(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
特定の態様は、細胞におけるpHの操作のための光活性化化合物を対象とする。特定の局面において、光活性化化合物は2-ニトロベンズアルデヒド(NBA)である。光活性化化合物は、がんなどの種々の疾患状態および病態の標的療法として用いることができる。
(i) ニトロベンズアルデヒドを患者に投与する段階、および(ii) がん組織を光源に曝露する段階を含み、該組織の細胞により取り込まれたニトロベンズアルデヒドが水素イオンを放出し、該細胞のpHの低下およびアポトーシスの誘導を引き起こす、がんを処置するための方法。
(i) ニトロベンズアルデヒドを細胞に投与し、そこでニトロベンズアルデヒドが細胞により内在化される段階、および(ii) 細胞を光源に曝露する段階を含み、ここで細胞により内在化されたニトロベンズアルデヒドが水素イオンを放出し、該細胞のpHの低下およびアポトーシスの誘導を引き起こす、細胞のpHを低下させるための方法。
【発明を実施するための形態】
【0025】
説明
大部分のがんは、ワールブルク効果として知られる好気的解糖を介した乳酸の過剰な生成および排出により特徴付けることができる。過剰生成の細胞内酸は、がん細胞により効果的に排出され、酸性の細胞外環境を引き起こし、これは転移能に直接関連付けられている(McCarty and Whitaker, Alternative Medicine Review, 2010, 15(3):264-72)。細胞外アシドーシスは、腫瘍の部位で、血管形成、または血管新生の速度増大、および本来アルカリ性である大部分の化学療法薬の効果減少を引き起こす。この酸性環境において生存するために、がん細胞は、プロトンを排出し、弱アルカリ性の細胞内pH (pH
i)を維持する、プロトン交換輸送体、最も注目すべきは、ナトリウム/水素交換体1 (NHE1)を発現または上方制御する。
【0026】
過剰量の酸生成およびNHE1の上方制御は腫瘍攻撃性に寄与するが、まさにその過剰の排出は処置の一形態としてがん細胞に不利になることもできた。がん細胞においてNHE1だけを選択的に処理することに固有の難題により、1931年のワールブルク効果の発見以来、pH
iの直接的かく乱は、がん治療の捕らえどころのない標的であった。アミロライドに基づく薬物のような、NHE1遮断薬は、プロトンを内部に捕捉し、その後、pH
iを低下させ、アポトーシスを誘導することによりがんを殺処理するように働く。pH操作を実践する他の実験技法には、重炭酸ナトリウムが混入されている飲料水による細胞外空間のアルカリ化、または腫瘍塊それ自体への酸素かん流の増大が含まれる(Raghunand and Gillies, British Journal of Cancer, 1999, 80(7): 1005-11)。
【0027】
多くの化学療法の手法と同様に、NHE1遮断薬は腫瘍部位に局所的に制限されず、全ての生細胞上でのNHE1の遍在的分布のため、末梢組織への全身性の損傷を引き起こす。NH
4Clプレパルスのような、細胞内酸性化の代替形態(Zamora et al,, The Open Zoology Journal, 2013, 6:8-17)は、局所的ではなく、実践することが難しく、細胞傷害生であり、かつ時間がかかる。
【0028】
2-ニトロベンズアルデヒド(「NBA」)は、350 nmの紫外線(UV)光への曝露によりプロトンを即時放出できる光活性化分子である(Ravindran et al., Cellular Signaling 2012, 24(5):981-90)。NBAは細胞膜を通じて受動的に拡散し、分子上のわずかな正電荷のために捕捉されるようになる。いったん細胞内に入ると、NBAは、UV光(200 nm〜410 nm, Diaspro et al., Q Rev Biophys. 2005, 38(2):97-166)によって励起されるまで、不活性かつインタクトなままであることができる。NBAは、局所の、迅速な細胞内アシドーシスを誘導し、標的細胞に固有のアポトーシスを引き起こすために用いられてきた。細胞への侵入の容易さ、分子が細胞内にとどまる傾向、分子の無毒性、およびUV光への曝露による即時の酸性化のため、NBAは、pH
iのかく乱に理想的な機構である。がん細胞におけるpH
i調節の急速な、局所のかく乱は、化学療法および放射線照射の代替手段として大きな可能性を持つ未開拓のがん処置方法である。さらに、処置は「がん特異的」ではなく、多剤耐性(MDR)がんのような、無数のがんの処置において用いることができる。
【0029】
I. ナノ粒子
光線力学的治療(PDT)は、多くの種類のがんを処置するための最も急速に成長している様式のうちの1つである。この技術はその初期の段階にあり、現在、外科手術または化学療法のような、より効果的な処置の必要性をなくすのに十分なほど効果的ではない。PDTは、手術後の内膜過形成(Lamuraglia et al., Journal of Vascular Surgery, 1995, 21(6):882-90)、乾癬(Almutawa et al., Photodermatol Photoimmunol Photomed. 2013)、およびポリープ状脈絡膜血管症(Sliwinska et al., Prog Retin Eye Res. 2013, 37: 182-99)を抑えるために、静脈撮影装置(vein graphs)のような、他の疾患のための処置として利用されてきた。しかしながら、PDTに対しての最も有望な用途は、腫瘍学におけるその使用である。インビトロでおよびインビボでがん細胞に適用されたPDTは、60%もの高さの細胞死を示した(Idris et al., Nature Medicine, 2012, 18(10): 1580-85)。現在、最も効果的なPDT使用のうちの1つでは、がん細胞治療に向けて活性酸素種(ROS)の細胞内放出を引き起こすためにナノ粒子の光活性化を採用している(Idris et al., Nature Medicine, 2012, 18(10): 1580-85)。
【0030】
ROSは、そのさらに安定な元素状態で存在する酸素対応物とは異なり、酸化還元反応を通じて細胞内タンパク質の調節ができるラジカルおよび非ラジカルな酸素種からなる(Bartosz et al., Biochemical Pharmacology, 2009, 77(8): 1303-15; Circu et al., Free Radical Biology & Medicine, 2010, 48(6):749-62)。ROSは、ミトコンドリアにより内因的に産生され、細胞増殖および遺伝子調節からミトコンドリア酸化ストレスおよびアポトーシスまで、多様な細胞内シグナル調節に関与している(Ray et al., Cellular Signaling 2012, 24(5):981-90)。ROSは、透過性遷移孔複合体を開口させて、チトクロムcおよびカスパーゼのようなアポトーシス誘導因子の活性化を可能とすることにより、アポトーシス死カスケードの活性化に寄与しうる(Martindale et al., Journal of Cellular Physiology, 2002, 192(1): 1-15; Gupta et al., Antioxidants & Redox Signaling, 2012, 16(11): 1295-1322)。
【0031】
ナノ粒子は、二重光増感ナノ粒子を利用して、ROSの光活性化から細胞死を増強することによりB16-0黒色腫細胞株でのPDTを改善するよう構築された(Idris et al., Nature Medicine, 2012, 18(10): 1580-85)。この特定のナノ粒子は、インビトロでの実験のためメソ多孔質シリカ中で均一にコーティングされたNaYF
4結晶コアを有していた。各ナノ粒子にメロシアニン540 (MC540)およびフタロシアニン亜鉛(II) (ZnPc)が負荷されたが、これらのどちらも、可視光へ導入された場合に活性化されるだけの光増感薬である。980 nmの近赤外線(NIR)の可視光へのアップコンバージョンにより、MC540およびZnPcはROSを放出し、後続の細胞損傷を誘導する(Idris et al., Nature Medicine, 2012, 18(10): 1580-85)。ROS処置の有効性を試験するため、コーティングされたナノ粒子を葉酸およびポリエチレングリコール(PEG)と結合させて、細胞膜前後の移動を容易にした。ナノ粒子を培養黒色腫細胞株と混ぜ合わせてエンドサイトーシスを容易にし、これを次にC57BL/6マウスへ注射した。PDTおよび後続のROS放出は、腫瘍サイズの低減およびインビボでのアポトーシスの増大に成功した。
【0032】
Idrisら(2012)により報告されたがん細胞死(63%)および腫瘍サイズ低減は、成功裏の臨床処置と見なされるには不十分である。この細胞死の割合は、制御不能な細胞増殖を止めるのに、ならびに残存しているがん細胞を除去するため、外科手術および化学療法のような、追加処置を回避するのに十分高いわけではない。この特定のナノ粒子も、塊が形成された後で、腫瘍へ負荷されていなかった。むしろ、がん細胞をインビトロで増殖させ、これに、マウスへ導入される前に、ナノ粒子を負荷していた。がん細胞をPDTナノ粒子とともに培養した後にそれらをインビボに導入することは、ある程度成功しているとはいえ、ヒトでの処置と類似の処置に対しての現実的な手法ではない。
【0033】
プロトン供与体NBAは、細胞膜の前後に拡散し、細胞内空間の中にとどまる。NBAの細胞侵入の促進は細胞外勾配の作出に基づいており、それによってNBAは細胞膜を通じて細胞内空間へ受動的に拡散することが可能になる。より大きな酸素電気陰性度によって、極性カルボニル基および比較的大きい分子双極子モーメントが作出される。酸素の非結合電子対はアルデヒド水素結合アクセプタを作出し、それによってその水溶性が高められる。細胞外空間からのNBAの除去によっては、主として細胞内でのNBAの溶解性増大のため、NBAの流出は引き起こされない。
【0034】
細胞内NBAの有効濃度は、細胞毒性ではなく、細胞機能をかく乱することはない。Kohseら(J Am Chem Soc. 2013, 135(25):9407-11)は、NBAのフラッシュ光分解を用いたpHジャンプの活性化によりpH 8.0から6.0まで酸性ホスファターゼ酵素を光活性化させ、NBAへの曝露の結果として酵素機能の分解を全く報告していなかった。ラット心室筋細胞のpH
iを低減するためのNBAのフラッシュ光分解(Swietach et al., Biophys J, 2007, 92(2):641-53)が、これらの細胞のH
+緩衝能を変化させることはなかった。より重要なことには、UV曝露のない場合、NBA (1 mM)は拡張期Ca
2+、細胞収縮、または「空間pH
i調節の機構」を変化させなかった。本発明者らは最近、インビトロのオタマジャクシ脳幹全体に10μM NBAを負荷し、自発的な、架空の呼吸運動出力または中枢性呼吸化学受容体応答にかく乱のないことを認めたことから、この濃度で、NBAは、呼吸神経回路を構成する細胞に細胞傷害効果を及ぼさないことが示唆された(Ravindran et al., Journal of Health Care for the Poor and Underserved, 2011 22(4):174-86)。
【0035】
II. 細胞経路およびアポトーシス機構
局所的な形で特定の細胞を効果的に標的化する能力は、有望な治療送達機構である。がん細胞は、治療用物質の局所送達のために標的化されうる種々の固有の特徴を示しうる。特定のがん細胞を標的化するためにデザインされた送達機構は、通常は化学療法処置に関連している中毒性副作用を低減するための能力を与える(Gabizon et al., Cancer Chemother Pharmacol. 2010, 66(1):43-52)。考えられる多様ながん標的には、ヒト上皮増殖因子受容体2 (Emde et al., Critical reviews in oncology/hematology 2012, 84:49-57; Colombo et al., Pharmacol Res 2010, 62(2): 150-65)、葉酸受容体(Salazar et al., Cancer metastasis reviews, 2007, 26: 141-52)、およびエストロゲン受容体(Kleinsmith et al., Principles of Cancer Biology. Pearson Education, Inc., 2006, 218-24中)のような表面受容体が含まれる。治療送達機構の標的で他に考えられるものには、サイトカイン(Przepiorka et al., Blood. 2002, 95(1):83-89; Kleinsmith et al., Principles of Cancer Biology. Pearson Education, Inc., 2006, 218-24中)、増殖因子(de Bruin et al., Cancer Discov. 2014; Wang et al., Cardiovasc Res 2013, 98(1):56-63)、ならびに他の細胞経路および機構が含まれる。
【0036】
A. ナトリウム水素交換体1 (NHE1)
ナトリウム水素交換体1 (NHE1)は、遺伝的に高度に保存されている遍在的に発現されるイオン輸送体である。NHE1は、細胞外Na
+の細胞内H
+への交換を容易にし、緊張低下を促進し、細胞容積を増加させる。NHE1は高度に可変性の細胞内C末端により特徴付けられ、これを調節して、接着、形態、遊走および増殖を含む細胞挙動を媒介することができる(Putney et al., Annual Reviews. 2002, (42):527-52)。NHE1は細胞生存に極めて重要な輸送体である。
【0037】
NHE1は細胞中の多くのメディエータによって調節される。カルモジュリン(CaM)は、いったんカルシウムが結合するとまたはリン酸化されると、細胞内調節ドメインを介してNHE1を活性化するメッセンジャータンパク質である(Koster et al., J Biol Chem. 2011, 286(47):40954-961)。いったん結合されると、NHE1は、CaMが結合されなくなるまで構成的に活性化される。細胞容積の喪失により、リン酸化されたヤヌス(Janus)キナーゼIIはCaMをリン酸化し、これが次にNHE1を活性化する。NHE1の活性化は、細胞容積を回復しようとしてナトリウムの流入、と同時に細胞への水の侵入を引き起こす。NHE1は、多くの場合、ナトリウムカルシウム交換体1 (NCX1)と二量体化され、これは、通常、Na
+を細胞内へおよびCa
2+を細胞外へ輸送する。細胞内Na
+レベルが上昇すると、NCX1はイオン輸送の方向を反転させて、細胞内Na
+のさらなる増加を抑止する。NHE1およびNCX1の二量体化は、通常、浸透圧を調節するために利用される。NHE1はがん細胞において上方制御され、pH
i調節の有効性、腫瘍の侵襲性およびpH
i誘導性アポトーシスの回避に寄与する(Cardone et al., Nature Review Cancer. 2005, 5(10):786-95)。
【0038】
B. ホスファチジルセリン
ホスファチジルセリン(PS)は、細胞のリン脂質二重層の内部小葉に通常は隔離されている膜リン脂質である。細胞膜の外表面上のPSの発現には2つの原因、つまり、アデノシン三リン酸依存性アミノリン脂質トランスロカーゼによる膜非対称性維持の欠如、およびいずれかの膜表面へPSを素早くはじく脂質スクランブラーゼの活性化がある(Verhoven et al., Journal of Experimental Medicine, 1995, 182(5): 1597-601)。
【0039】
スクランブラーゼは、未だ同定されておらず、少なくとも2つの経路によって活性化されうる1つまたはいくつかのタンパク質でありうる。全ての有核ヒト細胞は、外膜表面上でのPSの発現をもたらすアポトーシス経路を有する。造血細胞はまた、PSを発現するための可逆的な、カルシウム依存性の経路を有する; 無核赤血球はこのカルシウム依存性の経路しか持っていない(Bevers & Williamson, Federation of European Biochemical Societies Letters, 2010, 584(13): 2724-30)。アポトーシス経路では脂質非対称性の崩壊を利用し、非炎症性の食作用除去のシグナルとして細胞外空間へPSを曝露する。
【0040】
アポトーシス経路の初期に、アミノリン脂質トランスロカーゼは下方制御される(Verhoven et al., Journal of Experimental Medicine, 1995, 182(5): 1597-601)。その後、ミトコンドリア外膜透過化(MOMP)がいったん起きると、スクランブラーゼが進行して、PSを外膜小葉へ輸送する。MOMPが起きる前に経路に作用するアポトーシス阻害剤は、PS発現を抑止することができる。逆に、MOMPの後に作用する阻害剤は、下流のアポトーシス事象を遮断するが、しかしPS発現は依然として行われると考えられる(Bevers & Williamson, Federation of European Biochemical Societies Letters, 2010, 584(13):2724-30)。
【0041】
非造血細胞におけるPS発現は、細胞死の決定的指標であり、蛍光結合された、PSに対して高い親和性を有する天然タンパク質アネキシンVで標識することにより示すことができる。PSは、細胞膜が完全性を失う場合にも曝露されうるので、膜中に捕捉されるようになる二次色素を用いて、PS曝露がアポトーシス経路にのみ起因することを検証することができる(Schutters & Reutelingsperger, Springer, 2010, (15): 1072-82)。
【0042】
C. P53およびBcl-2
TP53は、複雑な、しかし一般的な、経路に関与する多面的遺伝子である。P53の調節ネットワークは、神経変性、アテローム性動脈硬化症およびがんのような、病的状態におけるその最も一般的な発生について研究されている(Amaral et al., Discovery Medicine, 2010, 9(45): 145-52)。最も一般的に見られるがん原因は、TP53遺伝子の損傷または欠失によるものである(Olivier et al., Cold Spring Harbor Perspectives in Biology, 2010, 2: 1-17)。この遺伝子に対する変異は、今日見られているがんの50%超の原因である(Kleinsmith, 「Cancer screening, diagnosis, and treatment」, Principles of Cancer Biology. Pearson Education, Inc., 2006, 218-24中)。
【0043】
ヒトでは第17染色体に位置している、TP53遺伝子は、細胞周期の調節に不可欠である。TP53は、損傷または変異したDNAが制御不能に増殖して、がんを引き起こすことを抑止する際のその役割のために腫瘍抑制遺伝子として記述されてきた。P53は、細胞がDNA損傷、低酸素状態、または細胞周期の異常を検出すると、上方制御される。通常の条件下では、P53は、細胞周期を休止させ、DNA修復機構を可能にして損傷を回復させ、回復時には細胞周期を再開させ、または細胞をアポトーシスにすぐに向かうようにさせうる。ミトコンドリアアポトーシスを誘導するためのP53の多くの経路が存在しているが、しかし最も直接的な経路の1つはプロアポトーシスタンパク質Baxの誘導である。Baxはミトコンドリアに直接結合し、チトクロムcの放出を引き起こす。P53が変異または欠失されると、抗アポトーシスタンパク質Bcl-2が隔離し、P53の機能性をさらに遮断しうる。P53作用のこの遮断によって、DNA損傷または細胞周期の機能不全にかかわらず、がんの進行が可能とされる。がん進行の別の経路はBcl-2の過剰発現であり、転写されている全てのP53の隔離および最終的にはアポトーシスカスケードの遮断に至る(Olivier et al., Cold Spring Harbor Perspectives in Biology, 2010, 2:1-17)。
【0044】
D. Jak-2およびCaM
MCF-7細胞が本発明者らの固有の処置に導入される場合、早ければ処置から3分で細胞容積の喪失が観察される。細胞容積の減少がアポトーシスの最初の段階で観察されており(Orlov et al., Am J Physiol Cell Physiol. 2013, 305(4): C361-372)、透水性チャネルの活性化の増強に起因していた(Remillard et al., Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 2004, 286(1):L49-67)。加えて、本発明者らの新規の処置の間にH
+がアンケージされる場合、NBAは2-ニトロソ安息香酸への光化学的転位を起こす(Diaspro et al., Q Rev Biophys. 2005, 38(2):97-166)。細胞内H
+緩衝成分の減少と組み合わせてH
+の増加も、細胞容積の減少に寄与するであろう(Fraser et al., Journal of Physiology, 2005, 563(3):745-64)。この細胞内撥水は、多くの細胞内調節タンパク質を応答させ、水分喪失に対抗するための機構を活性化させる。水分喪失とその後の細胞容積の減少により急速に活性化される調節経路の1つは、JAK/STAT経路、具体的にはヤヌス(Janus)キナーゼII (Jak2)である。
【0045】
細胞容積の喪失に応答して、Jak2がリン酸化により活性化される。Jak-2活性化はカルモジュリン(CaM)のリン酸化を引き起こすことが可能であり(Benaim and Villalobo, Eur J Biochem. 2002, 269(15):3619-31)、それがNHE1の細胞内C末端に結合してNHE1を構成的に活性化する。このNHE1活性化はNa
+の細胞内濃度を急激に増加させ、サイトゾルへの水の動員を通じて(though)細胞容積の回復を引き起こす。
【0046】
カルモジュリンは、真核細胞において見出される二次メッセンジャータンパク質である。CaMは、NHE1の活性化の機械的増加を含めて、種々のプロセスに関与している(Garnovskaya et al., J Biol Chem. 2003, 278(19): 16908-15)。NHE1のC末端に対するCaMの親和性は、CaMのリン酸化または石灰化(calcification)のどちらかによって増加されうる(Garnovskaya et al., J Biol Chem. 2003, 278(19): 16908-15; Koster et al., J Biol Chem. 2011, 286(47):40954-61)。
【0047】
E. 微生物
細菌の抗生物質耐性は、健康管理に対しての進行中の課題を提示する。耐性の大部分は、細菌が、その標的に影響を与える前に抗生物質を分解することを可能にする酵素的適応によるものである(Benveniste et al., Annual Reviews, 1973, 42:471-506)。この酵素作用が発現されると、それは形質転換を通じある生物から別の生物へ素早く伝えられ、薬物の有効性を無効化しうる。他の耐性方法には、テトラサイクリンおよびスルホンアミドで見られる、抗生物質の取込みを妨害する細菌の能力、またはリボソームを適応してエリスロマイシンに対する耐性を与える黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)で見られる標的の変化が含まれる(Davies and Davies, Microbiology and Molecular Biology Reviews, 2010, 74(3):417-33)。抗生物質における単純な、単一標的かつ単一構造の進歩では、耐性を示すこれらの生物において同様に単純な防御の適応が実施される必要がある。
【0048】
細菌は、極pH域を含む広範囲の環境において生存できる多様な生物群である。好アルカリ菌は7.5〜10.6の細胞外pHの範囲内で生育し、好酸菌はpH 1.0〜8.0で容易に増殖しうる; しかしながら、これらの好極限性細菌でさえもその内部pHは、中性にさらにもっと近く、それぞれ内部pH 7.5〜8.3および6.0〜7.0を有する(Slonczewski et al., Advances in Microbial Physiology, 2009, 55: 1-79)。pHのこれらの例外的差異を維持するため、膜脂質は、細菌種がプロトン移動に対してさまざまに不透過性であるようにさせる。内部pHを制御する他の方法には、大腸菌(Escherichia coli)のNa
+/H
+対向輸送体のような上り勾配プロトン交換と下り勾配イオン交換を連動させること; 中性または酸性の生成物を作出する代謝スイッチング; および種々の緩衝系(Slonczewski et al., Advances in Microbial Physiology, 2009, 55: 1-79)が含まれる。例えば、加工食品に関連した致死的感染症(Shabala et al., International Journal of Food Microbiology, 2002, 75:89-97)、脳炎(Armstrong and Fung, Clin. Infect. Dis. 1993, 16(5):689-702)、肺炎(Whitelock-Jones et al,, South African Medical Journal, 1989, 75(4): 188-89)、敗血症(Gray and Killinger, Bacteriol. Rev. 1966, 30:309-82)、髄膜炎(Gray and Killinger, Bacteriol. Rev. 1966, 30:309-82)、自然流産につながりうる妊婦での子宮内および子宮頸部感染症に関与する細菌リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)は、そのpHiを7.6〜8.0に維持し、「pHi恒常性を維持できないことが細胞生存性の喪失につながり、それゆえ、細胞レベルでの細菌死の感受性指標として用いられうる」(Shabala et al., International Journal of Food Microbiology, 2002, 75:89-97)。細菌および真菌における液胞型H
+-ATPアーゼ(V-ATPアーゼ)は、H
+/Ca
2+対向輸送体を介してカルシウムの取込みを駆動する際に重要なエンドソームおよびリソソームなどの細胞小器官において重要な細胞内タンパク質勾配を維持する。本発明者らのNBA処置を介した顕著な細胞内および/または細胞小器官内アシドーシスは、酸性度だけでなく、発病に必要となる重要なプロセスも大幅にかく乱することが可能である。
【0049】
F. 酵素活性
代謝障害は何世紀にもわたって社会を悩ませてきた。最近の科学の進歩は、過度に活性な酵素がこれらの疾患の多くの原因の1つであることを明らかにしている; しかし、代謝障害の病態生理はほとんど理解されていない(Mairet-Coello et al., Neuron, 2013, 78(1):94-108)。アルツハイマー病は、米国で5百万を超える人々に影響を与えている、最も多く見られる認知症の形態の1つであり、細胞酵素の活性亢進によって引き起こされる(Mairet-Coello et al., Neuron, 2013, 78(1):94-108)。インビボでの研究から、AMP活性化キナーゼ(AMPK)による微小管結合タンパク質Tauの過剰リン酸化は、興奮性シナプス伝達に用いられる神経スパインの喪失につながることが明らかにされている(Mairet-Coello et al., Neuron, 2013, 78(1):94-108)。このキナーゼの活性を、薬理学的にまたは遺伝子欠失により、低減させることで、神経スパインがシナプス毒性のあるTau過剰リン酸化に供されず、海馬ニューロンに防護効果を及ぼすことが明らかにされた(Mairet-Coello et al., Neuron, 2013, 78(1):94-108)。
【0050】
酵素動力学は、よく研究された科学分野であり、さまざまな状況において酵素機能性に関する多くの経験的モデルを開発してきた。これらのモデルの1つが、酵素の活性をpHに応じて記述かつ予測するために用いられる(Tijskens et al., Biotechnol Bioeng, 2001, 72(3):323-30)。大部分の酵素は生物学的範囲内pH 6〜8で機能し、その機能が最大である至適pHを有する。しかしながら、これらの機能的相互作用は、pHが変化すると、低減する。pH
iの顕著な減少により、酵素は、官能基のプロトン化および水素結合の解離のためアンフォールドし始め、これによってその活性が低減される(Tijskens et al., Biotechnol Bioeng, 2001, 72(3):323-30。DontenおよびHamm (Chemical Physics, 2013, 422: 124-30)は、NBAにフェムト秒UV光パルスを投与して、ポリ-L-グルタミン酸の折畳みの速度および程度を変化させることによりpH「ジャンプ」を適用した。DontenおよびHamm (2013)は、タンパク質折畳みの誘導に成功したが、彼らは試験キュベット中でpH 4.0もの低さの酸性溶液を作出しており、これでは細胞内損傷および/またはアポトーシスが引き起こされるであろう。細胞のpH
iを低減するために本明細書において記述されるアンケージング技法を用いることで、AMPKのような、多くのタンパク質の活性の変化が可能とされよう。このAMPK活性の低減は、高リン酸化Tauのシナプス毒性作用を低減し、高活性酵素によってアルツハイマー病および他の代謝疾患の進行を食い止める。NBAナノ粒子の使用は、インビボでのpH
iの非常に局所的かつ段階的な減少を可能にする。
【0051】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)は、ヒストン上のアミノ酸リジンからアセチル基を除去し、それによってヒストン尾部上の電荷を増加させる酵素のファミリーである。ヒストン尾部上の電荷のこの増加が、ヒストンとDNAとの間の高親和性結合を促進し、さらに凝縮されたDNAおよび転写の抑止につながる。現在、11種のHDAC遺伝子が記述されており(Shultz et al., Biochemistry, 2004, 43: 11083-91)、その活性は筋萎縮性側索硬化症(ALS) (Miskiewicz et al., Cell Reports, 2014, 8:94-102)、胃がん、前立腺がん、結腸がん、乳がん、子宮頸がんおよび胃がんのような状態と関連付けられている(Ropero and Estellar, Molecular Oncology, 2007, 19-25)。対照的に、ヒストンアセチル化はヒストン電荷を中性化し、DNAに結合するヒストンの能力を低下させる。ヒストン結合のこの減少は、腫瘍抑制遺伝子P53の活性化のような、クロマチン拡張および遺伝子転写を促進する(Phiel et al., Journal of Biological Chemistry, 2001, 276(39):36734-41)。バルプロ酸およびトリコスタチンA (TSA)によるHDACの阻害はてんかんの処置において有効であったが、正確な作用機序は不明である(Phiel et al., Journal of Biological Chemistry, 2001, 276(39):36734-41)。Shultzら(2004)は、HDAC 1、2、3、6、8および10の最大触媒効率に至適なpHi域を報告した。これらのHDACの各々が脱アセチル化反応の最大の速度を得るためにpHi依存性を示した。加えて、HDACアイソザイム最大触媒効率のpHプロファイルは、「pH 7.6〜8.3の範囲内で最大となり、釣鐘状であった」(Shultz et al., 2004)。本明細書において記述されるNBAのフラッシュ光分解は、長時間維持されうるpHiの個別的低減を誘導することができる(
図15〜16)。pHiの低下は、触媒速度を最大触媒効率から遠ざける; pHiの顕著な低減はHDACの新規の阻害剤およびHDACの活性亢進に関係している無数の疾患の発病の低減としての機能を果たしうる。
【0052】
G. 幹細胞多能性
幹細胞は高度に研究された生物学の分野である; しかしながら、幹細胞を作出するためのプロセスは、脱分化した生細胞をほとんど生じさせない。現行の技法は、最終分化した細胞を胚の状態へ戻すか、または脱分化させることにより再プログラム化することを目標としている。体内の多くの細胞は、制御された分裂状態にあり、皮膚細胞および骨髄細胞のような、細胞置換または細胞分裂の一定した供給源を必要とする身体の領域に一般的に位置している。Gaoら(Cellular Physiology and Biochemistry, 2014, 33(1): 185-94)は、ヒト由来間葉臍帯細胞(hUC-MSC)がpH
iだけの持続的低下に応答して骨芽細胞へ分化することを最近になって報告した。Gaoら(Cellular Physiology and Biochemistry, 2014, 33(1): 185-94)は、NHE1をカリポリドで同時に遮断しながら、hUC-MSCを塩化アンモニウムプレパルス技法に曝露することによってpH
iの低下を誘導しながらpH
iを光学的に測定した。本明細書において記述される方法は、より長い、持続的間隔の間にpH
iのみの正確な、漸進的減少の誘導を可能にして特定の幹細胞株からの分化を達成する(Gao et al., Cellular Physiology and Biochemistry, 2014, 33(1): 185-94)。
【0053】
H. ニューロン活動
タンパク質構造および機能は、遊離H
+によるイオン化で改変されうる。いくつかの研究から、中枢神経系シグナル伝達に関与するタンパク質に及ぼすpHの重要な役割が支持されている。Wemmieら(Neuron, 2002, 34(3):463-77)により海馬ニューロンにおいて記述されている酸活性化電流は、ヌルマウスでのこれらの酸感受性イオンチャネル(ASIC)の喪失が海馬長期増強の障害ならびに欠陥のある瞬目反射条件付けおよび空間学習を生じたことから、長期増強に必要であった。ASIC 1aは、海馬ニューロンの樹状突起棘上のタンパク質受容体として働き、細胞内カルシウムシグナル伝達に影響を与える(Zha et al., Proc Natl Acad Sci USA, 2006, 103(44): 16556-61)。細胞外遊離H
+の濃度の増加は、多くのリガンド開口型イオンチャネルに影響を及ぼす; アセチルコリンおよびNMDA受容体は酸性の細胞外pHにより阻害され、アルカリ性の細胞外pHにより阻害される(Del Castillo et al., 1962, J. Cell Comp Physiol 59:35-44; Giffard et al., Brain Res, 1990, 506:339-42; Palma et al., 1991, J Membr Biol, 120:67-73; Traynelis and Cull-Candy, 1990, Nature, 345:347-50)。GABA受容体活性は酸性の細胞外pHにより増強され、アルカリ性の細胞外pHにより阻害される(Kaila and Ransom, 1994, pH and brain function (New York: Wiley-Liss); Smart and Constanti, 1982, Proc R Soc Lond B Biol Sci,215:327-41; Takeuchi and Takeuchi, 1967, J Physiol, 1967, 191 :575-90。上記のリガンド開口型イオンチャネル、およびプロトン化によって影響を受ける実質的に全てのリガンド開口型イオンチャネルに隣接した細胞外空間において局所アシドーシスを引き起こす本発明者らの技法の能力は、神経入力および神経回路の機能的出力を変化させる固有の機構を提供するであろう。
【0054】
III. 標的化剤
標的化剤を、本明細書において記述される化合物または粒子に付着させて、結合体をインビボで標的領域へガイドまたは標的化することができる。インビボでの標的送達は、これらの化合物または粒子の細胞取込みを増強させて、治療効果を増強させる。ある種の局面において、抗体または細胞透過ペプチドは、腫瘍部位への標的化送達のためでありうる。
【0055】
本発明の1つの局面において、標的化部分は、一本鎖抗体(SCA)または一本鎖抗原結合抗体、モノクローナル抗体、細胞接着性ペプチド、例えばRGDペプチドおよびセレクチン、細胞膜透過性ペプチド(CPP)、例えばTAT、ペネトラチンおよび(Arg)9、受容体リガンド、標的化炭水化物分子またはレクチン、オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド誘導体、例えばロックされた核酸(LNA)およびアプタマーなどである。
【0056】
標的化部分は、ビオチン化化合物、蛍光化合物、放射標識化合物などで標識することができる。適当なタグは、何らかの適当な部分、例えばアミノ酸残基を、当技術分野で標準的な任意の放射同位体、放射線不透過性標識、磁気共鳴標識または他の磁気共鳴映像法に適した非放射性同位体標識、蛍光型標識、可視色を示すおよび/または紫外線、赤外線もしくは電気化学的刺激下に蛍光発光することで投与、処置の間の画像化または検出を可能とできる標識などに連結することによって調製される。任意で、診断タグを、結合される光活性化部分に組み入れおよび/または連結して、動物またはヒト患者体内での治療性生物活性材料の分布のモニタリングを可能にしてもよい。
【0057】
「一本鎖抗体」(SCA)、「一本鎖抗原結合分子もしくは抗体」または「一本鎖Fv」(sFv)という用語は、同義的に用いられる。一本鎖抗体は、抗原に対する結合親和性を有する。一本鎖抗体(SCA)または一本鎖Fvは、いくつかの方法で構築することができ、また構築されている。一本鎖抗原結合タンパク質の理論および産生に関する記述は、同一出願人による米国特許出願第10/915,069号および米国特許第6,824,782号において見出され、それらの各々の内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0058】
IV. 永続性かつ脱離性リンカー
本発明との関連で用いられるリンカーは、二官能性リンカーを含むことができる。二官能性リンカーは永続性または脱離性リンカーであることができる。二官能性リンカーはアミノ酸、アミノ酸誘導体または化学的リンカーを含む。アミノ酸は天然アミノ酸および非天然アミノ酸の中の1つであることができる。天然アミノ酸の誘導体および類似体、ならびにさまざまな当技術分野で公知の非天然アミノ酸(DまたはL)、疎水性または非疎水性アミノ酸も本発明の範囲内であることが企図される。非天然アミノ酸の適当な非限定的リストには、2-アミノアジピン酸、3-アミノアジピン酸、β-アラニン、β-アミノプロピオン酸、2-アミノ酪酸、4-アミノ酪酸、ピペリジン酸、6-アミノカプロン酸、2-アミノヘプタン酸、2-アミノイソ酪酸、3-アミノイソ酪酸、2-アミノピメリン酸、2,4-ジアミノ酪酸、デスモシン、2,2-ジアミノピメリン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸、N-エチルグリシン、N-エチルアスパラギン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン、イソデスモシン、アロ-イソロイシン、N-メチルグリシン、サルコシン、N-メチル-イソロイシン、6-N-メチル-リジン、N-メチルバリン、ノルバリン、ノルロイシンおよびオルニチンが含まれる。いくつかの好ましいアミノ酸残基は、グリシン、アラニン、メチオニンおよびサルコシン、より好ましくは、グリシンから選択される。
【0059】
A. 脱離性リンカー
ある種の局面において、本明細書において記述される化合物または粒子は、脱離性リンカーに付着された光活性化部分を含む。光活性化部分は制御された形で放出されることができる。
【0060】
脱離性リンカーの中には、ベンジル脱離系リンカー、トリアルキルロック系リンカー(またはトリアルキルロックラクトン化系)、ビシン系リンカー、酸不安定性リンカー、リソソームで切断可能なペプチドおよびカテプシンB切断可能ペプチドがありうる。酸不安定性リンカーの中には、ジスルフィド結合、ヒドラゾンを含むリンカーおよびチオプロピオネートを含むリンカーがありうる。
【0061】
あるいは、脱離性リンカーは、細胞内不安定性リンカー、細胞外リンカーおよび酸不安定性リンカーである。ヒドラゾン結合のような、酸不安定性リンカーは、酸性リソソーム環境中で加水分解されうる。いくつかの適当な脱離性リンカーは、Val-Cit、Ala-Leu-Ala-Leu、Gly-Phe-Leu-GlyおよびPhe-Lysなどを含むオリゴペプチドである。1つの好ましい脱離性リンカーは、カテプシンBによって特異的に分解されうるペプチジルリンカー(Val-Cit)である。
【0062】
ベンジル脱離系またはトリアルキルロック系など、さまざまな脱離性リンカーが、例えば、同一出願人による米国特許第6,180,095号、同第6,720,306号、同第5,965,119号、同第6,624,142号および同第6,303,569号に記述されており、それらの各々の内容は参照により本明細書に組み入れられる。ビシン系リンカーも同一出願人による米国特許第7,122,189号および同第7,087,229号ならびに米国特許出願第10/557,522号、同第11/502,108号および同第11/011,818号に記述されており、それらの各々の内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0063】
B. 永続性リンカー
ある種の局面において、SCAのような標的化部分が、永続性リンカーを通じて多官能性リンカーに付着される。永続性リンカーは標的化部分および多官能性リンカーを結合することができる。1つの好ましい永続性リンカーは、チオエーテル結合を提供しうる、マレイミジル含有分子のような分子でありうる。
【0064】
C. 薬学的処方物および投与
ある種の態様において、組成物は以下: 薬学的に許容される希釈剤; 担体; 可溶化剤; 乳化剤; 保存剤; および/または補助剤の1つまたは複数とともに1つ、2つ、3つまたはそれ以上の治療剤を含む。そのような組成物は少なくとも1つの抗がん剤の有効量を含有しうる。したがって、医薬の薬学的組成物の調製で本明細書において提供される1つまたは複数の抗がん剤の使用も含まれる。そのような組成物は、種々のがんまたは他の疾患もしくは状態の処置において用いることができる。
【0065】
本明細書において記述される薬剤は、限定されるものではないが、液体溶液または懸濁液、錠剤、丸剤、粉末、座薬、高分子マイクロカプセルまたはマイクロベシクル、リポソーム、および注射可能または注入可能な溶液のような、種々の投与量形態で治療用組成物へ処方されうる。好ましい形態は、投与の方法および標的とされる特定の疾患に依存する。組成物はまた、好ましくは、当技術分野において周知の、薬学的に許容されるベシクル、担体または補助剤を含む。
【0066】
薬学的調製物のために許容される処方成分は、採用される投与量および濃度でレシピエントに対して無毒性である。提供される治療剤に加えて、組成物は、例えば、組成物のpH、浸透圧、粘度、清澄度、色、等張性、匂い、無菌性、安定性、解離もしくは放出の速度、吸着または浸透の修飾、維持または保存のための成分を含有しうる。
【0067】
処方成分は、投与の部位に対して許容される濃度で存在する。生理的pHでまたはそれより若干低いpHで、典型的には、約4.0〜約8.5、あるいは約5.0〜8.0のpH範囲内で組成物を維持するために、緩衝液が好都合に用いられる。薬学的組成物はpH約6.5〜8.5のTRIS緩衝液、またはpH約4.0〜5.5の酢酸緩衝液を含むことができ、これはソルビトールまたはそれに適した代替物をさらに含んでもよい。
【0068】
インビボ投与のために用いられる薬学的組成物は、典型的には、滅菌されている。滅菌は、滅菌ろ過膜を通じたろ過によって達成されうる。組成物が凍結乾燥される場合、滅菌は、凍結乾燥および再構成の前および後のいずれかに実施されうる。非経口投与用の組成物は、凍結乾燥された形態でまたは溶液中で保存されうる。ある種の態様において、非経口組成物は、滅菌アクセス口を有する容器、例えば皮下注射針によって穿孔可能なストッパを有する静脈内溶液用バッグもしくはバイアル、または注射にすぐ使える滅菌事前充填式の注射器の中に注入される。
【0069】
上記の組成物は、静脈内、腹腔内、経口、リンパ管内、皮下投与、動脈内、筋肉内、胸膜内、くも膜下腔内、および局部カテーテルを通じたかん流によるものを含むが、これらに限定されない、従来型の送達方法を用いて投与することができる。腫瘍への局所投与も本発明によって企図される。組成物を注射により投与する場合、投与は持続注入によるものであり、または単回もしくは複数回ボーラスによるものでありうる。非経口投与の場合、治療剤は所望の抗がん剤を薬学的に許容されるベシクル中に含む発熱物質非含有の、非経口的に許容される水溶液中で投与されうる。非経口注射に特に適したベシクルは、1つまたは複数の治療剤が適切に保存された、滅菌等張液として処方されている滅菌蒸留水である。
【0070】
本発明の薬学的組成物が処方されたら、それは無菌バイアル中に溶液、懸濁液、ゲル、乳濁液、固体として、または脱水もしくは凍結乾燥した粉末として保存されうる。そのような処方物は、すぐ使える形態、または投与前に再構成される形態(例えば、凍結乾燥したもの)のいずれかで保存されうる。
【0071】
単独でのまたは薬学的組成物の一部としての、本発明の化合物の場合、そのような用量は約0.001 mg/kg〜1 mg/kg体重、好ましくは約1〜100μg/kg体重、最も好ましくは1〜10μg/kg体重である。治療用組成物またはレジメンは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20回またはそれ以上の回数投与され、かつそれらは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24時間ごとに、または1、2、3、4、5、6、7日ごとに、または1、2、3、4、5週ごとに、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12ヶ月ごとに投与されうる。
【0072】
治療的に有効な用量は、当業者によって容易に判定されるものと考えられ、疾患の重症度および経過、患者の健康および処置に対する応答、患者の年齢、体重、身長、性別、既往歴ならびに処置担当医の判断に依るものと考えられる。
【0073】
本発明のいくつかの方法において、標的組織または細胞はがんまたはがん細胞である。がん細胞は患者内でありうる。患者は固形腫瘍を有しうる。そのような場合、態様には、例えば腫瘍の全部または一部を切除することにより、患者に対して外科手術を実施することをさらに伴いうる。組成物は外科手術の前に、外科手術の後に、または外科手術と同時に患者に投与されうる。さらなる態様において、患者はまた、直接的に、内視鏡的に、気管内に、腫瘍内に、静脈内に、病巣内に、筋肉内に、腹腔内に、頭蓋内に、局部的に、経皮的に、局所的に、動脈内に、膀胱内に、または皮下に投与されうる。
【0074】
がんまたは他の疾患もしくは状態を処置する方法は、患者に化学療法または放射線療法を投与する段階をさらに含んでもよく、それらは2回以上投与されてもよい。化学療法は、シスプラチン(CDDP)、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、カンプトテシン、イフォスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ブスルファン、ニトロソウレア、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン、マイトマイシン、エトポシド(VP16)、タモキシフェン、タキソテール、タキソール、トランスプラチン、5-フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、メトトレキセート、ゲムシタビン、オキサリプラチン、イリノテカン、トポテカン、またはそれらの任意の類似体もしくは誘導体変種を含むが、これらに限定されることはない。放射線療法は、X線照射、UV照射、γ線照射、電子線照射またはマイクロ波を含むが、これらに限定されることはない。加えて、細胞または患者には、細胞からのウイルスの感染性EEV型の産生を増強するために、プロテアーゼまたはペプチダーゼを投与してもよい。さらに、細胞または患者には、本発明の方法の一部として、タキサンを含むが、これに限定されない、微小管安定化剤を投与してもよい。化合物または誘導体または類似体のいずれかを、これらの併用治療とともに用いることができるものと特に企図される。
【実施例】
【0075】
以下の実施例および図面は、本発明の好ましい態様を実証するために含まれる。実施例または図面において開示される技法は、本発明の実践において十分に機能することが本発明者らによって発見された技法に当たり、したがってその実践のための好ましい方式を構成するものと見なされうることが当業者によって理解されるはずである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく多くの変更を、開示されている特定の態様において加えることができ、それでもなお同様のまたは類似の結果を得ることができるものと理解するはずである。
【0076】
実施例1
材料
ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI 1640 (Roswell Park Memorial Institute 1640)、ウシ胎仔血清(FBS)、ウマ血清、ゲンタマイシン、トリプシン-EDTA、カルボキシ-DCFDA (5-(および-6)-カルボキシ-2',7'-ジクロロフルオレセインジアセテート)ならびにアネキシンV Alexa Fluor 568は、Life Technologiesから購入した。NaCl、KCl、MgCl2、CaCl2、HEPESおよびグルコースは全て、Fisher Scientificから購入した。2-ニトロベンズアルデヒド(NBA)、アミロライド、ニゲリシン、NGF-7S、空気抜きキャップ付のCorning(登録商標) 75 cm
2 Rectangular Canted Neck Cell Culture Flaskは全て、Sigma Aldrichから購入した。ラット褐色細胞腫(PC12)細胞およびヒト乳腺腺がん(MCF-7)細胞は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)から購入した。35 mmの培養皿は、Santa Cruz Biotechnologyから購入した。ナノ粒子は、テキサス大学サンアントニオ校のBrian Yust博士およびFrancisco Pedraza博士によって合成された。細胞および細胞培養PC12細胞を、5% FBS、10%ウマ血清およびゲンタマイシン500μlを補充したRPMI 1640 (1X)中にて5% CO
2および95%空気の雰囲気下、37℃で培養した。細胞を適切な範囲で35 mm培養皿にプレーティングし、80〜90%の集密まで培養した。MCF-7細胞は、5% FBSおよびゲンタマイシン500μlを補充したDMEM (1X)中にて5% CO
2および95%空気の雰囲気下、37℃で培養した。細胞を75 cm
2 Corning flask中にプレーティングし、適切な密度までの細胞増殖を可能とし、35 mm培養皿に継代し、その後、実験用に80〜90%の集密まで増殖させた。PC12またはMCF-7細胞を継代した際に、0.25%トリプシン-EDTA (1X) 1 mLを用いて継代用の細胞を懸濁させた。DCFDAストック溶液カルボキシ-DCFDA (5-(および-6)-カルボキシ-2',7'-ジクロロフルオレセインジアセテート; 1 mg)をジメチルスルホキシド(DMSO) 201μLに溶解して、9.4 mMのストック溶液を作出した。ストック溶液を暗所の生物学的安全キャビネット中に貯蔵して、感光性化合物を防護した。
【0077】
DCFDAによるpHの較正および測定
レシオメトリックpH
i測定の場合、PC12細胞にpH感受性色素カルボキシ-DCFDA (ラットaCSF中10μM)を負荷した。ニゲリシンを2.0、4.0、5.0、6.0、7.0または8.0のpHに滴定した。DCFDAの放出蛍光を、滴定したpH溶液の各々で細胞から記録した。レシオメトリック放出蛍光強度を、放出蛍光(504/530 nm)が定常状態に達するまで30秒間隔にて495 nm/440 nmの励起で観察した。個別の細胞(n = 421)からの各比率をpHごとに記録した。最良適合の曲線を作出し(R
2 = 93.02)、蛍光のpH
iへの変換に用いた。
【0078】
NBA負荷
NBAをメタノール500 mLに(3.0224グラム)溶解して、40 mMのストック溶液を作出した。実験ごとに、ストック75μLをかん流液中投与向けにラットaCSF 3 mLと組み合わせた。1 mM NBA-ラットaCSFの最終希釈液は、許容可能な5 mMの細胞毒性限界をはるかに下回っている(Sweitach et al., Biophys J, 2007, 92(2):641-53)。PC12細胞のNBA負荷手順は、MCF-7細胞の手順と同じものであった。
【0079】
アポトーシス指標
アポトーシス指標アネキシンV Alexa Fluor 568は、25 mM HEPES、140 mM NaCl、1 mM EDTA、pH 7.4に加えて0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含有する溶液中で貯蔵された。ストックのアネキシンV Alexa Fluor 568 10μLを結合用緩衝液2 mL中で希釈した。結合用緩衝液は、pH 7.4で、10 mM HEPES, 140 mM NaCl, および2.5 mM CaCl2からなっていた。
【0080】
アミロライド手順
アミロライド(N-アミジノ-3,5-ジアミノ-6-クロロピラジンカルボキサミド塩酸塩水和物) (266.09 mg)をDMSO 20 mLに添加して、50 mMの最終ストック溶液を作出した。このストックを、培養細胞へのかん流液中投与の前に、1 mMまでさらに希釈した。
【0081】
ラットaCSFストック溶液
PC12およびMCF-7細胞を実験手順中、ラットaCSF溶液(150 mM NaCl, 5 mM KCl, 1 mM MgCl2, 5 mM HEPES, 5 mMグルコース, pH 7.4) 2 mL中でかん流させた。
【0082】
pH
i PC12の光学的記録
DCFDAストック溶液をラットaCSF溶液3 mL中で10μMの濃度まで希釈した。PC12細胞に倍率40×で、それぞれ、900/700 msの間495/440 nmにて30秒ごとにおよび倍率10×の下で各波長にて2秒ごとに光を当てた。10分後におよび蛍光を記録して定常状態をモニターする前に細胞をラットaCSFで3回洗浄した。
【0083】
pH
i MCF-7の光学的記録
DCFDAストック溶液をラットaCSF溶液3 mL中で10μMの濃度まで希釈した。MCF-7細胞に倍率40×で、それぞれ、900/700 msの間495/440 nmにて30秒ごとにおよび倍率10×の下で各波長にて2秒ごとに光を当てた。蛍光の定常状態が観察された後で細胞をラットaCSFで3回洗浄したところ、がん細胞は、アルカリ性がより強いので、蛍光がその最大蛍光に達したことが示唆された。定常状態を表すために最低でも10分間、pH
iの光学的記録をモニターした。
【0084】
pHi MDA-MB-231の光学的記録
DCFDAストック溶液をラットaCSF溶液3 mL中で10μMの濃度まで希釈した。MBA-MD-231細胞に倍率40×で、それぞれ、900/700 msの間495/440 nmにて30秒ごとにおよび倍率10×の下で各波長にて2秒ごとに光を当てた。蛍光の定常状態が観察された後で細胞をラットaCSFで3回洗浄したところ、がん細胞は、アルカリ性がより強いので、蛍光がその最大蛍光に達したことが示唆された。定常状態を表すために最低でも10分間、pH
iの光学的記録をモニターした。
【0085】
PC12の局所酸性化のためのNBA負荷
NBAストック溶液75μLをラットaCSF 3 mL中で混合し、10分間PC12細胞へかん流液中投与した。かん流液中投与の後、細胞をラットaCSFで最低でも3回洗浄した。さまざまなフラッシュパラダイムを用いて、PC12細胞をUV光に曝露した。各曝露後、pHを2分間モニターして、pH
i酸性化を定量した。
【0086】
MCF-7の局所酸性化のためのNBA負荷
NBAストック溶液75μLをラットaCSF 3 mL中で混合し、10分間MCF-7細胞へかん流液中投与した。かん流液中投与の後、細胞をラットaCSFで最低でも3回洗浄した。MCF-7細胞を60-30-60 UV光パラダイムに曝露した。各曝露後、pHを2分間モニターして、pH
i酸性化を定量した。
【0087】
MDA-MB231の局所酸性化のためのNBA負荷
NBAストック溶液75μLをラットaCSF 3 mL中で混合し、10分間MDA-MB-231細胞へかん流液中投与した。かん流液中投与の後、細胞をラットaCSFで最低でも3回洗浄した。MDA-MB-231細胞を60-30-60 UV光パラダイムに曝露した。各曝露後、pHを2分間モニターして、pH
i酸性化を定量した。
【0088】
細胞死定量 PC12
細胞内アシドーシスを誘導するためのUVフラッシュパラダイムから1時間後に、細胞を軽く洗浄し、培地をホスファチジルセリン指標アネキシンV Alexa Fluor 568と交換した。この溶液は、ストック溶液10μLを用いて作出し、ラットaCSF 2 ml中で希釈した。15分、膜結合をさせ、その後、それから1時間または全ての細胞がアポトーシスを発現するまで蛍光をモニターした。
【0089】
細胞死定量 MCF-7
UVフラッシュパラダイムの後、小疱の存在が観察され、拡張時のDCFDA蛍光を用いて小疱内の膨張空間(intrablebular inflationary space)中のpH (pH
b)の記録を取得した。DCFDA蛍光で見られた小疱は、持続的拡張を示し、サイズが低減することは決してなかった。本発明者らは、不可逆的な死プロセスとしての小疱形成について記述した既刊の所見に基づき、小疱を細胞死として定量した(Andrade et al., Biology of the Cell, 2010, 102(1):25-35)。
【0090】
細胞死定量 MDA-MB-231
細胞内アシドーシスを誘導するためのUVフラッシュパラダイムから1時間後に、細胞を軽く洗浄し、培地をホスファチジルセリン指標アネキシンV Alexa Fluor 568と交換した。この溶液は、ストック溶液10μLを用いて作出し、ラットaCSF 2 ml中で希釈した。15分、膜結合をさせ、その後、それから1時間または全ての細胞がアポトーシスを発現するまで蛍光をモニターした。MCF-7細胞と同様に、本発明者らは、不可逆的な死プロセスとしての小疱形成について記述した既刊の所見に基づき、小疱を細胞死として定量した(Andrade et al., Biology of the Cell, 2010, 102(1):25-35)。
【0091】
アミロライド投与
NHE1遮断薬アミロライドを、1μMから1 mMに及ぶ濃度でMCF-7細胞に、pH 7.4にてかん流液中投与した。細胞にDCFDA、NBAを負荷し、それぞれ洗浄し、UVパラダイムに曝露した後に、pH
bを記録した。
【0092】
ナノ粒子投与
さまざまな親水性生体適合性重合体、例えばポリエチレングリコール(PEG)、細胞膜介在重合体でコーティングされた、さまざまな希土類をドープしたアップコンバーティング(upconverting)コアのナノ粒子を合成し、MCF-7がん細胞に導入した。試験した2つの粒子は、KYb
2F
7またはNaYF
4からなっていた。これらのがん細胞を、10分から1週にわたってナノ粒子により増殖培地中でインキュベートした。実験用に調製する場合、がん細胞をラットaCSFで5回洗浄し、顕微鏡下に置き、その後、先に述べたのと同じ手順の下でDCFDAを負荷した。980 nmのダイオード・レーザーの連続波を、pH
iを記録している細胞の領域に合わせ、400または700 mWに設定した。10分または20分の曝露のためにレーザーシャッターを手動で制御した。
【0093】
対照実験
各実験における対照は、UVまたは980 nm曝露領域から10 mmまたはそれ以上離すことによって行った。pH
iの記録を行って、NBAまたはナノ粒子が細胞に影響を与えたか、またはプレートの周辺部で水素を偶然にアンケージしたかを検出した。アポトーシスおよび/または小疱の検出は、アネキシンV Alexa Fluor 568およびDCFDA光学的記録を用いて行った。対照実験は以下の条件: UVのみ、時間のみ、およびNBAのみで行った。対照実験の各1つを最低でも3時間行った。
【0094】
結果
DCFDA較正
pH特異的なニゲリシン溶液に曝露された細胞の放出蛍光をDCFDA較正曲線の構築のために用いた。個々の細胞のレシオメトリック蛍光をpH 2.0、4.0、5.0、6.0、7.0または8.0で記録した。各pH単位は、pH特異的なニゲリシン溶液への曝露時にいくつかの細胞を光学的に記録し、定常状態についてモニターした、別個の実験を表す(
図3a)。データをグラフに描き、R二乗値で最良適合の直線を明らかにし(y = -0.1356x2 + 2.62x - 3.6204) (R
2 = 0.93)、pH
iへの放出蛍光の先行き変換(future conversion)を可能にした。較正が完了した後に、各実験に適用された式から、平均の出発pH
iが7.7であることが明らかにされた。
【0095】
PC12細胞における誘導アシドーシス
本発明者らは、NBAからのプロトン放出の前後にインビトロで個々のPC12細胞(n = 423)からのpH
iを光学的に記録することにより、顕著な細胞内アシドーシスを局部的に誘導する光活性化NBAの能力を評価した。DCFDAを負荷した後に、放出蛍光比を、波長350 nmのUV光のさまざまなフラッシュ時間パラダイムに細胞を曝露する前に記録した。NBAの適用後および光分解の前のPC12細胞の平均pH
i (7.55 ± 0.025)は、UV曝露によるNBAの光分解後の平均pH
i (6.37 ± 0.03; P < 0.001)とは有意差があった。処置によるpH
iの変化(ΔpH
i)は、処置前のpH
iからの変化(ΔpH
i = 1.18)として規準化された。
【0096】
PC12細胞死の定量化
局部酸性化がPC12細胞において達成された後で、アネキシンV Alexa Fluor 568をかん流液中投与して、アポトーシスから生じかつアポトーシスを示すホスファチジルセリン膜反転にマーキングを行った。アポトーシスを示唆しうる蛍光について、細胞をNBAの存在下でフラッシュ光分解後に少なくとも1時間モニターした。本発明者らは、平均84.0±1.33%のアポトーシスで、76〜100%に及ぶアポトーシスの範囲(n = 362; R2 = 0.98)を観察した。経時的なこれらのデータの線形回帰分析により、NBAのフラッシュ光分解からのアシドーシスに応答して2時間以内に顕著なアポトーシスが達成されることが示唆された(P < 0.01)。NBA処置による平均アポトーシス率(84.0±1.33%)は、PC12細胞をNBAの非存在下においてUV光に曝露した対照実験より有意に高かった(n = 76; R2 = -0.54; P < 0.001)。UV曝露のみに応答してアポトーシスを示す細胞の割合は、2.3〜10.3%に及び、平均6.4±1.0%の割合であった。NBAかつUV処置によるアポトーシスの割合も、細胞をNBAにもUV光にも曝露しなかった対照実験(すなわち時間のみの効果; n = 71; R2 = 0.92)よりも有意に高かった(P < 0.01)。時間のみに応答してアポトーシスを示す細胞の割合は、3.1〜4.5%に及び、平均3.8±0.4%の割合であった。NBAのみに応答してアポトーシスを示す細胞の割合は、2.1% (n = 47)であった。線形回帰分析により、UV曝露のみ、時間のみ、またはNBAのみに応答したアポトーシスの割合がNBAかつUV処置に応じたアポトーシスの割合よりも有意に低いことが示唆された(P < 0.01)。対照実験は互いに有意差がなかった(P < 0.01)。
【0097】
MCF-7細胞における誘導アシドーシス
PC12細胞におけるpH
iを局部的に減少させるNBAの能力を評価した後に、同じ実験手順をMCF-7乳がん細胞に対して行った。放出蛍光比をNBAフラッシュ光分解の前後にとって、pH
iをモニターした。NBA負荷後および60-30-60 UVフラッシュパラダイム前のMCF-7細胞の平均pH
i (7.38±0.13; n = 76)は、NBAの存在下におけるフラッシュパラダイム後の細胞の平均pH
i (6.22±0.15)と有意差があった。処置によるpH
iの変化は、処置前のpH
iからの変化として規準化された。処置後の平均ΔpH
i (1.16 pH単位)は、処置前の平均pH
iと有意差があった(P < 0.001)。
【0098】
MCF-7細胞死の定量化
局部酸性化がMCF-7細胞において達成された後で、アネキシンV Alexa Fluor 568をかん流液中投与して、アポトーシスから生じかつアポトーシスを示すホスファチジルセリン膜反転にマーキングを行った。アポトーシスを示唆しうる蛍光について、細胞をNBAの存在下でフラッシュ光分解後に少なくとも1時間モニターした。MCF-7細胞はまた、局部細胞内酸性化により細胞小疱形成を示すことが観察され、小疱が細胞から完全に分離されるまで、または処置後の数時間(1〜6時間)後までアネキシンV Alexa Fluor 568の存在下で蛍光を示さなかった。これまでに論じられたように、研究によって、小疱形成がアポトーシスを示すことが示唆されている。小疱の数を形成時に細胞死の別指標として時間の関数として数えた。これまでの研究では、NCX1の活性化により、多くの場合には小疱のサイズの低減が認められることが示唆されている(Yi et al., 2012)が、本発明者らは、本発明者らのNBA-UV処置に応じた経時的な小疱の発生またはサイズのいずれの低減も観察しなかった。NBAのフラッシュ光分解に応答して、本発明者らは、細胞小疱形成および/またはアネキシンVの蛍光を介したアポトーシスから示されるように、94.9〜100.0% (n = 262; R2 = 0.92)に及び、経時的アポトーシスが平均98.3±0.3%の、ある範囲のアポトーシスを観察した。線形回帰分析により、2時間以上にわたってUV光のみに曝露されたMCF-7細胞に対するアポトーシスの割合(7.1%)で有意な減少(P < 0.01)が明らかにされた。NBAにのみ曝露されたMCF-7細胞において観察されたアポトーシスの割合(2.3%, n = 236, R2 = 0.87)は、NBAかつUV光で処置されたMCF-7細胞におけるアポトーシスの割合よりも有意に低かった(P < 0.0001)。時間のみに応答したアポトーシスの割合を評価するための本発明者らの対照実験(n = 20)により、2時間以上にわたってアポトーシスのないことが明らかにされた。本発明者らの結果は細胞死を全く生じなかったので、線形回帰は行われなかった。
【0099】
MDA-MB-231細胞における誘導アシドーシス
PC12細胞およびMCF-7細胞の両方におけるpH
iを局部的に減少させるNBAの能力を評価した後に、同じ実験手順を非常に侵襲性の強い、三重陰性MDA-MB-231乳がん細胞に対して行った。放出蛍光比をNBAフラッシュ光分解の前後にとって、pH
iをモニターした。NBA負荷後および60-30-60 UVフラッシュパラダイム前のMDA-MB-231細胞の平均pH
i (6.47±0.06; n = 38)は、NBAの存在下におけるフラッシュパラダイム後の細胞の平均pH
i (2.78±0.23)と有意差があった(P < 0.001)。処置後の平均ΔpH
i (3.68±0.18 pH単位)は、処置前の平均pH
iと有意差があった(P < 0.001)。
【0100】
MDA-MB-231細胞死の定量化
局部酸性化がMDA-MB-231細胞において達成された後で、アネキシンV Alexa Fluor 568をかん流液中投与して、アポトーシスから生じかつアポトーシスを示すホスファチジルセリン膜反転にマーキングを行った。アポトーシスを示唆しうる蛍光について、細胞をNBAの存在下でフラッシュ光分解後に少なくとも1時間モニターした。MDA-MB-231細胞はまた、局部細胞内酸性化により細胞小疱形成を示すことが観察され、小疱が細胞から完全に分離されるまで、または処置後の数時間(1〜6時間)後までアネキシンV Alexa Fluor 568の存在下で蛍光を示さなかった。これまでに論じられたように、研究によって、小疱形成がアポトーシスを示すことが示唆されている。本発明者らのMCF-7の結果と同様に、MBA-MB-231細胞は、NBAのフラッシュ光分解に応答して、細胞小疱形成および/またはアネキシンVの蛍光を介したアポトーシスから示されるように、ある範囲のアポトーシスを示した(
図18)。本発明者らは、NBAフラッシュ光分解後3時間未満で55.3%のMDA-MB-231細胞死を観察した。
【0101】
実施例2 MCF-7細胞死におけるナノ粒子誘導アシドーシス
いくつかのアップコンバージョンナノ粒子を合成し、MCF-7がん細胞へ送達されるようこれにNBAを負荷した。選択したナノ粒子は、NBA負荷用にPEGでコーティングされたKYb
2F
7コアからなった(
図14A)。MCF-7細胞にDCFDAを負荷した後に、ナノ粒子を超音波処理し、細胞(n = 618)へ10分間かん流液中投与した。980 nmのダイオード・レーザーを次いで、顕微鏡の視野内の細胞に合わせた。pH
iの記録を30分間集めて、ナノ粒子がpHに影響を与えたか、または細胞毒性であったかモニターした; 結果から、時間枠内で細胞毒性はもたらされなかった。細胞を次に、NBAへの蛍光共鳴エネルギー転移のため、ヒト細胞に対して耐容される強度をはるかに下回る、400 mWで10分間980 nmの波長に曝露した(Idris et al., Nature Medicine, 2012, 18(10): 1580-85)。MCF-7細胞を次に、それから172分にわたりpH
iの変化についておよび細胞死を示す細胞小疱形成についてモニターした。記録およびアネキシンV Alexa Fluor 568適用の後、細胞死は95.1%で記録された。KYb
2F
7ナノ粒子の光アップコンバージョンに応答したMCF-7乳がん細胞死の割合の定量化を、
図17に示す。
【0102】
試験した第2のナノ粒子では、メソ多孔質シリカコーティングを有するKYb
2F
7コアを用いた。これらのナノ粒子をMCF-7細胞に加え、4日間にわたり細胞毒性についてモニターした。細胞はとてもよく増殖し、最低限の細胞死を示した。NBAナノ粒子に曝露されたMCF-7細胞に次いで、DCFDAを負荷し、これを10分間モニターした。細胞を700 mWの設定で10分間980 nmのレーザーに曝露した。本発明者らは次に、レーザー曝露なしで10分間pH
iを記録した。本発明者らは次に、MCF-7細胞を2度目10分間の980 nmでの曝露に曝した。細胞を次いで、最後のレーザー励起後3時間モニターし、30秒ごとにDCFDA蛍光を記録した。このナノ粒子を用いたNBAの光アップコンバージョンは、膜完全性の喪失(アネキシンV蛍光)または小疱形成により98.7%の細胞死(n = 326)を引き起こした。この実験における対照領域は、レーザー曝露された細胞からおよそ10 mmにあった。この対照領域中のMCF-7細胞は4日間ナノ粒子に曝露されたが、しかし980 nmのレーザーには曝露されなかった。アネキシンV発現または細胞小疱形成により、これらの対照細胞における5.78%の細胞死(n = 190)が示された。
【0103】
実施例3
本発明のこの態様において、2-ニトロベンズアルデヒドを用い、系においてアシドーシスを局部的に誘導する。系、例えば細胞内空間の酸性化のためにプロトンを放出するNBAの能力を証明することが必要である。コンセプト実験の証明を行い、これによって以下が明らかにされた。
【0104】
本発明者らは、レシオメトリックpH感受性蛍光色素を用いて、NBAが細胞の内部でプロトンを放出し、アシドーシスを誘導しうることを証明することができる。本発明者らの実験においては、PC12細胞にレシオメトリック蛍光色素DCFDAを負荷した。2.0から7.0までの広範なpH範囲にわたる細胞の細胞内pH (pH
i)の変化を測定するためにDCFDAを利用した(
図3A, 3B)。本発明のこの態様において、NBA (1 mM)を室温でPC12細胞にかん流液中投与し、細胞膜の前後に受動的に拡散させた。フラッシュ光分解パラダイムによるNBAの光活性化の前に放出蛍光比をとった(
図15)。また、NBAを波長350 nmのUV光に曝露した後に放出蛍光比を記録した。蛍光顕微鏡検査法を用いて、本発明者らは、pH
iの変化を光学的に記録かつ定量化することができる。
【0105】
既述のように、細胞膜前後の十分な拡散を可能とするためにNBAを10分間PC12細胞にかん流液中投与した。細胞を次に、350 nmのUV光のさまざまな時間パラダイムに曝露した。NBAのフラッシュ光分解は、1.18 pH単位の平均アシドーシスを誘導することが観察された(n = 421;
図8)。細胞内酸性化の大きさは、NBAがUV光に曝露される時間の量と相関し、本発明者らに誘導アシドーシスの程度を制御する能力を与えうる(Kohse, J Am Chem Soc. 2013, 135(25):9407-11)(
図15)。NBAの単回調製で、UVフラッシュ光分解の後に複数回アシドーシスを誘導することができる。実験を行い、そのなかでPC12細胞は7.5〜3.5の生理学的範囲からのpH
iの変化を起こすことが観察された(
図15)。細胞内酸性化の大きさは、フラッシュ光分解パラダイムと相関していた。本発明者らは、細胞内アシドーシスを細胞活性の生物学的範囲のはるか外側で、および最適な細胞内タンパク質機能を誘導することができる。UV光によるNBAプロトン放出は、系においてアシドーシスを誘導する再現性かつ一貫性のある方法である。
【0106】
実施例4
本発明のこの態様において、本発明者らは、フラッシュ光分解に曝露された細胞内NBAが局部の細胞損傷および死を引き起こすことを証明する。NBAをPC12細胞へ受動的に拡散させ、フラッシュ光分解パラダイムに曝露させ、これによって細胞内でのプロトンの局部放出を引き起こした。DCFDAを用いて、細胞内での誘導NBAプロトン放出に応答したレシオメトリック蛍光を光学的に記録した。フラッシュ光分解前からフラッシュ光分解後までの平均pH
iは、1.18 pH単位だけ顕著に低減された(
図8)。pH
iの顕著な減少から生じる細胞死を、アネキシンV Alexa Fluor 568およびエチジウムホモ二量体III、つまりそれぞれ、アポトーシスおよびネクローシスに応答して目に見えて蛍光を発する2種の色素による蛍光標識によって定量化した。アポトーシスによる蛍光の量をアシドーシス攻撃後の時間の関数として記録した(
図5)。同様に、ネクローシスによる蛍光をアシドーシス攻撃後の時間の関数として記録した(
図6)。NBAのフラッシュ光分解後のアポトーシスによる平均細胞死率は、細胞をDCFDAのみ、NBAのみ、または時間のみに曝露した対照実験でのアポトーシスによる平均細胞死率と有意差があった(
図7)。
【0107】
機能性の生物学的至適範囲外のポイントへのpH
iの局部減少から直接的に起因して、PC12細胞はフラッシュ光分解1〜4時間以内に細胞の損傷および死を示した(
図7)。この細胞の死および損傷は、細胞小器官へのpH誘導性の損傷の結果でありえ、および/または酵素機能もしくはタンパク質相互作用のpH誘導性の変化によるものでありえる。フラッシュ光分解に曝露されなかった対照領域中のPC12細胞は、相当量の細胞死を示さなかった(
図7)。これらのデータから、UV光曝露から生じるNBAプロトン放出が、細胞の機能的機構を終結させる迅速かつ局部的な方法であることが示唆される。
【0108】
実施例5
NBAを用いた本発明者らの発明にかかる処置は、細胞内pH (pH
i)の低下を引き起こし(
図12)、これがMCF-7乳がん細胞において局部的かつ顕著な細胞死を引き起こす。このpH
i変化は、細胞がNBAで処置されたらそれらがUV光に曝露される時間の量により判定され、生物学的pH範囲内の軽度アシドーシスを生じうる。また、細胞内pHが通常の生物学的範囲の中にもはやないようにアシドーシスが誘導されうる(Ravindran, Journal of Health Care for the Poor and Underserved, 2011. 22(4): 174-186)。MCF-7細胞におけるNBAの毒性および拡散を試験するために、対照実験を行った。DCFDAのみ、NBAのみ、UVフラッシュのみの毒性を試験する対照実験とともに、細胞のpH
iを蛍光色素DCFDAでモニターした。その他の対照において見られた死は、培養細胞がインキュベーター中になかった時間によるものであったかどうかを判定するために、時間対照実験も行った。細胞を実験条件に曝露し、およそ2時間記録をとった後に、アポトーシスを観察するためにアネキシンV Alexa Fluor 568および光学的な小疱モニタリングを用いた。条件の1つのみに曝露された細胞において、観察されたアポトーシスは、NBAおよびUVの両方で処置された細胞において死んでいるか、またはアポトーシスを起こしている細胞の割合と比べて最低限であった(
図13)。
【0109】
本発明者らの新規の技法は、迅速、局部的なpH
iの減少を引き起こして、がんのような、正常なアポトーシス機構の回避で優れている細胞において細胞死を誘導するであろう。局部的な細胞内酸性化は細胞死を誘導するのに十分であること、つまりこれまでがん研究者の手をすり抜けてきた芸当を示すために実験を行った。処置に曝露されたMCF-7細胞において、その細胞膜は、アネキシンVでアポトーシスをモニターすることを可能にする、膜反転を引き起こすはずの通常のアポトーシス機構を経なかった。がん細胞の場合、膜はさまざまな領域で膨潤し、細胞小疱形成、つまりPC12の実験では見られなかった現象を示した。小疱形成の機構を取り巻く文献は限られているが、しかし細胞小疱形成は、細胞死を引き起こす不可逆的プロセスの兆候であることが報告されている(Andrade et al., Biology of the Cell, 2010, 102(1):25-35)。それゆえ、MCF-7実験の多くにおいて、小疱の出現は、細胞死の割合を判定するためにアネキシンVと併せて用いられた。
【0110】
本発明者らの結果から、局部の、制御された、かつ極めて素早い死プロセスが明らかにされた(
図13)。NBA中でインキュベートした細胞をUVに曝露すると、生理学的範囲外へのpH
iの大幅な低下、細胞小疱形成、および形態学的変化が数分のうちに見られ、2時間以内に死の割合は90%を上回った。NBAに曝露されたが、しかしUVフラッシュには曝露されなかった細胞(対照領域)は、通常の生理学的範囲内のpH
i値を有していたが、UVに曝露された隣接細胞は、細胞小疱形成を起こし、アネキシンVでの撮像時にアポトーシスを示した。この細胞の死および損傷は、細胞小器官へのpH誘導性の損傷の結果でありえ、および/または酵素機能もしくはタンパク質相互作用のpH誘導性の変化によるものでありえる。対照領域は、処置域からおよそ10 mm離し、処置細胞と同じ35 mmのディッシュ中で評価された。処置域に接近しているにもかかわらず、対照領域は、処置域において見られたアポトーシスのレベルを示さず(
図13)、これらの処置の局所的性質を示すものであった。
【0111】
実施例6
本発明者らの発明にかかるNBA処置は、細胞内pH (pH
i)の低下を引き起こし、これが非常に侵襲性の強い、三重陰性MDA-MB-231乳がん細胞において局部的かつ顕著な細胞死を引き起こす。このpH
i変化は、細胞がNBAで処置されたらそれらがUV光に曝露される時間の量により判定され、生物学的pH範囲内の軽度アシドーシス、または生理学的範囲外の重度アシドーシスを生じうる。本発明者らは、3.68±0.18 pH単位のpHiの有意な減少(P < 0.001)を引き起こした、NBAとフラッシュ光分解パラダイムとに曝露された侵襲性の三重陰性乳がん55.3%においてアポトーシスおよび細胞死を誘導する能力を実証するものである。
【0112】
実施例7
本発明者らの記述した発明にかかる細胞処置は、細胞死を促進する新規の陽性フィードバックシステムをもたらし、しかも、この陽性フィードバック経路は好都合な機構としての機能を果たし、多剤耐性がんおよび抗生物質耐性菌などの、一般的な治療法に対して耐性を示しているいずれの細胞においても細胞死を誘導しうる。
【0113】
MCF-7細胞における記述の陽性フィードバック経路であるが、これはUVフラッシュに応答したNBAからの細胞内H
+の顕著な増加後に起きる。
図2.1は、細胞内空間中のプロトン濃度の急増および同時に浸透水の喪失または細胞容積の変化を引き起こす、波長350 nmのUVフラッシュパラダイムへの細胞内NBAの曝露を例示する。細胞内H
+の増加はNHE1を活性化して、ナトリウムイオンと引き換えにプロトンを排出する(
図2.2a)。ナトリウムイオンは浸透圧調節物質(osmolite)として作用し、細胞内部の高ナトリウム濃度の領域に水を引き寄せる。高Na
+の領域への水の移動、または水の排出が細胞壁の変形および/または細胞収縮につながる。細胞壁の変形は、チロシンキナーゼJak-2のリン酸化および活性化を引き起こす(Garnovskaya et al., J Biol Chem. 2003, 278(19):16908-15)(
図2.2b)。細胞内H
+に応答したNHE1の継続的活性化が、細胞内浸透圧の増加を生み出し、細胞膜の外向突出、または小疱を引き起こす(
図2.3)。NHE1の活性は細胞内部の局部的アシドーシスを補い、細胞内Na
+レベルを上昇させ、小疱内の静水圧と、それに続いて小疱のサイズをさらに促進するものと思われる。細胞内Na
+濃度の局所的増加に応答して、ナトリウムカルシウム交換体1 (NCX1)は交換活性を反転させ(Yi et al., J. Biol. Chem. 2012, 287(13): 10316-24)、Na
+の流出およびCa
2+流入につながる(
図2.4a)。リン酸化されたJak-2およびカルモジュリン(CaM;
図2.4b)の複合体形成は、CaMのJak-2依存性チロシンリン酸化を増加させる。リン酸化CaMはNHE1のC末端に結合し、NHE1を構成的に活性化する(Garnovskaya et al., J Biol Chem. 2003, 278(19): 16908-15)。NCX1の反転による細胞内Ca
2+の増加は、CaMのリン酸化状態に関係なく、カルモジュリンへのCa
2+の結合を容易にする。リン酸化CaM (Garnovskaya et al., J Biol Chem. 2003, 278(19): 16908-15)も石灰化CaM (Koster et al., J Biol Chem. 2011, 286(47):40954-61)もともにNHE1の活性を増加させるが、CaMのリン酸化および石灰化の組み合わせ(
図2.5)はNHE1に対するCaMの最も高い親和性を与え(Koster et al., J Biol Chem. 2011, 286(47):40954-61; (
図2.6a)、それによって最も高いNHE1活性化を促進する(Koster et al., J Biol Chem. 2011, 286(47):40954-61)。NCX1を介したNa
+排出にもかかわらず、リン酸化-石灰化CaMによりNHE1の活性化維持が促進され、さらなるCa
2+侵入につながる(
図2.6bおよび2.6c)。本発明者らは、NBAのフラッシュ光分解により誘導された細胞内H
+の超生理学的増加が後続のNHE1、Jak-2およびNCX1活性化に先立って細胞収縮をもたらすこと; 新規の陽性フィードバック経路を作出し、これが最終的には増大した細胞内浸透圧、細胞小疱、および細胞膜破裂の可能性につながることを提唱する。本発明者らは、また、多剤耐性がんにおけるNHE1の発現の増加を特に考慮すると、多剤耐性がんの殺処理においてこの陽性フィードバック経路が有効であることを提唱する(Hoffman and Lambert, Philosophical Transactions of the Royal Society London Biological Sciences, 2014, 369(1638):20130109)。
【0114】
実施例8
本発明者らの記述した発明にかかる処理によって、本発明者らは、pH
iのみのわずかな、漸進性の、かつ的確な減少をもたらすことが可能とされ、多能性状態へのマウス脾臓CD45
+細胞の再プログラミングの百分収率とpH
iの変化の大きさを関連付けることが可能とされよう。
【0115】
実施例9
本発明者らの発明にかかる技法は、インビボでがん性腫瘍の増殖を顕著に減少させるうえで有効である。本発明者らは、5週齢の雌性ヌードマウスの乳腺脂肪体へ侵襲性の三重陰性乳がんMDA-MB-231-GFP (細胞2×10
6個)を注射した。注射に続いておよそ1週後に腫瘍が出現した。腫瘍が5 mmの長さに達し、それを2日連続で維持したら、処理を開始した。腫瘍に対してaCSF 0.1 mlまたはNBA (1 mM) 0.1 ml、引き続いて光活性化の場合、マウスに対照注射のいずれかの一度限りの処理を受けさせた。NBA/光活性化処理を次のように行った: NBA注射から1時間後、腫瘍塊への200μmの光ファイバーカニューレの挿入前に動物に麻酔をかけた(1.5〜4%のイソフルラン)。腫瘍の内部を、インビトロにおいて有効であった同一の照明パラダイム、具体的には60秒照明、60秒照明なし、30秒照明、60秒照明なし、および60秒照明を用いてセラミックカニューレにより405 nmの光(80〜85 mW)で照らした。このパラダイムは「60-30-60」照明パラダイムといわれる。
【0116】
次式を用いて腫瘍容積の変化を計算するために、腫瘍を毎日測定した。
【0117】
腫瘍容積(TV) = 長さ×幅
2 / 2
【0118】
処理の日に記録された腫瘍容積に対して変化率を規準化することにより、腫瘍容積の変化率を計算した。デジタルバーニア(Digitial Vernier)キャリパを用いて、対照マウスおよびNBA光処理マウスからの毎日の腫瘍測定を行った。本発明者らは、NBA処理マウスにおいて腫瘍成長の有意な低減を観察した(
図19)。統計分析から、NBA光線療法による腫瘍の一度限りの処理は、腫瘍成長(
図20)のおよび腫瘍容積(
図21)の変化率の有意な低減を生じたことが示唆される。一度限りのNBA光線療法は、対照のaCSF処理マウスにおける腫瘍成長の平均変化率と比べて処理日からの腫瘍成長の変化率の有意な低減を生じた(
図20)。腫瘍成長の平均変化率の低減のこの「完全応答」は、最大で9日間、有意に低減された(P<0.05)。
【0119】
一度限りのNBA光線療法は、対照のaCSF処理マウスにおける腫瘍容積と比べて処理日からの腫瘍容積の有意な低減を生じた(
図21)。平均腫瘍容積の低減のこの「完全応答」は、最大で13日間、有意に低減された(P<0.05)。
【0120】
実施例10
記述した発明にかかる技法は、インビボでがんを有する動物において生存期間を増加させるのに有効である。本発明のこの態様において、本発明者らは、がん腫瘍においてNBAを光活性化させる技法を採用することで動物生存の顕著な増加につながることを証明する。樹立された6週齢ヌードマウス三重陰性乳がんMDA-MB-231腫瘍へNBAを注射した。がん細胞の細胞内空間へのNBAの十分な拡散を1時間可能にさせた。この1時間の拡散期間の後、腫瘍を60-30-60の励起パラダイム(既述)のために405 nmの光活性化光(85 mW)に曝露した。
【0121】
対照aCSFまたは光活性化によるNBAのいずれかのその一度限りの処理後、テキサス大学サンアントニオ校の施設内動物管理使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee; IACUC)によって承認されたHumane Endpointsにしたがってマウスをモニターし、安楽死させた。対照aCSF処理マウス(n=4)は処理の日から平均16.5±1.66日間生存し、処理からの生存日数は14から19日までに及んだ。対照的に、一度限りのNBA処理マウスは処理の日から35.2±5.70日間生存した(
図22)。NBA処理マウスの生存は処理から18〜50日までに及んだ。この生存の増加は、発明にかかるNBA処理の結果としての生存性の顕著な(P = 0.012) 113.3%の増加に相当する。