(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-507866(P2017-507866A)
(43)【公表日】2017年3月23日
(54)【発明の名称】ヒステリシスクラッチ付き吊上げギア装置
(51)【国際特許分類】
B66D 5/30 20060101AFI20170303BHJP
F16D 65/16 20060101ALI20170303BHJP
F16D 55/00 20060101ALI20170303BHJP
H02K 7/114 20060101ALI20170303BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20170303BHJP
F16D 121/22 20120101ALN20170303BHJP
【FI】
B66D5/30 Z
F16D65/16
F16D55/00 B
H02K7/114
H02K7/116
F16D121:22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-551776(P2016-551776)
(86)(22)【出願日】2015年2月9日
(85)【翻訳文提出日】2016年8月12日
(86)【国際出願番号】EP2015052652
(87)【国際公開番号】WO2015121203
(87)【国際公開日】20150820
(31)【優先権主張番号】102014101655.6
(32)【優先日】2014年2月11日
(33)【優先権主張国】DE
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】516083449
【氏名又は名称】コネクレーンズ グローバル コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】Konecranes Global Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ゴルダー、 マーカス
【テーマコード(参考)】
3J058
5H607
【Fターム(参考)】
3J058AA78
3J058AA79
3J058AA88
3J058BA46
3J058CC07
3J058CC13
3J058CC77
3J058FA39
5H607BB01
5H607BB14
5H607CC03
5H607DD03
5H607EE04
5H607EE08
5H607EE21
5H607EE31
(57)【要約】
本発明は、ヒステリシスクラッチ(26)付きのスリップクラッチ装置(23)を含む駆動トレイン(14)を備えた吊上げギア装置(10)に関する。これは、モータ(15)とギア装置(16)の間を摩擦なしで、正逆両方向にトルクを移転する。ヒステリシスクラッチ(23)は、モータ(15)とギア装置(16)の間に非分岐型トルク伝動経路を形成する。改良された吊上げギア装置(10)のヒステリシスクラッチ(26)は、振動減衰器として作用し、非常時の荷降下を制御よく可能とし、かつ荷を降ろすときの緊急故障時に確実なトルク制限器として作用する。さらに、本装置は荷の吊上げ速度を下げることによって、公称荷重に至る前又は過荷重の際の荷重指標として利用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷(L)を移動させるための巻上機(10)であって、
モータ(15)とギア装置(16)とを備え、前記荷(L)を引き上げるための出力側の牽引手段(11)に連結された駆動トレイン(14)と、
前記駆動トレイン(14)に配置されたスリップクラッチ装置(23)と、
前記駆動トレイン(14)に連結され、係合状態において前記荷(L)を保持するために配設されたブレーキ(17、17a)と、
を備え、
前記スリップクラッチ装置(23)は、ヒステリシスクラッチ(26)となっている非分岐型トルク伝動経路を備える、
ことを特徴とする、巻上機。
【請求項2】
前記スリップクラッチ装置(23)は、回転の順方向及び逆方向に関して対称的なトルク/スリップ特性(34)を示す、ことを特徴とする、請求項1に記載の巻上機。
【請求項3】
前記ヒステリシスクラッチ(26)は、前記モータ(15)と前記ギア装置(16)の間に配置されている、ことを特徴とする、請求項1、又は請求項2に記載の巻上機。
【請求項4】
前記ブレーキ(17、17a)は、係合方向に作動する少なくとも1つのばね(22)と、前記ばねが作動しているときにリターンばね(22)に作用する解除装置(21)とを備える、ことを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の巻上機。
【請求項5】
前記ブレーキ(17、17a)は、電気的に解放される、ことを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の巻上機。
【請求項6】
前記ブレーキ(17、17a)は、荷(L)を上昇させているときに解放される、ことを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の巻上機。
【請求項7】
前記ブレーキ(17、17a)は、荷(L)を降下させているときに解放される、ことを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の巻上機。
【請求項8】
前記ブレーキ(17)は、前記駆動トレイン(14)のギア側に配置されている、ことを特徴とする、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の巻上機。
【請求項9】
前記ブレーキ(17)は、公称荷重(Fnom)よりも大きい荷重(Fmax)に対応する最大トルク(Mmax)を示す、ことを特徴とする、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の巻上機。
【請求項10】
前記ブレーキは、公称荷重トルク(Mnom)と駆動トルク(MAntr)の合計に対応する最大ブレーキトルク(Mmax)を示し、ここで前記公称荷重トルク(Mnom)は公称荷重(Fnom)に対応し、前記駆動トルク(MAntr)は、いずれが低いかにより前記モータの最大トルク又は前記スリップクラッチ装置(23)により伝達可能な最大トルクである、ことを特徴とする、請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の巻上機。
【請求項11】
前記ブレーキ(17)は、非常用遮断制御器及び/又は別の非常用遮断装置(42)に連結されている、ことを特徴とする、請求項10に記載の巻上機。
【請求項12】
スリップクラッチ装置(23)は、そのスリップクラッチ装置(23)がスリップし始め、かつ公称荷重(Fnom)よりも小さい荷重限界(Fgrenz)に対応する、トルク限界(Mgrenz)を示す、ことを特徴とする、請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の巻上機。
【請求項13】
前記ブレーキ(17a)は、前記駆動トレイン(14)の前記モータ側に配置されている、ことを特徴とする、請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載の巻上機。
【請求項14】
前記スリップクラッチ装置(23)は、そのスリップクラッチ装置がスリップし始め、かつ公称荷重(Fnom)よりも大きいトルク限界(Fgrenz)に対応する、トルク限界(Mgrenz)を示す、ことを特徴とする、請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載の巻上機。
【請求項15】
前記ギア装置(16)は、セルフロックしないように設計されている、ことを特徴とする、請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載の巻上機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦フリーのスリップクラッチ装置を備えた駆動トレインを有する巻上機(hoist)に関する。
【背景技術】
【0002】
巻上機に関しては、ギア装置、又は巻上機のその他の部品、又は巻上機を保持する支持構造体の牽引手段に対する過荷重を防止するために、駆動トレインには通常スリップクラッチが用いられている。また、例えば、引き上げているときに荷が障害物に引っかかるというような運転の過誤状態において、チェーン滑車ブロックへの損傷、又はその他の危険な状況を発生させてはならない。これは、例えば、架台やキャリッジを駆動するために水平運転モードで巻上機を使用する場合にも当てはまる。
【0003】
米国特許第3,573,517号明細書には、モータとギア装置とその間に配置されたスリップクラッチ装置とを備える駆動トレインを有する巻上機が開示されている。ギア装置側にブレーキが備えられ、このブレーキがいわゆる荷重圧力ブレーキとして構成されている。牽引手段とその巻上げホイールとを介して、荷は、ギア装置出力シャフトにトルクを印加する。このトルクを利用してブレーキのブレーキシューを係合方向に移動させ、モータが切断されるときに荷が安全に保持され続けられるようにしている。
【0004】
スリップクラッチ装置は、ヒステリシスクラッチと一方向クラッチの並列配置で構成されている。荷が引き上げられるとき、ブレーキが解除されて一方向クラッチは非作動となる。ヒステリシスクラッチにより伝達されるトルクは、公称荷重トルクよりも大きく、荷は、スリップなしで確実に引き上げられる。
【0005】
荷を降下させているときは、一方向クラッチが係合している。このクラッチは、モータとギア装置入力シャフトとの間を捩れなしで連結する。こうして、モータの力が荷重圧力ブレーキの保持トルクを超えて、荷が下降する。
【0006】
したがって、ヒステリシスクラッチは、過荷重に対する保護手段として作用するように配設される。このクラッチで一定のスリップが生じると、駆動力を停止させるために温度スイッチが作動する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
荷が引っかかることの他に、その他の不利な運転状況が生じる可能性がある。したがって、そのような状態を防止すること、又はその影響を最小化することが必要である。例えば、チェーンホイールの多角形効果の結果としての共振励起によりチェーン振動が生じる可能性があり、この振動が支持体構造や構造部品や、さらにはチェーン滑車ブロックのギア装置にまで過荷重を与えたり、摩耗させたりする。このような振動の発生は対策する必要がある。
【0008】
さらに、幹線電源制御モータの場合には、運転をオン、オフするとき、並びに極数変換可能な回転速度を変更するときにモータの回転速度が急上昇して、この急上昇が牽引手段及びギア装置に潜在的にショック状の応力をもたらす。これは回避されなければならない。
【0009】
具体的には、インバータ制御駆動装置の場合、インバータの構築において厳しい安全仕様が満たされなければならない。いずれにしても、インバータが故障しても、あるいはその制御が誤動作しても、制御不能な荷の移動の発生は防止されなければならない。この場合、人、機械、及び環境に対するいかなる危険も最小化又は防止可能な、高信頼度で低コストの対策が望まれる。
【0010】
本発明の目的は、上記の1つ以上の技術課題を解決する程度にまで巻上機を改良することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、請求項1に記載の巻上機によって達成される。
【0012】
本発明による巻上機は、スリップクラッチ装置を有する駆動トレインを備えており、これはヒステリシスクラッチで生成される非分岐型トルク伝動経路(unbranched torque gearing path)を構成している。ここには、トルクがヒステリシスクラッチを迂回できる迂回経路はない。したがって、ヒステリシスクラッチは、(荷を吊り上げる)順回転時、並びに(荷を下降させる)逆回転時に作動する。これには機械的摩擦がない。このクラッチを油浴内で運転すると、ヒステリシスによるトルクに加えて、流体力学によって伝達されるトルクの発生があり得る。さらには、ヒステリシスクラッチ内での渦流がトルクを伝達することができる。ただし、ヒステリシスクラッチに並列してそれ以外のクラッチ要素が付与されたり作動したりすることはない。
【発明の効果】
【0013】
上記の対策により、かなりの利点を実現することが可能である。
【0014】
牽引手段で吊り下げられた荷が振動し始めると、駆動トレイン内にトルク振動が発生する。これらの振動により、トルク限界を超えるとすぐにヒステリシスクラッチはスリップモードに移行する。ここで、トルク限界とは、ヒステリシスクラッチがスリップなし動作からスリップ動作へ移行する点でのトルクである。スリップは、クラッチの出力回転速度と入力回転速度の商を1から差し引いたもので定義される。トルク限界は、公称荷重トルクより高く設定してもよいし、又は公称荷重トルクより低く設定してもよい。後者の場合、振動吸収が特に効率的である。ただし、振動吸収は初めに述べた場合にも発生し、巻上機及び支持体構造への過荷重の防止が可能である。
【0015】
さらに、ヒステリシスクラッチは、荷の引っかかり、モータの急激な回転開始、又はモータの回転速度の急変により生じ得る荷重衝撃を吸収できる。このことは、トルク限界が公称トルクよりも低く設定されている場合に特に効果的である。ただし、その他の設定がなされている場合には、減衰効果も生じる。
【0016】
さらに、本発明による概念では安全志向の巻上機、特にインバータ駆動の巻上機を低コストで構築可能である。安全志向の非常用押しボタン式遮断回路を利用して荷重圧力ブレーキを係合させることができる。モータの最大トルクにおいても、ヒステリシスクラッチはモータからギア装置へ限られたトルクのみを伝達し、インバータ制御器又はインバータが故障の場合にも全く問題なしに運転継続できる。運転が順方向に継続されるか逆方向に継続されるかに拘わらず、ギア装置側に備えられたブレーキを介して荷を停止できる。
【0017】
スリップクラッチ装置が、回転の順方向と回転の逆方向とに関して対称的なトルク/スリップ特性を示すことは、振動減衰、及び安全のために有効である。
【0018】
好ましくは、少なくとも1つのブレーキがギア装置側に配置されて電気的に解除される。その結果、荷が吊り上げられているとき、並びに降下させられているときに、ブレーキを解除することができ、エネルギ損失の小さい、巻上機の効率的な運転が可能となる。ブレーキは電気的に能動解除され、リターンばねによって押し付けられるので、安全面が満足される。ブレーキを解除するために電気回路が切断されると、ばねの力によってブレーキが掛かる。その際ブレーキは、荷に無関係の所定のブレーキトルクを発生させる。そのトルクは、最大ブレーキトルクM
maxが、公称荷重F
nomより大きな仮想荷重F
maxに対応するように設計されてもよい。吊り上げ牽引力がなくなると、ブレーキは自動的に作動し(すなわち、ばね力により押し付けられて)、荷が勝手に落ちることはない。
【0019】
ブレーキは、最大ブレーキトルクM
maxが、公称荷重トルクM
nomと駆動トルクM
Antrとの合計に少なくとも同じになるように設計することができる。駆動トルクM
Antrは、モータとスリップクラッチ装置が駆動トレイン内に入力可能なトルクである。したがって、ブレーキは、荷によるトルクM
nomと駆動装置による駆動トルクM
Antrを掛けることができる。この条件下では、単純で安全志向のある巻上機を構築することが可能であり、ブレーキ制御器のみが特別の安全仕様に従い、モータ制御器と任意選択で提供される電力インバータがより緩い安全仕様を満足する。モータが任意の方向に制御されずに回転している場合でも、ブレーキは荷を保持可能であり、その一方でヒステリシスクラッチは伝達トルクをブレーキで未だ安全に吸収できる値にまで制限する。万一そのような故障状態が続いたとしても、機械的に無接触動作するヒステリシスクラッチは温度が上昇して、一つ又は複数の永久磁石が減磁するか、又は完全に消磁され得る。そうなることで、トルクギア装置が減衰するか、遮断される。したがって、駆動装置のそれ以上のいかなる加熱も、危険な過熱も防止される。このことは、インバータ駆動モータを有する巻上機にも、幹線電源に連結されたモータを有する巻上機にも当てはまる。
【0020】
ギア装置側に少なくとも1つのブレーキを配置することで、既に述べたように、そのクラッチがスリップし始め、かつ、公称荷重F
nomで生じる公称トルクM
nomよりも小さいトルク限界M
grenzを、スリップクラッチ装置が示すことが可能である。前に述べた利点の他に、モータが遮断されたときに荷を手動降下させることも可能である。そこでは、モータが遮断されてブレーキが解除され、荷を制御して降下させることができる程度に例えば手動でヒステリシスクラッチが調節される。その際、ヒステリシスクラッチはヒステリシスブレーキとして作用する。
【0021】
これとは別に、又はこれに追加して、ブレーキは、駆動トレインのモータ側に配置されてもよい。この場合には、スリップクラッチ装置のトルク限界M
grenzは、公称荷重F
nomで生じる公称トルクM
nomよりも大きくなるように設定することが好ましい。
【0022】
代替的には、スリップクラッチ装置の両側に、すなわちモータ側とギア装置側に、2つ以上のブレーキを備えることも可能である。
【0023】
本発明の有利な実施形態の更なる詳細は、以下のいくつかの例示的実施形態の説明及び従属請求項と図面から推論可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図4】
図1〜
図3の巻上機の、実際の応用に近い形での実施形態を示す図である。
【
図5】本発明の第1のグループの実施形態のトルク/スリップ特性を示す図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態のトルク/スリップ特性を示す図である。
【
図7】様々な荷重について、クラッチ入力と出力に対するクラッチ回転速度の時間依存性を示す図である。
【
図8】様々な荷重について、クラッチ入力と出力に対するクラッチ回転速度の時間依存性を示す図である。
【
図9】荷の振動が発生しているときのスリップクラッチ装置上のトルクの時間依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、クレーン又はクレーンシステム等の一部であり得る巻上機10を示す。これは、例えば輪の繋がったチェーン12、別のチェーン、ロープ等で構成される牽引手段11によって、荷L(
図2)を吊り上げるため、あるいはそのような荷を別の方法で移動させるために配設される。そのために、チェーン12は、駆動トレイン14の出力側に連結されたポケットホイール13上を移動する。この駆動トレインは、好ましくは電気モータであるモータ15と、好ましくはギア装置16とを備えている。モータ15は、非同期モータ、同期モータ又はその他の電気モータ、油圧モータ、圧縮空気モータ、又はその他の動力源であってよい。最も単純な場合には、これは幹線電源動作モータ(mains−operated motor)であって、オン/オフ可能で、単一固定回転速度(例えば1500rpm又は3000rpm)を有している。代替的には幹線電源動作モータとして、モータ15が極の切り替えによる複数の回転速度を保持してもよい。特に好適な実施形態としては、モータ15はインバータを用いた可変回転速度で駆動される。
【0026】
ギア装置16は減速ギアであって、荷を移動するために、モータの高速回転を、牽引手段11用のポケットホイール13又は他の任意の駆動ホイールの低速回転に変換する。ギア装置16は、非セルフロッキング歯のギア装置であることが好ましい。ただし、これは必ずしも絶対に必要ではない。
【0027】
駆動トレイン14は,ギア装置側のブレーキ17に連結されている。ブレーキ17は、ポケットホイール13又は別の巻上げホイールか別の駆動シャフトに連結されていてもよい。好ましくは、
図3からわかるように、これはブレーキブロック19、20に結合されたブレーキディスク18を有するディスクブレーキである。好ましくは、これらはリターンばね22の力でブレーキディスク18に向かう張力が掛けられている。ブレーキディスク18を遮断するために、1つ以上の電磁石21によってブレーキを解除してもよい。その際、ブレーキディスク18は、切断状態に固定される。そのとき、生じる最大ブレーキトルクM
maxは、少なくとも荷Lが生成するトルクよりも大きい。
【0028】
図3に模式的に示すように、ギア装置16は、減速ギアである。駆動トレイン14は、スリップクラッチ装置23を備えている。
図2及び
図3に例示的に示すように、このクラッチは、例えばモータ15とギア装置16の間に配置されてもよい。スリップクラッチ装置23は、モータ出力シャフトに連結されたモータ側のクラッチ半体24と、ギア装置入力シャフトに連結されたギア装置側のクラッチ半体25との間の、機械的な連結を持たないヒステリシスクラッチ26であることが好ましい。2つのクラッチ半体24、25は、バイパスクラッチのないヒステリシスクラッチ26を構成する。ヒステリシスクラッチ26は、モータ15の回転の順方向、並びに逆方向にトルクを伝達する。好ましくは、ヒステリシスクラッチ23は、円筒型の空隙を有し、それがクラッチ半体24と25の間にある。ヒステリシスクラッチ26で伝達されるトルクは、主にクラッチ半体24、25の1つのヒステリシス効果によって生成される。渦流効果(vortical current effects)と、任意選択としての流体力学的効果(fluid−mechanical effects)により、トルクへの追加的な寄与を与えることができる。具体的には、ヒステリシスクラッチ26が油浴中で動作する場合には後者の寄与がある。
【0029】
任意選択により、クラッチ半体24、25は、回転速度センサ、すなわち最も単純なものでは遠心力スイッチ、へ連結されてもよい。又は、クラッチ半体24、25の両方を回転速度センサ27、28に連結して、そのそれぞれが各クラッチ半体24、25の回転速度に対応する信号を生成させることも可能である。この信号は、回転速度、及び/又はクラッチ半体24、25相互の位相関係(角度関係)を特徴づける切替信号、アナログ信号、又はデジタル信号であってよい。この信号は、回転速度検出、スリップ検出、及び/又はスリップ判定のためにユニット29に入力されてもよい。このようにして検出されたスリップ及び/又は回転速度は、モータ15及び/又はブレーキ17の運転の制御基準として利用できる。スリップは、負荷量の判定に利用可能である。
【0030】
図3に模式的に示すように、ヒステリシスクラッチ26とギア装置16は、共通のギア装置筐体30内に配置することができる。この筐体は、ベアリングと歯車の潤滑、並びにヒステリシスクラッチ26の冷却のためにオイルで充填されていてもよい。
【0031】
図4は、ギア装置側にブレーキ17を備える巻上機10の設計図を、いくつか選択した説明済みの参照符号を基に、少し具体的に表したものである。明らかなように、巻上機10はヒステリシスクラッチ23を調節するための調節装置31を備えている。調節装置31は、ギア装置側のクラッチ半体25に連結されたシャフト33を支持する、調節ねじ32を備えている。シャフト33の軸方向位置の調節により、クラッチ半体24、25相互の相対的軸方向位置が調節され、これによって空隙寸法が調節される。
【0032】
ブレーキ17に加えて、又はその代わりに、モータ側にブレーキ17aを備えることも可能である。好ましくは後者のブレーキが、ブレーキブロック19a、20aに結合されたブレーキディスク18aと電磁石21とリターンばね22aとを備えたディスクブレーキとして構成される。電磁石21aは、ブレーキ17aの離脱(解放)のために配設される。電気が切られた状態では、ブレーキ17aが係合される。つまりブレーキは、最大のブレーキトルクM
maxを発生させる。
【0033】
以下の機能の説明においては、ブレーキ17aが存在せず、スリップクラッチ装置23が
図5の特性34を示すような例示的実施形態を基本として利用する。
【0034】
巻上機10を用いて、牽引手段11に連結された荷を移動可能である。荷の移動は、牽引手段11の自由端で実行される。あるいは牽引手段11の自由端が例えばギア装置筐体30にある固定懸架点に結合されている場合には、開閉滑車に配置された遊動ローラを介して実行される。荷を吊り上げるか又は荷に別の移動をさせるためにモータ15が回転すると、ヒステリシスクラッチ23とギア装置16を介してポケットホイール13又は別の巻上げホイールに駆動トルクが伝達される。
【0035】
荷の重量が力の限界F
grenzより小さければ、ヒステリシスクラッチ25はあまりスリップしないでこのことを実行し得る。しかし荷の重量が力の限界F
grenzより大きくて公称荷重F
nomよりも小さければ、ヒステリシスクラッチ26にはスリップが生じる。ヒステリシスクラッチ23の力の限界F
grenzは、トルク限界M
grenzに対応している。このトルク限界M
grenzに到達した時点では、スリップSはまだちょうどゼロである。
【0036】
トルク限界M
grenzを超えると、スリップが増大する。ここで好ましくは、ヒステリシスクラッチ26が線形特性34を示す。すなわち、スリップSが大きくなるほど、伝達されるトルクMは大きくなる。公称荷重F
nomに達すると、公称トルクM
nomがヒステリシスクラッチ23に印加される。この場合結果は、スリップS
nomとなる。公称スリップS
nomは、0から1の間である。例えば、5%又は10%より大きくてもよい。ただしこの公称スリップは、公称荷重をまだ中断なく吊り上げることができるが、速度が僅かに落ちてしまい、それによって公称荷重に到達していることをオペレータに知らせられるように、選択することが好ましい。公称荷重でより高速とするためには、スリップを生じた状態で公称速度となるようにギア比を選択してもよい。そのようなギア比を選択することの利点は、公称荷重に満たない荷をより高速で移動可能なことである。この結果として運転効率が上がる。
【0037】
図5のグラフのトルク/スリップ特性34は、縦のトルク軸から見ると対称的であることに留意されたい。これは負のスリップSを表す曲線の分枝34’で示されている。
【0038】
さらに、トルク/スリップ特性は必ずしも直線的である必要がないことも指摘される。この特性は、
図5におけるトルク/スリップ特性35、35’に示されているように直線からずれてもよい。その結果、公称荷重F
nomの半分より小さい最大荷重において、既にスリップはゼロではなくなっている。ただし、そのような特性は、スリップが1のとき、すなわち牽引手段11が遮断されるときに最大力F
maxを生成するためには本質ではなく、この最大力は安全な値に制限されることが好ましい。この値は、公称荷重F
nomの例えば1.5倍、好ましくは1.3倍、さらに好ましくは高々1.2倍か1.1倍であってよい。
【0039】
トルク/スリップ特性34が線形であるか、又はトルク/スリップ特性が非線形であるかに拘わらず、回転速度センサ27、28でクラッチ半体24、25の回転速度を検出することで、スリップSを判定し、巻上機10の運転状態に関する結論を引き出すこと、又はその運転状態に影響を与えることが可能である。例えば、公称スリップS
Nomを超過すれば、モータ15の回転速度を下げることができる。この結果として、モータ15のスイッチを完全に切断しないでも、公称荷重F
Nomより大きい荷の吊り上げを防止できる。
【0040】
さらに、トルク限界M
grenzをトルク限界M
nomより低く設定することで、モータ15がインバータなしで幹線電源電流の固定回転速度で運転されていても、巻上機10を円滑に運転することが可能である。
【0041】
これに関しては、
図7に2つの回転速度N
1、N
2で運転可能なモータ15の切り替えが示されている。特性36は、モータの回転速度と、それによるクラッチ半体24の回転速度の進行を示している。特性37は、クラッチ半体25の回転速度の進行を示している。荷Lの加速時に、スリップSは、短時間増加する。したがって、ギア装置側のクラッチ半体25の回転速度が、モータ15の回転速度に対して遅延して追随する。このように、牽引手段11、ギア装置、又は巻上機の支持体構造への衝撃的な応力は、防止又は最小化される。この効果は、1つの回転速度だけで駆動されるモータ15の場合にも類似している。明らかなように、ある時間の後ヒステリシスクラッチ26はスリップが0となる。すなわち荷重は、荷重限度F
grenzより小さくなる。
【0042】
図8は、荷重限界F
grezよりも大きい重量の荷Lでの運転を示す。モータの回転速度がほとんど突発的に変化(特性38)するが、ギア装置側のクラッチ半体25の回転速度は明らかな遅延を伴って追随して、モータの回転速度には決して到達しない。その結果、巻上機10の運転は、公称荷重F
nomに近づくにつれて特に穏やかとなる。
【0043】
ギア装置側のブレーキに組合せてモータ側のブレーキ17aを利用すると、停止段階における牽引手段11への衝撃的な応力もまた、防止ないしは最小化することができる。2つのブレーキを使用する場合には、まずモータ側のブレーキ17aを作動(係合)させて、次いで(遅れて)ギア装置側のブレーキ17を係合させるような形で作動させなければならない。モータ側のブレーキ17aが係合(作動)されると、モータ回転速度36、38が急速に低下する。荷は、この時ヒステリシスブレーキのように作用するヒステリシスクラッチ26によって穏やかに減速される。ギア装置側のブレーキ17を遅延して係合させると、荷は、このブレーキによって安全に保持される。2つのブレーキ17、17aを備える上記の巻上機10は、荷を簡単に制御して降下させることも選択肢として有する。モータ側のブレーキ17aをかけたままでギア装置側のブレーキ17を手動で解除することが可能であり、ヒステリシスクラッチ26をより低いトルクの方向へ試しながら調節することができる。そうして、ヒステリシスクラッチ26をヒステリシスブレーキとして利用し、荷を制御した状態で降下させることができる。
【0044】
図9は、巻上機10の別の有益な効果を示す。そのために、振動の刺激がある場合のヒステリシスクラッチ26におけるトルクMの進行を特徴づける、トルク/時間のグラフが示されている。そのような振動の刺激は、とりわけポケットホイール13の多角形効果によって達成される。多角形効果を有する回転ポケットホイール13が張力のかかったチェーン12の共振周波数に対応する周波数でチェーン12を刺激すると、激しい振動が発生する可能性がある。
図9において、破線40は、このようにして得られるトルクの変化を示しており、公称トルクF
nomと、対応する公称荷重F
nomは、頻繁に超えている。ただし実線41で示すヒステリシスクラッチ23のトルクは、Δtの時間幅でトルク限界M
grenzと公称トルクM
nomとの間の領域に到達することを繰り返す。この領域では、スリップはゼロではなく、したがって振動プロセスからエネルギが差し引かれて熱エネルギに変換される。この結果、振動は、効果的に減衰されて完全に停止するか、又は少なくとも公称トルクM
nom、及び公称荷重F
nomは、超えなくなる。
【0045】
別の実施形態を参照する。
図6に示すように、トルク限界M
grenzが公称トルクM
nomより上となるように曲線34aのトルク/スリップ特性が設定されると、ヒステリシスクラッチ26は、通常の運転モードではスリップしない。この場合、ギア装置側のブレーキ17を省いて、モータ側のブレーキ17aだけを使用してもよい。またこの場合には、
図7又は
図8のようにモータ15が回転速度を急増するとき、あるいは
図9示すような振動刺激が存在するときに、程度は小さいけれども衝撃を吸収するためにヒステリシスクラッチ26が配設されてもよい。ゆっくりしたスタートに加え、前述した荷の降下の手動実行も可能であり、その場合には例えばモータ側ブレーキ17aによってモータ15は遮断されて、ヒステリシスクラッチ26がヒステリシスブレーキとして利用される。
【0046】
ただし、ヒステリシスクラッチ26のトルク限界M
grenzが公称トルクM
nomより上に設定されていると、このクラッチは、ブレーキ17のみの場合、又は両方のブレーキ17、17aがある場合の例示的実施形態で利用することも可能である。これによる具体的な利点は
図2に示されている。そこでは巻上機10(左)は、ブレーキ17と、その制御ユニット42と、任意選択で、例えば非常用遮断押ボタン43のようなスイッチ装置とを備えた、安全志向部分を有している。
図2に破線で示した運転上の接続を介して、制御装置42は任意選択で設置された第2のブレーキ17a及び/又はモータ15の制御器に影響することができる。この制御器は、安全の観点から、例えばブレーキ17aに係合してモータ15を停止させるために、特別設計されたものではない。図によれば巻上機10は、図の縦の破線44の左側に示すような安全志向領域と、その縦の破線の右側に示すような、安全志向に関係しない領域とを備えている。この実施形態においてブレーキ17は、荷Lから派生するトルク(最大M
nom)と、駆動トレイン14によって追加的に掛けられるトルクM
Antrとを吸収可能なような寸法となっている。後者は、いずれが小さいかによって、モータ15によって生成される最大トルクであるか又はスリップクラッチ装置23により伝達し得る最大トルクかである。ブレーキ17が荷重トルクM
nomから得るトルクと駆動トルクM
Antrとの合計を少なくとも吸収可能であれば、そのブレーキはいかなる場合においても、すなわちモータ15が制御不能に正逆の回転をしたとしても、荷を停止することができる。
【0047】
制御装置42は、手動制御の非常用停止装置となっている。ただし、制御装置42は、例えば1つ以上の回転速度センサ27、28から出力される例えば回転速度信号、スリップ信号、荷重信号等の制御信号によって制御可能でもある。
【0048】
本発明による巻上機10は、ヒステリシスクラッチ26を有するスリップクラッチ装置23を備えた駆動トレイン14を有している。スリップクラッチ装置は、モータ15とギア装置16の間を、順方向にも逆方向にも摩擦フリーでトルクを伝達する。ヒステリシスクラッチ23はモータ15とギア装置16の間に、非分岐型トルク伝動経路を形成する。
【0049】
改良された巻上機10のヒステリシスクラッチ26は、振動減衰器として作用し、制御された状態での荷の緊急降下を可能とする。そして荷が停止している間に緊急遮断する場合に安全トルク限界として作用する。さらに、荷の吊り上げ速度を下げることによって、公称荷重に達する以前での、又は過荷重の場合における荷重指標として配設されてもよい。
【符号の説明】
【0050】
10 巻上機
L 荷
1 牽引手段
12 チェーン
13 ポケットホイール
14 駆動トレイン
15 モータ
16 ギア装置
17、17a ブレーキ
18、18a ブレーキディスク
19、20、19a、20a ブレーキブロック
M
max 最大トルク
M
nom 公称回転トルク
M
Antr 最大駆動トルク
M
grenz スリップが始まるクラッチトルク
F
grenz クラッチのスリップが始まる荷重
F
nom 公称荷重
21,21a 電磁石
22,22a ばね
23 スリップクラッチ装置
24 モータ側クラッチ半体
25 ギア装置側クラッチ半体
26 ヒステリシスクラッチ
27,28 回転速度センサ
29 制御ユニット
30 ギア装置筐体
31 調節装置
32 調節ねじ
33 シャフト
34,34’,34a トルク/スリップ特性−線形
35,35’ トルク/スリップ特性−非線形
36 モータ回転速度
37 ギア装置入力シャフトの回転速度
38 モータ回転速度
39 ギア装置入力シャフトの回転速度
40,41 線
42 制御装置
43 非常用遮断押しボタン
44 線
【国際調査報告】