特表2017-511841(P2017-511841A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オットー フックス カーゲーの特許一覧

<>
  • 特表2017511841-潤滑剤適合性銅合金 図000004
  • 特表2017511841-潤滑剤適合性銅合金 図000005
  • 特表2017511841-潤滑剤適合性銅合金 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-511841(P2017-511841A)
(43)【公表日】2017年4月27日
(54)【発明の名称】潤滑剤適合性銅合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/04 20060101AFI20170407BHJP
   F16H 55/06 20060101ALI20170407BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20170407BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20170407BHJP
【FI】
   C22C9/04
   F16H55/06
   C22F1/08 K
   C22F1/00 630A
   C22F1/00 630D
   C22F1/00 630E
   C22F1/00 631A
   C22F1/00 640A
   C22F1/00 685Z
   C22F1/00 692Z
【審査請求】有
【予備審査請求】有
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-549480(P2016-549480)
(86)(22)【出願日】2015年2月4日
(85)【翻訳文提出日】2016年9月16日
(86)【国際出願番号】EP2015052229
(87)【国際公開番号】WO2015117972
(87)【国際公開日】20150813
(31)【優先権主張番号】102014101343.3
(32)【優先日】2014年2月4日
(33)【優先権主張国】DE
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】510055839
【氏名又は名称】オットー フックス カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】グンメルト, ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】レーツ, ビョルン
(72)【発明者】
【氏名】プレット, トーマス
【テーマコード(参考)】
3J030
【Fターム(参考)】
3J030AC01
3J030BC02
(57)【要約】
本発明は、重量百分率で:54−65%の銅、2.5−5.0%のアルミニウム、1.0−3.0%のケイ素、2.0−4.0%のニッケル、0.1−1.5%の鉄、≦1.5%のマンガン、≦1.5%のスズ、≦1.5%のクロム、及び≦0.8%の鉛、を含み、残部は不可避のさらなる不純物とともに亜鉛であり、遊離ケイ素は少なくとも0.4%、合金母材中に又はケイ素含有非ケイ化物相中に存在する、潤滑剤適合性銅合金に関する。こうした銅合金を製造する方法は、母材中又はケイ素含有非ケイ化相中の遊離ケイ素の割合が、少なくとも0.4%に相当するように実施される熱処理工程を含む。本発明はまた、こうした銅合金から製造された少なくとも1つのギア構成部品を備えるギアに関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、
54−65% 銅
2.5−5.0% アルミニウム
1.0−3.0% ケイ素
2.0−4.0% ニッケル
0.1−1.5% 鉄
≦1.5% マンガン
≦1.5% スズ
≦1.5% クロム
≦0.8% 鉛
残部 亜鉛に加えて他の不可避の混入物
を含む潤滑剤適合性銅合金であって、
遊離ケイ素は少なくとも0.4%の量で、合金母材中に又はケイ素含有非ケイ化物相中に存在する、銅合金。
【請求項2】
重量%で、
54−65% 銅
3.0−5.0% アルミニウム
1.0−3.0% ケイ素
2.0−4.0% ニッケル
0.5−1.5% 鉄
≦1.5% マンガン
≦0.7% スズ
≦1.5% クロム
≦0.8% 鉛
残部 亜鉛に加えて他の不可避の混入物
を含み、
遊離ケイ素は少なくとも0.4%の量で、合金母材中に又はケイ素含有非ケイ化物相中に存在する、請求項1に記載の銅合金。
【請求項3】
重量%で以下の成分:
56−60% 銅
3.0−4.0% アルミニウム
1.3−2.5% ケイ素
3.0−4.0% ニッケル
0.5−1.5% 鉄
0.1−1.5% マンガン
0.3−0.7% スズ
≦1.5% クロム
≦0.8% 鉛
残部 亜鉛に加えて不可避の不純物
を含有し、
遊離ケイ素は少なくとも0.4%の量で、合金母材中に又はケイ素含有非ケイ化物相中に存在することを特徴とする、請求項2に記載の銅合金。
【請求項4】
重量%で以下の成分:
59−62% 銅
3.5−4.5% アルミニウム
1.2−1.8% ケイ素
2.5−3.9% ニッケル
0.7−1.1% 鉄
0.7−1.0% マンガン
0.05−0.5% スズ
≦1.5% クロム
≦1.0% 鉛
残部 亜鉛に加えて不可避の不純物
を含有し、
遊離ケイ素は少なくとも0.4%の量で、合金母材中に又はケイ素含有非ケイ化物相中に存在することを特徴とする、請求項1又は2に記載の銅合金。
【請求項5】
遊離ケイ素の量が少なくとも0.65重量%であることを特徴とする、請求項1から4の何れか一項に記載の銅合金。
【請求項6】
亜鉛と遊離ケイ素との重量比が15から75の範囲、好ましくは20から55の範囲にあるように選択されることを特徴とする、請求項1から5の何れか一項に記載の銅合金。
【請求項7】
アルミニウムの量が、鉄、マンガン、ニッケル及びクロムの量の合計の化学量論比を超えることを特徴とする、請求項1から6の何れか一項に記載の銅合金。
【請求項8】
元素Ni+Fe+Mnの合計とSiとの比が≦3.45、好ましくは≦3.25であることを特徴とする、請求項1から7の何れか一項に記載の銅合金。
【請求項9】
合金母材中のβ相含量が80%を超えることを特徴とする、請求項1から8の何れか一項に記載の銅合金。
【請求項10】
不純物としての鉛が、合金のビルドアップ中に最大0.8重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1から9の何れか一項に記載の銅合金。
【請求項11】
少なくとも1つの熱処理工程がそれに続く冷却とともに実施され、その結果母材中又はケイ素含有非ケイ化相中の遊離ケイ素の量が少なくとも0.4%に相当することが決定される、請求項1から10の何れか一項に記載の銅合金から加工品を製造する方法。
【請求項12】
熱処理工程のプロセス管理及びそれに続く制御冷却により、少なくとも80%の相含量を備えたβ相を生み出すことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記合金からギア用同期リングが製造されることを特徴とする、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1から10の何れか一項に記載の銅合金から製造される同期リングなどの摩擦に曝される銅合金構成部品を少なくとも1つ有するギアであって、前記ギアは、銅合金から製造されたギア構成部品がギア油環境中に配置されるギアケーシングを備え、前記ギア構成部品は、摩擦に曝されるその表面に反応層を有し、ギア油中に含有される添加物、及び母材中若しくはケイ素含有非ケイ化相中の反応元素として存在する遊離ケイ素、又はその反応生成物及び/若しくは分解物を備える、ギア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤と接触し摩擦応力に曝される、同期リングなどのギア構成部品を製造するのに特に適した潤滑剤適合性銅合金、並びにこうしたギア構成部品を製造する方法、及びこうしたギア構成部品を有するギアに関する。
【背景技術】
【0002】
油及び摩擦応力に曝される、例えば同期リングなどの加工品又は構成部品を製造するために銅合金を開発することに対して、改善された腐食抵抗性を有するように、完全な摩擦学的系を考慮しなければならない。これには、潤滑剤、特にそれに含まれる添加物の組成、及び表面近くの合金層に加えて対抗摩擦表面の材料が含まれる。さらに、摩擦応力の際に作られる局所的温度分布、及び潤滑剤の老化挙動は、腐食による摩耗に影響を及ぼす。
【0003】
摩擦負荷の下で潤滑剤とほんのわずかな接触時間の後に、主に潤滑剤添加物からなる吸着層が摩擦応力下で形成される。熱機械的負荷の場合、互いに反応し合う吸着層成分と表面近くの合金成分を含む反応層が、吸着層の下に発達する。この過程で、吸着層及び反応層は銅合金加工品上に外部境界層を形成し、その下に数ミクロン厚の内部境界層が存在する。この層は、外部境界層に近接しているため、表面に作用する機械的負荷、及び反応層で起きる化学変換過程の影響を受ける。基材合金に関係する拡散過程及び酸化過程もまた、内部境界層の領域に反応層を形成することに影響し得る。
【0004】
多くの潤滑剤は、硫黄及びリンを含む添加物などの添加物を含み、対応する摩擦接触による熱機械的負荷の下で腐食作用を有する恐れがあり、これが今度は加工品寿命の少なからぬ低減をもたらす。潤滑剤中の硫黄成分の腐食作用を低減するために、銅合金が既に提案されてきている。特開昭60−162742号公報は、重量に基づいて57−61%のCu、2.5−3.5%のPb、Fe及びZnが不純物として存在し得る銅合金をターボ過給機の軸受として記載している。安定なCuS層が摩擦表面上に発達すると言われている。
【0005】
欧州特許出願公開第0872565号は、Cu及びZnに加えて、10−70重量%の量のニッケル成分、及び被酸化性の合金成分(Zn、Mn、Al及びSi)を合金に導入することにより、銅合金の硫黄腐食をいかに低減できるかについて記載している。酸化物層が硫化銅層の発達を抑えると言われている。欧州特許出願公開第1281838号は、潤滑性油中の硫黄成分による腐食が選択的なCu/Zn比によって抑制され得ることを開示している。さらに、合金の硬度を改善するためにMn、Al、Siを添加し、主として結晶化したマンガンケイ化物の硬質相が形成される。よって、この以前より知られる合金において、7%までの多量のMnの合金を使用することが好ましい。特開昭61−117240号公報は、重量で54−64%のCu、0.5−3%のSi、0.5−2%のAl、3−7%のMn及び残部のZnを備え、硬質相析出物がマンガンケイ化物の形態で存在する、銅合金を提案している。高い排気温度でターボ過給機用の軸受材料として、この合金は、より低い腐食傾向を有するように、硫化銅層の形成を低減している。
【0006】
さらに独国特許第4101620号は、硫黄を含む潤滑油に対して低減された腐食傾向を備えた銅合金を記載している。この合金組成物は、11.5−25重量%のZn、5−18重量%のPb、1−3,5重量%のMn、0.3−1.5重量%のSiからなる。純α相からなる構造において、鉛成分は均一に分散している。さらに、例えば脆化を引き起こす遊離ケイ素の晶出を防ぐために、ケイ素及びマンガンの合金成分を化学量論比で存在させてマンガンケイ化物を形成するように、ケイ素及びマンガンの合金成分を添加する。
【0007】
摩擦応力に曝される例えば同期リングなどの加工品に対して、硬質相析出物は表面の硬度を強化し、よって摩耗の度合いを低減する。潤滑剤を備えた摩擦学的系において、表面に近い領域にある硬質相析出物は、摩耗及び平滑化過程に最も大きな抵抗を提示するが、局所的に高温を発生する可能性のある空間的に限られた領域を、高い機械応力により形成する。特に高い熱的負荷に曝される構成部品のこれらの領域で、反応層の形成及び分解過程は加速され、その結果腐食の観点から硬質相析出物は問題となる。機械的負荷の下で粗い粒子形状にある硬質相析出物の場合、内部及び外部境界層の大きな断面は、機械的応力下にあり、これが今度は孔食を増大させるということを、ここで指摘すべきである。
【0008】
こうした過程を抑制するために、米国特許第6793468号は、54−64重量%のCu、0.2−3重量%のSi、0.2−7重量%のMn、0.5−3.5重量%のAl及び残部のZnを含み、結晶性マンガンケイ化物が細長く一直線に並んだ構造で銅合金の母材中に存在している、銅合金を提案している。こうした目標を達成するために、硬質相の配向は、支えるべき回転軸及び/又は対抗本体に対して、軸方向に提供されるべきである。この概念のさらなる展開のために、独国特許出願公開第2011−004856号は、耐荷重性硫化物フィルムの形成を加速すべきであると提案している。その理由は、これによって高温の潤滑油と接した時に、フィルム上で滑る対抗表面の焼付きが防止されるからである。この目的のために使用される銅合金は、25−45重量%のZn、0.3−2重量%のSi、1.5−6%のMn及び残部の銅を含み、結晶性マンガンケイ化物化合物が配向した配置で存在する。これら析出物の密度は、5−30μmの平均粒子間間隔が存在するように選択され、これが、結合部(joint)が高温の潤滑油と接触する際に結合部に熱応力をもたらし、これによって構成部品の表面に所望の硫化物フィルムの発達を加速する。
【0009】
摩擦応力に曝される構成部品の改善された耐腐食性に関しては、組成物上の基材の個々の合金成分、及び反応層に隣接する内部境界層の微視的構造の影響が関係する。この関連で、欧州特許第0709476号は、存在するリン及び硫黄成分を含む潤滑剤環境中での摩擦材料として焼結銅合金を提案しており、ここではFeMo、FeCr、FeTi、FeW、FeB及びAlから選択される金属間硬質相が形成される。さらに、少なくとも30μmの平均空孔径を備えた多孔質構造が在り、これは少なくとも20体積%の量で存在する。この合金は、5−40重量%のZn、5−40重量%のNi、1−5重量%のSi、0.1−5重量%のAl、0.5−3重量%のPb、及び好ましくは3−20重量%の量のSnと、残部である銅からなる。硫化銅の形成は多量の亜鉛及びニッケルにより抑えられる。さらに、摩擦係数を改善するニッケルケイ化物もまた形成される。
【0010】
さらなる銅−亜鉛合金は、独国特許出願公開第2005−059391号、独国特許出願公開第4240157号、又はCH223 580に記載されている。これらの合金は、例えば同期リングなど油環境中で使用される黄銅構成部品を製造するのに使用される。これらの合金は、そこに含まれるケイ素がケイ化物の組成に完全に入るように配合される。マンガンはケイ化物を形成する好ましい物質であるので、例示的な合金で規定されるマンガンの量はそれ相応に高く、通常は2重量%を大きく超える。ケイ素の含量は、ケイ化物形成部分に合うように調整され、上で参照した文書で規定される例示的な合金では最大1重量%含む。
【0011】
多くの場合、摩擦表面での腐食を減らし、それによって摩滅による摩耗を低減するという目標により添加剤を潤滑剤に添加する。こうした腐食抑制剤(耐摩耗活性成分)の一例は、例えばジアルキルジチオリン酸亜鉛である。反応層の表面を保護するリン酸塩ガラスは、この添加物から反応層中で形成される。このことは、添加物のリガンドと合金元素との交換、及び耐久性のある反応層を形成するように基材カチオンの組込みを理想的に伴う。しかし、表面を保護する反応過程は、基材材料の内部境界層の組成に依存する。さらに、追加的添加物は過程に影響を与え、ある条件下で保護添加物として働き、接着層の接着性に対して競合的に表面を保護する。合金の構造、並びに、熱の散逸及び局所的温度ピークに対して反応層に実施する熱処理はまた、層のビルドアップ及び分解過程にとって重要である。従って、それぞれの摩擦学的系次第では、腐食抑制剤が関与することで、ある条件下で摩擦層が関与する無用の化学分解過程に導きさえする可能性がある。これまで知られる耐腐食性銅合金は、従って非常に特別な潤滑剤体系に個別に適用される。
【0012】
潤滑剤における添加物の組成に変更があると、全ての摩擦学的系が影響を受け、次に今度は、摩擦相手の金属表面で相互に作用する化学反応に影響する。従って、反応層の形成はまた、摩擦表面の表面を変える目標を備えて潤滑剤に加えられるような添加物によるばかりでなく、主に基油を保護又は改善する目的で加えられる添加物によっても、影響を受け得る。さらに、潤滑剤の老化過程に影響する可能性がある。作用する酸化過程、又は添加物に伴う分解過程が次に起こる可能性があり、摩耗粒子の取り込みに加えて、摩擦表面の吸着層との交換に影響する。
【0013】
添加物の組成の変化に加えて、潤滑剤の基油を取り替えることによっても、摩擦学的系における根本的な変更がもたらされる。現時点で、鉱油、水素化分解油又はポリ−α−オレフィン若しくはエステルなどの合成油の形態をした主に基油が、改質してギア油として使用される潤滑剤に使用される。生体適合性潤滑剤への要求を満たすため、基油を植物油又は動物性油脂と取り替えることは、接着特性の根本的な変更に導く可能性がある。その理由は、植物油は通常高い極性を有し、従って金属表面への親和力を促進するからである。潤滑剤、特にその基油の変換により起きる摩擦学的系の変化は、今まで、耐腐食効果を維持するために、摩擦相手の合金の組成を調整する必要性を概ねもたらしている。
【発明の概要】
【0014】
従って、本発明の目的は、広範囲の異なる潤滑剤、特に異なる基油及び潤滑剤添加物の変化に対して、高い耐腐食性を有する銅合金を提案することである。異なる摩擦学的系に対する低い腐食性傾向の特性は、良好な機械特性を兼ね備えるべきである。この合金は特に高強度を有するべきである。さらに、それは低摩耗を有するべきであり、特に鋼との摩擦組合せにある同期リングとして使用するのに、可能な限り適応性のある摩擦係数を有するべきである。
【0015】
この目的は、本発明により、以下(量は重量%で与えられる):
54−65% 銅
2.5−5.0% アルミニウム
1.0−3.0% ケイ素
2.0−4.0% ニッケル
0.1−1.5% 鉄
≦1.5% マンガン
≦1.5% スズ
≦1.5% クロム
≦0.8% 鉛
残部 亜鉛に加えて他の不可避の混入物
を含有する銅合金であって、
遊離ケイ素は、少なくとも0.4%、好ましくは少なくとも0.5%及び特に好ましくは少なくとも0.6%の量で合金の母材中に又はケイ素含有非ケイ化物相中に存在する、銅合金により達成される。
【0016】
本発明の記載文脈中で不可避の混入物に言及する時、これらは再生利用材料を使用することにより溶融物中に導入された元素であり、混入物とみなされる各元素は最大量で0.5重量%を超えてはならず、混入物の総量は1.5重量%を超えてはならないことは指摘されるべきである。材料に基づきかつ総量において、混入物を最小化する試みをすることが好ましい。
【0017】
本発明による合金−特殊な黄銅合金−及び/又はそれから製造された加工品、即ち同期リングは、広範囲な潤滑剤体系に対する高い油適合性により特徴付けられる。本発明による合金は、均一化及び摩滅過程により内部境界層が実質的に抑制されながら、異なる摩擦学的系において摩擦及び熱応力の影響下で、特に安定な反応層を形成することが認識されてきた。境界層の安定化は、合金成分Si、Cu、及びZnの間の選択された比に対してもたらされる。合金成分である銅及び亜鉛の合計と比較した遊離ケイ素の量の比が特に重要である。
【0018】
亜鉛成分の効果は、急速に層を形成するための十分な反応性を利用可能にし、修復することにより、反応層を安定化することと見られる。多少それとは反対なのは、ケイ素成分により実現する。ケイ化物に結びつけられない遊離ケイ素にとって、母材中又はケイ素含有の非ケイ化物相中に、少なくとも0.4重量%の量が、溶けた形で存在することがここでは重要である。遊離ケイ素の含量が個々の混入物のしきい値0.15重量%を超えると、ここで有利な効果が既に起きている。0.4%の最小重量によって、反応層の明確な安定化に導かれる。好ましくは少なくとも0.5%、特に好ましくは少なくとも0.6%の遊離ケイ素のさらにより多い量によって、反応層の発達に望ましい効果を増加させる。ここで上限は、合金の加工性への要求によって与えられる。ケイ素に富むγ相は、機械的に好ましくない合金特性をもたらし、避けるべきである。従って遊離ケイ素の量として好ましいのは、重量で最大2%、特に好ましくは最大1.5%に限定される。絶対的なケイ素含量に対する選択された制限により、ある条件下でき裂に導く恐れのある鋳造合金中の応力は抑えられ、合金の有利な破断強度は維持される。
【0019】
さらに、合金成分の亜鉛とケイ素の絶対含量との間の重量比が、10−40の範囲、好ましくは20−35の範囲であることが好ましい。合金母材中の遊離ケイ素の量に対する亜鉛含量を考慮すると、この比率は好ましくは15−75、好ましくは20−55である。反応性を増加させる成分の亜鉛と、反応速度に影響する遊離ケイ素の含量との間の以下で述べる兼ね合いは、関係する潤滑剤添加物に関して反応層の形成が選択的に行われるように調整される。
【0020】
遊離形状のケイ素は、他の合金成分の酸化抑制剤として作用する。特に、酸化亜鉛の層が軽微な程度しか形成されないように、亜鉛の酸化傾向は低減される。その代わり亜鉛は反応層へ組み込まれるために元素の形態で存在する。特別な黄銅中の遊離ケイ素は、合金中の第3の元素の拡散速度を低減し、熱伝導をも低減するとさらに考えられる。このことは、合成過程が抑制され、一方で同時にさらに選択的に行われる程度に、反応層形成の動力学に影響する。高い酸化亜鉛含量を備えた酸化層が形成されるのではなく、ゆっくり成長した安定な反応層が形成される。反応層中では、反応物として利用可能な亜鉛元素は、潤滑油の個々の添加物と選択的に反応する。一方、現時点で知られるほとんどの油添加物は、より少ない程度でのみ反応層に組み込まれる。従って、反応層の発達は完全には抑えられないが、その代わり、亜鉛成分による反応性の増加、及び母材又はケイ素系の相中に溶けている遊離ケイ素の抑制剤効果によって、選択的な層の成長が起きる。
【0021】
この相互作用により、表面を変える効果を有する非常に特殊な潤滑剤添加物だけが、反応層のビルドアップに影響するという事実がもたらされる。このことにより、本発明による合金から製造した加工品、例えばそこから製造された同期リングの耐腐食性の広帯域な性質が説明される。なぜなら、層形成過程で悪影響を有することなく、ほとんどの油添加物を使用することができ、かつ取り替えることができるからである。この点で、本発明による合金でできた加工品、例えば同期リングなどに対して、様々な潤滑剤の変化に対する反応層に関して、摩擦学的系はほぼ不変である。異なる潤滑剤環境で使用するのに対して、摩擦学的系において負の効果を有する恐れのある特別な添加物又は添加組成物を使用しないことを徹底することだけが必要である。過去に知られる合金の加工品には、非常に特別な潤滑剤しか使用できない一方で、本明細書で請求する合金でできた加工品の場合には、意図する成功を得ることができない潤滑剤及び/又は潤滑組成物はほんのわずかしかない。従って、本請求の合金から製造された加工品は、油と広帯域の適合性を有する。
【0022】
本請求の合金でできた加工品に対して、機械応力に曝される最外層での摩耗は、反応層を形成することが認められ、安定な反応層が形成される。これは摩耗、さらに初期摩耗さえも低減する通常の手順とは対照的である。本請求の発明に導いた調査では、安定した反応層を得るためには、層の厚み及び層の組成を含む層の成長を制御することが必要なばかりでなく、構成部品の反応層の安定形成の見地から、反応層に隣接する内部境界層の安定化もまた重要であることが見出された。ケイ素を添加することにより、境界層の改善された機械的安定性、特に耐孔食摩耗性の増加が観察される。この効果は金属間硬質相の析出によりさらに高められ、その結果本発明による合金に、ケイ素及び/又はアルミニウムに加えて、さらに合金成分のマンガン、鉄及びニッケル、並びに任意元素のクロムも含むケイ化物及びアルミナイドの混合物が存在する可能性がある。合金中の選択されたアルミニウム含量によって、主にアルミニウムの金属間相の形成がもたらされ、従ってケイ化物の形成に他の場合には必要な元素が捕捉される。その結果、ケイ素成分は過剰分として残存し、合金母材中に溶けた遊離ケイ素として存在する可能性がある。合金成分の重量比は、本発明の好適な実施態様に対して調整され、その結果アルミニウム含量は、鉄、マンガン、ニッケル及びクロム含量の合計に対する化学量論比を超える。
【0023】
必要な最小量0.4%、好ましくは少なくとも0.5%、特に好ましくは少なくとも0.6%の遊離ケイ素は、本多成分系に対して十分多量のアルミニウムを通してのみでなく引き出され、その結果ケイ化物と競争してアルミナイドが形成される。しかしケイ素の溶解性に影響を与える別の要素によって合金構造の調整が導かれ、これは絶対的な亜鉛成分を通して制御することができる。もし唯一の又は主たるβ−黄銅が存在するなら、ケイ素の合金母材への良好な溶解性が存在する。所定の合金の限界値内で、組み合わせた量は可能であり、ここで600℃未満でα相は熱力学的に安定であり、遊離ケイ素はβ相中よりも少量しか溶解できない。同様に、必要な最小量0.4%、好ましくは少なくとも0.5%、特に好ましくは少なくとも0.6%の遊離ケイ素は、合金の溶融並びに場合により追加の加熱成形及び焼なまし工程の後の選択的冷却条件により、β相成分が合金中に凝固するという事実により確立される。
【0024】
ケイ素が合金母材中に溶ける別の制御の可能性は、微細な相析出物の形態で存在する、Cu−Zn−Al−Si混晶の形態のκ相が結果する構造的調整の場合にも得られる。この対策により、ケイ素を(α+β)混晶から取り出すことができる。κ相形成に影響を与えるために、制御された冷却を伴う繰返しの焼なましを実施してもよい。さらに、任意元素のクロムもまた相平衡に影響し、その結果合金の好ましい実施態様に対して、クロムは不可避の混入物としてのみ存在する。
【0025】
コバルトは最大1.5重量%の量で合金中に存在してもよい。しかし、コバルト含量が<0.7重量%又は合金がほぼコバルトを含まない実施態様が好ましい。
【0026】
最大0.8重量%の鉛成分は、基本的に不純物と考えられる。本明細書に記載の合金の特殊な油適合性が、合金にPbがたとえ含まれなくても達成されることが見出されたことは意外であった。このことは、最新式の合金は油適合性を達成するためにある量のPbを含有しなければならないという背景に反して意外であった。本発明による合金でPb含量が<0.1重量%のものは、こうした実施態様の範囲内でPbを含まないと考えられる。
【0027】
問題になっている種類のこれまで知られている合金と比較してマンガンの含量が少ないにもかかわらず、本発明による合金で製造された構成部品において十分な量のケイ化物が形成され、構成部品に必要な耐摩滅性を付与することを見出したことは意外であった。マンガンはケイ化物形成の好ましい元素であり、そのことは、所望のケイ化物成分を得るためにケイ化物形成の親和性によりマンガン成分は高品質でなければならないという一般的な意見と一致しているので、この発見は意外であった。これらがマンガンに比較してケイ化物形成への親和性が著しく劣るという事実にもかかわらず、本発明による合金とともに、ケイ化物の形成に、例えばニッケル及び/又は鉄などの他の元素を導入することも可能であった。この背景に反して、本請求の合金はまた合金成分としてアルミニウムを含有し、鉄及び/又はニッケル元素とともにアルミナイドが形成される可能性があるが、ケイ化物形成の親和性は最も有力である。
【0028】
この点で、ケイ素に対する元素の異なる親和性を巧みに利用することを仮定して、製造された構成部品が十分なケイ化物成分を有することを確実にするだけでなく、所望の遊離ケイ素が存在することを確実にすることも、意外にも可能であった。研究によれば、所望の遊離ケイ素は、従来の製造プロセスに依拠する必要がある場合に限り、本請求による範囲に確立されることが示された。
【0029】
潤滑剤との相互作用にある本発明による合金組成物から製造された加工品は、内部境界層のビルドアップを確実にし、内部境界層は高い熱的及び機械的安定性を確実にするとともに反応層の良好な接着を可能にする。この予想外の特性は、適合した拡散能力の結果だと考えられる。この拡散能力は、反応層の層成長、及び追加の腐食保護として自己潤滑性成分を使用する可能性を開く効果がある。本発明による合金組成物にスズを添加することは、それが拡散を通して、それが自己潤滑効果を有する摩擦表面に到達するので、この目的に役立つ。
【0030】
本発明による合金を製造するために、少なくとも70%、好ましくは80%超の母材成分とともにβ相が形成されるように、合金成分を結びつけた後に、リフォーミング(reforming)及び熱処理が好ましくは実施される。ケイ素の合金母材中への改善された溶解性に加えて、多くの用途で最終析出硬化が不要であるように、結果は、加工品の高い硬度及びアブレシブ摩耗への大きな耐性である。この場合、合金中の任意成分であるコバルトの量は削減してもよい。不可避の不純物を除いて、コバルトを完全に除外することが好ましい。この関連で、所望の合金組成物の広帯域な油適合性は、コバルト量の0.7重量%未満に対してさらに改善されることが、意外にも見出された。従って、本多成分系において、コバルト成分と鉄成分との間、並びにクロムとも相互作用が存在し、これが遊離ケイ素含量に間接的な影響を有すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】潤滑剤であるチタンEG52512で実施した実験A、BOT350M3潤滑剤で実施した実験B、BOT402で実施した測定Cの滑り摩擦値を示す。
図2】X線光電子分光法(EDX)による分析に測定点のラベルを貼った顕微鏡写真を示す。
図3】潤滑剤即ちA(チタンEG52512)、B(BOT350M3)、C(BOT402)中における、広帯域で油適合性を有する試験的合金の摩耗実験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
上記合金の肯定的特性での向上は、以下の重量による量:
54−65% 銅
3.0−5.0% アルミニウム
1.0−3.0% ケイ素
2.0−4.0% ニッケル
0.5−1.5% 鉄
≦1.5% マンガン
≦0.7% スズ
≦1.5% クロム
≦0.8% 鉛
残部 亜鉛に加えて不可避の不純物
を含有する好適な銅合金であって、
遊離ケイ素は少なくとも0.4%、好ましくは少なくとも0.5%及び特に好ましくは少なくとも0.6%の量で、合金母材中に又はケイ素含有非ケイ化物相中に存在する、銅合金により達成することができる。
【0033】
上記合金の肯定的特性でのさらなる向上は、以下の重量による量:
56−60% 銅
3.0−4.0% アルミニウム
1.3−2.5% ケイ素
3.0−4.0% ニッケル
0.5−1.5% 鉄
0.1−1.5% マンガン
0.3−0.7% スズ
≦0.7% クロム
≦0.8% 鉛
残部 亜鉛に加えて他の不可避の不純物
を含有する好適な銅合金であって、
遊離ケイ素は、少なくとも0.4%、好ましくは少なくとも0.5%及び特に好ましくは少なくとも0.6%の量で、合金母材中に又はケイ素含有非ケイ化物相中に存在する、銅合金により達成することができる。
【0034】
上で記載の本発明による銅合金及び/又はそれから製造された加工品の利点についての背景に反して、この合金は、例えば同期リング、軸受部品又は同様のものなどの油環境で使用される構成部品を製造するのに適していると見ることができる。このことは、この合金から製造された製品の肯定的特性が、製品が同期リングなどの摩擦ペアの摩擦相手である時だけでなく、例えばペアリング、例えば軸受(アキシャル軸受又はラジアル軸受)などの組合せにおいて提供される他の構成部品である時にも達成されることを意味する。こうした追加の用途に、軸受部品に使用されるブシュも含まれる。こうした合金から製造される加工品の特殊な特性が、特にそれらが少なくとも一時的にその油環境においてマンガンの潤滑に曝される時に確立されることは、ここで自明である。
【0035】
上で記載の肯定的特性が本請求の全帯域幅に渡って確立されたとしても、特にこれらの合金で製造された構成部品がより高い機械的負荷に曝されるはずの時に、強度の判断基準のために、以下の組成(量は重量%で与えられる):
59−61% 銅
3.5−4.2% アルミニウム
1.1−1.7% ケイ素
2.6−3.8% ニッケル
0.6−1.1% 鉄
0.5−1.0% マンガン
0.1−0.3% スズ
最大0.8% 鉛
残部 亜鉛に加えて不可避の不純物
からなる合金であって、
遊離ケイ素は、少なくとも0.4%、好ましくは少なくとも0.5%及び特に好ましくは少なくとも0.6%の量で、合金母材中に又はケイ素含有非ケイ化物相中に存在する、合金により製造された合金が軸受部品には好ましい。
【実施例】
【0036】
以下の合金成分(量は重量%で与えられる):
60% 銅
4.0% アルミニウム
1.6% ケイ素
3.2% ニッケル
0.9% 鉄
0.9% マンガン
0.2% スズ
0.8% 鉛
残部 亜鉛に加えて不可避の不純物
を含有する半製品により、以下に提示する実験を実施した。
【0037】
ここで検討した上記合金組成を備える押出半製品は、大きな靭性及び十分な強度に加えて高い破断伸びを有する。2.5/62.5HB硬さが250−270の範囲を備えた加工品及び/又は半製品を得ることができる。多くの用途に対してこの強度レベルは十分であるので、この合金から製造された加工品はそれに続くどんな硬化も必要ない。従来知られる合金で製造された加工品の場合、こうした硬度は硬化の追加工程によってのみ達成することができる。引張試験は、650−750MPaの範囲で0.2%の歪限度を示した。さらに、本発明による合金は≧0.1の滑り摩擦値を有する。このことは図1に基づいて説明される。実験Aは潤滑剤であるチタンEG52512で実施し、実験BはBOT350M3潤滑剤で実施し、測定CはBOT402で実施した。そのため、これら全ては潤滑剤に分類される。
【0038】
ケイ化物の形態で結びつけられない遊離ケイ素の量は、本発明による合金から製造された半製品の走査電子顕微鏡(SEM)分析により決定した。図2は、X線光電子分光法(EDX)による分析に測定点のラベルを貼った顕微鏡写真を示す。以下の表は、選択された測定点/測定表面に対する遊離ケイ素の量を示し、この状況でこれらの測定点が合金母材に対応できるように決定し、従って金属間硬質相の外側にある。
【0039】
さらに、ここでは詳細に提示しないが走査電子顕微鏡分析を実施し、選択された合金組成物の全範囲に渡って、適宜SEM−EDX測定を確定した。少なくとも0.6重量%の遊離ケイ素の含量が測定された。
【0040】
図3は、上で述べた潤滑剤即ちA(チタンEG52512)、B(BOT350M3)、C(BOT402)中における、広帯域で油適合性を有する試験的合金の摩耗実験の結果を示す。全ての潤滑剤体系において、安定した反応層のビルドアップが認められた。実験は、80℃の油温、50MPaの表面圧力及び1m/秒の滑り速度で実施した。100kmの摩擦距離を移動後、摩耗抵抗値は140−170km/gの比較的狭い範囲内にあった。既に述べた摩耗実験において、試験片は特に広帯域の油適合性を示したばかりでなく、それぞれの摩耗抵抗は高く、いろいろ違った種類の油を使用したにもかかわらず、こうして決定した摩耗抵抗値が包含する範囲は極めて狭いことが、意外にも見出された。
【0041】
鉛フリーの変種において、比較結果も得ることができる。鉛フリーの変種の合金は、上で述べた鉛含有合金の変種と同じ意図で使用する半製品又は構成部品を製造するのに、最終的に適している。しかし、これらは鉛を含まないという利点を有している。一方で、主として環境面での安全性の理由からこれが要求されている。
【0042】
この目的のためには、重量%で示す以下の元素:
59−62% 銅
3.5−4.5% アルミニウム
1.2−1.8% ケイ素
2.5−3.9% ニッケル
0.7−1.1% 鉄
0.7−1.0% マンガン
0.05−0.5% スズ
≦1.5% クロム
≦0.1% 鉛
残部 亜鉛に加えて他の不可避の不純物
を有する合金組成物であって、
遊離ケイ素は、少なくとも0.4%、好ましくは少なくとも0.5%及び特に好ましくは少なくとも0.6%の量で、合金母材中に又はケイ素含有非ケイ化物相中に存在する、合金組成物が適当であろう。
【0043】
そのニッケル及びアルミニウム含量に関してお互いに異なる2つの異なるタイプの合金に基づき、この合金グループを使用して油適合性試験を実施した。これらの合金により達成された油適合性の結果が、合金成分として鉛が無いにもかかわらず、その油適合性は上で述べたPb含有合金で見出されたものと一致することを示すことは、興味深い。これらは以下のタイプの合金(量は重量%)で、遊離ケイ素は好ましくは合金母材中に又はケイ素含有非ケイ化物相中に、少なくとも0.4%、好ましくは少なくとも0.5%及び特に好ましくは少なくとも0.6%の量で存在する。
【0044】
合金タイプ1
59.5−61.5% 銅
3.6−4.2% アルミニウム
1.2−1.8% ケイ素
2.8−3.3% ニッケル
0.7−1.1% 鉄
0.6−1.2% マンガン
≦0.28% スズ
≦0.1% 鉛
残部 亜鉛に加えて不可避の不純物。
【0045】
合金タイプ2
58.5−61.0% 銅
3.9−4.4% アルミニウム
1.2−1.8% ケイ素
3.3−4.0% ニッケル
0.7−1.1% 鉄
0.6−1.2% マンガン
≦0.28% スズ
<0.1% 鉛
残部 亜鉛に加えて不可避の不純物。
【0046】
合金タイプ1の試料を特にその油適合性に関して試験し、以下の組成(量は重量%)を有することが見出された:
60% 銅
4.0% アルミニウム
1.6% ケイ素
3.2% ニッケル
0.9% 鉄
0.9% マンガン
0.2% スズ
0.02% 鉛
残部 亜鉛に加えて不可避の不純物。
【0047】
合金タイプ2から試験した試料の組成は、以下の組成(量は重量%)を有した:
60% 銅
4.2% アルミニウム
1.6% ケイ素
3.7% ニッケル
0.9% 鉄
0.9% マンガン
0.2% スズ
0.02% 鉛
残部 亜鉛に加えて不可避の不純物。
【0048】
それ自体知られるプロセス工程により、こうした合金から、軸受部品としてのブシュを製造することができた。これは、以下の工程:
− 予備パイプ材料を圧縮する工程と、
− 圧縮された予備パイプ材料をソフトアニーリングする工程と、
− ソフトアニーリングした予備パイプ材料を、最大で5%、好ましくは2−3%低温延伸する工程と、
− 低温延伸半製品を熱分解する工程と
を含む。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2015年11月27日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、
54−65% 銅
2.5−5.0% アルミニウム
1.0−3.0% ケイ素
2.0−4.0% ニッケル
0.1−1.5% 鉄
≦1.5% マンガン
≦1.5% スズ
≦1.5% クロム
≦1.5% コバルト
≦0.8% 鉛
残部 亜鉛に加えて他の不可避の混入物
を含む潤滑剤適合性銅合金構成部品であって、
遊離ケイ素は、合金母材中に又はケイ素含有非ケイ化物相中に、少なくとも0.4%かつ最大で2%の量で存在し、
亜鉛と遊離ケイ素の重量比は15から75であり、
β相は80%超の量で存在し、ケイ素に富むγ相は合金混合物中に無い、銅合金構成部品。
【請求項2】
重量%で、3.0−5.0%のアルミニウム、0.5−1.5%の鉄、及び≦0.7%のスズを含有する、請求項1に記載の銅合金構成部品。
【請求項3】
重量%で、56−60%の銅、3.0−4.0%のアルミニウム、1.3−2.5%のケイ素、3.0−4.0%のニッケル、0.5−1.5%の鉄、0.1−1.5%のマンガン及び0.3−0.7%のスズを含有する、請求項2に記載の銅合金構成部品。
【請求項4】
59−62%の銅、3.5−4.5%のアルミニウム、1.2−1.8%のケイ素、2.5−3.9%のニッケル、0.7−1.1%の鉄、0.7−1.0%のマンガン、0.05−0.5%のスズ及び≦0.1%の鉛を含有する、請求項1又は2に記載の銅合金構成部品。
【請求項5】
遊離ケイ素の量が少なくとも0.65重量%であることを特徴とする、請求項1から4の何れか一項に記載の銅合金構成部品。
【請求項6】
亜鉛と遊離ケイ素との重量比が20から55の範囲にあるように選択されることを特徴とする、請求項1から5の何れか一項に記載の銅合金構成部品。
【請求項7】
アルミニウムの量が、鉄、マンガン、ニッケル及びクロムの量の合計の化学量論比を超えることを特徴とする、請求項1から6の何れか一項に記載の銅合金構成部品。
【請求項8】
元素Ni+Fe+Mnの合計とSiとの比が≦3.45、好ましくは≦3.25であることを特徴とする、請求項1から7の何れか一項に記載の銅合金構成部品。
【請求項9】
不純物としての鉛が、合金のビルドアップ中に最大0.8重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1から8の何れか一項に記載の銅合金構成部品。
【請求項10】
少なくとも1つの熱処理工程がそれに続く冷却とともに実施され、その結果母材中又はケイ素含有非ケイ化相中の遊離ケイ素の量が少なくとも0.4%に相当することが決定される、請求項1から9の何れか一項に記載の銅合金構成部品から加工品を製造する方法。
【請求項11】
熱処理工程のプロセス管理及びそれに続く制御冷却により、少なくとも80%のβ相含量を生み出すことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記合金からギア用同期リングが製造されることを特徴とする、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1から9の何れか一項に記載の銅合金から製造される同期リングなどの摩擦に曝される銅合金構成部品を少なくとも1つ含むギアであって、前記ギアは、銅合金から製造されたギア構成部品がギア油環境中に配置されるギアケーシングを備え、前記ギア構成部品は、摩擦に曝されるその表面に反応層を有し、ギア油中に存在する添加物、及び母材中若しくはケイ素含有非ケイ化相中の反応元素として存在する遊離ケイ素、又はその反応生成物及び/若しくは分解物を備える、ギア。
【国際調査報告】