(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-511965(P2017-511965A)
(43)【公表日】2017年4月27日
(54)【発明の名称】自動車用電池のためのドープし、かつコーティングしたリチウム遷移金属酸化物カソード材料
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20170407BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20170407BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20170407BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 A
H01M4/36 E
【審査請求】有
【予備審査請求】有
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-555669(P2016-555669)
(86)(22)【出願日】2015年3月3日
(85)【翻訳文提出日】2016年11月4日
(86)【国際出願番号】IB2015000260
(87)【国際公開番号】WO2015132647
(87)【国際公開日】20150911
(31)【優先権主張番号】14158018.3
(32)【優先日】2014年3月6日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】502270497
【氏名又は名称】ユミコア
(71)【出願人】
【識別番号】514261074
【氏名又は名称】ユミコア コリア リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュ,リャン
(72)【発明者】
【氏名】ジェンス,ポールゼン
(72)【発明者】
【氏名】アン,ヒョ,スン
(72)【発明者】
【氏名】ホン,ヘオンピョ
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA09
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB08
5H050DA09
5H050EA12
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】自動車用電池のためのドープし、かつコーティングしたリチウム遷移金属酸化物カソード材料
【解決手段】一般式、Li
1+d(Ni
xMn
yCo
zZr
kM’
m)
1−dO
2±eA
fで表されるLi金属酸化物コア粒子からなる、充電式電池のカソード材料用リチウム金属酸化物粉体であって、Al
2O
3が、コア粒子の表面に付着し、0≦d≦0.08、0.2≦x≦0.9、0<y≦0.7、0<z≦0.4、0≦m≦0.02、0<k≦0.05、e<0.02、0≦f≦0.02、かつx+y+z+k+m=1であり、M’は、Al、Mg、Ti、Cr、V、Fe、及びGaからなる群から選択されるいずれか1種類又は2種類以上の元素からなり、Aは、F、P、C、Cl、S、Si、Ba、Y、Ca、B、Sn、Sb、Na、及びZnからなる群から選択されるいずれか1種類又は2種類以上の元素からなり、粉体中のAl
2O
3含有量は、0.05〜1重量%である、リチウム金属酸化物粉体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式、Li1+d(NixMnyCozZrkM’m)1−dO2±eAfで表されるLi金属酸化物コア粒子からなる、充電式電池のカソード材料用リチウム金属酸化物粉体であって、Al2O3が、前記コア粒子の表面に付着し、0≦d≦0.08、0.2≦x≦0.9、0<y≦0.7、0<z≦0.4、0≦m≦0.02、0<k≦0.05、0≦e<0.02、0≦f≦0.02、かつx+y+z+k+m=1であり、M’は、Al、Mg、Ti、Cr、V、Fe、及びGaからなる群から選択されるいずれか1種類又は2種類以上の元素からなり、Aは、F、P、C、Cl、S、Si、Ba、Y、Ca、B、Sn、Sb、Na、及びZnからなる群から選択されるいずれか1種類又は2種類以上の元素からなり、前記粉体中のAl2O3含有量は、0.05〜1重量%である、リチウム金属酸化物粉体。
【請求項2】
前記コア粒子のメジアン粒径D50は、2〜5μmである、請求項1に記載のリチウム金属酸化物粉体。
【請求項3】
Al2O3は、前記コア粒子の表面に非連続的コーティングとして付着している、請求項1に記載のリチウム金属酸化物粉体。
【請求項4】
Al2O3は、d50が100nm未満である複数の離散粒子の形態で、前記コア粒子の表面に付着している、請求項1に記載のリチウム金属酸化物粉体。
【請求項5】
Al2O3は、ドライコーティングプロセスによって、前記コア粒子の表面に除去可能に付着している、請求項1に記載のリチウム金属酸化物粉体。
【請求項6】
0<x−y<0.4、かつ0.1<z<0.4である、請求項1に記載のリチウム金属酸化物粉体。
【請求項7】
x、y、及びzのそれぞれは、0.33±0.03に等しく、かつ0.04<d<0.08である、請求項1に記載のリチウム金属酸化物粉体。
【請求項8】
x=0.40±0.03、y=0.30±0.03、z=0.30±0.03、かつ0.04<d≦0.08である、請求項1に記載のリチウム金属酸化物粉体。
【請求項9】
x=0.50±0.03、y=0.30±0.03、z=0.20±0.03、かつ0.02<d<0.05である、請求項1に記載のリチウム金属酸化物粉体。
【請求項10】
x=0.60±0.03、y=0.20±0.03、z=0.20±0.03、かつ0<d<0.03である、請求項1に記載のリチウム金属酸化物粉体。
【請求項11】
前記Li金属酸化物コア粒子のZr濃度が、バルクよりも、表面において高くなっている、請求項1に記載のリチウム金属酸化物粉体。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のリチウム金属酸化物粉体を調製するプロセスであって、前記粉体は、Li金属酸化物コア粒子と、前記コア粒子の表面に付着したAl2O3と、からなり、前記プロセスは、
−体積V1のAl2O3粉体を提供する工程であって、前記Al2O3粉体は、ナノメートルサイズの非凝集粉体である、工程と、
−体積V2の前記Li金属酸化物コア材料を提供する工程と、
−ドライコーティング法にて前記Al2O3粉体を前記Li金属酸化物コア材料と混合
することによって、前記Li金属酸化物コア材料をAl2O3粒子で被覆する工程と、を含む、プロセス。
【請求項13】
前記ドライコーティング法にて前記Al2O3粉体を前記Li金属酸化物コア材料と混合する工程の際に、体積V1+V2=Vaは、前記体積が値Vbで一定となるまで減少し、それによって、前記Li金属酸化物コア材料をAl2O3粒子で被覆する、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記リチウム金属酸化物粉体と、メジアン粒径D50が5μmを超える、他のリチウム遷移金属酸化物系の粉体と、を含む混合物中での、請求項1〜11のいずれか一項に記載のリチウム属酸化物粉体の使用。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のリチウム金属酸化物粉体を含むカソード材料を含む電池であって、前記電池は、自動車用途で使用される、電池。
【請求項16】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のリチウム金属酸化物粉体を含むカソード材料を含む、ハイブリッド電気自動車の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相乗作用を生むようにドープし、かつコーティングした充電式電池用リチウム遷移金属酸化物に関し、これにより、自動車用途などといった、要求の厳しい技術分野向けに優れた電池材料を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
充電式リチウム電池及びリチウムイオン電池は、エネルギー密度が高いため、携帯電話、ラップトップ型コンピュータ、デジタルカメラ、及びビデオカメラなどの、様々な携帯型電子機器用途で使用することができる。市販のリチウムイオン電池は、典型的には、黒鉛系のアノード材料と、LiCoO
2系のカソード材料からなっている。しかしながら、LiCoO
2系のカソード材料は高価であり、典型的には、比較的容量が小さく、およそ150mAh/g程度である。
【0003】
LiCoO
2系のカソード材料に変わるものとして、LNMCO型のカソード材料が挙げられる。LNMCOとは、リチウム−ニッケル−マンガン−コバルト−酸化物を意味する。組成は、LiMO
2、又はLi
1+x’M
1−x’O
2となり、ここで、M=Ni
xCo
yMn
zM’
mである(これはより一般的には「NMC」と呼ばれ、M’は、1種類又は2種類以上のドーパントである)。LNMCOは、LiCoO
2と似た層状結晶構造をとる(空間群r−3m)。LNMCOカソードの利点は、純粋なCoと比べると、組成Mの原材料価格がずっと安いことである。Niを加えることにより、放電容量が増加するが、Ni含有量の増加と共に熱的安定性が失われるという制限がある。この問題点を補うため、構造を安定化する元素としてMnが添加されるが、その一方で、容量がいくらか失われてしまう。典型的なカソード材料は、式LiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2、LiNi
0.6Mn
0.2Co
0.2O
2、又はLi
1.06M
0.94O
2(M=Ni
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2、NMC111と呼ばれる)で表される組成物を含む。遷移金属陽イオンを十分に混合した特殊な前駆体が必要であるため、ほとんどの場合、LiCoO
2よりもLNMCOの方が、調製が困難である。典型的な前駆体は、遷移金属の水酸化物、オキシ水酸化物、又は炭酸塩の混合物である。
【0004】
将来的には、リチウム電池市場では、自動車用途がますます増えていくものと予想される。自動車用途では、非常に大型で高価な電池が必要となり、かつ、可能な限り低コストで生産する必要がある。カソード(即ち、正極)が、コストのかなりの割合を占める。これらの電極を安価なプロセスで提供することにより、コストを低下させやすくなり、市場への受け入れを加速させることができる。また、自動車用電池は、何年も長持ちする必要がある。この期間、常に電池が動作しているわけではない。長い電池寿命は、(a)保存期間中の容量損失が少ないこと、及び(b)サイクル安定性が高いこと、の2つの特性と関連する。
【0005】
自動車市場における主用途は様々である。EV(電気自動車)用の電池では、数百キロの範囲で走行するためのエネルギーを蓄える必要がある。そのため、セルが非常に大型になる。明らかに、必要とされる放電レートは、数時間内に完全に放電させきってしまうものではない。そのため、十分な電力密度が容易に達成され、電池の出力性能を劇的に改善することには特別関心が払われていない。このような電池におけるカソード材料は、大容量で、カレンダー寿命が良好である必要がある。
【0006】
これとは対照的に、HEV(ハイブリッド電気自動車)には、もっと高い特定の出力要
件がある。電動補助による加速、及び回生ブレーキでは、電池は、数秒のうちに放電したり、又は再充電されたりする必要がある。このような高い頻度では、いわゆる直流抵抗(Direct Current Resistance)が重要となる。DCRは、電池に好適なパルス試験を行うことにより測定される。DCRの測定については、例えば、http://www.uscar.orgにて閲覧できる、「Appendix G,H,I and J of the USABC Electric Vehicle Battery Test Procedures」に記載されている。USABCとは、「US advanced
battery consortium」の略であり、USCARとは、「United States Council for Automotive Research」の略である。
【0007】
DCR抵抗が小さい場合は、充放電サイクルの効率がよく、わずかなオーム熱しか放出されない。これらの高い出力要件を達成するため、これらの電池は、薄型の電極を備えるセルを含む。これにより、(1)Liの拡散距離が短くて済み、また(2)(電極面積当たりの)電流密度を小さくすることができ、出力を上げ、DCR抵抗を下げやすくなる。このような高出力電池では、カソード材料に対する要件は厳しいものとなる。即ち、それらのカソード材料は、電池全体のDCRに占める割合を可能な限り抑えることによって、非常に高い放電又は充電レートを維持することが可能でなければならない。かつては、カソードのDCR抵抗の改善が問題であった。更に、電池の長時間動作の間のDCRの増加を抑えることが課題であった。
【0008】
3つ目の種類の自動車電池は、PHEV(プラグインハイブリッド電気自動車)用電池である。出力に対する要件は、HEVよりは低いが、EV型よりは高い。
【0009】
先行技術により、出力特性、並びにカソード材料の電池寿命を向上させるための多くの方法が教示されている。しかしながら、多くの場合、これらの要件は互いに相反するものである。一例として、粒径の減少に伴う表面積の増加により、カソード材料の出力を増加させることができることは、ごく一般に受け入れられている。しかしながら、表面積の増加により、望ましくない影響がでる場合もある。なぜなら、電池寿命が制限される1つの大きな要因は、粒子と電解液の界面において荷電したカソードと電解液との間に起こる、寄生性の(望ましくない)副反応であるからである。これらの反応の頻度は、表面積が増加するにつれて上昇することになる。それ故、NMCカソードの表面積をこれ以上増やすことなく、出力を向上させた(具体的にはDCRを下げた)カソード材料を開発することが不可欠である。
【0010】
ドーピング及びコーティングが、いかにカソード材料のサイクル安定性の向上に役立ち得るか、ひいては、電池寿命の向上に役立ち得るか、ということについては、多数の報告がある。残念なことに、これらの手法の多くでは、出力能力の劣化が起きている。具体的には、Zr、Mg、Alなどによるドーピング、並びにリン酸塩、蛍石、及び酸化物によるコーティングの報告があるが、多くの場合、ほぼ共通して出力性能が低下している。これについて、発明者らは、ドーピング又はコーティングの際に生じる特定のカプセル化効果に関連があると考えている。カプセル化により、電解液と、荷電したLNMCOカソード表面との直接的な接触が防がれるか、又は制限されるものの、同時に、リチウムがカプセル化層を通り抜けることはより困難となる。それ故、出力の低下を伴わずに電池寿命を向上可能な、改善された処理済カソード材料を開発することが不可欠である。
【0011】
LNMCO材料に対するZrのドーピングは、米国特許第8,343,662号から既知であり、この文献では、Zrは、充放電サイクル間の放電電圧及び容量の減少を抑えるために、また、サイクル特性を向上させるために加えられている。ここでは、Li前駆体及び共沈させたNi−Mn−Co水酸化物をZr酸化物と混合し、この混合物を、空気中
で1000℃に加熱している。
【0012】
米国特許第7,767,342号では、リチウム遷移金属酸化物に、アルミニウム、ケイ素、チタン、バナジウムなどといった「異種」元素の酸化物をドーピングして、自己放電と内部抵抗の増加を打ち消し、電池の保存特性を向上させることが提案されている。Ni−Mn−Co複合酸化物については、以下の高価な焼結方法が提案されている。即ち、
A)Li−TM(遷移金属)−酸化物を「異種」元素の酸化物と混合し、続いて焼結するか、
B)Li−前駆体及びTM−前駆体を、「異種」元素前駆体と混合し、続いてその「異種」元素を酸化させ、Li−TM−酸化物中で混ぜ合わせるために空気中で焼結するか、又は
C)Li−TM−酸化物を「異種」元素の前駆体と混合し、続いて酸化条件下で焼結する。
【0013】
コーティングの後の熱処理を含む先行技術の例としては、米国特許第8,007,941号がある。少なくとも1種類のリチウム化化合物を含むコアと、正極活物質を形成する、コア上の表面処理層と、を含む、充電式リチウム電池用の正極活物質が開示されており、ここで、表面処理層は、非リチウム水酸化物又は非リチウムオキシ水酸化物からなる群から選択されるコーティング材料を含み、コーティング材料は、Sn、Ge、Ga、As、Zr、及びそれらの混合物からなる群から選択されるコーティング元素を含み、コーティング材料は、非結晶形態を有する。この材料には、400℃〜600℃に加熱してから、続いて10〜15時間にわたって、700℃〜900℃に加熱することにより、有機Alキャリアの炭素を取り除く前処理を行う。
【0014】
Zrを含む長いリストから選択されるドーパントを含むコーティングと、LNMCOの金属又は半金属酸化物を含むコーティングの両方が、米国特許出願第2011/0076556号に開示されている。しかしながら、何故ドーパントを用いるべきなのかという点について示唆はなく、金属酸化物は、アルミニウム、ビスマス、ホウ素、ジルコニウム、マグネシウムの酸化物(など)を含む、長いリストのうちのいずれか1種類であり得る。また、Al
2O
3コーティングは、リチウム金属酸化物粉体の高温反応によって得られ、その上に、水酸化アルミニウムを析出させた。ウェットな析出工程後の、酸化アルミニウム層を得るための更なる加熱工程により、カソード及びコーティング層が中間勾配(intermediate gradient)を形成してしまうという不都合が生じる。
【0015】
米国特許出願第2002/0192148号は、リチウム電池用にリチウム金属アノード保護層を形成する方法を開示しており、ここで、このリチウム電池は、カソードと、電解液と、電解液とリチウム金属アノードとの間にリチウム金属アノード保護層を連続的に積層したリチウム金属アノードと、を有し、この方法は、リチウム金属アノードの表面を活性化する工程と、リチウム金属アノードの活性化表面上にLiF保護層を形成する工程と、を含む。米国特許出願第2006/0275667号には、少なくともリチウム(Li)及びコバルト(Co)を含有する酸化物から作製される複合酸化物粒子と、複合酸化物粒子上に少なくとも部分的に提供され、かつリチウム、並びにニッケル及びマンガンのうちの少なくとも一方を含有する酸化物から作製されるコーティング層と、を含む、カソード活物質が開示されている。米国特許出願第2005/0227147号には、非水性電解液二次電池用の正極活物質が開示されており、この正極活物質は、リチウム、ニッケル、並びにリチウム及びニッケル以外の少なくとも1種類の金属元素を含有するリチウムニッケル複合酸化物と、炭酸リチウム、水酸化アルミニウム、及び酸化アルミニウムを含有する層と、を含み、この層は、リチウムニッケル複合酸化物の表面に担持される。
【0016】
本発明は、安価なプロセスで作製され、自動車電池用途に特に好適で、特に、DCR及
び前述した他の問題の観点について改善された、正極用リチウム遷移金属カソード材料を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
第1の態様から捉えると、本発明は、一般式、Li
1+d(Ni
xMn
yCo
zZr
kM’
m)
1−dO
2±eA
fで表されるLi金属酸化物コア粒子からなる、充電式電池のカソード材料用リチウム金属酸化物粉体であって、Al
2O
3が、コア粒子の表面に付着し、0≦d≦0.08、0.2≦x≦0.9、0<y≦0.7、0<z≦0.4、0≦m≦0.02、0<k≦0.05、0≦e<0.02、0≦f≦0.02、かつx+y+z+k+m=1であり、M’は、Al、Mg、Ti、Cr、V、Fe、及びGaからなる群から選択されるいずれか1種類又は2種類以上の元素からなり、Aは、F、P、C、Cl、S、Si、Ba、Y、Ca、B、Sn、Sb、Na、及びZnからなる群から選択されるいずれか1種類又は2種類以上の元素からなり、粉体中のAl
2O
3含有量は、0.05〜1重量%である、リチウム金属酸化物粉体を提供できる。f=m=e=0とした実施形態が本発明の一部を構成するのは明らかである。一実施形態においては、0.002≦k≦0.02である。他の実施形態においては、粉体におけるAl
2O
3含有量は、0.1〜0.5重量%である。本発明の有利な特徴は、粉体における、Li金属酸化物コア粒子のZr濃度が、バルクよりも、表面において高くなっていることである。更なる他の実施形態においては、コア粒子のメジアン粒径D50は、2〜5μmである。大きく、密集した粒子では、粒子内でのLiの拡散経路がより長くなるため、レート性能が制限される。そのため、DCR抵抗の多くの部分が、このバルクでの拡散に起因している。対照的に、小さな粒子では、Liの拡散経路は短くなり、バルク部分は高いレートを維持するため、DCRでは、表面電荷移動抵抗がより優勢となる。それ故、表面を改質して、電荷移動抵抗を下げることにより、大きな利益が見込める。発明者らは、粒子が小さい場合には、アルミナコーティングとZrドーピングを組み合わせることで、最大限の利益が得られるものと考える。
【0018】
様々な実施形態において、Al
2O
3は、コア粒子の表面に非連続的コーティングとして付着している。付着させたAl
2O
3は、d50が100nm未満である複数の離散粒子の形態であってよい。一実施形態においては、Al
2O
3は、ドライコーティングプロセスによって、コア粒子の表面に少なくとも部分的に除去可能に付着している。
【0019】
更なる他の実施形態においては、0<x−y<0.4、かつ0.1<z<0.4である。様々な実施形態においては、x、y、及びzのそれぞれは、0.33±0.03に等しく、かつ0.04<d<0.08であるか、又はx=0.40±0.03、y=0.30±0.03、z=0.30±0.03、かつ0.04<d≦0.08であるか、又はx=0.50±0.03、y=0.30±0.03、z=0.20±0.03、かつ0.02<d<0.05であるか、又はx=0.60±0.03、y=0.20±0.03、z=0.20±0.03、かつ0<d<0.03であるか、のいずれかとなる。
【0020】
概ね、本発明の実施形態では、0.3≦x≦0.6、0.2≦y≦0.4、0.2≦z≦0.4、かつ0<d≦0.08となり得る。この実施形態は、0.002≦k≦0.02、かつAl
2O
3含有量が、0.1〜0.5重量%である、他の実施形態と組み合わせることもできる。
【0021】
本発明に係る更なる製品実施形態が、以前に記載された異なる製品実施形態によって包含される特徴を備えていてもよいことは明らかである。
【0022】
第2の態様から捉えると、本発明は、本発明に係るリチウム金属酸化物粉体を調製する
プロセスであって、この粉体は、Li金属酸化物コア粒子と、コア粒子の表面に付着したAl
2O
3と、からなり、プロセスは、
−体積V1のAl
2O
3粉体を提供する工程であって、このAl
2O
3粉体は、ナノメートルサイズの非凝集粉体である、工程と、
−体積V2のLi金属酸化物コア材料を提供する工程と、
−ドライコーティング法にてAl
2O
3粉体をLi金属酸化物コア材料と混合することによって、Li金属酸化物コア材料をAl
2O
3粒子で被覆する工程と、を含む、プロセス、を提供できる。ドライコーティング法にて前記Al
2O
3粉体をLi金属酸化物コア材料と混合する工程の際に、体積V1+V2=Vaは、体積が値Vbで一定となるまで減少し、それによって、Li金属酸化物コア材料をAl
2O
3粒子で被覆する。反例1において明らかになるように、この典型的なプロセスにより、本発明に係る製品の利点がもたらされる。
【0023】
第3の態様から捉えると、本発明は、リチウム金属酸化物粉体と、メジアン粒径D50が5μmを超える、他のリチウム遷移金属酸化物系の粉体と、を含む混合物中での、本発明に係るリチウム金属酸化物粉体の使用を提供できる。
【0024】
第4の態様から捉えると、本発明では、本発明に係るリチウム金属酸化物粉体を含むカソード材料を含む電池であって、この電池は、自動車用途で使用される、電池を提供できる。一実施形態においては、この電池は、ハイブリッド電気自動車の電池である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】Alコーティングし、かつZrドープしたNMC433のSEM画像である。
【
図2】一連のNMC433材料、即ち、未処理の材料(P)、Alコーティングした材料(Al)、Zrドープした材料(Zr)、及びAlコーティングし、かつZrドープした材料(Al+Zr)について、25℃における、様々な充電状態(SOC)でのハイブリッドパルス電力特性決定(hybrid pulse power characterization)により、測定した直流抵抗(DCR)。
【
図3】複数のNMC433材料、即ち、未処理の材料(P)、Alコーティングした材料(Al)、Zrドープした材料(Zr)、及びAlコーティングし、かつZrドープした材料(Al+Zr)について、−10℃における、様々な充電状態(SOC)でのハイブリッドパルス電力特性決定により、測定した直流抵抗(DCR)。
【
図4】一連のNMC111材料、即ち、未処理の材料(P)、Alコーティングした材料(Al)、Zrドープした材料(Zr)、及びAlコーティングし、かつZrドープした材料(Al+Zr)について、25℃における、様々な充電状態(SOC)でのハイブリッドパルス電力特性決定により、測定した直流抵抗(DCR)。
【
図5】一連のNMC111材料、即ち、未処理の材料(P)、Alコーティングした材料(Al)、Zrドープした材料(Zr)、及びAlコーティングし、かつZrドープした材料(Al+Zr)について、−10℃における、様々な充電状態(SOC)でのハイブリッドパルス電力特性決定により、測定した直流抵抗(DCR)。
【
図6】一連のNMC433材料、即ち、未処理の材料(P)、Alコーティングした材料(Al)、Zrドープした材料(Zr)、及びAlコーティングし、かつZrドープした材料(Al+Zr)について、45℃における、1Cの充放電レートで測定された、4.2Vでの360mAhセルのサイクル寿命。
【
図7】一連のNMC333材料、即ち、未処理の材料(P)、Alコーティングした材料(Al)、Zrドープした材料(Zr)、及びAlコーティングし、かつZrドープした材料(Al+Zr)について、45℃における、1Cの充放電レートで測定された、4.2Vでの360mAhセルのサイクル寿命。
【
図8】一連のNMC433材料、即ち、未処理の材料(P)、Alコーティングした材料(Al)、Zrドープした材料(Zr)、及びAlコーティングし、かつZrドープした材料(Al+Zr)の360mAhセルに対する、60℃での保存試験の間、月毎に測定された保持容量(Q
ret)(mは月を表す)。
【
図9】一連のNMC433材料、即ち、未処理の材料(P)、Alコーティングした材料(Al)、Zrドープした材料(Zr)、及びAlコーティングし、かつZrドープした材料(Al+Zr)の360mAhセルに対する、60℃での保存試験の間、月毎に測定された回復容量(Q
rec)(mは月を表す)。
【
図10】一連のNMC433材料、即ち、未処理の材料(P)、Alコーティングした材料(Al)、Zrドープした材料(Zr)、及びAlコーティングし、かつZrドープした材料(Al+Zr)の360mAhセルに対する、60℃での保存試験の間、月毎に測定された直流抵抗(DCR)の増加(mは月を表す)。
【
図11】一連のNMC111材料、即ち、未処理の材料(P)、Alコーティングした材料(Al)、Zrドープした材料(Zr)、及びAlコーティングし、かつZrドープした材料(Al+Zr)の360mAhセルに対する、60℃での保存試験の間、月毎に測定された保持容量(Q
ret)(mは月を表す)。
【
図12】一連のNMC111材料、即ち、未処理の材料(P)、Alコーティングした材料(Al)、Zrドープした材料(Zr)、及びAlコーティングし、かつZrドープした材料(Al+Zr)の360mAhセルに対する、60℃での保存試験の間、月毎に測定された回復容量(Q
rec)(mは月を表す)。
【
図13】一連のNMC111材料、即ち、未処理の材料(P)、Alコーティングした材料(Al)、Zrドープした材料(Zr)、及びAlコーティングし、かつZrドープした材料(Al+Zr)の360mAhセルに対する、60℃での保存試験の間、月毎に測定された直流抵抗(DCR)の増加(mは月を表す)。
【
図14】本発明に係るAlコーティングし、かつZrドープしたNMC111(−★−)と、Zrドープ及びAlコーティングを行い、続いて熱処理したNMC111(●●☆●●)についての、25℃における、様々な充電状態(SOC)でのハイブリッドパルス電力特性決定により、測定した直流抵抗(DCR)の比較。
【
図15】本発明に係るAlコーティングし、かつZrドープしたNMC111(−★−)と、Zrドープ及びAlコーティングを行い、続いて熱処理したNMC111(●●☆●●)についての、−10℃における、様々な充電状態(SOC)でのハイブリッドパルス電力特性決定により、測定した直流抵抗(DCR)の比較。
【
図16】本発明に係るAlコーティングし、かつZrドープしたNMC333(−★−)と、Zrドープ及びAlコーティングを行い、続いて熱処理したNMC333(●●☆●●)についての、45℃における、1Cの充放電レートで測定された、4.2Vでの360mAhセルのサイクル寿命の比較。
【
図17】本発明に係るAlコーティングし、かつZrドープしたNMC111(−★−)と、Zrドープ及びAlコーティングを行い、続いて熱処理したNMC111(●●☆●●)についての、360mAhセルに対する、60℃での保存試験の間、月毎に測定された保持容量(Q
ret)の比較。
【
図18】本発明に係るAlコーティングし、かつZrドープしたNMC111(−★−)と、Zrドープ及びAlコーティングを行い、続いて熱処理したNMC111(●●☆●●)についての、360mAhセルに対する、60℃での保存試験の間、月毎に測定された回復容量(Q
rec)の比較。
【
図19】本発明に係るAlコーティングし、かつZrドープしたNMC111(−★−)と、Zrドープ及びAlコーティングを行い、続いて熱処理したNMC111(●●☆●●)についての、360mAhセルに対する、60℃での保存試験において、月毎に測定された直流抵抗(DCR)の増加の比較。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、DCR値が低く、そのために、HEV又はPHEVの電池用のカソード材料
として好ましく適用可能なカソード材料を提供する。勿論、従来の高出力用途(例えば、電動工具など)用のカソードとしての使用も本発明の範囲内である。更に、本発明のカソード材料を、出力向上を主な目的として、次にDCR抵抗の改善を目的として、D50がより大きい他のカソード材料と混合することもでき、その際に、所望される最終用途に合わせてカソード混合物の微調整を行うことができる。
【0027】
発明者らは、(1)NMC系カソード材料にZrをドーピングし、次に(2)Zrドープしたカソード材料上にAl
2O
3コーティングを行った場合に、驚くべき相乗効果を発見した。Zrドーピングは、NMC系のカソード材料のサイクル安定性を著しく改善するのに役立ち得る。この効果は、少なくとも部分的には、表面改質に関連するものである。
【0028】
ZrドープしたLi金属酸化物コア粒子を次のように調製し得る。
【0029】
(a)Zr、例えば、ZrO
2を含む前駆体を、リチウム−及び所望の最終NMC組成となるNi−Mn−Co−前駆体と混合する。これらの前駆体を容器に入れる。この前駆体を、乾燥粉体混合プロセスによって、垂直一軸ミキサ内でブレンドする。
【0030】
(b):酸化雰囲気中で焼結する工程。工程(a)の粉体混合物を、酸化雰囲気中のトンネル炉内にて焼結する。焼結温度は900℃超であり、滞留時間は約10時間である。乾燥空気を、酸化ガスとして使用する。
【0031】
(c):焼結後、所望の粒径分布となるように、試料を研磨機でミル処理する。
【0032】
NMCカソードでの、Zrの熱力学的なドーピング限界は非常に小さいことが、データから判明している。そのため、バルク内に存在しているZrの量はわずかのみであり、表面付近、及び場合によっては粒界に超過Zrが蓄積している。このZrは、場合によっては、電解液との過度な寄生性反応から表面を保護し、また、場合によっては、粒界は、高速なサイクル時の機械的歪みに対してより耐久性がある。
【0033】
更に、発明者らは、NMC表面のAl
2O
3ナノ粒子コーティングには、多くの場合、DCRを改善し、かつサイクル安定性を高める、わずかなプラスの効果があることを発見した。NMCのAl
2O
3コーティングにより、酸化アルミニウムナノ粒子を、カソードの表面に適用する。カソードとコーティング層が中間勾配を形成することは望ましくないが、これは、NMC−Al
2O
3組成物が、高温で熱処理された場合には、典型的に起こることである。米国特許第8,007,941号及び米国特許出願第2011/0076556号にあるように、一部のアルミニウムが表面に化学結合するか、又はカソードの外側部分へと拡散したとき、また、一部のLiがアルミニウム上に、又はその中に拡散してLiAlO
2が形成されたとき、勾配ができる。これとは反対に、Al
2O
3ナノ粒子を、機械的、かつ除去可能に、表面に付着させること、即ち、比較的弱く付着させることが有益である。これらのナノ粒子は、NMC自体の表面積を増加させることなく、カソード材料のブルナウアー−エメット−テラー(BET)表面積の増加に寄与する。
【0034】
発明者らは、Al
2O
3ナノ粒子コーティングをZrドープしたNMCの表面に適用した場合に、極めて大きな相乗効果を発見した。いずれの場合も、ZrドープしたNMC(ただし、アルミナコーティングなし)、又はアルミナコーティングしたNMC(ただし、Zrドープなし)の基準試料と比較して、一般的特性(サイクル安定性及びDCR出力)が最も優れていた。更に、得られたドープ及びコーティング済材料は、予想していた相加的な結果と比較しても、ずっとよい特性を有していた。具体的には、Zrドーピングは行ったがアルミナコーティングを行わなかったものでは、ドープを行わなかったNMCよりも出力が落ちる一方で、Zrドーピングと共にアルミナコーティングを行ったものでは、
最良の結果が得られ、ドープせずにアルミナコーティングを行ったNMCよりも優れている。また、Zrドープし、かつAl
2O
3コーティングしたカソードのサイクル安定性は、ZrドープのみのNMC、又はアルミナコーティングのみのNMCと比較して、予想よりもずっと優れている。発明者らは、なぜ、Al
2O
3が、ZrドープしたNMCのDCRをこれほど改善させるのかということについては、推測することしかできない。表面における(アルミナ)酸化物の表面積が広いことにより、(場合によっては誘電特性によって、)電荷移動反応が促進されている可能性がある。
【0035】
実施例では、3〜4μmのLNMCO材料の場合の結果が示される。小粒径のカソードを選択したのは、このような既知の高出力カソード材料が、いかに更に改善され得るかということを実証するためである。小さな粒子のLNMCOを選択することが自然であるが、本発明の実施形態は、小さな粒径分布(PSD)を有するLNMCOに限定されない。十分に広いBET表面積を有する、より粒径の大きいLNMCOは、本発明の範囲に含まれる。
【0036】
また、実施例では、Li:M比が比較的大きいカソード材料も使用されている。Li
1+xM
1−xO
2では、過剰リチウム「x」の値は、NMC111の場合、約0.06である。過剰リチウムは、カチオンミキシング(即ち、層状結晶構造においてLi層上にあるNi)を低減させるため、(Li層中のNiがLiの拡散経路を妨害するため、)高出力がサポートされる。Liの超過量が「x」であるカソード材料を選択することが自然であるが、本発明の異なる実施形態では、Liの超過量が特定の値xであることに限定されない。
【0037】
実施例では、M=Ni
1/3Mn
1/3Co
1/3(NMC111)、又はM=Ni
0.38Mn
0.29Co
0.33(NMC433)に近い遷移金属組成が更に使用されている。これらの組成は「高耐久性」があるものとして知られている。即ち、Ni:Mn比が1に近いため、カソードの空気安定性が高く、かつ可溶性塩基含有量が比較的低く、そして、調製が簡単である。可溶性塩基含有量の概念については、例えば、国際公開第2012/107313号に記載されている。Co含有量を比較的高くすることによって、良好な層状結晶構造がサポートされ、これによって、高出力能力が見込める。Ni:Mnが1に近いか又は1よりわずかに大きく、Co含有量が高いカソード材料を選択することが自然であるが、本発明の異なる実施形態では、このNi:Mn値及びコバルト含有量に限定されない。
【0038】
結論:様々な実施形態において、本発明は、様々なLi:Mの化学量及び金属組成Mを有する、多くの様々な大きさの粒子に適用し得る。例示したNMC111、及び3〜4μmのLi
1+xM
1−xO
2(ここで、x=0.08かつM=Ni
0.38Mn
0.29Co
0.33である)に加えて、より大きな粒子、より少ないCo量、及びより大きなNi:Mnを有するカソードを実装することもできる。例えば、粉体がZrドープされ、かつAl
2O
3ナノ粒子によってコーティングされている限りは、カソード組成が、NMC=532かつx=0.03の、5μmのLNMCO粉体、又はカソード組成が、M=622かつx=0.01の8μmのLNMCO粉体は、本発明の実施形態である。
【0039】
DCR試験では単一の値が得られるわけではなく、その値は、電池の充電状態(SOC)の関数となる。LNMCOカソードの場合、DCRは、低充電状態では増加するが、高充電状態では横ばい(flat)となるか、又は最小値を示す。高充電状態とは、充電された電池を指し、低充電状態とは放電された電池である。DCRは、温度に強く依存する。特に、低温下では、セルのDCRに対するカソードの寄与率は支配的なものとなるため、カソード材料の挙動に直接的に起因する、DCRの改善を観察するためには、低温での測定が極めて選択的である。実施例では、本発明に係る材料を用いた実際のフルセルのカソー
ドについてのDCR結果が報告されている。典型的には、SOCを20〜90%で変化させ、25℃と−10℃の代表的な温度にて試験を行う。
【0040】
自動車電池は高価であるため、何年も長持ちするべきである。カソード材料は厳しい要件を満たす必要がある。電池寿命は1つの単純な特性ではないため、ここで、これらの要件を「電池寿命」要件としてまとめる。実際には、電池は、異なる充電状態(運転中、又は駐車中)で保存され、運転中には、様々な温度、並びに様々な電圧で充放電される。開発目的で、現実の条件下での長年にわたるセルの試験を行うことは不可能である。短時間の試験とするために、限られた保存期間に関与する様々な機構を調べる、「加速寿命」試験が行われる。
【0041】
電池については、例えば、「サイクル安定性」を測定するために、一定の充電及び放電レートで試験を行う。サイクル安定性の試験は、様々な電圧範囲、温度、及び電流レートの下で行い得る。これらの様々な条件下で、容量の低下を引き起こす様々な機構が観察できる。例えば、高温でのゆっくりとしたサイクルでは、化学的安定性が観察され、低温下での速いサイクルでは、動的な側面が観察される。(本発明に従って作製した)実際のフルセルにおけるカソードについてのサイクル安定性の結果を、後で報告する。温度45℃、1Cの充電レート−1Cの放電レートにて2.7〜4.2Vの電圧範囲にて試験を行った。
【0042】
保存試験では、長期保存後の容量低下を(残存容量又は保持容量を測定することによって)調べ、また再充電後に測定される回復容量についても調べた。加えて、抵抗を測定し、初期値と比較した。抵抗の増加は、出力能力に直接影響するため、保存中のセルの損傷の重要な結果である。また、DCRの測定は、保存中のセルにおいて、どの程度、望ましくない副反応が起きたか(又は将来的に起こるか)を検出するための(かつ推定するための)、非常に感度の高い方法でもある。試験を加速するため、(セルを、予め4.2Vで満充電にして)高電圧かつ60℃の高温下で保存することより、望ましくない副反応を加速させる。しかしながら、保存後の容量及びDCRの試験は、典型的には室温にて行われる。保存試験の結果は、後で報告され、60℃での保存後に、25℃で測定した回復容量及び保持容量が示される。また、保存後のDCR測定結果も報告され、保存前のDCR測定値と比較した相対値をグラフで示す。
【0043】
粒子状リチウム遷移金属酸化物のコア材料は、複数のコーティング法を使用して、アルミナでコーティングされ得る。アルミナは、沈殿、噴霧乾燥、ミル処理などによって得ることができる。一実施形態においては、アルミナは、典型的には、BETが少なくとも50m
2/gであり、d50が100nm未満である一次粒子からなり、ここで、この一次粒子は、凝集していない。他の実施形態においては、フュームドアルミナ、又は表面処理したフュームドアルミナを用いる。フュームドアルミナナノ粒子は、高温の水素空気炎中で生産され、日常使用される製品を含む複数の用途で用いられている。フュームドアルミナの結晶構造は、コーティング手順の間維持されるため、LiMO
2コアを取り巻くコーティング層内に存在する。この後者の方法は、NMCコア上にアルミナ粒子を適用するための最も簡単で安価な方法である。
【0044】
ここで、本発明を以下の実施例において例示する。
【0045】
実施例1:
この実施例は、Alコーティングし、かつZrドープしたNMC433カソード材料が、未処理の材料、Alコーティングのみの材料、及びZrドープのみの材料と比較して、最も優れた出力性能を提供することを実証するものである。NMC433とは、Li
1.08M
0.92O
2を意味し、ここで、M=Ni
0.38Mn
0.29Co
0.33O
2
である。
【0046】
NMC433の調製:ドープし、かつコーティングしたNMC433を、Umicore(Korea)のパイロットラインにて、(a)リチウム及びニッケル−マンガン−コバルト前駆体と、酸化Zrをブレンドする工程と、(b)酸化雰囲気下で合成する工程と、(c)ミル処理する工程と、(d)アルミナドライコーティングする工程と、によって、製造した。各工程の詳細な説明は、以下のとおりである。
【0047】
工程(a):乾燥粉体混合プロセスを使用して、ZrO
2と、リチウム−及び最終的に所望の433組成となるNi−Mn−Co−前駆体を、ZrO
2のモル比が1モル%となるようにブレンドする工程。これらの前駆体を容器に入れる。ZrO
2粒子は、正方晶相及び単斜相にあり、平均一次粒径は12nmで、BETは、60±15m
2/gである。この粒子を、リチウム及びNi−Mn−Co前駆体である、炭酸リチウム及び混合Ni−Mn−Coオキシ水酸化物と混合する。この前駆体を、乾燥粉体混合プロセスによって、垂直一軸ミキサ内でブレンドする。
【0048】
工程(b):酸化雰囲気中で焼結する工程。工程(a)の粉体混合物を、酸化雰囲気中のトンネル炉内にて焼結する。焼結温度は900℃超であり、滞留時間は約10時間である。乾燥空気を、酸化ガスとして使用する。
【0049】
工程(c):焼結後、試料をD50=3〜4μmの粒径分布となるように、研磨機でミル処理する。スパン(span)は、1.20である。スパンは、DXXを粒径分析の体積分布の対応するXX値とした場合、(D90−D10)/D50として定義される。
【0050】
工程(d):1kgのNMC433をミキサ(例えば、2Lのヘンシェル型ミキサ)内に充填し、2gのフュームドアルミナ(Al
2O
3)のナノ粉体を加える。30分にわたる1000rpmでの混合の間、フュームドアルミナは、ゆっくりと見えなくなり、元の粉体に非常によく似た外見のコーティングされたNMC粉体が得られる。前駆体/フュームドアルミナがこの分量比であると、アルミニウムのコーティング量は、0.3625モル%となる(0.1重量%のアルミニウム、即ち約0.2重量%のアルミナに相当する)。更なる分析により、アルミナは、弱く、又は除去可能に表面に付着しており、実際に、水で適切な洗浄を行うことにより、アルミナ粒子の大部分をコアから分離させ得ることが示される。
【0051】
図1は、本発明に係る、Alコーティングし、かつZrドープしたNMC433のSEM画像を示す。リチウム金属酸化物粉体は、凝集したサブミクロンサイズの微結晶からなっている。表面上にアルミナの離散粒子(又はナノメートルサイズの島)が存在することが明らかである。
【0052】
スラリー作製及びコーティング
700gのドープし、かつコーティングしたNMC433を、NMP、47.19gのsuper P(登録商標)(Timcal製の伝導性カーボンブラック)、及び393.26gの、PVDF系バインダーを10重量%含むNMP溶液と混合することによって、スラリーを調製する。この混合物を、遊星ミキサ内で2.5時間、混合する。混合中、更にNMPを添加する。この混合物をディスパーミキサに移し、更にNMPを添加して1.5時間混合する。使用されるNMPの典型的な総量は、423.57gである。スラリーの最終固形分は、約65重量%である。スラリーをコーティングラインに移す。二重コーティングした電極を調製する。電極表面は、滑らかである。電極充填量(electrode loading)は、9.6mg/cm
2である。この電極を、ロールプレス機によって圧縮し、約3.2g/cm
3の電極密度を得る。後述するように、この電極を使用して、パウチセ
ル型のフルセルを調製する。
【0053】
フルセルアセンブリ
フルセル試験のため、調製した正極(カソード)を、典型的には黒鉛型の炭素である負極(アノード)、及び多孔性電気的絶縁膜(セパレータ)と組み立てる。フルセルは、主に、(a)電極を切断する工程と、(b)電極を乾燥させる工程と、(c)巻回してジェリーロールとする工程と、(d)パッケージ化する工程と、により調製される。
【0054】
(a)電極を切断する工程:大抵は、NMPでコーティングした後、電極活物質を、スリッターにより切断する。電極の幅及び長さは、電池の用途に応じて決定される。
【0055】
(b)タップを取り付ける工程:2種類のタップが存在する。アルミニウム製タップを正極(カソード)に取り付け、銅製タップを負極(アノード)に取り付ける。
【0056】
(c)電極を乾燥させる工程:調製された正極(カソード)及び負極(アノード)を、85℃〜120℃で8時間にわたって、真空オーブンで乾燥させる。
【0057】
(d)巻回してジェリーロールとする工程:電極を乾燥させた後、巻回機を使用してジェリーロールを作製する。ジェリーロールは、少なくとも負極(アノード)と、多孔性電気的絶縁膜(セパレータ)と、正極(カソード)と、からなる。
【0058】
(e)パッケージ化する工程:調製したジェリーロールを、アルミニウム積層フィルムパッケージを用いて、360mAhのセルに組み込み、パウチセルとする。更に、このジェリーロールに、電解液を含浸させる。電解液の量は、正極及び負極、並びに多孔性セパレータの多孔度及び寸法に合わせて計算する。最終的に、パッケージ化したフルセルを、シーラーで密封する。
【0059】
DCR抵抗値は、電流パルスに対する電圧応答から得られ、使用する手順は、既に述べたUSABC規格に従う。DCR抵抗は、実用に非常に適しているが、これは、将来的な劣化率を推定して、電池寿命を予測するために、データを使用できるためである。更に、電解液とアノード又はカソードとの間の反応の反応生成物が、低導電性表面層として析出するため、DCR抵抗は、電極に対する損傷の検出に関して非常に感度が高い。
【0060】
この手順は以下のとおりである。10%の充電状態(SOC)段階毎に、10秒の充電パルスと10秒の放電パルスを組み合わせた試験プロファイルを用いて、セルに対するハイブリッドパルス電力特性決定(HPPC)による試験を行い、そのデバイスで使用可能な電圧範囲にわたる動的な出力能力を決定する。本発明では、HPPC試験は、25℃と−10℃の両方で行われる。25℃でのHPPCの試験手順は、以下のとおりである。初めに、セルに対して、1Cレート(充電されたセルを1時間以内に放電させる電流に対応する)にて、CC/CV(定電流/定電圧)モードで、2.7〜4.2V間での充電−放電−充電を行う。その後、このセルを、1Cレートにて、CCモードで、SOC90%まで放電し、6Cレート(充電されたセルを1/6時間以内に放電させる電流に対応する)にて10秒放電した後、4Cレートにて10秒充電する。パルス放電及びパルス充電の間の電圧の差異を用いて、SOC90%での充放電の直流抵抗(DCR)を計算する。その後、1Cレートで、異なるSOC(80%〜20%)まで一段階ずつセルを放電し、各SOCにて、上述したような10秒のHPPC試験を繰り返す。−10℃でのHPPC試験では、25℃での試験と基本的に同じプロトコールを用いるが、10秒放電パルスを2Cレートで行い、10秒充電パルスを1Cレートで行う点において異なっている。充電及び放電の際、セルの自己発熱がセル温度に影響することを避けるため、各充電及び放電段階の後に一定の休止時間を設ける。HPPC試験は、各温度で、各カソード材料の2つのセ
ルについて行い、それらのDCR結果をその2つのセルについて平均し、SOCに対してプロットする。基本的に、DCRが低いほど、出力性能は高くなる。
【0061】
図2は、一連のNMC433セル、即ち、未処理のもの、Alコーティングしたもの、Zrドープしたもの、及びAlコーティングし、かつZrドープしたものについて、25℃において測定されたDCR結果を示す。未処理のカソードと比較して、Alコーティングしたカソードは、SOCの範囲全域において、より低いDCRを提供しており、これは即ち、より良い出力性能が得られるということである。Zrドープしたカソードでは、概してDCRが高くなっている。そのため、出力性能は、未処理のカソードよりも劣る。しかしながら、驚くべきことに、AlコーティングとZrドーピングを組み合わせることにより、最も優れたDCR性能と出力性能が得られている。
図3は、−10℃で測定した同じ一連のNMC433セルのDCR結果を示す。Alコーティングのみの材料、及びZrドープのみの材料は、未処理の材料よりも高いDCR値を示しているが、驚くべきことに、Alコーティングし、かつZrドープした材料においては、なおも、全ての材料の中で最も優れたDCR及び出力性能が得られている。
【0062】
実施例2:
この実施例では、NMC111材料を、実施例1と同じ方法を用いて、調製して、フルセルに組み上げる。この粉体のD50は3〜4μmであり、Li/M比は1.13(Li
1.06M
0.94O
2に相当する)である。また、Zr及びAlの含有量も、同じであり、ZrO
2が1モル%、アルミナが0.2重量%である。この実施例では、NMC111のカソード材料において、実施例1で観察されるものと同じ効果が確認される。即ち、未処理の材料、Alコーティングのみの材料、又はZrドープのみの材料と比較して、AlコーティングとZrドーピングの組み合わせが、最も低いDCR、即ち、最も優れた出力性能を提供している。HPPC試験の条件は、実施例1に記載したものと同じであり、25℃及び−10℃でのDCR結果を、それぞれ
図4及び
図5に示す。
【0063】
実施例3:
この実施例は、Alコーティングし、かつZrドープした実施例1のNMC433カソード材料が、未処理の材料、Alコーティングのみの材料、及びZrドープのみの材料と比較して、最も優れた45℃におけるサイクル寿命を提供することを実証するものである。おそらくは少なくとも一千回にわたって充放電されることになる、電気自動車用の正極カソード材料の場合、良好なサイクル安定性に対応する、長いサイクル寿命を有することが非常に重要である。実験室において短期間のうちにカソード材料のサイクル寿命を推定するために、360mAhのパウチセルに対し、充電レート及び放電レートを共に1Cとして、2.7〜4.2V間のサイクルを適用する。充電の際にはCC/CVモードを適用する一方で、放電の際にはCCモードを用いる。最悪の条件で模擬実験を行い、各セルを区別するために、このサイクルを45℃のチャンバ内で行う。カソード材料間の差異、及び調製の際のセルのばらつきの両方が、パウチセル容量の差異につながり得る。セル容量は全て、第2のサイクルQD2の放電容量に対して正規化する。
【0064】
サイクル寿命のプロットを
図6に示す。未処理の材料のサイクル寿命は、一連の材料の中で最悪である。Alコーティングのみの材料では、サイクル寿命がわずかに改善される一方で、Zrドープのみの材料では、サイクル寿命がより改善されている。AlコーティングとZrドーピングの組み合わせでは、最も優れたサイクル寿命が提供されており、Zrドープした材料、及びAlコーティングした材料の結果に基づいては、予測できなかった結果である。
【0065】
実施例4:
この実施例では、実施例2のNMC111のカソード材料において、実施例3で観察さ
れるものと同じ効果が確認される。即ち、未処理の材料、Alコーティングのみの材料、又はZrドープのみの材料と比較して、AlコーティングとZrドーピングの組み合わせが、最も優れた45℃におけるサイクル寿命(実施例3と同じ試験)をもたらす。サイクル寿命試験の条件は、実施例3に記載したものと全て同じである。
図7に示すように、未処理の材料のサイクル寿命は、一連の材料の中で最悪である。Alコーティング及びZrドーピングは、両方共、NMC111のサイクル寿命を改善する。AlコーティングとZrドーピング両方の組み合わせにより、最も優れ、かつ、再度、予測されなかった向上結果が得られた。
【0066】
実施例5:
この実施例は、Alコーティングし、かつZrドープした実施例1のNMC433カソード材料が、未処理の材料、Alコーティングのみの材料、及びZrドープのみの材料と比較して、最も優れた保持容量、最も優れた回復容量を提供し、かつ、60℃での保存試験中のDCR増加が最小(即ち、最良)となることを実証するものである。
【0067】
ガソリン車と同程度の長期使用が予想される電気自動車用の正極カソード材料の場合、長いカレンダー寿命を有することが極めて重要である。カレンダー寿命挙動を調べ、短い試験期間内に各セルを区別可能とするために、360mAhセルを、60℃にてチャンバ内で3ヶ月にわたって保存する。保存月が経過する毎に、セルをチャンバから取り出し、保持容量を調べる。その後、このセルをまずCCモードで2.7Vまで放電し、続いて、4.2Vまで充電して回復容量を調べる。また、放電の際に3VにてDCRを測定する。異なるセル間で公平な比較を行うため、測定した容量及びDCRデータの全てを、初期容量及び初期DCRに対して正規化する。
【0068】
図8は、一連のNMC433材料によって作製された360mAhセルの、正規化した保持容量(Q
ret)のプロットを示す。未処理材料の保持容量は、時間と共に速やかに減少する。Alコーティングのみの材料は、性能が改善せず、それどころか2ヶ月後には悪化している。Zrドープのみの材料では、保持容量が向上している。そして、驚くべきことに、AlコーティングとZrドーピングの組み合わせでは、保持容量が更に向上している。
図9は、Alコーティングし、かつZrドーピングすることが、保存試験での回復容量(Q
rec)に及ぼす影響を示す。保持容量と同じ傾向が見られる。
図10は、時間に対する正規化したDCR値のプロットである。DCRは、特に未処理の材料、及びAlコーティングのみの材料について、保存中に急速に増加している。Zrドープのみの材料では、DCRの増加は緩やかであるが、Alコーティングし、かつZrドープした材料では、DCRの増加が更に改善されている。要約すると、AlコーティングとZrドーピングを組み合わせると、60℃における保存試験中に最も優れた結果が得られる。
【0069】
実施例6:
この実施例では、実施例2のNMC111のカソード材料において、実施例5において観察されるものと同じ効果が確認される。即ち、未処理の材料、Alコーティングのみの材料、又はZrドープのみの材料と比較して、AlコーティングとZrドーピングの組み合わせが、60℃での保存試験中に、最も優れた保持容量(
図11参照)、最も優れた回復容量(
図12参照)、及び最も優れたDCR増加(
図13参照)をもたらしている。温度保存試験の条件は、実施例5に記載したものと同じである。
【0070】
反例1:
この反例では、1モル%のZrをドープしたNMC111を、0.2重量%のAl
2O
3ナノ粒子でドライコーティングしてから、375℃の中温(intermediate temperature)にて熱処理する。一部のアルミニウムが表面に化学結合するか、かつ/又はカソード粉体のコアの外側部分へと拡散したとき、また、一部のLiがアルミナコーティング上に、
かつ/又はその中に拡散してLiAlO
2が形成されたとき、勾配ができる。この反例の化学的性能を、
図14〜19において、Alドライコーティングし、かつZrドーピングした材料の化学的性能と比較した。これらの図は、室温(
図14)及び低温(−10℃、
図15)におけるDCR(実施例1〜2での測定と同じ)、45℃でのサイクル寿命(
図16、実施例3〜4での測定と同じ)、60℃での保存中の、保持容量(
図17)、回復容量(
図18)、及びDCR増加(
図19)(実施例5〜6での測定と同じ)の点において、Alのドライコーティングが、Alの勾配コーティングよりも優れていることを示している。
図14〜19のそれぞれにおいて、−★−は、本発明に係る粉体を示し、●●☆●●は、反例の粉体を示す。米国特許出願第2011/0076556号での加熱温度は、この反例での温度よりも高いため、Al及びLiの拡散は、より大きくなるであろうし、このような材料に対するフルセル試験の結果は、反例1よりも更に悪いものとなるであろう。
【0071】
本発明の具体的な実施形態、及び/又は詳細を上に図示し、かつ説明して、本発明の原理の応用を例示したが、この原理から逸脱することなく、本発明を、特許請求の範囲により詳しく記載されているように実施することもできるし、当業者によって知られている他の方法のように実施することもできる(いずれかの及び全ての均等物を含む)ことが理解される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0072】
【特許文献1】米国特許第8,343,662号明細書
【特許文献2】米国特許第7,767,342号明細書
【特許文献3】米国特許第8,007,941号明細書
【特許文献4】米国特許出願第2011/0076556号明細書
【特許文献5】米国特許出願第2002/0192148号明細書
【特許文献6】米国特許出願第2006/0275667号明細書
【特許文献7】米国特許出願第2005/0227147号明細書
【手続補正書】
【提出日】2015年11月23日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式、Li1+d(NixMnyCozZrkM’m)1−dO2±eAfで表されるLi金属酸化物コア粒子からなる、充電式電池のカソード材料用リチウム金属酸化物粉体であって、Al2O3が、前記コア粒子の表面に付着し、0≦d≦0.08、0.2≦x≦0.9、0<y≦0.7、0<z≦0.4、0≦m≦0.02、0<k≦0.05、0≦e<0.02、0≦f≦0.02、かつx+y+z+k+m=1であり、M’は、Al、Mg、Ti、Cr、V、Fe、及びGaからなる群から選択されるいずれか1種類又は2種類以上の元素からなり、Aは、F、P、C、Cl、S、Si、Ba、Y、Ca、B、Sn、Sb、Na、及びZnからなる群から選択されるいずれか1種類又は2種類以上の元素からなり、前記粉体中のAl2O3含有量は、0.05〜1重量%である、リチウム金属酸化物粉体。
【請求項2】
前記コア粒子のメジアン粒径D50は、2〜5μmである、請求項1に記載のリチウム金属酸化物粉体。
【請求項3】
Al2O3は、前記コア粒子の表面に非連続的コーティングとして付着している、請求項1に記載のリチウム金属酸化物粉体。
【請求項4】
Al2O3は、d50が100nm未満である複数の離散粒子の形態で、前記コア粒子の表面に付着している、請求項1に記載のリチウム金属酸化物粉体。
【請求項5】
Al2O3は、ドライコーティングプロセスによって、前記コア粒子の表面に除去可能に付着している、請求項1に記載のリチウム金属酸化物粉体。
【請求項6】
0<x−y<0.4、かつ0.1<z<0.4である、請求項1に記載のリチウム金属
酸化物粉体。
【請求項7】
x、y、及びzのそれぞれは、0.33±0.03に等しく、かつ0.04<d<0.08である、請求項1に記載のリチウム金属酸化物粉体。
【請求項8】
x=0.40±0.03、y=0.30±0.03、z=0.30±0.03、かつ0.04<d≦0.08である、請求項1に記載のリチウム金属酸化物粉体。
【請求項9】
x=0.50±0.03、y=0.30±0.03、z=0.20±0.03、かつ0.02<d<0.05である、請求項1に記載のリチウム金属酸化物粉体。
【請求項10】
x=0.60±0.03、y=0.20±0.03、z=0.20±0.03、かつ0<d<0.03である、請求項1に記載のリチウム金属酸化物粉体。
【請求項11】
前記Li金属酸化物コア粒子のZr濃度が、バルクよりも、表面において高くなっている、請求項1に記載のリチウム金属酸化物粉体。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のリチウム金属酸化物粉体を調製するプロセスであって、前記粉体は、Li金属酸化物コア粒子と、前記コア粒子の表面に付着したAl2O3と、からなり、前記プロセスは、
体積V1のAl2O3粉体を提供する工程であって、前記Al2O3粉体は、ナノメートルサイズの非凝集粉体である、工程と、
体積V2の前記Li金属酸化物コア材料を提供する工程であって、前記Li金属酸化物コア材料の一般式は、Li1+d(NixMnyCozZrkM’m)1−dO2±eAfであり、0≦d≦0.08、0.2≦x≦0.9、0<y≦0.7、0<z≦0.4、0≦m≦0.02、0<k≦0.05、0≦e<0.02、0≦f≦0.02、かつx+y+z+k+m=1であり、M’は、Al、Mg、Ti、Cr、V、Fe、及びGaからなる群から選択されるいずれか1種類又は2種類以上の元素からなり、Aは、F、P、C、Cl、S、Si、Ba、Y、Ca、B、Sn、Sb、Na、及びZnからなる群から選択されるいずれか1種類又は2種類以上の元素からなる、工程と、
ドライコーティング法にて前記Al2O3粉体を前記Li金属酸化物コア材料と混合することによって、前記Li金属酸化物コア材料をAl2O3粒子で被覆する工程と、を含む、プロセス。
【請求項13】
前記ドライコーティング法にて前記Al2O3粉体を前記Li金属酸化物コア材料と混合する工程の際に、体積V1+V2=Vaは、前記体積が値Vbで一定となるまで減少し、それによって、前記Li金属酸化物コア材料をAl2O3粒子で被覆する、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記リチウム金属酸化物粉体と、メジアン粒径D50が5μmを超える、他のリチウム遷移金属酸化物系の粉体と、を含む混合物中での、請求項1〜11のいずれか一項に記載のリチウム金属酸化物粉体の使用。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のリチウム金属酸化物粉体を含むカソード材料を含む電池であって、前記電池は、自動車用途で使用される、電池。
【請求項16】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のリチウム金属酸化物粉体を含むカソード材料を含む、ハイブリッド電気自動車の電池。
【国際調査報告】