特表2017-509591(P2017-509591A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-509591(P2017-509591A)
(43)【公表日】2017年4月6日
(54)【発明の名称】錯化剤、その製造方法及び用途
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/09 20060101AFI20170317BHJP
   C25D 3/38 20060101ALI20170317BHJP
   C07F 9/11 20060101ALI20170317BHJP
【FI】
   C07F9/09 K
   C25D3/38
   C07F9/11
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-547031(P2016-547031)
(86)(22)【出願日】2014年1月13日
(85)【翻訳文提出日】2016年7月13日
(86)【国際出願番号】CN2014070526
(87)【国際公開番号】WO2015103785
(87)【国際公開日】20150716
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】516211466
【氏名又は名称】孫 松華
【氏名又は名称原語表記】SUN,SONGHUA
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】孫 松華
(72)【発明者】
【氏名】孫 ▲情▼
【テーマコード(参考)】
4H050
4K023
【Fターム(参考)】
4H050AA01
4H050AA02
4H050AA03
4H050AB99
4H050AC40
4H050BC10
4H050BC19
4K023AA17
4K023AA19
4K023AB14
4K023AB33
4K023AB38
4K023CA09
4K023CB08
(57)【要約】
本発明は、錯化剤、その製造方法及び用途に関する。前記錯化剤は、MxHyPnO3n+1Rzという一般式(式中、Mがアルカリ金属イオン及びNH4+のいずれか1つ以上であり、Rがアシルであり、x、n及びzがいずれも正の整数であり、yがゼロまたは正の整数であり、x+y+z=n+2)で表される。本発明の錯化剤の製造方法は以下のとおりである:Mを含有するアルカリ、炭酸塩または重炭酸塩とリン酸とR基を有する一塩基性有機酸または多塩基有機酸の酸性塩とをモル比で混合し反応させ、その後、得られた反応液を100〜800℃の条件で0.5〜10時間ワンステップ重合させ、生成物である錯化剤を得る;あるいは、まず前記反応液を乾燥し、その後、100〜800℃の条件で0.5〜10時間重合させ、生成物である錯化剤を得る。本発明の錯化剤は、電気メッキ溶液の製造に応用され、プロセスが便利であり、そして、得られたメッキ液の金属に対する錯化能力が強く、銅イオンへの錯生成定数が1026〜27に達成され、従来技術における無シアン錯化剤よりはるかに優れる。該錯化剤により調製されたメッキ液は、品質が安定し、分散性が良く、採用される電流密度範囲が広く、かつメッキ液の応用範囲が広い。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
錯化剤がMxHyPn03n+1Rzという一般式(式中、Mがアルカリ金属イオン及び NH4+の中のいずれか1種又は多種であり、Rがアシル基であり、x、n及びzがいずれも正の整数であり、yが0又は正の整数であり、x+y+z=n+2)で表されることを特徴とする錯化剤。
【請求項2】
前記錯化剤が MxHyPn03n+1Rという一般式(式中、Mが Na+、 K+及びNH4+の中のいずれか1種又は多種であり、Rがアシル基であり、x及びnがいずれも正の整数であり、yが0又は正の整数であり、x+y=n+1)で表されることを特徴とする請求項1に記載の錯化剤。
【請求項3】
前記錯化剤の製造方法が以下のとおりである:Mを含有する塩基、炭酸塩または重炭酸塩とリン酸とR基を有する一塩基有機酸または多塩基有機酸の酸性塩をモル比で混合し反応させ、その後、得られた反応液を100〜800℃の条件で0.5〜10時間ワンステップ重合させ、生成物である錯化剤を得る、或いは、まず前記反応液を乾燥し、その後、100〜800℃の条件で0.5〜10時間重合させ、生成物である錯化剤を得ることを特徴とする請求項1又は2に記載の錯化剤の製造方法。
【請求項4】
MがNa+である場合、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム又は重炭酸ナトリウムとリン酸とR基を有する一塩基有機酸又は多塩基有機酸の酸性塩をモル比で混合し反応させ、その後、該反応液を200〜400℃の条件で0.5〜10時間ワンステップ重合させ、生成物である錯化剤を得る、或いは、まず前記反応液を乾燥し、その後、さらに200〜400℃の条件で0.5〜10時間重合させ、生成物である錯化剤を得ることを特徴とする請求項3に記載の錯化剤の製造方法。
【請求項5】
MがK+である場合、水酸化カリウム、炭酸カリウム又は重炭酸カリウムとリン酸とR基を有する一塩基有機酸又は多塩基有機酸の酸性塩をモル比で混合し反応させ、その後、反応液を250〜800℃の条件で0.5〜10時間ワンステップ重合させ、生成物である錯化剤を得る;或いは、まず前記反応液を乾燥し、その後、さらに250〜800℃の条件で0.5〜10時間重合させ、生成物である錯化剤を得ることを特徴とする請求項3に記載の錯化剤の製造方法。
【請求項6】
M がNH4+である場合、アンモニア水、炭酸アンモニウム又は炭酸水素アンモニウムとリン酸とR基を有する一塩基有機酸又は多塩基有機酸の酸性塩をモル比で混合し反応させ、その後、反応液を100〜300℃の条件で0.5〜10時間ワンステップ重合させ、生成物である錯化剤を得る、或いは、まず前記反応液を乾燥し、その後、さらに100〜300℃条件で0.5〜10時間重合させ、生成物である錯化剤を得ることを特徴とする請求項3に記載の錯化剤の製造方法。
【請求項7】
メッキ液の製造に用いられることを特徴とする請求項1又は2に記載の錯化剤の用途。
【請求項8】
前記メッキ液が銅メッキ、スズメッキ、Cu-Zn合金メッキ、Cu-Sn合金メッキ、Ni-Sn合金メッキ、Ni-Co合金メッキ、Sn-Co合金メッキ及びNi-Sn-Co合金メッキのいずれか一つであることを特徴とする請求項7に記載の錯化剤の用途。
【請求項9】
前記メッキ液における錯化剤の含有量が質量パーセントで1〜60%であることを特徴とする請求項7に記載の錯化剤の用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物に関し、具体的に、錯化剤、その製造方法及び用途に関し、化学工業技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
錯化剤は、金属イオンと結合して錯イオンを形成させるための化合物である。メッキ溶液の中では、酸性鉄メッキ溶液、酸性ニッケルメッキ溶液、酸性クロムメッキ溶液、酸性銅メッキ溶液などの少数のメッキ液が、錯化剤を使用せず、或いは使用する必要がなく、それ以外、多数のメッキ液、例えば、アルカリ性銀メッキ溶液、アルカリ性金メッキ溶液、アルカリ性銅メッキ溶液、アルカリ性亜鉛メッキ溶液、アルカリ性スズメッキ溶液、アルカリ性Cu-Sn合金メッキ溶液などが、いずれも錯化剤を使用する必要がある。
【0003】
常用の錯化剤は、例えばシアン化物が、シアンイオンが優れた錯化能力を有するので、シアン化メッキが最もよいメッキ方式であり、メッキ分野に広く応用される。しかしながら、シアン化メッキの場合、使用する必要があるNaCN、KCN、CuCN等が猛毒化合物であり、人に対する致死量がたったの0.005gである。シアン化物は、操作者の体の健康に危害を及ぼし、かつ環境を汚染するだけでなく、廃水の処理も難しく、廃水処理費も非常に高い。従って、環境を保護し、公害を減少するために、シアン化物の代わりに無シアン電気メッキ技術に応用される錯化剤を開発することが望まれる。
【0004】
現在、無シアン電気メッキ技術及び用いられる無シアン錯化剤は、主に以下の種類がある。1.ピロリン酸塩銅メッキ: ピロリン酸カリウムを錯化剤とする。ピロリン酸カリウムがより良い錯化性能を有し、銅イオンとピロリン酸根により形成する錯化物が安定定数K1=6.7、K2=9.0であり、ピロリン酸カリウムを錯化剤とするメッキ液の質量が安定し、採用されるプロセス範囲が比較的広い。ただし、以下の問題点が存在する:鉄鋼基体の上で直接メッキを行うことができず、そうでなければ、基体の表面で置換を発生し、これにより結合力が悪くなる。従って、ピロリン酸カリウムを錯化剤とするメッキ液は、応用範囲が限られる。2.クエン酸塩銅メッキ:クエン酸は、より強い錯化能力を有するので、メッキ液中で銅イオンと非常に安定した物質を生成することができる。銅イオンとクエン酸根により形成する錯化物は、安定定数K2=19.30である。該プロセスによりCu-Feメッキを行った基体は、表面で置換現象が現れない。ただし、以下の問題点が存在する。クエン酸を錯化剤とするメッキ液は、質量安定性が充分ではなく、そして、メッキ液の分散性をさらに向上する必要があり、メッキ液が高温で変質する恐れがある。3. HEDP銅メッキ:HEDPは、良好な錯化能力を有する有機ホスフィン酸塩である。多種金属と作用する場合、いずれも比較的安定した物質を生成することができる。HEDPを錯化剤とし製造したメッキ液の質量が安定し、メッキ液の分散性がよい。ただし、以下の問題点が存在する:実際製造においては、該メッキ液のプロセス電流密度範囲が狭く、メッキ層の上で銅末を生成しやすく、また、メッキ液中の鉄不純物が沈殿速度を低下させ、これによりメッキ層と基体との結合力が悪くなることが発見された。従って、HEDPを錯化剤として製造したメッキ液は、広く応用されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、現有技術における無シアン錯化剤不足を解決し、錯化能力が強く、銅イオンとの錯化安定定数が1026〜27に達する錯化剤を提供することにある。
【0006】
また、本発明の目的は、プロセスが簡単で、製造する錯化剤の質量が安定し、純度が高い錯化剤の製造方法を提供することにある。
【0007】
さらに、本発明の目的は、錯化剤の用途を提供することにあり、該錯化剤がメッキ液の製造に応用され、メッキ液の金属に対する錯化能力を向上させ、該錯化剤により製造したメッキ液の質量が安定し、メッキ液の分散性が良く、採用されるプロセス電流密度範囲がより広く、メッキ液の応用範囲が広い。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の技術課題を解決するために、本発明は、以下の技術案を採用する。
MxHyPn03n+1Rzという一般式(式中、Mがアルカリ金属イオン及び NH4+の中のいずれか1種又は多種であり、Rがアシル基であり、x、n及びzがいずれも正の整数であり、yが0又は正の整数であり、x+y+z=n+2)で表される錯化剤。
【0009】
上述の技術案は、以下の例により解釈される。
【0010】
a:x=l、y=lの場合、z=n、錯化剤の一般式が MHPn03n+1Rnであり、その構造式が式(1)で表される。
【0011】
構造式(1)
【化1】
【0012】
b:x=n、y=0の場合、z=2、錯化剤の一般式が MnPn03n+1R2であり、その構造式が式(2)で表される。
【0013】
構造式(2)
【化2】
【0014】
c:x=1、y=n-1の場合、R=2、錯化剤の一般式がMHn-1PnO3n+1R2であり、その構造式が式(1)で表される。
【0015】
構造式(3)
【化3】
【0016】
好ましくは、前記錯化剤の一般式がMxHyPnO3n+1R(式中、MがNa+、K+及びNH4+の中のいずれか1種又は多種であり、Rがアシル基であり、x及びnがいずれも正の整数であり、yが0又は正の整数であり、x+y=n+1)である。
【0017】
上述技術案が以下の例により解釈される。
【0018】
d:y=0の場合、x=n+1、錯化剤の一般式がMn+1Pn03n+1Rであり、その構造式が式(4)で表される。
【0019】
構造式(4)
【化4】
【0020】
e:y=lの場合、x=n、錯化剤の一般式がMnHPn03n+1Rであり、その構造式が式(5)で表される。
【0021】
構造式(5)
【化5】
【0022】
f:y=n-1の場合、x=2、錯化剤の一般式が M2Hn-1PnO3n+1Rであり、その構造式が式(6)で表される。
【0023】
構造式(6)
【化6】
【0024】
錯化剤の製造方法は、以下の工程を有する:Mを含有する塩基、炭酸塩または重炭酸塩とリン酸とR基を有する一塩基有機酸または多塩基有機酸の酸性塩をモル比で混合し反応させ、その後、得られた反応液を100〜800℃の条件で0.5〜10時間ワンステップ重合させ、生成物である錯化剤を得る;あるいは、まず前記反応液を乾燥し、その後、さらに100〜800℃の条件で0.5〜10時間重合させ、生成物である錯化剤を得る。
【0025】
本発明の錯化剤の製造方法では、まず、酸と塩基との中和反応を行い、即ち、Mを含有する塩基、炭酸塩又は重炭酸塩とリン酸とR基を含有する一塩基有機酸又は多塩基有機酸の酸性塩をモル比で混合し、その後、脱水重合反応を行い、生成物である錯化剤を得る。脱水重合の方式は2種がある:1.反応液を回転炉内に直接にスプレーし、100〜800℃の条件でワンステップにより乾燥・重合を達成し、生成物である錯化剤を得る;2.噴霧乾燥又はフラッシュ乾燥の方式により反応液を極短時間で乾燥させ、部分重合による中間体粉末を得、該中間体粉末を馬鍬式乾燥機に似た設備の中に仕込み、100〜800℃で0.5〜10時間重合させ、生成物である錯化剤を得る。
【0026】
好ましくは、MがNa+である場合、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム又は重炭酸ナトリウムとリン酸とR基を含有する一塩基有機酸又は多塩基有機酸の酸性塩をモル比で混合し反応させ、その後、該反応液を200〜400℃の条件で0.5〜10時間ワンステップ重合させ、生成物である錯化剤を得る;或いは、上述の反応液をまず乾燥し、その後、さらに200〜400℃の条件で0.5〜10時間重合させ、生成物である錯化剤を得る。
【0027】
例えば、Mが Na+である。x=l、y=lの場合、z=n、錯化剤の一般式がNaHPnO3n+1Rnであり、R基がアセチル基であり、その構造式が式(7)で表される。
【0028】
構造式(7)
【化7】
【0029】
構造式(7)で表される錯化剤の製造方法は、以下のとおりである:水酸化ナトリウムとリン酸と酢酸をモル比1:n:nで混合し反応させ、反応完了後、反応液をフラッシュ乾燥することで、部分重合による中間体粉末を得、上述の部分重合による中間体粉末を馬鍬式攪拌器内に仕込み、200〜400℃で0.5〜l0時間重合させ、構造式(7)で表される生成物である錯化剤を得る。
【0030】
好ましくは、MがK+である場合、水酸化カリウム、炭酸カリウム又は重炭酸カリウムとリン酸とR基を含有する一塩基有機酸又は多塩基有機酸の酸性塩をモル比で混合し反応させ、その後、250〜800℃の条件で該反応液を0.5〜10時間ワンステップ重合することで、生成物である錯化剤を得る;又は、上述の反応液をまず乾燥し、その後、さらに250〜800℃の条件で0.5〜l0時間重合させることで、生成物である錯化剤を得る。
【0031】
例えば、MがK+である。x=n、y=0の場合、z=2、錯化剤の一般式が KPnO3n+lR2であり、R基がアセチル基であり、その構造式が式(8)で表される。
【0032】
構造式(8)
【化8】
【0033】
構造式(8)で表される錯化剤の製造方法は、以下のとおりである:水酸化カリウムとリン酸と酢酸をモル比n: n: 2で混合し反応させ、反応完了後、該反応液を噴霧乾燥することで、部分重合による中間体粉末を得、上述の部分重合による中間体粉末を馬鍬式攪拌器内に仕込み、250〜800℃で0.5〜10時間重合させ、構造式(8)で表される錯化剤を得る。
【0034】
好ましくは、MがNH4+である場合、アンモニア水、炭酸アンモニウム又は炭酸水素アンモニウムとリン酸とR基を含有する一塩基有機酸又は多塩基有機酸の酸性塩をモル比で混合し反応させ、その後、該反応液を100〜300℃の条件で0.5〜10時間ワンステップ重合させることで、生成物である錯化剤を得る;或いは、上述の反応液をまず乾燥し、その後、さらに100〜300℃の条件で0.5〜10時間重合させることで、生成物である錯化剤を得る。
【0035】
メッキ液の製造に用いられる錯化剤の用途について説明する。
【0036】
好ましくは、前記メッキ液が、銅メッキ、スズメッキ、Cu-Zn合金メッキ、Cu-Sn合金メッキ、Ni-Sn合金メッキ、Ni-Co合金メッキ、Sn-Co合金メッキ及びNi-Sn-Co合金メッキの中のいずれか1種である。
【0037】
好ましくは、前記メッキ液における錯化剤の含有量が、質量パーセントで1〜60%である。
【0038】
本発明は、以下の優れた効果を有する:原料の来源が広く、価格が安く、製造プロセス、運輸、ストレージ及び使用がいずれもしやすく、かつ製造コストが低い;本発明の錯化剤がメッキ液の製造に応用され、加工が便利で、得られたメッキ液の金属に対する錯化能力が強く、例えば、本発明の錯化剤の銅イオンに対する錯化定数が1026〜27に達し、従来の技術における常用の錯化剤よりはるかに優れる。該錯化剤により製造したメッキ液の質量が安定し、メッキ液の分散性が良く、採用されるプロセス電流密度の範囲がより広く、メッキ液の応用範囲が広い。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明の技術案を更に詳細に説明する。
【0040】
以下の各実施例中の試薬又は原料は、いずれも市販の通常の原料であり,純度が分析純(Analytical reagent)である。(実施例1)
【0041】
錯化剤が MxHyPn03n+lRz(式中、x=3、y=0、n=2、z=l、MがK+であり、Rがアセチル基である)という一般式で表され、その具体的な構造式が以下のとおりである。
【0042】
【化9】
【0043】
該錯化剤の製造方法が以下のとおりである。水酸化カリウム、リン酸及び酢酸をモル比3:2:1で混合し反応させ、該反応液を噴霧乾燥することで、部分重合による中間体粉末を得る。該中間体粉末を馬鍬式乾燥機に仕込み、250℃で10時間重合反応を行う。重合反応完了後、生成物である錯化剤を得る。
(実施例2)
【0044】
錯化剤がMxHyPn03n+lRz(式中、x=3、y=0、n=3、z=2、Mが K+及びNa+であり、Rがアセチル基である)という一般式で表され、 その具体的な構造式が以下のとおりである。
【0045】
【化10】
【0046】
該錯化剤の製造方法が以下のとおりである。水酸化ナトリウム、リン酸及び酢酸をモル比 3:3:2で混合し反応させ、該反応液をフラッシュ乾燥することで、部分重合による中間体粉末を得る。該中間体粉末を馬鍬式乾燥機に仕込み、200℃で10時間重合反応を行う。重合反応完了後、生成物である錯化剤を得る。
(実施例3)
【0047】
錯化剤は、MxHyPn03n+lRz(式中、x=5、y=0、n=5、z=2、MがNa+であり、Rがアセチル基、及び酒石酸水素ナトリウム脱水によるアシル基である)という一般式で表され、その具体的な構造式が以下のとおりである。
【0048】
【化11】
【0049】
該錯化剤の製造方法が以下のとおりである。重炭酸ナトリウム、リン酸、酢酸及び酒石酸水素ナトリウムをモル比5:5:1:1で混合し反応させ、その後、反応液をフラッシュ乾燥することで、部分重合による中間体粉末を得る。該中間体粉末を馬鍬式乾燥機に仕込み、400℃で0.5時間重合反応を行う。重合反応完了後、生成物である錯化剤を得る。
(実施例4)
【0050】
錯化剤は、MxHyPn03n+lRz(式中、x=10、y=l、n=10、z=l、MがK+及び Na+であり、Rが酒石酸水素ナトリウム脱水によるアシル基である)という一般式で表され、その具体的な構造式が以下のとおりである。
【0051】
【化12】
【0052】
該錯化剤の製造方法が以下のとおりである。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸及び酒石酸水素ナトリウムをモル比1:9:10:1で混合し反応させ、該反応液を噴霧乾燥することで、部分重合による中間体粉末を得る。該中間体粉末を馬鍬式乾燥機に仕込み、800℃で0.5時間重合反応を行う。重合反応完了後、生成物である錯化剤を得る。
(実施例5)
【0053】
錯化剤は、MxHyPn03n+lRz(式中、x=10、y=l、n=10、z=l、MがNa+であり、Rがクエン酸水素二ナトリウム脱水によるアシル基である)という一般式で表され、その具体的な構造式が以下のとおりである。
【0054】
【化13】
【0055】
該錯化剤の製造方法が以下のとおりである。炭酸ナトリウム、リン酸及びクエン酸水素二ナトリウムをモル比5:10:1で混合し反応させ、該反応液をフラッシュ乾燥することで、部分重合による中間体粉末を得る。該中間体粉末を馬鍬式乾燥機に仕込み、400℃で0.5時間重合反応を行う。重合反応完了後、生成物である錯化剤を得る。
(実施例6)
【0056】
錯化剤は、MxHyPn03n+lRz(式中、x=l、y=100、n=100、z=l、MがNa+であり、Rがアラニン脱水によるアミド基である)という一般式で表され、その具体的な構造式が以下のとおりである。
【0057】
【化14】
【0058】
該錯化剤の製造方法が以下のとおりである。重炭酸ナトリウム、リン酸及びアラニンをモル比1:100:1で混合し反応させ、該反応液をフラッシュ乾燥することで、部分重合による中間体粉末を得る。該中間体粉末を馬鍬式乾燥機に仕込み、300℃で2.5時間重合反応を行う。重合反応完了後、生成物である錯化剤を得る。
(実施例7)
【0059】
錯化剤は、MxHyPn03n+lRz(式中、x=l、y=100、n=100、z=l、MがNa+であり、Rがアセチル基である)という一般式で表され、その具体的な構造式が以下のとおりである。
【0060】
【化15】
【0061】
該錯化剤の製造方法が以下のとおりである。炭酸水素ナトリウム、リン酸及び酢酸をモル比1:100:1で混合し反応させ、該反応液をフラッシュ乾燥することで、部分重合による中間体粉末を得る。該中間体粉末を馬鍬式乾燥機に仕込み、300℃で2.5時間重合反応を行う。重合反応完了後、生成物である錯化剤を得る。
(実施例8)
【0062】
錯化剤は、MxHyPn03n+lRz(式中、x=3、y=0、n=2、z=l、MがNa+であり、Rがメチルリン酸脱水によるアシル基である)という一般式で表され、その具体的な構造式が以下のとおりである。
【0063】
【化16】
【0064】
該錯化剤の製造方法が以下のとおりである。水酸化ナトリウム、リン酸及びメチルリン酸をモル比3:2:1で混合し反応させ、該反応液をフラッシュ乾燥することで、部分重合による中間体粉末を得る。該中間体粉末を馬鍬式乾燥機に仕込み、300℃で5時間重合反応を行う。重合反応完了後、生成物である錯化剤を得る。
【0065】
上述錯化剤は、メッキ液の製造に応用され、前記メッキ液が銅メッキ、スズメッキ、 Cu-Zn合金メッキ、Cu-Sn合金メッキ、Ni-Sn合金メッキ、Ni-Co合金メッキ、Sn-Co合金メッキ及びNi-Sn-Co合金メッキの中のいずれか1種である。
【0066】
以下、銅メッキ電気メッキ液を例として、具体的に以下のとおりである。
(実施例9)
【0067】
実施例7で製造した錯化剤を使用し、無シアン系銅プレメッキのメッキ液を製造する。前記メッキ液の製造方法は、以下のとおりである。
【0068】
(1)銅塩の製造:実施例7で製造した錯化剤と硫酸銅をモル比2:1で均一に混合し、常温で1.0時間反応させる。反応完了後、遠心分離・乾燥により銅塩を得る。該銅塩の構造式は以下のとおりである。
【0069】
【化17】
【0070】
(2)メッキ液の製造:1% (質量パーセント)の実施例7の錯化剤、0.5%の工程(1)で製造した銅塩、及び98.5%の純化水を比例で均一に混合する。その後、水酸化カリウムでpH値を8.5に調整することで、無シアン系銅プレメッキのメッキ液を得る。
(実施例10)
【0071】
実施例8で製造した錯化剤を使用し、無シアン系銅プレメッキのメッキ液を製造する。前記メッキ液の製造方法が以下のとおりである。
【0072】
(1)銅塩の製造:実施例8で製造した錯化剤と硫酸銅をモル比2:3で均一に混合し、常温で1.0時間反応させる。反応完了後、遠心分離・乾燥により銅塩を得る。該銅塩の構造式が以下のとおりである。
【0073】
【化18】
【0074】
(2)メッキ液の製造:60% (質量パーセント)の実施例1の錯化剤、5%の工程(1)で得られた銅塩、及び35%の純化水を比例で均一に混合する。その後、水酸化カリウムでpH値を9.5に調整することで、銅プレメッキのメッキ液を得る。
【0075】
実施例9及び10で製造した無シアン系銅プレメッキのメッキ液に対して、以下の研究を行う。
【0076】
1.ハルセル試験(Hull cell test)(267ml)
1.1予備試験:実施例9及び実施例10で得られたメッキ液を使用して、温度25℃,電流1A (安定電流)、空気攪拌の条件でメッキ片に対するテストを5分間行う。メッキ片に対するテストの過程中では、以下の特徴を観察した。安定電流の条件でも、槽圧が比較的に安定し、かつメッキ片の比較的大きい面積で半光沢が現れ、結晶が細緻である。
【0077】
1.2 ハルセル試験による電流密度範囲の決定:
実施例9及び実施例10で製造したメッキ液を使用して、温度55℃、電流1A、時間10分間のメッキ片に対するハルテストにより最適の電流密度範囲を確定する。メッキ片に対するテストに用いられるシートは、600♯耐水研磨紙で研磨した0.5*70*100のA3鋼片を採用する。経験公式 Jk=I(5.1-5.24LgL)を参考とし、試験片の各点の電流密度を計算する。メッキ片に対するテスト及び電流密度計算から分かるように、実施例9及び実施例10で得られたメッキ液の電流密度範囲が0.5A/dm2〜2.5A/dm2である。
【0078】
2.メッキ液及びメッキ性能テスト
2.1電流効率の測定:銅クーロンメーターにより測定する。実施例9で得られたメッキ液の電流效率が93.0%であり、実施例10で得られたメッキ液の電流効率が93.8%である。
【0079】
2.2 メッキ液の分散能力の測定:屈曲陰極法によりメッキ液の分散能力を測定する。条件は以下のとおりである。電流1A;無油空気攪拌;温度55℃;時間30分;試料が600♯耐水研磨紙で研磨した0.5*70*100のA3銅片を採用する。
【0080】
測定結果から明らかなように、実施例9のメッキ液の分散能力が93.5%であり、実施例10のメッキ液の分散能力が93.1%である。
【0081】
2.3 被覆力の測定:インナーポール法によりメッキ液の被覆力を測定する。銅管サイズが10mm×100mmである。通り穴及び止まり穴法を採用し、メッキ液の温度が55℃であり、陰極の電流密度が 0.5A/dm2であり、時間が5分間である。実験した後、鉄パイプを切り開いて、管内におけるメッキ層の状況を観察する。
【0082】
実施例9及び10のメッキ液を実験メッキ液とする。実験完了後、通り穴及び止まり穴に全て銅層をメッキしたことを確認した。以上から明らかなように、実施例9及び実施例10で製造したメッキ液が優れた被覆力を有する。
【0083】
2.4 結合力テスト
2.4.1曲げ実験:厚さ0.5mmの研磨鉄片(A3)を採用する。メッキ液の温度が55℃であり、陰極の電流密度が2A/dm2であり、時間が15分間である。
【0084】
実施例9及び10のメッキ液を実験メッキ液とする。実験完了後、メッキした試験片を繰り返し曲げることで断裂させる。裂け目での無脱皮現象から明らかなように、メッキ層と基体とが分離していない。
【0085】
2.4.2熱衝撃試験: 厚さ0.5mmの研磨鉄片(A3)を採用し、メッキ液の温度が55℃であり、陰極の電流密度が2A/dm2であり、時間が15分間である。
【0086】
実施例9及び10のメッキ液を実験メッキ液とする。実験完了後、メッキした試験片をオーブンに置き、200℃に焼く。1時間連続的に焼く。取り出した後、すぐに0℃の水中でクエンチングを行う。その結果、メッキ層で起泡及び脱皮現象は発見されなかった。
【0087】
2.5 メッキ層靭性実験:厚さ1mmのA3鋼片をクロム酸で鈍化し、洗浄した後、直接実施例9及び10で得られたメッキ液の中に掛ける。メッキ層の厚さが20μmに達した後、メッキ層を剥離する。該メッキ層を180°まで屈曲し、かつ屈曲部を押し出す。メッキ層が断裂していない。これから明らかなように、メッキ層の靭性が良い。
【0088】
2.6メッキ層空隙率実験:厚さ0.5mmの抛光鉄片(A3)を採用する。メッキ液の温度が55℃であり、陰極の電流密度が1A/dm2であり、時間が20分間である。
フェリシアン酸カリウム溶液による濾紙貼り付け実験法を採用し空隙率実験を行う。
【0089】
フェリシアン酸カリウム10g/L; 塩化ナトリウム20g/L。
【0090】
実験の結果から明らかなように、実施例9及び実施例10で得られたメッキ液を実験対象とし形成したメッキ層が、いずれも空隙率≦1個/dm2である。
【0091】
2.7 堆積速度の測定:電流を1A、温度を55℃、時間を30分間とする。測定結果から明らかなように、実施例9で得られたメッキ液の堆積速度が0.6μm/minであり、実施例10で得られたメッキ液の堆積速度が0.52μm/minである。
【0092】
さらに、実施例9及び実施例10で得られたメッキ液に対して中間試験を行う。中間試験のプロセスパラメータが、以下のとおりである:
【0093】
プロセスフロー:鉄鋼部品→超音波油抜き→水洗1→水洗2→陽極電解油抜き→水洗1→水洗2→酸洗い油抜き→水洗1→水洗2→塩酸洗い→水洗1→水洗2→端子電解油抜き→水洗1→水洗2→酸活性化→水洗1→水洗2→実施例9又は10のメッキ液→回収→水洗 1→水洗2→酸活性化→酸銅。
【0094】
超音波油抜き:オイル抜きパウダーの濃度50±5g/L、温度70±5℃、電流密度l-5A/dm2、時間5分。
【0095】
陰極電解除油: 電解オイル抜きパウダーの濃度 50±5g/L、温度70±5℃、電流密度 1-5A/dm2、時間5〜7分。
【0096】
陽極電解除油: 電解オイル抜きパウダーの濃度 50±5g L、温度70±5℃、電流密度 1-5A/dm2、時間3〜5分。
【0097】
酸洗い:工業塩酸の濃度 15〜20%、時間8〜10分、室温。
【0098】
活性化:工業塩酸の濃度 5〜10%、時間3〜5分、室温。
【0099】
実施例9又は10のメッキ液: ボーメ度32-36;pH値8.5〜9.5;温度50〜55℃;電流密度0.5〜2.5A/dm2;時間が異なり、5分〜数時間である。実験結果から明らかなように、100μmにメッキしても平整性及び光沢度が非常に良い。
【0100】
50Lの中間試験でメッキ生産ラインを20ヶ月連続で実行させ、350Lの中間試験でメッキ生産ラインを11ヶ月連続で実行させる。これにより、実施例9又は10で得られたメッキ液が信頼性を有し、メッキ液の性能が安定し、メッキ液の消耗が10〜50ml/KAHであることを検証した。
【0101】
上述の中間試験に基づいて、実施例9又は10で得られたメッキ液を工業化生産に応用される時のプロセス条件がわかる。
【0102】
1.鉄鋼部品:
プロセスフロー:鉄鋼部品→超音波油抜き→水洗 1→水洗 2→陽極電解油抜き→水洗1→水洗2→酸洗い油抜き→水洗1→水洗2→塩酸洗い→水洗1→水洗2→端子電解油抜き→水洗1→水洗2→酸活性化→水洗1→水洗2→予備含浸→実施例9又は10のメッキ液→回収→水洗1→水洗2→酸活性化→酸銅。
【0103】
プロセス条件:
メッキ液密度:32〜36ボーメ度
温度:45〜60℃
pH値:8.60〜9.50
攪拌:空気攪拌プラス陰極移動
陽極:電解銅又は無酸素電解銅
陰陽極面積比:1:1.5〜2
電流:0.5〜2.5A/dm2
【0104】
2.亜鉛合金部品:
プロセスフロー:亜鉛合金部品→熱浸蝋除去→超音波蝋除去→水洗1→水洗2→超音波油抜き→水洗1→水洗2→陽極電解油抜き→水洗1→水洗2→酸塩活性化→水洗1→水洗2→超音波予備含浸液予備含浸30s→実施例9又は10のメッキ液(帯電入槽25〜35℃)→回収→水洗1→水洗2→酸活性化→酸銅。
【0105】
プロセス条件:
メッキ液密度:32〜38ボーメ度
温度:25〜35℃
pH値:8.60〜9.50
攪拌:空気攪拌プラス陰極移動
陽極:電解銅又は無酸素電解銅
陰陽極面積比:1:1.5〜2
電流:0.5〜1.5A/dm2
【0106】
上述の実施例は、本発明の好ましい実施形態にすぎない。本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。請求の範囲に記載の技術案を超えない場合、その他の改変及び代替を行っても良い。
【国際調査報告】