(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-519538(P2017-519538A)
(43)【公表日】2017年7月20日
(54)【発明の名称】生腐食性インプラントの表面処理のための方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/04 20060101AFI20170623BHJP
C25D 11/30 20060101ALI20170623BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20170623BHJP
A61K 6/04 20060101ALI20170623BHJP
C22C 23/06 20060101ALI20170623BHJP
【FI】
A61L27/04
C25D11/30
A61L27/36 311
A61K6/04
C22C23/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-564034(P2016-564034)
(86)(22)【出願日】2015年5月21日
(85)【翻訳文提出日】2016年12月21日
(86)【国際出願番号】EP2015061210
(87)【国際公開番号】WO2015162306
(87)【国際公開日】20151029
(31)【優先権主張番号】102014105732.5
(32)【優先日】2014年4月23日
(33)【優先権主張国】DE
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ
(71)【出願人】
【識別番号】514054236
【氏名又は名称】シンテリックス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100118256
【弁理士】
【氏名又は名称】小野寺 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】ノイベルト フォルクマー
(72)【発明者】
【氏名】ノイベルト フォルクマー−ディルク
【テーマコード(参考)】
4C081
4C089
【Fターム(参考)】
4C081AB03
4C081AB05
4C081AB06
4C081BA16
4C081BB08
4C081CG08
4C081DA01
4C081EA02
4C081EA05
4C081EA06
4C081EA11
4C081EA13
4C089AA02
4C089BB02
4C089CA04
(57)【要約】
本発明の主題は、電気化学反応を用いる生腐食性インプラントの表面処理のための方法であって、a)生腐食性マグネシウム合金のインプラントを提供するステップと、b)インプラントを9〜13のpHを有する電解液に導入するステップと、c)電気化学的にインプラントの表面を処理するステップとを含み、インプラントが作用電極として作用し、さらに対電極も存在し、作用電極が交互に陰極および陽極に分極され、電流密度が陰極分極については−0.1から−7mA/cm
2に設定され、陽極分極については0.1から2mA/cm
2に設定されている方法である。対応するインプラントも、本発明の主題である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学反応を用いる生腐食性インプラントの表面処理のための方法であって、
a)生腐食性マグネシウム合金製のインプラントを提供するステップと、
b)前記インプラントをpH9からpH13のpH値を有する電解液に導入するステップと、
c)前記インプラントの表面を電気化学的に処理するステップと
を含み、
前記インプラントが作用電極として作用し、さらに対電極も存在し、
前記作用電極が、交互に陰極および陽極に分極され、陰極分極については電流密度が−0.1から−75mA/cm2に設定され、陽極分極については電流密度が0.1から25mA/cm2に設定される、方法。
【請求項2】
前記作用電極が、陰極および陽極に交互に複数回分極され、陰極分極で開始して陰極分極で堆積を終了することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電流密度およびパルスの全持続時間が、陽極分極ステップにおいて、先行する陽極分極ステップにおけるよりも少ないことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
パルス長が、前記陰極分極において0.40秒から2.5秒であり、前記陽極分極において0.10秒から0.50秒であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
陰極分極ステップにおけるパルスの全持続時間が5分から90分であり、陽極分極ステップにおけるパルスの全持続時間が1分から20分であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
全パルスの全持続時間が20分から300分であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも10nm、好ましくは少なくとも15nmの水素化物層が、前記インプラントの表面上で達成されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法によって得られ、腐食抑制コーティングを有する、インプラント。
【請求項9】
腐食抑制水素化物層が、少なくとも10nm、好ましくは少なくとも15nmの層厚さを有する、請求項8に記載のインプラント。
【請求項10】
前記生腐食性マグネシウム合金が、
2.5から5重量%の希土類金属成分、
1.5から5重量%のイットリウム成分、
0.1から2.5重量%のジルコニウム成分、
0.01から0.8重量%の亜鉛成分、
ならびに不可避の不純物を含有し、可能性のある夾雑物の総含有量が1重量%未満であり、アルミニウム成分が0.5重量%未満であり、
残りの100重量%までがマグネシウムであることを特徴とする、請求項8または9に記載のインプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交互陰極および陽極分極を用いる生腐食性インプラントの表面処理のための方法、およびそれに対応するインプラントにも関する。
【背景技術】
【0002】
インプラントの目的は、身体機能を補助することまたは置き換えることであり、医療技術において用いられているインプラントの最も多様な実施形態である。組織を固定するためのインプラント、血管内インプラント、義歯インプラント、関節置換インプラントに加えて、インプラントは、ネジ、釘、板などの、骨損傷の治療用、または骨置換としても使用される。
【0003】
現在骨に適用されるインプラントは、一般にはチタンから製造される。他の永久インプラントと比較するとチタンインプラントの相対的に良好な生体適合性にもかかわらず、これらのチタンインプラントをさらに改善するための努力がなされてきた。コーティングは、生体適合性を改善するためにインプラントの表面上にしばしば施される。
【0004】
インプラントの表面への層の適用の1つの不都合な点は、小さい層厚さの場合でも、インプラントの形状への変化である。さらに、適用された層の付着性は、一般には最適ではない。
【0005】
特許文献1は、好ましくはチタン製の金属インプラント上のリン酸カルシウム相および金属酸化物相の段階的なコーティングを生成する方法を開示している。金属インプラントおよび対電極によって形成された基板電極を用いる電気化学的方法では、弱酸性から中性の範囲のカルシウムおよびリン酸イオンを含む水溶液が、電解液として用いられてインプラントによって形成された基板電極が、陽極および陰極に交互に分極される。インプラント上での骨の良好な成長は、インプラント表面へのリン酸カルシウム相の堅固な組み込みによって達成される。
【0006】
特許文献2は、骨結合性(osteointegration)の改善のための金属インプラント表面のコーティングを記述している。電解セルにおいてインプラントは、カルシウム、リン酸塩およびコラーゲンを含有する電解液中で陰極に分極される。無機物化されたコラーゲン層が、この方法によってインプラントの表面上に形成される。
【0007】
多くの場合、具体的には心血管および整形外科のインプラントの場合、インプラントは一時的に体内に留まらせることだけが必要である。永久材料で作られているインプラントは、次いでさらなる手術によって除去される必要がある。この理由のため、生腐食性(biocorrodable)材料が、インプラントに用いられる。この場合生腐食は、体内の物質によって引き起こされる材料の段階的な分解であると理解される。生腐食性の材料を用いても腐食過程への作用は、有利である。
【0008】
しかしながら、インプラントは一定時間後体内で溶解することが最終的には望ましいので、生腐食性インプラントの場合は腐食の完全阻害は、一般には達成されるべきではない。むしろ、必要に応じて体内のインプラントの遅延性の分解を可能にする、腐食の速度に影響を与えることだけが必要である。
【0009】
腐食に対する保護を改善するための1つの取り組みは、永久インプラントの場合と同様に、腐食抑制層の適用である。
【0010】
例として分解を遅らせるコーティングを備える、マグネシウム材料製の分解性のステントを開示している、特許文献3を参照する。これに関しては、天然の混合酸化物層を有する、インプラントの非コーティング表面が、混合フッ化物層に変換される。コーティングは、電解液の補助有りまたは無しでフッ化物を含有する媒体に浸漬することによって生成され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】独国特許第19504386(C2)号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10029520(A1)号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第10357281(A1)号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、インプラントの分解の速度が必要に応じて適合され得る、生腐食性インプラントの表面処理のための別の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本目的は、請求項1に従う生腐食性インプラントの表面処理のための本発明による方法によって達成される。
【0014】
電気化学反応を用いる生腐食性インプラントの表面処理のための本発明による方法は、
a)生腐食性マグネシウム合金製のインプラントを提供するステップと、
b)インプラントをpH9からpH13のpH値を有する電解液に導入するステップと、
c)インプラントの表面を電気化学的に処理するステップと
を含み、
インプラントは作用電極として作用し、さらに対電極も存在し、
作用電極が、交互に陰極および陽極に分極され、陰極分極については電流密度が−0.1から−75mA/cm
2に設定され、陽極分極については電流密度が0.1から25mA/cm
2に設定されている方法である。
【0015】
インプラント表面からインプラントに成長するマグネシウム水素化物層は、本発明による方法によって生成される。水素イオンは、電解液から陰極に堆積してインプラントの表面に埋め込まれる。
【0016】
金属水素化物層は、インプラントの表面から始まり、実質的にインプラントに成長して形成される。したがって方法は、金属水素化物層がインプラントに成長するので、インプラントの形状の変化が起きないという利点を有する。
【0017】
本発明の文脈においてインプラントは、体内に移植された人工の材料であると理解すべきである。インプラント本体のための生腐食性合金の使用に起因して、用いられた材料は、体内の物質によって徐々に分解される。インプラントは、完全にまたは部分的に、生腐食性合金からなることが条件とされる。インプラントは、例えば骨を固定するためのインターフェアレンススクリュー、ネジおよび板、薬物療法デポ(medication depot)としてのインプラント、関節補綴、ステント、顎および歯インプラントなど、必要に応じて異なる目的および機能を満足し得る。リストは単なる例であり決して最終的と理解すべきでない。
【0018】
インプラントの腐食は、水素化物層によって遅くなる。水素化物層の腐食の速度は、水素化物層が無い実際の材料の速度より遅い。密閉された水素化物層がインプラントの表面上に存在する限り、インプラントの腐食の速度は、マグネシウム水素化物の腐食反応によって決定される。この水素化物層が腐食によって分解するとすぐに、インプラントの腐食の速度は、実際の生腐食性マグネシウム合金の腐食の速度に相当する。したがって、水素化物層が腐食によって分解された後で合金は、未処理のインプラントの場合と同じように、さらに分解される。水素化物層の形成は、2段階腐食の挙動を生じさせる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、X線回折(XRD)による水素化物検出を示す。
【
図2】
図2は、二次イオン質量分析法(SIMS)による水素化物検出を示す。
【
図4】
図4は、乳酸リンゲル液における腐食速度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明による方法は、好ましくは次のように実行される:
インプラント、例えば生腐食性金属合金、好ましくは生腐食性マグネシウム合金製の圧縮ネジが、白金線上にねじ込まれる。次いでネジの表面は、クエン酸水溶液、好ましくは1〜10%溶液における浴によって、1から10秒間活性化される。次いで試験片は、脱イオン水中で、好ましくは約5から30秒間すすがれる。
【0021】
さらなる処理のためにネジは、非金属性の対象物キャリヤ上に固定される。次いで白金線が引き抜かれる。対象物キャリヤにおける刻み目は、後のネジの滑りを防止する。あるいは、ネジは、例えば端子との、後の接触を生じるためにネジの端部が自由である、穴を備えた板を通して挿入されてもよい。
【0022】
ネジは、導電性接触を生じるために端子と接触される。この目的のために、端子は、好ましくはネジの外端部に取り付けられる。
【0023】
非常に小さいネジまたはピンなどの非常に小さいインプラントが用いられる場合、端子によって接触を作り出せないので、端子は用いられない。代わりに細かい金網が用いられ、その上にネジまたはピンが置かれる。次いでインプラントへの導電性接触が、網を活用して行われる。クエン酸溶液における活性化ならびに水でのすすぎは、同様に好ましくは網を活用して行われる。
【0024】
次いでインプラントは、電解液内に導入される。電解液は、pH9からpH13、好ましくはpH9からpH10の塩基性pHを有する。さらには、電解液が0.01M NaOHおよび0.2M Na
2SO
4を含有することは好ましい。
【0025】
マグネシウム水素化物層の形成は、塩基性pH値によって可能になる。pH9未満のpH値ではマグネシウム材料は、その基本金属性質のために腐食するであろう。
【0026】
第一に、正パルスの作用によってインプラントの表面の洗浄が起こる。この場合インプラントが、作用電極を形成する。さらには、対電極が構成内に存在する。対電極は好ましくは、例えば白金、クロム−ニッケル鋼、などの、耐腐食性金属材料からなる。ガラス容器が、好ましくは電解セルとして用いられる。
【0027】
表面の洗浄のためには15mA/cm
2から35mA/cm
2の正パルスが、0.10秒から0.50秒のパルス長(パルス持続時間)および全5分から40分のパルスの全持続時間と共に好ましい。この場合0.20秒のパルス長および20分の全持続時間において25mA/cm
2の正パルスが特に選択される。
【0028】
次いで交互の複数回の負および正パルス変化によってインプラントの水素化が発生する。本発明による方法のために作用電極が、陰極分極で開始して陰極分極での堆積で終了する、陰極および陽極に交互に複数回分極されることは好ましい。
【0029】
好ましい実施形態において陰極分極については電流密度が、−35から−55mA/cm
2に設定され、陽極分極については電流密度が、5から25mA/cm
2に設定される。
【0030】
さらには、電流密度およびパルスの全持続時間が、陽極分極ステップにおいて、先行する陽極分極ステップにおける全持続時間よりも少ないことは好ましい。
【0031】
本発明の文脈において分極ステップは、特有の電流密度およびパルス長の一連の正または負パルスとして理解すべきである。
【0032】
さらには、パルス長が、陰極分極において0.40秒から2.5秒および陽極分極において0.10秒から0.50秒であることは好ましい。
【0033】
本発明による方法の好ましい実施形態において陰極分極ステップにおけるパルスの全持続時間は、5分から90分であり、陽極分極ステップにおけるパルスの全持続時間は、1分から20分である。
【0034】
さらに好ましい実施形態において陰極および陽極分極ステップの全パルスの全持続時間は、20分から300分、好ましくは120分から240分、特に好ましくは195分である。
【0035】
好ましい実施形態において本発明による方法は、交互の一連の5つの分極ステップ、
1.分極ステップ:陰極分極(負パルス)
電流密度:−0.1から−75mA/cm
2
パルス長:0.50から2.5秒
全60分間(3.6ks)
2.分極ステップ:陽極分極(正パルス)
電流密度:+0.1から+25mA/cm
2
パルス長:0.20から0.5秒
全10分間(0.6ks)
3.分極ステップ:陰極分極(負パルス)
電流密度:−0.1から−75mA/cm
2
パルス長:0.50から2.5秒
全60分間(3.6ks)
4.分極ステップ:陽極分極(正パルス)
電流密度:+0.1から15mA/cm
2
パルス長:0.20から0.5秒
全5分間(0.3ks)
5.分極ステップ:陰極分極(負パルス)
電流密度:−0.1から−75mA/cm
2
パルス長:0.50から2.5秒
全60分間(3.6ks)
からなる。
【0036】
5から8nm/時の堆積速度は、本発明による方法によって有利に達成される。
【0037】
本発明の文脈において堆積速度は、インプラントの表面からインプラントへの金属水素化物層の成長であると理解すべきである。
【0038】
交互陰極および陽極分極後、インプラントは、電解液から取り出されて脱イオン水で約30から60秒間すすがれる。不動態化のためにインプラントは、好ましくは10から100秒間60℃の温度にて熱空気流内に導入される。インプラントは好ましくは、さらなる使用まで、酸化を防止するために気密の方法で包装される。
【0039】
本発明による方法を活用してインプラントの耐腐食性を増加させるマグネシウム水素化物層が、インプラントの表面上に形成される。本発明による方法のために指定されたものよりも高い電流強度は、実際には定義された時間間隔以内の水素化物層のより速い形成に繋がり得る。しかしながら、水素化物層の異なる浸透の深度が伴う、水素化物層のより速い成長は、不均一な表面およびしたがって一貫性のない腐食に繋がり得る。形成されたマグネシウム水素化物層の不均一な層厚さの場合には、より薄い層域は、より厚い域よりも速く完全に分解される。マグネシウム水素化物層がすでに幾つかの域で分解されているが、他ではまだ分解されていない場合、これは、これらの点においてもういかなる水素化物腐食も無いが、実際の材料の腐食は起こるので、腐食の速度の劇的な増加に繋がり得る。したがってインプラントは、一貫性なく分解しかつその安定性を失い得る。
【0040】
記述されているパラメータは、妥当な時間において最適の表面をもたらす。
【0041】
水素化物層の成長は、陰極分極ステップ中に起こる。より長いまたはより短いパルス長は、水素化物層の成長に間接的な影響を与えるだけである。電気化学反応に加えてパルスは、主として形成された水素(H
2)が作用電極上で均一にかつ短い間隔で放出されるという目的を果たす。水素気泡の蓄積は、極端な場合、材料(作用電極)と電解液との間で接触がもう起きないので、この時点における水素化物層の積み上げの減速または停止に繋がり得る。
【0042】
分極ステップ中に個々のパルスの間の短い休止期(「中断」)がある。この場合「電流が印加されている」と「電流が印加されていない」との間のこの休止期は、好ましくは水素気泡が作用電極から発生し得るように十分長くあるべきである。
【0043】
具体的には方形波パルス電流は、それらが、水素が発生し得るように十分な時間を提供するので、本発明による方法のために有利である。本発明の文脈において方形波パルス電流は、急な上昇および低下ならびにそれらの間に位置する一定の水平域のある電流である。同じことがパルス長にも当てはまる。時間間隔における多くの短パルスでは、休止期が短すぎかつ気泡の形態の水素ガスの実質的な蓄積が作用電極上で発生する。
【0044】
本発明による方法の有利な構成において少なくとも0.1秒の休止中断が、2つのパルス間に提供される。
【0045】
この場合インプラント(作用電極)の形状も、最適のパルス長に影響を与える。滑らかなまたは均一の表面は、水素気泡が外れることを促進する。パルス長は、ここで切られてよい。らせん状のインプラント、または小さいインプラントの場合に使用されるような、電極としての支持網の場合のように、平坦でない表面またはネジ山を備えた試料は、水素気泡が外れるためにより多くの時間を必要とすることに繋がる。
【0046】
したがってパルス長は、インプラントの形状に従って調整可能である。多すぎる水素気泡が作用電極上に蓄積する場合、パルス長は、より長くなる。
【0047】
このように個々の方法パラメータは、異なるインプラントサイズおよび形状に適合可能である。さらに、インプラントの分解の速度は必要に応じて適合させてもよい。速い分解が望ましい場合、パルスの全持続時間、すなわちそれぞれの陰極分極ステップの持続時間は、水素化物層の形成を小さい浸透の深度におよびしたがって小さい層厚さに制限するために短縮される。一方で、より長いパルスの全持続時間の場合には浸透の深度およびしたがって層厚さは増加する。
【0048】
本発明による方法のさらなる実施形態において少なくとも50%のマグネシウム成分を有する生腐食性マグネシウム合金製のインプラントが提供されることは好ましい。
2.5から5重量%の希土類金属成分、
1.5から5重量%のイットリウム成分、
0.1から2.5重量%のジルコニウム成分、
0.01から0.8重量%の亜鉛成分、
ならびに不可避の不純物であって、可能性のある夾雑物の総含有量が1重量%未満であり、アルミニウム成分が0.5重量%未満、好ましくは0.1重量%未満であり、
残りの100重量%までがマグネシウムである、組成は特に好ましい。
【0049】
さらには、インプラントが、完全にまたは部分的に、生腐食性マグネシウム合金からなることは好ましい。
【0050】
さらなる利点は、本発明による方法によって得られるまたは得られ得る、腐食抑制コーティングを備えたインプラントによって提供される。
【0051】
本発明による方法が実行された後、インプラントの表面は、耐腐食性を増加させる水素化された外層を有する。この場合、腐食抑制水素化物層が少なくとも10nm、好ましくは少なくとも15nm、特に好ましくは20nmの層厚さを有することは好ましい。
【0052】
さらに好ましい実施形態において生腐食性マグネシウム合金製の、提供されるインプラントは少なくとも50%のマグネシウム成分を有する。インプラントを製造する生腐食性マグネシウム合金は、
2.5から5重量%の希土類金属成分、
1.5から5重量%のイットリウム成分、
0.1から2.5重量%のジルコニウム成分、
0.01から0.8重量%の亜鉛成分、
ならびに不可避の不純物であって、可能性のある夾雑物の総含有量が1重量%未満であり、アルミニウム成分が0.5重量%未満、好ましくは0.1重量%未満であり、
残りの100重量%までがマグネシウムである、組成を有する。
【0053】
アルミニウムはアルツハイマー病またはがんの促進などの、健康に有害な特性を有することが疑われているので、生腐食性マグネシウム合金はアルミニウムの少ない、ほとんど無視できる含有量のために、ヒト医療におけるインプラントの使用に適する。
【0054】
さらには、インプラントが、完全にまたは部分的に生腐食性マグネシウム合金からなることは好ましい。
【0055】
本発明による方法は、実施形態を参照してより詳細に説明される。
【0056】
実施形態
マグネシウム合金ZfW 102 PM F製の円形の材料を本発明による方法によって処理する。
【0057】
この場合、マグネシウム合金ZfW 102 PM Fは、ネオジム成分が2.35重量%に相当する、4.05重量%の希土類金属成分(ネオジムを含む)、1.56重量%のイットリウム成分、0.78重量%のジルコニウム成分、0.4重量%の亜鉛成分、0.0032重量%のアルミニウム成分からなる。残りの100重量%までがマグネシウムである。
【0058】
円形の材料は、6mmの直径および3cmの長さの完全な円柱である。この完全な円柱は作用電極として作用する。6mmの直径および7cmの長さを有するチタン芯を備えた白金電極が、対電極として用いられる。
【0059】
500mlビーカーを電解セルとして用いる。電解液は、0.01M NaOHおよび0.2M Na
2SO
4からなり、9.4のpH値を有する。方法は24℃で実行する。
【0060】
表面の洗浄のために0.20秒パルス長で25mA/cm
2の正パルスおよび20分間の全持続時間を用いる。
【0061】
次いで交互の負および正パルス変化によって円形片の水素化が起きる。本発明による方法を、交互の一連の5つの分極ステップにおいて実行する。
1.分極ステップ:陰極分極(負パルス)
電流密度:−50mA/cm
23
パルス長:0.50秒
全60分間(3.6ks)
2.分極ステップ:陽極分極(正パルス)
電流密度:+20mA/cm
2
パルス長:0.20秒
全10分間(0.6ks)
3.分極ステップ:陰極分極(負パルス)
電流密度:−50mA/cm
2
パルス長:0.50秒
全60分間(3.6ks)
4.分極ステップ:陽極分極(正パルス)
電流密度:+10mA/cm
2
パルス長:0.20秒
全5分間(0.3ks)
5.分極ステップ:陰極分極(負パルス)
電流密度:−50mA/cm
2
パルス長:0.50秒
全60分間(3.6ks)
【0062】
合計195分間後18nmの層厚さが達成される。
【0063】
処理の成功を、X線回折(RDA)、二次イオン質量分析法(SIMS)ならびに遊離腐食電位の測定を用いて決定する。本発明による方法によって処理されていないマグネシウム合金ZfW 102 PM F製の同一の円形材料を比較として与える。
【0065】
図1は、X線回折(XRD)による水素化物検出を示す。
【0066】
図2は、二次イオン質量分析法(SIMS)による水素化物検出を示す。
【0068】
図4は、乳酸リンゲル液における腐食速度を示す。
【0069】
例示的な実施形態1に従って本発明による方法によって処理した円形片を、X線回折を用いて検査した。材料内に存在する相が
図1に示される。マグネシウム水素化物相(MgH
2)の発生は、本発明による方法によって形成された水素化物層の証拠である。
【0070】
さらに、例示的な実施形態1に従って本発明による方法によって処理した円形片を、SIMSを用いて検査した。
図2は、水素化物検出を、加工物への水素イオンの浸透の深度の関数として示す。
【0071】
さらに、例示的な実施形態1に従って本発明による方法によって処理した円形片の遊離腐食電位ならびに未処理の円形片を測定する。
図3は、1680mVで処理された円形片(H−EIR、H電気化学誘導反応)が、未処理の円形片よりも高い正の腐食電位を有することを示す。
【0072】
図4は、未処理の円形片および例示的な実施形態1に従って本発明による方法によって処理した円形片の腐食速度を示す。腐食速度を、いずれの場合にも乳酸リンゲル液(125〜134mmol/I Na
+、4.0〜5.4mmol/I K
+、0.9〜2.0mmol/I Ca
2、106〜117mmol/I Cl
−、25〜31[mmol/l]乳酸塩
−)において37℃でヒト体内と同様の条件下で測定した。リンゲル液は血漿および細胞外液の組成と同等の組成を有する。処理した円形片は、未処理の円形片よりも低い腐食速度を有することが分かる。したがって例えば未処理の円形片は、432時間後に0.415mm/年の腐食速度および624時間後に0.339mm/年の腐食速度を有し、一方で例示的な実施形態1に従って本発明による方法によって処理した円形片は、432時間後に0.224mm/年の腐食速度および624時間後に0.153mm/年の腐食速度を有する(
図4を参照)。
【0073】
したがって分解のより遅い速度が理由で、ヒト体内への移植後、本発明による方法によって処理された生腐食性インプラントは、同じ構造設計の未処理のインプラントよりも長い耐用年数を有する。したがって本発明による方法を活用して分解の速度は、特定の目的および体内のインプラントの必要な滞留時間に適合され得る。実際の材料が可能にするよりも長い体内の滞留時間を有することが必要な場合、耐腐食性は、本発明による方法によるインプラントの処理によって増加され得る。さらに、腐食はインプラントの質量の損失を伴うので、耐腐食性の増加は、インプラントに安定性の増加を与える。インプラントが体内で速く分解しすぎる場合、ある状況において骨は、インプラントに成長して材料を骨材料で置換するための十分な時間を持たない。したがって耐腐食性の選択は、体内のインプラントの位置によって決まるかまたは患者によっても決まる。したがってより遅い骨成長を示す、高齢者の場合は、実質的により遅い分解速度を有する生腐食性インプラントを用いることができる。一方で、実質的な機械的ストレスを受けない、小さいインプラントのみが骨内に使用される場合、より小さい水素化物層厚さのインプラントを用いることができる。
【手続補正書】
【提出日】2016年5月23日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学反応を用いる生腐食性インプラントの表面処理のための方法であって、
a)生腐食性マグネシウム合金製のインプラントを提供するステップと、
b)前記インプラントをpH9からpH13のpH値を有する電解液に導入するステップと、
c)前記インプラントの表面を電気化学的に処理して前記インプラントを水素化するステップと
を含み、
前記インプラントが作用電極として作用し、さらに対電極も存在し、
前記作用電極が、パルス電圧により交互に陰極および陽極に分極され、陰極分極については電流密度が−0.1から−75mA/cm2に設定され、陽極分極については電流密度が0.1から25mA/cm2に設定され、
陰極分極ステップにおけるパルスの全持続時間が5分から90分であり、陽極分極ステップにおけるパルスの全持続時間が1分から20分である、方法。
【請求項2】
前記作用電極が、陰極および陽極に交互に複数回分極され、陰極分極で開始して陰極分極で堆積を終了することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電流密度およびパルスの全持続時間が、陽極分極ステップにおいて、先行する陽極分極ステップにおけるよりも少ないことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
パルス長が、前記陰極分極において0.40秒から2.5秒であり、前記陽極分極において0.10秒から0.50秒であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
全パルスの全持続時間が20分から300分であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも10nm、好ましくは少なくとも15nmの水素化物層厚さを有する水素化物層が、前記インプラントの表面上で達成されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法によって得られ、生腐食性マグネシウム合金からなり、腐食抑制コーティングを有する、インプラントであって、
前記腐食抑制コーティングが、少なくとも10nm、好ましくは少なくとも15nmの層厚さを有する水素化物層からなり、
前記生腐食性マグネシウム合金が、
2.5から5重量%の、イットリウムを含まない希土類金属成分、
1.5から5重量%のイットリウム成分、
0.1から2.5重量%のジルコニウム成分、
0.01から0.8重量%の亜鉛成分、
ならびに不可避の不純物を含有し、可能性のある夾雑物の総含有量が1重量%未満であり、アルミニウム成分が0.5重量%未満であり、
残りの100重量%までがマグネシウムである、
インプラント。
【国際調査報告】