(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-512692(P2017-512692A)
(43)【公表日】2017年5月25日
(54)【発明の名称】セキュリティ用途のための暗号化された光学マーカー
(51)【国際特許分類】
B42D 25/378 20140101AFI20170421BHJP
G09F 3/02 20060101ALI20170421BHJP
C09D 5/22 20060101ALI20170421BHJP
C09D 4/00 20060101ALI20170421BHJP
C09D 7/12 20060101ALI20170421BHJP
【FI】
B42D15/10 378
G09F3/02 W
C09D5/22
C09D4/00
C09D7/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-501090(P2017-501090)
(86)(22)【出願日】2015年3月18日
(85)【翻訳文提出日】2016年11月15日
(86)【国際出願番号】US2015021165
(87)【国際公開番号】WO2015142990
(87)【国際公開日】20150924
(31)【優先権主張番号】61/954,950
(32)【優先日】2014年3月18日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】516281012
【氏名又は名称】エーピーディーエヌ(ビー・ヴイ・アイ)・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マチェイ・ビー・シュチェパニク
(72)【発明者】
【氏名】ミンホワ・ベンジャミン・リアン
【テーマコード(参考)】
2C005
4J038
【Fターム(参考)】
2C005HA02
2C005JA09
2C005JB11
2C005JB27
2C005KA40
2C005LA24
2C005LA32
2C005LB15
2C005LB34
4J038FA111
4J038FA171
4J038JA68
4J038JB28
4J038JB39
4J038KA08
4J038KA12
4J038NA01
4J038PA17
4J038PB08
4J038PB11
(57)【要約】
容易には検出されない暗号化されたマーカーを、そのマーカーの容易に検出可能な物理特性、例えば、特定の励起波長での励起後に特性蛍光発光を現出させるための、又は目に見える色を表すための現像剤として用いられる特定の反応剤による処理によって現出させることができる。この暗号化されたマーカーはその場で現像されることができ、あるいはサンプルはマーキングされた物又は物品をブラシ掛け、こすり取り、ふき取り、又は引っ掻くことによって除去することができ、明白なマーカー又は光学的信号を現出させるための適切な現像剤を用いてその暗号化されたマーカー又はそのサンプルを現像する。マーカーは、暗号化されたマーカー又はそのサンプルを、いずれか適切な形態の現像剤、例えば、現像剤を含む溶液、スラリー、スワブ(swab)、固体(例えば顆粒形態)、又は気体又は蒸気に曝露させることによって現出させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品に、暗号化してマーキングをするための方法であって、以下の工程:
現像剤との反応によって発色団(クロモフォア)を作り出すことができる発色原体(クロモゲン)を準備する工程;及び
前記発色原体を含むコーティング剤で物品をコーティングするか、
物品に、前記発色原体を含むラベル又は証印を付着させるか、又は
物品の少なくとも一部に前記発色原体を埋め込み、
それによって、暗号化してマーキングがされた物品をもたらす工程、を含む方法。
【請求項2】
物品に、暗号化してマーキングをするための方法であって、以下の工程:
現像剤との反応によって蛍光化合物を作り出すことができる蛍光化合物前駆体(プロフルオロフォア)を準備する工程;及び
前記蛍光化合物前駆体を含むコーティング剤で物品をコーティングするか、
物品に前記蛍光化合物前駆体を含むラベル又は証印を付着させるか、又は
物品の少なくとも一部に前記蛍光化合物前駆体を埋め込み、
それによって、暗号化してマーキングがされた物品をもたらす工程、を含む方法。
【請求項3】
マーカー又は現像剤がアニオンを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
マーカー又は現像剤が遷移金属イオンを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
遷移金属イオンがCu2+を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
蛍光化合物前駆体が1以上の芳香環を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
蛍光化合物前駆体が1以上のヘテロ環を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
蛍光化合物前駆体が本質的に無色である、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
蛍光化合物前駆体が本質的に非蛍光性である、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
蛍光化合物前駆体が、ローダミン誘導体、フルオレセイン誘導体、ロードール誘導体、オキサジン誘導体、ピリジン誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、及びチアゾール誘導体からなる群から選択される化合物を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
蛍光化合物前駆体が、スピロ環において修飾されたローダミンスピロラクタム誘導体を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
蛍光化合物前駆体がスピロラクタムヒドラジドを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
蛍光化合物前駆体を現像剤で現像して蛍光化合物(フルオロフォア)を生成させる工程をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
現像剤が、触媒と、蛍光化合物前駆体と反応して蛍光化合物を生成することができる反応剤とを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
蛍光化合物前駆体が金属イオンを含み、現像剤が、前記金属イオンと反応することができるか又は前記金属イオンと錯体を形成して蛍光化合物を生成することができる反応剤を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記金属イオンが遷移金属イオンを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記金属イオンがランタニドイオンである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記遷移金属イオンが、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、イットリウム(Y)、ニオブ(Nb)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、及びロジウム(Rh)からなる群から選択されるイオンを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
遷移金属イオン蛍光化合物前駆体がアニオンのロイコ型を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
蛍光化合物前駆体が、重合して固体、層、又は粒子、ミクロ粒子又はナノ粒子を形成することができる重合性モノマーを含む、請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セキュリティ用途のための暗号化された光学マーカー(encrypted optical marker)に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光マーカーは同定及びセキュリティーマーカーとして有用であるが、適切な励起波長の光の照射によって容易に可視化されるというそれらの利点は、蛍光マーカーが容易に検出され、分析され、コピーされることができるという点で欠点でもあり、それらが偽造されるということになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、容易に検出することはできないが、マーカーの容易に検出可能な物理特性、例えば、特定の励起波長での励起後の特性蛍光発光を現出させるための、又は可視色を現出させるための現像剤として用いられる特定の薬剤による処理によって現出させることができる暗号化されたマーカー(encrypted marker)を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この暗号化されたマーカーは、その場で現像されることでき、あるいはサンプルは、そのマーキングがされた物又は物品をブラシ掛け、擦る、又は引っ掻くことによって除去することができ、また、明白なマーカー又は光学的信号を現出させるための適切な現像剤を用いてその暗号化されたマーカー又はそのサンプルを現像する。マーカーは、暗号化されたマーカーをその場又はそのサンプルを、現像剤を含む溶液、スプレー、又は固体、例えば、粉末又は顆粒中の現像剤に曝露させることによって現出させることができる。
【0005】
あるいは、現像剤を運ぶスワブ(swab)、例えば、現像剤の溶液がしみ込んだスワブ、又は現像剤がその上に結合又は共有結合で固定されたスワブで単純に拭うことによって、マーキングされた物又は物品からの暗号化されたマーカーの十分な移動がありうる。その移された暗号化されたマーカー分子は、次に、そのスワブ上又はスワブ内、あるいはマーキングされた物又は物品上で現像される。スワブあるいはマーキングされたもの又は物品は、現出した光学特性、例えば、適切な波長の光による励起後の、特定波長での発光を伴う蛍光又は色の存在について容易に検査することができる。
【発明を実施するための形態】
【0006】
現像剤は、マーカーと反応して検出可能なマーカー生成物を作り出す化学反応性現像剤であることができ、あるいは現像剤はマーカーと組み合わされて検出可能なマーカー生成物を作り出すキレート化剤又はその他の結合剤であることができる。別の態様では、現像剤は、マーカーによって結合されて検出可能なマーカー生成物を作りだすイオン、例えば、金属イオンであることができる。
【0007】
一つの態様では、本発明のマーカーは「暗号化された蛍光化合物(フルオロフォア)」(ここでは「蛍光化合物前駆体」(pro-fluorophore、フルオロフォア前駆体)ともいう)であり、フルオロフォアの特性は有しておらず、したがって、セキュリティーマーカーとして認識することは困難であるが、現像剤での現像又は現像剤との反応(現像剤は蛍光化合物前駆体(フルオロフォア前駆体)の現像に適した特定の薬剤である)で、容易に検出可能なシグナルをもつ蛍光化合物(フルオロフォア)に変換される。さらに、暗号化は、しばしばそのフルオロフォア前駆体の物理的及び化学的安定性を向上させる。
【0008】
別の態様では、本発明の発色性マーカー(ここでは「発色団原体」(クロモジェン)又は「発色団前駆体」(プロクロモフォア)ともいう)は「暗号化された発色団」であり、無色又はほとんど無色であって、セキュリティーマーカーとして認識することが困難であるが、現像剤(特定の薬剤)での現像又は現像剤との反応により、容易に検出可能な発色団(クロモフォア)へと変換される。一つの態様では、本発明の発色団は、発色性マーカーに特異的な現像剤でのそれぞれの発色性マーカーの現像後に、肉眼に見えるようにされる。
【0009】
別の態様では、本発明のマーカーは、暗号化された蛍光化合物(フルオロフォア)と暗号化された発色団(クロモフォア)の両方の特性を組み合わせており、暗号化されたフルオロフォアは非蛍光又は本質的に非蛍光性であり、暗号化されたクロモフォアは無色又は本質的に無色であって、これによってそれらがセキュリティーマーカーとして検出されること又は認識されることを難しくしている。しかし、現像剤での現像又は現像剤との反応により、これらの暗号化されたマーカーは、容易に検出可能なフルオロフォア及び容易に検出可能なクロモフォアへと変換される。一つの態様では、そのような組み合わせマーカーは、適切な現像剤での現像後に、適切な励起波長のUV光での蛍光、並びに光を当てられたマーカーの目視検査によって肉眼に見える色について同時に調べられることができる。
【0010】
一つの態様では、本発明の概念は、物品に暗号化してマーキングをする方法を提供し、その方法は、現像剤との反応によって発色団(クロモフォア)を作り出すことができるマーカーとして発色団原体(クロモゲン)化合物を準備する工程;及び(i)その発色性マーカー化合物を含むコーティング剤で物品をコーティングし、(ii)その物品にその発色性マーカー化合物を含むラベル又は証印を付着させ、又は(iii)その物品の少なくとも一部にその発色性マーカー化合物を埋め込み;それによって、暗号化してマーキングをした物品をもたらす工程を含む。
【0011】
別の態様では、本発明の概念は、物品に暗号化してマーキングをする方法を提供し、その方法は、現像剤との反応によって蛍光化合物(フルオロフォア)を作り出すことができる蛍光化合物前駆体(プロフルオロフォア)(暗号化フルオロフォアともいう)を準備する工程;及び(i)そのフルオロフォア前駆体を含むコーティング剤で物品をコーティングし、(ii)その物品にそのフルオロフォア前駆体を含むラベル又は証印を付着させ、又は(iii)その物品の少なくとも一部にそのフルオロフォア前駆体を埋め込み;それによって、暗号化してマーキングをした物品をもたらす工程を含む。
【0012】
本発明概念の一つの態様では、蛍光化合物前駆体(プロフルオロフォア)又は発色団生成化合物は、追跡され又は本物であることを認証される対象物上のマーカーとして用いられる。このマーカーは、関心のある対象物(その上又はその中)に、塗布され、印刷され、スプレーされ、結合され、貼付され、又は埋め込まれる。
【0013】
関心のある物品は、暗号化された蛍光化合物マーカー又は発色性マーカー化合物を、それぞれ容易に検出可能なシグナルをもつ蛍光化合物(フルオロフォア)又は発色団(クロモフォア)に変換することができる現像剤(これは特定の薬剤である)の溶液に浸したスワブ(swab)で拭い、こすり、又は処理することができる。一つの態様では、現像剤はスワブ上に、例えば、吸着により又は共有結合によって固定されていてもよい。あるいは、関心ある物品を、蒸気、スプレー、又は溶液の形態の現像剤に直接曝露してもよい。暗号化された蛍光化合物マーカー又は発色性マーカー化合物の現像及び真正であることの確認は、任意の好適な方法、例えば、これに限定されないが、一段階(この場合、暗号化された蛍光化合物マーカー又は発色性マーカー化合物が、マーキングされた対象物中又はその上でその場で直接現像される)、又は二段階法(この場合、マーカーは最初にサンプリングデバイス又はスワブなどに移され、次に蒸気、スプレー、又は溶液の形態で送達される適切な現像剤で処理され、又はそのサンプリングデバイス又はスワブなどに現像剤のみからなる又は現像剤を含む粉末又は顆粒を振りかけることによって処理される)で行うことができる。
【0015】
アルキルは、ここで用いる場合、特定した数の炭素原子からなる飽和の分岐状又は直鎖状の一価の炭化水素基をいう。したがって、アルキルの用語は、メチル(C
1アルキル)、エチル(C
2アルキル)、プロピル(C
3アルキル)、イソプロピル(これもC
3アルキル)、n-ブチル(C
4アルキル)、イソブチル(これもC
4アルキル)、sec-ブチル(これもC
4アルキル)、及びt-ブチル(これもC
4アルキル)が含まれるがこれらに限定されない。
【0016】
アルケニルは、2つの炭素原子の間の二重結合を少なくとも1つ有する分岐状又は直鎖状の炭化水素基をいう。
【0017】
アルキニルは、2つの炭素原子の間の三重結合を少なくとも1つ有する分岐状又は直鎖状の炭化水素基をいう。
【0018】
シクロアルキルは、ここで用いる場合、飽和の単環式、多環式、又は架橋型の炭化水素環式置換基又は連結基を意味する。置換したシクロアルキル環では、その置換基は、水素原子と置き換わって環炭素原子に結合される。例えば、C
3〜C
10シクロアルキルは、3〜10個の炭素原子からなる環、又は3以上の炭素原子からなる環であって残りの炭素原子がその環の1つ以上のアルキル置換基を形成している環を指す。
【0019】
ヘテロ環は、ここで用いる場合、飽和、部分的に不飽和、又は不飽和の、単環式、多環式、又は架橋型炭素環式置換基又は連結基を意味し、その少なくとも1つの環炭素原子がヘテロ原子、以下のものに限定されないが例えば、窒素、酸素、硫黄、セレン、ホウ素、又はリンで置き換えられている。ヘテロ環システムは、1、2、3、又は4個の窒素環原子を有する環システム、又は0、1、2、又は3個の窒素環原子と1つの酸素又は硫黄環原子を有する環システムであることができる。ヘテロ環システムは、1つより多い環ヘテロ原子を含むことができる。ヘテロ環置換基は、1つの炭素又は窒素環原子から1つの水素原子を取り除くことによって導かれる。ヘテロ環には以下のものが含まれるがこれらに限定されない:フリル、チエニル、2H-ピロール、2-ピロリニル、3-ピロリニル、ピロリジニル、ピロリル、1,3-ジオキソラニル、オキサゾリル、チアゾリル、イミダゾリル、2-イミダゾリニル、イミダゾリジニル、2-ピラゾリニル、ピラゾリジニル、ピラゾリル、イソオキサゾリル、イソチアゾリル、オキサジアゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、テトラゾリル、2H-ピラニル、4H-ピラニル、ピリジニル、ピペリジニル、1,4-ジオキサニル、モルホリニル、1,4-ジチアニル、チオモルホリニル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、ピペラジニル、アゼパニル、ジアゼピニル、インドリジニル、インドリル、イソインドリル、3H-インドリル、インドリニル、ベンゾ[b]フリル、ベンゾ[b]チエニル、1H-インダゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾチアゾリル、プリニル、4H-キノリジニル、キノリニル、イソキノリニル、シンノリニル、フタルジニル、キナゾリニル、キノキサリニル、1,8-ナフチリジニル、プテリジニル、キヌクリジニル。
【0020】
上で言及したように、ヘテロ環は、芳香族ヘテロ環、例えば、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、トリアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、フリル、チエニル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、なども含み、任意選択により置換されていても、例えばアルキルで置換されていてもよい。ヘテロ環は、1つ又は両方の環がヘテロ原子を有するビシクロヘテロ環、例えば、イミダゾピラジニル、ベンゾフラニル、ベンゾジオキソリル、ベンゾチオフェニル、及びキノリニルも包含する。
【0021】
アリールアルキルは、アルキル基、例えばC
1〜C
4アルキルの末端炭素原子に結合したアリール基を意味する。
【0022】
アリールは、6、8、10、又は14個の炭素原子からなる芳香族で不飽和のπ電子が共役した単環式又は多環式炭化水素環システム置換基又は連結基を意味する。アリール基は、炭素環原子から1つの水素原子を取り除くことによって導かれる。アリールは、フェニル、ナフタレニル、アズレニル、及びアントラセニルを含むがこれらに限定されない。
【0023】
ハロは、フルオロ(−F)、クロロ(−Cl)、ブロモ(−Br)、又はヨード(−I)を意味する。
【0024】
カルボキシルは、式−COOHの置換基を意味する。
【0025】
ヒドロキシルは、式−OHの置換基を意味する。
【0026】
シアノは、式−C≡Nの置換基を意味する。
【0027】
ニトロは、式−NO
2の置換基を意味する。
【0028】
オキソは、式=Oの置換基を意味し、この酸素は二重結合で結合している。
【0029】
アミノは、式−NH
2の置換基、又は式−NH−を有する連結基を意味する。
【0030】
アルキルアミノ又はジアルキルアミノは、それぞれ、式−NH−アルキル又は式−N(アルキル)
2の置換基を意味する。
【0031】
アジドは、式−N
3(これは−N=N
+=N
−としても表される)の基を意味する。
【0032】
マーカーであるフルオロフォア前駆体(pro-fluorophore)又は発色団生成化合物(chromogenic compound)として本発明の実施において有用な化合物には、キサンタン染料、例えば、ローダミン類、ロードール(rhodol)類、及びフルオレセイン類のフルオロフォア前駆体形態、並びにクマリン、シアニン、及びオキサジンの誘導体が含まれる。
【0034】
スキームIは、蛍光化合物前駆体(フルオロフォア前駆体、Pro−FL)(これはここでは同様の意味で蛍光性化合物ともいう)の一般的な場合を示しており、蛍光化合物前駆体が現像剤で処理されて、適切な励起波長の光で刺激された場合に特性発光波長を有する蛍光発光化合物(FL
*)を作り出し、その発光は目によって又は分光学的測定によって容易に検出可能である。
【0036】
スキームIIは、現像剤で処理された発色団生成化合物(CHR−gen)(これは本明細書で発色団(すなわち発色団原体(choromogen))のロイコ型とも称する)が、目又は分光学的測定によって容易に検出できる特性吸収を有する発色団(クロモフォア)又は染料(CHR
*)を生成する一般的な場合を示している。
【0037】
本発明の実施においてマーカーの蛍光化合物前駆体又は発色団生成化合物(chromogenic compound)として有用なフルオレセイン誘導体の例は、以下の各化合物の誘導体である:フルオレセイン、5-(及び-6-)カルボキシフルオレセイン(FAM)、5-(及び-6-)-4,7,2′,7′-テトラクロロフルオレセイン(TET)、5-(及び-6-)-2′,4′,4,5′,7′,7-ヘキサクロロフルオレセイン(HEX)、5-(及び-6-)カルボキシ-4′,5′-ジクロロ-2′,7′-ジメトキシフルオレセイン(JOE)、エオシンY(2′,4′,5′,7′-テトラブロモフルオレセイン)、エオシンB(4′,5′-ジブロモ-2′,7′-ジニトロフルオレセイン)、ローズベンガル(4,5,6,7-テトラクロロ-2′,4′,5′,7′-テトラヨードフルオレセイン)、エリスロシン(2′,4′,5′,7′-テトラヨードフルオレセイン)、2,7-ジクロロフルオレセイン、ヤキマ・イエロー(Yakima Yellow)、VIC、NED、及び当業者に周知のさらに多くの蛍光化合物及び染料。これらの誘導体は一般に無色又は本質的に無色であり、感知できる蛍光を生じず、適切な現像剤で処理して蛍光化合物又は染料自体を生成することができる。
【0038】
マーカーの蛍光化合物前駆体又は発色団生成化合物(chromogenic compound)として有用なローダミン類の例には例えば以下のものが含まれる:テトラメチルローダミン(TRITC)、5-(及び-6-)カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA)、5-(及び-6-)-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、ローダミン110(キサンチリウム、3,6-ジアミノ-9-(2-カルボキシフェニル)-、塩類)、ローダミンB、ローダミン6Gなど。
【0039】
マーカーの蛍光化合物前駆体又は発色団生成化合物として有用なオキサジン類の例には以下のものの誘導体が含まれる:ナイルレッド、ナイルブルー、クレシル・バイオレット、及びオキサジン170等。これらは現像剤で処理して、誘導体化されていないナイルレッド、ナイルブルー、クレシル・バイオレット、又はオキサジン170マーカーを現出させる。
【0040】
例えば、一つの態様では、蛍光化合物前駆体はキサンタン、例えば、以下のものであることができる。
【0041】
【化3】
式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、及びR
10はそれぞれ独立に、水素、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、ニトロ(NO
2)、シアノ(CN)、カルボニル(CHO又はC(O)R)、C
1〜C
8アルキル、アリール、及びC
3〜C
8シクロアルキルから選択され、それぞれは任意選択により1つ以上の官能基、例えば、カルボキシル、カルボニル、アミノ、シアノ、ニトロ、アルキル、アルケニル、アルキニル、又はアジドで置換されていてもよい。
【0042】
あるいは、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、及びR
10から独立に選択される一対のR基が互いに、又はR
n(R
1〜R
10の1つ)とX又はYのいずれかあるいはそれら両方と環を形成することができ;X及びYは置換された酸素、X=OR、又は置換された窒素、Y=NRR′であり、式中の置換基R及びR′は独立に、水素、C
1〜C
8アルキル、アリール、C
1〜C
8アシル(各アルキル、アリール、及びアシルは任意選択により、ハロ、ニトロ(NO
2)、及びC
1〜C
3アルキルから独立に選択される1〜3個の置換基で置換されていてもよい)、アルキルスルホニル(RSO
2−)及びアリールスルホニル(ArSO
2−)(アルキルスルホニル及びアリールスルホニルは任意選択により、ハロ、ニトロ(NO
2)、及びC
1〜C
3アルキルから独立に選択される1〜3個の置換基で置換されていてもよい)、トリアルキル及びトリアリールシリルから選択され;Zは、酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、又は置換された窒素(N−R″)を表し、式中R″は上でRについて定義したとおりであり;又はR″はアミノ基、NR′R′″、ヒドロキシル基、又はOR′″であり、R′″は独立に上で定義したRのための選択肢から選択される。
【0043】
一つの態様では、本発明の実施に有用な蛍光化合物前駆体(Pro−FL)は、当技術分野で公知の化学変換によって、かつ、下に示すように一般スキームIIIに示すようにして、蛍光化合物(FL
*)から調製することができる。
【0045】
別の態様では、上記発色原体(chromogen、CHR−gen)は、当技術分野で公知の化学変換によって、かつ、下に示す一般スキームIVに示すように、発色団(CHR
*)から調製することができる。
【0047】
本発明による蛍光原体(fluorogen)の蛍光原体前駆体(pro-fluorogen)への、又は発色団の発色原体(chromogen)への、上での変換の例を、下で例1、2、及び6において示している。
【0048】
別の態様では、蛍光化合物前駆体(フルオロフォア前駆体)は、例えば以下のオキサジンであることができる。
【化6】
式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、及びR
6は、水素、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、ニトロ(NO
2)、シアノ(CN)、カルボニル(CHO又はC(O)R)、C
1〜C
8アルキル、C
3〜C
8シクロアルキル、又はアリールである。R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、及びR
6のそれぞれは1つと別のものの間で、又はR
nとX又はYのいずれかあるいは両方との間で任意選択により置換されていてもよい環を形成することもできる。X及びYは、置換された酸素、X=OR、又は置換された窒素、Y=NRR′であり、式中、置換基R、R′は独立に、水素、C
1〜C
8アルキル、アリール、C
1〜C
8アシル、トリアルキル及びトリアリールシリル(各アルキル、アリール、及びアシルは任意選択により、ハロ、ニトロ(NO
2)、及びC
1〜C
3アルキルから独立に選択される1〜3個の置換基で置換されていてもよい)、アルキルスルホニル(RSO
2−)及びアリールスルホニル(ArSO
2−)(ここでアルキルスルホニル及びアリールスルホニルはそれぞれ任意選択により、ハロ、ニトロ(NO
2)及びC
1〜C
3アルキルから選択される1〜3個の置換基で置換されていてもよい)から選択される。
【0049】
別の例では、一つの態様において、蛍光化合物前駆体はクマリン、例えば以下のものであることができる。
【化7】
式中、R
1、R
2、R
3、R
4、及びR
5は互いに独立に、水素、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、ニトロ(NO
2)、シアノ(CN)、カルボニル(CHO又はC(O)R)、C
1〜C
8アルキル、C
3〜C
8シクロアルキル、又はアリール(各アルキル、アリール、及びアシルは、任意選択により、ハロ、ニトロ(NO
2)、及びC
1〜C
3アルキルから独立に選択される1〜3個の置換基で置換されていてもよい)、アルキルスルホニル(RSO
2−)及びアリールスルホニル(ArSO
2−)(ここでアルキルスルホニル及びアリールスルホニルはそれぞれ任意選択により、ハロ、ニトロ(NO
2)及びC
1〜C
3アルキルから選択される1〜3個の置換基で置換されていてもよい)である。R
1、R
2、R
3、R
4、及びR
5は1つと別のものの間で、又はR
nとXの間で環を形成していることもでき(Xは、置換された酸素、X=OR、又は置換された窒素、Y=NRR′を表し、式中、置換基R、R′は独立に、水素、アルキル、アリール、又はC
1〜C
8アシル(各アルキル、アリール、及びアシルは、ハロ、ニトロ(NO
2)、及びC
1〜C
3アルキルから独立に選択される1〜3個の置換基で置換されていてもよい)、アルキルスルホニル(RSO
2−)及びアリールスルホニル(ArSO
2−)(アルキルスルホニル及びアリールスルホニルは任意選択により、ハロ、ニトロ(NO
2)、及びC
1〜C
3アルキル基から選択される1〜3個の置換基で置換されていてもよい)、トリアルキル及びトリアリールシリルであり;Yは酸素(O)又はNHのいずれかを表す。
【0050】
別の態様では、蛍光化合物前駆体は下に示す式IVの化合物であることができる。
【化8】
式中、R
1、R
2、R
3、R
4、及びR
5は互いに独立に、水素、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、ニトロ(NO
2)、シアノ(CN)、C
1〜C
8アルキル、C
3〜C
8シクロアルキル、又はアリールであり、各アルキル、シクロアルキル、及びアリールは、任意選択により、ハロ、ニトロ(NO
2)、及びC
1〜C
3アルキルから独立に選択される1〜3個の置換基で置換されていてもよい。R
1、R
2、R
3、R
4、及びR
5は、R
1、R
2、R
3、R
4、及びR
5のうちのいずれ2つの間で、又はR
1、R
2、R
3、R
4、及びR
5のいずれか1つと式IVのNとの間で環を形成することもでき;Rは、水素、C
1〜C
8アルキル、C
3〜C
8シクロアルキル、アリールアルキル(例えば、ベンジル)、又はアリールであり、そのC
1〜C
8アルキル、C
3〜C
8シクロアルキル、アリールアルキル、及びアリールは、任意選択により、カルボキシル(COOH)、スルホネート(SO
3H)、及びアミノ(NH
2)から独立に選択される1〜6個の置換基で置換されていてもよい。式IV中のXは対イオンであり、クロライド、ブロマイド、アイオダイド、トシラート、メシラート、パークロレートによって例示されるがこれらに限定されない。
【0051】
別の態様では、蛍光化合物前駆体は下に示す式Vの化合物であることができる。
【化9】
式中、R
1、R
2、及びR
3は、水素、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、ニトロ(NO
2)、C
1〜C
8アルキル、C
3〜C
8シクロアルキル、又はアリールであり、それぞれは独立に、任意選択によって、1〜3個のハロ、ニトロ(NO
2)、C
1〜C
3アルキル基で置換されていてもよい。R
1、R
2、及びR
3は、R
1、R
2、及びR
3のうちのいずれ2つの間で、又はR
1、R
2、及びR
3のいずれか1つと式Vのヘテロ環のN又はYとの間で環構造を形成することもでき;Rは、水素、又はC
1〜C
8アルキル、C
3〜C
8シクロアルキル、アリールアルキル(例えば、ベンジル)、又はアリールであり、それぞれのアルキル、シクロアルキル、及びアリールアルキルは、独立に任意選択により置換されていてもよい。好適な置換基には、カルボキシル(COOH)、スルホネート(SO
3H)、及びアミノ(NH
2)などが含まれるがこれらに限定されない。Xは好適な対イオンを表し、例えば、クロライド、ブロマイド、アイオダイド、トシラート、メシラート、及びパークロレートなどであるがこれらに限定されない。Yは、酸素、窒素、硫黄、セレン、又はC(CH
3)
3である。
【0052】
本発明の別の態様では、蛍光化合物前駆体は、式VI(下記)中のA、L
1、L
2、L
3、L
4基のいずれかであることができる。
【化10】
式中、m+n+p+qの合計は1〜12の間の正の整数であり;mは少なくとも1であり;n、p、及びqはそれぞれ独立に0(ゼロ)又は正の整数である。一つの態様では、この複合体は、以下で説明する触媒又は活性化剤の助けのあり又はなしで、式VI中のA、L
1、L
2、L
3、L
4から形成される。
【0053】
さらに、L
1、L
2、L
3、L
4はそれぞれ互いに異なることができ(L
1≠L
2≠L
3≠L
4);又は、L
1、L
2、L
3、及びL
4基の2つ以上が同じであることができる。一つの態様では、L
1、L
2、L
3、及びL
4基は全て同じである(L
1=L
2=L
3=L
4)。
【0054】
式VIで表される構造は、配位化合物、例えば、有機金属化合物であり、Aは配位子L
1、L
2、L
3、L
4によってキレート(錯化)されている中心イオンである。中心イオンA及び配位子L
1、L
2、L
3、L
4は、配位子L
1、L
2、L
3、L
4によって配位されているAの組み合わせだけが、色又は蛍光あるいはそれら両方によって明白に現れる離散的スペクトル信号を生じるように選択される。
【0055】
L
1、L
2、L
3、L
4は、配位子の窒素、酸素、硫黄、又はセレン原子上の利用可能な電子対を介して、中心イオンAと配位結合を形成することができる任意の化学基であることができる。配位子として本発明において有用な分子の一つのカテゴリーは、ヘテロ環化合物及びその誘導体を含み、これには以下のものから選択されるヘテロ環が含まれるがそれらに限定されない:フラン、チオフェン、ピロール、オキサゾール、チアゾール、イミダゾール、ピラゾリジニル、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、オキサジアゾール、チアゾール、チアジアゾール、テトラゾール、2H-ピラン、4H-ピラン、ピリジン、ビピリジル、ターピリジン、トリアジン、ピペリジン、ピロリジン、1,4-ジオキサン、モルホリン、1,4-ジチアン、チオモルホリン、ピラジン、ピリダジン、ピリミジン、ピペラゾール、アゼパン、ジアゼピン、インドリジン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、プリン、キノリジジン、キノリン、イソキノリン、ジアザナフタレン類、プテリジン、及びフェナントロリン。
【0056】
配位子Lの別のカテゴリーには、多座キレート剤及びその誘導体、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、1,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N′,N′-四酢酸(BAPTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン-N,N,N′,N″,N′″,N′″-六酢酸(TTHA)、N,N,N′,N′-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン(TPEN)、エチレングリコール-ビス(2-アミノエチルエーテル)- N,N,N′,N′-四酢酸(EGTA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-5,12-ジオンデハイドレート(5,12-ジオキソシクラム)、カリキサレン類(例えば、メソオクタメチルカリキサ(4)ピロール、カリキサ[4]アレン-25,26,27,28-テトロール、カリキサ[6]アレン)、クラウンエーテル類(例えば、ジベンゾ-15-クラウン-5、シクレン)、シクロデキストリン類(例えば、α−シクロデキストリン)が含まれる。
【0057】
配位子Lの別のカテゴリーには以下のものが含まれるがこれらに限定されない:β−ジケトン類(アセチルアセトン及びその誘導体)、これには、ヘキサフルオロアセチルアセトン;4,4,4-トリフルオロ-1-フェニル-1,3-ブタンジオン;1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオンが含まれる;ホスフィンオキシド類(例えば、トリフェニルホスフィンオキシド、n-トリオクチルホスフィンオキシド);芳香族酸及びフェノール類及びそれらの誘導体(例えば、タイロン、カテコール、サリチル酸);シッフ塩基及びその誘導体(例えば、下の例5に示す2-フェノールサリチルイミン)。
【0058】
別の群の配位子Lには、溶媒分子が含まれる。この群は化学的に非常に多様であり、上で言及した化合物のいくつかを含み、それらは例えば、ヘテロ環化合物(ピリジン、コリジン、フラン、テトラヒドロフラン(THF)など)及びクラウンエーテル(15-クラウン-5など)並びに広い選択範囲の化学官能性を示すその他の分子である。これらは、例えば、以下の分子及びそれらの誘導体を含む:水、アルコール類(メタノール、エタノールなど)、アミン類(トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、モルホリン、ジメチルアミン、N,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP)など)、エーテル類(ジエチルエーテルなど)、極性非プロトン性溶媒(ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノン(DMPU)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、1-メチル-2-ピロリジノン(NMP)、アセトニトリル(AcCN)、スルホラン、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)など。
【0059】
本発明の態様では、中央のイオンAは、1つ以上の配位子Lと配位化合物を形成することができる任意の正に帯電したイオンであることができる。本発明の実施において有用なイオンAの一つのカテゴリーは、金属イオンのカテゴリーであり、それには遷移金属イオン、アルカリ及びアルカリ土類金属イオン、ランタニド及びアクチニドが含まれるがこれらに限定されない。
【0060】
中央のイオンAは、無機又は有機塩の形態で提供されうる。好適な無機塩には、無機酸塩、例えば、硫酸塩、亜硫酸塩、硫化塩、硝酸塩、亜硝酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、セレン酸塩、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、塩素酸塩、過塩素酸塩などが含まれるがこれらに限定されない。好適な有機酸塩には、有機酸塩、例えば、モノカルボン酸塩(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ピバリン酸、2-エチルヘキサン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、安息香酸、サリチル酸、4-スルホサリチル酸の塩など)、ポリカルボン酸塩(例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、クエン酸、トリメシン酸、メリト酸などの塩)が含まれるがこれらに限定されない。
【0061】
中央のイオンAの別の群は、酸素原子を含む基、例えば、ヒドロキシド及びオキシドなどを含む。
【0062】
本発明のいずれかの具体的な態様のための中央イオンAの供給形態の選択は、用途(すなわち、マーキングされる物又は物品及びその周囲環境)及び担体(キャリア)の特性(すなわち、マーカーを含む媒体、例えば、コーティング、塗料、又はワニス層の性質)によって決定される。
【0063】
一つの態様では、錯体が、触媒又は活性化剤の助けを借りて式VI中のA、L
1、L
2、L
3、L
4から形成される。本発明の実施において有用な触媒及び活性化剤には、塩基
及び求核剤が含まれ、以下のもので例示されるがこれらに限定されない:簡単な有機及び無機塩基(ヒドロキシド、アミン、アルコキシド、フェノキシドなど)。このカテゴリーには、加溶媒分解してアルカリ性溶液を生成する弱酸と強塩基の無機又は有機塩、例えば、アンモニウム、アルカリ及びアルカリ土類金属の炭酸塩、重炭酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、酢酸塩なども含まれる。例示されるヒドロキシドは、アルカリ及びアルカリ土類ヒドロキシド、例えば、アンモニウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、カルシウム、ストロンチウム、又はバリウムのヒドロキシド、並びにテトラアルキルアンモニウムヒドロキシド、例えば、テトラメチルアンモニウム又はテトラブチルアンモニウムヒドロキシドである。触媒又は活性化剤として有用なアミンの例には以下のものが含まれるがこれらに限定されない:トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ベンジルアミン、モルホリン、ピロリジン、ピペリジン、ジメチルアミノアニリンなど。触媒及び活性化剤として有用なアルコキシド及びフェノキシドの例には以下のものが含まれるがこれらに限定されない:アルカリアルコキシド及びフェノキシド、例えば、ナトリウム又はカリウムメトキシド、エトキシド、又はフェノキシド。
【0064】
別の態様では、触媒は、ブレンステッド-ローリイ又はルイス理論のいずれかによって定義される酸性物質であり、簡単な有機又は無機酸、並びに加溶媒分解して酸性条件を生じる弱塩基及び強酸の任意の無機又は有機塩、例えば、金属の塩化物、臭化物、硝酸塩、硫酸塩などによって代表されうる。
【0065】
本発明の実施において現像剤、すなわち復号剤(暗号解読剤)として有用な化合物には、良好なキレート剤または錯化剤として当技術分野で公知の化合物、例えば、以下のものが含まれるがこれらに限定されない:
− ヘテロ環芳香族化合物、例えば、イミダゾール類、フェナントロリン類、ピリジン類、チアゾール類、及びそれらの誘導体;
− 多座キレート化剤(EDTA、EGTA、BAPTA、DOTA、DTPA);
− β-ジケトン(例えば、アセチルアセトン及びその誘導体、これにはヘキサフルオロアセチルアセトン、4,4,4-トリフルオロ-1-フェニル-1,3-ブタンジオン;1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオンが含まれるがこれらに限定されない);
− ホスフィンオキシド類(トリオクチルホスフィンオキシド;トリフェニルホスフィンオキシド);
− 芳香族酸及びポリフェノール類(例えば、サリチル酸、カテコール、タイロン(Tiron));
− 芳香族アルデヒド(例えば、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンズアルデヒド、4-N,N-ジメチルアミノ)桂皮アルデヒド、p-アニスアルデヒド、4-ヒドロキシベンズアルデヒドなど);
− シッフ塩基及び誘導体(例えば、下の例5に示す2-フェノールサリチルイミン)。
【0066】
本発明の特定の態様の実施において現像剤、すなわち復号剤として有用な化合物には、当技術分野で、加溶媒分解又は脱保護に関与する求核種として公知の化合物が含まれ、それは例えば、簡単な有機及び無機塩基(ヒドロキシド、アミン、アルコキシド、フェノキシドなど);簡単な有機及び無機塩(酢酸塩、硫化物、ヨウ化物、フッ化物、シュウ酸塩、クエン酸塩など)である。
【0067】
本発明の特定の態様の実施において現像剤、すなわち複合剤として有用な化合物には、当分野で、加溶媒分解又は脱保護に関与する酸性種として知られる化合物、例えば、簡単な有機及び無機酸も含まれる。別の態様では、現像剤は、加溶媒分解又は脱保護のための求電子種、例えば、アルデヒド化合物、例えば、ベンズアルデヒド又はサリチルアルデヒド、あるいはそれらの誘導体であることができる。
【0068】
いくつかの特定の態様では、蛍光化合物前駆体又は発色原体(chromogen)は現像剤として用いることができ、上で挙げた任意の化合物は、マーキングされた物のコーティング中に用い又はその物に埋め込まれることができる。発色原体又は蛍光化合物前駆体を次に現像剤として用いることができる。
【0069】
いくつかの特定の態様では、現像剤は、暗号化された蛍光化合物(フルオロフォア)(これはまた蛍光化合物前駆体(プロフルオロフォア)ともいわれる)又は暗号化された発色団(chromophore)(これはまた発色団前駆体(prochromophore)あるいは発色原体(chromegen)ともいわれる)の復号(暗号解読)化反応を速め、マーカーを、迅速なインフィールド(in-field)認証システムとして有用にするための触媒の存在を必要としうる。本発明の実施において有用な触媒には、例えば、以下のものが含まれるがこれらに限定されない:簡単な有機及び無機塩基(ヒドロキシド、アミン、アルコキシド、フェノキシドなど)が例示されるがこれらに限定されない塩基性及び求核性薬剤。別の態様では、触媒は、簡単な有機及び無機酸であることができる。
【実施例】
【0070】
1.蛍光化合物(フルオロフォア)前駆体
暗号化された蛍光化合物前駆体は、無色であってよく、ほとんど又は全く蛍光を示さない蛍光化合物前駆体又はロイコ型を、可視光下で強く発色されうる活性な蛍光化合物に変換する特定の薬剤による現像によって現出される、隠れた/隠ぺいされた蛍光化合物(フルオロフォア)である。
【0071】
【化11】
【0072】
例えば、化合物ローダミンBヒドラジド(無色の化合物)は、酸性条件下でCu
2+金属イオンによって現像されて、強い橙-赤色蛍光をもつ赤紫色(マゼンタ)の化合物を生じることができる。上に示した反応を参照されたい。その反応は、銅イオンによる、無色のヒドラジドの、赤紫色の銅配位化合物への変換と、それが次に無色のカルボキシレートへゆっくり加水分解されることを示している。蛍光化合物前駆体の別の例では、一次の加水分解反応を受けやすい自然の性質が、「タイムスタンプ」(時刻印)として用いられることができ、この場合、通常の条件下で空気中又は特定の担体中での分解速度は、その特定の暗号化された蛍光化合物の特性である。例えば、化合物は液体中、例えばインク中で比較的安定であり、かつ数週間の間にわたって分解して、着色しかつ強い蛍光型を生じるように選択されるロイコ型であることができる。
【0073】
2.二成分型蛍光化合物(二成分型フルオロフォア)
二成分型蛍光化合物は、2つの非蛍光、又は非常に弱い蛍光成分(A)及び(B)から、いくつかの場合には触媒の存在下で、組み立てられる。(A)及び(B)成分の両方の反応によってのみ、実際の蛍光化合物(フルオロフォア)が作られる。両成分の間の反応が、蛍光を発現するのに加えて、色の変化も生み出しうる。その二成分蛍光化合物の成分(A)は、隠されたセキュリティー/認証マーカーとして用いることができ、確認は、成分(A)に第二の成分(B)を添加して活性な蛍光化合物(フルオロフォア)を作り出すことによって達成することができる。特定の態様では、この過程は触媒の添加によって促進させうる。
【0074】
例えば、置換されたベンゾアゾリウム塩を、成分(A)として用い、以下に例示するように特定の薬剤(及び任意選択により場合よっては触媒)で現像することができる。
【化12】
【0075】
これらの非蛍光成分(A)は安定であり、適切な第二成分(B)に曝されることによってのみ現れ、長時間、自発的に復号することはない。
【0076】
芳香族化合物の別の置換基を用いて、暗号マーカーとしての蛍光化合物前駆体の設計者又は化学者の選択で、蛍光化合物の具体的特性又は溶解度プロファイルを変えることができる。
【0077】
3.熱安定蛍光化合物前駆体
無機成分を、特定の薬剤(これは有機成分であることができる)を用いた現像によって現れうる熱安定又は耐火マーカーとして用いることができる。例えば、塩化アルミニウム(AlCl
3)を、例えば、インク、ラッカー、又はワニス中に組み込むことができる秘密のマーカーとして用いることができ、これは新しいスペクトル特性をもつ配位化合物を形成することによって強い蛍光性になる特定のキレート剤の添加によって見えるようになることができる。いくつかの場合には、触媒が、その反応を速くするために必要とされうる。塩化アルミニウム(AlCl
3)マーカーからのアルミニウム系蛍光化合物の形成の例を下に示す。
【化13】
【0078】
熱安定性蛍光化合物前駆体として有用なその他の無機成分又はイオンには、アニオン、例えば、リン酸イオン、ヨウ素イオン、フッ素イオン、及び酢酸イオン;及び、カチオン、例えば金属イオン、が含まれる。設計者の任意選択によって、芳香族配位化合物又は化学センサーの代替置換基を適切に選択して、蛍光化合物のスペクトル及びその他の物理化学的性質を変えることができる。
【0079】
4.重合可能な暗号化された蛍光化合物前駆体
暗号化された蛍光化合物前駆体は、適切な官能基を加えることによって重合可能にすることができる。そのような暗号化された蛍光化合物前駆体は、容易にかつ安価に合成される優れた蛍光化合物(明るくかつ高い量子収率)に基づくことができる。選択した発色団(クロモフォア)又は蛍光化合物(フルオロフォア)のテンプレートに応じて、発色及び蛍光発光特性をもつ発色団前駆体(プロクロモフォア)及び蛍光化合物前駆体(プロフルオロフォア)を準備することができる。
【0080】
【化14】
【0081】
蛍光化合物前駆体の化学的安定性及び疎水性を、適切なアシル基又は芳香族環の置換基の選択によって調節することができる。
【0082】
一つの態様では、暗号化された蛍光化合物は、DNA、例えば、これに限定されないが、凍結乾燥された又はカプセル化されたDNAを含むナノ粒子中に組み込むこともできる。メチルメタクリレートポリマー中での、上で例示した重合可能な蛍光化合物前駆体の重合を下に示す。
【化15】
【0083】
そのようなポリマーは、セキュリティマーカー、例えば、DNA又はその他の生体高分子をカプセル化するために用いることができ、あるいは移すことが可能なマーカーとして用いるための、あるいは取り込まれたDNA又はその他の検出可能なマーカー(1又は複数)とともに又はそれなしでポリマー又はその他の物質中に組み込むためのマイクロカプセル又はナノ粒子として組み立てることができる。
【0084】
以下の例1〜6は、本発明の暗号化された光学マーカーとして有用な上述した化合物の態様である。
【0085】
例1:ローダミンBヒドラジドの合成
【化16】
【0086】
ローダミンB(479 mg)をエタノールに溶かし、激しい撹拌下でこの混合物に過剰量の65%ヒドラジン水溶液を添加した。2時間還流させた後、反応混合物を冷やし、灰白色の沈殿物を集めた。その固体をエタノール:水混合物で十分に洗い、2-アミノ-3′,6′-ビス(ジエチルアミノ)スピロ[イソインドリン-3,9′-キサンテン]-1-オン生成物を減圧下で乾燥させた。
【0087】
例2:エオシンYジアセテートの合成
【化17】
【0088】
エオシンY(648 mg)を無水酢酸中に懸濁させ、その混合物を5時間還流させながら撹拌した。次に、その反応混合物を、氷-水混合物にゆっくり添加した。得られた淡褐色固体を集め、数回に分けた水で洗った。次に、生成物をジメチルホルムアミド(DMF)に溶かし、水に添加することによって沈殿させた。水で洗浄後、その固体であるアセトキシ-2′,4′,5′,7′-テトラブロモ-3-オキソ-スピロ[イソベンゾフラン-1,9′-キサンテン]-3′-イル)アセテート生成物を減圧下で乾燥させた。
【0089】
例3:ヨウ化1,2-ジメチルベンゾチアゾリウムの合成
【化18】
【0090】
無水トルエン中の2-メチルベンゾチアゾール(2.54 ml)に、ヨウ化メタン(2.5 ml)を分割して添加した。その混合物を6時間還流させ、室温に冷やし、次に4℃で数時間放置した。得られた黄色沈殿物を集め、アセトンで繰り返し洗った。固体の2,3-ジメチル-1,3-ベンゾチアゾール・ヨウ化水素酸塩生成物を次に減圧下で乾燥させた。
【0091】
例4:蛍光性ジスプロジウム錯体の合成
【化19】
【0092】
4,4,4-トリフルオロ-1-フェニル-1,3-ブタンジオン(649 mg)及び1,10-フェナントロリンを無水エタノール(3 ml)に溶かした。この溶液に、水酸化ナトリウム水溶液(1 M)を滴下により添加し、反応混合物を10分間撹拌した。別途、硝酸ジスプロジウム水和物(456 mg)を水(1 ml)に溶かし、その溶液を先のアルカリ性のジオンに添加した。反応混合物を60℃で5時間撹拌して、白色固体形態のジメチルジスプロジウム;メチル;[(E)-[3-オキソ-3-フェニル-1-(トリフルオロメチル)プロピリデン]-3-オキシダニル];1,10-フェナントロリン生成物を得た。
【0093】
例5:2-フェノールサリチルイミンの合成
【化20】
【0094】
エタノール中の2-ヒドロキシアニリン(2.84 g)の溶液を、エタノール中に2-ヒドロキシベンズアルデヒド(3.4 g)を含む溶液に添加した。その混合物を2時間、窒素下で還流させ、次にそれを室温に冷やした。橙色の2-[(E)-(2-ヒドロキシフェニル)イミノメチルフェノールの沈殿物を氷冷したエタノールで洗い、減圧下で乾燥させた。
【0095】
例6:フルオレセインジメタクリレートの合成
【化21】
【0096】
フルオレセインのナトリウム塩(376 mg)を無水メタクリル酸中に懸濁させ、その混合物を5時間還流させながら撹拌した。次にその反応混合物を、氷水混合物にゆっくり添加した。得られた淡褐色固体を集め、数回に分けて水で洗った。次にその生成物をジメチルホルムアミドに溶かし、水に添加することによって沈殿させた。水で洗った後、黄色固体である6′-(2-メチルプロパ-2-エノイルオキシ)-3-オキソ-スピロ[イソベンゾフラン-1,9′-キサンテン]-3′-イル]2-メチルプロパ-2-エノエート生成物を減圧下で乾燥させた。
【国際調査報告】