特表2017-512208(P2017-512208A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-512208(P2017-512208A)
(43)【公表日】2017年5月18日
(54)【発明の名称】IgA多重特異性結合分子
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/08 20060101AFI20170414BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20170414BHJP
   C07K 16/10 20060101ALI20170414BHJP
   C07K 16/12 20060101ALI20170414BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20170414BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20170414BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20170414BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20170414BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20170414BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20170414BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20170414BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20170414BHJP
   A61K 47/50 20170101ALI20170414BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20170414BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20170414BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20170414BHJP
【FI】
   C07K16/08ZNA
   C07K16/00
   C07K16/10
   C07K16/12
   A61P31/00
   A61P31/04
   A61P31/12
   A61P31/16
   A61P31/14
   A61K39/395 Q
   A61K39/395 D
   A61K45/00
   A61K37/02
   A61K47/48
   A61K47/42
   A61K39/395 R
   A61K39/395 S
   G01N33/531 A
   C12P21/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】47
(21)【出願番号】特願2016-568481(P2016-568481)
(86)(22)【出願日】2015年2月10日
(85)【翻訳文提出日】2016年10月7日
(86)【国際出願番号】US2015015268
(87)【国際公開番号】WO2015120474
(87)【国際公開日】20150813
(31)【優先権主張番号】61/937,984
(32)【優先日】2014年2月10日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】516067276
【氏名又は名称】アイジーエム バイオサイエンス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ケイト, ブルース
(72)【発明者】
【氏名】プレスタ, レナード ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】チャン, フェン
(72)【発明者】
【氏名】キャロル, スティーヴン エフ.
【テーマコード(参考)】
4B064
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG26
4B064AG27
4B064BJ12
4B064CC30
4B064DA01
4B064DA13
4C076AA95
4C076CC32
4C076CC35
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA03
4C084BA41
4C084BA42
4C084DA32
4C084NA13
4C084ZB321
4C084ZB322
4C084ZB331
4C084ZB351
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA15
4C085AA16
4C085AA25
4C085AA27
4C085BB31
4C085BB33
4C085BB41
4C085BB42
4C085BB43
4C085CC23
4C085DD52
4C085EE01
4C085GG06
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA40
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA50
(57)【要約】
本発明は、IgA多重特異性結合分子に関する。具体的には、本発明は、二重特異性を含む多重特異性の、IgA重鎖配列を含む結合分子、ならびにそれらの調製及び使用のための方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの結合単位及び少なくとも2つの結合特異性を含む、多重特異性結合分子であって、前記結合単位の各々が、結合標的に対する結合領域に複合された2つのIgA重鎖定常領域配列を含む、多重特異性結合分子。
【請求項2】
二重特異性である、請求項1に記載の多重特異性結合分子。
【請求項3】
前記結合単位の各々が、単一特異性(AA、BB)であり、各々が、異なる結合標的(それぞれ、A及びB)に結合する、請求項2に記載の多重特異性結合分子。
【請求項4】
前記2つの結合単位のうちの一方が、単一特異性(AA)であり、他方の結合単位が、二重特異性であり、二重特異性結合単位の結合特異性のうちの一方が、単一特異性結合単位の結合特異性(AB)と同じである、請求項2に記載の多重特異性結合分子。
【請求項5】
前記結合単位の各々が、二重特異性であり、各々が、同じ2つの結合特異性(AB、AB)を有する、請求項2に記載の多重特異性結合分子。
【請求項6】
前記結合単位の各々が、二重特異性であり、結合分子が、3つの結合特異性(AB、AC)を有する、請求項1に記載の多重特異性結合分子。
【請求項7】
前記結合単位の各々が、二重特異性であり、結合分子が、4つの結合特異性(AB、CD)を有する、請求項1に記載の多重特異性結合分子。
【請求項8】
IgA抗体であり、前記結合領域配列が、IgA重鎖可変領域配列を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の多重特異性結合分子。
【請求項9】
IgA1である、請求項8に記載の多重特異性結合分子。
【請求項10】
配列番号1の重鎖定常領域配列を含む、請求項9に記載の多重特異性結合分子。
【請求項11】
IgA2である、請求項8に記載の多重特異性結合分子。
【請求項12】
配列番号2の重鎖定常領域配列を含む、請求項11に記載の多重特異性結合分子。
【請求項13】
端と端とをつなぐ構成で2つのIgA結合単位を含み、各々が、IgA重鎖可変領域配列に融合されたIgA重鎖定常領域配列を含む、請求項8に記載の多重特異性結合分子。
【請求項14】
IgAJ領域を更に含む、請求項9に記載の多重特異性結合分子。
【請求項15】
前記J領域が、配列番号3の配列を含む、請求項14に記載の多重特異性結合分子。
【請求項16】
前記IgA重鎖定常領域配列が、少なくともCA3ドメインを含む、請求項8に記載の多重特異性結合分子。
【請求項17】
2つの結合単位のうちの少なくとも一方においてIgA重鎖可変領域配列と会合した少なくとも1つのIgA軽鎖可変領域配列を更に含む、請求項16に記載の多重特異性結合分子。
【請求項18】
2つの結合単位の各々においてIgA重鎖可変領域配列と会合したIgA軽鎖可変領域配列を含む、請求項16に記載の多重特異性結合分子。
【請求項19】
2つの結合単位のうちの少なくとも一方が、二重特異性であり、非対称の界面が、2つの異なるIgA重鎖定常領域間で作り出される、請求項16に記載の多重特異性結合分子。
【請求項20】
非対称の界面が、ノブ・イントゥ・ホールカップリング及び/または塩橋カップリングによって作り出される、請求項19に記載の多重特異性結合分子。
【請求項21】
非対称の界面が、表1及び2に記載される1つ以上の修飾によって作り出される、請求項20に記載の多重特異性結合分子。
【請求項22】
前記軽鎖可変領域配列が、軽鎖と重鎖との間に非対称の界面を作り出すことによって、その一致する重鎖可変領域にカップリングされる、請求項17または請求項18に記載の多重特異性結合分子。
【請求項23】
非対称の界面が、CrossMab技法、ノブ・イントゥ・ホールカップリング、及び/または塩橋カップリングによって作り出される、請求項22に記載の多重特異性結合分子。
【請求項24】
毒素に複合される、請求項1〜23のいずれか1項に記載の多重特異性結合分子。
【請求項25】
化学療法剤に複合される、請求項1〜23のいずれか1項に記載の多重特異性結合分子。
【請求項26】
複合体化が融合によるものである、請求項24または請求項25に記載の多重特異性結合分子。
【請求項27】
複合体化が化学リンカーによるものである、請求項24または請求項25に記載の多重特異性結合分子。
【請求項28】
前記IgA抗体がキメラまたはヒト化抗体である、請求項8〜27のいずれか1項に記載の多重特異性結合分子。
【請求項29】
呼吸器合抱体ウイルス(RSV)の異なる抗原に特異的に結合する、多重特異性二量体IgA抗体。
【請求項30】
二重特異性である、請求項29に記載の多重特異性二量体IgA抗体。
【請求項31】
RSV Fに対する2つの結合部分及びRSV Gに対する2つの結合部分を含む、請求項30に記載の多重特異性二量体IgA抗体。
【請求項32】
RSV Gに対する結合部分が、配列番号10の重鎖可変領域配列及び配列番号11の軽鎖可変領域を含む、請求項31に記載の多重特異性二量体IgA抗体。
【請求項33】
RSV Fに対する結合部分が、配列番号12の重鎖可変領域配列及び配列番号13の軽鎖可変領域配列を含む、請求項31または請求項32に記載の多重特異性二量体IgA抗体。
【請求項34】
異なるインフルエンザAウイルス抗原に特異的に結合する、多重特異性二量体IgA抗体。
【請求項35】
二重特異性であり、各インフルエンザAウイルス抗原への2つの結合部分を含む、請求項34に記載の多重特異性二量体IgA抗体。
【請求項36】
第1のインフルエンザAウイルス抗原への結合部分が、配列番号14の重鎖可変領域配列及び配列番号15の軽鎖可変領域配列を含む、請求項35に記載の多重特異性二量体IgA抗体。
【請求項37】
第2のインフルエンザAウイルス抗原への結合部分が、配列番号16の第1の可変領域配列を含む、請求項35または請求項36に記載の多重特異性二量体IgA抗体。
【請求項38】
第2のインフルエンザAウイルス抗原への結合部分が、配列番号17の第2の可変領域配列を含む、請求項35〜37のいずれか1項に記載の多重特異性二量体IgA抗体。
【請求項39】
Clostridium difficile(C.difficile)の異なる抗原に特異的に結合する、多重特異性二量体IgA抗体。
【請求項40】
二重特異性である、請求項39に記載の多重特異性二量体IgA抗体。
【請求項41】
C.difficileの毒素Aに対する2つの結合部分及び毒素Bに対する2つの結合部分を含む、請求項40に記載の多重特異性二量体IgA抗体。
【請求項42】
毒素Aへの結合部分が、配列番号18の重鎖可変領域配列を含む、請求項41に記載の多重特異性二量体IgA抗体。
【請求項43】
毒素Aへの結合部分が、配列番号19の軽鎖可変領域配列を含む、請求項42に記載の多重特異性二量体IgA抗体。
【請求項44】
毒素Bへの結合部分が、配列番号20の第1の可変領域配列を含む、請求項42または請求項43に記載の多重特異性二量体IgA抗体。
【請求項45】
毒素Bへの結合部分が、配列番号21の第2の可変領域配列を含む、請求項42〜44のいずれか1項に記載の多重特異性二量体IgA抗体。
【請求項46】
請求項1〜45のいずれか1項に記載の多重特異性IgA結合分子を少なくとも約70%含む、組成物。
【請求項47】
有効量の請求項1〜45のいずれか1項に記載の多重特異性IgA結合分子を、薬学的に許容される担体と混和して含む、薬学的組成物。
【請求項48】
微生物感染の治療のための請求項47に記載の薬学的組成物。
【請求項49】
前記微生物感染が細菌感染である、請求項48に記載の薬学的組成物。
【請求項50】
細菌感染がC.difficile感染である、請求項49に記載の薬学的組成物。
【請求項51】
ウイルス感染の治療のための請求項47に記載の薬学的組成物。
【請求項52】
ウイルス感染が呼吸器ウイルス感染である、請求項51に記載の薬学的組成物。
【請求項53】
呼吸器ウイルス感染がインフルエンザウイルス感染である、請求項52に記載の薬学的組成物。
【請求項54】
呼吸器ウイルス感染が呼吸器合抱体ウイルス(RSV)感染である、請求項52に記載の薬学的組成物。
【請求項55】
有効量の請求項1〜27のいずれか1項に記載の多重特異性IgA結合分子を投与することを含む、対象における微生物感染の治療のための方法。
【請求項56】
対象がヒト患者である、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
多重特異性IgA結合分子がIgA抗体である、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
IgA抗体が二量体二重特異性IgA抗体である、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記IgA抗体がヒト化またはキメラ抗体である、請求項57または請求項58に記載の方法。
【請求項60】
微生物感染が細菌感染である、請求項55〜59のいずれか1項に記載の方法。
【請求項61】
細菌感染がdifficile感染である、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
微生物感染がウイルス感染である、請求項55〜59のいずれか1項に記載の方法。
【請求項63】
ウイルス感染が呼吸器ウイルス感染である、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
呼吸器ウイルス感染がインフルエンザウイルス感染である、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
呼吸器ウイルス感染が呼吸器合抱体ウイルス(RSV)感染である、請求項63に記載の方法。
【請求項66】
対象における微生物感染の治療のための医薬の調製における、有効量の請求項1〜27のいずれか1項に記載の多重特異性IgA結合分子の使用。
【請求項67】
対象がヒト患者である、請求項66に記載の使用。
【請求項68】
多重特異性IgA結合分子がIgA抗体である、請求項67に記載の使用。
【請求項69】
IgA抗体が二量体二重特異性IgA抗体である、請求項68に記載の使用。
【請求項70】
前記IgA抗体がヒト化またはキメラ抗体である、請求項68または請求項69に記載の使用。
【請求項71】
微生物感染が細菌感染である、請求項66〜70のいずれか1項に記載の使用。
【請求項72】
細菌感染がdifficile感染である、請求項71に記載の使用。
【請求項73】
微生物感染がウイルス感染である、請求項66〜70のいずれか1項に記載の使用。
【請求項74】
ウイルス感染が呼吸器ウイルス感染である、請求項73に記載の使用。
【請求項75】
呼吸器ウイルス感染がインフルエンザウイルス感染である、請求項74に記載の使用。
【請求項76】
呼吸器ウイルス感染が呼吸器合抱体ウイルス(RSV)感染である、請求項73に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2014年2月10日出願の米国仮特許出願第61/937,984号の優先権及び利益を主張するものであり、該出願の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出されており、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる配列表を含む。該ASCIIコピー(2015年2月10日作成)は、IGM−0003PCT_SL.txtと名付けられ、73,879バイトのサイズである。
【0003】
本発明は、IgA多重特異性結合分子に関する。具体的には、本発明は、二重特異性を含む多重特異性の、IgA重鎖配列を含む結合分子、ならびにそれらの調製及び使用のための方法に関する。
【背景技術】
【0004】
ヒト化抗体の到来以来、Rituxan(登録商標)(リツキシマブ)、Herceptin(登録商標)(トラスツズマブ)、及びAvastin(登録商標)(ベバシズマブ)等の抗体の治療的使用は、腫瘍学、関節リウマチ等の炎症障害、及び多くの他の適応症の治療を含む、医学分野に革命をもたらしてきた。米国においては、30種を超えるヒトまたはヒト化抗体が臨床使用のために認可されており、600種を超える新たな抗体または抗体様分子が種々の開発段階にある。幾つかの抗体は、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)または腫瘍壊死因子(TNF)等の、それらの作用が疾患の病理過程の一部である、可溶性の標的分子上で拮抗機能を有する。代替的に、抗体は、癌等のある特定の疾患において病的細胞を結合、遮断、及び/または病的細胞の破壊を誘発することができる。これらの治療抗体の主な機能は、Fab領域を通した結合、及びFcドメイン(それはまた抗体の長期の循環半減期を媒介もする)を介したエフェクター機能の動員である。小分子薬物と比較した抗体の主要な利点のうちの1つは、それらの精巧な特異性であり得る。抗体は、非常に類似した相同体を除外して、癌遺伝子生成物等の選択されたタンパク質抗原を非常に正確に標的化することができ、良好な安全性プロフィールを可能にする。よって、抗体は、特異的な単一標的化機能を明確な特徴とする。
【0005】
この分野が進歩するにつれて、抗体機能は、より高い親和性、より長い半減期、及び/またはよりよい組織分布を提供するため等の、クリエイティブなタンパク質操作の手段、ならびに有毒なペイロード送達を介した細胞破壊の集中度を高めるための小分子及び大分子技術の組み合わせ(例えば、抗体−薬物複合体)を通して向上されてきた。抗体機能を改善するための別のアプローチでは、1つのIgG分子が2つの抗原に結合することを可能にする、免疫グロブリンG(IgG)構造の二価結合を活用する。実際、ある特定の用途において、2つの異なる標的抗原に同時に結合することによって有用な機能を発揮する、非対称の抗体の大きな潜在性が存在する。この必要性に取り組むために、2つの異なる抗原に結合することができ、自然界でかつて見たことのない機能を可能にする単一分子を生み出すために、多様な構築物が作製されてきた。この二重特異性アプローチの一例は、それぞれT細胞及びB細胞上にあるCD3及びCD19受容体に結合する、「ブリナツムマブ」(MT103)である。この細胞傷害性T細胞の癌性B細胞へのテザリングは、B細胞性白血病の有効な治療を可能にする。
【0006】
しかしながら、二重特異性抗体の構築、発現、及び作製には大きな技術的困難がいまだに存在する。二重特異性抗体は、2つの異なる抗原に同時に結合するそれらの能力に起因して、有望な治療剤と見なされているものの、それらの実用性は、安定性及び製造の複雑さの問題のために限定されている。
【0007】
異種性の重鎖をマッチングし、加えて重鎖及び軽鎖の適切な対のマッチングを行って、二重特異性IgGを効率的に生み出すために、タンパク質操作の種々の形態が使用されてきた。更に、選択されたヘテロ二量体化ドメイン及び2つの最小の抗原結合部位からなる最小サイズの組換え構築物を使用した、クアドローマ、化学的ヘテロ複合体(heteroconjugates)、組換え構築物を含む、種々の二重特異性抗体形式。
【0008】
しかしながら、これらの努力の全ては、困難に満ちていた。
【0009】
故に、二重特異性治療用抗体の開発に向けられる努力にもかかわらず、二重及び多重特異性抗体のより効率的で柔軟性のある作製につながり得、それによって、かかる治療薬の発見とその臨床的導入との間のタイムラインを短縮し、また多数の特異性及び/または結合価を有する新たな種類の抗体形式の設計及び作製を可能にする、より効率的なプラットフォームを開発するための多大な必要性がいまだに存在する。
【0010】
これは、細菌及びウイルス感染を含む感染に対する身体の第1の特異的な免疫防御におけるIgAの関与、ならびに粘膜免疫系の液性部分への二量体IgA抗体の寄与を考慮すると、IgA抗体にとって特に当てはまる。二重及び多重特異性IgA抗体はしたがって、呼吸器ウイルス感染、胃腸管の種々の細菌感染の治療、及び癌の免疫療法における大きな潜在性を有する。故に、呼吸器合抱体ウイルス(RSV)抗原に対する二重特異性IgA抗体は、肺のRSV感染の治療において実用性を見出し、インフルエンザウイルスに対する二重特異性IgA抗体は、インフルエンザの治療に有効であり、Clostridium difficile(C.difficile)毒素A及びBに対する二重特異性IgA抗体は、入院患者の感染性下痢のほとんどの原因であるC.difficile感染を治療するのに有用である。
【発明の概要】
【0011】
一態様において、本発明は、2つの結合単位及び少なくとも2つの結合特異性を含む、多重特異性結合分子に関し、該結合単位の各々が、結合標的に対する結合領域に複合された2つのIgA重鎖定常領域配列を含む。
【0012】
一実施形態において、該多重特異性結合分子は、二重特異性である。特定の実施形態において、二重特異性結合分子内で、該結合単位の各々は、単一特異性(AA、BB)であり、各々が、異なる結合標的(それぞれ、A及びB)に結合する。別の実施形態において、二重特異性結合分子内で、該2つの結合単位のうちの一方は、単一特異性(AA)であり、他方の結合単位は、二重特異性であり、該二重特異性結合単位の該結合特異性のうちの一方が、該単一特異性結合単位の該結合特異性と同じである(AB)。なおも別の実施形態において、二重特異性結合分子内で、該結合単位の各々は、二重特異性であり、各々が、同じ2つの結合特異性(AB、AB)を有する。更なる実施形態において、二重特異性結合分子内で、該結合単位の各々は、二重特異性であり、該結合分子は、3つの結合特異性(AB、AC)を有する。依然として更なる実施形態において、二重特異性結合分子内で、該結合単位の各々は、二重特異性であり、該結合分子は、4つの結合特異性(AB、CD)を有する。
【0013】
具体的な実施形態において、該多重特異性結合分子はIgA抗体であり、該結合領域配列が、IgA重鎖可変領域配列を含む。
【0014】
更なる実施形態において、該IgA抗体は、2つのIgA結合単位を含み、各々が、IgA重鎖可変領域配列に融合されたIgA重鎖定常領域配列を含み、任意選択的にIgA J領域を更に含む。
【0015】
別の実施形態において、該IgA重鎖定常領域配列は、少なくともCA3ドメインを含む。
【0016】
なおも別の実施形態において、該多重特異性結合分子、例えば二重特異性IgA抗体は、該2つの結合単位のうちの少なくとも一方において、好ましくは該2つの結合単位の各々において、該IgA重鎖可変領域配列と会合した少なくとも1つのIgA軽鎖可変領域配列を更に含む。
【0017】
一実施形態において、該2つの結合単位のうちの少なくとも一方が二重特異性である場合、非対称の界面が、表1及び2に記載される1つ以上の修飾によって等で、例えばノブ・イントゥ・ホールカップリング及び/または塩橋カップリングによって、2つの異なるIgA重鎖定常領域間に作り出される。
【0018】
更なる実施形態において、少なくとも1つの軽鎖可変領域を含む多重特異性(例えば二重特異性)IgA抗体内で、該軽鎖可変領域配列は、例えば、CrossMab技法、ノブ・イントゥ・ホールカップリング、及び塩橋カップリングのうちの1つ以上を使用して、該軽鎖と重鎖との間に非対称の界面を作り出すことによって、その一致する重鎖可変領域にカップリングされる。
【0019】
本発明の全ての実施形態において、該多重特異性結合分子は、毒素に及び/または化学療法剤に複合されてもよく、該複合体化は、融合によるもの及び/または化学リンカーによるものであってもよい。
【0020】
本発明の全ての実施形態において、該多重特異性IgA抗体は、キメラまたはヒト化もしくはヒトであってもよい。
【0021】
別の態様において、本発明は、本発明の多重特異性結合分子を少なくとも約70%含む、組成物に関する。
【0022】
更なる具体的な実施形態において、本発明は、二量体二重特異性IgA結合分子に関し、該結合単位の各々が、単一特異性(AA、BB)であり、各々が、異なる結合標的(それぞれ、A及びB)に結合する。別の実施形態において、該2つの結合単位のうちの一方は、単一特異性(AA)であり、他方の結合単位は、二重特異性であり、該二重特異性結合単位の該結合特異性のうちの一方が、該単一特異性結合単位の該結合特異性と同じである(AB)。更なる実施形態において、該結合単位の各々は、二重特異性であり、各々が、同じ2つの結合特異性(AB、AB)を有する。依然として更なる実施形態において、該結合単位の各々は、二重特異性であり、該結合分子は、3つの結合特異性(AB、AC)を有する。なおも別の実施形態において、該結合単位の各々は、二重特異性であり、該結合分子は、4つの結合特異性(AB、CD)を有する。全ての実施形態において、該結合分子は好ましくは、好ましくは軽鎖を含む、好ましくはJ鎖を含む、二量体二重特異性IgA(IgA1またはIgA2)抗体である。
【0023】
具体的な実施形態において、該多重特異性結合分子は、端と端とをつなぐ構成で2つのIgA結合単位を含み、各々が、IgA重鎖可変領域配列に融合されたIgA重鎖定常領域配列を含み、任意選択的にIgA J領域、例えば、配列番号3の配列を含むJ領域を更に含む。
【0024】
全ての実施形態において、該IgA重鎖定常領域配列は好ましくは、少なくともCA3ドメインを含む。
【0025】
全ての実施形態において、本明細書における多重特異性結合分子は、該2つの結合単位のうちの少なくとも一方において該IgA重鎖可変領域配列と会合した少なくとも1つのIgA軽鎖可変領域配列を更に含む。
【0026】
別の実施形態において、該結合単位のうちの少なくとも一方は、二重特異性であり、非対称の界面が、2つの異なるIgA重鎖定常領域間に作り出される。全ての実施形態において、該非対称の界面は、表1及び2に記載される1つ以上の修飾を用いて等で、ノブ・イントゥ・ホールカップリング及び/または塩橋カップリングによって作り出されてもよい。
【0027】
全ての実施形態において、該多重特異性結合分子内で、該軽鎖可変領域配列は、存在する場合、該軽鎖と重鎖との間に非対称の界面を作り出すことによって、その一致する重鎖可変領域にカップリングされてもよい。全ての実施形態において、該非対称の界面は、CrossMab技法、ノブ・イントゥ・ホールカップリング、及び/または塩橋カップリングによって作り出されてもよい。
【0028】
種々の更なる実施形態において、該多重特異性結合分子は、毒素または化学療法剤に複合されてもよく、複合体化は、例えば、共有結合によって、例えば融合によってまたは化学リンカーによって達成され得る。
【0029】
全ての実施形態において、本発明の多重特異性、例えば二重特異性IgA抗体は、キメラまたはヒト化であり得る。
【0030】
更なる実施形態において、本発明は、呼吸器合抱体ウイルス(RSV)の異なる抗原に特異的に結合する、多重特異性二量体IgA抗体に関する。本抗体は好ましくは、二重特異性であり、RSV Fに対する2つの結合部分及びRSV Gに対する2つの結合部分を含む。具体的な実施形態において、RSV Gに対する該結合部分は、配列番号10の重鎖可変領域配列及び配列番号11の軽鎖可変領域を含む。別の具体的な実施形態において、RSV Fに対する該結合部分は、配列番号12の重鎖可変領域配列及び配列番号13の軽鎖可変領域配列を含む。
【0031】
更なる実施形態において、本発明は、異なるインフルエンザAウイルス抗原に特異的に結合する、多重特異性二量体IgA抗体に関する。本抗体は好ましくは、二重特異性であり、各インフルエンザAウイルス抗原への2つの結合部分を含む。具体的な実施形態において、第1のインフルエンザAウイルス抗原への該結合部分は、は、配列番号14の重鎖可変領域配列及び配列番号15の軽鎖可変領域配列を含む。別の具体的な実施形態において、第2のインフルエンザAウイルス抗原への該結合部分は、配列番号16の第1の可変領域配列を含む。なおも別の具体的な実施形態において、該第2のインフルエンザAウイルス抗原への該結合部分は、配列番号17の第2の可変領域配列を含む。
【0032】
更なる実施形態において、本発明は、Clostridium difficile(C.difficile)の異なる抗原に特異的に結合する、多重特異性二量体IgA抗体に関する。本抗体は好ましくは、二重特異性である。好ましい実施形態において、該抗体は、C.difficileの毒素Aに対する2つの結合部分及び毒素Bに対する2つの結合部分を含む。具体的な実施形態において、毒素Aへの該結合部分は、配列番号18の重鎖可変領域配列を含む。別の具体的な実施形態において、毒素Aへの該結合部分は、配列番号19の軽鎖可変領域配列を含む。更に具体的な実施形態において、毒素Bへの該結合部分は、配列番号20の第1の可変領域配列を含む。なおも別の具体的な実施形態において、毒素Bへの該結合部分は、配列番号21の第2の可変領域配列を含む。
【0033】
別の態様において、本発明は、本明細書における多重特異性IgA結合分子のいずれかを少なくとも約70%含む、組成物に関する。
【0034】
更なる態様において、本発明は、有効量の本明細書における多重特異性IgA結合分子のいずれかを含む、薬学的組成物に関する。種々の実施形態において、該薬学的組成物は、例えば、C.difficile感染、呼吸器ウイルス感染、例えばインフルエンザウイルス感染もしくは呼吸器合抱体ウイルス(RSV)感染等の、細菌、ウイルス、及び真菌感染を含む微生物感染の治療のためのものであってもよい。
【0035】
依然として更なる態様において、本発明は、上に及び本開示全体を通して列挙されるありとあらゆる感染を具体的に含む、細菌、ウイルス、及び真菌感染を含む微生物感染を治療するための、治療方法及び薬学的組成物の調製のための使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】IgA、二量体IgA、及び分泌IgA(sIgA)の概略構造を示す。 [図2A、2B及び2C]IgG1ならびにIgA1及びIgA2重鎖定常領域のアライメントを示す。ヒトIgG1重鎖定常領域配列は、J00228(Takahashi et al.,Cell 29:671−679(1982)、配列番号22)からであり、ヒトIgA1重鎖定常領域配列(UniProt P01876−IGHA1−HUMAN、配列番号1)及び付番は、PDB 2QEJ(Ramsland et al.,Proc Natl Acad Sci USA 104:15051−15056(2007))から及びIgA BUR(Putnam et al.,J Biol Chem 254:2865−2874(1979))からであり、ヒトIgA2重鎖定常領域配列の付番は、UniProt P01877−IGHA2_HUMAN(配列番号2)に対応する。
図2A】重鎖定常領域配列の一部としてのヒトIgG1、IgA1、及びIgA2のFc CG1/CA1重鎖定常ドメインのアライメントを示す。
図2B】重鎖定常領域配列の一部としてのヒトIgG1、IgA1、及びIgA2のFc CG2/CA2重鎖定常ドメインのアライメントを示す。
図2C】重鎖定常領域配列の一部としてのヒトIgG1、IgA1、及びIgA2のFc CG3/CA3重鎖定常ドメインのアライメントを示す。
図3-1】[表1]ノブ・ホール及び電荷導入位置にあるIgA CA3ドメイン界面残基を示す。セット番号1、ノブ、CA3番号1の突然変異を有するヒトIgA2の配列は、配列番号4に示され、セット番号1、ホール、CA3番号2の突然変異を有するヒトIgA2の配列は、配列番号5に示される。
図3-2】[表1]ノブ・ホール及び電荷導入位置にあるIgA CA3ドメイン界面残基を示す。セット番号1、ノブ、CA3番号1の突然変異を有するヒトIgA2の配列は、配列番号4に示され、セット番号1、ホール、CA3番号2の突然変異を有するヒトIgA2の配列は、配列番号5に示される。
図4】[表2]潜在的な電荷交換のためのIgA CA3ドメイン界面残基を示す。
図5-1】[表3]本出願において参照されるポリペプチド配列を示す。
図5-2】[表3]本出願において参照されるポリペプチド配列を示す。
図5-3】[表3]本出願において参照されるポリペプチド配列を示す。
図5-4】[表3]本出願において参照されるポリペプチド配列を示す。
図5-5】[表3]本出願において参照されるポリペプチド配列を示す。
図5-6】[表3]本出願において参照されるポリペプチド配列を示す。
図5-7】[表3]本出願において参照されるポリペプチド配列を示す。
図5-8】[表3]本出願において参照されるポリペプチド配列を示す。
図5-9】[表3]本出願において参照されるポリペプチド配列を示す。
図5-10】[表3]本出願において参照されるポリペプチド配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
I.定義
本発明を詳細に説明する前に、本発明が、記載される特定の実施形態に限定されず、したがって、当然のことながら変化し得ることを理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明する目的のためであり、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、限定することを意図しないことも理解されたい。
【0038】
値の範囲が提供される場合、文脈上別途明らかに示されない限り、下限単位の10分の1まで、その範囲の上限と下限との間の各介在値、及びその指定範囲内の任意の他の指定値または介在値が本発明に包含されることが理解される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、独立して、本発明に包含されるより小さい範囲内に含めることができ、指定範囲内の任意の特に除外された限界の対象となる。
【0039】
別途定義されない限り、本明細書で使用される技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。Singleton et al.,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 2nd ed.,J.Wiley & Sons(New York,NY 1994)は、本出願において使用される用語の多くに対する一般的な指針を当業者に提供する。
【0040】
本明細書で言及される全ての刊行物は、参照により本明細書に明示的に組み込まれ、それらの刊行物が関連して引用される、方法及び/または材料を開示し、説明する。
【0041】
「抗原」という用語は、その実体または断片を指し、抗体に結合するか、または細胞免疫反応を誘発することができる。免疫原は、生物において、具体的には動物、より具体的にはヒトを含む哺乳動物において免疫反応を引き起こすことができる抗原を指す。抗原という用語は、抗原決定基またはエピトープとして知られる領域を含む。
【0042】
本明細書で使用される場合、「免疫原性」という用語は、抗体の産生を引き起こし、かつ/または免疫原の抗原に対して向けられたT細胞及び/もしくは他の反応性免疫細胞を活性化する物質を指す。
【0043】
免疫反応は、治療される障害を緩和または軽減するように投与された本発明の免疫原性組成物に反応して、個体が十分な抗体、T細胞、及び他の反応性免疫細胞を産生するときに起こる。
【0044】
免疫原性という用語は、本明細書で使用される場合、レシピエントに投与されたときに免疫反応(体液性または細胞性)を引き起こす抗原の能力の尺度を指す。本発明は、対象のヒトキメラまたはヒト化抗体の免疫原性を低減する手法に関する。
【0045】
「抗体」という用語は、モノクローナル抗体(免疫グロブリンFc領域を有する完全長抗体を含む)、1本鎖分子、ならびに抗体断片(例えば、Fab、F(ab′)、及びFv)を含む。「免疫グロブリン」(Ig)という用語は、本明細書において「抗体」と交換可能に使用される。塩基性4鎖抗体単位は、2つの同一の軽(L)鎖及び2つの同一の重(H)鎖からなるヘテロ四量体糖タンパク質である。
【0046】
IgGの場合、4鎖単位は、一般に約150,000ダルトンである。各L鎖は、1つの共有ジスルフィド結合によってH鎖に結合されるが、2つのH鎖は、H鎖アイソタイプに応じて1つ以上のジスルフィド結合によって互いに結合される。各H及びL鎖は、一定間隔の鎖内ジスルフィド橋も有する。各H鎖は、N末端において可変ドメイン(V)を有し、続いてα及びγ鎖の各々の場合、3つの定常ドメイン(C)を、μ及びεアイソタイプの場合、4つのCドメインを有する。各L鎖は、N末端において可変ドメイン(V)を有し、続いてその反対端に定常ドメインを有する。Vは、Vと整合され、Cは、重鎖(CH1)の第1の定常ドメインと整合される。特定のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインとの間に界面を形成すると考えられる。V及びVの対合は、一緒になって単一の抗原結合部位を形成する。
【0047】
血清IgAは単量体であるが、重合することもできる。その分泌形態において、IgAは、尾片を含むことができ、分泌成分によって会合され得る、J鎖によって結合された2〜5個の塩基性4鎖単位を含む。分泌成分(sIgA)と会合される、尾片、二量体IgA、及び分泌IgAの構造は、図1に示される。IgA抗体は、「IgA」の定義において明示的に含まれる、IgA1及びIgA2サブクラスに更に区分することができる。
【0048】
任意の脊椎動物種からのL鎖は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいてカッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つの明らかに別個の型のうちの1つに割り当てることができる。
【0049】
図2A〜2Cは、それぞれヒトIgG1、IgA1、及びIgA2のFc CG1/CA1、CG2/CA2、及びCG3/CA3定常ドメインのアライメントを示す。図面において、ヒトIgG1配列は、J00228からであり(Takahashi N.,et al.Cell 29:671−679(1982))、IgG配列は、PDB 1OQOからのPDB 1OQOβ鎖(s)及びα−ヘリックス(h)の割り当てに従って付番される。ヒトIgA配列及び付番は、PDB 2QEJ(Ramsland P.A.,et al.,Proc Natl Acad Sci USA 104:15051−15056(2007)から、及びIgA BUR(Putnam W.F.,et al.J.Biol.Chem.254:2865−2874(1979))からである。ヒトIgG1定常領域配列は、配列番号19を割り当てられ、IgA1定常領域配列は、配列番号1として示され、ヒトIgA2定常領域配列は、配列番号2として示される。本開示全体を通して、アミノ酸位置は、これらのアライメントに従って付番される。
【0050】
異なるクラスの抗体の構造及び特性に関する更なる詳細については、例えば、Basic and Clinical Immunology,8th Edition,Daniel P.Stites,Abba I.Terr and Tristram G.Parslow(eds),Appleton & Lange,Norwalk,Conn.,1994,page 71 and Chapter 6を参照されたい。
【0051】
別途明記しない限り、「抗体」という用語は、具体的に天然ヒト及び非ヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgE、IgA1、IgA2、IgD、及びIgM抗体を含み、天然型異型を含む。
【0052】
「IgA」抗体という用語は、分泌成分の有無に関わらず、二量体及び多量体形態を含む全てのサブクラス、すなわちIgA1及びIgA2抗体を具体的に含むように本明細書において使用される。2つのサブクラスのうち、IgA2は、その短いヒンジ領域がそれを特定の細菌プロテアーゼに対して耐性にするため、IgA1よりも安定している。この短いヒンジは、細菌表面上の抗原に対するIgA2のより良い多価結合を促進する、堅固な非平面構造も説明する。本発明の目的で、IgA抗体は、IgA1またはIgA2であってもよく、好ましくは二量体であり、2つの尾片は、好ましくはJ鎖によって接続される(図1、配列番号3を参照)。本発明のIgA結合分子において、J鎖は、完全長天然J鎖であってもよいが、J鎖が官能性である限り、J鎖断片を具体的に含む、置換、挿入、欠失、切断などのアミノ酸改変を含むこともできる。完全長天然J鎖の包含が、本発明の目的で好ましい。
【0053】
修飾されたJ鎖に関連して「官能性」という用語は、J鎖が天然J鎖、例えば天然ヒトJ鎖の一次官能性を保持すること、具体的に、IgAの効率的重合(二量体化)及びかかるポリマー(二量体)の、分泌成分(SC)/ポリマー(p)IgRへの結合を可能にする能力を意味する。
【0054】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書において使用される場合、実質的に同種の抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、その集団を含む個々の抗体は、少量で存在する可能性がある、考えられる天然型突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一抗原部位に対して向けられる。更に、典型的に異なる決定基(エピトープ)に対して向けられた異なる抗体を含む、従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一決定基に対して向けられる。「モノクローナル」という修飾語は、実質的に同種の抗体集団から得られるような抗体の性質を示し、任意の特定の方法による抗体の生成を必要とすると解釈されるものではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、Kohler et al.(1975)Nature 256:495によって最初に記載されたハイブリドーマ方法によって作製され得るか、または組み換えDNA方法によって作製され得る(例えば、米国特許第4,816,567号を参照)。「モノクローナル抗体」は、例えば、Clackson et al.(1991)Nature 352:624−628及びMarks et al.(1991)J.Mol.Biol.222:581−597に記載される技法を使用して、ファージ抗体ライブラリから単離することもできる。
【0055】
本明細書におけるモノクローナル抗体としては、具体的に「キメラ」抗体(免疫グロブリン)が挙げられ、その重鎖及び/または軽鎖の部分は、特定の種から誘導された、または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体内の対応する配列と同一または相同であるが、鎖(複数可)の残部は、それらが所望の生物活性を呈する限り、別の種から誘導された、または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体内の対応する配列、ならびにかかる抗体の断片と同一または相同である(米国特許第4,816,567号、及びMorrison et al.(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851−6855)。
【0056】
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンから誘導された最小配列を含む抗体である。大部分の場合、ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、レシピエントの超可変領域からの残基は、非ヒト種(ドナー抗体)、例えばマウス、ラット、ウサギ、または所望の特異性、親和性、及び能力を有する非ヒト霊長類の超可変領域からの残基によって置換される。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基もまた、対応する非ヒト残基によって置換される。更に、ヒト化抗体は、レシピエント抗体内またはドナー抗体内で見出されない残基を含むことができる。これらの修飾は、抗体性能を更に洗練するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、及び典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、超可変ループの全てまたは実質的に全ては、非ヒト免疫グロブリンのそれらに対応し、FR領域の全てまたは実質的に全ては、ヒト免疫グロブリン配列のそれらである。ヒト化抗体は、任意選択で、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部分、典型的には、ヒト免疫グロブリンのそれも含む。更なる詳細については、Jones et al.(1986)Nature 321:522−525、Riechmann et al.(1988)Nature 332:323−329、及びPresta(1992)Curr.Op.Struct.Biol.2:593−596を参照されたい。
【0057】
「種依存性抗体」は、第1の哺乳動物種からの抗原に対して、それが第2の哺乳動物種からのその抗原の相同体に対して有するよりも強い結合親和性を有するものである。通常、種依存性抗体は、ヒト抗原に「特異的に結合する」(すなわち、約1×10−7M以下、好ましくは約1×10−8M以下、及び最も好ましくは約1×10−9M以下の結合親和性(K)値を有する)が、第2の非ヒト哺乳動物種からの抗原の相同体に対して、ヒト抗原に対するその結合親和性よりも少なくとも約50倍、または少なくとも約500倍、または少なくとも約1000倍弱い結合親和性を有する。種依存性抗体は、上に定義される様々な種の抗体のうちのいずれかであり得るが、好ましくはヒト化またはヒト抗体である。
【0058】
本明細書で使用される場合、「抗体変異体」または「抗体異型」は、参照抗体のアミノ酸残基のうちの1つ以上が修飾された参照抗体のアミノ酸配列異型を指す。参照抗体は、例えば、天然抗体であり得るが、天然抗体の既知の異型でもあり得る。かかる変異体は、必ず参照抗体と100%未満の配列同一性または類似性を有する。好ましい実施形態において、抗体変異体は、参照抗体の重鎖または軽鎖可変ドメインのいずれかのアミノ酸配列と少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、及び最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性または類似性を有するアミノ酸配列を有する。この配列に関する同一性または類似性は、配列同一性の最大パーセントを達成するために、必要に応じて、配列をアライメントし、ギャップを導入した後、参照抗体残基と同一(すなわち、同じ残基)または類似(すなわち、共通の側鎖特性に基づいて同じ基からのアミノ酸残基)の候補配列内のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。可変ドメインの外側の抗体配列中へのN末端、C末端、もしくは内部の伸長、欠失、または挿入のいずれも、配列同一性または類似性に影響を及ぼすとは解釈されないものとする。
【0059】
本明細書における「単離された」抗体は、組み換え宿主細胞内のその天然環境の成分から特定及び分離され、ならびに/または回収されたものである。その天然環境の汚染成分は、抗体の診断的または治療的使用を干渉するであろう物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質性または非タンパク質性溶質、ならびに生成の望ましくない副産物を挙げることができる。故に、二重または多重特異性IgA抗体の場合、望ましくない副産物は、単一特異性結合単位(AB結合単位を含む二重特異性抗体の場合、AA及び/またはBB)を含み、多量体は、所望の数のサブユニットを含まない。好ましい実施形態において、二重または多重特異性抗体は、(1)SDS−PAGEまたはSEC−HPLC方法によって決定して、95重量%超、もしくは98重量%超、もしくは99重量%超まで、(2)アミノ酸配列の使用によってN末端もしくは内部アミノ酸配列の少なくとも15個の残基を得るために十分な程度まで、または(3)クマシーブルーもしくは好ましくは銀染色を使用する還元もしくは非還元条件下、SDS−PAGEによって均質性まで精製される。従来、単離された二重特異性結合分子、例えば抗体は、少なくとも1つの精製工程によって調製される。
【0060】
「特異的結合」または「〜に特異的に結合する」または「〜に特異的な」という用語は、標的分子(抗原)、例えば、特定のポリペプチド、ペプチド、または他の標的(例えば、糖タンパク質標的)上のエピトープに対する抗体の結合を指し、測定できるほどに非特異的相互作用とは異なる結合を意味する(例えば、非特異的相互作用は、ウシ血清アルブミンまたはカゼインに結合することであり得る)。特異的結合は、例えば、対照分子に対する抗体の結合と比較して、標的分子に対する抗体の結合を決定することによって測定することができる。例えば、特異的結合は、標的、例えば、過剰な非標識化標的に類似する対照分子との競合によって決定することができる。この場合、特異的結合は、プローブに対する標識化標的の結合が、過剰な非標識化標的によって競合的に阻害される場合に示される。「特異的結合」または「〜に特異的に結合する」、または特定のポリペプチドもしくは特定のポリペプチド標的上のエピトープ「に特異的な」という用語は、本明細書で使用される場合、例えば、少なくとも約200nM、代替として少なくとも約150nM、代替として少なくとも約100nM、代替として少なくとも約60nM、代替として少なくとも約50nM、代替として少なくとも約40nM、代替として少なくとも約30nM、代替として少なくとも約20nM、代替として少なくとも約10nM、代替として少なくとも約8nM、代替として少なくとも約6nM、代替として少なくとも約4nM、代替として少なくとも約2nM、代替として少なくとも約1nM、またはそれを超える、標的に対するKdを有する分子によって示され得る。ある特定の場合において、「特異的結合」という用語は、分子が任意の他のポリペプチドまたはポリペプチドエピトープに実質的に結合することなく、特定のポリペプチド上の特定のポリペプチドまたはエピトープに結合する、結合を指す。
【0061】
「結合親和性」は、分子の単一結合部位(例えば、抗体)とその結合パートナー(例えば、抗原)との間の非共有結合的な相互作用の総計の強度を指す。別途指示されない限り、本明細書で使用される場合、「結合親和性」は、結合対(例えば、抗体及び抗原)の構成員間の1:1の相互作用を反映する、固有の結合親和性を指す。分子Xの、そのパートナーYに対する親和性は、一般に解離定数(Kd)によって表すことができる。例えば、Kdは、約200nM、150nM、100nM、60nM、50nM、40nM、30nM、20nM、10nM、8nM、6nM、4nM、2nM、1nMであり得るか、またはそれより強い。親和性は、本明細書に記載されるものを含む、当該技術分野において既知の一般的方法によって測定することができる。低親和性抗体は、一般にゆっくり抗原に結合し、容易に解離する傾向があるが、高親和性抗体は、一般により速く抗原に結合し、より長く結合されたままである。結合親和性を測定する様々な方法は、当該技術分野において既知である。
【0062】
本明細書で使用される場合、「Kd」または「Kd値」は、例えば、表面プラズモン共鳴アッセイを使用して、例えば、25℃でBIAcore(商標)−2000またはBIAcore(商標)−3000(BIAcore,Inc.,Piscataway,N.J.)を使用し、約10応答単位(RU)で固定化抗原CM5チップを用いて、抗体及び標的対に適切な技法により測定される解離定数を指す。
【0063】
「複合体」、「複合された」、及び「複合体化」という用語は、任意及び全ての形態の共有結合または非共有結合的連結を指し、制限なしに、直接的な遺伝子または化学融合、リンカーまたは架橋剤を介したカップリング、及び非共有結合的会合が挙げられ、共有結合的連結が好ましい。
【0064】
「多重特異性IgA」という用語は、本明細書では最も広義に使用され、2つ以上の結合特異性を有するIgA抗体を指す。故に、「多重特異性」という用語は、「二重特異性」、例えば、二重特異性抗体または二重特異性結合単位を含み、各々が異なる抗原(AA、BB)に結合する2つの単一特異性サブユニット、または各々が2つの異なる抗原(AB、AB)に結合する2つの二重特異性サブユニットを含むIgA二量体を含む。
【0065】
「結合単位」という用語は、本明細書において、各々が少なくともCA3ドメインを含み、かつ各々が結合標的、例えば標的抗原に対する結合領域(抗体可変領域)に複合される、IgA重鎖定常領域ポリペプチドの対を含む分子を指すように使用される。一実施形態において、本発明の二量体IgA分子は、各結合単位が異なる結合標的(AA、BB)に対する結合特異性を有する、2つの単一特異性結合単位からなる。別の実施形態において、本発明の二量体IgA分子において、2つの結合単位のうちの少なくとも1つは、2つの異なる結合特異性を有する(すなわち、二重特異性、例えば、AA、A、BまたはAA、BCである)。別の実施形態において、2つの結合単位の各々は、2つの特異性を有し、これは同じであり得るか(AB、AB)または異なり得る(例えば、AC、CDもしくはAB、AC)。
【0066】
「二重特異性IgA抗体結合単位」は、最も広義に使用され、具体的に、可変ドメイン配列(V)に融合された、少なくともCA3定常ドメインを含むIgA抗体重鎖定常領域ポリペプチドの対を包含し、各可変ドメイン配列は、会合した抗体軽鎖可変ドメイン(V)配列の有無に関わらず、異なる標的に結合する。一実施形態において、二重特異性IgA抗体は、各々が1つの抗原上の異なるエピトープまたは2つの異なる抗原上のエピトープに結合することができる、2つのV抗原結合領域を含む。二重特異性IgA抗体結合単位は、単一種からの完全長であり得るか、またはキメラ化もしくはヒト化され得る。
【0067】
「完全長IgA抗体重鎖」は、N末端からC末端方向に、抗体重鎖可変ドメイン(VH)、抗体定常重鎖定常ドメイン1(CA1またはCα1)、抗体定常重鎖定常ドメイン2(CA2またはCα2)、及び抗体重鎖定常ドメイン3(CA3またはCα3)からなるポリペプチドである。本発明による二重または多重特異性完全長IgA抗体は、分泌成分の有無に関わらず、各々が単一特異性または二重特異性であり得る2つの単量体(結合単位)を含む。故に、本発明の多重特異性IgA抗体は、結果として得られるIgA抗体が少なくとも2つの結合特異性を有する限り、単一特異性及び二重特異性結合単位を含んでもよい。完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端は、該重鎖または軽鎖のC末端における最後のアミノ酸を示す。完全長抗体の重鎖または軽鎖のN末端は、該重鎖または軽鎖のN末端における最初のアミノ酸を示す。
【0068】
本明細書で使用される場合、「原子価」という用語は、抗体内の指定数の結合部位の存在を示す。したがって、「二価」、「四価」、及び「六価」という用語は、それぞれ2つの結合部位、4つの結合部位、及び6つの結合部位の存在を示す。故に、本発明による二重特異性IgA抗体において、各結合単位が二価である場合、二重特異性IgA抗体は4原子価を有する。
【0069】
「エピトープ」という用語は、抗体に対する特異的結合が可能な任意の分子決定基を含む。ある特定の実施形態において、エピトープ決定基は、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル、またはスルホニルなどの分子の化学的活性表面グルーピングを含み、ある特定の実施形態において、特定の3次元構造特徴及び/または特定の電荷特徴を有することができる。エピトープは、抗体によって結合される抗原の領域である。「結合領域」は、結合分子によって結合された結合標的上の領域である。
【0070】
「ポリエピトープ特異性」は、同じまたは異なる標的(複数可)上の2つ以上の異なるエピトープに特異的に結合する能力を指す。「単一特異性」は、1つのみのエピトープに結合する能力を指す。一実施形態により、二重特異性IgM抗体は、少なくとも10−7M、または10−8M、またはそれより良好な親和性で各エピトープに結合する。
【0071】
「標的」または「結合標的」という用語は、最も広義に使用され、それらが自然界に存在するときの生物学的機能を有するポリペプチド、核酸、炭水化物、脂質、及び他の分子を具体的に含む。「標的」は、例えば、二重特異性結合単位が、2つの異なる細胞型、同じ細胞型の異なる亜集団(例えば、異なるB細胞集団)、または単一細胞上の2つの異なる実体を標的とする細胞であり得る。
【0072】
本発明の抗体の「抗原結合部位」または「抗原結合領域」は、典型的に、様々な程度で抗原に対する結合部位の親和性に寄与する、6つの相補性決定領域(CDR)を含む。3つの重鎖可変ドメインCDR(CDRH1、CDRH2、及びCDRH3)、ならびに3つの軽鎖可変ドメインCDR(CDRL1、CDRL2、及びCDRL3)が存在する。CDR及びフレームワーク領域(FR)の広がりは、配列間の可変性及び/または抗体/抗原複合体からの構造情報に従ってそれらの領域が定義されたアミノ酸配列の編集データベースとの比較によって決定される。より少ないCDRからなる(すなわち、結合特異性は、3つ、4つ、または5つのCDRによって決定される)官能性抗原結合部位も本発明の範囲内に含まれる。6つのCDRからなる完全セットより少ないものは、幾つかの結合標的に結合するために十分であり得る。故に、場合によっては、VHまたはVLドメイン単独のCDRが十分となる。更に、ある特定の抗体は、抗原に対する非CDR関連結合部位を有してもよい。かかる結合部位は、本定義内に具体的に含まれる。
【0073】
「界面」という用語は、本明細書で使用される場合、第2のIgA重鎖定常領域内の1つ以上の「接触」アミノ酸残基(または他の非アミノ酸基)と相互作用する「接触」アミノ酸残基(または他の非アミノ酸基、例えば炭水化物基など)を第1のIgA重鎖定常領域内に含む領域を指すように使用される。
【0074】
「非対称の界面」という用語は、第1及び第2のIgA重鎖定常領域などの2つの抗体鎖間、かつ/またはIgA重鎖定常領域とその一致する軽鎖との間に形成された(本明細書で上に定義される)界面を指すように使用され、第1及び第2の鎖内の接触残基は設計によって異なり、相補性接触残基を含む。非対称の界面は、ノブ/ホール相互作用、及び/または塩橋カップリング(電荷交換)、及び/または当該技術分野において既知の他の技法によって、例えば、α重鎖をその一致する軽鎖にカップリングするためのCrossMab手法によって作り出すことができる。
【0075】
「空洞」または「ホール」は、第2のポリペプチドの界面から陥没し、したがって第1のポリペプチドの隣接した界面上の対応する突起(「ノブ」)を収容する、少なくとも1つのアミノ酸側鎖を指す。この空洞(ホール)は、元の界面内に存在し得るか、または合成的に導入されてもよい(例えば、界面をコードする核酸を改変することによって)。通常、第2のポリペプチドの界面をコードする核酸は、空洞をコードするように改変される。これを達成するために、第2のポリペプチドの界面内の少なくとも1つの「元の」アミノ酸残基をコードする核酸は、元のアミノ酸残基よりも小さい側鎖体積を有する少なくとも1つの「移入」アミノ酸残基をコードするDNAと置換される。複数の元の残基及び対応する移入残基が存在し得ることが理解される。置換される元の残基の数に対する上限は、第2のポリペプチドの界面内の残基の総数である。空洞の形成のための好ましい移入残基は、通常は天然型アミノ酸残基であり、好ましくはアラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)、バリン(V)、及びグリシン(G)から選択される。最も好ましいアミノ酸残基は、セリン、アラニン、またはトレオニンであり、最も好ましくはアラニンである。好ましい実施形態において、突起の形成のための元の残基は、チロシン(Y)、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、またはトリプトファン(W)などの大きな側鎖体積を有する。
【0076】
「元の」アミノ酸残基は、元の残基よりも小さいまたは大きい側鎖体積を有し得る「移入」残基によって置換されるものである。移入アミノ酸残基は、天然型または非天然型のアミノ酸残基であり得るが、好ましくは前者である。
【0077】
「非天然型」アミノ酸残基とは、遺伝子コードによってコードされないが、ポリペプチド鎖内の隣接したアミノ酸残基(複数可)に共有結合することができる残基を意味する。非天然型アミノ酸残基の例は、ノルロイシン、オルニチン、ノルバリン、ホモセリン、及び例えば、Ellman et al.,Meth.Enzym.202:301−336(1991)に記載されるものなどの他のアミノ酸残基類似体である。かかる非天然型アミノ酸残基を生成するために、Noren et al.Science 244:182(1989)及び上記Ellmanらの手順を使用することができる。つまり、これは非天然型アミノ酸残基を用いてサプレッサーtRNAを化学的に活性化することに続いて、RNAのインビトロ転写及び翻訳を必要とする。本発明の方法は、ある特定の実施形態において、IgM重鎖内の少なくとも1つの元のアミノ酸残基を置換することを必要とするが、1つよりも多くの元の残基を置換することができる。通常、第1または第2のポリペプチドの界面内の残基の総数以下が、置換される元のアミノ酸残基を含む。置換のための好ましい元の残基は、「埋め込まれる」。「埋め込まれる」とは、残基が本質的に溶媒にアクセスできないことを意味する。好ましい移入残基は、潜在的な酸化またはジスルフィド結合の誤対合を防ぐために、システインではない。
【0078】
突起は、空洞内に「位置付け可能」であり、これは第1のポリペプチド及び第2のポリペプチドそれぞれの界面上の突起及び空洞の空間位置、ならびにその突起及び空洞のサイズが、界面における第1及び第2のポリペプチドの正常会合を著しく妨害することなく、突起が空洞内に位置し得るようなものであることを意味する。Tyr、Phe、及びTrpなどの突起は、典型的に界面の軸から垂直に伸長せず、好ましい立体配座を有しないため、突起の、対応する空洞とのアライメントは、X線結晶学または核磁気共鳴(NMR)によって得られるものなどの3次元構造に基づいて、突起/空洞対をモデル化することに依存する。これは、分子モデル化の技法を含む、当該技術分野において広く許容されている技法を使用して達成することができる。
【0079】
「元の核酸」とは、突起または空洞をコードするために「改変」(すなわち、遺伝子操作または突然変異)され得る、対象のポリペプチドをコードする核酸を意味する。元の核酸または開始核酸は、天然型核酸であり得るか、または以前の改変に供された核酸(例えば、ヒト化抗体断片)を含んでもよい。核酸を「改変する」とは、元の核酸が、対象のアミノ酸残基をコードする少なくとも1つのコドンを挿入、欠失、または置換することによって突然変異される。通常、元の残基をコードするコドンは、移入残基をコードするコドンによって置換される。この方法でDNAを遺伝子的に修飾するための技法は、Mutagenesis:a Practical Approach,M.J.McPherson.Ed.,(IRL Press,Oxford,UK.1991)において検討されており、例えば、部位特異的突然変異誘発、カセット突然変異誘発、及びポリメラーゼ連鎖反応(PCR)突然変異誘発が挙げられる。
【0080】
突起または空洞は、合成手段によって、例えば、組み換え技法、インビトロペプチド合成、前述の非天然型アミノ酸残基を導入するための技法によって、ペプチドの酵素的もしくは化学的カップリング、またはこれらの技法の幾つかの組み合わせによって、第1または第2のポリペプチドの界面に「導入され」得る。したがって、「導入される」突起または空洞は、「非天然型」か、または「非天然」であり、それが天然にまたは元のポリペプチド(例えば、ヒト化モノクローナル抗体)内に存在しないことを意味する。
【0081】
好ましくは、突起を形成するための移入アミノ酸残基は、比較的少数(例えば、約3〜6個)の「回転異性体」を有する。「回転異性体」は、アミノ酸側鎖のエネルギー的に好ましい立体配座である。様々なアミノ酸残基の回転異性体の数は、Ponders and Richards,J.Mol.Biol.193:775−791(1987)において検討されている。
【0082】
「宿主細胞」という用語は、本出願で使用される場合、本発明に従って抗体を産生するように操作され得る、任意の種類の細胞系を示す。一実施形態において、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が宿主細胞として使用される。
【0083】
本明細書で使用される場合、「細胞」、「細胞系」、及び「細胞培養物」という表現は、交換可能に使用され、かかる指示物の全ては、子孫を含む。故に、「形質転換体」及び「形質転換細胞」という語は、転換の数に関係なく、一次対象細胞、及びそれから誘導された培養物を含む。意図的または不慮の突然変異に起因して、全ての子孫がDNA含有量では厳密に同一でない場合があることも理解される。最初に形質転換された細胞においてスクリーニングされたものと同じ機能または生体活性を有する異型子孫が含まれる。
【0084】
核酸は、別の拡散配列との機能的関係に置かれるとき、「操作可能に結合される」。例えば、プレ配列または分泌リーダーのDNAは、それがポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現される場合、ポリペプチドのDNAに操作可能に結合され、プロモーターまたはエンハンサーは、それが配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列に操作可能に結合され、またはリボソーム結合部位は、それが翻訳を促進するように位置付けられる場合、コード配列に操作可能に結合される。一般に、「操作可能に結合される」は、結合されるDNA配列が隣接しており、分泌リーダーの場合は、隣接し、かつ読み取り枠内にある。しかしながら、エンハンサーは、隣接する必要がない。結合は、都合の良い制限部位での結紮によって達成される。かかる部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーは、従来の実践に従って使用される。
【0085】
本明細書で使用される「有効量」という用語は、ヒト患者などの対象において標的疾患を治療するために有効な薬物または薬物の組み合わせの量を指す。有効量の薬物は、標的疾患を治癒し、かつ/またはその重症度及び/もしくは期間を低減することができ、部分反応(PR)または完全反応(CR)を引き起こすことができる。
【0086】
詳細な説明
免疫グロブリンA(IgA)は、大部分の哺乳動物の粘膜分泌物中に存在する抗体の主要クラスとして、吸入され、消化された病原体による侵襲に対する重要な第1の防御線を表す。IgAはまた、多くの種の血清中に著しい濃度で見出され、粘膜表面を侵害した病原体の排除を媒介する第2の防御線として機能する。IgAのFc領域に特異的な受容体、FcαRは、IgAエフェクター機能の主要媒体である。
【0087】
ヒトIgAは、2つのサブクラスIgA1及びIgA2をもたらす、2つの異なるIgA重鎖定常領域(Cα)遺伝子を有することができる。IgA1とIgA2との間の主な差異は、2つのFabアームとFc領域との間にあるヒンジ領域に帰する。IgA1は、IgA2内に存在しないアミノ酸の重複した長さのアミノ酸の挿入に起因して、伸長されたヒンジ領域を有する。ヒトIgA1重鎖定常領域の配列は、配列番号1として示される。ヒトIgA2重鎖定常領域の配列は、配列番号2として示される。
【0088】
IgAは、二量体を形成する能力を有し、各々が2つの重鎖及び軽鎖を含む2つの単量体単位は、ジスルフィド橋及びJ(接続)鎖の組み込みによって安定化された、端と端とをつなぐ構成で配置される。天然ヒトJ鎖の配列は、配列番号3として示される。粘膜部位において局所的に生成される二量体IgAは、ポリマー免疫グロブリン受容体(pIgR)との相互作用によって、上皮細胞境界を越えて分泌物中に輸送される。このプロセス中、pIgRは切断され、分泌成分(SC)と呼ばれる主要断片は、IgA二量体に共有結合されるようになる。
【0089】
本発明の多重特異性IgA分子は、IgA抗体の二量体形態に基づき、IgA重鎖配列の2つの対が、会合した軽鎖配列の有無に関わらず存在し得る。好ましい実施形態において、本明細書のIgA結合分子は、二重特異性であり、J鎖を含む2つのIgA(IgA1またはIgA2)二量体からなる。
【0090】
本発明の多重特異性IgA抗体は、分子が全体として少なくとも2つの結合特異性を有する限り、単一及び二重特異性結合単位を含むことができる。
【0091】
故に、一実施形態において、本明細書におけるIgA抗体は、二重特異性であり、各々が異なる結合標的に対して結合特異性を有する、2つの単一特異性結合単位(AA、BB)からなる。
【0092】
別の実施形態において、本明細書におけるIgA抗体は、各結合単位が同じ2つの結合標的(AB、AB)に結合して二重特異性IgA抗体を形成する、2つの二重特異性結合単位を含む。
【0093】
更なる実施形態において、本発明のIgA抗体中に存在する1つの結合単位は、単一特異性(AA)であるが、他の結合単位は二重特異性(BC)であり、3つの(A、B、C)結合特異性を有するIgA抗体をもたらす。
【0094】
異なる実施形態において、各結合単位は二重特異性であるが、1つの特異性は重複しており(例えば、AB、AC)、3つの(A、B、C)結合特異性を有するIgA抗体をもたらす。
【0095】
なおも更なる実施形態において、各結合単位は、異なる結合特異性(AB、CD)を有する二重特異性である。故に、IgA分子は、4つの(A、B、C、D)結合特異性を有する。
【0096】
本明細書におけるIgA結合分子の結合単位は、少なくともCA3(Cα3)ドメインを含み、追加としてCA2(Cα2)ドメインを含んでもよい。
【0097】
一実施形態において、本発明の多重特異性IgA抗体は、完全IgA重(α)鎖定常ドメインを含み、1つ以上の修飾を用いて2つの重鎖間に非対称の界面を作り出す。
【0098】
更なる実施形態において、本発明の多重特異性IgA抗体は、完全天然J鎖を含む。J鎖は、それがIgAの重合を促進するため、及びこれらのポリマー中のその存在が、SC/pIgRに対するそれらの親和性に必要であると考えられるため、SIgAの生成における主要タンパク質である。本明細書における多重特異性IgA抗体は、断片または修飾されたJ鎖が天然J鎖の機能を保持する限り、J鎖断片または他の方法で修飾されたJ鎖を含むことができ、特にIgAの効率的な重合及び分泌成分(SC)/ポリマー(p)IgRに対するかかるポリマーの結合を可能にする。J鎖の構造−機能関係に関する更なる詳細については、例えば、Johansen et al.,2001;J.Immunol.167(9):5185−5192を参照されたい。
【0099】
2つの異なるα重鎖を有するIgA分子を生成するために(すなわち、結合単位のうちの少なくとも1つが二重特異性である)、2つの異なる結合特異性を有する2つの一致するα重鎖を互いにカップリングするための方法が見出されなければならない。加えて、結合領域を形成するために軽鎖が必要とされる場合、各重鎖をその一致する軽鎖とカップリングして、所望の結合特異性を提供するための方法が見出されなければならない。
【0100】
カップリングは、ある特定の残基間の塩橋対電荷スイッチング(電荷交換または電荷反転とも称される)によって、及び/または2つの鎖間にノブ・ホール相互作用を作り出すことによって達成することができる。重鎖は、CrossMab技法を使用することによって、それらの一致する軽鎖と対合することもできる。最適な結果を達成するために、異なる手法を組み合わせることもできる。
【0101】
1.ノブ・イントゥ・ホール技法
本発明の五量体または六量体二重特異性結合分子の収率を向上させるために、IgA重鎖定常領域、例えば、Cα3ドメインは、例えば、国際公開第96/027011号、Ridgway,J.,B.,et al.,Protein Eng 9(1996)617−621、及びMerchant,A.M.,et al.,Nat Biotechnol 16(1998)677−681において幾つかの実施例とともに詳細に記載される、「ノブ・イントゥ・ホール」技法によって改変することができる。この方法において、2つのIgA重鎖定常ドメインの相互作用表面は、異なる結合特異性を有する2つの重鎖、及び/または重鎖とその一致する軽鎖との間のヘテロ二量体化を増加させるように改変される。2つの重鎖ドメインの各々は、「ノブ」であり得るが、一方は「ホール」である。ジスルフィド橋の導入は、ヘテロ二量体を安定させ(Merchant,A.M.,et al.,Nature Biotech 16(1998)677−681、Atwell,S.,et al.,J.Mol.Biol.270(1997)26−35)、収率を増加させる。同様に、一致する重鎖及び軽鎖は、この技法によって互いにカップリングされ得る(Zhu,Z.、Presta,L.G.、Zapata,G.、Carter,P.Remodeling domain interfaces to enhance heterodimer formation.Prot.Sci.6:781−788(1997))。
【0102】
この手法に従って、二重特異性IgA抗体内の他の重鎖の対応するドメインの元の界面に接する1つの重鎖のCα(例えば、Cα3)ドメインの元の界面内で、アミノ酸残基は、より大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換されてもよく、それにより界面内に突起を作り出し、それを他のIgA重鎖定常領域内の対応するドメインの界面内の空洞に位置付けることができる。同様に、第2のIgA重鎖は、第1のIgA重鎖の定常領域内の対応するドメインとの界面内のアミノ酸残基を、より小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換することによって改変することができ、それにより2つの重鎖領域間の界面内にホール(空洞)を作り出す。
【0103】
ノブ・ホール位置にあるヒトIgA Cα3ドメイン界面残基を表1に示す。この表は、図4に示される付番に従って、図4に示されるCα3配列の示された位置にある天然残基、ならびにノブ・ホール対を作り出すために使用され得る潜在的突然変異を特定する。故に、例えば、Cα3ドメインにおいて、352位にある天然ロイシン(L)残基は、メチオニン(M)に突然変異され得るか、または368位にある天然トレオニン(T)残基は、トリプトファン(W)に突然変異されてノブを作り出すことができ、ノブ突然変異は、アミノ酸位置352、368、及び414に対して列挙されるホールの任意の組み合わせと組み合わせることができる。
【0104】
セット番号1〜6に列挙されるノブ・ホール突然変異は、表1に記載される様々な組み合わせで使用できることが強調される。更に、列挙される突然変異は、表2に列挙される電荷交換突然変異などの他のノブ・ホール及び/または電荷交換及び/または電荷導入突然変異と組み合わせることができる。故に、表1に記載されるノブ・ホール突然変異のうちの1つ以上は、本明細書において下に論じられるように、表2に列挙される電荷交換突然変異のうちの1つ以上と組み合わせることができる。故に、表1に記載される任意のセットを選択することができ、それを任意の順序または組み合わせで表2からのいずれかのセットと混合することができる。
【0105】
2.塩橋対電荷スイッチング(電荷交換)
対向する電荷は互いに引き寄せ、類似の電荷は互いに跳ね返す。アミノ酸分子の電荷は、pH依存性であり、αアミノ基(N)、αカルボキシ基(C)、及び遊離アミノ酸の側鎖に対して決定されるpK値を特徴とし得る。局所環境は、アミノ酸がタンパク質またはペプチドの一部であるとき、側鎖のpKを改変することができる。
【0106】
アミノ酸分子の電荷特性は、分子の全体電荷が中性であるpHである、等電点(pI)も特徴とし得る。アミノ酸は、それらの側鎖内で互いに異なるため、pIは、側鎖のpKの差を反映する。
【0107】
大部分のアミノ酸(20個のうち15個)は、6に近いpIを有するため、それらは中性の全体電荷を有すると見なされる。Asp及びGluは負電荷を帯び、His、Lys、Argは正電荷を帯びる。
【0108】
電荷交換または電荷導入突然変異のための位置及びアミノ酸残基は、表2に列挙される。上述されるように、これらの突然変異以上、または突然変異のセットを、ノブ・ホール突然変異の1つ以上のセットと組み合わせて、2つの異なるIgA重鎖間及び/またはIgA重鎖とその一致する軽鎖との間に所望の非対称の界面を提供する。
【0109】
好ましくは、2つの異なるIgA重鎖定常領域間の非対称の界面は、1つのIgA重鎖内の最大8、例えば、1〜8、もしくは1〜7、もしくは1〜6、もしくは1〜5、もしくは1〜4、もしくは1〜3、もしくは1〜2の突然変異、または2つのIgA重鎖内の2〜10、もしくは2〜9、もしくは2〜8、もしくは2〜7、もしくは2〜6、もしくは2〜5、もしくは2〜4、もしくは2〜3の組み合わされた突然変異によって作り出される。
【0110】
3.CrossMab技法
上述されるように、ノブ・イントゥ・ホール技法または電荷交換は、抗体重鎖のヘテロ二量体化を可能にする。軽鎖及びそれらの同種重鎖の適切な会合は、二重特異性抗体結合単位の半分の抗原結合断片(Fab)内の重鎖ドメイン及び軽鎖ドメインの交換によって達成することができる。交差は、IgA抗体の二重特異性結合単位の半分内の完全VH−CH及びVL−CLドメインの交差、VH及びVLドメインのみの交差、またはCA及びCLドメインの交差として起こり得る。この「交差」は、抗原結合親和性を保持するが、軽鎖誤対合が起こり得なくなるほど2つのアームが異なるようにする。更なる詳細については、IgG抗体に関連して、例えば、Schaeffer et al.,(2011)Proc Natl Acad Sci USA 108(27):11187−11192を参照されたい。
【0111】
4.多重特異性IgA結合分子の生成
(ノブ・イントゥ・ホール、電荷交換及び/またはCross−Mab技法に従って)所望の突然変異を有する二重特異性IgA抗体結合単位の重鎖のコード配列は、適切なヌクレオチド電荷を抗体DNAに導入することによって、またはヌクレオチド合成によって生成されてもよい。次に、抗体は、組み換え手段によって生成され得る。
【0112】
組み換え体生成のための方法は、当該技術分野において広く知られており、抗体の後次単離を伴う原核及び真核細胞内のタンパク質発現、及び通常は薬学的に許容される純度への精製を含む。宿主細胞内の抗体の発現のために、それぞれの修飾重鎖及び任意選択で軽鎖をコードする核酸は、標準方法によって発現ベクターに挿入される。発現は、CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、PER.C6細胞、酵母、またはE.coli細胞のような適切な原核または真核宿主細胞内で行われ、抗体は、細胞(溶解後の上清または細胞)から回収される。抗体の組み換え体生成のための一般的な方法は、例えば、Makrides,S.C.,Protein Expr.Purif.17(1999)183−202、Geisse,S.,et al.,Protein Expr.Purif.8(1996)271−282、Kaufman,R.J.,Mol.Biotechnol.16(2000)151−161、Werner,R.G.,Drug Res.48(1998)870−880のレビュー論文に記載されている。
【0113】
二重特異性抗体は、例えば、タンパク質A−SEPHAROSE(登録商標)、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、または親和性クロマトグラフィーなどの従来の免疫グロブリン精製手順によって培養培地から適切に分離される。
【0114】
本発明の方法は、所望の五量体または六量体構造の代わりに、二重特異性結合単位の単一特異性抗体、抗体断片、単量体、二量体、三量体、及び/または四量体などの製造プロセスの様々な副産物と組み合わせて、二重特異性IgA抗体などの二重特異性IgA結合分子を主成分として含む組成物をもたらす。生成された組成物は、一般に、所望の五量体または六量体二重特異性結合分子、例えば抗体を、少なくとも約70%、または少なくとも約75%、または少なくとも約80%、または少なくとも約85%、または少なくとも約90%、または少なくとも約92%、または少なくとも約95%含有し、それらは、当該技術分野において既知の方法によって更に精製され、少なくとも約90%、または少なくとも約95%、または少なくとも約98%、または少なくとも約99%、または少なくとも約99.5%、または少なくとも約99.9%の純度を有する生成物を生み出す。
【0115】
多重特異性IgA抗体及び他の多重特異性、二重特異性などの結合分子は、類似様式で生成され得る。
【0116】
5.多重特異性IgA結合分子の用途
本発明の多重特異性、例えば二重特異性IgA結合分子、例えば抗体は、幅広い治療的及び診断的用途を有する。
【0117】
IgAは、身体の体液免疫系及び粘膜表面における保護機能の主な構成要素を構成し、粘膜免疫性の維持において重要な役割を果たす。IgAは、二量体及びより高次のオリゴマーの形態で、細胞膜を横切って効率的に輸送され、それが感染に対して第1の特異的免疫学的防御を形成する、外部分泌物に放出される。IgAは、直接殺滅、凝集、上皮付着及び侵襲の阻害、酵素及び毒素の不活性化、オプソニン化、ならびに補体活性化を含む様々な機序によって、細菌感染に対抗することが示されてきた。分泌物中のIgAは、粘膜表面を標的とするウイルス疾患からも保護する。更なる詳細については、例えば、Mostow,K.E.,Annu.Rev.Immunol.1994,12:63−84を参照されたい。
【0118】
故に、本発明の多重特異性IgA抗体は、微生物、例えば細菌、ウイルス、または真菌感染の治療に固有に適している。
【0119】
微生物感染の例としては、制限なしに、細菌感染、例えば、Clostridium difficile(C.difficile)感染または多剤耐性S.aureus感染、真菌感染、例えば、Candida albicansまたはAspergillus種によって引き起こされた感染が挙げられる。ウイルス感染の例としては、制限なしに、呼吸器ウイルスによる感染、例えば、インフルエンザウイルス感染(flu)及び呼吸器合胞体ウイルス(RSV)による感染が挙げられる。
【0120】
多重特異性IgA抗体などの多重特異性IgA結合分子、例えば、本発明の二量体二重特異性IgA抗体を追加として使用し、水痘帯状疱疹ウイルス、アデノウイルス、ヒト免疫欠損ウイルス、ヒトメタ肺炎ウイルス、ウェストナイルウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)を引き起こすウイルスなどによる感染を治療することができる。多重特異性IgA抗体などの多重特異性IgA結合分子、例えば、本発明の二量体二重特異性IgA抗体を使用して、Bacillus anthracis、Clostridium botulinum毒素、Clostridium perfringens epsilon毒素 Yersinia Pestis、Francisella tulariensis、Coxiell burnetii、Brucella種、Staphylococcus毒素Bなどの更なる細菌の株に対して治療することもできる。
【0121】
好ましい実施形態において、多重特異性IgA抗体などの多重特異性IgA結合分子、例えば本発明の二量体二重特異性IgA抗体は、Clostridium difficile感染の治療のために使用される。Clostridium difficileは、通常はヒト腸内微生物叢の微量成分である、芽胞形成グラム陽性細菌である。しかしながら、高齢者、幼児、または抗生物質治療を受ける免疫不全の個人において、C.difficileは、深刻な下痢、大腸炎、及び死亡につながる劇症になり得る。C.difficile感染の管理は、初期抗生物質の中止及びメトロニダゾール、バンコマイシン、またはフィダキソマイシンによる治療を必要とする。初期治療は、多くの場合良好であるが、患者は、30%の割合で治療に対する不完全な反応または感染の再発のいずれかを有する。故に、より有効な治療法に対する大きな必要がある。
【0122】
C.difficileの病因は、主に腸内の生物によって分泌される2つの毒素、すなわち毒素A及び毒素Bに起因する。これらの毒素は、構造が類似しており、いずれも細胞骨格構造を維持するために必要とされる脱グリコシル化限界GTPaseによって細胞円形化、分離、及び細胞死を引き起こす。毒素A及び毒素Bを強力に中和するモノクローナル抗体が特定され、これらの抗体は、動物モデル及びヒト臨床試験の両方において、C.difficile感染の治療に有望であった。動物研究において、毒素Aまたは毒素Bのいずれかを中和する個々のモノクローナル抗体は、C.difficile毒素により媒介された毒性を阻害することができなかったが、両方の抗体のカクテルは、著しい保護をもたらす。毒素A及び毒素Bを特異的に標的とする二重特異性IgA抗体は、IgAの固有の特性に起因して、著しい追加の利益をもたらす。
【0123】
別の好ましい実施形態において、多重特異性IgA抗体などの多重特異性IgA結合分子、例えば、本発明の二量体二重特異性IgA抗体は、ヒト呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染の治療に使用される。RSVは、深刻な下気道疾患を引き起こす普遍的呼吸器ウイルスであり、幼児及び高齢者において肺炎及び気管支炎の主な原因である。呼吸器合胞体ウイルス(RSV)ビリオンの表面上の2つの主要糖タンパク質、付着糖タンパク質(G)、及び融合糖タンパク質(F)は、感染の初期段階を制御する。Gは、気道の線毛性細胞を標的とし、Fは、ビリオン膜を標的細胞膜と融合させる。タンパク質Fに対する抗体は、例えば、米国特許第5,824,307号及び同第6,818,216号に記載されている。タンパク質Gに対する抗体は、例えば、米国特許第7,736,648号に記載されている。本発明の二重特異性IgA二量体は、IgAの固有の特性に起因して、肺に有効に送達されるその能力を含む、重要な追加の利益をもたらす。
【0124】
更に好ましい実施形態において、多重特異性IgA抗体などの多重特異性IgA結合分子、例えば、本発明の二重特異性IgA抗体は、インフルエンザウイルスによって引き起こされる感染の治療に使用される。インフルエンザ感染(「インフルエンザ(influenzaまたはthe flu)」とも称される)は、ヒト及び家禽動物において最も一般的な疾患のうちの1つである。3つの型のインフルエンザウイルス(A型、B型、及びC型)が疾患を引き起こす。インフルエンザウイルス表面糖タンパク質ヘマグルチニン(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)は、広い抗原変異性を呈し、インフルエンザ亜型を分類するための基礎である。HAは、ビリオンエンベロープの表面上に出現し、細胞へのウイルス侵入に関与する。HAは、約560個のアミノ酸の単一ポリペプチド鎖(HA0)として最初に合成される膜貫通タンパク質であり、これは後次にタンパク質分解的に分割され、2つのサブユニットHA1及びHA2を形成する。サブユニットは、ジスルフィド結合を通じて接続されたままであり、タンパク質は、ビリオン及び感染した細胞の表面上にホモ三量体として出現する。RA Lamb,RM Krug,Orthomyxoviridae:the viruses and their replication. (DM Knipe,PM Howley,DE Griffin(Eds.)et al.,Fields Virology,4th edn.,Lippincott Williams & Wilkins,2001,pgs.1487−1531を参照)。HA1は、HAの球形ヘッド領域を形成し、HA亜型間の抗原変異性の大部分に関与する。HA1は、宿主細胞上のウイルス受容体と相互作用する。HA2は、ウイルススパイクの線維性ステムを形成し、ビリオンエンベロープと宿主細胞膜との間の融合に関与すると考えられる。様々な異なるHA亜型の中で、ステム領域がより保存される。(例えば、Wilson et al.,Nature,289:366−373,1981、Skehel et al.,Ann.Rev.Biochem.,69:531−569,2000を参照)。
【0125】
ヒトの体内で循環するインフルエンザウイルスの抗原変異性は毎年異なり、故に毎年のワクチン接種が必要とされ、季節ワクチンは、所与の年に最も普及する亜型の予測に基づいて調製される。あいにく、予測は常に正しいとは限らない。更に、インフルエンザウイルスの広域流行株は、定期的に動物保有体からヒト集団に飛び移る。かかる広域流行株、例えばH5N1は、慎重な制御がなければ深刻な疾患の蔓延を引き起こし得る。故に、当該技術分野において、インフルエンザウイルス疾患及び蔓延を制御するための追加の療法の必要性が残る。
【0126】
代替手法として、インフルエンザ感染を予防するか、またはウイルス中和を通じて既存の感染を治療することができる抗体に基づく療法が開発中である。インフルエンザウイルス感染から保護する大部分の中和抗体の一次標的は、HAの球形ヘッド領域であるが、この領域の抗原変異性は課題を提起する。近年、インフルエンザA及びBウイルスのHAの保存されたステム領域を認識する広域交差中和抗体が特定されたが、臨床研究における有用性は証明されていない。(例えば、国際公開第2008/028946号、同第2010/130636号、及び米国公開第20140120113A1号を参照)。IgA骨格のポリクローナル混合物は、インフルエンザウイルスに対して強化された中和能力を有することが示されている(He,W.et al.,J.Virol.Doi:10.1128/JVI.03099−14、2015年1月14日にオンライン投稿された承認原稿)。
【0127】
二重特異性及び多重特異性IgA結合分子、例えば本発明の多重または二重特異性二量体抗体は、様々なインフルエンザウイルス及びインフルエンザウイルス亜型上の異なる抗原を標的とするように設計することができ、故にインフルエンザの管理のための有効なツールを提供する。
【0128】
多重特異性IgA結合分子、例えば本発明のIgA抗体は、多くの更に広範囲の用途を有する。
【0129】
一実施形態において、多重特異性IgA結合分子、例えば本明細書における抗体は、例えばVEGF、TNFα、またはIL6などの同じ可溶性標的上の2つ以上の部位に結合する。目的は、例えば、タンパク質上の複数の部位に拮抗すること、及び/または所与の標的に対する結合力を増加させることであり得る。
【0130】
別の実施形態において、多重特異性IgA結合分子、例えば本明細書における抗体は、EGFRまたはHER2(ErbB2)などの同じ細胞表面(受容体)標的上の2つの以上の部位に結合する。故に、例えば二重特異性結合分子は、HER2分子上の4D5及び2C4エピトープの両方を標的とし得る。この手法は、所与の標的に対する生物作用能及び/または結合力を増加させることができる。
【0131】
なおも別の実施形態において、多重特異性IgA結合分子、例えば本発明の抗体は、例えばTNFα及びIL6、VEGFα及びAng2、または2つのサイトカインなどの2つ以上の異なる可溶性標的(球形タンパク質またはペプチド)に結合する。この手法は、特定経路のより完全な遮断、いわゆる「サイトカインストーム」の遮断、または酵素及びその基質、例えば第IXa因子及び第X因子の調整をもたらし得る。
【0132】
更なる実施形態において、多重特異性IgA結合分子、例えば本明細書における抗体は、血管新生因子及び新生血管特異的受容体などの1つ以上の可溶性標的及び1つ以上の細胞表面受容体標的に結合することができる。この手法の目的は、特定部位または組織における送達及び遮断の増加でもあり得る。
【0133】
なおも更なる実施形態において、多重特異性IgA結合分子、例えば本明細書における抗体は、例えばHER2(ErbB2)及びHER3(ErbB3)などの2つ以上の異なる細胞表面受容体標的に結合するように設計される。これは、特異性及び選択性の強化、かつ/または所与の経路のより完全な遮断をもたらし得る。
【0134】
多重特異性IgA結合分子、例えば本発明の抗体は、例えばTNFα及び血清アルブミン、またはVEGF及び血清アルブミンなどの1つの可溶性標的または細胞表面受容体標的、及び滞留時間の長い標的に結合するように設計することもできる。これらの分子は、アルブミン特異性を有しない結合分子よりも長い循環半減期を有すると予想される。
【0135】
更なる実施形態において、多重特異性IgA結合分子、例えば本明細書における抗体は、例えばVEGFα及びヒアルロン酸などの1つ以上の可溶性標的及び1つ以上のマトリックスタンパク質または基質に結合することができる。得られる二重特異性結合分子は、例えば、眼内空間におけるそれらの増加した滞留時間に起因して、加齢性黄斑変性(AMD)などの眼の病態の抗血管新生療法において実用性を見出すことができる。
【0136】
二重特異性IgA結合分子、例えば1つの可溶性または受容体標的、及び輸送体受容体(すなわち、トランスフェリン受容体)、例えば抗EGFRvIII(エクソンIIIを欠失した突然変異体形態)に結合する抗体は、抗トランスフェリン特異性と組み合わされて神経膠芽腫を見出し、血管脳障壁を越える抗体送達において実用性を見出すことができる。
【0137】
他の多重特異性IgA結合分子、例えば抗体は、B細胞及びT細胞などの2つ以上の異なる細胞型に結合することができる。かかる抗体は、例えば、関節リウマチ(RA)または非ホジキンリンパ腫などのB細胞及び/もしくはT細胞関連疾患もしくは状態において実用性を見出すことができる。
【0138】
全ての実施形態において、二量体二重特異性IgA抗体の使用が好ましい。
【0139】
標的抗原に会合する、有効量の、多重特異性IgA抗体などの多重特異性IgA結合分子、例えば任意及びすべての上述される関連病態の治療のための二重特異性二量体IgA抗体を含む薬学的組成物は、かかる病態の治療のための方法及び使用とともに、明白に本発明の範囲内である。
【0140】
6.組成物、薬学的組成物、及び治療の方法
一態様において、本発明は、本明細書における精製された多重特異性IgA抗体を含む組成物に関する。該組成物は、一般に、所望の二重特異性IgA結合分子、例えば抗体を、少なくとも約80%、または少なくとも約85%、または少なくとも約90%、または少なくとも約92%、または少なくとも約95%、または少なくとも約98%、または少なくとも約99%含有する。組成物は、薬学的組成物であってもよく、二重特異性結合分子、例えば抗体は、少なくとも1つの薬学的に許容される担体と混和されている。
【0141】
様々な実施形態において、本発明の薬学的組成物は、有効量の、多重特異性IgA抗体などの多重特異性IgA結合分子、例えば上に列挙される病態または疾患の治療のための本発明の二量体二重特異性IgA抗体を含む。全ての実施形態において、二量体二重特異性IgA抗体の使用が好ましい。
【0142】
本発明の薬学的組成物は、当該技術分野において既知の様々な方法によって投与され得る。熟練者によって理解されるように、投与の経路及び/または形態は、標的疾患または病態及び所望の結果に応じて異なる。ある特定の投与経路によって本発明の化合物を投与するために、化合物を、その不活性化を防ぐ材料でコーティングするか、または化合物を共投与することが必要であり得る。例えば、該化合物は、適切な担体、例えば、リポソームまたは希釈剤中で対象に投与されてもよい。薬学的に許容される希釈剤としては、生理食塩水及び水性緩衝溶液が挙げられる。薬学的担体としては、滅菌注射剤または分散剤の即座調製のための滅菌水性溶液または分散剤及び滅菌粉末が挙げられる。薬学的活性物質に対するかかる媒体及び薬剤の使用は、当該技術分野において既知である。
【0143】
該組成物は、保存剤、湿潤剤、乳化剤、及び/または分散剤などの補助剤を含有してもよい。微生物の存在の防止は、滅菌手順、ならびに様々な抗細菌剤及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などの包含の両方によって確実にすることができる。糖、塩化ナトリウムなどの等張剤を組成物に含めることが望ましい場合もある。加えて、注入可能な剤形の長期吸収は、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなどの吸収を遅らせる薬剤の包含によってもたらされ得る。
【0144】
本発明の薬学的組成物中の活性成分の実際の投薬量レベルは、特定患者、組成物、及び投与形態に対して、該患者に毒性とならずに所望の治療反応を達成するために有効な活性成分の量を得るように変化してもよい。選択される投薬量レベルは、用いられる本発明の特定組成物の活性、投与経路、投与時間、用いられる特定化合物の分泌速度、治療期間、他の薬物、用いられる特定組成物と組み合わせて使用される化合物及び/または材料、治療される患者の年齢、性別、体重、状態、一般的健康、及び以前の病歴、ならびに医学分野において周知の同様の因子を含む、様々な薬物動態因子に依存する。
【0145】
組成物は、該組成物がシリンジによって送達可能である程度に滅菌かつ流動性でなければならない。水に加えて、担体は、好ましくは等張緩衝生理食塩液である。
【0146】
本明細書で述べられる全ての刊行物は、参照によりそれら全体が本明細書に明白に組み込まれ、刊行物が関連して引用される方法及び/または材料を開示し、説明する。本明細書で引用される刊行物は、本出願の出願日前のそれらの開示に対して引用されている。ここでは、本発明者らが、より以前の優先日または以前の発明日によって、該刊行物よりも前日付であると主張する権利がないことを認めるものと解釈されてはならない。更に、実際の公開日は、示されるものとは異なる場合があり、独立した認証を必要とする。
【0147】
以下の実施例、配列表、及び図面は、本発明の理解を助けるために提供され、その真の範囲は、添付の特許請求の範囲内に記載される。本発明の趣旨から逸脱することなく、記載される手順に修正を行うことができることが理解される。
【実施例】
【0148】
実施例1
1.設計された突然変異によるDNAコンストラクトの生成
a.材料及び方法:設計された突然変異によりDNAコンストラクトを生成する
b.DNAコンストラクトの合成
設計された突然変異によるDNAコンストラクトは全て、商業ベンダー(Genescript)によって合成され、それぞれの発現ベクターにサブクローニングするために、両端に適合性制限部位を有する。
c.発現ベクターを構成する
合成されたDNAコンストラクトを、トリス−EDTA緩衝液中に1μg/mLで再懸濁する。DNA(1μg)を酵素消化に供し、合成された遺伝子を電気泳動によって担体プラスミドDNAから分離する。消化されたDNAを、標準分子生物学技法によって、前消化されたプラスミドDNA(α鎖の場合、pFUSEss−CHIg−hA1、κ鎖の場合、pFUSE2ss−CLIg−hk、Invivogen)に結紮する。結紮されたDNAを、競合細菌に形質転換し、複数の選択的抗生物質とともにLBプレートに置く。幾つかの細菌コロニーを採取し、DNA調製物を標準分子生物学技法によって作製する。調製されたDNAを、配列決定によって検証する。設計されたDNA配列と100%のDNA配列マッチを有する細菌クローンのみを、プラスミドDNAの調製、及び後次に細胞形質移入に使用する。
d.異なるサイズのα鎖
2つの異なるα鎖(A及びB)を一緒にカップリングすることができることを証明するために、別個の分子量及びリガンド特異性を有する2つの異なるα鎖を構成する。
e.A鎖は、ヒトα鎖のCA1と融合されたキメラOKT3(抗CD3)VH領域のための完全長α鎖で構成される。
QVQLQQSGAELARPGASVKMSCKASGYTFTRYTMHWVKQRPGQGLEWIGYINPSRGYTNYNQKFKDKATLTTDKSSSTAYMQLSSLTSEDSAVYYCARYYDDHYCLDYWGQGTTLTVSSASPTSPKVFPLSLCSTQPDGNVVIACLVQGFFPQEPLSVTWSESGQGVTARNFPPSQDASGDLYTTSSQLTLPATQCLAGKSVTCHVKHYTNPSQDVTVPCPVPSTPPTPSPSTPPTPSPSCCHPRLSLHRPALEDLLLGSEANLTCTLTGLRDASGVTFTWTPSSGKSAVQGPPERDLCGCYSVSSVLPGCAEPWNHGKTFTCTAAYPESKTPLTATLSKSGNTFRPEVHLLPPPSEELALNELVTLTCLARGFSPKDVLVRWLQGSQELPREKYLTWASRQEPSQGTTTFAVTSILRVAAEDWKKGDTFSCMVGHEALPLAFTQKTIDRLAGKPTHVNVSVVMAEVDGTCY
(配列番号23)
A鎖は、約55kDの分子量を有し、CD3(10977−H08H、Sino Biological)またはT細胞の可溶性ε鎖に結合することができる。
f.B鎖は、ヒトα鎖の(Gly4Ser)−ヒンジ−CA2−CA3と融合されたcMycタグを有する。
GEQKLISEEDLGGGGSTPPTPSPSTPPTPSPSCCHPRLSLHRPALEDLLLGSEANLTCTLTGLRDASGVTFTWTPSSGKSAVQGPPERDLCGCYSVSSVLPGCAEPWNHGKTFTCTAAYPESKTPLTATLSKSGNTFRPEVHLLPPPSEELALNELVTLTCLARGFSPKDVLVRWLQGSQELPREKYLTWASRQEPSQGTTTFAVTSILRVAAEDWKKGDTFSCMVGHEALPLAFTQKTIDRLAGKPTHVNVSVVMAEVDGTCY
(配列番号24)
B鎖は、約28kDの分子量を有し、抗mycモノクローナル抗体9E4または他の抗myc抗体に結合することができる。
g.代替B鎖は、ヒトα鎖のヒンジ−CA2で融合されたCrossMabVH−CL(V+C)リツキシマブ(抗CD20)の完全長α鎖を有する。
QVQLQQPGAELVKPGASVKMSCKASGYTFTSYNMHWVKQTPGRGLEWIGAIYPGNGDTSYNQKFKGKATLTADKSSSTAYMQLSSLTSEDSAVYYCARSTYYGGDWYFNVWGAGTTVTVSASVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGECPVPSTPPTPSPSTPPTPSPSCCHPRLSLHRPALEDLLLGSEANLTCTLTGLRDASGVTFTWTPSSGKSAVQGPPERDLCGCYSVSSVLPGCAEPWNHGKTFTCTAAYPESKTPLTATLSKSGNTFRPEVHLLPPPSEELALNELVTLTCLARGFSPKDVLVRWLQGSQELPREKYLTWASRQEPSQGTTTFAVTSILRVAAEDWKKGDTFSCMVGHEALPLAFTQKTIDRLAGKPTHVNVSVVMAEVDGTCY
(配列番号25)
B鎖は、約55kDの分子量を有し、CD20陽性B細胞に結合することができる。
h.異なる軽鎖カップリング
i.天然キメラOKT3κ鎖
QIVLTQSPAIMSASPGEKVTMTCSASSSVSYMNWYQQKSGTSPKRWIYDTSKLASGVPAHFRGSGSGTSYSLTISGMEAEDAATYYCQQWSSNPFTFGSGTKLEINRAVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
(配列番号26)
j.リツキシマブに対するCrossMabVL−CH1
QIVLSQSPAILSASPGEKVTMTCRASSSVSYIHWFQQKPGSSPKPWIYATSNLASGVPVRFSGSGSGTSYSLTISRVEAEDAATYYCQQWTSNPPTFGGGTKLEIKSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKRVEPKSC
(配列番号27)
軽鎖は、約25kDの分子量を有する。
k.異なる発現ベクターの異なる選択マーカー
異なる選択マーカーは、共形質移入のために使用される異なる発現ベクター上で使用される。IgA生成に関連する全ての必須発現ベクターに対応するために、複数の薬物が細胞の選択に使用される。特定のDNAをこれらのベクターにクローニングするために、標準分子生物学技法が使用される。
l.α鎖はゼオシン選択を利用する(抗zn−1、Invivogen)。ゼオシンは、100μg/mLの濃度で使用される。Sh ble遺伝子を含有するプラスミドによる形質移入後、次に細胞を、100μg/mLでゼオシンを含有するOpti−CHO媒体中でインキュベートして、安定した形質移入体を選択する。
m.κ鎖はブラスチシジンS選択を利用する(抗bl−1、Invivogen)。ブラスチシジンSは、10μg/mLの濃度で使用される。bsr遺伝子を含有するプラスミドによる形質移入後、次に細胞を10μg/mLでブラスチシジンSを含有するOpti−CHO媒体中でインキュベートして、安定した形質移入体を選択する。
n.タンパク質の発現、精製、及び特徴付け
o.形質移入
p.IgAは、等モル比または可変モル比(5〜10倍差)での、293細胞またはCHO細胞などの哺乳動物細胞への幾つかの異なる発現ベクターの共形質移入によって作製される。発現ベクターのためのDNAをPEIと混合し、次にCHO−S細胞に添加する。CHO−S細胞によるPEI形質移入は、確立された技法に従って行う(「Biotechnology and Bioengineering,Vol 87,553−545」を参照)。
q.タンパク質の精製
r.ジャカリン−アガロース(カタログ番号gel−jac−5、Invivogen)
形質移入されたCHO−S細胞の上清からのIgAタンパク質は、製造者のプロトコルに従い、親和性ジャカリン−アガロースによって精製される。
s.カプト−L(カタログ17−5478−01、GE Healthcare)
CHO−S細胞上清中にκ鎖を含有する形質移入されたIgAタンパク質は、製造者のプロトコルに従い、カプト−L親和性マトリックスによって精製される。
t.ゲル電気泳動
u.非還元SDS PAGE
v.非還元SDS PAGEは、サイズに従って天然IgA及びその操作された形態を分離する。ホモ二量体重鎖(AA)及びそれらの軽鎖からなるIgAは、約160kDa分子量のタンパク質バンドを生成する。より短いバージョンのホモ二量体重鎖(BB)からなるホモ二量体IgAは、例えばcMycタグ付きIgA−Fcとともに、著しく低い分子量のタンパク質バンドを生成する。ヘテロ二量体重鎖(AB)からなるIgAは、BBより多く、AAよりも少ない分子量を有する複数のタンパク質を生成する。
w.NuPage LDS試料緩衝液(Life Technologies)を、IgAタンパク質試料に25℃で30分間、ゲル上に負荷する前に添加する。NativePage Novex3〜12%ビス−トリスゲル(Life Technologies)を、Novexトリス−酢酸塩SDS走行緩衝液(Life Technolgies)とともに使用する。色素の最前部がゲルの底部に到達するまで、ゲルを走行させる。
x.SDS−PAGEを還元する
y.NuPage LDS試料緩衝液(Life Technologies)及びNuPage還元剤ジチオトレイトール(Life Technologies)をIgAタンパク質試料に添加し、NuPage Novex4〜12%ビス−トリスゲル(Life Technologies、カタログ番号NP0322)上に負荷する前に80℃で10分間加熱する。NuPage MES SDS走行緩衝液(Life Technologies、カタログ番号NP0002)をゲル電気泳動に使用する。色素の最前部がゲルの底部に到達するまで、ゲルを走行させる。
z.電気泳動が完了した後、ゲルを装置から除去し、コロイドブルー染色(Life Technologies、マニュアル番号LC6025)を使用してゲルを染色する。
aa.ゲルバンドの定量
タンパク質ゲルを乾燥させ、次に画像走査装置を使用してデジタル化する。Image Jプログラムを用いてゲル画像を処理し、特定バンド内のタンパク質の量は、ゲル定量関数を使用して決定することができる。
bb.二重特異性調製物中の様々なmAbを特定/定量するための質量分光分析
cc.示差走査熱量測定(DSC)を使用する安定性分析
dd.二重特異性機能分析
ee.2つのリガンドに対するELISA分析
OKT3(鎖A)及びcMycペプチド(鎖B)を有するIgAを、ELISA分析によって、可溶性CD3εタンパク質捕捉及び抗cMyc(9E10)検出を用いてアッセイする。可溶性CD3εタンパク質を、ELISAプレート上に150mM NaHCO中2mg/mLでコーティングし、続いてPBS中3%のBSAで遮断する。形質移入されたIgA−OKT3−cMycを含有する上清(100μL)を、遮断したELISAプレートに25℃で4時間添加する。PBSで洗浄した後、9E10抗体をELISAプレートに室温で2時間添加する。PBSでの洗浄に続いて、抗マウスIgG−HRPを添加する。二重特異性IgAの存在は、HRP基質を添加した後、OD450で読み取ることによって検出される。
ff.標的結合のFACS分析
T細胞に対するIgA−OKT3−cMyc結合は、T細胞株(Peer、陽性細胞株)及びB細胞株(Daudi、陰性対照細胞株)に対する抗体の結合によって確認される。洗浄後、ローダミン標識された9E10を細胞懸濁液に添加する。細胞標的結合は、CD3抗原の有無に関わらず、陽性及び陰性対照細胞の両方のMFIによって検出される。
gg.二重特異性結合の蛍光顕微鏡アッセイ
設計されたCD3×CD20二重特異性IgAの二重特異性結合を、2つの異なる生体染色色素によって各細胞型に関して前標識されたCD3陽性細胞及びCD20陽性細胞の2つの集団を一緒にするその能力によって検証する。例えば、
hh.CD3陽性細胞株(Jurkat)を標識する緑色蛍光サイトゾル生体染色色素(CellTrace(商標)カルセイングリーンAM)
ii.CD20陽性B細胞細胞株(Daudi)を標識する赤色蛍光サイトゾル生体染色色素(CellTrace(商標)カルセインレッド−オレンジ、AM)
【0149】
実施例2
二重特異性二量体IgAの肺への輸送
二重特異性二量体IgAが肺に送達される能力は、様々な方法によって調査することができる。例えば、3〜4週齢の雌BALB/cマウスの群に、PBS中のヒトIgG1/κまたは二量体IgA/κを、最大50mg/lgの用量でIV注入する。代替的に、ヒトまたはマウス抗CD20抗体を使用することができる。注入後4時間で、血液試料を収集し、血漿について処理する。犠牲死させる直前に、マウスに麻酔をかけて失血させる。頸部リンパ節の除去に続いて、気管を露出し、上気管及び鼻腔を200μLのPBSで洗浄することによって鼻洗浄試料を収集する。カテーテルを気管に挿入し、肺を1mLのPBSで3回洗浄することによって(合計3mL、遠心分離によって清澄化)、気管支肺胞洗浄(BAL)試料を収集する。プロテアーゼ阻害剤フェニルメチルスルホニルフルオリドを、収集後に全ての試料に1mMの濃度で添加し、全ての試料を分析まで−20℃以下で保管する。
【0150】
各試料中の試験抗体の濃度をELISAによってアッセイする。簡潔には、マウスIgで交差吸収されたヤギポリクローナル抗ヒトκ軽鎖抗体を、96ウェルELISAプレートのウェル上に終夜4℃でコーティングし、次に未反応の部位を、3%のウシ血清アルブミンを含有するPBSで遮断する。代替的に、プレートを可溶性形態のヒトCD20でコーティングしてもよい。洗浄後、連続希釈した試験試料及び標準物質をプレートに適用し、37℃で1時間インキュベートする。次にプレートを0.05%のTween20を含有するPBSで洗浄し、マウスIgに対して交差吸収されたアルカリホスファターゼ複合重鎖特異的ヤギ抗ヒトIgGまたはIgAでインキュベートする。マウス試験抗体の場合、固定化したCD20を捕捉に使用し、アルカリホスファターゼ複合重鎖特異的ヤギ抗マウスIgGまたはIgAを検出に使用する。p−ニトロフェニルホスフェートでプレートを現像し、405nmの光学密度(OD)で読み取る。IgA及びIgG標準曲線からの結果に基づいて、各試料中の試験抗体の濃度を計算する。
【0151】
実施例3
RSV F及びG抗原に対する二重特異性二量体IgA抗体
ヒト呼吸器合胞体ウイルス(RSV)は、深刻な下呼吸器管疾患を引き起こす固有の呼吸器ウイルスであり、幼児及び高齢者において肺炎及び気管支炎の主な原因である。呼吸器合胞体ウイルス(RSV)ビリオンの表面上の2つの主要糖タンパク質、付着糖タンパク質(G)、及び融合糖タンパク質(F)は、感染の初期段階を制御する。Gは、気道の線毛性細胞を標的とし、Fは、ビリオン膜を標的細胞膜と融合させる。
【0152】
本実施例に従って、RSV Fタンパク質に結合することができる配列を有する1つの重鎖及び軽鎖の組み合わせ、ならびにRSV Gタンパク質に結合することができる配列を有する別の重鎖及び軽鎖の組み合わせからなる固有の二量体IgA分子を操作する。実施例1に記載される技術を使用するこれらの抗体の発現は、RSV Fの2つの結合部分及びRSV Gの2つの結合部分を有する単一IgA分子をもたらす。
【0153】
表1に列挙されるセット#1、ノブ、CA3 #1突然変異(太字)を含む、二重特異性ヒト抗RSV IgA2抗体のRSV G結合部分の重鎖可変領域配列は、配列番号10として示される。RSV Gタンパク質結合部分のヒトκ軽鎖可変領域配列は、配列番号11として示される。
【0154】
セット#1、ホール、CA3 #2、CA1突然変異を含む、操作されたIgA2抗体重鎖(配列番号8)に融合された二重特異性抗体の抗RSV Fタンパク質結合部分の可変軽鎖領域配列のCrossMabバージョンは、配列番号12として示される。操作されたκ定常軽鎖ドメイン(配列番号9)に融合された抗PSV Fタンパク質結合部分の可変重鎖領域配列のCrossMabバージョンは、配列番号13として示される。
【0155】
RSV G及びRSV F抗原に対する結合特異性を有する二重特異性抗RSV IgA抗体の結合は、試薬が特定抗原及び二重特異性抗体の性質に応じて修飾されることを除いて、本質的に実施例1.eeに記載されるように評価する。例えば、Fタンパク質及びGタンパク質に結合するRSV二重特異性IgA抗体を評価するためのELISAにおいて、RSV Fタンパク質(またはその適切な断片)は固定化され、ELISA捕捉に使用されるが、ビオチニル化可溶性RSV Gタンパク質(またはその適切な断片)は、検出に使用される。代替的に、Gタンパク質を捕捉に使用することができ、可溶性ビオチニル化Fタンパク質を検出に使用してもよい。二重特異性IgAの存在は、アビジン−HRP及び基質を添加した後、OD450nmで読み取ることによって検出される。
【0156】
RSVの培養及びインビトロRSVウイルス中和アッセイは、米国特許第7736648号に記載されるものなどの様々な標準技法を使用して行うことができる。つまり、HEp2細胞は、12ウェルプレートに2×10細胞/ウェルで播種される。翌日、抗体の連続希釈液が培地中で生成される。約200PFU/ウェルのRSVを、ウサギ補体血清の存在下で抗体に添加し、室温で1時間インキュベートする。次に、抗体−ウイルス混合物をHEp2細胞に200μL/ウェルで添加し、室温で2時間インキュベートして感染を可能にする。この感染期間に続いて、培地を除去し、1%メチルセルロースを含有する培地を全てのウェルに添加する。プレートを35℃で6日間インキュベートし、その後、細胞を固定し、次のようにプラーク数決定のために染色する。メチルセルロースを細胞層から吸引し、細胞を100%メタノール中に室温で30分間固定する。次に、プレートをPBS中の5%乳汁で3回洗浄する。一次抗体を、PBS+5%乳汁タンパク質中の1:500希釈液(ヤギ抗RSVポリクローナル抗体(Chemicon カタログ番号AB1128))で1時間添加する。プレートをPBS中の5%乳汁で再度3回洗浄する。次に、二次抗体を、PBS中の5%乳汁タンパク質の1:500希釈液(ImmunoPureウサギ抗ヤギ抗体IgG(H+L)ペルオキシダーゼ複合)で1時間添加する(Thermo Scientific、カタログ番号31402))。プレートを1×PBSで3回洗浄する。1工程クロロナフトール基質(Pierce、カタログ番号34012)を1ウェル当たり200μLで10分間添加することによって、プラークを可視化する。プレートを水で洗浄し、空気乾燥させる。各ウェル内のプラークを手検測によって数える。
【0157】
インビボRSV中和研究、例えばCollarini et al 2009(J.Immunol. 183_6338−6345)に記載されるマウス予防研究は、様々な標準技法を使用して行うことができる。簡潔には、6〜8週齢の雌BALB/cマウスの群に、試験される抗体(二重特異性IgA抗体ならびに陽性及び陰性対照)を、最大50mg/kgの用量で注入する。24時間後(予防モデル)、マウスに10PFUのRSV長株ウイルスを鼻腔内感染させる。代替的に、ウイルス攻撃後最大数日間、抗体を投与してもよい(治療モデル)。5日後、動物を犠牲死させ、それらの肺を切除する。ウイルス負荷は、5日目に(i)肺組織1グラム当たりのPFU、または(ii)トリゾール抽出キット(Invitrogen)を使用して肺組織からRNAを抽出した後の定量的PCRによって、定量する。ウイルスN遺伝子複製数は、組織試料のアクチンmRNA含有量のパーセントとして表現される。対照動物は、いかなる抗RSV mAbも受容しないか、または非免疫アイソタイプ対照mAbを受容するかのいずれかである。
【0158】
実施例4
インフルエンザ抗原に対する二重特異性二量体IgA抗体
インフルエンザ感染(「インフルエンザ」または「the flu」とも称される)は、ヒト及び家禽動物において最も一般的な疾患のうちの1つである。3つの型のインフルエンザウイルス(A型、B型、及びC型)が疾患を引き起こす。インフルエンザウイルス表面糖タンパク質ヘマグルチニン(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)は、広い抗原変異性を呈し、インフルエンザ亜型を分類するための基礎である。HAは、ビリオンエンベロープの表面上に出現し、細胞へのウイルス侵入に関与する。HAは、約560個のアミノ酸の単一ポリペプチド鎖(HA0)として最初に合成される膜貫通タンパク質であり、これは後次にタンパク質分解的に分割され、2つのサブユニットHA1及びHA2を形成する。サブユニットは、ジスルフィド結合を通じて接続されたままであり、タンパク質は、ビリオン及び感染した細胞の表面上にホモ三量体として出現する。RA Lamb,RM Krug,Orthomyxoviridae:the viruses and their replication.(DM Knipe,PM Howley,DE Griffin(Eds.)et al.,Fields Virology,4th edn.,Lippincott Williams & Wilkins,2001,pgs.1487−1531を参照)。HA1は、HAの球形ヘッド領域を形成し、HA亜型間の抗原変異性の大部分に関与する。HA1は、宿主細胞上のウイルス受容体と相互作用する。HA2は、ウイルススパイクの線維性ステムを形成し、ビリオンエンベロープと宿主細胞膜との間の融合に関与すると考えられる。
【0159】
本実施例に従い、インフルエンザAウイルスのHAサブユニット上の2つの異なる抗原に結合することができる配列を有する、1つの重鎖及び軽鎖の組み合わせからなる固有の二量体IgA分子を操作する。実施例1に記載される技術を使用するこれらの抗体の発現は、各HAエピトープの2つの結合部分を有する単一IgA分子をもたらす。代替的に、HA及びNA上のエピトープに向けられた二重特異性IgA抗体を構成することができる。
【0160】
表1に列挙されるセット#1、ノブ、CA3 #1突然変異(太字)を含む、二重特異性ヒト抗インフルエンザIgA抗体の第1のHA結合部分の重鎖可変領域配列は、配列番号14として示される。重鎖可変領域と会合したヒトκ軽鎖可変領域配列は、配列番号15として示される。
【0161】
セット#1、ホール、CA3 #2、CA1突然変異を含有する、操作されたIgA2抗体重鎖(配列番号8)に融合された二重特異性抗体の第2のHA結合部分の可変軽鎖領域配列のCrossMabバージョンは、配列番号16として示される。操作されたκ定常軽鎖ドメイン(配列番号9)に融合された第2のHA結合部分の可変重鎖領域配列のCrossMabバージョンは、配列番号17として示される。
【0162】
2つの抗原に対する二重特異性抗インフルエンザIgA抗体の結合は、試薬が特定抗原及び二重特異性の性質に応じて修飾されることを除いて、本質的に実施例1に記載されるように評価する。例えば、HA及びNAに結合するインフルエンザ二重特異性IgAを評価するためのELISAにおいて、1つのインフルエンザタンパク質またはペプチドは固定化され、ELISA捕捉に使用されるが、異なるインフルエンザタンパク質またはペプチドは、ビオチニル化され、検出に使用される。二重特異性IgAの存在は、アビジン−HRP及び基質を添加した後、OD450nmで読み取ることによって検出される。
【0163】
インフルエンザウイルスの培養及びインビトロインフルエンザウイルス中和アッセイは、Throsby et al.2008(PLoS One 3,e3942)に記載されるものなどの様々な標準技法を使用して行うことができる。簡潔には、MDCK細胞を、10%ウシ胎仔血清(FCS)及び1%ペニシリン−ストレプトマイシン(PS)を補充した最小必須培地(MEM)中、37℃で維持する。実験の日に、96ウェル形式のMDCK細胞を、PBSで2回洗浄し、1%FCS、1%PS、及び1mg/mLのTPCKトリプシン(非H5ウイルス)を補充したMEM中で培養する。2倍に連続希釈した抗体を、等量のウイルス接種原と混合し、続いて37℃で2時間インキュベートする。インキュベーション後、混合物(約100 TCID50)をコンフルエントなMDCK単層に添加する。細胞変性効果(CPE)の審査前に、細胞を72時間培養する。CPEは、陽性対照(ウイルス播種した細胞)及び陰性対照(模擬播種した細胞)と比較する。個々のウェル内のCPEの非存在は、保護として定義される。
【0164】
インビボ保護研究は、Throsby et al.2008(PLoS One3,e3942)に記載されるものなどの様々な標準技法を使用して行うことができる。簡潔には、7週齢の雌BALB/cマウスの群に、試験される抗体(二重特異性IgA抗体ならびに陽性及び陰性対照)を、最大50mg/kg(予防モデル)の用量でIP注入する。24時間後、マウスに致死量のウイルス(典型的に10倍〜25倍LD50)を鼻腔内播種し、21日間観察する。代替的に、ウイルス攻撃後最大数日間、抗体を投与してもよい(治療モデル)。臨床兆候を、採点システム(0=臨床兆候なし、1=粗コーティング、2=粗コーティング、低反応、対処中は受動的、3=粗コーティング、巻き上げ、強制呼吸、対処中は受動的、4=粗コーティング、巻き上げ、強制呼吸、無反応)により採点し、生存していると記録する。体重を監視してもよい。対照動物は、典型的に、攻撃後12日から15日以内に死亡する。
【0165】
実施例5
Clostridium difficile毒素A及びBに対する二重特異性二量体IgA抗体
前述のように、Clostridium difficileは、通常はヒトの腸内の微生物叢の微小成分である、芽胞形成グラム陽性細菌である。しかしながら、高齢者、幼児、または抗生物質治療を受ける免疫不全の個人において、C.difficileは、深刻な下痢、大腸炎、及び死亡につながる劇症になり得る。C.difficile感染の管理は、初期抗生物質の中止及びメトロニダゾール、バンコマイシン、またはフィダキソマイシンによる治療を必要とする。初期治療は、多くの場合良好であるが、患者は、30%の割合で治療に対する不完全な反応または感染の再発のいずれかを有する。故に、より有効な治療法に対する大きな必要がある。
【0166】
本実施例に従い、C.difficile毒素Aに結合し、中和することができる配列を有する1つの重鎖及び軽鎖の組み合わせ、ならびに毒素Bに結合し、中和するように設計された第2の重鎖及び軽鎖の組み合わせからなる固有の二量体IgA分子を操作する。本明細書に記載される技術を使用するこれらの抗体の発現は(実施例1を参照)、全身投与時にC.difficile感染の腸部位に有効に通行することができる、毒素Aに対する2つの結合部分及び毒素Bに対する2つの結合部分を有する単一IgA分子をもたらす。かかる固有のIgA分子は、C.difficile反復感染の治療に対する用量反応を向上させるか、または致死的C.difficile疾患の対象における初期治療の有効性を向上させる。
【0167】
表1に列挙されるセット#1、ノブ、CA3 #1突然変異(太字)を含む、二重特異性ヒト抗C.difficile抗体の毒素A結合部分の重鎖可変領域配列は、表18として示される。重鎖可変領域と会合したヒトκ軽鎖可変領域配列は、配列番号19として示される。
【0168】
セット#1、ホール、CA3 #2、CA1突然変異を含む、操作されたIgA2抗体重鎖(配列番号8)に融合された二重特異性抗体の毒素B結合部分の可変軽鎖領域配列のCrossMabバージョンは、配列番号20として示される。操作されたκ定常軽鎖ドメイン(配列番号9)に融合された毒素B結合部分の可変重鎖領域配列のCrossMabバージョンは、配列番号21として示される。
【0169】
試薬が特定抗原及び二重特異性の性質に応じて修飾されることを除いて、2つの抗原に対する二重特異性抗C.difficile IgA抗体の結合を、本質的に実施例1.eeに記載されるように評価する。例えば、C.difficile毒素A及び毒素B(またはその適切な断片)に結合する二重特異性IgAを評価するためのELISAにおいて、毒素A(またはその適切な断片)は固定化され、ELISA捕捉に使用されるが、ビオチニル化毒素B(またはその適切な断片)は、検出に使用される。代替的に、毒素Bは、捕捉に使用することができ、可溶性ビオチニル化毒素Aは、検出に使用されてもよい。二重特異性IgAの存在は、アビジン−HRP及び基質を添加した後、OD450nmで読み取ることによって検出される。
【0170】
インビトロC.difficile毒素A及び毒素B毒素中和アッセイは、Babcock et al.2006(Infect.Immun.74,6339−6347)に記載されるものなどの様々な標準技法を使用して行うことができる。簡潔には、IMR−90肺線維芽細胞が異なる濃度の毒素Aまたは毒素Bの存在下でインキュベートされるとき、細胞は円形化し、細胞培養皿への付着を喪失する。この細胞変性効果(CPE)は、細胞の目視検査によって決定され、0〜4のCPEスコアは、その目視検査の結果に基づいて決定される。中和を試験するために、IMR−90細胞を、96ウェルマイクロタイタープレートの1ウェル当たり1×10細胞で播種し、5%COとともに37℃で12時間インキュベートする。毒素A(6ng/mL)または毒素B(20pg/mL)を、様々な濃度の抗体で1時間インキュベートし、細胞培養物に添加して、インキュベーションを37℃で18時間継続する。次に、細胞変性効果を顕微鏡的に決定し、0(0%円形化細胞)、1(25%円形化細胞)、2(50%円形化細胞)3(75%円形化細胞)、または4(100%円形化細胞)として採点し、結果をCPE対抗体用量としてプロットする。滴定曲線から、抗体のIC50を計算することができる。
【0171】
C.difficileの培養及びインビボC.difficile毒素A及び毒素B中和アッセイは、Babcock et al.2006(Infect.Immun.74,6339−6347)に記載されるハムスター保護モデルなどの様々な標準技法を使用して行うことができる。C.difficileにより誘導された致死性に対する保護の場合、シリアンゴールデンハムスター(70〜80g)の群に抗体の4全量(二重特異性IgA抗体ならびに陽性及び陰性対照)を、C.difficile芽胞の投与の3日前から開始して4日間、腹腔内的に付与する。クリンダマイシン(10mg/kg)を、C.difficile芽胞攻撃の24時間前に腹腔内投与し、次にハムスターに140 B1芽胞を標準小動物給餌針を使用して胃内投与して攻撃する。対照動物は、典型的に攻撃後72時間以内に死亡する。
図1
図2A
図2B
図2C
図3-1】
図3-2】
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図5-5】
図5-6】
図5-7】
図5-8】
図5-9】
図5-10】
【配列表】
2017512208000001.app
【国際調査報告】