特表2017-521513(P2017-521513A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2017-521513セルロースカルバメートを製造する方法
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  • 特表2017521513-セルロースカルバメートを製造する方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-521513(P2017-521513A)
(43)【公表日】2017年8月3日
(54)【発明の名称】セルロースカルバメートを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/06 20060101AFI20170707BHJP
   D03D 15/00 20060101ALI20170707BHJP
【FI】
   C08B15/06
   D03D15/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-575500(P2016-575500)
(86)(22)【出願日】2015年6月23日
(85)【翻訳文提出日】2017年2月14日
(86)【国際出願番号】IB2015054696
(87)【国際公開番号】WO2015198218
(87)【国際公開日】20151230
(31)【優先権主張番号】1450795-8
(32)【優先日】2014年6月27日
(33)【優先権主張国】SE
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】501239516
【氏名又は名称】ストラ エンソ オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サクセル、ヘイディ
(72)【発明者】
【氏名】ランタメキ、パウラ
(72)【発明者】
【氏名】エクマン、カレ
【テーマコード(参考)】
4C090
4L048
【Fターム(参考)】
4C090AA04
4C090AA05
4C090AA08
4C090BA34
4C090CA35
4C090DA10
4C090DA28
4C090DA32
4L048AA13
4L048AA42
4L048AA46
4L048AC00
4L048CA00
(57)【要約】
本発明は、セルロースカルバメートを製造する方法であって、未乾燥パルプを用意する工程と、尿素を添加し、前記パルプを前記尿素と混合する工程と、前記混合物を機械的に処理する工程と、混合物を乾燥する工程と、比較的乾燥した混合物を加熱して、セルロースカルバメートをもたらす工程とを含む上記方法に関する。本発明は、前記方法により得ることができるセルロースカルバメート、前記セルロースカルバメート及び前記セルロースカルバメートを含むドープの使用にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースカルバメートを製造する方法であって、
a)未乾燥パルプを用意する工程と、
b)尿素を添加し、前記パルプを前記尿素と混合する工程と、
c)前記混合物を機械的に処理する工程と、
d)混合物を乾燥する工程と、
e)比較的乾燥した混合物を加熱して、セルロースカルバメートをもたらす工程とを含む上記方法。
【請求項2】
工程b)における尿素が、固体として又は水溶液として、助剤と一緒に又は助剤なしで添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
助剤が、アルカリ化剤、例えばアルカリ化金属水酸化物、好ましくは水酸化ナトリウム又は水酸化マグネシウム、アンモニア、過酸化水素、及び/又は1つ若しくは複数の酵素である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
尿素が、パルプ量に対して約20重量%未満、より好ましくは約15重量%未満、最も好ましくは10重量%未満、特に好ましくは5重量%未満を用いて、工程b)で添加される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程a)の未乾燥パルプが、叩解、粉砕、混練により、又は押出しにより、機械的に前処理される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程a)の未乾燥パルプが、結晶化度を低減するために、叩解、粉砕、混練、又はコンパウンディングにより、好ましくはボールミル粉砕により、機械的に前処理される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程c)における機械的処理、及び/又は機械的前処理は、セルロースの結晶化度が好ましくは50%未満、より好ましくは30%未満、最も好ましくは20%未満に著しく低減されるようなものである、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程b)における前記パルプと前記尿素の混合は、全固形分が約50重量%未満、好ましくは40重量%未満、最も好ましくは約15〜約35重量%である混合物中で実施される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程c)の機械的処理が、2時間未満、好ましくは1時間未満、最も好ましくは0.5時間未満の間行われる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程c)の混合物の温度が、機械的処理の間、約80℃未満に制御され保持される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程c)における機械的処理が、効率的な混合要素、例えば、櫂形混合機、ボールミル、シーブプレートプレス、コンパウンダー、ローラープレス、押出機、並びに混練及び粉砕機を備えた反応器又は機械の中で実施される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程c)における機械的処理が、機械的混合及び/又は剪断及び/又は摩砕を含み、同時に水の乾燥又は脱水が含まれる、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程d)の混合物の乾燥が、少なくとも70重量%の固形分まで、100℃未満、最も好ましくは90℃未満の温度で、特に好ましくは80℃未満、とりわけ特に好ましくは60℃未満の温度で実施される、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程d)における乾燥が、真空乾燥機又は流動床乾燥機中で実施される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
機械的処理が、工程c)に加えて、乾燥工程d)の間又はd)の後に、及び/又は工程e)の前又はe)の間にも行われる、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
工程e)における熱処理の間の反応が、約90℃〜約170℃、最も好ましくは約130℃〜150℃の範囲の高温で行われる、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
工程e)における熱処理が、少なくとも0.5時間の間、好ましくは約1時間〜約3時間の間行われる、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
工程e)で熱処理されるパルプの全固形分が、80重量%を超える、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
工程e)における熱処理の間に形成されたNHが、好ましくは不活性ガス、例えばNによるフラッシュを用いて、反応チャンバから除去される、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
工程e)で得られたセルロースカルバメートが、助剤、好ましくはアルカリ化剤、最も好ましくはアルカリ水酸化物、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)に溶解する、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
セルロース骨格の重合度が、工程c)における尿素の添加の前、間又は後に、i)酸化剤、例えばHによる、酸化、ii)例えばNaOHを用いる、アルカリ水酸化物処理、及び/又はiii)酵素処理により、低減され及び/又は調整される、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
請求項1から21のいずれか一項に記載のプロセスにより得ることができるセルロースカルバメート。
【請求項23】
請求項22に記載のセルロースカルバメート、及びアルカリ水酸化物、例えば水酸化ナトリウム、及び任意選択で更に1つ又は複数の添加剤を含むドープ。
【請求項24】
添加剤が、金属酸化物、例えば酸化亜鉛である、請求項23に記載のドープ。
【請求項25】
再生材料、例えば、繊維、フィルム、膜、ビーズ、スポンジ、又は織物の製造における、請求項22に記載のセルロースカルバメート又は請求項23若しくは24に記載のドープの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースカルバメート(CCA:cellulose carbamate)を製造するための効率的且つ持続可能な方法に関する。また、本発明は、前記方法によって得られるセルロースカルバメート、セルロースカルバメートを含むドープ、並びにセルロース繊維を再生し成形したセルロース製品、例えば織物繊維、不織布、及びフィルムに加工する際の前記セルロースカルバメートの使用に関する。特に、本発明は、未乾燥セルロースパルプからのセルロースカルバメートの製造に関する。この方法では、未乾燥セルロースパルプを、尿素、及び任意選択で助剤と反応させることができる。
【背景技術】
【0002】
セルロースは市場で最も豊富な再生可能なバイオポリマーである。しかしながら、セルロースは溶融せず、一般的に使用される溶媒に可溶性でないため、セルロースを高度の最終製品に変換する際に明らかな課題がある。これらの欠点を克服するために、セルロースは、セルロースの変換の前に、誘導体化により化学的に修飾され得る。ビスコースプロセスは、誘導体化段階を経る溶解プロセスの商業的な例であり、即ち、アルカリ化セルロース(alkalized cellulose)はCSと混合され、セルロースキサンテートと呼ばれる準安定セルロース誘導体を製造する。得られたセルロースキサンテートは、希アルカリ中に可溶性であり、そこから溶解したセルロースを酸性浴中で再生して、一般的には繊維、フィルム、膜又はスポンジを形成することができる。ビスコースプロセスは、副生成物だけでなく、CS、HS及び重金属を含む有害な試薬の使用を伴う。従って、これらの問題を克服する代替的な環境に優しいプロセスを見出す継続した試みがなされている。
【0003】
いわゆるリヨセルプロセスのみが商業化された代替物であり、ある程度はビスコースプロセスに挑戦することができた。リヨセルプロセスでは、セルロースをN−メチルモルホリン(NMMO)に直接溶解し、次いで水中で凝固させることにより再生する。このプロセスは、有害な化学物質を含有しておらず、得られる繊維がビスコース繊維と比較して引張強度において優れているので有利である。リヨセルプロセスの欠点は、主に高コストと安全性の問題によって決まる。また、繊維特性は、ビスコース系繊維が使用される全ての用途に適合する訳ではない。
【0004】
セルロース再生のための別の潜在的な新たな技術は、いわゆるセルロースカルバメートプロセスである。
【0005】
セルロースカルバメート技術の誘導体化工程は、ビスコース技術で使用されるものと同様である。しかしながら、アルカリ可溶性キサンテート誘導体を製造する代わりに、カルバメートセルロース誘導体を中間工程として製造する。セルロースカルバメートは、キサンテートと同様に、希アルカリに可溶性であり、酸性条件下での凝固によって新しいセルロース製品に成形され得る。セルロースキサンテートとは異なり、セルロースカルバメートはより安定な中間体であり、溶解前に長期間保存され得る。これは、セルロースキサンテートを溶解し、誘導体化プロセスの開始直後に、更に繊維/フィルムに紡糸しなければならないビスコースプロセスと比較して、大きな利点である。また、セルロースカルバメートプロセスは、ビスコースプロセスと比較して、より環境に優しい方法である。
【0006】
セルロースカルバメート技術は数十年に渡り開発されており、多数の開発されたプロセスが文書化されているのにもかかわらず、まだ商業化されていない。その理由は、例えば、プロセス化学物質の回収や残留物の問題、又は低い反応効率の結果である副生成物の形成(例えば、尿素のカルバメート基への変換等)、及びこれまでに提案されているプロセスの全てにおける尿素の高い余剰の必要性等、プロセスの経済性に影響を及ぼす問題に取り組むことと考えられる。セルロースカルバメートについて報告されている更なる問題には、セルロースカルバメート溶液が、例えば、もはや織物繊維に紡糸できないゲルを容易に形成する傾向が含まれる。
【0007】
カルバメート化反応自体は、高温(>130℃)で、尿素とセルロースとの間で行われる。尿素は、高温でアンモニア及びイソシアン酸に分解され、イソシアン酸はセルロースカルバメートを形成するセルロースのヒドロキシル基と反応する(式1及び2)。
NH−CO−NH→HN=C=O+NH (1)
Cell−OH+HN=C=O→Cell−O−C−NH (2)
【0008】
セルロースカルバメートの製造に用いられる既存の方法は、乾燥セルロースパルプを使用するので、活性化工程としてマーセル化工程を用いる必要がある。マーセル化工程では、乾燥セルロースパルプをまずアルカリ溶液に浸漬してパルプを活性化し、結晶領域への試薬の接近可能性を高める。マーセル化工程は、強アルカリ性の、エネルギーを消費し、時間のかかるプロセスである。マーセル化の後、セルロースは、一般的には、加圧によって部分的に脱水又は乾燥され、その後、セルロースが所望の重合度(DP:degree of polymerization)まで分解する、いわゆる熟成を開始する。このDP調整の後、セルロースを処理し、高温で尿素と反応させる。この反応は、例えばキシレン又はトルエンのような不活性有機溶媒中で行うことができる。
【0009】
特許公報、米国特許公開第2005/0054848号及びフィンランド特許第112795B号(VTT)において、セルロースカルバメートの製造のための高固体技術/乾式技術方法が記載されている。この技術では、乾燥セルロースパルプを、高濃度で機械的作業の下で助剤及び尿素と混合し、その後反応をオーブン中で行う。受容可能なドープに達するのに必要な尿素量は、パルプ量の30重量%を超える。
【0010】
上記の乾燥技術を詳細に研究することにより、(これまでに発表された他の方法のみならず)この方法の大きな欠点は、非効率的な化学的混合、及び尿素からカルバメート基への変換が不十分であることにより、高用量の尿素が必要であることを見出した。これは、反応効率、尿素に関する製品コストに直接的に影響するが、合成工程の後に望ましくない副生成物を溶解前に洗い流す別の洗浄工程が必要であるため、追加のプロセスコストとしても直接的に影響する。洗浄水を、廃水プラント、又は潜在的な未反応尿素を回収しなくてはならないプロセス、のいずれかで更に処理し、そしてプロセスへ戻さなければならない。更に、例えば、米国特許出願第2005/0054848号及びフィンランド特許第112795B号に記載されている乾燥技術に従って製造されたセルロースカルバメートの、溶解性及び溶液安定性に関する全体的な品質には疑問がある。これは、次の溶解工程で見られる。この工程では、カルバメートを溶解させるためにかなり高濃度のNaOH溶液が必要であり、またセルロースカルバメート溶液は比較的容易にゲルを形成する傾向があり、従って溶液の安定性が低下する。このことは、溶解及び再生プロセスの課題及び制限を設定し、プロセス条件の僅かなふれに対してプロセスをより脆弱にするので、大きな欠点である。この乾式技術によって製造されたセルロースカルバメート製品の不均一性及び低下した品質は、主にカルバメート基の不均一置換によるものである。これは、乾燥尿素が乾燥セルロースと混合され、従って、尿素のセルロース繊維への拡散が制限されるという事実によって説明される。化学物質とセルロースの唯一の混合相は、固形分が比較的高いペレタイザープレス状態の間に起こる。
【0011】
このように、より環境上持続可能なセルロースカルバメートの製造プロセスが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、セルロースカルバメートを製造するための効率的且つ持続可能な製造プロセスを提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、溶液の改善された溶解性及び安定性を有するドープ及びセルロースカルバメートを製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
これらの目的及び他の利点は、本発明によって達成される。
【0015】
第1の態様によれば、本発明は、セルロースカルバメートを製造する方法であって、
a)未乾燥パルプを用意する(providing)工程と、
b)尿素を添加し、前記パルプを前記尿素と混合する工程と、
c)前記混合物を機械的に処理する工程と、
d)混合物を乾燥する工程と、
e)比較的乾燥した混合物を加熱して、セルロースカルバメートをもたらす(providing)工程と
を含む上記方法を提供する。
【0016】
第2の態様によれば、本発明はまた、第1の態様による方法によって得ることができるセルロースカルバメートを提供する。
【0017】
第3の態様によれば、本発明はまた、第2の態様によるセルロースカルバメート、アルカリ水酸化物、例えば水酸化ナトリウム、及び任意選択で更に1つ又は複数の添加剤を含むドープを提供する。水酸化ナトリウムは、希釈されたアルカリ水酸化物であってもよく、5〜9重量%のNaOH溶液であってもよい。
【0018】
第4の態様によれば、本発明はまた、再生セルロース材料、例えば、(織物に使用され得る)繊維、フィルム、ビーズ、スポンジ、又はフィルター又は膜の製造における、第2の態様によるセルロースカルバメート又は第3の態様によるドープの使用を提供する。従って、セルロースカルバメートは、繊維産業、フィルム産業、不織布産業、ソーセージケーシングの製造、紙コンバーター及びフィルターの製造に使用され得る。セルロースカルバメートはまた、抗菌活性を有することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
未乾燥木材パルプを用いることにより、低用量の尿素で高い反応効率、及びカルバメート基の十分な置換度を達成できることが見出された。従って、未反応の尿素及び望ましくない副生成物の量を実質的に減少させることができ、その結果、大部分の用途において、溶解工程の前に追加の洗浄工程を必要とせずに、セルロースカルバメート製品をそのまま使用することができる。これは、本発明の主な利点の1つである。
【0020】
本発明の別の利点は、製造されるセルロースカルバメートの品質が改善されることである。これは、尿素が未乾燥セルロースパルプ、即ち非角質化繊維と混合される場合、即ち、セルロースの乾燥工程の前に、より均一な置換が達成されることに起因し得る。セルロース繊維が乾燥されると、繊維の内容積が収縮するにつれて、繊維はその性質を不可逆的に変化させる。この現象は角質化と呼ばれる。従って、未乾燥繊維は乾燥していない繊維、即ち、非角質化繊維である。
【0021】
従って、未乾燥パルプの使用により、セルロース繊維中への尿素の接近可能性及び拡散が著しく増加することが見出されている。更に、未乾燥パルプを機械的に処理すると、セルロースの結晶化度を低下させることができる。低下した結晶化度は、セルロース繊維の非晶質部分が増加することを意味し、その結果、尿素は、セルロース繊維の間に、より均一に分布することができ、それにより製品品質の改善が達成される。
【0022】
「セルロースカルバメート」という表現は、本明細書全体に渡って、いかなるタイプのセルロースカルバメートも包含することを意図する。
【0023】
未乾燥(ND:never−dried)セルロースパルプは好ましくはバージンパルプであり、漂白されていても、又は未漂白であってもよい。未乾燥セルロースパルプは、化学パルプ、機械パルプ、ナノパルプ、熱機械パルプ又は化学(熱)機械パルプ(CMP又はCTMP)であってもよい。前記化学パルプは、好ましくは、サルファイトパルプ又はクラフトパルプである。
【0024】
パルプは硬材、軟材又は両方のタイプのパルプからなり得る。軟材は、マツ、トウヒ、スギ、モミ、カラマツ、ダグラスモミ、アメリカツガ、ヒノキ、レッドウッド、又はイチイであってもよい。硬材は、カンバ、ブナ、ユーカリ、アカシア、オーク、アッシュ、ニレ、アスペン、ポプラ又はカエデであってもよい。パルプは、更に、例えば、マツとトウヒの混合物、又はカンバとトウヒの混合物を含み得る。本発明で使用され得る化学パルプは、あらゆるタイプの化学的木材系のパルプ、例えば、漂白された、半漂白された、及び未漂白のサルファイトパルプ、クラフトパルプ及びソーダパルプ、並びにこれらの混合物を含む。パルプは、好ましくは溶解型であってもよい。αセルロース含有量が93重量%を超えるパルプも好ましい。パルプはまた、紡織繊維を含んでもよい。パルプはまた、農業に由来しても良い(例えば小麦、ジャガイモ、竹又はニンジン)。
【0025】
前記セルロースカルバメートを製造するのに用いることができるセルロース繊維(セルロース材料)はまた、いわゆるナノセルロース、又はミクロフィブリル化セルロース(MFC)、又は高度にリファイニングされたパルプ、又は通常のパルプと高度にリファイニングされた繊維、例えばミクロフィブリル化セルロース等との混合物であってもよい。
【0026】
本質的に重要なことは、使用されるパルプが乾燥又は角質化されていないことであり、これにより、繊維及び原繊維への尿素の接近可能性が実質的に低減される。
【0027】
未乾燥セルロースは、繊維の表面積及び/又はフィブリル化度を増加させるために、リファイニング又は切断されてもよい。リファイニング(又は、ミクロフィブリル化セルロースで均質化)工程はまた、尿素又は助剤の存在下で実施されてもよい。
【0028】
「ドープ」という表現は、本明細書全体に渡って、溶解されたセルロースの溶液である、いかなるタイプのセルロースドープも包含することが意図されている。前記セルロースは修飾されていてもよく、例えばセルロースカルバメートであってもよい。
【0029】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、工程b)における尿素は、固体として又は水溶液として、助剤と一緒に又は助剤なしで添加される。
【0030】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、助剤は、アルカリ化剤(alkalizing agent)、例えばアルカリ化金属水酸化物(alkalizing metal hydroxide)、好ましくは水酸化ナトリウム又は水酸化マグネシウム、及び/又はアンモニア、及び/又は過酸化水素、及び/又は1つ若しくは複数の酵素である。500〜800の間の重合度を有する未乾燥溶解グレードパルプを使用して、過酸化水素は、0.3〜1重量%のHで、添加されることが好ましい。助剤は、パルプの重合度を低下させるために添加され得る。
【0031】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、工程b)で添加される尿素は、パルプ量に対して約20重量%未満、より好ましくは約15重量%未満、最も好ましくは10重量%未満、特に好ましくは5重量%未満を用いて添加される。未乾燥パルプへ添加するには、少ない用量の尿素で十分であり、それでもカルバメートを製造することができることが示されている。
【0032】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、工程b)における前記パルプと前記尿素の混合は、全固形分が約50重量%未満、好ましくは40重量%未満であり、最も好ましくは約15〜約35重量%である、混合物で実施される。パルプと尿素とのより均一な混合を得ることが可能であり、そしてパルプの固形分が50重量%未満であると、パルプ中に尿素がより均一に分布することが分かった。固形分が高すぎると、繊維と尿素とを良好に混合することが困難になる。
【0033】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、工程a)の未乾燥パルプは、フィブリル化するか又は繊維の表面積を増加させるために、叩解、粉砕、若しくは混練により、又は好ましくは押出しにより、機械的に前処理される。尿素の添加前に未乾燥パルプを機械的に前処理することにより、尿素とセルロース繊維との間の反応が改善され、促進され得る。
【0034】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、工程a)の未乾燥パルプは、結晶化度を低減するために、叩解、混練、コンパウンディング又は粉砕により、好ましくはボールミル粉砕により、機械的に前処理される。繊維の結晶化度を低減するために未乾燥パルプを前処理することにより、尿素とパルプの繊維との間の反応が改善される。
【0035】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、工程c)における機械的処理、及び/又はa)における未乾燥パルプの機械的前処理は、セルロースの結晶化度が好ましくは50%未満、より好ましくは30%未満、最も好ましくは20%未満に著しく低減されるようなものである。
【0036】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、工程c)の機械的処理は、2時間未満、好ましくは1時間未満、最も好ましくは0.5時間未満の間行われる。
【0037】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、工程c)の混合物の温度は、機械的処理の間、約80℃未満に制御され保持される。添加された尿素とセルロース系繊維との間の反応があまりにも早く生じる恐れがあり、また、温度制御により角質化の影響を最小限にすることができるので、機械的処理の間、温度が高すぎないことが重要である。工程c)における機械的処理の間の温度は、好ましくは機械的処理に適したシステムである冷却システムを使用することによって制御され得る。
【0038】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、工程c)における機械的処理は、効率的な混合要素、例えば、櫂形混合機(shovel mixer)、ボールミル、シーブプレートプレス、コンパウンダー、ローラープレス、押出機、並びに混練及び粉砕機を備えた反応器又は機械の中で実施される。
【0039】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、工程c)における機械的処理は、機械的混合及び/又は剪断及び/又は摩砕を含み、同時に水の乾燥又は脱水が含まれる。従って、機械的処理工程c)においても、パルプを乾燥又は脱水することも可能である。従って、乾燥されるパルプは、乾燥した含有量が増加するので、その後の乾燥工程のエネルギー消費をより少なくすることができる。
【0040】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、工程d)の混合物の乾燥は、少なくとも70重量%の固形分まで、100℃未満、最も好ましくは90℃未満の温度で、特に好ましくは80℃未満、とりわけ特に好ましくは60℃未満の温度で実施される。乾燥中に、パルプから水が除去され、これは、工程e)における次の加熱処理で反応が効率的に起こるために必要である。工程d)における乾燥は、真空乾燥機又は流動床乾燥機中で実施され得る。
【0041】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、機械的処理は、工程c)に加えて、乾燥工程d)の間又はd)の後に、及び工程e)の前又はe)の間にも行われる。乾燥工程d)の後に機械的処理を行うと、パルプ中の乾燥した含有量が更に増加して、工程d)の乾燥を低減することができ、カルバメート反応が効率的であるのに十分な乾燥した含有量を有するパルプを製造することができる。
【0042】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、工程e)における熱処理の間に生じる反応は、約90℃〜約170℃、最も好ましくは約130℃〜150℃の範囲の高温で行われる。
【0043】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、工程e)における熱処理は、少なくとも0.5時間の間、好ましくは約1時間〜約3時間の間行われる。
【0044】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、工程e)において熱処理されるパルプの全固形分は、80重量%を超え、好ましくは90重量%を超え、更により好ましくは95重量%を超える。工程e)において熱処理されるパルプが十分に高い固形分を有することが重要である。熱処理中にあまり多くの水が存在すると、熱処理工程で生じるカルバメートを形成する反応の効率を悪くする。
【0045】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、反応工程中に形成されたNHは、好ましくは不活性ガス、例えばNによるフラッシュを用いて、反応チャンバから除去される。
【0046】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、工程e)で得られたセルロースカルバメートは、助剤、好ましくはアルカリ化剤、最も好ましくはアルカリ水酸化物、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)に溶解する。
【0047】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、セルロース骨格の重合度は、工程c)における尿素の添加の前、間又は後に、i)酸化剤、例えばHによる、酸化、ii)例えばNaOHを用いる、アルカリ水酸化物処理、及び/又はiii)酵素処理により、低減され及び/又は調整される。
【0048】
上述の方法に従って製造されたカルバメートは、溶解性が改善することが見出されており、このことは、溶液中に、より多量のカルバメートを溶解することが可能であることを意味する。乾燥パルプから製造されたカルバメートと比較して、より多くの量のカルバメートを更に希釈された水酸化ナトリウム溶液に溶解することさえ可能であることが判明している。更に、本発明によるカルバメートは、乾燥パルプから製造されたカルバメートと比較して低いDSレベルで可溶性である。また、本発明による未乾燥パルプから製造されたカルバメートの純度は、純粋であり、即ち、乾燥パルプから製造されたカルバメートと比較して、未反応尿素及び副生成物などの化学不純物の含有が少ない。
【0049】
本発明の第3の態様の好ましい実施形態によれば、添加剤は、金属酸化物、例えば酸化亜鉛である。ドープにおいて、CCAの溶液(4〜10重量%のCCA)は、希NaOH水溶液(NaOH濃度が5〜9重量%、及び、0.5〜1.5重量%の添加剤、例えばZnO等を含む又は含まない)とすることができ、このドープは、酸性水溶液中で沈殿させることにより、再生材料、例えば、繊維、フィルム、ビーズ、スポンジを製造するのに用いることができる。更に、再生されたCCA材料は、異なる最終用途、例えば、織物製造等で使用されてもよい。カルバメート基は切断されてもよく、そして純粋なセルロース再生製品は、再生CCA材料を希アルカリ条件下で、摂氏80℃を超える温度で処理することによって製造され得る。純粋なセルロース材料は、ビスコース及びリヨセル材料と化学的に類似している。従って、本発明の別の利点は、セルロースカルバメートから出発して、純粋なセルロース材料、即ち機能化されていないセルロース、又はカルバメート基を含むセルロース材料のいずれかを含む最終製品を製造することが、可能である。所望の製品特性及び用途に応じて、純粋なセルロース材料又はカルバメート化セルロース材料のいずれかを使用することが有利であり得る。
【0050】
従って、本発明は、セルロースが高温下で尿素で処理されるセルロースカルバメートを製造する方法を提供する。このプロセスは無溶媒で環境に優しいものであり、乾燥パルプの使用と比較して、未乾燥セルロースを使用することによる恩恵が生じる。50重量%未満の濃度を有する未乾燥セルロースパルプで出発し、次いで必要な化学物質(即ち、尿素及び助剤)を添加すると、高い均質性の混合物が得られる。均質性は、セルロースの結晶化度を低下させるように工程c)における機械的処理を選択することで更に改善することができ、セルロース繊維の結晶及び半結晶領域への化学物質の浸透を改善し、更に、反応効率が大幅に高くなり、そして製品の置換がより均一になる。置換の均一性を改善することにより、製品はより低い濃度のNaOHに可溶になり、その結果、凝固浴中の酸の使用量が少なくなるため、ドープ調製及び再生において節約ができる。
【0051】
反応効率が著しく向上するので、洗浄及び廃水処理工程の必要性が低減される。溶解前にセルロースカルバメートを洗浄する必要がない場合には、簡略化され、より環境上持続可能なプロセスが実施できる。洗浄工程が必要な場合には、以前のプロセスと比較して、より少量の未反応尿素が水に残ることは明らかであり、これは大きな利点である。カルバメートを製造した後の、洗浄の必要性がより少ないか又は不要であること、及び酸の必要性がより少ないこと、の両方は、持続可能なプロセスに寄与し、淡水に殆ど依存しなくなる。ほとんどの用途では、製品は洗浄工程なしでそのまま使用され得る。より均一な置換からもたらされる改善された製品品質は、特に、以下の溶解プロセスにおいて、例えば、以下の製造及び処理工程において重要な利点及び柔軟性を与える、溶液の改善された安定性という点で、明らかになる。
【0052】
本発明の利点は既に述べた通りである。
未乾燥セルロースは、乾燥セルロースの代わりのプロセスで使用することができ、セルロース乾式粉砕工程のみならず1乾燥工程を省略することができるので、全体的なエネルギーの節約になる。未乾燥繊維を使用した結果として、より均質な尿素/セルロース混合物が得られ、そしてそれは、カルバメート化反応の反応効率が大幅に向上し、及び製品の品質がより高くなる。これは、プロセス中の、より少ない廃棄物の生成、及び製品の、より良い品質(アルカリ溶解性及び溶液の安定性)として現れる。
【0053】
カルバメートプロセスでは、非常に時間がかかり、及びエネルギーを消費する工程、例えば熟成/エージング(40時間も)を省略することができるので、化学物質の必要性が低くなり、生成された副生成物の量が少なくなると、結果、ビスコースに比較して、廃水処理の必要性は低くなり、製造時間が短縮される。
【0054】
第1の態様による方法はまた、(同時に混合されていない場合)生成されたアンモニアガスを効果的に反応チャンバ/オーブンから逃がすように、オープン反応容器中で行うことができる。反応は、効果的な混合を反応と同時に行うことが可能であるLodige型反応器又は類似物で実施することができる。カルバメート反応自体に係わる方法は、オーブン内で、電子レンジ内で、反応器内で、行うことができ、そしてそれらの中で同時に混合することができる。
【0055】
先に述べたように、反応効率と製品品質は、乾燥前に機械的作業下で、未乾燥セルロースに尿素及び助剤を予備混合することにより、飛躍的に改善することが判明している。
【0056】
未乾燥セルロースの使用と乾燥前に化学混合が行われるという概念は、繊維内へのより良好な化学的拡散をもたらす。機械的作業及び予備混合は、押出機、混練機、圧縮機、シーブプレス、ロールミキサー、ボールミル、並びに、剪断及び混合が可能な装置で実施され得る。機械的作業は、混合物を均質化し、繊維を活性化し、繊維に化学物質の浸透を増加させ、重合度を低下させる。更に、機械的作業はまた、セルロースの結晶化度を低下させ、それによって、セルロースの非晶質部分を増加させる。化学物質は、結晶性部分と比較して、より容易に非晶質部分に浸透することが知られている。その結果、繊維への化学物質のより良好な分布が達成され、更に、置換の均一度に、より影響を与える。
【0057】
先に述べたように、助剤は、アルカリ化剤、例えば金属水酸化物(例えば、NaOH、Mg(OH))、又はアンモニア、過酸化水素又は酵素であってもよい。助剤は、尿素の前に、又は同時に、又は尿素の後に添加してもよい。助剤は、固体、又は液体、又はその両方の形態であってもよい。同時にいくつかの助剤を使用することも可能である。予備混合及び乾燥中にいくつかの工程で、助剤と尿素を添加することも可能である。尿素は、固体若しくは液体の形態で添加しても、又は液体助剤と一緒に混合してもよい。
【0058】
水の蒸発を含む乾燥工程は、混合及び機械的処理の後に続いて、反応器又は真空乾燥機又は更に固形分を増加させるための同様の装置で行うことができる。機械的混合は、乾燥と同時に用いることができる。乾燥は、例えば流動床乾燥機等で行うことができる。
【0059】
濃縮/乾燥工程の後、混合物の均質性を更に改善するために、比較的乾燥した混合物を、機械装置を用いて更に処理することができる。フィンランド特許第112795B号に従って機械的作業が始まり、未乾燥の代わりに乾燥セルロースが使用されるこの過程は、基本的に同じである。機械的処理は、繊維への化学物質の含浸が更に向上し、結晶化度を低下させることができるペレタイザープレスを含み得る。
【0060】
熱処理工程e)で発生するカルバメート反応を、オーブン、電子レンジ、又は反応器中で実施することができる。即ち、蒸気、電気及び放射エネルギーを、加熱に使用することができる。セルロース材料への熱の熱流を改善する混合を、同時に用いることができる。セルロース自体は熱伝導が非常に悪い材料であり、従って、加熱と同時に混合することは利点である。
【0061】
置換度、均質性及び重合度の観点から必要とされるセルロースカルバメートの製品の品質は、用途毎に異なる。例えばセルロースカルバメート溶液の低い透明度及び濾過性は、例えば、高靱性繊維と比較してソーセージケーシングに必要とされる。
【0062】
本発明の各態様の好ましい特徴は、必要な変更を加えて他の態様のそれぞれの場合と同様である。本明細書中で言及した先行技術文献は、法律で認められる最大限の範囲で組み込まれている。本発明は、添付の図面と共に以下の例に更に記載されているが、本発明を例示することが唯一の目的であり、決して本発明の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1】より少ない用量の尿素の使用で達成された、改善された効率を開示する図である。
【実施例】
【0064】
(例1)
乾燥パルプと未乾燥パルプとの間のカルバメートプロセスの違いを考察した。用いられた未乾燥パルプは約8%の濃度でパルプ粉砕機から直接取り出され、約35%の固形分にまで遠心分離された。その乾燥された試料を、次のように処理した。乾燥セルロースシートを一晩、水で懸濁し、次の日に、セルロースパルパーで砕解し(disintegrated)、遠心分離した。そのように処理されたパルプの固形分は41%であった。
【0065】
パルプ(375g、絶対乾燥)を反応器に加えた。Lodige DVT−7機械的流動床型反応器中で、セルロースの混合を行っているのと同時に、尿素及び過酸化水素を注意深く混合物に次々と加えた。混合を、約60分続けた。混合物の固形分を、尿素及び過酸化水素と共に(逆浸透圧法を用いた標準的な方法で精製された)追加のRO水を添加して25%に調整した。その後、混合しながら50℃〜60℃の温度で真空乾燥した。固形分が約75〜85%になるまで混合物を乾燥させた。実験のレシピ及びパラメーターを表1に示す。
【表1】
【0066】
混合後、試料を、オープントレイ上に置き、オーブンの中に入れた。オーブンに空気を吹き付け、生成されたアンモニアガスを効果的に除去した。温度は140℃であり、反応時間は4時間であった。反応後、試料を水に懸濁し、pHレベルを測定して6〜7.5の範囲にした。懸濁試料をブフナー漏斗で濾別し、熱い水道水/RO水で更に数回(3〜5回)洗浄し、最後にRO水で洗浄した。その後、洗浄した試料の窒素含有量(N含有量)を分析した。
【0067】
得られたN含有量に、即ち、乾燥パルプ又は未乾燥パルプで実施された反応間の置換度に、有意差があることが、表2に反映されている。
【0068】
置換度(DS:degree of substitution)は、セルロースの1つの無水ヒドログルコース単位に平均いくつの官能基がついているかを決定する。セルロースの無水ヒドログルコース単位は、最大DSが3であることを決定する3つのヒドロキシル基を含む。一般的に、NaOH可溶性セルロースカルバメートのDS値は、0.2〜0.3の範囲であることが、報告されている。
【0069】
反応効率は、次の方程式に従って、得られたN値から、DS値を最初に計算することにより算出される。
【数1】
【0070】
特定のDSレベルを達成するために必要なイソシアン酸の理論量は、以下の式に従って、セルロースカルバメートのDS値及びセルロースの量に基づいて計算することができる。
n(イソシアン酸)=DS*n(セルロースの無水グルコース単位)
【0071】
尿素はアンモニア及びイソシアン酸に完全に分解することを想定し、更に、全ての生成されたイソシアン酸が、セルロースのOH基と反応する(即ち、1モルの尿素は1モルのイソシアン酸を生成する)ことを想定すると、直接、最小尿素用量が得られる。
【0072】
尿素のイソシアン酸、更にはカルバメート基への変換効率は、反応した尿素量を供給された尿素用量で割ることにより計算される。
【0073】
未乾燥パルプを使用すると、反応効率は著しく増大する。また、反応効率は、尿素用量の減少と共に増加する。
【0074】
【表2】
【0075】
結果を図1にも示す。図1から、未乾燥パルプの反応効率は、乾燥パルプ試料と比較してはるかに優れていることが分かる。また、未乾燥パルプに低い尿素用量を用いる方が、乾燥パルプと比較してはるかに効率的であると結論付けることができる。
【0076】
(例2)
2つの異なる試料を調製した。1つは乾燥パルプ2a)を含み、もう1つは未乾燥パルプ2b)を含む。
【0077】
2a)コンパウンディング工程における次の機械的作業の前の濃度が約70重量%になるように、乾燥パルプ試料を、固体尿素(粒子径、約5mm)及び少量の過酸化水素水溶液と一緒に、機械的流動床バッチミキサー(Forberg−mixer)中で混合した。コンパウンディングは、フィンランド特許第112795B号に記載されているのと同じように行った。コンパウンディング工程の後、カルバメート反応が生じるように、混合物をオーブン(140℃)に4時間入れた。
【0078】
2b)混合している間、尿素を水溶液としてDruvathermミキサーにゆっくりと注ぎ、更にパルプと混合した。この時、未乾燥パルプは、20重量%の濃度を有していた。混合物を、穏和な条件(温度<80℃)で、約90重量%の濃度にまで乾燥した。その後、混合物の濃度が約70重量%になるように、2a)の手順と同様に、同じミキサー中の混合物に、少量の過酸化水素水溶液を加えた。その後、混合物は、試料2a)と同様に、コンパウンディング工程で機械的に処理され、続いて例2a)で上述した乾燥パルプ試料と同じ条件下で反応工程に進んだ。
【0079】
【表3】
【0080】
表3から、未乾燥パルプの使用には多くの利点があることが分かる。未乾燥パルプを使用する場合、より少量の尿素を使用することができるが、それでも所望のDS値を得ることが可能である。
【0081】
また、製造されたカルバメートの改善された品質は、次の溶解工程においても見ることができる。即ち、溶解されるセルロースカルバメートの量は、NaOH/ZnOの含有量がより低いにも関わらず高い。これは、溶液中のセルロースカルバメートの含有量が、より低い化学物質の用量で増加し得ることを意味し、このことは、プロセスの経済性に重要な効果をもたらす。
【0082】
更に、製造されたカルバメートの純度は、非常に高く、乾燥パルプ由来のカルバメートよりもはるかに高かった。この結果、製品は、それ自体が、更なる精製工程なしに多くの用途で使用され得る。
【0083】
本発明の上記の詳細な説明に鑑みて、当業者には他の修正及び変形が明らかになるであろう。しかし、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、そのような他の修正及び変形を行うことができることは明らかである。
図1
【国際調査報告】