(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-507771(P2017-507771A)
(43)【公表日】2017年3月23日
(54)【発明の名称】酸性ガス回収および放出システム
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20170303BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20170303BHJP
B01D 53/52 20060101ALI20170303BHJP
B01D 53/50 20060101ALI20170303BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20170303BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20170303BHJP
C01B 17/16 20060101ALI20170303BHJP
C01B 17/60 20060101ALI20170303BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/62ZAB
B01D53/52 200
B01D53/50 260
B01D53/78
B01D53/14 220
C01B31/20 B
C01B17/16 P
C01B17/60 P
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】46
(21)【出願番号】特願2016-539164(P2016-539164)
(86)(22)【出願日】2014年12月19日
(85)【翻訳文提出日】2016年8月8日
(86)【国際出願番号】GB2014053786
(87)【国際公開番号】WO2015092427
(87)【国際公開日】20150625
(31)【優先権主張番号】1322606.3
(32)【優先日】2013年12月19日
(33)【優先権主張国】GB
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】516172064
【氏名又は名称】シー−キャプチャー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】C−CAPTURE LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー マーク レイナー
(72)【発明者】
【氏名】ダグラス チャハレン バーンズ
(72)【発明者】
【氏名】ゲルゲリー ヤコブ
(72)【発明者】
【氏名】カスパル スクールダーマン
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
4G146
【Fターム(参考)】
4D002AA02
4D002AA03
4D002AA09
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4D020DA03
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4D020DB07
4D020DB20
4G146JA02
4G146JB04
4G146JC28
4G146JD10
(57)【要約】
ある態様において、本発明は、組成物における少なくとも1つの酸性ガスの捕捉、組成物からの前記ガスの放出およびその後の再利用のための前記組成物の再生のための方法であって、以下のステップ:(a)前記少なくとも1つの酸性ガスを少なくとも1つのカルボン酸の塩と少なくとも1つの水混和性非水溶媒とを含む捕捉組成物に接触させることによって少なくとも1つのガスを捕捉すること;(b)前記組成物に少なくとも1つのプロトン性溶媒または剤を添加することによって前記少なくとも1つの酸性ガスを放出すること;(c)前記組成物から前記添加されたプロトン性溶媒または剤を部分的または完全に除去することによって捕捉組成物を再生することを順に含む方法を提供する。任意に少なくとも1つのカルボン酸の塩と少なくとも1つの水混和性非水溶媒とを含む前記捕捉組成物は、付加的に水または他のプロトン性溶媒を含む。他の態様において本発明は少なくとも1つのプロトン性溶媒または剤を付加的に含む組成物を想定し、単に組成物を加熱または気流ストリッピングに供することによって少なくとも1つの酸性ガスを放出する。方法は典型的に二酸化炭素の捕捉およびその後の放出に適用され、安価な消耗品を用いた簡便なプロセスを提供し、先行技術の方法と比べて大きな利点がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物における少なくとも1つの酸性ガスの捕捉、前記組成物からの前記ガスの放出、および、その後の再利用のための前記組成物の再生のための方法であって、以下のステップ:
(a)前記少なくとも1つのガスを少なくとも1つのカルボン酸の塩と少なくとも1つの水混和性非水溶媒とを含む捕捉組成物に接触させることによって、前記少なくとも1つの酸性ガスを捕捉するステップ;
(b)少なくとも1つのプロトン性溶媒または剤を前記組成物に添加することによって、前記少なくとも1つの酸性ガスを放出するステップ;
(c)前記組成物から前記添加されたプロトン性溶媒または剤を部分的または完全に除去することによって、前記捕捉組成物を再生するステップ、
を順に含む方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つのプロトン性溶媒または剤は、0.5デバイよりも大きい双極子モーメントを有する高極性溶媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのプロトン性溶媒または剤は、水またはアルコール溶媒から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルコール溶媒は、メタノール、エタノール、グリセロール、エチレングリコール、トリフルオロエタノール、またはジヒドロキシメタンから選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つのプロトン性溶媒または剤は、糖、オリゴ糖、およびアミノ酸から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つのプロトン性溶媒または剤は、5〜50%v/vの量で添加される、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つのカルボン酸の塩と少なくとも1つの水混和性非水溶媒とを含む前記組成物は、付加的に、水または他のプロトン性溶媒または剤を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記水または他のプロトン性溶媒または剤は、全溶媒体積に対して1〜30%v/vのレベルで存在する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのカルボン酸の塩は、アルカリ金属の塩、アルキルアンモニウム塩、またはベタインである、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記カルボン酸は、ポリカルボン酸、ポリマー結合酸、または天然由来カルボン酸含有バイオポリマーである、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記カルボン酸は、脂肪族カルボン酸である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記脂肪族カルボン酸は、置換されてもよいしまたは非置換であってもよい、直鎖状、分岐状、または環状カルボン酸から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの脂肪族カルボン酸の塩は、C1−20脂肪族カルボン酸の塩から選択される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つの水混和性非水溶媒は、少なくとも1つの少なくとも部分的に混和性である極性溶媒を含む、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つの水混和性非水溶媒は、少なくとも1つの極性非プロトン性溶媒を含む、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリジノン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン、アセトニトリル、スルホラン、1,1,3,3−テトラメチル尿素(TMU)、Ν,Ν’−ジメチル−N,N’−トリメチレン尿素(1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2−ピリミジノン(DMPU))、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、乳酸エステル、またはポリエーテルから選択され、任意に、例えば、プロピレングリコールジメチルエーテル(proglyde)またはジエチレングリコールジエチルエーテルなどの(ポリ)アルキレングリコール(ポリ)アルキルエーテル等のグリコールエーテルから選択される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つのカルボン酸の塩は、初めは、1M〜14Mの間のレベルで前記組成物に存在する、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記水性組成物は、付加的に、少なくとも1つの脂肪族または脂環式アミノ化合物を含む、請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記脂肪族または脂環式アミノ化合物は、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、N−メチルジエタノールアミン(MDEA)、または2−アミノ−2−メチルプロパン−1−オール(AMP)等のヒドロキシル置換脂肪族または脂環式アミノ化合物、ピペラジン(PZ)、モルホリン、ピペリジン、ピロリジン、または1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)等の脂環式アミン、または、グリシン等のアミノ酸から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つの酸性ガスは、二酸化炭素ガスを含む、請求項1〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1つの酸性ガスは、少なくとも1つの硫黄ガスを含む、請求項1〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記組成物は、溶液、スラリー、分散液、または懸濁液を含む、請求項1〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記少なくとも1つの酸性ガスは、10℃〜50℃の範囲の温度で、前記組成物と接触する、請求項1〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記少なくとも1つの酸性ガスは、1〜50バールの範囲の圧力で、前記組成物と接触する、請求項1〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記少なくとも1つの酸性ガスの前記放出は、10℃〜80℃の範囲の温度で起こる、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記少なくとも1つの酸性ガスの前記放出は、1〜150バールの範囲の圧力で達成される、請求項1〜25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記組成物からの前記少なくとも1つのプロトン性溶媒または剤の部分的または完全な除去は、膜の使用によって達成される、請求項1〜26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記膜は、親水性材料、例えばシリカから形成される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記膜は、疎水性材料、例えばPTFEから形成される、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
パーベーパレーション膜プロセスを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
従来の膜プロセスまたは逆浸透を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記組成物からの前記少なくとも1つのプロトン性溶媒または剤の部分的または完全な除去は、蒸留プロセスの使用によって達成される、請求項1〜26のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
前記組成物からの前記少なくとも1つのプロトン性溶媒または剤の部分的または完全な除去は、負圧下でのフラッシングプロセスの使用によって達成される、請求項1〜26のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
前記組成物からの前記少なくとも1つのプロトン性溶媒または剤の部分的または完全な除去は、親水性材料への吸着によって達成される、請求項1〜26のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
前記組成物からの前記少なくとも1つのプロトン性溶媒または剤の部分的または完全な除去は、疎水性材料への吸着によって達成される、請求項1〜26のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
前記組成物からの前記少なくとも1つのプロトン性溶媒または剤の部分的または完全な除去は、熱再生、溶媒ストリッピング、真空または圧力の使用、機械的再生、または相分離、または、機械的蒸気再圧縮(MVP)によって達成される、請求項1〜26のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
前記相分離は、2つの別個の液体を形成する、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
組成物における少なくとも1つの酸性ガスの捕捉、前記組成物からの前記ガスの放出、および、その後の再利用のための前記組成物の再生のための方法であって、以下のステップ:
(a)前記少なくとも1つのガスを少なくとも1つのカルボン酸の塩と、少なくとも1つの非水溶媒と、少なくとも1つのプロトン性溶媒または剤とを含む捕捉組成物に接触させることによって、前記少なくとも1つの酸性ガスを捕捉するステップ;
(b)前記組成物を、加熱または気流ストリッピングに供することによって、前記少なくとも1つの酸性ガスを放出するステップ;
(c)冷却によって前記捕捉組成物を再生するステップ、
を順に含む方法。
【請求項39】
前記組成物から前記プロトン性溶媒または剤を部分的または完全に除去する付加的ステップを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記プロトン性溶媒は、水である、請求項38または39に記載の方法。
【請求項41】
前記プロトン性溶媒または剤は、5〜20%v/vのレベルで存在する、請求項38、39、または40に記載の方法。
【請求項42】
前記少なくとも1つの酸性ガスの前記放出は、30℃〜80℃の範囲の温度に加熱することによって達成される、請求項38〜41のいずれかに記載の方法。
【請求項43】
発電所、セメント製造、鉄鋼製造、ガラス製造、醸造、合成ガスプロセス、天然ガスおよびバイオガスの精製、アンモニア生産、または任意の他の酸性ガス生産工業プロセスからの廃棄流内の酸性ガスを捕捉するための、先行請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項44】
潜水艦または宇宙船で生じた廃棄流内の酸性ガスを捕捉するための、請求項1〜42のいずれかに記載の方法。
【請求項45】
大気からCO2を捕捉するための、請求項1〜42のいずれかに記載の方法。
【請求項46】
天然ガススイートニングに用いられる、請求項1〜42のいずれかに記載の方法。
【請求項47】
少なくとも1つの酸性ガスの捕捉および放出のための、少なくとも1つの脂肪族カルボン酸の塩と少なくとも1つの水混和性非水溶媒とを含む水性組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素の捕捉の新しいアプローチに関し、二酸化炭素ガスやその他の酸性ガスの吸収および放出に、より簡便かつ効率的に適用可能な代替物質を提供する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の使用の増大に伴い、大気中の二酸化炭素濃度は、産業化以前の時代における280ppmから、2013年にはほぼ400ppmまで上昇し
1,2、地球の平均気温上昇を引き起こしている。これは、著しいCO
2排出を引き起こさないエネルギー供給が確立されるまで、短〜中期的にさらに増えると予想されている
3。国際エネルギー機関のWorld Energy Outlook(2002)によると、燃焼生成CO
2排出の予測される増加は、1年当たり約1.8%であり、この割合で増え続けると、2030年には2000年のレベルを70%超える
4。
【0003】
したがって、CO
2排出の大幅な減少がなければ、地球の平均気温は、2100年までに1.4〜5.8K上昇する可能性がある。地球上の石炭埋蔵量が豊富であることから、この燃料は、世界中の多くの国において発電に広く使用されている。しかし、各発電ユニットで、石炭燃焼は、天然ガスと比べて、約2倍の量のCO
2を生じる。この問題は、将来さらに深刻になると考えられる。なぜなら、中国やインド等の発展途上国の経済成長を維持するために、発電ユニットの石炭燃焼の増大が予想されるからである。その他の実質的なCO
2発生元には、セメント製造業者やアンモニア生産工場が含まれる。それでも、主要な問題は石炭火力発電所によるものであり、現在の世界のCO
2排出量の33%超がこのような発電所に起因する。この高い比率は、CO
2排出削減の現実的な機会を提供する。削減は、CO
2を発生源で回収し
6、濃縮し、地質(例:天然ガス井戸または海底)における保管、原油の二次回収、または隔離により、おそらくは有用産物(例:ギ酸、メタノール、ポリカーボネートプラスチック、ポリヒドロキシアルカノエート、バイオ燃料)への化学的・生化学的変換により、処理することでなされる。
【0004】
充填カラムでCO
2を吸収および除去する主要な現在のアプローチは、成熟技術と考えられており、典型的に、吸収媒体として、モノエタノールアミン水溶液(30%w/w)または関連アミンブレンドを用いる
4,5,7。しかし、このアプローチには、大きな問題がある。特に、低CO
2濃度(典型的に、天然ガスで3〜5%、石炭燃焼で10〜15%)の大量の燃焼ガスの取り扱いに利用される場合、プロセスとして大型装置が必要であることから、高い投資費用を伴う大きな工学的課題を呈する。現行プロセスはまた、エネルギー多消費型であり、通常、捕捉溶媒全体の温度を約40℃から約120℃まで上げる必要があり、後者の温度は圧力下で得られる。このような温度および圧力でのプロセス動作は、溶媒劣化、装置腐食、および環境排出物を促進する。
【0005】
図1は、従来の燃焼後捕捉(Post−Combustion Capture(PCC))プロセスで用いられる典型的な装置を示す。図において、リーン溶媒が、吸収装置で、冷却された燃焼ガスと接触する。CO
2は、燃焼ガスから溶媒内に吸収され、結果として得られたリッチ溶媒は、リーン−リッチ熱交換器へと送り込まれ、リッチ溶媒は、リーン溶媒からの熱吸収により通常90〜115℃のストリッピング温度へと加熱される。その後、CO
2は、蒸気を用いてストリッパー内で脱着され、リーン溶媒は、リーン−リッチ熱交換器でリッチ溶媒で冷却され、溶媒はさらに吸収温度に冷却されて吸収装置へとフィードバックされる。ストリッパーから放出されたCO
2は、その後冷却され、水蒸気が凝縮される。それから、CO
2は、ストリッパー圧力からCO
2パイプライン等に要求される圧力へと、典型的に6つのステージで、圧縮される。
【0006】
石炭火力発電所において、ストリッパーリボイラーでの典型的なエネルギー消費は、発電量の15〜30%にもなり得る。その結果、発電所への現行CO
2捕捉技術の適用により、電力価格が70%も上昇すると計算されている
2。加えて、大量の処理すべき燃焼ガスを扱うために、CO
2捕捉技術の規模は極めて大きいものでなければいけない可能性がある。英国ヨークシャーのDrax等の大規模発電所は、1日当たり約55,000トンのCO
2を生じる
8。これは、大気圧で約28M m
3の量に相当し、日常的な処理を要する。CO
2が典型的な燃焼排出型石炭燃焼の10〜15%に相当することから、実際に処理すべきガス量は、典型的にこの量の7〜10倍であろう。
【0007】
基本的には、化学溶媒での吸収、固体吸着剤を用いた吸着、膜分離や低温処理といった化学産業で現在使用されているガス分離技術は全て、火力発電所からのCO
2の燃焼後捕捉に適応可能である。ガス化複合発電(integrated gasification and combined−cycle (IGCC))所のような燃焼前CO
2捕捉や、隔離可能CO
2生成のため空気の代わりに純酸素を用いた燃焼(オキシ燃料燃焼として知られる)等の、代替アプローチも、この目的のために開発されている
7。
【0008】
しかし、このような技術は、配備されるほど十分に開発されていないか(多くの実証プラントが現在稼働中である)、大規模発電所から生じる燃焼ガスからのCO
2除去に適していないか、または、既存設備に組み込むことができない。それゆえ、近い将来における好適な選択肢は、水蒸気ストリッピングによる溶媒再生を伴うアミン系溶媒における吸収(洗浄)を介したCO
2の燃焼後捕捉であると思われる。なぜなら、これは、既に確立されたプロセスであり、化学産業において普及しているからである
4,5。
【0009】
吸収/ストリッピングは成熟技術であるが
9、大量の燃焼ガスを処理するために用いられる場合、大きな問題がある。当該技術の普及にもかかわらず、その根本的な性質は、水性アミン系システムの複雑な反応のため、最近になってようやく十分に理解され始めたばかりである。モノエタノールアミン(MEA)とN−メチルジエタノールアミン(MDEA)
11、および、例えば、ピペラジン(PZ)と2−アミノ−2−メチルプロパノール(AMP)
12を含むその他の混合物等の混合水性アミンシステムを利用した最近の開発によって、状況はさらに複雑になっている。しかしながら、これらの物質はより好適なエネルギーの見返りを与える反面、それらの相対的な費用、安定性、および揮発性は潜在的な欠点であり、エネルギー必要量はまだ高すぎる
12,13。
【0010】
現在、水性MEAは、CO
2捕捉に広く用いられており、典型的に、潜在的な新しいシステムとの比較基準となっている。それはまた、アミン系アプローチの重要な課題も浮き彫りにしている。したがって、特に燃焼ガス流における残留酸素の存在によって、MEAは、長期使用後に劣化することが知られている。また、実現可能な商業的プロセスにおいて、溶媒補給のコストが過剰にならないことも重要である。さまざまな他の溶媒も利用可能であり、これらの溶媒の優劣やその他の側面が近年評価の対象になっている
12。アンモニア
14は、排出制御はより困難かもしれないが、エネルギー必要量、安定性、および廃棄の点で、水性系システムのMEAおよび他のアミンと比べて利点があると思われる。
【0011】
アミン系溶媒の化学的考察は、スキーム1に示すように、3つの主なルートでアミンはCO
2を吸収することができることを示している
2,10。
【化1】
【0012】
任意の状況で作用する具体的なメカニズムは、水または溶媒の存在、アミン濃度およびその構造、pH、ならびにCO
2濃度および圧力等のプロセスの考慮事項による。水性系システムでは、3つ全てのメカニズムが作用しているようであるが、全体のメカニズムは、主にカルバミン酸塩およびアンモニウム重炭酸塩に関わる
10。カルバミン酸は、高極性の溶媒(例えばDMSO)において有利であることが多いが、その他の場合は、アンモニウムカルバミン酸塩が、非水環境において優占種である。全てのCO
2−アミン付加物は、加熱時に脱カルボキシル化し、CO
2を遊離し、そしてアミンを再生する。例えば、水性MEAの場合、脱カルボキシル化は、典型的に120℃、0.2MPaで行われ、これは、全プロセスにとって重大なエネルギー的な影響を有する。
【0013】
アミンの他に、さまざまな他の有機分子が、塩基性塩に変換されるとよく、または、固有の塩基性を持つ場合に、CO
2を可逆的に捕捉可能である。CO
2捕捉に対する分子の適合性を判断する最も適切な方法は、そのpK
a、すなわち、共役酸の酸性度に基づくものである。
【0014】
pK
aは、酸解離定数Κ
aの−logとして定義され、以下の式から導かれる:
【数1】
ここで、HAは酸種を表し、角括弧内の数が濃度である。引用される値は、特に明記しない限り、通常は水中で測定される(よって、H
+は、通常、ヒドロニウムイオンH
3O
+として存在する)が、溶媒依存性が高いことがある(下記参照)。
【0015】
簡単な第1級アミン以外に、CO
2捕捉のための溶媒の多くは、重炭酸塩ルートを通って作用し、ここで、CO
2は、塩基性溶媒に促進されて、水により水和される。水中のCO
2の有効pK
aは、6.3であり、これは、CO
2が水に溶ける際さまざまな平衡の組み合わせから起こる:
【数2】
したがって、適した塩基は、水中でのものよりも大幅に高いpK
aを有する必要があり、通常、その値は8〜12の範囲である必要がある。水性システムでは、pHも、溶液中の活性種および捕捉と放出プロセスの有効性を決定するのに主要な役割を果たす。通常、10〜13のアルカリ性pHが、効率的な吸収に必要であり、溶液への塩基(例:水酸化物またはアミン)の添加により制御される。これらの溶液はCO
2を吸収することから、塩基の中和が起こるにつれてpHは下がる。CO
2搭載溶液を加熱することで、CO
2を遊離させて、再利用のために塩基性溶液を再生する。あるいは、溶液のpHを(例えば、酸添加により)大幅に下げることで、重炭酸塩のプロトン化を経て急速な脱カルボキシル化を引き起こして炭酸を形成し、炭酸が急激な変換を経てCO
2と水に戻る。
【0016】
酸性ガスの捕捉は、非常に活発な研究分野であり、塩基を用いて広範な調査が行われている。塩基は、典型的にアミンであり、CO
2と反応し、CO
2は加熱時に遊離して、元の溶媒が再生される。このテーマにはさまざまなバリエーションがある一方で、ほぼ全ての先行技術で、脱カルボキシル化および溶媒再生のために熱的アプローチが使用されている。
【0017】
アルコール(またはチオール)と適切な塩基とを用いた最近の研究は、かなりの有望性を示しているが、無水条件を必要とし、これが典型的な燃焼ガス流に対する大きな限界となっている。関連開示に含まれるWO−A−2008/068411は、アミジンまたはグアニジン塩基およびヒドロキシルまたはチオールの使用を教示し、US−B−7799299は、酸性ガスの存在下でアルコールおよびチオール等の弱酸と反応するアミジンおよびグアニジンに基づいて、1つ以上の酸性ガスの分離を可能にする酸性ガス結合有機液システム(CO
2−BOLS)を開示する。WO−A−2012/031281が教示する関連化学では、窒素塩基が反応して、炭酸エステルまたはヘテロ原子類似体を実質的に形成することなく、カルバミン酸塩またはヘテロ原子類似体を形成する。
【0018】
その他のCO
2捕捉アプローチの中で、US−A−2006/0154807は、ボロン酸由来構造について記載する。そのボロン酸由来構造は、共有結合した有機ネットワークを含み、このネットワークには、二酸化炭素吸着に使用され得る複数の連結基によって共に連結された複数のホウ素含有クラスタが含まれる。同様に、WO−A−2008/091976は、結晶性有機フレームワークを含む物質の使用に関連し、これには、CO
2等のガス分子の貯蔵に有用であるボロン酸由来構造が含まれる。他方、GB−A−1330604は、1〜30気圧の圧力および70℃〜160℃でオルトホウ酸および水酸化カリウムの水溶液を用いてスクラビングすることによる、ガス流からの二酸化炭素の分離に関する。
【0019】
US−A−2005/0129598は、選択的にCO
2を錯化するのに用いられる、カルボキシル化機能を有するアニオンを含むイオン性液体によってガス流からCO
2を分離するプロセスを教示する。イオン性液体は、実際上完全にイオンからなる低融点溶融塩であり、その後容易に再生とリサイクルされ得る。
【0020】
GB−A−391786は、スルホンまたはカルボキシル有機酸との化学結合におけるアルカリを含む水溶液を用いて二酸化炭素を分離するプロセスを開示する。当該有機酸には、アミノスルホン酸、アラニンおよびアスパラギン等のアミノ酸、アルブミンの分解によって得られたアミノ酸混合物、弱脂肪族モノおよびジカルボン酸、ならびに、イミノジプロピオン酸等のイミノ酸が含まれる。ナトリウム、カリウム、リチウムの水酸化物および酸化物、または炭酸塩等のこれらの金属の塩が塩基として好ましく使用される。
【0021】
US−A−1934472は、燃焼ガスから二酸化炭素を除去する方法を教示する。この方法では、炭酸ナトリウムまたは炭酸トリエタノールアミンの溶液でガス混合物を処理し、結果として得られた液体を減圧下で加熱して二酸化炭素を遊離させる。
【0022】
US−A−1964808は、ガス混合物から二酸化炭素を除去する方法を記載する。この方法では、ホウ酸アミンの溶液で混合物を処理し、結果として得られた液体を加熱して二酸化炭素を遊離させる。
【0023】
US−A−1990217は、ガス混合物から硫化水素を除去する方法を開示する。この方法では、アルカリ金属またはアルカリ土類化合物等の強い無機塩基の溶液と、カルボンまたはスルホン酸基を有する有機酸と、で混合物を処理し、必要に応じて、加熱により硫化水素を遊離させる。
【0024】
US−A−2031632は、ガス混合物からの酸性ガスの除去に関する。この方法では、ヒ素またはバナジウム化合物存在下で、エタノールアミン等の塩基性有機アミノ化合物の溶液で混合物を処理し、加熱により酸性ガスを遊離させる。
【0025】
GB−A−786669は、圧力および高温下でアミノ酸またはタンパク質を含むアルカリ性溶液を用いたプロセスによるガス混合物からの二酸化炭素または硫化水素の分離に関する。GB−A−798856は、ヒ素の有機または無機化合物、特に亜ヒ酸自体または亜ヒ酸塩、を含むアルカリ性溶液によるガス混合物からの二酸化炭素の分離を開示する。それぞれのケースにおいて、再生は、溶液に熱風または蒸気を通すことによって可能であり、アルカリ性溶液は、ナトリウム、カリウムまたはアンモニウム炭酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、亜ヒ酸塩またはフェネート、またはエタノールアミンを含んでもよく、ホウ酸、ケイ酸、および、亜鉛、セレン、テルル、またはアルミニウムの塩が、亜ヒ酸のための相乗剤として作用する。
【0026】
同様に、GB−A−1501195は、ガス混合物からのCO
2および/またはH
2Sの除去のための、アルカリ金属炭酸塩とアミノ酸との水溶液を用いたプロセスに関する。この場合の改善点は、腐食抑制剤としての吸収溶液へのヒ素および/またはバナジウム化合物の添加である。この場合も、ガスの再生が続く。
【0027】
US−A−2840450は、次の方法によるガス混合物からの二酸化炭素の除去を教示する。亜セレン酸、亜テルル酸、またはそれらのアルカリ金属塩の存在下で、脂肪族アミノアルコール、ナトリウム、カリウム、またはアンモニアの炭酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、一価フェノラートまたは多価フェノラートのアルカリ性溶液で混合物を処理し、結果として得られた液体を加熱して二酸化炭素を遊離させる。
【0028】
US−A−3037844は、ガス混合物から二酸化炭素を除去する方法を記載する。この方法では、無水亜ヒ酸の存在下で、アルカリ金属またはアンモニアの炭酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、またはフェノラートの水溶液で混合物を処理し、続いて二酸化炭素を遊離させる。
【0029】
GB−A−1091261は、ガス混合物からCO
2および/またはH
2Sを分離するプロセスに関する。このプロセスでは、炭酸カリウムまたはリン酸三カリウム等の弱酸のアルカリ金属塩の水溶液を含む吸収性液体に混合物を通し、その後、再生器に、溶解した酸性ガスを含む液体を通して、ここで、液体を加熱して蒸気でストリッピングし、酸性ガスを遊離させる。
【0030】
US−A−4217238は、ガス混合物からの酸性成分の除去に関する。この方法では、塩基性塩と、少なくとも1つの立体障害アミンおよび当該立体障害アミンの共溶媒であるアミノ酸を含む塩基性塩用の活性化剤とを含む水溶液との接触を行う。
【0031】
US−A−4440731は、燃焼ガスから二酸化炭素を回収するための水性吸収気液接触プロセスで用いられる腐食抑制組成物を教示する。この方法では、アルカリ金属炭酸塩の有無にかかわらず、ジヒドロキシエチルグリシン、アルカリ金属過マンガン酸塩、アルカリ金属チオシアン酸塩、ニッケルまたはビスマス酸化物の1以上と組み合わせて、銅炭酸塩を用いる。
【0032】
同様に、US−A−4446119は、炭化水素供給流から二酸化炭素等の酸性ガスを分離するための腐食防止組成物に関する。この場合、腐食防止組成物は、可溶性二価ニッケルまたはコバルト化合物の有無にかかわらず、アルカノールアミンおよび水または有機溶媒の溶液と、少量の可溶性チオシアン酸塩化合物または可溶性三価ビスマス化合物とを有する含む。
【0033】
CN−A−102764566は、水または他のさまざまな溶媒においてCO
2を含む酸性ガスを捕捉するための、1、2,4−トリアゾール塩とイミダゾリウムまたはテトラゾール塩との使用を記載する。WO−A−2009/066754は、CO
2捕捉のための、アミンと組み合わせたイミダゾールの使用を報告する。
【0034】
US−A−4624838は、好ましい複素環式窒素化合物としてイミダゾールと共に、約8以下のpK
aを有する5員または6員複素環を用いて酸性ガスを除去するプロセスを開示する。US−A−4775519は、CO
2捕捉のための、N−メチルジエタノールアミンとイミダゾールまたはメチル置換イミダゾールとの混合物を開示する。
【0035】
トリアゾール塩単体もまた、非水システム(特にDMSO)での使用が報告されており、溶解性の問題の一部を克服する
17。この場合、CO
2捕捉は、新しい共有N−C結合を形成するトリアゾレートとCO
2との直接反応によって発生することが報告されている。これは、捕捉が重炭酸塩の形成を経て起こるであろう水性条件下での作用のものとは異なるメカニズムである。イオン性液体トリアゾール塩も、CO
2捕捉剤として開示されている
18。
【0036】
グアナゾールは、CO
2の電気化学的還元のための触媒用のリガンドとして使用されてきた
19。また、金属−有機フレームワーク(metal−organic framework(MOF))では、CO
2捕捉のための固体吸収剤としての可能性を有する。しかし、これらの物質は、動作メカニズムおよび商用実装方法が大きく異なる
20。
【0037】
WO−A−2011/135378が開示する二酸化炭素ガスの捕捉方法では、二酸化炭素を、塩基性化合物から選択された少なくとも2つの化合物を含む組成物と接触させる。このうち、少なくとも1つは、有機化合物であり、少なくとも1つは、無機塩である。典型的に、塩基性有機化合物は、アミノ化合物、または、弱酸性有機化合物を塩基で処理して得られた塩を含み得る。
【0038】
他のCO
2分離方法も検討され、これらの提案を比較したところ、膜拡散が最も強力な方法であり得るが、適した膜物質の開発を要することが示唆された
16。
【0039】
したがって、CO
2の熱遊離と溶媒再生とが先行技術の酸塩基捕捉プロセスで用いられる主なアプローチであることが明らかである。場合によっては、必要とされる温度は従来のアミンのものより実質的に低くなり得るが、依然としてプロセスは大きなエネルギー入力を要し、さもなくば、それら技術の特徴が制限される。CO
2遊離と溶媒再生のための代替方法は、非常に限られている。
【0040】
しかし、注目すべき例外が、WO−A−2006/082436に開示されている。これは、ガス混合物からCO
2等の反応性ガスを分離するガス分離装置に関する。当該装置は、イオン膜によって分離された多孔質アノードおよびカソード電極を含み、アノードには、吸収性化合物または溶媒を含浸させ、カソードには、導電性液体を含浸させている。この目的に適した吸収性化合物には、アミン、スルホン酸、およびカルボン酸がある。電極に電荷を印加することによって、吸収、脱着、またはその両方が促進される。M.C.Stern,F.Simeon,H.Herzog and T.A.Hatton,Energy Environ.Sci.,2013,6,2505に開示されている最近の研究も、その他の場合ではアミンと反応してCO
2を置換する金属カチオンの還元によって電気化学的に媒介されたアミン再生について記載する。
【0041】
それにもかかわらず、現在のCO
2およびその他の酸性ガスの捕捉方法は、高価で、大規模用途のためには理想から程遠いことは明らかである。よって、本発明は、比較的簡単で、安価なプロセスと消耗品を使用する解決法を提供することによって、この問題への対処を試みる。本発明のプロセスは、脱カルボキシル化のためのエネルギー要求を低減して、非常に低い温度(好ましくは周囲温度)で作用することを求め、これらは大気排出および劣化を最小限にする。これらの側面は、アミン系システムに関連して高まっている懸念であり、このことは、特に発電所、セメントおよび鉄鋼製造、醸造、およびアンモニア生成等の大規模化学プロセスといった分野における大規模実装に関する最近の予備研究からより明らかになっている。
【0042】
本発明によって想定される捕捉システムはまた、潜水艦、宇宙船、およびその他の閉鎖環境等の小規模な専門用途での使用にも適しているであろう。さらに、従来プロセスと比較して本発明のプロセスの効率性が劇的に向上する可能性があることから、当該技術は、大気から直接CO
2を捕捉する用途にも適用され得る。天然ガススイートニングおよび脱硫等の用途で、他の酸性ガス(例:H
2SおよびSO
2)およびそれらの混合物の捕捉への技術の適用も想定される。
【0043】
酸および塩基の酸性度(pK
a)の操作が溶媒組成の変化によって達成できることが知られている一方で、これが高効率のCO
2捕捉および放出プロセスを提供するために適応可能であることは、驚くべきことである。ここで、先行技術の熱駆動プロセスを要することなく、溶媒組成の変化により、捕捉および放出の作用間の条件で必要な変換が与えられる(例えば、重炭酸塩の相対pK
aと捕捉剤を切り替えることによって)。このようなプロセスはまた、熱放出等の他のメカニズムとも、従来必要とされるよりも非常に緩やかでかつ制御された条件下で、連動することができる。代替実施形態において、捕捉および放出プロセスにおける酸塩基平衡を最適化するように溶媒組成を制御することによって、捕捉/放出サイクルにおけるエネルギー入力必要量を最小にするべく従来にない捕捉剤を使用し溶媒組成を最適にすることができる。
【発明の概要】
【0044】
本発明は、次のような本発明者らの一部の認識に基づく:ある任意の化合物のpK
a値、その共役塩基の安定性の関数であるものは、溶媒効果によって大きく影響され、同じ酸が、異なる溶媒または溶媒の組み合わせにおいて大きく異なるpK
a値を持ち得る。この依存性の程度は、分子内水素結合、近傍電荷安定化官能基または電荷の非局在化などの構造的特徴に応じて変化し、この構造的特徴は、共役塩基の負電荷の散逸を助ける。
【0045】
したがって、構造的に固有の安定性を欠くアニオンは、溶媒の極性および水素結合供与能に依存することを余儀なくされ、それらのpK
a値は、より実質的に溶媒依存になる。結果として、その低い塩基性のために一般にCO
2捕捉目的には不向きであると考えられていたさまざまな化合物は、もし特定の溶媒システムにおいてCO
2のそれに対するそれらのpK
aが大きく変われば、そのような目的に利用できるかもしれないことが分かる。
【0046】
酸の脱プロトン化によって形成された種の塩基性は、そのCO
2捕捉能力に密接に関連しており、もし塩基性を溶媒によって制御することができれば、CO
2のそれに対する塩基性に大きな変化がある場合、CO
2への反応性も制御可能である。本発明者らによって実証された重要な特徴は、溶媒組成を変えることで、CO
2(および他の酸性ガス)の有効pK
aを、捕捉剤の共役酸と相対的に変化させることができることである。これによって、CO
2(および他の酸性ガス)の捕捉および放出を制御するようにpK
a値を操作することが可能になり、システムのチューニングを促進してエネルギー必要量を最小にし低温での動作を実現にし、結果として、溶媒劣化および環境排出を最小限に抑える。
【0047】
よって、想定される捕捉プロセスでは、捕捉酸は、酸の塩がCO
2を捕捉して酸とおそらく重炭酸塩を再編成するような、比較的高いpK
a(CO
2よりも高い)を必要とする。これは、CO
2に対する酸のpK
a(およびそれによる共役塩基の強度)を増大する溶媒において、最も効率的に実現できるだろう。放出プロセスを促進するために、その後、酸のpK
aを下げて、それが重炭酸塩と比較してあるいは重炭酸塩よりも高い酸性度を有するようにする必要があり、こうして従来の酸媒介プロセスを経た脱カルボキシル化を促進する(上記参照)。
【0048】
混合溶媒において、酸の有効pK
aは、個々の溶媒中で測定されたpK
a値の間にあり、混合物の組成にほぼ比例する。したがって、1つの成分を添加または除去することによって溶媒組成を変えると、場合によっては、数桁の酸強度の変化をもたらすことができる。重要なのは、これが溶液中の酸の相対酸性度も変え得るということである。なぜなら、溶媒和の性質およびアニオン安定化におけるその重要性が異なることから、全ての酸が同程度に影響されるとは限らないからである。
【0049】
この現象を、具体例を参照して示すことができる。表1に示すように、酢酸のpK
aは溶媒と組み合わされると大きく変化し、pK
a値の変化は溶媒の性質および組成に依存することが知られている。表1は、純溶媒において観測された値を示し、ここで、中間値は、適切な溶媒混合物を用いて得られたものである。
【表1】
【0050】
本願は、このような溶媒操作アプローチのCO
2および他の酸性ガスの捕捉および放出への適用に関し、それにより熱プロセスに伴うエネルギー損失を軽減するものである。実際に、本願の方法は、非常に低い温度(好ましくは周囲温度)で作用可能であり、大気排出および劣化を最小限に抑えることが見出された。
【0051】
基本的に、重炭酸塩(およびCO
2)は、溶媒組成が変わると、pK
a値が変化する。しかし、驚くべきことに、例えば構造的に関連するカルボキシラートのように、これは同程度で起こるわけではなく、相対的なpK
a変化により、単に溶媒組成を変えるだけで容易にカルボキシル化および脱カルボキシル化を行うことができる。典型的に、本発明の方法で用いる捕捉剤は、概して10〜13.5の範囲内の捕捉組成物におけるpK
a値を有する。
【0052】
したがって、本発明の第1の態様によれば、組成物における少なくとも1つの酸性ガスの捕捉、前記組成物からの前記ガスの放出、および、その後の再利用のための前記組成物の再生のための方法であって、以下のステップ:
(a)前記少なくとも1つの酸性ガスを少なくとも1つのカルボン酸の塩と少なくとも1つの水混和性非水溶媒とを含む捕捉組成物に接触させることによって、前記少なくとも1つの酸性ガスを捕捉するステップ;
(b)少なくとも1つのプロトン性溶媒または剤を前記組成物に添加することによって、前記少なくとも1つの酸性ガスを放出するステップ;
(c)前記組成物から前記添加されたプロトン性溶媒または剤を部分的または完全に除去することによって、前記捕捉組成物を再生するステップ、
を順に含む方法が提供される。
【0053】
本発明の典型的な実施形態において、少なくとも1つのカルボン酸の塩と少なくとも1つの水混和性非水溶媒とを含む前記組成物は、付加的に、水または他のプロトン性溶媒または剤を含み、前記付加的溶媒は、80%w/wまでのレベルで存在してもよいが、概して、より制限された量の約1〜50%w/w(非水溶媒に対して)、より典型的には1〜20%w/w、最も典型的には5〜10%v/vのレベルで存在する。
【0054】
前記少なくとも1つのカルボン酸の塩は、典型的に、金属、アンモニウム、ホスホニウム、またはスルホニウム塩であり、好適に、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の塩、アルキルアンモニウムまたはアラルキルアンモニウム塩、例えば、トリエチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、またはコリン塩、グアニジン塩または両性イオン性種、またはこれらの混合物であってもよい。特に適した部分は、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンにある。
【0055】
カルボン酸の塩は、典型的には、対応するカルボン酸および塩基から形成され、顕著なCO
2捕捉能を有するためには、優勢種として存在しなければならない。弱塩基が用いられると、残留酸によって捕捉効率が制限される。溶媒誘起pK
a変化を制限する付加的な構造的特徴を有さない限り、最も単純なカルボン酸がこのプロセスでの使用に適している。前記付加的な構造的特徴の例としては、分子内水素結合を形成する能力(それによってアニオン安定化に対する溶媒和の影響を低減する)があり、この場合、捕捉能力および溶媒誘起放出は大幅に低下すると予想される。
【0056】
脂肪族または芳香族カルボン酸の塩を、本発明の目的のために使用してもよい。適した脂肪族カルボン酸は、直鎖状、分岐状、または環状カルボン酸から選択されてもよく、これらは、置換基または芳香族またはヘテロ芳香族環系によって置換されてもいてもよいしまたは非置換であってもよい。ジ、トリ、およびテトラカルボン酸等のポリカルボン酸もまた適しており、ポリアクリル酸およびポリメタクリル酸等のポリマー酸、ならびに(海藻からの)アルギン酸および(植物細胞壁からの)ペクチンを含む、天然由来カルボン酸含有バイオポリマー等のポリマーカルボン酸も同様である。安息香酸等の単純な芳香族カルボン酸の塩も、本発明の目的に適しており、ベタイン(Me
3N
+CH
2CO
2-)および関連同族体を含む、両性イオン性カルボキシラート塩も同様である。このような塩は、溶液、スラリー、または分散体であってもよい。
【0057】
典型的に、前記塩は、C
1−20脂肪族カルボン酸の塩であり、より典型的には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ吉草酸、またはピバル酸などのC
1−8肪族カルボン酸の塩である。前記脂肪族鎖は、直鎖状でも分枝状でもよい。
【0058】
前記少なくとも1つの水混和性非水溶媒は、全ての利用可能な、少なくとも部分的に水混和性であり任意に完全に水混和性である非水溶媒から選択されてもよいが、典型的に、少なくとも1つの極性溶媒を含み、これは、最も典型的に非プロトン性である。特に適した溶媒の例としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリジノン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン、アセトニトリル、スルホラン、1,1,3,3−テトラメチル尿素(TMU)、Ν,Ν’−ジメチル−N,N’−トリメチレン尿素(1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2−ピリミジノン(DMPU))、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、乳酸エチル等の乳酸エステル、または、ポリエーテル、例えば、プロピレングリコールジメチルエーテル(proglyde)またはジエチレングリコールジエチルエーテルなどの(ポリ)アルキレングリコール(ポリ)アルキルエーテルを含むグリコールエーテルが挙げられる。いくつかの実施形態において、ある溶媒の水混和性は部分的であってもよいが、そのような溶媒は、溶媒再生のため水相−有機相分離を利用する処理ルートの開発に特定の利点を有する(下記参照)。
【0059】
他の適した溶媒としては、アセトン、アニソール、ベンゼン、ベンゾニトリル、ベンジルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、2−ブトキシエタノール、2−ブトキシエチルアセテート、2−(2−ブトキシエトキシ)エチルアセテート、ブチルアセテート、イソブチルアセテート、tert−ブチルアセトアセテート、ブチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、二硫化炭素、クロロベンゼン、1−クロロブタン、クロロホルム、クメン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、デカヒドロナフタレン、デカン、1,2−ジクロロベンゼン、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエテン、1,2−ジクロロエタン、ジエトキシエタン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、1,2−ジメトキシエタン、N,N−ジメチルアセトアミド、ドデカン、エタノール、2−エトキシエタノール、エチルアセテート、エチルベンゼン、エチルエーテル、エチル−3−エトキシプロピオナート、ギ酸エチル、エチレングリコール、エチレングリコールジエチルエーテル、2−エチル−1−ヘキサノール、2−エチルヘキシルアセテート、ホルムアミド、グリセロール、ヘプタン、1−ヘプタノール、2−ヘプタノン、ヘキサデカン、ヘキサン、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、2−メトキシエタノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロパノール、メチルアセテート、3−メチル−1−ブタノール、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルシクロヘキサン、塩化メチレン、メチルエチルケトン、ギ酸メチル、5−メチル−2−ヘキサノン、4−メチル−2−ペンタノール、2−メチル−1−プロパノール、ニトロベンゼン、ニトロメタン、ノナン、1−オクタノール、ペンタクロロエタン、ペンタン、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−ペンタノン、3−ペンタノン、イソペンチルアセテート、石油エーテル、ポリエーテル、これは、例えばジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコール(ポリ)アルキルエーテルなどのグリコールエーテルを含む、1−プロパノール、2−プロパノール、プロピオンアルデヒド、2−プロポキシエタノール、プロピルアセテート、イソプロピルアセテート、イソプロピルエーテル、ピリジン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、テトラリン、トルエン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,1,1−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、オルトギ酸トリエチル、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、2,2,4−トリメチルペンタン、またはキシレンが挙げられる。
【0060】
前記少なくとも1つのカルボン酸の塩は、典型的に、初めは、初期の溶媒組成に対して1M〜14Mの間のレベルで前記組成物に存在し、最も典型的に2M〜6Mの範囲であり、任意に2M〜5Mの範囲である。先に述べたように、低レベルの水または他のプロトン性溶媒も、典型的に1〜20%v/vのレベルで、組成物に存在してもよい。特に、捕捉プロセスが重炭酸塩の形成(CO
2捕捉)を伴う場合は、捕捉されるCO
2の各モルに対して、少なくとも1モルの水が存在する必要がある。
【0061】
前記少なくとも1つのプロトン性溶媒または剤は、全ての利用可能なプロトン性溶媒から選択されてもよく、任意の高極性溶媒をを含んでもよい。高極性溶媒は、例えば、水またはアルコール溶媒を含み、典型的には、メタノール、エタノール、グリセロール、エチレングリコール(そのポリマーおよびオリゴマーを含む)、トリフルオロエタノール、またはジヒドロキシメタン等の脂肪族アルコールである。ここで、高極性溶媒は、典型的に0.5デバイよりも大きい双極子モーメントを有する溶媒としてもよい。CO
2放出を誘起する他の適した溶媒または剤には、ヒドロキシル含有化合物があり、例えば、グルコースおよびフルクトース等の糖、綿、デンプン、アルギン酸等のオリゴ糖、セリン等のアミノ酸、および関連するオリゴマーがある。
【0062】
前記少なくとも1つのプロトン性溶媒または剤は、捕捉ガスの放出を促進するのに十分な量で添加される。本発明の実施形態では、溶媒の添加を、5〜50%v/vのレベル、より典型的には20〜30%v/vの量と想定している。
【0063】
任意に、前記少なくとも1つの酸性ガスを捕捉する前記組成物は、付加的に、組成物へのCO
2取込み速度を上げることのできる少なくとも1つの促進剤を含んでもよい。適した促進剤は、例えば、第1級、第2級、または第3級アミン等の脂肪族または脂環式アミノ誘導体から選択してもよい。適した脂肪族または脂環式アミノ化合物は、例えば、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、テトラエチルメタンジアミン(TEMDA)、テトラメチルメタンジアミン(TMMDA)、テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン(TMPDA)、またはトリエチルアミン(TEA)等の脂肪族アミン、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、N−メチルジエタノールアミン(MDEA)、2−ジエチルアミノエタノール(DEAE)、3−(ジエチルアミノ)−1,2−プロパンジオール(DAPD)、または2−アミノ−2−メチルプロパン−1−オール(AMP)等のヒドロキシル置換脂肪族または脂環式アミノ化合物、ピペラジン(PZ)、モルホリン、ピペリジン、ピロリジン、または1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)等の脂環式アミン、または、アミノ酸、例えば、グリシンまたは関連化合物から選択されてもよい。
【0064】
典型的に、前記少なくとも1つの酸性ガスは、二酸化炭素ガスを含み、これは、例えば、二酸化炭素含有廃棄流に含まれ得る。他の酸性ガスは、典型的に、硫化水素または二酸化硫黄等の硫黄ガスを含み得る。
【0065】
前記組成物は、液状であり、任意に、例えば、スラリー、分散液、または懸濁液を含んでもよい。但し、典型的に、前記組成物は、概して少なくとも1mol/L(1M)の総濃度を有する溶液を含む。典型的に、少なくとも1つの酸性ガスと前記組成物との接触は、、酸性ガス含有廃棄流を前記組成物、最も簡便には、溶液形態に通過させることによって簡便に達成されてもよい。
【0066】
本発明の方法は、典型的に、CO
2の捕捉および放出に適用され、最初に、ガス、典型的にはCO
2を、水溶液中の組成物に、周囲温度、典型的には10℃〜50℃で、任意に10℃〜40℃で、接触させることで最も簡便に行われる。これは、接触の初期温度であり、温度は、その後捕捉反応の発熱の結果として上昇し得る。
【0067】
ガス捕捉は、1〜50バールの圧力で達成されてもよい。特定の実施形態において、ガスの捕捉は、典型的に、約1バールの圧力で達成される。加圧システムを用いた代替実施形態において、ガスの捕捉は、典型的には10〜30バール、最も典型的には約20バールの圧力で起こる。
【0068】
ガスの放出は、典型的に、10℃〜80℃の温度で起こり、最も典型的には、より周囲温度に近く、概して25℃〜60℃で、任意に25℃〜40℃で起こる。
【0069】
ガスの放出は、1〜150バールの圧力で簡便に達成される。特定の実施形態において、ガスの放出は、典型的には約1〜2.5バールの圧力で達成される。加圧システムを用いた代替実施形態において、ガスの放出は、典型的には5〜30バール、最も典型的には約20バールの圧力で起こる。
【0070】
技術の特に有用な側面は、放出プロセスが、圧力上昇が可能な封入および/または加圧システム内でCO
2または他の放出されたガスを生成することであり、これによって、貯蔵用途での圧縮要件をさらに軽減する。これは、完全捕捉および貯蔵プロセスの全体エネルギー消費の低減に重要な意味を持つ。
【0071】
組成物からの捕捉ガスの放出は、組成物の再生を促進し、それは、さらなる酸性ガスの捕捉および放出作用に用いられてもよい。この再生プロセスは、典型的に、元の組成物からの放出添加物、すなわち、プロトン性溶媒または剤、の分離を要する。
【0072】
したがって、本発明は、捕捉した酸性ガスの放出後に残る組成物からの酸性ガス放出を誘起するための少なくとも1つのプロトン性溶媒または剤の一部または全部の分離によって、少なくとも1つのカルボン酸の塩と少なくとも1つの水混和性非水溶媒とを含む元の捕捉組成物を再生するステップを含む。少なくとも1つのプロトン性溶媒または剤の除去は、当業者に周知の多くの方法のうちのいずれかで簡便に、行われてもよい。例えば、膜による分離があり、これは、従来の膜プロセス、または、パーベーパレイション、機械的蒸気再圧縮(MVR)、逆浸透、蒸留技術、親水性または疎水性材料を用いた吸着、負圧下でのフラッシングプロセス、熱再生、溶媒ストリッピング、真空または圧力の適用、機械的再生、または相分離等の技術の適用を含む。典型的に、前記相分離は、2つの別個の液体の形成を引き起こす。適した膜分離プロセスは、シリカ等の親水性膜材料、または、PTFE等の疎水性膜材料を用いてもよい。
【0073】
先述の通り、本発明の実施形態は、少なくとも1つのカルボン酸の塩と少なくとも1つの水混和性非水溶媒とを含む組成物であって、付加的に、水または他のプロトン性溶媒または剤を含み、前記付加的溶媒は、より典型的に、(全溶媒体積に対して)約1〜30%v/vの限られた量であり、より典型的に10〜20%v/vのレベルである組成物を想定する。
【0074】
したがって、本発明のさらなる態様によれば、組成物における少なくとも1つの酸性ガスの捕捉、前記組成物からの前記ガスの放出、および、再利用のためのその後の前記組成物の再生のための方法であって、以下のステップ:
(a)前記少なくとも1つの酸性ガスを、少なくとも1つのカルボン酸の塩と、少なくとも1つの非水溶媒と、少なくとも1つのプロトン性溶媒または剤とを含む捕捉組成物に接触させることによって、前記少なくとも1つの酸性ガスを捕捉するステップ;
(b)前記組成物を、加熱または気流ストリッピングの適用に供することによって、前記少なくとも1つの酸性ガスを放出するステップ;
(c)冷却によって前記捕捉組成物を再生するステップ、
を順に含む方法が提供される。
【0075】
任意に、ある実施形態において、前記方法はまた、前記組成物から前記プロトン性溶媒または剤を部分的または完全に除去するステップを含んでもよい。
【0076】
本発明のこの態様によれば、前記プロトン性溶媒は、典型的には水であり、前記プロトン性溶媒または剤は、概して5〜20%v/vのレベルで存在する。
【0077】
本発明のこの態様は、付加的なプロセスステップにおける組成物への少なくとも1つのプロトン性溶媒または剤のさらなる添加を想定せず、むしろ、熱または気流を適用するだけで、捕捉された少なくとも1つの酸性ガスの放出を達成する。ガスの放出は、典型的には、30〜80℃、より典型的には、40〜60℃での加熱、または、30〜50℃、典型的には約40℃での気流ストリッピングによって行ってもよい。
【0078】
本発明の方法は、簡単かつ経済的に実施でき、捕捉効率およびエネルギー必要量の点で先行技術の方法に対して大幅な改善を提供すると共に、概して周囲温度でより有害性の小さい試薬を使用することによって環境プロファイルを顕著に改善して、排出および劣化の問題を著しく低減する。
【図面の簡単な説明】
【0079】
以下に、本発明の実施形態を、添付の図面を参照してさらに記載する:
【
図2】本発明に係る方法における1Mカリウムブチラートおよび1MテトラブチルアンモニウムブチラートのCO
2取込み速度を示すグラフである。
【
図3】本発明の方法における含水量の関数としての飽和テトラブチルアンモニウムアセテート溶液の炭素捕捉能力を示すグラフである。
【
図4】各種含水量のスルホランにおけるカリウムピバレートシステムの気液平衡を示すグラフである。
【
図5】各種含水量のエチレングリコールモノブチルエーテルにおけるカリウムピバレートシステムの気液平衡を示すグラフである。
【
図6】本発明に係る低温捕捉プロセスの概略図である。
【
図7】本発明に係る溶媒再生のためのパーベーパレーション膜の使用を示す図である。
【
図8】本発明に係る溶媒再生のための従来の膜の使用を示す図である。
【
図9】本発明に係るホットキャリアガスを用いた水分離プロセスの概略図である。
【
図10】本発明に係るさらなる低温捕捉プロセスの概略図である。
【
図11】水16%w/wを有するジグリムにおける3Mカリウムピバレートを用いた蒸留プロセスの結果を示すグラフである。
【
図12】60℃でのジグリム−水の気液平衡を示すグラフである。
【
図13】有機−水混合物に収着剤を添加した後に観察された含水量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0080】
本発明者らは、酸性ガス捕捉組成物の新しいシステムを提供する。当該システムは、先行技術の方法に対して大きな利点をもたらし、発電所、セメント製造、鉄鋼製造、ガラス製造、醸造、合成ガスプロセス、天然ガスおよびバイオガスの精製、およびアンモニア生産などのその他の化学プロセス、ならびに任意の他の酸性ガス生産工業プロセスなどの領域に応用できる可能性がある。特定の用途において、定義された方法は、大気からの二酸化炭素の捕捉に適用され得る。
【0081】
本発明によって提供される組成物は、このような用途に加えて、例えば、潜水艦、宇宙船、その他の閉鎖環境等でのより小規模な専門用途での使用にも適している。
【0082】
本発明の特定の実施形態は、二酸化炭素の捕捉とそれに続く放出への開示方法の適用を想定する。基板への二酸化炭素の取込みは、カルボキシル化として知られている。当該基の除去は、脱カルボキシル化である。このカルボキシル化/脱カルボキシル化プロセスは、効果的なCO
2捕捉および吸収剤再生の鍵となる。
【0083】
本発明はまた、天然ガススイートニングおよび脱硫等の用途における、他の酸性ガス(例:H
2S、SO
2)またはそれらの混合物の捕捉とそれに続く放出における開示された配合の使用も想定する。
【0084】
本発明の特定の実施形態において、提供されるシステムでは、ジメチルスルホキシドまたはN−メチルピロリジノン等と組み合わせて水を含む溶媒システムにおける、酢酸、プロピオン酸、または酪酸のカリウムまたはテトラブチルアンモニウム塩を含む配合の使用により、CO
2ガスを捕捉する。このようなシステムを用いることで、周囲温度および圧力での高効率のガス捕捉が促進される。その後の捕捉されたガスの放出は、ガス搭載組成物にさらに水を添加することで、簡便に達成し得る。
【0085】
こうして、本発明者らは、気液平衡(VLE)の測定に適応させた機器を利用したさまざまな試験を行った。具体的に、提供されたシステムは、圧力変換器と、2つの温度プローブ(蒸気温度監視用、溶媒温度監視用)と、安全放出弁と、チャンバを既知の雰囲気でパージ/リフィルするためのアセンブリとを備えたステンレス鋼容器(〜400mL)を含むものであった。
【0086】
所与の配合のために収集されたデータから、CO
2吸収の速度、溶媒組成に応じた回復可能CO
2の割合、および、異なるCO
2分圧でのCO
2吸収/脱着プロフィールを直接特定することができた。
【0087】
また、スプレーノズルおよびシリンジアセンブリを使用することで、物質移動効果を最小にして所与の配合によるCO
2取込みの速度を特定し、溶媒によるCO
2吸収のメカニズムを洞察することができた。
【0088】
本発明のシステムの非常に有効な性質を実証するために、種々の脂肪族カルボキシラート塩を、代替の有機酸塩、特に芳香族化合物の塩、とりわけフェノラート塩と芳香族カルボン酸、サリチル酸の塩と共に、調査した。
【0089】
塩は、ジメチルスルホキシド(DMSO)と水との混合物に溶解した。適切な比率は、1000:1〜1:1の間であり、特に良好な結果が、3:1のDMSO:水比での脂肪族カルボキシラート塩によって示された。水だけの場合、カルボン酸のpK
aが低すぎるため(pK
a=5)、カルボキシラート塩はCO
2を捕捉しないが、フェノラートは、この塩が水中で非常に高いpK
a(10)を持つことから、この状況においてCO
2を捕捉することが示された。しかし、DMSOと水との混合物(3:1)においては、どちらの捕捉剤も非常に高いpK
aを有するため、向上したCO
2捕捉効率を示すことが期待される。
【0090】
各供試溶液を、周囲圧力でCO
2にさらし、吸収プロセスを平衡状態に到達させた。得られた結果を、表2に示す。
【0091】
このように、DMSOおよび水(3:1)において、カルボン酸の塩(例:1M Na−アセテート、K−プロピオナート、およびK−ブチラート、エントリ1、2、および3)がかなりの量のCO
2(0.63mol
CO2/Lまで)を捕捉したことが、このような状況下でのカルボキシラートの向上した塩基性を明確に示したことが観察された。これに対して、酢酸のpK
aは、純粋DMSOにおいて、12.4である。フェノラート塩も、高いpK
a(純粋DMSOにおけるフェノールのpK
aは、18である)から予想されるように、高いCO
2捕捉を示した(エントリ4)。
【表2】
a 1M溶液;
b H
2O含有量を1:1に増加時(5mL添加);
c 2M溶液;
d EtOH含有量を3:1にする(5mL);
e MeOH含有量を3:1にする(5mL);
f MeOH含有量を1:1にする(10mL);
g TBA=テトラブチルアンモニウム;
h H
2O含有量を2:1に増加時(5mL添加)
【0092】
CO
2の捕捉に続いて、溶媒混合物中の水の割合を1:1に上げるために周囲温度で組成物に水を添加し、カルボキシル化で形成された酸のpK
aを低下させることでCO
2放出を引き起こした。その後、取り出されたCO
2の量を特定した。
【0093】
手順は、さまざまな脂肪族カルボン酸塩(例:カリウムプロピオナート、ナトリウムアセテート、カリウムブチラート)での成功を示し、これらは全て、効率的にCO
2を捕捉し、周囲温度での水添加のみで、吸収したCO
2の93%までを放出した。
【0094】
ここで重要なのは、当該プロセスを用いて、フェノラートを含む組成物からCO
2が遊離しなかったことである。これは、100%の水であっても、室温でガスが遊離するには、pK
aがまだ高すぎたからである(エントリ4)。このことは、脱カルボキシル化プロセスにおいて重要なのはpK
a値であるということをさらに実証している。
【0095】
より高濃度のカルボン酸塩(2Mカリウムプロピオナート、エントリ5)の使用では、能力がほぼ倍増し、水添加時に遊離した取り出されたCO
2の減少は無視できる程度であった(93から88%)。
【0096】
CO
2遊離を促進するために添加される最適な溶媒は水であると思われるが、他のプロトン性溶媒、特にメタノールも、この目的を達成することができることが判明した(エントリ7および9)。他のアルコール(例:エチレングリコール、グリセロール、エタノール、トリフルオロエタノール、ジヒドロキシメタン(水和ホルムアルデヒド))も、他の各種高極性溶媒と共に、この点に関して有用であることが示された。CO
2の放出を誘起する他のヒドロキシル含有化合物としては、グルコースおよびフルクトース等の糖、綿、デンプンおよびアルギン酸等のオリゴ糖、セリンなどのアミノ酸および関連オリゴマーがある。
【0097】
したがって、本発明の方法によって、酸性ガスに対する捕捉剤、具体的には、安価で非毒性のカルボン酸、の使用を促進することが可能である。このようなカルボン酸は、水中でのpK
aが低いことから、通常、この目的に効果がないと考えられていた。実際には、溶媒の含水量を増やすだけで、室温で93%までの脱カルボキシル化が容易に実現でき、捕捉剤の濃度を上げることで、より高いCO
2搭載も達成できる。
【0098】
さまざまな水混和性非水溶媒、特に極性非プロトン性溶媒が、このプロセスに利用できることも明らかである。したがって、例えば、DMSOからN−メチルピロリジノン(NMP)への変更は、同等の効果を示した(エントリ5、9および10)。さらなる選択肢を、以下に記載する。
【0099】
先に述べたように、プロセスは、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム(コリン塩およびベタインを含む)、およびホスホニウム塩を含むさまざまなカチオンと共にカルボキシラートを用いて、有利に行うことができる。
【0100】
しかし、本発明者らは、特定のカチオン性基と溶媒組成が、CO
2捕捉の速度に影響を与え得ることを確認した。したがって、例えば、
図2に示すように、テトラブチルアンモニウムカチオンは、対応するカリウム塩と比較した場合、CO
2取込みの速度が高くなることが観察された。
【0101】
本発明のある可能な実施形態において、テトラアルキルアンモニウム−およびアルカリ金属カルボキシラート等の、異なる対イオンの混合物を炭素捕捉プロセスで用いて、溶媒コストを最小限に抑えながら、最適な性能を確保してもよい。
【0102】
また、表3に示すように、本発明の方法は、さまざまなCO
2圧力にわたって、有利に適用できることも確認された。したがって、より低い初期圧力(0.6bara)では、CO
2取込み能力および速度がわずかに下がる一方、放出はより効果的に行われる(エントリ2)。しかし、より高い初期圧力(1.5bara)では、CO
2取込み能力および速度がわずかに上がる一方、放出はいくぶん効果が低くなる(エントリ3)。
【表3】
a 1eq.の水を含むNMPにおける1.36M TBAA溶液(飽和@40℃)、10mLの溶媒をCO
2雰囲気下でVLEに導入した;
b 3mLの水を添加して放出を誘起した。
【0103】
精製すべきガス流におけるCO
2の分圧は、捕捉溶媒の性能に影響する。本開示方法が広範囲の供給源からの廃棄流に広く適用可能であることを確認するために、さまざまなCO
2分圧で異なるガス組成物を試験した。結果を表4に示す。
【表4】
a 測定中溶媒1リットル当たり捕捉されたCO
2モル;
b 測定の初期500sインターバルにおけるCO
2吸収率;
c 1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデス−7−エンプロピオナート;
d カリウムピバレート;
e ジエチレングリコールジメチルエーテル
【0104】
しかし、これらの結果は、調査した圧力範囲では最低限のものであり、このことから、アプローチは、実際の炭素捕捉プロセス(全燃焼ガスの3〜15%のCO
2レベル)および大気CO
2捕捉(2013年レベルの大気中のCO
2は約400ppm)等の、広範なCO
2濃度で適応可能であることが分かる。
【0105】
さまざまな市販の溶媒を評価して、本方法の一般的適用性を例証した。結果を表5に示す。概して、検査した溶媒は全て良好な性能を示し、アプローチの柔軟性が実証された。この例では、「溶媒」という語は、(燃焼後二酸化炭素貯留(carbon capture and storage(CCS))技術での一般的な意味である)捕捉剤そのものというよりは、捕捉剤(例:カルボキシラート)を溶媒和する有機分子に関する。
【表5】
a TBAA+1eq.水(2〜4%)、飽和@40℃、10mLの溶媒を1baraCO
2雰囲気下でVLEに導入した;
b 溶媒分圧のために修正しておらず、能力はより高い可能性がある;
c 初期実験、3mLの水は大部分のCO
2放出に十分である。
【0106】
これらのデータから、この目的に適した溶媒には、非限定的に、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリジノン(NMP)、1,1,3,3−テトラメチル尿素(TMU)、N,N’−ジメチル−N,N’−トリメチレン尿素(1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2−ピリミジノン(DMPU))、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、およびスルホランが含まれることが分かる。
【0107】
CO
2取込み速度は、異なる溶媒でごくわずかしか変動せず、0.035〜0.066 1/sの範囲内にとどまった。一方、CO
2取込み能力は、異なる溶媒で変動したが、0.57〜0.88mol
CO2/Lの範囲内にとどまった。但し、これらの値は最適化されておらず、例えば捕捉剤のより濃縮された溶液を使用することによって、より高い能力が得られると思われる。
【0108】
許容可能なCO
2放出を誘起するのに必要な水の量は、種々の溶媒で同様であったが、アセトニトリルおよびTHF(エントリ4、5)では、かなり少ない水の添加で足りた。これらの結果は、溶媒候補間の決定的な要因は、商業性(価格、可用性)、または、サイクル吸収プロセスに必須である主要な溶媒再生ステップにおける(例えば膜を使用して)水から分離するそれらの能力であることを示唆している。
【0109】
また、溶媒の初期含水量がその活性に影響する可能性があり、それによって溶媒組成を調整して、特定の配合および用途のために溶媒性能を最適化することを可能とすることも観察された。これらの試験の結果を表6に示す。
【表6】
a NMP−水混合物におけるTBAA溶液、飽和@20℃、10mLの溶媒を1baraCO
2雰囲気下でVLEに導入した;
b 3mLの水を添加して放出を誘起した。
【0110】
CO
2吸収速度は、含水量を増加させると、低下すること(捕捉剤の低減pK
aと一致)が観察される。微量の水が特に有効であるが(エントリ1)、多量の水でも、妥当な活性が示された。より多くの水が存在すると、吸収装置の性能は次第に低下するが、10〜20%v/vの水を含有する溶液は、依然として有効であり、
図3に示すように、この化学の動作ウィンドウを増大する。
【0111】
本発明の方法はまた、表7に示すように、幅広いカルボキシラート塩と共に有利に適用されることが示された。
【0112】
これらの結果は、特に、カルボキシラートが実質的に形成されていれば、特定の有機カチオンの使用(例えば、塩基としてDBUを使用)によりプロセスが有利に行われることを示している。したがって、例えば、酪酸とDBU等の強有機塩基との反応から形成された塩は、粘性油を生じ、これはNMPと可溶性および/または混和性であり、高い取込み能力および許容可能な放出特性を与える。塩基としてより弱いTEA(トリエチルアミン)の使用は、その弱塩基性質およびカルボキシラートの低濃度から、有効でない可能性が高く(エントリ2)、一方、グアニジンアセテートは、溶解度制限のため、性能が悪かった(エントリ3)。しかし、さまざまなマルチプロトン性カルボン酸塩(例:シトラートおよびオキサラート)は、妥当な活性を示しており、α−ヒドロキシ基を含有するカルボン酸塩も同様である。但し、溶媒そしてpK
aの最適化可能性は、反応性および溶解性の点で改善の余地を残している。結果はまた、コリン、TMA(テトラメチルアンモニウム)およびTBA(テトラブチルアンモニウム)カチオン等のアンモニウム塩が有効であることも示している(エントリ8、10および11)。
【表7】
a カルボキシレート基に対して1eq.の水を含むNMPにおける溶液(飽和@室温)、10mLの溶媒をCO
2雰囲気下でVLEに導入し、放出は3mLの水でトリガされた;
b DBU=1,8−ジアザビシクロウンデス−7−エン、塩およびNMPは混和性を有し、表示濃度は予備スクリーニング後に選択された;
c TEA=トリエチルアミン、不飽和、濃度は任意に選択;
d 10mLのMeOH添加;
e 5mLの溶媒をCO
2雰囲気下でVLEに導入した;
f TMA=テトラメチルアンモニウム;
g BTMA=ベンジルトリメチルアンモニウム
【0113】
DBU−カルボキシラート塩の相対的な入手しやすさと効率とにより、DBUプロピオナートを用いたさらなる溶媒スクリーニングが可能である。以下の表8にまとめているように、多種多様の有機溶媒が一般的概念に適合することが見出された。
【表8】
捕捉組成物:1〜4M 1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデス−7−エン(DBU)プロピオナート、5〜10%w/w水および対応するキャリア溶媒;吸収条件:1barCO
2、40℃;
a 測定中溶媒1リットル当たり捕捉されたCO
2モル;
b 測定の初期500sインターバルにおけるCO
2吸収率
【0114】
さらに、低いCO
2分圧(150ミリバール)および40℃の吸収温度を含むより現実的な条件下で、吸収性能を試験した。ここで、カリウムピバレートを代表基質として選択した。結果を表9に示す。
【表9】
捕捉組成物:1〜4M カリウムピバレート、10〜25%w/w水および対応するキャリア溶媒;吸収条件:150mbarCO
2、40℃;
a 測定中溶媒1リットル当たり捕捉されたCO
2モル;
b 測定の初期500sインターバルにおけるCO
2吸収率;
c カリウムイソブチラート(カリウムピバレートではない)
【0115】
ポリマー性カルボン酸もまた、このプロセスで有利に用いることができる。例えば、アルギン酸は、海藻から抽出される天然由来オリゴ糖であり、各モノマーユニットにカルボン酸官能基を含む。適切な量の1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)を、N−メチルピロリドン(NMP)および水におけるアルギン酸の懸濁液に添加して、対応するDBUカルボキシラート塩を形成した。結果として得られたスラリーは、室温でCO
2(0.79M)を吸収する実質的な能力を示した。このカルボキシル化システムの含水量を約20%v/vに増加させると、総CO
2量の54%が放出された。
【0116】
本発明のさらなる実施形態において、表10にデータで示すように、2つ以上のカルボキシラート塩の混合物を用いて高レベルの性能を実証した。
【表10】
捕捉組成物:記載の塩濃度、ジエチレングリコールジメチルエーテルにおける10〜25%w/w水;吸収条件:150mbarCO
2、40℃;
a 測定中溶媒1リットル当たり捕捉されたCO
2モル;
b 測定の初期500sインターバルにおけるCO
2吸収率;
c カリウムピバレート;
d カリウムアセテート;
e カリウムプロピオナート;
f 溶媒はジエチレングリコールジエチルエーテル
【0117】
加えて、本発明者らは、システムに促進剤を添加することによって得られる効果を調べた。具体的には、いくつかの異なるアミン誘導体を、代表的な溶媒における促進剤候補として(カリウムピバレートと一緒に)試験して、CO
2取込み速度への影響を確認した。第1級、第2級、および第3級アミンの代表例をスクリーニングして研究範囲を広げた。サイクル能力がアミンの存在に影響される可能性はあるが、表11に示すように、吸収速度の上昇が見られた。
【表11】
捕捉組成物:1〜4Mカリウムピバレート、16〜25%w/w水、エチレングリコールモノブチルエーテル中の塩に対して16%アミン;吸収条件:150mbarCO
2、40℃;
a 測定中溶媒1リットル当たり捕捉されたCO
2モル;
b 測定の初期500sインターバルにおけるCO
2吸収率;
c 環状能力0.66M;
d 環状能力0.19M;
e 環状能力0.27M;
f 環状能力0.50M;
g 放出なし
【0118】
先に述べたように、さらに酸性ガスの捕捉および放出動作に用いられるように捕捉組成物を再生することは、特に商業的に魅力があるプロセスを提供するという点において、重要である。したがって、CO
2または他の酸性ガスの捕捉および遊離を提供するだけでなく、活性捕捉溶媒における元の溶媒比率への復帰を促進してその後さらなる手順において組成物を再利用できるようにするシステムを提供することが望ましい。再生プロセスは、典型的に、元の組成物からのガス放出添加剤、すなわち、プロトン性溶媒または剤、の分離を要する。
【0119】
CO
2ストリッピングに要する放出剤(通常は水)の最小量を決定する必要がある。後続の溶媒リセット段階における前記剤の除去に伴うエネルギー需要は、プロセス全体のエネルギーに大きな影響を及ぼす。よって、添加される放出剤の単位当たりのカルボキシル化溶媒から取出可能なCO
2の体積を最大にする必要がある。修正ストリッピング実験を、異なる量の放出剤で現実的な条件および試験放出性能をシミュレートするように設計した(1barCO
2雰囲気、60℃溶媒温度)。
【0120】
図4および5に2つの代表的な例を示す。ここでは、スルホランおよびエチレングリコールモノブチルエーテルを溶媒として使用した。結果は、VLE実験に基づいて異なる含水量で異なるCO
2搭載が可能であることを明確に示しており、潜在的なCO
2搭載の制御のために含水量を10%から36%の値まで変化させることができることが分かる。
【0121】
放出剤含有量の制御のために種々の代替手順が利用可能であり、その選択は、通常、組成物から除去すべき添加される放出剤、典型的には水、の量と、水混和性非水溶媒の性質とに依存する。
【0122】
例えば、ガス放出添加剤、特に水、の除去は、適切な膜を用いて行われてもよく、その例は業者には容易に明らかであろう。本発明の可能な実施形態において、膜を用いて、水から有機溶媒を分離してもよい。数種の透過性膜を用いて、2つの物質の混合物から有機溶媒または水を選択的に透過させることができることが実証されている。親水性膜を用いて、水を選択的に透過させてもよく、疎水性膜を用いて、有機溶媒を選択的に透過させてもよい。このことは、いくつかの温度にわたって異なる溶媒で示されており、結果を表12にまとめた。
【表12】
a 膜を透過する溶媒の組成;
b 膜の透過流束
【0123】
図6は、本発明の特定の特徴を利用するシステムおよびプロセスの例を示す。プロセスの吸収部は、本質的に、従来のプロセスと同じである。その後、ガスリッチ溶媒は、水リッチ流と混合されて、溶媒におけるpK
a変化を引き起こし、液流を加圧する。液流は、廃熱で加熱され、脱離エンタルピーを克服するために必要な熱を導入し、温かいリッチ溶媒はその後連続して数個の容器内でフラッシュされる。ここで、第1の容器は、高圧力でCO
2のほとんどを放出する。これによって、CO
2圧縮機および/または大型機器の必要性が軽減される。
【0124】
高圧力での放出後、溶媒は、より低い圧力でさらにストリッピングされ得る。その結果、先行技術のプロセスと比較して、低圧CO
2の流れが低下する。こうして、より小型の低圧圧縮機の使用が可能になり、装置全体で必要な圧縮エネルギーが低減される。別個のユニット動作では、溶媒中の水の割合を下げて、捕捉組成物のpK
a値を酸性ガス吸収に最適なレベルにリセットし、この溶媒を吸収装置に供給する。分離された水リッチ相は、ガスリッチ溶媒流にフィードバックされる。
【0125】
放出段階で高圧CO
2流を生成することで、実質的な省エネルギーを実現し、圧縮機の負荷を軽減する。ストリッピング効率は、高いCO
2分圧で、低くなることが予想される。これは、放出において大きな負担が生じるからである。本発明の可能な実施形態において、放出タンクのカスケードが、CO
2の一部を高圧力でストリッピングし、残りを後続の低圧ステップでストリッピングして、圧縮に伴うエネルギーコストを下げつつ、高い環状能力を維持することが想定される。高圧力でのストリッピング実現可能性を確認するため、NMP中のテトラブチルアンモニウムアセテートの1M溶液を用いたプロセスを行った。カルボキシル化溶液を圧力反応器に配置し、追加のCO
2を導入して内部圧力を23バールに上げた。水添加時に、圧力は30バールに上昇し、CO
2放出を示した。さらに、NMP中のDBUプロピオナート溶液を用いて一連の放出実験を行い、60℃で3.8バールに達するCO
2分圧に対して全CO
2量の29%をストリッピングできることを実証した。
【0126】
いくつかの水分離ユニット動作は、本発明での使用に適している。特定の単位動作を
図7〜9に示すが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0127】
図6〜8はこのようなユニット動作を示すが、本発明はこれらのユニット動作に限定されない。実際、当業者に既知のプロセスから、任意の水分離プロセスを選択することができる。具体的に、
図7および8はそれぞれ、パーベーパレーション膜プロセスおよび従来の膜プロセスを示す。
【0128】
したがって、酸性ガスの放出後に得られたリーン溶媒は、膜ユニットに供給され、廃熱によってわずかに加熱されて、分離に要するエネルギー(例:水の蒸発エンタルピーおよび/または溶解熱)を克服する。ここで、水は、膜での圧力差によって膜を通して拡散することにより分離される。圧力差は、膜内の高い液体圧力および/または透過側の低い圧力によって与えられ、例えば真空ポンプによって与えられてもよい。透過側ではわずかに負の圧力のみが必要とされるため、透過側の低い圧力は、垂直液体カラムと液体ポンプとによって実現されてもよい。このような配置により、よりエネルギー効率の高いプロセスが得られ、真空ライン等に透過生産物を失う可能性が下がる。
【0129】
パーベーパレーションシステムを用いた調査は、2つの液体留分が収集され得ることを示している。溶媒が膜を透過した後、高沸点留分は直ちに凝縮し、膜近くで収集可能であり、主に水を含む蒸気留分は、別の相で凝縮され得る。一方、従来の膜システムは、1つの透過流を生成する。
【0130】
したがって、パーベーパレーションは、放出剤の部分的または完全な除去に使用することができる。TiO
2パーベーパレーション膜を用いた実験では、表13に示すように、NMP−水の溶媒供給が、透過側で水が豊富になることが実証された。
【表13】
a N−メチルピロリジノン
【0131】
他の水分離プロセスは、蒸留プロセスを含んでもよい。例を
図9に示す。このプロセスでは、リーン溶媒を廃熱で加熱して、気化熱を克服する。水蒸気が優先的にガス流中に蒸発する気液接触器(例:充填カラム)において、温かい溶媒を、温かいキャリアガス(例:空気)に接触させて、廃熱で予熱する。乾燥溶媒は、ストリッパーの底部から回収することができる。一方、湿潤キャリアガスは、その後冷却され、凝縮物が回収され、コールドキャリアガスが廃熱で再加熱されて気液接触器に供給される。実験及び計算によると、このプロセスは、コールド及びホットキャリアガスの間の温度差が非常に小さいもので動作可能であり、このシナリオは特に廃熱利用に適している。
【0132】
実験室規模の研究では、空気流中で80℃での水除去が達成され、これによりエネルギー必要量を大幅に低減できる。これは、表14に示すように、そのようなアプローチによって溶液の含水量を所望の範囲に戻せることを示唆している。
【表14】
a 210mLのNMP−水混合物(2:1)を80℃まで加熱し、これを通して空気を泡立てた。蒸留物の異なる留分を回収し、屈折率を測定して含水量を特定した。
【0133】
本発明の実施形態において、CO
2ストリッピングは、放出剤を添加せずに、溶媒を通過する空気流を用いて行われる。このようにして、前記放出剤の除去に伴うエネルギー損失を回避することができる。このアプローチの実現可能性を実証するために処理を行った。ここで、ジエチレングリコールジメチルエーテル中のカリウムピバレートの溶液を通常の手法でカルボキシル化し、その後40℃で空気流ストリッピングを行った。その結果、CO
2搭載が大幅に減少した(Δc=0.6M)。
【0134】
先に報告したように、代替のプロトン性溶媒または剤、特に低沸点で鎖の小さいアルコールの使用は、CO
2放出を有利に行うことができると実証されており、エネルギー消費を最小化し得る。メタノールが、わずかに有効性は下がるが、放出フェーズにおける水の適切な代替手段であることが実験で確認された。
【0135】
ガス放出添加剤を除去するためのさらなる代替方法は、わずかな負圧下でリーン溶媒をフラッシュすることである。リーン溶媒を、廃熱で加熱し、バルブを通るよう送り込む。バルブの後、溶媒をわずかな負圧に供し、水蒸発のための駆動力を与える。わずかな負圧は、垂直液体カラムと液体ポンプとによって、または従来の真空ポンプによって、得られる。
【0136】
あるいは、水等のガス放出添加剤は、大気圧または減圧下で、蒸留によって除去されてもよい。
【0137】
異なる蒸留形式は、実験室規模と工業規模の両方で確立されている。溶媒中の放出剤の量を操作するための蒸留適用の実現可能性を、いくつかの異なる組成物を用いて調査した。原理の証明として、代表例を選択した。ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)中の3Mカリウムピバレートおよび16%w/wの水の溶液を、約70℃の蒸留温度を与えるように300mbaraで蒸留した。15の独立した実験に基づいて、蒸気は、55±5%w/wの水を含み、残りはジグリムからなった。凝縮物のピバル酸およびカリウムピバレート含量は、ごくわずかであった。同じ溶媒を、約80℃および500mbaraで蒸留したが、気相組成物に有意な差は見られなかった(蒸気で53%w/wの水)。したがって、蒸留温度および圧力は、平衡にほとんど影響を及ぼさないことを示している。
【0138】
実験手順では、100mLの丸底フラスコ中の水を除去するために電気ヒータージャケットを使用して、溶媒組成物を部分的に蒸留した。蒸気および液体の温度をT型熱電対で記録し、値をLabviewで記録した。蒸留装置内の圧力をエドワーズ真空ポンプで制御し、圧力をオメガ圧力計で監視した。蒸気を水冷却ガラス凝縮器で凝縮し、凝縮物の組成をNMRで分析してカールフィッシャー滴定で検証した。結果を
図11に示す。
【0139】
上記のように溶媒から得られた蒸気は、その含水量が放出ステップでの使用には低いため、さらなる精製を必要とし得る。ジグリムおよび水の気液平衡は、60℃で実験的に特定され、
図12に示される。実験データに基づく物質収支計算を用いて、後続の平衡段階における蒸気および凝縮物組成を予測してもよい。1つの追加段階の結果、凝縮物における含水量77〜83%w/wが得られ、これは放出剤としての再利用に十分の高さである。第3の段階の結果、88〜89%w/wの純水が得られる。蒸留の代わりに、溶媒を同様の条件下で2〜3段階でフラッシュして、同じ純度を得てもよい。
【0140】
表15のデータが示すように、構造的に類似のキャリア溶媒は、気相の含水量における変動がわずかである。
【表15】
溶媒組成:成分1:成分2が50:50での3Mカリウムピバレート、16%w/w水;気相を60℃の平衡温度でサンプリングし、蒸気組成をNMRで特定した;
a プロピレングリコールジメチルエーテル;
b エチレングリコールジメチルエーテル;
c トリエチレングリコールジメチルエーテル;
d エチレングリコールモノブチルエーテル
【0141】
本発明の実施形態において、機械的蒸気再圧縮(MVR)蒸発器を用いて、蒸気をわずかに上昇した圧力および温度に圧縮してそれを凝縮することによって蒸発に必要な熱を提供して、フラッシングや蒸留のためのエネルギー必要量を最小限にする。あるいは、蒸気を注入して、蒸気を上昇圧力および温度に圧縮してもよい。この手法では、大量の放出剤の蒸発に要する熱入力は少しだけであるため、エネルギー効率の良い分離方法が実現できる。
【0142】
この手順では、溶媒を、機械的蒸気再圧縮を利用した蒸発ユニットに10〜20L/hの速度で供給した。0.5〜2L/hの放出剤を、60℃〜97℃の温度および100〜800mbaraの圧力で蒸発させた。結果を表16に示す。
【表16】
a カリウムピバレート;
b エチレングリコールモノブチルエーテル;
c ジエチレングリコールジメチルエーテル
【0143】
物質収支から算出した凝縮物組成は、NMRにより実験的に特定されたものとよく一致した。55%および90%w/wの平均含水量が、ジグリムおよびEGBEそれぞれで見られた。ジグリム凝縮物は、付加的な蒸発ステップによりまたは分別凝縮(上記参照)により、さらに精製可能であることが実証された。あるいは、凝縮物を、膜濾過によってさらに精製してもよい。
【0144】
他のガス放出添加剤の除去アプローチには、セルロース、綿、デンプン、ポリエチレングリコール、またはポリアクリル酸等の親水性材料への水の吸着、または、他のプロトン性溶媒を用いる場合は、例えばポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、イオン交換樹脂、過フッ素化材料、およびシロキサン等の有機ポリマーなどの疎水性材料へのこれらの溶媒の吸着が含まれる。
【0145】
種々の親水性および疎水性材料が、水または有機成分の選択的収着により、水性−有機混合物の組成を変えることができることが分かった。疎水性材料は、有機溶媒を選択的に吸着し、親水性材料は、水を選択的に吸着することが、代表例で実証され、
図13に示されている。
図13は、種々の親水性材料(図左側)および疎水性材料(図右側)について、溶媒対吸着剤比5:1および初期含水量30%w/wでの結果を示す。
【0146】
この一般的なアプローチのバリエーションは、熱応答性ポリマー等の刺激応答性ポリマーの使用である。これは、「スマート」または「環境感受性」ポリマーとしても知られており、環境の変化に応じて物理的構造変化を起こす。一例は、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)であり、これは、その下限臨界溶解温度を超えて加熱されると、親水性から疎水性状態に切り替わり、それが含有する水を排出し、プロセスにおいてその体積の約90%を失う。このようなポリマーは、捕捉プロセスの間、原位置にあり、加温時に水レベルを上げて脱カルボキシル化を誘起し、冷却時に再水和して(活性溶媒から効果的に水を除去し)CO
2捕捉用溶媒を再活性化することができる。
【0147】
あるいは、当技術分野で周知の他のプロセスを用いてもよい。例えば、熱再生、溶媒ストリッピング、真空または圧力の使用、または機械的再生(例:圧力下、または、ローラ間で吸収性材料組成物を圧搾することによる溶媒の除去)がある。このようなプロセスはまた、プロトン性溶媒または剤の吸着のために用いられている親水性または疎水性材料の再生に適用されてもよい。
【0148】
さらに別のプロセスは、CO
2放出後の水リッチ溶液の電気分解を含んでもよい。このような処理は電気の使用を必要とし、それによってプロセス全体の効率性が下がるが、副生成物としての酸素および水素ガスを生成し、これらの物質自体は有用で価値のある商品であることから、付加的な発電のコストを相殺する。
【0149】
さらに別のプロセスは、プロセスのある段階での相分離を可能にする溶媒混合物を利用する。これによって、放出溶媒(通常は水)からの非水性水混和性溶媒の分離が促進される。この場合、放出溶媒(通常は水)との部分的な混和性を有する溶媒が特に好適である。
【0150】
本発明者らはまた、先行技術により開示される典型的にアミン系の組成物と比べて、本発明に従って使用されるカルボキシラート系配合の全体的により高い効率性を実証した。アミン系吸収装置におけるカーバメートの形成の熱は、CO
2放出のエネルギー需要の大部分を占める。一方、カルボン酸塩の溶液は、その含有CO
2をより容易に取られ、これにより脱着温度の低下が期待できる。ストリッピングの効率は、プロセスにおける酸の有効pK
aに依存して変化し、溶媒組成を最適化することによって微調整可能である。
【表17】
a NMP−水混合物におけるTBAA溶液、飽和@20℃、10mLの溶媒を1baraCO
2雰囲気下でVLEに導入した;
b 混合物のNMP対水比を変えずに炭素リッチ溶液を80℃まで加熱した。
【0151】
この点を説明するために、NMP中のテトラ−N−ブチルアンモニウムアセテート(TBAA)溶液を含むカルボキシラート系配合を、種々の初期含水量で調製し、従来の吸収熱再生サイクルで試験した。表17のデータから分かるように、二酸化炭素の効果的なストリッピングが、80℃の低さの温度で得られた。
【0152】
本発明の方法の一般的適用性は、カルボキシラート塩としてカリウムアセテートを用いて上記の試験を繰り返すことによって例証された。得られた結果を表18に示す。
【0153】
これらのデータから、取込み速度は、溶媒の高速能力によって示される。高速能力は、0.0009 l/sよりも早く捕捉された総CO
2を指す。含水量の増加は、アセテート塩の溶解性に顕著な効果を有するが、CO
2吸収速度には弊害をもたらす(エントリ2〜5)。カリウムアセテートの場合、相分離なしで含水量を効果的に20%未満に下げることはできない。より疎水性(またはより脂肪性)のカリウムイソブチラートでは、含水量の低減が可能であり(10%)、優れたCO
2捕捉性能につながる(エントリ8)。異なる初期CO
2圧力で2つの実験を行って、システムが低圧CO
2を捕捉できること、および、脱着がかなりのCO
2背圧に対して有効であることを実証した(エントリ6および7)。
【表18】
a NMP−水混合物におけるKOAc溶液、飽和@20℃、10mLの溶媒を1baraCO
2雰囲気下でVLEに導入した;
b 混合物のNMP対水比を変えずに炭素リッチ溶液を80℃まで加熱した。;
c 塩溶解時に相分離が見られた;
d 10mLの溶媒を0.5baraCO
2雰囲気下でVLEに導入した;
e 10mLの溶媒を1.5baraCO
2雰囲気下でVLEに導入した;
f 1baraCO
2雰囲気下でK−イソ−ブチラートを用いた。
【0154】
本明細書の説明および特許請求の範囲全体を通じて、「備える」および「含む」という文言およびその変形は「含むがそれに限定されない」を意味し、他の成分、添加物、構成要素、整数、またはステップを除外することを目的としていない(および除外しない)。本明細書の説明および特許請求の範囲全体を通じて、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、単数物は複数物を包含する。特に、不定冠詞が使用される場合、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、明細書は単数だけでなく複数も企図すると理解すべきである。
【0155】
本発明の具体的な態様、実施形態、または実施例と併せて記載される特徴、整数、特性、化合物、化学成分または基は、相反しない限り、本明細書に記載の他の態様、実施形態、または実施例に適用可能であると理解すべきである。本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書、および図面を含む)に開示されるすべての特徴、および/または開示されるすべての方法やプロセスのステップは、上記特徴および/またはステップの少なくともいくつかが互いに排他的である組み合わせを除く任意の組み合わせで組み合わせることができる。本発明は、上記実施形態の詳細に限定されない。本発明は、本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書、および図面を含む)に開示される特徴のうちの任意の新規の特徴または新規の組み合わせ、またはそのように開示される方法やプロセスのステップのうちの任意の新規のステップまたは新規な組み合わせに拡大される。
【0156】
読者の注意は、本願に関連して本明細書と同時または本明細書より先に提出され、本明細書で公的審査に対して公開される全ての書類および文書に向けられ、上記書類および文書の内容は引用により本文書に組み込まれる。
【0157】
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