(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
本発明は、新規なアデノ随伴ウイルスベクター、および上記ベクターを含有するリソソーム蓄積症の処置用(特に、ムコ多糖症IIIB型の処置用)薬学的組成物を提供する。
α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列に結合されているCAGプロモーター(配列番号4)を含んでいる、組換えAAV9ベクター。
上記α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列は、配列番号2に対して80%以上の配列同一性を有している、請求項1に記載の組換えAAV9ベクター。
上記α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列は、配列番号3に対して85%以上の配列同一性を有している、請求項1に記載のAAV9ベクター。
上記α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列は、配列番号2の配列である、請求項1または2に記載の組換えAAV9ベクター。
上記α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列は、配列番号3の配列である、請求項1または3に記載の組換えAAV9ベクター。
上記α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列は、配列番号19の配列である、請求項1または2に記載のAAV9ベクター。
上記α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列は、配列番号22の配列である、請求項1または2に記載のAAV9ベクター。
α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列であって、配列番号2に対して80%以上の配列同一性を有している配列を含んでいる、プラスミド。
上記プラスミドは、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列(配列番号3)を含んでいる、pAAV−CAG−cohNaglu(アクセッション番号:DSM26626)である、請求項8に記載のプラスミド。
上記プラスミドは、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列(配列番号2)を含んでいる、pAAV−CAG−hNaglu(アクセッション番号:DSM28568)である、請求項8に記載のプラスミド。
上記プラスミドは、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列(配列番号19)を含んでいる、pAAV−CAG−cohNaglu−version2(アクセッション番号:DSM32042)である、請求項8に記載のプラスミド。
上記プラスミドは、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列(配列番号22)を含んでいる、pAAV−CAG−cohNaglu−version3(アクセッション番号:DSM32043)である、請求項8に記載のプラスミド。
請求項1〜7のいずれか1項に記載の組換えAAV9ベクター、または請求項8〜12のいずれか1項に記載のプラスミドを、治療上効果的な量含んでいる、薬学的組成物。
身体中のα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性を上昇させるための、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組換えAAV9ベクターまたは請求項8〜12のいずれか1項に記載のプラスミド。
ムコ多糖症、好ましくはムコ多糖症IIIB型の処置のための、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組換えAAV9ベクターまたは請求項8〜12のいずれか1項に記載のプラスミド。
i)第1のAAV末端反復と第2のAAV末端反復との間に挿入されている所定のタンパク質をコードしている配列、および当該所定のタンパク質をコードしている配列に対して作動可能に連結されているCAGプロモーターを含んでいる、第1のベクター;血清型9のAAV rep遺伝子およびAAV cap遺伝子を含んでいる、第2のベクター;ならびに、アデノウイルスヘルパー機能遺伝子を含んでいる、第3のベクターを用意する工程、
ii)工程i)のベクターを、コンピテントセルに共にトランスフェクションする工程、
iii)工程ii)のトランスフェクションされた細胞を培養する工程、および
iv)工程iii)の培地から、発現しているベクターを精製する工程
を含む、請求項1に規定されているベクターの、製造方法。
α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列であって、配列番号2に対して80%以上の配列同一性を有している配列を含んでいる、単離細胞。
【背景技術】
【0002】
リソソームは、50種類以上の加水分解酵素を含んでいる、動物細胞の細胞質に見られる細胞内小器官である。上記加水分解酵素は、使い古した細胞の構成要素の再利用中、または、ウイルスもしくは細菌の貪食後に、生体分子を破壊する。上記細胞内小器官は、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、グリコシダーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、ホスファターゼおよびスルファターゼを含む、いくつかの種類の加水分解酵素を含んでいる。全ての酵素は、酸性の加水分解酵素である。
【0003】
リソソーム蓄積症(LSD)は、1種類以上のリソソーム酵素に影響を及ぼす、遺伝的欠陥によって引き起こされる。これらの遺伝病は、一般的に、リソソーム中に存在する特定の酵素活性における欠陥に起因する。より少ない程度ではあるが、これらの疾患は、リソソームでの生合成に関係しているタンパク質における欠陥が原因であることもある。
【0004】
LSDは、個人としては珍しい。しかし群としては、これらの障害は、一般集団において比較的多くみられる。LSDの総罹患率は、生児出生の約5000人に1人である(Meikle P, et al., JAMA 1999;281:249-254を参照)。しかし、一般集団の中でもいくつかの集団は、特に高い発生率でLSDに罹患する。例えば、中央ユダヤおよび東ヨーロッパ(アシュケナージ)の個人の子孫において、ゴーシュ病およびテイ=サックス病の罹患率は、それぞれ、出生児の600人に1人、および出生児の3900人に1人である。
【0005】
ムコ多糖症III型(MPSIII)(総称してサンフィリッポ症候群として知られている)は、グリコサミノグリカン(GAG)ヘパラン硫酸(HS)の段階的な分解に関連している酵素の1つの欠陥によって引き起こされ、グリコサミノグリカンヘパラン硫酸の異常な蓄積をもたらす、LSDである。MPSIIIは、酵素の欠陥に応じて、4種類のサブタイプに分類される。α−N−アセチルグルコサミニダーゼの酵素活性の損失は、サブタイプIIIBを引き起こす。結果として生じる疾患は、CNSの小児期発症進行性ニューロパシーとして、臨床的に特徴づけられる。臨床経過は一般的に、3つの段階に分けられる。上記疾患の第一の段階は、出生後最初の数か月に及び無症状期間の後、精神発達の遅れが明らかになる。その後、上記疾患の第二の段階の間、重篤な行動障害および進行性の知能衰退が続く。最後に、重度の認知症の発症と共に、行動障害は緩やかに消失して全運動機能が衰え始め、次第に嚥下障害、歩行の完全な喪失、および錘体路障害という結果に陥る。神経学的症状に加えて、MPSIIIBの患者は、非神経学的な変化にも苛まれる。上記変化には、耳、鼻、咽喉および胸部の再発性の感染症、頻繁な下痢および頻繁な便秘、移動性を冒す進行性の関節の退化および骨格の異常、ならびに肝腫脹および脾腫が含まれる(Cleary and Wraith, Arch Dis Child. 1993;69 (3):403-6;Neufeld and Muenzer, “The Mucopolysaccharidoses” in Scriver C, et al., Eds., “The metabolic and molecular basis of inherited disease”, McGraw-Hill Publishing Co., New York, NY, US, 2001, pp. 3421-3452, van de Kamp et al., Clin Genet. 1981;20(2):152-60;Moog et al, Am J Med Genet C Semin Med Genet. 2007;145C(3):293-301を参照)。通常、患者は、20代の末から30代の初めにかけて死亡する(Neufeld and Muenzer, supraを参照)。より遅い発症およびより長い生存期間を示す、上記疾患のより緩やかに進行する病型(減衰型の表現型として知られている)が、MPSIIIBの患者の一部集合において記載されている(Moog et al., supraおよびValstar et al., Ann Neurol. 2010;68(6):876-87を参照)。
【0006】
現在のところ、MPSIIIBに対する利用可能な処置は存在しない。したがって、上記疾患の制御は対処的であり、患者およびその家族の生活の質を改善することを目的としている。特に重要なことに、これらの症状は、CNSの変性から生じる。例えば、断続的に上昇している頭蓋内圧は、行動障害の認められている原因であり、MPSにおいて珍しいことではない(Muenzer et al., Genet Med. 2006;8(8):465-73を参照)。ムコ多糖体の沈着を原因とする髄膜の肥大は、脳脊髄液(CSF)圧力の上昇の潜在的な原因かもしれない。したがって、行動の変質が従来の薬物療法では手に負えない場合、圧力を緩和するため、脳脊髄液シャントの挿入が検討される。脳脊髄シャントを挿入したサンフィリッポ患者6名において、神経症状が有意に改善した(Robertson et al., Eur J Pediatr. 1998;157(8):653-5を参照)。一方で、メラトニンの投与は、上記疾患に特徴的な睡眠障害のための、完全に効果的ではないものの、最善の処置であると考えられる(Fraser et al., Arch Dis Child. 2005;90(12):1239-42を参照)。体性異常のための特定の処置もまた存在せず、緩和的治療のみが個別の症状にそれぞれ適用されうる。
【0007】
MPSIIIBに対する新たな治療方法が試験されており、成功の度合いはまちまちである。基質抑制療法(SDT)は、GAGの合成率を減らすことを目的としているため、なんらかの剰余の酵素活性が残る場合であっても、GAGの過剰な蓄積を妨げるか、または少なくとも蓄積の速度を減速させる。ゲニステイン(大豆のイソフラボン)は、上皮成長因子受容体(EGFR)のキナーゼの活性を低下させることにより、HSの産生の阻害剤として働くことが示唆されている(Jakobkiewicz-Banecka et al., J Biomed Sci. 2009;16:26, Piotrowska et al., Eur J Hum Genet. 2006;14(7):846-52を参照)。最近の研究によると、種々のムコ多糖症(I型、II型、III−A型およびIII−B型)に罹患している患者の繊維芽細胞において、ゲニステインは、GAGの合成を阻害することが示されている(Piotrowska et al., supraを参照)。MPSIIIB疾患マウスモデルへの、短期間および長期間のゲニステインの経口投与の結果、蓄積の減少、および運動スキル試験におけるよりよい結果が得られた(Malinowska et al., Mol Genet Metab. 2009;98(3):235-42, Malinowska et al., PLoS One. 2010;5(12):e14192を参照)。静脈内投与の場合、ゲニステインは血液脳関門(BBB)を通過することができ、CNSの異常を処置することを可能にすると予想される。この考えを支持するように、ゲニステインが豊富な大豆抽出物を、MPSIIIA患者5名およびMPSIIIB患者5名に、12か月間投与したオープンラベルパイロット研究の結果、体性パラメーターおよび神経パラメーターの両方が、有意に改善された(Piotrowska et al., Current Therapeutic Research. 2008;69(2):166-179を参照)。しかし、その後の研究によると、ゲニステインで12か月間処置したMPSIIIA患者、MPSIIIB患者またはMPSIIIC患者の、障害の度合いまたは行動のスコアのいずれにおいても、改善は示されなかった(Delgadillo et al., J Inherit Metab Dis. 2011;34(5):1039-44, 研究番号:NTR #1826(The Netherlands National Trial Registerに登録)および de Ruijter et al., Ann Neurol. 2012;71(1):110-20を参照)。他の分子であるローダミンBもまた、臨床前試験においてGAGの蓄積を減少させることに効果的であることが証明されており、ゲニステインで観察された効果と同等の効果を有していた(Hendriksz et al., “Guidelines for the investigation and Management of Mucopolysaccharidosis type III”, 2012を参照。www.mpssociety.co.uk.において入手可能)。ローダミンBは、糖の前駆体形成を阻害すること、および/または糖転移酵素活性を阻害することによって、GAG鎖の合成を抑制すると考えられる(Roberts et al., Mol Genet Metab. 2007;92(1-2):115-21を参照)。
【0008】
正常な細胞は、多量のマンノース−6−リン酸(M6P)で標識されたリソソーム酵素を分泌する。その後、上記リソソーム酵素は、細胞膜上のM6Pの受容体を通じて、他の細胞に取り込まれることができる。この事実により、欠如している酵素の正しい型を注入することによって、可溶性の加水分解酵素の欠陥により引き起こされるLSDを処置する可能性が開かれる。酵素補充療法(ERT)は、未だサンフィリッポBの患者に利用できないが、3月齢のMPSIIIBマウスに対する組換えα−N−アセチルグルコサミニダーゼの静脈内投与により、上記組換え酵素が、いくつかの臓器(主に肝臓)へと分配されたことが示された。脳においては僅かな量の酵素しか検出されなかった。このことは、外部から与えられたタンパク質の脳実質への進入を制限する、BBBの存在による(Yu et al., Mol Genet Metab. 2000;71(4):573-80およびHendriksz et al, supraを参照)。MPSIIIBの患者における神経疾患の処置のために、ERT製品に関する開発初期段階のプログラムが存在する。HGT−3000プログラム(Shire)は、ERTに基づいた組換え酵素の髄内送達であり、現在では臨床前段階にある。CNSに対するERTの直接的な送達により、MPSIIIBマウスにおける神経症状が減少し、現在ではMPSIIIA患者において試験されている(Hemsley K, et al., Genes Brain Behav. 2008;53(2):161-8;Savas P, et al., Mol Genet Metab. 2004;82:273-285;www.clinicaltrials.gov.中のNCT01155778およびCT01299727を参照)。しかし、上記治療が必要とする、永久髄内送達デバイスの埋入は、実質的なリスクおよび欠点を伴っており、上記治療そのものが、患者1人当たり、または1年当たりで、非常に高い経済的コストを有している。
【0009】
骨髄由来幹細胞(骨髄移植、BMT)を用いる造血幹細胞移植(HSCT)は、他のMPSの患者における、体性異常および神経異常の両方の処置において、効果的であることが証明されている(Peters et al., Blood 1996;87(11):4894-902;Peters and Steward, Bone Marrow Transplant 2003;31(4):229-39およびYamada et al., Bone Marrow Transplant 1998;21(6):629-34を参照)。ドナー由来の骨髄性細胞は、BBBを通過することができ、脳実質に入ることができ、欠如しているリソソーム酵素を分泌するミクログリア細胞へと分化することができる。その後、上記リソソーム酵素は、周囲の細胞に取り込まれ、脳内のGAGの蓄積を治療した(Krivit et al., Cell Transplant. 1995;4(4):385-92を参照)。しかし、BMTを施されたサンフィリッポA患者またはサンフィリッポB患者においては、明白な利点が観察されていない(Hoogerbrugge et al., Lancet 1995;345(8962):1398-402;Vellodi et al., J Inherit Metab Dis. 1992;15(6):911-8;Guengoer and Tuncbilek, Turk J Pediatr. 1995;37(2):157-63;Sivakumur and Wraith, J Inherit Metab Dis. 1999;22(7):849-50およびLange et al., Arq Neuropsiquiatr. 2006;64(1):1-4を参照)。BMTが上手く行かない主な理由は、初期疾患の急速な進行に比較して、造血細胞の前駆体によるミクログリアの集団の置換ペースが遅いことであろう(Rovelli, Bone Marrow Transplant 2008;41Suppl2:S87-9を参照)。したがって現在のところ、BMTを用いるHSCTは、MPSIIIの患者用の処置の選択肢として検討されていない(Boelens et al., Pediatr Clin North Am. 2010;57(1):123-145を参照)。臍帯血由来幹細胞を用いるHSCTは、MPSIIIBマウスにおいて、認識に関する結果を改善したが、細胞の投与が繰り返して必要であった(Willing et al., Cell Transplantation 2013;epub ahead of printを参照)。最近では、このアプローチは、MPSIIIAまたはMPSIIIBの子供数名に移植するために、使用されている。しかし、CNSを変質から保護する結果となるかどうかは、未だ不確かである(de Ruijter et al., Curr Pharm Biotechnol. 2011;12(6):923-30を参照)。
【0010】
MPSIII(特にMPSIIIB)のための、現在の治療の選択肢の制限を考えると、代替アプローチが必要とされる。in vivo遺伝子治療は、MPSIIIBおよび他の遺伝病のための、生涯にわたる有利な効果を期待できる一時の治療の可能性を提供する。種々の投与経路と組み合された種々のウイルスベクターの使用に基づき、いくつかの遺伝子治療のアプローチが、MPSIIIB疾患の動物モデルにおいて試験されてきた。
【0011】
ヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼ遺伝子をコードしているレンチウイルスベクターを、若いMPSIIIBマウスに対して静脈内投与した結果、肝臓、脾臓、肺、および心臓において、導入遺伝子は低いレベルでしか発現しなかった。上記投与により、これらの組織において、GAGの蓄積は減少したが、GAGの蓄積は正常化されなかった(Di Natale et al., Biochem J. 2005;388(2):639-46を参照)。レンチウイルスベクターの治療上の潜在能力はまた、静脈内投与を介した、脳実質に対するベクターの直接的な送達によって試験されている(Di Domenico et al., Am J Med Genet A. 2009;149A(6):1209-18を参照)。1箇所の脳の部位に投与されたMPSIIIBマウスは、処置後6ヶ月までにα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性の上昇を示したが、部分的にしかリソソーム蓄積の異常は治療されなかった。
【0012】
特に、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを媒介とする遺伝子の移入が、多くのin vivo遺伝子治療の応用のため最適なアプローチとして、急速に浮上している。上記ベクターの、形質導入の効率の高さ、および病原性がないことが原因である。AAVベクターは、分裂終了細胞を形質導入することができる。いくつかの臨床前試験および臨床試験によると、種々の疾患のための治療用導入遺伝子の持続的な発現を、効果的に促進するための、AAVベクターを媒介とする遺伝子の移入の潜在能力が実証された(Bainbridge et al., N Engl J Med. 2008;358(21):2231-9;Hauswirth et al., Hum Gene Ther. 2008;19(10):979-90;Maguire et al., N Engl J Med. 2008;358(21):2240-8;Niemeyer et al., Blood 2009;113(4):797-806;Rivera et al., Blood 2005;105(4):1424-30;Nathawani et al., N Engl J Med. 2011;365(25):2357-65およびBuchlis et al., Blood 2012;119(13):3038-41を参照)。
【0013】
ヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼをコードしている血清型2のAAVベクターを、MPSIIIBマウスの脳実質中の1箇所に対して送達した場合、α−N−アセチルグルコサミニダーゼの発現および活性は注入箇所に制限され、部分的にしか疾患の表現型は改善されなかった(Fu et al., Mol Ther. 2002;5(1):42-9;Cressant et al., J Neurosci. 2004;24(45):10229-39を参照)。BBBを通り抜けるためにマンニトールにより前処理をした後、MPSIIIBマウス対して静脈内送達されたAAV2ベクターによって、生存期間が有意に延長され、行動の動きは改善され、脳のリソソーム異常は減少した。しかし、部分的にしか体性疾患は治療されなかった(McCarty et al., Gene Ther. 2009;16(11):1340-52を参照)。一方で、槽内注入による脳脊髄液(CSF)に対するAAV2ベクターの一回投与により、MPSIIIBマウスの脳において、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性が回復し、GAGが減少した。しかし体性組織においては、検出可能なα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性が観察されなかった(Fu et al., J Gene Med. 2010;12(7):624-33を参照)。AAV2の槽内送達および静脈内送達を含む併用療法により、CNSにおける有意に長期間にわたる治療効果、および部分的な身体の治療が実証されている(Fu et al., Gene Ther. 2007;14(14):1065-77を参照)。
【0014】
他の研究には、実質内投与後の血清型5のAAVベクターによって示される、神経細胞に対する高い親和性を利用しているものがある。しかし、上記ベクターは、脳実質における分布が狭く、このアプローチは複数の注入を必要とする。骨髄移植と組み合わせられた、MPSIIIBマウス新生児の脳の複数箇所に対するAAV5ベクターの送達により、血清型2のベクターによって得られた効果と同様の、治療効果が示された(Heldermon et al., Mol Ther. 2010;18(5):873-80を参照)。脳のサイズがより大きい動物モデルにおいて、MPSIIIBイヌの脳の相異なる4箇所に対するAAV5ベクターの定位固定投与により、活性型α−N−アセチルグルコサミニダーゼが、脳の広範な部位において検出された。しかし、前端領域および後端領域の多くにおいて(特に小脳において)は、酵素活性は依然として低いか、検出できなかった(Ellinwood et al., Mol Ther. 2011;19(2):251-9を参照)。処置したMPSIIIBイヌにおいて、リソソームの異常は改善されたが、完全には治療されなかった。これは、上記アプローチにより達成された酵素活性のレベルが、GAGの蓄積に対処するには不充分であったことを示している。このような部分的でしかない効果にもかかわらず、最近では、上記アプローチに基づいた臨床試験が開始されている(ISRCTN registerのISRCTN19853672を参照)。脳が大きくなるほど、実質内投与で臓器全体をカバーすることが難しくなり、ヒトに対する送達には数箇所におけるベクターの投与が必要となる。このため、送達は技術的な課題であり、特定の外科的処置の発展が必要である(Souweidane et al., J Neurosurg Pediatr. 2010;6(2):115-122を参照)。
【0015】
今までのところ、MPSIIIBの処置のために、血清型9のAAVベクターを使用する研究は、1件しか報告されていない。このアプローチは、AAV9ベクターが全身投与された場合に、CNSを形質導入する能力を利用する(Foust et al., Nat Biotechnol. 2009;27(1):59-65およびDuque, et al., Mol Ther. 2009;17(7):1187-1196を参照)。MPSIIIBマウスに対するAAV9−α−N−アセチルグルコサミニダーゼベクターの静脈内送達により、CNSおよび体性臓器においてリソソーム蓄積異常が治療され、行動の動きが改善され、生存期間が延長される結果となった(Fu et al., Mol Ther. 2011;19(6):1025-33を参照)。しかし、この提案されている一連の処置は、いくつかの欠点を有している。第一に、利用されたCMVプロモーターは、機能しなかったことが報告された(Loeser et al., J Virol. 1998 Jan;72(1):180-90を参照)。第二に、治療効果は、非常に高いベクターの投与量(1×10
13vg/kg以上)において達成された。このような高い投与量の使用は、製造上および安全上の観点から、臨床への橋渡しに対する課題であると推測される。
【0016】
上述したいずれのアプローチも、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性を完全には回復していないか、CNSおよび体性組織における細胞質内の異物を完全には根絶していないか、または、MPSIIIBの全ての臨床症状を治療していない。したがって、より優れた効果および安全性を有している、MPSIIIBを処置するための新規のアプローチが必要とされている。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】ヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼをコードしているプラスミド(pAAV−CAG−hNaglu)の流体力学的送達。2月齢のMPSIIIBマウスに、50μgの上記プラスミド(pAAV−CAG−hNaglu)を、流体力学的に注入した。プラスミドを投与してから1週間後に測定された、(A)肝臓および(B)血清におけるα−N−アセチルグルコサミニダーゼ(NAGLU)活性を、棒グラフは表している。生理食塩水を注入した野生種マウスのNAGLU活性を100%とした。値は、一群当たり3、4匹のマウスの平均±標準誤差である。***:野生種に対してP<0.001。
【
図2】ヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼをコードしているAAV9ベクター(AAV9−CAG−hNaglu)の、静脈内(IV)送達。野生種(健康な)マウス、未処置のMPSIIIBマウス、および5×10
11vgのAAV9−CAG−hNagluのIV注入により処置したMPSIIIBマウスの、(A)肝臓および(B)血清におけるα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性。(C)体性臓器におけるグリコサミノグリカン(GAG)の定量化。値は、一群当たり5〜8匹のマウスの平均±標準誤差である。$$$:野生種に対してP<0.001、**:未処置のMPSIIIBに対してP<0.01、***:未処置のMPSIIIBに対してP<0.001、nd:未検出。
【
図3】ヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼをコードしているAAV9ベクター(AAV9−CAG−hNaglu)の静脈内送達。(A)野生種(健康な)マウス、未処置のMPSIIIBマウス、および5×10
11vgのAAV9−CAG−hNagluのIV注入により処置したMPSIIIBマウスの、脳の種々の部位(I〜IV)におけるα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性。(B)脳の同じ部位におけるグリコサミノグリカン(GAG)の定量化。値は、一群当たり5〜8匹のマウスの平均±標準誤差である。***:未処置のMPSIIIBに対してP<0.001、nd:未検出。
【
図4】最適化ヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼをコードしているAAV9ベクター(AAV9−CAG−cohNaglu)の、静脈内送達。野生種(健康な)マウス、未処置のMPSIIIBマウス、および5×10
11vgのAAV9−CAG−cohNagluのIV注入により処置したMPSIIIBマウスの、(A)肝臓および(B)血清におけるα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性。(B)体性臓器におけるグリコサミノグリカン(GAG)の定量化。値は、一群当たり5〜8匹のマウスの平均±標準誤差である。$$$:野生種に対してP<0.001、**:未処置のMPSIIIBに対してP<0.01、***:未処置のMPSIIIBに対してP<0.001、nd:未検出。
【
図5】最適化ヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼをコードしているAAV9ベクター(AAV9−CAG−cohNaglu)の静脈内送達。(A)野生種(健康な)マウス、未処置のMPSIIIBマウス、および5×10
11vgのAAV9−CAG−cohNagluのIV注入により処置したMPSIIIBマウスの、脳の種々の部位(I〜IV)におけるα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性。(B)脳の同じ部位におけるグリコサミノグリカン(GAG)の定量化。値は、一群当たり5〜8匹のマウスの平均±標準誤差である。***:未処置のMPSIIIBに対してP<0.001、nd:未検出。
【
図6】ヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼをコードしているAAV9ベクター(AAV9−CAG−hNaglu)の槽内(IC)送達。(A)野生種(健康な)マウス、未処置のMPSIIIBマウス、および9.3×10
9vgのAAV9−CAG−hNagluの槽内注入により処置したMPSIIIBマウスの、脳の種々の部位(I〜IV)におけるα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性。(B)脳の同じ部位におけるグリコサミノグリカン(GAG)の定量化。値は、一群当たり5〜8匹のマウスの平均±標準誤差である。***:未処置のMPSIIIBに対してP<0.001、nd:未検出。
【
図7】ヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼをコードしているAAV9ベクター(AAV9−CAG−hNaglu)の槽内送達。(A)野生種(健康な)マウス、および未処置のMPSIIIBマウス、および9.3×10
9vgのAAV9−CAG−hNagluの槽内注入により処置したMPSIIIBマウスの、肝臓におけるα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性。(B)体性臓器におけるグリコサミノグリカン(GAG)の定量化。値は、一群当たり5〜8匹のマウスの平均±標準誤差である。$$$:野生種に対してP<0.001、**:未処置のMPSIIIBに対してP<0.01、***:未処置のMPSIIIBに対してP<0.001、nd:未検出。
【
図8】最適化ヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼをコードしているAAV9ベクター(AAV9−CAG−cohNaglu)の槽内送達。(A)野生種(健康な)マウス、未処置のMPSIIIBマウス、および9.3×10
9vgのAAV9−CAG−cohNagluの槽内注入により処置したMPSIIIBマウスの、脳の種々の部位(I〜IV)におけるα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性。(B)脳の同じ部位におけるグリコサミノグリカン(GAG)の定量化。値は、一群当たり5〜8匹のマウスの平均±標準誤差である。***:未処置のMPSIIIBに対してP<0.001、nd:未検出。
【
図9】最適化ヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼをコードしているAAV9ベクター(AAV9−CAG−cohNaglu)の槽内送達。(A)野生種(健康な)マウス、未処置のMPSIIIBマウス、および9.3×10
9vgのAAV9−CAG−cohNagluの槽内注入により処置したMPSIIIBマウスの、肝臓におけるα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性。(B)体性臓器におけるグリコサミノグリカン(GAG)の定量化。値は、一群当たり5〜8匹のマウスの平均±標準誤差である。$$$:野生種に対してP<0.001、**:未処置のMPSIIIBに対してP<0.01、***:未処置のMPSIIIBに対してP<0.001、nd:未検出。
【
図10】最適化ヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼ−バージョン2をコードしているプラスミド(pAAV−CAG−cohNaglu−version2)の、流体力学的送達。2月齢のMPSIIIBマウスに、50μgの上記プラスミド(pAAV−CAG−cohNaglu−version2)を、流体力学的に注入した。プラスミドを投与してから1週間後に測定された、(A)肝臓および(B)血清におけるα−N−アセチルグルコサミニダーゼ(NAGLU)活性を、棒グラフは表している。生理食塩水を注入した野生種マウスのNAGLU活性を100%とした。値は、一群当たり3、4匹のマウスの平均±標準誤差である。***:野生種に対してP<0.001。
【
図11】最適化ヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼ−バージョン3をコードしているプラスミド(pAAV−CAG−cohNaglu−version3)の流体力学的送達。2月齢のMPSIIIBマウスに、50μgの上記プラスミド(pAAV−CAG−cohNaglu−version3)を、流体力学的に注入した。プラスミドを投与してから1週間後に測定された、(A)肝臓および(B)血清におけるα−N−アセチルグルコサミニダーゼ(NAGLU)活性を、棒グラフは表している。生理食塩水を注入した野生種マウスのNAGLU活性を100%とした。値は、一群当たり3、4匹のマウスの平均±標準誤差である。***:野生種に対してP<0.001。
【
図12】最適化ネズミα−N−アセチルグルコサミニダーゼをコードしているAAV9ベクター(AAV9−CAG−comNaglu)の槽内送達。MPSIIIBマウスの大槽に、3×10
10vgのAAV9−CAG−comNagluを投与後の、ベクターゲノムの生体内分布。定量化PCRの後、二倍体のゲノムに含まれているDNAの量と比較することによって、(A)脳および(B)体性組織におけるベクターゲノムを定量化した。ND:未検出。
【
図13】最適化ネズミα−N−アセチルグルコサミニダーゼをコードしているAAV9ベクター(AAV9−CAG−comNaglu)の槽内送達。(A)野生種(健康な)マウス、未処置のMPSIIIBマウス、および、3.9×10
10vgのコントロールベクター(AAV9−Null)または3×10
10vgのAAV9−CAG−comNagluのいずれか一方を大槽内投与されたMPSIIIBマウスの、脳の種々の部位(I〜V)におけるα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性。(B)脳の同じ部位におけるグリコサミノグリカン(GAG)の定量化。値は、一群当たり4匹のマウスの平均±標準誤差である。**:MPSIIIB−nullに対してP<0.01、***:MPSIIIB−nullに対してP<0.001、nd:未検出。
【
図14】最適化ネズミα−N−アセチルグルコサミニダーゼをコードしているAAV9ベクター(AAV9−CAG−comNaglu)の槽内送達。(A)野生種(健康な)マウス、および、3.9×10
10vgのコントロールベクター(AAV9−Null)または3×10
10vgのAAV9−CAG−comNagluのいずれか一方を大槽内投与されたMPSIIIBマウスにおいて、リソソームのマーカーであるLIMP−2(リソソーム区画の大きさを示す)を染色した後、脳の種々の部位において得られた信号強度の定量化。値は、一群当たり4匹のマウスの平均±標準誤差である。*:MPSIIIB−nullに対してP<0.05、**:MPSIIIB−nullに対してP<0.01、***:MPSIIIB−nullに対してP<0.001。(B)野生種マウス(左側)、未処置のMPSIIIBマウス(中央)および、大槽内にAAV9−CAG−comNagluを投与されたMPSIIIBマウス(右側)の、大脳皮質および小脳の電子顕微鏡分析。1:ニューロン、2:ニューロン周囲グリア細胞、3:プルキンエニューロン。(C)野生種(WT)マウス、未処置のMPSIIIBマウス(MPSIIIB)、および、3.9×10
10vgのコントロールベクター(AAV9−Null)または3×10
10vgのAAV9−CAG−comNagluのいずれか一方を大槽内投与されたMPSIIIBマウスから得た脳抽出物における、他のリソソーム酵素の活性。SGSH:N−スルホグルコサミンスルホヒドラーゼ、GUSB:β−グルクロニダーゼ、HEXB:ヘキソサミニダーゼB。野生種の酵素活性を100%とした。値は、一群当たり4匹のマウスの平均±標準誤差である。***:MPSIIIB−nullに対してP<0.001。
【
図15】最適化ネズミα−N−アセチルグルコサミニダーゼをコードしているAAV9ベクター(AAV9−CAG−comNaglu)の槽内送達。野生種(健康な)マウス、および、3.9×10
10vgのコントロールベクター(AAV9−Null)または3×10
10vgのAAV9−CAG−comNagluのいずれか一方を大槽内投与されたMPSIIIBマウスの、前頭葉、頭頂葉、後頭葉、上丘、視床における、(A)アストロサイトのマーカーであるGFAP、および(B)ミクログリアのマーカーであるBSI−B4を免疫染色した後に測定された信号強度を、棒グラフは表している。値は、一群当たり2、3匹のマウスの平均±標準誤差である。*:MPSIIIB−nullに対してP<0.05、**:MPSIIIB−nullに対してP<0.01、***:MPSIIIB−nullに対してP<0.001、nd:未検出。(C)遺伝子オントロジー(GO)注釈に基づく、機能上の分類。それぞれの生物学的過程の用語に関連する転写産物の割合を、円グラフは表している。明らかに、ほとんどの用語は、炎症/炎症関連カテゴリーを表している。(D)CTEN(ソフトウェア)によりミクログリアを代表していると認められた遺伝子群に基づく、全ての実験群の階層的クラスター化。それぞれの縦列は遺伝子を表しており、それぞれの横列は動物を表している。それぞれの遺伝子の発現レベルは、全サンプルにおける当該遺伝子の平均発現量と比較して表されている(下部に示されているグレースケールにて表した)。マトリックスの上部に示されているサンプルの系統図は、全体における転写レベルの類似性を表している。全てのAAV9−CAG−comNagluで処置したMPSIIIBマウスは、明らかに、健康、同齢かつ同腹の野生種マウスのものと近い遺伝子発現プロファイルを有している。
【
図16】最適化ネズミα−N−アセチルグルコサミニダーゼをコードしているAAV9ベクター(AAV−CAG−comNaglu)の槽内送達。野生種(健康な)マウス、未処置のMPSIIIBマウス、および、3.9×10
10vgのコントロールベクター(AAV9−Null)または3×10
10vgのAAV9−CAG−comNagluのいずれか一方を大槽内投与されたMPSIIIBマウスの、(A)肝臓および(B)血清におけるα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性。(C)体性臓器におけるグリコサミノグリカン(GAG)の定量化。値は、一群当たり4〜8匹のマウスの平均±標準誤差である。$:野生種に対してP<0.05、**:未処置のMPSIIIBに対してP<0.01、***:未処置のMPSIIIBに対してP<0.001、nd:未検出。(D)肝臓の電子顕微鏡分析。明るく見える多数の小胞(矢印)が、nullベクターで処置したMPSIIIBマウスの肝細胞の細胞質において観察される。これらの小胞は、AAV9−CAG−mNagluで処置した動物においては、消失している。(E)(A)および(B)と同じ動物群から得た肝臓抽出物における、他のリソソーム酵素の活性。IDS:イズロン酸−2−スルファターゼ、IDUA:α−L−イズロニダーゼ、SGSH:N−スルホグルコサミンスルホヒドラーゼ、GUSB:β−グルクロニダーゼ、HEXB:ヘキソサミニダーゼB。野生種の酵素活性を100%とした。値は、一群当たり4匹のマウスの平均±標準誤差である。**:MPSIIIB−nullに対してP<0.01、***:MPSIIIB−nullに対してP<0.001。
【
図17】最適化ネズミα−N−アセチルグルコサミニダーゼをコードしているAAV9ベクター(AAV9−CAG−comNaglu)の槽内送達。薬剤未投与の野生種(健康な)マウス、未処置のMPSIIIBマウス、および、3.9×10
10vgのコントロールベクター(AAV9−Null)または3×10
10vgのAAV9−CAG−comNagluのいずれか一方を大槽内投与されたMPSIIIBマウスにおける、行動評価。データは運動に対応しており、最初の2分間における探索行動を記録した。上記データは、一群当たり10〜15匹の動物の平均±標準誤差を表している。(A)中央区画への待ち時間、(B)縁辺区画滞在時間、(C)中央区画への進入、(D)休息時間、(E)総移動距離、(F)越えたラインの総数。*:MPSIIIB−nullに対してP<0.05、**:MPSIIIB−nullに対してP<0.01。(G)野生種マウス(n=23)、未処置のMPSIIIBマウス(n=12)、3.9×10
10vgのAAV9−Nullを注入されたMPSIIIBマウス(n=5)、または3×10
10vgのAAV9−CAG−comNagluを注入されたMPSIIIBマウス(n=8)における、カプラン=マイヤー生存分析。AAV9−CAG−comNaglu遺伝子治療による処置により、MPSIIIB動物の生存期間が相当に延長された。AAV9−CAG−comNaglu処置MPSIIIBマウスと、MPSIIIB−nullとの間において、P=0.0007。
【
図18】ビーグル犬に対する、最適化イヌα−N−アセチルグルコサミニダーゼをコードしているAAV9ベクター(AAV9−CAG−cocNaglu)の槽内送達。(A)健康なビーグル犬に対するAAV9−CAG−cocNagluベクターのCSF内送達前後における、対応する血清およびCSFサンプル中の抗AAV9中性化抗体(Nab)力価の追跡。槽内送達より1か月先前に、1×10
11vg/kgのAAV9−nullベクターを静脈内送達することにより、イヌ3およびイヌ4を事前に免疫化した。(B)6.5×10
12vgのイヌα−N−アセチルグルコサミニダーゼをコードしているAAV9ベクターのCSF内投与後における、健康なビーグル犬成犬のCSF中のα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性の追跡。イヌ1およびイヌ2(白記号)は、投与時点において薬剤未投与であった。一方、イヌ3およびイヌ4(黒記号)は、事前に上記AAV9ベクターに対する免疫を有していた。それぞれの時点における、全ての犬のCSF中の白血球数(WBC)が、同じグラフに示されている(破線)。
【
図19】(A)プラスミドpAAV−CAG−hNagluの模式図、および(B)組換えAAVベクターAAV9−CAG−hNagluのゲノムの模式図。
【
図20】(A)プラスミドpAAV−CAG−cohNagluの模式図、および(B)組換えAAVベクターAAV9−CAG−cohNagluのゲノムの模式図。
【
図21】(A)プラスミドpAAV−CAG−cohNaglu−version2の模式図、および(B)組換えAAVベクターAAV9−CAG−cohNaglu−version2のゲノムの模式図。
【
図22】(A)プラスミドpAAV−CAG−cohNaglu−version3の模式図、および(B)組換えAAVベクターAAV9−CAG−cohNaglu−version3のゲノムの模式図。
【
図23】(A)プラスミドpAAV−CAG−comNagluの模式図、および(B)組換えAAVベクターAAV9−CAG−comNagluのゲノムの模式図。
【
図24】(A)プラスミドpAAV−CAG−cocNagluの模式図、および(B)組換えAAVベクターAAV9−CAG−cocNagluのゲノムの模式図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔微生物の寄託〕
プラスミドpAAV−CAG−cohNaglu(配列番号6)は、2012年11月13日、アクセス番号(access number)DSM26626として、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen, Inhoffenstrasse 7 B, D-38124 Braunschweig, Federal Republic of Germany)に寄託された。
【0029】
プラスミドpAAV−CAG−hNaglu(配列番号5)は、2014年3月13日、アクセス番号DSM28568として、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen, Inhoffenstrasse 7 B, D-38124 Braunschweig, Federal Republic of Germany)に寄託された。
【0030】
プラスミドpAAV−CAG−cohNaglu−version2(配列番号20)は、2015年4月29日、アクセス番号DSM32042として、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen, Inhoffenstrasse 7 B, D-38124 Braunschweig, Federal Republic of Germany)に寄託された。
【0031】
プラスミドpAAV−CAG−cohNaglu−version3(配列番号23)は、2015年4月29日、アクセス番号DSM32043として、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen, Inhoffenstrasse 7 B, D-38124 Braunschweig, Federal Republic of Germany)に寄託された。
【0032】
〔定義〕
用語「ヌクレオチド配列」は、DNAまたはRNAのいずれかの核酸分子(それぞれ、デオキシリボ核酸またはリボ核酸を含んでいる)を指す。上記核酸は、二重鎖配列であっても、一重鎖配列であっても、または二重鎖配列もしくは一重鎖配列の両方の部分を有していてもよい。
【0033】
用語「%の配列同一性」は、候補配列が最大の「%の配列同一性」を達成するように調整した後において、参照配列におけるヌクレオチドと同一である上記候補配列のヌクレオチドの割合を指す。上記「%の配列同一性」は、本技術分野において定着している任意の方法またはアルゴリズム(ALIGN、BLASTおよびBLAST2.0アルゴリズムなど)によって決定することができる。Altschul S, et al., Nuc Acids Res. 1977;25:3389-3402およびAltschul S, et al., J Mol Biol. 1990;215:403-410を参照。
【0034】
本明細書において、上記「%の配列同一性」は、上記参照配列および上記候補配列を調整後に同一であるヌクレオチド数を、参照配列の全ヌクレオチド数で除し、その結果を100倍することにより計算される。
【0035】
用語「コードする(codify)」または「コードしている(coding)」は、どのようにヌクレオチド配列がポリペプチドまたはタンパク質に翻訳されるかを決定する、遺伝子コードを指す。配列中のヌクレオチドの順序は、ポリペプチドまたはタンパク質におけるアミノ酸の順序を決定する。
【0036】
用語「タンパク質」は、1本以上のアミノ酸鎖またはポリペプチドから構成される高分子を指す。タンパク質は、システイン残基の3−オキソアラニンへの変換、糖鎖形成、または金属の結合のような翻訳後の修飾を受けうる。タンパク質の糖鎖形成とは、種々の炭化水素(アミノ酸鎖に共有結合されている)の付加である。
【0037】
用語「効果的な量」は、意図された目的を達成するために充分な物質の量を指す。例えば、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(Naglu)活性を上昇させるために効果的な量のAAV9ベクターは、グリコサミノグリカンの蓄積を減少させるために充分な量である。疾患または障害を処置するために「治療上効果的な量」の発現ベクターは、上記疾患または障害の徴候および症状を減少または根絶させるために充分な量の、上記発現ベクターである。所与の物質の効果的な量は、上記物質の性質、投与経路、上記物質を与えられる動物の大きさおよび生物種、ならびに上記物質を与える目的などの要因によって異なる。それぞれの個体の症例における効果的な量は、当業者によって経験的に決定されてよい。
【0038】
用語「個体」は、哺乳類を指し、好ましくはヒトまたは非ヒト哺乳類を指し、より好ましくはマウス、ラット、その他の齧歯類、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマまたは霊長類を指し、さらに好ましくはヒトを指す。
【0039】
用語「作動可能に連結されている(operably linked)」は、機能上の関係、および所定の遺伝子に対するプロモーター配列の位置を指す(例えば、コード配列の転写に影響を及ぼすならば、プロモーターまたはエンハンサーは、当該コード配列に対して作動可能に連結されている)。一般的に、作動可能に連結されているプロモーターは、所定の配列に隣接している。しかし、エンハンサーは、所定の配列の発現を調節するために、当該所定の配列に隣接している必要がない。
【0040】
用語「親和性」は、種々のウイルスが、特定の宿主となる生物種または当該生物種における特定の種類の細胞を、優先的に標的とするように進化した状態を指す。
【0041】
用語「遺伝子治療」は、遺伝的疾患もしくは状態または獲得的疾患もしくは状態を、処置または予防するための、宿主に対する所定の遺伝物質(例えば、DNAまたはRNA)の移入を指す。上記所定の遺伝物質は、in vivoにおける生産が望まれている産物(例えば、ポリペプチドタンパク質、ペプチドまたは機能性RNA)をコードしている。上記所定の遺伝物質は、例えば、酵素、ホルモン、受容体または治療上価値のあるポリペプチドをコードしうる。
【0042】
用語「組換えウイルスベクター」、「ウイルスベクター」、「組換えベクター」または「ベクター」は、自然に産するウイルスから、所定の遺伝物質(例えば、DNAまたはRNA)を細胞に移入することができ、結果として当該遺伝物質によりコードされている産物(例えば、ポリペプチドタンパク質、ペプチドまたは機能性RNA)を標的細胞において産生する遺伝子工学技術を経て、得られた作用物質を指す。本発明との関連において、「組換えベクター」または「ベクター」は、内部に含まれている遺伝物質に加えて、当該遺伝物質を細胞内へ移入するために用いられるキャプシドタンパク質でもあるとして、理解される。ヌクレオチド配列を介して「組換えベクター」または「ベクター」を指すことによって、対応する配列表(配列番号)にゲノムが記載されている「組換えベクター」または「ベクター」を指すことが意味される。
【0043】
用語「組換えプラスミド」または「プラスミド」は、小型で、環状で、二重鎖の、自己複製するDNA分子であって、所定の遺伝物質を細胞に移入することができ、結果として当該遺伝物質によりコードされている産物(例えば、ポリペプチドタンパク質、ペプチドまたは機能性RNA)を標的細胞において産生する遺伝子工学技術を経て得られた、DNA分子を指す。さらに、用語「組換えプラスミド」または「プラスミド」はまた、小型で、環状で、二重鎖の、自己複製するDNA分子であって、組換えウイルスゲノムの搬送体としてのウイルスベクターを作製する際に使用される遺伝子工学技術を経て得られた、DNA分子も指す。
【0044】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、疾患の処置用の、具体的にはムコ多糖症III型(MPSIII)の処置用の、特にMPSIIIB処置用の、新規な組換えベクターを提供する。
【0045】
上記組換えベクターはまた、遺伝物質以外に、種々の機能因子を含んでいてよい。上記機能因子は、転写の調節因子(プロモーターまたはオペレーターのような)、転写因子結合部位またはエンハンサー、および、転写開始または転写終了の調節因子を含んでいる。
【0046】
本発明に係るベクターは、所定の遺伝子の移入に用いられる、アデノ随伴ベクター(AAV)である。上記ベクターは、広範な組織における分裂終了細胞に形質導入するにあたって、高い効果を有することが判明した。本発明との関連において、上記ベクターは、ヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼ(hNaglu)ポリヌクレオチド(配列番号2)、またはコドン最適化ヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼ(cohNaglu)ポリヌクレオチド(配列番号3)を送達するために用いられる。アデノ随伴ベクターは、parvoviridae科のアデノ随伴ウイルスのゲノムに由来するベクターである。上記アデノ随伴ウイルスのゲノムは、一重鎖のデオキシリボ核酸(ssDNA)でできている。上記ベクターは、哺乳類に感染するが、しかし病原性ではない(すなわち、疾患を引き起こさない)。上記ベクターは、分裂細胞または非分裂細胞に感染することができる。上記ベクターの親和性は、血清型に応じて変化する。上記血清型は、ウイルスのキャプシド抗原に応じた、当該ウイルス群の分類である。ウイルスのキャプシドタンパク質によって決定されるアデノ随伴ウイルスの上記血清型は、当該ウイルスの親和性を規定し、特定の種類の細胞への当該ウイルスの進入を可能とする。本発明との関連において、血清型9のアデノ随伴ウイルスベクター(AAV9)は、1回の投与で脳および末梢臓器へ遺伝物質を送達することに、最大の効果を示している。
【0047】
本発明者らは、AAV9キャプシドおよびα−N−アセチルグルコサミニダーゼをコードしているヌクレオチド配列と、特定のCAGプロモーターとの一体となった連携により、欠如している酵素の長期間にわたる発現が、脳の全ての部位において可能となることを、驚くべきことに発見した。結果として、グリコサミノグリカン(GAG)のリソソームへの蓄積が治療される。上記治療は、MPSIII(特にMPSIIIB)に特徴的な様式の神経変性により妨げられていたものである。この効果は、上記ベクターの投与箇所からは離れている嗅球においてさえも得られた。さらに、脳脊髄液中に送達される本発明に係るAAV9ベクターは、体循環に達し、肝臓を形質転換することができた。肝細胞による酵素の産生および分泌の結果、血清中のα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性が上昇し、最終的に、多くの体性組織においてリソソームの異常を減少させた。このことは、既存の技法に対する本発明に係るベクターの、明白な長所を意味している。上記既存の技法では、上記疾患の臨床症状が部分的にしか治療されず、通常は脳または体循環のいずれか一方においてしか効果を発揮しないのであって、両方においては効果を発揮しない。
【0048】
故に本発明は、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列に連結されているCAGプロモーター(配列番号4)を含んでいる、組換えAAV9ベクターに関する。
【0049】
具体的には、本発明の組換えAAV9ベクターは、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列に連結されているCAGプロモーター(配列番号4)を含んでおり、上記ヌクレオチド配列は、配列番号2に対して80%以上の配列同一性を有している。より好ましくは、本発明の組換えAAV9ベクターは、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列に連結されているCAGプロモーター(配列番号4)を含んでおり、上記ヌクレオチド配列は、配列番号2に対して84%以上の配列同一性を有している。具体的には、上記α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列は、配列番号2に対して84%、87%、90%、95%、98%または99%の配列同一性を有している。
【0050】
他の具体的な実施形態において、本発明の組換えAAV9ベクターは、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列に連結されているCAGプロモーター(配列番号4)を含んでおり、上記ヌクレオチド配列は、配列番号3に対して85%以上の配列同一性を有している。具体的には、上記α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列は、配列番号3に対して85%、87%、90%、95%、98%または99%の配列同一性を有している。
【0051】
本発明の好ましい実施形態において、上記α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列は、配列番号2である。
【0052】
本発明のさらに好ましい実施形態において、上記α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列は、配列番号3である。配列番号3に記載されている配列は、配列番号2に対して84%の配列同一性を有している。
【0053】
本発明のよりさらに好ましい実施形態において、上記α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列は、配列番号19である。
【0054】
本発明のよりさらに好ましい実施形態において、上記α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列は、配列番号22である。
【0055】
本発明に係るAAV9ベクターは、所定の遺伝子の翻訳および転写を調節する、プロモーターを含んでいる。プロモーターは、上記所定の遺伝子に作動可能に連結されている、ヌクレオチド配列である。本発明において用いられるプロモーターは、CAGプロモーターである。上記CAGプロモーターは、サイトメガロウイルス初期エンハンサー要素およびニワトリβ−アクチンプロモーターを含んでいる組み合わせを指す。上記CAGプロモーターはさらに、β−グロビンのイントロンの一部を含んでいる。上記β−グロビンのイントロン部分は、上記所定の遺伝子に由来するmRNAに安定性を与える(Alexopoulou A, et al., BMC Cell Biology 2008; 9(2): 1-11を参照)。本発明のAAV9ベクターに含まれている上記CAGプロモーターは、配列番号4の配列を有している。さらに言えば、上記CAGプロモーターは、本技術分野において通常用いられているCMVプロモーターよりも効果的であることが立証された。
【0056】
本発明のさらに好ましい実施形態において、上記組換えAAV9ベクターは、AAV9−CAG−hNaglu(配列番号9)、AAV9−CAG−cohNaglu(配列番号10)、ならびにAAV9−CAG−cohNaglu−version2(配列番号21)およびAAV9−CAG−cohNaglu−version3(配列番号24)から選択される。好ましくは、上記組換えAAV9ベクターは、AAV9−CAG−hNaglu(配列番号9)、AAV9−CAG−cohNaglu(配列番号10)から選択される。より具体的には、本発明の組換えAAV9ベクターは、血清型9のヒトアデノ随伴ウイルスのウイルスキャプシド、ならびに血清型2のヒトアデノ随伴ウイルスの逆方向反復配列(ITR)、上記CAGプロモーター、上記ヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼ(Naglu)遺伝子のコード配列(CDS)、およびウサギβ−グロビン遺伝子のポリAを含んでいる改変ゲノム、から構成されている。
【0057】
本発明はまた、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列を含んでいるプラスミドに関する。具体的には、本発明に係るプラスミドは、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列を含んでおり、上記ヌクレオチド配列は、配列番号2に対して80%以上の配列同一性を有している。好ましくは、本発明に係るプラスミドは、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列を含んでおり、上記ヌクレオチド配列は、配列番号2に対して84%以上の配列同一性を有している。具体的には、上記α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列は、配列番号2に対して84%、87%、90%、95%、98%または99%の配列同一性を有している。
【0058】
好ましい実施形態において、本発明に係るプラスミドは、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列を含んでおり、上記ヌクレオチド配列は、配列番号3に対して85%以上の配列同一性を有している。具体的には、上記α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列は、配列番号3に対して85%、87%、90%、95%、98%または99%の配列同一性を有している。
【0059】
上記プラスミドは、本技術分野において知られている方法を用いるHEK293細胞へのトランスフェクションにより、本発明の組換えAAV9ベクターを産生するために有用である。
【0060】
本発明の好ましい実施形態において、本発明のプラスミドに含まれているヌクレオチド配列であって、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列は、配列番号2である。
【0061】
本発明の他の好ましい実施形態において、本発明のプラスミドに含まれているヌクレオチド配列であって、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列は、配列番号3である。
【0062】
本発明の他の好ましい実施形態において、本発明のプラスミドに含まれているヌクレオチド配列であって、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列は、配列番号19である。
【0063】
本発明の他の好ましい実施形態において、本発明のプラスミドに含まれているヌクレオチド配列であって、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列は、配列番号22である。
【0064】
より好ましい実施形態において、本発明のプラスミドは、pAAV−CAG−hNaglu(配列番号5)、pAAV−CAG−cohNaglu(配列番号6)、pAAV−CAG−cohNaglu−version2(配列番号20)およびpAAV−CAG−cohNaglu−version3(配列番号23)から選択され、特にpAAV−CAG−hNaglu(配列番号5)およびpAAV−CAG−cohNaglu(配列番号6)から選択される。好ましくは、上記プラスミドは、pAAV−CAG−cohNaglu(配列番号6)である。
【0065】
本発明はさらに、本発明に係るアデノ随伴ウイルス組換えベクター(AAV9)の製造方法を提供する。製法は、以下の工程を含む。
i)第1のAAV末端反復と第2のAAV末端反復との間に挿入されている所定のタンパク質をコードしている配列、当該所定のタンパク質をコードしている配列に対して作動可能に連結されているCAGプロモーターを含んでいる、第1のベクター;血清型9のAAV rep遺伝子およびAAV cap遺伝子を含んでいる、第2のベクター;ならびに、アデノウイルスヘルパー機能遺伝子を含んでいる、第3のベクターを用意する工程、
ii)工程i)のベクターを、コンピテントセルに共にトランスフェクションする工程、
iii)工程ii)のトランスフェクションされた細胞を培養する工程、および
iv)工程iii)の培地から、発現しているベクターを精製する工程。
【0066】
好ましい実施形態において、上記第1のベクターの上記第1のAAV末端反復および上記第2のAAV末端反復は、血清型2のAAVのITRである。他の好ましい実施形態において、上記第2のベクターの上記AAV rep遺伝子は、血清型2のAAVのものである。他の好ましい実施形態において、上記コンピテントセルは、HEK293細胞である。
【0067】
本発明はまた、本発明に係るプラスミドの調製方法を提供する。上記調製方法は、以下の工程を含む。
i)出発材料であるプラスミドから、消化によって(具体的にはMIuI/EcoRIを用いて)、所定のタンパク質をコードしている配列を切り取る工程、
ii)AAVを骨格とするプラスミドであるpAAV−CAGの2箇所の制限部位の間において、上記所定のタンパク質をコードしている配列をクローニングする工程。この結果、上記所定のタンパク質をコードしている配列を含んでいる、対応するプラスミドを得る。
【0068】
さらなる態様において、本発明は、本明細書において説明されているAAV9ベクターを治療上効果的な量含有している薬学的組成物、または本明細書において説明されているプラスミドを治療上効果的な量含有している薬学的組成物を、予期する(contemplates)。
【0069】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容可能な担体中に、上記組換えAAV9ベクターを含んでいる。上記組成物はまた、1種類以上の補助物質を含んでいてよい。上記補助物質は、担体、賦形剤、溶剤、希釈剤またはアジュバントのうちから選択されうる。許容可能な担体、許容可能な希釈剤または許容可能なアジュバントは、毒性がなく、好ましくは、投薬に際して不活性かつ採用された濃度において不活性である。上記許容可能な担体、許容可能な希釈剤または許容可能なアジュバントは、緩衝剤(リン酸、クエン酸または他の有機酸など);酸化防止剤;低分子量のポリペプチド、タンパク質(血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなど);親水性ポリマー;アミノ酸;単糖類、二糖類および他の炭水化物(グルコース、マンノースまたはデキストリンを含む);キレート剤;糖アルコール(マンニトールまたはソルビトールなど);対イオンを形成する塩(ナトリウムなど);および/または非イオン性界面活性剤(ポリエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体(プルロニックF68(登録商標))、ポリエチレングリコール(PEG)など)を包含している。
【0070】
好ましい実施形態において、本発明に係る薬学的組成物は、非経口投与に適している。非経口投与の例としては、静脈内注入、皮下注入、槽内注入および筋肉内注入がある。好ましくは、本発明に係る薬学的組成物は、静脈内投与または槽内投与に適している。このような非経口投与に適している組成物は、無菌水性溶液または無菌水性分散液、無菌溶液または無菌分散液を必要に応じて調製するための無菌粉末を包含している。本発明に係る薬学的組成物は、都合の良いことに、細菌および菌類の汚染作用から守られている。
【0071】
ヒトおよび動物向けの一日当たり投与量は、それぞれの生物種または他の要因(年齢、性別、体重または疾病の程度など)に基づく要因に応じて異なっていてよい。
【0072】
本発明の他の態様は、上記に説明されているAAV9ベクターまたは上記に説明されているプラスミドの、治療上の使用に関する。上述したように、本発明に係る組換えAAV9ベクターは、欠如しているNaglu酵素を発現させられる。このようにして、上記組換えAAV9ベクターは、GAGのリソソームへの蓄積を治療する。これにより、ムコ多糖症III型(MPSIII)の、そして特にMPSIIIBの、全ての臨床症状を治療することができる。この点において、本発明はまた、薬剤として使用するための、上記に説明されている組換えAAV9ベクターまたは上記に説明されているプラスミドと関係がある。
【0073】
具体的には、本発明は、体内のα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性を上昇させるための、上記に説明されている組換えAAV9ベクターまたは上記に説明されているプラスミドに関する。
【0074】
さらに好ましい態様において、本発明は、ムコ多糖症III型(MPSIII)の処置のための、および特にMPSIIIBの処置のための、上記に説明されている組換えAAV9ベクターまたは上記に説明されているプラスミドに関する。
【0075】
より更に好ましい実施形態において、本発明は、ムコ多糖症III型(MPSIII)の処置、および特にMPSIIIBの処置に有用な薬剤の作製のための、上記に説明されている組換えAAV9ベクターまたは上記に説明されているプラスミドの使用に関する。
【0076】
本発明の他の実施形態は、上記に説明されている組換えAAV9ベクターの少なくとも1つ、または上記に説明されているプラスミドの少なくとも1つを、それ必要としている被験体に対して投与する工程を含む、ムコ多糖症III型(MPSIII)の、および特にMPSIIIBの、処置の方法に導かれる(directed)。
【0077】
本発明は、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列を含んでいる単離細胞を、さらに提供する。具体的には、本発明に係る細胞は、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列を含んでおり、上記ヌクレオチド配列は、配列番号2に対して80%以上の配列同一性を有している。好ましくは、配列番号2に対して84%以上の配列同一性を有している、上記α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列。具体的には、上記α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列は、配列番号2に対して84%、87%、90%、95%、98%または99%の配列同一性を有している。さらに具体的な態様において、上記α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしているヌクレオチド配列は、配列番号3に対して85%以上の配列同一性を有しており、好ましくは配列番号3に対して85%、87%、90%、95%、98%または99%の配列同一性を有している。
【0078】
好ましい実施形態において、本発明の細胞は、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしている配列番号2のヌクレオチド配列を含んでいる。
【0079】
他の好ましい実施形態において、本発明の細胞は、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしている配列番号3のヌクレオチド配列を含んでいる。
【0080】
他の好ましい実施形態において、本発明の細胞は、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしている配列番号19のヌクレオチド配列を含んでいる。
【0081】
他の好ましい実施形態において、本発明の細胞は、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(配列番号1)をコードしている配列番号22のヌクレオチド配列を含んでいる。
【0082】
以下の実施例は、本発明の特定の実施例の単なる例示であり、決して本発明を制限するように見做すことはできない。
【0083】
〔一般的な手順〕
[1.組換えAAVベクター]
本明細書において説明されているAAVベクターは、3重のトランスフェクションによって得た。上記ベクターを作製するために必要な材料は、HEK293細胞(E1遺伝子を発現している)、アデノウイルス機能を与えるヘルパープラスミド、血清型2のAAV rep遺伝子および血清型9(AAV9)のcap遺伝子を与えるプラスミド、そして最後に、AAV2 ITRを有する骨格プラスミドおよび所定のコンストラクトである。
【0084】
ヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼの非最適化もしくは最適化CDS、ネズミα−N−アセチルグルコサミニダーゼの非最適化もしくは最適化CDS、またはイヌα−N−アセチルグルコサミニダーゼの非最適化もしくは最適化CDSを、ユビキタスハイブリッドCAGプロモーターの制御下で、AAV骨格プラスミド中にてクローニングして、α−N−アセチルグルコサミニダーゼを発現しているAAVベクターを産生した。
【0085】
3種類の改変プラスミドを用いて、ヘルパーウイルスを使用せずにHEK293細胞をトランスフェクションすることによって、ベクターを産生した(Matsushita T, et al., Gene Ther. 1998;5:938-945およびWright J, et al., Mol. Ther. 2005;12:171-178を参照)。10%FBSを添加したDMEMを入れたローラーボトル(RB;Corning, Corning, NY, US)中で、70%コンフルエントにて細胞を培養した。次に、1)血清型2のAAVのウイルスITRにより両端を挟まれている発現カセットを有しているプラスミド(上述);2)AAV rep2遺伝子およびAAV cap9遺伝子を有しているプラスミド;および、3)アデノウイルスヘルパー機能を有しているプラスミド、を共にトランスフェクションした。上述した最適化プロトコルを用いて、2回の塩化セシウム勾配により、ベクターを精製した(Ayuso E, et al., Gene Ther. 2010;17:503-510を参照)。ベクターをPBSで透析し、濾過し、qPCRで定量し、使用まで−80℃にて保存した。
【0086】
本発明のベクターは、本技術分野において周知である分子生物学技術によって作製された。
【0087】
[2.動物]
C57B1/6Jのコンジェニック変異体(α−N−アセチルグルコサミニダーゼ欠失マウス(MPSIIIB)モデル)は、The Jackson Laboratory(Bar Harbor, ME, USA. Stock 003827)から購入した(Li et al., Proc Natl Acad Sci. 1999; 96(25):14505-10を参照)。MPSIIIB罹患マウスおよび健康なコントロールマウスは、ヘテロ接合のファウンダーから近親交配により誕生した。テール・クリップサンプルをPCR分析し、目的の変異を含んでいる配列を増幅して、ゲノムDNAの遺伝子型を決定した。それぞれのセンスプライマーおよびアンチセンスプライマーの配列は、以下の通りであった。フォワードプライマー:5’−GTC GTC TCC TGG TTC TGG AC−3’(配列番号13)、リバースプライマー:5’−ACC ACT TCA TTC TGG CCA AT−3’(配列番号14)、変異型リバースプライマー:5’−CGC TTT CTG GGC TCA GAG−3’(配列番号15)。標準食(Harlan, Tekland)で行動制限を設けずにマウスを飼育し、明暗周期を12時間に保った(午前9時に点灯)。
【0088】
[3.hNAGLUをコードしているプラスミドの、マウスへの流体力学的送達]
pAAV−CAG−hNagluプラスミド、pAAV−CAG−cohNaglu−version2プラスミドおよびpAAV−CAG−cohNaglu−version3プラスミドの流体力学的送達のために、2月齢のMPSIIIB動物および野生種動物の尾静脈に注入を行った。上記注入は、5秒未満の間に行われ、総投与量は、上記動物の体重の10%に相当する体積中に50μgのプラスミドであった。この技法により、プラスミドにコードされている導入遺伝子を、主として肝臓において発現させた(Liu et al., Gene Ther. 1990;6(7):1258-66を参照)。コントロールとして、マウスの一群に同量の生理食塩水を注入した。いずれのマウスも、プラスミドの流体力学的注入から1週間後に殺処分した。以下の項目で説明する通りに、臓器を摘出した。
【0089】
[4.ベクターの投与およびサンプルの収集]
マウスへのAAV9−CAG−comNagluベクターの槽内送達のために、2月齢のMPSIIIB動物の大槽に、総投与量3×10
10vgを注入した。3.9×10
10vgのコードしていないコントロールベクター(AAV9−null)を、同種の動物の一群に注入した。5月齢の時点(すなわちベクターの投与から3か月後)で、マウスに麻酔を施し、その後、心臓を経由して10mLのPBSを潅流させて、組織から血液を完全に除去した。全脳および複数の体性組織(肝臓、脾臓、膵臓、腎臓、肺、心臓、骨格筋および精巣を含む)を収集し、次の組織学的分析のために、液体窒素中で凍結させ−80℃にて保存するか、ホルマリン中に浸漬した。
【0090】
AAV9−CAG−hNagluベクターおよびAAV9−CAG−cohNagluベクターの静脈内送達のために、2月齢のMPSIIIB動物の尾静脈に、総投与量5×10
11vgを注入した。4月齢の時点(すなわちベクターの投与から2か月後)で、先の段落で説明されている通りに、マウスを殺処分し、臓器を摘出した。
【0091】
AAV9−CAG−hNagluベクターおよびAAV9−CAG−cohNagluベクターの槽内送達のために、2月齢のMPSIIIB動物の大槽内に、総投与量9.3×10
9vgを注入した。4月齢の時点(すなわちベクターの投与から2か月後)で、先の段落で説明されている通りに、マウスを殺処分し、臓器を摘出した。
【0092】
イヌに対するAAV9−CAG−cocNagluベクターの槽内送達のために、健康なビーグル犬の成犬に、大槽内注入により、総投与量6.5×10
12vgを投与した。Nagluベクターの投与に6週間先だって、動物のうち2頭に、1×10
11vg/kgのAAV9−nullベクターを静脈内注入し、AAV9に対して事前に免疫化した。当初は毎週、次いで毎月、CSFおよび血清サンプルを収集し、−80℃にて保存した。
【0093】
[5.ベクターゲノムのコピー数の定量]
組織(約100mg)を、400μLのプロテイナーゼK溶液(0.2mg/mL)中で、56℃にて一晩(ON)消化した。標準的な技法で用いられている抽出により、上清から全DNAを単離した。DNAを蒸留水中で再懸濁し、NanoDrop ND-1000(NanoDrop, Wilmington, DE, USA)を用いて定量した。20ngの全DNA中におけるベクターゲノムのコピー数は、定量リアルタイムPCRにより決定した。上記定量リアルタイムPCRでは、ネズミα−N−アセチルグルコサミニダーゼ導入遺伝子に特異的なプライマーおよびプローブ(内因性の遺伝子座を増幅させない)を用いた。フォワードプライマー:5’−GCC GAG GCC CAG TTC TAC−3’(配列番号16);リバースプライマー:5’−TTG GCG TAG TCC AGG ATG TTG−3’(配列番号17);プローブ:5’−AGC AGA ACA GCA GAT ACC AGA TCA CCC−3’(配列番号18)。標準曲線と比較することにより、最終的な値を決定した。上記標準曲線は、20ngの形質導入されないゲノムDNAが挿入されているAAVベクター産生に用いられる直線化プラスミドを、一連の希釈率としたものから構成されている。
【0094】
[6.α−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性およびグリコサミノグリカンの定量]
肝臓サンプルおよび脳サンプルは、Mili−Q水中で超音波処理した。血清は、未処理で分析した。上述した通りに、4−メチルウンベリフェロン由来の蛍光源基質(Moscerdam Substrates, Oegstgeest, NL)によって、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性を決定した(Marsh and Fensom, Clin Genet. 1985;27(3):258-262を参照)。タンパク質の全量に対して脳および肝臓の活性レベルを正規化し、Bradford protein assay(Bio-Rad, Hercules, CA, US)を用いて定量した。血清の活性は、体積に対して正規化した。
【0095】
グリコサミノグリカン(GAG)の定量のために、組織サンプルを計量し、プロテイナーゼKで消化した。遠心分離および濾過により、抽出物を清澄化した。Blyscan sulfated glycosaminoglycan kit(Biocolor, Carrickfergus, County Antrim, GB)により、コンドロイチン−4−スルファートを標準として用いて、組織抽出物中のGAGレベルを決定した。GAGのレベルを、組織の含水重量に対して、正規化した。
【0096】
[7.他のリソソーム酵素の活性]
4−メチルウンベリフェリル−α−N−イズロニド(Glycosynth)と共に、37℃にて1時間インキュベートしたタンパク質15μgにおける、IDUA活性を測定した。IDS活性のために、タンパク質15μgを、まず、4−メチルウンベリフェリル−α−L−イズロニド−2−スルファート(Moscerdam Substrates)と共に、37℃にて4時間インキュベートした。次いで、ウシ精巣のリソソーム酵素(LEBT-M2, Moscerdam Substrates)を含む液溜め中で、37℃にて24時間インキュベートした。上述した通りに、SGSH活性を測定した(Haurigot et al., J Clin Invest 2013;123(8):3254-71を参照)。GUSB活性のために、タンパク質10μgを、4−メチルウンベリフェリル−β−D−グルクロニド(Sigma)と共に、37℃にて1時間インキュベートした。タンパク質0.1μgを、4−メチルウンベリフェリル−N−アセチル−β−D−グルコアミニド(glucoaminide)(Sigma)と共に、37℃にて1時間インキュベートして、HEXE活性を定量した。pHを上昇させることにより反応を停止させた後、放出された蛍光を、FLx800 fluorimeter(BioTek Instruments)で計測した。全ての酵素活性は、Bradford(Bio-Rad)により定量した総タンパク質含有量に対して正規化した。
【0097】
[8.組織学的分析]
組織をホルマリン中で12〜24時間固定し、パラフィンに包埋し、切片を作製した。体性組織におけるLAMP1の免疫組織学的検出のために、クエン酸緩衝液(pH6)中で、パラフィン切片を熱誘導エピトープ賦活化した。次いで、上記パラフィン切片を、1:100に希釈したラット抗LAMP1抗体(1D4B; Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA, US)と共に、4℃にて一晩インキュベートした。続いて、上記パラフィン片を、1:300に希釈したビオチン化ウサギ抗ラット抗体(Dako, Glostrup, DK)と共にインキュベートした。脳におけるLIMP2の免疫組織学的検出のために、パラフィン切片を、1:100に希釈したウサギ抗LINP2抗体(NB400; Novus Biologicals, Littleton, CO, USA)と共に、4℃にて一晩インキュベートした。続いて、上記パラフィン片を、1:300に希釈したビオチン化ヤギ抗ウサギ抗体(31820; Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)と共にインキュベートした。脳サンプルにおけるGFAPの免疫染色のために、パラフィン切片を、1:1000に希釈したウサギ抗GFAP抗体(Ab6673; Abcam, Cambridge, UK)と共に、4℃にて一晩インキュベートした。続いて、上記パラフィン片を、1:300に希釈したビオチン化ヤギ抗ウサギ抗体(31820; Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)と共にインキュベートした。切片を、1:100に希釈したABC-Peroxidase staining kit(Thermo Scientific, Waltham, MA, US)と共にインキュベートすることにより、LAMP1、LIMP2およびGFAPの信号を増幅した。そして、上記切片を、色原体として3,3−ジアミノベンジジン(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, US)を用いて可視化した。光学顕微鏡(Eclipse 90i; Nikon, Tokyo, JP)により、明視野像を得た。
【0098】
脳サンプルにおけるミクログリア細胞を染色するために、パラフィン切片を、1:100に希釈したBsi−B4レクチン(L5391; Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, USA)と共に、4℃にて一晩インキュベートした。色原体として3,3−ジアミノベンジジン(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, US)を用いて、Bsi−B4の信号を可視化した。光学顕微鏡(Eclipse 90i; Nikon, Tokyo, JP)により、明視野像を得た。
【0099】
NIS Elements Advanced Research 2.20ソフトウェアを用いて、一匹の動物のそれぞれの脳の部位当たり3〜5枚の画像(元の拡大倍率:20倍)における、LIMP2、GFAPおよびBsi−B4信号を定量した(全ての動物に対して同じ信号閾値を設定した)。次いで、ポジティブである面積の割合を計算した。すなわち、上記画像中の全組織の面積に対する、ポジティブ信号を有する面積を、ピクセルで計算した。
【0100】
[9.透過型電子顕微鏡による分析]
イソフルオラン(isofluorane)(Isofluo, Labs. Esteve, Barcelona, ES)の過剰投与によりマウスを殺処分し、下大動脈を通して、1mLの2.5%グルタルアルデヒドおよび2%パラホルムアルデヒドを潅流させた。肝臓の側葉および大脳皮質の小片(約1mm
3)から切片を作製し、同じ固定液中で、4℃にて2時間インキュベートした。冷却したカコジル酸緩衝液中で洗浄した後、1%4酸化オスミウム中で試料を後固定し、酢酸ウラニル水溶液中で染色した。次いで、濃度を段階的に高く変えながらエタノールに数回通して脱水し、エポキシ樹脂中に包埋した。樹脂ブロックから作製した極薄片(600〜800Å)を、クエン酸鉛を用いて染色し、透過型電子顕微鏡(H-7000; Hitachi, Tokyo, JP)で調査した。
【0101】
[10.トランスクリプトーム解析]
マウスの脳の半分(〜250mg)を機械的にホモジナイズし、mirVanaTM(Ambion, Life Technologies)で全てのRNAを単離した。cDNAを合成し、その後、Progenika Biopharma(スペイン)製のGeneChip Mouse Gene 2.1 ST 16 array plate(Affymetrix)中でハイブリダイズした。サンプルの処理、ハイブリダイゼーションおよびスキャンは、Affymetrixにより推奨されている、プロトコルおよび器具に従って実行した。Affymetrix(登録商標)Expression Console TM toolを用いて、RMA(Robust Multiarray averaging)法によってデータの正規化を行い、log2変換および正規化された値を得た。データをフィルタリングして、公知のコード配列に対する分析にフォーカスし、最初に26688の変異遺伝子のリストを得た。続いて、上記リストを再度フィルタリングして、75%より少ない変異を示す遺伝子を除去した。この処理によって、作業用に6672の遺伝子のリストを作成した。多様に発現した遺伝子のために、80%の確からしさを有するFDR(False Discovery Rate)の基準として、<0.1を設定した。クラスター分析のために、データを正規化し、J-Express Proソフトウェア(jexpress.bioinfo.no)を用いて、ヒートマップとして表した。Genecodis Tool 2.0(genecodis2.dacya.ucm.es)を用いて、機能分析を実行した。アレイのデータは、ArrayExpress database(http://www.ebi.ac. uk/arrayexpress/;アクセッションコード: E-MTAB-2984)に提出した。
【0102】
[11.行動評価]
オープンフィールド試験を通じて、行動変化を評価した。動物を、明るく照らされた試験室(41cm×41cm×30cm)の左下隅の角に配置した。活動領域の表面を、同心状の3つの正方形へと分割した(中央(14×14cm)、外周(27×27cm)および縁辺(41×41cm))。ビデオ追跡システム(Smart Junior, Panlab)を用いて、最初の2分間における探索行動および一般的な運動を記録した。該日リズムの影響を最小限にするため、試験は常に、一日のうちの同じ時間帯に実施された(午前9時〜午後1時)。
【0103】
[12.統計分析]
全ての結果を平均±標準誤差として表した。一元配置分散分析を用いて統計比較を行い、ダネットの事後検定を用いてコントロール群と処置群との間の多重比較を行う。P<0.05の場合、統計的有意であると見なした。生存の分析のためにカプラン=マイヤー法を用い、比較のためにログランク検定を用いる。
【実施例】
【0104】
〔実施例1:pAAV−CAG−hNagluの構築〕
ヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼのコード配列(CDS)を出発材料(NCBIの参照配列: NM_000263)として利用し、本実施例の目的のために化学的に合成した(GeneArt; Life Technologies)。プラスミドpMA(AmpR)内で、上記CDSをクローニングした。上記CDSは、MluIおよびEcoRIの制限部位によって、5’末端側および3’末端側がそれぞれ挟まれていた。α−N−アセチルグルコサミニダーゼのCDSを、MluI/EcoRIの消化によって切り出した。その後、AAVを骨格とするプラスミドpAAV−CAG(AmpR)の、MluIの制限部位とEcoRIの制限部位との間においてクローニングした。結果として生じたプラスミドを、pAAV−CAG−hNaglu(アクセッション番号:DSM28568)と名付けた(配列番号5および
図19Aを参照)。
【0105】
pAAV−CAGプラスミドは、従前産生されてきた。上記pAAV−CAGプラスミドには、所定のCDSのクローニングのためのマルチクローニングサイトに加え、AAV2ゲノムのITR、CAGプロモーター、およびウサギβ−グロビンのポリAシグナルを含んでいた。上記CAGプロモーターは、CMVの初期/中期エンハンサーおよびニワトリβ−アクチンプロモーターから構成された、ハイブリッドプロモーターである。上記プロモーターは、あらゆる部位において、強力に発現を促進することができる(Sawicki J et al., Exper Cell Res. 1998;244:367-369, Huang J et al., J Gene Med. 2003;5:900-908, Liu Y et al., Exp Mol Med. 2007; 39(2):170-175を参照)。
【0106】
〔実施例2:AAV−CAG−hNagluの産生〕
3種類の改変プラスミドを用いて、ヘルパーウイルスを使用せずにHEK293細胞をトランスフェクションすることによって、ベクターAAV9−CAG−hNaglu(配列番号9および
図19B)を産生した(Matsushita, 1998, supra および Wright, 2005, supraを参照)。10%FBSを添加したDMEMを入れたローラーボトル(RB;Corning, Corning, NY, US)中で、70%コンフルエントにて細胞を培養した。次に、1)AAV2のITRにより両端を挟まれている発現カセットを有しているプラスミド(pAAV−CAG−hNaglu);2)AAV2 rep遺伝子およびAAV9 cap遺伝子を有しているプラスミド(pREP2CAP9);および、3)アデノウイルスヘルパー機能を有しているプラスミド、を共にトランスフェクションした。標準的なプロトコルまたは上述の最適化されたプロトコルのいずれかを用いて、2回の塩化セシウム勾配により、ベクターを精製した(Ayuso, 2010, supraを参照)。ベクターをPBSで透析し、濾過し、qPCRで定量し、使用まで−80℃にて保存した。
【0107】
〔実施例3:pAAV−CAG−cohNagluの構築〕
最適化されているヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼのCDS(cohNaglu)を含んでいる発現カセットを設計して得た。配列の最適化(GeneArt(登録商標))を実行して、ヒトにおけるα−N−アセチルグルコサミニダーゼタンパク質の産生効率を最大化した。上記最適化では、短いスプライス部位およびRNA安定化配列要素(RNAの安定性を上げるため)の削除、RNA安定化配列要素の付加、コドンの最適化およびG/Cの含有量の適応、他の変化に起因するRNAの安定二次構造の回避を行った。最適化したCDSを、プラスミドpMA−RQ(AmpR)内でクローニングした。上記CDSは、MluIおよびEcoRIの制限部位によって、5’および3’がそれぞれ挟まれていた。
【0108】
pMA−RQ−cohNagluプラスミドをMluIおよびEcoRIで消化して、最適化α−N−アセチルグルコサミニダーゼのCDSを切り出した。続いて、この断片を、上記pAAV−CAGを骨格とするプラスミドの同じ制限部位の間にてクローニングして、pAAV−CAG−cohNagluプラスミド(アクセッション番号:DSM26626)を産生した(配列番号6および
図20Aを参照)。
【0109】
〔実施例4:AAV−CAG−cohNagluの生産〕
3種類の改変プラスミドを用いて、ヘルパーウイルスを使用せずにHEK293細胞をトランスフェクションすることによって、ベクターAAV9−CAG−cohNaglu(配列番号10および
図20B)を産生した(Matsushita, 1998, supraおよびWright, 2005, supraを参照)。10%FBSを添加したDMEMを入れたローラーボトル(RB;Corning, Corning, NY, US)中で、70%コンフルエントにて細胞を培養した。次に、1)AAV2のITRにより両端を挟まれている発現カセットを有しているプラスミド(pAAV−CAG−cohNaglu);2)AAV2 rep遺伝子およびAAV9 cap遺伝子を有しているプラスミド(pREP2CAP9);および、3)アデノウイルスヘルパー機能を有しているプラスミド、を共にトランスフェクションした。標準的なプロトコルまたは上述の最適化されたプロトコルのいずれかを用いて、2回の塩化セシウム勾配により、ベクターを精製した(Ayuso, 2010, supraを参照)。ベクターをPBSで透析し、濾過し、qPCRで定量し、使用まで−80℃にて保存した。
【0110】
〔実施例5:pAAV−CAG−cohNaglu−version2の構築〕
第2の最適化されているヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼのCDS(cohNaglu−version2)を含んでいる発現カセットを設計して得た。プラスミドpJ208(AmpR)中にて、最適化CDS(DNA2.0(登録商標))をクローニングした。上記CDSは、5’および3’において、それぞれ、MluIの制限部位およびEcoRIの制限部位に挟まれていた。
【0111】
pJ208−cohNaglu−version2プラスミドをMluIおよびEcoRIで消化して、最適化α−N−アセチルグルコサミニダーゼ−バージョン2のCDSを切り出した。続いて、この断片を、上記pAAV−CAGを骨格とするプラスミドの同じ制限部位の間にてクローニングして、pAAV−CAG−cohNaglu−version2プラスミド(アクセッション番号:DSM32042)を産生した(配列番号20および
図21Aを参照)。
【0112】
〔実施例6:AAV−CAG−cohNaglu−version2の産生〕
3種類の改変プラスミドを用いて、ヘルパーウイルスを使用せずにHEK293細胞をトランスフェクションすることによって、ベクターAAV9−CAG−cohNaglu−version2(配列番号21および
図21B)を産生した(Matsushita, 1998, supraおよびWright, 2005, supraを参照)。10%FBSを添加したDMEMを入れたローラーボトル(RB;Corning, Corning, NY, US)中で、70%コンフルエントにて細胞を培養した。次に、1)AAV2のITRにより両端を挟まれている発現カセットを有しているプラスミド(pAAV−CAG−cohNaglu−version2);2)AAV2 rep遺伝子およびAAV9 cap遺伝子を有しているプラスミド(pREP2CAP9);および、3)アデノウイルスヘルパー機能を有しているプラスミド、を共にトランスフェクションした。標準的なプロトコルまたは上述の最適化されたプロトコルのいずれかを用いて、2回の塩化セシウム勾配により、ベクターを精製した(Ayuso, 2010, supraを参照)。ベクターをPBSで透析し、濾過し、qPCRで定量し、使用まで−80℃にて保存した。
【0113】
〔実施例7:pAAV−CAG−cohNaglu−version3の構築〕
第3の最適化されているヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼのCDS(cohNaglu−version3)を含んでいる発現カセットを設計して得た。プラスミドpUC57(AmpR)中にて、最適化CDS(GenScript, Inc)をクローニングした。上記CDSは、5’および3’において、それぞれ、MluIの制限部位およびEcoRIの制限部位に挟まれていた。
【0114】
pUC−cohNaglu−version3プラスミドをMluIおよびEcoRIで消化して、最適化α−N−アセチルグルコサミニダーゼ−バージョン3のCDSを切り出した。続いて、この断片を、上記pAAV−CAGを骨格とするプラスミドの同じ制限部位の間にてクローニングして、pAAV−CAG−cohNaglu−version3プラスミド(アクセッション番号:DSM32043)を産生した(配列番号23および
図22Aを参照)。
【0115】
〔実施例8:AAV−CAG−cohNaglu−version3の生産〕
3種類の改変プラスミドを用いて、ヘルパーウイルスを使用せずにHEK293細胞をトランスフェクションすることによって、ベクターAAV9−CAG−cohNaglu−version3(配列番号24および
図22B)を産生した(Matsushita, 1998, supraおよびWright, 2005, supraを参照)。10%FBSを添加したDMEMを入れたローラーボトル(RB;Corning, Corning, NY, US)中で、70%コンフルエントにて細胞を培養した。次に、1)AAV2のITRにより両端を挟まれている発現カセットを有しているプラスミド(pAAV−CAG−cohNaglu−version3);2)AAV2 rep遺伝子およびAAV9 cap遺伝子を有しているプラスミド(pREP2CAP9);および、3)アデノウイルスヘルパー機能を有しているプラスミド、を共にトランスフェクションした。標準的なプロトコルまたは上述の最適化されたプロトコルのいずれかを用いて、2回の塩化セシウム勾配により、ベクターを精製した(Ayuso, 2010, supraを参照)。ベクターをPBSで透析し、濾過し、qPCRで定量し、使用まで−80℃にて保存した。
【0116】
〔実施例9:pAAV−CAG−comNagluの構築〕
ネズミα−N−アセチルグルコサミニダーゼのCDS(NCBIの参照配列:NM_013792)に対し、配列の最適化(GeneArt; Life Technologies)を行った。プラスミドpMA−RQ(AmpR)中にて、最適化CDS(GenScript, Inc)をクローニングした。上記CDSは、5’および3’において、それぞれ、MluIの制限部位およびEcoRIの制限部位に挟まれていた。
【0117】
MluI/EcoRI−最適化ネズミα−N−アセチルグルコサミニダーゼのCDSの断片を、上記pMA−RQプラスミドから切り出した。続いて、AAVを骨格とするプラスミドpAAV−CAGの、MluIの制限部位とEcoRIの制限部位との間においてクローニングした。結果として生じたプラスミドを、pAAV−CAG−comNagluと名付けた(配列番号7および
図23Aを参照)。
【0118】
〔実施例10:AAV−CAG−comNagluの生産〕
3種類の改変プラスミドを用いて、ヘルパーウイルスを使用せずにHEK293細胞をトランスフェクションすることによって、ベクターAAV9−CAG−comNaglu(配列番号11および
図23B)を産生した(Matsushita, 1998, supraおよびWright, 2005, supraを参照)。10%FBSを添加したDMEMを入れたローラーボトル(RB;Corning, Corning, NY, US)中で、70%コンフルエントにて細胞を培養した。次に、1)AAV2のITRにより両端を挟まれている発現カセットを有しているプラスミド(pAAV−CAG−comNaglu);2)AAV2 rep遺伝子およびAAV9 cap遺伝子を有しているプラスミド(pREP2CAP9);および、3)アデノウイルスヘルパー機能を有しているプラスミド、を共にトランスフェクションした。標準的なプロトコルまたは上述の最適化されたプロトコルのいずれかを用いて、2回の塩化セシウム勾配により、ベクターを精製した(Ayuso, 2010, supraを参照)。ベクターをPBSで透析し、濾過し、qPCRで定量し、使用まで−80℃にて保存した。
【0119】
〔実施例11:pAAV−CAG−cocNagluの構築〕
イヌα−N−アセチルグルコサミニダーゼのCDS(NCBIの参照配列:XM_548088.4)に対し、配列の最適化(GeneArt; Life Technologies)を行った。プラスミドpMA−RQ(AmpR)中にて、最適化CDSをクローニングした。上記CDSは、5’および3’において、それぞれ、MluIの制限部位およびEcoRIの制限部位に挟まれていた。
【0120】
MluI/EcoRI−最適化イヌα−N−アセチルグルコサミニダーゼのCDSの断片を、上記pMA−RQプラスミドから切り出した。続いて、AAVを骨格とするプラスミドpAAV−CAGの、MluIの制限部位とEcoRIの制限部位との間においてクローニングした。結果として生じたプラスミドを、pAAV−CAG−cocNagluと名付けた(配列番号8および
図24Aを参照)。
【0121】
〔実施例12:AAV−CAG−cocNagluの生産〕
3種類の改変プラスミドを用いて、ヘルパーウイルスを使用せずにHEK293細胞をトランスフェクションすることによって、ベクターAAV9−CAG−cocNaglu(配列番号12および
図24B)を産生した(Matsushita, 1998, supraおよびWright, 2005, supraを参照)。10%FBSを添加したDMEMを入れたローラーボトル(RB;Corning, Corning, NY, US)中で、70%コンフルエントにて細胞を培養した。次に、1)AAV2のITRにより両端を挟まれている発現カセットを有しているプラスミド(pAAV−CAG−cocNaglu);2)AAV2 rep遺伝子およびAAV9 cap遺伝子を有しているプラスミド(pREP2CAP9);および、3)アデノウイルスヘルパー機能を有しているプラスミド、を共にトランスフェクションした。標準的なプロトコルまたは上述の最適化されたプロトコルのいずれかを用いて、2回の塩化セシウム勾配により、ベクターを精製した(Ayuso, 2010, supraを参照)。ベクターをPBSで透析し、濾過し、qPCRで定量し、使用まで−80℃にて保存した。
【0122】
〔実施例13:プラスミドpAAV9−CAG−hNagluの流体力学的送達〕
総投与量50μgのプラスミドpAAV9−CAG−hNaglu(野生種のヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼの発現カセットを含んでいる)を、流体力学的尾静脈(HDTV)注入を介して、2月齢のMPSIIIBマウスに対して投与した。この技法は、肝臓に送達されたプラスミドの発現を目的とする(Liu et al., Gene Ther. 1990;6(7):1258-66を参照)。
【0123】
プラスミドの送達から1週間後、処置前のレベルに対するα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性の著しい上昇が、野生種のヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼをコードしているプラスミドを投与された全ての動物の、肝臓および血清において記録された(
図1Aおよび
図1Bを参照)。生理食塩水を注入されたMPSIIIB動物では、活性が検出されなかった。処置した動物の肝臓および血清において観察されたα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性のレベルは、それぞれ、野生種の動物の肝臓および血清において測定された活性の平均値(当該平均値を100%とした)の、150%および1700%に相当した(
図1Aおよび
図1Bを参照)。
【0124】
〔実施例14:AAV9−CAG−hNagluの静脈内送達〕
総投与量5×10
11ベクターゲノムのAAV9−CAG−hNagluベクターを、尾静脈注入を介して、2月齢のMPSIIIBマウスに対して投与した。
【0125】
AAV9ベクターの肝臓に対する高い親和性と合致していることに、投与から2か月後、処置した動物は、肝臓において高いレベルのα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性を示した(健康な動物において観察された活性のレベルの700%)。上記活性は、未処置のMPSIIIBマウスの体性組織において観察された病理的なGAGの蓄積を、完全に除去するか、またはかなり減少させた(
図2A〜
図2Cを参照)。加えて、全身性の投与であっても、血清型9のAAVベクターが脳を高い効率で形質導入することができるので、処置した動物は、有意なレベルのα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性(健康なマウスの20〜30%)を、分析した脳の全領域において示した(
図3Aを参照)。このα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性の部分的な回復は、脳の全部位からGAGの蓄積を除去するに充分であった(
図3Bを参照)。
【0126】
〔実施例15:AAV9−CAG−cohNagluの静脈内送達〕
総投与量5×10
11ベクターゲノムのAAV9−CAG−cohNagluベクターを、尾静脈注入を介して、2月齢のMPSIIIBマウスに対して投与した。
【0127】
投与から2か月後、処置した動物は、肝臓における高いレベルのα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性(健康なレベルの600%)、および、血清における活性レベルの緩やかな上昇(健康なレベルの7%)を示した(
図4Aおよび
図4Bを参照)。α−N−アセチルグルコサミニダーゼの産生により、未処置のMPSIIIBマウスの体性組織において観察された病理的なGAGの蓄積は、完全に消失したか、またはかなり減少した(
図4Cを参照)。加えて、処置した動物は、有意なレベルのα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性(健康なマウスの18〜27%)を、分析した脳の全領域において示した(
図5Aを参照)。このα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性の部分的な回復は、脳の全部位からGAGの蓄積を除去するに充分であった(
図5Bを参照)。
【0128】
〔実施例16:AAV9−CAG−hNagluの槽内送達〕
総投与量9.3×10
9ベクターゲノムのAAV9−CAG−hNagluベクターを、2月齢のMPSIIIB動物の大槽内に、総容積5μLで注入した。
【0129】
AAV9−CAG−hNagluベクターのCSF内投与により、分析した脳の全部位において、高いレベルのα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性がもたらされた(健康なマウスの50〜100%)。脳の最前端部において、健康な動物で観察されるレベルにまで活性が達した(
図6Aを参照)。GAGの過剰な蓄積は、処置したMPSIIIBマウスの脳において、完全に消失した(
図6Bを参照)。CSFへと送達される場合、血清型9のAAVベクターは血流へと漏出し、肝臓を形質導入する(Haurigot et al., J Clin Invest 2013;123(8):3254-71を参照)。上記文献の通り、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性は、処置したMPSIIIBマウスの肝臓において、健康な動物の32%のレベルで検出された(
図7Aを参照)。このような、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性の上昇は、肝臓、脾臓、心臓、肺、精巣および膀胱における、GAGの蓄積の治療をもたらし、また腎臓におけるGAGの蓄積は有意に減少した(
図7Bを参照)。
【0130】
〔実施例17:AAV9−CAG−cohNagluの槽内送達〕
総投与量9.3×10
9ベクターゲノムのAAV9−CAG−cohNagluベクターを、2月齢のMPSIIIB動物の大槽内に、総容積5μLで注入した。
【0131】
AAV9−CAG−cohNagluベクターの槽内投与により、分析した脳の全領域において、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性のレベルがかなり上昇した(健康な値の22〜45%に及んだ)(
図8Aを参照)。これに応じて、処置したMPSIIIBマウスの脳の全領域において、病理的なGAGの蓄積は完全に元の状態に戻った(
図8Bを参照)。α−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性もまた、処置したMPSIIIBマウスの肝臓において、健康な動物の25%へと上昇した(
図9Aを参照)。このような、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性の上昇は、肝臓、心臓、肺および膀胱における、GAGの蓄積の治療をもたらし、また脾臓、精巣および腎臓におけるGAGの蓄積は有意に減少した(
図9Bを参照)。
【0132】
〔実施例18:プラスミドpAAV9−CAG−cohNaglu−version2の流体力学的送達〕
総投与量50μgの、プラスミドpAAV9−CAG−cohNaglu−version2(最適化されたバージョン(バージョン2)のヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼを含んでいる発現カセットを有している)を、流体力学的尾静脈注入を介して、2月齢のMPSIIIBマウスに対して投与した。上述した通り、この技法は、肝臓に送達されたプラスミドの発現を目的とする(Liu et al., supraを参照)。
【0133】
プラスミドの送達から1週間後、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性が、処置前のレベルに対して上昇した。上記上昇は、最適化ヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼ−バージョン2をコードしている配列を含んでいるプラスミドを流体力学的注入された全ての動物の、肝臓および血清において発生した(
図10Aおよび
図10Bを参照)。生理食塩水を注入されたMPSIIIB動物では、活性が検出されなかった。処置した動物において、肝臓および血清のα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性のレベルは、それぞれ、野生種の動物において観察された活性の平均値(当該平均値を100%とした)の、150%および1500%に達した(
図10Aおよび
図10Bを参照)。
【0134】
〔実施例19:プラスミドpAAV9−CAG−cohNaglu−version3の流体力学的送達〕
総投与量50μgの、プラスミドpAAV9−CAG−cohNaglu−version3(コドン最適化されたバージョン(バージョン3)のヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼ発現カセットを有している)を、流体力学的尾静脈注入を介して、2月齢のMPSIIIBマウスに対して投与した。上述した通り、この技法は、肝臓に送達されたプラスミドの発現を目的とする(Liu et al., supraを参照)。
【0135】
プラスミドの送達から1週間後、処置前のレベルに対するα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性の上昇が、最適化ヒトα−N−アセチルグルコサミニダーゼ−バージョン3をコードしている配列を含んでいる発現カセットを有するプラスミドを投与された全ての動物の、肝臓および血清において記録された(
図11Aおよび
図11Bを参照)。生理食塩水を注入されたMPSIIIB動物では、活性が検出されなかった。処置した動物の肝臓および血清において観察されたα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性のレベルは、それぞれ、野生種の動物の肝臓および血清において決定された活性の平均値(当該平均値を100%とした)の、170%および1100%に達した(
図11Aおよび
図11Bを参照)。
【0136】
〔実施例20:AAV9−CAG−comNagluの槽内送達〕
総投与量3×10
10ベクターゲノムのAAV9−CAG−comNagluベクターを、2月齢のMPSIIIB動物の大槽内に、総容積10μLで注入した。
【0137】
分析された脳の全部位および脊髄において、AAV9ベクターゲノムを検出することができた。末梢組織において、多量の遺伝子コピー数のベクターゲノムを検出することができたのは、肝臓においてのみであった。頭部を流れるリンパ節(下顎のリンパ節)において、少量の遺伝子コピー数のベクターゲノムを検出することができた(
図12A〜Bを参照)。
【0138】
AAV9−CAG−comNagluベクターのCSF内投与により、分析された脳の全部位において、非常に高いレベルのα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性がもたらされた。上記レベルは、全領域において、健康な動物で観察されたレベルよりも、数倍高いレベルに達した(
図13Aを参照)。ベクター送達から3か月後、本疾患に特徴的なリソソームの異常は、処置したMPSIIIBマウスの脳において、完全に元の状態に戻った。これは、分析した脳の全部位における、GAGの蓄積の正常化、およびリソソームマーカーLIMP−2+の信号強度の正常化によって示される(
図13Bおよび
図14Aを参照)。透過型電子顕微鏡による、後頭葉および小脳の超微細構造分析により、リソソームの異常の減少を確認した。上記異常は、コントロールベクターを受容したMPSIIIB動物における、拡張し、大きな蓄積小胞で満たされている皮質ニューロン周囲グリア細胞の外観から、非常に明白である。一方で、AAV9−CAG−comNagluで処置した動物においては、正常な外観であった(
図14Bを参照)。LSDでは、いくつかのリソソーム酵素の活性(遺伝的変異による直接的な罹患を除く)は、二次的に変化し、正常なリソソームの恒常性が攪乱されうる(Sardiello et al., Science. 2009;325:473−477を参照)。未処置またはNull処置したオスのMPSIIIBマウス(5月齢)の脳において、イズロン酸−2−スルファターゼ(IDS)、N−スルホグルコサミンスルホヒドラーゼ(SGSH)、β−グルクロニダーゼ(GUSB)およびヘキソサミニダーゼB(HEXB)の活性は、有意に上昇した(
図14Cを参照)。AAV9−CAG−comNagluベクターのCSF内送達から3か月後に観察された、GAGの蓄積における減少と合致していることに、脳のSGSH、GUSBおよびHEXBの活性は、処置した動物において、健康な野生種のレベルに戻った(
図14Cを参照)。
【0139】
リソソームの異常の治療に従って、処置したMPSIIIBマウスの脳から、全ての炎症の徴候が消失した。アストロサイトーシス(GFAP)およびミクログリオーシス(BSI−B4)を検出するために用いた染色の信号強度は、処置したMPSIIIBマウスおよび健康な動物において類似していた。これらの神経炎症マーカーの明白な上方制御が示されている、未処置のMPSIIIBマウスにおいて記録された信号とは対照的であった(
図15Aおよび
図15Bを参照)。CNSの炎症についての、CSF内AAV9−CAG−comNaglu遺伝子治療の効果をさらに評価するため、野生種の脳、ならびにAAV9−CAG−comNaglu処置またはAAV9−Null処置したMPSIIIBの脳から単離された全RNAについて、Affimetrix(登録商標)マイクロアレイプラットフォームを用いて、遺伝子発現プロファイリング試験を実行した。データの処理およびデータのフィルタリングの後、3群の間で、94の遺伝子が異なって発現していることが判明した。遺伝子オントロジー(GO)エンリッチメント分析を使用して、生物学的過程によって異なって発現している遺伝子を分類したとき、94のうち67の遺伝子が、対応するオントロジーと共にアノテーションされた(
図15Cを参照)。このうち、大多数が炎症および先天性免疫、または上記過程に関係する細胞に起因しうる機能と関連付けられた(
図15Cを参照)。この観察を明らかにするため、セルタイプエンリッチメント(CTEN)分析を用い、転写レベルにおいて観察された変化に対する、種々の種類の細胞の寄与を評価した。このソフトウェアでは、当該ソフトウェアが定義したスコアが2よりも大きければ、特定の種類の細胞のエンリッチメントがあると見なす。データセットのうち最も高いスコアは、ミクログリア細胞が得た(スコア=60)。この結果は、神経変性の疾患およびMPSIIIにおける、ミクログリアに起因する重要な役割と一致した(Ohmi et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2003;100:1902-1907, McGeer et al. Alzheimer Dis Assoc Disord. 1998;12 (Suppl. 2):S1-E16, Derecki et al., Nature. 2012;484: 105-109, DiRosario et al., J Neurosci Res. 2009;87:978-990, Archer, et al., J Inherit Metab Dis. 2014;37:1-12を参照)。AAV9−CAG−comNagluベクターの、CSF内送達の効果が評価されたところで、AAV9−Nullを注入した動物に関する遺伝子発現のプロファイルにおいては、特筆すべき変化が観察された。ベクターの投与から3か月後、処置したMPSIIIBマウスにおける大多数の遺伝子は、健康な同腹仔のそれと類似した転写レベルを有していた。AAV9−CAG−comNaglu処置の後に、未処置のMPSIIIBマウスにおいて異なって発現していた遺伝子のほぼ90%が、50%以上の転写レベルに治療され、そのうち60%は、75%の転写レベルに治療された。CTENソフトウェアがミクログリアだと見なした遺伝子のセットを個々に分析したとき、同程度またはかなり高い程度に、転写レベルが正常化されていることが観察された(
図15Dを参照)。この観察により、MPSIIIBにおいて観察された遺伝子発現のプロファイルについて、ミクログリアは大いに原因がある、という考えが支持される。また上記観察は、処置した動物において記録された、ミクログリオーシスの完全な回復に整合性がある。
【0140】
CFSに対して投与されたAAV9ベクターは、末梢に漏出し、肝臓を形質導入する(
図9およびHaurigot et al., supraを参照)。したがって、AAV9−CAG−comNagluで処置したMPSIIIBマウスの肝臓および血清において、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性の上昇が記録された。上記活性は、健康な動物において観察されたレベルの、約800%のレベルに達した(
図16Aおよび16Bを参照)。血清における酵素活性のレベルは、処置したマウスの肝臓における活性のレベルとよく関連しており、肝臓が酵素循環の主要な原因であったことを示唆している。種々の臓器におけるGAGの含有量の定量化を通して、体部における治療の効果を評価したとき、肝臓、脾臓、心臓および肺を含む多くの組織(腎臓を例外とする)において、完全な正常化が観察された。すなわち、50%を超えるGAGの減少が観察された(
図16Cを参照)。種々の実験群における肝臓の超微細構造分析によると、AAV9−CAG−comNagluで処置したMPSIIIBマウスの肝細胞からは、MPSIIIBの疾患に特徴的な蓄積小胞が、完全な消失した(
図16Dを参照)。CNSで観察されたように、リソソーム区画からの蓄積物質の除去により、他のリソソーム酵素の活性が回復した。未処置のMPSIIIBマウスまたはNull処置したMPSIIIBマウスの肝臓においては、α−イズロニダーゼ(IDUA)、イズロン酸−2−スルファターゼ(IDS)、SGSH、GUSBおよびHEXBの活性が変化した(
図16Eを参照)。AAV9に媒介されたNAGLU遺伝子の移入後3か月で、全ての上記酵素の活性は、正常なレベルに戻った。このことは、AAV9−CAG−comNagluを媒介としたNAGLUのCSF遺伝子移入により、末梢の臓器においてもまた、疾患の表現型を逆転させることができるという考えを、さらに支持している(
図16Eを参照)。
【0141】
行動におけるAAV9−CAG−comNagluのCSF内投与の影響を、オープンフィールド試験によって評価した。上記試験は、未知の環境におけるマウスの一般的な運動および探索行動を評価する。未処置のMPSIIIBマウスおよびAAV9−null処置したマウスは、中央区画へ進入するまでの待ち時間、縁辺区画で過ごす時間、中央区画への進入回数、休息時間、総移動距離および越えたラインの総数の観点において、健康なマウスと比較して探索行動が減少した。AAV9−CAG−comNagluの槽内投与は、行動の不足を完全に治療した(
図17A〜Fを参照)。
【0142】
さらに、AAV9−CAG−comNagluでの処置により、MPSIIIBマウスの生存期間が有意に延長された。未処置のMPSIIIBマウスは、全て15月齢までに死亡した一方、槽内にAAV9−CAG−comNagluを与えられた動物の100%は、18月齢においても依然として生存している(
図17Gを参照)。AAV9−nullのMPSIIIBのオスにおいては、生存期間の中央値が13.8か月間であるのに対して、処置したMPSIIIBのオスは、生存期間の中央値が21か月間であった(P=0.0007)。健康なオスの生存期間の中央値は、26.6か月間であった。処置したMPSIIIBマウスの、行動反応の正常化およびより長い生存期間は、AAV9−CAG−comNagluの治療的効果をさらに実証している。
【0143】
〔実施例21:イヌに対するAAV9−CAG−cocNagluの槽内送達〕
遺伝子治療のアプローチの、臨床的応用へ向けた第一段階には、大型の動物モデルにおける上記遺伝子治療の実現可能性の実証が求められる。これまでに我々は、ビーグル犬(ヒトの脳の大きさに近い脳の大きさを有する動物モデル)に対する脳骨髄液内の投与ついて、AAVベクターの分布は、同じ経路で同等の投与量のベクターを与えられているマウスにおいて観察されたものと、非常に類似していることを実証した(Haurigot et al., supraを参照)。簡潔に説明すると、2×10
13vgのAAV9ベクター(レポータータンパク質GFPをコードしている)の投与により、脳、小脳、髄膜、脊髄および後根神経節における細胞の、広範囲の形質導入が実証された。マウスにおいてなされた観察と同様に、GFPはまた、ビーグル犬の肝臓においても検出された。このとき、平均して3.7%の肝細胞が形質導入された(Haurigot et al., supraを参照)。重要なことに、リソソーム酵素のスルファミダーゼ(当該酵素の欠損は、MPSIIIAを引き起こす)をコードしているAAV9ベクターのCSF内投与により、処置したイヌのCSF中の酵素のレベルは、維持された。CSFはCNSを満たしているので、酵素は、種々のCNSの構造に有効である。実際に、CSFに対する組換え酵素の定期的な送達は、MPSIIIAの臨床研究における、最近の治療戦略である(NCT01155778およびNCT01299727, clinicaltrials.govを参照)。
【0144】
本発明に係るAAV9ベクターの潜在的な効果を説明するために、同様のアプローチが用いられてきた。
【0145】
総投与量6.5×10
12vgのAAV9−CAG−cocNagluベクターを、4頭のビーグル犬成犬(イヌ1〜4)の大槽に対して投与した。処置により達成されうるα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性のCFSレベルについて、既に存在している免疫性の影響を評価するために、CFS送達の6週間前に、1×10
11vg/kgのノンコーディングAAV9−nullベクターの体部への投与によって、これらのイヌのうち2頭(イヌ3および4)を免疫化した。ベクターの槽内送達が実行されるまでは、免疫化されていないイヌは、循環およびCSFにおいて、抗AAV9中性化抗体(NAb)力価が低かった。これは、野生種ウイルスまたは組換えウイルスに曝露されたことのない動物ついて予想されたことである。対照的に、事前に免疫化されたイヌは、血液循環においてNAb力価が高かったが、CSFにおいて低いレベルであった。この観察結果は、血液脳関門を挟んだNAbの非対称な分布と矛盾しない(
図18AおよびHaurigot et al., supraを参照)。大槽に対するAAV9−CAG−cocNagluベクターの投与により、全4頭のイヌのCSFサンプルにおいて測定された酵素の活性は、有意に増加した。事前に存在している免疫性の存在の有無に関しては、有意差がなかった(
図18Bを参照)。酵素活性のレベルは、第2週目と第3週目の間にピークを迎え、その後、安定した状態のレベルに達した。重要なことに、このような、CSFにおけるα−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性の上昇は、長期に渡った(4か月超)(
図18Bを参照)。