(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-521122(P2017-521122A)
(43)【公表日】2017年8月3日
(54)【発明の名称】歯科用接着剤とともに使用するための、金属含有添加剤を含有する反応性のマイクロアプリケーター
(51)【国際特許分類】
A61C 5/64 20170101AFI20170707BHJP
A61K 6/00 20060101ALN20170707BHJP
【FI】
A61C5/64
A61K6/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-569891(P2016-569891)
(86)(22)【出願日】2015年5月27日
(85)【翻訳文提出日】2017年1月27日
(86)【国際出願番号】EP2015061692
(87)【国際公開番号】WO2015181227
(87)【国際公開日】20151203
(31)【優先権主張番号】102014107518.8
(32)【優先日】2014年5月28日
(33)【優先権主張国】DE
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】399011900
【氏名又は名称】ヘレーウス クルツァー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Kulzer GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルトラウト ロー
(72)【発明者】
【氏名】アストリート カストラティ
(72)【発明者】
【氏名】ベアベル カンク
(72)【発明者】
【氏名】レギーナ エッピンガー
(72)【発明者】
【氏名】マークス ホフマン
【テーマコード(参考)】
4C052
4C089
【Fターム(参考)】
4C052AA06
4C052HH08
4C089AA10
4C089BA04
4C089BA07
4C089BD07
4C089BD08
(57)【要約】
本発明は、遠位端部および近位端部を備える本体を有する歯科用マイクロアプリケーター、ならびにその製造方法、同じく前記アプリケーターと歯科用接着剤を含むキットに関し、ここで、前記近位端部において塗布手段には、少なくとも部分的に、金属、金属含有化合物および有機金属化合物から選択される少なくとも1つの添加剤が歯科材料の重合に影響を与えるために備えられている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠位端部と近位端部とを有する本体を有し、前記本体の近位端部に塗布手段を備えた歯科用マイクロアプリケーターにおいて、前記塗布手段は、歯科材料の重合に影響を与えるために、少なくとも部分的に、金属、金属含有化合物および有機金属化合物から選択される少なくとも1つの添加剤を含有することを特徴とする前記アプリケーター。
【請求項2】
請求項1に記載のアプリケーターにおいて、前記少なくとも1つの添加剤は、ナノ粒子状で存在しており、特に500nm以下1nm以上の粒度を有していることを特徴とする前記アプリケーター。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアプリケーターにおいて、前記本体は、不活性ポリマー製であり、特にPE、PP、HDPE、LDPE、多孔質発泡ポリプロピレン(PEPP)および/または発泡ポリプロピレン(EPP)を含む熱可塑性ポリマー製であることを特徴とする前記アプリケーター。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載のアプリケーターにおいて、前記本体の近位端部に備えられている塗布手段は、a)フィラメント、ブラシ、スポンジ、フロック、クシ、糸玉、刷毛、ヘラ、練板および/または多孔質手段を少なくとも1つ含むことを特徴とする前記アプリケーター。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載のアプリケーターにおいて、前記塗布手段には、少なくとも1つの触媒活性金属または少なくとも1つの触媒活性有機金属化合物が備えられていることを特徴とする前記アプリケーター。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載のアプリケーターにおいて、前記塗布手段には、少なくとも1つの触媒活性金属または少なくとも1つの触媒活性有機金属化合物が備えられており、前記金属は、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、銀、銅、スズまたは亜鉛から選択されていることを特徴とする前記アプリケーター。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載のアプリケーターにおいて、前記塗布手段に、少なくとも部分的にナノ粒子状の白金が含浸されていることを特徴とする前記アプリケーター。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載のアプリケーターにおいて、前記ナノ粒子状の白金は、10nm以下の粒度を有しており、特に前記ナノ粒子状の白金は白金海綿であることを特徴とする前記アプリケーター。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載のアプリケーターにおいて、前記アプリケーターは、さらに助剤、活性剤および/または少なくとも1つのさらなる添加剤を含有しており、前記助剤は、カルボン酸、カルボン酸の塩、緩衝剤、吸湿性化合物を含む、ならびに/または前記少なくとも1つのさらなる添加剤は、塩基または塩基放出化合物から選択されていることを特徴とする前記アプリケーター。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項に記載のアプリケーターにおいて、前記少なくとも1つの添加剤は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アルカリ金属の無機塩、アルカリ土類金属の無機塩、特にアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、有機アルカリ金属塩、有機アルカリ土類金属塩、塩基性金属酸化物、塩基形成成分および金属を含む緩衝剤から選択される少なくとも1つの金属含有化合物であることを特徴とする前記アプリケーター。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項に記載のアプリケーターにおいて、前記少なくとも1つの添加剤は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属酸化物またはカルボン酸の塩から選択される少なくとも1つの金属含有化合物であることを特徴とする前記アプリケーター。
【請求項12】
歯科用マイクロアプリケーターを製造する方法において、
(i)遠位端部と近位端部とを有する本体を有し、前記本体の近位端部に塗布手段を備えた歯科用マイクロアプリケーターを、
(ii)歯科材料の重合に影響を与えるために、金属、金属含有化合物または有機金属化合物から選択される少なくとも1つの添加剤を含有する前記塗布手段と接触させることによる前記方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、
(ii)前記少なくとも1つの添加剤は、懸濁液、分散液、ペースト、溶液または粉末状で存在している
ことを特徴とする前記方法。
【請求項14】
請求項12または13に記載の方法において、
(ii)前記塗布手段をナノ粒子状の添加剤と接触させる
ことを特徴とする前記方法。
【請求項15】
請求項11から14までのいずれか1項に記載の方法において、前記ナノ粒子状の添加剤は、触媒活性金属および塩基反応性金属化合物から選択される少なくとも1つの金属であることを特徴とする前記方法。
【請求項16】
請求項11から15までのいずれか1項に記載の方法において、前記金属は、白金であることを特徴とする前記方法。
【請求項17】
請求項11から16までのいずれか1項に記載の方法において、前記金属は、懸濁液として存在しており、かつ前記懸濁液は、さらに助剤、活性剤および/またはさらなる添加剤を有しており、前記助剤は、少なくとも1つのカルボン酸、カルボン酸の塩、緩衝剤および/または塩基を含むことを特徴とする前記方法。
【請求項18】
請求項11から17までのいずれか1項に記載の方法において、前記金属は、前記懸濁液中に、該懸濁液の組成物全体を基準として1.0質量%から1.0・10-8質量%の含有率で存在していることを特徴とする前記方法。
【請求項19】
a)請求項1から11までのいずれか1項に記載の、または請求項12から18までのいずれか1項に記載の方法によって得られるアプリケーターと、b)歯科用接着剤とを含むキット。
【請求項20】
請求項18に記載のキットにおいて、a)アプリケーターは、添加剤として白金を含有することを特徴とする前記キット。
【請求項21】
請求項19または20に記載のキットにおいて、前記歯科用接着剤は、A)分子中に酸基を有するラジカル重合性モノマー、B1)任意で光増感剤、および/または任意でB2)過酸化物、C)水と混合可能な溶媒、およびD)水を含むことを特徴とする前記キット。
【請求項22】
請求項19から21までのいずれか1項に記載のキットにおいて、E)酸基を含まない少なくとも1つのラジカル重合性モノマーを含むことを特徴とする前記キット。
【請求項23】
請求項19から22までのいずれか1項に記載のキットにおいて、金属含有化合物、特にアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、有機金属化合物、有機化合物のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩から選択される少なくとも1つの添加剤を有することを特徴とする前記キット。
【請求項24】
金属、金属含有化合物および有機金属化合物から選択される少なくとも1つの添加剤の、歯科材料の重合、特にラジカル重合に影響を与えるための使用において、ここで、前記少なくとも1つの添加剤を、重合性の歯科用接着剤と接触させることによって、前記添加剤が塗布手段に設けられている前記使用。
【請求項25】
請求項24に記載の使用において、前記塗布手段を用いて、重合性の歯科用接着剤は、歯面に塗布可能であることを特徴とする前記使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠位端部と近位端部とを有している本体を備えた歯科用マイクロアプリケータであって、その近位端部における塗布手段には、歯科材料の重合に影響を及ぼすために、少なくとも部分的に、金属、金属含有化合物および有機金属化合物から選択される少なくとも1つの添加剤が備えられている歯科用マイクロアプリケーター、ならびにその製造方法、および前記アプリケーターと歯科用接着剤とを含むキットに関する。
【0002】
歯に対する歯科材料の接着性を改善するために、ボンディング材およびプライマーの多様な組合せが公知である。比較的新しい世代の接着剤は、一成分系のセルフエッチング接着剤を含む。歯に対する良好な接着性を保証するためには、良好に湿潤可能な、広い接着面が準備されなければならない。接着剤自体は、接着性の低下をもたらす湿分と接触する可能性を最小限に抑えるために、流動性があり、良好な湿潤特性を有し、かつきわめて迅速に硬化するものでなければならない。
【0003】
例えば、酸エッチング工程および後続の接着剤塗布工程を1つの工程に包括したセルフエッチング接着剤が公知である。酸含有接着剤系は、スミア層を溶解し、その下にある歯質を露出させるか、またはスミア層に接着剤の成分を浸透させるためにスミア層を溶解するにすぎない。同時に、硬歯質(Zahnhartsubstanz)へのモノマーの浸透が行われる。エナメル質の場合、酸含有接着剤系によって、リン酸エッチングに似たエッチングパターンが作られる。浸透に必要な溶媒は、エアシリンジを用いて除去されて、接着剤が硬化もしくは放射線硬化される。
【0004】
本発明の課題は、重合性歯科材料の硬化を改善もしくは促進することであった。同様に、歯科材料のせん断接着強度がさらに改善されることも望ましい。さらに本発明の課題は、重合、および好ましくはさらに硬化、および好ましくは歯質および/またはエナメル質への歯科材料の接着性を改善することができる手段およびキットを提供することであった。別の課題は、好ましくは使用者が、重合および好ましくは硬化を促進させるため、ならびに好ましくは歯への接着性を改善するために、さらなる作業工程を必要とすることがないことにあった。さらに、処理時間が有利に短縮されることが望ましい。
【0005】
前記課題は、請求項1に記載の歯科用マイクロアプリケーター、アプリケーターを製造するための請求項11に記載の方法、ならびにアプリケーターを含む請求項19に記載のキット、同じく請求項24に記載の本発明による使用によっても解決される。好ましい実施態様は、従属請求項に記載されていると共に、明細書に詳述されている。
【0006】
本発明の課題は、好ましくは触媒活性白金を含む少なくとも1つの添加剤が備えられているマイクロアプリケーターによって解決され、アプリケーターは、好ましくは、白金海綿ならびに任意で少なくとも1つの別の添加剤、ならびに任意で少なくとも1つの助剤を含む。別の添加剤としては、エッチング工程後にセルフエッチングボンド(セルフエッチング接着剤と同義)のpH値を高めることができる塩基性添加剤が有効的である。助剤としては、例えば崩壊剤(分解剤)または塗膜形成剤、例えばセルロース、微晶質セルロースを使用することができる。
【0007】
本発明の対象は、遠位端部と近位端部とを備えた本体、特に縦長の棒状本体を有する歯科用マイクロアプリケーターであり、その近位端部には塗布手段があり、前記塗布手段は、少なくともその外側表面に、特に任意に内側表面に、少なくとも部分的に、重合に影響を与えるために、特に重合を促進させるために、および/または重合された歯科材料の耐化学薬品性を改善するために、金属、金属含有化合物および有機金属得化合物から選択される少なくとも1つの添加剤を含有する。ここで、ラジカル重合が影響を受ける、好ましくは促進される場合が特に好ましい。本発明によれば、歯科用接着剤、例えばセルフエッチング接着剤、特に少なくとも1つの酸基を有する歯科用モノマー、好ましくはpH値が7未満、好ましくはpH値が6から1まで、好ましくは5から1までの歯科用接着剤の重合が促進される。分子中に酸基を有するラジカル重合性モノマー(酸性成分とも呼ばれる)は、以下において詳細に開示されている通り、少なくとも1つ、好ましくは複数のエチレン基ならびに少なくとも1つのカルボン酸基、無水カルボン酸基、リン酸基および/またはスルホン酸基を有する重合性モノマーを含む。
【0008】
歯科材料の接着性が改善される、および/または別の歯科材料との化学的相溶性が改善されるのが好ましい。好ましくは、アプリケーターは、前記の添加剤の混合物を有していてもよい。有利には、アプリケーターは、1〜10種類まで、特に1種類、2種類、3種類、4種類、5種類、6種類、7種類、8種類、9種類または10種類の異なる添加剤、それらの添加剤の混合物、活性剤および/または助剤を有している。
【0009】
白金、好ましくは粉末状の白金が備えられている特に好ましいマイクロアプリケーターを使用して、接着値の改善を実証することができた。アプリケーターを製造するために、市販のアプリケーターをナノ白金水性懸濁液で処理して乾燥した。このように処理したアプリケーターを使用して、Heraeus iBOND(登録商標)Self Etchと組み合わせて歯表面を前処理する場合に良好な効果を実証することができた。iBOND(登録商標)Self Etchと市販のアプリケーター(白金処理なし)を使用する対照試験と比べて、エナメル質では、白金で処理したアプリケーターを使用する場合に統計的に著しくより高いせん断接着結果が得られた。エナメル質でのせん断接着結果は、このアプリケーターを用いて10%から20%向上することができた。したがって、総じて達成された接着性は、これまで達成不可能であった範囲でさらに改善することができた。
【0010】
特に好ましくは、アプリケーターまたは塗布手段は、特にその外側表面に、および/または少なくとも1つの内側表面に、少なくとも部分的にナノ粒子状の白金が含浸されている。さらに好ましくは、ナノ粒子状の白金の粒度は10nm以下であり、特にナノ粒子状の白金は、白金海綿である。特に好ましい白金の粒度は、50nm以下、10nm以下、7nm、およそ5nm±2nmの粒子を含む。白金の純度は、好ましくは白金の含有率の90質量%以上、特に95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、さらに好ましくは99.7質量%以上、99.8質量%以上、99.9質量%以上である。
【0011】
好ましい代替案によれば、第一の添加剤に加えて、少なくとも1つの別の添加剤、特に活性剤を含有するアプリケーターを準備する。ここで、白金およびスルフィン酸の塩、特にトルエンスルフィン酸のアルカリ金属塩との組合せは、アプリケーターにおける添加剤の好ましい組合せである。この組み合わせによって、貯蔵性のない化合物または歯科組成物と相溶性のない化合物の塗布を、ワンステップアプリケーションで塗布することができる。
【0012】
このようにしてアプリケーターに白金を含浸させた。そうして得られた、乾燥したアプリケーターを使用して、iBOND(登録商標)Self Etchを歯に、特に歯の窩洞に、特に好ましくはう蝕処理と関連する歯の窩洞に塗布した。対照として、未処理のアプリケーターを使用して塗布されたiBOND(登録商標)の試料を用いる。エナメル質におけるせん断接着強度は、白金を含むアプリケーターの場合、添加剤を含まないアプリケーターで得られた値と比べて10%から20%改善されたせん断接着強度を示した。本発明によるアプリケーターによれば、使用者による使用法を変更しなくても、歯科材料の接着性をさらに改善することができる。
【0013】
せん断接着強度の改善に関連する添加剤の好影響は濃度に依存しているが、これは触媒系の場合にはよくあることである。iBOND(登録商標)Self Etchは、すでに市販のアプリケーターを使用する、歯質におけるせん断接着試験で、とりわけ硬歯質において凝集破壊を引き起こすため、添加剤が備えられたアプリケーターによるさらなる接着性の改善は、この手法によって方法的に証明することはできない。歯質におけるiBOND Self Etchの基準値はすでに、手法としてせん断接着性が適している範囲の上限にある。
【0014】
本発明の好ましい実施態様によれば、少なくとも1つの添加剤は100nm以下、特に1nm以上の粒度を有している。それとは別に、またはそれに加えて、少なくとも1つの添加剤はナノ粒子状で存在しており、特に500nm以下1nm以上、好ましくは250nm以下5nmまで、特に好ましくは100nm以下5nmまでの粒度を有している。少なくとも1つの添加剤は、少なくとも1つのナノ粒子状の金属および/または少なくとも1つの金属含有化合物であることが有利であり、好ましくは添加剤はアルカリ性成分を含み、その際にその粒度は好ましくは100nm以下、例えば100nmから1nmまでである。
【0015】
1つの実施態様によれば、マイクロアプリケーターは、遠位端部および近位端部を備えた本体を有していてよく、その近位端部には塗布手段が設けられており、好ましくは遠位端部にグリップ構成部材またはグリップ端部が設けられている。
【0016】
好ましいアプリケーターは、好ましくは、ポリマー、特に、好ましくは歯科材料、例えばセルフエッチング接着剤に不活性の不活性ポリマー製であり、特にアプリケーターの本体は、これらのポリマー製である。好ましいポリマーは、熱可塑性ポリマー、特にPE、PP、HDPE、LDPE、多孔質発泡ポリプロピレン(PEPP)および/または発泡ポリプロピレン(EPP)を含む熱可塑性ポリマーを含む。アプリケーターは、可撓性があり、好ましくは不活性の材料製であるのが好ましく、この材料は、さらに好ましくは歯科材料により良好に湿潤可能なものである。
【0017】
相応して、アプリケーターが本体の近位端部に少なくともa)フィラメント、ブラシ、海綿、フロック(Beflockung)、クシ、糸玉(Knaeul)、刷毛、ヘラ、練板(Mischpad)、テキスタイル材料および/または多孔質手段から選択されている塗布手段を有している場合が好ましく、特に、多孔質手段において添加剤は、歯科重合性組成物との接触時に放出されるように挿入または埋め込まれて存在していてよい。有利なアプリケーターは、熱可塑性ポリマーおよび/または溶媒に対して化学的に安定したポリマー製のものである。好ましい塗布手段は、多数のフィラメントを有するものである。アプリケーターは、棒状で中実な本体を有しており、特にアプリケーターの本体は、内部空隙を有していないことが好ましいことがある。さらに好ましくは本体は、少なくとも部分的に円筒状で中実である、および/または円錐形で中実である。本発明によれば、アプリケーターは、遠位端部および近位端部を備えた本体を有するマイクロアプリケーターであり、その近位端部には塗布手段が設けられており、好ましくは遠位端部にグリップ構成部材またはグリップ端部が設けられており、アプリケーターの本体は棒状で中実である。
【0018】
特に好ましい実施態様によれば、アプリケーターの塗布手段には、少なくとも1つの触媒活性金属または少なくとも1つの触媒活性有機金属化合物が備えられている。好ましくは金属は、白金族の金属から選択されている。特に好ましくは、少なくとも1つの触媒活性金属または少なくとも1つの触媒活性有機金属化合物は、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、銀、銅、スズおよび亜鉛および前記の金属の錯体から選択される有機金属化合物である。
【0019】
同じく本発明によれば、アプリケーターは、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩から選択される少なくとも1つの金属含有化合物、例えば無機塩、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、有機アルカリ金属塩、有機アルカリ土類金属塩、塩基性金属酸化物、塩基形成成分(Basenbildner)、例えば酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化銅など、および金属を含む緩衝剤(Puffer)から選択される少なくとも1つの添加剤またはそれらの添加剤の混合物を含有していてよい。さらなる例は、Ca(OH)
2、ナノHAP、NaOHを含む。塩基性添加剤によりpH値を上昇させることができ、有利にはpH値を0.2、0.5または1.0以上上昇させることができ、特に酸性の歯科材料とともに使用する場合には中和が好ましい。
【0020】
以下の化合物は、それらがアプリケーター上に析出されている場合は助剤とみなされる:カルボン酸、カルボン酸の塩、果実酸、緩衝剤および/または塩基。これらの化合物は、アプリケーターを製造するための懸濁液を安定させる効果があり、アプリケーターに含浸させることができる。アプリケーターによって導入された化合物は、セルフエッチング歯科材料において緩衝剤として作用することができる。
【0021】
同じく本発明の対象は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、中性塩基、アニオン性塩基、カチオン性塩基、金属酸化物、塩基形成成分、例えばCaO、炭酸水素ナトリウム、水酸化アルミニウムを含む金属、金属含有化合物および有機金属化合物から選択される塩基、塩基放出化合物を含む少なくとも1つの添加剤またはこれらの添加剤の混合物を有するアプリケーター、または有機塩基および/もしくはアンモニアを含む少なくとも1つの別の添加剤を有するアプリケーターである。
【0022】
緩衝剤は、特に酢酸アセテート緩衝剤(pH3.7から5.7まで)、リン酸緩衝剤(pH5.4から8.0まで)、アンモニア緩衝剤(pH8.2から10.2まで)、クエン酸緩衝剤、TRIS:トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(pH7.2から9.0まで)、HEPES:4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(pH6.8から8.2まで)、HEPPS:4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−1−プロパンスルホン酸(pH7.3から8.7まで)、MES:2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(pH5.2から6.7まで)、Michaelisによるバルビタールアセテート緩衝剤(pH2.6から9.2まで)、または乳酸緩衝剤系から選択されていてよい。
【0023】
アプリケーターに塗布されていてよい、活性剤または別の添加剤として用いられる化合物は、以下の化合物または混合物を含んでいてよい:芳香族有機酸および/もしくはその塩、例えば有機スルフィン酸および/もしくはその塩、またはバルビツール酸および/もしくはその誘導体。有機スルフィン酸またはその塩は、スルフィン酸または慣用のスルフィン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩またはアンモニウム塩である。アルカリ金属塩として、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などが選択されてよい。アルカリ土類金属塩として、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩またはバリウム塩などが選択されてよい。アミン塩として、第一級アミン塩、例えばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アニリン、トルイジン、フェニレンジアミンまたはキシレンジアミンが考慮され、第二級アミン塩として、例えばジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ピペリジン、N−メチルアニリン、N−エチルアニリン、ジフェニルアミンまたはN−メチルトルイジンが考慮されるか、または第三級アミンは、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジ(ヒドロキシエチル)アニリン、N,N−ジエチルアミン、N,N−ジメチルトルイジン、N,N−ジエチルトルイジンまたはN,N−(ヒドロキシエチル)トルイジンである。一般的なアンモニウム塩は、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩またはトリメチルベンジルアンモニウム塩を含む。
【0024】
有機スルフィン酸の好ましい例は、アルカンスルフィン酸を含み、例えば、エタンスルフィン酸、プロパンスルフィン酸、ヘキサンスルフィン酸、オクタンスルフィン酸、デカンスルフィン酸およびドデカンスルフィン酸、脂環式スルフィン酸、例えばシクロヘキサンスルフィン酸である。
【0025】
活性剤は、以下の芳香族有機酸および/または塩から選択されていてよく、キットにおいては芳香族有機酸および/またはその塩、例えば有機スルフィン酸および/またはその塩、またはバルビツール酸および/またはその誘導体から選択されていてよい。スルフィン酸の塩として、前記のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、アミン塩ならびにアンモニウム塩が考慮される。
【0026】
有利なスルフィン酸は、有機スルフィン酸としてアルカンスルフィン酸、例えばエタンスルフィン酸、プロパンスルフィン酸、ヘキサンスルフィン酸、オクタンスルフィン酸、デカンスルフィン酸およびドデカンスルフィン酸、脂環式スルフィン酸、例えばシクロヘキサンスルフィン酸およびシクロオクタンスルフィン酸、ならびに芳香族スルフィン酸、例えばベンゼンスルフィン酸、o−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸、エチルベンゼンスルフィン酸、デシルベンゼンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸、クロロベンゼンスルフィン酸およびナフタリンスルフィン酸を含む。
【0027】
有機スルフィン酸エステルの好ましい例は、ベンゼンスルフィン酸リチウム、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸マグネシウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸ストロンチウム、ベンゼンスルフィン酸バリウム、ベンゼンスルフィン酸ブチルアミン、ベンゼンスルフィン酸アニリン、ベンゼンスルフィン酸トルイジン、ベンゼンスルフィン酸フェニレンジアミン、ベンゼンスルフィン酸ジエチルアミン、ベンゼンスルフィン酸ジフェニルアミン、ベンゼンスルフィン酸トリエチルアミン、ベンゼンスルフィン酸アンモニウム、ベンゼンスルフィン酸テトラメチルアンモニウムおよびベンゼンスルフィン酸トリメチルベンジルアンモニウムを含む。さらに、好ましくは、o−トルエンスルフィン酸リチウム、o−トルエンスルフィン酸ナトリウム、o−トルエンスルフィン酸カリウム、o−トルエンスルフィン酸カルシウム、o−トルエンスルフィン酸シクロヘキシルアミン、o−トルエンスルフィン酸アニリン、o−トルエンスルフィン酸アンモニウム、o−トルエンスルフィン酸テトラエチルアンモニウム、p−トルエンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸カリウム、p−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸バリウム、p−トルエンスルフィン酸エチルアミン、p−トルエンスルフィン酸トルイジン、p−トルエンスルフィン酸−N−メチルアニリン、p−トルエンスルフィン酸ピリジン、p−トルエンスルフィン酸アンモニウム、p−トルエンスルフィン酸テトラメチルアンモニウム、ナフタリンスルフィン酸ナトリウム、ナフタリンスルフィン酸ストロンチウム、ナフタリンスルフィン酸トリエチルアミン、ナフタリンスルフィン酸−N−メチルトルイジン、ナフタリンスルフィン酸アンモニウム、ナフタリンスルフィン酸トリメチルベンジルアンモニウムなどが、有機スルフィン酸エステルとして考慮される。トルエンスルフィン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0028】
同様に、少なくとも1つの活性剤は、バルビツール酸誘導体から選択されていてもよく、キットにおいてはバルビツール酸誘導体から選択されていてよい。バルビツール酸誘導体は、有利には1,3,5−トリメチルバルビツール酸、1,3,5−トリエチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−エチルバルビツール酸、1,5−ジメチルバルビツール酸、1−メチル−5−エチルバルビツール酸、1−メチル−5−プロピルバルビツール酸、5−エチルバルビツール酸、5−プロピルバルビツール酸、5−ブチルバルビツール酸、5−メチル−1−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸またはそのアルカリ金属塩から選択されている。バルビツール酸誘導体の好ましい濃度は、歯科付着剤の組成物全体を基準として0.1質量%から10質量%までである。
【0029】
前記の活性剤、例えば芳香族有機酸またはバルビツール酸誘導体は、好ましくは単独で中性またはアルカリ性条件下に溶解する。アプリケーターの含浸は、浸漬法、噴霧法ならびに当業者に公知の別の方法を用いて行うことができる。粘着性粉末の噴霧も可能である。用途に応じて、前記の少なくとも1つの添加剤は、その放出時間に影響を及ぼす別の助剤と共に塗布することができる。これは、遅延または促進であってよく、たとえば分解剤を使用することによるものであってもよい。
【0030】
さらに、または代替的に、アプリケーター上で準備することができる同様に好適な別の添加剤は、助剤、活性剤および/または少なくとも1つの別の添加剤を含んでおり、ここで、助剤は、カルボン酸、カルボン酸の塩、果実酸、緩衝剤、吸湿性化合物、特に吸湿性塩、例えば(CaCl
2)を含む、および/または少なくとも1つの別の添加剤は、塩基および塩基放出化合物から選択されるものである。
【0031】
アプリケーターは、添加剤の安定性に応じて、個別に、またはまとめて、気密に、かつ/または遮光して包装される。好ましくは、アプリケーターは、遮光および/または気密シートにブリスターパック等で包装される。
【0032】
同様に、本発明の対象は、歯科用マイクロアプリケーターの製造方法、ならびにこの方法によって得られるアプリケーター、特に
(i)遠位端部と近位端部とを有し、その近位端部に塗布手段を備えた本体を有する歯科用マイクロアプリケーターを、
(ii)歯科材料の接着性に影響を及ぼすために、金属、金属含有化合物および有機金属化合物から選択される少なくとも1つの添加剤を有する塗布手段と接触させる
ことによって前記のアプリケーターを製造する方法である。
【0033】
有利には(ii)において、少なくとも1つの添加剤は、懸濁液、分散液、ペースト、溶液、噴霧乾燥物として提供されるか、または少なくとも1つの添加剤は、粉末状で提供される。
【0034】
さらに、工程(ii)においてナノ粒子状の添加剤と塗布手段とを接触させる場合が好ましい。ここで、添加剤が、特に金属添加剤、特に好ましくは白金、好ましくは500nm以下1nm以上、好ましくは250nm以下5nmまで、特に好ましくは100nm以下5nmまで、または50nmから2nmまでの粒度を有する白金である場合が好ましい。有利には、少なくとも1つのナノ粒子状の金属および/または少なくとも1つのナノ粒子状の金属を含む化合物が準備される。好ましくはアルカリ性成分、特に100nm以下の粒度を有するアルカリ性成分を使用することができる。前記の通り、少なくとも1つの添加剤、好ましくは、特に懸濁液として存在している100nm以下の粒度を有する添加剤を接触させる。本発明による方法では代替的に、添加剤は、溶液として、例えば水溶液として、または溶媒/水の混合物として使用することができる。特に好ましくは、本発明による方法では、(ii)において、懸濁液中のナノ粒子状の金属を使用する。
【0035】
特に好ましい変法によれば、懸濁液中で、懸濁液の組成全体を基準として1.0質量%から1.0・10
-8質量%、特に1.0・10
-1質量%から1.0・10
-6質量%まで、好ましくは1.0・10
-3質量%から1.0・10
-5質量%まで、特に好ましくは1.0・10
-3質量%から2.5・10
-4質量%まで、本発明によれば、1.0・10
-3質量%から2.2・10
-3質量%までの含有率を有する金属が使用される。
【0036】
本発明によれば、アプリケーターを製造する方法において、好ましくは(ii)塗布手段を備えたアプリケーターを、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アルカリ金属の無機塩、アルカリ土類金属の無機塩、特にアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、有機アルカリ金属塩、有機アルカリ土類金属塩、塩基性金属酸化物、塩基形成成分および金属を含む緩衝剤から選択される少なくとも1つの金属含有化合物を含む少なくとも1つの添加剤と接触させる。
【0037】
含浸されたアプリケーターは、乾燥されるのが好ましい。
【0038】
同様に、本発明の対象は、a)前記の、または本発明による方法により得られるアプリケーターと、b)歯科用接着剤、特に重合性歯科用接着剤を含むキットである。このキットは、好ましくは、a)歯科材料の接着性に影響を与えるために、金属、金属含有化合物および有機金属化合物から選択される少なくとも1つの添加剤、特に少なくとも白金、特に白金海綿を含むアプリケーターを含む。好ましくは、キットに含まれるアプリケーターは、さらなる添加剤、例えば活性剤、例えばスルフィン酸またはスルフィン酸の塩および/または塩基を有している。本発明による接着剤は、好ましくはセルフエッチング歯科用接着剤である。
【0039】
好ましくは、歯科用接着剤は、少なくとも1つのA)分子中に酸基を有するラジカル重合性モノマー、B1)任意で光増感剤、および/または任意でB2)過酸化物、C)水と混合可能な溶媒、例えばアルコール、ケトン、エステル、ケタール、イソプロピリデングリセリン、エタノール、好ましくはアセトン、ならびにD)水を含む。
【0040】
さらに、キットは、E)好ましくは水に不溶性であるか、または難溶性である(H
2O 100mlあたり2g未満)、酸基を含まない少なくとも1つのラジカル重合性モノマーを含む。
【0041】
A)の分子中に酸基を有するラジカル重合性モノマーは、酸性成分とも呼ばれ、少なくとも1つ、好ましくは複数のエチレン基ならびに少なくとも1つのカルボン酸基、無水カルボン酸基、リン酸基および/またはスルホン酸基を有する重合性モノマーを含む。
【0042】
分子中にカルボン酸基または無水カルボン酸基を有する単官能性重合性モノマーは、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、ポリカルボン酸、およびその無水物から選択されていてよい。好ましい化合物は、カルボン酸および/または無水物であってよく、例えば、マレイン酸、p−ビニル安息香酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸(MAC−10)、1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルピロメリット酸、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメリット酸およびその無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸およびその無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸およびその無水物、4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシ]ブチルトリメリット酸およびその無水物、2,3−ビス(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル(メタ)アクリレ−ト、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、または4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N−O−ジ(メタ)アクリロイルオキシチロシン、O−(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N−(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N−(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミン−安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−O−アミン安息香酸、グリシジル(メタ)アクリレートとN−フェニルグリシンまたはN−トリルグリシンとの付加物、4−[(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸、3−[N−メチル−N−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸または4−[N−メチル−N−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸、(メタ)アクリロイルアミノサリチル酸および(メタ)アクリロイルオキシサリチル酸であってよい。好ましくは、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸(MAC−10)および4−メタクリロリルオキシエチルトリメリット酸(4−MET)またはその無水物(4−META)である。成分(A)として使用可能である、分子中に少なくとも2つのカルボキシル基を有する多官能性重合性モノマーは、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸およびその誘導体を含んでいてよく、例えば2−ヒドロキシエチル−(メタ)アクリレートとピロメリット二無水物(PMDM)とからの付加生成物、2モルのヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと1モルの無水マレイン酸または3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)または3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物との付加反応生成物、および2−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパンである。
【0043】
分子中に少なくとの1つのリン酸基を有する重合性モノマーは、例えば2−(メタ)アクリロイルオキシエチル酸ホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピル酸ホスフェートおよび3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル酸ホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチル酸ホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル酸ホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル酸ホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル酸ホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシル酸ホスフェート、ビス{2−(メタ)アクリロイルオキシエチル}酸ホスフェート、ビス{2−(メタ)アクリロイルオキシプロピル}酸ホスフェートまたはビス{3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル}酸ホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル酸ホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−p−メトキシフェニル酸ホスフェートなどを含む。これらの化合物中のリン酸は、チオリン酸基で置換されていてよい。
【0044】
前記のモノマーのうち、以下の2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル酸ホスフェートおよび10−(メタ)アクリロイルオキシデシル酸ホスフェートが好ましい。リン酸基を有するモノマーは、単独で使用するか、または組み合わせて使用してもよい。
【0045】
分子中にスルホン酸基を有する重合性モノマーは、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2−スルホ−1−プロピル(メタ)アクリレートまたは1−スルホ−1−プロピル(メタ)アクリレートまたは2−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレートまたは1−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、1−スルホ−2−ブチル(メタ)アクリレートまたは3−スルホ−2−ブチル(メタ)アクリレート、3−ブロモ−2−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシ−1−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、1,1−ジメチル−2−スルホエチル(メタ)アクリルアミドおよび2−メチル−2−(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸を含んでいてよく、好ましくは、2−メチル−2−(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸である。
【0046】
重合性モノマーA)は、塩として、例えば一価または多価金属塩またはアンモニウム塩として存在している酸基を含んでよい。しかしモノマーA)は、別の酸性化合物とともに使用され、別の酸性化合物と接触する場合には、酸として作用する場合が好ましい。上記の成分(A)は、単独で使用するか、または相互に組み合わせて使用してもよい。
【0047】
好ましい成分B1)および/またはB2)は、B1)として任意で光増感剤を含む、および/または任意でB2)過酸化物を含む。
【0048】
好ましい成分(B1)は、α−ケトカルボニル化合物またはアシルホスフィンオキシド化合物を含む。具体的には、α−ジケトン、α−ケトアルデヒド、α−ケトカルボキシル酸、α−ケトカルボキシレートが好ましい。具体的に、α−ジケトン、例えばジアセチル、2,3−ペンタジオン、2,3−ヘキサジオン、ベンジル、4,4’−ジメトキシベンジル、4,4’−ジエトキシベンジル、4,4’−オキシベンジル、4,4’−ジクロロベンジル、4−ニトロベンジル、α−ナフチル、カンファーキノン、カンファーキノンスルホン酸、カンファーキノンカルボン酸、および1,2−シクロヘキサンジオン、α−ケトアルデヒド、例えばメチルグリオキサールおよびフェニルグリオキサールなど、例えばピルビン酸、ベンゾイルギ酸、フェニルピルビン酸、ピルビン酸メチル、ベンゾイルギ酸エチル、フェニルピルビン酸メチルおよびフェニルピルビン酸ブチルが好ましい。α−ジケトンがその安定性に基づいて特に好ましく、ならびにジアセチル、ベンジルおよびカンファーキノンが特に好ましい。
【0049】
さらに、成分B1)は、ベンゾイルジメトキシホスフィンオキシド、ベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、2−メチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドならびにそれらの誘導体を含む。あらゆる光活性化合物は、単独で、または混合物として使用することができる。
【0050】
過酸化物B2)として、化合物、例えばジアセチルジペルオキシド、ジプロピルペルオキシド、ジブチルペルオキシド、ジカプリルペルオキシド、ジラウリルペルオキシド、ベンソイルペルオキシド(BPO)、p,p’−ジクロロベンゾイルペルオキシド、p,p’−ジメトキシベンゾイルペルオキシド、p,p’−ジメチルベンゾイルペルオキシド、およびp,p’−ジニトロジベンゾイルペルオキシドおよび無機過酸化物、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、塩素酸カリウム、臭素酸カリウムおよび過リン酸カリウムを使用することができる。BPOが好ましい。
【0051】
成分C)として、水と混合可能な溶媒、好ましくはアルコール、ケトン、エステル、ケタール、イソプロピリデングリセリン、例えばエタノールを使用することができるが、アセトンが好ましい。
【0052】
本発明による成分(C)は、水溶性の有機溶媒である。この溶媒は、上記の成分それぞれを均一に溶解または分散させるために用いられ、溶媒は、前記成分に対して不活性であり、有利には揮発性であることが望ましい。高級アルコール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコールおよびグリセリンを使用することもできる。
【0053】
成分E)は、好ましくは、特に水に不溶性であるか、または難溶性である、酸基を含まない少なくとも1つのラジカル重合性モノマーを含む。成分(A)とは異なる、酸基を含まない好ましいラジカル重合性モノマーは、芳香族ビニル化合物、例えばスチレンおよびジビニルベンゼン、ビニルエステル、例えば酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸の脂肪族エステル、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートおよびトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、芳香族エステル、例えばフェニル(メタ)アクリレート、芳香族(メタ)アクリレート、例えば2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、1モルのビスフェノールAと2モルのグリシジル(メタ)アクリレートとの付加物(ビス−GMA)、ビスフェノールAとグリシジルエーテルとの付加重合体1モルと、2モルの(メタ)アクリル酸との縮合物、およびビスフェノールAとエチレンオキシドとの付加物1モルと、2モルの(メタ)アクリル酸との縮合物(エチレンオキシドの付加鎖の数、m+n=2,6)、ウレタン含有メタクリレート、例えば2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、および2モルのヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと1モルの2,2,4−(または2,4,4−)トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートとの付加物(UDMA)、脂肪族(メタ)アクリル酸エステル、例えば1,6−ヘキサメチレンジメタクリレート(1,6−HX)、ネオペンチルグルコールジ(メタ)アクリレート、およびトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(鎖長n=6未満)、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、およびトリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ならびにポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(鎖の数n=12以下)、例えばプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートおよびナノプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートを含む。本発明による成分E)は、メチルメタクリレート、エチレンメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−フェノキシエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、テトラヒドロフリルメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、メチルアクリエート、エチレンアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−フェノキシエチルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、イソデシルアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、テトラヒドロフリルアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、またはその混合物から選択される少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を含むモノマーを含むか、または少なくとも1つの架橋剤を含む。一般的な架橋剤は、BDMA、1,4−ブタンジオールジメタクリレート(1,4−BDMA)またはペンタエリトリトールテトラアクリレート、ウレタンジメタクリレート(UDMA)、ビス−GMA−モノマー(ビスフェニルA−グリシジルメタクリレート)である。希釈剤(希液性アクリレート、例えばトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)およびジエチレングリコールジメタクリレート(DEGMA)など)の使用。
【0054】
少なくとも2つの(メタ)アクリレート基を有する好ましい(メタ)アクリレートは、エタンジオールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート(400)または(600)、ブタンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、デカンジオールジメタクリレート、ドデカンジオールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、ジプロピルグリコールメタクリレート、ビスフェノールA−ジメタクリレート、ビスフェノールA−ジメタクリレート誘導体、例えばエトキシ化2−ビスフェノールA−ジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、2,2−ビス−4−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニルプロパン(ビス−GMA)、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、少なくとも2つのメタクリレート基を有するウレタンメタクリレートまたは少なくとも1つの(メタ)アクリレートを含む混合物から選択されるものである。
【0055】
3〜6個の(メタ)アクリレート基を有する好ましい(メタ)アクリレートは、(i)エトキシ化(15)トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化−5−ペンタエリトリトールトリアクリレート、プロポキシル化(5.5)グリセリルトリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレートからの3つの(メタ)アクリレート基を有する(メタ)アクリレート、および/または(ii)ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシ化(4)ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、エトキシ化(4)ペンタエリトリトールテトラメタクリレート、ペンタエリトリトールテトラメタクリレートからの4つの(メタ)アクリレート基を有する(メタ)アクリレート、および/または(iii)ジペンタエリトリトールペンタアクリレート、i−ペンタエリトリトールペンタメタクリレート、ジペンタエリトリトールペンタアクリレート、ジ(テトラメチロールメタン)ペンタメタクリレートからの5つの(メタ)アクリレート基を有する(メタ)アクリレート、および/または(iv)6つの(メタ)アクリレート基を有する(メタ)アクリレート、ジペンタエリトリトールヘキサ(メタ)アクリレートから選択されるものである。同じく、(メタ)アクリレートのオリゴマー、特にウレタンジアクリレートオリゴマーが好適である。
【0056】
本発明の対象は、金属含有化合物および有機金属化合物、特にアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、有機化合物のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩から選択されている少なくとも1つの別の添加剤を有するアプリケーターを含むキットでもある。
【0057】
同様に本発明の対象は、金属、金属含有化合物および有機金属化合物から選択される少なくとも1つの添加剤の、歯科材料の接着性に影響を与えるための使用であり、この場合、少なくとも1つの添加剤と、重合性の歯科用接着剤とを接触させることによって、添加剤が塗布手段に設けられている。この塗布手段を用いて、重合性の歯科用接着剤を歯面に塗布できることが好ましい。
【0058】
さらに、本発明の対象は、金属、金属含有化合物および有機金属化合物から選択される少なくとも1つの添加剤の、重合、特に歯科材料、例えば分子中に酸基を有する少なくとも1つの重合性モノマーを含む歯科用接着剤の重合、好ましくは、特に酸基を有するモノマーを含む歯科材料のラジカル重合に影響を与えるための使用であり、この場合、少なくとも1つの添加剤と、重合性の歯科用接着剤とを接触させることによって、添加剤が塗布手段に設けられている。
【0059】
酸基を有するラジカル重合性モノマーは、1つ以上の(メタ)アクリレートおよび/またはオレフィン系ウレタンをベースにする歯科用モノマーを含む。
【0060】
以下では実施例に基づいて本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
例1:ナノ白金マイクロアプリケーター(ここではMicrobrushes(登録商標)を使用する)
Microbrushの含浸:マイクロアプリケーター(Microbrush、市販品、未処理)のフロック加工された側を、含浸溶液(白金含有率0.002%のナノ白金懸濁液)に24時間懸下する。白金粒子を均一に分散させるために、懸濁液を含浸させている間、撹拌する。
【0062】
続いて、含浸させたマイクロアプリケーターを加熱器で37℃にて24時間乾燥する。含浸は、分析用天秤を用いる計量によって定量化できない。しかし、マイクロアプリケーターの含浸は、明らかな灰色着色で認識可能である。
【0063】
含浸させたマイクロアプリケーター
の有効性の試験:
試験A)エナメル質とコンポジットとの接着試験(Shear Bond Strength、SBS(せん断接着強度))
歯基材:エナメル質、人間の歯
接着剤:Heraeus Kulzer GmbH iBOND(登録商標)Self Etch
コンポジット:Heraeus Dental Venus(登録商標)Diamond A2
接着剤を塗布するためのMicrobrush:
1.対照としての未処理製品
2.ナノ白金溶液を含浸した製品。
【0064】
測定方法−
エナメル質でのSBS試験:使用法にしたがって、削られたエナメル質において接着剤を処理した。次に、収容装置(Ultradent装置、EN ISO29022も参照)を用いてコンポジットを塗布し、重合させた結果、直径2.38mmの円柱状コンポジット(Kompositzylinder)が生じる。24時間、37℃で水中保管後、試験用クランプ装置(EN ISO 29022参照)を用いて試験体を万能試験機Zwick Z010に固定した。試験機の操作は、PCを用いてZwick Software testXpertを使用して行った。試験は、1.0mm±0.1の送り速度で、歯と円柱状コンポジットとの間の接合が破壊するまで行った。試験中に測定器(Messdose)に伝達する力をPCによって測定し、ソフトウエアによってせん断強度(MPa)を記録した。
【0065】
接着試験のデータ評価および結果の概要:ナノ白金処理したMicrobrushで処理したiBOND(登録商標)Self Etchの2つの測定列と、対照としての未処理のマイクロアプリケーターを用いたiBOND(登録商標)Self Etchとを比較した。接着試験では、対照製品の場合、29.3MPaの平均値が得られ、ナノ白金処理したマイクロアプリケーター(Microbrush)試験の場合、35.9MPaもしくは36.0MPaの平均値が得られた。
【0066】
【表1】
【0067】
ナノ白金を含浸させたMicrobrush(マイクロアプリケーター)を使用することによって、エナメル質における接着性は平均して23%向上した。
【0068】
試験B:露光後の重合反応率もしくは二重結合反応率
接着剤:Heraeus Dental iBOND(登録商標)Self Etch
コンポジット:Heraeus Dental Venus A2
照射器:Heraeus Translux Powerblue
接着剤を塗布するためのMicrobrush:
1.対照としての未処理製品
2.ナノ白金溶液を含浸した製品。
【0069】
二重結合の反応率の測定方法:
FTIR−ATR ダイヤモンド分光計(Spectrum One、Universal ATR Sample Accessory、Perkin Eimer)を用いて反応率(反応した二重結合の百分率)を測定した。
【0070】
FTIRスペクトルを、直後と、接着剤の重合およびコンポジットVenusによる仮想窩洞の充填(ATRクリスタルを覆って充填、h=1.6mm)の10分後とに測定した。反応率は、重合された炭素二重結合に対する未重合の脂肪族炭素二重結合の吸収帯(波長=1638cm
-1)の比から算出した。
【0071】
スペクトルは、1638cm
-1における脂肪族炭素二重結合ピークの全高にわたる点の平均化による二次微分係数によって微分解析した。対照製品である未処理のMicrobrushおよびナノ白金処理したMicrobrushを使用して、ATRクリスタルに次のとおりに接着剤を塗布した:ボンディング材2滴を混合シャーレに準備した。接着剤をMicrobrushで10秒撹拌してから取り出し、2つに分けてATRクリスタル上に塗布した。溶媒を15秒から20秒蒸発させ、次いで20秒間エアシリンジ(5bar)で吹きとばした結果、硬質のフィルムが形成される。
【0072】
重合していない接着剤フィルムを、光保護材としての黒色カバーで覆い、未重合のスペクトルを測定する。テンプレート(Schablone)(h=1.6mm)を上に置き、ATRクリスタルを覆っている接着剤フィルムを20秒間重合させた。その後、接着剤フィルムの上にコンポジットVenus A2を重ねて、コンポジットをシート(活性放射線を通すシート)で覆って20秒重合させた。重合後のスペクトルの測定を直ちに行い(露光直後)、かつ10分後スペクトルの測定を相応して後に行った。
【0073】
接着剤の反応率測定の結果の概要:ナノ白金処理したMicrobrush(登録商標)を用いて処理したiBOND(登録商標)Self Etchの一連の測定と、対照製品である未処理のMicrobrush(登録商標)を用いて処理したiBOND(登録商標)Self Etchとを比較する。反応率は、重合直後および重合の10分後にそれぞれ5回の測定からの平均値として測定した。
【0074】
【表2】
【0075】
ナノ白金を含浸させたマイクロアプリケーター(Microbrush(登録商標))を使用することによって、露光直後の二重結合反応率が明らかに向上される。
【表3】
【0076】
ナノ白金を含浸させたマイクロアプリケーターを使用することによって、二重結合反応率が顕著に向上される。
【0077】
例2:塩基性マイクロアプリケーター
(Microbrush(登録商標))
自己硬化性材料の結合は、オールインワン型接着剤の低いpH値によって部分的ないし全体的に阻止される。したがってこの接着剤は、アルカリを含浸させたMBを使用して、20秒の塗布時間の間に中性もしくは弱酸性に調整され、自己硬化性材料の結合が可能になるよう、時間に関してエナメル質/歯質の条件調整ができることが望ましい。
【0078】
Ca(OH)
2溶液を含浸させたマイクロアプリケーター(Microbrush)を製造し、このMicrobrushを用いて接着剤のiBOND Self Etchを適用する。
【0079】
含浸させたマイクロアプリケーター(20 Microbrush)
の製造:0.15%の水酸化カルシウム水溶液50ml(水中の水酸化カルシウムpa=低飽和溶液)を製造して、マイクロアプリケーター(Microbrush(登録商標)、ブラシ)のフロック加工部分を、1時間の間、撹拌しながら溶液に浸漬した。続いて24時間にわたり、加熱器に懸下して37℃で乾燥させた。マイクロアプリケーターのグリップをクリーニングした。
【0080】
有効性の試験は、接着剤との接触時間に応じたpH値の測定として行った。そのために、接着剤のpH値は、含浸させたマイクロアプリケーターとの接触前、接触1秒後、10秒後、および20秒後に測定した。対照試験として、未処理のマイクロアプリケーター(Microbrush(登録商標))との接触時間10秒後および20秒後のpH値を測定した。使用法にしたがって、iBOND Self Etchをマイクロアプリケーターを用いて20秒、硬歯質に塗り込んだので、この時間枠が実際の適用時間を示す。
【0081】
機器/材料:WTW Microprocessor pH ION Meter、Schott Instruments Electrode blue Line 16 pH SN Al 15010019(少量用)遠心管1.7ml、接着剤:iBOND Self Etch、Ca(OH)
2を有するMicrobrush(登録商標):未処理のMicrobrush(登録商標)。
【0082】
測定方法:接着剤40滴を準備。pH値の測定:順次、10個のMB(マイクロアプリケーター、Microbrush)を1秒浸漬して(MBを保管)、接触時間1秒の場合のpH値を測定する。同じMBをさらに9秒間、撹拌しながら接着剤に浸漬する(MBを保管)。pH値を、接触時間10秒の場合で測定する。同じMBをさらに10秒間、撹拌しながら接着剤に浸漬する。pH値を、接触時間20秒の場合で測定する。
【0083】
【表4】
【0084】
水酸化カルシウムに含浸させたマイクロアプリケーターを使用することによって、pH値への遅延効果が得られる。接着剤使用の時間枠において、pH値を著しく高めることができる。
【国際調査報告】