【実施例】
【0081】
(実施例1)組成物セット
組成物はクレンザー、スキンローション、アイセラム及びクリームとして処方することができ、これらは別個に、又はセットとして共に提供され得る。
【0082】
クレンザー:例示的実施形態において、クレンザーは、バコパ・モンニエリ(ブラーミ) エキス、シリブム・マリアナムエキス、ピペル・ニグルム種子エキス、カメリア・オレイフェラ葉エキス及びクルクマ・ロンガ(ウコン)根エキスを含む。これらの成分の量の比率は、好適には、バコパ・モンニエリエキス、シリブム・マリアナムエキス、カメリア・オレイフェラ葉エキス、クルクマ・ロンガ根エキス及びピペル・ニグルム種子エキスにおいて、それぞれ少なくとも5:5:5:1:1である。
【0083】
クレンザーは更に、水、アクリル共重合体、ココイルイセチオン酸ナトリウム、ココイルメチルタウリンナトリウム、アミノメチルプロパノール、ヒドロキシルグアヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド、グルタミン酸ジ酢酸4Na、パンテノール、セテアリルアルコール、セテアレス‐20、フェニルトリメチコン、シクロメチコン、水添レシチン、フェノキシエタノール、カプリリルグリコール、エチルヘキシルグリセリン、ヘキシレングリコール、α‐グルカンオリゴサッカリド、キシリチルグルコシド、アンヒドロキシリトール、アロエ・バルバデンシス(Aloe barbadensis)葉汁、藻エキス及びフェノキシエタノールを含む追加成分の内の一つ又は組み合わせを含み得る。
【0084】
スキンローション:例示的実施形態において、スキンローションは、ブラシカ・ユンセアエキス、ブラシカ・オレラケア・イタリカスプラウトエキス、ブラシカ・オレラセア・カピタータ葉エキス、ブラシカ・オレラセア・ボトリティスエキス、ブラシカ・オレラセア・アセファラ葉エキス、ワサビア・ジャポニカ根エキス、バコパ・モンニエリ(ブラーミ)エキス、シリブム・マリアナム(マリアアザミ)水アルコールエキス(種子)、ピペル・ニグルム種子エキス、カメリア・オレイフェラ(緑茶)水アルコールエキス(葉)及びクルクマ・ロンガ(ウコン)水アルコールエキス(根)を含む。
【0085】
スキンローションは更に、水、グリセリン、アストラガルスメンブラナセウス(Astragalus membranaceus )根エキス、Atractyloides macrocephala根エキス、Bupleurum Falcatum根エキス、フェノキシエタノール、キシリチルグルコシド、アンヒドロキシリトール、キシリトール、イソセテス‐20、グルタミン酸二酢酸4Na、水酸化ナトリウム、フェノキシエタノール、エチルヘキシルグリセリン、キサンタンゴム及びマラカイトを含む追加成分の内の一つ又は組み合わせを含み得る。
【0086】
アイセラム:例示的実施形態において、アイセラムは、ブラシカ・ユンセアエキス、ブラシカ・オレラケア・イタリカスプラウトエキス、ブラシカ・オレラセア・カピタータ葉エキス、ブラシカ・オレラセア・ボトリティスエキス、ブラシカ・オレラセア・アセファラ葉エキス、ワサビア・ジャポニカ根エキス、プランターゴ・ランセオラータ葉エキス、バコパ・モンニエリ(ブラーミ)エキス、シリブム・マリアナム(マリアアザミ)水アルコールエキス(種子)、ピペル・ニグルム種子エキス、カメリア・オレイフェラ(緑茶)水アルコールエキス(葉)及びクルクマ・ロンガ(ウコン)水アルコールエキス(根)を含む。
【0087】
アイセラムは更に、水、グリセリン、フェノキシエタノール、カプリリルグリコール、カルボナー、アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10−30)クロスポリマー、アルビジア・ジュリブリシン(Albizia julibrissin)樹皮エキス、ダルトシド、アロエ・バルバデンシス葉汁、藻エキス、アラントイン、パンテノール、パルミチン酸エチルヘキシル、ポリソルベート20、トコフェリル酢酸、α‐グルカンオリゴサッカリド、キサンタンゴム、クエン酸、水酸化ナトリウム、エチルヘキシルグリセリン、ヘキシレングリコール及びグルタミン酸二酢酸4Naを含む追加成分の中の一つ又は組み合わせを含み得る。
【0088】
アンチエイジングクリーム:例示的実施形態において、クリームは、ブラシカ・ユンセアエキス、ブラシカ・オレラケア・イタリカ(ブロッコリー)スプラウトエキス、ブラシカ・オレラセア・カピタータ(キャベツ)葉エキス、ブラシカ・オレラセア・ボトリティス(カリフラワー)エキス、ブラシカ・オレラセア・アセファラ葉(コラードの若葉)エキス、ワサビア・ジャポニカ根エキス、バコパ・モンニエリ(ブラーミ)エキス、シリブム・マリアナム(マリアアザミ)エキス、クロコショウエキス(テトラヒドロピペリン)、ウコンエキス(テトラヒドロクルクミノイド)、プランターゴ・ランセオラータ葉エキス及びカメリア・オレイフェラ又はシネンシスエキスを含む。
【0089】
アンチエイジングクリームは更に、グリセリン、水、ブチレングリコール、カルボナー、ポリソルベート20、パルミトイルオリゴペプチド、パルミトイルテトラペプチド−7、フェノキシエタノール、ステアリン酸グリセリル、セテリアルアルコール、ステアロイル乳酸Na、ペンチレングリコール、ヒドロキシメチオニンCa、3−アミノプロパンスルホン酸、ポリソルベート20、ヒドロキシエチルセルロース、イソペンチルジオール、ジメチコーン、ベタイン、SDアルコール40−B、キサンタンゴム、クエン酸、糖脂質、ダイズフィトステロールズ、ヒアルロン酸ナトリウム、海水、カラギナン、ビャクダン(サンタルム・アルブム(Santalum album))エキス、フェロデンドロン・アミュレンス(Phellodendron amurense)樹皮エキス、大麦の実(ホルデウム・ジスチチョン(Hordeum distichon))エキス、オリーブ(オレア・ユーロパエア(Olea europaea))果実不鹸化物、カプリリルグリコール、エチルヘキシルグリセリン、eexylene glycol、MPC−乳ペプチド複合体/ホエイプロテイン、アスコルビン酸テトラヘキシルデシル、EDTAテトラナトリウム、トコフェリル酢酸、トコフェロール、アロエ・バルバデンシス葉汁及びトリ酢酸パンテニルを含む追加成分の内の一つ又は組み合わせを含み得る。
【0090】
(実施例2)局所用組成物の抗酸化能力
(12)の酸化ストレス還元剤を含む試験抗酸化クリーム(「試験クリーム」)の局所適用を、中年の女性ドナーのヒト皮膚外植片に、一日1回7日間行った。試験クリームに含まれる(12)の酸化ストレス還元剤は、(5)のブラシカ属植物エキス、すなわち、ブラシカ・ユンセア、ブラシカ・オレラセア・アセファラ、ブラシカ・オレラセア・ボトリティス、ブラシカ・オレラセア・カピタータ及びブラシカ・オレラケア・イタリカと、ワサビア・ジャポニカと、テトラヒドロクルクミノイドと、クロテトラヒドロピペリンと、 カメリア・オレイフェラ葉エキスと、 プランターゴ・ランセオラータ葉エキスと、 バコパ・モンニエリエキスと、シリブム・マリアナムエキスとを含む。同様に、これら(12)の酸化ストレス還元剤を除く、試験クリームと同じ基礎成分を有するベースクリームで、同じドナーの皮膚外植片を同じ条件下で処理した。試験クリーム又はベースクリームで処理していないコントロール外植片も用意した。
遺伝子発現結果
【0091】
アジレント・テクノロジー(Agilent technology)のマイクロアレイを用いて、遺伝子発現プロフィールの実験を行った。これは、国立生物工学情報センター(NCBI:National Center for Biotechnology Information)リファレンス配列から得られた、コントロールのない62,976を超えるプローブを標的とする。これらのマイクロアレイは、種々の培養時間(3,9,24時間)において、試験クリーム、ベースクリームで一日処理した、又は処理しなかった、ヒト皮膚外植片から抽出した全RNAを使って合成したCy3−cRNAにハイブリダイズさせた。目的は、試験クリーム内の12の酸化ストレス緩和剤及びDNA修復剤の局所適用によって上方又は下方調節された遺伝子を同定することだった。遺伝子は倍率変化(fold change)法によって選択した。調節した遺伝子を正に活性化するには、ベースクリームで処理した試料と試験クリームで処理した試料との間で、倍率変化が少なくとも1.5倍でなくてはならず、負に活性化するためには、コントロール試料と処理したサンプルとの間の倍率変化が0.55未満でなくてはならなかった。
【0092】
Nrf2標的遺伝子の中で、カタラーゼ(CAT)の著しい過剰発現が3時点(3,9,24時間)の全てにおいて見られ、一方で、活性化転写因子3(ATF3)及びペルオキシレドキシン3(PRDX3)の僅かなアップレギュレーションが9時間の時点で見られた。
【0093】
カタラーゼ(CAT)は酸化ストレスに対する生体防御において鍵となる抗酸化酵素である。CATはほぼ全ての好気性細胞のペルオキシソームに存在するヘム酵素である。カタラーゼは活性酸素種過酸化水素を水と酸素に変換して、過酸化水素の毒作用を緩和させる。特に皮膚における広範囲な細胞型において、CATは過酸化水素の除去及び解毒によって、ゲノムの完全性及びROS(活性酸素種)恒常性の維持に貢献する。
【0094】
次に、下記の基準に従って、試験クリームに応答する発現の著しかった遺伝子の選択を行った。
【0095】
(アジレント基準による)背景以下の強度値を、試験クリームで処理した全ての条件で取り除いた。
【0096】
試験クリームで処理した条件の強度値対ベースクリームで処理した条件の強度値から比率を推定した。これらの比率を全ての組み合わせ(各時点に関する3通りの試験とコントロール条件)に関して計算した。これらの比率を全ての組み合わせについて計算し、各時点に関して9つの比率を導き出した。
【0097】
1.25以上の倍率変化を示す遺伝子の中で、少なくとも一つの時点(3,9又は24)において、9つの比率の内の少なくとも7つで1.45以上の倍率変化を示すものを、PredictSearch(登録商標)解析に提出する対象とした。このような基準によって282の注釈付き遺伝子を選択した。
【0098】
このセットの遺伝子内の上位10のアップレギュレーション遺伝子の中で、PredictSearchを使ってCATで共引用したものの解析を行った。5つの遺伝子が生成物に応答して大きく誘導されたることがわかった。これらはアルファベット順に、ABL2/ARG(c−ablがん遺伝子2、非受容体型チロシンキナーゼ)、GHR(成長ホルモン受容体)、IMMT(ミトコンドリア内膜タンパク質)、PIK3CA(ホスファチジルイノシトール−4,5−ビスリン酸3−キナーゼ触媒サブユニットα)及びRALBP1(ralA結合タンパク質11)である。ABL2/ARGはCATとの直接機能リンクを示すと信じられている。
【0099】
選択した遺伝子をPredictSearch解析に提出して、これらの遺伝子が関連する機能ネットワーク内でインテグレートするか否かを決定した。PredictSearchは、数百万の科学出版物を通して、遺伝子と生物学的過程又は疾患との間の相関関係を調査、検索する強力なデータ及びテキストマイニングソフトウェアである。フィッシャー検定に基づく機能的相関関係により、遺伝子、生物学的過程及び概念、代謝産物、疾患と組織/細胞/器官との関係を定めるための注釈付きキーワードの統計的な共引用解析が可能となる。
【0100】
確かに最近の研究では、CAT活性が、c−Abl(c−ablがん遺伝子1タンパク質)に非常に類似した非受容体型チロシンタンパク質キナーゼのアベルソンファミリーのメンバーであるABL2/ARGにより、刺激されることがわかっている。CAT活性の刺激に加え、c−Abl及びABL2/ARGは酸化ストレスに応答してCATの分解を促進させることが実証されている。更に、H
2O
2は、c−Abl及びABL2/ARGのCATへの結合に作用して促進させる。相互作用の機能的重要性は、c−Abl及びABL2/ARGの両方において、細胞の欠乏がH
2O
2レベルの著しい上昇を示すことを実証することによって支持された。更に、c−abl−/−ABL2/ARG−/−細胞は、どちらか片方のキナーゼが不在している場合と比較して、H
2O
2‐誘導アポトーシスの著しい増加を呈した。これらの発見は、c−Abl及びABL2/ARGがカタラーゼを調節し、このシグナル経路が酸化ストレスに応答したアポトーシスにとって重要であることを示している。
【0101】
ABL2/ARGは、細胞骨格再構成において、C−末端F−アクチン及び微小管結合配列を通してその役割を果たす。UV−A及びUV−Bに応答する通常ヒト表皮角化細胞(NHEK:normal human epidermal keratinocytes)におけるタンパク質チロシンキナーゼ(PTK:protein tyrosine kinase)の発現プロフィールを調べると、ABL2/ARGは最も罹患率の高いPTK(全PTKの30%)であることがわかった。UV−Aは更にABL2/ARG発現を導き、照射後17時間でmRNA基準発現の9倍に達した。UV−Bの後に最初の下方調節を行ない、次にABL2/ARGmRNAを増加させたところ、24時間後に基準レベルの5倍に達した。これらの調査によれば、ABL2/ARGは角化細胞のUVへの応答において主要な役割を持っている可能性があるということがわかった。
【0102】
一方で、ABL2/ARGはプロアポトーシスSiva−1タンパク質と関係していると信じられている。ABL2/ARG−Siva−1相互作用の機能的重要性は、ABL2/ARGが酸化ストレスによっても活性化されること、及びこの応答には、ABL2/ARGによるSiva−1のTyr(48)へのリン酸化が含まれるという発見によって支持される。Siva−1のプロアポトーシス効果はABL2/ARGを発現させる細胞の安定性において強調され、ABL2/ARG欠乏細胞では抑制される。Siva−1のこれらのプロアポトーシス効果は、Tyr(48)部位の変異によって抑止され、酸化ストレスへのアポトーシス応答はABL2/ARG欠乏細胞内で弱まり、欠陥はABL2/ARGの発現を再構成することによって修正される。これらの発見は、ABL2/ARGの酸化ストレスによる活性化がSiva−1依存メカニズムによってアポトーシスを引き起こすモデルを支持する。
【0103】
ABL2/ARGと相互作用すると信じられているもう一つの因子は、RAD51である。RAD51は二本鎖DNA切断(DSB:double strand breaks)の修復において重要な役割を演じる。電離放射(IR:ionizing radiation)誘導RAD51フォーカス形成は、標的破壊によって培養B細胞株から生成されたABL2/ARG欠乏細胞内で減少すると報告されている。これはABL2/ARG欠乏細胞がIRに対する過敏さを示し、IR誘導染色体異常の頻度を上げ、目標とするインテグレーション頻度を減少させるという発見と一致する。DNAの損傷修復におけるこれらの異常は全て、毛細血管拡張性小脳失調症変異遺伝子(ATM:ataxia telangiectasia mutated)における不完全細胞にも見られる。ATMは、DNADSB修復に含まれるタンパク質であり、RAD51と相互作用し、リン酸化することで知られている。DNAの損傷に応答して、ABL2/ARGはRAD51のリン酸化によって相同組換え(HR:homologous recombination)DNAの修復を促す。
【0104】
これらの発見は、生成物がUV又は酸化ストレスの効果を模倣し、結果的にこれらのストレスに対して皮膚本来の防御(すなわち、角化細胞、線維芽細胞など)を促すことを示している。保護効果は、CATと相互作用して酸化欠陥を減少させる、又はRAD51と相互作用してDNA修復プロセスを促すABL2/ARGに依存し得る。
【0105】
生成物によってトリガされるこのような作用は、BCLAF1,BRCC3,GHR,IMMT,SENP7,SMC1Aなどのアップレギュレーション遺伝子によってコード化されたいくつかのタンパク質のDNA DSB修復/ゲノム安定性において果たす役割によって支持される。
【0106】
BCLAF1,BCL2関連転写因子1は、タンパク質のBCL2ファミリーのいくつかのメンバーと相互作用する転写リプレッサーをコード化する。このタンパク質の過剰発現はアポトーシスを誘導し、これはBCL2タンパク質の共発現によって抑制することができる。BCLAF1は、高用量照射においてのみ、二本鎖DNA切断に対する細胞応答において鍵となる役割を持つ、ヒストンH2A変異体であるH2AXのリン酸化体、γH2AXとの関連を高めたことを示す。激しく照射された細胞において、BCLAF1は、カスパーゼ/サイクリンE依存、ミトコンドリア媒体経路のp21媒体抑制を阻害することによって、回復不能細胞のアポトーシスを促進させる。一方で、BCLAF1により、生き残った細胞内の非相同末端結合(NHEJ)ベースのDNA DSB修復が容易になる。
【0107】
SENP7(Sumol/セントリン特異的ペプチターゼ7)は、相同組換え修復及びDNA損傷剤に対する細胞抵抗性のため、DNA損傷に応じたクロマチンの緩和に必要であると信じられている。SENP7は、タンパク質翻訳後の可逆的な修飾であるSUMO化に関わるSUMO1として、SUMO前駆体を処理する。小さなユビキチン様SUMOタンパク質の添加によるSUMO化は、多くの細胞過程に必要であり、SUMO結合は、哺乳類の細胞における二本鎖DNA切断に応答して生じるものとして知られている。
【0108】
構造維持染色体1AであるSMC1Aは、姉妹染色分体の接着に必要なコヒーシン多タンパク質複合体の一部である。姉妹染色分体の適切なコヒーシンは、細胞分裂中の染色体の適切な分離において、必須条件である。この複合体の一部は、2つの染色体構造維持(SMC:structural maintenance of chromosomes)タンパク質、SMC3及びSMC1B又はSMC1Aのいずれかで構成される。DNAの損傷後、コヒーシンは蓄積され、DNA DSBの修復が促される。
【0109】
ここ数年の研究で、DNA DSBはコヒーシンの損傷部位への動員を誘導し、その部位でのコヒーシンの新規の構成を生じさせることがわかっている。哺乳類細胞では、タンパク質キナーゼATMによるコヒーシンサブユニットSMC1Aのリン酸化がDNAの修復に重要であることがわかっている。SMC1Aタンパク質は、ATMキナーゼの特に重要な標的であり、損傷後のDNA複製フォーク及びDNA修復の制御において重要な役割を持っているようである。
【0110】
更に、SMC1Aは機能的動原体の重要な部分であると考えられており、BRCC3と結合することのできるBRCA1と相互作用する。後者により、BRCA1のDNA DBS部位への蓄積が可能となる。
【0111】
NBS1及びBRCA1タンパク質の主な役割は、活性化ATMキナーゼ分子をDNA切断部位に動員して、ATMがSMC1Aをリン酸化できるようにすることであるようだ。NBS1のATMによるリン酸化は、SMC1Aのリン酸化に必要であり、NBS1の、ATM/NBS1/SMC1A経路における接着体としての役割を確立させる。確かに、NBS1はDSBへの細胞応答を調整する中心的な役割を果たすMre11/RAD503/NBS1複合体の一部である。この複合体内において、ATMによってリン酸化されたRAD503は、特定のATM依存の下流シグナル伝達の接着体として鍵となる調節の役割を演じることがわかっている。
【0112】
更に、SMC1Aサブユニットのリン酸化は、DNA損傷によって誘導された細胞周期チェックポイントの調節に貢献する。SMC1A及びSMC3のATM依存のリン酸化は、 H2AX,53BP1及びMDC1によって媒介され、SMC1Aのリン酸化は、G2相細胞におけるDNA損傷後に増加した可動性にとって必要であり、ATM依存リン酸化によってDNA損傷後のコヒーシン複合体の可動が容易になることを示唆している。
【0113】
BRCC3/BRCC36,BRCA1/BRCA2含有複合体であるサブユニット3は、E3ユビキチンリガーゼであるBRCA1−BRCA2含有複合体(BRCC)のサブユニットをコード化する。この複合体はDNA損傷応答において役割を果たし、その際、DNA切断部位においてBRCA1を安定して蓄積できるようにする。この遺伝子によってコード化された成分は、特にLys63結合型ポリユビキチン鎖を開裂することができ、クロマチンにおけるこれらのポリユビキチン鎖の存在量を調節する。クロマチンに隣接するDNA DSB上のRNF8−Ubc13依存ユビキチン化事象を逆転させるために必要な脱ユビキチン化酵素複合体として、RAP80−BRCC3/BRCC36を含む経路が同定されている。
【0114】
成長ホルモン受容体であるGHRは、成長ホルモンの膜貫通受容体であるI型サイトカイン受容体ファミリーのメンバーをコード化する。成長ホルモンの受容体への結合は、受容体の二量化並びに細胞間及び細胞内のシグナル変換経路の活性化をもたらし、成長をもたらす。放射線照射及び成長ホルモンによって誘導されるブレオマイシン治療に応じる生存の増加は、細胞の損傷DNA修復能力の向上と関連性があると説明されている。老齢動物のように、IGF−1受容体及びGHRの発現が減衰し、IGF−1に対する細胞抵抗性がもたらされる。
【0115】
生物の生涯にわたる確率的(stochastic)DNA損傷の蓄積は、老化に寄与すると考えられる。逆に、老化は表現型的に再生可能であり、体成長軸の中心的な媒介物である、インスリン様成長因子−1(IGF−1)及び成長ホルモン(GH)受容体などの遺伝子経路によって調節されるようである。マウスの初代細胞で持続するDNAの損傷により、自然に老化した動物の種々の器官で発生するものと類似した、グローバル遺伝子発現が生じると報告されている。
【0116】
ミトコンドリア/ミトフィリン内膜タンパク質であるIMMT(inner membrane protein, mitochondrial/mitofilin)は、細胞生理学及び病理学において、DNA安定性の維持から転写の調節まで数多くの機能を実行する、主に核の酵素である、ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼー1(PARP−1)と相互作用する。IMMTはPARP−1ミトコンドリアの局在化を促進し、これに必要とされる。酵素のミトコンドリア局在化を抑止するPARP−1又はミトフィリンのいずれかの枯渇は、mtDNA損傷(19762472)の蓄積をもたらす。
【0117】
この時点において、結果により、試験クリームが、UV又は酸化ストレスなどのストレスによってトリガされるものと類似した効果を模倣していることが確認された。しかしながら、上位10の調節遺伝子に基づき、主な効果は、DNA損傷、特にSENP7及びSUMO1によって説明した様な、二本鎖DNA切断に対する細胞固有の保護応答に関係するものと思われる。上流シグナル伝達は、ABL2/ARG及びRAD503に関わるATM又はATM様活性化に依存するようである。興味深いことに、ABL2/ARGに非常に類似しているc−ABL及びATMは、どちらもこれらの効果をトリガするためにPKCを必要とするが、DNA損傷及び酸化ストレスへの細胞応答に別々に関係づけられる。これらの経路は、ATM/NBS1依存S相チェックポイント経路においてエフェクターとして機能するDNA損傷応答ネットワークの成分であるSMC1Aを標的とする、強いDNA修復応答の活性化をもたらす。例えば、c−ABL及びATMの欠乏により、細胞死及びNRF2への明確な影響を介して、酸化ストレスへの細胞応答が特異的に変化した。
【0118】
高度にアップレギュレーションされた第2ランク遺伝子の中で、WD反復ドメイン3であるWDR3のみがDNA修復に関係すると信じられている。
【0119】
DNA損傷応答は、チェックポイントの活性化及び損傷したDNA修復の調整によるゲノム完全性の維持及びがんの防止に極めて重要である。DNA損傷応答の中心となるのは上述の2つのチェックポイントキナーゼATM及び広範囲の基質をリン酸化するATRである。先ず、RINGフィンガー及びWD反復ドメイン3(RFWD3)を、プロテオミックスクリーンからATM/ATRの基質として同定した。続く研究で、RFWD3は、DNA損傷に応答してp53をインビトロでユビキチン化し、p53レベルを正に調節するE4ユビキチンリガーゼであることがわかった。RFWD3は、DNAの複製、組換え及び修復において重要な役割を果たす一本鎖DNA結合タンパク質である複製タンパク質 A(RPA)と結合する。RPAの、DNAの損傷及び修復によって生成される一本鎖DNA(ssDNA)への結合は、DNA修復因子の損傷部位への動員及びチェックポイントシグナル伝達の活性化にとって重要である。RFWD3はRPAと物理的に結合し、RPAに依存してDNA損傷部位に局在化する。更に、RPA及びRFWD3のDNA損傷誘導リン酸化は相互に依存する。従って、RFWD3の喪失は、DNA損傷マーカーγH2AX及び修復タンパク質Rad51の損傷細胞における残留位点をもたらす。これらの発見は、RFWD3がDNA損傷部位に動員され、RPA媒介DNA損傷シグナル伝達及び修復を容易にすることを示唆している。
【0120】
本発明者らの研究において、RFWD3の調節は見られなかったが、関連メンバー、WDR3,WD反復ドメイン3のアップレギュレーションが検出された。WDR3は、10WD反復ドメインを含む核タンパク質をコード化する。WD反復ドメインは、大抵、C末端にtrp−aspを含むいくつかの保存残基を含む、およそ30〜40のアミノ酸ドメインである。WD反復ドメインファミリーに属するタンパク質は、細胞周期の進行、シグナル伝達、アポトーシス及び遺伝子調節を含む種々の細胞過程に関わる。
【0121】
インスリン様成長因子−I(IGF−I)シグナル伝達は、細胞の成長と強く関連し、リボゾーム生合成の第1の、そして主要な段階である、rRNA前駆体の合成速度を調節する。IGF−Iは形質転換細胞においてWDR3の発現を誘導する。WDR3は、40Sリボゾームサブユニットの合成、及びガン細胞における細胞周期の進行のp53媒介調節へのリボゾームのストレスシグナル伝達において重要な機能を有している。
【0122】
上位10のアップレギュレーション遺伝子に存在するその他の2つの遺伝子は、酸化ストレスに関係している。PIK3CA(ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ)は、酸化ストレスへの応答に関わり、NRF2カスケード応答の上流で作用することが知られている。PIK3CAは、85kDa調節サブユニット及び110kDa触媒サブユニットで構成される。PIK3CAによってコード化されたタンパク質は、ATPを使ってPtdIns,PtdIns4P及びPtdIns(4,5)P2をリン酸化する触媒サブユニットを表している。PIK3CAは発がん性のあることがわかっており、子宮頸がんに関係している。
【0123】
赤血球系転写因子2関連転写因子2(Nrf2)は、多数の細胞保護遺伝子の発現を調節する酸化還元感受性の転写因子である。抗がん剤であるアピゲニンは、PIK3CA/Akt経路の下方調節により、伝令RNAとタンパク質レベルとの両方においてNrf2の発現を大幅に減少させ、Nrf2下流遺伝子の減少をもたらす。
【0124】
ROS及び求電子媒体傷害に対抗するために、細胞は、第2相解毒酵素及び抗酸化タンパク質をコード化する多くの遺伝子を誘導することができる。抗酸化応答エレメント(ARE)又は求電子応答エレメント(EpRE:electrophile response element)と指定されるシス活性転写調節エレメントは、ヘムオキシゲナーゼ−1、γ―グルタミルシステイン合成酵素、チオレドキシンレダクターゼ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ及びNAD(P)H:キノンオキシドレダクターゼなどの遺伝子の転写活性を媒介する。その他の、スーパーオキシドディスムターゼ及びカタラーゼなどの抗酸化酵素、並びにグルタチオンなどの非酵素的捕捉剤も、ROSの捕捉に関係する。Nrf2はARE媒介による抗酸化遺伝子発現において重要な役割を果たす。ケルヒ様ECH結合タンパク質1(Keap1)は、通常、アクチン細胞骨格と関係して細胞質内のNrf2を捕捉するが、システイン残基の酸化時に、Nrf2はKeap1から解離され、細胞核へと移行してARE配列に結合し、抗酸化及び第2相解毒遺伝子の転写活性化をもたらす。タンパク質キナーゼC(PKC)、マイトジェン活性タンパク質キナーゼ(MAPK)及びPIK3CAは、Nrf2/AREシグナル伝達、及び長く続く酸化ストレスに対するその保護活性化の調節に関与してきた。
【0125】
RALBP1/RLIP76(ralA1結合タンパク質1)は、受容体媒介エンドサイトーシスにおいて役割を果たし、小さなGTP結合タンパク質RALの下流エフェクターである。RALなどの小さなGタンパク質は、GDP結合不活性型及びGDP結合活性型形態を有し、これはRALGDSの作用によって不活性から活性状態へとシフトし、RASによって活性化される。RALBP1は、重要な解毒メカニズムの一部である還元グルタチオン(GSH)抱合体を細胞から抽出する際に触媒作用を及ぼす、細胞表面タンパク質である。更に、RALBP1は、その喪失がエネルギー生成の低下を含むミトコンドリア機能不全に関わるミトコンドリア分裂に関係している(ミトコンドリアの姉妹細胞への適切な分配を確実にする)ことがわかった。
【0126】
選択した基準による、全ての時点における処理時の82の誘導遺伝子の中の、残りの61の遺伝子の中で、「DNA修復」及び/又は「酸化ストレス」で共引用された遺伝子を解析した。
【0127】
CCNG2(サイクリンG2)は、成長の抑制に関連する非通常のサイクリン相同体であるサイクリンG2(CycG2)をコード化する。その発現はマイトジェンによって抑圧されるが、抗増殖性シグナルへの細胞周期応答の停止中にアップレギュレーションされる。CCNG2の過剰発現は、HCT116細胞におけるp53依存G(1)/S相細胞周期停止を誘導し、この応答停止はDDRチェックポイントタンパク質キナーゼChk2を必要とする。この発見と一致して、CCNG2発現はスレオニン68上におけるChk2のリン酸化を増やす。更に、二本鎖DNA切断誘導化学療法剤はCCNG2の発現を刺激し、そのアップレギュレーションを、チェックポイント誘導細胞周期停止及び毛細血管拡張性運動失調(ATM:ataxia telangiectasia mutated)、並びにRad3−関連(ATR)シグナル伝達経路におけるタンパク質のリン酸修飾と相互に関連付ける。
【0128】
CENPC1(セントロメアタンパク質C1)は、セントロメア自己抗原及び内部内動原体プレートの成分である。このタンパク質は適切な動原体サイズの維持及び後期へのタイムリーな推移に必要とされる。
【0129】
PIK3CA/AKT経路を不活性化する脂質リン酸をコード化するPTEN内の広域な変異スペクトラムは、原発腫瘍と関係していることがわかった。染色体完全性の制御におけるPTENの核機能が報告されている。PTENの分裂は広範囲に及ぶセントロメアの切断及び染色体の転座をもたらす。PTENはセントロメアに局在して見られ、CENPC1と物理的に結合する。PTENはクロマチンに作用し、RAD51の発現を調節し、自発的DSBの発生を減少させる。これらの結果は、PTENがセントロメアとの物理的相互作用による染色体安定性の維持及びDNA修復の制御において、基本的な役割を果たすことを実証している。PTENをゲノムの完全性を保護するものとして作用させることが提案されている。
【0130】
DHX40/PAD/DDX40は、pre−mRNAスプライシング、リボゾーム生合成など、RNA代謝において重要な役割を持つATP依存RNAヘリカーゼのDExH/Dボックスファミリーのメンバーをコード化する。これは、DEAH(Asp−Glu−Ala−His)配列モチーフ及びその他の保存モチーフを含む。このファミリーの近いメンバーであるDEAHボックスポリペプチド30アイソフォーム1は、DNAの修復に関わるPARP、すなわちポリ(ADP‐リボース)ポリメラーゼ1と共に、放射線照射後、H2AXと一時的に相互作用することがわかった。
【0131】
NAMPT(ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ)は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの生合成における一つのステップである、ニコチンアミドモノヌクレオチドを生成する、ニコチンアミドの5−ホスホリボシル−1−ピロホスファートとの凝縮に触媒作用を及ぼすタンパク質をコード化する。このタンパク質はニコチン酸リボースリン酸転移酵素(NAPRTase)ファミリーに属し、代謝、ストレス応答及び老化を含む多くの重要な生物学的過程に関わると考えられている。
【0132】
DNA DSBはDNA損傷の最も重度な形態であり、主に忠実度の高い相同組換え(HR:homologous recombination)又は誤りがちな非相同末端結合(NHEJ:error-prone non-homologous end joining)によって修復される。DNA損傷応答の欠陥はゲノムの不安定化をもたらし、最終的には器官ががんになりやすくする。NAMPTは、HR及びNHEJのそれぞれにおいて鍵となる因子である、CtIP及びDNA−PKcs/Ku80と物理的に結合する。小さな干渉RNA(siRNA)によるNAMPTの枯渇により、不完全なNHEJ媒介によるDSB修復がもたらされ、HR媒介による修復が増進される。従って、NAMPTはHR媒介によるDSB修復のサプレッサーであり、そしてNHEJ媒介によるDSB修復のエンハンサーであり、細胞老化の加速に貢献することが示唆されている。
【0133】
NCOR1(核受容体コリプレッサー1)は、クロマチ凝縮を促進させ、転写装置のアクセスを防ぐことによって、甲状腺ホルモン及びレチノイン酸受容体の非リガンド依存の転写抑制を媒介するタンパク質をコード化する。これは複合体の一部であり、Hdac3などのヒストンデアセチラーゼ及びイーストタンパク質Sin3pに類似した転写制御因子も含んでいる。
【0134】
Hdac3は、効率的なDNA複製及びDNA損傷の制御に必須である。Hdac3の欠失によってDNA修復が損なわれ、クロマチンの凝縮及びヘテロクロマチンの含有量が大幅に減少する。これらの欠陥は、細胞周期の後期S相におけるヒストンH3K9,K14ac,H4K5ac及びH4K12acの増加に対応する。HDAC3の発現がごく一部のヒト肝臓がんで下方調節されたのに対し、HDAC3共同因子NCOR1のmRNAレベルはこれらのケースの3分の1に減少した。NCOR1及びSMRT(NCOR2)のsiRNA標的はH4K5acを増やし、DNA損傷を生じさせ、HDAC3/NCOR/SMRT軸がクロマチン構造とゲノム安定性を維持する上で重要であることを示している。
【0135】
細胞老化は変異細胞の広がりを抑える鍵となる戦略の中の一つである。老化は遺伝毒性及び酸化ストレスに応答して誘導される。酸化ストレス誘導遺伝子を抑制する転写因子Bach1(BTB及びCNCの相同性1、塩基性ロイシンジッパー転写因子1)は、酸化ストレス誘導細胞老化の重要な負調節因子であることがわかっている。Bach1欠損マウス胎芽線維芽細胞は、酸化ストレスに応答する、コントロールの野生型細胞よりも早くて重度のp53依存早期老化を被る傾向にあることが示された。Bach1は、p53、ヒストンデアセチラーゼ1及びNCOR1を含む複合体を形成した。Bach1は、p53標的遺伝子のサブセットに組み込まれ、ヒストンの脱アセチル化を促進させることによってp53の作用を遅らせた。Bach1は酸化ストレス及びヘムによって調節されるので、Bach1は、酸素代謝及び細胞老化をp53の負調節因子として結び付ける(connect)可能性がある。
【0136】
尚、上述の遺伝子とは対照的に、HNRNPA2B1は、その機能がDNAの修復を阻止するように作用するタンパク質をコード化する。
【0137】
HNRNPA2B1は、普遍的に発現したヘテロ核リボヌクレオタンパク質(hnRNP)のA/Bサブファミリーに属する。hnRNPはRNA結合タンパク質であり、これらはヘテロ核RNA(hnRNA)と複合体を形成する。これらのタンパク質は核内でpre−mRNAsと結合し、pre−mRNA過程並びにmRNAの代謝及び輸送のその他の態様に影響を与えるようである。hnRNPは全て核内に存在するが、核と細胞質との間を行き来するようだ。
【0138】
DNA DSBのゲノムワイドマッピングによれば、DSBホットスポットは染色体に沿って散在し、保護された50−250kbのDNAドメインを画定していることが明らかとなった。ドメイン(フォーラムメイン)の約30%は協調的に発現した遺伝子を持ち、PARP1及びHNRNPA2B1はフォーラムドメインの末端において、DNA配列に特異的に結合していることがわかった。
【0139】
乳ガン感受性遺伝子1(BRCA1)の不活性化は、家族性乳ガン及び卵巣ガンのサブセットの発生において重要な役割を果たすが、散在性腫瘍における役割を示す証拠が増えている。BRCA1は、DNA修復、細胞周期、転写及びクロマチンリモデリングを含む、多くの核細胞過程の調節に関わる多機能核タンパク質である。BRCA1ネットワークに参加するタンパク質の同定によって、BRCA1喪失に応じてその発現が増加するHNRNPA2B1及びKHSRPの発見につながる。更に、HNRNPA2B1用siRNAで処理されたHNRNPA2B1の減少により、DNAの修復が一層早くなる。これらの結果を考慮すると、発がん現象の早い段階で発生するHNRNPA2B1の過剰発現によってDNA−PK活性化が抑制され、その結果、二本鎖DNA切断の誤った再結合が蓄積され、腫瘍が進行することとなる。
【0140】
これらの遺伝子によれば、DNA修復応答は、明らかとなった重要な過程である。予想通り、この応答は成長停止をもたらすシグナル並びに増殖及び老化を調節する因子と関連している。これらの活動は全てPTPN11,SMARCE1,SRRT,SUMO1及びTNFSF10遺伝子によって確認された。
【0141】
これらの遺伝子の中で、TNFSF10/TRAIL誘導はp53依存DNAの損傷応答における細胞死に貢献する。この遺伝子の発現は、最初に生成物がDNA損傷応答を誘導する信号を出し(initiates)、それによってROS生成物が生成され、酸化ストレスがもたらされることを示唆している。これに付随して、DNA修復及び抗酸化活性を含む保護応答が刺激される。
【0142】
以下に説明する遺伝子の持続的なアップレギュレーションにより、この処理によって強い二本鎖DNA切断応答及び抗酸化作用が生じるが、これらはDNA損傷シグナルによってROSの生成へと導かれることが確認された。尚、3,9及び24時間でアップレギュレーションされた残りの遺伝子は、「DNA修復」及び/又は「酸化ストレス」及び共有機能に関連付けられなかった。
【0143】
従って、3時間でアップレギュレーションされた遺伝子を同定することにより、この応答がどのようにして開始されるかを調べることが重要だった。
【0144】
このように、3時間のみで、全てのコンバインド・レシオ(combined ratio)におけるその調整が1.45以上の倍率変化を示す遺伝子のフィルタリングに基づき、より極端な選択を適用した。
【0145】
これらの基準に従って選択した65の遺伝子の中で、RAD50,SMC6,TDG,THOC2,UPF2及びUSP47の6つの遺伝子を「DNA修復」で有意に共引用し、この過程が処理への応答において早い段階で発生することを再度支持した。
【0146】
特に9及び24時間の処理に応答してアップレギュレーションされた遺伝子の中で、コハク酸デヒドロゲナーゼ複合体サブユニットD(SDHD:succinate dehydrogenase complex, subunit D、内在性膜タンパク質)及び転写因子Aミトコンドリア(TFAM:transcription factor A, mitchondrial)の誘導が観察された。これらの遺伝子は、ミトコンドリアDNA修復及びミトコンドリア生合成に関わるタンパク質をコード化する。
【0147】
SDHCは、コハク酸エステルの酸化を行う呼吸鎖の複合体IIのメンバーをコード化する。コード化されたタンパク質は、複合体をミトコンドリア内膜のマトリクス側に固定する2つの内在性膜タンパク質の中の一つである。3時間で観察されたSDHCの発現は、GABPA(GA結合タンパク質転写因子、αサブユニット60kDa)によって正調節を行った。
【0148】
GABPAは、DNA結合サブユニットとして機能する3つのGA結合タンパク質転写因子サブユニットの中の一つをコード化する。このサブユニットは核呼吸因子2遺伝子をコード化するサブユニットとアイデンティティを共有するので、シトクロム酸化酵素発現の活性化及びミトコンドリア機能の核制御に関わる可能性がある。
【0149】
SDHCと同様に、9及び24時間で観察されたTFAMの発現は、GABPA又はPPARGC1A/PGC−1(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ、コアクチベーター1α)によって誘導することができる。
【0150】
TFAMは、2つの高移動度群モチーフを含む、鍵となるミトコンドリア転写因子をコード化する。また、TFAMは、ミトコンドリアDNAの複製及び修復において機能する。更に、TFAMは、AMPKAのATM依存リン酸化によって活性化させることができる。ATMは、細胞内のAMP/ATP比率を感知し、上流キナーゼによって活性化させることのできる、AMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK:AMP-activated protein kinase)のαサブユニットをリン酸化すると報告されている。確かに、二本鎖DNA切断(DSB)を感知すると、ATMは自動リン酸化によって活性化され、DNA修復、細胞周期の調節及びアポトーシスの多くの基質をリン酸化する。(DSB)のようなDNA損傷は、ミトコンドリア生合成を刺激すると言われている。このレポートのIに記載した様に、DSBの応答における主要プレーヤーは毛細血管拡張性小脳失調症変異遺伝子(ATM)である。
【0151】
尚、ミトコンドリアは自身のゲノムを持ち、これは、細胞内のATP生成の大部分に必要とされる適切な酸化的リン酸化にとって必須である。ミトコンドリアDNA(mtDNA)は酸化ストレスの影響をかなり受けやすく、mtDNA損傷はミトコンドリアの機能不全をもたらす。
【0152】
同様に、MRE11Aの誘導は、9及び24時間で観察された。減数分裂組換え11相同体A(MRE11A:meiotic recombination 11 homolog A)は、ATMの二本鎖切断センサーとして作用し、切断されたDNA分子へATMを動員するRAD50/NBS1と複合体を形成する。不活性ATM二量体は、この複合体の存在下でDNAとインビトロで活性化し、下流細胞標的p53及びChk2のリン酸化をもたらす。MRE11Aは相同組換え、二本鎖DNA切断の修復及びテロメア長の維持に関わる核タンパク質をコード化する。
【0153】
BRD3(ブロモドメイン含有3)も9及び24時間で誘導された。これは、RING3タンパク質であるセリン/スレオニンキナーゼをコード化する遺伝子への、その相同性に基づいて同定された。ブロモメインタンパク質Brd2及びBRD3(後者は9及び24時間で誘導)は、転写遺伝子の全長に沿って過剰アセチル化したクロマチンと、インビボで結合することが好ましい。Brd2及びBRD3結合クロマチンは、アセチル化H4K5,H4K12及びH3K14が非常に豊富で、ジメチル化H3K9を比較的少ない量で含んでいる。Brd2及びBRD3はどちらも、定められた転写系においてRNAポリメラーゼIIがヌクレーソームによって転写されるようにする。
【0154】
このネットワークと関連して、SMARCA2/BRM1(クロマチンのSWI/SNF関連、マトリクス結合、アクチン依存性調節遺伝子、サブファミリーa、メンバー2)によってコード化されたクロマチンの別の調節遺伝子は、9及び24時間において、処理に応じて誘導された。このファミリーのメンバーはヘリカーゼ及びATPase活性を有し、これらの遺伝子の周囲のクロマチン構造を変化させることによって特定の遺伝子の転写を調節すると考えられている。コード化されたタンパク質は、通常クロマチンによって抑制される転写活性化に必要とされる、大きなATP依存クロマチンリモデリング複合体SNF/SWIの一部である。また、生存細胞は、この複合体の不活性化によって減少する。
【0155】
サイクリンD結合myb様転写因子1(DMTF:cyclin D binding myb-like transcription factor 1)は、9及び24時間で誘導された。これはN及びCの末端に1つのサイクリンD結合ドメイン、3つの中心Myb様反復、及び2つの隣接する酸性トランス活性化ドメインを含む転写因子である。DMTFは発がん性Rasシグナル伝達経路によって誘導され、ARF及びARFp53経路の転写を活性化することによって腫瘍サプレッサーとして機能し、細胞の成長を停止させる、又はアポトーシスを誘導する。DMTF1及びp53は、p53のカルボキシル末端及びDMTF1のDNA結合ドメインを介して、哺乳類細胞内で直接相互作用することがわかった。DMTF1の発現は、Mdm2によってp53のユビキチン化を弱め、p53の核局在化を促進させる。DMTF1−p53結合は、DMTF1のDNA結合活性とは関係なく、p53のレベルを著しく高める。
【0156】
腫瘍サプレッサータンパク質p53の活性化は、種々のストレス刺激及びMyc,Ras,E2F及びβカテニンなどの成長促進タンパク質の不適切な活性に対する重要な細胞応答である。タンパク質の安定化及びp53の転写活性は、タンパク質−タンパク質相互作用及びアセチル化を含む翻訳後修飾によって調整される。
【0157】
試験クリームによる処理後、9及び24時間で誘導されたもう一つの遺伝子であるPTMA(プロサイモシンα)は、p53応答レポーター遺伝子の転写を刺激することができる。その結果、RNA干渉手法による内因性PTMAの下方調節は、レポーター遺伝子アッセイにおいてp53腫瘍サプレッサーの転写活性を抑制する。PTMAは複数の生体機能を持つ12−kDa酸性タンパク質である。その機能の内の一つは、Keap1タンパク質との相互作用によって細胞の抗酸化防御システムを高める能力である。Keap1は防御タンパク質をコード化する遺伝子の活性化を行う転写因子である、NFE2L2/NRF2のリプレッサーである。NFE2L2/NRF2に結合する一方で、Keap1は核から細胞質へとNFE2L2/NRF2を運び出し、ユビキチンリガーゼの接着体タンパク質として、NRF2のユビキチン化及びその後の26Sプロテアソームによるその分解を促す。PTMA及びNRF2はKeap1との相互作用で競合し、よって、PTMAは、Keap1と共に形成された複合体からNRF2を解放することができ、そのため、NRF2依存転写に貢献する。更に、PTMAは核内のNFE2L2/NRF2レベルを下げるために、Keap1/Cul3−Rbx1の核の運び入れを媒介することにより、NFE2L2/NRF2シグナル伝達経路においてフィードバックの役割を果たし、細胞が通常の状態に戻れるようにする。核内において、PTMAが一旦Keap1/Cul3−Rbx1複合体から解離されると、分解のため、NFE2L2/NRF2は複合体に結合することができるようになる。このようにして、PTMAはNRF2からKeap1を解離する、又はNRF2を分解することによってNRF2活性の厳しい制御をトリガし、保護的活性の正確な恒常性を維持するために必要なNRF2下流遺伝子発現の活性化をスイッチを切る。
【0158】
転写因子NFE2L2/NRF2は、全ての組織において連続的に発現され、器官によってレベルは異なるが、主要な解毒器官(腎臓及び肝臓)では最大レベルを呈する。NFE2L2/NRF2は内因性活性酸素種又は外因性求電子を含む細胞ストレス因子によって更に誘導され得る。NFE2L2/NRF2シグナル伝達経路は、細胞保護作用の複数の道を、薬物及び毒素の代謝、酸化ストレス及び炎症に対する保護において重要な200以上の遺伝子の転写を活性化することにより、また、タンパク質の安定化及びプロテアソームの分解又は自食作用を介した損傷タンパク質の除去において必要不可欠な役割を果たすことによって媒体する。NFE2L2/NRF2は、腫瘍サプレッサータンパク質53(p53)及び核因子kβ(NF−kB)などのその他の重要な細胞調節遺伝子と相互作用し、それらのヘルススパンの保護との相互作用によって、がん及び神経変性を含む多くの老化関連疾患から保護する。
【0159】
p53調節と関連して、ZEB1/DELTAEF1は、角化細胞分化中、p53ファミリーメンバーの転写調節において役割を果たすことがわかった。
【0160】
DNA修復の誘導に合わせて、いくつかの抑制遺伝子は試験クリームの処理に応答して成長の停止に関わり、処理が増殖を抑制するという事実を支持し、DNAの修復を誘導する。これらの抑制遺伝子を下記に挙げる。
【0161】
抑制遺伝子の中で、インスリン様成長因子2(IGF2:insulin-like growth factor 2)は3時間で抑制された。これは、成長及び細胞増殖に関わる、ポリペプチド成長因子のインスリンファミリーのメンバーである。IGF2はKRT19の発現を誘導する。その結果、本発明者らの実験では、KRT19も9時間で抑制された。KRT19は上皮細胞の構造的完全性に関与するケラチン中間径フィラメントタンパク質をコード化し、サイトケラチンとヘアケラチンに細分される。I型サイトケラチンは、複数のヘテロタイプなケラチン鎖に配置される酸性タンパク質より成る。KRT19は、形成中の表皮を包む一時的な浅層である周皮に特異的に発現する。過剰発現すると、IGF2は、細胞の過剰増殖中、マトリクスメタロプロテアーゼ7(MMP7:Matrix Metalloproteinase 7)の誘導と関連付けられる。IGF2、KRT19及びMMP7の抑制は、細胞過剰増殖減少の可能性を支持する。
【0162】
白血病阻止因子(LIF;leukemia inhibitory factor)は、強いチロシンのリン酸化及びG1からS相への細胞周期移行に必要な転写因子であるSTAT3の特異的DNA結合活性を導き、これによって細胞増殖と関連することで知られている。この場合、LIFは3時間で抑制された。
【0163】
同様に、SERTAD3は、短いmRNA半減期を持つ2つの転写変異体を持ち、変異体の内の一つは細胞周期のG1及びS相にわたって密接に調節される。SERTAD3の過剰発現はインビトロで細胞形質転換を、そしてマウスで腫瘍形成を誘導し、一方で、小さな干渉RNA(siRNA)によるSERTAD3の抑制は、細胞成長速度の減少をもたらした。ここで、SERTAD3は9及び24時間で抑制された。
【0164】
S100A3によってコード化されたS100カルシウム結合タンパク質A3は、2EFハンドカルシウム結合モチーフを含有するタンパク質のS100ファミリーのメンバーである。S100A3は広範囲の細胞の細胞質及び/又は核に局在化され、細胞周期の進行及び分化など、多くの細胞過程の調節に関わる。S100A3は24時間で抑制された。
【0165】
S100A3の様に、トリコヒアリン(TCHH:trichohhyalin)は、表皮構造タンパク質及びカルシウム結合タンパク質をコード化し、これらはどちらも染色体遺伝子座1q21に局在化される。遺伝子座1q21は表皮分化複合体と称される遺伝子複合体を構成する。TCHHは24時間で抑制された。
【0166】
最後に、TAGLN遺伝子によってコード化されるトランスゲリンは、線維芽細胞及び平滑筋に見られる形質転換及び形状変化に感受性のあるアクチン架橋/ゲル化タンパク質である。その発現は多くの細胞株内で下方調節され、本発明者らの実験では3時間で下方調節された。この下方調節は、形質転換の開始においては、初期マーカー及び感受性マーカーでもよい。
【0167】
このトランスクリプトーム実験は、試験クリームが酸化ストレス及び更にはDNA損傷に対して皮膚(すなわち、角化細胞、線維芽細胞など)の本来の防御を刺激することを示唆している。重要な上流因子であるABL2/ARGを同定し、これは、これら2つの過程間のリンクであると考えることができる。確かに、保護作用はABL2/ARGのCATと相互作用する能力、酸化欠陥を減少させる能力、並びにRAD51と相互作用してDNAの修復応答を刺激する能力に依存すると信じられている。このDNAの修復応答は、この特定の過程に関連するタンパク質をコード化する多数の遺伝子によって説明してきたように、主に二本鎖DNA切断の修復を目標としている。
【0168】
試験クリームに応答して刺激される上流シグナル伝達は、ABL2/ARG及びRAD50に関わるATM(毛細血管拡張性小脳失調症変異遺伝子)経路の活性化に依存すると信じられている。尚、応答の恒常性を維持するためのNrf2活性の厳しい制御は、プロサイモシンα(PTMA)のアップレギュレーションされた発現によって保証される。更に、抗酸化及びDNA修復応答は成長停止を導くシグナルと関連させて、修復過程が完了する前の不健康な細胞の増殖を回避することができる。
【0169】
タンパク質発現結果
試験クリーム、ベースクリームで7日間処理した、及び処理していない皮膚外植片の断面を、3日目と7日目にカタラーゼ免疫染色に曝した。具体的には、外植片の断面を抗カタラーゼ抗体と反応させてカタラーゼの存在を可視化した。
【0170】
図1は皮膚外植片試料の呈するCAT免疫染色を、37℃、湿気のある、5%CO
2雰囲気下のBEM培地で24時間生存させて維持した、クリームで処理されていない外植片を表すB0;1日2回、3日間ベースクリーム1mgで処理された外植片を表すED3;1日2回、3日間試験クリーム1mgで処理された外植片を表すPJ3;1日2回、7日間ベースクリーム1mgで処理した外植片を示すEJ7;及び1日2回、7日間試験クリーム1mgで処理された外植片を表すPJ7を比較したチャートである。
図1は、皮膚外植片試料の呈するCAT免疫染色に関して、37℃、湿気のある、5%CO
2雰囲気下のBEM培地で24時間生存させて維持した、クリームで処理していない外植片を表すB0、1日2回、3日間ベースクリーム1mgで処理した外植片を表すED3、1日2回、3日間試験クリーム1mgで処理した外植片を表すPJ3、1日2回、7日間ベースクリーム1mgで処理した外植片を表すEJ7、及び1日2回、7日間試験クリーム1mgで処理した外植片を表すPJ7を比較したチャートである。
【0171】
図1は、1日2回7日間試験クリームで処理した外植片を表すPJ7の角質層内の免疫染色が一番強いことを示している。
【0172】
形態上の結果
皮膚層の形態を示すために、コントロール皮膚外植片の断面と、試験クリーム及びベースクリームで処理した皮膚外植片の断面とを組織学的解析のために処理し、サンプルの断面をマッソントリクローム、ゴールドナー変異体によって染色した。ライカDMLB又はオリンパスBX43顕微鏡を使ってサンプルを観察した。オリンパスDP72カメラ及びCell^Dデータ記憶ソフトウェアを使って画像をデジタル化した。老化した皮膚及びこの皮膚の種々の層又は成分の質の向上に対する試験クリームのメリットを記録し、ベースクリームで処理したサンプルと処理していないサンプルとを比較した。
【0173】
全ての外植片断面に関して、0日目の慨形は、表面及び、明らかにその基部において、厚く、適度に層を成し、適度に角化した角質層を示した。表皮は良好な形態の4〜5層の細胞層を示した。真皮表皮接合部の起伏(relief)は明らかだった。乳頭状の真皮は、極めて高密度のネットワークを形成する厚いコラーゲン束を示した。これは良好に細胞化されていた。3,9,24時間において、処理に関係なく、慨形は不変であった。
【0174】
3日目、コントロール皮膚外植片及びベースクリームで処理した皮膚外植片は、0日目に観察されたものと類似した慨形を呈した。試験クリームで処理した皮膚外植片は、表皮突起の明らかな増加を呈した。
【0175】
7日目、コントロール皮膚外植片及びベースクリームで処理した皮膚外植片は、0日目に観察されたものと類似した慨形を再び呈した。試験クリームで処理された皮膚外植片は、乳頭状の真皮が僅かに緻密化した細胞層数(6〜7層)の適度な増加を呈した。
【0176】
全体的に、試験クリームは、(4〜5の細胞層から6〜7の細胞層への)表皮厚さの適度な増加によって特徴付けられる、適度な表皮刺激を誘導した。また、試験クリームは表皮突起の起伏(relief)を増加させ、乳頭状の真皮中におけるコラーゲン網の密度を増加させた。これとは対照的に、コントロールの皮膚外植片及びベースクリーム外植片は、注目すべき変化を皮膚に示さなかった。
【0177】
(実施例3)UV照射からの損傷に対する保護作用
UV−A及びUV−Bに曝露された皮膚外植片に対する試験クリームの保護作用を、Nrf2免疫染色及びチミン二量体免疫染色によって皮膚外植片を染色した後に、慨形の観察によって調べた。
【0178】
47才の女性ドナーから皮膚外植片を採取し、処理する前に37℃、湿気のある、5%CO
2雰囲気下で24時間培養した。0,1,2及び5日目に、試験クリーム及びベースクリームを外植片の表面に局所的に適用し(朝1mg、夜1mg)、へらで延ばした。
【0179】
6日目、皮膚外植片を、Vilbert Lourmat UV simulator RMX 3Wを使用して、9J/cm2UV−A(2DEM)及び0.3J/cm2UV−B(2DEM)の投与量で照射した、又は照射しなかった。照射前、外植片をHBSS媒体で培養した。照射していないバッチは暗所に置いたままにした。照射後、外植片を全てBEMで培養した。各外植片のサンプルを照射6時間後に取り出し、免疫染色した。
【0180】
Nrf2免疫染色
1/100で2時間、室温で、パラフィン化された切片に、マウスポリクロナール抗ヒトNrf2(Santa Cruz ref.Sc−722)を使ってNrf2免疫染色を行った。VectorのVectastain Kit及びVectorのVIPペルオキシターゼ基質を使い、アビジン/ビオチン増幅システムによって染色を明らかにした。
【0181】
Nrf2は酸化ストレスへの細胞応答において鍵となる転写因子である。ヒトNrf2は66kDaの予測分子量を持ち、広範囲の組織及び細胞型で普遍的に発現する。UV照射を含む酸化ストレス下において、Nrf2はリン酸化によって活性化され、細胞質から核に転座する。これまでのところ、タンパク質キナーゼC(PKC)、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3K)、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)及びER局在化膵臓小胞体キナーゼ(PERK)を含む種々の細胞質キナーゼは、Nrf2を修飾し、Nrf2の、その阻害剤であるKeap1からの解離に関わる可能性があることがわかっている。核内でNrf2は一度、全抗酸化系のマスター調節遺伝子である、hARE(ヒト抗酸化応答エレメント)とも称される抗酸化応答エレメント(ARE)の場所にDNAを結合させる。
【0182】
図2は、皮膚外植片試料の呈するNrf2免疫染色を、37℃、湿気のある、5%CO
2雰囲気下のBEM培地で24時間生存させて維持した、クリームで処理していない外植片を表すB0、37℃、湿気のある、5%CO
2雰囲気下のBEM培地で6日間生存させて維持した、クリームで処理していない外植片を表すBD6、37℃、湿気のある、5%CO
2雰囲気下のBEM培地で6日間生存させて維持し、6日目にUV照射した、クリームで処理していない外植片を表すBUVD6、1mgのベースクリームで1日2回3日間処理し、6日目にUV照射したEUVD6、及び1mgの試験クリームで1日2回3日間処理し、6日目にUV照射したPUVD6を比較したチャートである。全サンプルに対してUV照射後6時間で免疫染色を行った。
【0183】
24時間後(B0)及びより明らかには6日後(BD6)の、クリームで処理していない皮膚外植片に、Nrf2が明らかに存在した。これは、Nfr2遺伝子の基本的な間欠的発現を示している。UV照射後、クリームで処理していない外植片(BUVD6)及びベースクリームで処理した外植片(EUVD6)は、Nrf2濃度の著しい低下を呈し、一方で、試験クリームで処理した外植片(PUVD6)は、BUVD6及びEUVD6と比較して、Nrf2の減少は少なかった。このことは試験クリームがUV−A及びUV−Bの表皮への悪影響を、Nfr2遺伝子の発現を高め、より多くのNfr2を保護酵素の転座及び翻訳に利用できるようにすることにより、部分的に抑制することを示唆している。
【0184】
チミン二量体免疫染色
パラフィン化した切片において、マウスモノクロナール抗ヒトチミン二量体 Kamiya(ref.MC−062),Clone KTM53を用いて、チミン二量体免疫染色を1/1000で1時間、室温で行った。VectorのVectastain Kit及びVectorのVIPペルオキシターゼ基質を用い、アビジン/ビオチン増幅システムによって染色を明らかにした。免疫染色を、顕微鏡による観察及びCell^Dソフトウェアを使った画像解析によって評価した。
【0185】
紫外線は、DNA内のチミン塩基及びシトシン塩基内における二重結合によって吸収される。この追加されたエネルギーによって結合が開き、隣接する塩基との反応が可能になる。隣接する塩基が別のチミン又はシトシン塩基であるならば、2つの塩基間に共有結合を形成することができる。これらの二量体は扱いにくく、DNAに硬い瘤を形成する。よって、このような事象の影響は、細胞がそのDNAを複製する必要がある場合には有害である。DNAポリメラーゼは、活性部位でスムーズに適応しないため、二量体を読み取ることは困難である。
【0186】
図3はチミン二量体に対して陽性の(positive for)表面の割合を示している。UVで処理した皮膚外植片のチミン二量体の発現を画像解析によって定量化した。これらのバッチに関して、表皮においてチミン二量体によって標識付けされた表面の割合を下記の表3にまとめた。
【0187】
【表1】
【0188】
UV−A及びUV−Bで照射された皮膚外植片(BUVD6)では、表面の7.7%がチミン二量体免疫染色に対して陽性であることがわかった。対照的に、試験クリームで処理し、UV−A及びUV−Bを照射した皮膚外植片(PUVD6)では、表面の5.5%のみがチミン二量体免疫染色に対して陽性であることがわかり、UV−A及びUV−B照射後、チミン二量体の形成が29%減少したことを示している。ベースクリームで処理した皮膚外植片(EUVD6)では、表面の8.6%がチミン二量体免疫染色に対して陽性であることがわかった。
【0189】
本明細書に記載する発明は、本明細書に開示する特定の実施形態による範囲に限定されるものではない、というのもこれらの実施形態は、本発明のいくつかの態様を説明することを意図したものであるからである。本明細書に示し、記載したものに加え、本明細書の上述の記載からの種々の変更が当業者にとって明らかになるだろう。そのような変更は、添付の請求項の範囲に該当すると意図されている。