特表2017-514890(P2017-514890A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特表2017514890-DOPO系ハイブリッド難燃剤 図000015
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-514890(P2017-514890A)
(43)【公表日】2017年6月8日
(54)【発明の名称】DOPO系ハイブリッド難燃剤
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/40 20060101AFI20170512BHJP
   C07F 9/6578 20060101ALI20170512BHJP
   C09K 21/12 20060101ALI20170512BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20170512BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20170512BHJP
   C08K 5/5397 20060101ALI20170512BHJP
【FI】
   C07F9/40 BCSP
   C07F9/6578
   C09K21/12
   C08L101/00
   C08L67/00
   C08K5/5397
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-500406(P2017-500406)
(86)(22)【出願日】2015年3月16日
(85)【翻訳文提出日】2016年9月28日
(86)【国際出願番号】EP2015055433
(87)【国際公開番号】WO2015140105
(87)【国際公開日】20150924
(31)【優先権主張番号】14160392.8
(32)【優先日】2014年3月17日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】510143468
【氏名又は名称】エーエムペーアー・アイトゲネーシッシェ・マテリアルプリューフングス‐ウント・フォルシュングスアンシュタルト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ステルツィーク、ティメア
(72)【発明者】
【氏名】ボマー、レーア
(72)【発明者】
【氏名】ガーン、サビアサチ
(72)【発明者】
【氏名】ブチュコ、アレクサンドラ
(72)【発明者】
【氏名】フヘナス、ルドルフ
(72)【発明者】
【氏名】フォルトゥナート、ジュゼッピーノ
(72)【発明者】
【氏名】ヴュスト、ベンノ
(72)【発明者】
【氏名】バルバドロ、ピエルルイージ
【テーマコード(参考)】
4H028
4H050
4J002
【Fターム(参考)】
4H028AA29
4H028AA34
4H028BA06
4H050AA01
4H050AA02
4H050AB80
4H050AD15
4H050BB11
4H050BB12
4H050BD60
4H050BD70
4H050BE90
4H050WA14
4H050WA15
4H050WA23
4H050WA28
4J002AA011
4J002CF011
4J002CF061
4J002CF071
4J002CF081
4J002EU187
4J002EU197
4J002EW126
4J002FD136
4J002FD137
(57)【要約】
本発明は、式(I)の構造を有する、新規で改良型の無ハロゲン難燃性化合物に関する:式中、R及びRは、独立して、水素、C〜Cアルキル、−P(O)(OR、−P(O)OR、若しくは−P(O)Rであり、R及びRは、独立して、C〜Cアルキル、C〜C12アリール、C〜C15アラルキル、若しくはC〜C15アルカリルであるか、又はR及びRは、一緒になって、任意にアルキル基により置換されている不飽和環式環を形成し、各kは、独立して1から2までの整数であり、各Xは、独立して酸素(O)又は硫黄(S)であり、vは、0又は1であり、各Yは、独立してC〜Cアルキレン、Cアリーレン、C〜C15アラルキレン、C〜C15アルカリーレン、酸素(O)、RがH又はC〜Cアルキルである窒素(NR)であり、nは、0、1、又は2であり、但しYが酸素(O)又は窒素(NR)である場合は、nは1であり、各Zは、独立してC〜Cアルキレン、Cアリーレン、C〜C15アラルキレン、又はC〜C15アルカリーレンであり、mは、独立して0、1、又は2であり、但しYが酸素(O)又は窒素(N)である場合は、mは0ではあり得ず、各Qは、独立してC〜Cアルキレンであり、tは、1から2までの整数であり、Wは、酸素(O)又は硫黄(S)である。本化合物は、熱可塑性ポリエステル用の難燃性添加剤として特に好適である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの構造を有する難燃性化合物であって、
【化1】

式中、
及びRが、独立して、水素、C〜Cアルキル、−P(O)(OR、−P(O)OR、若しくは−P(O)Rであり、R及びRが、独立して、C〜Cアルキル、C〜C12アリール、C〜C15アラルキル、若しくはC〜C15アルカリルであるか、又はR及びRが、一緒になって、任意にアルキル基により置換されている不飽和環式環を形成し、
各kが、独立して1から2までの整数であり、
各Xが、独立して酸素(O)又は硫黄(S)であり、
vが、0又は1であり、
各Yが、独立して、C〜Cアルキレン、Cアリーレン、C〜C15アラルキレン、C〜C15アルカリーレン、酸素(O)、RがH又はC〜Cアルキルである窒素(NR)であり、
nが、0、1、又は2であり、但しYが酸素(O)又は窒素(NR)である場合は、nが1であり、
各Zが、独立して、C〜Cアルキレン、Cアリーレン、C〜C15アラルキレン、又はC〜C15アルカリーレンであり、
mが、独立して0、1、又は2であり、但しYが酸素(O)又は窒素(N)である場合は、mが0ではあり得ず、
各Qが、独立してC〜Cアルキレンであり、
tが、1から2までの整数であり、
Wが、酸素(O)又は硫黄(S)である難燃性化合物。
【請求項2】
・DOPO−PEPA、及び
・DOPS−PEPAからなる群から選択される、請求項1に記載の難燃性化合物。
【請求項3】
少なくとも1つの熱可塑性ポリマー樹脂、請求項1又は2に記載の少なくとも1つの難燃性化合物、及び任意選択で任意の従来の添加剤を含む、耐炎性が向上したポリマー材料。
【請求項4】
前記熱可塑性ポリマー樹脂が、熱可塑性ポリエステル樹脂である、請求項3に記載のポリマー材料。
【請求項5】
窒素に基づく難燃剤を第2の難燃剤成分として更に含む、請求項3又は4に記載のポリマー材料。
【請求項6】
顆粒形態又は成型形態である、請求項3〜5のいずれか一項に記載のポリマー材料。
【請求項7】
前記難燃剤成分(I)の総含有量が、前記組成物の総重量の14重量%〜30重量%である、請求項6に記載のポリマー材料。
【請求項8】
繊維形態である、請求項3〜5のいずれか一項に記載のポリマー材料。
【請求項9】
前記難燃剤成分(I)の総含有量が、前記組成物の総重量の5重量%〜20重量%である、請求項8に記載のポリマー材料。
【請求項10】
前記難燃性化合物が表層として堆積されている、請求項3又は4に記載のポリマー材料。
【請求項11】
請求項1に記載の難燃性化合物を製造する方法であって、式(A)の化合物を、
【化2】

塩基の存在下で式(B)の化合物と反応させることを含み、
【化3】

式中、
a)R、R、m、X、v、Y、n、及びZが、上記で規定されている通りであり、Tが、水素、又はCl、Br、若しくはIから選択されるハロゲンであり、但しTが水素である場合は、n及びmが両方とも0であり、Q、t、Wが、上記で規定されている通りであり、Lが、ヒドロキシル(−OH)であるか、又は
b)R、R、m、X、v、Y、n、及びZが、上記で規定されている通りであり、Tがヒドロキシル(OH)であり、mが0ではなく、Q、t、Wが、上記で規定されている通りであり、Lが、Cl、Br、又はIから選択されるハロゲンである方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、新規の難燃剤である9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
種々のリン含有化合物が、難燃添加剤としての好適性について既に調査されている。特に、DOPO(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−ホスファフェナントレン−10−オキシド)及びその誘導体が、難燃剤として研究されており、主に気相難燃機序により活性であることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1からは、DOPO系ホスホナートを効率的に合成することができることが知られており、特許文献2には、ポリフェニレンエーテル配合物用の難燃添加剤としてのDOPO系ホスホナート及びホスフィナートの有用性が実証されている。加えて、特許文献3には、DOPO系ホスホンアミダートの合成、及びポリウレタンフォームにおけるそれらの適用が記載されている。
【0004】
更に、特許文献4及び特許文献5からは、DOPOを不飽和ジカルボン酸と反応させてから、エステル結合を構築するのに好適な他のP−含有誘導体と共重合させて、様々なP含有量を有する難燃性ポリエステルを得ることができることが知られている。こうしたDOPO系ポリマーは、例えば、繊維に応用する場合は、ポリエチレンテレフタラート(PET)用の難燃添加剤としての、又はエンジニアリングプラスチックでは、独立型難燃性ポリエステルとしての役目を果たすことができる。
【0005】
報告されているDOPO誘導体の幾つかは、熱安定性であるため、ポリエステル加工に一般的に使用される高温にて溶融加工が可能であろうが、これら誘導体はいずれも、熱分解時に炭状物を形成するという特性については示されていない。この特性は、難燃添加剤としての効力を増大させ得る。
【0006】
非特許文献1に報告されているもの等の、炭状物形成単位であるペンタエリトリトールジホスホナートを含有し、ペンダント基としてDOPOを有するポリマー及び/又はオリゴマー(通常、分子量は報告されない)等が知られている。しかしながら、報告されている構造は全て、ハロゲン化末端基を有するという懸念が解決されていない。これは、比較的低分子量の添加剤の場合に末端基の意義が増すという事実を考慮すると、問題となる場合がある。
【0007】
ペンタエリトリトールホスファートアルコール(PEPA)は、主として凝縮相で活性であり、熱分解時に最大40重量%の炭状物を成形する、比較的熱安定性が低い(約200℃で分解する)難燃添加剤であることが知られている。PEPAの誘導体は、特許文献6に記載されているように、主にポリプロピレン等のポリオレフィン用の難燃添加剤として使用されている。
【0008】
特許文献7には、不活性ガス生成化合物(例えば、メラミン)又は他のリン含有誘導体(例えば、ポリリン酸アンモニウム)等の他のポリマー添加剤と組み合わせると、ポリオレフィンを難燃剤にするPEPA誘導体が記載されている。特許文献8には、煙抑制不飽和ポリエステル樹脂組成物を得るためのPEPA誘導体の使用が教示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許第1506968号明細書
【特許文献2】米国特許第4228064号明細書
【特許文献3】欧州特許第2557085号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第10330774号明細書
【特許文献5】欧州特許第2284208号明細書
【特許文献6】米国特許第5420326号明細書
【特許文献7】米国特許第4801625号明細書
【特許文献8】国際公開第91/04295号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Wang X.ら、Materials Chemistry and Physics 2011年、125巻、536〜541頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
耐炎性を必要とする最も重要な種類の合成ポリマーの1つは、おそらくは、エンジニアリングプラスチック並びに溶融紡糸繊維として広く応用されている熱可塑性ポリエステルである。そのようなポリマーに添加される難燃添加剤はいずれも、ポリマーの溶融加工に一般的に必要とされる温度に耐える十分な熱安定性を有するべきである。したがって、高温で加工される熱可塑性プラスチック用の、新規で改良型の無ハロゲン難燃剤が依然として必要とされている。そのような化合物は、難燃作用が効率的であるべきであり、融解粘性(加工性)、機械的性質、又は繊維を溶融紡糸する能力等のポリマーマトリックスの所望の特性に悪影響を及ぼすべきではない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の態様によると、式(I)の構造を有する難燃性化合物が提供される:
【0013】
【化1】
【0014】
式中、R及びRは、独立して、水素、C〜Cアルキル、−P(O)(OR−P(O)OR、−P(O)Rであってもよく、R及びRは、独立して、C〜Cアルキル、C〜C12アリール、C〜C15アラルキル、C〜C15アルカリルであってもよく、又はR及びRは、一緒になって、アルキル基により置換されていてもよい不飽和環式環を形成してもよく、各kは、独立して1から2までの整数であってもよく、各Xは、独立して酸素(O)又は硫黄(S)であってもよく、vは、0又は1であってもよく、各Yは、独立して、C〜Cアルキレン、Cアリーレン、C〜C15アラルキレン、C〜C15アルカリーレン(alkarylene)、酸素(O)、RがH又はC〜Cアルキルである窒素(NR)であってもよく、nは、0、1、又は2であってもよく、但しYが酸素(O)又は窒素(NR)である場合は、nは1であり、各Zは、独立して、C〜Cアルキレン、Cアリーレン、C〜C15アラルキレン、又はC〜C15アルカリーレンであってもよく、mは、独立して0、1、又は2であってもよく、但しYが酸素(O)又は窒素(N)である場合は、mは0ではあり得ず、各Qは、独立してC〜Cアルキレンであってもよく、tは、1から2までの整数であり、Wは、酸素(O)又は硫黄(S)であってもよい。
【0015】
本発明の有利な実施形態は、従属請求項に規定されており、及び/又は下記に記載されている。
驚くべきことに、DOPO型部分及びPEPA型部分の組み合わせに基づいているため、「ハイブリッド難燃剤」とみなすことができる上記で規定した化合物は、難燃性化合物に、特に熱可塑性ポリエステル用の難燃添加剤に非常に望ましい幾つかの特徴の組み合わせを示すことを見出した。そのような有利な特性は、限定するものではないが、高い熱安定性(融解混合が可能になる)、ほとんどのポリエステルの融解加工温度よりもわずかに低い、少なくとも約150℃の高融解温度を含み、したがって添加剤をポリマーマトリックス中により均一に分散させることが可能になる。好ましくは、化合物の熱安定性は、約270℃から約335℃まで、より好ましくは約280℃から約330℃まで、最も好ましくは約290℃から約325℃までであり、融解温度は、好ましくは約150℃から約260℃まで、より好ましくは約160℃から約240℃まで、最も好ましくは約170℃から約230℃までである。本発明の化合物は、火炎又は火と接触すると、気相及び凝縮相で同時にハイブリッド難燃活性を示す。言い換えれば、異なる難燃性機序が1分子中に組み合わされているため、2つの異なる難燃性化合物を混合しなくとも、異なる難燃性機序をポリマーに付与することができる。
【0016】
本発明の化合物は、特定の熱硬化性ポリマーの耐炎性を向上させるために有用であり得ることが企図される。
しかしながら、特に、本発明の化合物は、添加物配合量が比較的低くとも、耐炎性が良好な熱可塑性ポリエステル材料の製作に有用である。
【0017】
したがって、本発明の別の態様によると、少なくとも1つの熱可塑性ポリマー樹脂、及び上記で規定した式(I)の構造を有する少なくとも1つの難燃性化合物を含み、任意選択で任意の従来の添加剤を含む、以降は「耐炎性ポリマー材料」とも呼ばれる、耐炎性が向上したポリマー材料が提供される。
【0018】
幾つかの実施形態では、熱可塑性ポリマー樹脂は、ポリオレフィン、ポリカーボネート、又はエポキシ樹脂であってもよい。別の実施形態によると、熱可塑性ポリマー樹脂は、ポリエステル樹脂である。
【0019】
1つの実施形態によると、耐炎性ポリマー材料は、窒素に基づく難燃剤を第2の難燃剤成分として含んでいてもよい。
1つの実施形態によると、ポリマー材料は、エンジニアリングプラスチックへの適用に好適な形態である。別の実施形態によると、ポリマー材料は、特に織布に適用するための繊維形態である。
【0020】
下記において、用語「ラジカル」は、「基」又は「部分」又は「置換基」と同義的に使用されることがあり、例えば、「アルキルラジカル」は、有機化学の慣例により「アルキル基」と等しい。
【0021】
別様の指定がない限り、用語「アルキル」は、本明細書で使用される場合、限定するものではないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、又はイソブチル等の、直鎖部分又は分岐部分を有する飽和一価炭化水素ラジカルを含む。
【0022】
別様の指定がない限り、用語「アルキレン」は、本明細書で使用される場合、限定するものではないが、メチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、又はイソブチレン等の、直鎖部分又は分岐部分を有する飽和二価炭化水素ラジカルを含む。
【0023】
別様の指定がない限り、用語「アリール」は、本明細書で使用される場合、限定するものではないがフェニル又はナフチル等の、1つの水素を除去することにより芳香族炭化水素から誘導される芳香族ラジカルを含む。
【0024】
別様の指定がない限り、用語「アリーレン」は、本明細書で使用される場合、これに限定されないがフェニレン等の、2つの水素を除去することにより芳香族炭化水素から誘導される芳香族二価ラジカルを含む。
【0025】
別様の指定がない限り、用語「アラルキル」は、本明細書で使用される場合、限定するものではないが、ベンジル(C−CH−)又はメチルベンジル(CH−C−CH−)等の「アリール−アルキル−」基を指す。
【0026】
別様の指定がない限り、用語「アルカリル」は、本明細書で使用される場合、限定するものではないが、メチルフェニル(CH−C−)、ジメチルフェニル((CH−C−)、又はイソプロピルフェニル((CHC−C−)等の、「アルキル−アリール−」基を指す。
【0027】
別様の指定がない限り、用語「熱安定性」は、化合物に関して本明細書で使用される場合、「分解温度」を示すことにより特徴付けられる。「分解温度」は、化合物の実質的な熱分解(不活性雰囲気下にて5%の重量減少)が始まる閾値温度であると理解されるものとする。
【0028】
難燃性化合物の1つの実施形態では、n及びmは両方とも0であり、Xは独立して酸素(O)又は硫黄(S)であり、Qはメチレン(−CH−)であり、tは1であり、Wは酸素(O)である。別の実施形態では、R及びRは両方とも、独立して水素又はC〜Cアルキルである。別の実施形態では、Yはメチレン(−CH−)であり、nは1であり、mは0であり、Xは酸素(O)であり、Qはメチレン(−CH−)であり、tは1であり、Wは酸素(O)である。更に別の実施形態では、Xは独立して酸素(O)又は硫黄(S)であり、Yは酸素(−O−)又は窒素(−NH−)であり、nは1であり、Zはメチレン(−CH−)であり、mは2であり、Qはメチレン(−CH−)であり、tは1であり、Wは酸素(O)である。
【0029】
本発明で使用することができる式(I)の化合物の特定の例は、以下の通りである。
【0030】
【化2】
【0031】
別の態様によると、式(I)のハイブリッド難燃性化合物を製作する方法は、式(A)の化合物であって、
【0032】
【化3】
【0033】
式中、R、R、m、X、v、Y、n、及びZが、上記で規定されている通りであり、Tが、水素、又はCl、Br、若しくはIから選択されるハロゲンであってもよく、但しTが水素である場合は、n及びmが両方とも0である化合物を、式(B)の化合物であって、
【0034】
【化4】
【0035】
式中、Q、t、Wが上記で規定されている通りであり、Lがヒドロキシル(−OH)である化合物と、塩基の存在下で反応させることを含む。
使用することができる塩基は、第三級アミン等の、求核置換反応でハロゲン化水素を除去することが可能な任意の好適な塩基である。一般的に、好適な塩基としては、限定するものではないが、トリエチルアミン又はN−メチルイミダゾールが挙げられる。
【0036】
塩基は、式Aの化合物の量に基づき、約1から約10当量まで又は約1〜約5当量を含む、任意の好適な量で使用することができる。
この方法は、任意に溶媒中で実施してもよい。使用することができる溶媒としては、限定するものではないが、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、トルエン、又はそれらの混合物が挙げられる。
【0037】
このプロセスは、約−5℃から約110℃までの範囲の温度で実施することができる。
式(I)のハイブリッド難燃性化合物を生成するために使用することができる別の方法は、式(A)の化合物であって、R、R、m、X、v、Y、n、及びZが、上記で規定されている通りであり、Tがヒドロキシル(OH)であり、mが0ではあり得ない化合物を、式Bの化合物であって、Q、t、Wが、上記で規定されている通りであり、Lが、Cl、Br、又はIから選択されるハロゲンである化合物と、塩基の存在下で反応させることを含む。
【0038】
使用することができる1つの塩基は、アルキル金属アルコキシド、アルカリ金属アミド、及びアルカリ金属アルキルアミド等のアルカリ金属塩基である。使用することができる塩基の例としては、限定するものではないが、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、カリウムt−ブトキシド、リチウムジイソプロピルアミド、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0039】
この方法は、任意に溶媒中で実施してもよい。使用することができる溶媒としては、限定するものではないが、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、トルエン、キシレン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、又はそれらの混合物が挙げられる。
【0040】
この方法は、約−5℃から約75℃までの範囲の温度で実施することができる。
式(I)の化合物の純度は、ポリエステルと混合する場合、95%超、より好ましくは98%超、又は最も好ましくは99%超であるべきでることが好ましい。
【0041】
本発明では、「熱可塑性ポリエステル樹脂」は、少なくとも1つの脂肪族又は芳香族ジヒドロキシ化合物及び少なくとも1つの芳香族ジカルボン酸に基づくポリエステルであると規定される。種々の実施形態で使用される熱可塑性ポリエステルには制限はなく、様々なものを使用することができる。特に好ましいポリエステルは、ポリブチレンテレフタラート(一般的な略称はPBT)、ポリエチレンテレフタラート(一般的な略称はPET)、及びポリエチレンナフタラート(一般的な略称はPEN)、又はこれらの任意の組み合わせである。また、用語「熱可塑性ポリエステル」は、限定するものではないが、コポリエーテルエステル(一般的な略称はCOPES又はTPE−E)等の、熱可塑性コポリエステルエラストマーも含む。具体的に記載されていない他のポリエステルも、こうした実施形態に包含されており、上述のハイブリッド難燃剤系と組み合わせて、本発明の難燃性ポリエステルを生成することができる。この種の製品は、例えば、ULTRADUR(登録商標)(BASF社、PBT)及びアーニテル(ARNITEL)(登録商標)(DSM社、TPE−E)である。
【0042】
以下では「組成物」とも略称される耐炎性ポリマー材料の実施形態では、本発明によるハイブリッド難燃剤成分の総含有量は様々であってよく、耐炎性ポリマー材料の所望の特性に基づいて変更することができる。
【0043】
例えば、幾つかの実施形態では、特にポリマー材料が顆粒形態又は成型形態である場合、難燃剤成分の総含有量は、大部分の所望の適用に関する機械的及び電気的特性が満たされるように、好ましくは組成物の総重量の30重量%未満、より好ましくは組成物の総重量の25重量%未満、及び最も好ましくは組成物の総重量の20重量%未満である。しかしながら、十分な難燃特性を達成するためには、難燃剤成分の総含有量は、好ましくは組成物の総重量の14重量%以上である。
【0044】
他の実施形態では、特にポリマー材料が繊維形態である場合、難燃剤成分の総含有量は、好ましくは組成物の総重量の15重量%未満、より好ましくは組成物の総重量の10重量%未満、及び更により好ましくは組成物の総重量の7重量%未満である。しかしながら、十分な難燃特性を達成するためには、難燃剤成分の総含有量は、好ましくは組成物の総重量の5重量%超である。
【0045】
耐炎性ポリマー材料は、例えば色を提供するために、又は難燃性ポリエステルにより示される1つ又は複数の特性を向上させるために、更なる添加物を含んでいてもよいことが理解されるであろう。そのような更なる添加剤の例としては、限定するものではないが、以下の例が挙げられる:耐火性添加剤、加工助剤、熱及び加工安定剤、UV安定剤、これに限定されないが、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の防滴剤、顔料、分散剤、成核剤、及びポリエステル又はポリエステル繊維と共に一般的に使用される他の添加剤。そのような添加剤は、市販のポリマー樹脂に含有されていることが多い。
【0046】
1つの実施形態では、耐炎性ポリマー材料は、窒素に基づく難燃剤を第2の難燃剤成分として更に含む。そのような窒素に基づく難燃剤は一般的に知られており、限定するものではないが、高窒素含有量を有する対称性トリアジン誘導体、複合体、及び縮合物を挙げることができる。特に好適な窒素に基づく難燃剤は、200℃を超える温度での溶融加工を可能にする適切な熱安定性を有するものである。更に、窒素に基づく難燃剤は、ポリエステル樹脂との相溶性、及び本発明で適用される他の添加剤成分との相溶性を有するものでなければならない。加えて、窒素に基づく難燃剤は、ポリエステル樹脂に組み込まれた際に表面へと移動すべきではなく、溶融加工に好適な微細粒径分布を有するものが入手可能であるべきであり、ポリエステル樹脂に組み込まれた際に変色又は臭気を引き起こすべきではない。
【0047】
本発明の上述の及び他の特徴及び目的並びにそれらを達成するための方法は、本発明の種々の実施形態に関する以下の説明を添付の図面と共に参照すると、より明白になり、本発明それ自体が良好に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】アーニテル(登録商標)製品及びアーニテル(登録商標)622+実施例1(14重量%)のDSC曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
実施例
以下の例は、本発明を例示するものである。しかしながら、本明細書で説明されており、特許請求の範囲に記載されている発明を、以下の実施例の詳細により限定する意図はないと理解されるべきである。
【0050】
実施例1
DOPO−PEPAの合成
【0051】
【化5】
【0052】
この例では、500gの9,10−ジヒドロ−9−オキサ−ホスファフェナントレン−10−オキシド(DOPO)及び458gのペンタエリトリトールホスファートアルコール(PEPA)を、1.5Lのジクロロメタン(DCM)に入れた。221mLのN−メチルイミダゾール(NMI)を撹拌懸濁液に添加し、その後248mLの四塩化炭素(CCl)を1時間にわたって滴加した。CClの添加中、温度を15°〜20℃に維持した。続いて、反応混合物を6時間還流させた。冷却した後、ジクロロメタンを減圧下で蒸留し、産物を水(2L)で析出させた。3時間撹拌した後、産物を白色粉体としてろ過し、減圧下60℃で重量が変化しなくなるまで乾燥させて、744g(82%)のDOPO−PEPAを得た。
【0053】
融点:m.p.=222℃(DSCに基づく、加熱速度=5℃分−1
熱安定性:T5%=338℃;T63.%=700℃
リン含有量:15.71重量%
H−NMR、δ(ppm):3.98〜4.09(m、2H);4.48(d、=6.5Hz、);7.34〜7.40(m、2H)、7.51(t、=7.7Ηz、1Η);7.65(dt、J=3.8Hz、J=7.4Hz、1H);7.85〜7.95(m、2H);8.20〜8.27(m、2H)
13C−NMR、δ(ppm):37.48、61.87、75.02、119.95、120.65、121.92、124.86、125.39、126.03、128.91、130.03、131.06、134.41、136.35、148.87。
【0054】
31P−NMR、δ(ppm):−7.18;10.96。
実施例2
DOPS−PEPAの合成
【0055】
【化6】
【0056】
この例では、10gの6−クロロ−6H−ジベンゾ[c,e][l,2]オキサホスフィニン(DOP−Cl)及び1.6gのSの100mLトルエン中懸濁液を加熱して、5時間還流させた。それを室温に冷却した後、3.7mLのN−メチルイミダゾール(NMI)を添加し、その後8.4gのペンタエリトリトールホスファートアルコール(PEPA)を添加した。添加中、温度を15°〜20℃に維持した。続いて、反応混合物を3時間還流させた。それを室温に冷却した後、析出した産物をろ過し、水(2×300mL)及びアルコール(2×300mL)で洗浄した。得られた白色粉体を、減圧下60℃で重量が変化しなくなるまで乾燥させて、12.3g(70%)のDOPS−PEPAを得た。
【0057】
融点:m.p.=200℃(DSCに基づく、加熱速度=5℃分−1
熱安定性:T5%=296℃;T64.%=700℃
リン含有量:15.10重量%
H−NMR、δ(ppm):3.99〜4.09(m、2H);4.33〜4.42(m、);7.36〜7.41(m、2H)、7.52(t、=8.0Hz、1H);7.63〜7.67(m、1H);7.85(t、=8.0Hz、1H);7.95〜8.02(m、1H)、8.18〜8.22(m、2H)
13C−NMR、δ(ppm):37.28、61.83、74.94、119.96、122.24、124.73、125.10、125.58、126.03、128.93、130.81、131.02、134.13、134.35、148.77。
【0058】
31P−NMR、δ(ppm):−7.27;77.03。
実施例3及び4
難燃剤TPE−E(アーニテル(登録商標)622)
溶融加工:
スクリュー直径が24mmであり、L/D比が40である同方向回転二軸押出機(Haake Polylab OS社、PTW 24/40型、ドイツ)で、種々のアーニテル(登録商標)組成物を調製した。材料の投入は、重量測定供給システム(Three Tec社、スイス)を使用して実施した。組成物は全て、同一のスクリュー回転速度で処理した。融解物の測定温度は、全ての配合物で230℃であった。混合融解物をノズルに通し、水浴で室温に冷却し、切断して顆粒にした。顆粒を、真空オーブンで12時間100℃にて乾燥させた。分析した顆粒を、72時間50%相対湿度に置いて慣らした。得られた化合物は、以下の通りであった:
実施例3:18重量%のDOPO−PEPA(実施例1)を有するアーニテル(登録商標)CM622(2.8重量%のP含有量)、m.p.=224℃
実施例4:14重量%のDOPO−PEPA(実施例1)及び4重量%のMelapur MC50(メラミンシアヌラート)を有するアーニテル(登録商標)CM622(2.2重量%のP含有量)、m.p.=224℃
比較例5:難燃添加剤を含有しないアーニテル(登録商標)CM622(0重量%のP含有量)、m.p.=218℃
比較例6:ハロゲン化難燃添加剤を含有するアーニテル(登録商標)LX07000(0重量%のP含有量)、m.p.=226℃
比較例7:窒素に基づく難燃添加剤を含有するアーニテル(登録商標)CM600(0重量%のP含有量)、m.p.=216℃
ASTM D3801 UL94−垂直燃焼試験
乾燥した顆粒を、1mm厚プレートに圧縮成型し、ASTM D3801 UL94−垂直の燃焼試験(V−0、V−l、又はV−2)により必要とされる寸法(長さ125±5mm、幅13.0±0.5mm)に切断した。
【0059】
【表1】
【0060】
示差走査熱量測定(DSC)
示差走査熱量測定法を実施して、アーニテル(登録商標)配合物を評価した(図1)。1回目の加熱サイクル(5℃分−1の加熱速度を使用)を使用して、上記で報告したように化合物の融点を評価した。10℃分−1の冷却速度で冷却した後、配合物を、10℃分−1の加熱速度で再加熱した。2回目の加熱サイクルでは、実施例3の組成物のみが、TPE純品(比較例5)と同一の融点を示した。2回目の加熱サイクルにおける熱可塑性組成物の融解温度の低下は、熱可塑性セグメントの分子量の劣化、ひいてはその所望の機械的及び物理的特性の低下を強く示唆する。
【0061】
これらの測定は、実施例1の添加剤がポリマーマトリックスに対して良好な適合性を示し、有害効果がないことを示している。アーニテル(登録商標)組成物の高温耐性は、自動車産業におけるそれらの主用途がフード下での適用であることを考えると、またリサイクルの観点からも、重要である。
【0062】
実施例8
難燃剤PET繊維
1.40g cm−3の粘性を有する紡糸準備済みPET顆粒を、5重量%の実施例1のハイブリッド難燃剤と予混し、直径が13mmで長さ対直径(L/D)比が25である単軸押出機を備えるホッパーから紡糸口金に導入した。直径が0.5mmで長さ対直径(L/D)比が4であるモノフィラメント紡糸口金を使用した。PET組成物を、270℃の溶融温度及び1650m分−1の巻取り速度で紡糸した。5.5の延伸量(draw ration)で得られたモノフィラメントPET組成物は、φ=59μmの直径及び36dtexの繊維線密度を有していた。得られた難燃性PET繊維(実施例8)は、対応する0.8重量%のP含有量を有するが、比較例9は、難燃剤を添加しなかった対照例として調製した。
【0063】
繊維の物理的特性は、表2に列挙されている。比較例9は対照試料である。
【0064】
【表2】
【0065】
耐火性を評価するために、PET繊維を、0.13±0.03g cm−2の密度の織布にした。平均重量1±0.02gの、長さ10cmの5つの試料を各実施例から切断した。長さが100±5mmの堅く圧延した試料を、以下の試験手順に従って垂直燃焼試験にかけ、ASTM D3801 UL94−垂直燃焼試験(V−0、V−l、又はV−2)に記載のように材料を分類した。結果は、表2に列挙されている。
【0066】
実施例10
難燃剤PBT(ULTRADUR(登録商標))
スクリュー直径が24mmであり、L/D比が40である同方向回転二軸押出機(Haake Polylab OS社、PTW 24/40型、ドイツ)で、種々のUltradur(登録商標)組成物を調製した。材料の投入は、重量測定供給システム(Three Tec社、スイス)を使用して実施した。組成物は全て、同一のスクリュー回転速度で処理した。混合融解物をノズルに通し、水浴で室温に冷却し、切断して顆粒にした。顆粒を、真空オーブンで12時間80℃にて乾燥させた。分析した顆粒を、72時間50%相対湿度に置いて慣らした。
【0067】
得られた化合物は、以下の通りであった:
実施例10:20重量%DOPO−PEPA(実施例1)及び4.5重量%Melapur MC50(メラミンシアヌラート)を有するUltradur(登録商標)(3.2重量%のP含有量)
比較例11:難燃添加剤を含有しないUltradur(登録商標)(0重量%のP含有量)
ASTM D3801 UL94−垂直燃焼試験
乾燥した顆粒を、1mm厚プレートに圧縮成型し、ASTM D3801 UL94−垂直燃焼試験(V−0、V−l、又はV−2)により必要とされる寸法(長さ125±5mm、幅13.0±0.5mm)に切断した。
【0068】
【表3】
図1
【国際調査報告】