特表2017-516518(P2017-516518A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-516518(P2017-516518A)
(43)【公表日】2017年6月22日
(54)【発明の名称】高用量薬剤供給用の粉末区画室
(51)【国際特許分類】
   A61M 15/00 20060101AFI20170526BHJP
   A61M 13/00 20060101ALI20170526BHJP
【FI】
   A61M15/00 Z
   A61M13/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-563123(P2016-563123)
(86)(22)【出願日】2016年4月28日
(85)【翻訳文提出日】2016年10月13日
(86)【国際出願番号】GB2016051073
(87)【国際公開番号】WO2016174393
(87)【国際公開日】20161103
(31)【優先権主張番号】108426
(32)【優先日】2015年4月30日
(33)【優先権主張国】PT
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】516307482
【氏名又は名称】ホヴィオン テクノロジー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Hovione Technology Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100105360
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 光治
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 学
(72)【発明者】
【氏名】ヴェンチュラ,ジョアン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィラックス,ペーター
(57)【要約】
肺又は鼻用の乾燥粉末吸入器は、吸入器本体801と、1用量の薬剤を含む1つ以上の粉末区画室805を有するカートリッジ803を少なくとも含む。本体は、カートリッジ受入れ用に整形した開口804と、取付後本体に対しカートリッジのスライド制御を可能にする手段を有する。区画室は、1つ以上が空気流入用の側部入口809である2つ以上の入口又はスリット806,809と、本体の吸入通路808の充填・流体連結用の区画室出口807を含む。使用上、患者は本体に対しカートリッジを保存位置から吸入位置にスライドする。保存位置で区画室の入口が本体の壁で遮断・封止され、吸入位置で区画室が内部粒子分散用の空気流入に利用でき区画室出口が本体で吸入通路と整列し吸入中装置内で分散した用量を所望作用位置へ取込可能にする。区画室への1つ以上の側方通気口809の付加で、改善した分散と取込を促す乱流旋回流パタンが誘導される。高用量の吸入薬剤用の経済的で簡単な装置を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入器本体(201、801)およびカートリッジ(203、803)を含む、肺または鼻への投与に適したドライ・パウダー吸入器であって、
(a) 前記吸入器本体(201、801)は、
マウスピース(802)と、
底部通路入口(210、310、410、510、610、810)と、
前記マウスピース(802)と結合したときの患者の口と前記底部通路入口(210、310、410、510、610、810)の間に流体連結を形成する吸入通路(208、808)と、
雰囲気から前記吸入通路(208、808)内への直接的な空気の流入を可能にする少なくとも1つの側部入口(818)と、
対向する頂部壁(211、811)および底部壁(812)と、対向する側部壁(814)との間に画定され内部に形成された吸入器本体開口(204、804)であって、この吸入器本体開口(204、804)に前記カートリッジ(203、803)を挿入可能にする少なくとも1つの開放端部を有しかつ空気を前記吸入器本体開口(204、804)内へ流入させる少なくとも1つの空気入口開口(815、816)を有する吸入器本体開口(204、804)と、
前記吸入器本体(201、801)に対して前記吸入器本体開口(204、804)内で前記カートリッジ(203、803)の移動を案内する手段(819)であって、保存位置から吸入位置への前記カートリッジの移動を制御する手段(819)と、
を含み、
(b) 前記カートリッジ(203、803)は、
前記吸入器本体開口(204、804)に嵌入するよう整形されており、
粉末系薬剤を支持するよう内部に形成された少なくとも1つの実質的に円柱状の粉末区画室(205、305、405、505、605、705、805)と、少なくとも1つの空気入口通気口(206、209、306、309、406、409、506、509、606、609、709、806、809)とを有し、
前記粉末区画室は、前記本体の前記底部通路入口(210、310、410、510、610、810)を通して前記本体の前記吸入通路(208、808)との流体連結を可能にする出口(207、807)と、前記本体の前記移動を案内する手段(819)と係合する少なくとも1つのピン(820)とを有し、
前記カートリッジ(203、803)は、前記吸入器本体(201、801)内で保存位置と吸入位置の間でスライド可能であり、
前記保存位置において、前記カートリッジの前記少なくとも1つの空気入口通気口(206、209、306、309、406、409、506、509、606、609、709、806、809)が、前記カートリッジへの流体連結がない形態で前記吸入器本体によって実質的に封止され、
前記吸入位置において、前記カートリッジの前記または各空気入口通気口(206、209、306、309、406、409、506、509、606、609、709、806、809)が、前記吸入器本体の前記空気入口開口(815、816)、前記カートリッジの前記または各空気入口通気口(206、209、306、309、406、409、506、509、606、609、709、806、809)、前記カートリッジの前記頂部出口(207、807)、および前記マウスピースの前記吸入通路(208、808)の間に流体連結がある形態で、前記吸入器本体の対応する空気入口開口(815、816)と実質的に整列し、
特徴として、
前記カートリッジ(203、803)は、少なくとも2つの空気入口通気口(206、209、306、309、406、409、506、509、606、609、709、806、809)を含み、前記少なくとも2つの空気入口通気口の少なくとも1つは、側方空気入口通気口(209、309、409、509、609、709、809)であり、前記吸入器本体(201、801)は、前記カートリッジ(203、803)が前記吸入位置にあるときに前記雰囲気から前記カートリッジの前記粉末区画室(205、305、405、505、605、705、805)内への空気の流入を可能にする前記カートリッジの前記空気入口通気口(206、209、306、309、406、409、506、509、606、609、709、806、809)の各々に対応付けられた空気入口開口(815、816)を有し、
前記吸入器本体の前記底部通路入口(210、310、410、510、610、810)は、さらに、前記カートリッジ(203、803)が前記吸入位置に移動したときに前記カートリッジの前記粉末区画室の出口(207、807)から前記吸入器通路(208、808)への流体流経路中に明確な狭窄部を形成する少なくとも1つのオリフィスを含むものである、
ドライ・パウダー吸入器。
【請求項2】
前記カートリッジ(203、703)の前記少なくとも2つの空気入口通気口(206、209、306、309、406、409、506、509、606、609、709、806、809)は、底部入口スリット(206、306、406、506、606、806)を含み、
前記吸入器本体(201、801)は、前記カートリッジ(203、703)が前記吸入位置にあるときに前記底部入口スリット(206、306、406、506、606、806)と整列する底部開口(815)を含むものである、請求項1に記載のドライ・パウダー吸入器。
【請求項3】
前記カートリッジ(203、803)の前記少なくとも2つの空気入口通気口(206、209、306、309、406、409、506、509、606、609、709、806、809)は、前記カートリッジの前記側部壁に形成された少なくとも1対の側方空気通気口(209、309、409、509、609、709、809)を含み、
前記吸入器本体(201、801)の前記空気入口開口(815、816)は、前記本体開口(204、804)の前記側部壁(814)に形成された少なくとも1対の側部開口(816)を含み、各側部開口(816)は、前記カートリッジが前記吸入位置にあるときに前記カートリッジの少なくとも1つの対応付けられた側方空気通気口と整列するものである、
請求項1または2に記載のドライ・パウダー吸入器。
【請求項4】
前記1対または各1対の側方空気通気口(209、309、409、509、609、709、809)は、前記区画室(205、305、405、505、605、705、805)の対向する側部に位置し、
各1対を形成する前記側方空気通気口(209、309、409、509、609、709、809)は、互いにオフセットしていて、空気を非正接方向に流入させることを可能にするものである、
請求項3に記載のドライ・パウダー吸入器。
【請求項5】
各カートリッジ粉末区画室側方通気口(209、309、409、509、609、709、809)は、0.1乃至2mmの幅を有するものである、請求項1乃至4のいずれかに記載のドライ・パウダー吸入器。
【請求項6】
各カートリッジ粉末区画室側方通気口(209、309、409、509、609、709、809)は、1mm未満の幅を有するものである、請求項5に記載のドライ・パウダー吸入器。
【請求項7】
前記吸入器本体(201、801)における各側部開口(816)は、複数の側方通気口(209、309、409、509、609、709、809)と関係付けられるものである、請求項1乃至6のいずれかに記載のドライ・パウダー吸入器。
【請求項8】
各カートリッジ粉末区画室側方通気口(209、309、409、509、609、709、809)は、空気が前記通気口を通って前記区画室内へと通過するにしたがって空気を流し込むように、前記区画室(205、305、405、505、605、705、805)の内側表面に向けて内向きにテーパ状になっているものである、請求項1乃至7のいずれかに記載のドライ・パウダー吸入器。
【請求項9】
前記吸入器本体の前記底部通路入口(210、310、410、510、610、810)は、複数のオリフィスを含むものである、請求項1乃至8のいずれかに記載のドライ・パウダー吸入器。
【請求項10】
前記複数のオリフィスが、構造化された格子状を形成するように配置された、請求項9に記載のドライ・パウダー吸入器。
【請求項11】
カートリッジ粉末区画室(205、305、405、505、605、705、805)は、前記カートリッジ(203、803)が、各前記空気入口開口を封止するように前記保存位置にあるときに、前記本体開口(204、804)の頂部壁(211、811)、底部壁(812)および側部壁(814)への機械的な接触および干渉を形成する前記または各空気入口(206、209、306、309、406、409、506、509、606、609、709、806、809)開口の領域に側方突出部(813)を含むものである、請求項1乃至10のいずれかに記載のドライ・パウダー吸入器。
【請求項12】
前記吸入器本体の吸入通路底部入口(210、310、410、510、610、810)は、流体通路通過領域に幾何学的な狭窄部を形成し、前記狭窄部の断面積は、前記粉末区画室の出口(207、807)の断面積の30%乃至99%である、請求項1乃至11のいずれかに記載のドライ・パウダー吸入器。
【請求項13】
前記狭窄部(210、310、410、510、610、810)の断面積は、前記粉末区画室の出口(207、807)の断面積の80%乃至98%である、請求項12に記載のドライ・パウダー吸入器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高用量の医薬品を供給するための、単純な構造、操作性および低コストの一回使用で使い捨て可能な肺または鼻吸入器用の新規な粉末区画(コンパートメント)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬品(pharmaceutical compounds)の供給または投与(delivery)に使用される吸入器(inhalers)は、広く普及するようになり、加圧式の定量投与(metered dose:計量式投与)、噴霧器(nebulizers)および粉末系吸入器(powder-based inhalers)を含む。後者のカテゴリは、患者の吸気努力によって生じるエネルギを用いて用量の医薬粉末を供給し、また、多重使用の貯留式装置、ブリスター(気泡)で包装された単位用量(unit doses:単位投与量)で供給される再利用可能な装置、患者によって装填された単位用量のカプセルを用いる再利用可能な装置、および一回使用で使い捨て可能な粉末系吸入器を含む。本発明はこの最後のカテゴリのものである。
【0003】
粉末系吸入器は、主に、例えば喘息または慢性閉塞性肺疾患のような呼吸器系疾患の維持療法に使用されてきた。しかし、一回使用で使い捨て可能な装置(single-use disposable devices)は、感染性因子が治療中でありまたは口または気道中に存在し従って吸入器汚染の可能性の排除が要求されるといった諸状況に対処する必要性に起因して、相当な注目に値するものとなった。
【0004】
さらに、一回使用で使い捨て可能な吸入器を開発する努力は、その装置に対する僅かな回数の単純な直観的な相互作用(やりとり)により肺または鼻を通して全身的に、例えば、50乃至120mgの範囲の高いペイロード(有効積載量)の、抗生物質、ワクチン、タンパク質、ペプチド、インスリンまたは他の薬剤のような医薬品を患者に供給する(投与する)ことに関する関心の増大によっても支えられてきた。そのような適用例において、例えば噴霧、乾燥またはジェット粉砕(ミル)のような処理技術で粒子設計された医薬品は、通常、高い凝着(接着)特性および凝集特性によって特徴づけられ、その特性は、典型的には0.2g/cm〜0.5g/cmの範囲の低いバルク(嵩)密度に加えて、典型的には2μm未満の低メジアン(中央値)の体積粒径(particle size by volume)で、結果的に得られる。
【0005】
従って、主要な課題は、その装置内の粉末残留または粉体保持(powder retention)の量を最小限に抑えつつ、50乃至120mgの範囲の大量の高い凝集性および凝着性の粉末をエアロゾル化し分散するための機構を設計することである。さらに、重要な課題は、そのような大量の高度に凝集された薬物粒子を5μm未満の吸入可能な粒径の粒子に確実に粉砕する解砕(deagglomeration)メカニズムの提供でもあり、それと同時に、そのような大量の用量を非常に短い期間で放出することを防止することである。そのような急激な放出によって、上気道における“粉だらけの口”効果、喉刺激および大量の薬剤損失を生じることがある。従って、強力なエアゾール化および制御された粉末解砕および放出のための手段が、設計で必要となる。
【0006】
さらに、抗生物質、ワクチン、タンパク質、ペプチドまたは他の薬剤を必要するそのような適用例での患者の大部分は、吸入器の経験がなくまたは吸入器のことを分かっておらず、吸入の訓練を受けていないことがある。従って、その装置は、極端に使用が簡単で直観で理解できることが要求される。さらに、高用量薬剤供給用の使い捨て可能な吸入器の開発者は、できるだけより少ない数の部品の使用と、大量生産における高速組立てのための設計との双方によるその装置のコストの低減による競争上の利点の獲得の課題にも直面する。
【0007】
従来技術の説明
一回使用で使い捨て可能な吸入器の分野には豊富な従来技術があるが、上述の全ての要求を解決する使い捨て可能な吸入器は未だ実現されていない。本願は、特に、葡国(ポルトガル共和国、PT)特許出願公開第103481号A明細書に記載の吸入器の発明的改良を対象とする。
【0008】
以前、葡国特許出願公開第103481号に記載され添付の図面の図1a乃至1cおよび2aに示された既知の使い捨て可能な吸入器は、マウスピース102を含む本体101と、本体101に設けられた開口部104に取り付けられ少なくとも1つの粉末区画室(コンパートメント)105を有するカートリッジ103とを含んでいる。粉末区画室105は、空気を流入させるための入口孔106と、本体101に設けられた吸入通路(チャネル)108と連通する出口孔107とを有していた。さらに、カートリッジ103は、患者によって本体101に対して第1の位置と第2の位置の間でスライド(滑動)可能になっており、図1aに詳しく示された第1の位置において、区画室後部孔106が分離または隔絶されて(isolated)封止され、図1bおよび1cに詳しく示された第2の位置において、区画室後部106および前部107の各孔が本体の吸入通路108と一直線上に整列し、従って、空気流を分散させて、マウスピースを通して患者の口または鼻の空洞へ、最終的に所望の作用部位へと、粉末を取り込ませまたは同伴させる。葡国特許出願公開PT第103481号に開示された構造体は、安全性および衛生状態の理由のために使い捨て可能な、経済性の理由のために単純な、患者による使用を容易にするように直観的に理解可能な、患者の利便性のために予め充填された単位用量の粉末を有する装置を可能にした。この吸入器は成功のうちに市販されている一方、試験によって、最大の供給可能な用量が粉末10〜20mgの範囲にあることが示される。
【0009】
また、他の一回使用で使い捨て可能な吸入器も、従来技術で既知である。
【0010】
米国特許第5797392号は、飲用ストローに類似した一回使用で使い捨て可能な吸入器の複数の最も単純な設計の1つを開示している。単純ではあるが、開示された構造体は、大量の高凝集性の薬剤粒子および賦形剤を吸入可能な大きさになるまで粉砕することを可能にしその一方でその装置内での粉末残留を最小化するような分散および解砕機構または機能を設けていない。
【0011】
また、米国特許第5042472号、米国特許第5239991号、米国特許第6098619号および国際公開第2014/175815号は、主要な粉末解砕機能が明らかに存在しない他の単純な一回使用で使い捨て可能な吸入器を開示しており、図面に開示された各構造体は、不所望な“粉だらけの口”および喉刺激の効果を生じる粉末の急激な放出を生じさせそうである。
【0012】
米国特許第6286507号、米国特許出願公開第2008/0190424号および米国特許出願公開第2009/0250058号に開示された他の一回使用で使い捨て可能な吸入器構造体は、概して、粉末区画室を含む第1の本体部材と、吸入器本体を形成するように出口にぴったり嵌る第2の本体部材とを含んでおり、その2つの本体部材は、吸入器本体から引き離されたときに粉末区画室を空気に晒すストリップまたはテープによって分離される。しかし、提示された構造体は、粉末区画室内への流れのパターンが存在しない単純な浸透流または貫流に依存し、従って、区画室の壁からの粉末の効果的な分離を生じさせるように粉末に対して強力な分散および解砕の力が作用し、それは大量のペイロードの凝集性の粉末をうまく供給するのに特に重要である。
【0013】
米国特許第6941947号に開示された別の一回使用の粉末吸入器は、分散チャンバ、分散チャンバに隣接し支持されたブリスタ(気泡)、マウスピース、およびヒンジ結合のカバーを有する。そのヒンジ結合されたカバーを開く動作によってブリタが開き、ブリスタの下で分散チャンバまで伸びる空気流路が形成される。しかし、この特許に開示された図面は、大量のペイロードの粉末の分散および解砕用の強力な流れパターンが明らかに存在しないことをも示し、合計の製造コストに加算される少なくとも4つの固有の部品を含む構造体と普通の組立手順とを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】葡国特許出願公開第103481号明細書
【特許文献2】米国特許第5797392号明細書
【特許文献3】米国特許第5239991号明細書
【特許文献4】米国特許第6098619号明細書
【特許文献5】国際公開第2014/175815号明細書
【特許文献6】米国特許第6286507号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2008/0190424号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2009/0250058号明細書
【特許文献9】米国特許第6941947号明細書
【発明の開示】
【0015】
従って、上述の使い捨て可能な吸入器の複数の機能を達成する一回使用で使い捨て可能な吸入器装置であって、粉末残留を最小化し、使用が簡単で直観的に理解でき、非常に低コストで製造できる、50乃至120mgの範囲の大量のペイロードの高い凝集性の粉末に対する効果的なエアロゾル化および解砕の機構を有する吸入器、に対するニーズ(必要性)が存在する。
【0016】
発明の概要
本発明は、使用するのに簡単で直観で理解でき非常に低いコストで製造できる吸入器であることを維持しつつ、典型的には2μm未満の低メジアンの体積粒径で結果的に得られる高い凝集特性および凝着(接着)特性によって特徴付けられる50乃至120mgの範囲の大量のペイロードの吸入粉末を分散および解砕するように、葡国特許出願公開第103481号に開示された構造体を改良する、使い捨て可能な吸入器用の新規な粉末区画室(コンパートメント)を実現しようとするものである。さらに、本発明は、患者の呼吸器系に供給される用量の改善が得られる改良された解砕性能を維持しつつ、大量の粉末ペイロードの分散の期間中にその装置(吸入器)における粉末残留を最小化する、使い捨て可能な吸入器用の粉末区画室を実現しようとするものである。
【0017】
高用量の適用のための粉末において見出される典型的な高い凝集性凝着性の振舞いを表すモデル薬剤粒子として使用される、噴霧乾燥によって生成された80%のトレハロースおよび20%のロイシンで形成された80乃至100mgの範囲の大量ペイロードの吸入可能なアモルファス(非晶質)複合粒子で試験したとき、我々は、最初に、葡国特許出願公開第103481号に開示された既存の構造体を機能(規模)拡大した。この機能拡大は、全ての各次元(寸法)で線形的に20%だけ行われて、0.2g/cm〜0.5g/cmの範囲の典型的なバルク(嵩)密度でそのようなペイロードの粉末を収容するように粉末区画室容量を増大させる。しかし、4kPaの圧力低下では、カスケード・インパクタ(カスケード接続の衝撃体)の各段に堆積した粉末の質量から計算されたその装置からの放出された質量は約50%であった。葡国特許出願公開第103481号に開示された機能拡大された構造体の分散特性およびエアロゾル化特性では、有効な大用量の使い捨て可能な吸入器が得られないであろうことは、明らかであった。
【0018】
その後、葡国特許出願公開第103481号に開示された構造体の分散およびエアロゾル化の能力を増大させるために、粉末区画室に補助的な空気流を供給する追加的な対称な換気口(air vents:空気通気口)が導入され、その新しい構造体が、同じペイロードのモデル薬剤粒子で試験された。4kPaの圧力低下(損失)で、カスケード・インパクタの各段において堆積した粉末の累積質量から計算された、その装置から放出された質量は、公称または開始の用量の約65%まで増大された。この能力は未だ充分でなく、対称に配置された換気口によって形成された粉末区画室内を通過する流量(流速)の増大だけでは、効果的な大用量の使い捨て可能な吸入器が得られないであろうことは、明らかであった。
【0019】
本発明による解決法は、新しい幾何学的配置で乱流およびエアロゾル化を最大化する配置に複数の換気口を配置することによって、得られた。葡国特許出願公開第103481号に開示された粉末区画室は、少ない粉末残留を生じさせる新規な有効な分散およびエアロゾル化の動力学を形成し、凝集凝着(接着)特性に挑戦すること(課題)によって特徴づけられる大量のペイロードの粉末で操作することができる使い捨て可能な吸入器を形成するように、再発明する必要があった。そのような目的を達成するために、底部の空気スリット(切込み開孔部)および頂部の大きい出口または排気口が設けられた既存の粉末区画室が、粉末区画室の種々の高さに配置された複数対の側方(横方向)通気口を形成する追加的な側方通気口を有するように組み立てられ、その各通気口は、空気の非正接の(non-tangential)流入を形成するよう互いにオフセットした(ずれた、食い違いのある、支距を有する)1対の通気口を形成するものであった。その新しい構造体は、高用量の適用例を表す同じペイロードのモデル薬剤粒子で試験された。4kPaの圧力低下で、カスケード・インパクタの各段に堆積した粉末の質量から計算された新しい装置からの放出された質量は約91%であり、区画室そのもの内部の粉末残留が残存するものとして観測された。その結果は、その新規な設計の粉末区画室が、低密度および高い凝集凝着(接着)の特性によって特徴付けられる高いレート(速度、率)の挑戦的粉末の薬剤供給を形成することを示す。
【0020】
次の表のデータは、放出された用量の百分率で表した重量測定での放出用量(投与量)における効能の改良、および百分率の相対標準偏差(relative standard deviation、RSD)で表された効能のばらつき(variability)を示している。
【0021】
【表1】
【0022】
従って、本発明は、請求項1によるドライ・パウダー(乾燥粉末)吸入器を実現する。
【0023】
より具体的には、本発明による吸入器は、葡国特許出願公開第103481号におけるような2つのプラスチック射出成型された部品(構成要素)である本体およびカートリッジを含んでいる。その本体およびカートリッジは、組立て後に一体的で機能的な吸入器を形成するように一緒に固定される。
【0024】
葡国特許出願公開第103481号におけるように、吸入器本体には、マウスピース(口当て部)またはノウズピース(鼻当て部)、カートリッジを所定位置に受け入れて保持するよう整形された開口、および、マウスピースまたはノウズピースと結合または嵌合したときの患者の口または鼻と、組立てられたカートリッジとの間に流体連結を形成するための吸入通路(チャネル、経路、流路)が設けられる。1つ以上の本体側部入口が、空気を雰囲気または大気から吸入通路に直接流入させるように、設けられる。任意選択的に、カートリッジが吸入位置に移動したときに雰囲気または大気からカートリッジ粉末区画室内に空気を流入させるように、本体底部開口が、カートリッジを受け入れるように整形された本体開口の底部壁に含められる。また、カートリッジを受け入れるように整形された本体開口の側部壁に1つ以上のレールが設けられ、そこにカートリッジの1つ以上のピンが係合して、本体に対するカートリッジの滑り(スライド)運動を可能にする手段を形成し、その滑り運動を制限するようにする。
【0025】
葡国特許出願公開第103481号において見出されるように、カートリッジは、内部に組み込まれ若しくは嵌め込まれまたは成型された少なくとも1つの、好ましくは2つの粉末区画室を含み、それらの粉末区画室は、常に互いに分離していて、吸入の期間中または吸入の後に粉末残留を最小化するように、鋭角が存在しない丸められた(例えば、球状、楕円状または卵型、等の)先端部を有するテーパ状の円柱状または近似的に円柱状の形状を有する。粉末区画室を含むカートリッジは、本体開口に取り付けられたときに移動可能にされる。この移動は、本体に対するカートリッジの制御された滑動を可能にする本体内に設けたレールとの1つ以上のカートリッジ・ピンの係合によって可能になる。さらに、空気流入用に存在する少なくとも1つの区画室底部スリットは、幅が0.1乃至2mm、好ましくは幅が1mm以下の非常に小さいサイズのものであり、重力およびその他の力の作用下で粉末の流れをブロック(遮断、阻止)するファネル(じょうご、漏斗状)部を形成するように区画室の方向にテーパ状(先細)に形成される。また、各粉末区画室は、その区画室そのものと通常は同じまたは同様の直径の区画室出口を含み、粉末の通常の充填および自動化高速充填を可能にし、カートリッジが吸入位置に移動したときに本体底部吸入通路入口を通して本体吸入通路との流体連結を可能にする。
【0026】
しかし、本願の吸入器は、葡国特許出願公開第103481号に記載された吸入器または従来技術における吸入器に見出されない新しい複数の特徴または機能を含んでおり、それらの特徴を次に詳しく説明する。
【0027】
この新しい吸入器において、カートリッジ粉末区画室は、さらに、空気流入用の少なくとも2つの区画室通気口を含み、そのうちの少なくとも1つは側方通気口であり、好ましくは2つまたは4つの、それぞれ対を形成する側方通気口が存在し(、ここで、それらの各1対の通気口は粉末区画室の両端部に含まれ、その1対を形成する各通気口は他方に対してオフセット(ずら)されて、空気の非正接方向の流入を形成し)、それらの側方通気口は、幅が0.1乃至2mm、好ましくは幅が1mm以下の非常に小さいサイズの側方通気口であって、振動またはその他の力の作用下で粉末の漏出を最小化する。そのまたは各側部通気口は、好ましくは、区画室壁の内面に向かって内側にテーパ状(先細)になっており、空気が通気口を通して区画室内へ引き込まれるに従って空気をファネル状に流し込み、それによって空気力学的効率を増大させ製造を容易にする。
【0028】
さらに、新しいカートリッジ粉末区画室は、カートリッジを取り付けるように整形された本体開口の頂部壁または底部壁またはその双方への密な機械的な接触および干渉を形成する少なくとも1つの区画室突出縁部(へり、リム)または同様の構造体と、そのカートリッジを取り付けるように整形された本体開口の各側部壁への密な機械的な接触および干渉を形成する側部入口に少なくとも1対の区画室突出縁部または同様の構造体と、を含み、そのカートリッジの低摩擦滑り運動(スライド運動)を可能にしつつその粉末区画室の封止(シール)を確保する。
【0029】
本発明による吸入器には、葡国特許出願公開第103481号の吸入器に存在しない2つの追加的な機能が見出される。その1つの機能は、本発明による吸入器本体が、さらに、カートリッジを受け入れるように整形された本体開口の頂部壁に含まれる底部吸入通路入口を含み、その底部吸入通路入口は、任意の形状の単一のオリフィス(管の開口部)または複数のオリフィス、または、流体通路通過(流路)領域において明確な(sharp:急な、鋭い)幾何学的な狭窄部を協働で形成しかつ構造化された格子状を形成するよう配置された任意の形状の複数のオリフィスを含んでいること、である。流体通路通過領域において、その幾何学的な狭窄部(constriction)の面積は、カートリッジ粉末区画室出口断面積の0.3乃至0.99倍の範囲、好ましくは0.8乃至0.98倍の範囲である。
【0030】
この新しい吸入器における他の追加的な機能は、吸入器本体が、カートリッジを受け入れるよう整形された本体開口の各側部壁に含まれる1つ以上の本体側部開口を含み、そのカートリッジが吸入位置に移動されたときに雰囲気(大気)からカートリッジ粉末区画室内に空気を流入させること、である。
【0031】
その吸入器本体およびカートリッジは、製薬学的用途用の任意の適した材料を射出成型することによって形成でき、その材料は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスルホン(PSU)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABC)、ポリメチルメタクリラート(PMMA)、ポリカーボナート(PC)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)ポリエチレンテレフタラート(PET)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)である。材料選択は、含有され供給(投与)される粉末との適合性を最大化し、吸入期間における残留と、貯蔵(保存)期間における劣化とを最小化し、可能であれば透明性を可能にするように、行われるべきである。
【0032】
組立て期間において、各カートリッジ粉末区画室に単位用量の粉末を充填した後、カートリッジは、カートリッジを取り付けるよう整形された開口を通して本体内に挿入される。粉末区画室は、区画室の密(精密)な嵌合(close fit)および封止を形成する本体開口の頂部壁、底部壁および側部壁と接触した状態になる。さらに、カートリッジが取り付けられたとき、複数のピンが、本体レールに係合して、その滑り運動がカートリッジ保存位置にまで達することができる。
【0033】
保存位置において、各粉末区画室は、本体に設けられた吸入通路に対してオフセットし(ずら)ている。さらに、粉末区画室底部入口スリットは、カートリッジを取り付けるための本体開口の底部壁と接触してその底部壁によって完全にブロック(閉鎖)される。さらに、粉末区画室側方通気口は、カートリッジを取り付けるための本体開口の各側部壁と接触してその側部壁によって完全にブロックされる。従って、粉末の単位用量はその区画室の内側に有効に封止され、また、開いた底部壁および側部壁との密な接触によって、粉末区画室の内容物が漏出することが防止される。次いで、保存位置において、吸入器は、パッケージ(包装)する準備ができ、望ましくは箔またはアルミニウム小袋(ポーチ)で、または任意の他の適した材料の小袋(ポーチ)または包装容器(包装材料)で、低湿度状態または平衡湿度状態下で包装する準備ができる。
【0034】
本発明による吸入器の使用期間において、患者は、それをその包装から取り出して、保存位置にカートリッジを有する吸入器を利用する。次いで、患者は、カートリッジを内部に押し込んでそれを吸入位置にスライドする(滑動させる)。この位置において、粉末区画室底部入口スリットは、空気流入用の本体開口の底部壁に設けられた空気入口と整列する(直線上に位置する)ようになる。さらに、この位置において、粉末区画室側方通気口は、空気流入用の本体開口の各側部壁に設けられた側部開口/窓と整列するようになる。また、この位置において、粉末区画室出口は、本体開口の頂部壁に含まれる吸入通路の底部入口と整列するようになる。
【0035】
カートリッジが吸入位置に移動したとき、患者は、使用上の指示に従って第1の用量を吸入し、気流がその装置にわたって(を横切って)形成される。空気は、最初に本体底部の空気入口を通って、区画室底部入口スリットを通って粉末区画室内に移動して、乱流噴流を効果的または効率的に誘導(誘引)し、そこに含まれる粒子を分散させる。
【0036】
さらに、また、空気は、本体側部開口/窓を通って、各区画室側方通気口または1対の区画室側方通気口を通して粉末区画室内に移動することができ、それによって、補助的空気を流入させて、薬剤粒子の分散および解砕に利用可能な区画室内の乱流運動エネルギを増大させることができる。さらに、区画室側方通気口を通した非正接方向の空気流入は乱流渦流(旋回流)を誘導し、その誘導された乱流渦流は、底部乱流噴流を閉じ込め(制限し)、区画室壁付近に高い速度を生じさせ、従って、吸入期間中に装置内の粉末残留を効果的に減少させる手段を形成する。
【0037】
従って、区画室内で生成された乱流的な旋回する空気流によって、粒子は、分散されて、粉末区画室出口を通って、本体に含まれる底部吸入通路入口内に移動させることができる。そこで、本体吸入通路入口設計によって組立てられた急激な断面積の減少によって、さらに、周囲の入口壁上への固着によって生じたおよび入口流路自体を横切る高い剪断力および乱流運動エネルギの生成によって生じた粒子塊(クラスタ)の解砕および粉砕が可能になる。
【0038】
次いで、粒子を取り込んだ(同伴する)空気流は本体吸入通路内に流入し、本体側部入口を通して供給された補助的な空気流が追加的な通路乱流を誘導し、その乱流がさらに粒子の分散および解砕を生じさせ、適用例に応じて、肺または鼻腔内の意図された位置に取り込まれて最終的に堆積(被着)する。カートリッジ内に含まれる第2の粉末区画室が存在する場合には、次いで、患者は、それを吸入位置に移動させて、2回目の吸入を行い、存在する区画室(数)分の回数だけその操作を繰り返す。これらの入口および側方通気口の全ての利益は、吸入が1回の吸入試行で完了し得ることである。
【0039】
粉末の分散および解砕のための乱流運動エネルギを供給することに加えて、粉末区画室内および本体内に設けられる各入口、各スリットおよび各通気口によって、吸入期間中に患者が経験する快適性を決定する吸入器抵抗および空気力学的な輪郭外形の設計が可能になる。
【0040】
この新規な構造によって、大量ペイロードの凝集性吸入粉末の分散および解砕が可能になり、一方、粉末残留を最小化し、簡単で直観的な吸入器を維持し、低い製造コストとその結果得られる経済的利点に共に寄与する単一の簡単な組立工程で組み立てられる、部品数が2の固有の部品(コンポーネント)を維持する。
【0041】
これらの利点に基づいて、本願の1つの発明的な特徴は、テーパ状で円柱状のまたは近似的に円柱状の形状のカートリッジ粉末区画室が、少なくとも1つの底部入口スリットおよび少なくとも1つの側部/側方の通気口、好ましくは2つまたは4つの、それぞれ対を形成する側方通気口を含み、それらは、カートリッジが保存位置にあるときに本体開口底部壁および側部壁によってそれぞれブロック(閉鎖)されて封止され、カートリッジが吸入位置に整列して配置されたときに区画室内に空気を流入させるのに利用可能になるものであること、である。
【0042】
また、本願の発明的な特徴は、カートリッジ粉末区画室の側方通気口が粉末区画室の対向する両側部(両側の側部)に含まれ、1対を形成する各通気口が、空気の対角線(斜め)方向の非正接方向の流入を形成するように他方の通気口に対してオフセット(ずら)され、従って、区画室内に乱流渦流を誘導する補助的な空気流を流入させる手段が形成され、その乱流渦流は、そこに含まれる薬剤粒子の分散および解砕に利用可能な乱流エネルギを増大させ、吸入期間中における粉末残留を減少させるための区画室内の壁付近の速度を増大させるものであること、である。
【0043】
また、本願の発明的な特徴は、カートリッジ粉末区画室側方通気口が、幅が0.1乃至2mm、好ましくは幅が1mm以下の非常に小さいサイズのものであって、そこに含まれる粒子への高い分散力の作用のための換気(空気通気)速度を増大させ、さらに、区画室の内面に向けて先細にまたはテーパ状になっていて、空気力学的効率を増大させ、標準的射出成型プロセスによる製造を可能にすること、である。
【0044】
また、本願の本発明的な特徴は、カートリッジ粉末区画室が、カートリッジを取り付けるように整形された本体開口の各側部壁への密な機械的な接触または干渉を形成する側部入口に少なくとも1対の区画室突出縁部(へり、リム)または同様の構造(体)を有し、そのカートリッジの低摩擦滑り運動を可能にしつつその粉末区画室の封止(シール)を確保すること、である。
【0045】
また、本願の本発明的な特徴は、本体吸入通路が、カートリッジを受け入れるように整形された本体開口の頂部壁に含まれる底部入口を含み、その底部吸入通路入口が、任意の形状の単一のオリフィスまたは複数のオリフィス、または、流体通路通過(流路)領域において明確な(急な、鋭い)幾何学的な狭窄部を協働で形成し構造化された格子状を形成するよう配置された任意の形状の複数のオリフィスを含み、その幾何学的な狭窄部の面積は、カートリッジ粉末区画室出口断面積の0.3乃至0.99(倍)の範囲、好ましくは0.8乃至0.98(倍)の範囲であり、それ(狭窄部)によって、周囲の各入口壁上への固着によって生じたおよび入口流路を横切る(にわたる)高い剪断力および乱流運動エネルギの生成によって生じた粉末区画室内の分散された粒子塊(クラスタ)の解砕および粉砕がさらに可能になること、である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1図1a乃至1cは従来技術の吸入器を示している。
図2図2aは従来技術の吸入器を示している。図2b乃至2gは、本発明による粉末区画室の複数の実施形態の斜視図および側面図を示している。
図3図3aは、カートリッジが本発明による吸入位置およびその本体吸入通路底部入口に移動したときの、カートリッジ粉末区画室出口の縦方向の詳細な断面図を示している。図3b乃至3dは、本発明による本体吸入通路底部入口の複数の実施形態の上面図を示している。
図4図4aおよび4bは、粉末カートリッジがそれぞれ保存位置および吸入位置にあるときの、本発明による吸入器の斜視図を示している。
図5図5aは、粉末カートリッジが保存位置にあるときの、本発明による吸入器の縦方向の断面図を示している。図5bは、粉末カートリッジが保存位置にあるときの、本発明による粉末カートリッジ底部入口の縦方向の詳細な断面図を示している。図5cは、粉末カートリッジが保存位置にあるときの、本発明による吸入器の横方向の断面図を示している。
図6図6aは、粉末カートリッジが吸入位置に移動したときの、本発明による吸入器の縦方向の詳細な断面図を示している。図6bは、粉末カートリッジが吸入位置に移動したときの、本発明による粉末カートリッジ底部入口の縦方向の詳細な断面図を示している。図6cおよび6dは、粉末カートリッジが吸入位置に移動したときの、本発明による吸入器の横方向の詳細な断面図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0047】
発明の詳細な説明
“図”の番号の順に従って図面を参照すると、同様の参照番号は同様の部品を示し、各実施形態は一連の番号で識別され、その一連の番号において、百の位の数字が実施形態の番号(1xx乃至8xx)であり、各実施形態における同等のまたは均等な機能が同じ番号xxを有する。
【0048】
図2を参照すると、図2は、本発明による粉末区画室(コンパートメント)の複数の実施形態を示しており、図2aには、少なくとも1つの底部入口スリット106を含むテーパ状(先細)の円柱状または近似的に円柱状の形状のカートリッジ粉末区画室105の第1の実施形態が示されている。図2bは、1つの底部入口スリット206と、少なくとも1つの側方(lateral、横方向)通気口(換気口)209とを含む、本発明によるテーパ状の円柱状または近似的に円柱状の形状のカートリッジ粉末区画室205の第2の実施形態を示している。図2cは、1つの底部入口スリット306と、カートリッジ粉末区画室305の対向する両側部(両側の側部)に含まれる1対の区画室側方通気口(換気口)309とを含む、本発明によるカートリッジ粉末区画室305の第3の実施形態を示している。図2dは、1つの底部入口スリット406と、カートリッジ粉末区画室405の対向する両側部に含まれる1対の区画室側方通気口(換気口)409を含む、本発明によるカートリッジ粉末区画室405の第4の実施形態を示しており、ここで、その1対を形成する各側方通気口(換気口)409は、他方に対して縦方向にオフセットしていて、カートリッジ粉末区画室405内への空気の非正接方向の流入(non-tangential admission)を可能にする。図2eは、1つの底部入口スリット506と、カートリッジ粉末区画室505の対向する両側部に含まれる1対の区画室側方通気口(換気口)509とを含む、本発明によるカートリッジ粉末区画室505の第5の実施形態を示しており、ここで、その1対を形成する各側方通気口(換気口)509は、他方に対して縦方向および垂直方向にオフセットしていて、カートリッジ粉末区画室505内への空気の非正接方向の流入を可能にする。図2fは、1つの底部入口スリット606と、カートリッジ粉末区画室605の対向する両側部に含まれる複数対の区画室側方通気口(換気口)609とを含む、本発明によるカートリッジ粉末区画室605の第6の実施形態を示しており、ここで、その複数対の1対を形成する各側方通気口(換気口)609は、他方に対して縦方向および垂直方向にオフセットしていて、粉末区画室605内への空気の斜め(対角線)方向および非正接方向の流入を可能にする。図2gは、カートリッジ粉末区画室705の対向する両側部に含まれる複数対の区画室側方通気口(換気口)709を含む、本発明によるカートリッジ粉末区画室705の第7の実施形態を示しており、ここで、その複数対の1対を形成する各側方通気口(換気口)709は、他方に対して縦方向および垂直方向にオフセットしていて、粉末区画室705内への空気の斜め(対角線)方向および非正接方向の流入を可能にする。
【0049】
図3aは、カートリッジ203が吸入位置に移動して本体吸入通路208と整列したときの、本発明による粉末区画室205を含む粉末カートリッジ203の縦方向の詳細な断面図を示しており、それによって、カートリッジ203を受け入れるための本体開口204の頂部壁211に含まれる本体吸入通路底部入口210と粉末区画室出口207の間の流体連結が可能になる。また、図3aには、吸入通路底部入口210が、粉末区画室出口207の断面領域に関連する通路通過(流路)領域の急激な幾何学的妨害を共に形成する本体開口204の頂部壁211に含まれる1つ以上のオリフィス(開口部、管の孔)を含んでいること、が示されている。さらに、図3b乃至3dは、吸入通路底部入口210の追加的な実施形態の上面図を示しており、各実施形態は、同様に、粉末区画室出口207の断面領域に関連する通過(流路)領域の急激な幾何学的妨害を共に形成する。図3bは、単一の円形オリフィスを含む吸入通路底部入口310の実施形態を示しており、一方、図3cは、複数の円形オリフィスで形成された吸入通路底部入口410を含む実施形態を示している。図3dは、非円形の形状を有する複数のオリフィスで形成された吸入通路底部入口510の実施形態を示している。図3eは、さらに、構造化された格子状を形成する複数のオリフィスを含む吸入通路底部入口610の実施形態を示している。
【0050】
次に、図4、5および6を参照すると、これらの図には、2つの異なる動作構成の、本発明による吸入器の実施形態が示されている。図5aにおいて、粉末カートリッジ803が、本体部品801においてそれを受け入れるように整形された開口804内に入れて組立てられて、カートリッジ803は保存位置にある。図5bおよび5cに詳細に示されているように、粉末カートリッジ803が保存位置にあるときに、区画室底部入口スリット806は本体開口804の滑らかな底部壁812によって閉じられ、粉末区画室側方通気口(換気口)809は、区画室側部突出縁部813と本体開口804の滑らかな側部壁814との間の機械的干渉(衝突、接触)によって閉じられて、粉末が区画室805内に封鎖(ブロック)されるようになっている。
【0051】
図6aにおいて、粉末カートリッジ803は、図5a乃至5cに示された保存位置から、複数の粉末区画室805の中の1つが本体吸入通路808と整列するようになることを可能にする吸入位置へと移動した。図6bは、この位置において、雰囲気(大気)状態から、本体底部壁812に整形された本体底部開口815を通し、区画室底部入口スリット806を通して粉末区画室805内へと、空気の流入が可能にされること、を詳細に示している。また、図6cは、この位置において、雰囲気(大気)状態から、各本体側部壁814に整形された本体側部開口窓816を通し、区画室側方通気口809を通して粉末区画室805内へと、補助的な空気の流入が可能にされること、を詳細に示している。さらに、図6aは、複数の粉末区画室805の1つが吸入位置に移動したときに、粉末区画室出口807と本体吸入通路808の間に本体吸入通路底部入口810を通して流体連結が形成され、それによって、図6aに示された粉末区画室出口807の断面領域に対する通過(流路)領域の急激な減少が形成されること、をも詳細に示している。
【0052】
粉末カートリッジ803が吸入位置にあり、患者の口または鼻が本体マウスピース802と係合(結合)したときに、患者の吸気努力によって形成される吸引が、空気を、本体底部入口815および粉末区画室底部入口スリット806を通して強制的に移動させて、底部乱流噴流を誘導し、同時に本体側部開口窓816および粉末区画室側方通気口809を通して移動させて、その底部乱流噴流を閉じ込める(制限する)乱流渦流(旋回流)を誘導し、それが、粉末区画室を通して、図6dに示された乱流的な旋回する空気流パターン817を生成する。この流れによって、粉末残留を最小化しつつ薬剤粒子を分散させることができ、薬剤粒子を、粉末区画室出口807を通して底部吸入通路810内に移動させることができ、そこ(底部吸入通路810)で、流体通過(流路)領域の明確な(急な、鋭い)幾何学的な狭窄部によって、さらに薬剤粒子塊の解砕および粉砕が可能になり、最終的に本体吸入通路808へ、次いで口(または鼻)内へ、最終的に例えば鼻腔または肺のような意図された治療位置へと移動させることができる。また、追加的な補助的な空気流が、本体側部入口818を通して本体吸入通路808へと供給されて、追加的な分散力および快適な吸入が形成され、空気の取り込み(同伴)能力(容量)が最大化される。
【0053】

本発明による吸入器の実施形態は、生体外で(in vitro)試験されて、その空気力学的輪郭外形(プロファイル)およびその粉末用量送達(供給)特性が決定された。吸入器の実施形態は、本発明による粉末区画室を含み、その粉末区画室は、図2fに示されたような、1つの底部入口スリットと、オフセット構成の複数対の側方通気口を有する4つの側方通気口とを含むものであった。その吸入器の実施形態は、妨害(領域の)面積が粉末区画室出口(領域の)断面積の約0.85倍である通路通過領域の急激な妨害を協働で形成する構造化された格子状を形成するよう配置された複数のオリフィスを含む、本体開口の頂部壁に含まれる本体吸入通路底部入口を含むものであった。
【0054】
トレハロース80%およびロイシン20%からなる吸入可能なアモルファス(非晶質)の球状の複合粒子を含む実験的な吸入粉末が、噴霧乾燥によって生成された。その複合粒子の噴霧乾燥された粉末は、高い凝集および凝着特性を生じさせるメジアン(中央値)体積(Dv50)粒度(粒子体積サイズ)約2μmで生成された。粉末の粒度、凝集および凝着特性は、肺に対して高用量薬剤送達(供給)を適用するために噴霧乾燥によって生成された粉末を表すものであった。
【0055】
その吸入器は、窒素で調整されたグローブ・ボックス(glove box)内で、温度および相対湿度(T<25℃、%RH<30%)の制御された条件下で、適切な化学天秤を用いて、複合粒子の噴霧乾燥粉末80mgが(1区画室当り40mgで)手動で充填された。次いで、吸入器は、いったん体積4リットルの空気を装置内を通るように付勢されたアンダーセン型カスケード・インパクタ(米国ジョージア州スミルナのグレイズビー・アンダーセン社)上での4kPaの圧力低下および流量(流速)42リットル(l)/分で試験され、カスケード・インパクタの各段に堆積した粉末の質量が重量法を用いて定量化された。これらのデータから、放出された質量および微粒子質量が計算された。ここで、放出された質量は、誘導(器官である)喉部を含む複数のインパクタ段の各段から収集された全ての質量の総和であり、微粒子質量は5μmの遮断点より小さい収集された粉末の質量であった。高い分散およびエアロゾル化の効率によって、吸入器からの放出質量が大きくなる。さらに、微粒子質量が大きければ大きいほど、送達される肺投与量がより多くなる、と期待される。その結果が次の表にまとめられている。
【0056】
【表2】
【0057】
このデータは、本発明による吸入器の実施形態が、複数の患者の能力に適合する吸気努力の条件下で、50乃至120mgの範囲の吸入粉末の大量の投与量を効果的に分散して送達することができること、を示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2016年12月2日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
従って、主要な課題は、その装置内の粉末残留または粉体保持(powder retention)の量を最小限に抑えつつ、50乃至120mgの範囲の大量の高い凝集性および凝着性の粉末をエアロゾル化し分散するための機構を設計することである。さらに、重要な課題は、そのような大量の高度に凝集された薬物粒子を5μm未満の吸入可能な粒径の粒子に確実に粉砕する解砕(deagglomeration)メカニズムの提供でもあり、それと同時に、そのような大量の用量を非常に短い期間で放出することを防止することである。そのような急激な放出によって、上気道における“粉だらけの口”効果、喉刺激および大量の薬剤損失を生じることがある。従って、強力なエアロゾル化および制御された粉末解砕および放出のための手段が、設計で必要となる。
【国際調査報告】