【実施例】
【0090】
実施例1.コンポストサンプルから得た標的酵素活性の完全なオペロンコーディング
本実施例では、標的リパーゼDNA分子を分離、増幅、同定、単離、および再増幅するためにデュアルチャネルマイクロ流体システムをどのように適用することができるかを実証する。隣接するDNAを含む標的DNAは、元々の宿主からシーケンシングに利用できるようになる。その手順を
図5に概略的に示す。
【0091】
DNA抽出および初期PCR
堆積コンポスト(中心温度38℃)から得た混合サンプルを使用して初期DNAサンプルを回収した。他の文献[13]に記載のようにビーズビーティングを用いてDNAを5gのサンプルから抽出した。抽出されたDNAをまず標的リパーゼ遺伝子の存在について検査したところ、下記のPCRに十分な量のDNAを含有することがわかった。PCRは、プライマーLip−Fw: 5’ - CTG AAT GGG GGA ATA ATG ACA AGC C - 3’[配列番号1]及びLip−Re: 5’ - CTA TAC TCT TCT TTT AAT TCC TCA GC - 3’[配列番号2]を用い、約105bpのPCR産物を得た。PCR条件は94℃、62.1℃、72℃(15秒/15秒/90秒)のサイクルを合計40サイクル行った。
【0092】
液滴MDA/融合/ソーティング(物理的選択)
Pan et al.[14]に記載のように100μLのPhi29反応体積を得た。まだ反応混合物を低温で(最大+4℃)保持しつつ、phi29混合物を、8チャネルの使い捨て液滴発生器のカートリッジ(BioRad)にウェルに載せた。同じ手順を他の追加のウェルについても行い液滴カートリッジの全容量を使用した。その後、残りのチャネルに、液滴油(BioRad)を充填した。完全に充填した液滴発生器のカートリッジを液滴発生器(BioRad)に入れ、カートリッジの全ての反応コンパートメントにおいて完全な反応体積の液滴を形成した(502)。
【0093】
液滴の形成が完了した後、手動で全ての液滴を1.5mlのエッペンドルフ回収チューブに移し、その後増幅反応物を30℃で16時間Eppendorf Thermoshakerに入れた(504)。インキュベーション後、10分間温度を65℃に上昇させることにより反応を停止させた。その後、全体の反応体積(まだエッペンドルフチューブ内で別個の液滴の形態である)を液滴融合デバイス(504)に移し、このデバイス内で、2つの別個の流れを融合して合体させ、元のSampliPhi液滴よりそれぞれ10倍大きい融合液滴を作成した。
【0094】
流れを合体させることにより体積を増加した(流れ1:増幅が起こったSampliPhi液滴、流れ2:PCR検出のための全反応成分が存在するdUTP−PCR)。2つの流れを合体し関連PCR反応を行うことにより、所望の標的を含有する合体した液滴を監視可能にした。上述のように、流れ1は1nLのsampliPhi反応の個々の液滴から構成され、一方、9nLの液滴(流れ2)は以下から構成される混合物より構成された:537μLの水、220μLのPCRバッファ+Mg
++(x5)、110μLのdNTP/dUTPmix(2mM)、110μLの各プライマー(10pmol/μL)、110μLのBSA、1μLのSybrGreen(1:10.000)、22μLのDreamTaqポリメラーゼ(5U/μL)。
【0095】
dUTP−PCR増幅中におけるPCRの阻害を回避し、同時にその後のスクリーニングにおける徹底した検出ベースを確立すべく、MDA成分の適切な希釈を確実にするために10倍の体積の過剰量のdUTP−PCRを使用した。
【0096】
融合した液滴を1つのPCRチューブに回収し、標的の存在を検出するために一次スクリーニングについて記載したのと同じPCR条件に供した(506)。PCR終了後、10〜11nLの液滴を別個のマイクロ流体チャンバ内にアラインしたところ、正常に増幅された液滴が検出され、488nmのレーザービームで励起する際の525nmの蛍光シグナルの発光に基づいて選択的に分離した(507)。
【0097】
合計16個の液滴(19.836個中)が陽性であると検出され、一つのチャンバ内に全ての陽性液滴を組み合わせたマイクロチャネルソーティングカートリッジを使用して物理的に選択した。20μLの5mMトリスをマイクロチャネルソーティングカートリッジの回収コンパートメントに添加することにより、ソートされた液滴を手動で1.5mlのエッペンドルフチューブに移した。SDSの添加により液滴浸潤油を除去し、増幅産物をエタノール沈殿により精製した。精製産物を5μLのヌクレアーゼフリー水に再懸濁した。
【0098】
初期鋳型を含む5μL体積の溶出したdUTP−PCR産物を、ウラシルDNAグリコシラーゼ(UDG)キットAmpErase(登録商標)(Life Technologies)を用い、25μLの反応体積内で選択的分解に供し、初期鋳型のみを無傷のまま残した。その後、SampliPhi増幅を用いて混合物を再増幅したところ(508)、20μLの全反応体積における最終産物濃度が200ng/μLであった。
【0099】
所望のDNA標的分子の存在を確認するために一次スクリーニングと同じPCRを用い、プロモーター領域、シャイン・ダルガノ配列、および停止コドンを含む完全遺伝子を記述するために、遺伝子の5’および3’の両方における遺伝子およびDNAの配列を得るべくRGWを用いた(510および511)。
【0100】
実施例2:ゲノムのギャップ閉鎖
本実施例は、古典的なプライマー設計により、目的の領域を選択的に選択することによってNEEDLSの単一パスを使用して、如何に未完成のゲノム配列が「ギャップ閉鎖」することができるかについて説明する。この実施例では、Thermoanaerobacter italicus(CP001936J)のゲノム内に57のギャップの存在が示すペアエンドライブラリに対しギャップ閉鎖を実施した。本実施例では、ギャップが422bp〜5,201bpのサイズの範囲である。NEEDLSの単一パスの後に次世代シーケンシング(NGS)による再シーケンシングを行い、さもなくば未完成になってしまうゲノム内の全てのギャップを効率的に閉じる。所望の領域の増幅が行われているこれらの液滴を特異的に選択しシーケンシングすることによってギャップが閉鎖される。そうすることにより、選択的に標的とされた再シーケンシングが達成され、全てのギャップが閉鎖され完全な環状ゲノムを生成した。
【0101】
DNAの調製
(BG10特許)に記載のように2mLの嫌気下で完全増殖した細菌培養物を調製し、抽出をThermo Scientific Gene Jet DNA精製キットを用いて業者の説明通りに行った。溶出および抽出したDNAは、100μLの最終体積中に20ng/μLの濃度を有していた。
【0102】
MDA液滴の生成及び液滴の増幅
サンプルDNAを5x10
-4に希釈し、1μLを、アニーリング緩衝液(SampliPhi)においてランダムエキソ耐性ヘプタマーおよびエキソ耐性ヘキサマープライマーと混合し、BioRad MyCycler PCR機を用いて温度を94℃に3分間上昇させ、その後、5℃/分の速度で温度を20℃まで徐々に減少させることにより、プライマーを鋳型にアニーリングさせた。20℃の温度に達した混合物を氷に移した。実施例1に記載のように、Phi29反応バッファ、dNTP、水、及びPhi29ポリメラーゼを混合物に加えた(701)。
【0103】
液滴生成油を反応チューブに添加し、3000RPMで2分間ボルテックス処理することにより、液滴を生成した(Velp Scientifica)(702)。マイクロ反応チャンバ内の漏斗に通して全体積をポンピングすることによって、巨大な液滴を排除し、5nLより小さい液滴のみを増幅工程に継続させた。サイズにより排除した液滴は廃棄した(704)。
【0104】
サイズによる排除検査に合格した液滴を2時間30℃でインキュベートし、その後、温度を65℃に5分間上昇させることにより増幅プロセスを停止させた。
【0105】
プライマー設計
プライマーは、ギャップの5’または3’方向のいずれかで約100bpの位置を標的とするように手動で設計されている。
図6に示すように、5000bpよりも大きいギャップには、二組のプライマーを、一組のプライマーと一緒にギャップの各側に適用した。
【0106】
プライマー1−GAP−Fw:5’−GAAGGGTGACAGGATTGATAC[配列番号5]
プライマー1−GAP−Re:5’−CGGATTTCCTCCTTTCTATTCC[配列番号6]
プライマー2−GAP−Fw:5’−GCCTTGCAAATTCTACATTGACAG[配列番号7]
プライマー2−GAP−Re:5’-CCAAGAAAATCATGGGAGATAGTTC[配列番号8]
【0107】
液滴融合
ギャップが埋められたペアエンドゲノム配列により、それぞれ5〜6対の設計されたプライマー(各10pmol/μL)を含む10通りの組み合わせのdUTP反応混合物(#1〜#10)をインシリコで作成した。各組み合わせには、10〜12個のプライマーが含まれていた。プライマーの組み合わせは、別個の液体溶液内で保持し、連続的にアラインさせ、その後[15]に記載されるように液滴とPCR液体サイズを合体させることによりそれぞれのMDA液滴と組み合わせた(705)。得られた最終的な液滴サイズは、10〜20nLの範囲であった。その後、全ての合体した液滴を1つの反応チューブに回収し、以下に記載されるようにdUTP−PCR反応を開始した。
【0108】
dUTP−PCR
単一のチューブ内の全ての合体された液滴について、MyCyclerPCR装置(BioRad社)にて以下のサイクリングパラメータを用いる二段階PCRとしてPCR増幅を実施した:94℃(15秒)、94℃で15秒の変性および72℃で15秒の伸長から成るサイクルを25サイクル(706)。PCR増幅の後、測定および単離のために[15]に記載されるようなマイクロ流体デバイスを用いて50,087個の液滴を解析し、1,807個を選択的にソートした(707)。
【0109】
UDG処理
反応物にSDSを添加して最終濃度を10%(w/w)にすることにより液滴油を除去し、その後、酢酸アンモニウムを添加して最終濃度を2Mにした。溶液を5分間氷上に置き、その後4℃で10分間16.000Gで遠心分離することによって沈殿させた。2倍体積の7MグアニジンHCIを添加し、クリーンアップスピンカラム(GeneJet DNA抽出、Thermo Scientific)を使用して混合物をクリーンアップした。DNA抽出キットに含まれる洗浄バッファを用いて1回の洗浄手順を施した。その後、20μLの溶出したDNAを、業者の説明通りにUDG(Thermo Scientific)で処理し、10分間95℃で熱不活化することによって反応を停止させた。得られた産物を、遠心分離によってエタノール沈殿させ、その後DNAペレットを5μL(5mM)のトリスバッファに再懸濁した。
【0110】
前シーケンシング増幅およびゲノムアセンブリ
全体積が5μLの(UDG処理および沈殿した)DNA鋳型を、全体積が50μLの SampliPhi再増幅における鋳型として用い、合計1μgの増幅DNAを生成した(708)。合計体積をEurofins Genomic (Ebersberg、Germany)によってヌクレオチドシーケンシングし(710)、初期のギャップが埋められたゲノムと得られたGAPゲノムデータのアセンブリを、デフォルトパラメータでゲノムアセンブリするためのCLC Genomics Workbench version 6.0.4を用いて行った。最終結果により、ゲノムの完全アセンブリが示され、最終的な環状ゲノム配列が、合計2,451,061のヌクレオチドを有することがわかった。閉鎖GAP配列をGAPとして[配列番号9]に表す。
【0111】
実施例3:混合物(Staphylococcus)中の特定の亜集団の増幅
本実施例では、液滴ベースのSampliPhを使用してサンプル中の元の多様性を維持しながら、混合試料の標的亜集団から特異的にDNAを単離する方法を示す。この実施例では特異的なプライマーによりStaphylococciが標的とされる。これらのプライマーを用いて選択的に増幅された液滴を単離し、最後に、完全な16SrRNA保存配列、16Sと23SrRNAとの間の遺伝子間転写スペーサー(ITS)、および保存23SrRNA遺伝子領域にわたるPCRを分類に使用して高分解系系統解析を作成した。
【0112】
特異的なプライマー設計
Staphylococciの16SリボソームDNAを標的とするプライマーを、Primroseプライマー設計ソフトウェア[16]を用いて設計した。16S遺伝子の保存領域は、特異的プライマーStaph−Fw:5’- AGA CTG GGA TAA CTT CGG GA −3’[配列番号3]、とStaph−Re:5’- CGT CTT TCA CTT TTG AAC CAT GC -3’[配列番号4]により標的化し、76bpのPCR産物を生成した。
【0113】
サンプルの調製
ボランティアから得た感染が疑われる組織の綿棒サンプルを鋳型として用い、GeneJet Genomic DNA purification(Thermo Scientific)を用いてDNAを抽出した。標的DNA配列(Staphylococcus aureus)の存在を確認するために、予備PCRを用いた。10倍希釈系列を使用し、融解曲線特性と共にRT−PCR解析から得たCq値に基づいて量を確認した。Garcia−Armisen et al.[17]に記載のMPNを用いて、得られたPCR結果を推定標的量に変換した。各細菌標的が平均5.5コピーの16SrRNA遺伝子を有すると推定されることより、総量約8,300個の16SrRNA遺伝子コピーを再計算したところ、μLあたり1,709個の標的化ブドウ球菌であると計算された(701)。
【0114】
液滴の形成
1μLのDNA鋳型を含有する20μLのSampliPhi混合物を調製し、実施例1に記載したように液滴発生器に添加し、それぞれ1nLのSampliPhi Phi29反応混合物を有する液滴を約20,000滴生成した(502)。反応物を30℃で2時間インキュベートし(504)、続いて温度を+4℃に下げて反応を停止させた。
【0115】
液滴融合
最終増幅の直後に、RT混合物(SSO Advance Supermix、BioRad)を用いて、各液滴を9nLのRT−PCR混合物と合体させて10nLの反応容積を確立し、すべての必要なPCR反応成分を有するようにした。SSO Advance supermixを製造業者による説明通りに調製し、特異的プライマー(Staph−F[配列番号3]+Staph−R[配列番号4])を補充した(505)。
【0116】
合体した液滴(約10nl/液滴)の全回収物を5本のPCRチューブに分離し、各チューブに5,000滴に相当する約40μLの反応容量を含ませた。次に、PCR装置(BioRad Connect)内で、5本のPCRチューブのそれぞれにおいて、Staphylococcus aureus特異的プライマーを用いて特異的増幅を行った。ここで、このPCR機のサイクル条件は、(94℃、60℃、72℃)を30サイクル行い、各温度のインターバルを15秒間維持した(506)。増幅後、[18]に記載のように、蛍光活性化液滴選別法(FADS)を用いて液滴をうまく反応させるためにスクリーニングした(507)。解析された合計20,238個の液滴中のうち陽性反応の数は1,562であり、陽性反応(SybrGreen蛍光)がモニターされた全ての液滴を別個の反応チューブに回収した。
【0117】
クリーンアップおよび再増幅
ソートされたSampliPhi増幅液滴を、Yu et al.[19]によって記載されたスピンカラムDNA抽出手順を用いて抽出した。この手順により、クリーンアップ中に用いたシリカ膜のサイズ依存性結合効率により、主に、100bpより大きい産物が精製される結果になる。よって、主にサイズが100bpより大きいDNA産物がクリーンアップにより精製される。従って、PCR産物の略全部が増幅から除去される一方、Phi29増幅されたDNAは容易に回収された。全量を50μLのSampliPhi反応に添加することにより、溶出した10μLのDNA(PCR産物のサイズのためPCR産物が減少)を再増幅した(508)。最終産物は、220ng/μLの濃度を有すると測定され、これは総量11μgのDNAに対応する。最終産物の塩基配列を決定した。
【0118】
結果:実施例3
得られたDNAの配列の16SrRNAクローンライブラリー研究により、すべての16SrRNA遺伝子が同一であり、それらがブドウ球菌属に属するだろうことが判明したので、研究対象の感染は単一のブドウ球菌(Staphylococcus)株由来であったと結論付けた(
図8)[配列番号10]。さらに、この研究の間に得られた配列データの解析により、得られた配列の系統学的類似性が強化され、得られた配列の全てが100%同一であったので、マルチプレックス感染培養よりむしろクローン分布であることが示される。16SrRNAおよび23SrRNA遺伝子の両方が存在する組み合わせ解析の結果により、距離を持って関連する(distantly related)細菌が解析されたサンプル中に存在する場合であっても、系統分類の精度が高くなる。さらに、16SrRNAと23SrRNA遺伝子との間の高度に可変なITS領域も解析に含まれていたので、記載の実施例は、非常に緊密に関連する株であっても区別する情報も提供する。我々は、クローン起源の感染の発生を複数の株起源の感染とを区別するためにもこの情報を用いた。
【0119】
配列のアセンブリにより、生成PCR産物を液滴スクリーニング手順からほぼ完全に排除することが示された。小さなサイズのPCR産物はシリカベースの精製に影響を与えるが、おそらく十分に大きなサイズの鋳型がないために、Phi29反応が置換増幅を開始しないだろうことも驚くべきことである。Phi29増幅は、大きなDNA片を増幅する場合に効率的であるが、76bpのDNA分子の増幅が事実上不可能であることが知られている。
【0120】
実施例4:E.coliとHeLa DNAの混合物から特異的なE.coli遺伝子の増幅
本実施例は、非標的バックグラウンド(HeLa)DNAが元々豊富であるサンプルにおいて、液滴ベースのSampliPhiを用いて、特異的に標的化されたDNA配列(E.coli由来のThrA遺伝子)からDNAを単離する方法を示す。液滴生成チップを用いてPhi29(酵素)反応成分を有する液滴を生成し、フルオロカーボンキャリア油中に約800〜900plのモノ分散液滴を生成した。各液滴にPCR成分を加え、標的配列が存在する液滴をPCRで増幅した後、蛍光液滴として検出し、ソーティング用のマイクロ流体デバイスを用いて収集した。
【0121】
総量20μl(x1 Phi29反応バッファ、0.05mMのdNTP、1μl(即使用可能)のx1ランダムヘキサマープライマー(Thermo Scientific)、0.25μlのPhi29ポリメラーゼ(Enzymatics))に1μLのDNA鋳型を添加することによってPhi反応を設定した。次いで、マイクロ流体液滴デバイスを用いてPhi反応物をフルオロカーボン油で分離することにより、混合物を、約700〜800plの水性液滴アリコートに分注した。その後液滴を30℃で4時間インキュベートした。
【0122】
液滴形成およびその後のインキュベーションの後、PCR成分の混合物を合体させ各液滴にし、レポーター分子として使用される分子ビーコンを用いた最適化PCRシステムを用いて特異的検出を行った。この例では、特異的プライマー(MB8fw1およびMB8Re1)並びにこれらの2つの特異的プライマーの間のDNA配列にアニールするように設計された特異的分子ビーコン(MB8.9)により、E.colアスパルトキナーゼ(ThrA)を標的とした。特異的な増幅が観察されなかった液滴は、その後、マイクロ流体デバイスを用いて選択的に除去し、収集した液滴の内容物を再増幅し、シーケンシングを可能にするのに十分な量のDNAに達するようにした。
【0123】
特異的プライマーの設計
E.coliのthrA領域を標的とするプライマーおよびビーコンを手動で設計した。ビーコン折りたたみ構造は、mFoldソフトウェア[20]を用いて確認した。
MB8fw1:5’-GACGGTAGATTCGAGGTAATGC-3’[配列番号11]
MB8Re1:5’-TATGGCCGGCGTATTAGAAG-3’[配列番号12]
MB8.9:5’(HEX)−CGTTTGTGTTTTCGACCGGATCGATAACAGTAACG-3’(BHQ)[配列番号13]
【0124】
サンプルの調製
E.coli(Life Technologies)およびHeLa(Promega)由来のDNAを、1μg/μlのE.coliおよび4μg/μlのHelaの最終濃度で混合した。ゲノムサイズに基づく計算から、この混合物は約200コピーの標的遺伝子(ThrA)prを含む。μlおよびリアルタイムPCR測定により、標的の初期量が200コピー/pgであることが確認された。
【0125】
液滴の形成
1μLのDNAサンプルを含む15μLのPhi29混合物を調製し、実施例1に記載したように液滴発生器に添加した。この手順により、それぞれ約800〜900μLのPhi29反応混合物を有する液滴を約16,500滴を生成した。液滴生成は、液滴生成の前に系内で増幅が起こらないように4℃で実施した。次いで、反応物を30℃で4時間インキュベートした。
【0126】
液滴融合
最終増幅の直後に、合体用x接合チップを用いて各Phi29液滴を、(x1 PCRバッファ、0.1mMのdNTP、0.2mMのMg+、0.05UのGoTaq2、0.025pmol/μlのMB8−Fw1、0.025pmol/μlのMB8-Re1、0.018pmol/μlのMB8.9−BHQ−HEX)を含む4nLのPCR混合物と合体させた。合体した液滴(約5nl/液滴)の全回収物を、2試薬液滴チップ(ゲートサイズ:50μm)にポンプで注入し、平均サイズ80plの液滴を合計210,000個生成した。標準的なPCR装置(MyCycler、BioRad)において95℃(2分)+35サイクルの94℃(3秒)+56℃(15秒)の2段階増幅プロトコルを使用し、それぞれ合体させ再液滴で形成された液滴におけるPCR増幅を行った。標的鋳型が最初に増幅されたそれらの液滴は、特異的な標的が存在しない液滴と容易に区別できる強い蛍光シグナルを生成した。陽性液滴と陰性液滴との区別は、HEX蛍光発光源および検出フィルターを備えた標準蛍光顕微鏡(Nikon)を用いて行った。
【0127】
増幅された液滴は、ソーティングに使用する液滴生成チップ(100μm X−ゲート、2試薬液滴チップ)の検出/回収セクションにポンプで送り込まれ、空のチャネルに十分な吸引力を加えることで合計50個の液滴を回収し、陰性の液滴を廃棄しつつ陽性の液滴の単離を確実に行った。
【0128】
クリーンアップおよび再増幅
集めた液滴を、重力流によってマイクロ流体装置から回収し、200μlのPCRチューブ内の50μlのフルオロカーボン油に回収した。10μlの水をチューブに添加して、混合物の水相の単離に使用した。次いで、10μlのサンプルを回収し、10μlの全容量を鋳型として使用し、最初のPhi増幅(Enzymatics)で上述した条件と同一の条件を用いて、再増幅した。
【0129】
最終産物を20μlの総反応容量中で330ng/μLの濃度まで測定した。RT−PCR(SSO Advance、BioRad)および全DNA定量(Promega、BioFluorometer)を使用し富化を決定したところ、最終量は3160標的コピー/pgであり、これは標的増加量が79倍であることに対応する。
【0130】
増幅された標的化塩基配列(97bp):GACGGTAGATTCGAGGTAATGCCCCACTGCCAGCAGTTTTTCGACCGGATCGATAACAGTAACGTTGTGACCGCGCGCTTCTAATACGCCGGCCATA[配列番号14]
【0131】
富化された産物から次世代シーケンシング(Illumina、150bpペアエンド末端ライブラリー)が生成され、結果は12.258bpで、x4からx63までの範囲をカバーしていることを示した。最も高いカバレッジは、標的配列(増幅および標的化ヌクレオチド配列、上記参照)に位置し、最も低いカバレッジは、アセンブリの最も遠い5’末端であった。得られた配列は、アセンブリの全範囲にわたって参照ゲノム(受託番CP011324)と100%アラインした。
【0132】
参考文献
1. Sharma, S., et al., Droplet-based microfluidics. Methods in Molecular Biology, 2013. 949: p. 207-30.
2. Hindson, B.J., et al., High-throughput droplet digital PCR system for absolute quantitation of DNA copy number. Anal Chem, 2011. 83(22): p. 8604-10.
3. Sambrook, J. and D.W. Russell, Molecular Cloning a laboratory manual2001: Cold Spring Harbor Laboratory Press.
4. Walter, N.G., Single molecule tools: fluorescence based approaches, part A. Preface. Methods in Enzymology, 2010. 472: p. xxi-xxii.
5. Kintses, B., et al., Microfluidic droplets: new integrated workflows for biological experiments. Current Opinion in Chemical Biology, 2010. 14(5): p. 548-55.
6. Rinke, C., et al., Obtaining genomes from uncultivated environmental microorganisms using FACS-based single-cell genomics. Nat. Protocols, 2014. 9(5): p. 1038-1048.
7. Raghunathan, A., et al., Genomic DNA amplification from a single bacterium. Applied and Environmental Microbiology, 2005. 71(6): p. 3342-3347.
8. Day, P., Manz, A., Zhang, Y., Microdroplet Technology: Principles and Emerging Applications in Biology and Chemistry. Integrated analytical systems, ed. R.A. Potyrailo2012.
9. Longo, M.C., M.S. Berninger, and J.L. Hartley, Use of uracil DNA glycosylase to control carry-over contamination in polymerase chain reactions. Gene, 1990. 93(1): p. 125-8.
10. Prodelalova, J., et al., Isolation of genomic DNA using magnetic cobalt ferrite and silica particles. Journal of Chromatography A, 2004. 1056(1-2): p. 43-48.
11. Kilstrup, M. and K.N. Kristiansen, Rapid genome walking: a simplified oligo-cassette mediated polymerase chain reaction using a single genome-specific primer. Nucleic Acids Res, 2000. 28(11): p. e55.
12. Liu, L., et al., Comparison of next-generation sequencing systems. J Biomed Biotechnol, 2012. 2012: p. 251364.
13. Kvist, T., et al., Diversity of thermophilic and non-thermophilic crenarchaeota at 80 degrees C. FEMS Microbiol.Lett., 2005. 244(1): p. 61-68.
14. Pan, X., et al., A procedure for highly specific, sensitive, and unbiased whole-genome amplification. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2008. 105(40): p. 15499-15504.
15. Brouzes, E., et al., Droplet microfluidic technology for single-cell high-throughput screening. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2009. 106(34): p. 14195-14200.
16. Ashelford, K.E., A.J. Weightman, and J.C. Fry, PRIMROSE: a computer program for generating and estimating the phylogenetic range of 16S rRNA oligonucleotide probes and primers in conjunction with the RDP-II database. Nucleic Acids Res., 2002. 30(15): p. 3481-3489.
17. Garcia-Armisen, T. and P. Servais, Enumeration of viable E. coli in rivers and wastewaters by fluorescent in situ hybridization. J Microbiol.Methods, 2004. 58(2): p. 269-279.
18. Baret, J.C., et al., Fluorescence-activated droplet sorting (FADS): efficient microfluidic cell sorting based on enzymatic activity. Lab Chip, 2009. 9(13): p. 1850-8.
19. Yu, Z. and W. Mohn, Killing two birds with one stone: simultaneous extraction of DNA and RNA from activated sludge biomass Canadian Journal of Microbiology, 1999. 45(3): p. 269-272.