特表2017-518945(P2017-518945A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2017-518945予め規定されたカイラリティのシングルウォールカーボンナノチューブの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-518945(P2017-518945A)
(43)【公表日】2017年7月13日
(54)【発明の名称】予め規定されたカイラリティのシングルウォールカーボンナノチューブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/159 20170101AFI20170616BHJP
   C07C 15/56 20060101ALI20170616BHJP
   C07C 15/58 20060101ALI20170616BHJP
   C07C 15/60 20060101ALI20170616BHJP
   C07C 15/62 20060101ALI20170616BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20170616BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20170616BHJP
【FI】
   C01B32/159
   C07C15/56CSP
   C07C15/58
   C07C15/60
   C07C15/62
   B82Y30/00
   B82Y40/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】55
(21)【出願番号】特願2016-562007(P2016-562007)
(86)(22)【出願日】2015年4月14日
(85)【翻訳文提出日】2016年12月9日
(86)【国際出願番号】EP2015058058
(87)【国際公開番号】WO2015158705
(87)【国際公開日】20151022
(31)【優先権主張番号】14164733.9
(32)【優先日】2014年4月15日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】390040420
【氏名又は名称】マックス−プランク−ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルング・デア・ヴィッセンシャフテン・エー・ファオ
【氏名又は名称原語表記】Max−Planck−Gesellschaft zur Foerderung der Wissenschaften e.V.
(71)【出願人】
【識別番号】510143468
【氏名又は名称】エーエムペーアー・アイトゲネーシッシェ・マテリアルプリューフングス‐ウント・フォルシュングスアンシュタルト
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ローマン ファーゼル
(72)【発明者】
【氏名】パスカル リュフィユー
(72)【発明者】
【氏名】フアン ラモン サンチェス バレンシア
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ヤンゼン
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ミュラー
(72)【発明者】
【氏名】コンスタンティン アムシャロフ
【テーマコード(参考)】
4G146
4H006
【Fターム(参考)】
4G146AA12
4G146AC03B
4G146AC16B
4G146BA11
4G146BA12
4G146BA20
4G146BA48
4G146BB01
4G146BB06
4G146BB11
4G146BB22
4G146BC07
4G146BC09
4G146BC10
4G146BC27
4G146BC32A
4G146BC33A
4G146BC38B
4G146BC42
4G146BC43
4G146BC48
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB40
(57)【要約】
本発明は、直径dSWCNTを有するシングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)の製造方法であって、
(i) シングルウォールカーボンナノチューブのセグメントSSWCNTを含む前駆体要素を提供する段階、
ここで、前記セグメントSSWCNTは、オルト縮合ベンゼン環により形成された少なくとも1つの環で成り、且つ開いた第1の端部E1と前記第1の端部の反対側の第2の端部E2とを有する、
(ii) 前記前駆体要素を、金属含有触媒の表面上で炭素源化合物との気相反応によって成長させる段階、
ここで、前記前駆体要素は金属含有触媒の表面と、前記セグメントSSWCNTの開いた端部E1を介して接触されており、且つ前記金属含有触媒は以下の関係: dcat>2×dSWCNTを満たす平均直径dcatを有する粒子の形態であるか、または連続膜の形態である、前記方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径dSWCNTを有するシングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)の製造方法であって、
(i) シングルウォールカーボンナノチューブのセグメントSSWCNTを含む前駆体要素を提供する段階、
ここで、前記セグメントSSWCNTは、オルト縮合ベンゼン環により形成された少なくとも1つの環で成り、且つ開いた第1の端部E1と前記第1の端部E1の反対側の第2の端部E2とを有し、前記前駆体要素は任意にさらに前記セグメントSSWCNTの第2の端部に取り付けられたキャップを含む、
(ii) 前記前駆体要素を、金属含有触媒の表面上で炭素源化合物との気相反応によって成長させる段階、
ここで、前記前駆体要素は金属含有触媒の表面と、前記セグメントSSWCNTの開いた端部E1を介して接触しており、且つ前記金属含有触媒は以下の関係: dcat>2×dSWCNTを満たす平均直径dcatを有する粒子の形態であるか、または連続膜の形態である、前記製造方法。
【請求項2】
前記前駆体要素は多環式芳香族化合物から製造される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記セグメントSSWCNTは10個までの環で成り、各々の環はオルト縮合ベンゼン環によって形成されている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記前駆体要素が、前記セグメントSSWCNTと、前記セグメントSSWCNTの第2の端部に取り付けられているキャップとで成る、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記前駆体要素が多環式芳香族化合物から、表面触媒分子内環化により、好ましくは脱水素環化、脱ハロゲン環化、またはバーグマン環化により製造される、請求項2から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記表面触媒分子内環化が、金属含有触媒の表面上で行われ、前記金属は好ましくはPd、Pt、Ru、Ir、Rh、Au、Ag、Fe、Co、Cu、Ni、またはそれらの任意の混合物または合金から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
段階(i)の金属含有触媒は、以下の関係: dcat>2×dSWCNTを満たす平均直径dcatを有する粒子の形態であるか、または連続膜の形態である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
段階(i)における金属含有触媒の粒子が、少なくとも5nmの平均粒径を有する、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記前駆体要素が、100℃〜1000℃の温度T1で製造される、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
段階(ii)の炭素源化合物が、アルカン、アルケン、アルキン、アルコール、芳香族化合物、一酸化炭素、窒素含有有機化合物、ホウ素含有有機化合物、またはそれらの任意の混合物から選択される、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
段階(ii)の金属含有触媒が、Pd、Pt、Ru、Ir、Rh、Au、Ag、Fe、Co、Cu、Ni、またはそれらの任意の混合物または合金から選択される金属を含む、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
段階(ii)における金属含有触媒の粒子が、少なくとも5nmの平均粒径を有する、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記前駆体要素が、段階(i)の金属含有触媒の表面上での炭素源化合物との気相反応によって成長する、請求項6から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
段階(ii)が、700℃以下の温度T2で行われる、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1から14までのいずれか1項に記載の方法によって得られるシングルウォールカーボンナノチューブ。
【請求項16】
以下の式(I)〜(XXIII)の1つを有する多環式芳香族化合物:
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
[式中、Rはフェニル(即ち−C65)である]
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【請求項17】
シングルウォールカーボンナノチューブを製造するための請求項16に記載の多環式芳香族化合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)は、排他的にsp2混成炭素原子で構成されるチューブ状を有する擬一次元ナノ構造の拡張された族である。この10年にわたり、SWCNTは、それらの並外れた熱的特性、機械的特性、電子特性および光学特性、並びに多くの潜在的なハイテクノロジー用途ゆえに、科学のほぼ全ての分野から甚だしく興味を持たれている。それらの材料は、既存のマイクロエレクトロニクスをナノメートルスケールに向かわせることによって変革を起こし得る最良の候補であると考えられている。
【0002】
半導体性の挙動から伝導性の挙動まで変化する特性の多様性は、カイラル指数(n,m)(カイラリティ)によって定義される、チューブの軸に関する六方格子の配向性、およびSWCNTの直径に強く依存する。残念ながら、広範な用途および素子の性能についてのSWCNTの可能性の探索は、均質な異性体的に純粋な(isomerically pure)カーボンナノチューブが限定的にしか入手可能ではないことによって大々的に妨げられる。SWCNTは現在、使用される製造技術にかかわらず、多くの異なるカイラリティおよび直径のナノチューブを含有する非常に不均質な混合物として製造される。高度な精製方法の開発において過去数年においてなされた著しい進展にもかかわらず、量産技術工程のために適した、異性体的に純粋なSWCNTの容易且つ効果的な分離は未だに手に入れ難いままである。
【0003】
SWCNTを製造するための1つの手段は、炭素源分子、例えばエタノールまたはエチレンを触媒表面上で気相反応させることによる(化学気相堆積CVDとも称する)。炭素源分子の自発的な反応を開始させ、結果としてSWCNTを触媒表面上に成長させるために、触媒粒子は製造されるべきSWCNTの直径に幾分相応する直径を有する必要がある。さらには、CVDプロセスは典型的には非常に高い温度で行われる。気相反応によるSWCNTの製造は、例えばY. Homma et al, Nano Letters, Vol. 6, No. 12, 2006, pp. 2642−2645、およびT. Maruyama et al, Mater. Express, Vol. 1, No.4, 2011, pp. 267−272に記載されるとおり、ナノサイズの触媒粒子の存在を必要とする。
【0004】
R. Herges et al. Fragments of Fullerenes and Carbon Nanotubes, 2012, John Wiley & Sonsの第10章(「Aromatic Belts as Sections of Nanotubes」)においてR. Hergesらによって議論されたとおり、テンプレートに基づくCNTの合成についてのいくつかの手段が、例えばナノチューブキャップまたはナノチューブベルトから出発して開発された。CNTの成長方針について、とりわけ金属触媒気相反応(CVD)を含む種々の手段が言及されている。かかる金属触媒気相反応において使用される触媒粒子は、ほぼ製造されるべきカーボンナノチューブの直径である直径を有することが記載されている。
【0005】
US2012/0177561号A1には、多環式芳香族化合物をSWCNTの末端キャップに変換することにより、前記変換キャップがSWCNT前駆体要素としてはたらき、それがその後、溶媒中で、好ましくは金属触媒の不在下で行われるディールス−アルダー反応において最終的なSWCNTへと成長する、SWCNTの製造が記載されている。
【0006】
K. AmsharovおよびA. Mueller, Eur. J. Org. Chem., 2012, 6155−6164には、SWCNT前駆体要素の製造のために有用であるかもしれない多環式芳香族化合物の製造が記載されている。しかしながら、前駆体要素の製造も、前駆体要素のSWCNTへの成長も、実際には記載されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、高い異性体純度において予め規定されたカイラリティのシングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、前記の課題は、直径dSWCNTを有するシングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)の製造方法であって、
(i) シングルウォールカーボンナノチューブのセグメントSSWCNTを含む前駆体要素を提供する段階、
ここで、前記セグメントSSWCNTは、オルト縮合ベンゼン環により形成された少なくとも1つの環で成り、且つ開いた第1の端部E1と前記第1の端部の反対側の第2の端部E2とを有し、前記前駆体要素は任意にさらに前記セグメントSSWCNTの第2の端部に取り付けられたキャップを含む、
(ii) 前記前駆体要素を、金属含有触媒の表面上で炭素源化合物との気相反応によって成長させる段階、
ここで、前記前駆体要素は金属含有触媒の表面と、前記セグメントSSWCNTの開いた端部E1を介して接触されており、且つ前記金属含有触媒は以下の関係: dcat>2×dSWCNTを満たす平均直径dcatを有する粒子の形態であるか、または連続膜の形態である、
前記方法によって解決される。
【0009】
本発明において、前駆体要素がオルト縮合ベンゼン環によって形成された少なくとも1つの環で成るナノチューブセグメントSSWCNTを含み、且つ前記ナノチューブセグメントSSWCNTが金属触媒とその開いた端部E1を介して接触している一方でナノチューブセグメントSSWCNTの他方の端部は開いていてもSWCNTキャップによって閉じられていることがある場合、意外なことに、前駆体要素の気相反応による予め規定されたカイラリティのSWCNTへの選択的な成長は、SWCNTの直径と同等の直径を有する触媒粒子の存在下で行われる必要がなく、より大きな触媒粒子(狭い粒径分布を有する必要がない)またはさらには触媒の連続膜の存在下で効率的に実施できることが実現された。以下でも議論されるとおり、気相成長のためにかかる前駆体要素を使用することによって、より大きなサイズのCVD触媒粒子の使用または触媒の連続膜の使用すら可能なだけではなく、低い成長温度で収率を改善することも可能である。さらには、段階(ii)におけるより大きな触媒粒子の使用は、炭素源化合物が触媒表面上で予め規定されていない構造のCNTが自発的に生成するリスクを最小化するか、またはさらには排除し、且つそれらの炭素源化合物が段階(i)において既に提供されたSWCNT前駆体要素とだけ反応することを確実にする。
【0010】
当業者に公知のとおり、ナノチューブはカイラルベクトルC=na1+ma2によって特定され、これはグラフェンシートの回転の方向、ひいてはCNTのカイラリティを示す。従って、カーボンナノチューブの構造は、一対の指数(n,m)によって示すことができる。m=0の場合、カーボンナノチューブはいわゆるジグザグ型のカーボンナノチューブである。n=mの場合、カーボンナノチューブはいわゆるアームチェア型のカーボンナノチューブである。それ以外は、カーボンナノチューブはカイラル型として分類される。
【0011】
本発明の方法によって、任意のそれらのシングルウォールカーボンナノチューブ構造を得ることが可能である。換言すれば、本発明のシングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)は、アームチェア型のシングルウォールカーボンナノチューブ((n,n)−SWCNT)、ジグザグ型のシングルウォールカーボンナノチューブ((n,0)−SWCNT)、またはカイラル型のシングルウォールカーボンナノチューブ((n,m)−SWCNT、ここでn≠m)であることができる。
【0012】
SWCNTがアームチェア型のシングルウォールカーボンナノチューブ(つまり(n,n)−SWCNT)である場合、指数nは広い範囲、例えば2〜30、好ましくは3〜20、または5〜15にわたって変化できる。
【0013】
SWCNTがジグザグ型のシングルウォールカーボンナノチューブ(つまり(n,0)−SWCNT)である場合、指数nは広い範囲、例えば3〜50、好ましくは4〜35、または5〜15にわたって変化できる。
【0014】
SWCNTがカイラル型のシングルウォールカーボンナノチューブ(つまり(n,m)−SWCNT、ここでn≠m)である場合、指数nおよびmの各々は広い範囲、例えば5≦n+m≦60; または6≦n+m≦20にわたって変化できる。
【0015】
上記で示したとおり、本発明の方法の段階(i)において、シングルウォールカーボンナノチューブの前駆体要素を準備し、その際、前記前駆体要素はシングルウォールカーボンナノチューブのセグメントSSWCNTを含み、前記セグメントSSWCNTはオルト縮合ベンゼン環により形成された少なくとも1つの環で成り、且つ開いた第1の端部E1と前記第1の端部E1の反対側の第2の端部E2とを有する。
【0016】
このセグメントSSWCNTは、ナノチューブベルトとも称することができる。これらのセグメントSSWCNTの多くがそれらの端部を介して互いに取り付けられるのであれば、それらは予め規定されたシングルウォールカーボンナノチューブを形成する。
【0017】
前記セグメントSSWCNTの第2の端部E2も開いていてよい。選択的に、前駆体要素はさらに、シングルウォールカーボンナノチューブのキャップを含み、前記キャップは前記セグメントSSWCNTの第2の端部E2に取り付けられている(つまり、それによって開いた端部E1および閉じた端部E2を有するナノチューブのセグメントSSWCNTが生じる)。
【0018】
カーボンナノチューブセグメントSSWCNTの1つまたはそれより多くの環は、オルト縮合ベンゼン環によって形成されるもので成る。任意の2つの隣接した芳香環が2つの、および2つだけの隣接した原子を共通して有する系が、「オルト縮合」と称される。オルト縮合ベンゼン環の配列の中の最初のベンゼン環および最後のベンゼン環も互いに縮合する場合、カーボンナノチューブのセグメントSSWCNTのセグメント環が形成される。セグメント環を形成する縮合ベンゼン環は全て、線形の配列(そのような環はシクラセンとも称される)もしくは角のある配列(そのような環はシクロフェナセンとも称される)であることができるか、または、セグメント環を形成する縮合ベンゼン環のいくつかは線形の配列である一方で、いくつかのセグメント環の他の縮合ベンゼン環は角のある配列である。セグメントSSWCNTは、さらなるセグメント環を有することができる(各々のセグメント環はオルト縮合ベンゼン環によって形成されている)。2つまたはそれより多くのセグメント環が存在し、且つ隣接するセグメント環が互いに縮合する場合、これは最初の環の「上部縁」および隣接する環の「下部縁」が同じ炭素原子によって形成されることを意味する。しかしながら、セグメントSSWCNTが単独のセグメント環のみで成ることも可能である。さらには、当然オルト縮合ベンゼン環によって形成される少なくとも1つのセグメント環が存在するとの規定の下で、完全なセグメント環によって、セグメントSSWCNTがその端部E1またはE2の1つのいずれかまたは両方の端部で終端されていないことも可能である。
【0019】
好ましくは、セグメントSSWCNTは1〜10個のセグメント環で成り(つまり、それらからなり)、各々のセグメント環はオルト縮合ベンゼン環によって形成されている。
【0020】
好ましくは、前駆体要素は多環式芳香族化合物から製造される。
【0021】
当業者に公知のとおり、多環式芳香族化合物は、構成要素として縮合芳香環を含有する化合物である。
【0022】
好ましい実施態様において、前駆体要素はセグメントSSWCNTおよび製造されるべきSWCNTのキャップで成り、前記キャップは前記セグメントSSWCNTの第2の端部E2に取り付けられている(それによって閉じた端部E2および開いた端部E1を有するセグメントSSWCNTが生じる)。
【0023】
SWCNTの末端キャップ(またはその一部)を多環式芳香族化合物から製造できることは当業者に公知である。US2012/0177561号A1、およびK.Y. Amsharov, A. Mueller, Eur. J. Org. Chem., 2012, pp. 6155−6164を参照することができる。本発明においては、分子内環化に供される場合、予め規定されたSWCNTの末端キャップ自体を提供するだけでなく、追加的に前記キャップに取り付けられるカーボンナノチューブセグメントSSWCNT(つまり、オルト縮合ベンゼン環により形成される少なくとも1つの環)を含有する「拡張末端キャップ」を提供する、多環式芳香族化合物が好ましく使用される。
【0024】
セグメントSSWCNTは、SWCNTキャップによって閉じられた端部E2を有し、セグメント環の数は例えば1〜10であってよい。しかしながら、多環式芳香族化合物の有機合成の複雑さが、分子の大きさの増加に伴って上昇することがあるので、セグメント環の数は好ましくは低く、例えば1〜3のセグメント環または1〜2のセグメント環またはさらには1つだけのセグメント環に保たれる。
【0025】
図1は、そこから(6,6)シングルウォールカーボンナノチューブを製造できる例示的な前駆体要素の構造を示す。この例示的な構造において、前駆体要素はSWCNTセグメント(灰色で影付け)のみで成るのではなく、追加的にSWCNTセグメントの一方の端部でキャップを含有する。SWCNTセグメント(灰色で影付けされた領域)は、セグメント環で成り、それらのセグメント環の各々はオルト縮合ベンゼン環によって形成されている。
【0026】
前駆体要素(好ましくはセグメントSSWCNTと前記セグメントSSWCNTの第2の端部E2に取り付けられるSWCNTキャップとで成る)を製造するために使用される多環式芳香族化合物は、例えば、基R1〜R6を有する中央のベンゼン環を有する式(1)の化合物であることができる:
【化1】
前記式中、
基R1、R3およびR5の各々は同一または異なっていてよく、以下の式(2)を有する:
【化2】
前記式中、
基R7〜R13の少なくとも1つは置換または非置換のフェニルまたは多環式芳香族基である; または
互いに隣接する基R7〜R13の少なくとも2つは、一緒に単環式または多環式芳香族基を形成する;
基R2、R4およびR6は同一または異なっていてよく、水素であるか、または以下の式(3)を有する:
【化3】
前記式中、R7〜R13は式(2)と同じ意味を有するか、または中央のベンゼン環と式(2)中の基R7またはR13とをつなぐ化学結合を表す。
【0027】
上記で既に言及されたとおり、基R1、R3およびR5は同一または互いに異なっていてよい。同じことが基R2、R4およびR5についても該当する。さらには、存在する場合、式(3)の基は、式(2)の基と同一または異なっていてよい。
【0028】
任意に、基R2、R4およびR6の1つまたはそれより多くが式(3)のものである場合、式(2)のR1、R3およびR5の1つにおけるR7、および式(3)の隣接する基R2、R4およびR6の1つにおけるR13、および/または式(2)の基R1、R3およびR5の1つにおけるR13、および式(3)の隣接する基R2、R4およびR6の1つにおけるR7は、一緒に化学結合を示す/形成することが可能である。
【0029】
式(2)における基R7〜R13の1つが置換されたフェニルである場合、その1つまたはそれより多くの置換基は例えばフェニル基であってよい。同じことが式(3)中の基R7〜R13についても該当する。
【0030】
式(2)中の基R7〜R13の1つが多環式の芳香族基である場合、前記多環式芳香族基中の縮合ベンゼン環の数は例えば2〜8、好ましくは2〜6または2〜4で変化し得る。同じことが式(3)中の基R7〜R13についても該当する。
【0031】
互いに隣接する式(2)の基R7〜R13の少なくとも2つが一緒に単環式の芳香族基を形成する場合、それは好ましくは6員の芳香環である。同じことが式(3)中の基R7〜R13についても該当する。
【0032】
互いに隣接する式(2)の基R7〜R13の少なくとも2つが一緒に多環式の芳香族基を形成する場合、前記多環式芳香族基中の縮合ベンゼン環の数は例えば2〜8、好ましくは2〜6または2〜4で変化し得る。同じことが式(3)中の基R7〜R13についても該当する。
【0033】
多環式の芳香族基が2つの縮合ベンゼン環によって形成される場合、それは置換または非置換であってよいナフタレンから誘導される。
【0034】
多環式の芳香族基が3つの縮合ベンゼン環によって形成される場合、それは各々置換または非置換であってよいフェナントレンまたはアントラセンから誘導される。
【0035】
多環式の芳香族基が4つの縮合ベンゼン環によって形成される場合、それは各々置換または非置換であってよい例えばクリセン、テトラフェン(即ちベンゾ[a]アントラセン)、テトラセン、トリフェニレン(即ち9,10−ベンゾフェナントレン)、ベンゾ[c]フェナントレンまたはピレンから誘導される。
【0036】
多環式芳香族基が5つの縮合ベンゼン環によって形成される場合、それは、例えばジベンゾ−アントラセン、例えばジベンゾ[a,h]アントラセン、ジベンゾ[a,c]アントラセン、1,2:7,8−ジベンゾアントラセン(ジベンゾ[a,j]アントラセンとしても公知)および1,2:5,6−ジベンゾアントラセン; ベンゾ−クリセン、例えばピセン(ベンゾ[a]クリセンとしても公知)およびベンゾ[b]クリセン; ペンタセン; ジベンゾフェナントレン、例えば1,2:3,4−ジベンゾフェナントレンおよび3,4,5,6−ジベンゾフェナントレン; ベンゾ−ナフタセン、例えばベンゾ[a]ナフタセン; ベンゾピレン、例えばベンゾ[a]ピレンおよびベンゾ[e]ピレン(各々置換または非置換であってよい)から誘導される。
【0037】
多環式の芳香族基が6つの縮合ベンゼン環によって形成される場合、それは各々置換または非置換であってよい例えばベンゾピセン、例えばベンゾ[s]ピセン; ベンゾ−ペンタセン; ベンゾ−ペリレンまたはジベンゾピレンから誘導される。
【0038】
選択的に、前駆体要素(好ましくはセグメントSSWCNTおよびセグメントSSWCNTの第2の端部E2に取り付けられるSWCNTキャップで成る)を製造するために使用される多環式芳香族化合物は、例えば、式(4)の化合物であることができる:
【化4】
前記式中、
基R1〜R4の少なくとも1つは置換または非置換のフェニルまたは多環式芳香族基である; または
基R1およびR2および/またはR3およびR4は、一緒に単環式または多環式芳香族基を形成する。
【0039】
例示的な多環式芳香族基に関して、上記で提供された記載を参照できる。
【0040】
基R1〜R4の1つまたはそれより多くが置換されたフェニルである場合、その1つまたはそれより多くの置換基は例えばフェニルであってよい。
【0041】
式(4)において、基R1およびR2は互いに独立して、例えば水素、置換または非置換のフェニル、または多環式芳香族基であってよく、且つ基R3およびR4は一緒に、フェニルまたはビフェニル置換基を有するベンゼン環を形成できるか、または基R3およびR4は一緒に、置換または非置換であってよい2〜6の縮合ベンゼン環の多環式芳香族基を形成できる。
【0042】
選択的に、前駆体要素(好ましくはセグメントSSWCNTおよびセグメントSSWCNTの第2の端部E2に取り付けられるSWCNTキャップで成る)を製造するために使用される多環式芳香族化合物は、例えば、コラヌレン化合物であることができる。
【0043】
(6,6)アームチェア型のSWCNTを製造するために使用できる例示的な多環式芳香族化合物は、以下の式(I)および(II)の1つを有する:
【化5】
【化6】
【0044】
(9,9)アームチェア型のSWCNTを製造するために使用できる例示的な多環式芳香族化合物は、以下の式(III)を有する:
【化7】
【0045】
(9,0)ジグザグ型のSWCNTを製造するために使用できる例示的な化合物は、以下の式(IV)を有する:
【化8】
[式中、Rはフェニル(即ち−C65)である]。
【0046】
(12,6)カイラル型のSWCNTを製造するために使用できる例示的な化合物は、以下の式(V)および(VI)の1つを有する:
【化9】
【化10】
【0047】
(12,0)ジグザグ型のSWCNTを製造するために使用できる例示的な化合物は、以下の式(VII)および(VIII)の1つを有する:
【化11】
【化12】
【0048】
(12,3)カイラル型のSWCNTを製造するために使用できる例示的な化合物は、以下の式(IX)を有する:
【化13】
【0049】
(12,1)カイラル型のSWCNTを製造するために使用できる例示的な化合物は、以下の式(X)を有する:
【化14】
【0050】
(11,3)カイラル型のSWCNTを製造するために使用できる例示的な化合物は、以下の式(XI)を有する:
【化15】
【0051】
(12,2)カイラル型のSWCNTを製造するために使用できる例示的な化合物は、以下の式(XII)を有する:
【化16】
【0052】
(10,6)カイラル型のSWCNTを製造するために使用できる例示的な化合物は、以下の式(XIII)を有する:
【化17】
【0053】
(11,5)カイラル型のSWCNTを製造するために使用できる例示的な化合物は、以下の式(XIV)を有する:
【化18】
【0054】
(10,7)カイラル型のSWCNTを製造するために使用できる例示的な化合物は、以下の式(XV)を有する:
【化19】
【0055】
(11,4)カイラル型のSWCNTを製造するために使用できる例示的な化合物は、以下の式(XVI)を有する:
【化20】
【0056】
(8,2)カイラル型のSWCNTを製造するために使用できる例示的な化合物は、以下の式(XVII)を有する:
【化21】
【0057】
(7,4)カイラル型のSWCNTを製造するために使用できる例示的な化合物は、以下の式(XVIII)を有する:
【化22】
【0058】
(11,0)ジグザグ型のSWCNTを製造するために使用できる例示的な化合物は、以下の式(XIX)を有する:
【化23】
【0059】
(10,2)カイラル型のSWCNTを製造するために使用できる例示的な化合物は、以下の式(XX)を有する:
【化24】
【0060】
(7,7)アームチェア型のSWCNTを製造するために使用できる例示的な化合物は、以下の式(XXI)を有する:
【化25】
【0061】
(8,8)アームチェア型のSWCNTを製造するために使用できる例示的な化合物は、以下の式(XXII)を有する:
【化26】
【0062】
(9,5)アームチェア型のSWCNTを製造するために使用できる例示的な化合物は、以下の式(XXIII)を有する:
【化27】
これらの化合物(I)〜(XXIII)のいずれにおいても、水素原子の少なくともいくつかはハライド原子(例えばCl、BrまたはI)によって置換されていてよい。
【0063】
分子内環化に供される場合、多環式芳香族化合物(I)〜(XXIII)の各々が、SWCNTセグメントSSWCNTと前記セグメントの一方の端部に取り付けられたSWCNTキャップとからなる前駆体要素を形成する。上記で議論されたとおり、各々の前駆体要素のセグメントSSWCNTは、オルト縮合ベンゼン環によって形成される少なくとも1つの環で成り且つ開いた端部E1を有する。
【0064】
多環式芳香族化合物が前駆体要素を提供するために使用される場合、前記多環式芳香族化合物を、主に当業者に公知の有機合成手順によって製造できる。
【0065】
単なる例として、多環式芳香族化合物(I)および(II)への合成ルートを図2および3に図示する。
【0066】
式(I)の多環式芳香族化合物(図2内の化合物7)を製造するための図2に示される合成ルートは、以下の段階を含む:
a) PPh3、トルエン、還流、95%; b) BrPh3PCH2PhBr、KOtBu、EtOH、還流、81%; c) I2、hv、プロピレンオキシド、シクロヘキサン、72%; d) Pd(PPh34、Cs2CO3、トルエン/MeOH、110℃、79%; e) NBS、DBPO、CCl4、還流、70%; f) NaCN、DMSO、RT、40%; g) H2SO4、H2O、HOAc、還流、98%; h) SOCl2、65℃; i) AlCl3、CH2Cl2、RT、57%; j) プロパン酸、TsOH、o−DCB、180℃、65%。
【0067】
式(II)の多環式芳香族化合物(図3内の化合物19)を製造するための図3に示される合成ルートは、以下の段階を含む:
a) Pd(PPh34、K2CO3、トルエン/MeOH、110℃、86%; b) I2、hv、プロピレンオキシド、シクロヘキサン、52%; c) NBS、DBPO、CCl4、還流、87%; d) PPh3、トルエン、還流、71%; e) P(OEt)3、160℃、60%; f) C107COCH3、KOtBu、THF、50℃、31%; g) I2、hv、プロピレンオキシド、シクロヘキサン、24%; h) NBS、DBPO、CCl4、還流、60%; i) NaCN、DMSO、RT、75%; j) H2SO4、H2O、HOAc、還流、73%; k) SOCl2、65℃; l) AlCl3、CH2Cl2、RT、36%; m) TiCl4、o−DCB、180℃、35%。
【0068】
前駆体要素を、多環式芳香族化合物から、公知の方法、例えば分子内環化によって製造できる。好ましい分子内環化反応は、脱水素環化、脱ハロゲン環化およびバーグマン環化である。
【0069】
多環式芳香族化合物が変換段階、例えば脱水素環化に供される際、多環式芳香族化合物の芳香環が、分子内反応を介して接続され、且つ、典型的には幾分平坦な分子としてみなされ得る芳香族化合物は、チューブのセグメントSSWCNTと、SWCNTキャップとで成り、前記SWCNTキャップは前記チューブのセグメントの一方の端部を閉じている一方で前記チューブのセグメントの他方の端部は開いたままである、「ボウル状の」SWCNT前駆体要素へと変換される。
【0070】
分子内環化、例えば脱水素環化が多環式芳香族化合物を前駆体要素へと変換するために使用される場合、それは好ましくは表面支援(「表面触媒」とも称される)分子内環化である。適切な工程条件および多環式芳香族化合物を分子内環化、例えば脱水素環化に供することができる表面は当業者に公知である。この文脈において、例えば K. Amsharov et al, Angew. Chem. Int. Ed. 2010, pp. 9392−9396およびG. Otero et al, Nature, Vol. 454, 2008, pp. 865−868を参照できる。
【0071】
好ましい実施態様において、表面支援分子内環化を金属含有触媒の表面上で、より具体的には金属含有触媒の金属表面上で行う。好ましくは、前記金属はPd、Pt、Ru、Ir、Rh、Au、Ag、Fe、Co、Cu、Niまたはそれらの任意の混合物または合金である。
【0072】
多環式芳香族化合物を触媒表面上に、有機化合物を表面上に堆積するために適した任意の方法によって堆積できる。前記方法は、例えば真空堆積(昇華)法、溶液に基づく方法、例えばスピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、印刷、エレクトロスプレー堆積、パルスジェット堆積、乾式接触転写または乾式インプリント、レーザー刺激脱離法、または分取(preparative)質量分析(特に不純な混合物でのみ入手可能である化合物を堆積するために)であってよい。
【0073】
多環式芳香族化合物が、単結合の周りを回転し得る基(例えば分子の外周でのフェニルまたはビフェニル基)を含み、従って配座異性を示す場合、触媒表面上に堆積された分子は異なる配座を有し得る。しかしながら、排他的に、適切な配座において触媒表面上に吸着したそれらの分子が(例えば脱水素環化によって)SWCNT前駆体要素を形成し、それが段階(ii)の気相反応において最終的なSWCNTへと成長する。不適切な配座で吸着された分子は、段階(ii)において引き続き成長し得るSWCNT前駆体要素を形成しない。従って、予め規定されたカイラリティを有するSWCNTのみが段階(ii)において実際に形成される。換言すれば、本発明の方法では、予め規定されたカイラリティのSWCNTを極めて高い純度(即ち約100%の純度)で得ることができる。
【0074】
好ましくは、多環式芳香族化合物は、前駆体要素、ひいてはSWCNTの収率を最適化するために充分高いが、しかし隣接する化合物間の接触をできるだけ抑制するためには充分低い表面密度(即ち、触媒表面の単位面積あたりに堆積される化合物の数)に達する条件下で堆積される。2つまたはそれより多くの隣接する多環式芳香族化合物が接触すると、変換段階(i)の後に得られる特定の前駆体要素の収率が低下することがある。
【0075】
多環式芳香族化合物と触媒表面との間の接触面積を最大化し、且つそれによって脱水素環化段階の効率を改善するために、金属含有触媒粒子の平均直径を充分に大きく保つべきである。
【0076】
好ましくは、段階(i)の金属含有触媒は、以下の関係を満たす平均直径dcatを有する粒子の形態: dcat>2×dSWCNT、より好ましくは: dcat>4×dSWCNT; さらにより好ましくは: dcat>10×dSWCNT、またはdcat>20×dSWCNT、またはdcat>50×dSWCNT、または連続膜の形態である。
【0077】
段階(i)における金属含有触媒の粒子は、dcat>2×dSWCNTとの規定の下で、例えば少なくとも5nm、より好ましくは少なくとも10nm、さらにより好ましくは少なくとも20nm、または少なくとも50nm、または少なくとも100nmの平均粒径を有することができる。
【0078】
平均粒径を、画像分析(例えば透過型電子顕微鏡(TEM)または走査型電子顕微鏡(SEM)から取得された画像)によって測定できる。この画像に基づく粒径分析においては、TEM(またはSEM)画像において示された粒子のサイズ分布が測定される。個々の粒子の粒径は、画像から入手可能なその最大の広がりである。サイズ分布の曲線のピーク値が平均粒径である。
【0079】
用語「連続膜の形態の触媒」とは、触媒によって提供され且つ多環式芳香族化合物が堆積される表面の寸法が、芳香族化合物の分子サイズを遙かに上回っていることを意味する。好ましくは、膜の形態のそのような触媒は平坦な表面を提供し、それによって多環式芳香族化合物と触媒表面との間の相互作用を改善し且つ分子内環化の効率を向上させる。
【0080】
段階(i)において使用される触媒は、部分的または完全に結晶性であってよい。しかしながら、段階(i)における触媒がアモルファスであることも可能である。
【0081】
分子内環化のために段階(i)において使用できる触媒は一般に、当業者に公知であり且つ市販されているか、または通常公知の標準的な方法によって製造できる。
【0082】
当業者に公知のとおり、SWCNTの直径を、以下の式から計算できる:
SWCNT=(n2+m2+nm)1/2×0.0783nm
前記式中、nおよびmは、カイラルベクトル、ひいてはSWCNTの構造を規定する整数である。さらには、上記で既に議論したとおり、適切な多環式芳香族化合物を選択することによって、特徴的なn,mの整数を有する特定のSWCNTが得られる。それらの公知の整数nおよびmから、SWCNTの直径を計算できる。
【0083】
段階(i)において多環式芳香族化合物をSWCNT前駆体要素へと変換するための適切な工程条件は主に当業者に公知である。
【0084】
分子内環化が行われる温度は、広い範囲にわたって変化し得る。好ましくは、段階(i)は100℃〜1000℃、より好ましくは200℃〜800℃、または200℃〜600℃の温度T1で行われる。
【0085】
選択的に、開いた端部E1と閉じた端部E2とを有するナノチューブセグメントSSWCNTを使用する代わりに、両方の端部で開いているナノチューブセグメントSSWCNTを使用することも可能である。
【0086】
両方の端部で開いているそのような短いナノチューブセグメントを、化学的に、例えばPure Appl. Chem., 2012, Vol. 84, No. 4, pp.907−916内に記載される化学反応を介して製造できる。選択的に、SWCNTをより小さなセグメントに、例えば電子ビームリソグラフィーおよび酸素プラズマイオンエッチングで切断する(例えばNano Letters, 2009, Vol. 9, No. 4, pp. 1673−1677参照)。
【0087】
上記に示されたとおり、本発明の方法は、前駆体要素を炭素源化合物との、表面上、好ましくは金属含有触媒の金属表面上での気相反応によって成長させることを含む段階(ii)を含み、その際、前駆体要素はセグメントSSWCNTの開いた端部E1を介して金属含有触媒の表面と接触しており、且つ、金属含有触媒は、以下の関係: dcat>2×dSWCNTを満たす平均直径dcatを有する粒子の形態であるか、または連続膜の形態である。
【0088】
炭素源化合物(即ち1つまたはそれより多くの炭素原子を含有する化合物)は、化学気相堆積(CVDによる)カーボンナノチューブの製造のために典型的に使用される化合物から選択できる。かかるカーボン源化合物は一般に、当業者に公知である。
【0089】
本発明の段階(ii)において使用できる炭素源化合物は、例えばアルカン、例えばC1〜C4−アルカン(好ましくはメタンまたはエタン)、アルケン、例えばエチレン、アルキン、例えばアセチレン、アルコール、例えばC1〜C4−アルコール(好ましくはメタノールまたはエタノール)、芳香族化合物、例えばベンゼン、一酸化炭素、窒素含有有機化合物(例えばアミン)、ホウ素含有有機化合物、またはそれらの任意の混合物である。炭素源化合物をヘテロ原子含有の非炭素化合物(例えばNH3、・・・等)と混合でき、それはSWCNTをヘテロ原子でドープし得る。
【0090】
炭素源化合物に加えて、1つまたはそれより多くの支持ガス、例えばH2またはH2Oを使用できる。気相反応を介したカーボンナノチューブの製造工程におけるそのような支持ガスの使用は一般に当業者に公知である。
【0091】
金属含有触媒の金属として、化学気相堆積(CVD)によるカーボンナノチューブの製造のために典型的に使用されるものを言及できる。好ましくは、前記金属はPd、Pt、Ru、Ir、Rh、Au、Ag、Fe、Co、Cu、Niまたはそれらの任意の混合物または合金である。
【0092】
段階(i)において製造されるSWCNT前駆体要素を、当業者に通常公知の方法によって金属含有触媒の表面と接触させ、金属含有触媒の表面上に堆積させることができる。金属含有触媒が段階(i)において使用され、且つ段階(ii)の金属含有触媒とは異なる場合、前駆体要素を通常公知の方法によって段階(ii)の金属含有触媒の表面に移すことができる。しかしながら、以下により詳細に議論されるとおり、段階(i)と(ii)とにおいて同じ金属含有触媒を使用することが好ましい。この好ましい実施態様において、SWCNT前駆体要素の第1の触媒から第2の触媒への移動は必要ない。換言すれば、この好ましい実施態様において、段階(ii)は、段階(i)の金属含有触媒の表面上での炭素源化合物との気相反応による前駆体要素の成長を含む。
【0093】
好ましくは、段階(ii)の金属含有触媒は、以下の関係を満たす平均直径dcatを有する粒子の形態である: dcat>4×dSWCNT、より好ましくは: dcat>10×dSWCNT、またはdcat>20×dSWCNT、またはdcat>50×dSWCNT
【0094】
上述のとおり、SWCNTの直径を、以下の式から計算できることが当業者に公知である:
SWCNT=(n2+m2+nm)1/2×0.0783nm
前記式中、nおよびmは、カイラルベクトル、ひいてはSWCNTの構造を規定する整数である。さらには、適切な多環式芳香族化合物を選択することによって、特徴的なn,mの整数を有する特定のSWCNTが得られる。それらの公知の整数nおよびmから、SWCNTの直径を計算できる。
【0095】
段階(ii)における金属含有触媒の粒子は、dcat>2×dSWCNTとの規定の下で、例えば少なくとも5nm、より好ましくは少なくとも10nm、さらにより好ましくは少なくとも20nm、または少なくとも50nm、または少なくとも100nmの平均粒径を有することができる。
【0096】
平均粒径を、画像分析(例えば透過型電子顕微鏡(TEM)または走査型電子顕微鏡(SEM)から取得された画像)によって測定できる。この画像に基づく粒径分析においては、TEM(またはSEM)画像において示された粒子のサイズ分布が測定される。個々の粒子の粒径は、画像から得られるその最大の広がりである。サイズ分布の曲線のピーク値が平均粒径である。
【0097】
用語「膜の形態の触媒」とは、触媒によって提供され且つ多環式芳香族化合物が堆積される表面の寸法が、芳香族化合物の分子サイズを遙かに上回っていることを意味する。好ましくは、膜の形態のそのような触媒は平坦な表面を提供し、それによって多環式芳香族化合物と触媒表面との間の相互作用を改善し且つ分子内環化の効率を向上させる。
【0098】
段階(ii)において使用される触媒は、部分的または完全に結晶性であってよい。しかしながら、段階(ii)における触媒がアモルファスであることも可能である。
【0099】
好ましい実施態様において、金属含有触媒は段階(i)においても使用され、且つ段階(i)の金属含有触媒および段階(ii)の金属含有触媒も同じである。
【0100】
段階(ii)の温度T2は、広い範囲、例えば100〜1000℃にわたって変化し得る。
【0101】
本発明において、段階(ii)が低温で行われる場合に、意外なことにSWCNTの収率をさらに改善すらできる。従って、好ましい実施態様において、段階(ii)を温度700℃以下で、より好ましくは600℃以下、さらにより好ましくは550℃以下で行う。適切な温度範囲は、例えば300〜700℃、より好ましくは350〜600℃、さらにより好ましくは350〜550℃である。
【0102】
好ましくは、段階(ii)の温度は段階(ii)においてCNTのいかなる自発的な形成も回避するために充分に低く保たれる。換言すれば、段階(ii)の温度は好ましくは炭素源化合物が、段階(i)において既に提供されたSWCNT前駆体要素の成長を単に開始するが、しかし触媒表面上でさらなるCNTを生成しないように充分に低く、なぜなら、それらのさらなるCNTは良好に規定された均質なカイラリティを有さないことがあるからである。段階(ii)の触媒粒子が非常に大きければ、これは既に段階(ii)におけるさらなるCNTの形成を抑制するために充分であることができる。より小さな触媒(しかしまだdcat>2×dSWCNTの関係には従う)が段階(ii)において使用される場合、それは不均一なカイラリティのCNTを自発的に形成するリスクを残すかもしれない。しかしながら、本発明において使用されるSWCNT前駆体要素は、低温であっても炭素源化合物と反応できるので、段階(ii)をさらなるCNTの自発的な形成を抑制するためには充分に低いがしかし段階(i)において提供されたSWCNTの前駆体要素の成長を開始するためには充分に高い温度で行うことができる。
【0103】
段階(ii)における気相反応(ひいてはSWCNTの成長)が行われる圧力は、広い範囲にわたって変化し得る。気相反応を非常に低い圧力、例えば10-4mbar未満、または10-5mbar未満、または10-6mbar未満で行うことができるが、まだ充分な成長速度を提供できる。低圧で作業する場合、最終的なSWCNTの純度が改善され得る。しかしながら、より高い圧力で気相反応を行う一方で高い品質且つ極めて高い異性体純度のSWCNTを得ることも可能である。
【0104】
原理的に、段階(ii)を、SWCNTが所望の長さに成長するまで継続できる。さらには、適宜、SWCNT末端キャップを後の段階で除去して、端部が開いたSWCNTを得ることができる。
【0105】
適宜、本発明のSWCNTを、当業者に通常公知の方法によって金属含有触媒の表面から分離できる。
【0106】
さらなる態様によれば、本発明は、上述の方法によって得られるシングルウォールカーボンナノチューブを提供する。
【0107】
上述のとおり、均質な構造またはカイラリティ(即ちアームチェア型またはジグザグ型またはカイラル型)のSWCNTを、本発明の方法により非常に高い純度で得ることができる。従って、好ましい実施態様において、該シングルウォールカーボンナノチューブは、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、またはさらに少なくとも98%、最も好ましくは100%の異性体純度を有する。例えば95%の異性体純度とは、100のSWCNTのうちの95が同じ整数nおよびmによって特徴付けられることを意味する。
【0108】
該製造方法の結果として、本発明のシングルウォールカーボンナノチューブを、金属含有基材の表面上に提供でき、前記金属含有基材は上述の金属含有触媒に相応し且つ連続膜の形態または以下の関係を満たす平均直径d基材を有する粒子の形態である: d基材>2×dSWCNT
【0109】
本発明の前駆体要素を製造するために使用できる多環式芳香族化合物のいくつかは、先行技術にはまだ記載されていない。従って、さらなる態様によれば、本発明は式(I)〜(XXIII)の1つを有する多環式芳香族化合物を提供する:
【化28】
【化29】
【化30】
【化31】
前記式中、Rはフェニル(即ち−C65)である;
【化32】
【化33】
【化34】
【化35】
【化36】
【化37】
【化38】
【化39】
【化40】
【化41】
【化42】
【化43】
【化44】
【化45】
【化46】
【化47】
【化48】
【化49】
【化50】
さらなる態様によれば、本発明は、シングルウォールカーボンナノチューブを製造するための式(I)〜(XXIII)の多環式芳香族化合物の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0110】
図1】(6,6)シングルウォールカーボンナノチューブを製造できる例示的な前駆体要素の構造を示す図である。
図2】式(I)の多環式芳香族化合物を製造するための合成ルートを示す図である。
図3】式(II)の多環式芳香族化合物を製造するための合成ルートを示す図である。
図4】Pt表面上にRTで堆積され(図4(a))、且つ500℃でのアニール後(図4(b))の多環式芳香族分子のSTM像を示す図である。
図5】脱水素環化前(実線)の多環式芳香族分子(実線)および脱水素環化後に得られた前駆体要素(点線)のラインプロファイルを示す図である。
図6】式(II)の多環式芳香族化合物についての種々の配座異性体を示す図である。
図7】SWCNT前駆体要素の、炭素源化合物と反応する前(実線)および炭素源化合物の供給によって成長段階を開始した後(点線: ドーズ量1ラングミュア、破線: ドーズ量5ラングミュア)の、ラインプロファイルを示す図である。
図8】長さ300nmのSWCNTの走査型Heイオン顕微鏡像を示す図である。
図9】SWCNTのラマンスペクトルを示す図である。
図10】SWCNTの構造の高分解能STM画像を示す図である。
図11】段階(ii)において温度500℃(実線)および400℃(点線)で製造された(6,6)−SWCNTのラマンスペクトルを示す図である。
【0111】
本発明をここで、以下の実施例によってより詳細に説明する。
【実施例】
【0112】
評価方法
低温走査型トンネル顕微鏡を使用し、定電流モード且つサンプル温度77Kで、STM測定を実施した。そのシステムを別のUHVチャンバー内で、ベース圧力1×10-11mbarで保持する。ラマンスペクトルをBruker Senterra装置内で、スペクトル分解能4cm-1で、出力20mWで、532および782nmのレーザーを使用して記録した。走査型Heイオン顕微鏡測定を、Carl Zeiss Orion Plus装置内で、ビームエネルギー30keV且つビーム電流0.4pAで実施した。
【0113】
多環式芳香族化合物の製造
式(I)および(II)の多環式芳香族化合物を製造した。
【0114】
式(I)の化合物が、図2に示される合成経路による多段階有機合成によって得られた。2−ブロモ−6−メチルベンゾフェナントレン(1)が、2−アセトナフトンのそれぞれのスチルベンへの標準的なウィッティヒのオレフィン化および引き続くカッツの改善を使用したマロリーの光環化によって得られた。1と、2−ビフェニルボロン酸との鈴木カップリングにより2が生じた。N−ブロモスクシンイミドを用いたベンジル臭素化および引き続くDMSO中のシアン化ナトリウムでの処理により化合物4が生じた。その後、シアノ化合物を加水分解して相応の酢酸にし、且つ、2段階で6へと変換した。塩化チオニルとの第1の反応により酸塩化物が生じ、それをフリーデル-クラフツのアシル化において使用して閉環を達成した。最後の合成段階、式(I)の化合物(図2内の7として参照される)への変換を、TiCl4またはブレーンステッド酸条件を使用して、アルドールの環化三量化によって行った。両方のケースが満足な収率で所望の化合物をもたらす。
【0115】
式(II)の化合物が、図3に示される合成経路による多段階有機合成によって得られた。2−メチル−トリフェニレンを、ビフェニル−2−ボロン酸と4−ブロモトルエンとの鈴木カップリングによって8をもたらし、引き続きカッツの改善を使用したマロリーの光環化により製造した。N−ブロモスクシンイミドを用いた9のベンジル臭素化により、2−ブロモメチル−トリフェニレンが生じ、それが引き続き相応のウィッティヒ塩11またはホスホン酸塩12へと変換された。スチルベン13は、11およびアセトナフトンのウィッティヒ反応によって得ることができなかったが、12および13を使用したホーナー・エモンス・ワズワース反応は成功した。引き続くマロリーの光環化は、所望の化合物14の形成をもたらした。その後、相応の酢酸17が、14とN−ブロモスクシンイミドとのベンジル臭素化、引き続くCH2Cl2中のテトラブチルアンモニウムブロミドの存在下でのシアン化カリウムでの処理、および最終的な加水分解によって得られた。その後、17は、塩化チオニルでの処理によって酸塩化物へと変換され、引き続きフリーデル-クラフツのアシル化を使用して閉環を達成し、ケトン18が得られた。18の三量化のために、o−DCB中、180℃でのTiCl4との反応を行った。式(II)の化合物(図3内で19として参照される)が得られた。
【0116】
多環式芳香族化合物の分子内環化による、(6,6)シングルウォールカーボンナノチューブのための前駆体要素の製造
式(I)および式(II)の多環式芳香族化合物をそれぞれ、UHV内でクヌーセンセル型の蒸着器内で0.5Å/分の速度で、予め洗浄されたPt(111)表面上にRTで蒸着した。
【0117】
Surface Preparation Lab (SPL)から入手されたPtの単結晶が、脱水素環化触媒として使用された。表面を、Arイオンを用いた標準的なスパッタによって1KeVのエネルギーで、最初に室温で、次いで1100Kで洗浄し、引き続きイオン衝撃のない1370Kでの最後のフラッシュアニールを行った。
【0118】
約200℃でポストアニールを行った。約500℃のさらなるアニールが、分子の完全な表面触媒脱水素環化をもたらし、それによって、製造されるべき(6,6)SWCNTのために望ましい前駆体要素が形成される。
【0119】
前駆体要素はSWCNTセグメントおよびSWCNTキャップで成り、前記SWCNTキャップはSWCNTセグメントの一方の端部に取り付けられる一方でSWCNTの他方の端部は開いたままである。SWCNTセグメントは、オルト縮合ベンゼン環によって形成される1つのセグメント環(または2つ以上の環)で成る。前駆体要素の構造を図1に示す。SWCNTセグメントは、灰色に影付けされた部分によって表される一方で、キャップで閉じられたSWCNTの一方の端部は影付けされていない部分によって表される。
【0120】
図4はPt表面上にRTで堆積され(図4(a))、且つ500℃でのアニール後(図4(b))の多環式芳香族分子のSTM像を示す。Ptの単結晶およびその表面は堆積される分子の寸法よりも遙かに大きいので、Pt表面は、幾分連続的且つ平坦な膜の状態を反映し、その上に多環式芳香族分子が施与される。
【0121】
図5は、脱水素環化前の多環式芳香族分子(実線)および脱水素環化後に得られた前駆体要素(点線)のラインプロファイルを示す。図5から理解できるとおり、高さは約0.2nm(幾分平坦な芳香族化合物の高さ)から、「ボウル状の」前駆体要素の高さである約0.45nmへと上昇する。
【0122】
図6において、式(II)の多環式芳香族化合物について種々の配座異性体が存在することを示す。しかしながら、それらの配座異性体の1つだけが、SWCNTセグメント(この特定の場合においては(6,6)−SWCNTセグメント)とSWCNTキャップとで成る湾曲したボウル状の要素を形成する。「正しい」配座を有するこの特定のボウル状要素のみが、引き続きCVD段階において成長する。図6において、一番左(very left)の配座異性体は、(6,6)−SWCNTセグメントと前記チューブセグメントの一方の端部に取り付けられたキャップとからなる前駆体要素(2つの異なる透視図から示される)を形成する。
【0123】
前駆体要素の、炭素源分子との気相反応による異性体的に純粋な(6,6)SWCNTへの成長
前駆体要素の所望の(6,6)SWCNTへの成長のために使用された炭素源化合物は、それぞれエチレン(C24)およびエタノール(C25OH)であった。圧力1×10-7mbarがチャンバー内で保たれた。基材を400℃または500℃で1時間アニールした。低ドーズ量での実験において制御するために、圧力1×10-8mbarを使用した。
【0124】
CVD成長段階のために、前駆体要素は、段階(i)において既に使用された脱水素環化触媒の表面上に残された。従って、段階(ii)の金属含有触媒は、段階(i)において使用されたものと同じであった。上記で既に述べたとおり、Ptの単結晶触媒およびその表面は、堆積される分子およびそこから製造される前駆体要素の寸法よりも遙かに大きいので、Pt表面は、幾分連続的且つ平坦な触媒膜の状態を反映し、その上に異性体的に純粋なSWCNTが製造される。
【0125】
図7は、SWCNT前駆体要素の、炭素源化合物と反応する前(実線)および炭素源化合物の供給によって成長段階を開始した後(点線: ドーズ量1ラングミュア、破線: ドーズ量5ラングミュア)の、ラインプロファイルを示す。図7によって実証されるとおり、(6,6)−SWCNTセグメントと前記チューブセグメントの一方の端部に取り付けられたキャップとからなる前駆体要素は、気相反応によって所望のSWCNTへと成長する。
【0126】
図8は長さ300nmのSWCNTの走査型Heイオン顕微鏡像を示す。
【0127】
図9は、SWCNTのラマンスペクトルを示し、且つ単分散の異性体的に純粋な(6,6)−SWCNTと一致している。該ラマンスペクトルは、(6,6)SWCNTについて予期される位置で非常によく規定されたバンドを示す。295cm-1での極めて狭いバンドは、(6,6)チューブのラジアルブリージングモード(RBM)に関連付けられる。RBMは、周波数がナノチューブの直径に強く依存する、タンジェンシャルの面外音響モードである。該スペクトルはRBM領域(200〜400cm-1)内で、λ=782nmを有する赤色レーザーでの照射下であっても、いかなるさらなるバンドも示さず、従って極めて高い工程選択性を支持することを概説することが極めて重要である。さらには、該ラマンスペクトルは、より低い倍率の対物レンズ(lower magnifying objective)を使用して、遙かに大きな領域を照射する場合に同じバンドを示す。前記図の挿入図は、面積80μm2を照射することによって記録されたRBMバンドを示し、従って多数のSWCNTの測定を保証し、従って工程の高い選択性を実証する。グラフェン格子の面内の光学振動と関連するGバンドは、1518cm-1と1591cm-1とに二重のピークとして現れる。小さい直径のSWCNTにおける著しい湾曲は、Gピークにおいて、特に横の(チューブの軸に対して垂直の)原子転位(G-)と関連した振動について、より低い周波数へのシフトを引き起こし、それはsp2グラフェン格子振動に関してダウンシフトされて現れる。観察されたスプリットは、同様の直径およびカイラリティのSWCNTと一致する。400〜1200cm-1の範囲におけるさらなるピークは、以前から観察され、且つアームチェア型のSWCNTの存在についての証拠として使用され、なぜなら、半導体性のチューブにおいて、この範囲におけるピークは存在しないからである。
【0128】
ここで報告された方法が極めて清浄であることが、予め規定されたカイラリティおよび欠陥のないSWCNをもたらす。その証拠は、ラマンスペクトル内にいかなるDバンドも存在しないことである。
【0129】
SWCNTの構造の高分解能STM画像を図10に示し、それは、本発明において製造された正真正銘のシングルカイラリティのSWCNTについてのさらなる証拠である。図10において、SWCNTが、チューブの軸の方向において、より高いコントラストのラインにある内部構造を示すことが観察できる。該SWCNTのモデルをSTM画像と重ね合わせることにより、それらのより高いコントラストのラインが実際に(6,6)SWCNT内のグラフェン構造の炭素の位置であることがさらに確認される。チューブの直径とグラフェン格子の周期性との両方における顕著な一致は、観察された1次元構造が期待された(6,6)SWCNTであることを実証する。
【0130】
段階(ii)における温度が生成物の品質および収率に及ぼす影響
図11は、段階(ii)において温度500℃(実線)および400℃(点線)で製造された(6,6)−SWCNTのラマンスペクトルを示す。
【0131】
両方のスペクトルは異性体的に純粋な(6,6)−SWCNTと一致する。しかしながら、D/GバンドとRBM/Gとの間の相対的な強度を比較すると、所望の予め規定されたSWCNTを、より低い温度で作業した場合により高い収率で得ることができると結論付けることができる。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】