【実施例】
【0039】
実施例1
材料および方法
ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、トリプシン、L-グルタミン、ゲンタマイシン、ならびにNuPageゲルおよびバッファーをInvitrogen(Carlsbad, CA)から入手し、一方でFBSはHyclone, Thermo Scientific(Rockford, IL)製であった。モノクローナル抗ビメンチン(V9)コンジュゲート抗マウスIgG、および抗ウサギIgG抗体は、Santa Cruz Biotechnologies, Inc.(Santa Cruz, CA)製であった。抗GAPDH抗体はMillipore(Billerica, MA)製であり、そして抗Rab9ポリクローナル抗体は他の箇所で記載されている[27]。フィリピン(Filipin)はPolysciences, Inc.(Warrington, PA)製であった。Lumilight Plus基質およびFuGENE(商標)6トランスフェクション試薬は両方とも、Roche Diagnostics(Indianapolis, IN)製であった。[9,10-3H(N)]オレイン酸(15Ci/mmol)をNEN Life Science Products(Boston, MA)から入手し、そしてLDLはEMD Biosciences Inc.(La Jolla, CA)製であった。他のすべての化学物質をSigma-Aldrich(St. Louis, MO)から入手した。
【0040】
細胞培養およびトランスフェクション
ヒト野生型線維芽細胞(GM05387)、NPC1o線維芽細胞(GM09341)、およびNPC1線維芽細胞(GM03123)細胞株を、コーリエル細胞レポジトリ(Coriell Cell Repositories)(Camden, NJ)から入手した。M12チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株およびその野生型親株を入手しかつ培養した。5% CO
2を有する37℃での加湿インキュベーター内にて、線維芽細胞細胞株をDMEM中で、CHO細胞をDMEM/F12(50:50)培地中で培養した(これらには10% FBS、2mM L-グルタミン、および50μg/mlゲンタマイシンを補充した)。
【0041】
PKCαのcDNAを、トランスフェクションの成功をモニターするためにGFPを含有する2シストロン性ベクターpIRES(Stratagene)内にクローニングした。PKCβIIおよびPKCε(ATCC)のcDNAを、核標的化RFPを発現するベクターpYDual(Ioannou、非公開)内にクローニングした。Rab9-YFP融合構築物([5]に記載されている)をRab9発現に用いた。一過性の過剰発現を、メーカーの提言に従い、FuGENE(商標)6試薬(Roche Diagnostics)を用いて、70%密集度における細胞にトランスフェクトすることによって達成した。
【0042】
タンパク質解析
トランスフェクションの2日後に、トランスフェクトされた細胞を、2mM EDTAを含有するPBSで回収した。可溶性および不溶性の細胞画分を、以前に記載されているように[5]調製した。簡潔には、可溶性/細胞質の画分を入手するために、細胞を、冷却した「ホスホ」バッファー[150mM NaCl、20mM NaF、100μM Na
3VO
4、20mM Hepes、pH7.5、1%(v/v)イゲパール(Igepal)、10%(v/v)グリセロール、および組織20mgあたり1μLのプロテアーゼ阻害剤カクテル]中で氷上にて30分間インキュベートし、次いで4℃で14,000rpmにて20分間遠心分離した;透明な上清を1μg/μlの濃度で一定分量で凍結した。ペレット(不溶性画分)を、2mM EDTAを含有する氷冷PBS中で3回洗浄し、次いで「ホスホ」バッファーに等しい容量の「Triton」バッファー[PBS、1%(w/v)SDS、および0.1%(v/v)Triton X-100]中に再懸濁した。この溶液を10分間ボイルし、かつ溶液が透明になるまで超音波処理した。この画分のタンパク質濃度を、可溶性/細胞質の画分について決定されたタンパク質濃度に従って、1μg/μlに調整した。タンパク質濃度を、本発明者らが記載している[36]、フルオレスカミン法を用いて決定した。次いで4〜12% Bis-Trisプレキャストゲル(Invitrogen, Carlsbad, CA)を、メーカーの指示に従い、XCell II装置(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いてProtran膜に転写した。ブロットを、以前に記載されているように[27]加工した。
【0043】
Rab9解離調査に関しては、1.0×107個のNPC1 3123細胞を氷冷PBS中に回収し、かつ各10秒間4回の超音波処理によって溶解した。溶解物を14,000rpmで10分間遠心分離して、不溶性画分から可溶性画分を分離し、かつ全タンパク質濃度を、改変Bradfordアッセイ(Bio-Rad, Hercules, CA)を用いて決定した。等量の各不溶性画分と、PKCアイソザイムパネル(Sigma, St. Louis, MO)由来の精製された各PKCアイソフォームとを混合し、かつ37℃で60分間インキュベートした。等容量の各サンプルを4〜12% Bis-Trisプレキャストゲルを通して分解し、膜に転写し、かつ上記で記載されているように加工した。
【0044】
コレステロールエステル化
[
3H]オレエート基質の調製およびエステル化アッセイを、以前に記載されているように[5]実施した。細胞を50μg/mlの脂肪酸で2日間処理し、次いでエステル化アッセイの前に、PKEαまたはPKCεを24時間トランスフェクトした。すべての値を三つ組で生成し、かつ細胞タンパク質全体に対して正規化した。
【0045】
免疫蛍光顕微鏡法
トランスフェクトされた細胞におけるフィリピン染色に関しては、メーカーの推奨に従い、Fugene 6を用いて、細胞にPKCまたはRab9をトランスフェクトした。48時間後、本発明者らが以前に記載しているように[37]、細胞をフィリピンで染色した。Fluoromount-G(SouthernBiotech, Birmingham, AL)を用いて、細胞をスライド上に封入し、かつ電荷結合素子カメラを取り付けられたNikon Eclipse顕微鏡(Nikon, Melville, NY)で解析した。画像をMetaVueソフトウェアにより入手し、次いでAutoQuant Imaging, Inc製のAutoDeblurソフトウェア(Troy, NY)を用いてデコンボリューション(deconvolute)した。フィリピン蛍光の定量に関しては、細胞を6ウェルディッシュに3×10
5個の細胞/ウェルで播種しかつ一晩定着させ、その後、10%リポ蛋白欠乏血清(LPDS)を含有する培地で4日間置き換えた。本発明者らが以前に記載しているように、固定およびフィリピンでの染色の前に、細胞をオレイン酸/リノール酸と48時間、DCPLA/DHAと24時間、またはジアゾキシドと72時間インキュベートした。すべてのサンプルに対して同じ露光時間を用いて、画像を入手した。MetaVueソフトウェアの積分強度関数を用いて、蛍光強度を決定した;各サンプルについて少なくとも150個の細胞を定量し、かつ各実験を3回繰り返した。スフィンゴ脂質輸送の解析に関しては、以前に記載されているように[30]、BODIPY-LacCer染色を実施する前に、細胞をオレイン酸/リノール酸、DCP-LA、またはPMAと48時間インキュベートした。
【0046】
NPC1細胞において、PKC発現は可溶性ビメンチンのレベルを増加させる
ミスセンスまたはヌル(NPC1o)変異を有するNPC1細胞は、WT細胞と比べて、それぞれ減少したまたは事実上検出不能なレベルの可溶性リン酸化ビメンチンを含有する[5]。さらに、NPC1細胞内に存在しているビメンチンは、原形質膜付近に大きな無秩序なフィラメント(脱リン酸化状態)として存在する。ゆえに、NPC1細胞は、本質的にビメンチンヌル細胞として挙動し、それは、NPC1細胞と同様に、LDL由来コレステロールをエステル化することができない[11]。それらの調査を拡大する際に、NPC1細胞において、ビメンチンリン酸化の減少は、プロテインキナーゼC(PKC)阻害の結果であるという仮説を立てた。これを支持して、PKC活性化剤のホルボール-12-ミリスタート-13-アセタート(PMA)によるNPC細胞の処理は、可溶性ビメンチンのレベルを増加させかつNPC脂質蓄積表現型を改善し、一方で反対に、PKC阻害剤によるWT細胞の処理は、それらの細胞における可溶性ビメンチンの消失をもたらすことが、その調査において観察された。これらの結果は、細胞内の可溶性ビメンチンプールの維持におけるPKC、および拡大解釈すれば正常なライソゾームコレステロール流出におけるPKCを強く暗示する。NPC細胞において、種々のPKCアイソフォーム、および可溶性ビメンチンレベルに対するそれらの効果を評価することによってそれらの調査を拡大すると、PKCアイソフォームのα、βII、およびεが、ビメンチンリン酸化に関わっていることが示され得る[10,17,18];したがって、これらのアイソフォームに焦点を合わせる。それらをヒトNPC1細胞において一過性に発現させ、かつ可溶性ビメンチンレベルに対するそれらの効果を特徴決定した。PKCβIIの発現は、可溶性ビメンチンレベルの有意な増加を引き起こし(トランスフェクトされていないNPC1細胞よりも約38倍高い)、それは、WT細胞において見られるレベルよりも高く(NPC1細胞よりも約20倍高い)、一方でPKCαまたはεの発現は、可溶性ビメンチンレベルの、より小さくはあるがなおも有意な増加を引き起こした(それぞれ、約3倍および約7倍)(
図1)。対照として、これらの細胞におけるRab9の発現も、以前に報告されたもの[5]と一致して、可溶性ビメンチンの有意な増加につながった(約30倍)。述べられているように、3種すべてのアイソフォームは、同程度に可溶性Rab9レベルの増加をもたらした(トランスフェクトされていないNPC1細胞よりも約2500倍高い)。さらに、PKC発現細胞において、不溶性ビメンチンレベルは可溶性ビメンチンレベルが増加するにつれて減少し、これにより、可溶性ビメンチンの増加が不溶性ビメンチンの可溶化(リン酸化)によるものであることが示唆された(
図1A)。
【0047】
同様に、検出可能な可溶性ビメンチンを通常ほとんど有しない重度に影響を受けたNPC1o細胞において、3種のPKCアイソフォームのうちのいずれかの発現は、可溶性ビメンチンのレベルの増加をもたらした(
図1B)。ビメンチン可溶化に関して、ビメンチンを可溶化することにおいてβIIアイソフォームが最も有効であるように見えるNPC1細胞とは対照的に、NPC1o細胞においては、3種すべてのアイソフォームが同等に良好に作用する。さらに、可溶性Rab9レベルも、PKC発現の結果として同程度のレベルまで増加し(
図1B)、PKCを発現するNPC1細胞においても見られる結果であった(
図1A)。
【0048】
PKC発現は、ビメンチンからのRab9解離を誘導する
NPC1細胞において、小型GTPアーゼのRab9がビメンチンフィラメントに捕捉される[5]という、およびRab9過剰発現がNPC1表現型を補正する[19]という観察結果は、NPC1細胞においてRab9利用可能性が低下することを強く示唆する。疾患細胞は、Rab9タンパク質発現を上方調節することによって、この不足を補おうとし得る。この考えは、NPC1細胞が、WT細胞よりも多くのRab9タンパク質を含有しないという事実によって支持される(
図1Aおよび[19])。上記で記載されているように、PKC発現は、可溶性ビメンチンレベルだけでなく、可溶性Rab9レベルも有意に増加させた(
図1Aおよび1B)。PKC発現細胞におけるRab9レベルの増加が、それがリン酸化された後の、不溶性ビメンチンからのRab9放出の結果であるかどうかを判定するために、NPC1細胞溶解物の不溶性ビメンチン画分をPKC基質として用いて、PKCアッセイを9種の精製PKCアイソフォームによりインビトロで実施した。すべてのアイソフォームは、様々な程度に不溶性ビメンチンからのRab9放出をもたらし得(
図2)、これにより、少なくともインビトロにおいて、大部分のPKCアイソフォームはビメンチンリン酸化およびRab9放出を触媒し得ることが示唆された。興味深いことに、PKCαはRab9放出の最大の増加を引き起こし、一方でPKCβIIおよびεは効果が低く、かつPKCγはほとんど効果がなかった。これらの結果は、可溶性ビメンチンレベルを増加させることにおいてPKCβIIがPKCαおよびεよりも有効であることを示唆している、一過性にトランスフェクトされたPKC発現細胞の結果とは異なる(
図1A)。アイソフォーム有効性の不一致は、アッセイの性質、各アイソフォームの固有の活性、または種々のアイソフォームのインビボにおける細胞内位置およびビメンチンへのそれらの接近によるものであり得る[10,16,17,20];しかしながら、PKCがビメンチンを可溶化し得ること、およびそうする際に、捕捉されたRab9を放出し得ることは明白である。
【0049】
PKCの過剰発現は、NPC1表現型の部分的補正を誘導する
上記のデータ、ならびにRab9過剰発現が可溶性ビメンチンの増加およびNPC1表現型の補正をもたらすという観察結果[5]に基づき、PKC過剰発現によって引き起こされるビメンチン溶解度の増加も、NPC1表現型の補正をもたらすかどうかを判定した。NPC1遺伝子座の欠失を含有するNPC1 CHO(M12)細胞[21]にPKCαまたはPKCεをトランスフェクトし、かつアシルCoA:コレステロールアシルトランスフェラーゼ(ACAT)によるエステル化のためにE/L系からERに輸送されるLDL由来遊離コレステロール[22]の量を測定した。M12細胞のエステル化レベルは、親WT CHO細胞のエステル化活性の10%未満であり(
図3)、それは、E/L系からのコレステロール輸送の遮断と一致している。PKCαまたはPKCεの発現は、コレステロール輸送遮断を改善し、M12細胞エステル化のレベルを、トランスフェクトされていないM12細胞のものと比べて、それぞれおよそ4倍および6.5倍増加させた(
図3、+PKCα、+PKCε)。これらの結果は、PKCの発現によって仲介されるビメンチンの可溶化が、NPC1脂質輸送遮断を部分的に解除し得ることを示している。
【0050】
PKCをトランスフェクトされた細胞におけるコレステロール蓄積も、遊離コレステロールに結合する蛍光プローブであるフィリピンで染色することによって定性的に判定した[23]。この解析は、
図3に示されるエステル化調査と類似した結果をもたらした。PKCα、PKCε、またはPKCβIIについて陽性である(GFP共発現によって判定される)細胞は、周辺のトランスフェクトされていない細胞よりも有意に低いフィリピン染色を示した(
図4)。これらの結果は、Rab9を過剰発現している細胞において見られるものと類似しており(
図4、Rab9)、それは、NPC1コレステロール蓄積表現型を補正することが以前に示されている[19]。
【0051】
NPC1細胞において、脂肪酸への曝露は可溶性ビメンチンレベルを増加させる
脂肪酸およびとくにオレイン酸はPKC活性を誘導することが示されており[24]、一方でリノール酸の下流代謝産物であるDCP-LA(8-[2-(2-ペンチル-シクロプロピルメチル)-シクロプロピル]-オクタン酸)は、PKCεを強力に活性化することが示されている[25,26]。さらに、NPC1エンドソームは、大量の脂肪酸を蓄積することが以前に示されており[27]、それは、PKC活性化および他の過程のために細胞にとって利用可能な遊離脂肪酸の量を潜在的に限定し得る。
【0052】
NPC1細胞において、外因的に添加された脂肪酸がビメンチン可溶化を増加させ得るかどうかを判定するために、ヒトNPC1線維芽細胞をオレイン酸またはリノール酸で48時間処理し、かつ細胞溶解物中の可溶性ビメンチンのレベルを解析した。NPC1線維芽細胞は、ごくわずかな可溶性ビメンチンを含有する(
図5Aおよび[5])。オレイン酸またはリノール酸のいずれかによる処理は、可溶性ビメンチンの量を有意に増加させ、オレイン酸はわずかにより有効である。これらの結果は、NPC1細胞において、外因的に添加された脂肪酸が、おそらくPKCを活性化することによって、ビメンチン可溶化をもたらし得ることを示唆している。
【0053】
脂肪酸への曝露は、NPC1表現型の補正を誘導する
NPC1細胞において、脂肪酸はビメンチンの可溶化を増加させるため、それらは、NPC1表現型も向上させ得る。M12 CHO細胞(
図5B)およびヒトNPC1線維芽細胞(
図5C)を、各脂肪酸で処理し、次いでフィリピンで染色した。WT細胞(
図5B/C、1)はフィリピンで非常に弱く染色され、一方でNPC1(
図5B/C、2)細胞は、エンドサイトーシス小胞内の遊離コレステロールの指標である明るい点状の染色を含有する。両方の種由来のNPC1細胞におけるフィリピン蛍光は、いずれかの脂肪酸への曝露後に有意に減少した(
図5B/C、3および4)。統合された形態計測によるフィリピン蛍光レベルの定量後、両方の脂肪酸は、両方のNPC1細胞株においてコレステロール集積のレベルを劇的に低下させることが見出され、未処理細胞におけるレベルの約75%にフィリピン蛍光を低下させた(
図5B/C、グラフ)。ヒト線維芽細胞は、CHOまたはマウスNPC1細胞株のいずれかよりも不均一なフィリピン染色パターンを呈し、それは、未処理3123細胞におけるより高い標準偏差に反映されている(
図5C、グラフ)。M12細胞におけるコレステロールエステル化に対する脂肪酸の効果も評価した。リノール酸は、未処理M12細胞と比較して、コレステロールエステル化を2倍を上回って増加させた(
図3、+Lin)。オレイン酸またはリノール酸で処理され、その後にPKCεの発現が続くM12細胞において、NPC1表現型の補正はより著しく、未処理細胞と比べて約3.5倍であるエステル化レベルを有した(
図3、+PKCε/オレイン酸および+PKCε/リノール酸)。これらの結果は、脂肪酸およびPKC発現が、NPC1コレステロール輸送遮断の補正に対して相加的効果を有することを示唆している。
【0054】
NPC表現型に対する脂肪酸の効果をさらに特徴決定するために、ドコサヘキサエン酸(docosahexanoic acid)(DHA)およびリノール酸の代謝産物であるDCP-LAの能力を、M12 CHO細胞におけるコレステロール蓄積を減少させ得るそれらの能力について試験した。両方の脂肪酸は、PKCεを強力に活性化することが示されている[24,28]。これらの化合物によるM12 CHO細胞の一晩の処理は、未処理細胞(
図6B)と比べて、コレステロール蓄積の減少をもたらした(
図6C/D)。DCP-LA(
図6C)は、DHAよりもわずかに有効であった(
図6D)。これらの細胞におけるフィリピン強度の定量により、両方の化合物が、M12 CHO細胞におけるコレステロール蓄積を約50%低下させることが明らかとなり(
図6G)、このことは、おそらくPKCεの活性化を介した、NPC疾患表現型に対する遊離脂肪酸の正の効果へのさらなる裏付けを与えた。
【0055】
NPCレスキューにおけるPKCの役割に対するさらなる裏付けを提供するために、M12細胞を、PKCεを活性化することが示されているジアゾキシド[29]で処理した。この処理は、未処理細胞(
図6E)と比べて、M12 CHO細胞(
図6F)におけるコレステロール集積の低下をもたらした。これらの細胞におけるフィリピン強度の定量により、ジアゾキシドは、コレステロール蓄積を約50%低下させることが示され、これは、遊離脂肪酸に関して見られた結果と類似していた(
図6G)。
【0056】
NPC1表現型に対するDCP-LAおよび脂肪酸の正の効果をさらに裏付けするために、ヒトNPC1細胞をDCP-LA、脂肪酸、またはPMAで処理して、PKCを活性化した。次いで、細胞を、エンドサイトーシス経路の動力学的観点を提供することが以前に示されている[30]、BODIPY-LacCerで標識した。原形質膜への吸着後に、LacCerスフィンゴ脂質は、エンドサイトーシスを介して正常細胞に入り、かつ最終的にトランスゴルジネットワーク(TGN)に到達する([30])。しかしながら、NPC1細胞における脂質輸送遮断により、このスフィンゴ脂質はエンドソーム内で捕捉され、かつTGNへのその標的化は劇的に阻害される[30]。
図7に表示されるように処理されたヒトNPC1細胞は、点状のエンドソーム蛍光のみを示す未処理細胞(
図7A)と比較してTGNに効果的に到達する(
図7;矢印)BODIPY-LacCerによる脂質輸送の劇的な向上を示している。これらの結果は、これらの剤が、NPC1脂質遮断を解除し得るというさらなる裏付けを提供する。
【0057】
まとめると、これらの結果は、PKCεを活性化することによって作用し得る遊離脂肪酸への曝露が、NPCコレステロール蓄積表現型に対して正の効果を有することを示している。
【0058】
考察
NPC1細胞におけるRab9発現は、E/L系からの脂質輸送を回復させかつコレステロールエステル化を正常化し[19]、そして後に、Rab9は、NPC1細胞における不溶性ビメンチンフィラメントに捕捉されることが示された[5]。その結果として、NPC1細胞におけるスフィンゴシンなどの集積した脂質[31,32]は、様々なPKCアイソフォームに対する阻害効果を発揮し得、それによってビメンチンのリン酸化/脱リン酸化循環の混乱がもたらされる[19]。
【0059】
NPC1細胞における、PKC阻害およびビメンチン低リン酸化の性質を特徴決定するために、NPC1細胞におけるいくつかのPKCアイソフォーム(α、βII、およびε)を発現させ、かつビメンチン可溶化およびNPC1表現型の補正に対するそれらの効果を特徴決定した。3種すべてのアイソフォームは、様々な程度にビメンチン可溶化に対して正の効果を有した(
図1)。
【0060】
さらに、PKC誘導によるビメンチン可溶化は、捕捉されたRab9の放出を伴った(
図1)。どのPKCアイソフォームが、ビメンチンリン酸化およびRab9の放出においてより有効であり得るかをさらに判定するために、8種の異なるPKCアイソフォームをインビトロアッセイで試験した。大部分のアイソフォームは、様々な程度にビメンチンからRab9を放出し得たが(
図2)、それはインビボでは当てはまらない可能性がある。この不一致は、PKCアイソフォームのインビボにおける異なる細胞内位置、およびビメンチンフィラメントへのそれらの接近による可能性がある[16,20]。しかしながら、PKCε制御によるビメンチンのリン酸化に関して示されているように[10]、ビメンチンは、ある特定のPKCに対して直接的基質ではない可能性もある。その調査において、PKCεはビメンチンリン酸化を仲介し、それは、細胞内での適正なインテグリン再利用に不可欠であることが示された。これらの調査は、NPC1細胞におけるPKCアイソフォームの発現が、NPC1疾患表現型、すなわちエンドソーム/ライソゾーム系におけるコレステロール集積の部分的補正をもたらすことを示している。
【0061】
また、多くの調査により、オレイン酸およびリノール酸などの長鎖脂肪酸は、ビメンチンフィラメントをリン酸化することが示されているアイソフォーム[10]のPKCεを、DCP-LAなどの下流代謝産物とともに活性化し得ることが示されている[24,25]。NPC1細胞において、遊離脂肪酸の利用可能性は限定され得ることが以前に報告されているため[27,33]、外因的に添加された脂肪酸は、おそらくPKCεを活性化し、かつビメンチンのリン酸化およびRab9の放出につながることによって、NPC1表現型に対する正の効果を有すると考えられた。予想どおり、NPC1細胞において、オレイン酸、リノール酸、またはDCP-LAの添加は、可溶性ビメンチンの増加をもたらした(
図5)。さらに、脂肪酸添加は、NPC1細胞によるコレステロールエステル化の有意な向上をもたらし(
図3)、E/L系からの脂質輸送が回復することが示された。PKCεの公知の活性化剤であるジアゾキシド[29]がNPC1表現型を補正し得る能力を試験し、これにより、NPC1発病に寄与することにおける、ビメンチンのPKCによる不十分なリン酸化の関与に関するさらなる裏付けが提供された。ここで提示される結果と合致して、ジアゾキシドは、NPC1細胞におけるコレステロール集積を50%低下させ得た(
図6)。複数のPKCε活性化剤に関する結果は、PKCεがNPC細胞内でこれらの変化を仲介していることを強く示唆するものの、これらの剤が、他の何らかの経路またはPKC以外のタンパク質を介して作用し得るという可能性は排除され得ない。
【0062】
これらのデータは、NPCマウス肝臓における異常なPKC発現についての以前の観察結果[34]と一致している。それらの調査では、PKCα、δ、ε、およびζの発現が免疫ブロットによって評価された。PKCαおよびδは、WT肝臓と比較して、NPC1肝臓において約3倍高かったのに対し、PKCεは有意に増加せず、そしてPKCζはヘテロ接合性肝臓においてのみ高かった。PKCεは、それ自身を上方調節に適した状態にしないが、例えば脂肪酸を介して活性され得、かつそのような活性化は、NPC1細胞において有益な結果をもたらし得ると仮定するのは興味深い。PKCεはビメンチンをリン酸化することに関与し、それが今度は、インテグリンなどの様々なリガンドの小胞輸送を制御するという強力な証拠が存在している[10]。タンパク質を治療法として送達する難しさ(これはNPC1などの神経病理学を有する疾患において著しく増幅される)を考えると、PKCεなどの主要な調節剤の小型の脂質活性化剤は大いに有利であろう。これらの結果は、ビメンチンリン酸化に関与するPKCアイソフォームの同定が、ニーマン・ピック病C型、ならびにE/L脂質集積につながる他のライソゾーム蓄積障害[35]の治療のための新たな治療標的を提供し得ることを示唆している。
【0063】
実施例2
本発明者らはまた、遊離コレステロール(フィリピン)、スフィンゴ糖脂質レベル(VTB)、およびガングリオシド移動(CTB)に対するプローブを用いて、ニーマン・ピックC病の表現型に対するPKC活性化剤のブリオスタチン1およびDCPLAの効果を、ヒトNPC1細胞の48〜72時間の処理後に調査した。
【0064】
材料および方法
【0065】
(表1)ヒトNPC1細胞株
【0066】
(表2)試薬
【0067】
一般的な方法論
細胞を6ウェルディッシュに播き、かつ表示された1日用量での適当な化合物(DMSO中に溶解された)で48時間処理した。対照細胞にはDMSOを与える。48時間後、細胞を、新鮮な化合物とともにカバースリップに移し、さらに24時間成長させる。顕微鏡法のために、カバースリップを回収しかつ加工する。
【0068】
アッセイプロトコール
フィリピン: ライソゾームにおける非エステル化コレステロールの検出に関しては、細胞をホルマリン中で4℃にて30分間固定し、0.9% NaCl中で5分間2×洗浄し、PBS中0.01%フィリピンと室温で45分間インキュベートし、次いで5分間2×洗浄した。CCDカメラを備えたNikon Eclipse蛍光顕微鏡(Nikon, Melville, NY)を用いて、蛍光を観察した。Nikon製のイメージングおよび定量ソフトウェアパッケージNIS Elements、v.3.22を用いて、蛍光シグナルを定量化した。
【0069】
ベロ毒素B(VTB): VTB染色(スフィンゴ糖脂質検出)に関しては、細胞をPBSで洗浄し、かつホルマリン中で4℃にて30分間固定する。0.9%塩化ナトリウムで室温にて5分間2×洗浄した後、細胞を1.5ml PBS中50μg/ウェルのジギトニンで透過処理する。細胞をPBSで洗浄し、かつalexa標識されたVTBを1ml PBS中0.5μg/ウェルで添加する。細胞を、暗所においてシェーカー上でRTにて45分間インキュベートし、0.9%塩化ナトリウムでRTにて5分間2×洗浄し、かつ見るために封入する。
【0070】
コレラ毒素B(CTB): CTB標識化(ガングリオシド移動)に関しては、細胞をPBSで洗浄し、かつ0.5μg/ウェルのCTBを、1ウェルあたり1.5ml Opti-MEM中に添加する。細胞を37℃のインキュベーター内で1時間インキュベートする。FBSを含む完全DMEM培地を添加し、かつインキュベーションを37℃で4時間続ける。細胞をPBSで洗浄し、かつホルマリンで4℃にて15分間固定する。細胞を0.9%塩化ナトリウムでRTにて5分間2×洗浄し、かつ見るために封入する。
【0071】
解析、結果、および結論
ニーマン・ピックC1(NPC1)細胞は、欠陥のあるNPC1タンパク質を有し、かつ様々なエンドソーム小胞内における、コレステロール、スフィンゴ脂質、およびガングリオシドなど、いくつかの脂質の極度の集積を特徴とする(
図2)。様々な患者由来のNPC1細胞の特徴決定において、およびこの疾患を治療する際に有益であり得る潜在的化合物についての評価において、様々なNPC1特異的脂質のクリアランスおよび/または移動を測定するいくつかの異なるアッセイを実施した。例えば、フィリピンを用いて蓄積コレステロールのレベルを検出した(アッセイプロトコール)が、一方でベロ毒素B(VTB)は、コレステロールを含有するものとは別のエンドソーム内に蓄積されることもあるスフィンゴ糖脂質のレベルについての査定を可能にする(アッセイプロトコール)。加えて、異なるプローブのコレラ毒素を用いることにより、原形質膜からのガングリオシドの移動をモニターすることができる(アッセイプロトコール)。
【0072】
これらの調査は、ブリオスタチン1、DCPLA、およびジアゾキシドという3種すべてのPKC活性化剤が、様々な程度にかつ種々の薬物濃度で、NPC1細胞からのコレステロールのクリアランスを誘導し得ることを示している(
図8)。しかしながら、ブリオスタチン1は、ナノモル濃度範囲で活性を示す最も活性のある化合物であるように見える(
図9)。10nMにおいて、ブリオスタチン1は、NPC1細胞のスフィンゴ糖脂質集積を減少させることにおいて統計的に有意な有効性も示している(
図10)。
【0073】
ブリオスタチン1の効果が、上記の実験において用いられたNPC1細胞の遺伝子型(すなわち、特定の患者によって保持される特定のNPC1遺伝子変異)に依存しているかどうかを判定するために、完全に区別されるNPC1遺伝子型を有する異なる患者細胞株を用いた。ブリオスタチン1は、依然として、10nM濃度においてこれらの細胞からのコレステロールクリアランスをもたらし得、これによりブリオスタチン1の活性がNPC1遺伝子型とは無関係であることが示された(
図11)。
【0074】
ブリオスタチン1は、エンドソームを介した原形質膜からゴルジネットワークへの脂質の移動をモニターする動力学的アッセイにおいても有効であった。10mMにおいて、ブリオスタチン1は、NPC1細胞から、エンドソームに捕捉されたコレラ毒素(CTB)を一掃し得た(
図12)。
【0075】
これらの結果を裏付けするために、ブリオスタチン1を0.1nM〜100nMの範囲で用い、かつコレステロールおよびスフィンゴ脂質アッセイにおいて両方を評価した(
図13)。0.1nMにおいて、ブリオスタチンは両方のアッセイで効果を有しない。効果は、1nMで統計的に有意となり、かつブリオスタチン1濃度を増加させるとともに増加する。
【0076】
したがって、ブリオスタチン1は、10〜100nMの濃度で、ヒトNPC1疾患細胞に対して陽性の治療効果を示した。
【0077】
実施例3
ニーマン・ピックC病は、神経変性および小児期早期の死亡につながる、重度の遺伝性リピドーシスである。神経変性につながる生化学的事象および細胞事象は、現在ほとんど理解されていない。しかしながら、PKCε活性化は、遮断された脂質輸送経路を回復させ得、かつNPCエンドソーム/ライソゾームにおける蓄積された脂質材料の低下につながり得ることが示されている。ゆえに、PKCεの天然産物活性化剤であるブリオスタチン1によるNPC1マウスの処理は、この動物モデルにおける疾患進行の向上につながるはずである。
【0078】
性別を混合した合計30匹のC57Bl6 NPC1マウスを用いた。これらのマウスを、それぞれ5匹のマウスからなる5つの群である群1〜5に分けた。
【0079】
調査薬物
Aphios(Woburn, MA)製のブリオスタチン1(純度≧95%)の1バイアル2mgを、5% DMSO、20%ソルトール(Solutol)、および75%生理食塩液中に可溶化し、調査薬物として用いた。陰性(ビヒクル)対照は、5% DMSO、20%ソルトール、および75%生理食塩液である。Sigma-Aldrich製のDCP-LA:5mgオイル/バイアルを、さらなるインビトロ活性化合物として用いた。ブリオスタチン1(API)を−20℃においてまたは−20℃より下で保存し、かつ必要に応じて製剤化した。製剤化されたブリオスタチン1を2〜8℃で24時間未満保存した。DCP-LAおよびビヒクル対照を2〜8℃で保存した。
【0080】
ブリオスタチン1のストック溶液はDMSO中10mg/mlであり、それを一定分量で−80℃にて保つ。ストックをまずDMSO中に希釈し、次いでソルトールを、かつ最後に生理食塩水を添加することによって投薬製剤を作製し、より不溶性の化合物に関しては、薬物ストックを完全ビヒクルに添加することにより該化合物を溶液から生じさせ、そのようにして本発明者らは製剤を段階的に作製する。投薬容量は常に100μlである。マウスはおよそ20gの体重を有する。
【0081】
投薬および頻度
調査剤を、表3に示されるように、腹腔内に(IP)投薬する。30日目から始まり最高150日間、マウスに週2回(月曜日および木曜日)投薬する。
【0082】
(表3)投薬レジメン
【0083】
調査継続期間
C57 NPC1マウスは、約110日間の平均寿命を有する。70日目までに、マウスは18〜22グラムの平均体重に到達する。未処理のNPC1マウスは運動失調を発症し、約70日目に体重減少がはじまる(
図17を参照されたい)。運動失調(つまり、随意筋制御の欠如)はNPC1マウスの臨床的特質であり、それは震えとして記載され得る。処理は、約30日齢、10gの平均NPCマウス体重で開始される。薬物が効果的である場合、注射は70〜80日目を超えて続く。約20〜30%の生存期間の延長は、動物が最高130〜150日目まで処理される必要があることを意味する。
【0084】
データ収集
最初に、各注射前にマウスを計量しかつ体重を記録する。マウスをロータロッドにおいて周期的に試験し得、かつロータロッド上での時間を記録する。
【0085】
安楽死させ次第、コレステロール蓄積およびプルキンエ細胞生存率についての評価のために、血液を回収し、そして脳を凍結しかつ保存する。加えて、これらのマウス由来の肝臓および脾臓を摘出し、組織学のために調製し、かつ末梢器官脂質集積に対するブリオスタチン1処理の効果を判定する選択肢のために凍結して保存する。
【0086】
データ解析
主要評価項目(primary outcome)は、調査の経過にわたって投薬日(2×/週)に収集された体重である。動物が体重減少を歴史的に経験しているとくに70日齢後に、ビヒクル対照と種々の用量のブリオスタチン1との間の差を調べる。
【0087】
副次評価項目には、(1)肝臓および脾臓における脂質集積、ならびに(2)小脳プルキンエ細胞生存率およびコレステロール蓄積が含まれる(それらは、主要評価項目が陽性である場合にのみ行われる対象となる)。
【0088】
結果
30、20、および10μg/kgの用量群におけるマウスは、100日齢を超えて生き延びた。
【0089】
当業者であれば、本明細書における実施例は限定的であることを意図されるものではないこと、および当業者であれば、本明細書における教示を脂質蓄積障害の治療に容易に適用し得ることを解するであろう。したがって、本発明は、言及される目標および利点、ならびにそこで固有であるものに達するように十分に適応している。無数の変化が当業者によってなされ得るものの、そのような変化は、添付の特許請求の範囲によって部分的に例証される、本発明の精神の内に包含される。
【0090】
参考文献