【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ベクターを使用して発作病巣内のニューロンの制限されたサブセットの興奮性を変更することができる改変された受容体を発現させる新規の処置システムを開発したのであるが、このシステムでは、特異的な外因性リガンドも投与した場合にのみ受容体が活性化される。
【0010】
該受容体は、内在性神経伝達物質に対しては非感受性であるが、通常は脳機能に影響を及ぼさない物質に対しては感受性になるように、突然変異させた受容体である。
【0011】
このように改変された受容体はそれ自体公知であり(例えば10、11、24)、当該文献ではDREADD(デザイナー薬物によって排他的に活性化されるデザイナー受容体(Designer Receptors Exclusively Activated by Designer Drugs))およびRASSL(合成リガンドによってのみ活性化される受容体(Receptors Activated Solely by Synthetic Ligands))と称されている。しかし、そのような改変された受容体は、以前にてんかんの治療における使用については提案されたことはない。本明細書に記載の当該技術のいくつかは、現在特許請求されている優先日の後に公開されたものである(26)。
【0012】
例として、本発明者らは、hM4Diと称される抑制性DREADD GPCRを焦点性てんかんのin vivoモデルにおいて発現させることにより、特異的なリガンドCNO(クロザピン−N−オキシド)を全身投与すると発作を減少させることが可能になることを実証した。これを、急性発作の2つのモデルにおいて試験し、慢性薬剤耐性てんかんのモデルにおいても試験し、脳内の電気的活動(脳波−EEG)を分析するためにいくつかの補完的な方法を適用した。当該治療は耐容性がよく、CNOが脳内に存在する持続時間のみ、単回の腹腔内注射後およそ45〜60分にわたって発作が抑止された。
【0013】
本発明の治療は、ウイルスベクターを注射する脳領域とその領域内の細胞型の両方を標的とすることができ、したがって、リガンドを送達した際の効果を有効に局在化させることができ、また、リガンドの非存在下では、脳機能に対するいかなる影響も予測されない。
【0014】
したがって、当該療法は、標的化かつ時間的に限定されるものである。本発明の実施例において使用したてんかんの前臨床モデルは全身性薬物に応答しないものであり、これにより、本発明が現在有効に治療されていない患者において有用性を有することが示唆される。
【0015】
したがって、本発明の一態様では、発作性障害に罹患している患者において前記障害を治療する方法であって、
(a)前記患者に、改変された受容体をコードするベクターを投与する工程であって、改変された受容体が、(i)その内在性活性化リガンドに対する応答性が低下していること、(ii)外因性アゴニストに対する応答性が保持または増強されていることを特徴とし、
前記改変された受容体が、患者の脳内の発作病巣のニューロンにおいて発現される工程と、
(b)前記患者に前記外因性アゴニストを投与する工程であって、
それによって、患者の脳内に前記アゴニストが存在することにより前記改変された受容体が活性化され、
それによって、前記改変された受容体が活性化することにより、発作病巣内のニューロンの興奮性が可逆的に変更、好ましくは抑制される工程と
を含む方法が提供される。
【0016】
別の態様では、例えば哺乳動物の脳内の興奮性ニューロンの興奮性を領域特異的かつ時間特異的に、選択的に抑制するための方法であって、
(a)前記哺乳動物に、改変された受容体をコードするベクターを投与する工程であって、改変された受容体が、(i)その内在性活性化リガンドに対する応答性が低下していること、(ii)外因性アゴニストに対する応答性が保持または増強されていることを特徴とし、
前記改変された受容体が、哺乳動物の脳内の前記ニューロンにおいて発現される工程と、
(b)前記哺乳動物に前記外因性アゴニストを投与する工程であって、
それによって、患者の脳内に前記アゴニストが存在することにより前記改変された受容体が活性化され、
それによって、前記改変された受容体が活性化されることによりニューロンの興奮性が抑制される工程と
を含む方法が提供される。
【0017】
他の実施形態では、興奮性受容体の活性化により抑制性ニューロンの活性化を導くことができ、それにより、シナプスのサイレンシングまたは抑制などの抑制性応答がさらに導かれる。
【0018】
哺乳動物は、非ヒト哺乳動物、例えば、げっ歯類(例えばマウス、ラット)などの試験動物または霊長類であってよい。哺乳動物は、トランスジェニック哺乳動物であってよい。そのような試験動物により本発明の別の態様が形成される。
【0019】
関連する態様では、患者または哺乳動物は、当該方法を実施する前に、ベクターを予め投与されていてよい。
【0020】
本発明は、発作性障害に罹患している患者における前記障害の治療方法において使用するための、改変された受容体をコードするベクター、および前記受容体に対する外因性アゴニストであって、治療が、
(a)前記患者に前記ベクターを投与する工程であって、改変された受容体が、(i)その内在性活性化リガンドに対する応答性が低下していること、(ii)外因性アゴニストに対する応答性が保持または増強されていることを特徴とし、
前記改変された受容体が、患者の脳内の発作病巣のニューロンにおいて発現される工程と、
(b)前記患者に前記外因性アゴニストを投与する工程であって、
それによって、患者の脳内に前記アゴニストが存在することにより前記改変された受容体が活性化され、
それによって、前記改変された受容体が活性化されることにより発作病巣内のニューロンの興奮性が可逆的に変更される工程と
を含む、改変された受容体をコードするベクター、および前記受容体に対する外因性アゴニストも提供する。
【0021】
本発明は、発作性障害に罹患している患者における前記障害の治療方法において使用するための、改変された受容体をコードするベクターであって、治療が、
(a)前記患者に前記ベクターを投与する工程であって、改変された受容体が、(i)その内在性活性化リガンドに対する応答性が低下していること、(ii)外因性アゴニストに対する応答性が保持または増強されていることを特徴とし、
前記改変された受容体が、患者の脳内の発作病巣のニューロンにおいて発現される工程と、
(b)前記患者に前記外因性アゴニストを投与する工程であって、
それによって、患者の脳内に前記アゴニストが存在することにより前記改変された受容体が活性化され、
それによって、前記改変された受容体が活性化されることにより発作病巣内のニューロンの興奮性が可逆的に変更される工程と
を含む、改変された受容体をコードするベクターも提供する。
【0022】
本発明は、発作性障害に罹患している患者における前記障害の治療方法において使用するための、外因性アゴニストであって、治療が、
(a)前記患者に、改変された受容体をコードするベクターを投与する工程であって、改変された受容体が、(i)その内在性活性化リガンドに対する応答性が低下していること、(ii)外因性アゴニストに対する応答性が保持または増強されていることを特徴とし、
前記改変された受容体が、患者の脳内の発作病巣のニューロンにおいて発現される工程と、
(b)前記患者に前記外因性アゴニストを投与する工程であって、
それによって、患者の脳内に前記アゴニストが存在することにより前記改変された受容体が活性化され、
それによって、前記改変された受容体が活性化されることにより発作病巣内のニューロンの興奮性が可逆的に変更される工程と
を含む、外因性アゴニストも提供する。
【0023】
本発明は、発作性障害に罹患している患者における前記障害の治療方法において使用するための、外因性アゴニストであって、前記患者が、改変された受容体をコードするベクターを予め投与されており、改変された受容体が、(i)その内在性活性化リガンドに対する応答性が低下していること、(ii)外因性アゴニストに対する応答性が保持または増強されていることを特徴とし、
前記改変された受容体が、患者の脳内の発作病巣のニューロンにおいて発現され、
治療が、前記患者に前記外因性アゴニストを投与する工程であって、
それによって、患者の脳内に前記アゴニストが存在することにより前記改変された受容体が活性化され、
それによって、前記改変された受容体が活性化されることにより発作病巣内のニューロンの興奮性が可逆的に変更される工程
を含む、外因性アゴニストも提供する。
【0024】
治療方法または療法を以下により詳細に記載する。
【0025】
本発明は、本明細書に記載の治療方法または療法において使用するための医薬の調製における、本明細書で定義されているベクターおよび/またはアゴニストの使用も提供する。
【0026】
ここで本発明のいくつかの特定の態様をより詳細に考察する。
【0027】
受容体
上記の通り、人工的なアゴニストによってのみ活性化されるように改変された受容体は、何年にもわたって当技術分野で公知であり、時には、DREADDまたはRASSLと称される。
【0028】
当業者は、公知の方法を使用し、本開示を考慮し、次いで本発明において適用することによってそのような受容体をもたらすことができる。「改変された受容体」など、DREADDおよびRASSLという用語は、文脈により別段の指定のない限り、本明細書では互換的に使用される。
【0029】
例えば、WO97/35478には、RASSLの調製が記載されている。RASSLの調製および特性についてのその記載に関するその出願の内容は、参照により本明細書に具体的に組み込まれる。WO97/35478では、Gi共役型アセチルコリンムスカリン性受容体を含めたGタンパク質共役型受容体からRASSLをどのように調製することができるかが教示されている。内容には、「RASSLの構築」についての記載、WO97/35478の20〜30頁が含まれる。さらに、WO97/35478からのRASSLに関するある特定の定義をそれらの技術分野で理解されている意味と一貫させるために本明細書で使用する。そこで記載されているRASSLは、GPCRの特定の天然の(すなわち内在性の)リガンドに対する結合親和性が低下しているが(野生型Gタンパク質共役型受容体による、特定のリガンドの結合と比較して)、外因性の、一般には、合成の、小分子に対する結合親和性は正常である、ほぼ正常である、または好ましくは増強された、改変されたGタンパク質共役型受容体である。したがって、RASSL発現細胞のRASSL媒介性活性化は、in vivoにおいて天然のリガンドの存在下では有意な程度では起こらないが、外因的に導入された小分子に曝露すると有意に応答する。言い換えると、RASSLは、天然のリガンドと比較して外因性リガンドによって優位に活性化される(すなわち、小分子リガンドの結合により、同様の濃度の特定の天然のリガンドとの結合によるよりも大きくまたはより有意な程度に活性化される)。
【0030】
GPCR
本発明において使用するための好ましい受容体は、通常は脳に存在しない合成小分子に結合する改変されたGタンパク質共役型受容体(GPCR)である。
【0031】
本明細書に記載の方法には、真核細胞、特に哺乳動物の脳内のニューロンにおけるGタンパク質媒介性細胞応答に影響を及ぼすまたはそれを誘導するという目的があり得る。ニューロンは、一般には、改変されたGPCRをコードするベクターで形質転換された、神経集団内の神経細胞である。
【0032】
「Gタンパク質共役型受容体」とは、本明細書で使用される場合、その天然のリガンドに結合し、受容体が活性化されると、細胞応答をもたらすGタンパク質媒介性シグナル(複数可)を伝達する受容体を意味する。Gタンパク質共役型受容体は、進化的に関連するタンパク質の大きなファミリーを形成する(WO97/35478参照)。Gタンパク質共役型受容体ファミリーのメンバーであるタンパク質は、一般に、7つの推定膜貫通ドメインで構成される。Gタンパク質共役型受容体は、「7回膜貫通セグメント(7TM)受容体」として、および「ヘプタヘリカル受容体」としても当技術分野で公知であった(例えば、Schwartz、1994、Curr. Opin. Biotechnol. 5: 434-444を参照されたい)。
【0033】
GPCRは、ヘテロ三量体グアニンヌクレオチド結合タンパク質(Gタンパク質)の複合体と相互作用し、したがって、イオンチャネルを含めた多種多様な細胞内シグナル伝達経路を調節する。したがって、本明細書では、「Gタンパク質共役細胞応答」とは、リガンドとGタンパク質共役型受容体が結合すると起こる細胞応答またはシグナル伝達経路を意味する。本発明に関連するそのようなGタンパク質共役細胞応答は、ニューロン興奮性を改変して、神経伝達を改変するものである。好ましい応答は抑制性応答であり、それによって、リガンドを用いた受容体の活性化によりシナプスのサイレンシングまたは抑制が引き起こされる。
【0034】
GPCRによりニューロン興奮性を改変して、神経伝達を改変することができる1つの機構は、例えば、シナプス前カルシウムチャネルに対する影響を介した神経伝達物質放出の抑制を通じたものである。
【0035】
GPCRによってニューロン興奮性を改変して、神経伝達を改変することができる別の機構は、Gタンパク質を介したGタンパク質共役型内向き整流性カリウムチャネル(GIRK)との共役を通じたものである。したがって、本発明では、Gタンパク質共役細胞応答は、膜過分極およびニューロン抑制である(11)。
【0036】
本発明の好ましい改変された受容体は、これらの細胞応答または活性の一方または両方をもたらすGPCRである。
【0037】
M2−ムスカリン性受容体、A
1−アデノシン受容体、α
2−アドレナリン作動性受容体、D
2−ドーパミン受容体、μ−オピオイド受容体、δ−オピオイド受容体、およびκ−オピオイド受容体、5−HT
1Aセロトニン受容体、ソマトスタチン受容体、ガラニン受容体、m−Glu受容体、GABA
B受容体、およびスフィンゴシン−1−リン酸受容体を含めた多種多様なGタンパク質共役型受容体によりGIRKが活性化される(Yamada M、Inanobe A、Kurachi Y(1998年12月). "G protein regulation of potassium ion channels". Pharmacological Reviews 50(4): 723-60)。
【0038】
GIRKSを活性化する好ましいGPCRは、コリン作動性受容体としても公知のムスカリン性アセチルコリン受容体M
4である。この受容体は、ヒトでは、CHRM4遺伝子によりコードされるタンパク質であり、本明細書ではhM4と称される。これは、G
iアルファサブユニット(またはG
i/GoまたはGiタンパク質)と共役している。hM4Di活性化により、シナプス前カルシウムチャネルに対する影響によってほぼ確実に媒介される神経伝達物質放出も抑制されると考えられる。この活性は、Leveyら、J Neurosci 15:4077−4092、1995;およびShirey JKら、Nat Chem Biol 4:42−50、2008によって以前報告されたM
4ムスカリン性受容体のシナプス前の分布および作用に関する証拠と一致する。)
【0039】
別の適切なGPCRは、hM3Dq(hM3Dとしても公知−27参照)であり得る。これは、興奮性受容体であるが、本発明の実施形態では、抗てんかん作用を実現するために抑制性ニューロンにおいて発現させることができる。
【0040】
本明細書で使用される改変された受容体(RASSL)は、その対応するネイティブなGタンパク質共役型受容体に対して、RASSLが、特定の天然のリガンドに対して、リガンドとその対応するネイティブなGタンパク質共役型受容体の結合と比較して低減している、好ましくは実質的に低減している、より好ましくは実質的に排除されている結合を示すという点で改変されている。
【0041】
したがって、RASSL活性は、特定の天然のリガンド(例えば、アセチルコリン)の天然のゆらぎによっては比較的影響を受けない。特定の天然のリガンドのRASSL結合は、RASSLの対応するネイティブなGタンパク質共役型受容体との結合と比較して少なくとも5分の1、好ましくは10分の1、より好ましくは50分の1、さらにより好ましくは75分の1に低減していることが好ましく、100分の1以下に低減していてよい。
【0042】
RASSLは、合成リガンド結合親和性と特定の天然のリガンドの結合親和性の比によっても特徴づけることができる。本発明のRASSLの示す小分子リガンド結合と特定の天然のリガンドの結合の比は高いことが好ましく、少なくとも0.8、好ましくは少なくとも1.0、より好ましくは少なくとも5、なおより好ましくは10、さらにより好ましくは100以上の小分子リガンド:特定の天然のリガンドの結合比を示す。
【0043】
RASSLは、ネイティブなGタンパク質共役型受容体の小分子リガンド:特定の天然のリガンドの結合比の2倍超、好ましくは5倍超、より好ましくは10倍超、なおより好ましくは50〜100倍超の結合比を示すことが好ましい。
【0044】
RASSLは、合成リガンドへの曝露による活性化のレベルと特定の天然のリガンドへの曝露による活性化のレベルの比(「活性化比」)によっても特徴づけることができる。活性化レベルは、下記の通り測定することができる。本発明のRASSLの示す小分子リガンド活性化と特定の天然のリガンドによる活性化の比は高いことが好ましく、少なくとも0.8、好ましくは少なくとも1.0、より好ましくは少なくとも5、なおより好ましくは10、さらにより好ましくは100以上の小分子リガンド:特定の天然のリガンドによる活性化比を示す。RASSLは、ネイティブなGタンパク質共役型受容体の小分子リガンド:特定の天然のリガンドによる活性化比の2倍超、好ましくは5倍超、より好ましくは10倍超、なおより好ましくは50〜100倍超の活性化比を示すことが好ましい。
【0045】
チャネル電気生理学的試験を(11、補足の材料および方法)に記載の通り実施することができる。簡単に述べると、Quantum Prep Cytofectene Transfection Reagent(Bio-Rad)を使用して受容体をHEK(tsA201細胞)細胞に2:1:1(2 GPCR:1 GIRK1:1 GIRK2)のモル比で一過性にトランスフェクトする。GIRKチャネル媒介性K
+電流のトランスフェクト後(12〜24時間)発現を、−100から、それらの内向き整流特性による0mVから+50mVまでの50−ms電圧勾配によって検証する。以下の細胞外記録溶液および細胞内記録溶液を使用する;細胞外(20mMのNaCl/120mMのKCl/2mMのCaCl
2/1mMのMgCl
2/10mMのHepes−NaOH、KOHを用いてpH7.3)、細胞内(100mMのK−アスパラギン酸/40mMのKCl/5mMのMgATP/10mMのHepes−KOH/5mMのNaCl/2mMのEGTA/2mMのMgCl
2/10mMのGTP、KOHを用いてpH7.3)。電流が同定されたら、HEK細胞を−60mVで15〜60秒にわたって電圧固定し、急速灌流システム(ALA Scientific Instruments、Westbury、NY)を使用して10mMのCChまたはCNOを直接細胞上に2秒にわたって適用する。
【0046】
代替として、Tomlinson SE、Rajakulendran S、Tan SVら、J Neurol Neurosurg Psychiatry 2013;84:1107−1112に基づく方法を利用することができる。プラスミドpMT2LFに含有される、GPCR、GIRKサブユニットおよび緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするcDNAをヒト胚腎臓(HEK)細胞にリポフェクタミン2000(Invitrogen)を使用して2:1:1:1(2 GPCR:1 GIRK1:1 GIRK2:1 GFP)のモル比で一過性にトランスフェクトする。トランスフェクトの36〜72時間後に記録を行う。細胞全体パッチクランプ記録を室温で実施する。外液は、NaCl
2 135;KCl 4;MgCl
2 1;CaCl
2 2;HEPES 10(mM単位)を含有する。ピペット溶液は、NaCl 135;KCl 2.5;EGTA 2;HEPES 10(mM単位)を含有する。ピペット抵抗は、細胞内溶液を満たした場合2〜4MΩである。GFPを発現する細胞は−80mVで保持され、直列抵抗は代償性ではない。直列抵抗が10MΩを超える細胞は廃棄する。−P/4プロトコールを使用してリーク電流を引く。Axopatch 200BまたはAxoclamp 700B増幅器(Molecular Devices)を使用して電流を記録する。データを取得し、LabView software(National Instruments)を使用して解析する。
【0047】
培養した海馬ニューロンの膜電位をモニタリングするために、スプラーグドーリーラットの仔(Zivic Miller Inc.、Pittsburgh、PA)を出生後1日目に屠殺し、海馬ニューロンを解離させ、カバーガラス上で培養する。ニューロン(10〜14日齢)にシンドビスウイルスを感染させ、感染後12〜24時間を記録のために使用した。その代わりに、好ましくは、レンチウイルスを使用することができる。簡単に述べると、GPCRおよびGFPを発現するレンチウイルスを、ニューロンをプレーティングした1日後に添加し、14日後にin vitroで記録を得る(Heeroma J H、Henneberger C、Rajakulendran S、Hanna MG、Schorge S、Kullmann DM、Disease Models & Mechanisms 2、612-619、2009)。海馬ニューロンを細胞外緩衝液(172mMのNaCl/2.4mMのKCl/10mMのHepes/10mMのグルコース/4mMのCaCl
2/4mMのMgCl
2、pH7.3)および細胞内緩衝液(145mMのK
+グルコン酸塩/15mMのHepes/1mMのK
+−EGTA/4mMのNa−ATP/0.4mMのNa−GTP、pH7.3)において記録する。海馬ニューロンの膜電位の変化を電流固定モードで実施し、上記の通りCChまたはCNOを細胞に直接適用する。活動電位発火を記録するために、10μMのビククリン(Sigma)を細胞外記録溶液に添加して海馬ニューロンへの抑制性インプットを遮断する。Multiclamp 700B(Molecular Devices)増幅器を用いてパッチクランプ記録を実施する。電流を10kHzでデジタル化し内蔵10−kHz3極ベッセルフィルタ(フィルタ1)、連続して2.9−kHz4極ベッセルフィルタ(フィルタ2)を用いてフィルタにかける。
【0048】
シナプス伝達に対するGPCRの影響を特徴づけるために、GPCRおよび蛍光レポータータンパク質mCitrineを発現するアデノ随伴ウイルス血清型5(AAV5)1μlを雄スプラーグドーリーラット(生後4週間)の背側海馬CA3亜領域に、ブレグマから3.6mm側方(右側)、2.8mm後側および2.9mm腹側に毎分100nlで注射する(Akam T、Oren I、Mantoan L、Ferenczi E、Kullmann DM. Nat Neurosci 2012 May; 15(5): 763-8)。4〜6週間後、動物を、N−メチル−D−グルカミン、92;KCl、2.5;NaH2PO4、1.25;チオ尿素、2;アスコルビン酸、5;Na−ピルビン酸、3;MgCl2、10;D−グルコース、25;NaHCO3、30;CaCl2、0.5;スクロース、1(mM単位)を含有する室温の溶液を用いて経心的に灌流し、水平海馬切片を調製する。細胞外灌流溶液は、NaCl、119;KCl、2.5;CaCl2、0.5;MgSO4、1.3;MgCl、2;NaH2PO4、1.25;NaHCO3、25;グルコース、10を含有する(mM)。CNO(10μM)のバス灌流の前、その間およびその後に、CA1の放射状層において興奮性シナプス後場電位(fEPSP)を30秒ごとに細胞外刺激(20〜320μA 100μs)によって誘発する。
【0049】
好ましいGi共役型ヒトムスカリン性受容体は、経口的に生物が利用可能であり、通常は不活性なクロザピン、クロザピン−N−オキシド(CNO)の代謝産物に対して感受性にさせた「hM4Di」である(11、12)。この改変されたGPCRは、以下の突然変異:Y113C/A203Gを含む。改変された受容体は配列番号1によりコードされることが好ましい。
【0050】
重要なことに、hM4Diは、親受容体の内在性アゴニストであるアセチルコリンに対しては比較的感受性が低い。
【0051】
改変された受容体hM4Diは、参考文献11(B. N. Armbruster、X. Li、M. H. Pausch、S. Herlitze、B. L. Roth、"Evolving the lock to fit the key to create a family of G protein-coupled receptors potently activated by an inert ligand"、Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 104、5163-5168(2007))において最初に記載された。これらの著者らは、定義済みのリガンド特異性を有するGPCRを生成するための一般的で検証された、偏りのない手法を記載しており、それをムスカリン性ACh受容体(mAChR)DREADDのファミリーを創出するために利用した。これらのDREADDの調製および特性についてのその記載に関するその刊行物の内容は、参照により本明細書に具体的に組み込まれる。
【0052】
ヒトM4 DREADDの調製は、Nawaratne,V.、Leach,K.、Suratman,N.、Loiacono,R.E.、Felder,C.C、Armbruster,B.N.、& Christopoulos,A.(2008).「New insights into the function of M4 muscarinic acetylcholine receptors gained using a novel allosteric modulator and a DREADD(designer receptor exclusively activated by a designer drug)」Molecular pharmacology、74(4)、1119−1131にも記載されている。
【0053】
hM4Diをコードするプラスミドは、Addgene、Cambridge、MA 02139からプラスミド45548:pcDNA5/FRT−HA−hM4D(Gi)として市販されており(http://www.addgene.org/45548/)、また、添付の配列および下記の図面に記載されている。
【0054】
hM3DqをコードするプラスミドもAddgene(https://www.addgene.org/44361/)から市販されており、同様に参考文献(19)に記載されている。この受容体はペルラピンに対して感受性である(27)。
【0055】
ベクターおよびその投与
種々のベクターのいずれも、RASSL発現細胞を作製するために本発明に従って使用することができる。
【0056】
本発明の療法において使用するためのベクターは、in vivo遺伝子療法プロトコールに適する。ベクターは、安定な組込み型ベクターであっても安定な非組込み型ベクターであってもよい。好ましいベクターは、レンチウイルスベクターまたはAAV(アデノ随伴ウイルス)ベクターなどのウイルスベクターである。
【0057】
これらの型のウイルスベクターのどちらの使用も、遺伝子療法に関して当技術分野において周知である。単に例として、WO2008011381には、対象において受容体を発現させるための、これらおよび他のベクターの使用が記載されている。AAVベクターおよびレンチウイルスベクターの調製および特性についてのその記載に関するその出願の内容は、参照により本明細書に具体的に組み込まれる。
【0058】
簡単に述べると、WO2008011381に記載の通り、AAVは、欠陥パルボウイルスであり、多くの細胞型に感染することができ、ヒトに対しては非病原性であるので、好ましいベクターである。AAV型ベクターは、約4〜5kbを運搬することができ、野生型AAVは第19染色体に安定に挿入されることが公知である。この部位特異的組込み性を含有するベクターが好ましい。この型のベクターの特に好ましい実施形態は、Avigen、San Francisco、CAによって製造されているP4.1 Cベクターである。別の型のAAVベクターでは、AAVは、異種遺伝子(本発明ではRASSL)に作動可能に連結した、細胞特異的発現を導くプロモーターを含有する少なくとも1つのカセットを挟む末端逆位配列(ITR)の対を含有する。さらなる情報は、米国特許第6,261,834号に見いだすことができる。
【0059】
レンチウイルスベクターは、一般には、感染のために長いインキュベーション期間を有することを特徴とする特別な型のレトロウイルスベクターである。さらに、レンチウイルスベクターは非分裂細胞に感染することが可能である。レンチウイルスベクターは、ウイルスのレンチウイルスファミリーに由来するウイルスの核酸骨格に基づく。一般には、レンチウイルスベクターは、SIVおよびHIVなどのレンチウイルスの5’LTR領域および3’LTR領域を含有する。レンチウイルスベクターはまた、一般には、SIVおよびHIVなどのレンチウイルスのRev応答配列(RRE)も含有する。レンチウイルスベクターの例としては、Dull,T.ら、「A Third−generation lentivirus vector with a conditional packaging system」J.Virol 72(11):8463−71(1998)のものが挙げられる。
【0060】
本明細書に記載のベクターは、当技術分野で公知の種々のアクセス方法で標的細胞に局所的に送達することができる。例えば、「Stereotactic and Functional Neurosurgery」Nikkhah&Pinsker編;Acta Neurochirurgica Supplement 117巻、2013を参照されたい。特に、送達は、穿頭孔開頭術および定位注射などの公知の方法体系を使用した脳への直接注射によるものであってよい。注射は、定義された発作病巣を標的とする(例えば焦点性てんかんにおいて)またはより一般的には、他の発作疾患において活動過剰が疑われる脳の領域へのものである。
【0061】
ベクターは、恒久的な形質転換を行うために使用することもでき、脳において単に一過性に発現させることもできる。
【0062】
一般的に言うと、当業者は、組換え遺伝子発現のためのベクターを構築し、プロトコールを設計することが十分に可能である。上記の本発明のエレメントに加えて、プロモーター配列、ターミネーター断片、ポリアデニル化配列、マーカー遺伝子および他の配列を含めた適切な調節配列を必要に応じて含有する適切なベクターを選択または構築することができる。さらなる詳細については、例えば、Molecular Cloning:a Laboratory Manual:第2版、Sambrookら、1989、Cold Spring Harbor Laboratory PressまたはCurrent Protocols in Molecular Biology、第2版、Ausubelら編、John Wiley&Sons、(1995、および定期的な補足)を参照されたい。
【0063】
DNA構築物は、標的細胞内でのRASSLをコードするDNAの発現を容易にするためにプロモーターを含有することが好ましい。特異性は、例えば組織または領域に特異的なプロモーターを使用して受容体を排他的に、領域および細胞型特異的に発現させることによって実現することができる。
【0064】
一例として、前脳において比較的特異的に発現を駆動するCamk2a(アルファCaMキナーゼII遺伝子)プロモーターである。例えば、Sakuradaら(2005)「Neuronal cell type−specific promoter of the alpha CaM kinase II gene is activated by Zic2、a Zic family zinc finger protein」Neurosci Res.2005年11月;53(3):323−30.Epub 2005年9月12日を参照されたい。
【0065】
他の神経細胞型に特異的なプロモーターとしては、NSEプロモーター(Liu H.ら、Journal of Neuroscience. 23(18): 7143-54、2003);チロシンヒドロキシラーゼプロモーター(Kessler MA.ら、Brain Research. Molecular Brain Research. 112(1-2): 8-23、2003);ミエリン塩基性タンパク質プロモーター(Kessler MA.らB Biophysical Research Communications. 288(4): 809-18、2001);グリア線維酸性タンパク質プロモーター(Nolte C.ら、GLIA. 33(1): 72-86、2001);ニューロフィラメント遺伝子(重鎖、中鎖、軽鎖)プロモーター(Yaworsky PJら、Journal of Biological Chemistry. 272(40): 25112-20、1997)が挙げられる(すべて、少なくともプロモーターの配列および関連する配列に関して参照により本明細書に組み込まれる)。NSEプロモーターは、Peel AL.ら、Gene Therapy.4(1):16−24、1997に開示されている(配列番号69)(pTR−NT3myc; Powell Gene Therapy Center、University of Florida、Gainesville FL)。別の適切なプロモーターは、シナプシン1プロモーターである(Kuglerら"Human synapsin 1 gene promoter confers highly neuron-specific long-term transgene expression from an adenoviral vector in the adult rat brain depending on the transduced area." Gene Ther. 2003年2月; 10(4): 337-47を参照されたい)。
【0066】
アゴニストおよびその投与
本発明では、改変された受容体は、外因性アゴニストが存在することによって活性化される。外因性アゴニスト(またはリガンド、または小分子、この用語は、本明細書では互換的に使用される)は、経口的にまたは非経口的に(例えば全身投与)送達することができ、血液脳関門を透過するものである。リガンドは、一般には脳に存在しない、または改変された受容体を活性化しない十分に低い基底濃度で存在するという点で外因性である。
【0067】
リガンドの脳における半減期は120分未満、60分未満、または30分未満であることが好ましい。これには、リガンドと受容体の相互作用によって引き起こされる正常な脳機能に対するあらゆる副作用が最小限になるという利点がある。
【0068】
リガンドは合成の、すなわち天然に存在しないものであることが好ましい。
【0069】
好ましいリガンド(複数可)は、RASSL活性化以外の生物学的活性が最小であるものまたはRASSL活性化以外の生物学的活性がないものである。
【0070】
RASSLの膜貫通ドメイン内に結合し、Gタンパク質の所望のファミリーのRASSL媒介性活性化を容易にすることが可能な小分子、好ましくは合成小分子はいずれも、本発明の標的化活性化方法の方法において使用するために適している。一般には2000〜6000Daの分子量を有するGタンパク質共役型受容体の天然のペプチドリガンドとは対照的に、Gタンパク質共役型受容体の小分子リガンドは、一般に、100〜1000Daの分子量を有する。
【0071】
本発明において有用な合成小分子としては、天然手段(例えば、組換え細胞株から単離する)または化学的手段(例えば、有機または無機化学的プロセスを使用する)のいずれかによって生成される合成小分子が挙げられる。
【0072】
リガンドは、一般に、経口投与または非経口(例えば、静脈内)投与後に血液脳関門を通過することが可能になる分子量および正味のイオン電荷を有する。
【0073】
一般には、血液脳関門を通過する分子はペプチド分子よりも電荷が少ない。合成薬物は、分子上の荷電基の数に応じて血液脳関門を通過するようにも通過しないようにもすることができる(例えば、Freidinger、1993、Prog. Drug Res. 40: 33-98を参照されたい)。より小さな分子、例えば、4000Da未満の分子も血液脳関門を通過する可能性がより高い。
【0074】
ネイティブなGタンパク質共役型受容体に結合し、それを活性化するいくつかの合成小分子が当技術分野で公知であり、本発明において有用である。本発明において使用するために適した追加的な合成小分子は、候補化合物をネイティブなGタンパク質共役型受容体との結合またはRASSLとの結合についてスクリーニングすることによって同定することができる。例えば、上記の通り、培養したニューロンのチャネル電気生理学的性質を評価し、膜電位を測定することによる。特に、RASSLおよび関連する目的のカリウムチャネルを発現する(またはそれをトランスフェクトした)細胞株を、様々な濃度の、RASSL結合について試験する化合物に曝露する。RASSL結合は、試験化合物に曝露したがRASSLに結合せず、かつ/または細胞活性化を誘導しない対照化合物の非存在下での膜過分極およびニューロン抑制の誘導によって検出する(11)。
【0075】
好ましい実施形態では、リガンドは、クロザピンの代謝産物であるクロザピン−N−オキシド(CNO)である。これは、頬側または鼻腔内を含めた、本明細書に記載の種々の経路によって送達することができる。
【0076】
別の好ましいリガンドは、hM3Dqに結合するペルラピンである(27)。hM3DqとhM4Diの結合部位は高度に類似しているので、ペルラピンは同様にhM4Diに結合することが予測される。
【0077】
障害
好ましい実施形態では、発作性障害は、てんかん、例えば、特発性てんかん、症候性てんかんおよび原因不明性てんかんである。本明細書に記載の方法は、てんかん原性の活動をクエンチまたは遮断するために使用することができる。当該方法は、それを必要とする患者の脳または神経組織における発作閾値を上昇させるため、または患者の脳細胞におけるてんかんバーストを低減させるために使用することができる。
【0078】
本発明の複合化学遺伝学的(combined chemical-genetic)(化学遺伝学的(chemogenetic)としても公知)方法は、ヒト焦点性てんかんを治療するため、領域および時間特異的に発作を抑止するために特に適している。
【0079】
患者は、脳の新皮質の単一の領域に影響を及ぼす明確な焦点性てんかんを有すると診断された患者であってよい。焦点性てんかんは、例えば、発達異常から、または脳卒中、腫瘍、穿通性頭部外傷または感染の後に生じ得る。
【0080】
しかし、本発明は、多数のてんかん病巣を多数の同定された遺伝子座に直接注射することによって同時に治療するためにも使用することができる。
【0081】
患者は、抗てんかん薬の適切な投与にもかかわらずてんかん発作が継続することを意味する薬物耐性または医学的不応性(medically-refractory)てんかんを有すると診断された患者であってよい。
【0082】
患者は、抗てんかん薬を用いた既存の治療を受けている患者であってよく、その場合、当該方法は、既存の治療の中止を可能にするまたは薬物レジメンを軽減するという目的を有する。
【0083】
患者は、持続性部分てんかんを有すると診断されている患者であってよい。
【0084】
ニューロン興奮性の恒久的な低下(例えばカリウムチャネル過剰発現を用いて実現することができる)が、例えば、それによる正常な脳機能に対するリスクが大きすぎることが理由で望ましくない場合に、本発明の治療に特定の有用性がある。てんかん原性域が言語または運動機能を担う皮質領域内にある場合であっても、リガンドを投与しなければ、これらの機能への影響はない。難治性焦点性てんかんを有する患者には、これは許容される副作用とみなされる可能性がある。
【0085】
本発明には、側頭葉てんかんおよび焦点性新皮質てんかんなどの焦点性の発症を特徴とする発作性障害に対する特定の有用性があるが、本発明はまた、より全般性の形態のてんかんも、特に第二選択適応症として、それに適用することができる。これらの場合には、送達の標的は、状態に対して必要に応じて選択する、例えば、送達は視床に対して両側性であってよい。したがって、本発明を適用することができる他の障害として、点頭てんかん、ミオクローヌス発作および「小運動」発作、ならびに強直間代発作および複雑部分発作が挙げられる。
【0086】
さらに、原理上は、本発明は、てんかん原性回路を「リセット」し、一部の場合ではリガンドの投与より長く続く発作の持続的低減をもたらす目的で、固定期間にわたるニューロン興奮性の継続的な変更を引き起こすことにより、予防的に使用することができる。
【0087】
投与および投与量
大多数のてんかん患者は、てんかん原性病巣によって生じる活動拡散のステレオタイプのパターンを有する。したがって、本発明は、異常な活動が拡散する前にそれを抑止するため、またはその経過の初期に打ち切るために予防的に(例えば、30分前まで)適用することができる。さらに、発作は、多くの場合、群発するので、患者は、所望であれば、群発が開始した時にリガンドを摂取することができる。
【0088】
リガンドは、介護人が投与することができる。
【0089】
リガンドは、自動発作検出機構と共役したデバイスによって自動的に送達することができる。例えば、皮下ポンプ(インスリンを送達するために使用するような(23;25))を用いて要望に応じた投与を使用することができる。自動EEG分析によって発作を予測することができるという最近の証拠(22)により、閉ループデバイスを使用してリガンドを投与するという選択肢がもたらされる。
【0090】
「治療」という用語は、状態を治療することに関して本明細書で使用される場合、一般に、いくつかの所望の治療効果、例えば、状態の進行の抑制が実現されるヒトの治療および療法に関し、進行速度の低下、進行速度の停止、状態の退行、状態の好転、および状態の治癒を含む。予防的処置としての治療(すなわち、予防法、予防)も包含される。
【0091】
リガンドは治療有効量で送達することができる。
【0092】
「治療有効量」という用語は、本明細書で使用される場合、所望の治療レジメンに従って投与した場合に妥当な損益比に見合ういくつかの所望の治療効果を生じさせるために有効である受容体またはリガンドの量に関する。
【0093】
同様に、「予防有効量」という用語は、本明細書で使用される場合、所望の治療レジメンに従って投与した場合に妥当な損益比に見合ういくつかの所望の予防効果を生じさせるために有効である受容体またはリガンドの量に関する。
【0094】
「予防法」とは、本明細書に関しては、完全な成功、すなわち完全な保護または完全な予防を包含するものと理解されるべきではない。そうではなく、この状況における予防法とは、症候性の状態が検出される前に、その特定の状態を遅延し、弱めまたは回避するように補助することによって健康を維持することを目的として投与する処置を指す。
【0095】
リガンドは単独で使用する(例えば、投与する)ことが可能であるが、多くの場合、例えば、薬学的に許容される担体または希釈剤と共に組成物または製剤としてもたらすことが好ましい。
【0096】
「薬学的に許容される」という用語は、本明細書で使用される場合、良好な医学的判断の範囲内に入る、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題または合併症を伴わない問題の対象(例えば、ヒト)の組織と接触させて使用するのに適した、妥当な損益比に見合う化合物、成分、材料、組成物、剤形などに関する。各担体、希釈剤、賦形剤などはまた、製剤の他の成分と適合するという意味でも「許容される」ものでなければならない。
【0097】
いくつかの実施形態では、組成物は、唯一の活性成分として本明細書に記載のリガンド、および薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤を含む、またはそれから本質的になる、またはそれからなる医薬組成物(例えば、製剤、調製物、医薬)である。
【0098】
WO2008096268に記載の通り、改変された受容体のウイルスによる送達を利用する遺伝子療法実施形態では、単位用量は、投与されるウイルス粒子の用量を単位として算出することができる。ウイルス用量は特定の数のウイルス粒子またはプラーク形成単位(pfu)を含む。アデノウイルスを伴う実施形態については、特定の単位用量は、10
3、10
4、10
5、10
6、10
7、10
8、10
9、10
10、10
11、10
12、10
13または10
14pfuを含む。粒子用量は、感染欠陥粒子の存在に起因して、いくらか多くてよい(10〜100倍)。
【0099】
いくつかの実施形態では、本発明の方法または治療は、症候性であるか疾患修飾性であるかにかかわらず、他の療法と組み合わせることができる。
【0100】
「治療」という用語は、2つ以上の治療または療法を、例えば、逐次的にまたは同時に組み合わせる併用治療および療法を含む。
【0101】
例えば、本明細書に記載の化合物を用いた治療と1種または複数種の他の(例えば、1種、2種、3種、4種の)薬剤または療法を組み合わせることが有益であり得る。
【0102】
併用治療薬の適切な例は、本明細書における本開示に基づいて当業者には公知になろう。一般には、併用治療薬は、治療される個体の診断に供される本明細書に記載の疾患の治療において治療効果をもたらすことが可能であると考えられる当技術分野において公知の任意のものであってよい。例えば、てんかんは、時には、基礎をなす病因を直接治療することによって好転させることができるが、フェニトイン、ガバペンチン、ラモトリジン、レベチラセタム、カルバマゼピンおよびクロバザムなどの抗けいれん薬、ならびにトピラマート、ならびに異常な放電および発作を抑止するその他のものが、従来の治療の中核である(Rho & Sankar、1999、Epilepsia 40: 1471-1483)。
【0103】
特定の組合せは、医師の自由裁量であり、当該医師は、自身の一般的全般的知見および当業者に公知の投薬レジメンを使用して投与量の選択も行う。
【0104】
薬剤(すなわち、改変された受容体およびリガンドと、それに加えて1種または複数種の他の薬剤)は、同時に投与することも逐次的に投与することもでき、また、用量スケジュールを個別に変動させて、および異なる経路を介して投与することができる。例えば、逐次的に投与する場合、薬剤は、密接な間隔で(例えば、5〜10分にわたって)またはより長い間隔で(例えば、1時間、2時間、3時間、4時間またはそれ超離して、または必要な場合にはさらに長い期間離して)投与することができ、正確な投薬レジメンは、治療剤(複数可)の性質に見合うものにする。
【0105】
選択された定義
「受容体−リガンド結合」、「リガンド結合」および「結合」とは、受容体(例えば、Gタンパク質共役型受容体)とリガンド(例えば、天然のリガンド、(例えば、ペプチドリガンド)または合成リガンド(例えば、合成小分子リガンド))との物理的な相互作用を意味するために本明細書では互換的に使用される。リガンド結合は、当技術分野で公知の種々の方法(例えば、放射標識したリガンドとの会合の検出)によって測定することができる。
【0106】
「シグナル伝達」とは、リガンド結合の結果として(例えば、Gタンパク質共役型受容体への合成リガンド結合の結果として)の生化学的または生理学的応答の生成を意味する。
【0107】
「受容体の活性化」、「RASSL活性化」および「Gタンパク質共役型受容体活性化」とは、リガンド(例えば、天然リガンドまたは合成リガンド)が、Gタンパク質媒介性シグナル伝達、およびGタンパク質媒介性シグナル伝達に付随する生理的または生化学的応答が誘導される様式で受容体に結合することを意味するために本明細書では互換的に使用される。活性化は、Gタンパク質関連シグナルに付随する生物学的シグナルを測定すること(例えば、電気生理学を用いて)によって測定することができる。
【0108】
「標的化細胞活性化」および「標的細胞活性化」とは、合成小分子がRASSLに結合することによってRASSL媒介性活性化が起こる、標的細胞における特定のGタンパク質媒介性生理的応答のRASSL媒介性活性化を意味するために本明細書では互換的に使用される。本明細書で使用される場合、細胞の活性化とは、シナプスサイレンシングまたは抑制などの抑制性応答を包含する。
【0109】
ネイティブなGタンパク質共役型受容体の「天然のリガンド」および「天然に存在するリガンド」および「内在性リガンド」とは、哺乳動物宿主に内在する生体分子を意味するために本明細書では互換的に使用され、その生体分子は、ネイティブなGタンパク質共役型受容体に結合してGタンパク質共役細胞応答を誘導するものである。一例としてアセチルコリンである。
【0110】
「合成小分子」、「合成小分子リガンド」、「合成リガンド」、および「合成アゴニスト」などは、Gタンパク質共役型受容体または改変されたGタンパク質共役型受容体(すなわち、RASSL)の膜貫通ドメイン内に結合し、その受容体の活性化およびGタンパク質の所望のファミリーの同時活性化を容易にすることが可能な、天然または化学的手段によって外因的に作出される任意の化合物を意味するために本明細書では互換的に使用される。
【0111】
「形質転換」とは、新しいDNA(すなわち、細胞に対して外因性のDNA)の組み入れ後に細胞において誘導される一過性のまたは恒久的な遺伝子変化を意味する。細胞が哺乳動物細胞である場合、恒久的な遺伝子変化は、一般に、DNAを細胞のゲノム内に導入することによって実現される。
【0112】
「プロモーター」とは、それが作動可能に連結したDNA配列の直接転写を導くために十分な最小のDNA配列を意味する。「プロモーター」とは、外部のシグナルまたは薬剤に対し細胞型特異的、組織特異的に制御可能、または外部のシグナルまたは薬剤によって誘導可能なプロモーター依存性遺伝子発現のために十分なプロモーターエレメントも包含することを意味し、そのようなエレメントは、ネイティブな遺伝子の5’領域または3’領域に位置してよい。
【0113】
核酸のバリアント
本明細書において上記で考察した配列(添付の配列の配列番号1を参照されたい)に由来する機能的バリアントも同様に本発明において利用できることが当業者には理解されよう。
【0114】
薬剤の好ましい機能性誘導体としては、突然変異(野生型と比較して)を含み得るが、それにもかかわらず薬剤の活性は変更されないようなタンパク質が挙げられる。本発明によると、薬剤の好ましい別の変化は、一般に、「保存的」または「安全な」置換として公知である。保存的アミノ酸置換とは、薬剤の構造および生物学的機能を保存するために、十分に類似した化学的性質を有するアミノ酸を用いたものである。特に、挿入または欠失に数個のアミノ酸のみ、例えば、10個未満および好ましくは5個未満が関与し、薬剤の機能的コンフォメーションに欠かせないアミノ酸の除去または入れ替えがなされなければ、上記の定義済みの配列に、それらの機能を変更させることなくアミノ酸の挿入および欠失も行うことができることが明らかである。文献から、配列および/または天然のタンパク質の構造に対する統計学的試験および物理化学的試験に基づいて保存的アミノ酸置換の選択を行うことができる多くのモデルが得られる。
【0115】
本明細書に開示されているアミノ酸の機能性誘導体、および核酸配列は、本明細書で参照される配列のいずれかのアミノ酸/ポリペプチド/核酸配列に対して少なくとも30%、好ましくは40%、より好ましくは50%、およびなおより好ましくは、60%の配列同一性を有する配列を有してよいことが当業者には理解されよう。参照される配列のいずれかに対して、好ましくは65%超、より好ましくは75%超、なおより好ましくは85%超、およびなおより好ましくは90%超の同一性を有するアミノ酸/ポリペプチド/核酸配列も想定される。好ましくは、アミノ酸/ポリペプチド/核酸配列は、参照される配列のいずれかに対して、92%の同一性、なおより好ましくは95%の同一性、なおより好ましくは97%の同一性、なおより好ましくは98%の同一性、最も好ましくは、99%の同一性を有する。
【0116】
それぞれの場合において、改変された受容体は、上で定義した用語に含まれる性質を保持し、例えば、アゴニストの存在下では標的化細胞を活性化するが、天然のリガンドの存在下では標的化細胞を活性化しない。
【0117】
異なるアミノ酸/ポリペプチド/核酸配列間の百分率同一性の算出は、以下の通り行うことができる。まず、ClustalXプログラム(ペアワイズパラメータ:gap opening 10.0、gap extension 0.1、protein matrix Gonnet 250、DNA MATRIX IUB;多数のパラメータ:gap opening 10.0、gap extension 0.2、delay divergent sequences 30%、DNA transition weight 0.5、negative matrix off、protein matrix Gonnet series、DNA weight IUB;Protein gap parameters、residue-specific penalties on、hydrophilic penalties on、hydrophilic residues GPSNDQERK、gap separation distance 4、end gap separation off)によって多数のアラインメントを生成する。次いで、多数のアラインメントから、百分率同一性を(N/T)*100として算出し、ここで、Nは2つの配列が同一の残基を共有する位置の数であり、Tは比較した位置の総数である。あるいは、百分率同一性は、(N/S)*100として算出することができ、ここで、Sは比較対象であるより短い配列の長さである。アミノ酸/ポリペプチド/核酸配列は、新規に合成することもでき、ネイティブなアミノ酸/ポリペプチド/核酸配列、またはそれらの誘導体であってもよい。
【0118】
遺伝暗号の縮重に起因して、任意の核酸配列を、コードされる薬剤タンパク質の配列に実質的に影響を及ぼすことなく変動または変化させ、それにより、その機能的バリアントをもたらすことができることが明らかである。適切なヌクレオチドバリアントは、配列内の同じアミノ酸をコードする異なるコドンの置換、したがって、サイレント変化を生じさせることによって変更された配列を有するものである。他の適切なバリアントは、相同なヌクレオチド配列を有するが、置換されるアミノ酸と同様の生物物理学的性質の側鎖を有するアミノ酸をコードする異なるコドンの置換によって変更されることで保存的変化が生じている配列の全体、または一部を含むバリアントである。例えば、小さな非極性、疎水性アミノ酸として、グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、およびメチオニンが挙げられる。大きな非極性、疎水性アミノ酸として、フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンが挙げられる。極性中性アミノ酸として、セリン、トレオニン、システイン、アスパラギンおよびグルタミンが挙げられる。正に荷電した(塩基性)アミノ酸として、リシン、アルギニンおよびヒスチジンが挙げられる。負に荷電した(酸性)アミノ酸として、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。
【0119】
本明細書における副題はいずれも、単に便宜上含まれるものであり、いかなる形でも本開示を限定するものとは解釈されない。
【0120】
ここで、以下の非限定的な図面および実施例を参照して本発明をさらに説明する。これらを考慮すると他の本発明の実施形態が当業者には想起されよう。
【0121】
本明細書において引用されたすべての参考文献の本開示は、当業者が本発明を実施するために使用することができるである限りは、これにより相互参照により具体的に本明細書に組み込まれる。