特表2017-512957(P2017-512957A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ ゲイツ コーポレイションの特許一覧

<>
  • 特表2017512957-導電性動力伝達ベルト 図000005
  • 特表2017512957-導電性動力伝達ベルト 図000006
  • 特表2017512957-導電性動力伝達ベルト 図000007
  • 特表2017512957-導電性動力伝達ベルト 図000008
  • 特表2017512957-導電性動力伝達ベルト 図000009
  • 特表2017512957-導電性動力伝達ベルト 図000010
  • 特表2017512957-導電性動力伝達ベルト 図000011
  • 特表2017512957-導電性動力伝達ベルト 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-512957(P2017-512957A)
(43)【公表日】2017年5月25日
(54)【発明の名称】導電性動力伝達ベルト
(51)【国際特許分類】
   F16G 1/10 20060101AFI20170421BHJP
   F16G 1/08 20060101ALI20170421BHJP
   F16G 1/00 20060101ALI20170421BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20170421BHJP
   D06M 10/06 20060101ALI20170421BHJP
   D06M 16/00 20060101ALI20170421BHJP
   D06M 101/34 20060101ALN20170421BHJP
【FI】
   F16G1/10
   F16G1/08 A
   F16G1/00 B
   D03D1/00 D
   D06M10/06
   D06M16/00 Z
   D06M101:34
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-561770(P2016-561770)
(86)(22)【出願日】2015年3月25日
(85)【翻訳文提出日】2016年10月7日
(86)【国際出願番号】US2015022389
(87)【国際公開番号】WO2015157001
(87)【国際公開日】20151015
(31)【優先権主張番号】14/247,025
(32)【優先日】2014年4月7日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】504005091
【氏名又は名称】ゲイツ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】トーマス,クリストファー エム.
(72)【発明者】
【氏名】デューク,ジュニア.ジョセフ アール.
(72)【発明者】
【氏名】ビア,カーラ ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン,キャシー ピーク
【テーマコード(参考)】
4L031
4L048
【Fターム(参考)】
4L031AA11
4L031AB31
4L031BA04
4L031DA15
4L048AA24
4L048AA52
4L048DA44
(57)【要約】
エラストマのベルト本体(12)と、ベルト本体を補強するコード層内のカーボンファイバーコードのような導電性の抗張コード(14)と、ポリプロピレンフィルムのような導電性の熱可塑性材料の外部層(18)と、抗張コード層と外部層の間に位置し、外部層と抗張コードの間に電気的連続性を付与する、導電性の帆布層(14)とにより構成されたベルト(10)。導電性糸は帆布の中に織り込まれてもよく、また帆布の両面に存在し、かつ外部層および抗張コードの両方に接触して電気的連続性を付与してもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマのベルト本体と、前記ベルト本体を補強するコード層内の導電性の抗張コードと、導電性の熱可塑性材料の外部層と、前記抗張コード層と前記外部層の間に位置し、前記外部層と前記抗張コードの間に電気的連続性を付与する、導電性の帆布層とを備えるベルト。
【請求項2】
前記導電性帆布層が、前記帆布の両面に存在し、かつ前記外部層および前記抗張コードの両方に接触して電気的連続性を付与する、導電性糸を有する帆布を備える請求項1に記載のベルト。
【請求項3】
前記導電性帆布層が、前記帆布の両面に存在し、かつ前記外部層および前記抗張コードの両方に接触して電気的連続性を付与する、帆布と導電性含浸コーティングを有する帆布を備える請求項1に記載のベルト。
【請求項4】
前記エラストマのベルト本体がポリウレタンである請求項2に記載のベルト。
【請求項5】
前記抗張コードがカーボンファイバーである請求項4に記載のベルト。
【請求項6】
前記導電性糸が導電性金属コートファイバーである請求項2に記載のベルト。
【請求項7】
前記金属コートが銀である請求項6に記載のベルト。
【請求項8】
前記金属コートファイバーが銀でコートされたポリアミドのファイバーである請求項6に記載のベルト。
【請求項9】
前記導電性糸が非導電性ファイバーを束ねて構成され、所定の間隔を空けた非導電性糸を有する帆布の中に織り込まれる請求項2に記載のベルト。
【請求項10】
前記導電性糸が非導電性糸の周囲に巻き付けられ、所定の間隔を空けた他の非導電性糸を有する帆布の中に織り込まれる請求項2に記載のベルト。
【請求項11】
前記所定の間隔が1から10ミリの範囲である請求項9に記載のベルト。
【請求項12】
前記導電性糸が、実質的にベルトの長手方向に配置された帆布の緯糸方向に延びる請求項11に記載のベルト。
【請求項13】
前記導電性糸の数が緯糸における全ての糸の約10%である請求項1に記載のベルト。
【請求項14】
前記導電性糸が帆布の全重量の約1%から約9%を占める請求項1に記載のベルト。
【請求項15】
前記導電性熱可塑性材料がポリエチレンである請求項1に記載のベルト。
【請求項16】
前記導電性熱可塑性材料がポリプロピレンである請求項1に記載のベルト。
【請求項17】
導電性熱可塑性フィルムと導電性帆布と導電性コード層とをベルトモールドに貼り付け、前記導電性帆布が前記フィルムおよび前記コード層の間に接触して位置し、前記フィルムおよび前記コードの間に電気的連続性を付与する、導電性ベルトの製造方法。
【請求項18】
鋳造ポリウレタン組成物を導入してベルト本体を成形するとともに、前記帆布と前記抗張コードの少なくとも一部とに含浸させる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記フィルムおよび帆布がベルトモールドに貼り付けられる前に積層される請求項17に記載のベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性動力伝達ベルトに関し、より詳しくは静電気導電性タイミングベルトに関し、特に導電性フィルムと帆布と抗張コードを有するベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
駆動ベルトは、タイミングアプリケーションのため、動力伝達、運動制御、輸送アプリケーションに用いられる。動力伝達ベルトは平ベルト、歯付きベルト、Vベルト、マルチVリブドベルト、あるいは他の特殊な形状の形態を有する。それらは、典型的には、電気的に絶縁および/または電気的絶縁材料を含む。ベルトは帯電状態を維持しない、すなわちベルトが帯電防止性能を有することがときどき望まれる。
【0003】
帯電防止性能は種々の標準で定義され、1以上の次の特性を概略的に含む。10オームよりも低い表面抵抗、10オームよりも低い体積抵抗、10オーム/mよりも低いグランドブリーダー抵抗。BS PD CLC/TR 50404:2003、DIN EN 13463−1、およびIEC 60079−0のような標準は、静電気による危険性の回避について情報を与える。ASTM D−257は種々のゴム製品の抵抗テストを提供する。特にタイミングベルトに適用可能であるのは、ISO 9563:1990(E)の標準であり、これは新規な帯電防止ベルトの抵抗が、上記標準に従って測定したときに6×10L/wを超えるべきではないことを述べている。ここで、ISO 9563標準に合致するベルトは、ベルトが新しかろうと使用済みであろうと、「導電性」と呼ばれる。使用において、ベルトは摩耗あるいは導電性材料要素の破損によって、早く導電性を喪失しうる。
【0004】
米国特許第8192316号明細書は、非導電性の自然または合成ポリマーファイバーと導電性ファイバーとを含む、帯電防止の耐摩耗性帆布を有するエラストマ動力伝達ベルトを開示している。導電性ファイバーは、銀等の導電性金属コートを有する合成ポリマーファイバーである。
【0005】
JP1018410Aは歯付きベルトの偽造者を阻止するために導電性ヤーンを使用することを開示している。
【0006】
米国特許第6770004号明細書は、プーリに接触する表面に導電性熱可塑性層を有するタイミングベルトを開示している。開示内容は、ベルトの導電性が長い耐用期間にわたって維持されることを主張し、撓み性試験に基づいて2つの例を提供している。より厳しい負荷テストにおける性能は報告されていない。
【0007】
米国特許第4767389号明細書は、織布の糸の中の導電性フィラメントまたは織布の支持部材と樹脂のカバーリングの間の導電層のいずれかから生じる帯電防止性能を有する、樹脂被覆された織布の平ベルトを開示している。導電性フィラメントは金属あるいはカーボンファイバーであってもよい。導電層は、すすを含有した樹脂であってもよい。樹脂のカバーリングは熱可塑性ポリウレタンであってもよい。米国特許第7328785号明細書は、導電性熱可塑性物質から成形された導電性歯付きプーリを教示している。熱可塑性物質は、導電性マイクロファイバー、グラファイト、あるいはカーボンブラックが混合されたものを使用することによって導電性を有してもよい。
【0008】
米国特許第6228448号明細書は、好ましくは十分な量のカーボンブラックまたは他の導電性添加物を塗布して約1014オーム/平方よりも小さい表面抵抗を外部層または無端ベルト全体に与えた、導電性エラストマの表面層を使用すること教示している。
【0009】
米国特許第5417619号明細書は、導電性カーボンブラックに基づいた帯電防止ゴム組成物が含浸されたカバー帆布を教示している。このような被覆の好ましくない副作用は、使用中における帯電防止効果の急速な喪失を引き起こす、帆布の摩擦抵抗の減少である。発生する摩耗粉は、近傍の電子または電気的要素またはシステムに有害である。米国特許第5351530号明細書は、導電性ゴム被覆帆布の摩耗状態を表示するために導電性の喪失を使用する。
【0010】
必要なものは、厳しい負荷環境において長い耐用期間にわたって導電性を維持する導電性ベルトである。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、負荷を受けて使用されるベルトの耐用期間にわたって導電性を維持する導電性動力伝達ベルトを提供するシステムおよび方法を意図する。
【0012】
本発明は、エラストマのベルト本体と、ベルト本体を補強するコード層内のカーボンファイバーコードのような導電性の抗張コードと、ポリプロピレンフィルムのような導電性の熱可塑性材料の外部層と、抗張コード層と外部層の間に位置し、外部層と抗張コードの間に電気的連続性を付与する、導電性の帆布層とにより構成されたベルトを意図する。導電性糸またはフィラメントが帆布に含まれて、帆布の両面に存在し、かつ外部層および抗張コードの両方に接触して電気的連続性を付与してもよい。導電性糸またはフィラメントは帆布において、織られ、縫われ、ニードルパンチされ、あるいは編みこまれてもよい。導電性糸はポリアミドの表面における銀等の導電性金属コートファイバーを含んでもよい。導電性糸は、所定の間隔を空けられるか重量分率で、非導電性糸の中に織り込まれ、非導電性ファイバーとともに束ねられてもよい。所定量の導電性糸は、1ミリ以上、または1から10ミリの範囲、または約3ミリから約5ミリの間隔を空けられてもよく、あるいは全帆布重量に対して、少なくとも1%または1%から9%の重量比率であってもよい。導電性糸は帆布の経糸または緯糸方向または両方向であってもよい。
【0013】
他の実施形態において、導電性帆布は導電材料含浸コートを有する帆布であってもよい。
【0014】
本発明はまた、導電性熱可塑性フィルム、導電性帆布、および導電性抗張コードがベルトモールドに貼り付けられ、これら3つが電気的接触する、導電性ベルトを製造する方法を意図する。
【0015】
後述する本発明の詳細な説明がよく理解されるようにするため、前述は本発明の特徴と技術的利点を広く概説したものである。本発明の付加的な特徴および利点は以下に記載され、それは発明の請求項の主題を構成する。本発明と同じ目的を実施するために他の構造を修正または設計する基礎として、開示された概念と特定の実施形態は容易に利用されることが当業者によって理解されるべきである。また、このような均等の構成は添付された請求項に記載された本発明の範囲から逸脱しないことが当業者によって理解されるべきである。本発明の特徴であると確信する新規な特徴は、その機構および方法に関し、さらなる目的と利点とともに、添付された図面に関連して検討されるとき、以下の記載からよく理解されるであろう。しかし、各図面は説明と記述の目的のために使用され、本発明の限定としては意図されないことは明確に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
ここに組み込まれ、数字が部材を示している明細書の一部を構成する添付図面は、本発明の実施形態を示し、その記述とともに、本発明の原理を説明するために役立つ。図において、
【0017】
図1】本装置の実施形態の部分的に破断した斜視図である。
【0018】
図2図1の実施形態の、拡大して部分的に破断した断面図である。
【0019】
図3】厳しい使用の後における図1のベルトの部分的に破断した側面図である。
【0020】
図4】導電性帆布の模式図である。
【0021】
図5】ベルトの耐久性を試験するために用いられるベルト駆動装置のレイアウトの模式図である。
【0022】
図6】ベルトの導電性テストの模式図である。
【0023】
図7図5の駆動装置においてテストされた、多数の実施例および比較例ベルトのベルト寿命のテスト時間のパーセントに対する、ベルトの電気抵抗のグラフである。
【0024】
図8図5の駆動装置のレイアウトにおいてテストされた、多数の実施例および比較例ベルトのベルト寿命のパーセントに対する、ベルトの電気抵抗のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、ランド部13と交互に並ぶ歯15を含む歯面17と、平坦な背面11とを有するタイミングベルト10の形態をとる本発明の導電性ベルトの一実施形態を示す。タイミングベルト10の内部構造は、エラストマ本体12と、これに埋設された抗張コード14と、帆布層16と、外部層18とを含む。抗張コード14はカーボンファイバーあるいは金属ワイヤ等の導電材料を含む。コードは、導電材料が少なくとも複数の場所においてコードの表面に存在するのであれば、ガラス、アラミド、PBO等の非導電コード材料と導電材料の混合物であってもよい。帆布層16も同様に導電性である。外部層18もまた導電性であり、あるいは、少なくとも静電気を消失させるのに適した表面伝導率をベルトに与える導電性熱可塑性フィルムまたは導電性熱硬化性コーティングであってもよい。帆布層16は、外部層と導電性抗張コードの間を導通させる。得られた導電性ベルトは、その表面において導電性を有するだけでなく、あるいはコードを介して導電性を有するだけでもなく、コードと表面、およびこれらの間における帆布層を介して導電性を有する。
【0026】
タイミングベルトのエラストマ歯を覆う材料を「ジャケット」と呼ぶことは周知である。ベルト10の導電性ジャケットは導電性外部層18と導電性帆布層16の組合せを含む。したがって、導電性ジャケットと導電性抗張コードの間が導通する。
【0027】
図2図1のベルト10の特徴の一部をより詳細に示している。図2において、抗張コード14は、間に隙間22を有する個々のファイバー24を束ねて示される。本体12のエラストマ材料は隙間22の中に、部分的あるいは完全に貫通してもよい。これに替えて、隙間の一部あるいは全てに、ベルト本体のエラストマ材料とは異なるコード処理剤が浸み込んでいてもよい。帆布16は経糸26と緯糸27を含む。図示されるように、経糸はベルトの幅あるいは横方向にわたって延び、緯糸はベルトの長さあるいは長手方向にわたって延びる。帆布の織によって、経糸が長手方向の糸、また緯糸が横方向の糸であってもよく、あるいは帆布はベルトに対して角度をつけて設けられてもよい。緯糸27は導電性ファイバー28、28′、28″を含む。導電性ファイバー28は抗張コード14との接触点を示す。導電性ファイバー28′は抗張コード14または外部層18と接触しない。導電性ファイバー28″は外部層18との接触点を示す。図示されたベルト10では、帆布16の導電性ファイバー28と導電性外部層18と抗張コード14の間における多重の接触がある。この結果、ベルトの導電性はコード、帆布および外部層により、多重の経路を介して確立してもよい。
【0028】
本発明のベルトは、導電性表面のみ、あるいは導電性コードのみ、あるいは導電性帆布のみを有する従来のベルトよりも格段に優れた導電性を示す。このような従来のベルトは、導電要素が損傷し、あるいは摩耗するに従って、急速に導電性を失う。事実、ベルトの劣化の程度や摩耗の程度を決定する方法として、導電性の望ましくない損失を利用することが提案されていた。しかし、導電性を要求する多くのアプリケーションにおいて、ベルトがその寿命において導電性を維持することが望まれる。本発明はこの目的を達成する。さらに、異なるアプリケーションが、ベルトの使用可能な寿命の終了につながる異なるタイプのベルト損傷、すなわち異なる「損傷モード」を生じるかもしれない。歯の負荷が低いがプーリの直径が小さいタイミングベルト駆動装置は、外部層あるいは帆布が摩耗する前にコードの損傷、すなわち抗張コード損傷モードを経験しやすい。そのベルトが導電性のために導電性抗張コードに依存するならば、その寿命の間に徐々に導電性を失う。一方、通常の直径のプーリを有する、歯の負荷が高い駆動装置は、ジャケットの摩耗損傷モードすなわち歯剪断損傷モードを起こしやすい。そのベルトが表面導電性あるいは帆布導電性に依存するならば、導電性の外部層あるいは導電性の帆布(場合によっては)がどこかで摩耗するとすぐに、導電性の維持を失いやすい。
【0029】
図3は、図1のベルト10が使用可能期間の最後あるいはその近傍においてひどく損傷した状態にある場合の一例を示している。図3において、導電性外部層18は歯17の先端に残っているだけである。外部層は歯側部47とランド部13において摩耗している。さらに、導電性帆布層16は歯の基部においてクラック45が入り破損している。しかしこのような摩耗状態における本発明のベルトは、少なくともランド部13において、残っている帆布16を介して抗張コード14までの外部層として残存している部分による導電性経路を通って、なお導電性を維持している。
【0030】
帯電防止の耐摩耗性帆布は、経糸と緯糸の織布、編布、あるいは不織布であってもよい。平織、綾織等の織布どんな適切な織布あるいは編布も帆布16として使用できる。図4は、帆布16の1つの可能な構成、すなわち7本以上の経糸毎に導電性糸29を有する経糸26と6本の緯糸毎に導電性糸30を有する緯糸27とからなる2×2の綾織を示している。導電性糸は緯糸だけに織り込まれてもよく、経糸だけに織り込まれてもよく、あるいは経糸と緯糸の両方に織り込まれてもよい。これに替えて、導電性糸あるいはフィラメントは帆布に縫い込まれ、ニードルパンチされ、または編み込まれてもよい。導電性糸の間隔は、望ましい導電性を得るように設定される。その所定の間隔は例えば、1から10ミリまで、好ましくは約3から5ミリまでの範囲にある。導電性糸は導電性ファイバーのモノフィラメント、導電性ファイバーのフィラメントの束、導電性モノフィラメントまたはファイバーと非導電性ファイバーまたはフィラメントとの混合した束であってもよい。導電性糸は、例えば撚られ、撚り合わされ、覆われ、織られる等のような適当な方法により構成されてもよい。好ましくは、導電性糸における導電性材料は、ベルトの他の要素との電気的な連続を確立するために、糸の表面、したがって得られる帆布の表面に存在する。例えば、導電性糸は導電性フィラメントあるいは糸で覆われた非導電性コアを有するコアインサート構造であってもよい。非導電性高分子ファイバーは金属コート導電性ファイバーのベースファイバーと同様に、いかなる天然ファイバー、またはポリエステル、ナイロンすなわちポリアミド(PA)、アクリル、コットン、レイヨン、アラミド等の合成繊維であってもよい。ファイバーは、織られ、撚られ、混合されてもよい。合成、複合あるいは混合された糸は、ランダムなファイバーの混合物、種々のタイプの、撚られたり撚り合わされたヤーンあるいは糸、または被覆され、あるいは芯鞘型ヤーンのように構成されてもよい。好ましくは、非導電性ファイバーと導電性ファイバーのためのベースファイバーとは、PA−66を含む、ポリエステルおよびポリアミドである。導電性ファイバーは金属コートされたファイバーあるいはフィラメント、カーボンファイバー、金属ファイバー等であってもよい。
【0031】
本発明の実施形態において、導電性ファイバーは帆布の全重量の約1%から約9%を占めてもよい。他の実施形態において、帆布は約3%から約6%の導電性ファイバーであり、残りのファイバーは非導電性ファイバーの組合せであってもよい。帆布は上述したような導電性糸の所定の間隔と重量比率を有してもよい。導電性帆布における導電性ファイバーあるいは糸の所定の量は、帆布のコストおよび/または性質を最適化するように選択される。ベルトに用いられている帆布に対して付加するときに導電性糸の量を制限する1つの理由は、生産物の負荷容量、耐久性、あるいは他の性能に対して潜在的、否定的な影響を最小限にすることである。帆布は、全体的に導電性糸により製造されるが、これはコストがかかりすぎると思われ、ここに記載された静電気導電性レベルを達成するためには不要である。
【0032】
図4のような導電性帆布に代わるものとして、適当な非導電性帆布が、帆布に浸透し、帆布において連続性を付与する、導電性RFL浸漬処理、導電性ゴムのり、導電性ゴムスキムあるいは摩擦層、または他の導電性コーティング等の、1以上の適当な導電性コーティングあるいは処理を適用することによって導電性を付与されてもよい。RFL、ゴムのり、あるいは他のコーティングは、導電性カーボンブラック、グラファイト、金属粉またはファイバー、あるいは例えばカーボンナノチューブ等を含むカーボンファイバー等の導電性添加物の利用によって導電性を付与されてもよい。
【0033】
外部層は、帆布に積層される導電性熱可塑性フィルムであってもよい。適当な材料の一例は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステルを含み、これらはコポリマー、混合物等を含む。熱可塑性フィルムは、導電性カーボンブラック、グラファイト、金属粉あるいはファイバー、またはカーボンナノチューブ等を含むカーボンファイバー等の導電性添加物を添加することにより導電性を付与されてもよい。好ましい熱可塑性フィルムは、導電性カーボンブラックを有するポリプロピレンである。ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレンホモポリマーあるいはポリプロピレンコポリマーであってもよい。コポリマーは、大部分がプロピレンであり、すなわちエチレンが約10%未満である、ポリ(プロピレン―エチレン)であってもよい。積層プロセスでは、導電性フィルムは軟化あるいは溶解され、導電性帆布の中にいくらか浸透してある程度の機械的なインターロックを生じ、導電性帆布との、また強固な機械的および/または化学的接着のための電気的連続性を確保するようになる。
【0034】
外部層は、帆布に積層され、あるいは貼付される熱硬化性フィルムであってもよい。熱硬化性樹脂は、導電性添加物によって導電性を有する、ゴム組成物、架橋性熱可塑性、ポリウレタン、エポキシ等であってもよい。
【0035】
エラストマ本体の材料は、ニトリル(NBRあるいはHNBR)、スチレンブタジエン(SBR)、クロロプレン(CR)、エチレンプロピレン(EPMあるいはEPDM)、ゴム混合物等の加硫可能なゴム組成物を含む好ましいエラストマ組成物、または熱可塑性エラストマ組成物、または鋳型ポリウレタン組成物であってもよい。本体の材料が導電性を有していてもよいが、その必要はない。鋳型ポリウレタンベルトのため、帆布とコードは未処理であるか、または、鋳造工程においてポリウレタンの成形によるペネトレーションに少なくとも部分的に開放することが好ましい。このペネトレーションは、良好な機械的接着(化学的接着に加えて)となり、ベルトの全ての構成要素を一体的に接着させる。導電性材料の浸漬および/またはアップコートにより処理された帆布のため、全ての要素の良好な接着を得ることは難しく、頼れるのは化学的接着だけかもしれない。
【0036】
ベルトを製造する適当な方法が使用されてもよい。鋳造ポリウレタン製タイミングベルトは例えば米国特許第5231159号、第5807194号、および第6964626号明細書に記載されたように製造されてもよく、これらの内容は参照することにより、この明細書に組み込まれる。この方法において、導電性外部層は導電性帆布に積層されて、導電性ジャケットを構成する。ジャケットは溝付き金型の周囲に巻き付けられ、カーボン抗張コードがジャケットの周りに螺旋状に巻き付けられる。金型はシェル内に置かれ、キャビティにはウレタン材料が充填され、加硫の前にコードと帆布に浸み込む。加硫されたベルトスラブは個別のベルトに切断される。ベルトの製造工程において完成する帆布と抗張コードの間の接着は、結果物であるベルトにおいて維持される。
【0037】
加硫されたゴムベルトは、例えば米国特許第6695733号明細書および/またはそこにおいて参照された特許に記載されたように製造されてもよく、それらの内容は参照することにより、この明細書に組み込まれる。ゴム組成物の高い粘性のため、帆布と抗張コードは一般的に種々の浸漬あるいはゴムのりを用いて前処理される。好ましくはその処理剤は、表面と抗張コードの間の連続性が維持されるような導電性材料である。導電性の外部層は、導電性コーティングまたは浸漬による処理の前あるいは後に、帆布に積層されてもよい。浸漬処理剤が適切な導電性であれば、帆布は導電性の糸である必要はない。積層は適切な接着を含んでいてもよい。
【0038】
長尺の熱可塑性ベルトは例えば米国特許第8668799号明細書に記載されたように製造されてもよく、その内容は参照することにより、この明細書に組み込まれる。ベルトは所望の長さに切断され、両端が接合されて無端状ベルトに成形されてもよい。ベルトは、この明細書に記載されているように、外部表面材料から導電性抗張コードまでの電気的連続性を確立することによって導電性を有するように作られてもよい。
【0039】
後述する例において、本発明の例は「実施例」と表示され、比較される例は「比較例」と表示される。ベルトは図5に概略的に示される耐久性テスト駆動装置に配置された。耐久性テストは、室温で、所定の負荷と張力をかけられて2000RPMで回転駆動される24溝プーリ56、58に掛け回されたベルト10を有して示される。選択された張力とHPにより、張力比はT/T(緊張側対緩み側)である。ベルトは、図6に概略的に示され、ISO9563:1990(E)、1stEdition、08−15−1990(以下「ISO9563」と呼ぶ)に基づく抵抗測定器60を用いて電気抵抗をテストされた。図6において、ベルト10の抵抗は、2つのコンタクト部62a、62bをベルトの歯側部に置くことにより計測される。コンタクト部は、ベルトの3つの歯17と2つのランド部13をカバーするように定められる。2つのリード線63a、63bは電極を絶縁試験機64に接続する。スペーサーハンドル65はコンタクト部を距離Lだけ離して保持し、その距離はコンタクト部間に、6つの歯17と7つのランド部13を置くように定められる。ISO9563は、ベルトと電極の間に導電性流体を使用し、応力を発生させることなくベルト背面11を硬い絶縁表面に置くことを要求する。しかし、耐久性テストにおいてベルトの全耐用期間にわたってベルトの抵抗を観察することが望まれたので、テストは、背面11を外気側に置き、張力を付与して、図5の耐久性テストにおいてベルトに対して実行された。剛体による支持がなく、かつ導電性流体を使用することなく反復可能な測定が実際に可能であることが最初に実験により判定された。ISO9563によれば、帯電防止無端タイミングベルトは、静電気導電性(以下「導電性」ベルトと呼ぶ)としても知られているが、0.6L/wを越えない部分において、メガオーム(MΩ)の大きさの電気抵抗を有し、Lは図6において示される距離、wはベルト幅である。このように、抵抗測定値Rは、異なる幅とピッチを有するベルトに対して正規化され、導電性ベルトの要求はRw/L≦0.6MΩと書き換えられる。
【0040】
第1シリーズの例において、3つの異なるポリウレタンのタイミングベルトが比較された。全ての3つの構成は鋳造、非導電性、ポリウレタンの本体を用いて製造され、8ミリの歯ピッチ、Gates GT(登録商標)の歯形状、16ミリの幅、140の歯数を有していた。上述した積層ウレタン鋳造工程が使用された。比較例1はアラミドファイバーの非導電性抗張コードと、非導電性ナイロン帆布と、外部層として導電性ポリエチレン熱可塑性フィルムを有していた。比較例2は比較例1と同様にして製造されたが、非導電性の緯糸の中に約4ミリの間隔を空けて設けられた導電性の緯糸を有する、ナイロンの導電性帆布を有していた。実施例3は比較例2と同様にして製造されたが、アラミドの代りに導電性カーボンファイバーの抗張コードを有していた。このように実施例3は、少なくともベルトのランド部において、外部層から導電性抗張コードまで導電経路を有する。これらの構成はテスト結果とともに表1に示される。ベルトは、図7にグラフとして示されるように、時間的な抵抗計測により、10HPの負荷、張力比が8の条件で耐久性テストとして走行された。抵抗値が導電性ベルトに対するISO9563の最大値(2.1MΩ)を超えたときの時間が、全テスト時間およびテストを終了するための理由とともに、表2に報告されている。比較ベルトは両方とも、テストされたベルトの寿命に達するよりもかなり前(アラミドコードの場合約378時間)に導電性を失った。本発明のベルトは導電性を失わず、テストは515時間で終了した。本発明のベルトは、ベルトの寿命が限られたテスト材料に対して、より実際的な範囲内になるように、高い負荷でテストされる必要があった。
【0041】
第2シリーズの例において、本発明のベルトが19HPで耐久性テストされた。また、伝導性材料として現在市販され、販売促進されている種々の比較例ベルトが耐久性テストされた。ポリウレタン構造の本発明の例は、比較例ゴムベルトよりも、かなり高い負荷能力である。したがってゴムベルトのテスト条件は、約150時間までの範囲のベルト寿命を有するように選択された。比較例ベルトは異なる幅を有するので、正規化された抵抗値Rw/Lが計測値を比較するために使用された。ベルトおよびその耐久性と導電性の結果は、表2に記載されている。図8は、計測時間における全ベルト耐用期間のパーセントに対するベルト耐用期間における正規化された抵抗値を示している。同じ構成の多数のベルトがテストされた場合、例の数値は同じにされ、文字の指定は繰り返された。
【0042】
【表1】
【0043】
第2シリーズにおける全ての比較例ベルトはゴムのタイミングベルトである。比較例4は、帆布に対して導電材の浸漬を使用することにより静電気導電性が付与されたゴムベルトである。帆布自体は非導電性のナイロンから製造される。導電性ゴムは所定レベルの導電性を有していてもよいが、帯電防止ベルトに対するISO9563の要求を満たすために抵抗があまりに高すぎる。さらに、比較例4は非導電性のファイバーグラスの抗張コードを有してもよい。図8に示されるように、比較例4は、テストが開始する前は特にISO9563に合致するが、おそらく歯表面における導電材の浸漬層の摩耗あるいは破壊により、数時間のテストの後導電性を失う。このように、導電性はベルトの寿命の終了より前に喪失する。
【0044】
比較例5および6は同様な構成を有するが、比較例6は、ベルトの歯側部に加えて、導電性の背面ポリエチレンフィルムを有すると思われる。これら2つの構成は米国特許第6770004号明細書の教示に従って製造されたと思われる。その特許におけるベルトは導電性ポリエチレン表面層を介して導電性を有するだけであるが、ベルトの寿命に対して導電性を示すと報告された。しかし、‘004号特許におけるベルトは撓み性試験機においてテストされたに過ぎず、負荷テストではない。撓み性テストは一般的にジャケットの前に抗張コードを損傷しやすく、歯の切断による損傷ではないようである。また、多くの、あるいはほとんどのアプリケーションは、ベルトがいくらかの負荷を受けることを要求する。負荷テストは歯の切断、ジャケットの摩耗等において失敗するようである。比較例5および6における耐久性テストの結果は、負荷をかけたベルトの導電性がベルトの寿命を延ばさないことを示している。
【0045】
実施例7の発明ベルトは、カーボンファイバーの導電性抗張部材を有する導電性帆布の歯カバーの上に導電性ポリプロピレン表面を含む。実施例7のベルトは歯付き表面と抗張部材の間に電気的連続性を示す。実施例7の発明ベルトは、テストされたベルトの初めから最も低い抵抗を有するだけでなく、連続性の喪失に近づくことなく負荷寿命耐久性テストの終わりに、簡単に達する。これらのベルトは、図3に示された点において摩耗したときでさえ導電性を維持する。
【0046】
このように、導電性外部層と、導電性帆布および導電性コードと、全ての電気的接続物との組み合わせは、厳しいアプリケーションにおける従来のベルトよりもはるかに長く導電性を維持するベルトを促進する。
【0047】
【表2】
【0048】
本発明とその利点がここに詳しく説明されたが、種々の変更、置き換えおよび修正が、添付された請求項により定義される発明の範囲から逸脱することなく実行可能であることが理解されるべきである。さらに、このアプリケーションの範囲は、この明細書に記載された工程、機械、製造物、組成物、手段、方法およびステップの特定の実施形態に限定されることを意図しない。当業者が本発明の開示から容易に理解されるように、ここに記載された対応する実施形態と実質的に同様な機能を果たし、実質的に同様な結果を達成する、現に存在しあるいはこれから開発される、工程、機械、製造物、組成物、手段、方法あるいはステップが本発明に従って利用される。したがって、添付された請求項はそのような工程、機械、製造物、組成物、手段、方法およびステップを含むことを意図する。ここに開示された発明は、ここに特に開示されない要素なしには適切に実施されない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】