特表2017-514275(P2017-514275A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2017-514275硫黄系遷移金属複合負極活物質、対応する負極および対応する電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-514275(P2017-514275A)
(43)【公表日】2017年6月1日
(54)【発明の名称】硫黄系遷移金属複合負極活物質、対応する負極および対応する電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20170428BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20170428BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20170428BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170428BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M10/0569
   H01M10/0525
   H01M4/36 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-561848(P2016-561848)
(86)(22)【出願日】2014年4月21日
(85)【翻訳文提出日】2016年10月7日
(86)【国際出願番号】CN2014075762
(87)【国際公開番号】WO2015161400
(87)【国際公開日】20151029
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】504458976
【氏名又は名称】厦▲門▼大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】▲趙▼金保
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼波
(72)【発明者】
【氏名】王▲緒▼向
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK18
5H029AL01
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029DJ07
5H029DJ16
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ04
5H029HJ05
5H050AA07
5H050CA01
5H050CA07
5H050CB01
5H050DA07
5H050FA17
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA05
(57)【要約】
低価格でかつ高容量のリチウムイオン電池において使用される硫黄系遷移金属複合負極活物質が提供される。またさらに、前記負極を用いた長寿命でかつ高容量の非水電解溶液二次電池を提供する。前記負極は少なくとも前記硫黄系遷移金属複合負極活物質を含み、前記非水電解溶液二次電池は正極、負極、セパレータおよび非水電解溶液を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質としての硫黄系遷移金属複合材であって、前記負極活物質が1種以上の遷移金属硫化物を含む、前記負極活物質としての硫黄系遷移金属複合材。
【請求項2】
1種以上の遷移金属硫化物が、様々な原子価状態のCu、Co、Ni、Fe、Zn、Ti、MoおよびVの硫化物、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
1種以上の遷移金属硫化物がCuSであり、ここで1≦x≦2である、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項4】
1種以上の遷移金属硫化物がNiSであり、ここで1≦x≦2である、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項5】
負極活物質に対する1種以上の遷移金属硫化物の質量パーセンテージが50%を上回る、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項6】
負極活物質に対する1種以上の遷移金属硫化物の質量パーセンテージが80%を上回る、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項7】
1種以上の遷移金属硫化物の粒径が、0.1μm〜20μmの範囲内である、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項8】
1種以上の遷移金属硫化物の粒径が、1μm〜10μmの範囲内である、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項9】
負極活物質としての硫黄系遷移金属複合材であって、前記負極活物質が少なくとも1種の硫黄系材料および少なくとも1種の遷移金属粉末を含み、その際、前記硫黄系材料が、単体硫黄、Li(ここで、n≧1である)、有機硫化物および無機硫化物並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される、前記負極活物質としての硫黄系遷移金属複合材。
【請求項10】
遷移金属粉末が、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Ta、W、Re、Os、Ir、PtおよびAuの単体の粉末またはそれらの組み合わせ、並びにそれらの(金属または合金粉末の)部分酸化化合物または部分硫化化合物からなる群から選択される、請求項9に記載の負極活物質。
【請求項11】
単体硫黄および銅粉末を含む、請求項9に記載の負極活物質。
【請求項12】
硫黄/炭素化合物および銅粉末を含む、請求項9に記載の負極活物質。
【請求項13】
Li(n≧8である)および銅粉末を含む、請求項9に記載の負極活物質。
【請求項14】
集電体、導電剤、結着剤および負極活物質を含む電池用負極であって、前記負極活物質が少なくとも1種の硫黄系材料および少なくとも1種の遷移金属粉末を含み、その際、前記硫黄系材料が、単体硫黄、Li(ここで、n≧1である)、有機硫化物および無機硫化物並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される、前記電池用負極。
【請求項15】
集電体が銅箔である、請求項14に記載の負極。
【請求項16】
銅箔の厚さが1μm〜30μmの範囲内である、請求項14に記載の負極。
【請求項17】
銅箔の厚さが5μm〜15μmの範囲内である、請求項14に記載の負極。
【請求項18】
正極と、多孔質セパレータと、非水電解質と、負極活物質を有する負極とを含む電池であって、前記負極活物質が少なくとも1種の硫黄系材料および少なくとも1種の遷移金属粉末を含み、その際、前記硫黄系材料が、単体硫黄、Li(ここで、n≧1である)、有機硫化物および無機硫化物並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される、前記電池。
【請求項19】
正極が、少なくとも1種の層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物、または少なくとも1種のスピネル型構造のリチウム含有遷移金属酸化物、または少なくとも1種のオリビン型構造のリチウム含有遷移金属酸化物を含む、請求項18に記載の電池。
【請求項20】
非水電解質溶媒の式が、R(CHCHO)−R’ポリエーテルであり、ここで、n=1〜6であり、Rはメチル基またはエチル基であり、かつR’はメチル基またはエチル基である、請求項18に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は総じて、電気化学的エネルギー貯蔵装置の分野に関し、より具体的には、リチウムイオン電池用のある種の負極、および特許請求の範囲に記載した負極活物質を含む対応する負極、並びに特許請求の範囲に記載した負極活物質を用いた高性能リチウムイオン電池に関する。
【0002】
発明の背景
高効率でかつ高エネルギー密度の電気エネルギー貯蔵装置として、リチウムイオン二次電池は携帯用電子機器に広く使用されている。他の電池系と同様に、リチウムイオン電池は主に、正極、負極、セパレータおよび電解質を構成要素としている。リチウムイオン電池の性能は、その正極材料および負極材料の特性に密接に関連している。現在、リチウムイオン電池に広く用いられている正極材料は、Liインターカレーション−デインターカレーション金属酸化物、例えば層状金属酸化物(LiCoO、LiMn1/3Co1/3Ni1/3等)、スピネル型金属酸化物(LiMn)、オリビン型金属酸化物(LiFePO)であり、リチウムイオン電池に広く用いられている負極材料は、Liインターカレーション−デインターカレーション化合物、例えばグラファイトである。こうした高性能材料のおかげで、リチウムイオン二次電池は携帯電話やノートパソコン等といった機器に不可欠なものとなっている。しかし、相当な電力を必要とする用途に電池を使用することが望ましく、高い比エネルギーでかつ中電力の用途に適した電池、例えば電気自動車やロードレベリングに適した電池の開発に多くの努力が費やされてきた。
【0003】
電池用正極材料として使用される単体硫黄は、例えば高いエネルギー密度、天然存在量、低コストおよび環境適合性といった多くの魅力的な特徴を有している。硫黄は、その高い理論比容量(1675mAhg−1)ゆえに次世代リチウム電池の極めて最適な正極の候補と考えられている。金属リチウムが負極として使用される場合(理論比容量3860mAhg−1)、形成されるリチウム硫黄(Li−S)電池は最高で2680Whkg−1の理論比エネルギーを有し、これは最適な高エネルギー密度電池である。しかし、例えば硫黄およびその放電生成物が低い電子およびイオンの伝導性を有することや、放電の過程で生成されるポリスルフィドが有機電解質に溶解しやすいことといったLi−S電池の欠点がその開発の妨げとなっている。こうした欠点によって、レート特性が低下し、活物質利用率が低下し、また容量が迅速に低下する(参考文献:1)P.G.Bruce,S.A.Freunberger,L.J.Hardwick,and J−M.Tarascon,Nat.Mater.,2012,11,19;2)A.Manthiram,Y.−Z.Fu,and Y.−S.Su.,Acc.Chem.Res.,ASAP;3)X.Ji,K.T.Lee,and L.F.Nazar,Nat.Mater.,2009,8,500)。
【0004】
Li−S電池のサイクル特性を向上させるために、例えば米国特許公報第7250233号および第7078124号において様々なアプローチが提案されている。こうした方法によってリチウムイオン電池の性能を一部向上させることができたとはいえ、実地応用上の効果は明らかではない。本発明の発明者は、以前、硫黄を有機分子中のC−C骨格上に限定した(日本国特許公報第3871306号、第4208451号、第4297673号、第4674883号および米国特許公報第6709787号)。これはポリスルフィドの溶解の抑制に高い効果を示す。しかし、単体硫黄と比較してこの材料は比較的高コストであり、電池容量は低下する。
【0005】
発明の内容
本発明の目的の1つは、リチウムイオン電池用の新種の硫黄系遷移金属複合材を提供することである。この負極活物質は、良好な導電性、高い硫黄利用率および優れたサイクル特性を有する。総じて、本発明の硫黄系遷移金属複合材は、リチウムイオン電池用の負極材料として使用される。
【0006】
金属硫化物は、その高い動作電圧ゆえに正極材料の候補と考えられている。ここでは、こうした材料を、適正な結合エネルギーを有する適した遷移金属を選択して動作電圧を低下させることで、リチウムイオン電池用の負極材料として使用することができる。
【0007】
本発明の硫黄系遷移金属複合材は2つのタイプに分類できる。一方は遷移金属硫化物であり、もう一方は少なくとも1種の硫黄系材料および少なくとも1種の遷移金属粉末を含むべきである。この負極活物質の製造工程中、およびこれが活物質として使用されるセル内での充/放電サイクル中に、この硫黄系材料と遷移金属との反応により金属硫化物が形成されうる。詳細を以下に説明する。
【0008】
硫黄系遷移金属複合材の第一のタイプは負極活物質としての遷移金属硫化物であり、これは、様々な原子価の金属の硫化物であるかまたは2種を上回る混合物である。この金属は、以下の金属、例えばCu、Ni、Co、Fe、Zn、Ti、Mo、V等の少なくとも1種から選択される。典型的な遷移金属硫化物は、MS(1≦x≦2)、またはMS(0.5≦x≦1)(M=Cu、Ni、Co、Fe、Zn、Ti、Mo、V)であり、例えばCuS、CuS、NiS、MoS等である。高容量でかつ低価格であることを考慮すると、負極中の遷移金属硫化物の質量パーセンテージは、好ましくは50%を上回り、より好ましくは80%を上回る。質量パーセンテージが低すぎる場合、負極は低容量を示す。
【0009】
本発明における遷移金属硫化物の供給源については特別な必要条件はなく、市販品であってもよいし現場で集電体上で製造されてもよい。本発明に記載の遷移金属硫化物は、通常は粉末粒子である。粒径については特別な必要条件はなく、求められることは、電極の設計の必要条件を満たすことのみである。総じて、0.1〜20μmのサイズが好ましく、1〜10μmがより好ましい。
【0010】
硫黄系遷移金属複合材のもう一方のタイプは、少なくとも1種の硫黄系材料および少なくとも1種の遷移金属粉末を含むべきである。この負極活物質の製造工程中およびセル内での充/放電サイクル中に、この硫黄系材料と遷移金属との反応により金属硫化物が合成されうる。
【0011】
本発明に記載の硫黄系材料は、硫黄単体(S)、Li(n≧1)、有機硫化物および無機硫化物から選択され、1つ以上の種を含む。負極が高容量でかつ低価格であるという観点から、SおよびLi(≧1)が最良の選択であり、活物質中の硫黄含量は10%〜80%(質量パーセンテージ)である。この含量が低すぎる場合には電極は低容量を示し、この含量が高すぎる場合にはサイクル特性が低くなる。
【0012】
本発明に記載の遷移金属粉末は、以下の金属元素、例えばSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Ta、W、Re、Os、Ir、PtおよびAuからの金属粉末または合金から選択され、さらに、これには部分酸化生成物または部分硫化生成物が含まれる。Cu、Ni、Co、MoおよびTi等がより好ましい単体金属粉末である。マイクロサイズの粒子がより好ましく、ナノサイズの粒子が最も好ましい。上記単体金属粉末と硫黄とが化学反応を生じることで、安定したサイクル特性を有する高導電性化合物が生成され、単体硫黄が安定化され、それによって材料の比容量が増加する。
【0013】
本発明の他の目的は、リチウムイオン電池用の新種の負極材料を導入することである。本発明に記載の負極材料は以下の特徴を有し、該組成物は以下のものを含む:
特許請求の範囲に記載した負極活物質としての、少なくとも1種の硫黄系遷移金属複合材;
適量の導電剤および結着剤、例えばポリビニリデンジフルオリド(PVDF)等;
および導電性集電体。
【0014】
本発明に記載の負極は、以下の方法により作製することができる。適量の導電剤およびポリビニリデンジフルオリド(PVDF)または他の結着剤を、本発明における負極活物質に添加する。その後、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いて、この混合物を溶解および分散させる(ペースト、スラリー等)。その後、このスラリーを、導電性集電体、例えば銅箔またはアルミニウム箔の片面または両面にコーティングする。溶媒を除去した後、この負極活物質を含むリボン状のフィルムが得られる。しかし、負極の作製は上記方法に限定されるものではない。
【0015】
本発明に記載の導電剤は、以下の炭素材料、例えば、カーボンブラック導電剤(アセチレンブラック、スーパーP、スーパーS、350G、炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)、ケッチェンブラックEC300J、ケッチェンブラックEC600JD、カーボンECP、カーボンECP600JD等)、グラファイト導電剤(KS−6、KS−15、SFG−6、SFG−15等)、カーボンナノロッド、グラフェンなどの1種以上から選択することができる。
【0016】
本発明における結着剤の役割は、負極活物質を集電体に結着させることに加え、負極の機械的完全性を高め、固−固界面または固−液表面の物理的な電気的接触を改善し、電極全体の電子およびイオンの伝導性を高めることにある。水性結着剤および油性結着剤のいずれをも選択することができる。本発明における結着剤は、以下のポリマーの1種または数種から選択され、これには、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、ポリオレフィン(PP、PE等)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、重合スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)などが含まれる。
【0017】
本発明に記載の導電性集電体に必要とされるのは、導電性の、通常は金属の導電性の材料であるということのみである。特別な制限はない。本発明における実施計画によれば、集電体は、導電性の金属材料または金属合金であり、これには金属、例えばAl、Fe、Co、Ni、Cu、An、Ag、Pt、Auの1種以上が含まれる。コストおよび機械加工性の観点から、アルミニウム箔および銅箔が好ましい。
【0018】
本発明に記載の銅集電体は、銅箔である。集電体の厚さおよび銅箔の材質について、特別な制限はない。銅箔の厚さには制限はないが、1〜30μmが好ましく、5〜15μmが最も好ましい。銅箔の材質は、純銅であっても合金銅であってもよい。コストおよび機械加工性の観点から、純銅または95%(質量パーセンテージ)を上回る銅を含む合金銅が好ましい。
【0019】
本発明の他の目的は、前述のように、上記負極活物質および関連する電極を用いた特定の電池を提供することである。上記負極材料および関連する電極を利用すること以外に、本発明における電池は他の必須の構成要素をも含み、これには、正極、セパレータおよび非水電解質が含まれる。従って、本発明における非水電解質二次電池が必要とするのは上記負極活物質および関連する電極のみであり、他の構成要素については特別な制限はなく、現在普及している非水電解質二次電池において使用されているのと同様の構成品目を使用することができる。
【0020】
総じて、リチウムイオン電池に用いられている正極を本発明において使用することができる。電極に関与する正極活物質は、リチウムイオンの可逆的な挿入および脱離(インターカレーションおよびデインターカレーション)を可能にする構造、例えばLiMOまたはLi(M=遷移金属、0≦x≦1、0≦y≦2)、スピネル型金属酸化物、層状金属硫化物、オリビン型構造の材料等を有する。
【0021】
具体例としては、リチウムコバルト酸化物(例えば、LiCoO)、リチウムマンガン酸化物(例えば、LiMn)、リチウムニッケル酸化物(例えば、LiNiO)、リチウムチタン酸化物(例えば、Li4/3Ti5/3)、リチウムマンガンニッケル複合酸化物、リチウムマンガンニッケルコバルト複合酸化物、オリビン型結晶構造の材料、例えばLiMPO(M=Fe、Mn、Ni)などが挙げられる。
【0022】
特に、層状構造を有するリチウム含有複合酸化物、またはスピネル型酸化物、例えばLiCoO、リチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えば、LiMn、LiNiO、LiNi1/2Mn1/2)、リチウムマンガンニッケルコバルト複合酸化物(例えば、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNi0.6Mn0.2Co0.2)、またはLiNi1−x−y−zCoAlMg(0≦x≦1、0≦y≦0.1、0≦z≦0.1、0≦1−x−y−z≦1)等が好ましい。さらにこれには、さらなる元素(例えば、Ge、Ti、Zr、Mg、Al、Mo、Sn等)を有する何らの要素の置換によって上記リチウム含有酸化物から形成されるリチウム含有酸化物も含まれる。
【0023】
これらの正極活物質は、別々に使用することもできるし、2種以上の構成要素を一緒に混合して使用することもできる。例えば、層状構造のリチウム含有複合酸化物とスピネル型構造のリチウム含有複合酸化物とを一緒に混合して利用することによって、より高い容量および安全性を得ることができる。
【0024】
正極スラリーは、上記正極活物質に、導電剤(例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック等)および結着剤(PVDF、ポリエチレンオキシド(PEO)等)を添加することにより調製することができる。このスラリーを、正極として動作しうるリボン状のアルミニウム箔集電体にコーティングする。しかし、正極の作製方法はこれに限定されるものではない。
【0025】
特許請求の範囲に記載した非水電解質二次電池において、正極と負極とを隔離するために使用されるセパレータについて、特別な制限はない。従って、現在普及している非水電解質二次電池において使用されているあらゆる種類のセパレータを使用することができる。
【0026】
セパレータの役割は、正極と負極とを隔離すること、および正極と負極との間を直に通るいかなる電子流をも回避し、それにより短絡を回避することである。イオンが通る際に抵抗ができるだけ低いことが望ましいため、通常は、多孔質高分子膜、例えばポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)、またはポリエステル樹脂(ポリブチレンテレフタレート)が使用される。ポリエステル樹脂から形成される小孔セパレータが好ましい。さらに、こうした小孔セパレータ(小孔膜)をスタックとして使用することができる。上記高分子マイクロ孔膜を、表面修飾により修飾することができる。例えば、セラミック粉末(Al、SiO等)でコーティングされたポリオレフィン複合セラミックセパレータを用いることもできる。
【0027】
セパレータの厚さについては制限はない。しかし、電池の安全性および高エネルギー密度の観点を考慮すると、5μm〜30μmの厚さが最適である。さらに、セパレータの透気度(秒/100mL)には制限はなく、10〜1000(秒/100mL)が好ましく、50〜800(秒/100mL)がより好ましく、90〜700(秒/100mL)が最も好ましい。
【0028】
本発明の非水二次電池においては非水溶媒(有機溶媒)が非水電解質に使用され、その中では高誘電率の非水溶媒が好ましい。硫化物(特に、単体硫黄の感応物質)はカーボネート系電解質への溶解性が低いため、この種の溶媒中での該硫化物の充放電は困難である。エーテル系溶媒、例えばR(CHCHO)−R’(n=1〜6であり、RおよびR’はメチルまたはエチル等である)が好適に用いられ、特にテトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、エチレングリコールジメチルエーテル(DME)および1,3−ジオキソラン(DOL)等が好適に用いられる。硫化物は、これらのエーテル系電解質中で高い溶解性および安定性を示す。
【0029】
さらに、カーボネート系溶媒を少量含む電解質が可能である。これらの中では、高い誘電率(30以上の誘電率)を有するエステル、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブテンカーボネート、γ−ブチロラクトン、硫黄系エステル(エチレングリコールスルフィット等)を使用することが推奨される。これらの中でも、環状エステル(エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、プロピレンカーボネート、またはブチレンカーボネート等)が特に好ましい。これらの他に、低粘度の極性の鎖状カーボネートおよび極性の分岐鎖脂肪族カーボネートを使用することができ、これらの代表例は、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートである。環状カーボネート系溶媒(特にエチレンカーボネート)と鎖状カーボネート系溶媒との混合物がより好ましい。
【0030】
上記非水溶媒に加えて、鎖状アルキルエステル、例えばメチルプロピオネート、鎖状リン酸エステル、例えばトリメチルホスフェート、ニトリル系溶媒、例えば3−メトキシプロピオニトリル、およびデンドリチック構造の化合物により表されるエーテル結合含有の分岐鎖型化合物を使用することができる。
【0031】
また、フッ素化溶媒も使用される。
【0032】
フッ素系溶媒の例としては、直鎖アルキルエーテル、例えばH(CFOCH、COCH、H(CFOCHCH、H(CFOCHCF、H(CFCHO(CFH、CFCHFCFOCH、CFCHFCFOCHCH等が挙げられる。すなわちこれには、2−トリフルオロメチルヘキサフルオロプロピルメチルエーテル、2−トリフルオロメチルヘキサフルオロプロピルエチルエーテル、2−トリフルオロメチルヘキサフルオロプロピルプロピルエーテル、3−トリフルオロメチルオクタフルオロブチルメチルエーテル、3−トリフルオロメチルオクトフルオロブチルエチルエーテル、3−トリフルオロメチルオクトフルオロブチルプロピルエーテル、4−トリフルオロメチルデカフルオロペンチルメチルエーテル、4−トリフルオロメチルデカフルオロペンチルエチルエーテル、4−トリフルオロメチルデカフルオロペンチルプロピルエーテル、5−トリフルオロメチルドデカフルオロヘキシルメチルエーテル、5−トリフルオロメチルドデカフルオロヘキシルエチルエーテル、5−トリフルオロメチルドデカフルオロヘキシルプロピルエーテル、6−トリフルオロメチルテトラデカヘプチルメチルエーテル、6−トリフルオロメチルテトラデカヘプチルエチルエーテル、6−トリフルオロメチルテトラデカヘプチルプロピルエーテル、7−トリフルオロメチルヘキサデカオクチルメチルエーテル、7−トリフルオロメチルヘキサデカオクチルエチルエーテル、7−トリフルオロメチルヘキサデカオクチルプロピルエーテル等も含まれる。
【0033】
さらに、イソアルキル(過フッ素化アルキル)エーテルおよび直鎖(ペルフルオロアルキル)アルキルエーテルを用いることもできる。
【0034】
非水電解質に使用されるリチウム塩としては、過塩素酸リチウム、有機リチウムホウ素およびフッ素化合物であるリチウム塩、またはリチウムイミド塩等が好ましい。
【0035】
例えば、LiClO、LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、LiCFCO、LiC(SO、LiN(CSO、LiC(CFSO、LiCnF2n+1SO(n≧2)、LiN(RfOSO(ここで、Rfはフルオロアルキルを表す)等が挙げられる。これらの中でも、フッ素含有機リチウム塩が特に好ましい。有機フッ素含有リチウム塩は強アニオン性であって好適にイオンに分かれるため、非水電解質に溶解しやすい。
【0036】
非水電解質中のリチウム塩の濃度は、好ましくは0.3モル/L以上であり、より好ましくは0.7モル/L以下であり、また1.7モル/L以下であり、より好ましくは1.2モル/L以下である。リチウム塩の濃度が低すぎるとイオン伝導性が低下し、リチウム塩の濃度が高すぎると電解質塩が析出しうる。
【0037】
さらに、電池の性能を向上させるべく、非水電解質に各種添加剤を添加することもできる。添加剤は、特定のものには限定されない。
【0038】
例えば、分子内に不飽和C=C結合を有する化合物を非水電解質に添加することによって、電池のサイクル特性の低下を抑制することができる。
【0039】
分子内に不飽和C=C結合を有する化合物としては、例えば、芳香族化合物、例えばC11(シクロヘキシルベンゼン)等、フッ素化脂肪族化合物、例えばH(CFCHOOCCH=CH、F(CFCHCHOOCCH=CH、およびフッ素含有芳香族化合物等が挙げられる。さらに、主なものとして1,3−プロパンスルトンおよび1,2−プロピレングリコールエステルスルフェート、硫黄含有化合物(例えば、鎖状または環状のスルホネート、鎖状または環状のスルフェート等)を使用することもできる。さらに、ビニリデンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フッ素化エチレンカーボネート等を使用することができ、時として電気化学性能の向上に効果があることが明らかにされている。特に、負極活物質として高結晶性炭素を使用した場合には、ビニリデンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フッ素化エチレンカーボネート等との併用によってより良好な効果が示されうる。各種添加剤の添加量は、好ましくは非水電解溶液の総量に対して0.05〜5質量%の範囲である。
【0040】
上記ビニリデンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フッ素化エチレンカーボネートは、上記添加剤を含む電解質を用いた電池の充電により負極表面上に保護膜を形成しうる。この膜によって、負極活物質と非水電解質とにより生じる副反応を抑制することができ、それによって非水電解質の分解が防止されている。
【0041】
さらに、高温での電池の性能を向上させるべく、非水電解溶液に酸無水物を添加することもできる。
【0042】
負極上の表面複合膜の形成に関連する負極表面改質剤としての酸無水物は、高温での電池の貯蔵容量を改善する。さらに、電解質に酸無水物を添加することによって、非水性電解質中の水分含量が減少するだけでなく、これにより電池内のガス発生量が減少する。
【0043】
非水電解質に添加する酸無水物については制限はなく、1分子の少なくとも1つの酸無水物構造か、または酸無水物構造を複数有する化合物のいずれかであることができる。
【0044】
酸無水物の具体例としては、メリト酸三無水物、無水マロン酸、無水マレイン酸、無水酪酸、無水プロピオン酸、無水プルビン酸、無水フタロン酸、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水乳酸、無水ナフタル酸、無水トルイル酸、無水チオ安息香酸、無水ジフェニル、無水シトラコン酸、無水ジグリコールアミド酸、無水酢酸、無水コハク酸、無水桂皮酸、無水グルタル酸、ペンテン二酸無水物、無水吉草酸、無水イタコン酸、無水イソ酪酸、無水イソ吉草酸および無水安息香酸等が挙げられる。こうした酸無水物を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。非水電解質への酸無水物の添加量は、非水電解溶液の量に対して好ましくは0.05〜1質量%である。
【0045】
本発明は、非水電解質二次電池パックの組み立て方法を提供する。例えば、セパレータを正極と負極との間に挟んだ後に巻回および成形して電極ロールを形成し、これを金属缶に取り付ける。正極および負極を、リード等を介して缶の正端子および負端子に接続する。さらに、本実施形態の非水電解溶液をケースに注入し、次いでこれを封止し、その際、本実施形態の溶液が生成される。
【0046】
電池のパッケージとしては、金属性の矩形若しくは円筒形の缶、または金属製の積層体であって一層および2つ以上の他の層(アルミニウム)のものを用いることができる。
【0047】
非水電解質二次電池の作製方法および構造に関しては、制限はない。正極、負極、セパレータおよび非水電解質を缶に収容した後でかつ完全に電池を封止する前に、電池を充電するための開口部形成工程を設定することが好ましい。
【0048】
これにより、充電工程の初期段階で発生したガスおよび電池内の残留水を除去することができる。
【0049】
上記開口部形成工程の後の電池内部のガスの除去については制限はなく、自然な除去または真空除去のいずれを行ってもよい。さらに、電池を完全に封止する前に、該電池をプレス操作等によって成形することができる。
【0050】
その高い容量および良好な電池特性ゆえに、本発明において提供される非水電解質二次電池は、例えば携帯電話やノートパソコンといった携帯情報機器における二次電池としてだけでなく、例えば自動車やハイブリッド電気自動車といった様々なデバイスにおける二次電池としても広く適用されることができる。
【0051】
我々が研究のために行った多大な尽力により、3つの成果が得られた。第一の成果には、負極活物質としての硫黄系遷移金属複合材、該複合材を含む負極、および該負極を含む電池が包含される。負極としての遷移金属硫化物(通常は、これらは正極として用いられていたものである)を用いて新しいタイプのLi−S電池を組み立てることができ、またこの電池は高い容量およびサイクル安定性を有する。また、広く用いられている正極、セパレータ、非水電解質と上記負極とを用いて組み立てられたリチウムイオン電池は、優れた電気化学的性能を示す。上記正極には、挿入/脱離の層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物、例えばLiCoO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、スピネル型構造のリチウム含有遷移金属酸化物、例えばLiMn、およびオリビン型構造のリチウム含有遷移金属酸化物、例えばLiFePOが含まれる。遷移金属硫化物の特性ゆえに、Li−S電池における技術的な課題の大部分が解決された。それと同時に、現在使用されているリチウムイオン電池に匹敵する傑出したサイクル特性で以て、Li−S電池の性能が大幅に向上した。
【0052】
上記の原理および研究への我々の多大な尽力に基づき、第二の成果が得られた。これには、負極活物質としての硫黄系遷移金属複合材(銅粉末を添加した硫黄系材料)、該複合材を含む負極、および該負極を含む電池が包含される。通常は、硫黄系材料、例えば単体硫黄はLi−S電池の正極活物質と考えられている。本発明においては、銅粉末を添加した硫黄系材料を負極活物質としており、これはサイクル安定性の大幅な向上を示す。また、広く用いられている正極、セパレータ、非水電解質と上記負極とを用いて組み立てられたリチウムイオン電池は、優れた電気化学的性能を示す。上記正極には、挿入/脱離の層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物、例えばLiCoO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、スピネル型構造のリチウム含有遷移金属酸化物、例えばLiMn、およびオリビン型構造のリチウム含有遷移金属酸化物、例えばLiFePOが含まれる。
【0053】
上記成果によれば、遷移金属粉末、例えば銅を添加し、単体硫黄と粉末とが互いに反応することで、電極の充放電時に電解質に溶解しない新規化合物が形成される。遷移金属によって、活物質の利用効率および硫黄−硫黄結合活性が向上するだけでなく、硫黄種が電極に固定される。これによってLi−S電池の技術的課題が根本的に解決され、該電池の電気化学的性能が十分に向上する。特許請求の範囲に記載した電極または電池においては、単体硫黄の利用効率がほぼ100%に達することができ、また容量は硫黄の理論容量(1670mAh/g)にほぼ達し、これはリチウムイオン電池用負極活物質として現在市販されているグラファイトの4倍を上回る。従って、公表した上述の成果によって、その対照物に匹敵しうる驚くべきサイクル安定性を有する電池を提供することができた。
【0054】
特許請求の範囲に記載した硫黄系遷移金属複合材の放電プラトーは、約1.7V(vs.Li/Li)である。放電プラトーが比較的高いことによって、充/放電工程中のリチウムデンドライトの形成を阻害することができ、それにより電池の短絡を防ぐことができる。低い放電プラトーを有する金属リチウムまたはグラファイトと比較して、特許請求の範囲に記載した複合材はより安全性が高い。一方で、特許請求の範囲に記載した複合材は高い比容量を有しており、これは商業的に使用されているスピネル型構造のLiTi12の比容量(放電プラトー:1.5V、実容量:約150mAh/g)の10倍を上回る。この観点から、本発明における特許請求の範囲に記載した負極、あるいは特許請求の範囲に記載した電池は、活物質としてのTi系材料を有する電池と比較して、より高い容量および安全性を有する。
【0055】
LiTi12と同様に、特許請求の範囲に記載した硫黄系遷移金属複合負極活物質は、例えばフラットな充/放電プラットフォームおよび高いサイクル安定性といった多くの利点を有する。さらに、原料が低価格であり、合成工程が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1図1は、実施例1による負極の充電曲線および放電曲線である。
図2図2は、実施例1による正極の充電曲線および放電曲線である。
図3図3は、実施例1によるLiMn/CuS電池の充電曲線および放電曲線である。
図4図4は、LiMn/CuS電池のサイクル特性とLiMn/Li電池のサイクル特性との比較である。
図5図5は、実施例2による硫化銅のXRDパターンである。
図6図6は、実施例8による負極の充電曲線および放電曲線である。
図7図7は、実施例8による正極の充電曲線および放電曲線である。
図8図8は、実施例8による電池の充電曲線および放電曲線である。
図9図9は、LiMn/Cu−S電池のサイクル特性とLiMn/Li電池のサイクル特性との比較である。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明を以下の実施例により詳細に説明する。しかし、以下の実施例および比較例は例示のみを目的としたものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことに留意すべきである。
【0058】
本発明の他の目的および利点は、その一部が以下の説明で述べられ、その一部は本発明の説明から自明であるかまたは本発明の特定の実施形態から理解されるであろう。
【0059】
別段の記載がない限り、以下の説明において「%」なる用語は質量を基準としたものである。
【0060】
実施例1
負極の作製:CuS(Aladdin(登録商標)、5μm)70g、導電剤アセチレンブラック20gを粉砕して均一に混合した;結着剤PVDFをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に溶解させることにより、10%結着剤溶液を調製した。負極活物質粉末90質量部および結着剤溶液100質量部をNMP溶媒中で混合して1時間以上撹拌することにより、負極スラリーを得た。このスラリーを厚さ10μmのアルミニウム箔集電体にコーティングし、次いで、真空炉中で60℃で12時間乾燥させることにより溶媒を除去した。その後、この電極を打ち抜いて12mmの円盤状物とした。この円盤状物を計量し、かつ電池の負極として使用した。半電池の放電曲線を図1に示す。
【0061】
正極の作製:スピネル型LiMn(正極活物質、実容量は106.3mAh/gである)90質量部を導電性カーボンブラック5質量部と混合し、次いでこの混合物とPVDF結着剤溶液50質量部とをNMP溶媒中で混合することにより、正極活物質スラリーを得た。このスラリーを70メッシュスクリーンに通して大きな粒子を除去した。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔集電体にコーティングし、真空炉中で80℃で12時間乾燥させることにより溶媒を除去した。この電極を打ち抜いて12mmの円盤状物とし、これを計量し、かつ電池の正極として作動させた。
【0062】
電池の組み立て:上記で作製した負極および正極を用いて、コイン型セルを組み立てた。アルゴンを充填したグローブボックス内で、負極、三層セパレータ(PP/PE/PP)、吸収紙、正極およびアルミニウムガスケットを一緒に順次積層することにより電池を組み立て、この電池に電解質を添加して完全なコイン型電池を得た。これらの電池を、電池試験系を用いて試験した。試験電圧は1.0〜2.6Vの範囲である。放電曲線、サイクル特性および放電容量(正極材料が過剰であるため、これは負極容量を表す)を、図3図4および表1に示す。
【0063】
電極容量の確認:アルゴンを充填したグローブボックス内で、作製した電極、リチウム箔(厚さ0.1mm)、電解質(1MのLiTFSI−DOL/DME(3:7体積比))およびセパレータ(PP/PE/PP)を使用してコイン型半電池を組み立てた。これらの電池を一晩静置後に電池試験系を用いて試験した。負極に関して、この電池は0.5mA/cmの電流密度で1.0Vまで放電され、0.5mA/cmで3.0Vまで充電され;正極に関して、この電池は0.5mA/cmの電流密度で4.3Vまで充電され、0.5mA/cmで3.0Vまで放電された。
【0064】
充放電性能の評価:これらの電池を完全に充電し、次いで室温で定電流で繰り返し放電させた。充電条件:これらの電池を0.5Cで所定の電圧まで充電し、この電圧で充電を維持して合計で2.5時間(フル充電)に達する。放電条件:これらの電池を1.0Cレートで所定の電圧まで放電させる。100サイクル後の放電容量を初期放電容量で除した比を、100サイクル後の容量維持率とする。
【0065】
実施例2
CuSの合成:化学量論量の銅および硫黄(モル比=2:1)を一緒に混合し、耐熱ガラス管に添加し、高真空環境下で封止した。このガラス管を3℃/分で400℃まで加熱し、400℃で3時間保持し、次いで5℃/分で室温まで冷却した。生成物を取り出した後に粉砕した。元素分析の結果により、調製した硫化銅はCu1.98Sからなることが判明した。そのXRDパターンを図5に示す。
【0066】
合成したこのCu1.98Sを負極材料として使用した。電池の組み立ておよび評価を実施例1と同様に行った。その評価結果を表1に示す。
【0067】
実施例3〜6および比較例1〜3
実施例3〜6および比較例1〜3において、実施例2と同様の方法を用いて合成を行った。負極活物質として、異なる化学量論量で合成した硫化銅(CuS)粉末材料(表1)を使用した。電池の組み立ておよび評価を実施例2と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
上記から分かるように、負極活物質として使用されるCuS粉末材料は、良好な電気化学的特性を示し、かつ正極活物質の利用率が高い。銅と硫黄とのモル比は、xとして表される。xが1.7〜2.0の範囲にある場合には、100サイクル後の容量維持率は75%を上回る。xがこの範囲外である場合には、電池のサイクル特性が低い。x<1の場合には、サイクル特性が大幅に悪化する。
【0070】
実施例7
実施例1と同様の実験条件に従ったが、但し、さらなる評価のための電極材料として、硫化銅を硫化ニッケル(NiS、Aladdin(登録商標))に置き換えて使用した。試験結果は以下の通りであった:LiMn/NiS電池におけるLiMnの放電容量は100.9mAh/gであり、100サイクル後の容量維持率は60.2%であった。これらの結果は、電池系の負極材料としてNiSを使用することも可能であることを示している。
【0071】
本発明について、好ましい実施形態を用いて詳細に説明したが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲、または本発明の思想若しくは範囲について言及した均等物から逸脱することなく、本発明の様々な修正または置換を行うことができることを理解するであろう。
【0072】
実施例8
負極の作製:硫黄粉末65g、導電剤アセチレンブラック30g、電解銅粉末(Cu:Sモル比=2:1)130gを一緒に粉砕して混合物を製造した。この混合物を、NMPおよび蒸留水(体積比約1:1)で均一に分散させたCMC水溶液(2%)100gに添加した。次いで、SBRラテックス結着剤(40%)7.5gを添加して1時間以上撹拌することにより、ある程度の粘度を有するスラリーを調製した。この負極スラリーを厚さ10μmのアルミニウム箔集電体にコーティングし、次にこのアルミニウム箔を60℃の真空炉中に12時間置くことにより溶媒を除去した。その後、この箔を打ち抜いて12mmの円盤状物とし、計量し、かつ電池の負極として使用した。この負極中の硫黄含量は、1.4mgである。放電曲線および放電容量を、図6に示す。
【0073】
正極の作製:スピネル型リチウムマンガン酸化物(LiMnO、正極活物質、実容量は106.3mAh/gである)90部(質量による)と導電性カーボンブラック5部とを一緒に混合した。この混合物にPVDF(NMP溶液)5部を添加することにより、正極スラリーを形成した。このスラリーを70メッシュスクリーンに通して大きな粒子を除去した。次いで、このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔集電体に均一にコーティングし、80℃の真空炉中で12時間乾燥させた。この箔を打ち抜いて12mmの円盤状物とし、これを計量し、かつ電池の正極として用いた。正極対負極の活物質含量の比は、100:120(負極活物質の容量が他方に対して過剰である)であった。放電曲線および放電容量を図7に示す。
【0074】
電池の組み立て:上記の硫黄負極およびスピネル型リチウムマンガン酸化物の正極を用いてコイン型電池を組み立て、かつ評価した。アルゴンを充填したグローブボックス内で、負極、三層多孔質セパレータ(PP/PE/PP)、吸収紙、正極およびアルミニウムガスケットを一緒に順次配置することにより電池を組み立て、次いで電解質を添加して完全な電池を形成させた。この電池を電池試験系を用いて試験した。カットオフ電圧は1.0〜2.6Vである。この電池の放電曲線および放電容量(負極活物質が過剰であるため、この電池容量は正極容量により決まる)を、図8および表2に示す。
【0075】
電極容量の確認:アルゴンを充填したグローブボックス内で、作製した電極、リチウム箔(厚さ0.1mm)、電解質(1MのLiTFSI−DOL/DME(3:7体積比))およびセパレータ(PP/PE/PP)を使用して、コイン型半電池を組み立てた。これらの電池を一晩静置後に電池試験系により試験した。負極に関して、この電池は0.5mA/cmの電流密度で1.0Vまで放電され、0.5mA/cmで3.0Vまで充電され;正極に関して、この電池は0.5mA/cmの電流密度で4.3Vまで充電され、0.5mA/cmで3.0Vまで放電された。
【0076】
電池の充放電性能の評価:これらの電池をまず充電し、次いで室温で定電流で繰り返し放電させた。充電条件:これらの電池を0.5Cで所定の電圧まで充電し、この電圧で充電を維持して合計で2.5時間(フル充電)に達する。放電条件:これらの電池を1.0Cレートで所定の電圧まで放電させる。100サイクル後の放電容量を初期放電容量で除した比を、100サイクル後の容量維持率とする。
【0077】
比較例4
LiMnO/Sコイン型電池を実施例8と同様に組み立てたが、但し、負極活物質として、銅粉末に代えてグラファイトを使用した。試験結果を表2に示す。
【0078】
実施例9
LiNi1/3Co1/3Mn1/3/Cu−Sコイン型電池を実施例8と同様に組み立てて試験したが、但し、正極活物質としてスピネル型LiMnに代えてLiNi1/3Co1/3Mn1/3を使用した。試験結果を表2に示す。カットオフ電圧は1.0V〜2.6Vの範囲である。
【0079】
図6〜9は、実施例8における負極、正極および完全電池の放電曲線を示す。図6から分かるように、負極の放電プラットフォームは約1.7Vであり、硫黄の放電容量は最高で1477mAh/gであり、これは硫黄の理論容量に近い。比較例4における硫黄の放電容量は262mAh/gである。このことは、銅と硫黄との単純混合物によって硫黄の利用率が向上することを意味する。図8は、図6および図7の単純な重ね合わせと考えることができる。放電曲線の中央値は2.09Vであり、放電容量は101.3mAh/gであり、これは正極の容量と一致する。このことは、負極としてのCu−Sにより正極の容量が完全に放出され、かつその可逆容量は正極材料のそれよりも低いことを意味する。実施例9におけるLiNi1/3Co1/3Mn1/3電極の容量(表2に示す)は142.1mAh/gであり、これはその実容量である147.0mAh/gに近い。このことは、負極としてのCu−Sにより正極の容量が完全に放出され、かつその可逆容量は正極材料のそれよりも低いことを意味する。
【0080】
【表2】
【0081】
図9は、LiMn/Li電池とLiMn/Cu−S電池との比較である。LiMn/Cu−S電池のサイクル特性とLiMn/Li電池のサイクル特性とは基本的に同様であることがわかる。維持率は、30サイクル後に95%を上回っており、このことは、Cu−S負極が良好なサイクル特性を示すことを表している。
【0082】
実施例10〜14
実施例8における負極の作製において、銅粉末を他の金属粉末に置き換えた。実施例10〜14においてLiMn/M−S(M=金属)コイン型電池を組み立て、実施例8と同様に試験した。試験結果を表3に示す。
【0083】
銅、ニッケル、コバルト、モリブデン、チタンおよび他の遷移金属粉末またはその部分酸化/硫化複合材を硫黄と混合した場合、硫黄の利用率および電池のサイクル特性が向上しうることが明らかである。
【0084】
【表3】
【0085】
実施例15
NaS 24gを、エタノール/水(1:1 v/v)50mL中に溶解させ、硫黄粉末10.8gを添加した。この混合物を室温で1時間反応させた。回転蒸発装置を用いて溶媒を除去した後、DMF(ジメチルホルムアミド)150mLを添加し、次いで撹拌した。その後、この溶液に1,3−ヘキサクロロブタジエン8.61gを徐々に滴下し、室温で1時間撹拌した。水300mLを添加することにより、生成物を析出させた。この析出物を、水、アセトンおよびメタノールで洗浄した。40℃で乾燥させた後、褐色の固体の炭素硫黄化合物((CS3.5)を得た。
【0086】
負極の作製は実施例1と同様であるが、但し、活物質として、硫黄粉末に代えて(CS3.5((CS3.5:Cuの質量比は1:2である)を使用する。LiMn/Cu−(CS3.5コイン型電池を組み立て、実施例1と同様に試験した。結果を表4に示す。
【0087】
実施例16、17および比較例5
実施例15における負極の作製において、活物質として(CS3.5を(CSに置き換えた。LiMn/Cu−(CS電池を実施例15と同様に組み立てた。結果を表4に示す。
【0088】
比較例5における負極の作製は実施例15と同様であるが、但し、電極に銅粉末を添加しなかった。結果を表4に示す。
【0089】
表4から、銅粉末の添加によって、炭素硫黄化合物の利用率および電池のサイクル特性が大幅に向上することが推論できる。
【0090】
【表4】
【0091】
本発明の例示的な実施形態について上述した。しかし、実施例に記載の条件および実施形態は実施可能性を立証するための例示と考えられ、本発明はこれらの条件に限定されるものではない。本発明の目標を達成するため、本発明を、本発明の要旨から逸脱することなく他の様々な条件に適用することができる。本発明の範囲は、特許請求の範囲に基づいて構成されるべきである。本出願人は、特許請求の範囲およびあらゆる均等物に包含されるいかなる実施形態についても、その権利を放棄するものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2016年12月14日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0044
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0044】
酸無水物の具体例としては、メリト酸三無水物、無水マロン酸、無水マレイン酸、無水酪酸、無水プロピオン酸、無水プルビン酸、無水フタロン酸、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水乳酸、無水ナフタル酸、無水トルイル酸、無水チオ安息香酸、無水ジフェニル、無水シトラコン酸、無水ジグリコールアミド酸、無水酢酸、無水コハク酸、無水桂皮酸、無水グルタル酸、無水吉草酸、無水イタコン酸、無水イソ酪酸、無水イソ吉草酸および無水安息香酸等が挙げられる。こうした酸無水物を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。非水電解質への酸無水物の添加量は、非水電解溶液の量に対して好ましくは0.05〜1質量%である。
【国際調査報告】