特表2017-520892(P2017-520892A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-520892(P2017-520892A)
(43)【公表日】2017年7月27日
(54)【発明の名称】リチウム電池用正極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20170630BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20170630BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20170630BHJP
   H01M 4/1397 20100101ALI20170630BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20170630BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20170630BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20170630BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20170630BHJP
【FI】
   H01M4/131
   H01M4/136
   H01M4/1391
   H01M4/1397
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/58
   H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2017-500869(P2017-500869)
(86)(22)【出願日】2015年7月10日
(85)【翻訳文提出日】2017年1月5日
(86)【国際出願番号】EP2015065892
(87)【国際公開番号】WO2016005590
(87)【国際公開日】20160114
(31)【優先権主張番号】14382269.0
(32)【優先日】2014年7月10日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】510301493
【氏名又は名称】レプソル,ソシエダッド アノニマ
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】パエス ドゥエニャス アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア サン ルイス ヘスス
(72)【発明者】
【氏名】アマリラ アルヴァレス ホセ マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】ヴァスケス サントス ベアトリス
(72)【発明者】
【氏名】メネンデス ロペス ローサ マリア
(72)【発明者】
【氏名】サンタマリア ラミレス リカルド
(72)【発明者】
【氏名】ブランコ ロドリゲス クララ
(72)【発明者】
【氏名】カジェ ゴメス フェルナンド
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA23
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA08
5H050HA19
(57)【要約】
本発明は、グラフェン0.1質量%〜20質量%と、カーボンブラック0.1質量%〜20質量%と、バインダ2質量%〜20質量%とを含み、残りはLiNi0.5Mn1.54やLiMn24などのスピネル構造を有するリチウム遷移金属酸化物またはLiFePO4などのオリビン構造を有するリチウム遷移金属化合物である活物質であり、40μm以上の厚さを有する、電極複合体に関する。本発明はまた、集電体と、集電体上に配置されている前記電極複合体とを備える正極、前記正極を備えるリチウムイオンセルおよび電池モジュール、ならびに電気自動車、携帯型電気デバイス、再生可能資源用据置エネルギー貯蔵デバイスなどのデバイスにおいて使用するための電池モジュールを少なくとも1つ備える電池パックに関する。本発明により、前記正極を作製する方法も開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン0.1質量%〜20質量%と、
カーボンブラック0.1質量%〜20質量%と、
バインダ2質量%〜20質量%と
を含み、残りはスピネル構造を有するリチウム遷移金属酸化物またはオリビン構造を有するリチウム遷移金属化合物であり、40μm以上の厚さを示す、電極複合体。
【請求項2】
前記リチウム遷移金属酸化物はスピネル構造を有する、請求項1に記載の電極複合材料。
【請求項3】
スピネル構造を有する前記リチウム遷移金属酸化物は下記式(IV)
LixMn1.5-yNi0.5-zy+z4-nn
(式中、0.9≦x≦1.1、0≦y≦0.2、0≦z≦0.3および0≦n≦1であり、
Mは、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、銀(Ag)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ルテニウム(Ru)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、スズ(Sn)およびヒ素(As)からなる群から選択される1種または複数種の元素を示し、
Xは、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)およびヨウ素(I)からなる群から選択される1種または複数種の元素を示す)
を示す、請求項1または2に記載の電極複合材料。
【請求項4】
スピネル構造を有する前記リチウム遷移金属酸化物は下記式(V)
LixMn2-yNiy4-nn
(式中、0.9≦x≦1.1、0≦y≦0.5および0≦n≦1であり、
Xは、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)およびヨウ素(I)からなる群から選択される1種または複数種の元素を示す)
を示す、請求項3に記載の電極複合材料。
【請求項5】
スピネル構造を有する前記リチウム遷移金属酸化物は下記式(I)
LixMn2-y-zM1yM2z4-nn
(式中、0.9≦x≦1.15、0≦y≦0.2、0≦z≦0.15および0≦n≦1であり、
M1およびM2は、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、銀(Ag)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ルテニウム(Ru)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、スズ(Sn)およびヒ素(As)からなる群から選択される1種または複数種の元素を示し、
Xは、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)およびヨウ素(I)からなる群から選択される1種または複数種の元素を示す)
を示す、請求項1または2に記載の電極複合材料。
【請求項6】
LiMn1.5Ni0.54を78質量%、グラフェンを5質量%、カーボンブラックを5質量%、PVDFを12質量%含む、請求項3または4のいずれか1項に記載の電極複合体。
【請求項7】
前記リチウム遷移金属化合物はオリビン構造を有する、請求項1に記載の電極複合材料。
【請求項8】
前記リチウム遷移金属化合物は下記式(VI)
LixFe1-yy(PO4-n)Xn
(式中、0.9≦x≦1.1、0≦y≦0.5および0≦n≦1であり、
Mは、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ニオブ(Nb)およびマグネシウム(Mg)からなる群から選択される1種または複数種の元素を示し、
Xは、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、硫黄(S)および窒素(N)からなる群から選択される1種または複数種の元素を示す)
を示す、請求項7に記載の電極複合材料。
【請求項9】
40〜340μm、好ましくは50〜250μm、より好ましくは100〜210μm、より一層好ましくは120〜180μmの厚さを示す、請求項1から8までのいずれか1項に記載の複合電極。
【請求項10】
4〜40mg/cm2の活性充填質量を示す、請求項1から9までのいずれか1項に記載の複合電極。
【請求項11】
前記グラフェンは4質量%〜8質量%存在する、請求項1から10までのいずれか1項に記載の電極複合体。
【請求項12】
前記カーボンブラックは4質量%〜8質量%の量で存在する、請求項1から11までのいずれか1項に記載の電極複合体。
【請求項13】
前記グラフェンはコークスから調製される、請求項1から12までのいずれか1項に記載の電極複合体。
【請求項14】
前記バインダは4質量%〜18質量%の量で存在する、請求項1から13までのいずれか1項に記載の電極複合体。
【請求項15】
前記バインダは、ポリ(ビニルジフルオロエチレン)(PVDF)、ポリ(ビニルジフルオロエチレン−co−ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF−HFP)、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)などのフッ素化ポリマー、ポリイミド、およびポリ(エチレン)オキシド、ポリビニルアルコール(PVA)、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、でんぷん、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴムなどの水溶性バインダ、ならびにこれらのコポリマーおよび混合物からなる群から選択され、好ましくはPVDFである、請求項1または14のいずれか1項に記載の電極複合体。
【請求項16】
集電体と、前記集電体上に配置されている請求項1から15までのいずれか1項に記載の複合電極とを備える、正極。
【請求項17】
請求項16に記載の正極を備えるリチウムイオンセル。
【請求項18】
請求項17に記載のリチウムイオンセルを備える電池モジュール。
【請求項19】
請求項18に記載の電池モジュールを少なくとも1つ備える電池パック。
【請求項20】
請求項16から19までのいずれか1項に記載のリチウムイオンセル、電池モジュールまたは電池パックを備えるデバイス。
【請求項21】
a)スピネル構造を有する前記リチウム遷移金属酸化物、またはオリビン構造を有する前記リチウム遷移金属化合物と、グラフェンと、導電性添加剤としてのカーボンブラックと、バインダと、溶媒とを含むスラリーを調製するステップと、
b)集電体上にスラリーをキャストするステップと、
c)ペーストを乾燥させて複合正極/集電体アセンブリを得るステップとを含む、請求項16に記載の正極を作製するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集電体と、前記集電体上に配置される新規な電極複合体とを備える正極、およびその製造方法に関する。本発明はまた、前記正極を備えるリチウムイオンセル、セルモジュールおよび電池パック、ならびにそれらセルモジュールおよび電池パックを備えるデバイス、たとえば電気自動車および携帯型電気デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、その1990年代初期の発売以来、エネルギー密度の高さ、電圧の高さ、優れたサイクル寿命、環境への懸念の低さ、また優れた保存特性により、携帯電子製品用の主たる電池技術となっている。しかしながら、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)など、新たなタイプの電子デバイスおよび自動車の開発により、より高いエネルギー/電力密度、より優れたレート特性、より長いサイクル寿命、小体積、軽量および低コストの点でより高い要求に適合する電池が絶えず求められている。
高電圧リチウムイオン電池(LIB)用に研究されている正極活物質の中で、スピネル構造を有する様々なリチウム遷移金属酸化物が、高圧でリチウムを可逆的にインターカレートすることができるため提案されている。電子伝導性が低いこれらの活物質には導電剤が必要であるが、中でも黒鉛、グラフェン、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、金属、またはポリフェニレン誘導体などの導電性ポリマーが提案されている。最近では、オリビン構造を有する様々なリチウム遷移金属化合物が、LIBにとって安全な電極として提案されている。集電体上に配置されている電極複合体を有するLIB用の正極が出現しており、この電極複合体は、上述のような電気化学的な活物質および導電剤を、機械抵抗および集電体に対する密着性増強を電極複合体に提供するためのバインダと共に含む。このタイプの電極複合体は、公知のドクターブレード法に従って集電体上への堆積によって作製される。
【0003】
このタイプのLIB用正極に関連する異なる態様および発展を開示する多くの文献が、最近公開されている。たとえば、EP2437337には、集電体と、その上に堆積されている活性電極複合体とを備える正極が開示されており、この活性電極複合体は、スピネル構造を有するリチウム遷移金属酸化物と、カーボンブラックやグラフェンなどの導電性材料の1種と、バインダとを含み、表面の少なくとも一部が、電解質と正極活物質との間の副反応を低減させるようにフッ素化されている。これらの電極複合体は、最大でも20μmの厚さしか示さず、したがって低い活性充填質量および面容量(mAh/cm2)を示す。
WO2013157873には、集電体と、その上に堆積されている電極複合体とを備え、電極複合体が電極活物質、バインダおよび導電性材料を含む、二次電池用電極が開示されている。この文献には、3μmから500μmまでの集電体の厚さしか開示されていない。導電性材料としては、グラフェンおよびカーボンナノチューブが開示されているが、これらグラフェンおよびカーボンナノチューブは、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維、アセチレンブラックなど他の材料をさらに含んでいてもよい。
【0004】
WO2013157863にも、厚さ3〜500μmの集電体と、集電体上に堆積されている10〜500nmの導電性コーティングと、導電性コーティング−集電体アセンブリ上に堆積されている電極複合体とを備える二次電池用電極が開示されている。この構成により、集電体と電極複合体との間の電気接触が改善され、したがって内部セル抵抗が低下する。導電性添加剤の中でも、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維、アセチレンブラックが言及されている。
CN102420323には、電極活物質と、グラフェンと、黒鉛、膨張黒鉛、カーボンナノチューブ、炭素繊維、活性炭、非晶質炭素、カーボンブラック、導電性ポリマー等の群から選択される導電性材料とを含む電極複合体が開示されている。この文献には、その実施例において、グラフェンを含有する複合材料が明示的に開示されているが(表2参照)、リチウムマンガン酸化物スピネルとグラフェンおよびカーボンブラックとの具体的な組合せは、開示されていない。この文献には、電極複合体の厚さについても言及されていない。
【0005】
Richard Prabakar, S.J. et al. (Journal Electrochemical Soc., 160 (6) A823-A837 (2013))には、リチウムニッケルマンガン酸化物スピネルと、1、2.5および5質量%のグラフェンとを含む電極複合体材料が開示されている。この著者によれば、2.5質量%のグラフェンにより最高の電気化学的性能が得られるが、5質量%のグラフェンを有するリチウムニッケルマンガン酸化物スピネルは、グラフェンの凝集により、より低い容量しか示さない。
WO2014/044210A1には、リチウム鉄リン酸塩、アセチレンブラック、PVDFおよびグラフェンを含む、最初に塗った際の厚さが最大300μmである材料が開示されているが、この複合体の最終的な厚さについては記載されておらず、この厚さは、流し込みおよび乾燥の後に、大幅に、典型的には7分の1を超えて減少することになる。
同様に、CN103198935Aには、はるかに薄い材料(40μm以下)が設けられるように、乾燥および圧縮(「ロールプレス」)前の厚さが150μmである複合体が開示されている。
【0006】
WO2013/192258には、電気活性物質と、この電気活性物質が散りばめられているグラフェンと、バインダとを含む正極が開示されている。この出願によれば、グラフェンにより、CBを使用する正極に関して正極性能が向上する。この文献はさらに、電気活性物質の含有量を最大とするため、したがって電極比容量を最大とするため、単独の導電性添加剤としてのグラフェンの限定された含有量0.1〜2.5%を教示している。この文献は概して、少なくとも10μmかつ最大200μmの正極寸法に言及しており、エネルギー密度要件を満たすためには比較的厚い寸法を有する正極が望まれることがあると指摘している。しかしながら、ここで示している厚さがアルミニウム集電体箔も含むことを考慮すると、具体的に開示されている唯一の正極は、最良の場合で表4における31μmを有している。複合体における亀裂および集電体との密着性損失のため、より厚い電極複合体はおそらく実現されない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上で明らかになった通り、リチウムイオン電池用正極、ひいてはリチウムイオン電池全般の特性を向上させるために種々の手法が検討されてきたが、最先端技術において、電気化学的性能が向上したリチウムイオン電池を提供する必要性が依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この点において、本発明の発明者らは、電子伝導性添加剤としてグラフェンとカーボンブラックとの組合せを使用することで、高い比容量や高い比エネルギーなど電気化学的性能の向上を示す、厚さが大きく活性充填質量が高い新たな電極複合体の製造が可能となることを見出した。一方、以下で説明する本発明者らによって行われた、電子伝導性添加剤1種のみ、つまりカーボンブラックまたはグラフェンのいずれかを有する電極複合体の比較例はそれぞれ、対応する電極複合体が破壊を示し均質でない、または再充電可能電池におけるその使用のために必要とされる電気化学的性能がを欠いていることを示している。さらに、最先端技術で示されているように、最大の比容量および比エネルギーを提供するためには、電池における電気化学的活物質の含有量を最大にすべきである。本発明者らは、グラフェンとカーボンブラックとの組合せを用いることで到達した厚さ増加により、電池における全活性充填質量(mg/cm2)を著しく上昇させることが可能となることを見出した。この増加により、電極複合体の電気化学的特性、とりわけ面容量(mAh/cm2)および面エネルギー(mWh/cm2)、ひいては電池性能が、大幅に向上する。すなわち、電極複合体に厚さ増加をもたらすこの可能性により、同じ量の他の成分に対して、活物質、好ましくはスピネルまたはオリビンベース化合物のより高い充填量が可能となる結果、性能全体の向上、すなわち、電池の面積または1キログラム当たりの容量およびエネルギーの向上がもたらされる。
【0009】
したがって、第1の態様において本発明は、新規な電極複合体に関し、この電極複合体は、
グラフェン0.1質量%〜20質量%と、
カーボンブラック0.1質量%〜20質量%と、
バインダ2質量%〜20質量%と
を含み、残りはスピネル構造を有するリチウム遷移金属酸化物またはオリビン構造を有するリチウム遷移金属化合物であり、電極複合体は40μm以上の厚さを示す。
【0010】
別の態様において、本発明は、集電体と、集電体上に配置されている本発明の新規な電極複合体とを備える正極に関し、以下、この正極を本発明の正極とも称する。
さらなる態様において、本発明は、本発明の正極を備えるリチウムイオンセルに関する。
別の態様によれば、本発明は、本発明の正極を備える電池モジュールに関する。
さらなる態様によれば、本発明は、本発明による電池モジュールを少なくとも1つ備える電池パックにも関する。
【0011】
さらなる態様によれば、本発明は、本発明によるリチウムイオンセル、電池モジュールまたは電池パックを備えるデバイスに関する。
さらなる態様において、本発明は、本発明の新規な正極複合体を作製するための方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(1)LiNi0.5Mn1.54(LNMO)および10質量%カーボンブラック(CB)(比較)、(2)LNMOおよび5質量%グラフェン(CC−GO1000)および5質量%CB、(3)LNMOおよび5質量%グラフェン(CC−GO2000)および5質量%CB、ならびに(4)LNMOおよび5質量%グラフェン(XG300)および5質量%CBを含む4種の異なる電極組成の、活性充填質量(mg/cm2)対複合電極厚(μm)を示す図である。
図2】30mA/g(0.2C)レートで記録した、(1)LiNi0.5Mn1.54(LNMO)および10質量%カーボンブラック(CB)(比較)、(2)LNMOおよび5質量%グラフェン(CC−GO1000)および5質量%CB、(3)LNMOおよび5質量%グラフェン(CC−GO2000)および5質量%CB、ならびに(4)LNMOおよび5質量%グラフェン(XG300)および5質量%CBを含む4種の異なる電極組成の、セル電圧(V)対面容量(mAh/cm2)を示す図である。
図3】グラフェン有りおよびグラフェン無しの2種の異なる正極複合体、たとえば、(1)LiNi0.5Mn1.54(LNMO)および10質量%カーボンブラック(CB)、ならびに(3)LNMOおよび5質量%グラフェン(CC−GO2000)および5質量%CBを用いたリチウム半電池についての、レート1Cにおける面容量(mAh/cm2)対サイクル数の進展の比較を示す図である。
図4】LiNi0.5Mn1.54(LNMO)と、(11)15質量%グラフェン(XG300)、(12)15質量%グラフェン(XG750)、および(13)10質量%グラフェン(XG300)とを含む3種の異なる電極組成の、セル電圧(V)対放電容量(mAh/g)を示す図であり、これらはすべて比較例であり、グラフェンだけでは十分なサイクル性がもたらされないことを証明している。
図5】本発明の一般的適用性を証明するために、LiNi0.5Mn1.54(LNMO)の代わりにLiMn24(LMO)を用いて図1のとおりの実験を再現した。(5)LiMn24(LMO)および10質量%カーボンブラック(CB)(比較)、(6)LMOおよび5質量%グラフェン(CC−GO2000)および5質量%CB、ならびに(7)LMOおよび5質量%グラフェン(XG300)および5質量%CBを含む3種の異なる電極組成の、活性充填質量(mg/cm2)対複合電極厚(μm)を示す図である。
図6】本発明の一般的適用性を証明するために、LiNi0.5Mn1.54(LNMO)の代わりにLiMn24(LMO)を用いて図2のとおりの実験を再現した。レート0.2C(30mA/g)で記録した、(5)LiMn24(LMO)および10質量%カーボンブラック(CB)(比較)、(6)LMOおよび5質量%グラフェン(CC−GO2000)および5質量%CB、ならびに(7)LMOおよび5質量%グラフェン(XG300)および5質量%CBを含む3種の異なる電極組成の、セル電圧(V)対面容量(mAh/cm2)を示す図である。
図7】本発明の一般的適用性を証明するために、LiNi0.5Mn1.54(LNMO)の代わりにLiMn24(LMO)を用いて図3のとおりの実験を再現した。レート1Cで記録した、グラフェン有りおよびグラフェン無しの2種の異なる正極複合体、たとえば、(5)LiMn24(LMO)および10質量%カーボンブラック(CB)(比較)、ならびに(6)LMOおよび5質量%グラフェン(CC−GO2000)および5質量%CBを用いたリチウム半電池についての、面容量(mAh/cm2)対サイクル数の進展の比較を示す図である。
図8】本発明の一般的適用性をさらに証明するために、共にスピネル構造を有する活物質であるLNMOまたはLMOの代わりに、オリビン構造を示す活物質であるLiFePO4(LEP)を用いて図1および図5のとおりの実験を再現した。(8)LiFePO4(LFP)および10質量%カーボンブラック(CB)(比較)、(9)LFPおよび5質量%グラフェン(CC−GO2000)および5質量%CB、ならびに(10)LFPおよび5質量%グラフェン(XG300)および5質量%CBを含む3種の異なる電極組成の、活物質質量(mg/cm2)対複合電極厚(μm)を示す図である。
図9】本発明の一般的適用性をさらに証明するために、共にスピネル構造を有する活物質であるLNMOまたはLMOの代わりに、オリビン構造を示す活物質であるLiFePO4(LEP)を用いて図2および図6のとおりの実験を再現した。レート0.2C(34mA/g)で記録した、(8)LiFePO4(LFP)および10質量%カーボンブラック(CB)(比較)、(9)LFPおよび5質量%グラフェン(CC−GO2000)および5質量%CB、ならびに(10)LFPおよび5質量%グラフェン(XG300)および5質量%CBを含む3種の異なる電極組成の、セル電圧(V)対面容量(mAh/cm2)を示す図である。
図10】本発明の一般的適用性を証明するために、共にスピネル構造を有する活物質であるLNMOまたはLMOの代わりに、オリビン構造を示す活物質であるLiFePO4(LEP)を用いて図3および図7のような実験を再現した。レート1Cで記録した、グラフェン有りおよびグラフェン無しの2種の異なる正極複合体、たとえば、(8)LiFePO4(LFP)および10質量%カーボンブラック(CB)(比較)ならびに(9)LFPおよび5質量%グラフェン(CC−GO2000)および5質量%カーボンブラックを用いたリチウム半電池についての、面容量(mAh/cm2)対サイクル数の進展の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
第1の態様において、本発明は、
グラフェン0.1質量%〜20質量%と、
カーボンブラック0.1質量%〜20質量%と、
バインダ2質量%〜20質量%と
を含み、残りは、スピネル構造を有するリチウム遷移金属酸化物、またはオリビン構造を有するリチウム遷移金属化合物であり、この電極複合体は40μm以上の厚さを示す、電極複合体に関する。
【0014】
本発明の電極複合体は優れた面容量を示す。本発明の一実施形態によれば、本発明の電極複合体の面容量は、レート0.2Cで少なくとも0.5mAh/cm2、好ましくは0.8mAh/cm2を上回る。本発明の一実施形態において、複合体の面容量は、以下で「電気化学的測定」の節において説明するように測定した場合、レート0.2Cで0.5〜6mAh/cm2、好ましくは0.8〜5(mAh/cm2)である。
【0015】
本発明の電極複合体の特性の向上は、並外れて高い活物質の充填量(活性充填質量)にも反映される。本発明の一実施形態によれば、本発明の電極複合体は、以下で「電気化学的測定」の節において説明するように測定した場合、4mg/cm2を上回る、好ましくは7mg/cm2を上回る、より好ましくは8mg/cm2を上回る、より一層好ましくは10mg/cm2を上回る活性充填質量を示す。代替実施形態によれば、本発明の電極複合体は、以下で「電気化学的測定」の節において説明するように測定した場合、4〜50mg/cm2、好ましくは4〜40mg/cm2、好ましくは4〜35mg/cm2、好ましくは5〜40mg/cm2、好ましくは5〜30mg/cm2、好ましくは6〜30mg/cm2、好ましくは7〜30mg/cm2、好ましくは8〜25mg/cm2、好ましくは8〜20mg/cm2の活性充填質量を示す。
本発明のさらなる実施形態によれば、本発明の電極複合体の面容量は、レート0.2Cで0.5〜6mAh/cm2、活性充填質量は4〜50mg/cm2、好ましくは、面容量がレート0.2Cで0.8〜5mAh/cm2、活性充填質量は6〜40mg/cm2である。
【0016】
本発明の電極複合体のグラフェンは限定されず、任意のグラフェンでよい。市販の供給源からグラフェンを得ることができる。特定の一実施形態によれば、グラフェンは、XG Science製のXG300やXG750など、市販のナノプレートレットである。グラフェンは、当技術分野で公知の種々の方法によって種々の供給源から得ることもできる。したがって、特定の一実施形態においては、グラフェンシートの分離によって、たとえば剥離によってグラフェンを得る。別の特定の実施形態においては、グラファイトまたは炭素繊維材料を硫酸または硝酸のような酸性条件にさらし、その後粉砕、剥離、超音波処理、還元等のようなせん断プロセスによってグラフェンを調製する。さらなる特定の実施形態においては、公知の方法に従ってコークスからグラフェンを得る。出発材料として使用することができるコークスは特に限定されず、任意の起源から得られたものでよい。特定の一実施形態において、コークスは燃料残留物から得られ、その起源に応じて異なる化学組成および異なる微結晶構造を有する。好ましい一実施形態によれば、使用するコークスは処理済コークス、再気化コークスまたは可燃性コークス(略称CC)であるが、より好ましくは可燃性コークスである。
【0017】
特定の一実施形態によれば、コークスをまず、2800℃〜3000℃の温度で黒鉛化し、その後グラファイトに酸化のための酸処理を施して、(Hummers法)200℃で剥離するグラファイト酸化物とし、その後たとえば、700℃、1000℃、1400℃または2000℃などの約700℃〜2000℃の温度で還元する。さらに好ましい一実施形態においては、使用するグラフェンは、CCからこの方法に従って、剥離したグラファイト酸化物を700℃で熱処理し、その後2000℃の温度で第2の処理を行うことによって得られるが、このグラフェンは以後、本発明においてCC−GO2000とも称する。好ましい一実施形態において、剥離したグラファイト酸化物を700℃で熱処理し、その後1000℃の温度で第2の処理を行うことによって、CCからこの方法に従って使用するグラフェンを得るが、このグラフェンはさらに、本発明においてCC−GO1000と称する。
【0018】
特定の一実施形態において、本発明の電極複合は、電極複合体の総質量に対して0.2質量%〜15質量%、好ましくは0.25質量%〜10質量%、より好ましくは3質量%〜9質量%、より一層好ましくは4質量%〜8質量%、最も好ましくは5質量%の量でグラフェンを含む。
本発明において使用するカーボンブラックは、多様な商業的供給源から得ることができる。特定の一実施形態において、カーボンブラックは、たとえば、TIMREXから入手可能なSuper P(商標)である。
【0019】
特定の一実施形態において、本発明の電極複合材料は、電極複合材料の総質量に対して0.2質量%〜12質量%、好ましくは0.25質量%〜10質量%、より好ましくは3質量%〜9質量%、より一層好ましくは4質量%〜8質量%、最も好ましくは5質量%の量でカーボンブラックを含む。
本発明の電極複合体は、複合体材料の機械的特性を向上させるためにバインダを備える。
特定の一実施形態において、本発明の電極複合体は、電極複合材料の総質量に対して4質量%〜18質量%、好ましくは6質量%〜16質量%、より好ましくは8質量%〜14質量%、より一層好ましくは10質量%〜13質量%、最も好ましくは12質量%の量でバインダを含む。
【0020】
バインダは、ポリ(ビニルジフルオロエチレン)(PVDF)、ポリ(ビニルジフルオロエチレン−co−ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF−HFP)、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)などのフッ素化ポリマー、ポリイミド、ポリ(エチレン)オキシド、ポリビニルアルコール(PVA)、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、でんぷん、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴムなどの水溶性バインダ、ならびにこれらのコポリマーおよび混合物からなる群から選択される1種または複数種でよい。特定の好ましい一実施形態においては、PVDFを使用する。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、リチウム遷移金属酸化物はスピネル構造を有する。本発明の電極複合体では、特定の一実施形態において、スピネル構造を有するリチウム遷移金属酸化物は下記式(I)を示す。
LixMn2-y-zM1yM2z4-nn
(式中、0.9≦x≦1.15、0≦y≦0.2、0≦z≦0.15および0≦n≦1であり、
M1およびM2は、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、銀(Ag)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ルテニウム(Ru)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、スズ(Sn)およびヒ素(As)からなる群から選択される1種または複数種の元素を示し、
Xは、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)およびヨウ素(I)からなる群から選択される1種または複数種の元素を示す)
別の特定の実施形態において、スピネル構造を有するリチウム遷移金属酸化物は下記式(II)を示す。
LixMn1.5Ni0.5-yy4-nn
(式中、0.9≦x≦1.1、0≦y≦0.3および0≦n≦1であり、
Mは、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、銀(Ag)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ルテニウム(Ru)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、スズ(Sn)およびヒ素(As)からなる群から選択される1種または複数種の元素を示し、
Xは、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)およびヨウ素(I)からなる群から選択される1種または複数種の元素を示す)
【0022】
別の特定の実施形態において、スピネル構造を有するリチウム遷移金属酸化物は下記式(III)を示す。
LixMn1.5-yNi0.5-y2y4-nn
(式中、0.9≦x≦1.1、0≦y≦0.2および0≦n≦1であり、
Mは、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、銀(Ag)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ルテニウム(Ru)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、スズ(Sn)およびヒ素(As)からなる群から選択される1種または複数種の元素を示し、
Xは、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)およびヨウ素(I)からなる群から選択される1種または複数種の元素を示す)
【0023】
さらなる特定の実施形態において、スピネル構造を有するリチウム遷移金属酸化物は下記式(IV)を示す。
LixMn1.5-yNi0.5-zy+z4-nn
(式中、0.9≦x≦1.1、0≦y≦0.2、0≦z≦0.3および0≦n≦1であり、
Mは、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、銀(Ag)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ルテニウム(Ru)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、スズ(Sn)およびヒ素(As)からなる群から選択される1種または複数種の元素を示し、
Xは、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)およびヨウ素(I)からなる群から選択される1種または複数種の元素を示す)
【0024】
さらなる実施形態において、スピネル構造を有するリチウム遷移金属酸化物は下記式(V)を示す。
LixMn2-yNiy4-nn
(式中、0.9≦x≦1.1、0≦y≦0.5および0≦n≦1であり、
Xは、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)およびヨウ素(I)からなる群から選択される1種または複数種の元素を示す)
【0025】
好ましい一実施形態によれば、スピネル構造を有するリチウム遷移金属酸化物は、式(I)
LixMn2-y-zM1yM2z4-nn
(式中、0.9≦x≦1.15、0≦y≦0.2、0≦z≦0.15および0≦n≦1であり、
より好ましくは、0.95≦x≦1.12、0≦y≦0.15、0≦z≦0.1および0≦n≦0.5であり、
より一層好ましくは、1≦x≦1.10、0≦y≦0.07、0≦z≦0.05および0≦n≦0.2である)
の群から選択され、
最も好ましくは、以後LMOとも称するLi1.08Mn1.924である。
【0026】
別の好ましい実施形態によれば、スピネル構造を有するリチウム遷移金属酸化物は、式(II)
LixMn1.5Ni0.5-yy4-nn
(式中、0.9≦x≦1.1、0≦y≦0.2および0≦n≦1であり、
より好ましくは、0.97≦x≦1.07、0≦y≦0.15および0≦n≦0.5であり、
より一層好ましくは1≦x≦1.03、0≦y≦0.1および0≦n≦0.2である)
の群から選択され、
最も好ましくは、以後LNMOとも称するLiNi0.5Mn1.54である。
【0027】
さらなる好ましい一実施形態によれば、スピネル構造を有するリチウム遷移金属酸化物は、式(III)
LixMn1.5-yNi0.5-y2y4-nn
(式中、0.9≦x≦1.1、0≦y≦0.2および0≦n≦1であり、
より好ましくは、0.97≦x≦1.07、0≦y≦0.1および0≦n≦0.5であり、
より一層好ましくは1≦x≦1.03、0≦y≦0.07および0≦n≦0.2である)
の群から選択され、
最も好ましくは、以後LCrNMOとも称するLiCr0.1Ni0.45Mn1.454である。
【0028】
本発明のさらなる実施形態において、リチウム遷移金属化合物はオリビン構造を有する。本発明の一実施形態によれば、被覆および未被覆リチウム遷移金属化合物は下記式(VI)を示す。
LixFe1-yy(PO4-n)Xn
(式中、0.9≦x≦1.1、0≦y≦0.5および0≦n≦1であり、
Mは、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ニオブ(Nb)およびマグネシウム(Mg)からなる群から選択される1種または複数種の元素を示し、
Xは、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)およびヨウ素(I)、硫黄(S)および窒素(N)からなる群から選択される1種または複数種の元素を示す)
【0029】
特定の一実施形態において、本発明の電極複合体は少なくとも60μm、好ましくは80μmを上回る厚さを示す。さらなる実施形態において、本発明の電極複合体は40μm〜340μm、好ましくは50μm〜250μm、より好ましくは100μm〜210μm、より一層好ましくは120μm〜180μm(活性充填質量14〜20mg/cm2)の厚さを示す。本発明の電極複合体は、破壊や集電体から分離するなどの欠点を示すことなく高い活性充填質量で大きな厚さを実現することができ、したがって高い重量容量およびエネルギーを提供する蓄電の用途に特に適する。
好ましい一実施形態によれば、本発明の電極複合材料は、LNMOを76〜80質量%、グラフェンを3〜7質量%、カーボンブラックを3〜7質量%、PVDFを10〜14質量%含む。より好ましくは、本発明の電極複合体はLNMOを78質量%、グラフェンを5質量%、カーボンブラックを5質量%、PVDFを12質量%含む。以下の表1および表2に示す結果によれば、この電極複合体は、厚さが大きいこと、活性充填質量が高いこと、電圧が高いこと(4.6Vよりも高い)ならびに比容量および比エネルギーが高いことを特徴とする。
【0030】
特定の、好ましい、より好ましい、より一層好ましい、最も好ましい上記範囲および値はすべて、その可能な組合せで本明細書中に開示されているものとする。
本願では、本発明の電極複合材料を定義するために以下の用語を使用する。まず、スピネル構造を有するリチウム遷移金属酸化物を、LiNi0.5Mn1.54に対するLNMOなどの略した形で示し、使用するグラフェンの種類を、たとえば、上述のようなXG Science製のナノプレートレットに対するXG300またはXG750や、CCコークスから得られるグラフェンに対するCC−GO1000またはCC−GO2000などの、略した形で示す。
【0031】
図1に、4種の異なる電極複合体の、電極複合体の活性充填質量(mg/cm2)対複合電極厚(μm)を示す。これら電極複合体のうち1つは、比較の目的の最先端技術によるものであるが、他の3つは本発明によるものである。4種はすべてLNMOを78質量%、PVDFを12質量%含み、導電性材料の総量10質量%は同じであるが、導電性添加剤の種類のみ異なる。したがって、組成(1)はCBを10質量%有し、組成(2)はCBを5質量%、CC−GO1000を5質量%有し、組成(3)はCBを5質量%、CC−GO2000を5質量%有し、組成(4)はCBを5質量%、XG300を5質量%有する。導電性添加剤のみとしてCBを有する電極複合体は、高エネルギー電極を作製するにはそれら複合体を役に立たなくするその明らかな破壊や他の欠陥なしに、約80μmよりも大きい厚さで作製することができず、より薄い構成でさえより低い品質を示すことが認められた。一方、本発明による同じ量のグラフェンとCBとの組合せでは、目に見える塊も微小破壊もない、大きな厚さおよび高い活性充填質量の完全に均質な電極複合体を製造することが可能であった。組成(2)、(3)および(4)のそれぞれについて、異なる厚さの10〜20種の電極複合体を作製したところ、同じような結果が得られ、それら複合体作製の再現性がもたらされた。
【0032】
図1に示す4種の電極複合体の電気化学的データを以下の表1および表2にまとめる。なお、表1に示す容量およびエネルギーは電極表面積を参照している一方、表2の電気化学的データは、比較の目的で、電極複合体とアルミニウム集電体との総質量に正規化されている。
これら表1および表2に集めたデータは、電気化学的パラメータの公称値を決定するために0.2C(30mA/g)の適度な電流で測定し、また本発明の電極複合体の電力レスポンスに関する情報を得るために1C(147mA/g)のより大きな電流で測定した。
【0033】
4種の電極複合体間の比較により、それら複合体それぞれの活性充填質量が、導電性添加剤としてのCBのみを有する電極複合体についての約7.4mg/cm2から、カーボンブラックと異なる種類のグラフェンとを有する組成(2)、(3)および(4)では約2倍(13.4、14.8、16.2)に大幅に上昇したことが示される。既に述べた通り、本発明により、破壊または塊の発現なくアルミニウム集電体に対して優れた密着性を示す、同じ10質量%の導電性添加剤百分率でグラフェンを含む厚い電極複合体が得られる。
比容量(mAh/cm2およびmAh/g−総量)ならびに比エネルギー(mWh/cm2およびWh/kg−総量)についての表1および表2に示すデータの比較により、重要な競争優位性を構成するより高い面容量およびエネルギー(それぞれmAh/cm2およびmWh/cm2)ならびにより高い比容量およびエネルギー(それぞれmAh/g−総量およびWh/kg−総量)の点で、本発明の電極複合体の電気化学的性能の向上が実証される。
【0034】
【表1】
【表2】
これらの結果はまた、本発明の電極複合体が、3Vを超える、好ましくは3.5Vを超える、より好ましくは4Vを超える、より一層好ましくは4.3Vを超える、より一層好ましくは4.6Vを超える高い平均電位で作動することができることを示している。
【0035】
図2には、4種の異なる電極複合体のセル電圧(V)対面容量(mAh/cm2)が示され、適度な電流(0.2C)で記録したそれら複合体の充電/放電曲線を示している。これらの電極複合体は、図1同様、78質量%のLNMOおよび12質量%のPVDFを用いて、また組成(1)では、7.4mg/cm2の活物質と共に10質量%のCBを、組成(2)では、15.1mg/cm2の活物質と共に5質量%のグラフェンCC−GO1000および5質量%CBを、組成(3)では、14.8mg/cm2の活物質と共に5質量%のグラフェンCC−GO2000および5質量%CBを、組成(4)では、16.2mg/cm2の活物質と共に5質量%のグラフェンXG300および5質量%CBを用いて製造した。これらの曲線も、最先端技術の電極複合体と比較してグラフェンおよびカーボンブラックを有する本発明の電極複合体の電気化学的性能の向上を、そのより大きい厚さおよびより高い活性充填質量、したがってより高い比容量およびエネルギー(mAh/g−総量およびWh/kg−総量)ならびにさらに高い面容量およびエネルギー(mAh/cm2およびmWh/cm2)により実証している。
さらなるスピネルおよびオリビンベース活物質を用いて、同じ実験を再現した。以下でさらに議論する通り、図5図6および図8図9ならびに表3〜表6に結果を示す。
【0036】
さらなるスピネルの場合、本発明の一般的適用性が、LNMOの代わりにLiMn24(LMO)を用いた試験を再現することでさらに証明された。図5に、3種の異なる電極複合体の電極複合体の活性充填質量(mg/cm2)対複合電極厚(μm)を示す。これらの電極複合体のうち1つは、比較の目的の最先端技術によるものであるが、他の2つは本発明によるものである。3種はすべてLMOを78質量%、PVDFを12質量%含み、導電性材料の総量10質量%は同じであるが、導電性添加剤の種類のみ異なる。したがって、(5)はCBを10質量%、(6)はCBを5質量%、CC−GO2000を5質量%、(7)はCBを5質量%、XG300を5質量%有する。LNMOの場合と同様、導電性添加剤のみとしてCBを有する電極複合体を、高エネルギー電極を作製するにはそれら複合体を役に立たなくするその明らかな破壊や他の欠陥なしに、約80μmよりも大きい厚さで作製することができないことが認められた。一方、本発明による同じ量のグラフェンとCBとの組合せでは、集電体への密着性に優れ、厚さが大きく、活性充填質量が高い、目に見える塊も微小破壊もない電極複合体を製造することが可能であった。
【0037】
図5に示す3種の電極複合体の電気化学的データを以下の表3および表4にまとめる。なお、表3に示す容量およびエネルギーは電極表面積を参照している一方、表4の電気化学的データは、比較の目的で、電極複合体とアルミニウム集電体との総質量に正規化されている。
これら表3および表4に集めたデータは、電気化学的パラメータの公称値を決定するために0.2C(30mA/g)の適度な電流で測定し、また本発明の電極複合体の電力レスポンスに関する情報を得るために1C(148mA/g)のより大きな電流で測定した。
3種の電極複合体間の比較により、それら複合体それぞれの活性充填質量が、導電性添加剤としてのCBのみを有する電極複合体(組成(5))についての約9.5mg/cm2から、カーボンブラックと異なる種類のグラフェンとを有する組成(6)および(7)では約2倍(18.9および18.0)に大幅に上昇したことが示される。既に述べた通り、本発明により、破壊または塊の発現なく集電体に対して優れた密着性を有する、同じ10質量%の導電性添加剤百分率でグラフェンを含む厚い電極複合体が得られる。したがって、LMOについて類似の結果が得られた。
【0038】
比容量(mAh/cm2およびmAh/g−総量)ならびに比エネルギー(mWh/cm2およびWh/kg−総量)についての表3および表4に示すデータの比較により、重要な競争優位性を構成するより高い面容量およびエネルギー(それぞれmAh/cm2およびmWh/cm2)ならびにより高い比容量およびエネルギー(それぞれmAh/g−総量およびWh/kg−総量)の点で、本発明の電極複合体の電気化学的性能の向上がこの場合もやはり実証される。
【0039】
図6に、3種の異なる電極複合体のセル電圧(V)対面容量(mAh/cm2)が示され、適度な電流(0.2C)で記録したそれら複合体の充電/放電曲線を示している。これらの電極複合体は、図5同様、LMO78質量%、PVDFを12質量%で製造され、導電性材料の総量10質量%は同じであるが、導電性添加剤の種類のみ異なる。したがって、組成(5)は9.5mg/cm2でCBを10質量%、組成(6)は18.9mg/cm2でCBを5質量%、またCC−GO2000を5質量%、組成(7)は18.0mg/cm2でCBを5質量%、またXG300を5質量%有する。これらの曲線も、最先端技術の電極複合体と比較してグラフェンおよびカーボンブラックを有する本発明の電極複合体の電気化学的性能の向上を、そのより大きい厚さおよびより高い活性充填質量、したがってより高い比容量およびエネルギー(mAh/g−総量およびWh/kg−総量)ならびにさらに高い面容量およびエネルギー(mAh/cm2およびmWh/cm2)により実証している。
【0040】
【表3】
【表4】
したがって、本発明の一実施形態によれば、本発明の電極複合体は、活性充填質量が8〜40mg/cm2、好ましくは9〜30mg/cm2、より好ましくは10〜25mg/cm2であるスピネル構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含む。本発明の一実施形態によれば、スピネル構造を有するリチウム遷移金属酸化物と、添加剤とを含む電極複合体の総質量と、集電体の質量(典型的にはアルミニウム製)とに正規化されたエネルギーは、レート0.2Cで290Wh/Kg総量を上回る。ここでKg総量は、電極複合体とアルミニウム集電体との質量である。好ましくは、このような正規化エネルギーは、レート0.2Cで300Wh/Kg総量を上回る。さらなる一実施形態によれば、前記正規化エネルギーは、レート0.2Cで290〜500Wh/Kg総量、好ましくはレート0.2Cで290〜400Wh/Kg総量である。本発明の一実施形態によれば、スピネル構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含む本発明の電極複合体の面容量は、以下に「電気化学的測定」の節において説明するように測定した場合、レート0.2Cで少なくとも1mAh/cm2、好ましくはレート0.2Cで1.2〜2.5mAh/cm2、より好ましくはレート0.2Cで1.5〜2.5mAh/cm2である。
【0041】
一般的適用性は、活物質としてオリビンを使用することによってさらに証明される。図8に、3種の異なる電極複合体の、電極複合体の活性充填質量(mg/cm2)対複合電極厚(μm)を示す。これらの電極複合体のうち1つは、比較の目的の最先端技術によるものであるが、他の2つは本発明によるものである。3種はすべてLiFePO4(LFP)を78質量%、PVDFを12質量%含み、導電性材料の総量10質量%は同じであるが、導電性添加剤の種類のみ異なる。したがって、組成(8)は7.7mg/cm2でCBを10質量%、組成(9)は11.7mg/cm2でCBを5質量%、またCC−GO2000を5質量%、組成(10)は11.7mg/cm2でCBを5質量%、またXG300を5質量%有する。LNMOおよびLMOの場合と同様、導電性添加剤のみとしてCBを有する電極複合体を、高エネルギー電極を作製するにはそれら複合体を役に立たなくするその明らかな破壊や他の欠陥なしに、約80μmよりも大きい厚さで作製することができないことが認められた。一方、本発明による同じ量のグラフェンとCBとの組合せでは、集電体への密着性に優れ、厚さが大きく、活性充填質量が高い、目に見える塊も微小破壊もない完全に均質な電極複合体を製造することが可能であった。
【0042】
図8に示す3種の電極複合体の電気化学的データを以下の表5および表6にまとめる。なお、表5に示す容量およびエネルギーは電極表面積を参照している一方、表6の電気化学的データは、比較の目的で、電極複合体とアルミニウム集電体との総質量に正規化されている。
これら表5および表6に集めたデータは、電気化学的パラメータの公称値を決定するために0.2C(30mA/g)の適度な電流で測定し、また本発明の電極複合体の電力レスポンスに関する情報を得るために1C(170mA/g)のより大きな電流で測定した。
【0043】
3種の電極複合体間の比較により、それら複合体それぞれの活性充填質量が、導電性添加剤としてのCBのみを有する電極複合体(組成(8))についての約7.7mg/cm2から、カーボンブラックと異なる種類のグラフェンとを有する組成(9)および(10)では11.7へともう一度大幅に上昇したことが示される。したがって、本発明の一実施形態によれば、本発明の電極複合体は、活性充填質量が6〜35mg/cm2、好ましくは6〜20mg/cm2、より好ましくは7〜20mg/cm2のオリビン構造を有するリチウム遷移金属化合物を含む。既に述べた通り、本発明により、破壊または塊の発現なく、同じ10質量%の導電性添加剤百分率でグラフェンを含む厚い電極複合体が得られる。したがって、LFPについて類似の結果が得られた。
【0044】
比容量(mAh/cm2およびmAh/g−総量)ならびに比エネルギー(mWh/cm2およびWh/kg−総量)についての表5および表6に示すデータの比較により、重要な競争優位性を構成するより高い面容量およびエネルギー(それぞれmAh/cm2およびmWh/cm2)ならびにより高い比容量およびエネルギー(それぞれmAh/g−総量およびWh/kg−総量)の点で、本発明の電極複合体の電気化学的性能の向上がこの場合にもやはり実証される。本発明の一実施形態によれば、オリビン構造を有するリチウム遷移金属化合物と、添加剤とを含む電極複合体の総質量と、集電体(典型的にはアルミニウム製)の質量とに正規化されたエネルギーは、レート0.2Cで250Wh/Kg総量を上回る。ここでKg総量は、電極複合体とアルミニウム集電体との質量である。好ましくは、かかる正規化されたエネルギーは、レート0.2Cで260Wh/Kg総量を上回る。さらなる一実施形態によれば、前記正規化エネルギーは、レート0.2Cで250〜500Wh/Kg総量、好ましくはレート0.2Cで290〜350Wh/Kg総量である。
【0045】
図9に、3種の異なる電極複合体のセル電圧(V)対面容量(mAh/cm2)が示され、適度な電流(0.2C)で記録したそれら複合体の充電/放電曲線を示している。これらの電極複合体は、図8同様、LFP78質量%、PVDFを12質量%で製造され、導電性材料の総量10質量%は同じであるが、導電性添加剤の種類のみ異なる。したがって、(8)はCBを10質量%、(9)はCBを5質量%、またCC−GO2000を5質量%、(10)はCBを5質量%、またXG300を5質量%有する。これらの曲線も、最先端技術の電極複合体と比較してグラフェンおよびカーボンブラックを有する本発明の電極複合体の電気化学的性能の向上を、そのより大きい厚さおよびより高い活性充填質量、したがってより高い比容量およびエネルギー(mAh/g−総量およびWh/kg−総量)ならびにさらに高い面容量およびエネルギー(mAh/cm2およびmWh/cm2)により実証している。
【0046】
【表5】
【表6】
本発明の電極複合体を、再充電可能リチウムイオン電池における正極として使用することができることが、図3に示すデータからさらにわかる。図3では、行った充電/放電のサイクル数に対する面容量(mAh/cm2)の進展が示され、最先端技術の電極複合体とも比較されている。この特定の場合には、図3に示す通り、レート1Cで50サイクル行った。これらのデータの分析により、2種の異なる電極複合体である、10質量%のカーボンブラック(CB)を有する最先端技術による複合体(複合体(1))と、5質量%のカーボンブラック(CB)と5質量%のグラフェンCC−GO2000を含有する本発明による複合体(複合体(3))とが、共に高いサイクル性を示すことが実証される。実際には、それら複合体それぞれの面容量は50サイクル後も実質的には減少しない。やはりこの場合にも、本発明の電極複合体の面容量は、最先端技術による複合体の面容量よりも大きいことがわかる。これらの結果は、本発明の電極複合材料を、それらの容量がサイクルを行うとほぼ一定のままであることから、リチウムイオン電池正極に使用することができることをはっきりと示している。
【0047】
さらなるスピネルおよびオリビンベース活物質を用いて、同じ実験を再現した。以下でさらに議論する通り、図7および図10に結果を示す。
行った充電/放電のサイクル数に対するLMOについての面容量(mAh/cm2)の進展が示され、最先端技術の電極複合体とも比較されている図7に示すデータから、再充電可能リチウムイオン電池における正極としての本発明の電極複合体の一般的適用性がさらにわかる。この特定の場合には、図7に示す通り、レート1Cで50サイクル行った。これらのデータの分析により、2種の異なる電極複合体である、10質量%のカーボンブラック(CB)を有する最先端技術による複合体(複合体(5))と、5質量%のカーボンブラック(CB)と5質量%のグラフェンCC−GO2000を含有する本発明による複合体(複合体(6))とが、共に高いサイクル性を示すことが実証される。実際には、それら複合体それぞれの面容量は50サイクル後も実質的には減少しない。やはりこの場合にも、本発明の電極複合体の面容量は、最先端技術による複合体の面容量よりも大きいことがわかる。これらの結果は、本発明のLMO電極複合材料を、それらの容量がサイクルを行うとほぼ一定のままであることから、リチウムイオン電池正極に使用することができることをはっきりと示している。
【0048】
さらなるオリビンの場合、行った充電/放電のサイクル数に対するLFPについての面容量(mAh/cm2)の進展が示され、最先端技術の電極複合体とも比較されている図10に示すデータから、再充電可能リチウムイオン電池における正極としての本発明の電極複合体の一般的適用性がさらにわかる。この特定の場合には、図10に示す通り、レート1Cで50サイクル行った。これらのデータの分析により、2種の異なる電極複合体である、10質量%のカーボンブラック(CB)を有する最先端技術による複合体(複合体(8))と、5質量%のカーボンブラック(CB)と5質量%のグラフェンCC−GO2000を含有する本発明による複合体(複合体(9))とが、共に高いサイクル性を示すことが実証される。実際には、それら複合体それぞれの面容量は50サイクル後も実質的には減少しない。やはりこの場合にも、本発明の電極複合体の面容量は、最先端技術による複合体の面容量よりも大きいことがわかる。これらの結果は、本発明のLFP電極複合材料を、それらの容量がサイクルを行うとほぼ一定のままであることから、リチウムイオン電池正極に使用することができることをはっきりと示している。
【0049】
本発明者らにより、グラフェンのみを同様の量で含む電極複合体を製造した場合、それら複合体の電気化学的性能もまた満足できたないことも示されている。導電性添加剤のみとしてLNMOおよびグラフェンを含む電極複合体を調製し、調査した。この調査には、異なるグラフェン(XG Science製の市販のXG300およびXG750ナノプレートレット)を異なる比率(10質量%および15質量%)で使用した。特に、LNMOおよびグラフェンを有する以下の3種、(11)15質量%XG300、(12)15質量%XG750および(13)10質量%XG300の電極複合体を調製した。この調査用に、実施例において説明するように正極がアルミニウム集電体上に堆積させたこれら電極複合体を含むリチウムセルを組み立てた。0.2C(30mA/g)の適度な電流でこれらのセルにサイクルを施した。
【0050】
図4に、セル電圧(V)対放電容量(mAh/g)を示し、またサイクル中に得られた記録した充電/放電曲線を示す。図4から、電気化学的応答は電極複合体の組成に極度に依存することがわかる。適度な電流(0.2C)を使用したにもかかわらず、電極複合体(12)および(13)を有する正極には、事実上放電容量がなく、(11)を有する正極は、その放電容量がどの程度より優れているかを示すが、わずか5サイクル後に約15%急速に減少する。したがって、唯一の導電性添加剤としてのグラフェンの使用では、満足できる電気化学的性能を有する正極の製造は可能とならないと結論付けられる。
【0051】
図4に示す曲線から、以下の表7に示す電気化学的パラメータが得られている。
【表7】
【0052】
これらのデータの分析により、スピネルLNMOと15質量%のXG300グラフェンとを含む正極(11)で組み立てたセルのみが、102mAh/gの許容可能な容量および461Wh/Kgのエネルギーを有するが、既に述べた通り、その正極のサイクル性は再充電可能リチウムイオンセルの要件を満たしていないことが明らかとなる。
【0053】
本発明は、集電体と、集電体上に本発明の電極複合体とを備える正極にも関する。本発明の正極用の集電体は、とりわけAl、Ag、Ni、Sn、Feのような金属、それら金属の合金、ステンレス鋼などの、従来の材料製であるが、特に限定されない。特定の一実施形態において、集電体はAlから作製される。集電体は通常、変厚が典型的には3μm〜500μmであるシート、膜、層である。示した通り、本発明者らにより、実現される最大厚についてでさえ集電体と電極複合体との間の密着性が非常に優れていることが観測されている。
本発明の電極複合体を、再充電可能リチウムイオンセルにおける正極として使用することができることが、上述の図2図3図6図7図9および図10からわかる。
【0054】
したがって、さらなる態様において、本発明は、本発明の正極を備えるリチウムイオン電池またはセル(LIB)に関する。このLIBはさらに、負極と、セパレータと、セパレータ内で浸漬させた電解質を含む。負極は、任意の従来の負極活物質から得られるが、特に限定されない。
負極活物質の例は、リチウム金属、リチウムとの合金を形成する金属、コンバージョン負極として作用することができる一般式Mab(式中、M=遷移金属、X=O、S、F、P、N)の遷移金属化合物、式Mabの1種または複数種の遷移金属化合物を有する炭素質マトリックスを備える複合負極、リチウムをドープまたは脱ドープするために使用する材料、およびリチウムイオンの可逆的インターカレーションおよびデインターカレーションを可能とする材料である。
【0055】
遷移金属化合物Mabの例としては、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化チタン、リチウムチタン酸化物、リチウムケイ素窒化物および窒化アンチモンがある。リチウムをドープまたは脱ドープするために使用する材料の例としては、ケイ素(Si)、SiOx(0<x<2)、Si−Q合金(Qはアルカリ金属、アルカリ土類金属、第13族元素、第14族元素、遷移金属、希土類元素、これらの組合せでよいが、Siではない)、Sn、SnO2およびSn−R(Rはアルカリ金属、アルカリ土類金属、第13族元素、第14族元素、遷移金属、希土類元素、これらの組合せでよいが、Siではない)、また負極活物質として使用するためのSiO2と組み合わせて使用することができるこれらの少なくとも1種がある。元素QまたはRは、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、レニウム(Re)、鉄(Fe)、鉛(Pb)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、スズ(Sn)、インジウム(In)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)またはこれらの組合せであってよい。
【0056】
リチウムイオンの可逆的インターカレーションおよびデインターカレーションを可能にする材料は、リチウム電池で従来から使用されている様々な炭素質負極活物質のいずれか1種でよい。リチウムイオンの可逆的インターカレーションおよびデインターカレーションを可能にする材料の例としては、結晶質炭素、非晶質炭素およびこれらの混合物がある。結晶質炭素の例としては、プレート、フレーク、球状または繊維型天然黒鉛、人造黒鉛および黒鉛ベース材料、非晶質炭素の例としては軟質炭素(低温か焼炭素)、硬質炭素、メソフェーズピッチ炭化物およびか焼コークスがある。
負極は、本発明の電極複合材料用の上記のようなバインダと、カーボンブラック、黒鉛粒子、天然黒鉛、人造黒鉛、硬質炭素、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、銅、ニッケル、アルミニウムまたは銀の粉末、繊維またはチューブ、あるいはポリフェニレン誘導体などの導電性ポリマー、これらの混合物などの導電性材料とをさらに含むことができる。
【0057】
本発明のLIBは、電子絶縁特性、機械的強度、耐科学性および高いイオン透過性を示すセパレータを、負極と正極との間にさらに備える。このセパレータは、通常、膜またはシート等の形で従来からリチウム電池において使用されている1つまたは複数のセパレータでよい。典型的にはポリプロピレン、ポリエチレン、ガラス繊維、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびこれらの組合せのようなポリマーからセパレータを作製するが、これらのセパレータは不織布の形であっても織布の形であってもよい。
【0058】
本発明のLIBは、高いLiイオン伝導度、電子絶縁特性および高い電気化学的安定性を示す電解質をさらに備える。電解質は、有機溶媒中にリチウム塩を含む有機電解質溶液でよい。有機溶媒は、当技術分野において使用する様々な有機溶媒のいずれか1種でよい。有機溶媒の例としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、ベンゾニトリル、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、y−ブチロラクトン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタン、スルホラン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、ジエチレングリコール、ジメチルエーテルおよびこれらの混合物がある。
【0059】
リチウム塩は、当技術分野において使用する様々なリチウム塩のいずれか1種でよい。リチウム塩の例としては、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiClO4、LiCF3SO3、Li(CF3SO22N、LiC49SO3、LiAlO2、LiAlCl4、LiN(Cx2x+1SO2)(Cy2y+1SO2)(xおよびyはそれぞれ自然数である)、LiCl、Lil、およびこれらの混合物がある。
電解質は、イオン性液体に溶解させた上記リチウム塩の1種でもよい。イオン性液体の例としては、PYR1A(N−アルキル−N−メチルピロリニジウム)−TFSI(ビス(トリフルオロメタンスルホニル))イミドまたはPYR1A−FSI(ビス(フルオロスルホニル)イミド)がある。
【0060】
リチウム塩は、当技術分野において使用する様々なリチウム塩のいずれか1種でよい。リチウム塩の例としては、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiClO4、LiCF3SO3、Li(CF3SO22N、LiC49SO3、LiAlO2、LiAlCl4、LiN(Cx2x+1SO2)(Cy2y+1SO2)(xおよびyはそれぞれ自然数である)、LiCl、Lil、およびこれらの混合物がある。
特定の一実施形態において、本発明のLIBは、有機電解液またはイオン性液体電解質溶液が注入されている電池ケース内で巻回されるか折り畳まれ、ケース内に収納されている、正極、負極およびセパレータを備え、結果として得られる構造物はキャップ組立てにより封止されている。電池ケースの形は円筒状であっても、矩形状であっても、封止ポーチ状であっても、または薄膜状であってもよい。
【0061】
別の態様において、本発明は、正極と負極との間にポリマー電解質またはポリマーゲル電解質を介在させることによって形成することができる電池モジュールに関する。複数の電池モジュールをバイセル構造に積層してもよく、その後有機電解液を含浸させてもさせなくてもよく、結果として得られる構造をポーチに収納し、また封止することにより、リチウム電池パックの製造が完了する。
さらなる態様において、本発明は、本発明の電池モジュールを少なくとも1つ備える電池パックに関する。電池モジュールを互いに積層して電池パックを形成することもでき、またノート型パソコン、スマートフォン、電気自動車(EV)、再生可能資源用据置エネルギー貯蔵システムなど、高容量および高性能デバイスにおいて電池パックを使用することもできる。
本発明のリチウムイオンセル、電池モジュールおよび電池パックは、サイクル性、高電圧、高比容量および高比エネルギーの点で非常に優れた電気化学的性能を示すため、多種多様な電子デバイスにおける使用に適している。
【0062】
したがって、さらなる態様において、本発明は、本発明によるリチウムイオンセル、電池モジュールまたは電池パックを備えるデバイスに関する。前記デバイスの例としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)、およびコンピュータ、スマートフォン、再生可能資源用据置エネルギー貯蔵システムのような携帯型電気装置があるが、これらに限定されない。
別の態様において、本発明は、本発明の正極を作製するための方法に関し、前記方法は以下のステップ、
a)スピネル構造を有するリチウム遷移金属酸化物、またはオリビン構造を有するリチウム遷移金属化合物と、グラフェンと、カーボンブラックと、バインダと、溶媒とを含むスラリーを調製するステップと、
b)集電体上にスラリーをキャストステップと、
c)スラリー−集電体一式を乾燥させて正極を得るステップとを含む。
【0063】
したがって、まず、上記の量のスピネル構造を有するリチウム遷移金属酸化物、またはオリビン構造を有するリチウム遷移金属化合物と、グラフェンと、カーボンブラックと、バインダとを、また溶媒とを混ぜ合わせて活性スラリーを調製する。前記活性スラリーをその後、従来の方法によって集電体上にキャストする。特定の一実施形態によれば、ドクターブレード技法に従ってこのスラリーを集電体上に直接被覆し、乾燥させて正極を形成する。別の実施形態によれば、活性スラリーを別個の支持体上に流し込み、その後膜として支持体から分離し、その後集電体上に積層によって膜を堆積させて正極を形成する。
下記実施例は非限定的で、本発明の様々な態様の代表にすぎない。
【実施例】
【0064】
(例1)
73質量%〜78質量%のLNMOと、10〜15質量%のグラフェンおよびカーボンブラックと、12質量%のPVDFとにより正極を作製した。これらの成分を、溶媒としてのN−メチルピロリドン中LNMOに関して5:1の質量比で混合し分散させた。24時間の磁気攪拌下混合を行った。結果として得られたペーストを、ドクターブレード技法を用いてアルミニウム集電体上にキャストすることによって、堆積させた。堆積速度は10mm/sに固定した。厚さが異なる本発明の正極を作製するために、400〜1500μm、通常500〜1500μmのブレード高さを使用した。スラリーを流し込んだ後、加熱プレート上70℃で2時間、その後真空中120℃で12時間乾燥させた。本発明による複合体はすべて、150μmを超える厚さであっても、優れた密着性および卓越した機械的特性を示した。
【0065】
比較例用の単なる導電性添加剤としてのカーボンブラックを5〜10質量%含む複合正極を、同じ方法に従って作製した。
(電気化学的リチウムセル)
電気化学的検討のため、正極を密閉型二電極コイン型セル(CR2032)に組み立てた。これらセルは、(i)負極(リチウムペレットが参照電極としても作用した)と、(ii)正極、たとえば、検討中の複合正極(14μm厚のアルミニウム集電体と、電極複合体とによって形成した13mm径の円)と、(iii)両電極間に配置されたセパレータ(WhatmanモデルBT2043)に埋め込んだ電解質とによって構成した。電解質は、無水エチレンカーボネートおよびジメチルカーボネート(質量比1:1)中1MのLiPF6溶液であった。これらの構成要素は、含水量が1ppmを下回るアルゴングローブボックス内でコイン型セル(CR2032)に組み立てた。
【0066】
(電気化学的測定)
4Vと5Vとの間、レート0.2C、0.5Cおよび1Cで、Arbinの機器(モデルBT2043)によって室温でセルに定電流サイクルを施した。これらの電流は、放電時間5時間、2時間、1時間に期待される電流に相当する。C値は、LiNi0.5Mn1.54(147mAh/g)の理論容量と、電極複合体中のこの材料の質量とから計算した正極の容量である。充電電流は、充電ステップにおける0.2Cも使用した最も低い試験済レート以外、常に0.5Cであった。電流ごとに5サイクルが施された。本発明の電極複合体のサイクル性能を決定するために、電位範囲4.3V〜5Vで一定の1C充電/放電電流を流した。類似の方法を使用して、LMOおよびLFPの電気化学的特性を測定したが、LMOの場合には3.2〜4.6Vの電位範囲、LFPの場合には2〜4.2Vの電位範囲を用いた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2017年1月27日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン質量%〜質量%と、
カーボンブラック質量%〜質量%と、
バインダ質量%〜18質量%と
を含み、残りはスピネル構造を有するリチウム遷移金属酸化物またはオリビン構造を有するリチウム遷移金属化合物であり、80μmを上回る厚さおよび7mg/cm2を上回る活性充填質量を示す、電極複合材料
【請求項2】
100〜340μmの厚さを示す請求項1に記載の電極複合材料。
【請求項3】
スピネル構造を有する前記リチウム遷移金属酸化物は下記式(IV)
LixMn1.5-yNi0.5-zy+z4-nn
(式中、0.9≦x≦1.1、0≦y≦0.2、0≦z≦0.3および0≦n≦1であり、
Mは、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、銀(Ag)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ルテニウム(Ru)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、スズ(Sn)およびヒ素(As)からなる群から選択される1種または複数種の元素を示し、
Xは、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)およびヨウ素(I)からなる群から選択される1種または複数種の元素を示す)
を示す、請求項1または2に記載の電極複合材料。
【請求項4】
LiMn1.5Ni0.54を78質量%、グラフェンを5質量%、カーボンブラックを5質量%、PVDFを12質量%含む、請求項3に記載の電極複合材料。
【請求項5】
スピネル構造を有する前記リチウム遷移金属酸化物は下記式(V)
LixMn2-yNiy4-nn
(式中、0.9≦x≦1.1、0≦y≦0.5および0≦n≦1であり、
Xは、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)およびヨウ素(I)からなる群から選択される1種または複数種の元素を示す)
を示す、請求項1または2に記載の電極複合材料。
【請求項6】
前記リチウム遷移金属化合物は、オリビン構造を有し、下記式(VI)
LixFe1-yy(PO4-n)Xn
(式中、0.9≦x≦1.1、0≦y≦0.5および0≦n≦1であり、
Mは、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ニオブ(Nb)およびマグネシウム(Mg)からなる群から選択される1種または複数種の元素を示し、
Xは、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、硫黄(S)および窒素(N)からなる群から選択される1種または複数種の元素を示す)
を示す、請求項1または2に記載の電極複合材料。
【請求項7】
前記バインダはフッ素化ポリマー、ポリイミド、水溶性バインダ、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、でんぷん、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、およびフッ素ゴムならびにこれらのコポリマーおよび混合物からなる群から選択され、請求項1から6までのいずれか1項に記載の電極複合材料
【請求項8】
前記バインダは、ポリ(ビニルジフルオロエチレン)(PVDF)、ポリ(ビニルジフルオロエチレン−co−ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF−HFP)、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)、ポリイミド、ポリ(エチレン)オキシド、ポリビニルアルコール(PVA)、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、でんぷん、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、およびフッ素ゴム、ならびにこれらのコポリマーおよび混合物からなる群から選択される、請求項1から6までのいずれか1項に記載の電極複合材料。
【請求項9】
前記バインダは、PVDFである、請求項1から6までのいずれか1項に記載の電極複合材料。
【請求項10】
集電体と、前記集電体上に配置されている請求項1からまでのいずれか1項に記載の電極複合材料とを備える、正極。
【請求項11】
前記電極複合材料はスピネル構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記正極は、前記電極複合材料の総質量およびアルミニウム集電体の質量に正規化されたレート0.2Cで290Wh/Kg総量を上回るエネルギーを有し、ここでKg総量は、電極複合材料およびアルミニウム集電体の質量である、請求項10に記載の正極。
【請求項12】
前記電極複合材料はオリビン構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記正極は、前記電極複合材料の総質量およびアルミニウム集電体の質量に正規化されたレート0.2Cで250Wh/Kg総量を上回るエネルギーを有し、ここでKg総量は、電極複合材料およびアルミニウム集電体の質量である、請求項10に記載の正極。
【請求項13】
請求項10、11または12に記載の正極を備えるリチウムイオンセル。
【請求項14】
請求項13に記載のリチウムイオンセルを備える電池モジュール。
【請求項15】
請求項14に記載の電池モジュールを少なくとも1つ備える電池パック。
【請求項16】
請求項13から15までのいずれか1項に記載のリチウムイオンセル、電池モジュールまたは電池パックを備えるデバイス。
【請求項17】
a)スピネル構造を有する前記リチウム遷移金属酸化物、またはオリビン構造を有する前記リチウム遷移金属化合物と、グラフェンと、導電性添加剤としてのカーボンブラックと、バインダと、溶媒とを含むスラリーを調製するステップと、
b)集電体上にスラリーをキャストするステップと、
c)ペーストを乾燥させて複合正極/集電体アセンブリを得るステップとを含む、請求項10、11または12に記載の正極を作製するための方法。
【国際調査報告】