(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-515911(P2017-515911A)
(43)【公表日】2017年6月15日
(54)【発明の名称】クルクミン−ペプチドコンジュゲートおよびその製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/12 20060101AFI20170519BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20170519BHJP
A61K 47/50 20170101ALI20170519BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20170519BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20170519BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20170519BHJP
A61P 27/12 20060101ALI20170519BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20170519BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20170519BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20170519BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20170519BHJP
A61P 33/06 20060101ALI20170519BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20170519BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20170519BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20170519BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20170519BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20170519BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20170519BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20170519BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20170519BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20170519BHJP
【FI】
A61K31/12
A61K47/42
A61K47/48
A61P3/10
A61P11/06
A61P37/08
A61P27/12
A61P9/10
A61P25/28
A61P25/16
A61P31/18
A61P33/06
A61P17/06
A61P43/00 105
A61P3/06
A61P31/12
A61P25/00
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P37/06
A61P1/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-512657(P2017-512657)
(86)(22)【出願日】2015年5月12日
(85)【翻訳文提出日】2016年12月2日
(86)【国際出願番号】US2015030434
(87)【国際公開番号】WO2015175573
(87)【国際公開日】20151119
(31)【優先権主張番号】61/992,123
(32)【優先日】2014年5月12日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】516341800
【氏名又は名称】ハウズ バイオスーティカルズ,インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】516341811
【氏名又は名称】チャンシー,ジョン
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】チャンシー,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ペイン,アダム,ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】セントラ,マイケル
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA94
4C076AA95
4C076BB01
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4C076CC21
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4C076EE41N
4C076EE59N
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4C206ZB09
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4C206ZB21
4C206ZB38
4C206ZC33
4C206ZC35
4C206ZC55
(57)【要約】
クルクミノイド−ペプチド複合体を含む組成物が本明細書に開示される。クルクミノイド−ペプチド複合体を調製する方法であって、クルクミノイドを得ることと;ペプチドを得ることと;溶媒中でこのクルクミノイドとこのペプチドとを混合することとを含む、方法もまた開示される。対象を治療する方法であって、クルクミン関連障害の治療を必要とする対象を特定することと、記載されるクルクミノイド−ペプチド複合体を含む治療用組成物をこの対象に投与することとを含む、方法もまた開示される。記載されるクルクミノイド−ペプチド複合体と、薬学的に許容される補形剤、希釈剤、または担体を含む、治療用組成物もまた開示される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クルクミノイド−ペプチド複合体を含む組成物。
【請求項2】
前記クルクミノイドが、クルクミン、デスメトキシクルクミン(DMC)、ビスデスメトキシクルクミン(BDMC)、テトラヒドロクルクミン(THC)、テトラヒドロデスメトキシクルクミン(TDMC)、テトラヒドロビスデスメトキシクルクミンおよび(TBDMC)からなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ペプチドが、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、およびタンパク質フラグメントからなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ペプチドが、乳清タンパク質、腫瘍壊死因子(TNF−α);シクロオキシゲナーゼ(COX)(COX−1およびCOX−2を含む);α1酸性糖タンパク質(AGP)(オロソムコイドとしても知られる);ミエロイド分化タンパク質2(MD−2);ヒストンアセチル−トランスフェラーゼ(HAT)と呼ばれる酵素のグループのうちのいずれか1つ、p300/CBPなど;ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)と呼ばれる酵素のグループのうちのいずれか1つ;グリオキサラーゼI(GLOI);キサンチンオキシダーゼ(XO);プロテアソーム;筋小胞体(小胞体)Ca2+ATPアーゼ(SERCA);1型ヒト免疫不全ウイルス(HIV−1)プロテアーゼ;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)のうちのいずれか1つ、例えばDNMT1;DNAポリメラーゼ(pol)λ;リボヌクレアーゼ(RNアーゼ)のうちのいずれか1つ、例えばRNアーゼA;リポキシゲナーゼ(LOX)のうちのいずれか1つ;マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)のうちのいずれか1つ;リゾチーム;プロテインキナーゼC(PKC)ファミリーの酵素のうちのいずれか1つ;細胞性肉腫(c−Src);グリコーゲンシンターゼキナーゼ(GSK)−3β;ErbB2;ホスホリラーゼキナーゼ;タンパク質還元酵素のうちのいずれか1つ、例えばチオレドキシン還元酵素(TrxR)およびアルドース還元酵素(ALR2);チオレドキシン還元酵素;カゼインのうちのいずれか1つ;ヒト血清アルブミン(HSA);ウシ血清アルブミン(BSA);フィブリノーゲン;β−ラクトグロブリン(β−LG);α−ラクトアルブミン;ヒト血清免疫グロブリン(Ig);FtsZ;トランスサイレチン(TTR);グルタチオン(GSH);およびKelch様ECH関連タンパク質1(Keap1)からなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ペプチドが、乳清タンパク質、米タンパク質、またはエンドウマメタンパク質である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記クルクミノイドと前記ペプチドとが、共有結合、イオン性相互作用、親油性(ファンデルワールス)相互作用、または水素結合によって結合される、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
クルクミンと乳清タンパク質との比が、1:1(w/w)(mg:g)、または1:≦10(w/w)(mg:g)、または10:≧1(w/w)(mg:g)、または25:1(w/w)(mg:g)、または1:50(w/w)(mg:g)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記クルクミノイド−ペプチド複合体が、前記クルクミノイドと前記ペプチドとを溶媒中で混合する工程によって得られる、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
クルクミノイドを得ることと、
ペプチドを得ることと、
前記クルクミノイドと前記ペプチドとを溶媒中で混合することと
を含む、クルクミノイド−ペプチド複合体を調製する方法。
【請求項10】
前記クルクミノイドが、クルクミン、デスメトキシクルクミン(DMC)、ビスデスメトキシクルクミン(BDMC)、テトラヒドロクルクミン(THC)、テトラヒドロデスメトキシクルクミン(TDMC)、テトラヒドロビスデスメトキシクルクミンおよび(TBDMC)からなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ペプチドが、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、およびタンパク質フラグメントからなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記ペプチドが、乳清タンパク質、腫瘍壊死因子(TNF−α);シクロオキシゲナーゼ(COX)(COX−1およびCOX−2を含む);α1酸性糖タンパク質(AGP)(オロソムコイドとしても知られる);ミエロイド分化タンパク質2(MD−2);ヒストンアセチル−トランスフェラーゼ(HAT)と呼ばれる酵素のグループのうちのいずれか1つ、p300/CBPなど;ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)と呼ばれる酵素のグループのうちのいずれか1つ;グリオキサラーゼI(GLOI);キサンチンオキシダーゼ(XO);プロテアソーム;筋小胞体(小胞体)Ca2+ATPアーゼ(SERCA);1型ヒト免疫不全ウイルス(HIV−1)プロテアーゼ;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)のうちのいずれか1つ、例えばDNMT1;DNAポリメラーゼ(pol)λ;リボヌクレアーゼ(RNアーゼ)のうちのいずれか1つ、例えばRNアーゼA;リポキシゲナーゼ(LOX)のうちのいずれか1つ;マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)のうちのいずれか1つ;リゾチーム;プロテインキナーゼC(PKC)ファミリーの酵素のうちのいずれか1つ;細胞性肉腫(c−Src);グリコーゲンシンターゼキナーゼ(GSK)−3β;ErbB2;ホスホリラーゼキナーゼ;タンパク質還元酵素のうちのいずれか1つ、例えばチオレドキシン還元酵素(TrxR)およびアルドース還元酵素(ALR2);チオレドキシン還元酵素;カゼインのうちのいずれか1つ;ヒト血清アルブミン(HSA);ウシ血清アルブミン(BSA);フィブリノーゲン;β−ラクトグロブリン(β−LG);α−ラクトアルブミン;ヒト血清免疫グロブリン(Ig);FtsZ;トランスサイレチン(TTR);グルタチオン(GSH);およびKelch様ECH関連タンパク質1(Keap1)からなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記溶媒が極性溶媒である、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記極性溶媒がアルコールである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記アルコールがエタノールである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
対象を治療する方法であって、
クルクミン関連障害の治療を必要とする対象を特定することと、
前記対象に請求項1に記載のクルクミノイド−ペプチド複合体を含む治療用組成物を投与することと
を含む、方法。
【請求項17】
前記クルクミン関連障害が、糖尿病、喘息、アレルギー、白内障、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、骨髄異形成症候群、嚢胞性線維症、心筋梗塞、高コレステロール症、脳卒中、マラリア、HIV、HSV−1、乾癬、およびその他の障害からなる群より選択される、請求項16に記載の方法。クルクミンが特に改善効果を示す疾患は、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、炎症性腸疾患、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、I型糖尿病、神経変性疾患、および数種類の癌を含む、自己免疫疾患である。
【請求項18】
投与後のクルクミンの血清中Cmaxが、500ng/mL未満である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
投与後のクルクミンの血清中Cmaxが、クルクミン投与量の0.001%未満である、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
請求項1に記載のクルクミノイド−ペプチド複合体と薬学的に許容される補形剤、希釈剤、または担体を含む、治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、2014年5月12日にPayneらによって出願された「CURCUMIN−PEPTIDE CONJUGATES AND FORMULATIONS THEREOF」と題する米国仮特許出願第61/992,123号の優先権を主張するものであり、上記出願の開示全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(技術分野)
本発明は、機能性食品の製剤の分野、より具体的には生体利用可能なクルクミノイドを有する製剤の分野に属する。
【背景技術】
【0003】
ターメリックはショウガ科のウコン(Curcuma longa)の根茎から得られるカレースパイスであり、アーユルヴェーダ医学および伝統的なアジアの食事に使われてきた長い歴史がある。ターメリックの主要な生物活性成分は黄色い色素のクルクミン(1,7−ビス[4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル]−1,6−ヘプタジエン−3,5−ジオン)であり、1910年に最初に同定された。米国では、クルクミンは食品(例えば、からし、チーズ、スパイス、シリアル、ポテトフレーク、スープ、ピクルス、アイスクリーム、およびヨーグルト)の着色料として、また機能性食品としても広く用いられている。最近、クルクミンは製剤開発の関心の的となっている。2011年6月の報告には、様々な臨床障害への食事クルクミンの使用に関して米国国立衛生研究所に登録された61件の試験が終了したか、進行中であることが記載された。
【0004】
市販のクルクミンには、クルクミンそのもの(77%)、デスメトキシクルクミン(DMC、17%)およびビスデスメトキシクルクミン(BDMC、3%)が含まれており、後の2つはメトキシ基がそれぞれ一方または両方欠けているという点だけでクルクミンとは異なっている。製薬学的用途のための上記の化合物およびその誘導体は、1つのグループとしてクルクミノイドと呼ばれている。上記3種類の化合物の主要な細胞代謝産物には、両方のビニリデン基が還元されているテトラヒドロクルクミノイド、すなわちTHC(テトラヒドロクルクミン)、TDMC(テトラヒドロデスメトキシクルクミン)およびTBDMC(テトラヒドロビスデスメトキシクルクミン)がある。テトラヒドロクルクミノイドは生物活性を保持しているが、無色でありクルクミノイドよりも化学的に安定である。
【0005】
クルクミンの医薬品としての特性は、抗酸化性、抗炎症性、抗ウイルス性、抗菌性、抗真菌性、抗催奇性、抗増殖性および抗転移性である報告された作用を含み、ヒトが8g/日の服用レベルで長期間摂取しても安全である。研究から、クルクミンは様々な程度に創傷治癒を促進し、糖尿病、喘息、アレルギー、白内障、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、骨髄異形成症候群、嚢胞性線維症、心筋梗塞、高コレステロール症、脳卒中、マラリア、HIV、HSV−1、乾癬などの疾患に対して治療および/または予防効果を有することが示されている。クルクミンが特に改善効果を示す疾患は、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、炎症性腸疾患、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、I型糖尿病、神経変性疾患、および数種類の癌を含む、自己免疫疾患である。
【0006】
クルクミンは、酸性pHおよび生理的pHでは実質的に水に不溶性(わずか約600ng/mLの溶解度)であり、かつアルカリ性pHでは短時間で加水分解されるため、その医薬品としての使用には制約がある。ヒトにクルクミンを高用量(8〜12g/日)で経口投与したときの血漿中濃度はナノモル濃度の範囲内にとどまる。クルクミンに関するin vitroでの治療的研究のほとんどは、有機溶媒でクルクミンを可溶化している。このような溶媒としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトンおよびエタノールが挙げられるが、それらはin vivo研究そのものにあまり適していない。クルクミンは溶解度が低いため、体全体で、特にクルクミンが脳血液関門を通過しにくい脳でのそのバイオアベイラビリティは低い。
【0007】
したがって、クルクミンのバイオアベイラビリティを増大させる方法および工程が目下必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
本明細書には、クルクミノイド−ペプチド複合体を含む組成物が開示される。またクルクミノイド−ペプチド複合体を調製する方法であって、クルクミノイドを得ることと;ペプチドを得ることと;溶媒中でクルクミノイドとペプチドとを混合することとを含む、方法も開示される。また対象を治療する方法も開示され、この方法は、クルクミン関連障害の治療を必要とする対象を特定することと、記載されるクルクミノイド−ペプチド複合体を含む機能性食品組成物を対象にこの投与することとを含む。また記載されるクルクミノイド−ペプチド複合体と薬学的に許容される補形剤、希釈剤、または担体を含む治療用組成物も開示される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】クルクミンが乳清タンパク質に結合することを示すゲル電気泳動実験の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態の詳細な説明)
本発明者らは、クルクミン−ペプチド複合体の服用が非複合体クルクミンの服用に比して血清中バイオアベイラビリティを有意に増大させることを発見した。
【0011】
したがって、一態様では、ペプチド化合物に結合したクルクミノイド化合物を含むクルクミノイド−ペプチド複合体が本明細書に開示される。
【0012】
「ペプチド化合物」または「ペプチド複合体」における「ペプチド」は、1つまたは複数のアミノ酸からなる化合物を意味する。ペプチドが2個以上のアミノ酸を有する場合、そのペプチドは、ペプチド結合によって結合される少なくとも2個のアミノ酸を有する。いくつかの実施形態では、ペプチドは、20種類の天然に存在するアミノ酸、または修飾アミノ酸のいずれかを含む。ある特定の実施形態では、化合物はオリゴペプチドであり、例えばアミノ酸を2個有する2ペプチド、アミノ酸を3個有するトリペプチド、4量体、5量体などである。いくつかの実施形態では、オリゴペプチドは2〜20個の間のアミノ酸を含む。他の実施形態では、ペプチド化合物は21〜100個の間のアミノ酸を有するポリペプチドである。Nが整数である「N量体」は、N個のアミノ酸を有するオリゴペプチドまたはポリペプチドを意味する。
【0013】
他の実施形態では、ペプチド化合物はタンパク質またはタンパク質フラグメントである。いくつかの実施形態では、タンパク質は天然に存在するものであり、細胞により発現される完全長配列のポリペプチドである。他の実施形態では、タンパク質は、天然にはみられない配列を有する合成タンパク質である。いくつかの実施形態では、合成タンパク質は、組換え技術を用いて細胞により発現され、他の実施形態では、合成タンパク質は、ペプチド合成機を用いて合成される。タンパク質フラグメントとは、タンパク質中にみられる配列フラグメントと同一の配列を有するオリゴペプチドまたはポリペプチドである。
【0014】
本開示および請求項の範囲内にあるアミノ酸、タンパク質、またはペプチドはいずれも、人工的にまたは天然に存在してよく、または任意の形態の修飾(化学的または酵素的翻訳後修飾)を有していてよい。
【0015】
いくつかの実施形態では、クルクミノイド化合物はペプチド化合物に結合されて複合体を形成する。このような実施形態では、クルクミノイド化合物はペプチドのアミノ酸に直接結合されるか、リンカー化合物を介して結合される。いくつかの実施形態では、リンカーはアルキル、アルケニル、またはアルキニル部分であり、これらは−OH、−SH、−COOH、−N−C(O)H、−N−C(O)OH、−C(O)NHなどからなる群より選択される置換基で置換されていてもよい。いくつかの実施形態では、置換基を介してリンカーはアミノ酸またはクルクミノイド化合物に結合される。
【0016】
他の実施形態では、クルクミノイド化合物は水素結合によりペプチド化合物に結合されて複合体を形成する。また別の実施形態では、クルクミノイド化合物は静電力によりペプチド化合物に結合されて複合体を形成する。また別の実施形態では、クルクミノイド化合物は親油性相互作用(例えば、ファンデルワールス力またはパイスタッキング)によりペプチド化合物に結合されて複合体を形成する。他の実施形態では、クルクミノイド化合物は共有結合によりペプチド化合物に結合されて複合体を形成する。
【0017】
いくつかの実施形態では、ペプチドは完全長タンパク質である。ある特定の実施形態では、タンパク質は哺乳動物の血清中に存在するものである。他の実施形態では、タンパク質は哺乳動物以外の動物の入手源に由来する。このような実施形態の一部では、タンパク質は鳥類の入手源、例えば卵タンパク質に由来する。また別の実施形態では、タンパク質は、穀物、堅果、莢果、果実、野菜などの植物に由来する。いくつかの実施形態では、タンパク質は、乳清、米、エンドウマメ、亜麻仁、大豆、卵から得られる。いくつかの実施形態では、タンパク質はアルブミンである。他の実施形態では、ペプチドはシステインまたはチロシンを含む。ある特定の実施形態では、ペプチドはN−アセチルシステインである。ある特定の実施形態では、単一のアミノ酸、例えばシステインまたはチロシンのみが用いられる。
【0018】
いくつかの実施形態では、天然の入手源から得られるタンパク質は、単離タンパク質でも精製タンパク質でもない。代わりに、そのタンパク質は一緒に単離される様々なタンパク質の混合物である。これらのタンパク質は特定の入手源の単離物である。したがって、例えば、乳清タンパク質単離物(WPI)は乳清から得られる単離タンパク質の混合物であり、米タンパク質単離物(RPI)は米から得られる単離タンパク質の混合物である。当業者であれば、タンパク質単離物、例えばWPIを得る方法を知っている。本開示全体を通じて、用語「乳清タンパク質」、「乳清タンパク質単離物」および「WPI」は互換的に使用される。
【0019】
本明細書に記載される複合体に使用されるオリゴペプチド、ポリペプチドおよび完全長タンパク質の例としては、特に限定されないが、乳清タンパク質、腫瘍壊死因子(TNF−α);シクロオキシゲナーゼ(COX)(COX−1およびCOX−2を含む);α1酸性糖タンパク質(AGP)(オロソムコイドとしても知られる);ミエロイド分化タンパク質2(MD−2);ヒストンアセチル−トランスフェラーゼ(HAT)と呼ばれる酵素のグループのうちのいずれか1つ、例えばp300/CBPなど;ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)と呼ばれる酵素のグループのうちのいずれか1つ;グリオキサラーゼI(GLOI);キサンチンオキシダーゼ(XO);プロテアソーム;筋小胞体(小胞体)Ca
2+ATPアーゼ(SERCA);1型ヒト免疫不全ウイルス(HIV−1)プロテアーゼ;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)のうちのいずれか1つ、例えばDNMT1;DNAポリメラーゼ(pol)λ;リボヌクレアーゼ(RNアーゼ)のうちのいずれか1つ、例えばRNアーゼA;リポキシゲナーゼ(LOX)のうちのいずれか1つ;マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)のうちのいずれか1つ;リゾチーム;プロテインキナーゼC(PKC)ファミリーの酵素のうちのいずれか1つ;細胞性肉腫(c−Src);グリコーゲンシンターゼキナーゼ(GSK)−3β;ErbB2;ホスホリラーゼキナーゼ;タンパク質還元酵素のうちのいずれか1つ、例えばチオレドキシン還元酵素(TrxR)およびアルドース還元酵素(ALR2);チオレドキシン還元酵素;カゼインのうちのいずれか1つ;ヒト血清アルブミン(HSA);ウシ血清アルブミン(BSA);フィブリノーゲン;β−ラクトグロブリン(β−LG);α−ラクトアルブミン;ヒト血清免疫グロブリン(Ig);FtsZ;トランスサイレチン(TTR);グルタチオン(GSH);およびKelch様ECH関連タンパク質1(Keap1)が挙げられる。
【0020】
いくつかの実施形態では、クルクミノイド−ペプチド複合体はクルクミンと乳清タンパク質単離物(WPI)の複合体である。ある特定の実施形態では、WPIは乳由来乳清タンパク質である。ミルク乳清タンパク質は、β−ラクトグロブリン(約65%)、α−ラクトアルブミン(約25%)、ウシ血清アルブミン(約8%)、および免疫グロブリンの混合物である。このような実施形態の一部では、エタノール中でクルクミンとWPIとを混合することによって複合体が形成される。したがって、このような実施形態では、クルクミンとWPIとの間に共有結合は存在しない。しかし、他の実施形態では、クルクミンとWPIが共有結合を形成する。ある特定の実施形態では、クルクミンとWPIの比は1:1(w/w)(クルクミンのmg数:WPIのg数)。他の実施形態では、クルクミン:WPIの比は1:≦10(w/w)(mg:g)である。また別の実施形態では、クルクミン:WPIの比は10:≧1(w/w)(mg:g)である。ある特定の実施形態では、クルクミン:WPIの比は25:1(w/w)(mg:g)である。他の実施形態では、クルクミン:WPIの比は1:50(w/w)(mg:g)である。いくつかの実施形態では、WPIは市販の入手源から得られ、それは入手可能な粉末中にWPIを85%含む。いくつかの実施形態では、クルクミンは市販の入手源から得られ、それは入手可能な粉末中にクルクミンを95%含む。
【0021】
別の態様では、本明細書に記載されるクルクミノイド−ペプチド複合体と、薬学的に許容される担体、希釈剤、または補形剤を含む機能性食品組成物が本明細書に開示される。
【0022】
「担体」という用語は、細胞内または組織内への化合物の取込みを促進する化合物を定義する。例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)は、生物の細胞内または組織内への多数の有機化合物の取込みを促進することから、よく用いられる担体である。よく用いられる担体は水であり、この場合、目的とする生成物の水溶液が調製され対象に投与される。
【0023】
「希釈剤」という用語は、水で希釈される化合物であって、目的とする化合物を溶解しかつその化合物の生物学的に活性な形態を安定化する化合物を定義する。当該技術分野では、緩衝溶液中に溶かした塩を希釈剤として用いる。よく用いられる緩衝溶液の1つはリン酸緩衝生理食塩水であり、なぜならそれはヒト血液の塩条件を模倣するからである。緩衝塩は低濃度で溶液のpHを調節できるため、緩衝希釈剤が化合物の生物活性を変化させることはまれである。
【0024】
ある特定の実施形態では、同じ物質が担体、希釈剤、または補形剤として作用することもあり、またはいずれか2つの役割を果たし、または3つすべての役割を果たすこともある。したがって、治療用組成物に対する単一の添加剤が複数の機能を有することがある。
【0025】
「生理的に許容される」という用語は、化合物の生物活性および特性を打ち消すことがない担体または希釈剤を定義する。
【0026】
本明細書に開示される治療用組成物は、そのものが知られている方法、例えば、従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠剤形成、磨砕、乳化、乾燥、カプセル化、封入または打錠の工程により製剤化され得る。
【0027】
したがって、本明細書に開示される治療用組成物は、クルクミノイド−ペプチド複合体を機能性食品として使用され得る調製物に加工することを容易にする補形剤および補助剤を含む1つまたは複数の生理的に許容される担体を用いる従来の方法で製剤化され得る。よく知られた技術、担体、および補形剤のいずれもが、適切なものとして、当該技術分野、例えば上記のRemington’s Pharmaceutical Scienceで理解されている通りに使用され得る。
【0028】
経口投与には、クルクミノイド−ペプチド複合体を当該技術分野で周知の薬学的に許容される担体と組み合わせることにより、クルクミノイド−ペプチド複合体を容易に製剤化できる。このような担体により、本開示の複合体を対象が経口服用するための錠剤、丸剤、糖衣錠剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤などとして製剤化することが可能になる。経口使用のための治療用調製物は、1つまたは複数の固体補形剤を本開示のクルクミノイド−ペプチド複合体と混合し、得られた混合物を任意選択で粉砕し、必要に応じて適切な補助剤を加えた後、顆粒の混合物を加工して錠剤または糖衣錠のコアを得ることにより得られる。適切な補形剤は、特に、ラクトース、スクロース、マンニトール、もしくはソルビトールを含む糖などの充填剤;セルロース調製物、例えばトウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、バレイショデンプン、ゼラチン、トラガントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などである。必要に応じて、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩、例えばアルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤を加えてもよい。
【0029】
糖衣錠コアには適切なコーティングを施す。この目的のために、任意選択でアラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラッカー溶液、および適切な有機溶媒または溶媒混合物を含有し得る濃縮糖溶液を使用し得る。活性化合物用量の様々な組み合わせを識別する、または特徴付けるために、錠剤または糖衣錠コーティングに染料または色素を加えてもよい。
【0030】
経口的に使用し得る治療用調製物としては、ゼラチンでできたプッシュフィットカプセル剤ならびに、ゼラチンとグリセロールまたはソルビトールなどの可塑剤とからできた密封軟カプセル剤が挙げられる。プッシュフィットカプセル剤は、ラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、および/またはタルクもしくはステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤ならびに任意選択で安定剤との混合物中に有効成分を含有し得る。軟カプセル剤では、活性化合物を油脂、流動パラフィン、または液体ポリエチレングリコールなどの適切な液体中に溶解または懸濁させ得る。さらに、安定剤を加えてもよい。経口投与用の製剤はいずれも、そのような投与に適した用量であるべきである。
【0031】
本明細書に開示される方法での使用に適した治療用組成物としては、クルクミノイド−ペプチド複合体がその意図する目的を達成するのに有効な量で含有される組成物が挙げられる。より具体的には、治療有効量は、疾患の症状の予防、軽減もしくは改善または治療する対象の生存期間の延長に有効なクルクミノイド−ペプチド複合体の量を意味する。
【0032】
患者に投与されるクルクミンの用量範囲は通常、患者の体重1kg当たり約0.5〜1000mg/kgである。用量は患者の必要に応じて、1日ないし数日にわたって投与される単回用量または連続する2つ以上の用量であり得る。いくつかの実施形態では、用量は0.1mg〜50mgの間である。他の実施形態では、用量は1mg〜30mgの間である。その他の用量範囲は、10〜50mgの間、20〜50mgの間、30〜50mgの間、40〜50mgの間、20〜40mgの間、10〜20mgの間、10〜30mgの間、20〜30mgの間、および30〜40mgの間を含む。用量はまた10mg、20mg、30mg、40mg、または50mgであり得る。
【0033】
別の態様では、クルクミン関連障害を治療する方法が本明細書に開示され、この方法は、治療を必要とする対象を特定することと、この対象に治療有効量の本明細書に開示されるクルクミノイド−ペプチド複合体を投与することとを含む。
【0034】
「対象」という用語は、治療、観察または実験の対象である動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトを指す。哺乳動物は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、霊長類、例えば有尾猿、チンパンジー、および無尾猿など、ならびにヒトからなる群より選択され得る。
【0035】
「治療有効量」という用語は、示される生物学的または医学的反応を誘発するクルクミノイド−ペプチド複合体の量を表すのに使用される。この反応は、研究者、獣医、医師またはその他の臨床医の追求の対象となっている組織、系、動物またはヒトにおいて起こり得るものであり、治療される疾患の症状の緩和を含む。
【0036】
「治療する」、「治療すること」、「治療」、またはその任意の変形は、障害の完全治癒を表すものではない。疾患もしくは障害の症状の緩和が任意の程度まで改善されること、または対象の快適さの何らかの増大は治療と見なされる。
【0037】
別の態様では、クルクミン関連障害を治療する方法が本明細書に開示され、この方法は、治療を必要とする対象を特定することと、この対象に治療有効量の本明細書に開示されるクルクミノイド−ペプチド複合体を投与することとを含み、投与後のクルクミンの血清中C
maxが500ng/mL未満である。いくつかの実施形態では、クルクミンの血清中C
maxは、クルクミン投与量の0.001%未満である。
【0038】
「クルクミン関連障害」とは、対象にクルクミンまたはクルクミノイド化合物を投与することによって改善されることが明らかにされている障害のことである。クルクミン関連障害の例としては、特に限定されないが、糖尿病、喘息、アレルギー、白内障、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、骨髄異形成症候群、嚢胞性線維症、心筋梗塞、高コレステロール症、脳卒中、マラリア、HIV、HSV−1、乾癬などが挙げられる。クルクミンが特に改善効果を示す疾患は、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、炎症性腸疾患、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、I型糖尿病、神経変性疾患、および数種類の癌を含む、自己免疫疾患である。
【0039】
薬物動態パラメータであるC
maxの定義は当業者に周知である。簡潔に述べれば、C
maxとは投与後に観察される最大血漿中濃度である。
【0040】
別の態様では、上記のクルクミノイド−ペプチド複合体を調製する方法が本明細書に開示され、この方法は、クルクミノイドを得ることと;ペプチドを得ることと;溶媒中でクルクミノイドとこのペプチドとを混合することとを含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、溶媒は極性溶媒であり、他の実施形態では、溶媒は無極性溶媒である。いくつかの実施形態では、極性溶媒は水であり、他の実施形態では、極性溶媒はアルコールである。いくつかの実施形態では、アルコールはエタノールである。
【0042】
他の実施形態では、溶媒はアルカリ性溶液である。このような実施形態では、クルクミンをアルカリ性溶液で可溶化した後、タンパク質を加える。次いで、クルクミン−タンパク質混合物を乾燥させる前に溶液を酸性にする。
【実施例】
【0043】
実施例1:クルクミン−乳清タンパク質単離物複合体の調製
ヒト対象に投与するためのクルクミン−WPI複合体を調製した。以下の原料を用いた:
WPI:85重量%タンパク質
クルクミン粉末:95%クルクミノイド
エタノール:100%エチルアルコール
【0044】
クルクミン:WPIの比が1:50(w/w)。クルクミン粉末5gをエタノール1000mLと混合することにより0.5%(w/v)チンキ(溶液)を調製した。速度を中程度に設定し温度を50℃に設定した磁気攪拌ホットプレート上に混合物を30分間または溶液が透明になるまで置いた。得られた溶液にWPI粉末250gを加えた。水浴温度を50℃にした低真空、低速(20〜30rpm)のロータリーエバポレーター(rotovap)に混合物を30分間、またはエタノールが90%蒸発するまで入れた。得られた混合物を炉オーブンに入れて残りのエタノールを除去した。別法として、混合物を凍結乾燥機に入れるか、あるいは、フローフードに入れるか、そのまま放置して空気乾燥させた。
【0045】
クルクミン/WPI複合体は、黄色〜オレンジ色の範囲の不透明色でふわふわした粉末である。純粋なクルクミンとは対照的に、クルクミン:WPI複合体の粉末は水と自由に混合し、懸濁液を形成する。クルクミン:WPI粉末は、界面活性剤を用いてガラス、プラスチックおよび金属の表面から容易に取り除くことができる。クルクミン:WPI複合体による衣類の染色は最小限にとどまる。染色を除去するには通常、界面活性剤を用いて強く洗浄すれば十分である。
【0046】
クルクミン:WPIの比が25:1(w/w)(mg:g)。クルクミン粉末25mgおよびWPI粉末1gを用いたことを除き、上記の手順を繰り返した。ほぼ同じ産物が得られた。
【0047】
クルクミン:WPI複合体を標準的なSDS−PAGEゲルで泳動して、クルクミンがタンパク質に結合されたかどうかを判定した。得られたゲルを
図1に示す。このゲルは、電気泳動後、固定も染色もせずにUV下で見たものである。レーン6〜8に見られる染色は、WPIのクルクミン染色の結果である。Mの印が付されたレーンは分子量マーカーであり、75kD、50kDおよび25kDの位置に泳動する3種類の蛍光バンドを有する。レーン1〜8はそれぞれ、1マイクログラム,5マイクログラム,10マイクログラム,20マイクログラム,40マイクログラム,80マイクログラム,160マイクログラムおよび320マイクログラムのクルクミン:WPI試料でのクルクミン:WPI複合体に対応する。レーン6〜8からわかるように、クルクミンはWPIと複合体を形成する。レーン1〜5では、可視化するのに十分なクルクミンが存在しないか、あるいは、この手順でのSDS−PAGE溶解緩衝液による処理、加熱、または他の段階によってクルクミンが除去されている。
【0048】
実施例2:クルクミン−アミノ酸複合体の調製
実施例1の方法に従って、クルクミンを95%エタノール中に溶かした後、N−アセチルシステイン(NAC)を加えた。n−アセチルシステインに対するクルクミンの濃度の比の漸増を用いて、飽和レベルを明らかにした。エタノール中のクルクミンの0.5%(w/v)溶液での至適濃度は、NAC 1000mgに対しクルクミン 100mg前後であることがわかった。顕微鏡視野で観察されるクルクミン結晶の形成数が少ないときに至適濃度が確認された。
【0049】
同様にして、クルクミンを95%エタノール中に溶かした後、システインを加えた。システインに対するクルクミンの濃度の比の漸増を用いて、飽和レベルを明らかにした。エタノール中のクルクミン0.5%(w/v)溶液での至適濃度は、システイン 1000mgに対しクルクミン 100mg前後であることがわかった。顕微鏡視野で観察されるクルクミン結晶の形成数が少ないときに至適濃度が確認された。
【0050】
さらに、ヒト健常被験者にシステイン−クルクミン複合体1.8グラムを投与した。システイン−クルクミン複合体の最大血中濃度測定値は300ng/mLであることがわかった。これを25mg/gのクルクミン:WPI複合体を2回(クルクミン50mgに相当する)投与した場合と比較し、血中濃度測定値70ng/mLという結果を得た。
【0051】
同様の実験で、クルクミンを95%エタノール中に溶かした後、チロシンを加えた。クルクミンのチロシンへの結合は観察されなかった。クルクミンがはチロシン層の上に単層で凝固した。顕微鏡下で観察したところ、チロシン層には呈色が全く見られず、クルクミンの結晶はチロシンから完全に分離していた。
【0052】
実施例3:クルクミン:WPI複合体の投与
健常被験者2例に、クルクミン:WPIの比が25:1(w/w)(mg:g)のクルクミン:WPI複合体を1用量投与した。用量はクルクミン25mgを含んだ。20分後、50分後、および90分後に各被験者から血液を採取し、血清クルクミンレベルを算出した。その結果を下の表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
実施例4:臨床試験
57歳男性、膝および股関節に関節炎/滑液包炎があり、炎症性腸疾患が認められた。投与前に中等度の膝および股関節の疼痛ならびに中等度の下痢を伴う腹部痙攣が認められた。異なる用量および製剤を数種類投与した。用量および観察された効果を表2にまとめる。
【0055】
【表2】
【0056】
実施例5:臨床試験
症例1:70歳白人女性、季節性うつ病の病歴があり、Prozac(登録商標)によって十分にコントロールされていた。実施例1の複合体1.2gを1日2回投与し、使用3日後に症状の完全寛解をみた。同患者は症状緩和を維持するため同製品を服用し続け、Prozac(登録商標)の使用を中止できた。
【0057】
症例2:69歳白人女性、股関節、腰および肩に軽度の骨関節炎の病歴がみられた。実施例1の複合体300mgを1日3回投与し、運動範囲の回復を含む症状の完全寛解をみた。同患者はNSAID薬の使用を中止した。
【0058】
症例3:67歳白人男性、関節損傷および小児期のポリオ感染による二次的な運動障害が認められた。実施例1の複合体1.2gを1日2回、2週間投与し、症状の完全寛解をみた。同患者は症状緩和を維持するため同製品を服用し続けた。
【0059】
症例4:65歳白人男性、多発性外傷による運動障害が20年以上にわたって続いていた。実施例1の複合体1.2gを1日2回、2週間投与し、症状緩和に50%の改善が認められた。
【0060】
症例5:47歳白人男性、あらゆるNSAID治療に抵抗性を示すテニス肘の病歴がみられた。罹患した方の腕には全く重量をかけることができなかった。実施例1の複合体1.5〜2.0gに相当する用量をTANGに混ぜて1日2回、2週間服用した後に症状の完全寛解が認められた。同患者は症状緩和を維持するため同製品を服用し続けている。
【0061】
症例6:28歳白人男性、季節性アレルギーの病歴がみられた。実施例1の複合体1.2gを1日2回、2週間投与し、季節性アレルギーの症状の完全寛解をみた。同患者は症状緩和を維持するため製品を使用し続けた。
【0062】
症例7:47歳白人男性、1年前に起こった足関節破壊による疼痛および可動性の喪失がみられた。実施例1の製品1.2gを1日2回、2週間使用することにより、症状の完全な緩和および可動性の回復をみた。同患者は症状緩和を維持するため製品を服用し続けている。
【0063】
症例8:50歳白人女性、躁うつ病の病歴がみられた。実施例1の複合体1.2gを1日2回、2週間投与したところ、うつ病の症状が中程度緩和され、明晰な思考および気分高揚が認められた。
【0064】
症例9:67歳白人男性、右肩に軽度の関節炎の病歴がみられた。実施例1の複合体1.2gを1日2回、2週間投与したところ、関節炎症状が大幅に緩和された。
【0065】
症例10:75歳女性、両足首に衰弱性の関節炎がみられた。安静時に疼痛があり、主に車椅子で移動し、歩行器を用いて起立または歩行する能力は最小限であった。様々なNSAIDおよび処方された鎮痛麻薬を毎日使用していた。クルクミン25mgを1日3回(クルクミン25mg/g WPI)、2週間投与した。疼痛の軽減および車椅子または歩行器を使用せずに移動する能力の増大を含む関節炎の症状緩和が得られた。同患者は麻薬およびNSAIDの使用を中止した。
【0066】
症例10:60歳女性、手に関節炎があり、安静時の疼痛および労作活動(農作業)時の疼痛増大がみられた。様々なNSAIDを毎日使用していた。クルクミン25mgを1日2回(クルクミン25mg/g WPI)、2週間投与した。関節炎の症状緩和が得られ、労作活動を増やすことができた。同患者はNSAIDの使用を中止した。クルクミン治療から3か月後にクルクミン製品の使用を3週間中止し、クルクミンの1日2回の投与を再び実施し、同じ結果が得られた。
【0067】
症例11:61歳男性、股関節に重度の骨関節炎/滑液包炎があり、安静時の疼痛、可動性の低下および労作活動(農作業)時の疼痛増大がみられた。様々なNSAIDを毎日使用し、股関節置換手術を受ける予定であった。クルクミン25mgを1日2回(クルクミン25mg/g WPI)、2週間投与した。可動性の増大、および労作活動をより容易にかつ疼痛が軽減されて実施する能力の増大を含む関節炎の症状緩和がみられた。
【0068】
症例12:50歳女性、肩、股関節および膝に関節炎があり、足に疼痛があった。安静時の疼痛および可動性の低下がみられたため、歩行杖の補助を必要とした。クルクミン25mgを1日2回(クルクミン25mg/g WPI)、2週間投与した。疼痛の軽減を伴う可動性の増大とともに、関節炎の症状緩和が認められた。
【0069】
症例13:55歳女性、膝に関節炎があり、日常活動時および労作時に膝痛がみられた。クルクミン12.5mgを1日2回(クルクミン:WPI製品1グラム)、2週間投与した。日常活動時および労作活動時の疼痛の軽減とともに、関節炎の症状緩和が認められた。
【0070】
症例14:45歳女性、膝および肩に関節炎がみられた。平常活動時および労作活動(農作業)時に膝および肩の疼痛が顕著に認められた。クルクミン12.5mgを1日2回(クルクミン:WPI製品1グラム)、2週間投与した。日常活動時および労作活動時の疼痛の軽減とともに、関節炎の症状緩和が認められた。
【0071】
症例15:60歳男性、膝に関節炎があり、平常活動時および労作活動(農作業)時に膝の疼痛がみられた。クルクミン25mgを1日2回(クルクミン:WPI製品1グラム)、2週間投与した。日常活動時および労作活動時の疼痛の軽減とともに、関節炎の症状緩和が認められた。
【0072】
症例16:60歳男性、リンパ腫および多発性リンパ節腫大がみられた。クルクミン25mgを1日2回(クルクミン25mg/g WPI)、2週間投与した。2週間後に罹患リンパ節の中等度の収縮をみた。物質のさらなる使用でそれ以上の効果は得られなかった。
【0073】
症例17:57歳男性、膝に関節炎、股関節に滑液包炎がみられ、平常活動時および労作活動時に膝および股関節に中等度の疼痛があった。クルクミン25mgを1日2回(クルクミン25mg/g WPI)、2週間投与した。日常活動時および労作活動時の疼痛の軽減とともに、関節炎の症状緩和が認められた。
【0074】
症例18:57歳男性、炎症性腸疾患があり、それに付随する腹部痙攣、および軽度ないし中等度の下痢がみられた。クルクミン25mgを1日2回(クルクミン25mg/g WPI)、2週間投与した。腹部痙攣の完全な緩和および硬さのある糞便とともに、IBDの症状緩和が認められた。
【0075】
症例19:58歳男性、平常活動および労作活動に関連して膝痛および背部痛がみられた。クルクミン25mgを1日2回(クルクミン25mg/g WPI)、2週間投与した。日常活動時および労作活動時の疼痛の軽減とともに、関節炎の症状緩和が認められた。
【0076】
症例20:67歳女性、アルツハイマー病の進行がみられた。投与前の検査では、短期記憶に関する質問にはいずれも答えることができなかった。クルクミン1.2gを1日2回投与した。30日後の検査では、短期記憶に関する質問にすべて答えることができた。同患者は同治療による持続的利益を享受し続けた。
【0077】
実施例6:動物試験
症例1:11歳QH去勢ウマ、左右の前足首に骨関節炎が認められた。足首屈曲時の疼痛および駆け足時の「歩調の乱れ」がみられた。実施例1の製品200mgを1日2回、経口投与した。1週間後に、落着きまたは不安の軽減とともに、足首屈曲時の疼痛の軽減および駆け足時の円滑な歩調が認められた。有害な副作用は認められなかった。
【0078】
症例2:5歳卵巣摘出雌イヌ、骨関節炎が認められた。前脚屈曲時の疼痛および可動性の低下がみられた。実施例1の製品25mgを1日2回、経口投与した。1週間後に、前脚屈曲時の疼痛の軽減、可動性の増大、走行量の増大、および食欲の増進が認められた。有害な副作用は認められなかった。
【0079】
症例3:11歳QH去勢ウマ、前足首屈曲時の疼痛および可動性の低下がみられた。実施例1の製品800mgを経鼻胃管から1回投与した。4時間後に、顕著な落着きおよび鎮静効果とともに、足首屈曲時の疼痛の軽減が認められた。有害な副作用は認められなかった。
【0080】
症例4:2歳QH雌仔馬、不安および恐れがみられた。競走訓練環境では極めて神経質であり、他のウマとの交流を制限して馬舎に入れられていた。食欲の減退もみられた。実施例1の製品200mgを1日2回、経口投与した。1週間後に、食欲の増進とともに、馬舎での不安および神経質の軽減が認められた。有害な副作用は認められなかった。
【0081】
実施例7:クルクミン:WPI複合体のバイオアベイラビリティ
クルクミン:WPI複合体:マウス6匹にそれぞれクルクミン:WPI複合体12.5mg(マウス1匹当たりクルクミン約312μg)を投与した。各マウスの体重は約25gであった。30分毎に計180分間、血液を採取した。クルクミンの平均値(ng/mL)を表3に示す。平均Tmaxは60分であり、平均Cmaxはクルクミン163ng/mLであった。
【0082】
【表3】
【0083】
クルクミン:マウス6匹にそれぞれクルクミン0.625mg(上記の複合体として投与したときの約2倍のクルクミン量)を投与した。各マウスの体重は約25gであった。30分毎に計180分間、血液を採取した。クルクミンの平均値(ng/mL)を表4に示す。
【0084】
【表4】
【0085】
データが示すように、遊離クルクミンは吸収性が極めて低いため、その血漿中濃度は例外なく検出下限未満である。しかし、クルクミンを乳清タンパク質単離物(WPI)との複合体にすると、生体利用されやすくなる。
【0086】
実施例8:クルクミン:WPI複合体の薬物動態
健常被験者2例に用量の異なる様々なクルクミン製剤を投与した。様々な時点で指先採血法により各被験者から血液を採取した。クルクミンの血漿中濃度を算出し、Cmaxを求めた。その結果を表5に示す。
【0087】
【表5】
【国際調査報告】