特表2017-512182(P2017-512182A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2017-512182眼圧を低下させるための組成物及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-512182(P2017-512182A)
(43)【公表日】2017年5月18日
(54)【発明の名称】眼圧を低下させるための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/685 20060101AFI20170414BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20170414BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20170414BHJP
   A61K 31/688 20060101ALI20170414BHJP
   A61K 31/133 20060101ALI20170414BHJP
   A61K 31/164 20060101ALI20170414BHJP
   A61K 31/575 20060101ALI20170414BHJP
   A61K 31/5575 20060101ALI20170414BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170414BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20170414BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20170414BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20170414BHJP
   A61K 31/7032 20060101ALI20170414BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20170414BHJP
【FI】
   A61K31/685
   A61P27/02
   A61P27/06
   A61K31/688
   A61K31/133
   A61K31/164
   A61K31/575
   A61K31/5575
   A61P43/00 121
   A61K9/08
   A61K47/34
   A61K47/14
   A61K31/7032
   A61K47/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2016-536892(P2016-536892)
(86)(22)【出願日】2014年12月4日
(85)【翻訳文提出日】2016年7月12日
(86)【国際出願番号】US2014068671
(87)【国際公開番号】WO2015085121
(87)【国際公開日】20150611
(31)【優先権主張番号】61/912,070
(32)【優先日】2013年12月5日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】507056483
【氏名又は名称】ユニバーシティー・オブ・マイアミ
【氏名又は名称原語表記】University of Miami
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】リチャード ケー.リー
(72)【発明者】
【氏名】サンジョイ ケー.バッタチャーヤ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076BB24
4C076CC10
4C076DD47
4C076DD55
4C076EE23
4C076FF12
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA10
4C086DA03
4C086DA11
4C086DA41
4C086DA42
4C086EA05
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA10
4C086MA58
4C086NA14
4C086ZA33
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA10
4C206FA03
4C206GA03
4C206GA25
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA13
4C206MA20
4C206MA21
4C206MA24
4C206MA78
4C206NA14
4C206ZA33
4C206ZC75
(57)【要約】
対象(例えば、ヒト)において眼圧(IOP)を低下させるための組成物、キット、及び方法は、対象において非緑内障房水に内在しかつ対象においてIOPを低下させる脂質(例えば、ホスホセリン、ホスホコリン、サイコシンまたは他の糖脂質)の少なくとも1つの天然もしくは合成されたバージョンまたはそのアナログを、対象の少なくとも一方の眼においてTMを通る房水流出を促進しかつ対象においてIOPを低下させるための治療有効量で含む。組成物は、例えば、原発性開放隅角緑内障(POAG)及び正常眼圧緑内障(NTG)などを含めた緑内障を処置するために使用され得る。
【選択図】図10A及び図10B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において眼圧を低下させるための組成物であって、
薬学的に許容されるビヒクル、ならびに、
対象において非緑内障房水に内在する、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、スフィンゴイド塩基、スフィンゴイド塩基−1−リン酸、セラミド、コレステロール、サイコシンまたは他の糖脂質であり、また、対象においてIOPを低下させる脂質の少なくとも1つの天然もしくは合成されたバージョンまたはそのアナログを前記対象の少なくとも一方の眼においてTMを通る房水流出を促進しかつ前記対象においてIOPを低下させるための治療有効量で含む、前記組成物。
【請求項2】
対象において眼圧を低下させるための組成物であって、
薬学的に許容されるビヒクル、ならびに、
PC(12:0/14:1(9Z))、PE(18:0/18:0)、PS(14:0/0:0)、PS(18:0/0:0)、PS18:0Lyso−PS、PS:18:1、PI(12:0/17:2(9Z,12Z))、PI(18:0/20:4(5Z,8Z,11Z,14Z))、Cer(d18:0/18:1(9Z))、C18:1ジヒドロセラミド(d18:0/18:1(9Z))(N−オレオイル−D−エリトロ−スフィンガニン)、Cer(d18:1/26:1(17Z))、SM(d16:1/25:0)、スフィンガニン、及びC17スフィンガニン−1−リン酸からなる群から選択される少なくとも1つの脂質を前記対象の少なくとも一方の眼において線維柱帯(TM)を通る房水流出を促進しかつ前記対象において眼圧を低下させるための治療有効量で含む、前記組成物。
【請求項3】
局所投与用に製剤化される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
PC(12:0/14:1(9Z))、PE(18:0/18:0)、PS(14:0/0:0)、PS(18:0/0:0)、PS18:0Lyso−PS、PS:18:1、PI(12:0/17:2(9Z,12Z))、PI(18:0/20:4(5Z,8Z,11Z,14Z))、Cer(d18:0/18:1(9Z))、C18:1ジヒドロセラミド(d18:0/18:1(9Z))(N−オレオイル−D−エリトロ−スフィンガニン)、Cer(d18:1/26:1(17Z))、SM(d16:1/25:0)、スフィンガニン、及びC17スフィンガニン−1−リン酸からなる群から選択される2つ以上の脂質を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
プロスタグランジンまたはプロスタグランジンアナログをさらに含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
前記薬学的に許容されるビヒクルが、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ポリエチレングリコール400及びd−α−トコフェロールプロピレングリコール1000スクシネートからなる群から選択される1つである、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
対象において眼圧を低下させるための組成物であって、
薬学的に許容されるビヒクル、ならびに、
PC(12:0/14:1(9Z))、PE(18:0/18:0)、PS(14:0/0:0)、PS(18:0/0:0)、PS18:0Lyso−PS、PI(12:0/17:2(9Z,12Z))、PI(18:0/20:4(5Z,8Z,11Z,14Z))、Cer(d18:0/18:1(9Z))、C18:1ジヒドロセラミド(d18:0/18:1(9Z))(N−オレオイル−D−エリトロ−スフィンガニン)、Cer(d18:1/26:1(17Z))、SM(d16:1/25:0)、スフィンガニン、及びC17スフィンガニン−1−リン酸からなる群から選択される少なくとも1つの脂質のアナログを前記対象の少なくとも一方の眼においてTMを通る房水流出を促進しかつ前記対象において眼圧を低下させるための治療有効量で含む、前記組成物。
【請求項8】
局所投与用に製剤化される、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
PC(12:0/14:1(9Z))、PE(18:0/18:0)、PS(14:0/0:0)、PS(18:0/0:0)、PS18:0Lyso−PS、PI(12:0/17:2(9Z,12Z))、PI(18:0/20:4(5Z,8Z,11Z,14Z))、Cer(d18:0/18:1(9Z))、C18:1ジヒドロセラミド(d18:0/18:1(9Z))(N−オレオイル−D−エリトロ−スフィンガニン)、Cer(d18:1/26:1(17Z))、SM(d16:1/25:0)、スフィンガニン、及びC17スフィンガニン−1−リン酸からなる群から選択される2つ以上の脂質の2つ以上のアナログを含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
プロスタグランジンまたはプロスタグランジンアナログをさらに含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
前記薬学的に許容されるビヒクルが、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ポリエチレングリコール400またはd−α−トコフェロールプロピレングリコール1000スクシネートからなる群から選択される1つである、請求項7に記載の組成物。
【請求項12】
対象において眼圧を低下させる方法であって、前記対象に、薬学的に許容されるビヒクル、ならびに、PC(12:0/14:1(9Z))、PE(18:0/18:0)、PS(14:0/0:0)、PS(18:0/0:0)、PS18:0Lyso−PS、PS:18:1、PI(12:0/17:2(9Z,12Z))、PI(18:0/20:4(5Z,8Z,11Z,14Z))、Cer(d18:0/18:1(9Z))、C18:1ジヒドロセラミド(d18:0/18:1(9Z))(N−オレオイル−D−エリトロ−スフィンガニン)、Cer(d18:1/26:1(17Z))、SM(d16:1/25:0)、スフィンガニン、及びC17スフィンガニン−1−リン酸からなる群から選択される少なくとも1つの脂質またはそのアナログを前記対象の少なくとも一方の眼においてTMを通る房水流出を促進しかつ前記対象において眼圧を低下させるための治療有効量で含む組成物を投与することを含む、前記方法。
【請求項13】
前記対象が、緑内障を有しており、前記組成物の投与が、前記対象において失明を低減または防止する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記緑内障が、原発性開放隅角緑内障または正常眼圧緑内障である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物が、局所投与用に製剤化され、少なくとも1日1回、局所的に患者に投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物が、PC(12:0/14:1(9Z))、PE(18:0/18:0)、PS(14:0/0:0)、PS(18:0/0:0)、PS18:0Lyso−PS、PS:18:1、PI(12:0/17:2(9Z,12Z))、PI(18:0/20:4(5Z,8Z,11Z,14Z))、Cer(d18:0/18:1(9Z))、C18:1ジヒドロセラミド(d18:0/18:1(9Z))(N−オレオイル−D−エリトロ−スフィンガニン)、Cer(d18:1/26:1(17Z))、SM(d16:1/25:0)、スフィンガニン、及びC17スフィンガニン−1−リン酸からなる群から選択される2つ以上の脂質を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記組成物が、PC(12:0/14:1(9Z))、PE(18:0/18:0)、PS(14:0/0:0)、PS(18:0/0:0)、PS18:0Lyso−PS、PS:18:1、PI(12:0/17:2(9Z,12Z))、PI(18:0/20:4(5Z,8Z,11Z,14Z))、Cer(d18:0/18:1(9Z))、C18:1ジヒドロセラミド(d18:0/18:1(9Z))(N−オレオイル−D−エリトロ−スフィンガニン)、Cer(d18:1/26:1(17Z))、SM(d16:1/25:0)、スフィンガニン、及びC17スフィンガニン−1−リン酸からなる群から選択される2つ以上の脂質の2つ以上のアナログを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記組成物が、プロスタグランジンまたはプロスタグランジンアナログをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
プロスタグランジンまたはプロスタグランジンアナログを含む第2組成物を前記対象に投与することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つの脂質またはそのアナログと前記第2組成物とを含む組成物が、同時にまたは第1及び第2時点において前記対象に投与される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
対象において眼圧を低下させるためのキットであって:
i)薬学的に許容されるビヒクル、ならびに、PC(12:0/14:1(9Z))、PE(18:0/18:0)、PS(14:0/0:0)、PS(18:0/0:0)、PS18:0Lyso−PS、PS:18:1、PI(12:0/17:2(9Z,12Z))、PI(18:0/20:4(5Z,8Z,11Z,14Z))、Cer(d18:0/18:1(9Z))、C18:1ジヒドロセラミド(d18:0/18:1(9Z))(N−オレオイル−D−エリトロ−スフィンガニン)、Cer(d18:1/26:1(17Z))、SM(d16:1/25:0)、スフィンガニン、及びC17スフィンガニン−1−リン酸からなる群から選択される少なくとも1つの脂質またはそのアナログを前記対象の少なくとも一方の眼においてTMを通る房水流出を促進しかつ前記対象において眼圧を低下させるための治療有効量で含む組成物と;
ii)使用説明書と;
iii)包装材と
を含む、前記キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、概して、眼科及び生化学の分野に関する。より詳細には、本発明は、眼圧を低下させるための脂質を含む組成物及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連邦政府資金による研究開発の記載
本発明は、国立衛生研究所によって授与された認可番号NIH EY016112S1及びNIH R01 EY016112の下で政府支援によってなされたものである。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
関連出願の参照
本出願は、全体が参照により本明細書に組み込まれる、2013年12月5日に提出された米国仮特許出願第61/912,070号の優先権を主張する。
【0004】
背景
緑内障は、房水流出が妨げられて眼圧(IOP)の上昇を引き起こす原発性開放隅角緑内障(POAG)、及び圧力は正常範囲内にとどまるが進行性の視力低下が起こる正常眼圧緑内障(NTG)を含めた、失明に至る神経障害群を称する。世界中で、緑内障は、6,050万人超の人々に影響しており、莫大な健康問題となっている。高IOPは、視神経を損傷し、緑内障において進行性かつ不可逆性の失明を引き起こすと考えられている。IOPの低下は、依然として、緑内障に対する唯一の実績のある治療である。高IOPの原因は、前眼部内の小さなフィルタ様領域である線維柱帯(TM)において前者に対する耐性の増大に起因して房水(AH)流出が低下することである。プロスタグランジン(PG)は、平滑筋刺激物質として1955年に虹彩において確認され、1997年以降、局所適用として緑内障に有効な治療である依然として唯一の脂質クラスである。正常な房水流出経路は、TMを通るものであり、従来経路と呼ばれている。異常な高圧が急増する事象においては、ぶどう膜強膜経路と呼ばれる補助経路が一時的に選ばれる場合が多い。プロスタグランジンアナログは、ぶどう膜強膜経路を介して房水流出を増大させる。従来の流出経路を増大させる公知の薬は、緑内障薬としての効能がプロスタグランジンより劣っていてかなりの副作用を伴うピロカルピンを除いて存在しない。このように、従来経路を標的とした新規の治療法の開発が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
概要
本明細書において、対象(例えば、ヒト)においてIOPを低下させるための組成物、キット、及び方法を開示する。組成物は、対象において非緑内障AHに内在するが緑内障AHでは存在しないまたは低レベル(典型的には、例えば、AHタンパク質1μgあたり15fmol以下)で存在しかつ緑内障対象においてIOPを低下させる脂質(例えば、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、スフィンゴイド塩基もしくはスフィンゴイド塩基−1−リン酸、サイコシンまたは他の糖脂質)の少なくとも1つの天然もしくは合成されたバージョンまたはそのアナログを、緑内障対象の少なくとも一方の眼においてTMを通る房水流出を促進させかつ緑内障対象においてIOPを低下させるための治療有効量で含む。組成物は、例えば、POAG及びNTGを含めた緑内障を処置するために使用され得る。本明細書において、非緑内障AHに内在するが緑内障AHでは存在しないまたは低い(減少された)レベルで存在しかつ哺乳動物においてIOP調節を可能にする新規の脂質(例えば、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、スフィンゴイド塩基またはスフィンゴイド塩基−1−リン酸、サイコシン及び他の糖脂質)の発見を記載する。
【0006】
AH中の内在性脂質の同定及び緑内障に関連する脂質変化の同定は、本明細書に記載のように、IOPのホメオスタティック制御及びそれに向けた線維柱帯細胞の役割に新規の見識を提供する。AH中の内在性脂質の同定及び定量化は、多様な分子を同定するために異常に多種多様な化学が必要であること、ならびに通常のクロマトグラフィ及び/または核磁気共鳴(NMR)技術によって多量の精製された脂質種(≧0.5μgの個々の種)が必要とされることに起因して、以前は難題であった。本明細書に記載の発見は、これらの障壁の両方を取り除く。中程度分解能質量分析を使用した、両方のヒト(対照の非緑内障及びPOAGの間)ならびにDBA/2Jマウス(正常眼圧、高眼圧及び圧上昇後状態の間)におけるAH及びTMの脂質のクラス特異的分析は、対照及び緑内障間で重要な差異を明らかにした。DBA/2Jは、8ヶ月付近でIOPの自発的上昇を生じる緑内障のマウスモデルであり、したがって、DBA/2Jマウスにおいて、8ヶ月未満の年齢では正常眼圧、8〜12ヶ月では高眼圧状態であると考えることができる。12ヶ月を超えると、IOPは、AHの産生の減少に起因するとされる自然な低下を経る。DBA/2Jマウスは、色素散乱を示す場合が多いが、自発的なIOP上昇及びIOP上昇度は色素散乱の程度と相関していない。ヒトにおいて、色素散乱は、IOP上昇を誘発することなくクリアになる場合が多く、死体の眼内への散乱した色素物質の注入は、有意なIOP上昇を生じない。DBA/2Jマウスの多くのコホートは、色素散乱とIOP上昇との間の相関に欠いている。DBA/2−Gpnmb+−Sj/Jマウスと呼ばれる、DBA/2Jの遺伝的に同一の系列においては、66kDaのタンパク質cochlinの過剰発現がIOP上昇を引き起こすが、約66kDaの血清アルブミンまたはRPE65タンパク質では引き起こさず、このことは、IOPの上昇が、タンパク質によるまたは色素散乱によるTMの単純な閉塞よりもさらに複雑であることを示唆している。本明細書において、AHにおいて同定された内在性脂質の生物学的アッセイの結果(表1(図11))を記載しており、これらの結果は、4の異なるマウスモデルにおける局所適用後のIOPの低下を実証している。以下の生物学的アッセイを、これら内在性脂質の特性決定に使用した:(1)初代線維柱帯細胞の移動度及び形状の役割、(2)包埋された初代TM細胞によるゲルマトリクスの拡大及び/または収縮、(3)Ussing型チャンバにおける透過性濾紙上の初代細胞集合層を横切るフルオレシンの輸送、ならびに(4)4の異なる緑内障マウスモデル((a)DBA/2J、(b)cochlin−過剰発現、(c)CTGF−過剰発現及び最終的には(d)トランスジェニックミオシリン変異マウス[Tg−MYOC(Y437H)])においてIOPを低下させ失明を食い止める能力のアセスメント。
【0007】
したがって、本明細書において、対象において眼圧(IOP)を低下させるための組成物を記載する。組成物は、薬学的に許容されるビヒクルと、対象において非緑内障房水に内在する脂質の少なくとも1つの天然もしくは合成されたバージョンまたはそのアナログとを含む。種々の実施形態において、脂質は、対象においてIOPを低下させる、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、スフィンゴイド塩基、スフィンゴイド塩基−1−リン酸、セラミド、コレステロール、サイコシンまたは他の糖脂質である。脂質は、対象の少なくとも一方の眼においてTMを通る房水流出を促進しかつ対象においてIOPを低下させるための治療有効量で付与される。
【0008】
本明細書において、対象において眼圧を低下させるための組成物も記載する。組成物は、薬学的に許容されるビヒクル、ならびに、以下の脂質:PC(12:0/14:1(9Z))、PE(18:0/18:0)、PS(14:0/0:0)、PS(18:0/0:0)、PS18:0Lyso−PS、PS:18:1、PI(12:0/17:2(9Z,12Z))、PI(18:0/20:4(5Z,8Z,11Z,14Z))、Cer(d18:0/18:1(9Z))、C18:1ジヒドロセラミド(d18:0/18:1(9Z))(N−オレオイル−D−エリトロ−スフィンガニン)、Cer(d18:1/26:1(17Z))、SM(d16:1/25:0)、スフィンガニン、及びC17スフィンガニン−1−リン酸;の少なくとも1つを対象の少なくとも一方の眼においてTMを通る房水流出を促進しかつ対象において眼圧を低下させるための治療有効量で含む。組成物は、典型的には、局所投与用に製剤化される。一実施形態において、組成物は、以下の脂質:PC(12:0/14:1(9Z))、PE(18:0/18:0)、PS(14:0/0:0)、PS(18:0/0:0)、PS18:0Lyso−PS、PS:18:1、PI(12:0/17:2(9Z,12Z))、PI(18:0/20:4(5Z,8Z,11Z,14Z))、Cer(d18:0/18:1(9Z))、C18:1ジヒドロセラミド(d18:0/18:1(9Z))(N−オレオイル−D−エリトロ−スフィンガニン)、Cer(d18:1/26:1(17Z))、SM(d16:1/25:0)、スフィンガニン、及びC17スフィンガニン−1−リン酸;の2つ以上を含む。組成物は、プロスタグランジン及び/またはプロスタグランジンアナログをさらに含むことができる。薬学的に許容されるビヒクルは、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ポリエチレングリコール400またはd−α−トコフェロールプロピレングリコール1000スクシネートであってよい。
【0009】
本明細書において、対象において眼圧を低下させるための組成物をさらに記載する。組成物は、薬学的に許容されるビヒクル、ならびに、以下の脂質:PC(12:0/14:1(9Z))、PE(18:0/18:0)、PS(14:0/0:0)、PS(18:0/0:0)、PS18:0Lyso−PS、PI(12:0/17:2(9Z,12Z))、PI(18:0/20:4(5Z,8Z,11Z,14Z))、Cer(d18:0/18:1(9Z))、C18:1ジヒドロセラミド(d18:0/18:1(9Z))(N−オレオイル−D−エリトロ−スフィンガニン)、Cer(d18:1/26:1(17Z))、SM(d16:1/25:0)、スフィンガニン、及びC17スフィンガニン−1−リン酸;の少なくとも1つのアナログを対象の少なくとも一方の眼においてTMを通る房水流出を促進しかつ対象において眼圧を低下させるための治療有効量で含む。組成物は、典型的には、局所投与用に製剤化される。組成物は、以下の脂質:PC(12:0/14:1(9Z))、PE(18:0/18:0)、PS(14:0/0:0)、PS(18:0/0:0)、PS18:0Lyso−PS、PI(12:0/17:2(9Z,12Z))、PI(18:0/20:4(5Z,8Z,11Z,14Z))、Cer(d18:0/18:1(9Z))、C18:1ジヒドロセラミド(d18:0/18:1(9Z))(N−オレオイル−D−エリトロ−スフィンガニン)、Cer(d18:1/26:1(17Z))、SM(d16:1/25:0)、スフィンガニン、及びC17スフィンガニン−1−リン酸;の2つ以上の、2つ以上のアナログを含むことができる。組成物は、プロスタグランジン及び/またはプロスタグランジンアナログをさらに含むことができる。薬学的に許容されるビヒクルは、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ポリエチレングリコール400またはd−α−トコフェロールプロピレングリコール1000スクシネートであってよい。
【0010】
本明細書において、対象において眼圧を低下させる方法をさらに記載する。方法は、対象に、薬学的に許容されるビヒクルと、対象においてIOPを低下させかつ非緑内障AHに存在するが緑内障AHでは存在しないまたは非常に低レベル(例えば、非緑内障AHと比較して緑内障AHにおいて少なくとも1/1000未満、またはAHタンパク質1μgあたり15fmol以下)でのみ存在するホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、スフィンゴイド塩基、スフィンゴイド塩基−1−リン酸、セラミド、コレステロール、サイコシンまたは他の糖脂質とを含む組成物を投与することを含む。眼圧を低下させかつ本明細書に記載の組成物及び方法の種々の態様において好適である脂質種の例を実施例2において提供する。種々の実施形態において、方法は、対象に、薬学的に許容されるビヒクル、ならびに、以下の脂質:PC(12:0/14:1(9Z))、PE(18:0/18:0)、PS(14:0/0:0)、PS(18:0/0:0)、PS18:0Lyso−PS、PS:18:1、PI(12:0/17:2(9Z,12Z))、PI(18:0/20:4(5Z,8Z,11Z,14Z))、Cer(d18:0/18:1(9Z))、C18:1ジヒドロセラミド(d18:0/18:1(9Z))(N−オレオイル−D−エリトロ−スフィンガニン)、Cer(d18:1/26:1(17Z))、SM(d16:1/25:0)、スフィンガニン、及びC17スフィンガニン−1−リン酸;の少なくとも1つまたはそのアナログを対象の少なくとも一方の眼においてTMを通る房水流出を促進しかつ対象において眼圧を低下させるための治療有効量で含む組成物を投与することを含む。典型的な実施形態において、対象は、緑内障(例えば、原発性開放隅角緑内障または正常眼圧緑内障)を有しており、組成物の投与は、対象における失明を低減または防止する。これに関して、緑内障を処置または防止する方法も提供され、本明細書に記載の組成物が、緑内障を処置または防止するのに有効な量で対象に投与される。
【0011】
一実施形態において、組成物は、局所投与用に製剤化され、少なくとも1日1回、局所的に患者に投与される。本明細書に記載の方法の任意の実施形態において、組成物は、以下の脂質:PC(12:0/14:1(9Z))、PE(18:0/18:0)、PS(14:0/0:0)、PS(18:0/0:0)、PS18:0Lyso−PS、PS:18:1、PI(12:0/17:2(9Z,12Z))、PI(18:0/20:4(5Z,8Z,11Z,14Z))、Cer(d18:0/18:1(9Z))、C18:1ジヒドロセラミド(d18:0/18:1(9Z))(N−オレオイル−D−エリトロ−スフィンガニン)、Cer(d18:1/26:1(17Z))、SM(d16:1/25:0)、スフィンガニン、及びC17スフィンガニン−1−リン酸;の2つ以上を含むことができる。同様に、組成物は、以下の脂質:PC(12:0/14:1(9Z))、PE(18:0/18:0)、PS(14:0/0:0)、PS(18:0/0:0)、PS18:0Lyso−PS、PS:18:1、PI(12:0/17:2(9Z,12Z))、PI(18:0/20:4(5Z,8Z,11Z,14Z))、Cer(d18:0/18:1(9Z))、C18:1ジヒドロセラミド(d18:0/18:1(9Z))(N−オレオイル−D−エリトロ−スフィンガニン)、Cer(d18:1/26:1(17Z))、SM(d16:1/25:0)、スフィンガニン、及びC17スフィンガニン−1−リン酸;の2つ以上の、2つ以上のアナログを含むことができる。方法において、組成物は、プロスタグランジン及び/またはプロスタグランジンアナログをさらに含むことができる。方法は、プロスタグランジン及び/またはプロスタグランジンアナログを含む第2組成物を対象に投与することをさらに含むことができる。かかる実施形態において、少なくとも1つの脂質またはそのアナログを含む組成物及び第2組成物は、対象に同時にまたは異なるときに(例えば、第1及び第2時点で)投与される。
【0012】
本明細書において、対象において眼圧を低下させるためのキットをさらに記載する。典型的なキットは:i)薬学的に許容されるビヒクル、ならびに、以下の脂質:PC(12:0/14:1(9Z))、PE(18:0/18:0)、PS(14:0/0:0)、PS(18:0/0:0)、PS18:0Lyso−PS、PS:18:1、PI(12:0/17:2(9Z,12Z))、PI(18:0/20:4(5Z,8Z,11Z,14Z))、Cer(d18:0/18:1(9Z))、C18:1ジヒドロセラミド(d18:0/18:1(9Z))(N−オレオイル−D−エリトロ−スフィンガニン)、Cer(d18:1/26:1(17Z))、SM(d16:1/25:0)、スフィンガニン、及びC17スフィンガニン−1−リン酸;の少なくとも1つまたはそのアナログを対象の少なくとも一方の眼においてTMを通る房水流出を促進しかつ対象において眼圧を低下させるための治療有効量で含む組成物と;ii)使用説明書と;iii)包装材とを含む。組成物は、好ましくは無菌であり投与準備ができている。
【0013】
別途定義されない限り、本明細書において使用されている全ての技術用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されているのと同じ意味を有する。
【0014】
用語「脂質」は、脂肪酸及びこれらの誘導体、ならびにかかる化合物に生合成的かつ機能的に関係する物質を意味する。該用語は、天然ならびに合成脂質を包含する。該用語は、天然及び合成脂質のアナログも包含する。
【0015】
用語「アナログ」及び「誘導体」は、親分子と比較して修飾されており、親分子の少なくともいくつかの部分構造及び生体機能(または改良された生体機能)を保持する任意の分子を意味する。生体機能は、例えば、IOPを低下させる能力である。
【0016】
本明細書において使用されているとき、「タンパク質」及び「ポリペプチド」は、同義的に使用されて、長さまたは翻訳後修飾、例えばグリコシル化もしくはリン酸化に関わらず、アミノ酸の任意のペプチド結合鎖を意味する。
【0017】
本明細書において使用されているとき、用語「処置」は、疾患、疾患の症状、または疾患になりやすい傾向を治療する、治癒する、緩和する、軽減する、改変する、改善する、寛解する、改良する、またはこれに影響する目的での、疾患、疾患の症状または疾患になりやすい傾向を有する対象または患者への治療剤の適用または投与、あるいは該対象または患者から単離した組織または細胞への治療剤の適用または投与として定義される。
【0018】
本明細書において使用されているとき、句「安全・有効量」は、本発明の様式で使用されるとき、妥当なベネフィット/リスク比に相応した、適切でない副作用(例えば、毒性、炎症、またはアレルギー反応)を伴わない所望の治療反応を得るのに十分である成分の量を称する。「治療有効量」は、所望の治療反応を得るのに有効な本発明の組成物の量、例えば、個体において、TMを通る房水流出を増大させかつIOPを低下させるのに有用な量を意味する。具体的な安全・有効量または治療有効量は、例えば、処置される特定の状態、患者の身体状態、処置される哺乳動物または動物の種類、処置の持続時間、並行する治療(存在する場合)の性質、及び使用される具体的な製剤などの因子によって変動する。
【0019】
用語「患者」、「対象」及び「個体」は、本明細書において互換的に使用され、処置される、処置された、または処置すること及び/もしくは生体サンプルを得ることが考えられる脊椎動物対象、典型的には、哺乳動物対象(例えば、ヒト、齧歯動物、非ヒト霊長類、イヌ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ネコなど)を意味し、ヒト患者が好ましい。いくつかの場合において、本明細書に記載の方法、キット、及び組成物は、限定されないが、マウス、ラット及びハムスターを含めた齧歯動物ならびに非ヒト霊長類を含めた、実験動物における、獣医用途における、ならびに、疾患の動物モデルの開発における使用を見出す。
【0020】
本明細書に記載のものと同様または等価の組成物、キット、及び方法を本発明の実用または試験において使用することができるが、好適な組成物、キット、及び方法を以下に記載する。本明細書において言及されている全ての公報、特許出願、及び特許は、これらの全体が参照により組み込まれる。矛盾する場合、定義を含めて本明細書が支配する。以下に議論する特定の実施形態は、説明目的のみであり、限定的であることは意図されていない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1A及び1Bは、緑内障AHにおけるPC種の消失を正常対照と比較して実証する代表的な質量分析データを示す。陽イオンモードにおけるヒト房水(AQH)中のホスファチジルコリン(PC)クラス脂質のエレクトロスプレーイオン化質量分析。A及びBは、示されているようにヒト緑内障及び正常AHの代表的な分析であり、内部標準(矢印;m/z比650.6)をレシオメトリック定量化に使用したものである。親イオン走査をm/z:600〜900で実施した。矢印は、正常AHにおける特有の種の存在を示す。
図2図2A及び2Bは、線維柱帯初代細胞への脂質の影響の代表的な画像を示す。表示の時間間隔での細胞の時間経過画像。A.対照TM細胞をリン酸緩衝生理食塩水中のビヒクル(5%DMSO)に供した。対照群におけるほとんどの細胞は、丸いままであるか、または、いくつかが突出部を有することを示してほんのいくらかだけ細長くなった。細胞内の糸状仮足の突出部を太い矢印によって示す。ビヒクルの添加後2分〜16分では、突出部は変化しないままであった。B.10pmolの脂質で処理したTM細胞。ほとんどの細胞が突出部を有し、ほんの数細胞が突出部を有していない。脂質処理細胞における糸状仮足は、動的であり、矢印で示すように、これらは、血清不含培地において脂質の添加後1または2分で活動の後退の開始を経る。16分で、糸状仮足は大幅に後退する。
図3図3は、包埋されたコラーゲンゲルの拡大及び/または収縮アッセイからの結果を示す。約10,000個の初代TM細胞を、10pmolの表示の脂質で処理せず(対照)または処理した後にラットコラーゲンを含む毛細管に入れた。コラーゲンのカラム長さの変化を24時間終了後に測定した。3つの独立実験からの平均及び標準偏差を提示する。黄色/灰色ゾーンによって示すように、拡大を4つのゾーン(2、3及び4が同定されている):1=>1.0mm;2=1.0〜1.4mm;3=>1.4mmであるが<2.0mm;4=2.0かつ>2.0mm;に分類した。
図4図4は、Ussing型チャンバにおける多層の初代TM細胞を横切るフルオレセイン輸送のアッセイからの結果を示す。5層の細胞を0.45μmのポアサイズのPVDFフィルタにキャストし、第2〜第4層には上部にラットコラーゲンを付した。対照(脂質処理なし)または10pmolの表示の脂質で処理した細胞をこれらの測定に使用した。一度でサンプルを導入した後15秒での対向端からのフルオレセインの輸送を推定した。3つの独立実験からの平均及び標準偏差を提示する。相対輸送を2つのゾーン(黄色でマーキング)に分割しており、示すように、輸送が0.48超であるが0.62未満であるとき=1;0.62超=2である。
図5A-5C】図5は、午後1〜4時の間に投与した1μl中5%DMSO(ビヒクル)中10pmolの表示の脂質の局所適用を使用したマウスにおける眼圧の測定を示す。右眼をビヒクル単独で処置し、左目を脂質で処置した。対照は、両眼をビヒクルで処理した。A.DBA/2Jマウスにおいて、ビヒクルまたは対照(ビヒクルのみ)中の表示の脂質を、IOP≧18mmHg(15mmHgの平均ベースラインから20%の増大を処置点として使用した)を有すると記されている約7.5ヶ月齢のマウスに毎日1回投与した。表示の脂質についての平均IOPの記録を示す。B.6つのPC(13:0/13:0;PE(18:0/18:0)、Lyso−PS18:0、PS18:1、スフィンガニン及びC17S1P)のそれぞれ10pmolを組み合わせ、5%DMSO(ビヒクル)中で、DBA/2Jマウスの眼に最大7日まで1日1回、局所投薬として適用した。他方の眼はビヒクルのみを受け、IOPの低下を示さなかった。これらの脂質の組み合わせは、対照、または市販薬Xalatan、Timolol(図5B)もしくはDorzolamide(示していないが、Timololと同レベルのIOP低下を有する)を含めた他の個々の薬と比較して、かなり良好なIOP低下を示した。上記のように表示の脂質の局所投与に供したトランスジェニックミオシリンマウス[Tg−MYOC(Y437H)](図5C)。示すように4及び6日目で対照と比較してIOP低下が認められた。
図6A-6C】図6A〜6Cは、脂質のタンパク質標的を同定するためのアプローチの概略図を示す。A.5%DMSO(ビヒクル)中10pmolの同定された脂質を40%の融合性初代TM細胞に適用し、1分のインキュベーション後、約1分間、UVStratalinker1800クロスリンカーにおいてUV架橋に供した。
図7図7は、架橋及びメカニズムの検討に使用したホスファチジルセリン(PS)脂質、PS(18:1)の選択蛍光アナログを示す。4つのアナログ:18:1−0.6:0NBD PS、18:1NBD PS、18:1−12:0NBD PS及び18:1Dansyl PSを示す。骨格はPS(18:1)と同様であり、それぞれの質量対電荷比(m/z)を有する蛍光部分を各化合物の下に示す。これらの親エンティティのそれぞれの下の化合物のm/zは、これらへのC−13種の組み込みに起因する種々の同位体変種の存在度を意味する。
図8A図8Aは、ヒトTM組織におけるチャネルの同定を示す一連の顕微鏡写真である。約11のこれらのチャネルを、PS(18:1)脂質アナログによるTM細胞のインキュベーションの最初の2分以内に、1つ以上の脂質への架橋タンパク質として最初に同定した。
図8B図8Bは、ヒトTM組織におけるチャネルの同定を示す一連の顕微鏡写真である。約11のこれらのチャネルを、PS(18:1)脂質アナログによるTM細胞のインキュベーションの最初の2分以内に、1つ以上の脂質への架橋タンパク質として最初に同定した。
図8C図8Cは、ヒトTM由来初代細胞におけるチャネルの同定を示す一連の顕微鏡写真である。約11のこれらのチャネルを、PS(18:1)脂質アナログによるTM細胞のインキュベーションの最初の2分以内に、1つ以上の脂質への架橋タンパク質として最初に同定した。
図8D図8Dは、ヒトTM由来初代細胞におけるチャネルの同定を示す一連の顕微鏡写真である。約11のこれらのチャネルを、PS(18:1)脂質アナログによるTM細胞のインキュベーションの最初の2分以内に、1つ以上の脂質への架橋タンパク質として最初に同定した。
図9A-9C】図9A〜9Cは、毛様体の混合培養における脂質産生を示す。A.摘出、切除及び十分な洗浄後の毛様体(CB)の器官培養であり、CBを血清不含培地に入れた。
図10A-10B】図10A〜10Bは、(A)従来経路及び(B)ぶどう膜強膜経路を示す、眼の前房の概略図である。
図11図11は、緑内障AHと比較した両方の対照DBA2J及びヒト(すなわち、非緑内障DBA2J及びヒト)において特有の房水(AH)脂質を列挙する表1である。
図12図12は、対照及びPOAGの房水の2つの電子顕微鏡写真を含む。対照(53歳)及びPOAG(66歳)由来の房水(AH)を遠心分離に供し、低相(ペレット)を銅グリッド上で電子顕微鏡に供した。条件は、0.1Mリン酸緩衝液及び2%リンタングステン酸(PAT)であった。グリッドは、2%PTA中4%の水性OsO4蒸気に供した。
図13図13は、正常眼圧のカニクイザルの眼圧(mmHg、y軸)に対する6つの脂質(x軸)の影響を実証する棒グラフである。午後の1時頃に1μlの体積で脂質を局所投与した。右眼をビヒクル単独で処置し、左目を脂質で処置した。カニクイザル(n=4)を10pM脂質(50nMであるC17S1Pを除く)で5日間処置した。サルを処置の前後に細隙灯検査及びIOP測定に供した。処置5日目に処置後3〜6時間で測定したIOPを中実棒で示す。中空棒は対照(ビヒクルのみ(5%DMSO))である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
詳細な説明
対象(例えば、ヒト)においてIOPを低下させるための組成物及びキットは、非緑内障AHに内在するが緑内障AHでは存在しないまたは低レベルで存在する、また、緑内障対象に投与(例えば、局所付与)されたとき、対象の少なくとも一方の眼においてTMを通る房水流出を促進する脂質(例えば、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、スフィンゴイド塩基、スフィンゴイド塩基−1−リン酸、サイコシンまたは他の糖脂質)の少なくとも1つの天然もしくは合成されたバージョンまたはそのアナログを含む。対象においてIOPを低下させる方法及び対象において緑内障を処置する方法は、かかる組成物を投与することを含む。組成物、キット及び方法は、例えば、POAG及びNTGを含めた任意のタイプの緑内障を処置するのに使用され得る。
【0023】
以下に記載の好ましい実施形態は、これらの組成物、キット、及び方法の適応を示す。にもかかわらず、これらの実施形態の記載から、本発明の他の態様が、以下に提供する記載に基づいて作成及び/または実行されてよく、本発明の部分として企図される。
生物学的方法
【0024】
従来の分子生物学技術を含む方法を本明細書に記載する。かかる技術は、当該分野において一般に知られており、方法に関する論文、例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,vol.1−3,ed.Sambrookら、Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,(2001);及びCurrent Protocols in Molecular Biology,ed.Ausubelら、Greene Publishing and Wiley−Interscience,New York,(1992)(定期的に更新されている)に詳細に記載されている。生化学技術は、当該分野において一般に知られており、方法に関する論文、例えば、A Manual for Biochemistry Protocols(Manuals in Biomedical Research) M.R.Wenk,A.Z.Fernandis,World Scientific Publishing Company;1st edition(2007年3月30日)に詳細に記載されている。脂質の合成方法もまた、当該分野において周知されており、方法に関する論文、例えば、Lipid Synthesis and Manufacture,by Frank D Gunstone Ed.,Almond Pr(1999)に詳細に記載されている。
対象において眼圧を低下させるための組成物
【0025】
本明細書において、眼圧を低下させるために対象(例えば、緑内障を有するヒト)に投与される脂質及び脂質含有組成物を記載する。典型的な実施形態において、対象において眼圧を低下させるための組成物は、薬学的に許容されるビヒクルと、非緑内障AHに内在するが緑内障AHでは存在しないまたは低(減少した)レベルで存在し、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、スフィンゴイド塩基、スフィンゴイド塩基−1リン酸、セラミド、コレステロール、サイコシンまたは他の糖脂質であり、また、対象においてIOPを低下させる脂質の少なくとも1つの天然もしくは合成されたバージョンまたはそのアナログとを含む。少なくとも1つの天然もしくは合成された脂質またはそのアナログは、対象の少なくとも一方の眼においてTMを通る房水流出を促進しかつ対象においてIOPを低下させるための治療有効量である。対象においてIOPを低下させる任意の好適なホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、スフィンゴイド塩基、スフィンゴイド塩基−1リン酸、セラミド、コレステロール、サイコシンまたは他の糖脂質が使用されてよい。かかる脂質の例として、表1(図11)に列挙されているもの(すなわち、PC(12:0/14:1(9Z))、PE(18:0/18:0)、PS(14:0/0:0)、PS(18:0/0:0)、PS18:0Lyso−PS、PS:18:1、PI(12:0/17:2(9Z,12Z))、PI(18:0/20:4(5Z,8Z,11Z,14Z))、Cer(d18:0/18:1(9Z))、C18:1ジヒドロセラミド(d18:0/18:1(9Z))(N−オレオイル−D−エリトロ−スフィンガニン)、Cer(d18:1/26:1(17Z))、SM(d16:1/25:0)、スフィンガニン、及びC17スフィンガニン−1−リン酸)が挙げられる。天然脂質及びそのアナログ誘導体の合成バージョンが、IOPを低下させ緑内障を処置するために本明細書に記載の組成物において使用され得る。表1(図11)を参照すると、列挙されている全ての脂質は、PSのアナログ(18:0/0:0)であるPS(18:1)を除いて、非緑内障AHに内在する天然脂質である。アナログは、感知できる毒性を示さず、また、IOPを低下させる生体機能を失わないように設計される。図7及び8を参照すると、PSの蛍光アナログ(18:1)が生成及び試験されている。
【0026】
IOPを低下させるための組成物は、非緑内障AHに内在する1つまたは2つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7など)の天然もしくは合成脂質またはそのアナログを含むことができる。組成物は、例えば、表1(図11)に列挙されている脂質の1つまたは2つ以上を含むことができる。別の例として、組成物は、表1(図11)に列挙されている1つまたは2つ以上の脂質のアナログを、2つ以上含むことができる。IOPを低下させるための組成物は、プロスタグランジン及び/またはプロスタグランジンアナログをさらに含むことができる。
【0027】
本明細書に記載の天然脂質、合成脂質、及びそのアナログは、任意の好適な方法によって調製され得る。天然脂質は、例えば、植物源からクロマトグラフィ分離によって得られ得る(例えば、天然脂質は、からし種の油から分離され得る)。代替的には、脂質は、標準の有機化学合成を含めた公知の技術を使用して合成され得る。大規模な植物油または家畜(ブタもしくはウシ)の眼からの脂質の有機相抽出は、有機相抽出(例えば、クロロホルム及びメタノール混合物を使用したBligh・Dyer法またはFolch法)において抽出される混合物からの特定の脂質のクロマトグラフィ分離を可能にする。有機合成では、容易に入手可能な前駆体分子が標準の有機化学合成手順に従って修飾されてよい。天然脂質、合成脂質またはそのアナログは、一旦得られまたは合成されたら、薬学的に許容されるビヒクルと共に典型的には製剤化されて局所投与される。任意の好適な薬学的に許容されるビヒクルが使用されてよい(例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ポリエチレングリコール400またはd−α−トコフェロールプロピレングリコール1000スクシネート)。
対照において眼圧を低下させる方法
【0028】
対象において眼圧を低下させる方法を本明細書に記載する。一実施形態において、方法は、対象に、薬学的に許容されるビヒクルと、対象において非緑内障AHに内在するが緑内障AHでは存在しない脂質の少なくとも1つの天然もしくは合成されたバージョンまたはそのアナログとを含む組成物を投与することを含む。脂質は、種々の実施形態において、対象においてIOPを低下させる、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、スフィンゴイド塩基、スフィンゴイド塩基−1−リン酸、セラミド、コレステロール、サイコシンまたは他の糖脂質である。対象が緑内障(例えば、原発性開放隅角緑内障または正常眼圧緑内障)を有するとき、組成物は、対象において、緑内障を処置し、失明を防止または軽減するための治療有効量である。方法の一実施形態において、組成物は、局所投与用に製剤化され、対象(例えば、緑内障を有するヒト患者)に少なくとも1日1回、局所的に投与される。例えば、10〜20pmolの脂質混合物は、5%DMSOと共に添加され、液滴(または複数の液滴)が点眼器を使用して眼に局所的に適用される。方法において、組成物は、プロスタグランジンまたはプロスタグランジンアナログを含むこともできる。別の実施形態において、対象において非緑内障AHに内在するが緑内障AHでは存在しない、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、スフィンゴイド塩基、スフィンゴイド塩基−1−リン酸、セラミド、コレステロール、サイコシンまたは他の糖脂質であり、また、対象においてIOPを低下させる脂質の少なくとも1つの天然もしくは合成されたバージョンまたはそのアナログを含む第1組成物が対象に投与され、プロスタグランジンまたはプロスタグランジンアナログを含む第2組成物が対象に投与される。この実施形態において、第1及び第2組成物は、同時にまたは異なる(例えば、第1及び第2)時点で対象に投与され得る。
対象において眼圧を低下させるためのキット
【0029】
本明細書において、対象において眼圧を低下させかつ緑内障を処置するためのキットを記載する。一実施形態において、対象において眼圧を低下させるためのキットは、薬学的に許容されるビヒクルと、対象において非緑内障AHに内在するが緑内障AHでは存在しない、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、スフィンゴイド塩基、スフィンゴイド塩基−1−リン酸、セラミド、コレステロール、サイコシンまたは他の糖脂質であり、IOPを低下させる脂質の少なくとも1つの天然もしくは合成されたバージョンまたはそのアナログとを含む組成物、ならびに使用説明書を含む。キットは、第2のかかる脂質、及び場合によりプロスタグランジンまたはプロスタグランジンアナログをさらに含むことができる。キットにおいて、説明書は、組成物の説明;緑内障の処置のための処方計画及び投与;注意事項;警告;適応症;禁忌;過用量情報;有害反応;動物薬物動態;臨床研究;ならびに/または参考文献の1つ以上を一般に含む。説明書は、容器(存在する場合)に直接、容器に適用されるラベルとして、または容器内にもしくは容器と共に供給される別個のシート、パンフレット、カードもしくはフォルダとして印刷されていてよい。一般に、本明細書に記載のキットは、包装材も含む。いくつかの実施形態において、キットは、治療または予防組成物を含有する無菌容器を含み;かかる容器は、箱、アンプル、ボトル、バイアル、チューブ、バッグ、パウチ、ブリスターパック、または当該分野において公知の他の好適な容器であってよい。かかる容器は、プラスチック、ガラス、ラミネート紙、金属箔、または細胞もしくは医薬を保持するのに好適な他の材料から作製されていてよい。
有効用量
【0030】
上記の組成物は、哺乳動物(例えば、非ヒト霊長類、ウシ、イヌ、齧歯動物、ヒト)に、有効量、すなわち、処置される対象において望ましい結果(例えば、対象において失明を遅延、軽減または防止する)をもたらすことが可能である量で好ましくは投与される。本明細書に記載の方法で利用される組成物の毒性及び治療効能は、標準の薬学的手順によって決定され得る。医薬及び獣医分野において周知されているように、任意の一動物への投薬量は、対象の大きさ、体表面積、年齢、投与される特定の組成物、投与の時間及び経路、全身の健康、ならびに並行して投与される他の薬物を含めた多くの因子に依る。
【0031】
投与される治療剤(例えば、脂質)の量は、投与様式、患者の年齢及び体重に応じて、ならびに疾患の病状によって変動する。本明細書に記載の組成物は、10pmol〜10μmolの用量で典型的には投与される。
【0032】
本明細書に記載の治療組成物は、任意の好適な経路によって対象に投与され得る。組成物は、局部、局所、経口または全身投与に好適である投薬形態で付与されてよい。組成物は、局所的に適用されるとき、角膜に典型的には局所的に適用され、そこから線維柱帯に容易に浸透する。組成物は、非毒性の薬学的に許容される担体を典型的には含み、従来の薬務(例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(20th ed.),ed.A.R.Gennaro,Lippincott Williams & Wilkins,(2000)及びEncyclopedia of Pharmaceutical Technology,eds.J.Swarbrick and J.C.Boylan,Marcel Dekker,New York(1988−1999)を参照されたい)によって製剤化されてよい。
【実施例】
【0033】
本発明を以下の具体例によってさらに説明する。以下の例は、単に説明目的で提供されるものであり、決して、本発明の範囲を限定するとして解釈されるべきではない。
実施例1−眼圧の内在性脂質調節剤
【0034】
本明細書において、脂質のプロファイリングのための質量分析方法及び同定された脂質を用いたその後の生物学的アッセイの第1の使用を記載する。内在性脂質[14の特異的脂質、すなわち:PC(12:0/14:1(9Z));PE(18:0/18:0);PS(14:0/0:0);PS(18:0/0:0);PS18:0Lyso−PS;18:1PS;PI(12:0/17:2(9Z,12Z));PI(18:0/20:4(5Z,8Z,11Z,14Z));Cer(d18:0/18:1(9Z));C18:1ジヒドロセラミド(d18:0/18:1(9Z))(N−オレオイル−D−エリトロ−スフィンガニン);Cer(d18:1/26:1(17Z));SM(d16:1/25:0);スフィンガニン及びC17スフィンガニン−1−リン酸]を、ヒト対照及び緑内障患者のAHのスクリーニングから、対照においてのみ存在するが緑内障AHにおいては存在しないと同定した。以下のアッセイにおいて、(1)脂質への暴露に起因した線維柱帯(TM)初代細胞の移動度及び細胞形状変化、(2)人工包埋において細胞のアンサンブルを含むゲル拡大アッセイ/収縮アッセイ、及び(3)初代TM細胞の集合層におけるフルオレセインの輸送を実証するためのアッセイが、PC(12:0/14:1(9Z))を除く上記に列挙した脂質に関する影響を示した。非哺乳動物脂質の1,2−ジトリデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンPC(13:0/13:0)もまた、これらのアッセイにおける任意の影響の欠失を示した。およそ8ヶ月齢で自発的に高IOPを発症するDBA/2Jマウスを用いたスクリーニングにおいて、PE(18:0/18:0);PS(14:0/0:0);PS(18:0/0:0);PS18:0Lyso−PS;18:1PS;PI(12:0/17:2(9Z,12Z));PI(18:0/20:4(5Z,8Z,11Z,14Z));Cer(d18:0/18:1(9Z));C18:1ジヒドロセラミド(d18:0/18:1(9Z))(N−オレオイル−D−エリトロ−スフィンガニン);Cer(d18:1/26:1(17Z));SM(d16:1/25:0);スフィンガニン及びC17スフィンガニン−1−リン酸によってはIOPの低下が示されたが、PC(12:0/14:1(9Z))及びPC(13:0/13:0)によっては示されなかった。同様の結果が、cochlin−過剰発現によって、CTGF−過剰発現によって、及びトランスジェニックミオシリン変異マウス[Tg−MYOC(Y437H)]においても見出された。
結果
【0035】
緑内障房水中の脂質の排除及び実質的低下。中解像度質量分析計(TSQ Quantum Access Max)からの房水の広範な分析は、緑内障において大幅な減少を経た、対照AHにおける多数の特有の種を示している(図1)。広範な分析により、14エンティティ(PC(12:0/14:1(9Z))、PE(18:0/18:0)、PS(14:0/0:0)、PS(18:0/0:0)、PS18:0Lyso−PS、18:1PS、PI(12:0/17:2(9Z,12Z))、PI(18:0/20:4(5Z,8Z,11Z,14Z))、Cer(d18:0/18:1(9Z))、C18:1ジヒドロセラミド(d18:0/18:1(9Z))(N−オレオイル−D−エリトロ−スフィンガニン)、Cer(d18:1/26:1(17Z))、SM(d16:1/25:0)、スフィンガニン、及びC17スフィンガニン−1−リン酸)のレベルが、機器の検出限界未満に大幅に低下したことが見出された(表1)。
【0036】
細胞の運動性及び形状の調節。初代TM細胞の対照(ビヒクル−10%DMSOのみで処理した)形状(図2A)と比較して、脂質への暴露が細胞の形状を変化させ、糸状仮足及び運動性を促進させた(図2B)。これらの脂質は全て、糸状仮足の収縮を促進し(図2B、矢印)、また、拡大も同様であった。これらの画像は、初代TM細胞の時間経過のビデオ画像及びいくつかのドナー由来細胞からの要約データに由来した。脂質への暴露により、細胞が糸状仮足形成に関してより動的になり、動的に拡大−収縮した(表1(図11)に要約)。運動性及び糸状仮足形成は、種々の内部及び外部要因、例えば、細胞が由来するドナーの年齢、細胞密度、培地の組成、環境温度及びインキュベーションガスの組成に影響される。ドナーの年齢及び細胞密度は、最も顕著な因子である。表1(図11)に記述されている全ての脂質[PC(12:0/14:1(9Z))及び1,2−ジトリデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンPC(13:0/13:0)を除く]への暴露は、糸状仮足形成の動態の大幅な増大を生じさせた。このことは、糸状仮足形成の動態が大幅に低下する高齢ドナー由来のTM細胞において最も顕著であるが、より若年ドナーに由来するTM細胞においても認識される。
【0037】
フィルタ膜上での細胞の包埋マトリクス及び集合層における細胞アンサンブルの特性。毛細管中の、コラーゲンマトリクス中のゲル包埋初代TM細胞を、確立されたプロトコル(Ilagan,Rら、Biotechniques.2010;48:153−5)に従って用意し、これらが、ゲル(対照)またはゲル包埋前に血清不含培地において脂質による処理に1時間供された細胞を最初の24時間以内に拡大または収縮させる能力を決定した。マトリクス包埋アッセイシステムにおいて細胞拡大を調節する脂質(図3)が見出された。脂質がゲル包埋細胞拡大に影響する能力を表1(図11)に要約する。僅かに異なる設定、例えば、より長期間のインキュベーションを使用したこれらの実験は、拡大の代わりにゲル収縮を実証することができる。これらのアッセイにおいて、ゲルの拡大を生じさせるが収縮を生じさせない全ての条件を選択した(ゲルの収縮を示し得る条件を使用しなかった)。拡大の程度を4ゾーン(1、2、3、及び4)に分割した(図3)。数字が大きいほど、拡大が大きい。
【0038】
細胞集合層状TM細胞を横切るフルオレセインの輸送をUssing型チャンバにおいて決定した(図4)。第1層の後の層間にコラーゲンマトリクスを含む5層の初代TM細胞層を無菌PVDF膜(0.45μmポア)上に置いた。フルオレセインをポートの片側(細胞側)から導入し、導入の15秒以内に別の側(膜側)からサンプリングした。細胞のみの対照と、複数層を形成する前に1〜3時間脂質で処理した細胞との間の輸送の差(図4)を観察した。フルオレセイン輸送を定量化し、1及び2として2つのカテゴリー(黄色ゾーンでマーキング)に分割した(図4)。表1(図11)は、細胞の集合層を使用した輸送データの要約を提示する。
【0039】
数字で表示した細胞移動度、ゲル拡大及びフルオレセイン輸送と一緒に(範囲1〜4、数字が大きいほど、測定した特性の強度が高い)、総合指数を作成した(表1(図11))。本明細書に記載の脂質は、単離された細胞レベルで、または細胞アンサンブルレベルで、TM細胞挙動を調節することができる。
【0040】
マウスモデルにおける眼圧低下。内在性脂質は、緑内障のDBA/2JマウスモデルにおいてIOPを低下させた(図5A)。DBA/2Jは、IOPの上昇が自発的に起こる唯一の公知のマウス動物である。このマウスは色素散乱にも罹患しているが、しかし、IOPの上昇はIOP上昇とは相関しないようである。表示されている脂質を局所投薬として適用した(ビヒクルとしての5%DMSO中10pmol)。5%DMSOのみのビヒクルは対照として機能した(図5A)。短期適用後のDBA/2JにおけるIOPの上昇後のIOPの低下も測定した(図5B)。6つ:PC(13:0/13:0;PE(18:0/18:0)、Lyso−PS18:0、PS18:1、スフィンガニン、及びC17S1P);の各々の10pmolを組み合わせ、5%DMSO(ビヒクル)中(つまり、10pmolの各PCが含まれている)、DBA/2Jマウスの眼に1日1回、最大7日まで局所投薬として適用した。他方の眼はビヒクルのみを受けており、IOPの低下を示さなかった。図5Bに示すように、これらの脂質の組み合わせは、対照または市販薬Timolol及びDorzolamideを含む他の個々の薬物と比較して、かなり良好なIOP低下を示した。約35mmHgのIOPを示した8ヶ月齢のDBA/2Jマウスを選択した。代表的なデータを図5Bに提示する。3ヶ月で高IOPを示すトランスジェニックミオシリン変異マウス[Tg MYOC(Y437H)]もまた、これらの脂質によるIOP低下の決定に使用した(図5C)。概して、これらのマウスは、24mmHgのIOPを示し、脂質は、このモデルにおいてもまた、IOPの低下を示した(図5C)。ここに記載のDBA/2Jモデルに加えて、これらの内在性脂質は、cochlin及び結合組織成長因子(CTGF)過剰発現モデルにおいてIOPを低下させた。これらのマウスにおける過剰発現を、レンチウイルスベクター媒介過剰発現を使用して達成した。このように、ここで評価される内在性脂質は、非常に様々なDBA/2J及びMYOC(Y437H)マウスモデルならびに誘発された及び自発的なIOP上昇を包含する広範な4の齧歯動物緑内障モデルをカバーするcochlin及びCTGF過剰発現モデルにおいてIOPを低下させた。
【0041】
脂質のタンパク質標的は、機械受容チャネルを含む。図6に示すように、PS(18:1)のアナログのUV架橋戦略及び蛍光バンドの直接質量分析をタンパク質標的の同定に用いた(図6)。PS(18:1)の種々の蛍光アナログを図7に示す。非特異的アナログとしてPC13:0/13:0も使用したため、この非特異的アナログとの架橋を示すタンパク質バンドを質量分析に供さなかった。PS(18:1)により架橋したいくつかのメカノトランスダクションチャネル(図8A、B、C)を同定した。先に、架橋から独立して、TM及び初代TM細胞におけるこれらのチャネルのいくつかの存在を検出した。多くのこれらのチャネルが従来の流出経路において局在化していることが見出され(図8A)、このことは、従来経路を介しての内在性脂質の影響の可能性を示唆した。脂質によって架橋すると同定されたチャネルは、TMに存在するとしてmRNA(GEOデータベース)においてタンパク質レベルで検出された。
【0042】
内在性脂質は毛様体(CB)において発生する。緑内障において、CB及び疾患におけるその異常は、依然として、不十分な調査領域である。CBは、AHの産生を低下させることを除いて十分に標的化されなかった。AHは、CBにおいて産生されると考えられる。これらの脂質のいくつかの産生がAHにおいて起こるか否かを決定した。このことは、脂質によるAHの動態のホメオスタティック制御を示唆することができ、将来において、特異的な標的化に使用され得る。血清不含培養の、毛様体の器官培養(図9A、B)において、これらの脂質の大部分(表1(図11);図9C)が発生することを質量分析によって見出した。換言すると、CBの器官培養により、これらの内在性脂質の発生が示され、マウスモデルにおける生物学的活性及び眼圧低下が示された(図5)。このように、毛様体は、緑内障の処置に関して潜在的な特異的標的であり得た。
【0043】
データの解明の概要。対照のヒトAHには存在するが緑内障には存在しない内在性脂質(表1(図11))を同定した。これらの脂質もまた、全てが、高眼圧状態のDBA/2Jマウスの線維柱帯には存在しないが正常眼圧状態においてはそうではないことが示された。これらの脂質への暴露は、細胞特性及びゲル包埋細胞の細胞集合層の特性の変化を示した(図1〜4)。これらの挙動への影響と高IOPの低下との間の相関(図5;表1(図11))が見出された。IOP低下は、(a)PS18:0Lyso−PS及びPS:18:1による;(b)C18:1ジヒドロセラミド(d18:0/18:1(9Z))(N−オレオイル−D−エリトロ−スフィンガニン)、スフィンガニン及びC17スフィンガニン−1−リン酸による、ならびに(c)PE(18:0/18:0)による、3つの違った動力学を示した。IOP低下の動力学の差に基づいて、作用機構が、これらの3つの異なるタイプの脂質種で異なることが予期される。房水流出は、従来経路(TM)、及び非従来またはぶどう膜強膜経路を介して起こり得る(図10)(Goel,M.,Picciani,R.G.,Lee,R.K.& Bhattacharya,S.K.Open Ophthalmol J.2010;4:52−59)。緑内障においてこの流出が従来経路によって減少されるという証拠にも関わらず、この経路を介して流出を増大させる有効な薬物が欠失している。メカノトランスダクションチャネル(図8A、B、C)及び従来経路におけるこれらのいくつかの顕著な存在の同定により、これらの内在性脂質がこの経路を利用したIOP低下を発揮し得ることが示唆される。最終的に、これらの脂質は毛様体によって発生する。このように、これらの発生プロセスは、緑内障治療の改良のための将来的な薬物標的であり得る。
方法
【0044】
TM細胞培養実験:初代ヒトTM細胞を死体の強角膜切片から培養した。細胞を、シュレム管を含み隣接する領域の鈍的切開によって単離し、続いて、20%の0.01μg/μLコラゲナーゼ−A(カタログ番号LS004194、Worthington,Lakewood NJ)のDPBS(カタログ番号21−030−CV、Mediatech Inc,Manassas,VA)懸濁液中で2時間消化させた。鈍的切開及びタンパク質分解処理を12ウエル培養プレート(カタログ番号665−180Greiner Bio−One,Neuburg,Germany)内で実施した。[DMEM 1X(カタログ番号10−017−CM、Mediatech Inc)、10%の熱不活性化FBS(カタログ番号35−016−CV、Mediatech)、0.5%の1.7mM L−グルタミン(カタログ番号G6392、Sigma−Aldrich)、1%の抗生抗菌溶液(カタログ番号30−004−CL、Mediatech)]を含む培養培地を2時間後に添加し、消化を終了させた。無菌の顕微鏡スライド(カタログ番号56700−194、VMR)を組織断片の上部に置き、培地ウエル内での底面接触及び固定を確保した。切片を細胞培養インキュベータ内で5%CO2中37℃にて培養した。培地を7日後に1X DPBSで洗浄して組織デブリを除去し;培地変更を3〜4日毎に行った。こうして得られた細胞をトリプシン処理し(カタログ番号25−050−Cl、Mediatech)、その結果、0.4μg/uLの各ベクターDNA対トランスフェクション剤(Lipofectamine2000、カタログ番号11668−019、Invitrogen)(各ウエルへの添加後に製造者の説明書に従って調製)比を使用してトランスフェクション複合体を作り出す前日に分布させ、トランスフェクション反応を2.5時間のスパンにわたって起こさせ、その後、細胞培養培地の添加によって終了させた。細胞アッセイ及び免疫組織化学的分析は、形態学的変化に対するベクター発現の影響を観察かつ追跡するために、24時間のタイムマーク内で実施した。経時的顕微鏡法は、トランスフェクション後24時間で開始して15分毎のスナップショットによって20時間の持続時間で、ガラスボトムチャンバースライド(カタログ番号154534、Lab−Tek,Thermo Fisher Scientific Inc.,Rochester NY)において成長した細胞、及びZeiss AxioVert 200Mを使用して実施した。免疫組織化学的分析は、トランスフェクション後0、24、及び29時間の時間間隔で、4%PFA(カタログ番号19943、USB Corp,Cleveland,OH)によって固定した細胞において実施した。固定した細胞を、原発性抗体(カタログ番号5370、Aves Labs;カタログ番号ab83932、Abcam;カタログ番号R415、Invitrogen;カタログ番号sc−1924、Santa Cruz Biotech.;カタログ番号sc−18035、Santa Cruz Biotech.,カタログ番号HPA004916、Sigma−Aldrich)を使用して、cochlin、KCNK2(TREK1)、アクチン、アネキシンA2、α−TECT及びDIAPH−1についてプローブし、油浸によって40×/63×の倍率にて共焦点顕微鏡法(Leica DM6000B)で撮像した。排泄されたタンパク質の分析用の培地をトランスフェクション後24時間で収集し、cochlin及びアネキシンA2(カタログ番号sc−1924、Santa Cruz biotechnology,Inc.)に関するELISAプロービングに供した。
【0045】
HEK−293T及びCOS−7細胞をプラスミド発現cochlinまたはアネキシンA2によってトランスフェクトした。トランスフェクション後24時間で培地を収集し、cochlin及びアネキシンA2に関するウエスタンブロット分析プロービングに供した。細胞をトリプシン処理し(Mediatech)、1,000RPMで5分間遠心分離した。上澄みを廃棄し、タンパク質抽出緩衝液(TMタンパク質抽出について記載されている)を添加した。細胞を10,000RPMで10分間再び遠心分離した。次いで、得られた上澄みを保存し、ウエスタンブロット分析に使用した。
【0046】
Ussing型チャンバ実験:Ussing型チャンバ(カタログ番号USS1L、World Precision Instrument,Inc.)を使用してPVDF膜(カタログ番号75696E、Pall Life Sciences,Pensacola FL)を横断するフルオレセイン流(フルオレセインナトリウム染料)を測定した。線維柱帯細胞をPVDF膜にて上記のように培養した。細胞をプレーティングする前に、コラーゲンマトリクス(Rat Tail Collagen、カタログ番号BD354249)の層を膜上に形成し、膜へのTM細胞の付着を促進した。細胞に、16〜24時間にわたって融合性単層を形成させ、次いで、別の細胞層をこの単層上にプレーティングした。このプロセスを繰り返し、細胞の融合性の三層を最終的に得た。細胞を対象のDNA[TREK−1+cochlin、TREK−1及びRPE65、TREK−1、トランスフェクション剤(Lipofectamine 2000)(Invitrogen)]によってトランスフェクトするか、またはトランスフェクトしないままにした。トランスフェクション後24〜36時間で、膜を、1XDPBS中の膜浴を横切る流れを作り出す蠕動ポンプに接続された装置の半チャンバ間に置いた。膜を横切る流れを測定するために、フルオレセインナトリウム染料を使用した(1mg/mlの1:100希釈)。染料を一方の半チャンバに導入し、等量(100μl)を注入後5分で他方の半チャンバから吸引した。フルオレセイン強度を、分光光度計を使用して測定した。
【0047】
インビトロでのcochlin析出物の形成を実証するために、cochlin処理TM細胞を、上記のように一連の3層の融合層において、.45μMのポアサイズを有するPVDF膜(Pall Life Sciences)上で培養した。次いで、膜を、重力によって膜を通過させる血清不含細胞培養培地(DMEM 1X、Mediatech Inc)の静止カラムに接続されたUssing型チャンバの2つの半容器間に置き、通過の結果として細胞層上に剪断応力を生じさせた。このように配置したセットアップを12時間維持し、この後、膜をO.C.Tに包埋し、液体窒素を使用して固化させて切開を可能にした。得られた切片を、cochlin原発性抗体(Aves Labs)を使用し、また、共焦点セットアップ(Leica DM6000B)を使用して撮像する、cochlinタンパク質に関する免疫組織化学的分析プロービングに供した。
【0048】
コラーゲンゲルの拡大及び/または収縮アッセイ:ヒドロゲル溶液を、10X MEM(カタログ番号11430、Invitrogen)、重炭酸ナトリウム(カタログ番号S5761 Sigma−Aldrich)、L−グルタミン(Sigma−Aldrich)、HEPES(カタログ番号15630、Invitrogen)を使用して調製した。以下の溶液を各トランスフェクションタイプについて別個のチューブに等分した。トランスフェクション複合体を、製造者の調製ガイドラインに従って、トランスフェクション剤(Lipofectamine 2000、Invitrogen)及び所望のDNAベクターの0.4ug/uLの比の混合物を含む個々のチューブにおいて調製した。線維柱帯細胞をトリプシン処理した融合層から得、25cm2細胞培養フラスコ(カタログ番号353109、Becton Dickinson,Franklin Lakes,NJ)において800RPMで5分間沈殿させた。次いで、細胞ペレットを血清不含DMEM1X、(Mediatech)培地において再懸濁させ、十分混合し、最終的に、それぞれ各トランスフェクション−複合体含有容器内に等しく等分した。反応を45分間生じさせ、その後、細胞培養培地及びラット尾コラーゲン(カタログ番号354249、BD,San Jose,CA)の添加によって終了させ、ゲル重合を開始した。懸濁液を吸引によって穏やかに混合し、1mLの単回使用の針シリンジ内に吸引し、ホウケイ酸ガラス毛管(O.D−1.0mm、IN.D−0.75mm)(カタログ番号TW100−6、WPI)内に注入して、その体積のおよそ半分にした。調製した全ての毛管のデジタル写真のスナップショットをブランク背景に対してミリメートルスケールで撮り、24及び48時間で繰り返した。ヒドロゲル含有毛管を湿気チャンバ内でインキュベートし、37℃及び5%CO2において細胞株のインキュベータにおける脱水を防止した。得られた写真を、ゲルの対向端における選択された点の間で測定するImageJ(v.1.43u)を使用して分析した。集積された長さデータを、Microsoft Excel(XP)を使用して統計的に分析した。
【0049】
弾性率の決定:ヒトドナーの眼または角膜ボタンを種々のアイバンクから得た。ドナーの年齢の範囲は37〜80歳であった。組織を角膜保存培地(Optisol;Chiron Ophthalmics Irvine,CA)において4℃で維持した後、解剖してTMを除去した。サンプルを、眼科ナイフ(World Precision Instrument Inc.,Sarasota,FL)による虹彩及びブドウ膜組織の解剖によって調製した。ヒトTMをかみそりによって切開して長さ1cm未満のサンプルを与え、切片を鉗子によって角から除去した。組織を、JCTのシュレム管SC側をプローブしてステンレス鋼AFMディスクの中心でシアノアクリレート膠によって線維柱帯領域に固定するようにして、配向した。AFM分析を1Xリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で実施した。供与から分析までの平均時間は正常で9±2日、緑内障サンプルで10±4日であった(表1(図11))。
【0050】
AFMによって調査した組織の領域の特性決定のために、複数の正常角膜ボタンを種々の調製段階で組織病理用に処理した。ドナー組織を、損傷していない縁の楔状物、ブドウ膜組織の鋭的剥離後の縁の楔状物、単離したヒトTM(縦断面及び横断面)、ならびにHTM単離後の縁の楔状物として、常套の組織学用に処理した。全てのサンプルを24〜48時間固定して常套的に処理し、単離したヒトTMの切片を縦断面または横断面サンプリングのいずれかに配向した。これらを包埋した後、サンプルを4μmで切開し、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した。
【0051】
力曲線を走査プローブ顕微鏡(Nanoscope IIIa Multimode;Veeco Instruments,Inc.,Santa Barbara,CA)によって取得した。サンプルを乾燥することなくAFMに移し、市販の液体セル(Veeco Instruments,Inc.)に入れた。先端としてホウケイ酸球(1μm半径;Novascan Technologies,Inc.,Ames,IA)を有する窒化ケイ素カンチレバーを使用してヒトTMの広範囲をサンプリングした。カンチレバーの公称ばね定数は0.06N/mであった。力曲線を、少なくとも10の異なる箇所で、サンプル上のランダムな各箇所でまたは各測定箇所がおよそ50μm離れているラインにおいて得た。本発明者らは、各箇所における2μm/sの速度で取った各力曲線及び最小の3つの力曲線による、ランダムな箇所でのデータを取得した。非線形挙動を示すデータを分析に含めなかった。表面との広い接着を経験したデータも分析から除外した。最小の3箇所を使用して平均弾性率を算出した。データの分析をLastら(2011)によって記載されている手順を利用して実施した。
【0052】
弾性率の決定を、確立されたプロトコル(Russell,P.and Johnson,M.Invest Ophthalmol Vis Sci.53:117,2012)に従った原子間力顕微鏡法(AFM)を使用して実施した。各群(対照及びPOAG)においてn=6でドナーを利用した。最大6時間以内に摘出し、摘出の7日以内に得た全てのドナーの眼が許容可能であった。測定の前に、TM組織を注意深く解剖し、弾性率の決定に使用した。簡潔には、サンプルを含むペトリ皿を、AFMカンチレバーを含むポリメタクリル酸メチル(PMMA)ブロックの下に置いた。AFMホウケイ酸ガラス粒子カンチレバー先端(2umの先端半径、0.06N/mのばね定数、Novascan Technologies,Ames,IA)を、先端が組織の表面に接触するまで、圧電機構(60μmの最大拡大、P−841.40,Physik Instrumente,Germany)を使用してサンプル上に位置付けた。サンプルの下方のカメラに接続した顕微鏡対物を使用してカンチレバーを観察した。全ての実験を室温で実施した。ヤング率を、球状圧子についてHertzモデルを利用して特注開発のMatlabソフトウエアを使用して決定した。平均及び標準偏差を、取得したデータを使用して算出した。
【0053】
脂質の局所適用及びIOPの測定:脂質を10pmolの脂質を含む1μlの液滴として局所適用した。圧力を、トノラボ(Colonial Medical Supplies,NH)を用いてまたは本研究室で使用されている組立挿管デバイスを用いて測定した。初期アセスメントは、10%DMSOをビヒクルとして利用した。しかし、ここでの全ての報告データは5%DMSOを利用した。
実施例2−IOPを調節するまたは低下させる脂質種の例
【0054】
ホスファチジルコリン:
PC(22:1(11Z)/22:6(4Z,7Z,1OZ,13Z,16Z,19Z));1−(11Z−ドコセノイル)−2−(4Z,7Z,1OZ,13Z,16Z,19Zドコサヘキサエノイル)−グリセロ−3−ホスホコリン;CS2HgoNOaP
PC(12:0/14:1(9Z))
PC(13:0/20:5(5Z,SZ,11Z,14Z,17Z))
PC(17:1(9Z)/22:6(4Z,7Z,1OZ,13Z,16Z,19Z))
PC(O−16:0/17:0)
PC(O−16:0/0−16:0)
PC(P−1S:0/17:2(9Z,12Z))
PC(13:0/20:4(5Z,SZ,11Z,14Z))
PC(15:0/1S:2(9Z,12Z))
PC(16:0/20:5(5Z,SZ,11Z,14Z,17Z))
PC(16:1(9Z)/22:6(4Z,7Z,1OZ,13Z,16Z,19Z))
PC(17:0/1S:1(9Z))
PC(17:1(1OZ)/O:O)
PC(1S:1(11Z)/22:6(4Z,7Z,1OZ,13Z,16Z,19Z))
PC(1S:3(9Z,12Z,15Z)/O:O)
PC(1S:4(9E,11E,13E,15E)/O:O)
PC(20:3(SZ,11Z,14Z)/O:O)
PC(21:4(6Z,9Z,12Z,15Z)/O:O)
PC(22:6(4Z,7Z,1 OZ,13Z,16Z,19Z)/22:6(4Z,7Z,1OZ,13Z,16Z,19Z));1,2−ジ−(4Z,7Z,1OZ,13Z,16Z,19Z−ドコサヘキサエノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホコリン;CS2HaoNOaP
PC(25:0/1S:0)
PC(O−12:0/0−12:0)
PC(P−15:0/0:0)
【0055】
ホスファチジルセリン−調査した中で、マウスモデルにおけるIOPの低下において最も有効:
PS(1S:3(6Z,9Z,12Z)/20:5(5Z,SZ,11Z,14Z,17Z));1−(6Z,9Z,12Z−オクタデカトリエノイル)−2−(5Z,SZ,11Z,14Z,17Z−エイコサペンタエノイル)−グリセロ−3−ホスホセリン;C44H70NOlOP
PS(14:0/0:0)
PS(17:0/0:0)
PS(14:0/12:0)
PS(P−16:0/14:1(9Z))
PS(O−16:0/15:0)
PS(15:0/22:0)
PS(19:0/21:0)
PS(20:0/22:4(7Z,1OZ,13Z,16Z))
PS(20:2(11Z,14Z)/22:6(4Z,7Z,1 OZ,13Z,16Z,19Z));1−(11Z,14Z−エイコサジエノイル)−2−(4Z,7Z,1OZ,13Z,16Z,19Z−ドコサヘキサエノイル)−グリセロ−3−ホスホセリン;C48H78N01QP
PS(22:6(4Z,7Z,1OZ,13Z,16Z,19Z)/20:5(5Z,8Z,11Z,14Z,17Z));1−(4Z,7Z,1OZ,13Z,16Z,19Zドコサヘキサエノイル)−2−(5Z,8Z,11Z,14Z,17Z−エイコサペンタエノイル)−グリセロ−3−ホスホセリン;
C48H72N01QP
PS(O−16:0/12:0)
【0056】
ホスファチジルエタノールアミン:
PE(18:1(9E)/18:1(9E))
PE(18:3(6Z,9Z,12Z)/22:6(4Z,7Z,1OZ,13Z,16Z,19Z))
実施例3−電子顕微鏡法及び関連方法による、非緑内障対緑内障AHにおけるより高いPSレベルの実証
【0057】
電子顕微鏡法:対照及びPOAGドナーからのヒト房水を15,000rpmで4℃にて15分間遠心分離した。上方の水相及び下方のペレットを電子顕微鏡(EM)の銅またはニッケルグリッド上で別々に浮揚または沈没させた。OsO4蒸気を使用して、もしくは2%のリンタングステン酸(PTA)によって、または両方によって、若干変更されている、以前に公開された方法に従って染色を実施した。簡単には、ニッケルグリッドを上相の液滴または下方の房水ペレットにおいて10分間浮揚させた。銅グリッドを房水の下相ペレットにおいて20分間沈没させた。ニッケルグリッドを4%の水性OsO4蒸気に30分間暴露させた。銅グリッドを、ニッケルグリッドと同じく、0.1Mリン酸緩衝液において浮揚させ、排出させて、4%の水性OsO4及び2%のリンタングステン酸に供した。一部のグリッドもまた、2%のグルタルアルデヒドによって5分間固定し、0.1Mリン酸緩衝液で濯ぎ、4%の酢酸ウラニルによって8分間染色した。全てのグリッドをPhilips CM10電子顕微鏡で検査した。電子顕微鏡法の倍率は、個々の場合において記述しているように300,000×または200,000×であった。
【0058】
結果:POAG房水ではなく対照が脂質ベシクル様構造を示し、これは、POAG患者と比較して正常の対照においてより高レベルのホスファチジルセリン(PS)を示す、質量分析による房水の分析と一致していた。これらの結果を図12に示す。
実施例4−インビボでの霊長類における本開示のIOP低下の組成物。
【0059】
実験設計:6つの脂質のIOP低下活性をカニクイザル(各脂質についてn=4動物)の眼において試験した。各動物群について、基準値の細隙灯顕微鏡検査(SLE)及びIOPを脂質の局所適用の前に測定した。次いで、SLE及びIOPを処置後3〜6時間で測定した。各サルの一方の眼はビヒクル(1%ジメチルスルホキシド(DMSO))に懸濁させた脂質による局所適用を受け、反対側の眼をビヒクルのみで処置した。全ての局所適用は10pmolの脂質を含有した(50nMであるC17S1Pを除く)。選択範囲が、正常個体における健康な眼において、ならびに正常眼圧のマウスの眼において自然に生じたことが見出された。IOPを小型のゴールドマン圧平眼圧計を使用して測定した。
【0060】
結果:結果を図13に要約する。Lyso−PS、C17S1P及びPS(18:1)は、さらなる副作用または毒性なしに、正常眼圧のサルにおけるIOPを有意に低下させた。
他の実施形態
【0061】
組成物、キット、及び方法工程の一部または全てにおいて任意の改良がなされてよい。本明細書において列挙されている公報、特許出願及び特許を含めた全ての参考文献が、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書において提供されている任意及び全ての例または例示的用語(例えば、「など」)の使用は、本発明の理解を容易にすることが意図されており、別途特許請求されていない限り本発明の範囲の限定を提起していない。本発明または好ましい実施形態の性質または利益についてのいずれの記述も限定的であることは意図されておらず、添付の特許請求の範囲は、かかる記述によって限定されると見なされるべきではない。より一般的には、本明細書におけるいずれの用語も、任意の特許請求されていない要素が本発明の実施に必須であるとして示していると解釈されるべきではない。本発明は、適用法によって許可される本明細書に添付の特許請求の範囲に列挙されている主題の全ての変更及び等価物を含む。さらに、上記要素の、その全ての起こり得る変形における任意の組み合わせが、本明細書において別途示されない限りまたは文脈によって明らかに禁忌であるとされない限り、本発明に包含される。
図1
図2
図3
図4
図5A-5C】
図6A-6C】
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A-9C】
図10A-10B】
図11
図12
図13
【国際調査報告】