特表2017-511387(P2017-511387A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2017-511387脂質蓄積障害の治療のための方法および組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-511387(P2017-511387A)
(43)【公表日】2017年4月20日
(54)【発明の名称】脂質蓄積障害の治療のための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/365 20060101AFI20170331BHJP
   A61K 31/201 20060101ALI20170331BHJP
   A61K 31/202 20060101ALI20170331BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20170331BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20170331BHJP
   C07D 323/00 20060101ALN20170331BHJP
【FI】
   A61K31/365
   A61K31/201
   A61K31/202
   A61P3/00
   A61P25/00
   C07D323/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2017-506619(P2017-506619)
(86)(22)【出願日】2015年4月14日
(85)【翻訳文提出日】2016年11月22日
(86)【国際出願番号】US2015025821
(87)【国際公開番号】WO2015160851
(87)【国際公開日】20151022
(31)【優先権主張番号】61/981,473
(32)【優先日】2014年4月18日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/987,360
(32)【優先日】2014年5月1日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】516311146
【氏名又は名称】ニューロトロープ バイオサイエンス インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】516310873
【氏名又は名称】アイカーン スクール オブ メディシン アット マウント サイナイ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100114889
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】イオアヌ ヤニス エイ.
(72)【発明者】
【氏名】オルトスティール ローレンス
(72)【発明者】
【氏名】クロックフォード デビッド アール.
(72)【発明者】
【氏名】コングサムット サタパナ
【テーマコード(参考)】
4C022
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C022NA06
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086CA03
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA09
4C086MA65
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZC33
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206DA04
4C206DA05
4C206MA01
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA16
4C206MA85
4C206MA86
4C206NA14
4C206ZA01
4C206ZC33
(57)【要約】
ブリオスタチン、ブリオログ、および多価不飽和脂肪酸などのPKC活性化剤を含む組成物で、脂質蓄積障害を有する対象を治療すること。したがって、本開示は、PKC活性化剤を投与することによって、ニーマン・ピック病などの脂質蓄積障害を患っているヒト対象を治療するための方法を提供する。本開示は、ある特定の態様に従って、ニーマン・ピック病C型を有する対象に薬学的有効量のブリオスタチン1を投与する工程を含む方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニーマン・ピック病C型の治療における使用のための、薬学的有効量のブリオスタチン1。
【請求項2】
ニーマン・ピック病C型または脂質蓄積障害の治療における使用のための、薬学的有効量のブリオスタチン1〜20、ブリオログ、多価不飽和脂肪酸、またはそれらの組み合わせ。
【請求項3】
薬学的有効量が投薬あたり約0.0000001mg/kg〜約250mg/kgである、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
薬学的有効量が投薬あたり約0.00001mg/kg〜約5.0mg/kgである、請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
薬学的有効量のブリオスタチン1が0.01〜25μg/m2 IVの用量で提供される、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張
本出願は、2014年4月18日に提出された米国仮特許出願第61/981,473号および2014年5月1日に提出された米国仮特許出願第61/987,360号に対する優先権を主張するものであり、その内容は参照により明示的に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
背景
本明細書において引用されるすべての参考文献は、参照により明示的に組み入れられる。
【0003】
脂質蓄積障害(またはリピドーシス)とは、有害な量の脂質が身体の細胞および組織の一部に集積する、遺伝性代謝障害の群である。これらの障害を有する人々は、一般的に、脂質を代謝するために必要とされる酵素のうちの1種を十分産生していないか、正常に機能しない酵素を産生している。時とともに、脂肪のこの過度の蓄積は、永久的な細胞および組織の損傷を引き起こし得る。
【0004】
多くの脂質蓄積障害には、治療のための適切な治療法がない。これらの障害には、例えばニーマン・ピック病A、B、およびC型、ゴーシェ病II型、ファブリー病(酵素置き換えが利用可能であることに留意されたい)、テイ・サックス病、サンドホフ病を含めたガングリオシドーシス、クラッベ病、異染性白質ジストロフィー、ならびにコレステリルエステル蓄積症(ウォルマン病)が含まれる。
【0005】
ニーマン・ピック病は、マクロファージおよびニューロンなどの細胞のライソゾームにおけるスフィンゴミエリンの過度の集積を特徴とする、遺伝性常染色体劣性の脂質蓄積障害であり、それにより正常な細胞機能が損なわれる。ニーマン・ピックA型は、酸性スフィンゴミエリナーゼの欠損により生じ、かつ急速な進行性の神経変性疾患である。これは典型的に、2〜3歳以下での死亡をもたらす。ニーマン・ピックB型は、肝臓および脾臓の肥大、ならびに呼吸困難をもたらす軽症型であり、一般的に成人期早期までに死亡する。どちらも酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)欠損と関連しているこれら2つの形態のニーマン・ピック病は、本明細書においてニーマン・ピック病またはASM欠損症(ASMD)と総称する。他の型のニーマン・ピック病、例えばC型は、ASM遺伝子における変異を伴わずかつASMの機能に直接起因しない。AおよびB亜型の顕著な臨床的不均一性の根底にある生化学的および分子的な欠陥の性質は、依然として不明のままである。両方の亜型を有する患者は、残存ASM活性(正常の約1〜10%)を有するものの、生化学的解析は、2つの表現型を確実に区別することができない。さらに、B型NPDの臨床経過は非常に可変的であり、疾患重症度と残存ASM活性のレベルとを関連付けるのは現在のところ不可能である。
【0006】
ニーマン・ピックC型は、NPC1およびNPC2遺伝子における変異により生じる。ニーマン・ピックC型において、主な変異遺伝子NPC1のタンパク質産物は酵素ではないが、エンドソーム-ライソゾーム系における輸送体として機能すると思われ、それは、細胞内で大型の非水溶性分子を移動させる。NPC2遺伝子によってコードされるタンパク質は、ライソゾーム内腔に存在する小型のコレステロール結合タンパク質であることが示されている。この輸送系の混乱が、ライソゾームにおけるコレステロールおよび糖脂質の集積をもたらす。
【0007】
ニーマン・ピック病ならびに他の脂質蓄積障害は、その治療法が非常に求められ続けている障害である。現在のところ、米国ではニーマン・ピック病に対するFDA認可の療法はなく;この疾患に対する治療は限定されており、大部分のA型患者は18ヶ月齢までに死亡する一方で、B型またはC型を有する人は、しばしば十代まで生きる。
【発明の概要】
【0008】
概要
プロテインキナーゼC(PKC)ファミリーの酵素は、シグナル変換カスケードを介してタンパク質を調節し得る該酵素の能力によって、数多くの細胞過程に関与している。このキナーゼファミリーのメンバーは、構造的および機能的に類似しており、かつ従来的(α、βI、βII、およびγ)、新規(δ、ε、η、およびθ)、および非定型(ζおよびλ)アイソフォームに分類される。これらのアイソフォームは、多様な疾患および病的状態に関わっている。
【0009】
本開示は、ニーマン・ピック病C型(NPC1)などの脂質蓄積障害における、これまでに解されていないPKCの役割に部分的に基づく。本発明者らは、中間径フィラメントであるビメンチンが、野生型(WT)細胞と比較してNPC1細胞において低リン酸化されていること、およびこの低リン酸化が、活性の低下により生じることを観察した[5]。ビメンチンは、小胞膜輸送[6,7]、シグナル変換[8,9]、および細胞運動性[10]を含めた、多様な細胞過程に関与する。NPC1細胞と同様に、ビメンチンを欠く細胞は、エステル化のためにそれらのライソゾームから小胞体へLDL由来コレステロールを輸送することができない[11]。NPC1細胞におけるビメンチンリン酸化の減少は、可溶性ビメンチンのプールを減少させ、おそらく、輸送が起こるのに必要であるビメンチン循環を混乱させる[12,13]。ビメンチンは、PKC[14]、ならびにとくにα[15]、ε[10]、およびβII[16,17]アイソフォームを含めた、いくつかのタンパク質によってリン酸化されることが示されている。
【0010】
したがって、本開示は、PKC活性化剤を投与することによって、ニーマン・ピック病などの脂質蓄積障害を患っているヒト対象を治療するための方法を提供する。
【0011】
本開示は、ある特定の態様に従って、脂質蓄積障害を有する対象に薬学的有効量のPKC活性化剤を投与する工程を含む方法を提供する。
【0012】
本開示は、ある特定の態様に従って、ニーマン・ピック病C型を有する対象に薬学的有効量のブリオスタチン1を投与する工程を含む方法を提供する。
【0013】
本開示の特徴および利点は、後に続く態様についての説明を読めば、当業者に容易に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本特許または本出願ファイルは、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含有する。カラーの図面を有する本特許または特許出願公報のコピーは、要求および必要な料金の支払いがあれば、特許庁(the Office)によって提供されるであろう。
【0015】
本開示の一部の具体的な態様は、以下の説明および添付の図面を部分的に参照することによって理解され得る。
【0016】
図1図1Aおよび1Bは、ヒトNPC1細胞におけるビメンチン可溶化に対する一過性のPKC発現の効果を示したウェスタンブロットである。PKCε、β、またはαをトランスフェクトされたヒトNPC1 3123(A)およびヒトヌルNPC1o(B)細胞における、可溶性および不溶性ビメンチンレベルについての代表的なウェスタンブロット解析により、3種のアイソフォームは、トランスフェクトされていない細胞(−)と比べて、可溶性ビメンチンおよびRab9のレベルを増加させ、同時に不溶性ビメンチンを減少させることが示されている。可溶化されたビメンチンのレベルは、Rab9を発現している細胞(Rab9)において見られるものと同程度である。示されるブロットは、少なくとも3つの独立した実験の代表的なものである。
図2図2は、NPC1細胞溶解物の不溶性ビメンチン画分からのRab9放出を示したウェスタンブロットである。NPC1細胞溶解物由来の不溶性ビメンチン画分を、様々なPKCアイソフォームとインキュベートした。試験されたすべてのアイソフォームは、不溶性ビメンチン画分からのRab9放出にある程度影響を及ぼし得、PKCαが最も有効でありかつPKCγが最も効果がない。示されるブロットは、少なくとも3つの独立した実験の代表的なものである。
図3図3は、M12 NPC1 CHO細胞におけるコレステロールエステル化に対するPKCおよび脂肪酸の効果を示したグラフである。M12細胞を50μg/mlの脂肪酸で2日間処理し、次いで、表示されるPKCアイソフォームをトランスフェクトした。トランスフェクションの後、コレステロール輸送をエステル化アッセイによって査定した。遊離脂肪酸およびPKCの両方は、NPC1細胞のコレステロール輸送欠陥を軽減し、かつそれらの効果は相加的であるように見える。
図4図4は、NPC1表現型に対する一過性のPKC発現の効果を示した画像である。M12細胞にPKCアイソフォームまたはRab9を48時間トランスフェクトし、次いでコレステロール蓄積についてフィリピン染色によって解析した。周辺のトランスフェクトされていない細胞と比較して、トランスフェクションについて陽性の細胞は、GFPについて陽性に染色され(左のパネル)、かつフィリピン染色の減少を示し(輪郭を描かれた細胞、右のパネル)、NPC1エンドソームから蓄積コレステロールを動員することにおけるPKCの役割を裏付けている。バー、20μm。
図5図5は、ビメンチン可溶化およびNPC1表現型に対する脂肪酸の効果を示している。(A)ヒトNPC1 3123細胞を50μg/mlのリノール酸またはオレイン酸で24時間処理し、その後、可溶性ビメンチンのレベルをウェスタンブロッティングによって解析した。NPC1 CHO(B)またはヒト3123(C)細胞におけるコレステロール蓄積をフィリピン染色によって解析した。各サンプルに対して、少なくとも150個の細胞において蛍光強度を定量した。棒グラフは、3つの独立した実験からの平均値±SEMに相当する。*および***は、スチューデントt検定によってそれぞれP<0.05およびP<0.0001と判定された、処理された細胞と未処理細胞との間の統計的に有意な差を表す。
図6図6は、NPC1表現型に対するPKC活性化の効果を示している。NPC1 CHO細胞(BからF)を、100μM DCP-LA(C)、10μM DHA(D)、または100μMジアゾキシド(E)で処理し、かつコレステロール蓄積をフィリピン蛍光によって定量化した。WT CHO細胞が(A)に示されている。各サンプルに対して、少なくとも150個の細胞においてフィリピン強度を定量した。棒グラフは、3つの独立した実験からの平均値±SEMに相当する。***、および***は、スチューデントt検定によってそれぞれP<0.05、P<0.01、およびP<0.0001と判定された、処理された細胞と未処理細胞との間の統計的に有意な差を表す。
図7図7は、スフィンゴ脂質輸送に対するPKC活性化の効果を示した画像である。BODIPY-LacCer染色を実施する前に、ヒトNPC1 3123細胞を(B)20μM DCP-LA、(C)2μg/mlオレイン酸、(D)2μg/mlリノール酸、または(F)100nM PMAで48時間処理した。未処理細胞(A)において、トランスゴルジネットワーク(TGN)への脂質の輸送は阻害され、かつ染色は点状のエンドサイトーシス小胞においてのみ目に見える。対照的に、処理された細胞において、脂質は、処理された細胞内のTGN(矢印)において見られ得、NPC1を特徴決定する輸送遮断の解除を示している。
図8図8は、48hでの、NPC3-SV細胞において蓄積コレステロールレベルを減少させ得るDCPLA、ジアゾキシド、およびブリオスタチン1の能力を示したグラフである。
図9図9は、72hでの、NPC3-SV細胞において蓄積コレステロールレベルを減少させ得るDCPLAおよびブリオスタチン1の能力を示したグラフである。
図10図10は、プローブ染色としてベロ毒素B(VTB)を用いて、72hでの、NPC3-SV細胞において蓄積スフィンゴ糖脂質レベルを減少させ得るDCPLAおよびブリオスタチン1の能力を示したグラフである。
図11図11は、NPC24-SV細胞株を用いて、フィリピン集積を減少させ得るDCPLAおよびブリオスタチン1の能力を示したグラフである。
図12図12は、NPC3SV細胞においてガングリオシド輸送遮断を解除し得るDCPLAおよびブリオスタチン1の能力を示した顕微鏡写真である。
図13図13は、ヒトNPC24-SV細胞においてコレステロール集積を減少させ得るブリオスタチン1(0.1〜100nM)の能力を示したグラフである。
図14図14は、ヒトNPC24-SV細胞においてスフィンゴ糖脂質集積を減少させ得るブリオスタチン1(0.1〜100nM)の能力を示したグラフである。
図15図15は、図13〜14に示される解析において用いられた処理された細胞の代表的な領域を示した画像である。
図16図16は、蓄積された様々な脂質の道程を示した、NPC1細胞の図示である。
図17図17は、未処理のC57 NPC1マウスを示したグラフである。体重増加は生後最高70〜72日頃まで観察され、その後に急速な体重減少が観察される。
【0017】
本開示は、様々な改変および代替的な形態を受け入れる余地があるものの、具体的な例となる態様が図に示されており、かつ本明細書においてより詳細に記載される。しかしながら、具体的な例となる態様の説明は、開示される特定の形態に本発明を限定することを意図されるわけではなく、しかしそれどころか、本開示は、添付の特許請求の範囲によって部分的に例証されるすべての改変および同等物を網羅し得る。
【発明を実施するための形態】
【0018】
説明
概して、本開示は、PKC活性化剤を用いて脂質蓄積障害を治療するための方法を提供する。本明細書において使用するとき、「プロテインキナーゼC活性化剤」または「PKC活性化剤」とは、プロテインキナーゼCによって触媒される反応の速度を増加させる、PKCの発現を上方調節する(例えば、PKCα、PKCβII、PKCγ、および/またはPKCεの発現を上方調節する)、またはPKCの活性を別様に促進する物質を指す。
【0019】
ある特定の態様において、本開示は、脂質蓄積障害を有するヒト対象に薬学的有効量のPKC活性化剤を投与する工程を含む方法を提供する。PKC活性化剤は、ヒト対象への投与に適した組成物の一部として投与され得る。
【0020】
ある特定の態様において、PKC活性化剤は、ブリオスタチン1〜20のうちのいずれか、ブリオログ(bryolog)、ネリスタチン、多価不飽和脂肪酸、またはそれらの組み合わせであり得る。
【0021】
ブリオスタチンが、本開示の方法において用いられ得る。ブリオスタチンは、もともと海洋外肛動物(marine bryozoa)から単離された、天然に存在する大環状化合物のファミリーである。現在、A、B、およびCと呼ばれる共通の3個の六員環を有し、かつC7(ORA)およびC20(RB)におけるそれらの置換基の性質の点で主に異なる、約20種の公知の天然ブリオスタチンが存在している。
【0022】
ブリオスタチン1およびブリオスタチン1の誘導体は、米国特許第4,560,774号(参照により本明細書に組み入れられる)に記載されている。本開示の方法とともに用いられ得る適切なブリオスタチンの例には、ブリオスタチン1、ブリオスタチン2、ブリオスタチン3、ブリオスタチン4、ブリオスタチン5、ブリオスタチン6、ブリオスタチン7、ブリオスタチン8、ブリオスタチン9、ブリオスタチン10、ブリオスタチン11、ブリオスタチン12、ブリオスタチン13、ブリオスタチン14、ブリオスタチン15、ブリオスタチン16、ブリオスタチン17、ブリオスタチン18、ブリオスタチン19、およびブリオスタチン20が含まれる。
【0023】
一般にブリオログと呼ばれるブリオスタチンの類似体も、本開示の方法において用いられ得る。ブリオログは、ブリオスタチンの構造類似体である。ブリオスタチンは、2個のピラン環および1個の6員環状アセタールを有するが、大部分のブリオログでは、ブリオスタチンのピランのうちの一方は、第二の6員アセタール環で置き換えられている。この改変は、例えば強酸または強塩基の両方において、ブリオスタチンと比べたブリオログの安定性を低下させるが、生理学的pHではほとんど有意性を有しない。ブリオログはまた、ブリオスタチン(988)と比較してより低い分子量(約600〜755の範囲にわたる)を有し、これは血液脳関門を横断する輸送を容易にし得る特性であるする。適切なブリオログの例には、米国特許第6,624,189号、第7,256,286号、および第8,497,385号(その開示は参照により本明細書に組み入れられる)に開示されているものなど、ブリオスタチンの類似体および誘導体が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0024】
ある特定の態様において、多価不飽和脂肪酸エステル(PUFAまたはポリエン脂肪酸)が、脂質蓄積障害を治療するための本開示の方法において用いられ得る。PUFAとは、1つを上回る数の二重結合を含有する脂肪酸である。オメガ-3 PUFA、オメガ-6 PUFA、およびオメガ-9 PUFAという3つのクラスのPUFAが存在している。オメガ-3 PUFAでは、第一の二重結合が、鎖における最後の炭素(オメガ炭素)から離れた3個目の炭素に見出される。オメガ-6 PUFAでは、第一の二重結合が、鎖から離れた6個目の炭素に見出され、そしてオメガ-9 PUFAでは、第一の二重結合が、オメガ炭素から9個目の炭素である。本明細書において使用するとき、PUFAという用語には、天然に存在する脂肪酸および合成脂肪酸の両方が含まれる。PUFAの主な供給源は、海産魚油由来であり、および油糧種子作物に由来する植物油由来である。本開示の方法における使用に適したPUFAの例には、8-[2-(2-ペンチル-シクロプロピルメチル)シクロプロピル]-オクタン酸(DCPLA)のエステル、ならびに米国特許第8,163,800号およびPCT公報第WO 2010014585 A1号に記載されているものが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0025】
適切なPKC活性化剤の別の例には、例えばジアゾキシドなど、カリウムチャネル活性化剤が含まれる。
【0026】
ある特定の態様において、ネリスタチン1などのネリスタチンが、脂質蓄積障害を治療するための本開示の方法において用いられ得る。
【0027】
他の適切なPKC活性化剤には、ホルボール-12-ミリスタート-13-アセタート(PMA)、オカダ酸、1α,25-ジヒドロキシビタミン D3、12-デオキシホルボール-13-アセタート(プロストラチン)、1,2-ジオクタノイル-sn-グリセロール(DOG)、1-オレオイル-2-アセチル-sn-グリセロール(OAG)、(2S,5S)-(E,E)-8-(5-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-2,4-ペンタジエノイルアミノ)ベンゾラクタム(α-アミロイド前駆体タンパク質変調剤)、シス-9-オクタデセン酸(オレイン酸)、インゲノール3-アンゲラート、レシニフェラトキシン、L-α-ホスファチジル-D-ミオ-イノシトール-4,5-ビスホスフェート、三アンモニウム塩(PIP2)、ホルボール-12,13-ジブチラート、8(S-ヒドロキシ-(5Z, 9E, 11Z, 14Z)-エイコサテトラエン酸(8(S)-HETE)、12β-[(E,E)-5-フェニル-2,4-ペンタジエノイルオキシ]ダフネトキシン(メゼレイン(merzerein))、クエン酸クロミフェン、オレイン酸ナトリウム、ホルボール12,13-ジアセタート、ホルボール-12,13-ジデカノエート、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロール、1-ステアロイル-2-リノレオイル-sn-グリセロール、ホルボール-12,13-ジデカノエート、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロール、1-ステアロイル-2-リノレオイル-sn-グリセロール、ホルボール12,13-ジヘキサノエート、プロストラチンおよびその類似体、レシニフェロノール9,13,14-オルト-フェニルアセタート、C-8セラミド、1,6-ビス(シクロヘキシルオキシミノカルボニルアミノ)ヘキサン;1,6-ジ(O-(カルバモイル)シクロヘキサノンオキシム)ヘキサン(RHC-80267)、(+/-)-1-オレオイル-2-アセチルグリセロール、5(S),6(R),15(S)-TriHETE(リポキシンA4)、(-)-インドラクタムV、SC-9、SC-10、ゾレドロン酸一水和物、12-デオキシホルボール(deoxyphorbo)13-アンゲラート20-アセタート、6-(N-デシルアミノ)-4-ヒドロキシメチルインドール、4α-ホルボール12,13-ジブチラート、1,2-ジヘキサノイル-sn-グリセロール、ゾレドロン酸二ナトリウム塩四水和物、アラキドン酸メチルエステル、アラキドン酸-d8が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0028】
本明細書において使用するとき、「薬学的有効量」とは、脂質蓄積障害に対して治療的に関連する効果を有する、薬学的化合物または組成物の量である。治療的に関連する効果とは、生体力学的過程(例えば、歩行、四肢の使用など)の何らかの向上、または特定の脂質輸送障害の原因のいずれかに関連する、細胞の、生理学的な、もしくは生化学的なパラメーター(例えば、ビメンチン溶解度、コレステロールエステル化、コレステロールの集積および輸送、スフィンゴ糖脂質の集積および輸送)の変化に関係する。
【0029】
ある特定の態様において、ブリオスタチンおよびブリオログの薬学的有効量は、1日あたり受容者体重1kgあたり約0.0000001〜約500mgであり得、それを単回または複数回投薬で投与し得る。一部の態様において、投薬量レベルは、1日あたり約0.0000001mg/kg〜約250mg/kg;1日あたり約0.0000005mg/kg〜約100mg/kg;1日あたり少なくとも約0.0000001mg/kg〜約250mg/kg;1日あたり少なくとも約0.00000005mg/kg〜約100mg/kg;1日あたり少なくとも約0.000001mg/kg〜約50mg/kg;または1回投薬あたり約0.00001mg/kg〜約5.0mg/kgであり得る。他の態様において、投薬量は、約0.00000001mg/kg〜約0.00005mg/kg;0.00005mg/kg〜約0.05mg/kg;1日あたり約0.0005mg/kg〜約5.0mg/kg;1回投薬あたり約0.0001mg/kg〜約0.5mg/kg;または1回投薬あたり0.001〜0.25mg/kgであり得る。
【0030】
脂質蓄積障害がニーマン・ピック病である、ある特定の具体的な態様において、PKC活性化剤の薬学的有効量は、ビメンチンを可溶化しかつ/または捕捉されたRab9を放出するのに十分な量であり得る。
【0031】
ある特定の態様において、投薬は、約1μg/kg(3〜25μg/m2)から120μg/kg(360〜3000μg/m2)である。他の態様において、投薬は、約0.04〜0.3μg/kg(1μg/m2)から約1〜10μg/kg(25μg/m2)である。他の態様において、投薬は、約0.01μg/m2から約25μg/m2である。他の態様において、投薬は、約0.0002〜0.0004μg/kgから約0.05〜1μg/kgである。
【0032】
ある特定の態様において、PKC活性化剤は、約0.001〜100mg/kg;0.01〜約50mg/kg;約0.1〜約10mg/kgの投薬量で投与されるPUFAである。
【0033】
ある特定の態様において、本開示の方法において用いられる組成物中に存在しているPKC活性化剤は、ブリオスタチンまたはブリオログであり、かつ該ブリオスタチンまたはブリオログは、約0.0001〜約1000ミリグラムの量で用いられる。一部の態様において、ブリオスタチンまたはブリオログは、少なくとも約0.0001、0.0005、0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、0.006、0.007、0.008、0.009、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、5.0、10.0、15.0、20.0、25.0、50.0、75.0、100.0、150.0、200.0、250.0、300.0、400.0、500.0、600.0、750.0、800.0、900.0、または約1000.0ミリグラムの量で用いられる。
【0034】
本開示の方法において用いられる組成物は、任意の適切な経路を介して、例えば経口で、腹腔内に、皮下に、鼻腔内に、口腔に、経皮的に、筋肉内に、直腸内に、静脈内に、および経口吸入によって投与され得る。
【0035】
本開示の方法において用いられる組成物は、1日あたり1〜4回のレジメンで投与され得、かつ一部の態様において、組成物は、患者の必要に応じて、1週間に2回、1週間に1回、2週間ごとに1回、3週間ごとに1回、4週間ごとに1回、6週間ごとに1回、8週間ごとに1回、またはさらに低い頻度で投与される。
【0036】
本開示の方法において用いられる組成物は、約1〜約30日間;約1〜約90日間;約1〜約120日間;約1〜約180日間;約1〜365日間;1年間;2年間;3年間;または患者の生涯の間持続する治療の経過の一部として投与され得る。
【0037】
しかしながら、任意の特定の受容者に対する具体的な用量レベルおよび投薬の頻度は変動し得ること、ならびに、採用される特定化合物の活性、その化合物の代謝安定性と作用の長さ、年齢、体重、全般的健康状態、性別、食事、投与の様態と時間、排出の速度、薬物組み合わせ、障害の性質、特定の障害の重症度、および療法を受けている受容者を含む多様な因子に依存し得ることが、理解されるであろう。
【0038】
本発明のより良い理解を促すために、具体的な態様についての以下の実施例が与えられる。以下の実施例は、本発明の範囲全体を限定するまたは規定するために決して読まれるべきではない。
【実施例】
【0039】
実施例1
材料および方法
ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、トリプシン、L-グルタミン、ゲンタマイシン、ならびにNuPageゲルおよびバッファーをInvitrogen(Carlsbad, CA)から入手し、一方でFBSはHyclone, Thermo Scientific(Rockford, IL)製であった。モノクローナル抗ビメンチン(V9)コンジュゲート抗マウスIgG、および抗ウサギIgG抗体は、Santa Cruz Biotechnologies, Inc.(Santa Cruz, CA)製であった。抗GAPDH抗体はMillipore(Billerica, MA)製であり、そして抗Rab9ポリクローナル抗体は他の箇所で記載されている[27]。フィリピン(Filipin)はPolysciences, Inc.(Warrington, PA)製であった。Lumilight Plus基質およびFuGENE(商標)6トランスフェクション試薬は両方とも、Roche Diagnostics(Indianapolis, IN)製であった。[9,10-3H(N)]オレイン酸(15Ci/mmol)をNEN Life Science Products(Boston, MA)から入手し、そしてLDLはEMD Biosciences Inc.(La Jolla, CA)製であった。他のすべての化学物質をSigma-Aldrich(St. Louis, MO)から入手した。
【0040】
細胞培養およびトランスフェクション
ヒト野生型線維芽細胞(GM05387)、NPC1o線維芽細胞(GM09341)、およびNPC1線維芽細胞(GM03123)細胞株を、コーリエル細胞レポジトリ(Coriell Cell Repositories)(Camden, NJ)から入手した。M12チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株およびその野生型親株を入手しかつ培養した。5% CO2を有する37℃での加湿インキュベーター内にて、線維芽細胞細胞株をDMEM中で、CHO細胞をDMEM/F12(50:50)培地中で培養した(これらには10% FBS、2mM L-グルタミン、および50μg/mlゲンタマイシンを補充した)。
【0041】
PKCαのcDNAを、トランスフェクションの成功をモニターするためにGFPを含有する2シストロン性ベクターpIRES(Stratagene)内にクローニングした。PKCβIIおよびPKCε(ATCC)のcDNAを、核標的化RFPを発現するベクターpYDual(Ioannou、非公開)内にクローニングした。Rab9-YFP融合構築物([5]に記載されている)をRab9発現に用いた。一過性の過剰発現を、メーカーの提言に従い、FuGENE(商標)6試薬(Roche Diagnostics)を用いて、70%密集度における細胞にトランスフェクトすることによって達成した。
【0042】
タンパク質解析
トランスフェクションの2日後に、トランスフェクトされた細胞を、2mM EDTAを含有するPBSで回収した。可溶性および不溶性の細胞画分を、以前に記載されているように[5]調製した。簡潔には、可溶性/細胞質の画分を入手するために、細胞を、冷却した「ホスホ」バッファー[150mM NaCl、20mM NaF、100μM Na3VO4、20mM Hepes、pH7.5、1%(v/v)イゲパール(Igepal)、10%(v/v)グリセロール、および組織20mgあたり1μLのプロテアーゼ阻害剤カクテル]中で氷上にて30分間インキュベートし、次いで4℃で14,000rpmにて20分間遠心分離した;透明な上清を1μg/μlの濃度で一定分量で凍結した。ペレット(不溶性画分)を、2mM EDTAを含有する氷冷PBS中で3回洗浄し、次いで「ホスホ」バッファーに等しい容量の「Triton」バッファー[PBS、1%(w/v)SDS、および0.1%(v/v)Triton X-100]中に再懸濁した。この溶液を10分間ボイルし、かつ溶液が透明になるまで超音波処理した。この画分のタンパク質濃度を、可溶性/細胞質の画分について決定されたタンパク質濃度に従って、1μg/μlに調整した。タンパク質濃度を、本発明者らが記載している[36]、フルオレスカミン法を用いて決定した。次いで4〜12% Bis-Trisプレキャストゲル(Invitrogen, Carlsbad, CA)を、メーカーの指示に従い、XCell II装置(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いてProtran膜に転写した。ブロットを、以前に記載されているように[27]加工した。
【0043】
Rab9解離調査に関しては、1.0×107個のNPC1 3123細胞を氷冷PBS中に回収し、かつ各10秒間4回の超音波処理によって溶解した。溶解物を14,000rpmで10分間遠心分離して、不溶性画分から可溶性画分を分離し、かつ全タンパク質濃度を、改変Bradfordアッセイ(Bio-Rad, Hercules, CA)を用いて決定した。等量の各不溶性画分と、PKCアイソザイムパネル(Sigma, St. Louis, MO)由来の精製された各PKCアイソフォームとを混合し、かつ37℃で60分間インキュベートした。等容量の各サンプルを4〜12% Bis-Trisプレキャストゲルを通して分解し、膜に転写し、かつ上記で記載されているように加工した。
【0044】
コレステロールエステル化
[3H]オレエート基質の調製およびエステル化アッセイを、以前に記載されているように[5]実施した。細胞を50μg/mlの脂肪酸で2日間処理し、次いでエステル化アッセイの前に、PKEαまたはPKCεを24時間トランスフェクトした。すべての値を三つ組で生成し、かつ細胞タンパク質全体に対して正規化した。
【0045】
免疫蛍光顕微鏡法
トランスフェクトされた細胞におけるフィリピン染色に関しては、メーカーの推奨に従い、Fugene 6を用いて、細胞にPKCまたはRab9をトランスフェクトした。48時間後、本発明者らが以前に記載しているように[37]、細胞をフィリピンで染色した。Fluoromount-G(SouthernBiotech, Birmingham, AL)を用いて、細胞をスライド上に封入し、かつ電荷結合素子カメラを取り付けられたNikon Eclipse顕微鏡(Nikon, Melville, NY)で解析した。画像をMetaVueソフトウェアにより入手し、次いでAutoQuant Imaging, Inc製のAutoDeblurソフトウェア(Troy, NY)を用いてデコンボリューション(deconvolute)した。フィリピン蛍光の定量に関しては、細胞を6ウェルディッシュに3×105個の細胞/ウェルで播種しかつ一晩定着させ、その後、10%リポ蛋白欠乏血清(LPDS)を含有する培地で4日間置き換えた。本発明者らが以前に記載しているように、固定およびフィリピンでの染色の前に、細胞をオレイン酸/リノール酸と48時間、DCPLA/DHAと24時間、またはジアゾキシドと72時間インキュベートした。すべてのサンプルに対して同じ露光時間を用いて、画像を入手した。MetaVueソフトウェアの積分強度関数を用いて、蛍光強度を決定した;各サンプルについて少なくとも150個の細胞を定量し、かつ各実験を3回繰り返した。スフィンゴ脂質輸送の解析に関しては、以前に記載されているように[30]、BODIPY-LacCer染色を実施する前に、細胞をオレイン酸/リノール酸、DCP-LA、またはPMAと48時間インキュベートした。
【0046】
NPC1細胞において、PKC発現は可溶性ビメンチンのレベルを増加させる
ミスセンスまたはヌル(NPC1o)変異を有するNPC1細胞は、WT細胞と比べて、それぞれ減少したまたは事実上検出不能なレベルの可溶性リン酸化ビメンチンを含有する[5]。さらに、NPC1細胞内に存在しているビメンチンは、原形質膜付近に大きな無秩序なフィラメント(脱リン酸化状態)として存在する。ゆえに、NPC1細胞は、本質的にビメンチンヌル細胞として挙動し、それは、NPC1細胞と同様に、LDL由来コレステロールをエステル化することができない[11]。それらの調査を拡大する際に、NPC1細胞において、ビメンチンリン酸化の減少は、プロテインキナーゼC(PKC)阻害の結果であるという仮説を立てた。これを支持して、PKC活性化剤のホルボール-12-ミリスタート-13-アセタート(PMA)によるNPC細胞の処理は、可溶性ビメンチンのレベルを増加させかつNPC脂質蓄積表現型を改善し、一方で反対に、PKC阻害剤によるWT細胞の処理は、それらの細胞における可溶性ビメンチンの消失をもたらすことが、その調査において観察された。これらの結果は、細胞内の可溶性ビメンチンプールの維持におけるPKC、および拡大解釈すれば正常なライソゾームコレステロール流出におけるPKCを強く暗示する。NPC細胞において、種々のPKCアイソフォーム、および可溶性ビメンチンレベルに対するそれらの効果を評価することによってそれらの調査を拡大すると、PKCアイソフォームのα、βII、およびεが、ビメンチンリン酸化に関わっていることが示され得る[10,17,18];したがって、これらのアイソフォームに焦点を合わせる。それらをヒトNPC1細胞において一過性に発現させ、かつ可溶性ビメンチンレベルに対するそれらの効果を特徴決定した。PKCβIIの発現は、可溶性ビメンチンレベルの有意な増加を引き起こし(トランスフェクトされていないNPC1細胞よりも約38倍高い)、それは、WT細胞において見られるレベルよりも高く(NPC1細胞よりも約20倍高い)、一方でPKCαまたはεの発現は、可溶性ビメンチンレベルの、より小さくはあるがなおも有意な増加を引き起こした(それぞれ、約3倍および約7倍)(図1)。対照として、これらの細胞におけるRab9の発現も、以前に報告されたもの[5]と一致して、可溶性ビメンチンの有意な増加につながった(約30倍)。述べられているように、3種すべてのアイソフォームは、同程度に可溶性Rab9レベルの増加をもたらした(トランスフェクトされていないNPC1細胞よりも約2500倍高い)。さらに、PKC発現細胞において、不溶性ビメンチンレベルは可溶性ビメンチンレベルが増加するにつれて減少し、これにより、可溶性ビメンチンの増加が不溶性ビメンチンの可溶化(リン酸化)によるものであることが示唆された(図1A)。
【0047】
同様に、検出可能な可溶性ビメンチンを通常ほとんど有しない重度に影響を受けたNPC1o細胞において、3種のPKCアイソフォームのうちのいずれかの発現は、可溶性ビメンチンのレベルの増加をもたらした(図1B)。ビメンチン可溶化に関して、ビメンチンを可溶化することにおいてβIIアイソフォームが最も有効であるように見えるNPC1細胞とは対照的に、NPC1o細胞においては、3種すべてのアイソフォームが同等に良好に作用する。さらに、可溶性Rab9レベルも、PKC発現の結果として同程度のレベルまで増加し(図1B)、PKCを発現するNPC1細胞においても見られる結果であった(図1A)。
【0048】
PKC発現は、ビメンチンからのRab9解離を誘導する
NPC1細胞において、小型GTPアーゼのRab9がビメンチンフィラメントに捕捉される[5]という、およびRab9過剰発現がNPC1表現型を補正する[19]という観察結果は、NPC1細胞においてRab9利用可能性が低下することを強く示唆する。疾患細胞は、Rab9タンパク質発現を上方調節することによって、この不足を補おうとし得る。この考えは、NPC1細胞が、WT細胞よりも多くのRab9タンパク質を含有しないという事実によって支持される(図1Aおよび[19])。上記で記載されているように、PKC発現は、可溶性ビメンチンレベルだけでなく、可溶性Rab9レベルも有意に増加させた(図1Aおよび1B)。PKC発現細胞におけるRab9レベルの増加が、それがリン酸化された後の、不溶性ビメンチンからのRab9放出の結果であるかどうかを判定するために、NPC1細胞溶解物の不溶性ビメンチン画分をPKC基質として用いて、PKCアッセイを9種の精製PKCアイソフォームによりインビトロで実施した。すべてのアイソフォームは、様々な程度に不溶性ビメンチンからのRab9放出をもたらし得(図2)、これにより、少なくともインビトロにおいて、大部分のPKCアイソフォームはビメンチンリン酸化およびRab9放出を触媒し得ることが示唆された。興味深いことに、PKCαはRab9放出の最大の増加を引き起こし、一方でPKCβIIおよびεは効果が低く、かつPKCγはほとんど効果がなかった。これらの結果は、可溶性ビメンチンレベルを増加させることにおいてPKCβIIがPKCαおよびεよりも有効であることを示唆している、一過性にトランスフェクトされたPKC発現細胞の結果とは異なる(図1A)。アイソフォーム有効性の不一致は、アッセイの性質、各アイソフォームの固有の活性、または種々のアイソフォームのインビボにおける細胞内位置およびビメンチンへのそれらの接近によるものであり得る[10,16,17,20];しかしながら、PKCがビメンチンを可溶化し得ること、およびそうする際に、捕捉されたRab9を放出し得ることは明白である。
【0049】
PKCの過剰発現は、NPC1表現型の部分的補正を誘導する
上記のデータ、ならびにRab9過剰発現が可溶性ビメンチンの増加およびNPC1表現型の補正をもたらすという観察結果[5]に基づき、PKC過剰発現によって引き起こされるビメンチン溶解度の増加も、NPC1表現型の補正をもたらすかどうかを判定した。NPC1遺伝子座の欠失を含有するNPC1 CHO(M12)細胞[21]にPKCαまたはPKCεをトランスフェクトし、かつアシルCoA:コレステロールアシルトランスフェラーゼ(ACAT)によるエステル化のためにE/L系からERに輸送されるLDL由来遊離コレステロール[22]の量を測定した。M12細胞のエステル化レベルは、親WT CHO細胞のエステル化活性の10%未満であり(図3)、それは、E/L系からのコレステロール輸送の遮断と一致している。PKCαまたはPKCεの発現は、コレステロール輸送遮断を改善し、M12細胞エステル化のレベルを、トランスフェクトされていないM12細胞のものと比べて、それぞれおよそ4倍および6.5倍増加させた(図3、+PKCα、+PKCε)。これらの結果は、PKCの発現によって仲介されるビメンチンの可溶化が、NPC1脂質輸送遮断を部分的に解除し得ることを示している。
【0050】
PKCをトランスフェクトされた細胞におけるコレステロール蓄積も、遊離コレステロールに結合する蛍光プローブであるフィリピンで染色することによって定性的に判定した[23]。この解析は、図3に示されるエステル化調査と類似した結果をもたらした。PKCα、PKCε、またはPKCβIIについて陽性である(GFP共発現によって判定される)細胞は、周辺のトランスフェクトされていない細胞よりも有意に低いフィリピン染色を示した(図4)。これらの結果は、Rab9を過剰発現している細胞において見られるものと類似しており(図4、Rab9)、それは、NPC1コレステロール蓄積表現型を補正することが以前に示されている[19]。
【0051】
NPC1細胞において、脂肪酸への曝露は可溶性ビメンチンレベルを増加させる
脂肪酸およびとくにオレイン酸はPKC活性を誘導することが示されており[24]、一方でリノール酸の下流代謝産物であるDCP-LA(8-[2-(2-ペンチル-シクロプロピルメチル)-シクロプロピル]-オクタン酸)は、PKCεを強力に活性化することが示されている[25,26]。さらに、NPC1エンドソームは、大量の脂肪酸を蓄積することが以前に示されており[27]、それは、PKC活性化および他の過程のために細胞にとって利用可能な遊離脂肪酸の量を潜在的に限定し得る。
【0052】
NPC1細胞において、外因的に添加された脂肪酸がビメンチン可溶化を増加させ得るかどうかを判定するために、ヒトNPC1線維芽細胞をオレイン酸またはリノール酸で48時間処理し、かつ細胞溶解物中の可溶性ビメンチンのレベルを解析した。NPC1線維芽細胞は、ごくわずかな可溶性ビメンチンを含有する(図5Aおよび[5])。オレイン酸またはリノール酸のいずれかによる処理は、可溶性ビメンチンの量を有意に増加させ、オレイン酸はわずかにより有効である。これらの結果は、NPC1細胞において、外因的に添加された脂肪酸が、おそらくPKCを活性化することによって、ビメンチン可溶化をもたらし得ることを示唆している。
【0053】
脂肪酸への曝露は、NPC1表現型の補正を誘導する
NPC1細胞において、脂肪酸はビメンチンの可溶化を増加させるため、それらは、NPC1表現型も向上させ得る。M12 CHO細胞(図5B)およびヒトNPC1線維芽細胞(図5C)を、各脂肪酸で処理し、次いでフィリピンで染色した。WT細胞(図5B/C、1)はフィリピンで非常に弱く染色され、一方でNPC1(図5B/C、2)細胞は、エンドサイトーシス小胞内の遊離コレステロールの指標である明るい点状の染色を含有する。両方の種由来のNPC1細胞におけるフィリピン蛍光は、いずれかの脂肪酸への曝露後に有意に減少した(図5B/C、3および4)。統合された形態計測によるフィリピン蛍光レベルの定量後、両方の脂肪酸は、両方のNPC1細胞株においてコレステロール集積のレベルを劇的に低下させることが見出され、未処理細胞におけるレベルの約75%にフィリピン蛍光を低下させた(図5B/C、グラフ)。ヒト線維芽細胞は、CHOまたはマウスNPC1細胞株のいずれかよりも不均一なフィリピン染色パターンを呈し、それは、未処理3123細胞におけるより高い標準偏差に反映されている(図5C、グラフ)。M12細胞におけるコレステロールエステル化に対する脂肪酸の効果も評価した。リノール酸は、未処理M12細胞と比較して、コレステロールエステル化を2倍を上回って増加させた(図3、+Lin)。オレイン酸またはリノール酸で処理され、その後にPKCεの発現が続くM12細胞において、NPC1表現型の補正はより著しく、未処理細胞と比べて約3.5倍であるエステル化レベルを有した(図3、+PKCε/オレイン酸および+PKCε/リノール酸)。これらの結果は、脂肪酸およびPKC発現が、NPC1コレステロール輸送遮断の補正に対して相加的効果を有することを示唆している。
【0054】
NPC表現型に対する脂肪酸の効果をさらに特徴決定するために、ドコサヘキサエン酸(docosahexanoic acid)(DHA)およびリノール酸の代謝産物であるDCP-LAの能力を、M12 CHO細胞におけるコレステロール蓄積を減少させ得るそれらの能力について試験した。両方の脂肪酸は、PKCεを強力に活性化することが示されている[24,28]。これらの化合物によるM12 CHO細胞の一晩の処理は、未処理細胞(図6B)と比べて、コレステロール蓄積の減少をもたらした(図6C/D)。DCP-LA(図6C)は、DHAよりもわずかに有効であった(図6D)。これらの細胞におけるフィリピン強度の定量により、両方の化合物が、M12 CHO細胞におけるコレステロール蓄積を約50%低下させることが明らかとなり(図6G)、このことは、おそらくPKCεの活性化を介した、NPC疾患表現型に対する遊離脂肪酸の正の効果へのさらなる裏付けを与えた。
【0055】
NPCレスキューにおけるPKCの役割に対するさらなる裏付けを提供するために、M12細胞を、PKCεを活性化することが示されているジアゾキシド[29]で処理した。この処理は、未処理細胞(図6E)と比べて、M12 CHO細胞(図6F)におけるコレステロール集積の低下をもたらした。これらの細胞におけるフィリピン強度の定量により、ジアゾキシドは、コレステロール蓄積を約50%低下させることが示され、これは、遊離脂肪酸に関して見られた結果と類似していた(図6G)。
【0056】
NPC1表現型に対するDCP-LAおよび脂肪酸の正の効果をさらに裏付けするために、ヒトNPC1細胞をDCP-LA、脂肪酸、またはPMAで処理して、PKCを活性化した。次いで、細胞を、エンドサイトーシス経路の動力学的観点を提供することが以前に示されている[30]、BODIPY-LacCerで標識した。原形質膜への吸着後に、LacCerスフィンゴ脂質は、エンドサイトーシスを介して正常細胞に入り、かつ最終的にトランスゴルジネットワーク(TGN)に到達する([30])。しかしながら、NPC1細胞における脂質輸送遮断により、このスフィンゴ脂質はエンドソーム内で捕捉され、かつTGNへのその標的化は劇的に阻害される[30]。図7に表示されるように処理されたヒトNPC1細胞は、点状のエンドソーム蛍光のみを示す未処理細胞(図7A)と比較してTGNに効果的に到達する(図7;矢印)BODIPY-LacCerによる脂質輸送の劇的な向上を示している。これらの結果は、これらの剤が、NPC1脂質遮断を解除し得るというさらなる裏付けを提供する。
【0057】
まとめると、これらの結果は、PKCεを活性化することによって作用し得る遊離脂肪酸への曝露が、NPCコレステロール蓄積表現型に対して正の効果を有することを示している。
【0058】
考察
NPC1細胞におけるRab9発現は、E/L系からの脂質輸送を回復させかつコレステロールエステル化を正常化し[19]、そして後に、Rab9は、NPC1細胞における不溶性ビメンチンフィラメントに捕捉されることが示された[5]。その結果として、NPC1細胞におけるスフィンゴシンなどの集積した脂質[31,32]は、様々なPKCアイソフォームに対する阻害効果を発揮し得、それによってビメンチンのリン酸化/脱リン酸化循環の混乱がもたらされる[19]。
【0059】
NPC1細胞における、PKC阻害およびビメンチン低リン酸化の性質を特徴決定するために、NPC1細胞におけるいくつかのPKCアイソフォーム(α、βII、およびε)を発現させ、かつビメンチン可溶化およびNPC1表現型の補正に対するそれらの効果を特徴決定した。3種すべてのアイソフォームは、様々な程度にビメンチン可溶化に対して正の効果を有した(図1)。
【0060】
さらに、PKC誘導によるビメンチン可溶化は、捕捉されたRab9の放出を伴った(図1)。どのPKCアイソフォームが、ビメンチンリン酸化およびRab9の放出においてより有効であり得るかをさらに判定するために、8種の異なるPKCアイソフォームをインビトロアッセイで試験した。大部分のアイソフォームは、様々な程度にビメンチンからRab9を放出し得たが(図2)、それはインビボでは当てはまらない可能性がある。この不一致は、PKCアイソフォームのインビボにおける異なる細胞内位置、およびビメンチンフィラメントへのそれらの接近による可能性がある[16,20]。しかしながら、PKCε制御によるビメンチンのリン酸化に関して示されているように[10]、ビメンチンは、ある特定のPKCに対して直接的基質ではない可能性もある。その調査において、PKCεはビメンチンリン酸化を仲介し、それは、細胞内での適正なインテグリン再利用に不可欠であることが示された。これらの調査は、NPC1細胞におけるPKCアイソフォームの発現が、NPC1疾患表現型、すなわちエンドソーム/ライソゾーム系におけるコレステロール集積の部分的補正をもたらすことを示している。
【0061】
また、多くの調査により、オレイン酸およびリノール酸などの長鎖脂肪酸は、ビメンチンフィラメントをリン酸化することが示されているアイソフォーム[10]のPKCεを、DCP-LAなどの下流代謝産物とともに活性化し得ることが示されている[24,25]。NPC1細胞において、遊離脂肪酸の利用可能性は限定され得ることが以前に報告されているため[27,33]、外因的に添加された脂肪酸は、おそらくPKCεを活性化し、かつビメンチンのリン酸化およびRab9の放出につながることによって、NPC1表現型に対する正の効果を有すると考えられた。予想どおり、NPC1細胞において、オレイン酸、リノール酸、またはDCP-LAの添加は、可溶性ビメンチンの増加をもたらした(図5)。さらに、脂肪酸添加は、NPC1細胞によるコレステロールエステル化の有意な向上をもたらし(図3)、E/L系からの脂質輸送が回復することが示された。PKCεの公知の活性化剤であるジアゾキシド[29]がNPC1表現型を補正し得る能力を試験し、これにより、NPC1発病に寄与することにおける、ビメンチンのPKCによる不十分なリン酸化の関与に関するさらなる裏付けが提供された。ここで提示される結果と合致して、ジアゾキシドは、NPC1細胞におけるコレステロール集積を50%低下させ得た(図6)。複数のPKCε活性化剤に関する結果は、PKCεがNPC細胞内でこれらの変化を仲介していることを強く示唆するものの、これらの剤が、他の何らかの経路またはPKC以外のタンパク質を介して作用し得るという可能性は排除され得ない。
【0062】
これらのデータは、NPCマウス肝臓における異常なPKC発現についての以前の観察結果[34]と一致している。それらの調査では、PKCα、δ、ε、およびζの発現が免疫ブロットによって評価された。PKCαおよびδは、WT肝臓と比較して、NPC1肝臓において約3倍高かったのに対し、PKCεは有意に増加せず、そしてPKCζはヘテロ接合性肝臓においてのみ高かった。PKCεは、それ自身を上方調節に適した状態にしないが、例えば脂肪酸を介して活性され得、かつそのような活性化は、NPC1細胞において有益な結果をもたらし得ると仮定するのは興味深い。PKCεはビメンチンをリン酸化することに関与し、それが今度は、インテグリンなどの様々なリガンドの小胞輸送を制御するという強力な証拠が存在している[10]。タンパク質を治療法として送達する難しさ(これはNPC1などの神経病理学を有する疾患において著しく増幅される)を考えると、PKCεなどの主要な調節剤の小型の脂質活性化剤は大いに有利であろう。これらの結果は、ビメンチンリン酸化に関与するPKCアイソフォームの同定が、ニーマン・ピック病C型、ならびにE/L脂質集積につながる他のライソゾーム蓄積障害[35]の治療のための新たな治療標的を提供し得ることを示唆している。
【0063】
実施例2
本発明者らはまた、遊離コレステロール(フィリピン)、スフィンゴ糖脂質レベル(VTB)、およびガングリオシド移動(CTB)に対するプローブを用いて、ニーマン・ピックC病の表現型に対するPKC活性化剤のブリオスタチン1およびDCPLAの効果を、ヒトNPC1細胞の48〜72時間の処理後に調査した。
【0064】
材料および方法
【0065】
(表1)ヒトNPC1細胞株
【0066】
(表2)試薬
【0067】
一般的な方法論
細胞を6ウェルディッシュに播き、かつ表示された1日用量での適当な化合物(DMSO中に溶解された)で48時間処理した。対照細胞にはDMSOを与える。48時間後、細胞を、新鮮な化合物とともにカバースリップに移し、さらに24時間成長させる。顕微鏡法のために、カバースリップを回収しかつ加工する。
【0068】
アッセイプロトコール
フィリピン: ライソゾームにおける非エステル化コレステロールの検出に関しては、細胞をホルマリン中で4℃にて30分間固定し、0.9% NaCl中で5分間2×洗浄し、PBS中0.01%フィリピンと室温で45分間インキュベートし、次いで5分間2×洗浄した。CCDカメラを備えたNikon Eclipse蛍光顕微鏡(Nikon, Melville, NY)を用いて、蛍光を観察した。Nikon製のイメージングおよび定量ソフトウェアパッケージNIS Elements、v.3.22を用いて、蛍光シグナルを定量化した。
【0069】
ベロ毒素B(VTB): VTB染色(スフィンゴ糖脂質検出)に関しては、細胞をPBSで洗浄し、かつホルマリン中で4℃にて30分間固定する。0.9%塩化ナトリウムで室温にて5分間2×洗浄した後、細胞を1.5ml PBS中50μg/ウェルのジギトニンで透過処理する。細胞をPBSで洗浄し、かつalexa標識されたVTBを1ml PBS中0.5μg/ウェルで添加する。細胞を、暗所においてシェーカー上でRTにて45分間インキュベートし、0.9%塩化ナトリウムでRTにて5分間2×洗浄し、かつ見るために封入する。
【0070】
コレラ毒素B(CTB): CTB標識化(ガングリオシド移動)に関しては、細胞をPBSで洗浄し、かつ0.5μg/ウェルのCTBを、1ウェルあたり1.5ml Opti-MEM中に添加する。細胞を37℃のインキュベーター内で1時間インキュベートする。FBSを含む完全DMEM培地を添加し、かつインキュベーションを37℃で4時間続ける。細胞をPBSで洗浄し、かつホルマリンで4℃にて15分間固定する。細胞を0.9%塩化ナトリウムでRTにて5分間2×洗浄し、かつ見るために封入する。
【0071】
解析、結果、および結論
ニーマン・ピックC1(NPC1)細胞は、欠陥のあるNPC1タンパク質を有し、かつ様々なエンドソーム小胞内における、コレステロール、スフィンゴ脂質、およびガングリオシドなど、いくつかの脂質の極度の集積を特徴とする(図2)。様々な患者由来のNPC1細胞の特徴決定において、およびこの疾患を治療する際に有益であり得る潜在的化合物についての評価において、様々なNPC1特異的脂質のクリアランスおよび/または移動を測定するいくつかの異なるアッセイを実施した。例えば、フィリピンを用いて蓄積コレステロールのレベルを検出した(アッセイプロトコール)が、一方でベロ毒素B(VTB)は、コレステロールを含有するものとは別のエンドソーム内に蓄積されることもあるスフィンゴ糖脂質のレベルについての査定を可能にする(アッセイプロトコール)。加えて、異なるプローブのコレラ毒素を用いることにより、原形質膜からのガングリオシドの移動をモニターすることができる(アッセイプロトコール)。
【0072】
これらの調査は、ブリオスタチン1、DCPLA、およびジアゾキシドという3種すべてのPKC活性化剤が、様々な程度にかつ種々の薬物濃度で、NPC1細胞からのコレステロールのクリアランスを誘導し得ることを示している(図8)。しかしながら、ブリオスタチン1は、ナノモル濃度範囲で活性を示す最も活性のある化合物であるように見える(図9)。10nMにおいて、ブリオスタチン1は、NPC1細胞のスフィンゴ糖脂質集積を減少させることにおいて統計的に有意な有効性も示している(図10)。
【0073】
ブリオスタチン1の効果が、上記の実験において用いられたNPC1細胞の遺伝子型(すなわち、特定の患者によって保持される特定のNPC1遺伝子変異)に依存しているかどうかを判定するために、完全に区別されるNPC1遺伝子型を有する異なる患者細胞株を用いた。ブリオスタチン1は、依然として、10nM濃度においてこれらの細胞からのコレステロールクリアランスをもたらし得、これによりブリオスタチン1の活性がNPC1遺伝子型とは無関係であることが示された(図11)。
【0074】
ブリオスタチン1は、エンドソームを介した原形質膜からゴルジネットワークへの脂質の移動をモニターする動力学的アッセイにおいても有効であった。10mMにおいて、ブリオスタチン1は、NPC1細胞から、エンドソームに捕捉されたコレラ毒素(CTB)を一掃し得た(図12)。
【0075】
これらの結果を裏付けするために、ブリオスタチン1を0.1nM〜100nMの範囲で用い、かつコレステロールおよびスフィンゴ脂質アッセイにおいて両方を評価した(図13)。0.1nMにおいて、ブリオスタチンは両方のアッセイで効果を有しない。効果は、1nMで統計的に有意となり、かつブリオスタチン1濃度を増加させるとともに増加する。
【0076】
したがって、ブリオスタチン1は、10〜100nMの濃度で、ヒトNPC1疾患細胞に対して陽性の治療効果を示した。
【0077】
実施例3
ニーマン・ピックC病は、神経変性および小児期早期の死亡につながる、重度の遺伝性リピドーシスである。神経変性につながる生化学的事象および細胞事象は、現在ほとんど理解されていない。しかしながら、PKCε活性化は、遮断された脂質輸送経路を回復させ得、かつNPCエンドソーム/ライソゾームにおける蓄積された脂質材料の低下につながり得ることが示されている。ゆえに、PKCεの天然産物活性化剤であるブリオスタチン1によるNPC1マウスの処理は、この動物モデルにおける疾患進行の向上につながるはずである。
【0078】
性別を混合した合計30匹のC57Bl6 NPC1マウスを用いた。これらのマウスを、それぞれ5匹のマウスからなる5つの群である群1〜5に分けた。
【0079】
調査薬物
Aphios(Woburn, MA)製のブリオスタチン1(純度≧95%)の1バイアル2mgを、5% DMSO、20%ソルトール(Solutol)、および75%生理食塩液中に可溶化し、調査薬物として用いた。陰性(ビヒクル)対照は、5% DMSO、20%ソルトール、および75%生理食塩液である。Sigma-Aldrich製のDCP-LA:5mgオイル/バイアルを、さらなるインビトロ活性化合物として用いた。ブリオスタチン1(API)を−20℃においてまたは−20℃より下で保存し、かつ必要に応じて製剤化した。製剤化されたブリオスタチン1を2〜8℃で24時間未満保存した。DCP-LAおよびビヒクル対照を2〜8℃で保存した。
【0080】
ブリオスタチン1のストック溶液はDMSO中10mg/mlであり、それを一定分量で−80℃にて保つ。ストックをまずDMSO中に希釈し、次いでソルトールを、かつ最後に生理食塩水を添加することによって投薬製剤を作製し、より不溶性の化合物に関しては、薬物ストックを完全ビヒクルに添加することにより該化合物を溶液から生じさせ、そのようにして本発明者らは製剤を段階的に作製する。投薬容量は常に100μlである。マウスはおよそ20gの体重を有する。
【0081】
投薬および頻度
調査剤を、表3に示されるように、腹腔内に(IP)投薬する。30日目から始まり最高150日間、マウスに週2回(月曜日および木曜日)投薬する。
【0082】
(表3)投薬レジメン
【0083】
調査継続期間
C57 NPC1マウスは、約110日間の平均寿命を有する。70日目までに、マウスは18〜22グラムの平均体重に到達する。未処理のNPC1マウスは運動失調を発症し、約70日目に体重減少がはじまる(図17を参照されたい)。運動失調(つまり、随意筋制御の欠如)はNPC1マウスの臨床的特質であり、それは震えとして記載され得る。処理は、約30日齢、10gの平均NPCマウス体重で開始される。薬物が効果的である場合、注射は70〜80日目を超えて続く。約20〜30%の生存期間の延長は、動物が最高130〜150日目まで処理される必要があることを意味する。
【0084】
データ収集
最初に、各注射前にマウスを計量しかつ体重を記録する。マウスをロータロッドにおいて周期的に試験し得、かつロータロッド上での時間を記録する。
【0085】
安楽死させ次第、コレステロール蓄積およびプルキンエ細胞生存率についての評価のために、血液を回収し、そして脳を凍結しかつ保存する。加えて、これらのマウス由来の肝臓および脾臓を摘出し、組織学のために調製し、かつ末梢器官脂質集積に対するブリオスタチン1処理の効果を判定する選択肢のために凍結して保存する。
【0086】
データ解析
主要評価項目(primary outcome)は、調査の経過にわたって投薬日(2×/週)に収集された体重である。動物が体重減少を歴史的に経験しているとくに70日齢後に、ビヒクル対照と種々の用量のブリオスタチン1との間の差を調べる。
【0087】
副次評価項目には、(1)肝臓および脾臓における脂質集積、ならびに(2)小脳プルキンエ細胞生存率およびコレステロール蓄積が含まれる(それらは、主要評価項目が陽性である場合にのみ行われる対象となる)。
【0088】
結果
30、20、および10μg/kgの用量群におけるマウスは、100日齢を超えて生き延びた。
【0089】
当業者であれば、本明細書における実施例は限定的であることを意図されるものではないこと、および当業者であれば、本明細書における教示を脂質蓄積障害の治療に容易に適用し得ることを解するであろう。したがって、本発明は、言及される目標および利点、ならびにそこで固有であるものに達するように十分に適応している。無数の変化が当業者によってなされ得るものの、そのような変化は、添付の特許請求の範囲によって部分的に例証される、本発明の精神の内に包含される。
【0090】
参考文献
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【国際調査報告】