[98]一実施形態において、薬物粒子は、送達デバイス(乾燥粉末吸入器)内に含有される壊れやすいマトリクス内に軽度に圧縮される。作動時に送達デバイスは、薬物粒子の一部をマトリクスから削り落とし、薬物粒子を気道へと送達する吸息中に分散させる。あるいは、薬物粒子は、送達デバイス(乾燥粉末吸入器)のリザーバー内に含有される自由に流動する粉末であってもよい。リザーバーは、デバイス内の一体型チャンバー、または作動前にデバイス内に挿入される、カプセル剤、ブリスター剤もしくは類似の前もって形成されたリザーバーでありうる。作動時にデバイスは、薬物粒子の一部をリザーバーから分散させ、薬物粒子を気道へと送達する吸息中に分散させる。
【0092】
[99]一実施形態において、乾燥粉末組成物は、薬物粒子ならびに、アラビノース、グルコース、フルクトース、リボース、マンノース、スクロース、トレハロース、ラクトース、マルトース、デンプン、デキストラン、マンニトール、ロイシン、リジン、イソロイシン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、レシチン、ポリ乳酸、ポリ(乳酸−co−グルタミン酸)、およびキシリトール、または前述のいずれかの混合物からなる群から選択される担体からなる。一実施形態において、担体はラクトースであり、特に一水和物の形態である。一実施形態において、乾燥粉末組成物は、2種以上の担体のブレンドを含む。
【0093】
[100]一実施形態において、乾燥粉末組成物は、薬物および少なくとも2種の異なる担体のブレンドを含む。一実施形態において、薬物対担体比は、約0.5から20%(w/w)の範囲である。一実施形態において、薬物粒子は、0.1から10ミクロンの範囲の直径を、約1から4、1から3.5、または約1.5から3.5、または2から3ミクロンの平均直径とともに有する。担体粒子は、2から200ミクロンの範囲の直径を有してもよい。
【0094】
[101]一実施形態において、組成物は、DPIデバイスのブリスターパックまたはリザーバー内に含有される。一実施形態において、乾燥粉末組成物は、DPIデバイスにおける使用に好適なゼラチン、デンプン、セルロース、もしくはポリマーカプセル剤、またはホイル/ホイルもしくはホイル/プラスチックブリスター剤内に前もってロードされている。各カプセル剤またはブリスター剤は、1から100ミリグラムの乾燥粉末組成物を含有してもよい。カプセル剤またはブリスター剤は、乾燥粉末吸入器(DPI)デバイス、たとえばAerolizer(登録商標)、Plastiape(登録商標) RS01 Model 7、およびPlastiape(登録商標) RS00 Model 8、XCaps(登録商標)、FlowCaps(登録商標)、Arcus(登録商標)、Diskhaler(登録商標)またはMicrodose(登録商標)内に挿入されてもよい。作動時にDPIデバイスは、カプセル剤またはブリスター剤を破裂させ、粉末が吸息中に分散し、薬物を気道に送達する。
【0095】
[102]一実施形態において、乾燥粉末組成物は、Accuhaler(登録商標)、Conix(商標)、Rotahaler(登録商標)、TwinCaps(登録商標)、XCaps(登録商標)、FlowCaps(登録商標)、Turbuhaler(登録商標)、NextHaler(登録商標)、CycloHaler(登録商標)、Revolizer(商標)、Diskhaler(登録商標)、Diskus(登録商標)、Spinhaler、Handihaler(登録商標)、Microdose Inhaler、GyroHaler(登録商標)、OmniHaler(登録商標)、Clickhaler(登録商標)、Duohaler(登録商標)(Vectura)、およびARCUS(登録商標)吸入器(Civitas Therapeutics)から選択される乾燥粉末吸入器(DPI)デバイス内に含有される。一実施形態において、本発明は、本明細書に記載の乾燥粉末組成物を含有するDPIデバイスを提供する。一実施形態において、デバイスは、XCaps、FlowCaps、Handihaler、TwinCaps、Aerolizer(登録商標)、Plastiape(登録商標) RS01 Model 7、およびPlastiape(登録商標) RS00 Model 8からなる群から選択される。一実施形態において、組成物を含有するデバイスは、GyroHaler(登録商標)、OmniHaler(登録商標)、Clickhaler(登録商標)、Duohaler(登録商標)、およびARCUS(登録商標)吸入器からなる群から選択される。
【0096】
[103]担体粒子は、肺深部における担体材料の沈着を回避するために、好ましくは、より大きなサイズ(5ミクロン超)のものである。一実施形態において、担体粒子は、1から200ミクロン、30から100ミクロン、または10ミクロン未満の範囲の直径を有する。一実施形態において、担体粒子は、一方は約30〜100ミクロンの粒子を有し、他方は10ミクロン未満の粒子を有する、2種の担体のブレンドである。2種の異なる担体の比は、3:97から97:3の範囲である。一実施形態において、乾燥粉末組成物は、0.5〜20%(w/w)の薬物対担体比からなり、薬物粒子は、0.1から10ミクロンの直径を有し、平均直径は3.5ミクロン未満である。一実施形態において、担体材料は、結晶性担体材料である。好ましくは、結晶性担体材料は、少なくとも90%、好ましくは95%超結晶性のものであり、80%以下の相対湿度の条件下で室温では、水は担体により吸収されないか、または実質的に吸収されない。かかる結晶性担体の例は、ラクトース一水和物およびグルコース一水和物である。担体の量は、粉末の乾燥重量で配合物の1から99.0%以上、好ましくは5から99%、10から99%、20から99%、30から99%、40から99%、または50から99%である。
【0097】
[104]一実施形態において、乾燥粉末組成物は、送達デバイス(乾燥粉末吸入器)のリザーバー内に含有される。リザーバーは、デバイス内の一体型チャンバー、または作動前にデバイス内に挿入される、カプセル剤、ブリスター剤もしくは類似の前もって形成されたリザーバーでありうる。作動時にデバイスは、薬物粒子の一部をリザーバーから分散させ、薬物粒子を気道へと送達する吸息中に分散させる。
【0098】
[105]一実施形態において、薬物は、薬学的に許容される担体とともに細かい粉末として存在する。この文脈において、「細かい」という用語は、上で論じたとおり、吸入可能な範囲の粒子サイズを指す。好ましくは、薬物は、粒子が10ミクロン以下の範囲の平均直径を有するように微粉化されている。一実施形態において、本明細書に記載の乾燥粉末組成物中のラパマイシン(またはそのプロドラッグもしくは誘導体)の粒子の平均直径(MMADまたはDv50)は、0.5から10ミクロン、0.5から6ミクロン、1から5ミクロン、1から4ミクロン、1から3ミクロン、または2から3ミクロンである。MMADまたはDv50値は、それ未満で集団の体積の50%が生じる粒子サイズである。
【0099】
[106]一実施形態において、ラパマイシンの乾燥粉末配合物は、下に記載する添加剤から選択される1種または複数の添加剤をさらに含む。一実施形態において、1種または複数の添加剤は、ステアリン酸マグネシウムを含むか、またはそれからなる。この実施形態の一態様において、ステアリン酸マグネシウムは、粉末の乾燥重量で0.001から10%の量、好ましくは0.01から5%または0.01から2%の量で存在する。別の一実施形態において、添加剤は、粉末の乾燥重量で0.1%から1%、好ましくは0.2%から0.6%の量のリン脂質、たとえばレシチン(ホスファチジルコリンの混合物)を含むか、またはそれからなる。この実施形態の一態様において、添加剤は、担体をラパマイシンの粒子とブレンドする工程の前に、またはそれと同時に、担体材料上にコーティングされる。これは、たとえば、担体を添加剤でコーティングする高エネルギー混合工程、または長期間の低エネルギー混合、またはコーティングされた担体材料の所望のレベルを達成するための低エネルギー混合と高エネルギー混合との組合せを利用することにより達成できる。乾燥粉末を混合してブレンドを形成するための低エネルギーデバイスは、当技術分野において知られており、たとえば、V−ブレンダー、二重円錐形ブレンダー、傾斜円錐形ブレンダー、キューブブレンダー、ビンブレンダー、水平または垂直ドラムブレンダー、静的連続ブレンダー、および動的連続ブレンダーを含む。他の、より高エネルギーのデバイスには、当業者に知られている高剪断ミキサーが含まれる。
【0100】
[107]いくつかの実施形態において、乾燥粉末は、カプセル剤中に含有される。一実施形態において、カプセル剤は、ゼラチンカプセル剤、プラスチックカプセル剤、もしくはセルロースカプセル剤であるか、またはホイル/ホイルもしくはホイル/プラスチックブリスター剤の形態である。各例において、カプセル剤またはブリスター剤は、好ましくは各カプセル剤の粉末の総重量を1mgから100mgとする量の担体を伴う用量単位での、DPIデバイスにおける使用に好適である。あるいは、乾燥粉末は、複数用量DPIデバイスのリザーバー内に含有されてもよい。
【0101】
[108]ラパマイシンの粒子サイズは、従来の方法により、たとえばエアジェットミル、ボールミルまたは振動ミル内で粉砕することにより、湿式研磨、微量沈降、噴霧乾燥、凍結乾燥または亜臨界もしくは超臨界溶液からの再結晶により、所望のマイクロ粒子レベルまで低減できる。この文脈におけるジェットミル粉砕または粉砕は、機械的手段による乾燥薬物粒子の微粒化を指す。微粒化技術は、薬物の溶液、スラリー、または懸濁液を作ることを必要としない。代わりに、薬物粒子は、機械的にサイズを低減させられる。微粒化により用いられる相対的に高いエネルギーゆえに、いくつかの実施形態において、ラパマイシンとの共微粒化混合物中に担体材料を含めることが所望される。この文脈において、担体材料は、微粒化のエネルギーの一部を吸収し、さもなければ微粒化はラパマイシンの構造に悪影響を与えうる。一実施形態において、1から4または2から3ミクロンの範囲のサイズのラパマイシン粒子が、ジェットミル粉砕法により製造される。
【0102】
[109]US2013/0203717に記載の湿式研磨は、懸濁液またはスラリー中の薬物粒子の粒子サイズを低減するために高剪断力を使用することを伴う。湿式研磨は、薬物粒子のみまたはミル粉砕媒体と呼ばれる追加の粒子状物質を含みうる。一実施形態において、ラパマイシンの粒子サイズは、特に上昇させた圧力での空洞形成による湿式ミル粉砕を含む湿式研磨法を使用して所望のレベルまで低減でき、ラパマイシンは、それが不溶性である水または他の溶剤中に懸濁させられ、続いて懸濁液を噴霧乾燥してラパマイシンが乾燥粉末として得られる。一実施形態において、1から4または2から3ミクロンの範囲のサイズのラパマイシン粒子が、ラパマイシンの懸濁液を調整する工程と、懸濁液をマイクロ流動化にかける工程と、得られた粒子を噴霧乾燥して乾燥粉末を形成する工程とを含む湿式研磨法により製造される。ラパマイシンは、プロピルまたはブチルアルコール、水、および酢酸エチルからなる群から選択される逆溶剤中に懸濁できる。一実施形態において、懸濁液は水性懸濁液である。
【0103】
[110]噴霧乾燥は一般に、薬物の溶液、スラリー、または懸濁液を作ること、溶液、スラリー、または懸濁液を噴霧化して粒子を形成すること、および次に溶液、スラリー、または懸濁液媒体を蒸発させて粒子を形成することを伴う。溶液、スラリーまたは懸濁液は、亜臨界または超臨界条件下で形成できる。蒸発工程は、雰囲気の温度を噴霧化が生じる温度へと上昇させること、または圧力を減少させること、または両方の組合せにより達成できる。一実施形態において、ラパマイシンを含む粉末配合物は、ラパマイシンの水性分散液を噴霧乾燥して、上述のとおり肺送達に好適なサイズを有するラパマイシンの凝集粒子からなる乾燥粉末を形成することにより作られる。凝集粒子サイズは、肺深部または上気道部位、たとえば上部気管支領域もしくは鼻粘膜のいずれかを標的とするよう調整(増加または減少)できる。これは、たとえば、噴霧乾燥分散液中のラパマイシンの濃度を増加させること、または噴霧乾燥器により生成される液滴サイズを増加させることにより達成できる。
【0104】
[111]あるいは、乾燥粉末は、水性薬物溶液、分散液、またはエマルションをフリーズドライ(凍結乾燥)すること、または噴霧乾燥とフリーズドライとの組合せにより製造できる。
【0105】
[112]一実施形態において、乾燥粉末配合物は、ラパマイシン、および1種または複数の任意選択の添加剤の水性分散液をフリーズドライすることにより作られる。一実施形態において、粉末は、ラパマイシンおよび存在する場合には添加剤の凝集体を含有し、凝集体は、上述の呼吸用サイズ範囲内である。
【0106】
[113]一実施形態において、ラパマイシンおよび1種または複数の任意選択の添加剤の水性分散液は、溶解希釈剤、たとえばラクトースまたはマンニトールをさらに含み、結果として分散液がフリーズドライされるとき、それぞれが少なくとも1つの埋め込まれた薬物粒子および存在する場合には添加剤粒子を含有する、呼吸用希釈剤粒子が形成される。
【0107】
[114]一実施形態において、乾燥粉末は、ラパマイシンがロードされたリポソームを含む。薬物がロードされたリポソームは、当技術分野において知られている方法により、たとえば、M. Chougaleら Int. J. Nanomedicine 2:625−688 (2007)にタクロリムスについて記載の技術を使用して製造できる。簡潔に述べると、ラパマイシン、水添ホスファチジルコリン(HSPC)、およびコレステロールを、メタノールおよびクロロホルムの混合物中に溶解させ、次に、たとえばRotaevaporator内で、乾燥薄膜形成にかける。リポソームを水和し、リポソーム分散液をサイズ低減のため高圧ホモジナイザーに通す。得られたペレットを、ベシクルサイズおよびパーセント薬物封入について特徴づけ、次に、ラパマイシンの所望の量と等しいペレットを、好適な媒体中に分散させ、噴霧乾燥にかけ、吸入のための所望のサイズの粒子を得る。噴霧乾燥粉末は、投与のためのカプセル剤、キャニスター、またはブリスターパック内に充填できる。
【0108】
[115]一実施形態において、乾燥粉末粒子は、亜臨界または超臨界溶液からの沈降により製造できる。
[116]乾燥粉末組成物は、好適な乾燥粉末吸入器デバイス内、またはかかるデバイスにおける使用のためのカプセル剤もしくはブリスター剤内に含有されてもよい。かかるデバイスの例は上に記載され、Accuhaler(登録商標)、Aerolizer(登録商標)、Plastiape(登録商標) RS01 Model 7、Plastiape(登録商標) RS00 Model 8Conix(商標)、Rotahaler(登録商標)、TwinCaps(登録商標)、XCaps(登録商標)、FlowCaps(登録商標)、Turbuhaler(登録商標)、NextHaler(登録商標)、CycloHaler(登録商標)、Revolizer(商標)、Diskhaler(登録商標)、Diskus(登録商標)、Spinhaler、Handihaler(登録商標)、Microdose Inhaler、GyroHaler(登録商標)、OmniHaler(登録商標)、Clickhaler(登録商標)、またはDuohaler(登録商標)(Vectura)、または呼気作動ARCUS(登録商標)吸入器(Civitas Therapeutics)を含む。一実施形態において、本発明は、本明細書に記載の乾燥粉末組成物を含有するDPIデバイスを提供する。一実施形態において、デバイスは、XCaps、FlowCaps、Handihaler、TwinCaps、Aerolizer(登録商標)、Plastiape(登録商標) RS01 Model 7、およびPlastiape(登録商標) RS00 Model 8からなる群から選択される。
【0109】
噴霧剤ベース配合物
[117]本発明の別の一実施形態において、ラパマイシンは、本明細書において包括的に「pMDI配合物」とも呼ばれることがある噴霧剤ベース配合物中に配合される。pMDI配合物は、デバイス、たとえば加圧計量用量吸入器(pMDI)による送達に好適である。一実施形態において、組成物は、ラパマイシン、噴霧剤、および植物油または植物油の薬学的に許容される誘導体を含む。噴霧剤は、好ましくは、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA134a)および1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA227)、またはそれらの混合物から選択される。一実施形態において、植物油は、オリーブ油、サフラワー油、およびダイズ油から選択される。ラパマイシンは、溶液中にあってもまたは噴霧剤中に懸濁状態であってもよい。この文脈において、「懸濁状態」は、ラパマイシンが噴霧剤中に分散される粒子形態で存在する場合を指す。一実施形態において、ラパマイシンは、微粉化され、噴霧剤中に懸濁状態で存在する。一実施形態において、配合物は、湿潤剤または共溶剤、たとえばエタノールをさらに含む。一実施形態において、配合物は、ポリヒドロキシアルコール、たとえばプロピレングリコールをさらに含む。
【0110】
[118]好適な噴霧剤が当技術分野において知られており、たとえば、ハロゲン置換炭化水素、たとえば、フッ素置換メタン、エタン、プロパン、ブタン、シクロプロパンまたはシクロブタン、特に1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA134a)および1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA227)、またはそれらの混合物が含まれる。
【0111】
[119]一実施形態において、配合物は、微粉化ラパマイシン、エタノール、好適な噴霧剤、たとえばHFA 134a、HFA 227、または好適な噴霧剤の混合物、および任意選択で1種または複数の界面活性剤を含む。一実施形態において、配合物は、潤滑剤をさらに含む。
【0112】
[120]一実施形態において、配合物は、ラパマイシン、噴霧剤、および植物油を含む。一態様において、配合物は、添加剤または界面活性剤を含まない。たとえば、配合物は、エタノール、ポリヒドロキシアルコール(たとえばプロピレングリコール)、または界面活性剤(たとえば、トリオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、またはオレイン酸)を含まない。
【0113】
[121]一実施形態において、噴霧剤ベース配合物は、圧縮空気、二酸化炭素、窒素または、n−プロパン、n−ブタン、イソブタンもしくはこれらの混合物、もしくは1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA134a)および1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA227)、もしくはそれらの混合物からなる群から選択される液化噴霧剤を、アルコール等の極性共溶剤ありまたはなしで含む。組成物は、溶液または懸濁液でありうる。懸濁液については、薬物粒子は、0.1から10ミクロンの直径を有し、平均直径は3.5ミクロン未満である。
【0114】
[122]噴霧剤ベース配合物は、当技術分野において知られている方法、たとえば、粗いラパマイシン、および任意選択の添加剤を、液体噴霧剤中で、周囲圧力または高圧条件下のいずれかで、湿式ミル粉砕することにより調製される。いくつかの実施形態において、添加剤は、凝集(固化または結晶化)を防止し、均一な用量決定を促進し、(あるいは代わりに)好ましい微粒子画分(FPF)を提供するのに役立つ界面活性剤である。一態様において、界面活性剤は、トリオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、またはオレイン酸から選択される。代わりに、薬物粒子を含有する乾燥粉末は、上で論じたとおり、薬物粒子の水性分散液を噴霧乾燥またはフリーズドライすることにより調製され、得られた粉末は、従来の加圧計量用量吸入器(pMDI)における使用に好適な噴霧剤中に分散される。一実施形態において、吸入デバイスは、Respimat(商標)である。
【0115】
[123]一実施形態において、本発明の噴霧剤ベースエアロゾルラパマイシン配合物は、長期的なラパマイシンの粒子サイズ成長または結晶形態変化に対して安定的である。
滅菌単位剤形を製造するための方法
[124]一実施形態において、本発明の組成物は、滅菌組成物である。一実施形態において、滅菌組成物は、滅菌単位剤形である。一実施形態において、滅菌単位剤形は、ネブライザーデバイスにおける使用に好適なカプセル剤である。
【0116】
[125]一実施形態において、最終組成物は、その密閉容器内で、加熱、たとえば高圧蒸気殺菌により、または放射線により滅菌される。一実施形態において、組成物の成分は、液体成分のための滅菌濾過および固体または液体のための放射線もしくは高圧蒸気殺菌を含む好適な方法によりまず滅菌され、この方法は、密封容器内にパッケージすること、混合容器内で適切な割合で成分を組み合わせること、および得られた産物を密閉容器内に充填することを、すべて無菌スイートにおいて実施することにより、滅菌成分の無菌性を維持する工程をさらに含む。このプロセスは、高価で、困難な無菌操作技術を要するという欠点を有する。したがって、それは、滅菌のためのサブミクロンフィルターを通過させることができない粒子懸濁液またはコロイド分散液、リポソーム配合物、またはエマルションを処理するのに主に使用される。最後に、一実施形態において、最終組成物は、サブミクロンフィルター、好ましくは0.2ミクロンのフィルターを通して滅菌濾過されている。一実施形態において、本発明の組成物は、濾過滅菌プロセスを介して滅菌された単相水性溶液である。対照的に、エマルションおよびリポソーム配合物は、典型的には、濾過滅菌プロセスの高剪断条件下で十分に安定ではなく、それゆえこのプロセスには好ましくない。
【0117】
[126]一実施形態において、本発明の組成物は、密閉容器、たとえば、ポリマー、好ましくはポリエチレンで形成されたバイアル、または代わりにガラスバイアル内に充填された単相水性溶液である。高圧蒸気殺菌および放射線は、バイアルがポリマーバイアルである場合には、薬物および/または配合物賦形剤において、容器においてと同様に、化学的不安定性を生み出す高い可能性ゆえに、また望ましくない不純物の生成ゆえに、好適ではない。一実施形態において、本発明の組成物は、加熱(高圧蒸気殺菌)または放射線を含まず、代わりに濾過滅菌プロセスを含むプロセスにより滅菌される。好ましくは、この実施形態によれば、ラパマイシンの単相水性溶液は、0.2ミクロン以下の細孔サイズを有するフィルターを通した濾過により滅菌される。一実施形態において、無菌濾物は、無菌スイート内に位置する回収容器内に回収される。一実施形態において、無菌濾物は、無菌スイートにおいて回収容器から密閉容器へと移される。好ましくは、密閉容器は、ポリマーバイアル、好ましくは単位用量バイアル、最も好ましくはポリエチレン単位用量バイアルである。一実施形態において、ポリマーバイアルは、それが充填される直前にブロー成形により形成され、次に充填の直後にヒートシールされる。この技術はまた、「形成−充填−シール」または「ブロー−充填」と呼ばれてもよい。この技術は、ラパマイシンの単相水性溶液である本発明の組成物の文脈において特に有利である。なぜなら、このプロセスは、加熱または放射線を要しないからであり、これらの両方が、薬物自体、配合物賦形剤、または密閉容器のいずれかを劣化させうる。
【0118】
肺内投与および用量決定
[127]本発明は、吸入により、ラパマイシンを気道、好ましくは肺に投与することによるLAMの治療および予防のための組成物および方法を提供する。肺送達は、好ましくは、口および喉を通じた肺内へのエアロゾルの吸入により達成されるが、鼻を通じたエアロゾルの吸入により達成されてもよい。したがって、一実施形態において、エアロゾルは、鼻腔内送達される。別の一実施形態において、エアロゾルは、経口送達される。
【0119】
[128]本発明の組成物および方法は、有利には、治療有効量のラパマイシンの肺への標的化送達を提供する一方で、同時に、非常に低いまたは検出不能なレベルまで、血中のラパマイシンの量を低減し、全身に利用可能である。一実施形態において、本明細書に記載の乾燥粉末組成物の単一用量におけるラパマイシンの量は、約5から500マイクログラムまたは約100から300マイクログラム、または約50から250マイクログラムである。低用量ラパマイシンの肺への直接の標的化送達は、全身曝露を最小化する一方で、経口投与剤形と比較して治療指数の改善を提供する。
【0120】
[129]一実施形態において、本発明の方法による吸入によるラパマイシンの投与は、ラパマイシンの治療指数を増加させる。この文脈において、ヒト対象に適用されるものとして、治療指数は、集団の50%において治療効果(ED
50)をもたらす用量を、毒性(TD
50)をもたらす用量に対して比較する比である。比は、TD
50/ED
50として表される。一実施形態において、本発明の方法による吸入によるラパマイシンの投与は、経口投与されるラパマイシンと関連する1つまたは複数の毒性を低減し、そのことにより、ラパマイシンの治療指数を増加させる。
【0121】
[130]本発明は、溶液および粉末の形態のエアロゾル化可能な配合物を含む。したがって、ラパマイシンは、水性エアロゾル、乾燥粉末エアロゾル、または噴霧剤ベースエアロゾルの形態で、本発明の方法により投与できる。
【0122】
[131]一実施形態において、ラパマイシンの投与用量は、対象において、0.01から0.15ng/ml、0.075から0.350ng/ml、0.150から0.750ng/ml、0.750から1.5ng/mlまたは1.5から5ng/mlの血中トラフレベルをもたらす。一実施形態において、ラパマイシンの投与用量は、対象において、5ng/ml未満、2ng/ml未満、1ng/ml未満、または0.5ng/ml未満の血中トラフレベルをもたらす。
【0123】
[132]一実施形態において、ラパマイシンの投与用量は、肺組織において、1ng/gから1μg/g、好ましくは約5ng/gから100ng/g、約5ng/gから約20ng/g、または約5ng/gから約30ng/gの範囲のラパマイシン濃度をもたらすのに十分である。
【0124】
[133]一実施形態において、ラパマイシンの投与用量は、5から100マイクログラム、20から100マイクログラム、20から250マイクログラム、50から500マイクログラム(0.05から0.5ミリグラム)、250から1000マイクログラム(0.25から1ミリグラム)または500から2000マイクログラム(0.5から2ミリグラム)の範囲である。一実施形態において、投与されるラパマイシンの量は、500マイクログラム未満、100マイクログラム未満、50マイクログラム未満、20マイクログラム未満、または10マイクログラム未満である。好ましくは、投与されるラパマイシンの量は、0.5ミリグラム未満または0.25ミリグラム未満である。
【0125】
[134]一実施形態において、ラパマイシンは、1日1度投与される。
[135]一実施形態において、ラパマイシンの1日総用量は、5から100マイクログラム、20から250マイクログラム、50から500マイクログラム(0.05から0.5ミリグラム)、250から1000マイクログラム(0.5から1ミリグラム)または500から2000マイクログラム(0.5から2ミリグラム)の範囲である。一実施形態において、ラパマイシンの1日総用量は、500マイクログラム未満、100マイクログラム未満、50マイクログラム未満、20マイクログラム未満、または10マイクログラム未満である。一実施形態において、対象に投与されるラパマイシンの1日総用量は、1日当たり0.5ミリグラム未満または0.25ミリグラム未満である。
【0126】
[136]一実施形態において、本発明の組成物は、1日1度対象に投与される。一実施形態において、本発明の組成物は、1日2度または3度投与される。好ましくは、組成物は、1日1度もしくは2度、または1日1度未満で投与される。
【0127】
[137]一実施形態において、本発明の方法は、スタチン、プロゲストロン、タモキシフェン、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニスト、ドキシサイクリン、src阻害剤、自食作用阻害剤(たとえば、ヒドロキシクロロキン)、VEGF−CまたはD阻害剤、およびVEGF受容体阻害剤からなる群から選択される1種または複数の追加の治療剤と組み合わせて、肺経路を介してラパマイシンを投与する工程を含む。一実施形態において、1種または複数の追加の治療剤は、スタチン、プロゲステロン、タモキシフェン、およびゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニストから選択される。一実施形態において、1種または複数の追加の治療剤は、エストロゲンアンタゴニスト、スタチン、src阻害剤、およびVEGF−R阻害剤から選択される。一実施形態において、1種または複数の追加の治療剤は、レトロゾール、タモキシフェン、シンバスタチン、サラカチニブ、パゾパニブ、イマチニブ、およびそれらの組合せからなる群から選択される。1つまたは複数の追加の薬剤は、ラパマイシンと同じまたは異なる投与経路により投与できる。たとえば、薬剤は、吸入、鼻腔内投与、経口投与または静脈内投与により投与できる。
【0128】
[138]一実施形態において、本発明の方法は、1つまたは複数の追加の治療法と組み合わせて、肺経路を介してラパマイシンを投与する工程を含む。一実施形態において、1つまたは複数の追加の治療法は、抗エストロゲン療法、ホルモン療法、抗癌化学療法、および放射線療法から選択される。一実施形態において、本発明の方法は、抗エストロゲン療法またはホルモン療法と組み合わせて、肺経路を介してラパマイシンを投与する工程を含む。
【0129】
[139]いくつかの実施形態において、これらの方法は、一次療法としての本発明の組成物の肺内投与を含む。他の実施形態において、本発明の組成物の投与は、アジュバント療法である。いずれの場合にも、本発明の方法は、疾患または障害の治療のための1つまたは複数の追加の治療法と組み合わせた、本発明の組成物の投与を考慮する。「治療法(therapy)」および「治療法(therapies)」という用語は、疾患もしくは障害、またはそれらの1つもしくは複数の症状の防止、治療、管理または改善において使用できる任意の方法、プロトコルおよび/または薬剤を指す。いくつかの実施形態において、治療法は、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、および抗エストロゲン療法から選択される。
【0130】
[140]好ましくは、1つまたは複数の追加の治療法と組み合わせた、本発明の方法によるラパマイシンまたはそのプロドラッグもしくは誘導体を含む医薬組成物の投与は、LAMを有する対象において相乗反応を提供する。この文脈において、「相乗」という用語は、組合せの効果が、いずれか単一の治療法のみの効果を足し合わせた効果よりも効果的であることを指す。一実施形態において、本発明による組合せラパマイシン療法の相乗効果は、その組合せにおける少なくとも1つの治療法の、組合せ外でのその用量および/または頻度と比較した、より低用量および/またはより頻度の低い投与の使用を可能にする。別の一実施形態において、相乗効果は、その組合せにおけるいずれかの治療法のみの使用と関連する有害または望ましくない副作用の回避または低減において現れる。
【0131】
ネブライザー送達
[141]一実施形態において、ラパマイシンは、噴霧療法に好適な水性溶液として配合され、ネブライザーを介して送達される。水性および他の非加圧液体系について、様々なネブライザー(少量ネブライザーを含む)を、配合物をエアロゾル化するために利用可能である。コンプレッサー駆動ネブライザーは、ジェット技術を組み込み、液体エアロゾルを生成するために圧縮空気を使用する。かかるデバイスは、たとえば、Healthdyne Technologies,Inc.、Invacare,Inc.、Mountain Medical Equipment,Inc.、Pari Respiratory,Inc.、Mada Medical,Inc.、Puritan−Bennet、Schuco,Inc.、DeVilbiss Health Care,Inc.、およびHospitak,Inc.から市販されている。超音波ネブライザーは、呼吸用液滴を生成するために圧電結晶の振動の形態の力学的エネルギーに依存し、たとえば、Omron Healthcare,Inc.およびDeVilbiss Health Care,Inc.から市販されている。ネブライザーは、たとえば、従来の空気ネブライザー、たとえばエアジェットネブライザー、または超音波ネブライザーであってもよく、これらは、1から50ml、一般に1から10mlの溶液配合物を含有してもよい。
【0132】
[142]一実施形態において、本発明の水性溶液配合物は、振動または固定メッシュを含むネブライザーでの投与に適する。たとえば、デバイス、たとえば、AERx(登録商標)(Aradigm)、RESPIMAT(登録商標)(Boehringer Ingelheim)、I−Neb(登録商標)(Philips)、またはMicroAire(登録商標)(Omron)では、薬物溶液がピストンもしくは空気圧で、またはオリフィスもしくはメッシュを通じて圧電結晶で押される。代わりに、溶液は、振動メッシュネブライザー、たとえばE−Flow(登録商標)(Pari)またはAeroneb(登録商標)Go(Aerogen)を通じて噴出されうる。これらのデバイスは、従来のネブライザーよりもはるかに小さな噴霧化体積、たとえば10から100μl、および高い送達効率を可能にする。
【0133】
乾燥粉末送達
[143]一実施形態において、本発明の乾燥粉末組成物は、非噴霧剤ベース乾燥粉末吸入器(DPI)デバイスにより送達される。一実施形態において、粉末は、DPIデバイスにおける使用に好適な、ゼラチンもしくはプラスチックのカプセル剤、またはブリスター剤中に含有される。一実施形態において、粉末は、単位剤形で、1カプセル剤当たり5mgから100mgの粉末の用量単位で供給される。別の一実施形態において、乾燥粉末は、複数用量乾燥粉末吸入デバイスのリザーバー内に含有される。一実施形態において、吸入器デバイスは、組成物の計量用量、たとえば10から100μl、たとえば25から50μlを送達するよう適合されたバルブを備えるエアロゾルバイアルを含み、すなわち、計量用量吸入器として知られているデバイスである。
【0134】
[144]一実施形態において、DPIデバイスは、ブリスターベースデバイス、たとえば、GyroHaler(登録商標)またはOmniHaler(登録商標)(両方がVectura製)、リザーバーベースデバイス、たとえばClickhaler(登録商標)またはDuohaler(登録商標)(Vectura)、およびARCUS(登録商標)吸入器(Civitas Therapeutics)である。一実施形態において、DPIデバイスは、Pulmatrix(商標)、およびHovione TwincapsおよびXCaps(商標)から選択される。一実施形態において、デバイスは、XCaps、Plastiape(登録商標) RS01 Model 7、およびPlastiape(登録商標) RS00 Model 8からなる群から選択される。
【0135】
[145]一実施形態において、DPIデバイスは、Accuhaler(登録商標)、Aerolizer(登録商標)、Plastiape(登録商標) RS01 Model 7、Plastiape(登録商標) RS00 Model 8、Conix(商標)、Rotahaler(登録商標)、TwinCaps(登録商標)、XCaps(登録商標)、FlowCaps(登録商標)、Turbuhaler(登録商標)、NextHaler(登録商標)、CycloHaler(登録商標)、Revolizer(商標)、Diskhaler(登録商標)、Diskus(登録商標)、Spinhaler、Handihaler(登録商標)、Microdose Inhaler、GyroHaler(登録商標)、OmniHaler(登録商標)、Clickhaler(登録商標)、またはDuohaler(登録商標)(Vectura)、または呼気作動ARCUS(登録商標)吸入器(Civitas Therapeutics)からなる群から選択される。
【0136】
[146]一実施形態において、DPIデバイスは、Arcus(商標)、Aspirair(商標)、Axahaler(商標)、Breezhaler(商標)、Clickhaler(商標)、Conix Dry(商標)、Cricket(商標)、Dreamboat(商標)、Genuair(商標)、Gemini(商標)、Inspiromatic(商標)、iSPERSE(商標)、MicroDose(商標)、Next DPI(商標)、Prohaler(商標)、Pulmojet(商標)、Pulvinal(商標)、Solis(商標)、Taifun(商標)、Taper Dry(商標)、Trivai(商標)、Novolizer(商標)、Podhaler(商標)、Skyehaler(商標)、Spiromax(商標)、Twincaps/Flowcaps(商標)、およびTurbuhaler(商標)からなる群から選択される。一実施形態において、DPIデバイスは、乾燥粉末の用量単位を含有するカプセル剤またはブリスター剤から乾燥粉末を送達するよう適合されているか、または、たとえば1回の作動ごとに5〜25mgの乾燥粉末を送達するよう適合されている、複数用量乾燥粉末吸入デバイスである。
【0137】
pMDI送達
[147]別の一実施形態において、ラパマイシンは、噴霧剤ベース配合物に関して上述の好適な噴霧剤を含有する加圧容器またはディスペンサーからのエアロゾル化粒子の形態で送達される。一実施形態において、吸入器は、噴霧剤駆動吸入器、たとえばpMDIデバイスであり、これは、作動ごとに計量用量のラパマイシンを放出する。典型的なpMDIデバイスは、薬物を含有するキャニスター、薬物計量バルブ、およびマウスピースを含む。この実施形態の一態様において、ラパマイシンは、噴霧剤中の懸濁として配合される。この実施形態の文脈において、ラパマイシンは、液化噴霧剤または噴霧剤ブレンド中に懸濁される細かい粉末にされる。次に、懸濁液は、噴霧剤を液体形態に維持するのに十分な与圧下で、密封キャニスター中に保存される。別の一実施形態において、ラパマイシンは、溶液として配合される。この実施形態の文脈において、ラパマイシンは、液化噴霧剤または噴霧剤ブレンド中に可溶化される。一実施形態において、配合物は、配合物の撹拌後にラパマイシンの再現性のある用量決定を可能にするのに十分な時間、沈殿、クリーミングまたは綿状沈殿に対して配合物を安定化するのに好適な量の安定剤をさらに含む。安定剤は、エアロゾル配合物の100万総重量部に対して、約10重量部から約5000重量部の量で過量で存在してもよい。一実施形態において、流体担体は、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパンまたはそれらの混合物である。別の一実施形態において、流体担体は、炭化水素(たとえば、n−ブタン、プロパン、イソペンタン、またはそれらの混合物)である。組成物は、共溶剤(たとえば、エタノールまたは他の好適な共溶剤)をさらに含んでもよい。
【0138】
[148]本発明の方法の一実施形態において、ラパマイシンを含むエアロゾル配合物は、追加の薬物をさらに含む。この実施形態の一態様において、追加の薬物は、コルチコステロイド、エストロゲン受容体アンタゴニスト、抗コリン薬、ベータ刺激薬、非ステロイド系抗炎症薬、マクロライド抗生物質、気管支拡張剤、ロイコトリエン受容体阻害剤、ムスカリンアンタゴニスト、硫酸クロモリン、およびそれらの組合せからなる群から選択される。
【0139】
添加剤
[149]本発明のエアロゾル組成物は、配合物中に存在する任意の担体または希釈剤(たとえばラクトースまたはマンニトール)に加えて、1種または複数の添加剤を含有していてもよい。一実施形態において、1種または複数の添加剤は、1種または複数の界面活性剤を含むか、またはそれらからなる。界面活性剤は、典型的には、薬物貫通および吸収を増強するために細胞の脂質構造内に直接挿入されることを可能にする1つまたは複数の脂肪族長鎖、たとえば脂肪酸を有する。界面活性剤の相対親水性および疎水性を特徴づけるために一般に使用される経験的パラメータは、親水性−親油性バランス(「HLB」値)である。より低いHLB値を有する界面活性剤は、より疎水性であり、油中でのより高い溶解性を有する一方で、より高いHLB値を有する界面活性剤は、より親水性であり、水性溶液中でのより高い溶解性を有する。したがって、親水性界面活性剤は、一般に、約10より大きいHLB値を有する化合物であると考えられ、疎水性界面活性剤は、一般に、約10未満のHLB値を有するものである。しかしながら、これらのHLB値は、指針に過ぎない。なぜなら、多くの界面活性剤について、HLB値を決定するために選択される経験的方法に応じて、HLB値は約8HLB単位も異なりうるからである。
【0140】
[150]本発明のエアロゾル組成物における使用のための界面活性剤のなかには、ポリエチレングリコール(PEG)−脂肪酸ならびにPEG−脂肪酸モノおよびジエステル、PEGグリセロールエステル、アルコール−油エステル交換反応産物、ポリグリセリル脂肪酸、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステロールおよびステロール誘導体、ポリエチレングリコールソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、糖およびその誘導体、ポリエチレングリコールアルキルフェノール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン(POE−POP)ブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、イオン性界面活性剤、脂溶性ビタミンおよびそれらの塩、水溶性ビタミンおよびそれらの両親媒性誘導体、アミノ酸およびそれらの塩、ならびに有機酸およびそれらのエステルおよび無水物がある。これらのそれぞれが、下でより詳細に記載される。
【0141】
PEG脂肪酸エステル
[151]ポリエチレングリコール(PEG)自体は界面活性剤として機能しないとはいえ、様々なPEG−脂肪酸エステルが、有用な界面活性剤特性を有する。PEG−脂肪酸モノエステルのなかでも、ラウリン酸、オレイン酸、およびステアリン酸のエステルが、本発明の実施形態において最も有用である。好ましい親水性界面活性剤には、ラウリン酸PEG−8、オレイン酸PEG−8、ステアリン酸PEG−8、オレイン酸PEG−9、ラウリン酸PEG−10、オレイン酸PEG−10、ラウリン酸PEG−12、オレイン酸PEG−12、オレイン酸PEG−15、ラウリン酸PEG−20およびオレイン酸PEG−20が含まれる。HLB値は、4〜20の範囲である。
【0142】
[152]ポリエチレングリコール脂肪酸ジエステルもまた、本発明の実施形態の組成物における界面活性剤としての使用に好適である。最も好ましい親水性界面活性剤には、ジラウリン酸PEG−20、ジオレイン酸PEG−20、ジステアリン酸PEG−20、ジラウリン酸PEG−32およびジオレイン酸PEG−32が含まれる。HLB値は、5〜15の範囲である。
【0143】
[153]一般に、界面活性剤の混合物もまた、本発明の実施形態において有用であり、2種以上の市販の界面活性剤の混合物が、界面活性剤と別の1種または複数の添加剤との混合物とともに含まれる。複数のPEG−脂肪酸エステルが、混合物またはモノ−およびジエステルとして市販されている。
【0144】
ポリエチレングリコールグリセロール脂肪酸エステル
[154]好ましい親水性界面活性剤は、ラウリン酸PEG−20グリセリル、ラウリン酸PEG−30グリセリル、ラウリン酸PEG−40グリセリル、オレイン酸PEG−20グリセリル、およびオレイン酸PEG−30グリセリルである。
【0145】
アルコール−油エステル交換反応産物
[155]異なる度合いの疎水性および親水性を有する多数の界面活性剤を、アルコールまたは多価アルコールと様々な天然および/または水添油との反応により調製できる。最も一般的には、使用される油は、ヒマシ油もしくは水添ヒマシ油、または食用植物油、たとえばトウモロコシ油、オリーブ油、落花生油、パーム核油、杏仁油、またはアーモンド油である。好ましいアルコールには、グリセロール、プロピレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビトール、およびペンタエリトリトールが含まれる。これらのアルコール−油エステル交換界面活性剤のなかでも、好ましい親水性界面活性剤は、PEG−35ヒマシ油(Incrocas−35)、PEG−40水添ヒマシ油、(Cremophor RH 40)、トリオレイン酸PEG−25(TAGAT.RTM. TO)、PEG−60トウモロコシグリセリド(Crovol M70)、PEG−60アーモンド油(Crovol A70)、PEG−40パーム核油(Crovol PK70)、PEG−50ヒマシ油(Emalex C−50)、PEG−50水添ヒマシ油(Emalex HC−50)、PEG−8カプリル酸/カプリン酸グリセリド(Labrasol)、およびPEG−6カプリル酸/カプリン酸グリセリド(Softigen 767)である。このクラスの好ましい疎水性界面活性剤には、PEG−5水添ヒマシ油、PEG−7 水添ヒマシ油、PEG−9水添ヒマシ油、PEG−6トウモロコシ油(Labrafil.RTM. M 2125 CS)、PEG−6アーモンド油(Labrafil.RTM. M 1966 CS)、PEG−6杏仁油(Labrafil.RTM. M 1944 CS)、PEG−6オリーブ油(Labrafil.RTM. M 1980 CS)、PEG−6落花生油(Labrafil.RTM. M 1969 CS)、PEG−6 水添パーム核油(Labrafil.RTM. M 2130 BS)、PEG−6パーム核油(Labrafil.RTM. M 2130 CS)、PEG−6トリオレイン(Labrafil.RTM.b M 2735 CS)、PEG−8トウモロコシ油(Labrafil.RTM. WL 2609 BS)、PEG−20トウモロコシグリセリド(Crovol M40)、およびPEG−20アーモンドグリセリド(Crovol A40)が含まれる。
【0146】
ポリグリセリル脂肪酸
[156]脂肪酸のポリグリセロールエステルもまた、本発明の実施形態における使用に好適な界面活性剤である。ポリグリセリル脂肪酸エステルのなかでも、好ましい疎水性界面活性剤には、オレイン酸ポリグリセリル(Plurol Oleique)、ジオレイン酸ポリグリセリル−2(Nikkol DGDO)、トリオレイン酸ポリグリセリル−10、ステアリン酸ポリグリセリル、ラウリン酸ポリグリセリル、ミリスチン酸ポリグリセリル、パルミチン酸ポリグリセリル、およびリノール酸ポリグリセリルが含まれる。好ましい親水性界面活性剤には、ラウリン酸ポリグリセリル−10(Nikkol Decaglyn 1−L)、オレイン酸ポリグリセリル−10(Nikkol Decaglyn 1−0)、およびモノ、ジオレイン酸ポリグリセリル−10(Caprol.RTM. PEG 860)、ステアリン酸ポリグリセリル−10、ラウリン酸ポリグリセリル−10、ミリスチン酸ポリグリセリル−10、パルミチン酸ポリグリセリル−10、リノール酸ポリグリセリル−10、ステアリン酸ポリグリセリル−6、ラウリン酸ポリグリセリル−6、ミリスチン酸ポリグリセリル−6、パルミチン酸ポリグリセリル−6、およびリノール酸ポリグリセリル−6が含まれる。ポリリシノール酸ポリグリセリル(Polymuls)もまた、好ましい界面活性剤である。
【0147】
プロピレングリコール脂肪酸エステル
[157]プロピレングリコールと脂肪酸とのエステルは、本発明の実施形態における使用に好適な界面活性剤である。この界面活性剤クラスにおいて、好ましい疎水性界面活性剤には、モノラウリン酸プロピレングリコール(Lauroglycol FCC)、リシノール酸プロピレングリコール(Propymuls)、モノオレイン酸プロピレングリコール(Myverol P−06)、ジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール(Captex.RTM. 200)、およびジオクタン酸プロピレングリコール(Captex.RTM. 800)が含まれる。
【0148】
ステロールおよびステロール誘導体
[158]ステロールおよびステロールの誘導体は、本発明の実施形態における使用のために好適な界面活性剤である。好ましい誘導体には、ポリエチレングリコール誘導体が含まれる。このクラスの好ましい界面活性剤は、PEG−24コレステロールエーテル(Solulan C−24)である。
【0149】
ポリエチレングリコールソルビタン脂肪酸エステル
[159]様々なPEG−ソルビタン脂肪酸エステルが利用可能であり、本発明の実施形態における界面活性剤としての使用に好適である。PEG−ソルビタン脂肪酸エステルのなかでも、好ましい界面活性剤には、モノラウリン酸PEG−20ソルビタン(Tween−20)、モノパルミチン酸PEG−20ソルビタン(Tween−40)、モノイソステアリン酸PEG−20ソルビタン(Tween−60)、およびモノオレイン酸PEG−20ソルビタン(Tween−80)が含まれる。
【0150】
ポリエチレングリコールアルキルエーテル
[160]ポリエチレングリコールとアルキルアルコールとのエステルは、本発明の実施形態における使用に好適な界面活性剤である。好ましいエーテルには、PEG−3オレイルエーテル(Volpo 3)およびPEG−4ラウリルエーテル(Brij 30)が含まれる。
【0151】
糖およびその誘導体
[161]糖誘導体は、本発明の実施形態における使用に好適な界面活性剤である。このクラスにおける好ましい界面活性剤には、モノパルチミン酸スクロース、モノラウリン酸スクロース、デカノイル−N−メチルグルカミド、n−デシル−β−D−グルコピラノシド、n−デシル−β−D−マルトピラノシド、n−ドデシル−β−D−グルコピラノシド、n−ドデシル−β−D−マルトシド、ヘプタノイル−N−メチルグルカミド、n−ヘプタイル−β−D−グルコピラノシド、n−ヘプタイル−β−D−チオグルコシド、n−ヘキシル−β−D−グルコピラノシド、ノナノイル−N−メチルグルカミド、n−ノニル−β−D−グルコピラノシド、オクタノイル−N−メチルグルカミド、n−オクチル−β−D−グルコピラノシド、およびオクチル−β−D−チオグルコピラノシドが含まれる。
【0152】
ポリエチレングリコールアルキルフェノール
[162]複数のPEG−アルキルフェノール界面活性剤、たとえばPEG−10−100ノニルフェノールおよびPEG−15−100オクチルフェノールエーテル、チロキサポール、オクトキシノール、ノノキシノールが利用可能であり、本発明の実施形態における使用に好適である。
【0153】
ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン(POE−POP)ブロックコポリマー
[163]POE−POPブロックコポリマーが、ポリマー性界面活性剤の固有のクラスである。親水性POEおよび疎水性POP部分をよく定義された比および位置で有する界面活性剤の固有構造は、本発明の実施形態における使用に好適な、広範な界面活性剤を提供する。これらの界面活性剤は、Synperonic PE シリーズ(ICI)、Pluronic.RTM.シリーズ(BASF)、Emkalyx、Lutrol(BASF)、Supronic、Monolan、Pluracare、およびPlurodacを含む様々な商品名で利用可能である。これらのポリマーの包括的用語は、「ポロキサマー」(CAS 9003−11−6)である。これらのポリマーは、式:HO(C2H4O)a(C3H6O)b(C2H4O)aHを有し、式中、「a」および「b」はそれぞれ、ポリオキシエチレンおよびポリオキシプロピレン単位の数を意味する。
【0154】
[164]このクラスの好ましい親水性界面活性剤には、ポロキサマー108、188、217、238、288、338、および407が含まれる。このクラスにおける好ましい疎水性界面活性剤には、ポロキサマー124、182、183、212、331、および335が含まれる。
【0155】
ソルビタン脂肪酸エステル
[165]脂肪酸のソルビタンエステルは、本発明の実施形態における使用に好適な界面活性剤である。これらのエステルのなかでも、好ましい疎水性界面活性剤には、モノラウリン酸ソルビタン(Arlacel 20)、モノパルミチン酸ソルビタン(Span−40)、モノオレイン酸ソルビタン(Span−80)、モノステアリン酸ソルビタンが含まれる。
【0156】
[166]ビタミンCの両親媒性誘導体であるモノパルミチン酸ソルビタン(ビタミンC活性を有する)は、可溶化系において2つの重要な機能を果たしうる。第1に、それは、微細環境を調節できる効果的な極性基を有する。これらの極性基は、ビタミンC自体(アスコルビン酸)を最も水溶性の高い有機個体化合物にするのと同じ基である。アスコルビン酸は、水中で約30wt/wt%まで可溶性である(たとえば、塩化ナトリウムの溶解性に非常に近い)。そして第2に、pHが増加するとき、パルミチン酸アスコルビルの画分を、より可溶性の高い塩、たとえばパルミチン酸アスコルビルナトリウムへと変換する。
【0157】
イオン性界面活性剤
[167]カチオン性、アニオン性、および双性イオン性界面活性剤を含むイオン性界面活性剤は、本発明の実施形態における使用のために好適な親水性界面活性剤である。好ましいイオン性界面活性剤には、第四級アンモニウム塩、脂肪酸塩および胆汁酸塩が含まれる。具体的には、好ましいイオン性界面活性剤には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、ドセシル(doceyl)トリメチルアンモニウムブロミド、ドセシル硫酸ナトリウム、塩化ジアルキルメチルベンジルアンモニウム、塩化エドロホニウム、臭化ドミフェン、スルホコハク酸ナトリウムのジアルキルエステル、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、コール酸ナトリウム、およびタウロコール酸ナトリウムが含まれる。これらの第四級アンモニウム塩は、好ましい添加剤である。これらは、有機溶剤(たとえば、エタノール、アセトン、およびトルエン)中および水中の両方に溶解されうる。これは、医療デバイスコーティングに特に有用である。なぜならそれは、調製およびコーティングプロセスを単純化し、良好な粘着特性を有するからである。非水溶性薬物は、一般に、有機溶剤中に溶解する。
【0158】
脂溶性ビタミンおよびそれらの塩
[168]ビタミンA、D、EおよびKは、それらの様々な形態およびプロビタミン形態の多くにおいて、脂溶性ビタミンとして考えられ、これらに加えて、数多くの他のビタミンおよびビタミン源または近い関係物質がまた脂溶性であり、極性基、および相対的に高いオクタノール−水分配係数を有する。明らかに、かかる化合物のクラス全般は、安全な使用および高い利益対リスク比の歴史を有しており、これらの化合物を、本発明の実施形態における添加剤として有用なものとする。
【0159】
[169]脂溶性ビタミン誘導体および/または源の以下の例もまた、添加剤として有用である。すなわち、アルファ−トコフェロール、ベータ−トコフェロール、ガンマ−トコフェロール、デルタ−トコフェロール、酢酸トコフェロール、エルゴステロール、1−アルファ−ヒドロキシコレカルシフェロール(colecal−ciferol)、ビタミンD2、ビタミンD3、アルファ−カロチン、ベータ−カロチン、ガンマ−カロチン、ビタミンA、フルスルチアミン、メチロールリボフラビン、オクトチアミン、プロスルチアミン、リボフラビン、ビンチアモール、ジヒドロビタミンK1、二酢酸メナジオール、二酪酸メナジオール、二硫酸メナジオール、メナジオール、ビタミンK1、ビタミンK1オキシド、ビタミンK2、およびビタミンK−S(II)。葉酸もまたこのタイプであり、それは生理的pHで水溶性であるとはいえ、遊離酸形態で配合されうる。本発明の実施形態において有用な脂溶性ビタミンの他の誘導体は、親水性分子とのよく知られている化学反応を介して容易に得られる。
【0160】
水溶性ビタミンおよびそれらの両親媒性誘導体
[170]ビタミンB、C、U、パントテン酸、葉酸、およびメナジオン関連ビタミン/プロビタミンのいくつかは、それらの様々な形態の多くにおいて、水溶性ビタミンであると考えられる。これらは、疎水性部分または多価イオンとコンジュゲートまたは錯体形成され、相対的に高いオクタノール−水分配係数および極性基を有する両親媒性形態となってもよい。やはり、かかる化合物は低毒性で高い利益対リスク比であり、これらの化合物を、本発明の実施形態における添加剤として有用でありうる。これらの塩もまた、本発明における添加剤として有用でありうる。水溶性ビタミンおよび誘導体の例には、アセチアミン、ベンフォチアミン、パントテン酸、セトチアミン、シクロチアミン、デクスパンテノール、ナイアシンアミド、ニコチン酸アミド、ピリドキサル−5−リン酸、アスコルビン酸ニコチンアミド、リボフラビン、リン酸リボフラビン、チアミン、葉酸、二リン酸メナジオール、メナジオン亜硫酸水素ナトリウム、メナドキシム、ビタミンB12、ビタミンK5、ビタミンK6、およびビタミンUが含まれるが、これに限定されない。また上述のとおり、葉酸は、生理的pHを含む広範なpH範囲にわたって、塩として水溶性である。
【0161】
[171]アミノ基または他の塩基性基が存在する化合物は、疎水性基含有酸、たとえば脂肪酸(特に、ラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、または2−エチルヘキサン酸)、低溶解性アミノ酸、安息香酸、サリチル酸、または酸性脂溶性ビタミン(たとえばリボフラビン)との単純な酸−塩基反応により容易に修飾されうる。他の化合物は、かかる酸を、ビタミン上の別の基、たとえばヒドロキシル基と反応させ、結合、たとえばエステル結合等を形成することにより得られるかもしれない。酸性基を含有する水溶性ビタミンの誘導体は、疎水性基含有反応物、たとえばステアリルアミンまたはリボフラビンとの反応において生成され、たとえば本発明の実施形態において有用な化合物を生み出しうる。パルミチン酸鎖のビタミンCへの結合は、パルミチン酸アスコルビルをもたらす。
【0162】
アミノ酸およびそれらの塩
[172]アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、シスチン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、プロリン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、およびそれらの誘導体が、本発明の実施形態における他の有用な添加剤である。
【0163】
[173]いくつかのアミノ酸は、一価または多価イオンを有するそれらの双性イオン性形態および/または塩形態において、極性基、相対的に高いオクタノール−水分配係数を有し、本発明の実施形態において有用である。本開示の文脈において、本発明者らは、「低溶解性アミノ酸」を、緩衝されていない水中で約4%未満の溶解性(40mg/ml)を有するアミノ酸を意味するものとして解釈する。これらには、シスチン、チロシン、トリプトファン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、およびメチオニンが含まれる。
【0164】
有機酸およびそれらのエステルおよび無水物
[174]例は、酢酸および酢酸無水物、安息香酸および安息香酸無水物、アセチルサリチル酸、ジフルニサル、サリチル酸2−ヒドロキシエチル、ジエチレントリアミンペンタ酢酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物、マレイン酸およびマレイン酸無水物、コハク酸およびコハク酸無水物、ジグリコール酸無水物、グルタル酸無水物、アスコルビン酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、シュウ酸、アスパラギン酸、ニコチン酸、2−ピロリドン−5−カルボン酸、および2−ピロリドンである。
【0165】
[175]これらのエステルおよび無水物は、有機溶剤、たとえばエタノール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチルに溶解性である。水溶性薬物は、これらのエステルおよび無水物とともに有機溶媒中に溶解でき、次に、医療デバイス上に容易にコーティングでき、次に高pH条件下で加水分解できる。加水分解無水物またはエステルは、酸またはアルコールであり、これらは水溶性で、効果的に薬物をデバイスから容器壁内へと運ぶことができる。
【実施例】
【0166】
[176]本発明を、以下の実施例においてさらに説明するが、これは特許請求の範囲に記載の本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0167】
水性エアロゾル配合物
以下の成分を使用して、ラパマイシンの例示的水性配合物を調製した。
【0168】
【表1-1】
【0169】
[177]
ブレンド手順:1000mlアンバーメスフラスコ内で、250プロピレングリコールを250エタノールと均一になるまでブレンドする。次に、まず100mgのラパマイシン、次に20mgのポリソルベート80をプロピレングリコールおよびエタノール溶液中に連続的に溶解する。水を添加して容積を1000mlとし、均一になってすべてのラパマイシンが溶解するまで撹拌または超音波処理する。管理された温度で暗中保存する。
【実施例2】
【0170】
乾燥粉末配合物
[178]バッチ06RP68.HQ00008および06RP68.HQ00009。これら2つの配合物はそれぞれ、ラクトース担体粒子の表面上に分散された微粉化薬物(ラパマイシン)粒子のブレンドである。各バッチの最終組成物はそれぞれ、約2.60ミクロンおよび3.00ミクロンの平均直径を有する1%(w/w)薬物粒子を含む。好適なサイズ範囲を有する薬物粒子は、下に記載のとおり、湿式研磨(06RP68.HQ00008)またはジェットミル粉砕(06RP68.HQ00009)により作られる。この実施例が1%(w/w)ラパマイシンを使用した一方で、0.5から20%の範囲が実施可能である。担体粒子は、2種の担体、95.5%(w/w)で存在し、約30から100ミクロン(等価球径)の粒子サイズを有するRespitose(登録商標) SV003、および5.5%(w/w)で存在し、10ミクロン未満(等価球径)の粒子サイズを有するRespitose(登録商標) LH300 (Lactohale 300)のブレンドからなる。ブレンド後、均質性および1%の薬物含有量を確認するためブレンドをアッセイした。
【0171】
[179]薬物粒子凝集を低減し、薬物粒子のエアロゾル化を補助するため、複数の他の賦形剤を任意選択で含める。任意選択の賦形剤は、リン脂質、たとえばジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)およびレシチン、ならびに金属脂肪酸塩、たとえばステアリン酸マグネシウムを含む。これらは、0.01%から0.5%の範囲の賦形剤対大きな担体粒子の重量比で担体粒子上にコーティングされうる。
【0172】
[180]
カプセル充填:バッチ06RP68.HQ00008およびバッチ06RP68.HQ00009からの20ミリグラムの粉末ブレンドを、#3 HPMCカプセル内にロードし、薬物製品を製造した。これらのブレンドについて、5から35ミリグラムの薬物を#3サイズカプセルへロードし、毎分60から100リットルの範囲の流量でのPlastiape(登録商標) RS01 Model 7またはPlastiape(登録商標) RS00 Model 8デバイスにおける作動時に、95%超のロードされたブレンドを、カプセルから出すことが可能である。
【実施例3】
【0173】
C57BL6マウスに対する口咽頭吸入(OPA:oropharyngeal aspiration)および経口強制飼養による投与後の肺および血液におけるラパマイシンの決定
[181]この研究は、強制飼養および口咽頭吸入(OPA)による1mg/kgの非常に高い標的用量でのラパマイシン投与後の雄C57BL/6マウスにおけるラパマイシン濃度を評価するために実施した。マウス血液および肺ホモジネートにおけるラパマイシンの解析のための方法を、液体クロマトグラフィーをタンデム質量分析検出とともに使用して開発した(LC−MS/MS)。三重反復濃度を使用したラパマイシンの較正曲線を、マウス血中で1ng/mLから2000ng/mLの間、およびマウス肺ホモジネートにおいて2ng/mLから20,000ng/mLの間で解析した。正確度、精度および直線性は、予測された範囲内だった。
【0174】
[182]パイロット研究において、マウス1匹当たり50μLの容量での口咽頭吸入を介した肺へのビヒクル送達の効率を、エバンスブルー色素の投与により評価した。青色色素が肺にのみ存在することが視覚的に確証され、胃における青色色素の比存在は、使用された手法において胃への送達が回避されたことを実証した。
【0175】
[183]ラパマイシンは、雄C57BL/6マウス(N=6)に、強制飼養により、1.0mg/kgの用量で、経口でまたはOPAを介してのいずれかで投与された。経口用量は、医薬経口液体配合物Rapamune Oral(登録商標)(Pfizer)を使用して配合された。OPAのためのラパマイシンは、被験物質を適切な用量のエタノールに溶解させることにより調製され、次に、適切な用量の水を添加して、1mgラパマイシン/mLの濃度の10%エタノール溶液を調製した。ラパマイシンを、6匹の雄C57BL/6マウスの2つの群に、OPAにより、イソフルラン麻酔下で投与した。追加の6匹のマウスの群は、ビヒクルのみ(水中の10%エタノール)を受けた。投与1時間後に、経口およびOPAラパマイシンを受けた6匹のマウスの群を安楽死させ、血液を心穿刺により得て、肺を除去した。OPAによりラパマイシンまたはビヒクルを投与された各群の残りのマウスを、さらに3日間観察した。72時間での剖検で、血液を心穿刺により得て、肺を除去した。投与後72時間のラパマイシンまたはビヒクル処置マウスにおいて、有害作用は観察されなかった。
【0176】
[184]ラパマイシンの濃度を、LC−MS/MSにより回収血液および肺ホモジネートにおいて決定した。ラパマイシンのOPA1時間後に、ラパマイシンの濃度は、肺組織(3794±1259ng/g組織)において血中(641±220ng/ml)よりも約6倍高かった。同等の用量のラパマイシンの経口投与後、1時間でのラパマイシンの肺および血中濃度はそれぞれ、71±43ng/gおよび23±16ng/mLだった。OPA後の肺ホモジネート濃度は、同じ高用量(1mg/kg)のラパマイシンの経口投与後に測定されたものよりも53倍高かった。データは、より低い用量のラパマイシンの肺への送達(系を飽和させない用量レベル)が、経口投与により達成できる肺におけるラパマイシンレベルをもたらすが、経口投与で生じるよりも有意に低い血中ラパマイシンを伴うことを示唆する。
【0177】
材料と方法
[185]試験物質:シロリムス(Rapamune、ラパマイシン)MW 914.172、C51N79NO12、CAS番号:53123−88−9。ソース(経口強制飼養用):経口投与用Rapamune Oral(登録商標)(Pfizer)、ロット番号:MWGT、有効期限:2016年7月。ソース(OPA用):ラパマイシン(シロリムス)固体、LC Laboratories、Woburn MA、ロット番号:ASW−127、有効期限:2023年12月。
【0178】
[186]動物:雄C57BL/6マウス、およそ8週齢、Charles River Laboratories, Inc、Raleigh、NC製。動物にCertified Purina Rodent Chow #5002を給餌し、適宜水道水を供給した。栄養レベルおよび汚染物質の可能性について、各食餌バッチの解析を供給者が実施し、研究責任者が検査し、研究記録に記載した。食餌は、およそ60〜70°Fで保存し、使用期間は製粉日から6ヶ月を超えなかった。マウスを、水ボトルを収納する、ステンレス鋼棒のふたを有するポリカーボネートケージ(1ケージ当たり1匹)に収めた。ケージサイズは、マウス用のおよそ29.21cm(11.5”)×19.05cm(7.5”)×高さ12.7cm(5”)(床面積451.612平方センチメートル(70平方インチ))である。接触ベッディング(Contact bedding)は、Sani−Chips硬材チップ(P. J. Murphy Forest Products Co.、Montville、NJ)だった。マウスを、研究での使用前に5日間隔離した。獣医または有資格被指名者が、隔離からの解放前に動物を検査した。RTI動物室の温度および相対湿度を、自動システム(Revision 4.4.1 for Signal(登録商標)ソフトウェアを備えるSiebe/Barber−Colman Network 8000 System[Siebe Environmental Controls(SEC)/Barber−Colman Company、Loves Park、IL])を使用して、継続的にモニタリングし、制御し、記録した。標的環境範囲は、温度が18℃〜26℃(64〜79°F)、相対湿度が30〜70%であり、1日当たり12時間の光サイクルを伴った。生存フェーズの最後に、二酸化炭素への曝露過多によりマウスを安楽死させた。
【0179】
[187]試験化学物質調製:エバンスブルーを、滅菌蒸留水中に0.5%w/vで調製した。経口投与用に供給されているRapamune Oral(登録商標)を投与した。ラパマイシン(固体)を、エタノール中に溶解させ、滅菌蒸留水で希釈し、10%エタノール中0.5mg/mLの最終濃度を提供した。
【0180】
[188]投薬:投与される用量の量を決定するため、投薬前に各動物の体重を測定した。単一強制飼養用量を、ボール端20−Gステンレス鋼を強制飼養投薬針(Popper & Sons Inc.、New Hyde Park、NY)を装着された100μLガラスシリンジ(Hamilton、Reno、NV)を使用して投与した。各動物に投与される用量を、(完全充填されたシリンジの重量)−(空のシリンジの重量)から決定した。投薬時間を記録した。動物の投薬は、適切な時点での血液回収を可能にするよう間隔を空けた。各群に投与された用量配合物を下に示す。
【0181】
[189]口咽頭吸入群動物について、単一用量のラパマイシン(50μL)を、ボール端24−Gステンレス鋼を強制飼養投薬針(Popper & Sons Inc.、New Hyde Park、NY)を装着された100μLガラスシリンジ(Hamilton、Reno、NV)を使用して、イソフルラン麻酔下の各マウスに投与した。投薬前にマウスの体重を測定し、投与されるラパマイシンの用量を重量で記録した。各マウスはイソフルランで麻酔し、口を開くよう拘束した。舌を鉗子で口の一方に保持し、用量を口腔の遠位部分内に緩徐に注入した。鼻孔を指で2呼吸の間覆い、吸入を確保した(Raoら、2003)。
【0182】
【表1-2】
【0183】
[190]血液および肺試料の回収:研究終了時(投薬1または72時間後)に、マウスをCO2に曝露して安楽死させ、心穿刺により血液を回収し、二カリウムEDTAを抗凝固剤として用いた。肺組織を切除し、右および左肺へと分割した。左肺を解析のために使用し、右肺を液体窒素中で急速冷凍し、さらなる解析のために−70℃で保存した。
【0184】
[191]LC−MS/MSによるラパマイシンについての試料の解析:肺および血液におけるラパマイシンの解析のためのLC−MS/MS法を、Wuら(2012)の公開された方法に基づいて準備した。血液および肺ホモジネートの体積を、公開された方法から実質的に低減した。トリアムシノロンを内部標準として使用した。
【0185】
[192]SPEX SamplePrep 2010 Geno/Grinderにおける組織+脱イオン水(1:3w/v)での、ホモジナイザーにおける2.8mmボールベアリングでの秤量肺試料の均質化により、肺ホモジネートを調製した。
【0186】
[193]標準の濃度を、各標準が代替ストック標準(alternate stock standard)に由来するよう構成した。それぞれが三重反復で作成された6点較正曲線を解析物定量に用いた。重みづけありまたはなしの単純直線回帰モデルをカーブフィッティングに用いた。決定された濃度範囲は、血中で1〜2000ng/mL、肺ホモジネートにおいて2〜2000ng/mLだった。
【0187】
[194]以下の方法性能パラメータが、許容可能だと考えられた。濃度反応関係について≧0.98の決定係数、r2;ノミナル値の≦±15%(LOQを超える濃度について)または≦±20%(LOQの濃度について)の正確度。r
2は、すべての解析において0.999を超えていた。
【0188】
[195]30μLのマトリクス、30μLの添加溶液(ブランクおよび試料についてメタノール)、10μLの内部標準溶液(MeOH中)および90μLのMeOHを、微量遠心管内にピペットし、短時間ボルテックスし、次に、6分間、10,000RPM、約4℃で遠心した。上清のアリコート(90μL)を、LCバイアルインサートに移し、次に、LC−MS/MSにより解析した(表2)。
【0189】
【表2】
【0190】
[196]データ収集およびレポート:Debra(商標)システムバージョン5.5.10.72(Lablogic Systems Ltd.、Sheffield、England)において、研究データを収集し、レポートした。これには、動物体重、投与用量、投薬時間、および試料回収時間についてのデータが含まれる。投与用量および試料回収時間の計算を、Debra(商標)システムでレポートした。
【0191】
結果
[197]ラパマイシン解析:ラパマイシンの解析を、30μLの血液および肺ホモジネートの試料体積でセットアップした。例示的クロマトグラムを、血液および肺におけるラパマイシンおよび内部標準について示す(
図1および
図2)。研究試料の生成前に、方法性能を検証するため、肺および血液について3重反復較正曲線を生成した。較正範囲は、血液について1.0〜2000ng/ml、肺ホモジネートについて1〜20,000ng/mLだった。3体積の水で均質化された1gの肺組織で肺ホモジネートを調製し、1:4ホモジネートを得た。較正曲線を、血液、肺ホモジネート、および溶剤について
図3および
図4に示す。
【0192】
[198]口咽頭吸入:口咽頭吸入によるラパマイシンの投与前に、OPAが肺に用量を送達することを検証するために、エバンスブルーの投与を使用した。マウスをイソフルランで麻酔し、平滑末端針を備えるシリンジを使用して、OPAによりエバンスブルーを投与した。OPAの直後にマウスを安楽死させ、肺および胃を視覚的に検査し、エバンスブルー色素が肺に送達されたが、胃に送達されなかったことを確認した。4匹のマウスにエバンスブルーを投与することに成功し、すべての色素が肺に位置し、胃には存在しなかった。
【0193】
[199]ラパマイシン投与:投与用量溶液の重量を、投薬前の用量溶液で充填されたシリンジの重量を測定し、投薬後の重量を測定することにより決定した。投与用量溶液の重量を、投与ラパマイシンの量を計算するために使用した。投薬の時間を0として記録した。群2および群3の動物を、投薬1時間後に安楽死させた。群4および群5の動物を、投薬後72時間観察した。有意な臨床兆候は、いずれの群においても観察されなかった。
【0194】
[200]血液および肺におけるラパマイシン解析:回収されたすべての試料において、マウス血液および左肺ホモジネートにおけるラパマイシンを解析した(
図6および
図7)。各動物からの右肺の試料は、さらなる解析の可能性のために保存した。試料のデータ概要を
表3に記載する。
【0195】
【表3】
【0196】
[201]すべての試料セットについて、標準セット、試料反復試験1、標準セット、試料反復試験試料(sample replicate sample)2、標準セットの順序で3重反復較正曲線を解析した。ラパマイシンのOPA1時間後に、ラパマイシンの濃度は、肺組織(3794±1259ng/g組織)において血中(641±220ng/ml)よりも約6倍高かった。同等の用量のラパマイシンの経口投与後、1時間でのラパマイシンの肺および血中濃度はそれぞれ、71±43ng/gおよび23±16ng/mLだった。OPA後の肺ホモジネート濃度は、同じ高用量(1mg/kg)のラパマイシンの経口投与後に測定されたものよりも53倍高かった。
【0197】
考察
[202]本研究は、市販の経口配合物中で強制飼養による、および、10%水性エタノール中に調製された懸濁液としての口咽頭投与(OPA)による、ラパマイシンの投与後の血液および肺組織中のラパマイシンの濃度を研究した。OPAを介した投薬72時間後まで、ラパマイシンまたはビヒクル処置マウスにおいて、有害作用は観察されなかった。ラパマイシンの投与前、解析方法を開発し、OPAによる肺への色素の投与を検証した。OPA後の肺におけるラパマイシンの濃度は、血中よりも6倍高かった。OPA72時間後、ラパマイシンは、血中の定量限界未満だったが、肺においては検出可能だった。この研究は、肺内投与後にラパマイシンが全身で利用可能であり、肺への送達後の早い時点および遅い時点で肺組織濃度が血液の濃度を大きく超えることを示した。
【0198】
[203]これらの結果はさらに、肺へ直接送達されたラパマイシンが、予想外にも、血液と比較して肺組織において高い局所薬物濃度を達成することを実証する。この結果は、ラパマイシンは身体組織全体にわたり均一に分布することが知られており、その高い親油性ゆえに肺から急速に除去されるはずであることから、肺組織および血液においてほぼ等しい薬物濃度を予測する、ラパマイシンの薬理に関して知られていることからは、完全に予想外だった。したがって、これらの結果は、ラパマイシンの肺への直接投与が、治療有効性のために十分に高い送達用量を達成可能である一方で、同時に、ほぼ検出不能な全身利用能を達成し、そのことにより、薬物への全身曝露による経口投与関連毒性を排除するはずだと示す。以前の研究を鑑みると、肺自体への毒性もまた懸念される一方で、ここでの結果は、さらに予想外なことに、相対的に多量のラパマイシンが肺組織に対して急性毒性でなかったことを示唆する。
【0199】
【化4】
【実施例4】
【0200】
ラパマイシンの経口およびOPA投与後のマウス肺におけるS6リン酸化
[204]上で論じたとおり、経口投与およびOPA後の肺および血液におけるラパマイシンの組織分布を示す本発明者らの実験は、ラパマイシンの肺への直接投与が、治療有効性のために十分に高い送達用量を達成可能である一方で、同時に、薬物に対する非常に低い全身曝露を達成し、そのことにより、同時に治療有効性を改善し、ラパマイシンの経口投与と関連する多くの毒性を排除するはずであることを実証した。このアプローチを検証するため、本発明者らは、マウス肺組織におけるリン酸化S6タンパク質の存在を、mTOR活性のバイオマーカーとして使用した。使用されたマウス株(C57bl/6)において、マウス気道および肺胞上皮細胞は、構成的に活性な(リン酸化、「p」)S6タンパク質を有する。S6タンパク質は、典型的には、mTORC1の下流であるS6Kによりリン酸化され、たとえば、成長因子、たとえば上皮成長因子(EGF)、AKT、ERK、およびRSKの下流で活性化される。mTORC1は、同化作用プロセス、たとえば脂質、タンパク質、および細胞小器官の生合成を刺激し、異化作用プロセス、たとえば自食作用を抑制することにより細胞成長および増殖を促進する。mTORC1経路は、広範なプロセス、たとえばタンパク質および脂質合成ならびに自食作用を調節するために、成長因子、酸素、アミノ酸、およびエネルギー状態を含む細胞内および細胞外シグナルを感知および統合する。mTORC1は、ラパマイシンに対して感受性が非常に高い。
【0201】
[205]本研究においては、肺組織が、上で論じたとおり、ビヒクル(n=6)、またはOPA(n=6)もしくは経口強制飼養(n=6)を介して投与される1mg/kgラパマイシンのいずれかで処置されたC57bl/6マウスから、投薬後2つの時点、1時間および72時間で採取された。上で論じたとおり、OPA後1時間で、ラパマイシンは、血中で641ng/ml、肺において3794ng/g組織で検出され、72時間で、肺において依然として12.5ng/gで検出可能であった一方で、この時点では血中では検出不能だった。逆に、経口(強制飼養)投与後、1時間で、ラパマイシンは、血中で23ng/ml、肺において71ng/g組織で検出され、72時間では、肺または血液のいずれにおいても検出不能だった。
図1および
図2のデータにより示されるとおり、リン酸化S6(pS6)のレベルは、OPAおよび経口投与ラパマイシンの両方により1時間で実質的に低減し、72時間でOPAについて抑制され続けた。pS6は、ビヒクル対照において最も高かった。なぜなら、これらのマウスは、構成的に活性なmTORシグナル伝達を有するからである。これらのデータは、肺において約70ng/gを達成するのに十分なラパマイシンの送達用量が、肺組織においてpS6タンパク質により測定されるmTORシグナル伝達を実質的に抑止し、mTORシグナル伝達が、12.5ng/gまでの低いレベルに抑制され続けるであることを示す。これらの結果は、吸入ラパマイシンが経口投与ラパマイシンよりもはるかに低い用量で送達されうると同時に、高い治療有効性および非常に低い毒性を達成することを実証することにより、異常に高いmTOR経路活性により特徴づけられるLAM等の疾患および障害の治療のために吸入ラパマイシンを利用する、本発明者らのアプローチを確証する。
【実施例5】
【0202】
吸入を介して投与されるラパマイシンは、予想外の生体内分布を示す
[206]ラパマイシンは、高い経口またはIV用量後に肺に集中することが、文献において報告されてきた(Yanez,J.ら、Pharmacometrics and Delivery of Novel Nanoformulated PEG−b−poly(ε−caprolactone) Micelles of Rapamycin、Cancer Chemotherapy and Pharmacology、61 (1)、133−144 2007)。ある研究は、単一用量の10.0ミリグラム/キログラムをSDラットに投与後、組織区画全体への分布のための時間(24時間)を置いた後の肺におけるラパマイシンの量が、721ナノグラム/グラム、血中の濃度のおよそ19倍であることを報告した(表4)。
【0203】
【表4】
【0204】
[207]より早期の別の研究(Napoli,K.ら、Distribution of Sirolimus in Rat Tissue、Clinical Biochemistry、30(2):135−142、1997)において、SDラットに対して一定範囲のラパマイシン用量が、経口およびIV投与経路により毎日投与された。IV投与の14日後、肺組織中ラパマイシン濃度は、用量に比例して、200から900ナノグラム/グラムの範囲であり、血中の濃度よりもおよそ23から44倍高かった。だが、経口投与については、同じ用量で肺に蓄積したラパマイシンの量ははるかに低かったが、とはいえ、肺の血液に対するラパマイシン濃度の比は、ほぼ同じだった(
表5)。
【0205】
【表5】
【0206】
[208]本研究において、ラパマイシンは、1日について(1)1.0ミリグラム/kg/日および(2)0.0360mg/kg/日の2つの用量で、吸入によりSCラットに投与された。組織区画への分布のために12時間を置いた後、高用量について肺におけるラパマイシントラフ濃度は14,800ナノグラム/グラムであり、肺におけるラパマイシン濃度は、血中よりもおよそ800倍高かった(
表6)。低用量については、肺における濃度は、血中の濃度よりも95倍高かった(表6)。表7は、前の実験において使用された同じ2つの用量、すなわち1.0mg/kg/日および0.0360mg/kg/日で5日間反復された1日1度の投薬後のトラフ肺濃度、最大およびトラフ血中濃度、ならびに算出された相当ヒト用量を示す。表6および表7において、影付き行は、上2つの行における試験結果に基づく挿入値である。「1日当たりのヒト用量相当量」は、基準変数である。
【0207】
【表6】
【0208】
【表7】
【0209】
[209]これらの結果は、吸入による肺へのラパマイシンの送達が、代替投与経路、たとえばYanezおよびNapoliの先行研究による経口またはIVにより達成されうるよりも、顕著に高い肺組織中薬物濃度を、顕著に高い肺対血液比とともにもたらしたことを示す。さらに、吸入による送達後の肺における高量のラパマイシンは、YanezおよびNapoliから予想されたものに対して、予想外に高かった。IVおよび吸入投与経路の両方が、ラパマイシンの高い生物学的利用能を有するので、吸入される1mg/kg用量は、Napoliの0.4mg/kg/日のIV用量により観察されたものの約2.5倍の肺濃度を達成すると予想された。代わりに、肺におけるラパマイシンのレベルは、吸入経路を介して、およそ17倍高かった。同様に、Yanezにより投与された10mg/kgのIV用量は、1mg/kg吸入用量により達成されるものよりも10倍高いラパマイシンの肺濃度を達成すると予想された。代わりに、IV用量は、吸入用量のおよそ20分の1の肺濃度を達成した。これは、肺における低い代謝活性および肺組織区画から全身循環へのラパマイシンの緩徐な受動または能動輸送からもたらされうる。正確な機序にかかわらず、これらの結果は、ラパマイシンの肺への送達が、持続的に高い局所濃度をもたらす一方で、循環濃度が低いことを示す。
【0210】
[210]とりわけ、ここで提示された結果に基づいて、5から30ナノグラム/グラムの範囲の肺におけるラパマイシンの治療有効用量が、吸入により肺に20から100マイクログラムを投与することにより達成されうる。対照的に、Yanezによる経口送達により同等の肺濃度を達成するには、4から16ミリグラムを必要とすると考えられる。NapoliによるIV送達により同等の肺濃度を達成するには、60から600マイクログラムを必要とすると考えられる。
【0211】
[211]加えて、本研究の結果に基づいて、肺における5から30ナノグラム/グラムの治療範囲は、ラパマイシンが吸入により送達されるとき、800:1の肺対血液分配率で達成されうる。これは、ラパマイシンが肺組織において治療範囲内である一方で、20から300ピコグラム/mlの最大濃度のラパマイシンのみが血中に循環すると考えられることを意味する。ラパマイシンに対するこのきわめて低い全身曝露は、経口またはIV投与からもたらされるラパマイシンに対するはるかに高い全身曝露と関連する毒性および有害薬物事象を劇的に低減するはずである。
【0212】
[212]要約すれば、ここに記載される結果は、有利には、吸入を介した肺へのラパマイシンの投与が、薬物に対するきわめて低い全身曝露と組み合わされた、5から30ナノグラム/グラムの範囲の肺における治療有効用量の薬物を達成するのに必要とされる低用量のラパマイシンを提供し、ラパマイシンについて顕著に改善した治療指数をもたらすことを実証する。
【実施例6】
【0213】
吸入組成物についてのラパマイシンのサイズ低減
[213]ラパマイシンの粒子サイズを、湿式研磨プロセスまたはジェットミル粉砕プロセスのいずれかを使用して、2.0μm<Dv50<3.0μmの標的範囲まで低減した。ジェットミル粉砕については、Jetpharma製の実験室規模のMCOneユニットを、以下の操作条件で使用した。すなわち、ベンチュリ圧2〜4バール、ミル粉砕圧3〜5バール、フィード速度90g/h。湿式研磨については、精製水を使用してフィード懸濁液を調製した。マイクロ流体高圧ホモジナイザーを、サイズ低減工程のために使用し、得られた懸濁液を噴霧乾燥した。湿式研磨法の詳細を下に記載する。
【0214】
[214]湿式研磨法のサイズ低減工程のために使用された高圧ホモジナイザーは、補助処理モジュール(200ミクロン)を備えたパイロット規模のマイクロ流体高圧ホモジナイザーであり、100ミクロン相互作用チャンバーを使用した。ユニットを、約455バール(増圧モジュール水圧において約30バール)で操作した。マイクロ流動化後に、噴霧乾燥により流体を除去し、乾燥粉末を生成した。実験室規模の噴霧乾燥器、SD45(BUCHI、model B−290 Advanced)は、2つの流体ノズル(キャップおよび直径はそれぞれ、1.4および0.7mmだった)を備えていた。連続する2つのサイクロンを使用し(第1のものは、標準的なBuchiサイクロンであり、第2のものは、高性能Buchiサイクロン)、乾燥生成物を回収した。窒素を用いて単流モードで、すなわち乾燥窒素の再循環なしに、噴霧乾燥ユニットを動作させた。窒素をブローするアスピレーターは、その性能の100%に設定した(最大性能での流量は、およそ40kg/h)。噴霧化窒素の流量を、40±5mmのロータメーターの値に調整した。生成物懸濁液をフィードする前に、噴霧乾燥器を精製水で安定化させ、この間、流量は6ml/minに調整した(蠕動ポンプでの20%)。入口温度を、標的出口温度(45℃)を達成するように調整した。温度の安定化後、噴霧乾燥器のフィードを精製水から生成物懸濁液へと交換し(安定化中に使用されたのと同じ流量を維持する)、標的出口温度を達成するために入口温度を再び調整した。ストック懸濁液の終わりに、フィードラインをすすぎ、制御された閉鎖を実施するために、フィードを再び精製水に交換した。両方のサイクロン下の回収フラスコ中の乾燥生成物の重量を測定し、収量が、高圧ホモジナイザーにフィードされた懸濁液中の総固体に対する乾燥生成物の重量パーセントとして算出された。
【0215】
[215]粒子サイズ分布を、レーザー回折により解析した。固体状態特性解析(多形形態および純度について)を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、X線粉末回折(XRPD)、および示差走査熱量測定(mDSC)により実施した。含水量を、カールフィッシャー法により決定した。
【0216】
[216]ジェットミル粉砕は、下の表8に示すとおり、1.5ミクロンのDv10、2.7ミクロンのDv50および4.9ミクロンのDv90を有する単分散粒子サイズ分布を有する結晶性ラパマイシン粉末をもたらした。
【0217】
[217]湿式研磨は、表9に示すとおり、1.0ミクロンのDv10、2.4ミクロンのDv50および5.0ミクロンのDv90を有する単分散粒子サイズ分布を有する結晶性ラパマイシン粉末をもたらした。
【0218】
[218]両方の方法が、標的範囲内のラパマイシンの粒子をもたらし、いずれのプロセスも、ラパマイシンの多形形態または純度に対する影響を示さなかった。下の表は、ジェットミル粉砕および湿式研磨プロセスについて、プロセス中の制御データを示す。データは、両方のプロセスが、API純度または多形形態に影響することなしに標的範囲内のAPI粒子サイズをもたらすことが可能だったことを示す。
【0219】
【表8】
【0220】
【表9】
【実施例7】
【0221】
乾燥粉末組成物のエアロゾル性能試験
[219]上の実施例において製造されたカプセル剤を、下の表に示すデバイス内に入れ、作動させた。バッチ06RP68.HQ00008およびバッチ06RP68.HQ00009からのブレンドを含有するデバイス/カプセル剤から送達されるエアロゾル性能を、USPの第905章および第601章に記載の方法により次世代インパクター(NGI)を使用して特徴づけた。60および100リットル毎分(LPM)の流量でエアロゾルを試験した。微粒子用量(FPD)および微粒子画分(FPF)を下の表に示す。空気動力学的中央粒子径(MMAD)および幾何標準偏差(GSD)もまた示す。
【0222】
【表10】
【0223】
【表11】
【0224】
【表12】
【0225】
【表13】
【0226】
[220]これらのエアロゾル性能データに基づき、湿式研磨薬物粒子が好ましい。それらは、より高い微粒子用量、より高い微粒子画分、中央および末梢肺領域内の両方への貫通を示し、より少ない経口沈着を示すと考えられる粒子サイズ分布をもたらした。
【実施例8】
【0227】
ラパマイシンの薬物動態モデリング
[221]上に示す06RP68.HQ00008(湿式研磨)+Plasitape RS01 Modelのエアロゾル性能および実施例3の動物実験結果に基づいて、ヒトにおける吸入ラパマイシンの肺への直接送達が同様に、治療的に有効であるのに十分に高い持続的な肺濃度を、低い全身曝露(低血中濃度)とともにもたらし、それゆえ効果的に全身曝露による副作用を最小化することが予想できる。2つのコンパートメントの薬物動態モデルを開発し、表9の配合物およびDPI吸入器を使用した反復QD投薬後のヒトの血液および肺における濃度を予測した。薬物動態モデルについて、Rapamune(登録商標)(NDA 21−110、およびNDA 21−083)医薬品承認審査概要からのヒトPKパラメータを使用した。すなわち、分布容積は780リットルと想定し、クリアランスは0.0003/分、排出半減期は42.3時間だった(ラパマイシンIV投薬との同等性を想定)。肺からのラパマイシンの吸収半減期は、およそ0.5時間と推定され、これは他の高度に親油性の化合物、たとえば肺吸収データを利用可能なプロピオン酸フルチカゾンと類似した。肺に沈着するラパマイシンの生物学的利用能を、およそ100%と想定した。口咽頭沈着または粘膜毛様体クリアランスによる上気道からの除去を通じたGI経路により吸収されるラパマイシンの生物学的利用能は、Rapamune(登録商標)医薬品承認審査概要において報告されているとおり、14%と想定した。60リットル毎分の流量での典型的なヒト吸気操作について、表9に示すとおり、微粒子用量は57マイクログラムであり、微粒子画分は40%だった。
【0228】
[222]モデルは、
図8に示すとおり、11日後に平均安定状態濃度を達成することを予想する。図から、肺に送達された57マイクログラムの1日1度の反復投薬が、およそ50ピコグラム/mlのトラフ血中濃度、および200ピコグラム/ml未満、実質的にMcCormackら(2011)Efficacy and safety of sirolimus in lymphangioleiomyomatosis. N Engl J Med 364:1595−1606において報告された5〜15ng/mlの濃度未満の最大濃度をもたらすことがわかる。850グラムの肺組織重量、肺における代謝なし、および30分の肺吸収半減期を想定して、肺に送達される57マイクログラムのラパマイシンが、肺組織における治療レベルを、およそ14ng/グラムほどの高さのラパマイシンの局所肺濃度とともにもたらすと考えられる。
【0229】
等価物
[223]当業者は、常法を超えない実験を使用して、本明細書に記載の発明の具体的な実施形態の多くの等価物を認識するか、またはそれを確認可能であると考えられる。かかる等価物は、以下の特許請求の範囲に包含されることが意図される。
【0230】
[224]本明細書において引用した参考文献は、それらの全体がすべての目的のために、それぞれ個別の刊行物または特許または特許出願が具体的且つ個別にその全体がすべての目的のために参照により本明細書に組み込まれると示されている場合と同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0231】
[225]本発明は、本明細書に記載の具体的な実施形態により範囲が限定されるものではない。実際に、本発明の様々な改変が、本明細書に記載のものに加えて、前述の説明および添付の図面から当業者に明らかになると考えられる。かかる改変は、添付の特許請求の範囲内に収まることが意図される。
【国際調査報告】