(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-507003(P2017-507003A)
(43)【公表日】2017年3月16日
(54)【発明の名称】自己血輸血システムの採血容器内の回収血の液位を定量する装置及び方法
(51)【国際特許分類】
A61M 1/36 20060101AFI20170224BHJP
A61B 5/15 20060101ALI20170224BHJP
【FI】
A61M1/36 101
A61B5/14 300Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-570163(P2016-570163)
(86)(22)【出願日】2014年12月17日
(85)【翻訳文提出日】2016年9月9日
(86)【国際出願番号】EP2014078124
(87)【国際公開番号】WO2015124235
(87)【国際公開日】20150827
(31)【優先権主張番号】14156384.1
(32)【優先日】2014年2月24日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】509063694
【氏名又は名称】フレゼニウス カービ ドイチュラント ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】マイスベルガー, アルトゥア
(72)【発明者】
【氏名】ファーレンドルフ, メラニー
(72)【発明者】
【氏名】アイリッヒ, マンフレート
【テーマコード(参考)】
4C038
4C077
【Fターム(参考)】
4C038TA10
4C038UB10
4C077AA13
4C077DD13
4C077EE01
4C077HH03
4C077HH20
4C077HH21
4C077KK27
(57)【要約】
自己血輸血システム(20)の上記採血容器(11)内の回収血の液位を定量する装置及び方法であって、これらが上記採血容器(11)内の上記回収血の液位を周期的に検知し、対応する信号を出力する検知手段(10、12)と、この検知手段の上記出力信号に基づいて上記採血容器(11)内の上記回収血の液位を定量する定量手段(2)とを備えることが開示されている。検知手段は、上記採血容器(11)の第1の側部において異なる高さレベル(L1〜L9)に配置された、光を放出する複数の光放出器(12)と、上記第1の側部に対向する上記採血容器(11)の第2の側部において上記異なる高さレベル(L1〜L9)に配置された、上記光放出器(12)によって放出されて上記採血容器(11)を透過した光を検知する複数の光受信器(10)とを備える。例えば、採血容器(11)の内側表面上の吸収膜によって引き起こされる撹乱効果を識別及び防止し、それによって、信号検出及び解析の信頼性を高めることができるように、検出及び信号解析に用いられる光機構のパラメーターを個別かつ動的に調整することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の手術部位から採取された回収血を再生及び洗浄する自己血輸血システム(20)であって、
前記採取された血液(16〜18)を貯蔵する採血容器(11)と、
前記採血容器(11)内の前記回収血の液位を周期的に検出し、対応する出力信号を出力する光検出機構(10、12)と、
前記光検出機構の前記出力信号に基づいて、前記採血容器(11)内の前記回収血の前記液位を定量するプロセッサ(2)と、
を備え、
前記光検出機構が、
前記採血容器(11)の第1の側部において異なる高さレベル(L1〜L9)に配置された、光を放出する複数の光放出器(12)と、
前記第1の側部に対向する前記採血容器(11)の第2の側部に配置された、前記光放出器(12)によって放出されて前記採血容器(11)を透過した光を検知し、前記出力信号を出力する複数の光受信器(10)と、
を備える、自己血輸血システム。
【請求項2】
前記光放出器(12)が、光パルス、好ましくは赤外線光パルスを放出するパルス光放出器であり、
前記光検出機構が、制御信号に対応して前記光放出器を個別にオン及びオフに切り替えるように構成され、
前記プロセッサが、前記制御信号に対応して、前記光放出器(12)に個別に対応する光受信器(10)によって出力された出力信号を解析するように構成されている、請求項1に記載の自己血輸血システム。
【請求項3】
前記プロセッサ(2)が、
前記光受信器(10)の出力信号を前記採血容器(11)の垂直方向に沿って順次読み取ることと、
前記出力信号を所定の閾値と比較することと、
前記信号を前記所定の閾値と前記比較することに基づいて、前記採血容器(11)内の前記回収血の前記液位を定量することと、
を行うように構成されている、請求項1又は2に記載の自己血輸血システム。
【請求項4】
前記プロセッサが、前記複数の光放出器(12)及び前記複数の光受信器(10)に関連付けられた検出パラメーターを個別に調整するように構成され、前記検出パラメーターは、前記光放出器(12)の出力パワーと、前記複数の光受信器(10)によって出力された出力信号を増幅することに用いられる増幅器(3)の利得と、前記プロセッサ(2)によって用いられる閾値とのうちの少なくとも1つを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の自己血輸血システム。
【請求項5】
前記プロセッサが、
前記複数の光受信器(10)のうちの少なくとも2つの光受信器(10)の出力信号の比較に基づいて、前記光受信器(10)の前記出力信号のうちの顕著な信号を識別することと、
前記顕著な信号に関連付けられた光放出器(12)及び/又は光受信器(10)及び/又は増幅器(3)の検出パラメーターを変更することと、
前記変更された検出パラメーターを用いて前記採血容器(11)内の前記回収血の前記液位を定量する前記ステップを繰り返すことと、
を行うように更に構成されている、請求項4に記載の自己血輸血システム。
【請求項6】
前記プロセッサが、
前記変更された検出パラメーターを用いて前記採血容器(11)内の前記回収血の前記液位を定量する前記ステップを繰り返すとき、前記変更された検出パラメーターに関連付けられた光受信器(10)又は増幅器の信号が、前記識別するステップにおいて顕著な信号として識別されない場合には、前記変更された検出パラメーターを用いて前記採血容器(11)内の前記回収血の前記液位を定量すること、
を行うように更に構成されている、請求項5に記載の自己血輸血システム。
【請求項7】
前記プロセッサが、前記プロセッサ(2)によって定量された前記充填レベルに基づいて、特に、前記貯蔵容器(11)内の事前に設定された充填レベルに達すると、前記洗浄プロセスを開始若しくは制御すること、又は前記プロセッサ(2)によって定量された前記充填レベルが前記貯蔵容器(11)の完全な枯渇若しくはほぼ完全な枯渇を示している場合には、警告メッセージを生成し、該警告メッセージをインターフェース(1)を介して出力すること、を行うように更に構成されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の自己血輸血システム。
【請求項8】
自己血輸血システム(20)の採血容器(11)内の回収血の液位を定量する方法であって、前記自己血輸血システムが、
前記採血容器(11)の第1の側部においてそれぞれ異なる高さレベル(L1〜L9)に配置された、光を放出する複数の光放出器(12)と、
前記第1の側部に対向する前記採血容器(11)の第2の側部に配置された、前記光放出器(12)によって放出されて前記採血容器(11)を透過した光を検出する複数の光受信器(10)と、
を備え、該方法が、
前記複数の光放出器(12)を周期的にアクティブ化して光を放出させることと、
前記採血容器(11)を透過した光を前記複数の光受信器(10)を用いて検出することと、
前記複数の光受信器(10)によって出力された出力信号に基づいて、前記採血容器(11)内の回収血の前記液位を定量することと、
を含む、方法。
【請求項9】
前記光放出器(12)が、制御信号に対応して個別にオン及びオフに切り替えられ、それによって、光パルス、特に赤外線光パルスを放出し、前記光放出器(12)に対応する光受信器(10)によって出力された出力信号は、前記制御信号に対応して個別に解析される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記光受信器(10)によって出力された出力信号を前記採血容器(11)の垂直方向に沿って順次読み取ることと、
前記出力信号を所定の閾値と比較することと、
前記出力信号を前記所定の閾値と前記比較するステップに基づいて、前記採血容器(11)内の前記回収血の前記液位を定量することと、
を更に含む、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記複数の光放出器(12)及び前記複数の光受信器(10)に関連付けられた検出パラメーターを個別に調整することを更に含み、前記検出パラメーターが、前記光放出器(12)の出力パワーと、前記複数の光受信器(10)によって出力された出力信号を増幅することに用いられる増幅器(3)の利得と、前記液位を定量することに用いられる閾値とのうちの少なくとも1つを含む、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記複数の光受信器(10)のうちの少なくとも2つの隣り合った光受信器(10)の出力信号の比較に基づいて、前記光受信器(10)の前記出力信号のうちの顕著な信号を識別することと、
前記顕著な信号に関連付けられた光放出器(12)及び/又は光受信器(10)及び/又は増幅器(3)の検出パラメーターを変更することと、
前記変更された検出パラメーターを用いて前記採血容器(11)内の前記回収血の前記液位を定量する前記ステップを繰り返すことと、
を更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記変更された検出パラメーターを用いて前記採血容器(11)内の前記回収血の前記液位を定量する前記ステップを繰り返すとき、前記変更された検出パラメーターに関連付けられた光受信器(10)又は増幅器(3)の信号が、前記識別するステップにおいて顕著な信号として識別されない場合には、前記変更された検出パラメーターを用いて前記採血容器(11)内の前記回収血の前記液位を定量すること、
を更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記洗浄プロセスが、前記プロセッサ(2)によって定量された前記充填レベルに基づいて、特に、前記貯蔵容器(11)内の事前に設定された充填レベルに達すると、開始若しくは制御され、又は前記プロセッサ(2)によって定量された前記充填レベルが前記貯蔵容器(11)の完全な枯渇若しくはほぼ完全な枯渇を示している場合には、警告メッセージが生成され、インターフェース(1)を介して出力される、請求項8〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
自己血輸血システム(20)において用いられる、該自己血輸血システム(20)の採血容器(11)内の回収血の液位を定量するコンピュータープログラム製品であって、前記自己血輸血システム(20)のプロセッサ(2)又は制御ユニットにおいて実行された場合、請求項8〜14のいずれか1項に記載の方法を実行するコンピュータープログラムコード手段を含む、コンピュータープログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包括的には、患者の手術部位から採取された回収血を再生及び洗浄する自己血輸血システム及び方法に関し、特に、自己血輸血システムの採血容器内の回収血の液位を定量する改善された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自己血輸血システム(自己輸血機器)は、特に、大量の失血を予想することができる手術部位、例えば、動脈瘤、関節全置換術、及び脊髄手術において患者から採取された回収血の再生及び洗浄に広く用いられている。そのようなシステムでは、回収血は、再利用に備えて採血容器に一時的に貯蔵される。採血容器内の回収血の液位又は液体体積の信頼性のある定量は、手術に極めて重要である。とりわけ、採血容器の完全な枯渇を回避することは重要である。さらに、そのようなシステムにおける信頼性のあるプロセス制御には、採血容器内の回収血の液位又は液体体積に関する正確な情報が必要とされる。
【0003】
このため、多くの場合、採血容器の重量がコントローラーによって監視され、所定の閾値又は事前に較正された閾値に達すると、コントローラーは、更なるプロセス制御のための信号を出力する。
【0004】
そのような手法の一例は、特許文献1に開示されている。この特許文献1では、採血容器の重量が、容器に存在する流体の体積を計算する歪みゲージデバイスを用いて監視される。十分な体積の流体が容器に存在すると判断されると、システムは、新たなFILL(充填)サイクルを開始する。この自己輸血機器の洗浄方法は、連続的ではなく不連続的である。このため、体積測定の応答時間は遅くなる可能性がある。採血容器は、半径方向内側の支持部材によって垂直に支持され、システム動作中、垂直力を受ける。このデバイスは、設置面に固定された半径方向外側の支持部材を更に備える。歪みゲージは、内側の支持部材と外側の支持部材との間に結合され、それらの間の垂直の歪み力を検知し、管から発生した垂直力を水平力に変換する。採血容器の周囲には、それぞれ異なる多くの導管が配置され、手術現場にいるスタッフは、例えば、安全性のために、これらの導管に自由かつ迅速にアクセス可能でなければならない。これは、歪みゲージデバイス自体によって必要とされる円滑で安定した環境の要件と幾分矛盾する。このため、採血容器内の回収血の液位又は液体体積の安定で信頼性のある定量を確保することは困難である。
【0005】
本出願人の特許文献2は、透析機のバブルトラップ内の液状媒体の容量レベル測定のための方法及び装置を開示している。
【0006】
本出願人の特許文献3は、交換輸血、強制利尿を伴う注入療法又は血液ろ過において用いられる、患者から回収された流体と、同時に患者に戻される流体とをバランスさせる装置及び方法を開示している。この手法では、液体を一時的に貯蔵することに用いられる液体容器の液位が、1列の放射放出器と、放射放出器に対向する液体容器の側部に配置された1列の放射受信器とによって検知される。これらの放射受信器は、採取容器の様々な異なる高さレベルにおける透過度を表す出力信号を生成する。自己輸血機器にこの方法を用いることは開示されていない。さらに、容器を透過する光ビームの障害物によって引き起こされる問題、例えば、容器の内側表面上の血液膜又は脂質膜によって引き起こされる問題は取り扱われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,458,566号
【特許文献2】欧州特許第2531823号
【特許文献3】米国特許第4,275,726号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このため、自己血輸血システム(自己輸血機器)の採血容器内の回収血の液位を定量する、より安定で信頼性のある発想が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、そのような自己血輸血システムの採血容器内の回収血の液位を定量する安定で信頼性のある装置及び方法を用いた、改善された自己血輸血システム及び方法を提供することである。本発明の更なる目的は、採血容器内の回収血の液位を定量するそのような自己血輸血システムにおいて用いられるコンピュータープログラム製品を提供することである。
【0010】
この問題は、請求項1に記載の自己血輸血システムと、請求項8に記載のそのような自己血輸血システムの採血容器内の回収血の液位を定量する方法と、請求項15に記載のコンピュータープログラム製品とによって解決される。更に有利な実施の形態は、従属請求項の主題である。
【0011】
本発明によれば、患者の手術部位から採取された回収血を再生及び洗浄する自己血輸血システムであって、上記採取された血液を貯蔵する採血容器と、特に、上記採血容器を通過する光ビーム、特にパルス光ビームの透過度を測定する手段によって、上記採血容器内の上記回収血の液位を光学的に周期的に検出する光検出機構であって、該光検出機構によって検出された信号に対応して信号を出力する光検出機構と、上記検知手段の上記出力信号に基づいて、上記採血容器内の上記回収血の上記液位を定量するプロセッサと、を備え、上記光検出機構は、上記採血容器の第1の側部においてそれぞれ異なる高さレベルに配置された、光を放出する複数の光放出器(light emitters:発光器)と、上記第1の側部に対向する上記採血容器の第2の側部に配置された、上記光放出器によって放出されて上記採血容器を透過した光を検知し、上記出力信号を出力する複数の光受信器(light receivers:受光器)と、を備える、自己血輸血システムが提供される。
【0012】
光検出機構の使用によって、採血容器内の回収血の液位のより安定で信頼性のある定量が可能になる。特に、機械要素、結合部材又はセンサーは必要とされない。さらに、この光機構によって、完全に光電子的な信号検出及び完全に電子的な信号解析が可能になり、これによって、信号解析に用いられる測定条件及びパラメーターの簡単ではあるが信頼性のある変更等の追加の利点が提供される。
【0013】
好ましくは、上記光放出器及び上記光センサーは、上記採血容器の垂直方向に沿って規則的な間隔で配置され、上記採血容器の高さ全体にわたって分散されている。一方、更なる実施の形態によれば、上記光放出器及び上記光センサーは、上記採血容器内のプロセス条件の評価又は精密な信号解析にとって特に重要であると考えられる領域において所与のより高い密度で配置することもできる。上記光受信器(センサー)は、互いに離間して配置され、上記光放出器と同じのそれぞれ異なる高さレベルに配置することができる。
【0014】
更なる実施の形態によれば、上記光放出器は、上記回収血に蓄積されるエネルギーの量を大幅に削減することができるように、光パルス、好ましくは赤外線光パルス、特に、例えば50μsecの継続時間の短い光パルスを放出するパルス光放出器である。さらに、上記測定は、手術現場で通常用いられる電源電流、蛍光管又は他の種類の光源等の雑音源の周波数と大きく異なる周波数で周期的に行うことができる。さらに、上記プロセッサは、上記光放出器をオン及びオフに切り替える制御信号に対応して上記光放出器を個別にオン及びオフに切り替えるように構成され、上記プロセッサは、そのような制御信号に対応して、上記光放出器に個別に対応する光受信器によって出力された信号を解析するように更に構成されている。このため、上記条件は、採血容器に沿った垂直な高さレベルの関数としてより高い信頼性で求めることができる。
【0015】
更なる実施の形態によれば、上記プロセッサは、a)上記光受信器の出力信号を上記採血容器の垂直方向に沿って順次読み取ることと、b)上記出力信号を所定の閾値と比較することと、c)上記出力信号を上記所定の閾値と上記比較することに基づいて、上記採血容器内の上記回収血の上記液位を定量することと、を行うように構成されている。この閾値は、複数の光受信器から読み取られた出力信号のシーケンスにおける透過度変化の信頼性のある弁別を可能にし、本方法を様々な異なるプロセス条件に用いることができるように、容易に変更及び再調整することができる。
【0016】
更なる実施の形態によれば、上記プロセッサは、上記複数の光放出器及び上記複数の光受信器に関連付けられた検出パラメーターを個別に調整するように構成されている。以下に示すように、これによって、特に、採血容器の内側表面上の脂肪又は凝固した血液等の汚染物質の吸収膜の撹乱効果を抑制することが可能になる。この撹乱効果は、抑制されなければ、誤った情報又は更に誤認させる情報を与える可能性がある。本発明によれば、これらの検出パラメーターは、上記光放出器の出力パワーと、上記複数の光受信器によって出力された出力信号を増幅することに用いられる増幅器の利得と、上記定量する手段によって用いられる、上記複数の光受信器によって出力された上記出力信号を解析する閾値とのうちの少なくとも1つを含む。
【0017】
更なる実施の形態によれば、上記プロセッサは、a)(直接隣り合った光受信器とすることができる)上記複数の光受信器のうちの少なくとも2つの光受信器の出力信号の比較に基づいて、上記光受信器の上記出力信号のうちの顕著な信号を識別することと、b)上記顕著な信号に関連付けられた光放出器及び/又は光受信器及び/又は増幅器の検出パラメーターを変更することと、c)上記変更された検出パラメーターを用いて上記採血容器内の上記回収血の上記液位を定量する上記ステップを繰り返すことと、を行うように更に構成されている。顕著な信号とは、本出願の意味では、貯蔵容器の内側表面上の血液膜若しくは脂質膜によって引き起こされる、又は、貯蔵容器を通る光透過を局所的に撹乱する同様の効果であり得る、少なくとも2つ(好ましくは少なくとも3つ)の直接隣り合った光受信器の出力信号間若しくは少なくとも2つ(好ましくは少なくとも3つ)の透過値のシーケンス間の異常な透過度変化を示す信号である。
【0018】
更なる実施の形態によれば、上記プロセッサは、上記変更された検出パラメーターを用いて上記採血容器内の上記回収血の上記液位を検知する上記ステップを繰り返すとき、上記変更された検出パラメーターに関連付けられた光受信器又は増幅器の信号が、上記識別するステップにおいて顕著な信号として識別されない場合には、上記変更された検出パラメーターを用いて上記採血容器内の上記回収血の上記液位を定量することを行うように更に構成されている。
【0019】
更なる実施の形態によれば、上記プロセッサは、上記それぞれの出力信号とルックアップテーブルの内容との比較に基づいて、上記採血容器に採取された上記採取血液の状態を決定する該ルックアップテーブルを更に備える。上記ルックアップテーブルの上記内容は、特に、通常のプロセス条件の通常の透過(又は吸収)特性又は上記採血容器内で発生し得る汚染物質を反映することができ、知識に基づくこともできるし、測定方法よりも前に実行される初期較正又はトレーニング方法に由来することもできる。一例として、一連の光受信器によって出力された出力信号が、充填レベルよりも下方において、すなわち、本システムの貯蔵容器に貯蔵された回収血内において発生すると予想される通常の透過に従っている場合であって、かつ、上記一連の光受信器の中間の光受信器によって出力された信号が、通常ならば貯蔵容器内の対応する光受信器の高さレベルにおいて空気又はかなり厚い血液を示す例外的により高い透過度又はより低い透過度を示している場合、この中間の光受信器の出力信号は、当該中間の光受信器の高さレベルにおいて異常な透過度変化又は通常でない透過度変化を示す顕著な信号とみなされる。この透過度変化には、この中間の光受信器の高さレベルにおける当該異常な又は通常でない透過度変化の理由を更に弁別する、この高さレベルにおける特別に専用化された測定手順が必要とされる。
【0020】
更なる実施の形態によれば、上記プロセッサは、上記充填レベルに基づいて、特に、上記貯蔵容器内の事前に設定された充填レベルに達すると、上記洗浄プロセスを開始若しくは制御すること、又は測定された上記充填レベルが上記貯蔵容器の完全な枯渇若しくはほぼ完全な枯渇を示している場合には、警告メッセージを生成し、該警告メッセージをインターフェースを介して出力すること、を行うように更に構成されている。
【0021】
本発明の更なる態様は、以下で説明するように、そのような自己血輸血システムの採血容器内の回収血の液位を定量することに対応する方法に関する。
【0022】
本発明の更なる態様は、以下で説明するように、そのような自己血輸血システムの採血容器内の回収血の液位を定量することに対応するコンピュータープログラム製品に関する。
【0023】
以下では、例示的な実施形態に関して添付図面を参照して本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明による自己血輸血システムの採血容器内の回収血の液位を定量する装置を概略的に示す図である。
【
図2】採血容器の内側表面上の血液膜又は脂質膜によって引き起こされる汚染を有する
図1の採血容器の内壁部分の部分断面図である。
【
図3】本発明による自己血輸血システムの採血容器内の回収血の液位を定量する方法の概略流れ図である。
【
図4】採血容器を備える自己血輸血システムの洗浄チャンバーを概略的に示し、採血容器内の回収血の液位が本発明に従って定量される図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図面全体を通じて、同一の参照符号は、同一又は実質的に同等の要素又は要素群を示す。
【0026】
本発明による自己血輸血システムの採血容器内の回収血の液位を定量する方法を説明する前に、以下に、自己血輸血システム又は自己輸血機器においてそのような方法を利用する一般的な環境を、
図4を参照して手短に説明する。
図4は、血液を洗浄する連続フロー技法を用いたそのような自己血輸血システムの洗浄チャンバーを示している。
【0027】
より具体的に言えば、例えば、患者の手術部位から採取された回収血は、赤血球が生理食塩水及び血漿とともに再懸濁されるとともに他の汚染物質が除去される連続洗浄プロセスに入る。この回収血は、採取血液用の容器11から導管28を介してポンプ28によって圧送され、容器22から導管28を介してポンプ28によって圧送される洗浄溶液とともに洗浄プロセスに入る。このプロセスにおいて、血液は、例えば約80%のヘマトクリット(HCT)に濃縮され、血漿、細胞残屑、白血球、血小板、抗凝血剤及び他の望ましくない成分のほとんどが分離除去される。さらに、可能な限り完全な非乳化脂肪の除去が行われる。容器24に貯蔵された赤血球濃縮液からの赤血球は、例えば60%〜65%のHCT濃度にパックされる。この再生された血液は、その後、異なる現場(図示せず)において患者の体内に注入される。
【0028】
このプロセスにおける採血容器11は、透明な貯蔵容器であり、特殊二重管式吸込配管(double lumen suction tube)を利用した標準的な容器とすることができ、流体は、術野から吸引され、抗凝血剤溶液と混合される。採取された流体は、無菌心臓切開容器(sterile cardiotomy reservoir)においてろ過される。この容器は、フィルターを含み、2リットル〜3リットルの流体の容量を有する。採血容器11は、円錐漏斗形状の底部を有することができる。
【0029】
図1は、
図4を参照して上記で説明したような自己血輸血システムにおいて用いられる採血容器11内の回収血の液位又は体積を定量する機構を示している。貯蔵容器11は、洗浄溶液とともに回収血で満たされる。洗浄プロセスが上記洗浄プロセスにおいて長く用いられるほど、容器11内のより多くの体積が次の領域に分離する。すなわち、特に貯蔵容器11の底部の沈殿物を伴う高HCTを有する回収血18と、HCT値が透明血漿溶液にまさに近い低HCTを有する回収血17と、この回収血の面の上部にある泡の層16とに分離する。泡の層16は、最大で1センチメートル〜2センチメートルの厚さを有する場合がある。洗浄プロセス中、貯蔵容器11内の回収血の充填レベルは、上方及び下方に繰り返し移動する。上方及び下方に移動するとき、例えば、凝固した血液の膜14又は脂質の膜15を有する部分は、貯蔵容器11の内側表面に局所的に留まる場合がある。
【0030】
貯蔵容器11内の回収血の充填レベル(体積)を測定するために、貯蔵容器11を透過する光の透過度が光機構によって測定される。より具体的に言えば、発光ダイオード(LED)等の複数の光放出器12が、貯蔵容器11の第1の側部において、参照符号L1〜L9によって示されるそれぞれ異なる高さレベルに配置される。これらの光放出器は、回収血における放射エネルギーの蓄積を削減するために、好ましくは赤外線波長域の光ビームを放出する。透過した光強度は、光放出器12に対向する貯蔵容器11の側部に配置されたフォトダイオード等の複数の光受信器10によって測定される。以下では、それぞれの高さレベルL1、L2、...Lnにおける光受信器10及び光放出器12をそれぞれ識別するために、これらの光受信器及び光放出器をそれぞれ10.1、10.2、...10.n及び12.1、12.2、...12.nと名付ける。光放出器12及び光受信器10は、貯蔵容器11上にスリーブ接続することができる保護ハウジング内に配置することができる。この保護ハウジングは、通常、使い捨て式であり、再利用されるように構成されている。光放出器12及び光受信器10は、同じ高さレベルL1〜L9に配置することができる。
【0031】
伝送ライン5を介して伝送されたコントローラー2の制御信号によって光放出器を個別にオン及びオフに切り替えることができるように、電子スイッチのアレイ13が光放出器12に関連付けられている。光受信器10によって出力された透過度信号を伝送ライン4を介して個別に読み取ることができるように、電子スイッチの更なるアレイ9が光受信器10に関連付けられている。この読み取られた透過度信号は、制御ライン7を介してコントローラー2によって調整することができる利得係数を用いて増幅器3によって増幅される。より具体的に言えば、それぞれ異なる光受信器10.1、...10.nによって出力された透過度信号は、光受信器10.1、...10.nのそれぞれについて個別に調整された利得係数によって個別に増幅することができる。
【0032】
貯蔵容器11内の回収血の充填レベル又は充填体積を定量するために、光受信器10.1、...10.nの出力信号は、比較的低い透過度(回収血による光の或る特定の吸収を示す)から比較的高い透過度(回収血による光の吸収がないことを示す)への遷移を求めるために解析される。より具体的に言えば、光受信器10.1、...10.nの出力信号は、例えば、最も下部のセンサーL.1から開始して最も上部のセンサーL.nへの順序又はその逆の順序で、貯蔵容器の垂直方向に沿って順次読み取られ、比較的低い透過度から比較的高い透過度への遷移、すなわち、暗い領域から吸収の少ない領域への遷移が発生した箇所が求められる。この箇所は、貯蔵容器11内の実際の充填レベル、又は例えば、回収血から生理食塩水への遷移に対応する。これを行うために、比較的低い透過度を示す信号と比較的高い透過度を示す信号とを弁別するための閾値を用いるアルゴリズムを用いることができる。
【0033】
第1の実施形態によれば、光放出器12によって放出された光ビームは、平行な光ビーム、又は小さなビーム発散を有するほぼ平行な光ビームである。このため、上記光放出器12に対向する貯蔵容器11の側部に配置された光受信器10は、光放出器12と同じ高さレベルL1〜L9に配置することができ、貯蔵容器11を透過し、直接対向する光放出器によって放出された1つの光ビームのみを検出することができる。一方、好ましい第2の実施形態によれば、光放出器12は、例えば120度の発散角の非常に発散した光ビームを放出し、この場合、貯蔵容器11の対向する側部の光受信器10は、幾つかの光放出器12によって放出された光ビームを検出することができる。より具体的に言えば、高さレベルL5又はL6に配置された光受信器12等の、貯蔵容器の中央部分に配置された光受信器12は、高さレベルL4〜L6に配置された光放出器12(高さレベルL5に配置された光受信器の場合)及び高さレベルL5〜L7に配置された光放出器12(高さレベルL6に配置された光受信器の場合)等の、直接対向する光放出器のうちの2つ又は更に多くによって放出された光ビームを検出することができる。以下に示すように、本発明によれば、光放出器によって放出された光ビームの比較的大きな発散角は、特に、局所的に異常な透過度変化をもたらす貯蔵容器11の内側表面上の血液膜又は脂質膜によって引き起こされる顕著な信号をより容易にかつ高い信頼性で弁別するのを更に助けることができる。
【0034】
上記情報に基づいて、例えば、貯蔵容器11内の事前に設定された充填レベルに達すると、又は生理食塩水の上澄み液がない充填レベルにおいて、洗浄プロセスを開始又は実行することができる。(高さレベルL1における)底部光受信器又は(高さレベルL0における)底部光受信器は、貯蔵容器11の完全な枯渇を示すことに用いられ、この場合、警告メッセージが、コントローラー2によって生成され、インターフェース1を介して、ディスプレイ、アラームデバイス等の外部デバイスに出力される。これを行うためには、貯蔵容器11の底部が円錐状に傾斜して先細になっており、かつ、高さレベルL0における底部光受信器10が貯蔵容器11の円錐状に傾斜して先細になっている底部の領域における透過度を測定する場合に有利であり得る。
【0035】
より具体的に言えば、所定の最低充填レベルが貯蔵容器11において最初にもたらされた場合にのみ、洗浄プロセスを開始することができる。この所定の最低充填レベルは、例えば0.75リットル又は1リットルの液体体積に対応することができる。測定された充填レベルによって、貯蔵容器11内の例えば50mlの最低充填レベルがプロセス全体又は手術全体の間確保されるようにするとともに、例えば、洗浄プロセスにおいて用いられる遠心分離機内又はセンサーの位置決めにおける空気又は泡の存在を回避するために、貯蔵容器11の完全な枯渇が常に防止されるように、洗浄プロセスは制御される。この空気又は泡が存在する場合、誤った信号又は誤認させる信号が生じるおそれがある。このため、検知された充填レベルに基づいて、貯蔵容器11がほぼ完全に枯渇していると判断された場合、例えば、高さレベルL0における底部光受信器10のみが充填レベルを示しているが、他の高さレベルL1〜L9における他の光受信器10のいずれもが充填レベルを示していない場合にのみ、洗浄プロセスを一時的に中断することができる。洗浄プロセスのそのような一時的な中断の結果、貯蔵容器11内の充填レベルは、例えば0.75リットル又は1リットルの体積に対応する所定の上位の充填レベルに再度、最終的に達するまで、患者の手術部位からの追加の回収血の採取に起因して再度上昇し、これによって、洗浄プロセスが再度トリガーされる。上記ループは、例えば、手術がまもなく終了すると決定された場合、ユーザー、特に麻酔専門医が、洗浄プロセスを終了することにする信号をインターフェース1を介してコントローラー2に入力するまで繰り返すことができる。
【0036】
図2は、貯蔵容器11の内側表面上の血液膜14又は脂質膜15によって引き起こされる汚染を有する
図1の貯蔵容器11の壁部分の部分断面図である。これらの血液膜14又は脂質膜15によって、光放出器12によって放出された検知光の透過度が局所的に低減される。この透過度は、所与の高さレベルにおける貯蔵容器の内容物の透過(吸収)とは無関係である。これらの血液膜14又は脂質膜15は、貯蔵容器11内の実際の充填レベルとは無関係であり、回収血の充填レベルが
図1に示すように、より低い高さレベルに減少している場合、実際の充填レベルの上方であっても内側表面上に留まる場合がある。洗浄プロセス中の回収血の表面の上方及び下方への繰り返される移動は、貯蔵容器11の内側表面上でのそのような血液膜14又は脂質膜15の凝集をももたらす。
図2に示すように、光受信器10.4の高さレベルL4に血液膜14が存在すると、その結果、検知光ビームB.4の透過度は、高さレベルL3及びL5におけるそれぞれの検知光ビームB.3及びB.5の透過度と比較して低減する。この結果、高さレベルL4における正しくない透過率が測定され、これによって、貯蔵容器11内の実際の充填レベル又は貯蔵容器11の内部の回収血から生理食塩水への遷移の誤った弁別(定量)又は更に誤認させる弁別(定量)が引き起こされる可能性があり、これは防止されるべきである。
【0037】
本発明によれば、光受信器10からの透過度信号を貯蔵容器11の垂直方向に沿って順次読み取ることを用いて、高さレベルにおける顕著な信号を識別することができる。これらの顕著な信号は、正常な動作条件下で予想される貯蔵容器内の標準的な透過プロファイルに従っておらず、通常ならば、貯蔵容器11内の実際の充填レベル又は貯蔵容器11の内部の回収血から生理食塩水への遷移の誤った弁別又は更に誤認させる弁別をもたらすおそれがある。正常な動作条件下で予想される貯蔵容器内のそのような標準的な透過プロファイルは、ルックアップテーブルに記憶することができることに留意すべきである。
【0038】
例えば、
図2に示す状態について、光受信器10.3〜10.5が貯蔵容器11内の実際の充填レベルよりも上方にあると仮定した場合、光受信器10.3及び10.5の信号は、100%の透過度に対応することさえあり得る(様々な界面における反射損失を考慮に入れた場合)比較的高い透過度を示すのに対して、光受信器10.4の信号は、比較的低い透過度を示す。貯蔵容器11内の正常な条件下では、高さレベルL3〜L5におけるそのような透過値のシーケンスは、貯蔵容器11内の実際の液体表面近くの正常な透過度変化の結果である可能性はない。むしろ、コントローラー2は、以下で略述するように、光ビームB.4に対応する信号が顕著な信号であると仮定するとともに、遷移領域がこれらの高さレベルに存在しないと仮定する。顕著な信号とは、本出願の意味では、貯蔵容器11の内側表面上の血液膜若しくは脂質膜によって引き起こされ得る、又は、貯蔵容器11を通る光透過度を局所的に撹乱する同様の効果によって引き起こされ得る、少なくとも2つ(好ましくは少なくとも3つ)の直接隣り合った光受信器12の信号間若しくは少なくとも2つ(好ましくは少なくとも3つ)の透過値のシーケンス間の異常な透過度変化を示す信号である。
【0039】
別の例として、例えば、
図2に示す状態について、光受信器10.3〜10.5が貯蔵容器11内の実際の充填レベルよりも下方にあると仮定した場合、光受信器10.3及び10.5の信号は、回収血によくある透過度を示し、この透過度は既に比較的低くなっているのに対して、光受信器10.4の信号は、更に低い透過度を示し、この透過度は、0である場合さえあり、光受信器10.4に対応する高さレベルL4に血液膜14が更に存在していることによって引き起こされる。貯蔵容器11内の正常な条件下では、高さレベルL3〜L5における透過値のそのようなシーケンスは、貯蔵容器11内の実際の液体表面近くの透過度変化の結果である可能性はない。むしろ、コントローラー2は、以下で略述するように、そのような測定信号について、光ビームB.4に対応する信号は顕著な信号であると仮定するとともに、これらの高さレベルに遷移領域は存在しないと仮定し、高さレベルL4において測定された透過度を顕著な透過度とみなす。
【0040】
ゼロの透過度又は異常に低い(顕著な)透過度によって引き起こされる高さレベルL4における顕著な信号を弁別するために、以下の手法を実行することができる。
【0041】
これを行うために、以下では、通常、
図2のそれぞれ異なる高さレベルL3〜L5における透過値は、所与の高さレベルにおける透過度を測定するように選択的にオンにされる個々の光ビームB.3〜B.5によって測定されるものと仮定する。より具体的に言えば、高さレベルL3における光ビームB.3は、関連付けられた光受信器10.3によって透過度を測定することに用いられ、高さレベルL4における光ビームB.4は、関連付けられた光受信器10.4によって透過度を測定することに用いられ、高さレベルL5における光ビームB.5は、関連付けられた光受信器10.5によって透過度を測定することに用いられる。ゼロの透過度又は顕著に低い透過度が、高さレベルL4において測定された場合、この透過度の測定は、全ての光ビームB.3〜B.5がオンにされた状態で繰り返される。光ビームB.3〜B.5は、比較的高い(例えば、120度の)発散角を有するので、隣接した光ビームB.4及びB.6のパワーの或る特定の割合は、高さレベルL4における光受信器10.4に伝播する。このため、高さレベルL4においてこの高さレベルにおける透過度を測定することに利用可能な全光パワーは一時的に増加する。これは、近傍の高さレベルにおいて利用可能な全光パワーにも当てはまる。この増加した光パワーにおいて、高さレベルL4において測定された透過度は、ゼロではなくゼロになることはあり得ない。近傍の高さレベルL3及びL5において測定された透過値との比較並びにこれらの透過値の解析の結果、事前に測定された高さレベルL4における顕著な信号が貯蔵容器11の内側表面上の膜の結果であるのか又はそうでないのかの情報が最終的に得られる。高さレベルL4における透過度をその後測定する場合、ビームL4については、より高いパワーを用いることができる。
【0042】
当業者には明らかになるように、光ビームの検出に関係のある他のパラメーター(以下、検出パラメーター)が変更された場合、特に、光放出器の出力パワー及び/又はそれぞれの光受信器によって出力された信号を増幅することに用いられる増幅器の利得及び/又は光受信器の出力信号を解析するプロセッサ若しくはコントローラー2によって用いられる閾値が変更された場合にも、同様の弁別を得ることができる。
【0043】
当業者には明らかになるように、光放出器によって放出される光ビームが、非常に大きく発散した光ビームではなく、その代わりに、平行又はほぼ平行な光ビームである場合にも、同様の弁別を得ることができる。
【0044】
当業者には明らかになるように、それぞれ異なる高さレベルにおける透過度を個別に又は一括して検出する検出パラメーターを変更する同様の手法は、貯蔵容器11に収容された回収血の希釈度等の、貯蔵容器の内容物の他の状態を弁別するのにも用いることができる。
【0045】
図3は、本発明による自己血輸血システム(自己輸血機器)の貯蔵容器内の回収血の液位を定量する方法の概略流れ図である。この自己血輸血システムは、好ましくは連続的な洗浄プロセスを用いる。高さレベルL1〜Lnにおける光受信器の透過度信号を検知するために、検出パラメーターが用いられる。これらの検出パラメーターは、最初のサイクルでは、例えば、高さレベルL1〜Lnにおける全ての光受信器を等しい感度に較正する事前較正ステップに基づいて予め定められている。これらの「検出パラメーター」は、本出願の意味では、光放出器12の出力パワーと、光受信器10によって出力された信号を増幅することに用いられる増幅器3の利得と、コントローラー2において光受信器10の(増幅された)出力信号を解析することに用いられる閾値とのうちの任意のものとすることもできるし、信号検出及び解析に関係のある他の任意の適したパラメーターとすることもできる。本発明によれば、以下で説明するように、これらの検出パラメーターは、固定値ではなく、光受信器L1〜Lnについて個別に調整することができ、洗浄プロセスを実行している間であっても動的に調整することができる。
【0046】
図1及び
図3を参照すると、ステップS1において、光受信器10の高さレベルL1〜Lnにおける透過度が検出され、所定の検出パラメーターを利用してコントローラー2によって更に解析される。これを行うために、高さレベルL1〜L9における光受信器10の信号が、好ましくは所与の順序で、例えば、貯蔵容器11の垂直方向に底部から上部へ又は上部から底部へ順次読み取られる。透過値のこのセットに基づいて、コントローラーは、ステップS2において、貯蔵容器11内の実際の充填レベル又は貯蔵容器11の内部の回収血から生理食塩水への遷移の誤った弁別又は更に誤認させる弁別の候補である透過度の顕著な変化を示す光センサーの存在及び高さレベル(位置決め)を識別する適したアルゴリズムを用いて信号解析を実行する。これを行うために、解析は、例えば、上記で
図2を参照して説明したように進むことができる。
【0047】
ステップS2において、透過度のそのような顕著な変化も顕著な信号もないと判断された場合、本方法は、ステップS3に進み、このステップにおいて、コントローラー2は、光受信器10の高さレベルL1〜Lnにおいて測定された透過度を正しくかつ誤認させるものでないとみなし、その後の信号処理に備えて、これらの測定された透過度を、貯蔵容器11内の実際の充填レベルの定量又は貯蔵容器11の内部の回収血から生理食塩水への遷移の判断に用いる。
【0048】
ステップS1〜S3のループは周期的に実行され、それによって、貯蔵容器11内の実際の充填レベル又は貯蔵容器11の内部の回収血から生理食塩水への遷移に関する情報が周期的に得られる。これを行うために、光放出器12は、好ましくは、手術現場で通常用いられる電源電流の周波数、蛍光管若しくは他の種類の光源の動作周波数、又はそれらのより高い高調波と大幅に異なる繰り返しレートで短い光パルスを放出する。このため、撹乱する背景雑音が抑制され、より高い信号対雑音比を達成することができる。一例として、25Hzの繰り返しレートによる100μsの赤外線光パルスを、本発明による方法において用いることができる。
【0049】
他方、ステップS2において、コントローラー2が、所定の検出パラメーターを用いて測定された透過値に基づいて、透過度の少なくとも1つの顕著な変化を特定した場合、本方法は、検出パラメーターを変更するステップS4、並びに透過度の顕著な変化の上記識別を繰り返すステップS5及びS6に進む。
【0050】
以下では、
図2に示す状態を考える。この状態では、光受信器10.4の高さレベルL4に血液膜14が存在する結果、高さレベルL4における透過度が、高さレベルL3及びL5においてそれぞれ検出された透過度と比較して低下しており、コントローラー2は、高さレベルL4を、透過度の顕著な変化(顕著な信号)の位置決めとして識別するものと仮定される。そのような状態では、ステップS4において、高さレベルL4における検出パラメーターが変更され、透過度が、ステップS5において、そのような変更された検出パラメーターを用いて測定及び解析される。
【0051】
第1の例として、ステップS4において、高さレベルL4における光放出器12の出力パワーが選択的に増加され、及び/又は高さレベルL4における光受信器10によって出力された信号を増幅することに用いられる増幅器3の利得が増加され、及び/又はコントローラー2において高さレベルL4における光受信器10の(増幅された)出力信号を解析することに用いられる閾値が選択的に調整され、ステップS5において、透過度が、そのような変更された検出パラメーターを用いて測定及び解析される。コントローラーが、回収血、生理食塩水、泡又は空気の通常の透過度である変更された検出パラメーターの透過度を解析し、そのような通常の透過度の挙動が、隣接した高さレベルL3及びL5についてそれぞれステップS1において既に観察されていた場合、ステップS6において、透過度のそのような顕著な変化は、高さレベルL4において識別されていない。Yの場合とは逆に、本方法はステップS7に進み、高さレベルL4における検出パラメーターを、ステップS5において用いられる新たな検出パラメーターに調整し、再度ステップS1に進む。この場合、ステップS2において、透過度のそのような顕著な変化は、高さレベルL4においてもはや識別されず、Yの場合とは逆に、本方法はステップS3に進む。
【0052】
第2の例として、ステップS4において、高さレベルL3〜L5における光放出器12の出力パワーが選択的に増加され、及び/又は高さレベルL3〜L5における光受信器10によって出力された信号を増幅することに用いられる増幅器3の利得係数が選択的に増加され、及び/又はコントローラー2において高さレベルL3〜L5における光受信器10の(増幅された)出力信号を解析することに用いられる閾値が選択的に調整され、ステップS5において、そのような変更された検出パラメーターを用いて、透過度が測定及び解析される。これらの変更された検出パラメーターを用いると、はるかに良好な信号対雑音比が、高さレベルL4における透過度の変化が貯蔵容器11内の実際の遷移領域に起因するものであるのか又は単に貯蔵容器11の内側表面上の所望しない膜14に起因するものであるのかのより信頼性のある判断に利用可能である。これを行うために、高さレベルL3〜L5における透過値が、ステップS5において互いに比較され、更に解析される。
【0053】
このため、第2の例において、コントローラーが、回収血、生理食塩水、泡又は空気の通常の透過度である変更された検出パラメーターの透過度を解析し、そのような通常の透過度の挙動が、隣接した高さレベルL3及びL5についてそれぞれステップS1において既に観察されていた場合、ステップS6において、透過度のそのような顕著な変化は、高さレベルL4において識別されていない。Yの場合とは逆に、本方法はステップS7に進み、高さレベルL4における検出パラメーターを上記変更された検出パラメーターに調整し、隣接した高さレベルL3及びL5における検出パラメーターをそれぞれステップS1において以前に用いられた検出パラメーターに再調整する。その後、本方法は再度ステップS1に進み、この場合、ステップS2において、透過度のそのような顕著な変化は、高さレベルL4においてもはや識別されず、Yの場合とは逆に、本方法はステップS3に進む。
【0054】
最後に、ステップS4における検出パラメーターの変更にもかかわらず、依然として透過度の顕著な変化がステップS6において判断された場合、エラーハンドリングルーチンS8をトリガーすることができる。このエラーハンドリングルーチンは、ここでは詳細に説明しないが、測定システムの信頼性のない状態又はエラー状態を示すエラー信号を出力すること、例えば、洗浄溶液を用いて内側表面をすすぎ洗いすることによって貯蔵容器11の内側表面を清掃する補助的な清掃手順をトリガーすること、又は洗浄手順の動作を停止し警告/停止信号を手術現場のスタッフに発行することを含むことができる。
【0055】
ステップS1〜S7の上記ループは、コントローラーが、検出パラメーターのうちの少なくとも1つが所定のパラメーター範囲を越えていると判断するまで、数回繰り返すことができる。その場合、上記エラーハンドリングルーチンS8をトリガーすることもできる。プロセスは、その後、ステップS1に戻ることができる。
【0056】
当業者には明らかになるように、ステップS2において透過度の顕著な変化が検出された場合、ステップS4において検出パラメーターを変更することができ、及び/又は標準的なタイプの汚染物質及び洗浄プロセス中の回収血の状態の存在下での通常の透過特性に関する知識データ又は較正データに基づいて、更なる透過度信号解析を実行することができる。そのような知識データは、例えば、コントローラー2がアクセスするルックアップテーブル(図示せず)又はコントローラー2に連結若しくは統合されているメモリに記憶することができる。
【0057】
異なる高さレベルにおいて検出パラメーターを選択的に変更することによって、正しくない測定及び信号解析又は更に誤認させる測定及び信号解析をもたらす悪条件下であっても、回収血の充填レベル(体積)の定量又は貯蔵容器11の内部の回収血から生理食塩水への遷移の判断を高い信頼性で行うことができる。
【0058】
それぞれ異なる高さレベルにおいて検出パラメーターを選択的に変更する手法は、
図1に示す光検出機構を較正することにも用いることができる。光放出器12によって放出された光ビームが非常に大きく発散していると仮定した場合、より多くの光が中央の光受信器10に当たり、高さレベルLn及びL1における光受信器等の、貯蔵容器11の上端及び下端にそれぞれ配置された光受信器10に当たる光は少なくなることは明らかである。これは、対応して対向する光放出器12、すなわち、高さレベルLn及びL1にそれぞれ配置された光放出器12によって放出されるパワー、又は高さレベルLn及びL1にそれぞれ配置された光受信器によって出力された信号を増幅することに用いられる増幅器の利得を増加させることによって補償することができる。
【0059】
当業者には明らかになるように、本発明に従って高さレベルにおける検出パラメーターを選択的に変更することが可能であることによって、異なる高さレベルにおけるHCT、異なる高さレベルにおける塩分濃度又は回収血の同様のパラメーターの解析等の高さレベルにおける貯蔵容器11の内容物についての追加の情報を得ることも可能になる。
【符号の説明】
【0060】
1 インターフェース/電源装置
2 コントローラー/定量手段
3 増幅器
4 伝送ライン
5 伝送ライン
6 伝送ライン
7 増幅器の利得を調整する制御ライン
8 伝送ライン
9 スイッチのアレイ
10 光受信器のアレイ
10.3〜10.5 高さレベルL3〜L5における光受信器
11 採血容器
12 光放出器のアレイ
13 スイッチのアレイ
14 血液膜(採血容器内)
15 脂質膜(採血容器内)
16 泡(採血容器内)
17 低ヘマトクリットを有する領域(採血容器内)
18 高ヘマトクリットを有する領域(採血容器内)
20 自己血輸血システム
21 回転洗浄チャンバー
22 洗浄溶液用の容器
23 廃棄バッグ
24 赤血球濃縮用の容器
25 ポンプ
26 ポンプ
27 ポンプ
28 配管
L1〜Ln 高さレベル
L0 底部光受信器の高さレベル
B.3〜B.5 高さレベルL3〜L5における検知光ビーム
【国際調査報告】